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特許7428389線維芽細胞の製造方法及びG-CSF陽性線維芽細胞集団
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-29
(45)【発行日】2024-02-06
(54)【発明の名称】線維芽細胞の製造方法及びG-CSF陽性線維芽細胞集団
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/02 20060101AFI20240130BHJP
   C12N 5/071 20100101ALI20240130BHJP
【FI】
C12N5/02
C12N5/071
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021076105
(22)【出願日】2021-04-28
(62)【分割の表示】P 2020539572の分割
【原出願日】2019-08-29
(65)【公開番号】P2021118728
(43)【公開日】2021-08-12
【審査請求日】2022-08-29
(31)【優先権主張番号】P 2018160898
(32)【優先日】2018-08-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】516200404
【氏名又は名称】株式会社メトセラ
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩宮 貴紘
(72)【発明者】
【氏名】大杉 友之
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 雅也
【審査官】田ノ上 拓自
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/006262(WO,A1)
【文献】特許第6883904(JP,B2)
【文献】Experimental Biology and Medicine,2018年04月,Vol.243,p.601-612,DOI: 10.1177/1535370218761628
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00-7/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
CD106陽性及びCD90陽性の成体心臓由来線維芽細胞を製造する方法であって、
成体心臓由来線維芽細胞を、TNF-α及びIL-4の存在下で培養し、CD106陽性及びCD90陽性の線維芽細胞を増加させるステップ、
を含む、方法。
【請求項2】
CD106陽性及びCD90陽性の線維芽細胞を濃縮するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記濃縮が、抗CD106抗体及び/又は抗CD90抗体を用いて行われる、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
G-CSF陽性の成体心臓由来線維芽細胞を製造する方法であって、
成体心臓由来線維芽細胞をTNF-α及びIL-4の存在の下で培養し、G-CSFの発現量を向上させ、G-CSF陽性の線維芽細胞を増加させるステップ、
を含む、方法。
【請求項5】
前記培養後に、G-CSF陽性の線維芽細胞を濃縮するステップをさらに含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記濃縮が、抗CD106抗体及び/又は抗CD90抗体を用いて行われる、請求項5に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として、CD106陽性及び/又はCD90陽性の線維芽細胞の製造方法に関し、更には、該線維芽細胞を含む心臓疾患治療用医薬組成物に関する。また、G-CSF陽性線維芽細胞を含む細胞集団に関する。
【背景技術】
【0002】
線維芽細胞は、生体の様々な臓器に存在する間質細胞の1種である。臓器・組織の炎症・傷害に応じて、増殖因子やサイトカインの分泌、細胞外マトリックスの産生と分解を行い、多様な細胞間相互作用を介して臓器・組織の機能を調節し、微小環境の恒常性を維持する役割を担っている。一方で、線維症やがんなどの疾患においても、線維芽細胞は病的な微小環境を維持し、病気を進行させる側面も有する。一般的に、線維芽細胞は細胞質突起を多数保持した紡錘形の細胞として知られているが、その局在する臓器ごとに線維芽細胞が発現する遺伝子・タンパク質は大きく異なることが知られている(非特許文献1参照)。
【0003】
線維芽細胞に関しては、本発明者らは先に、Vascular cell adhesion molecule-1(VCAM-1、CD106)陽性である線維芽細胞を用いて、機能的な心臓細胞シートが得られることを見出している(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2016/006262号
【文献】国際公開第2018/155651号
【非特許文献】
【0005】
【文献】Chang, H. Y. et al. Diversity, topographic differentiation, and positionalmemory in human fibroblasts. Proc. Natl. Acad. Sci. 99, 12877-12882 (2002)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1では、十分な細胞数のCD106陽性線維芽細胞を得るために、CD106をマーカーとしたセルソーティングなどの手法を用いている。しかしながら線維芽細胞によっては、CD106陽性線維芽細胞の量(細胞数)が非常に少ないという問題があった。
【0007】
他方、本発明者らは心臓疾患を治療するための注射剤を開発し、特許出願をおこなっている(特許文献2参照)。この際、注射剤として有効な線維芽細胞は、CD106陽性であることに加え、CD90陽性であることが好ましいこと、を見出している。
本発明は、CD106陽性及び/又はCD90陽性の線維芽細胞を製造する新たな方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決すべく検討を進め、腫瘍に対して出血性壊死を誘発させる因子として知られているTNF-α(Tumor Necrosis Factor-α)及びアレルギー惹起作用などが知られているIL-4(Interleukin-4)
からなる群から選択される1以上の存在下、線維芽細胞を培養することで、CD106陽性、及び/又はCD90陽性の線維芽細胞が増加することを見出し、本発明を完成させた。
本発明は以下の第1の側面(発明A)を含む。
【0009】
(A1)CD106陽性及び/又はCD90陽性の線維芽細胞を製造する方法であって、
線維芽細胞を、TNF-α及びIL-4からなる群から選択される1以上の存在下で培養し、CD106陽性及び/又はCD90陽性の線維芽細胞を増加させるステップ、
を含む、方法。
(A2)培養される線維芽細胞が、成体から得られた線維芽細胞である、(A1)に記載の方法。
(A3)前記CD106陽性及び/又はCD90陽性の線維芽細胞が、CD106陽性及びCD90陽性である、(A1)又は(A2)に記載の方法。
(A4)CD106陽性及び/又はCD90陽性の線維芽細胞を濃縮するステップ、を更に含む(A1)~(A3)のいずれかに記載の方法。
(A5)前記濃縮が、抗CD106抗体及び/又は抗CD90抗体を用いて行われる、(A4)のいずれかに記載の方法。
【0010】
また、本発明は以下の第2の側面(発明B)を含む。
(B1)CD106陽性の成体線維芽細胞を含む、線維芽細胞を含む細胞集団。
(B2)線維芽細胞に対するCD106陽性の成体線維芽細胞の割合(細胞数)が3.36%以上であり、好ましくは5%以上であり、更に好ましくは前記線維芽細胞の7%以上がCD90陽性、CD106陽性、且つG-CSF陽性である、(B1)に記載の細胞集団。
(B3)前記成体線維芽細胞が、CD106陽性かつCD90陽性である、(B1)又は(B2)に記載の細胞集団。
(B4)前記成体線維芽細胞が、TNF-α及び/又はIL-4によって刺激された成体線維芽細胞である、(B1)~(B3)のいずれかに記載の細胞集団。
(B5)(B1)~(B4)のいずれかに記載の細胞集団と薬学的に許容可能な賦形剤を含む、医薬組成物。
(B6)虚血性心疾患治療薬である、(B5)に記載の医薬組成物。
(B7)成体線維芽細胞が由来する臓器に投与するための、(B5)又は(B6)に記載の医薬組成物。
【0011】
本発明は以下の第3の側面(発明C)を含む。
(C1)G-CSF陽性の線維芽細胞を製造する方法であって、
線維芽細胞をTNF-α及びIL-4からなる群から選択される1以上の存在下で培養し、G-CSFの発現量を向上させ、G-CSF陽性の線維芽細胞を増加させるステップ、
を含む、方法。
(C2)培養される線維芽細胞が、成体から得られた線維芽細胞である、(C1)に記載の方法。
(C3)前記培養後に、G-CSF陽性の線維芽細胞を濃縮するステップをさらに含む、(C1)又は(C2)に記載の方法。
(C4)前記濃縮が、抗CD106抗体及び/又は抗CD90抗体でソーティングするステップ、を含む、(C1)から(C3)のいずれかに記載の方法。
(C5)単離されたCD106陽性及びG-CSF陽性である線維芽細胞を含む、細胞集団。
(C6)線維芽細胞に対するG-CSF陽性の線維芽細胞の割合(細胞数)が6.75%以上である、(C5)に記載の細胞集団。
【0012】
本発明は、更に以下の側面(発明D)を含む。
(D1)G-CSF陽性の線維芽細胞を含む、心臓疾患を治療するための注射用組成物。(D2)前記注射用組成物中、線維芽細胞に対するG-CSF陽性の線維芽細胞の割合(細胞数)が6.75%以上である、(D1)に記載の注射用組成物。
(D3)G-CSF陽性の線維芽細胞を含む線維芽細胞集団を準備するステップ、
該線維芽細胞集団を、壊死した心臓組織領域乃至はその周辺に注射、及び/又は冠動脈内に注入するステップ、を含む心臓疾患を治療する方法。
(D4)前記線維芽細胞集団中、線維芽細胞に対するG-CSF陽性の線維芽細胞の割合(細胞数)が6.75%以上である、(D3)に記載の方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、CD106陽性及び/又はCD90陽性線維芽細胞を製造する、新たな方法を提供することができる。更に、G-CSF陽性の線維芽細胞集団を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】TNF-α添加における、成体心臓由来線維芽細胞のフローサイトメトリー解析図である。
図2】(A)は、IL-4添加における、成体心臓由来線維芽細胞のフローサイトメトリー解析図である。(B)は、IL-4濃度による成体心臓由来線維芽細胞のCD106陽性細胞の割合(%)(N=3)、(C)は、IL-4濃度による成体心臓由来線維芽細胞のCD90陽性細胞の割合(%)(N=3)、(D)は、IL-4濃度による成体心臓由来線維芽細胞のCD106陽性及びCD90陽性細胞の割合(%)(N=3)、をそれぞれ示すグラフである。
図3-1】(B)は、TNF-α及びIL-4の2剤添加における、成体心臓由来線維芽細胞のフローサイトメトリー解析図である。なお、(A)はコントロールであり、いずれも添加していない。
図3-2】TNF-αとIL-4の添加濃度における、(A)CD106陽性細胞の割合、(B)CD90陽性細胞の割合、(C)両陽性(DP:ダブルポジティブ)細胞の割合、を示すグラフである(N=3)。
図4-1】(A)は、TNF-α(50 ng/mL)とIL-4(2 ng/mL)の添加による、胎児心臓由来線維芽細胞(F-HCF)及びiPS心筋細胞フラクション由来線維芽細胞(i-HCF)のフローサイトメトリー解析図である。Controlは、TNF-α(50 ng/mL)とIL-4(2 ng/mL)を添加していないF-HCF及びi-HCFのフローサイトメトリー解析図を示す。
図4-2】(B)は、TNF-α(50ng/mL)とIL-4(2ng/mL)の添加による、F-HCFのCD106及びCD90陽性細胞の割合(%)を示す(N=1)。Controlは、TNF-α(50 ng/mL)とIL-4(2 ng/mL)を添加していないF-HCFのCD106及びCD90陽性細胞の割合(%)を示す(N=1)。(C)は、TNF-α(50 ng/mL)とIL-4(2 ng/mL)の添加による、i-HCFのCD106及びCD90陽性細胞の割合(%)を示す(N=1)。Controlは、TNF-α(50 ng/mL)とIL-4(2 ng/mL)を添加していないi-HCFのCD106及びCD90陽性細胞の割合(%)を示す(N=1)。
図5】(A)は胎児心臓由来CD106陰性線維芽細胞(F-VNCF)のフローサイトメトリー解析図である。(B)は胎児心臓由来CD106陽性線維芽細胞(F-VCF)のフローサイトメトリー解析図である。(C)成体心臓由来線維芽細胞(A-HCF)のフローサイトメトリー解析図である。(D)TNF-α(50ng/mL)とIL-4(2ng/mL)添加し培養したA-HCF(uA-HCF)のフローサイトメトリー解析図である。(E)fluorescence-activatedcell sorting(FACS)により回収したCD106及びCD90両陽性のuA-HCF細胞群(uA90・106-HCF)のフローサイトメトリー解析図である。図中囲ったゲート(P4)の細胞のみをFACSで回収した。(F)各種の線維芽細胞におけるG-CSF遺伝子発現量(β-actinのFPKMで標準化したG-CSFのFPKM)を示すグラフである(F-VCFとF-VNCFはN=3、その他はN=2)。(G)各種の線維芽細胞におけるG-CSF遺伝子発現量(β-actinのFPKMで標準化したG-CSFのFPKM fold increase。F-VCFの値を1とした。)を示すグラフである(F-VCFとF-VNCFはN=3、その他はN=2)。
図6】各種の心臓線維芽細胞と共培養したiPS由来心筋細胞(iPS-CM)のKi67・cardiac troponin T(cTnT)両陽性細胞数を示すグラフである(Day10、***P<0.01)。uA90-HCFは、CD90を指標にセルソーティングを行ったCD90陽性のuA-HCF細胞群を指し、uA106-HCFは、CD106を指標にセルソーティングを行ったCD106陽性のuA-HCF細胞群を指す。なお、A-HCFと共培養したiPS-CMのKi67・cTnT両陽性細胞数を1とした(N=3)。
図7-1】(A)慢性心不全モデルラットに投与した線維芽細胞のフローサイトメトリー解析図である。(B)慢性心不全モデルラットに投与した線維芽細胞のCD106陽性細胞の割合、CD90陽性細胞の割合、両陽性(DP:ダブルポジティブ)細胞の割合を示すグラフである。
図7-2】ラット心臓の心エコーイメージ(Mモード)である(図面代用写真)。
図7-3】(A)各種の心臓線維芽細胞によるラット心臓のLVEF(%)の変遷を示すグラフである。(B)各種の心臓線維芽細胞の注射後4週のLVEFの増減割合を示すグラフである(LVEF(4W)-LVEF(0W)、**P<0.05、A-HCFとuA-HCF投与群はN=4、uA90-HCF投与群はN=3で実施)。(C)各種の心臓線維芽細胞によるラット心臓のLVFS(%)の変遷を示すグラフである。(D)各種の心臓線維芽細胞の注射後4週のLVFSの増減割合を示すグラフである(LVFS(4W)-LVFS(0W)、**P<0.05、A-HCFとuA-HCF投与群はN=4、uA90-HCF投与群はN=3で実施)。
図8】(A)各種の線維芽細胞のフローサイトメトリー解析図である。(B)各種の線維芽細胞のG-CSF陽性細胞の割合(%)を示すグラフである(***P<0.01、N=4)。uA90・106-HCFは、fluorescence-activatedcell sorting(FACS)により回収したCD106及びCD90両陽性のuA-HCF細胞群である。図中囲ったゲート(P3)の細胞のみをFACSで回収した。
図9-1】各種の心臓線維芽細胞を投与したラット慢性心不全モデルの心エコー画像(Mモード)である(写真代用図面)。
図9-2】(A)各種の心臓線維芽細胞による慢性心不全ラットモデルのLVEF(%)の変遷を示すグラフである(****P<0.01 vs. A-HCF,***P<0.05 vs. uA-HCF,**P<0.01 vs. Control(培地(high-glucose DMEM+10%新生仔牛血清(NBCS))のみを投与した群)、Sham(Controlおよび細胞投与群と同様な開胸手術を行うが、虚血-再灌流処置を施さない偽手術群)はN=6、ControlはN=4、A-HCF投与群はN=7、uA-HCF投与群はN=8、uA90-HCF投与群はN=9で実施)。(B)各種の心臓線維芽細胞の注射18週後のLVEFの増減差を示すグラフである(LVEF(18W)-LVEF(0W),****P<0.01 vs. A-HCF,***P<0.01 vs. uA-HCF,**P<0.01 vs. Control,*P<0.05 vs. Control)。(C)各種の心臓線維芽細胞による慢性心不全ラットモデルのLVFS(%)の変遷を示すグラフである(****P<0.01 vs. A-HCF,***P<0.05 vs. uA-HCF,**P<0.01 vs. Control)。(D)各種の心臓線維芽細胞の注射後18週のLVFSの増減差を示すグラフである(LVFS(18W)-LVFS(0W),****P<0.01 vs. A-HCF,***P<0.05 vs. uA-HCF,**P<0.01 vs. Control)。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明について具体的実施形態を用いて詳細に説明するが、本発明は示された具体的実施形態にのみ限定されるものではない。
本発明の一実施形態は、CD106陽性(CD106+とも表記する)及び/又はCD90陽性(CD90+とも表記する)の線維芽細胞を製造する方法であり、線維芽細胞と、TNF-α及びIL-4からなる群から選択される1以上の存在下で培養し、CD106陽性及び/又はCD90陽性の線維芽細胞を増加させるステップ、を含む。TNF-α及びIL-4からなる群から選択される1以上の存在下で培養することで、CD106+及び/又はCD90+の線維芽細胞を増加させた、線維芽細胞集団を製造することができる。
【0016】
本明細書では、「濃縮」とは、総細胞数における特定の細胞の数の比が増加する細胞の分離操作を意味する。但し本明細書中において「培養」は「濃縮」には含まれない。本明細書では、「単離」とは、ある成分を組織から分離されることを意味し、「精製」とは、ある成分を少なくとも1以上の他の成分から分離されることを意味する。
【0017】
本明細書では、「陽性」又は「ポジティブ」 とは、細胞が検出可能なレベルのマーカ
ーを発現することを意味する。
【0018】
本明細書では、「含む」とは、特定されていない第三成分を含んでいてもよいことを意味する。本明細書では、「からなる」とは、特定されていない第三成分を本質的に含まないことを意味する。本質的に含まないとは、製造過程で混入した技術的に除去できない程度の量の第三成分を含むことを除外しない意味で用いられる。
【0019】
線維芽細胞は、コラーゲンその他の細胞外マトリックスを産生する間質細胞の一種である。線維芽細胞は、体内では結合組織に存在し、その主要な構成成分となっている細胞種である。線維芽細胞は、間質細胞マーカーであるビメンチンおよびDDR2からなる群から選択される1以上が陽性であり得る。ある態様では、線維芽細胞は、心筋細胞特異的マーカーである心筋トロポニン、およびαアクチニンに対して陽性である細胞ではない。ある態様では、線維芽細胞は、VE-カドヘリンに陽性である細胞ではない。例えば、線維芽細胞は、血管内皮細胞ではない。例えば、線維芽細胞は、血管平滑筋細胞ではない。線維芽細胞は、筋線維芽細胞であり得、あるいは、筋線維芽細胞ではないこともできる。
線維芽細胞は、心臓組織に由来する線維芽細胞であり得、例えば、心臓組織から単離された線維芽細胞であり得る。線維芽細胞は、心外膜又は心内膜から単離された線維芽細胞であり得る。線維芽細胞は、胎児の心外膜又は心内膜から単離された線維芽細胞であり得る。線維芽細胞は、成体の心外膜又は心内膜から単離された線維芽細胞であり得る。線維芽細胞は、ビメンチンおよびDDR2からなる群から選択される1以上が陽性である、コラーゲン産生能を有する細胞であり得る。線維芽細胞は、本発明のすべての態様において、好ましくは、心臓組織に由来する線維芽細胞(以下、「心臓線維芽細胞」ということがある)であり得、例えば、心外膜又は心内膜から単離された線維芽細胞であり得る。
本発明の実施形態では、生体において線維芽細胞に分化するあらゆる細胞を線維芽細胞の材料として用いてもよい。
本発明の実施形態では、心臓に移植する目的で用いられる線維芽細胞は、好ましくは、心臓組織、心外膜又は心内膜に由来する線維芽細胞であり得る。
本発明の実施形態では、線維芽細胞は、濃縮、単離または精製された線維芽細胞であり
得る。
【0020】
線維芽細胞の由来に制限はなく、胚性幹細胞(ES細胞)、人工多能性幹細胞(iPS細胞)及びMuse細胞等の多能性幹細胞や、間葉系幹細胞などの成体(体性)幹細胞を分化させて用いてもよい。また、動物(ヒトを含む)から採取したプライマリー細胞を用いてもよく、株化した細胞を用いてもよい。心外膜又は心内膜由来の線維芽細胞を用いることが好ましく、また、ヒト成体の心臓から得られた線維芽細胞であることが好ましいが、これらに限られない。
【0021】
上記において、線維芽細胞について述べたが、すべての態様において、線維芽細胞が、心臓組織に由来する線維芽細胞、および心外膜又は心内膜から単離された線維芽細胞でも同様である。以下実施例では、線維芽細胞として、心臓線維芽細胞を例示的に用いた実験において本発明を説明する。
【0022】
CD106は、VCAM-1(VCAM1)とも称され、血管内皮細胞等に発現する細胞接着分子として既知のタンパク質である。CD90は、Thy-1(Thy1)とも称され、糖鎖に富むグリコシル-フォスファチジルイノシトール(GPI)結合型分子であり、また神経組織、結合組織など様々なストロマ細胞に発現するが、心筋細胞には発現しない。そのため、CD90+線維芽細胞は、心筋細胞を含まないことを示す。なおここでいう「CD90+線維芽細胞は、心筋細胞を含まない」とは、多少含まれていることは許容する概念であり、全細胞に対して5%以下、4%以下、3%以下、2%以下、1%以下、0.5%以下、0.1%以下、0.01%以下であってよい。
【0023】
CD106+線維芽細胞のうち、CD90+線維芽細胞である割合(細胞数基準)は1%以上であってよく、10%以上であってよく、20%以上であってよく、30%以上であってよく、40%以上であってよく、50%以上であってよく、60%以上であってよく、70%以上であってよく、80%以上であってよく、90%以上であってよく、95%以上であってよく、98%以上であってよく、100%であってよい。
【0024】
線維芽細胞は、Connexin43陽性(Connexin43+)線維芽細胞であってよい。
Connexin43は、血管の表面で動脈硬化性プラークとともに発現することや、心筋細胞のギャップジャンクションとして隣接する細胞と結合し、心臓の電気的な興奮を伝搬することが知られている膜貫通タンパク質である。Connexin43+であることで、心臓組織内の電気的シグナルのやりとりが可能となり、心臓疾患に適用した際に、治療効果を改善させると本発明者らは考えている。
CD106+線維芽細胞のうち、Connexin43+線維芽細胞の割合(細胞数基準)は1%以上であってよく、10%以上であってよく、20%以上であってよく、30%以上であってよく、40%以上であってよく、50%以上であってよく、60%以上であってよく、70%以上であってよく、80%以上であってよく、90%以上であってよく、95%以上であってよく、98%以上であってよく、100%であってよい。
【0025】
線維芽細胞と、TNF-α及びIL-4からなる群から選択される1種以上の因子(以下、単に因子ともいう。)との接触の方法は特段限定されず、典型的には線維芽細胞を含む培地に因子を添加することであるが、これに限られない。複数の因子と接触させる場合には、それぞれ別々に線維芽細胞と接触させてもよく、同時に接触させてもよい。因子を同時に接触させる方法としては、一度複数因子を混合した後に線維芽細胞に添加してもよい。
【0026】
本実施形態では、因子を添加した培地で線維芽細胞を培養できることから、線維芽細胞
におけるCD106及び/又はCD90の発現レベルを維持したまま線維芽細胞を培養できる。そのため、高いCD106及び/又はCD90発現レベルの、線維芽細胞を製造することができる。
【0027】
これらの因子を培地(mL)に添加する場合、TNF-αの添加量は特段限定されないが、通常0.1ng/mL以上であり、0.5ng/mL以上であってよく、1ng/mL以上であってよく、10ng/mL以上であってよい。上限は特に限定されず、通常500ng/mL以下であり、100ng/mL以下であってよい。
また、IL-4の添加量は特段限定されないが、通常0.1ng/mL以上であり、0.5ng/mL以上であってよく、1ng/mL以上であってよい。上限は特に限定されず、通常10ng/mL以下であり、5ng/mL以下であってよく、1ng/mL以下であってよい。
両因子を添加する場合には、添加するTNF-αとIL-4の比(重量比)は、TNF-α:IL-4で通常10000:1~1:1であり、50000:1~10:1であってもよい。また、1:1~1:10000であり、1:10~1:50000であってもよい。
【0028】
これらの因子と接触させた線維芽細胞を更に培養することで、CD106+及び/又はCD90+線維芽細胞を製造することができる。
線維芽細胞の培養は、CD106+及び/又はCD90+になり得る、またはその培養に適した条件下であれば特段限定されず、既知の細胞培養方法により行ってよい。
培養に用いられる培地は、培養する細胞の種類等により適宜設定可能であるが、たとえば、DMEM、α-MEM、RPMI-1640、HFDM-1(+)等が使用可能である。当該培地にFCSやFBS等の栄養物質や増殖因子、サイトカイン、抗生物質等を添加してもよい。さらに、TNF-α及び/又はIL-4を含む培地で培養してもよい。
【0029】
培養期間は、所望の細胞数となるまで、及び/又は所望の機能が備わるまで等の目的に応じて日数を適宜設定できる。例えば、1日、2日、3日、4日、5日、6日、7日、8日、9日、10日、2週間、1カ月、2カ月、3カ月、6カ月等の期間があげられる。
培養温度は、培養する細胞の種類に合わせて適宜設定可能であるが、例えば10℃以上、15℃以上、20℃以上、25℃以上、30℃以上であってよく、また60℃以下、55℃以下、50℃以下、45℃以下、40℃以下であってよい。
【0030】
培養した線維芽細胞は、回収ステップにより回収されてよい。回収ステップは、トリプシン等のプロテアーゼにより細胞を剥離して回収してよいが、温度応答性培養皿を使用して、温度変化により細胞を剥離させ、回収してもよい。また、抗CD90抗体及び/又は抗CD106抗体を用いて、自動磁気細胞分離装置(例えばautoMACS)で回収または濃縮してもよく、磁気細胞分離装置(例えばMACS)で回収または濃縮してもよく、閉鎖型磁気細胞分離装置(例えばProdigy)で回収または濃縮してもよく、セルソータ(例えばFACS)で回収または濃縮してもよい。また、CD90タンパク質及び/又はCD106タンパク質コード遺伝子のプロモーター下に薬剤耐性遺伝子を導入し、薬剤でセレクションしてもよい。
【0031】
本実施形態の製造方法では、抗CD90抗体を用いて、CD90+の線維芽細胞をソーティングするステップを含んでよく、抗CD106抗体を用いて、CD106+の線維芽細胞をソーティングするステップを含んでよく、これら2つのステップを併せて含んでよい。ソーティングするステップは、どのタイミングで行ってもよい。上記因子との接触前でもよく、因子との接触後、培養前であってよく、培養後であってよい。
抗CD90抗体及び抗CD106抗体は、既知のものを使用することが可能であり、市販品を入手して使用できる。抗CD90抗体及び/又は抗CD106抗体を用いてソーテ
ィングすることで、線維芽細胞におけるCD106+及び/又はCD90+線維芽細胞の割合を増加させ、心臓疾患治療効果の高いCD106+及び/又はCD90+の線維芽細胞を得ることができる。
【0032】
本実施形態のCD106+及び/又はCD90+線維芽細胞の製造方法により、CD106及び/又はCD90の発現が向上した線維芽細胞が得られ、当該線維芽細胞を含む線維芽細胞集団が本発明の別の実施形態である。特に、CD106+及び/又はCD90+成体線維芽細胞を含む線維芽細胞の細胞集団は、TNF-α及び/又はIL-4により刺激されることで、CD106及び/又はCD90の発現が向上しており、医薬組成物として好適に使用できる。
【0033】
細胞集団において、全線維芽細胞に対するCD106+の線維芽細胞の割合は特段限定されないが、細胞数基準で、3.36%以上であってよく、5%以上であってよく、10%以上であってよく、20%以上であってよく、30%以上であってよく、40%以上であってよく、50%以上であってよく、60%以上であってよく、70%以上であってよく、80%以上であってよく、90%以上であってよく、95%以上であってよい。
【0034】
細胞集団において、全線維芽細胞に対するCD90+の線維芽細胞の割合は特段限定されないが、細胞数基準で、5%以上であってよく、10%以上であってよく、20%以上であってよく、30%以上であってよく、40%以上であってよく、50%以上であってよく、60%以上であってよく、70%以上であってよく、80%以上であってよく、90%以上であってよく、95%以上であってよい。
【0035】
細胞集団において、全線維芽細胞に対するCD106+及びCD90+の線維芽細胞の割合は特段限定されないが、細胞数基準で、5%以上であってよく、10%以上であってよく、20%以上であってよく、30%以上であってよく、40%以上であってよく、50%以上であってよく、60%以上であってよく、70%以上であってよく、80%以上であってよく、90%以上であってよく、95%以上であってよい。
【0036】
また、線維芽細胞と、TNF-α及びIL-4からなる群から選択される1種以上の因子との接触により、G-CSF陽性の線維芽細胞を製造できることも、本発明者らは見出している。
G-CSFは心不全に伴う心筋細胞死を抑制し、心筋リモデリングの進行を抑制することが報告されている(Harada,M. et al. G-CSF prevents cardiac remodeling after myocardial infarction by activating the Jak-Stat pathway in cardiomyocytes. Nat.Med.11,305-311(2005))。また、心筋細胞の細胞増殖を促すことも明らかとなっている(Shimoji, K. et al. G-CSF Promotes the Proliferation of Developing Cardiomyocytes InVivo and in Derivation from ESCs and iPSCs. Cell Stem Cell 6,227-237(2010))。
【0037】
従って、本発明の別の形態としては、線維芽細胞と、TNF-α及びIL-4からなる群から選択される1以上とを接触させる接触ステップ、及び前記接触させた線維芽細胞を、G-CSFの発現を向上させる条件下で培養する培養ステップ、を含む、G-CSF陽性の線維芽細胞を製造する方法である。
本実施形態の接触ステップ、及び培養ステップ等については、上記CD106+及び/又はCD90+線維芽細胞の製造方法に関する記載を援用できる。製造されたG-CSF陽性の線維芽細胞は、抗CD90抗体及び/又は抗CD106抗体を用いて、自動磁気細
胞分離装置(例えばautoMACS)で濃縮してもよく、磁気細胞分離装置(例えばMACS)で濃縮してもよく、閉鎖型磁気細胞分離装置(例えばProdigy)で濃縮してもよく、セルソータ(例えばFACS)で濃縮してもよい。また、G-CSFタンパク質コード遺伝子のプロモーター下に薬剤耐性遺伝子を導入し、薬剤でセレクションしてもよい。
【0038】
本実施形態のG-CSF陽性線維芽細胞の製造方法により、G-CSF陽性線維芽細胞が得られ、当該G-CSF陽性線維芽細胞を含む線維芽細胞集団もまた本発明の別の実施形態であり、医薬組成物として好適に使用できるほか、該G-CSF陽性線維芽細胞を含む細胞集団を壊死した心臓組織領域乃至はその周辺に注射、及び/又は冠動脈内に注入するステップ、を含む心臓疾患を治療する方法にも適用できる。
【0039】
線維芽細胞を含む細胞集団において、全線維芽細胞に対するG-CSF陽性線維芽細胞の割合は特段限定されないが、細胞数基準で、1%以上であってよく、5%以上であってよく、6.75%以上であってよく、10%以上であってよく、20%以上であってよく、30%以上であってよく、40%以上であってよく、50%以上であってよく、60%以上であってよく、70%以上であってよく、80%以上であってよく、90%以上であってよく、95%以上であってよい。
【0040】
また、線維芽細胞においてG-CSFタンパク質をコードする遺伝子の発現量が、β-actinで標準化したFPKMが0.01以上であってよく、0.02以上であってよく、0.03以上であってよく、0.04以上であってよく、0.05以上であってよく、0.1以上であってよい。
また、線維芽細胞においてG-CSFタンパク質をコードする遺伝子の発現量が、天然(生体)の線維芽細胞の発現レベルと比較して、1.1倍以上であってよく、2倍以上であってよく、5倍以上であってよく、10倍以上であってよく、20倍以上であってよく、50倍以上であってよく、100倍以上であってよく、200倍以上であってよく、500倍以上であってよい。
【0041】
また、G-CSF陽性線維芽細胞は、CD106及び/又はCD90に陽性であってよく、線維芽細胞の割合(細胞数基準)は1%以上であってよく、10%以上であってよく、20%以上であってよく、30%以上であってよく、40%以上であってよく、50%以上であってよく、60%以上であってよく、70%以上であってよく、80%以上であってよく、90%以上であってよく、95%以上であってよく、98%以上であってよく、100%であってよい。
線維芽細胞を含む細胞集団において、CD106及び/又はCD90に陽性である線維芽細胞のうち、G-CSF陽性である線維芽細胞の割合(細胞数基準)は、1%以上であってよく、3%以上であってよく、5%以上であってよく、10%以上であってよく、25%以上であってよく、50%以上であってよい。
【0042】
特に、G-CSF陽性、CD106陽性、且つCD90陽性である線維芽細胞は、線維芽細胞を含む細胞集団において、細胞数基準で1%以上であってよく、5%以上であってよく、7%以上であってよく、10%以上であってよく、20%以上であってよく、30%以上であってよく、40%以上であってよく、50%以上であってよく、60%以上であってよく、70%以上であってよく、80%以上であってよく、90%以上であってよく、95%以上であってよく、98%以上であってよく、100%であってよい。
【0043】
医薬組成物としての線維芽細胞の細胞集団は、線維芽細胞の細胞集団以外に、医薬組成物として生理学的に許容される他の成分を含有してもよい。
【0044】
本実施形態の医薬組成物は、心臓疾患患者に適用することで、その心臓の機能を改善することができる。本実施形態において心臓疾患は、心臓組織の障害、欠損、機能不全などに起因する疾患が含まれ、心不全、虚血性心疾患、心筋梗塞、心筋症、心筋炎、肥大型心筋症、拡張型心筋症などが例示されるが、これらに限られない。すなわち、本発明によれば、CD106+及び/又はCD90+線維芽細胞、或いはG-CSF+線維芽細胞を含む医薬組成物であって、心機能を改善することに用いるための、例えば、インビボで心筋を増殖させることに用いるための、及び/又は、心臓の駆出率を改善することに用いるための、医薬組成物が提供される。本発明によればまた、CD106+及び/又はCD90+線維芽細胞、或いはG-CSF+線維芽細胞を含む医薬組成物であって、心臓組織の線維化の進行を抑制することに用いるための医薬組成物が提供される。
【0045】
CD106+及び/又はCD90+線維芽細胞は、或いはG-CSF+線維芽細胞は、臓器の恒常性維持のためサイトカイン等を分泌して炎症反応を調整し、分泌されたサイトカイン・ケモカイン等が心筋組織の再生に適した微小環境を形成し、心筋細胞の増殖、心筋細胞の拍動調整をし得る。また、CD106+及び/又はCD90+線維芽細胞は、或いはG-CSF+線維芽細胞は、線維症の進行を抑制し得る。
【0046】
心臓疾患患者への、医薬組成物の適用方法の一例は、注射である。
医薬組成物を注射剤(注射用組成物)として用いる場合、注射剤には、CD106+及び/又はCD90+線維芽細胞、或いはG-CSF+線維芽細胞以外に、他の細胞や他の成分を含んでもよく、他の細胞を含む場合、注射剤に含まれる線維芽細胞全量に対し、CD106+及び/又はCD90+線維芽細胞、或いはG-CSF+線維芽細胞の割合は細胞数基準で0.03%以上であってよく、0.1%以上であってよく、1%以上であってよく、2%以上であってよく、4%以上であってよく、5%以上であってよく、6.75%以上であってよく、10%以上であってよく、20%以上であってよく、30%以上であってよく、40%以上であってよく、50%以上であってよく、60%以上であってよく、70%以上であってよく、80%以上であってよく、90%以上であってよく、95%以上であってよく、98%以上であってよく、99%以上であってよい。
また、注射剤とする場合、注射剤中に含まれるCD106+及び/又はCD90+かつG-CSF+線維芽細胞数が1×10cell以上であってよく、5×10cell以上であってよく、1×10cell以上であってよい。
注射用組成物に含まれるCD106+及び/又はCD90+線維芽細胞は、或いはG-CSF+線維芽細胞は、他の細胞、例えば心筋細胞と共培養した細胞であってよい。
【0047】
注射剤は、注射剤として生理学的に許容される他の成分を含有してもよい。このような他の成分としては、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、細胞保存液、細胞培養液、ハイドロゲル、細胞外マトリクス、凍結保存液等があげられる。
注射剤は、成体線維芽細胞が心臓組織に注射することで、例えば壊死した心臓組織領域、或いはその周辺、及び/又は冠動脈内、或いは静脈、動脈、リンパ節、リンパ管に注入することで、心臓疾患を治療することができる。また、前記成体線維芽細胞の由来として心臓疾患患者自身の組織を用いることで、自家移植を行ってもよい。
【0048】
また、線維芽細胞集団は、他の細胞の培養足場材料として使用してもよく、臓器または組織を形成すること、例えば、平面又は立体の細胞組織を構築するために使用してもよい。線維芽細胞集団は他の細胞、例えば心筋細胞を共培養した上で平面又は立体の組織としてもよいが、共培養しなくても平面又は立体の組織として有効に機能する。平面または立体の組織としては、例えば細胞シートや、セルファイバー、3Dプリンタにて形成された組織などが例示されるが、これらに限られない。
このような平面または立体の組織を壊死した心臓組織領域に適用することで、または人工臓器として壊死した心臓組織と交換することで、心臓疾患を治療することができる。
【実施例
【0049】
以下に実施例を示し、本発明をより詳細に説明するが、これにより本発明の範囲が限定されるものではない。
<動物と細胞と試薬>
本研究で行った全ての動物実験のプロトコルは,LSIメディエンス(東京、日本)の倫理審査委員会の承認を受けた。なお、全ての動物に苦痛軽減措置を実施した。
細胞は、次のメーカーから購入した:ヒト成体心臓線維芽細胞(Lonza, Basel, Switzerland);ヒト胎児心臓線維芽細胞(Cell Applications, San Diego, CA);ヒトiPS細胞由来心筋細胞(iPS-CM,マイオリッジ,京都,日本)。なお、ヒトiPS細胞由来心臓線維芽細胞は、iPS-CMから基材表面への接着性の違いにより単離した。
【0050】
次の抗体は、免疫蛍光染色、フローサイトメトリー解析に使用した:BV421 マウス抗ヒトCD106抗体(BD Biosciences,San Jose, CA);BV421 マウスIgG1;κアイソタイプコントロール(BD Biosciences);ヒトCD90-PE(Miltenyi Biotec, Bergisch
Gladbach, Germany);REAコントロール(S)-PE(Miltenyi Biotec);マウスモノクローナル抗カーディアックトロポニンT(cTnT) (Thermo Scientific,Waltham,MA);ウサギポリク
ローナル抗Ki67(Abcam,Cambridge,UK);Hoechst33258溶液(同仁化学研究所,熊本,日本);Ms mAb to G-CSF(Abcam);APC Goat anti-mouse IgG(BioLegend,SanDiego,CA)。細胞質に局在するタンパク質の解析に関しては、蛍光顕微鏡での解析では、細胞を0.1% Triton-X(Sigma Aldrich,St. Louis, MO)で30分間(室温)、細胞膜透過処理を実施し、免疫蛍光染色した。フローサイトメトリー解析においては、各種の線維芽細胞を0.1%サポニン(ナカライテスク,京都,日本)で15分間(室温)、細胞膜透過処理を実施し、免疫蛍光染色した。
【0051】
<セルソーティング>
F-VNCF(CD106陰性胎児心臓由来線維芽細胞)、F-VCF(CD106陽性胎児心臓由来線維芽細胞)、及びuA106-HCF(成体心臓由来線維芽細胞にTNF-αとIL-4を添加し、CD90とCD106の陽性細胞の割合を向上させた後に、CD106を指標にセルソーティングしたCD106陽性成体心臓由来線維芽細胞)は、ヒトCD106(VCAM-1)-ビオチン(Miltenyi Biotec)で一次免疫染色を実施し、抗ビオチンマイクロビーズ(Miltenyi Biotec)で二次免疫染色した。uA90-HCF(成体心臓由来線維芽細胞にTNF-αとIL-4を添加し、CD90とCD106の陽性細胞の割合を向上させた後に、CD90を指標にセルソーティングしたCD90陽性成体心臓由来線維芽細胞)は、ヒトCD90-ビオチン(Miltenyi Biotec)で一次免疫染色を実施し、抗ビオチンマイクロビーズ(Miltenyi Biotec)で二次免疫染色した。染色した細胞は、autoMACS(Miltenyi Biotec)で、CD106及びCD90陽性細胞を回収した。
CD90とCD106の陽性細胞の割合の高い成体心臓線維芽細胞(uA90・106-HCF)は、成体心臓由来線維芽細胞にTNF-αとIL-4を添加し、CD90とCD106の陽性細胞の割合を向上させた後に、BV421 マウス抗ヒトCD106抗体(BD Biosciences,San Jose, CA);BV421 マウスIgG1;κアイソタイプコントロール(BD Biosciences);ヒトCD90-PE(Miltenyi Biotec, Bergisch Gladbach, Germany);REAコントロール(S)-PE(Miltenyi Biotec
)で免疫染色を実施し、BD FACS ARIAIII(BD Biosciences)でセルソーティングにより回収した。
【0052】
<フローサイトメトリー>
免疫蛍光染色した細胞は1.0×10cells/trialの濃度で調製し、フローサイトメーター(MACSQuant Analyzer 10,Miltenyi
Biotec)で解析した。FSC-A及びSSC-Aで細胞領域を認識後、各種のマーカータンパク質に対する陽性細胞の割合(%、細胞数換算)を評価した。
【0053】
<RNA抽出とmRNAシーケンシング>
各種の線維芽細胞から、Qiagen RNeasy Mini Kit(QIAGEN, Valencia, CA)を用いてRNAを回収した。CD90とCD106の陽性細胞の割合が高い成体心臓線維芽細胞(uA90・106-HCF)は、成体心臓由来線維芽細胞にTNF-αとIL-4を添加し、CD90とCD106陽性細胞の割合を向上させた後にBD FACS ARIAIII(BD Biosciences)でセルソーティングにより回収した。回収したRNAの濃度と純度は、Agilent 2100 Bioanalyzer(Agilent Technologies, Palo Alto, CA)とNanoDrop One(Thermo Fisher Scientific)で解析した。RIN値が7以上のRNA1μgをライブラリー調製に使用した。次世代シーケンサ―用ライブラリーの調製は、NEBNext Ultra
RNA Library Prep Kit for Illuminaのメーカープロトコルに沿って実施した。
【0054】
poly(A)mRNAの単離は、NEBNext Poly(A)mRNA Magnetic Isolation Module(NEB)とRibo-Zer rRNA removal Kit(Illumina)を使用した。mRNAフラグメンテーションとプライミングは、NEBNext First Strand Synthesis Reaction BufferとNEBNext Random Primersを使用した。
第1鎖cDNAは、ProtoScript II Reverse Transcriptaseを用いて合成した。第2鎖cDNAの合成はSecond Strand Synthesis Enzyme Mixを使用した。AxyPrep Mag PCR Clean-up(Axygen,UnionCity, CA)で精製したdouble-stranded cDNAは、両端の修復と増幅産物の末端にdAを付加したのちTAクローニングを行うためにEnd Prep Enzyme Mixで処理した。Adaptor-ligated DNAのサイズはAxyPrep Mag PCR Clean-up(Axygen)を用いて360bpまでのフラグメントを選択した。それぞれのサンプルは、P5及びP7プライマーを用いてPCRで11サイクル増幅させた。PCR産物はAxyPrep Mag PCR Clean-up(Axygen)で洗浄し、Agilent 2100 Bioanalyzer(AgilentTechnologies)で評価した。PCR産物の定量はQubit2.0 Fluorometer(Invitrogen, Carlsbad, CA)を用いた。
【0055】
シーケンシングはIllumina HiSeq(Illumina)で2×150bp paired-end(PE)configurationの条件で実施した。イメージ解析とベースコールはHiSeq Control Software(HCS)+OLB+GAPipeline-1.6(Illumina)を使用した。シーシングはGENEWIZ(SouthPlainfield, NJ)で実施した。
【0056】
<発現差異解析>
発現差異解析はDESeq Bioconductor packageを使用した。false discovery rate(FDR)の補正はBenjamini and Hochberg’sで行い、P-value<0.05を有意と見なした。
【0057】
<心筋細胞と線維芽細胞との共培養>
細胞播種前に、384wellプレート(Thermo Fisher Scientific)を、high-glucose DMEMで1:30に希釈したマトリゲル基底膜マトリックス(Corning,Corning,NY)100μL/wellで、37℃ 1時間コーティングした。iPS-CMと線維芽細胞は、8:2の割合でDMEM+10%新生仔牛血清(NBCS)で共培養した(心筋細胞=16,000cells/well:線維芽細胞=4,000cells/well)。
共培養開始後Day10で細胞を4%パラホルムアルデヒドで固定し、免疫蛍光染色を行った。染色サンプルは、IN Cell Analyzer2200(GE Healthcare,Buckinghamshire,UK)及びIN Cell Developer Toolbox1.92(GE Healthcare)で解析した。
【0058】
<慢性心不全モデルラットの作製と心エコーの計測>
ヌードラット(F344/N Jcl-rnu/rnu,8週齢,雄)は日本クレア(東京,日本)から購入した。1週間の馴化後、動物は実験動物用吸入麻酔器(ソフトランダー(新鋭工業株式会社,埼玉,日本)を用いて、2%イソフルラン(麻酔補助剤;笑気:酸素=7:3)にて吸入麻酔し、刈毛した。すばやく気管挿管を行い、そのまま0.5-2%イソフルラン(麻酔補助剤;笑気:酸素=7:3)吸入麻酔ガスを人工呼吸器に接続して、麻酔を維持した。人工呼吸管理のもと、仰臥位に固定し、左第3肋骨から第5肋骨までの間で2~3本、肋軟骨の位置で縦方向に切断して開胸した。開創器により、術野を拡大後、心嚢膜を剥離して心臓を露出させた。左心房を持ち上げ、血管用糸付弱弯丸針(6-0:ネスコスーチャー)を用いて左心室の深さ約2mm、長さ4-5mmに糸を通した。糸の両端を合わせてポリエチレンチューブで作製したスネアを通し、動脈クレンメを用いて糸を絞り(スネア法)冠動脈を30分間虚血した。30分後、再灌流させ、状態が安定したら、出血がない事を確認し、胸腔ドレナージを行い、筋層及び皮膚を縫合した。皮膚は、皮内縫合を行うが、通常縫合を行った場合には、術後状態を観察しながら抜糸を行った。モデル作製後1週間の細胞投与日前日に、超音波画像診断装置(Xario SSA-660A,東芝メディカルシステムズ,栃木,日本)を用いて心エコーを測定した。左室駆出率(LVEF=(LVIDd3-LVIDs3)/LVIDd3)が55%以下の個体を慢性心不全モデルとみなし、線維芽細胞の投与実験を行った。
【0059】
<慢性心不全モデルラットへの線維芽細胞の投与>
投与試験当日に凍結保存した各種の線維芽細胞を解凍し、high-glucose DMEM+10%NBCSで希釈し、生存細胞数として、各個体につき、2.0×10cells/50μLの細胞懸濁液を投与した。A-HCFとuA-HCF投与群はN=4、uA90-HCF投与群はN=3で実施した。動物は、モデル作製時と同一の手法で麻酔を維持し、人工呼吸管理のもと、梗塞巣の2ヶ所に分けて、30G針付きカテーテルを用いて細胞懸濁液を50μL全量投与した。状態が安定した後に、投与液の漏出及び出血がない事を確認し、胸腔ドレナージを行い、筋層及び皮膚を縫合した。皮膚は、皮内縫合を行うが、通常縫合を行った場合には、術後状態を観察しながら抜糸を行った。
【0060】
<心エコーによる慢性心不全モデルラットの心機能評価>
線維芽細胞の投与を行った慢性心不全モデルラットは、2週間ごとに超音波画像診断装置(Xario SSA-660A)を用いて心エコーを測定し、経過観察を行った。具体的には、動物の胸部をバリカンにて毛刈し、胸部にプローブを当てM-modeで左室駆出率(LVEF=(LVIDd3-LVIDs3/LVIDd3)、左室内径短縮率(
LVFS=(LVIDd―LVIDs)×100/LVIDd)を測定した。心機能値は、小数点以下1桁(小数点以下第2位を四捨五入する)で表す。
【0061】
<統計解析>
心機能の評価は平均±SE(標準誤差)で表す。その他すべてのデータは平均±SD(標準偏差)で表す。2群間の有意差は、student’s t-testで算出した。3群以上の変動差は一元配置分散分析により算出した。その後、3群間の有意差は、Tukey-Kramer Multiple Comparison Testにより算出した。0.05より低いp値は有意に異なると見なした。すべての統計計算はRソフトウエアを用いて行った。
【0062】
以下実施した実験結果を示す。
<TNF-αとIL-4による心臓線維芽細胞のCD106及びCD90発現率向上>
成体心臓由来の線維芽細胞(A-HCF)に、TNF-αを種々の濃度で添加し、HFDM-1(+)培地で3日間培養を行った後、フローサイトメーターでCD106陽性細胞の割合(%)及びCD90陽性細胞の割合(%)を評価した。結果を図1に示す。
また、成体心臓由来の線維芽細胞(A-HCF)に、IL-4を種々の濃度で添加し、HFDM-1(+)培地で3日間培養を行った後、フローサイトメーターでCD106陽性細胞の割合(%)及びCD90陽性細胞の割合(%)を評価した。結果を図2に示す。
これらの結果より、TNF-α又はIL-4の添加により、CD106陽性細胞の割合(%)及びCD90陽性細胞の割合(%)が向上することが理解される。
【0063】
次に、成体心臓由来の線維芽細胞(A-HCF)に、TNF-αとIL-4を2剤混合で添加し、HFDM-1(+)培地で3日間培養を行った後、フローサイトメーターでCD106陽性細胞の割合(%)及びCD90陽性細胞の割合(%)を評価した。結果を図3-1及び図3-2に示す。図3-1からは、Aに示すコントロール(無添加)と比較して、Bに示すTNF-αとIL-4の2剤を混合添加すると、CD106陽性細胞の割合(%)及びCD90陽性細胞の割合(%)が大きく向上することが理解される。
【0064】
更に、胎児心臓由来線維芽細胞(F-HCF)とiPS細胞由来心臓線維芽細胞(i-HCF)にTNF-α(50ng/mL)とIL-4(2ng/mL)を2剤混合で添加し、HFDM-1(+)培地で3日間培養を行った後、フローサイトメーターでCD106陽性細胞の割合(%)及びCD90陽性細胞の割合(%)を評価した。結果を図4-1及び図4-2に示す。
図4-1及び図4-2からは、心臓線維芽細胞の由来が異なっても、TNF-αとIL-4の2剤を混合添加すると、CD106陽性細胞の割合(%)及びCD90陽性細胞の割合(%)が大きく向上することが理解される。
【0065】
次に、F-HCFを抗CD106抗体でセルソーティングし、CD106及びCD90陽性細胞の割合を大きく向上させた線維芽細胞(F-VCF)と、CD106陽性細胞の割合を大きく減少させた線維芽細胞(F-VNCF)をcontrolに、A-HCF、A-HCFにTNF-α(50ng/mL)とIL-4(2ng/mL)を2剤混合で添加し、HFDM-1(+)培地で3日間培養することでCD106及びCD90の陽性細胞の割合を向上させた線維芽細胞(uA-HCF)、uA-HCFからCD106及びCD90両陽性細胞のみをセルソーティングにより回収した線維芽細胞(uA90・106-HCF)の遺伝子発現差異解析を実施した。その結果を図5に示す。図5からは、各種の心臓線維芽細胞でgranulocyte colony-stimulating factor(G-CSF)タンパク質コード遺伝子の発現量が大きく異なることが明らかとなった。F-VNCFとF-VCF、A-HCFのG-CSF遺伝子発現量(β-actinのFPKMで標準化したG-CSFのFPKM)はそれぞれ0.000178、
0.000125、0.000553であったのに対し、uA-HCFは0.101496、uA90・106-HCFは0.229072発現していることが明らかとなった。F-VCFの値を1に設定したところ、F-VNCFとA-HCFのG-CSF遺伝子発現量(β-actinのFPKMで標準化したG-CSFのFPKM fold increase)はそれぞれ1.42、4.41であったのに対し、uA-HCFは810.21、uA90・106-HCFは1828.61発現していることが明らかとなった。
【0066】
従って、TNF-αとIL-4の2剤をA-HCFに添加し、CD106及びCD90陽性細胞の割合を向上させることで、G-CSFはその発現量を大きく向上できることが明らかとなった。また、uA-HCFをセルソーティングし、CD90及びCD106の陽性細胞の割合を高めることで、G-CSFの発現量をさらに向上できることが分かった。先行研究から、G-CSFは心不全に伴う心筋細胞死を抑制し、心筋リモデリングの進行を抑制することが報告されており、また、心筋細胞の細胞増殖を促すことも明らかとなっている。本結果から、TNF-αとIL-4によってG-CSFの発現量を人為的に向上させたuA-HCF、uA90-HCF、uA106-HCF、uA90・106-HCFは、心筋細胞増殖能と心不全治療効果が高いことが示唆される。
【0067】
<CD106及びCD90の発現レベルが向上した心臓線維芽細胞による、ヒトiPS細胞由来心筋細胞の増殖効果>
TNF-α(50ng/mL)とIL-4(2ng/mL)を2剤混合で添加し、HFDM-1(+)培地で3日間培養することでCD90およびCD106の陽性細胞の割合を向上させた心臓線維芽細胞を表1に記載の通り準備した。また、コントロールとして、TNF-αとIL-4を添加せずに培養した心臓線維芽細胞を準備した。
準備した、CD90及びCD106陽性細胞の割合が向上した心臓線維芽細胞を、抗CD90抗体又はCD106抗体でセルソーティングすることで、CD90とCD106両陽性(DP:ダブルポジティブ)の線維芽細胞を効率的に回収できた。
【0068】
【表1】

【0069】
次に、表1に記載した各々の心臓線維芽細胞とiPS由来心筋細胞(iPS-CM)を共培養し、心臓線維芽細胞による心筋増殖効果の評価を行った。iPS-CMは心筋細胞特異的マーカーであるカーディアックトロポニンT(cTnT)が92.22%陽性の細胞を使用した。各種の線維芽細胞とiPS-CMとを10日間共培養し、Ki67とカーディアックトロポニンT(cTnT)両陽性の増殖状態にある心筋細胞数を計測した。結果を図6に示す。
図6より、A-HCFと比較してTNF-αとIL-4とを添加したuA-HCFの共培養条件で増殖状態にある心筋細胞数の増加が認められ、uA90-HCF及びuA106-HCFの共培養条件では有意に増殖状態にある心筋細胞数の増加が観察された。
【0070】
<CD90及びCD106陽性細胞の割合を向上させた心臓線維芽細胞による、ラット慢性心不全の長期治療効果>
上記虚血-再灌流により作製した慢性心不全モデルラットに、表1に示すA-HCF、uA-HCF、uA90-HCFを注射器で心筋内投与し、各種の線維芽細胞によるラット心不全の治療効果を心エコーで評価した。ShamはN=6、ControlはN=4、A-HCF投与群はN=7、uA-HCF投与群はN=8、uA90-HCF投与群はN=9で実施した。なお、作製した各種の線維芽細胞集団のCD90及びCD106陽性細胞の割合をフローサイトメーターで評価したところ、A-HCFはCD90及びCD106両陽性の細胞(DP)が1.77%であったのに対し、uA-HCFのDPは21.36%、uA90-HCFのDPは61.25%であった。結果を図7-1、図7-2及び図7-3に示す。
図7-1、図7-2及び図7-3より、A-HCFの投与では心不全の治療効果を認めることはできなかったが、uA-HCFとuA90-HCFは移植後4週でLVEFとLVFSを大きく改善できることが理解される。
また、各種の線維芽細胞によるLVEFとLVFSの増減割合(Delta-LVEF,Delta-LVFS)を比較解析したところ、uA-HCFとuA90-HCFはDelta-LVEFとDelta-LVFSを細胞移植前から向上させ、A-HCFと比較してuA90-HCFはDelta-LVEFとDelta-LVFSを有意に改善できることが理解される。
【0071】
<ヒト線維芽細胞のG-CSF陽性細胞の割合並びにTNF-α及びIL-4添加による、G-CSF陽性細胞の割合の向上>
TNF-α(50ng/mL)とIL-4(2ng/mL)を2剤混合で添加し、HFDM-1(+)培地で3日間培養することでCD90及びCD106陽性細胞の割合を向上させた心臓線維芽細胞(uA-HCF)を表2に記載の通り準備した。更に、抗CD90抗体と抗CD106抗体でセルソーティングした心臓線維芽細胞(uA90・106-HCF)を準備した。また、コントロールとして、TNF-αとIL-4を添加せずに培養した心臓線維芽細胞(A-HCF)、胎児心臓由来CD106陰性線維芽細胞(F-VNCF)、胎児心臓由来CD106陽性線維芽細胞(F-VCF)を準備した。
【0072】
【表2】

【0073】
各種の線維芽細胞のG-CSF陽性細胞の割合をフローサイトメトリーで評価したところ、F-VNCFはG-CSF陽性細胞の割合が9.04%であったのに対し、F-VCFは4.35%、A-HCFは6.75%、uA-HCFは24.70%、uA90・106-HCFは92.50%だった(図8)。本結果から、天然に存在するCD106陽性細胞(F-VCF)はG-CSF陽性細胞の割合が低く、TNF-αとIL-4に接触させ、人工的に製造したCD106陽性及び/又はCD90陽性の心臓線維芽細胞は、CD106及び/又はCD90陽性細胞の割合率が向上するに応じて、G-CSF陽性細胞の割合が向上することが明らかとなった。
【0074】
<CD106及びCD90陽性細胞の割合を向上させた心臓線維芽細胞によるラット慢性心不全の長期治療効果>
虚血-再灌流により作製した慢性心不全モデルラットに、A-HCF、uA-HCF、uA90-HCFを注射器で心筋内投与し、各種の線維芽細胞によるラット心不全の長期治療効果を心エコーで評価した。その結果、A-HCFの投与では心不全の治療効果を認めることはできず、移植後18週のLVEFは44.1±2.8%を示し、LVFSは17.8±1.4%を示した(図9-1及び図9-2A及びC)。更にCD90抗原を指標にセルソーティングを行ったuA90-HCFは、長期間(移植後12週以降)でLVEFとLVFSの改善効果が認められ、移植後18週のLVEFは61.0±2.2%を示し、LVFSは27.2±1.4%を示した。
【0075】
また、各種の線維芽細胞の投与によるLVEFとLVFSの増減割合(Delta-LVEF,Delta-LVFS)を比較解析したところ、A-HCF投与群は,移植後18週で、-6.9±2.6%のDelta-LVEF値を示し、-3.5±1.3%のDelta-LVFS値を示した(図9-2B及びD)。一方で、uA-HCF投与群は移植後18週で、-1.8±3.4%のDelta-LVEF値を示し、-0.6±1.8%のDelta-LVFS値を示した。また、uA90-HCF投与群は移植後18週で、9.2±2.6%のDelta-LVEF値を示し、5.6±1.6%のDelta-LVFS値を示した。従って、uA90-HCFは不全心筋の機能を長期に渡って、有意に改善できることが理解される。なお、主項目(LVEF,LVFS)の内訳と、副次項目(LVEDV,LVESV,LVIDd,LVIDs,LVAWd,LVPWTd,HR)の内訳は表3~11に示した。
【0076】
【表3】

【0077】
【表4】

【0078】
【表5】

【0079】
【表6】

【0080】
【表7】

【0081】
【表8】

【0082】
【表9】

【0083】
【表10】

【0084】
【表11】
図1
図2
図3-1】
図3-2】
図4-1】
図4-2】
図5
図6
図7-1】
図7-2】
図7-3】
図8
図9-1】
図9-2】