(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-29
(45)【発行日】2024-02-06
(54)【発明の名称】V-ATPase活性阻害剤、抗菌剤、医薬及び抗菌方法並びにスクリーニング方法
(51)【国際特許分類】
A61K 31/4184 20060101AFI20240130BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20240130BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240130BHJP
【FI】
A61K31/4184
A61P31/04
A61P43/00 111
(21)【出願番号】P 2020566425
(86)(22)【出願日】2020-01-15
(86)【国際出願番号】 JP2020001047
(87)【国際公開番号】W WO2020149295
(87)【国際公開日】2020-07-23
【審査請求日】2022-09-16
(31)【優先権主張番号】P 2019006819
(32)【優先日】2019-01-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503360115
【氏名又は名称】国立研究開発法人科学技術振興機構
(74)【代理人】
【識別番号】110001612
【氏名又は名称】弁理士法人きさらぎ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村田 武士
(72)【発明者】
【氏名】清水 康輝
(72)【発明者】
【氏名】ヤクシジ ファビアナ リカ
(72)【発明者】
【氏名】森山 克彦
【審査官】石井 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/138833(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0210741(US,A1)
【文献】特表平08-502725(JP,A)
【文献】PAULI,I et al.,Discovery of New Inhibitors of Mycobacterium tuberculosis InhA Enzyme Using Virtual Screening and a,Journal of Chemical Information and Modeling,2013年,Vol.53,No.9,pp.2390-2401
【文献】LACHANCE,C. et al.,Deregulated Balance of Omega-6 and Omega-3 Polyunsaturated Fatty Acids Following Infection by the Zo,Infection and Immunity,2014年,Vol.82,No.5,pp.1778-1785
【文献】柿沼喜己,ナトリウム輸送性V-ATPアーゼのサブユニット構造に関する遺伝子,科学研究費助成事業(科学研究費補助金)研究成果報告書,2012年,課題番号21570144
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-31/80
A61P 1/00-43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(
2)で示される化合物を含むことを特徴とする
細菌由来のNa
+輸送性のV-ATPase活性阻害剤。
【化1】
(ここで、R
1は、ヒドロキシ基、炭素数1~10のアルコキシ基、及び炭素数1~3のハロアルコキシ基から選択され、いずれも隣接するフェニル基と酸素を介して結合し、又はそれぞれのアルキル基の炭素数1~10のジアルキルアミノ基、
及び炭素数2~6の複素環式アミンから選択され
、いずれも隣接するフェニル基と窒素を介して結合し、又は臭素、ヨウ素、若しくは炭素数2~5の直鎖の炭化水素基を表す。
R
2は、水素又は炭素数1~3のハロアルコキシ基を表す。
R
3
及びR
4
は、水素原子、炭素数1~4のアルキル基、又はフッ素、塩素、臭素及びヨウ素から選択されるハロゲン原子を表し、R
3
及びR
4
は互いに同一でも異なっていてもよい。)
【請求項2】
前記式(
2)の化合物が
、N,N-ジメチル-4-(6-メチル-1H-ベンゾ[d]イミダゾール-2-イル)アニリン)
、下記式(V-161-01)~(V-161-04)又は式(V-161-10)で示される2-フェニルベンゾイミダゾール誘導体であることを特徴とする請求項1に記載のV-ATPase活性阻害剤。
【化2】
【請求項3】
V-ATPaseを有する細菌に対する抗菌剤であって、請求項1
又は2に記載のV-ATPase活性阻害剤を含むことを特徴とする抗菌剤。
【請求項4】
V-ATPaseを有する細菌と、V-ATPaseを有さない細菌とを含む細菌叢からV-ATPaseを有する細菌を選択的に減少させる細菌叢調整剤であって、請求項1
又は2に記載のV-ATPase活性阻害剤を含むことを特徴とする細菌叢調整剤。
【請求項5】
請求項1又は2に記載のV-ATPase活性阻害剤、請求項3に記載の抗菌剤、若しくは請求項
4に記載の細菌叢調整剤を含むことを特徴とする
抗菌用医薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、V-ATPase活性阻害剤、抗菌剤、医薬及び抗菌方法並びにスクリーニング方法に関し、特に、疾患等の原因となる微生物に存在するV-ATPaseを効率的に阻害可能なV-ATPase活性阻害剤、抗菌剤、医薬及び抗菌方法並びにスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
V-ATPaseは、真核生物のオルガネラ膜に存在し、複雑なサブユニット構造から構成される超分子複合体である。V-ATPaseは、イオン輸送性の分子モーターとしての機能を有しており、ATPの加水分解エネルギーによって特定の細部ユニットが膜内で回転しながら膜内外間でイオンを輸送する。V-ATPaseは、原核生物(バクテリア)にも存在することが知られており、A-ATPaseと呼称されることもある。
【0003】
V-ATPaseは、特定の環境下で細胞が生育するために必要である。例えば、腸球菌では、V-ATPaseはATPを加水分解して細胞内のナトリウムイオン(Na+)を細胞外へ移送する機能を有しており、これによって高塩濃度及び高pH条件下において腸球菌が生育することを可能としている。
【0004】
また、多種の病原性微生物に腸球菌と類似したV-ATPaseが存在しており、アルカリ性条件下では、その生育に重要な役割を果たしている。したがって、V-ATPaseのイオン輸送機能を阻害する化合物は、疾患の原因となる病原菌の抗菌剤として有用であり、新しい治療薬として期待されている。
【0005】
従来、抗菌剤として、種々の化合物が知られている。例えば、特許文献1には、特定の構造を有する2-置換ベンズイミダゾールが抗菌剤として有用であることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】米国特許第5942532号公報(請求項1など)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の抗菌剤は、微生物のヒスチジンタンパク質キナーゼ阻害剤として抗菌作用を発揮するものであり、これはV-ATPaseを阻害するものとは相違する。
【0008】
本発明は、疾患等の原因となる細菌の増殖を選択的かつ効率的に抑制可能なV-ATPase活性阻害剤、これを含む抗菌剤、医薬及び抗菌方法を提供することを目的とする。また、本発明の他の目的は、このようなV-ATPase活性阻害剤を効率的にスクリーニングするためのスクリーニング方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記問題を解決すべく鋭意研究を重ねた。その結果、芳香環と、これに結合する電子供与性基と、芳香環に結合し二重結合を有する任意の置換基と、を有する特定の化合物について、V-ATPase活性を阻害する効果を示すことを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、本発明は、下記式(1)で示される化合物を含むことを特徴とするNa
+輸送性のV-ATPase活性阻害剤である。
【化1】
(ここで、R
1は、ヒドロキシ基、炭素数1~10のアルコキシ基、及び炭素数1~3のハロアルコキシ基から選択され、いずれも隣接するフェニル基と酸素を介して結合し、又はそれぞれのアルキル基の炭素数1~10のジアルキルアミノ基、炭素数2~6の複素環式アミン、及び炭素原子に結合する置換基を有してもよいカルボン酸アミド基から選択され、いずれも隣接するフェニル基と窒素を介して結合し、又は臭素、ヨウ素、若しくは炭素数2~5の直鎖の炭化水素基を表す。
R
2は、水素又は炭素数1~3のハロアルコキシ基を表す。
Z
1は、炭素数5~20の脂肪族炭化水素基、炭素数3~20の脂環式炭化水素基、炭素数6~20の芳香族炭化水素基、又は炭素数2~20の複素環基であり、いずれも任意の置換基を有していてもよく、隣接するフェニル基との間に、下記式(1-1)~(1-3)から選択される二重結合を含む構造を有する。ここで、*は、隣接するフェニル基との結合手を表す。)
【化2】
【0011】
この場合において、前記式(1)で示される化合物が下記式(2)で示される2-フェニルベンゾイミダゾール誘導体であることが好ましい。
【化3】
(ここで、R
1及びR
2は式(1)で定義したとおりであり、R
3及びR
4は、水素原子、炭素数1~4のアルキル基、又はフッ素、塩素、臭素及びヨウ素から選択されるハロゲン原子を表し、R
3及びR
4は互いに同一でも異なっていてもよい。)
【0012】
また、上記の場合において、 前記式(1)で示される化合物が下記式(7)で示される(1,2,4-オキサジアゾール-3-イル)フェニル誘導体であることを特徴とする請求項1に記載のV-ATPase活性阻害剤。
【化4】
(ここで、R
7~R
14は、水素原子、炭素数1~4のアルキル基、アミノ基、エーテル基、スルホニル基、ホウ素基、又はフッ素、塩素、臭素及びヨウ素から選択されるハロゲン原子を表し、R
7~R
14は互いに同一でも異なっていてもよい。)
【0013】
また、上記の場合において、V-ATPaseの膜内ローターリング(cリング)に結合して活性を阻害することを特徴とすることが好ましい。
【0014】
前記式(1)の化合物が、(Z)-5-(2,4-ビス(ジフルオロメトキシ)ベンジリデン)-2-(シクロペンチルアミノ)チアゾール-4(5H)-オン、(2E,4E,6E,8E)-N-(4-ヒドロキシフェニル)-3,7-ジメチル-9-(2,6,6-トリメチルシクロヘキシル-1-エン-1-イル)ノナ-2,4,6,8-テトラエンアミド、5-(4-(ノニロキシ)ベンジリデン)ピリミジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオン、N,N-ジメチル-4-(6-メチル-1H-ベンゾ[d]イミダゾール-2-イル)アニリン)、又はN-(4-(5-((o-トリロキシ)メチル)-1,2,4-オキサジアゾール-3-イル)フェニル)チオフェン-2-カルボキサミドであることが好ましい。
【0015】
本発明は、V-ATPaseを有する細菌に対する抗菌剤であって、上記のいずれかに記載のV-ATPase活性阻害剤を含むことを特徴とする抗菌剤である。
【0016】
さらに、本発明は、上記の抗菌剤を含むことを特徴とする医薬である。
【0017】
本発明は、V-ATPaseを有する細菌と、V-ATPaseを有さない細菌とを含む細菌叢からV-ATPaseを有する細菌を選択的に減少させる細菌叢調整剤であって、請求項1~5のいずれか1項に記載のV-ATPase活性阻害剤を含むことを特徴とする細菌叢調整剤である。
【0018】
さらに、本発明は、上記の細菌叢調整剤を含むことを特徴とする医薬である。
【0019】
また、本発明は、上記の抗菌剤を使用して細菌の増殖を抑制する抗菌方法であって、V-ATPaseを有する細菌に前記V-ATPase活性阻害剤を投与する工程と、前記細菌の前記V-ATPaseの膜内ローターリング(cリング)に前記V-ATPase活性阻害剤を結合させて前記V-ATPaseの活性を阻害する工程と、を含むことを特徴とする抗菌方法である。
【0020】
また、本発明は、Na+輸送性のV-ATPase活性阻害剤の候補化合物を試験化合物から選別するスクリーニング方法であって、V-ATPaseを有する細菌に対して、試験化合物を前記細菌に接触させずに、第1のpHと、前記第1のpHよりもアルカリ側の第2のpHとで、前記細菌の生存状態を評価する未処理評価ステップと、試験化合物を前記細菌に接触させたのち、前記第1のpHと、前記第2のpHとで、前記細菌の生存状態を評価する処理済評価ステップと、前記未処理評価ステップと前記処理済評価ステップとの生存状態を比較して差異が生じた試験化合物を前記細菌の抗菌剤の候補化合物として特定する候補化合物特定ステップと、を有することを特徴とするスクリーニング方法である。
【0021】
また、本発明は、V-ATPase阻害活性を有する化合物を有効成分とする抗菌医薬である。
【0022】
また、本発明は、V-ATPaseを有する細菌にV-ATPase阻害活性を有する化合物を投与する工程と、前記細菌の前記V-ATPaseに前記V-ATPase活性阻害剤を結合させて前記V-ATPaseの活性を阻害する工程と、を含むことを特徴とする抗菌方法である。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、疾患等の原因となる細菌の増殖を選択的かつ効率的に抑制可能なV-ATPase活性阻害剤、これを含む抗菌剤、医薬及び抗菌方法を提供することが可能となる。また、本発明によれば、このようなV-ATPase活性阻害剤を効率的にスクリーニングするためのスクリーニング方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】V-ATPaseの全体構造及び特定環境下での発現を示す模式図である。
【
図2】候補化合物によるV-ATPase活性の阻害率と化合物濃度を示すグラフである。
【
図3】候補化合物による腸球菌の生育実験の結果を示すグラフである。
【
図4】V-ATPase活性阻害剤がV-ATPaseのcリングに結合した状態を示す立体構造図である。
【
図5】実施例4の化合物とV-ATPaseのcリングのX線結晶構造解析の結果を示す図である。
【
図6】実施例4の化合物を用いて病原菌の増殖抑制試験を行った結果を示すグラフである。
【
図7】実施例4の化合物を用いて病原菌の増殖抑制試験を行った結果を示すグラフである。
【
図8】実施例4の化合物を用いて腸内環境への影響を評価した結果を示すグラフである。
【
図9】高タンパク質飼料、抗生物質を投与したマウスの腸内のpHを測定した結果を示すグラフである。
【
図10】実施例4の化合物を投与したVRE感染マウスのVRE菌数を計測した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
1.V-ATPase活性阻害剤
本発明のV-ATPase活性阻害剤は、Na
+輸送性のV-ATPase活性阻害剤であり、下記式(1)で示される化合物を含む。
【化5】
(ここで、R
1は、ヒドロキシ基、炭素数1~10のアルコキシ基、及び炭素数1~3のハロアルコキシ基から選択され、いずれも隣接するフェニル基と酸素を介して結合し、又はそれぞれのアルキル基の炭素数1~10のジアルキルアミノ基、炭素数2~6の複素環式アミン、及び炭素原子に結合する置換基を有してもよいカルボン酸アミド基から選択され、いずれも隣接するフェニル基と窒素を介して結合し、又は臭素(Br)、ヨウ素(I)、若しくは炭素数2~5の直鎖の炭化水素基を表す。
R
2は、水素又は炭素数1~3のハロアルコキシ基を表す。
Z
1は、炭素数5~20の脂肪族炭化水素基、炭素数3~20の脂環式炭化水素基、炭素数6~20の芳香族炭化水素基、又は炭素数2~20の複素環基であり、いずれも任意の置換基を有していてもよく、隣接するフェニル基との間に、下記式(1-1)~(1-3)から選択される二重結合を含む構造を有する。ここで、*は、隣接するフェニル基との結合手を表す。)
【化6】
【0026】
R1において、ヒドロキシ基は、「-OH」で表される置換基である。炭素数1~10のアルコキシ基は、「-O-R1a」(R1aは炭素数1~10のアルキル基を示す)で表される置換基である。また、R1の炭素数1~3のハロアルコキシ基は、「-O-R1b-Xn1」(R1bは炭素数1~3のアルキル基を示し、Xはフッ素、塩素、臭素、ヨウ素から選択されるハロゲン原子を示す。n1=1~3を示す。)で表される置換基である。それぞれのアルキル基の炭素数1~10のジアルキルアミノ基は、「-N(R1c)(R1d)」(R1cは炭素数1~10のアルキル基を、R1dは炭素数1~10のアルキル基を示し、R1cとR1dは同一又は異なっていてもよい。)で表される置換基である。炭素数2~6の複素環式アミンは、「-N-(CH2)n2-」(n2=2~6を示す。)で表される置換基である。カルボン酸アミド基は、「-NH-C(=O)-」で表される置換基である。臭素は「-Br」、ヨウ素は「-I」で表される置換基である。炭素数2~5の直鎖の炭化水素基は、「-(CH2)n3-CH3」(n3=1~4を示す。)で表される置換基である。
【0027】
R2において、水素は「-H」で表される置換基である。炭素数1~3のハロアルコキシ基は、「-O-R2a-Xn4」(R2aは炭素数1~3の炭化水素基を示し、Xはフッ素、塩素、臭素、ヨウ素から選択されるハロゲン原子を示す。n4=1~3を示す。)で表される置換基である。R2は、フェニル基において、Z1からみてオルト位に位置してもよく、メタ位に位置してもよい。
【0028】
Z1において、炭素数5~20の脂肪族炭化水素基は、アルカン、アルケン、アルキン、アルカジエン、共役ジエンなどから選択される置換基である。
【0029】
炭素数5~20のアルカンとしては、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン、テトラデカン、ペンタデカン、ヘキサデカン、ヘプタデカン、オクタデカン、ノナデカン、イコサンなどを挙げることができる。
【0030】
炭素数5~20のアルケンとしては、1-ペンテン、2-ペンテン、1-ヘキセン、2-ヘキセン、3-ヘキセン、1-ヘプテン、2-ヘプテン、3-ヘプテン、4-ヘプテン、1-オクテン、2-オクテン、3-オクテン、4-オクテン、5-オクテン、1-ノネン、2-ノネン、3-ノネン、4-ノネン、5-ノネン、1-デセン、2-デセン、3-デセン、4-デセン、5-デセン、6-デセンなどを挙げることができる。
【0031】
炭素数5~20のアルキンとしては、1-ペンチン、2-ペンチン、1-ヘキシン、2-ヘキシン、3-ヘキシン、1-ヘプチン、2-ヘプチン、3-ヘプチン、4-ヘプチン、1-オクチン、2-オクチン、3-オクチン、4-オクチン、5-オクチン、1-ノニン、2-ノニン、3-ノニン、4-ノニン、5-ノニン、1-デセン、2-デセン、3-デセン、4-デセン、5-デセン、6-デセンなどを挙げることができる。
【0032】
炭素数5~20のアルカジエンとしては、1,3-ペンタジエン、2,4-ヘプタジエン、1,4-ペンタジエン、1,7-オクタジエン、2,5-オクタジエン、2,6-オクタジエンなどを挙げることができる。
【0033】
炭素数5~20の共役アルケンとしては、1,3,5-ヘプタトリエン、1,3,7-オクタトリエン、2,4,6-オクタトリエン、1,2,7,8-ノナテトラエン、1,3,6,8-ノナテトラエン、2,4,6,8-ノナテトラエン、1,2,8,9-デカテトラエン、2,4,6,8-デカテトラエンなどを挙げることができる。
【0034】
炭素数3~20の脂環式炭化水素基は、シクロアルカン、シクロアルケン、シクロアルキンなどから選択される置換基である。炭素数3~20の脂環式炭化水素基としては、シクロプロパン、シクロブタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン、シクロプロペン、シクロブテン、シクロプロペン、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテン、シクロオクチンなどを挙げることができる。
【0035】
炭素数6~20の芳香族炭化水素基としては、ベンゼン、ナフタレン、アントラセンなどを挙げることができる。
【0036】
炭素数2~20の複素環基は、炭素数2~20で、窒素、酸素、及び硫黄から選択される1種類以上の元素を環構造内に含む置換基である。炭素数2~20の複素環基としては、アジリジン、オキシラン、チイラン、1H-アジリン、2H-アジリン、オキシレン、チイレン、アゼチジン、オキセタン、チエタン、アゼト、アゾリジン、オキソラン、チオラン、アゾール、オキソール、チオール、アジナン、オキサン、チアン、ピリジン、アゼパン、オキセパン、チエパン、アゼピン、オキセピン、チエピン、イミダゾール、ピラゾール、オキサゾール、チアゾール、イミダゾリン、ジオキサン、モルホリン、チアジン、トリアゾール、テトラゾール、ジオキソラン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、インドール、イソインドール、ベンゾイミダゾール、プリン、ベンゾトリアゾール、キノリン、イソキノリン、キナゾリン、キノキサリン、シンノリン、プテリジン、クロメン、イソクロメン、アントラセン、アクリジン、キサンテン、カルバゾール、オキサジアゾール、ベンゾ-C-シンノリン(en)、テトラセンなどを挙げることができる。
【0037】
Z1としては、上記の置換基のほか、これらの置換基に、さらにアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、オキソ基、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、ニトロ基、スルホ基、エーテル基、チオール基、エステル基、カーボネート基、カルボニル基、アミド基、アミノ基、アジド基、カーバメート基、シアノ基、ヒドロキシ基、カルボキシル基、スルホン酸エステル基、スルトン基、ラクトン環、ラクタム環などが1又は2以上結合したものでもよい。
【0038】
Z1は、分子内に環構造を含むものが好ましい。環構造としては、上記の炭素数3~20の脂環式炭化水素基、炭素数6~20の芳香族炭化水素基、及び炭素数2~20の複素環基から選択される基が好ましい。Z1において、環構造は1つのみでもよく、2つ以上含まれていてもよい。環構造は、上記の式(1-1)~(1-3)の二重結合を含む構造を分子内に含むものがより好ましい。
【0039】
特に、上記の式(1)で示される化合物としては、下記式(2)で示される2-フェニルベンゾイミダゾール誘導体であることが好ましい。
【化7】
(ここで、R
1及びR
2は式(1)で定義したとおりであり、R
3及びR
4は、水素原子、炭素数1~4のアルキル基、又はフッ素、塩素、臭素及びヨウ素から選択されるハロゲン原子を表し、R
3及びR
4は互いに同一でも異なっていてもよい。)
【0040】
上記の式(2)の2-フェニルベンゾイミダゾール誘導体としては、下記の式(V-161、V-161-01~V-161-04、V-161-10)に示される化合物を例示することができる。
【化8】
【0041】
これらのうち、V-ATPase活性阻害の効果が高いことから、式V-161(N,N-ジメチル-4-(6-メチル-1H-ベンゾ[d]イミダゾール-2-イル)アニリン)が好ましい。
【0042】
上記の式(1)で示される化合物としては、下記式(6)で示される(1,2,4-オキサジアゾール-3-イル)フェニル誘導体を挙げることができる。
【化9】
(ここで、R
1、R
2は式(1)で定義したとおりである。R
6は炭素数6~20の芳香族炭化水素基を表し、該芳香族炭化水素基は炭素数1~4のアルキル基で置換されていてもよい。)
【0043】
特に、式(6)で示される化合物が下記式(7)で示される(1,2,4-オキサジアゾール-3-イル)フェニル誘導体であることが好ましい。
【化10】
(ここで、R
7~R
14は、水素原子、炭素数1~4のアルキル基、アミノ基、エーテル基、スルホニル基、ホウ素基、又はフッ素、塩素、臭素及びヨウ素から選択されるハロゲン原子を表し、R
7~R
14は互いに同一でも異なっていてもよい。)
【0044】
下記式(7)で示される化合物の具体例としては以下の式(V-234)、(V-234-01)~(V-234-03)に示される化合物を例示することができる。
【化11】
【0045】
上記の式(1)で示される化合物としては、下記式(3)で示される化合物を挙げることができる。
【化12】
(ここで、R
1及びR
2は式(1)で定義したとおりである。)
【0046】
また、上記の式(1)で示される化合物としては、下記式(4)で示される化合物を挙げることができる。
【化13】
(ここで、R
1及びR
2は式(1)で定義したとおりである。)
【0047】
また、上記の式(1)で示される化合物としては、下記式(5)で示される化合物を挙げることができる。
【化14】
(ここで、R
1及びR
2は式(1)で定義したとおりである。R
5は炭素数3~20の脂環式炭化水素基を表す。)
【0048】
上記式(1)の化合物としては、下記に示される化合物を例示することができる。
【化15】
【0049】
これらの化合物名は以下のとおりである。
・V-6:(Z)-5-(2,4-ビス(ジフルオロメトキシ)ベンジリデン)-2-(シクロペンチルアミノ)チアゾール-4(5H)-オン
・V-84:(2E,4E,6E,8E)-N-(4-ヒドロキシフェニル)-3,7-ジメチル-9-(2,6,6-トリメチルシクロヘキシル-1-エン-1-イル)ノナ-2,4,6,8-テトラエンアミド
・V-130:5-(4-(ノニロキシ)ベンジリデン)ピリミジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオン
・V-161:N,N-ジメチル-4-(6-メチル-1H-ベンゾ[d]イミダゾール-2-イル)アニリン)
・V-234:N-(4-(5-((o-トリロキシ)メチル)-1,2,4-オキサジアゾール-3-イル)フェニル)チオフェン-2-カルボキサミド
【0050】
これらのうち、V-ATPase以外への非特異的結合が少ないという点から、V-6、V-161、V-234が特に好ましい。
【0051】
2.V-ATPase活性阻害メカニズム
次に、V-ATPaseについて説明する。
図1は、腸内連鎖球菌であるEnterococcus hirae(E.hirae)のV-ATPaseの模式図であり、Na
+輸送性のV-ATPaseを示している。この図の(a)に示すように、V-ATPaseは、複数のサブユニットから構成される複合体であり、親水性の触媒頭部部分(V
1部分)とナトリウムイオン(Na
+)輸送を担う膜内在性部分(V
o部分)を備えている。V
1部分は、ATP駆動性のモーター部であり、A
3B
3サブユニットによってATPが加水分解されることでV
1部分を回転させる。V
o部分は、回転運動を用いてイオンを輸送し、cサブユニットの十量体からなる膜内ローターリング(cリング)が含まれている。cリングは、イオン結合部位を有しており、イオンの膜内外への輸送に関与している。V-ATPaseは、V
1部分によりATPを加水分解し、そのエネルギーによってV
o部分のcリングを回転させることで、膜内のナトリウムイオンを膜外に排出している。
【0052】
図1の(b)(c)は、E.hiraeにおいて、外部環境のpHによってV-ATPaseの活性が変化する様子を示す模式図である。この図の(b)に示すように、中性pH(pH≦7.0)付近では、V-ATPaseは発現していない。一方、この図の(c)に示すように、アルカリ側のpH(pH>7.0)や高塩濃度下では、V-ATPaseが発現し、膜内のナトリウムイオンを膜外に排出する。これにより、E.hiraeは、細胞内のNa
+が低く保たれ、アルカリや高塩濃度の環境下でも生育が可能となる。
【0053】
本発明のV-ATPase活性阻害剤は、V-ATPaseに結合してその活性を阻害する作用を有する。特に、本発明のV-ATPase活性阻害剤は、V-ATPaseのcリングに結合してその回転を阻害することで、イオンの輸送を阻害する機能を有している。以下、V-ATPase活性阻害剤による活性阻害メカニズムについて説明する。
【0054】
本発明のV-ATPase活性阻害剤は、式(1)で示される化合物である。これは、下記式に示すように、フェニル基と任意の置換基とを備えており、フェニル基は任意の置換基との結合位置に対してパラ位に電子供与性基を有する構造となっている。
【化16】
【0055】
また、上記で例示したV-ATPase活性阻害剤について、構造を説明する図を示す。これらの図に示すように、任意の置換基Z
1は、フェニル基との間で式(1-1)~(1-3)の二重結合を含む構造を介して連結している。また、Z
1はいずれも環構造を備えている。
【化17】
【0056】
電子供与性基を有するフェニル基は、任意の置換基とともにV-ATPaseのcリングの外周部の特定の部位に結合してcリングとaサブユニットとの間に挟まることで、cリングの回転を阻害する役割を有する。フェニル基と任意の置換基は疎水性であり、cリング外周部のうち疎水性側鎖を有するアミノ酸残基との疎水性相互作用によりcリングに結合する。また、フェニル基のパラ位に結合した電子供与性基によってベンゼン環のπ電子の電子密度が増大することでベンゼン環が活性化し、V-ATPase活性阻害剤のcリングへの結合親和性に寄与していると考えられる。例えば、後述する実施例に記載した化合物「V-161」では、cリングの52番目のフェニルアラニンを含むその周辺のアミノ酸残基と相互作用し、阻害剤の結合能を担保している。
【0057】
任意の置換基及び/又は電子供与性基のNH基などから供給される水素原子がドナーとなり、またN原子・O原子・S原子がアクセプターとなって、cリングのアクセプターやドナーとの間に複数の水素結合が形成されると推測される。これにより、任意の置換基及び電子供与性基は、V-ATPaseのcリングとの結合親和性の向上に寄与している。任意の置換基は、分子量が適度に大きく、かつ疎水性であれば比較的どのような構造のものでもよい。この置換基は、環構造を有するものが好ましい。疎水性の環構造を有し、任意の置換基の嵩高さが増すことで、V-ATPase活性阻害剤によるcリングの回転阻害効果が高くなる。
【0058】
まず、V-ATPaseのcリングに結合するのに、フェニル基と、そこから特定の方向に存在する二重結合を含む構造が最低限必要な基本構造である。特に、式(1-2)や式(1-3)のような二重結合がフェニル基に隣接している場合、二重結合とフェニル基が共鳴することにより構造が固定され、その共鳴したπ電子がV-ATPaseのcリングに結合するのに重要な役割を果たしていると考えられる。
【0059】
なお、二重結合を含む構造は、任意の置換基のうちフェニル基と環構造とを連結するリンカーに含まれていてもよく(例えば、V-84など)、フェニル基と環構造との間にリンカーがない場合は環構造に含まれていてもよい(例えば、V-161)。このような構造を備えることから、V-ATPase活性阻害剤は、V-ATPaseのcリングに結合してその回転を抑制することで、V-ATPase活性を阻害する効果を発揮する。
【0060】
3.抗菌剤・抗菌方法・医薬
本発明のV-ATPase活性阻害剤は、上記のようにV-ATPaseの活性を阻害することから、V-ATPaseを発現する微生物の抗菌剤として有用である。V-ATPaseを発現する微生物の一覧を以下の表に示す。これらの微生物は、本発明のV-ATPase活性阻害剤によってV-ATPaseの活性が阻害され、増殖が抑制されることが期待される。また、関連病名は、微生物が増殖抑制されることにより治療・予防されることが期待される疾患を示している。
【表1】
【0061】
表中の「Bacteria」は微生物名を、「関連病名」はその微生物が関連する疾患の例を示している。また、表中の「V-ATPase ring identity(%)」は、その微生物のV-ATPaseのcリングと腸球菌のV-ATPaseのcリングとの相同性のパーセントを示している。本発明者らは、腸球菌V-ATPaseについて、後述する実施例において、V-ATPase活性阻害剤がV-ATPaseのcリングに結合して腸球菌の生育抑制効果を示すことを確認している。このため、腸球菌のV-ATPaseのcリングとの相同性が高いV-ATPaseを有する微生物については、腸球菌と同様に本発明のV-ATPase活性阻害剤によって微生物の生育抑制効果が発揮されることが期待される。一方、上記のとおり、V-ATPase活性阻害剤はcリングの外周面に相互作用するが、発明者らが確認したところ、V-ATPaseのcリングの外周面については、多くの微生物でアミノ酸配列が比較的高度に保存されていた。このため、腸球菌のV-ATPaseのcリングとの相同性が低い微生物であっても、必ずしもV-ATPase活性阻害剤の効果がないとは限らず、V-ATPase活性阻害剤によって微生物の生育抑制効果が発揮される可能性があると考えられる。
【0062】
本発明のV-ATPase活性阻害剤は、新規の抗菌剤であるため、従来の抗菌剤に耐性のある薬剤耐性菌に対しても効果を発揮することが期待される。例えば、バンコマイシンなどに対する薬剤耐性腸球菌(VRE)のE.faecalis、E.faeciumなどに対しても有用である。
【0063】
本発明のV-ATPase活性阻害剤は、V-ATPaseを有する細菌と、V-ATPaseを有さない細菌とを含む細菌叢からV-ATPaseを有する細菌を選択的に減少させる細菌叢調整剤として有用である。
【0064】
例えば、ウェルシュ菌(Clostridium perfringens)などは、いわゆる悪玉菌といわれ、腸内でタンパク質を腐敗させて有害なアミン類や発がん性物質を作り出す病原性細菌である。これら腸内環境の悪化につながる微生物の多くはV-ATPaseを持ち、アルカリ性の環境下で優位に生育する。一方、ビフィズス菌(Bifidobacterium属)や乳酸菌(Lactobacillus属)などは、いわゆる善玉菌といわれ、腸内で食物繊維を発酵させて酪酸や酢酸など宿主の健康維持に重要な短鎖脂肪酸を産生し、悪玉菌の増殖やその関連疾患を抑制している。これら腸内環境の改善に役立つ微生物の多くはV-ATPaseを持たない。このため、本発明のV-ATPase活性阻害剤は、上記の善玉菌には効果を発揮せずに悪玉菌のみに効果を発揮することで、V-ATPaseを持つ悪玉菌のみを選択的に生育阻害することから、善玉菌が生育しやすい環境に腸内を改善する。
【0065】
なお、VRE感染症やClostridium difficileによる腸炎などは、抗生物質の投与による腸内細菌叢の乱れに起因することが多いとされている。腸管における免疫系や腸内細菌叢の異常は、自己免疫疾患を誘発する恐れがある。腸内環境の悪化は、大腸がんや肝臓がんにつながるとされており、肥満や糖尿病などの生活習慣病とも腸内細菌叢が密接に結びついている。したがって、本発明のV-ATPase活性阻害剤は、腸内細菌の細菌叢における善玉菌・悪玉菌のバランスを調整し、種々の疾患の予防・治療のための医薬として有用である。
【0066】
本発明のV-ATPase活性阻害剤(抗菌剤、細菌叢調整剤)は、医薬、農薬などの薬剤における有効成分として有用であり、特に、医薬用途が好ましい。医薬の種類としては、錠剤、カプセル、丸剤、散剤、顆粒剤、細粒剤、ゼリー剤、液剤などを挙げることができる。
【0067】
医薬中に含まれるV-ATPase活性阻害剤の濃度としては、適宜決定することができるが、例えば1μM~100mMの範囲内であり、100μM~10mMの範囲内が好ましい。V-ATPase活性阻害剤は、水などの溶媒に溶解して用いることができ、あるいは粉末の状態で使用することもできる。
【0068】
上記の医薬は、本発明のV-ATPase活性阻害剤(抗菌剤、細菌叢調整剤)のほかに、本発明の効果を損なわない範囲内で、溶剤、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、安定剤、懸濁化剤などの添加物を含んでいてもよい。製剤用溶剤としては、例えば、水、エタノール、グリセリンなどを挙げることができる。賦形剤としては、例えば、乳糖、白糖、ブドウ糖、マンニット、ソルビット、トウモロコシデンプン、馬鈴薯デンプン、α-デンプン、デキストリン、カルボキシメチルデンプン、結晶セルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、アラビアゴム、デキストラン、プルラン、珪酸塩類、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム、硫酸カルシウムなどを挙げることができる。珪酸塩類としては、例えば、軽質無水珪酸、合成珪酸アルミニウム、メタ珪酸アルミン酸マグネシウムなどを挙げることができる。結合剤としては、例えば、ゼラチン、ポリビニルピロリドン、マクロゴールなどを挙げることができる。崩壊剤としては、例えば、クロスカルメロースナトリウム、カルボキシメチルスターチナトリウム、架橋ポリビニルピロリドンなどを挙げることができる。滑沢剤としては、例えば、タルク、ステアリン酸、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、コロイドシリカ、ビーガム、ビーズワックス、ゲイロウ、硼酸、グリコール、フマル酸、アジピン酸、安息香酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、ロイシン、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸マグネシウム、無水珪酸、珪酸水和物などを挙げることができる。安定剤としては、例えば、メチルパラベン、プロピルパラベン、クロロブタノール、ベンジルアルコール、フェニルエチルアルコール、塩化ベンザルコニウム、フェノール、クレゾール、チメロサール、無水酢酸、ソルビン酸などを挙げることができる。懸濁化剤としては、例えば、ポリソルベート80、カルボキシメチルセルロースナトリウムなどを挙げることができる。
【0069】
4.スクリーニング方法
次に、Na+輸送性のV-ATPase活性阻害剤の候補化合物を試験化合物から選別するスクリーニング方法について説明する。本発明のスクリーニング方法は、以下の(a)一次スクリーニング工程と(b)二次スクリーニング工程とを備える。
【0070】
(a)一次スクリーニング工程
一次スクリーニング工程では、大量の化合物からATPase阻害活性を示すもののみを選別する。まず、V-ATPase阻害活性を有する試験化合物を化合物ライブラリーなどから選択する。化合物ライブラリーとしては、大学などが保有する化合物データベースを利用することができる。
【0071】
次に、選択した化合物のそれぞれについて、V-ATPaseと化合物とを反応させ、ATPase活性を測定することで、化合物がATPaseを阻害したかどうかを評価する。ATPase活性は、ATPの加水分解によって生じる無機リン酸を吸光度測定するモリブデン・ブルー法で行うことができる。反応条件は、ATPase活性を測定するための条件を採用することができる。反応に使用する緩衝液としては、Tris-HClバッファーを使用することができる。反応時間は、通常10~60分間であるが、気温等によって適宜調整することができる。V-ATPaseの反応は、SDSなどの界面活性剤を添加することで停止させ、発色液(ferrous sulfateなど)を添加して呈色させたのち、650nmの吸光度を測定することで無機リン酸の濃度を算出することができる。
【0072】
上記で算出した無機リン酸の濃度から、V-ATPase反応の阻害率を算出することができる。すなわち、阻害率を縦軸に、化合物の濃度を横軸にプロットしたグラフを作成し、阻害率が50%となる濃度(IC50)を求める。IC50となる化合物の濃度が小さいものほど、少量で高いV-ATPase阻害効果を示すことから、V-ATPase活性阻害剤の候補化合物となる。後述する実施例では、IC50が10μM未満の化合物(以下、「IC50<10μM」のように表現する。)を一次スクリーニング工程で選択された候補化合物としている。
【0073】
(b)二次スクリーニング工程
二次スクリーニング工程は、一次スクリーニング工程で絞られた化合物について微生物の生育を阻害するかどうか確認する工程である。二次スクリーニング工程は、(b-1)未処理評価ステップと、(b-2)処理済評価ステップと、(b-3)候補化合物特定ステップとを少なくとも有する。
【0074】
(b-1)未処理評価ステップ
未処理評価ステップでは、V-ATPaseを有する細菌に対して、試験化合物を細菌に接触させずに、第1のpHと、第1のpHよりもアルカリ側の第2のpHとで、細菌の生存状態を評価する。V-ATPaseは、アルカリ性の環境下で増殖する微生物で発現するものが多い。このため、本ステップでは、特定のpH(第1のpH)と、これよりもアルカリ側のpH(第2のpH)の2つの環境下で微生物を生育させてその生育状況を確認する。腸球菌を対象とする場合、第1のpHはpH≦7.0、第2のpHはpH>7.0の範囲内で適宜選択することが好ましい。例えば、第1のpHがpH7.0、第2のpHがpH8.0とするなどである。
【0075】
未処理評価ステップにおける微生物の培養条件(培地、培養温度)は、微生物の種類に応じて適宜決めることができる。例えば、微生物が腸球菌の場合、トリプトン・酵母抽出物を含む液体培地で培養することが好ましく、必要に応じてグルコースなどを添加してもよい。第1のpHと第2のpHとで異なるpHの培地を使用する。また、腸球菌の培養温度は30~37℃が好ましい。
【0076】
微生物の生育状態は、微生物の数を確認することで評価することができる。微生物の数は、微生物を培養している培地の吸光度を測定する方法や、微生物をプレートなどに培養して微生物の数を計数する方法などで確認することができる。腸球菌の場合、波長600nmの吸光度(OD600)を測定することで、生育状態を評価することができる。
【0077】
(b-2)処理済評価ステップ:
次に、試験化合物を細菌に接触させたのち、上記(b-1)と同様に、特定のpH(第1のpH)と、アルカリ側のpH(第2のpH)とで細菌の生存状態を評価する。微生物の培養や生育状態の評価は、(b-1)と同じ条件や方法で行う。
【0078】
(b-3)候補化合物特定ステップ:
次に、(a)未処理評価ステップと(b)処理済評価ステップとにおける微生物の生存状態を比較し、差異が生じた試験化合物を細菌の抗菌剤の候補化合物として特定する。特定のpHよりもアルカリ側のpHで、(a)未処理よりも(b)処理済の方が微生物の増殖が抑制されたのであれば、その試験化合物は、V-ATPase活性を抑制した可能性があると判断して、V-ATPase活性阻害剤の候補化合物となる。一方で、特定のpHでも増殖が抑制されたり、特定のpHよりもアルカリ側のpHで、(a)未処理と(b)処理済とを比較して、処理済の方がより増殖したり、両者でほぼ同じ程度増殖したりしたのであれば、その試験化合物は、V-ATPase活性に影響を与えないと判断して、V-ATPase活性阻害剤の候補化合物からは外れる。
【実施例】
【0079】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、これらは本発明の内容を限定するものではない。また、以下の実施例において「%」表示は特に規定しない限り質量基準(質量パーセント)である。
【0080】
(1)化合物、V-ATPaseの準備
(a)化合物の入手
ATPase活性阻害剤の候補となる化合物を東京大学創薬機構の化合物ライブラリーから取得した。取得した化合物は約70000種であり、すべての化合物について後述するのATPase活性測定により一次スクリーニングを行った。
(b)V-ATPaseの調製
V-ATPaseは下記の論文に記載した方法で調製した。
論文1:Takeshi Murata,et.al, “Purification and Reconstitution of Na+-translocating Vacuolar ATPase from Enterococcus hirae”, J. Biol. Chem. 272, 24885-24890 (1997)
論文2:Takeshi Murata,et.al, “Torque Generation of Enterococcus hirae V-ATPase”, J. Biol. Chem. 289, 31212-31223 (2014)
【0081】
(2)ATPase活性測定(一次スクリーニング)
ATPase活性測定は、ATPの加水分解によって生じる無機リン酸を吸光度測定で定量する、モリブデン・ブルー法を用いて行った。96wellプレートで測定を行い、Buffer(100mM Tris-HCl pH8.5, 100mM NaCl, 5mM MgSO4, 10% glycerol)に0.05% DDM(n-dodecyl-β-D-maltoside)及び10μg/mLのV-ATPase(腸球菌又は組換え大腸菌から精製したもの)、20μMの化合物を加えた。5mMになるようにATPを加え、全量を100μLとしてスターラーで撹拌しながら反応を開始し、反応時間を30分間とした。ATPase活性は反応温度によって大きく変化するため、実験日の気温に応じて反応時間を10分~60分の範囲内で調整した。50μLの20% SDSを加えることでV-ATPaseを変性させて反応を停止し、75μLの発色液(5% ferrous sulfate, 1.6% ammonium molybdate, 1M sulfuric acid)を加えて呈色させた。直ちにプレートリーダーを用いて650nmの吸光度を測定した。0.2mM,0.5mM,1.0mM,1.5mMの4種類のKH2PO4水溶液とMQ(超純水)を同じ実験系で反応させ、作成した検量線を用いて生じた無機リン酸の濃度を求めることで、V-ATPaseの活性を測定した。そこで、活性を50%以上阻害した化合物について、濃度を10μM、5μM、2μM、1μM、500nM、200nM、100nM、50nMと段階的に希釈し、上記と同様の測定を行った。
【0082】
(3)一次スクリーニング結果
上記のATPase活性測定の結果から、化合物を加えない条件の活性を100として、それと比較した活性の低下から阻害率を算出した。縦軸に阻害率、横軸に化合物の濃度をプロットしたグラフを作成した(
図2)。グラフから、阻害率が50%となる化合物の濃度(IC
50)を求めた。その結果、IC
50が10μMを下回る(IC
50<10μM)化合物は280種類、IC
50が100nMを下回る(IC
50<100nM)化合物は12種類であった。IC
50<10μMの化合物280種類について、ヒト由来HeLa細胞への影響を検証した結果、24種類が毒性を示したため、それらを除く256種類を候補阻害剤とした。この256種から、活性が上位の化合物と多様性を考慮して24種類の化合物を選出した。これら24種類の化合物の構造式を以下に示す。
【化18】
【化19】
【化20】
【化21】
【0083】
上記の24種類の化合物に対して、以下の腸球菌の生育実験で二次スクリーニングを行った。
(4)腸球菌の生育実験(二次スクリーニング)
腸球菌(Enterococcus hirae)の培養には、2% tryptone, 1% yeast extractをベースに緩衝液を加え、Na+濃度を調整した培地を用いた。glucoseを添加する場合は50%溶液に調製したものを、培地を使用する際に1%になるように加えた。96wellプレートを使用した全量200μLの培養を行い、1時間おきにプレートリーダーを用いてOD600を測定した。pH7.0とpH8.5の培地を使用し、pHによって生育に与える影響を観察した。細菌の培養では、増殖に必要な糖質の分解によってpHが大きく変動することが多く、この実験ではpHを一定に維持することが極めて重要になるため、それぞれのpHに適したバッファーの添加によりpHを一定に保つようにした。V-ATPaseはアルカリ性条件下でのみ発現するため、阻害剤の添加によってみられる生育阻害はpHに大きく依存する。また、阻害剤はV-ATPaseを持たない細菌の生育に影響を与えない。
【0084】
(5)二次スクリーニング結果
【0085】
下記の表に、上記24種類の化合物のIC
50等について記載する。なお、下記表の「特異性」の欄の「+」はpH7.0での生育阻害がなくpH8.5であったもの、「-」はいずれも生育阻害がなかったもの、「n.a.」はいずれも生育阻害があったものを示している。具体的には、「+」については、pH7.0について生育阻害率20%以下のものを生育阻害がなかったと判断している。また、「-」については、pH7.0とpH8.5のいずれにおいても、生育阻害率20%以下のものを生育阻害がなかったと判断している。また、「n.a.」については、pH7.0において生育阻害率60%以上のものを生育阻害があったと判断している。また、明確な阻害がみられなかった化合物についても参考までに生育阻害率を記入した。
【表2】
【0086】
また、これらのうち、「特異性」が「+」の14種類について、その生育結果のグラフを示す(
図3)。横軸は候補化合物を、縦軸は吸光度で計測した菌の数(%)を示す。左端のグラフはコントロールで、各化合物の左側のグラフはpH7.0、右側のグラフはpH8.5の培養条件での結果を示す。このグラフに示すように、いずれの候補化合物も、pH7.0と比較してpH8.5で腸球菌の生育が抑制されていることがわかる。
【0087】
上記の14種類の化合物のうち、V-ATPaseとの親和性が高く(IC50<=400)、生育阻害効果が高く(生育阻害率(%)>=70%)、かつ非特異的阻害がない3種類の化合物を、阻害効率の高いV-ATPase活性阻害剤を示す化合物として特定した。具体的には、実施例1(V-6)、実施例4(V-161)、実施例5(V-234)である。特に、実施例4(V-161)の化合物(2-フェニルベンゾイミダゾール誘導体)は、IC50と生育阻害の結果から、最も有用な候補化合物であると考えられる。また、V-ATPaseとの親和性が高く(IC50<=400)、生育阻害効果が高い(生育阻害率(%)>=70%)が、非特異的阻害がある2種類の化合物(実施例2(V-84)、実施例3(V-130))も候補化合物として特定した。
【0088】
(6)共結晶化・X線結晶構造解析
実施例4(V-161)の化合物とV-ATPaseのcリングとを共結晶化し、X線結晶構造解析を行った。上記の論文1及び論文2の方法で腸球菌由来のV-ATPaseを組換え大腸菌で発現させ、複合体に精製した後、cリングを単離した。cリングを2mg/mLに調製し、V-161を500μMになるように添加した。100mM Tris-HCl pH8.0, 220mM sodium citrate, 32% PEG400の条件で23℃において結晶化を行った。得られた結晶を、シンクロトロン放射光施設であるフォトンファクトリー(PF)のビームラインでX線回折実験を行った。その回折像から解析を行い、2.3Åの分解能で構造を決定した。その結果を
図4及び
図5に示す。
なお、X線結晶構造解析の詳細な方法については、腸球菌V-ATPaseのcリングのX線結晶構造解析に関する以下の論文を参照することができる。
論文3:Takeshi Murata,et.al, “Structure of the Rotor of the V-Type Na
+-ATPase from Enterococcus hirae” Science 308, 654-659 (2005)
【0089】
図4(a)に示すように、リボン状はcリングのヘリックスを、まわりのスティック状は脂質分子及び界面活性剤分子を、中央部の粒はナトリウムイオンを表す。
図4(b)は
図4(a)の四角で囲まれた部位を拡大した図である。また、
図5は電子密度マップであり、左側がcリングの全体構造を示し、中央と右側がV-161の結合位置を順次拡大した構造を示している。これらの構造から、V-161はcリングの52番目のフェニルアラニンを含むその周辺のアミノ酸残基と相互作用して外周面に結合していることがわかった。
【0090】
(7)2-フェニルベンゾイミダゾール誘導体の化合物展開
V-161と共通の骨格を有する他の2-フェニルベンゾイミダゾール誘導体について、合成展開を行った。化合物は下記(V-161-01)~(V-161-10)の10種類である。化合物の構造式を以下に示す。
【0091】
【0092】
これらの化合物について、「(2)ATPase活性測定」と同じ方法でATPase活性の阻害効果を評価した。その結果を下記表に示す。なお、参考例4-02(V-161-06)はpHによる活性の特異性がなく(pH7.0とpH8.5の両方で高活性)、参考例4-05(V-161-09)は活性がみられなかった。
【表3】
【0093】
これらの結果のうち、V-ATPaseとの親和性が高く(IC50<=400)、生育阻害効果が高く(生育阻害率(%)>=70%)、かつ非特異的結合がない実施例4-01(V-161-01)~実施例4-04(V-161-04)、実施例4-05(V-161-10)の5種類の化合物を、阻害効率の高いV-ATPase活性阻害剤として特定した。一方、参考例4-04(V-161-08)と参考例4-05(V-161-09)については、ATPase活性の阻害効果がみられなかった。
【0094】
(8)病原性細菌に対する抗菌作用の確認
腸球菌(Enterococcus hirae)に類似するV-ATPaseを持つ病原性細菌に対して、上記「(4)腸球菌の生育実験」と同様に、V161が生育阻害を示すかどうか確認した。病原性細菌として、バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)のEnterococcus faecalis、Enterococcus faecium、腸内環境の悪化につながり多剤耐性のClostridium difficileを用意した。VREはpH7.0、pH7.5、pH8.0の培地、C. difficileはpH6.5、pH7.0、pH7.5の培地を使用して培養を行い、OD
600を測定して菌数の差を確認した。その結果を
図6、
図7に示す。
【0095】
図6は、バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)の結果で、左側がE.faecalis、右側がE.faeciumのデータである。この図の上から順に、pH7.0、pH7.5、pH8.0のデータである。この図より、いずれの病原菌もpH依存的に生育が阻害されており、V-161はV-ATPaseの活性阻害によるアルカリ性条件での特異的な生育阻害活性を有することがわかった。また、E.faecalisよりE.faeciumの方がV-161の影響を強く受けていることが確認できる。
図7は、病原性Clostridium属細菌のデータである。この図の上から順に、pH6.5、pH7.0、pH7.5のデータである。この図より、C.difficileは中性・酸性条件下でも生育が阻害されており、病原性Clostridium属細菌ではV-ATPaseの発現するpH範囲が広く、中性・酸性条件下でもV-161が作用することが示唆された。
【0096】
(9)腸内環境の作用条件の確認
マウス(C57BL/6、♀、6週齢、体重約15g)を用いて腸内環境へのV-161の影響を調べた。Soybean PCとメイロンでV-161を20mMとなるように懸濁した。マウス4匹に対してそれぞれ0.5mlの懸濁液を毎日1回経口投与し、5日後に解剖して糞便、腸管内容物を採取し、腸内pHとナトリウムイオン濃度を計測した。その結果を
図8に示す。図の上段が腸内pHを、下段がナトリウムイオン濃度を示す。
【0097】
この結果から、特に小腸では、V-ATPaseが発現しV-161が作用するのに適したpH環境であることがわかった。また、V-161の多量の投与にも関わらず、マウスに毒性は観られなかった。
【0098】
(10)マウス腸内環境(高タンパク飼料・抗生物質投与)の確認
高タンパクの食事では、いわゆる悪玉菌が増加して腸内環境が乱れることが多く、抗生物質の投与は腸内細菌の著しい減少を引き起こし病原菌の定着・感染につながることが多いことから、この2つのモデルでの検証を行った。
まず、マウス3匹ずつに、高タンパク飼料(タンパク質65%)を与えたモデルと、通常の飼料(タンパク質25%)を与えたモデルをそれぞれ作製した。また、マウスに、抗生物質(アンピシリン1g/L)を飲水で投与したモデルと、通常の飲水を投与したモデルを作製した。ともに一週間後に解剖し、腸管内容物を採取し、pHを測定した。その結果を
図9に示す。図の上段が高タンパク飼料を投与したマウスを、下段が抗生物質を投与したマウスの結果を示している。
【0099】
いずれのモデルにおいても、小腸ではpHが少し上昇し、盲腸・大腸ではpHが大きく上昇し、通常は酸性の腸内環境がアルカリ性に変化していることが確認できた。これらの結果から、悪化した腸内環境ではpHが高くなる傾向があり、V-ATPase阻害剤が通常の環境よりも作用しやすいことが推察される。
【0100】
(11)VRE感染マウスでの試験
抗生物質で処理したマウスにVREのE.faeciumを感染させ、V-161を投与した。抗生物質及びV-161の投与量などの実験条件については、「(9)腸内環境の作用条件の確認」、「(10)マウス腸内環境(高タンパク飼料・抗生物質投与)の確認」と同じ条件とした。その結果を
図10に示す。この図の上段は小腸の結果を、下段は盲腸・大腸・糞便の結果を示している。また、この図の縦軸はVREの生菌数を示す。
【0101】
この図から、小腸中のVREは、コントロールと比べてV-161を添加した場合に顕著に減少していた(97%減少)。また、盲腸・大腸・糞便中のVREは、いずれも、コントロールと比べてV-161を添加した場合に有意に減少していた(約50%減少)。すなわち、V-161は、マウス腸内においてVREの増殖抑制効果を示すことがわかった。
【0102】
(12)(1,2,4-オキサジアゾール-3-イル)フェニル誘導体
V-234と共通の骨格を有する他の(1,2,4-オキサジアゾール-3-イル)フェニル誘導体について、合成展開を行った。化合物は下記(V-234-01)~(V-161-03)の3種類である。V-234を含む各化合物の構造式を以下に示す。
【0103】
【0104】
これらの化合物について、「(2)ATPase活性測定」と同じ方法でATPase活性の阻害効果を評価した。その結果を下記表に示す。
【表4】
【0105】
実施例5-01~5-03の化合物は、いずれもV-ATPaseとの親和性が高く(IC50<=400)、生育阻害効果が高く(生育阻害率(%)>=70%)、かつ非特異的結合がなかった。