(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-29
(45)【発行日】2024-02-06
(54)【発明の名称】金属蒸着フィルム
(51)【国際特許分類】
B32B 15/09 20060101AFI20240130BHJP
B32B 27/36 20060101ALI20240130BHJP
【FI】
B32B15/09 A
B32B27/36
(21)【出願番号】P 2023542681
(86)(22)【出願日】2022-03-25
(86)【国際出願番号】 JP2022014456
【審査請求日】2023-07-13
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000156042
【氏名又は名称】株式会社麗光
(74)【代理人】
【識別番号】110000475
【氏名又は名称】弁理士法人みのり特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福本 勝
(72)【発明者】
【氏名】吉野 祐平
(72)【発明者】
【氏名】矢野 晴菜
【審査官】川井 美佳
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-154456(JP,A)
【文献】特開平09-040904(JP,A)
【文献】特開2022-017007(JP,A)
【文献】国際公開第2019/124089(WO,A1)
【文献】特開2003-222723(JP,A)
【文献】特開2017-196775(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
C09D 1/00-10/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルム基材の一方の面に、少なくともアンカーコート層と金属薄膜層が順次積層された層構成を有する金属蒸着フィルムであって、
前記アンカーコート層が、粘度平均分子量500~10,000のポリエステル系樹脂である主剤と、イソシアネート化合物である硬化剤と、添加剤とを少なくとも含む層であり、前記主剤と硬化剤の固形分重量比率が、主剤:硬化剤=100:20~200であり、かつ主剤と硬化剤との合計重量と添加剤の固形分重量比率が、主剤+硬化剤:添加剤=100:10~200であり、前記添加剤がグルコース環を有する化合物であること
、及び
前記アンカーコート層の厚さが、0.1μm~3.0μmの範囲内であることを特徴とする金属蒸着フィルム。
【請求項2】
前記硬化剤が、芳香族イソシアネート化合物及び脂環式イソシアネート化合物からなるグループより選ばれたものであることを特徴とする請求項1に記載の金属蒸着フィルム。
【請求項3】
前記金属薄膜層上に、トップコート層が形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の金属蒸着フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食料品や医薬品等の包装材等に使用する金属蒸着フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
これまでに、プラスチックフィルムの片面に酸化アルミニウム薄膜層や酸化珪素薄膜層等の金属酸化物薄膜層が積層された透明ガスバリアフィルムが知られている。
又、印刷適正、及びガスバリア性(水蒸気透過度及び酸素透過度)の向上を目的として、上記金属酸化物薄膜層上に、樹脂からなるトップコート層が積層された透明ガスバリアフィルムも知られている。
【0003】
例えば下記の特許文献1には、ガスバリア性フィルムとして、基材の少なくとも一方の面に、アクリル樹脂とイソシアネート樹脂とからなるウレタン樹脂のアンカーコート層と、無機酸化物層と、オーバーコート層が順次配置されたものが開示されている。
しかしながら、この特許文献1記載のガスバリア性フィルムは、基材が無延伸ポリプロピレン(CPP)フィルムで、無機酸化物層が酸化珪素薄膜層である場合に、優れたガスバリア性が得られないものであり、また優れたガスバリア性を得るにはアンカーコート層の厚さを厚くしなければならず、優れたガスバリア性を得るためにアンカーコート層の厚さを厚くすると、他のプラスチックフィルムと貼り合わせて積層フィルムとした場合に、優れた密着性(層間剥離強度)が得られないという問題点があった。
【0004】
ガスバリア性フィルムと他のプラスチックフィルムとを貼り合わせて積層フィルムとする方法については、これまでに、ガスバリア性フィルム、又は他のプラスチックフィルム上に接着剤層を積層して、該接着剤層を介して貼り合わせる方法(ドライラミネート法)や、ガスバリア性フィルムと他のプラスチックフィルムとの間にポリエチレン等の溶融樹脂を流し込み、該溶融樹脂を介して貼り合わせる方法(押出しラミネート法)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、上記の従来技術における問題点を解決し、優れたガスバリア性を有し、さらに、本発明の金属蒸着フィルムを、他のプラスチックフィルムと貼り合わせて積層フィルムとした場合に、金属蒸着フィルムと、他のプラスチックフィルムとの密着強度(層間剥離強度)が、180度剥離試験においても優れた密着性を有する金属蒸着フィルムを提供することである。
本明細書でいう優れたガスバリア性とは、JIS K 7129A法に準拠して測定した水蒸気透過度が、5g/m2・24hr以下であり、かつJIS K 7126B法に準拠して測定した酸素透過度度が5cc/m2・24hr以下であることをいう。
また、優れた密着性とは、金属蒸着フィルムと他のプラスチックフィルムとの密着強度が、JIS K 6854-2法に準拠して測定した180度剥離試験において、200g/15mm以上であることをいう。
【0007】
本発明者等は種々検討を行った結果、フィルム基材の表面に、特定の粘度平均分子量のポリエステル系樹脂と、イソシアネート化合物である硬化剤と、グルコース環を有する化合物とを少なくとも含むコーティング液をコーティング(塗工)してアンカーコート層を形成し、このアンカーコート層の上に金属薄膜層を形成することにより上記課題が解決できることを見出して、本発明を完成した。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明は以下の構成を有する。
[1]フィルム基材の一方の面に、少なくともアンカーコート層と金属薄膜層が順次積層された層構成を有する金属蒸着フィルムであって、
前記アンカーコート層が、粘度平均分子量500~10,000のポリエステル系樹脂である主剤と、イソシアネート化合物である硬化剤と、添加剤とを少なくとも含む層であり、前記主剤と硬化剤の固形分重量比率が、主剤:硬化剤=100:20~200であり、かつ主剤と硬化剤との合計重量と添加剤の固形分重量比率が、主剤+硬化剤:添加剤=100:10~200であり、前記添加剤がグルコース環を有する化合物であることを特徴とする金属蒸着フィルム。
[2]前記硬化剤が、芳香族イソシアネート化合物及び脂環式イソシアネート化合物からなるグループより選ばれたものであることを特徴とする、[1]に記載の金属蒸着フィルム。
[3]前記金属薄膜層上に、トップコート層が形成されていることを特徴とする[1]又は[2]に記載の金属蒸着フィルム。
【発明の効果】
【0009】
本発明の金属蒸着フィルムにおいては、フィルム基材と金属薄膜層との間に設けられたアンカーコート層によって、例えば、基材が厚さ25μmの無延伸ポリプロピレン(CPP)フィルムで、金属薄膜素が厚さ35nmの酸化珪素薄膜層の場合、水蒸気透過度が2.6g/m2・24hrで、酸素透過度が1.5cc/m2・24hrである優れたガスバリア性が達成され、フィルム基材と金属薄膜層との間の密着強度に関しても、180度剥離試験の密着強度が400g/15mmである優れた密着性が達成される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施形態に係る金属蒸着フィルムAの断面図(層構成図)である。
【
図2】
図1の金属蒸着フィルムAの金属薄膜層3の上に、トップコート層4を設けた際の断面図(層構成図)である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の金属蒸着フィルムAは、
図1に示されるように、フィルム基材1の一方の面に、少なくともアンカーコート層2と金属薄膜層3がこの順序にて積層された層構成を有し、このアンカーコート層2は、粘度平均分子量500~10,000のポリエステル系樹脂である主剤と、イソシアネート化合物である硬化剤と、添加剤とを少なくとも含む層であり、このアンカーコート層2には、添加剤としてグルコース環を有する化合物が配合されている。グルコース環を有する化合物の添加により、優れたガスバリア性及び密着性が達成される。
本発明では、上記のアンカーコート層2を構成する主剤、硬化剤、添加剤の割合が、前記主剤と硬化剤の固形分重量比率が、主剤:硬化剤=100:20~200であり、かつ主剤と硬化剤との合計重量と添加剤の固形分重量比率が、主剤+硬化剤:添加剤=100:10~200であり、このような比率によって、フィルム基材1と金属薄膜層3の間の優れたガスバリア性及び密着性が達成される。本発明において特に好ましい主剤:硬化剤:添加剤の固形分重量比率は100:100:100である。
また、上記アンカーコート層2における主剤、硬化剤、添加剤の割合を上記範囲とすることで、アンカーコート層上に金属薄膜層を形成する時の熱よってアンカーコート層が劣化することがない耐熱性を発揮し、本発明の金属蒸着フィルムが所望のガスバリア性及び密着性を容易に発揮することができる。
【0012】
以下、本発明の金属蒸着フィルムAを構成する各層の詳細について説明する。
(フィルム基材1)
本発明の金属蒸着フィルムに使用するフィルム基材1は、特に限定されるものではなく、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリアミドフィルム、セロファンフィルム、ナイロンフィルム、生分解性樹脂フィルム等の各種プラスチックフィルムが使用できる。
このフィルム基材1は、無延伸、一軸延伸、二軸延伸のいずれでもよく、又、帯電防止剤、着色剤、熱安定剤等の各種添加剤を含んでいてもよい。
【0013】
上記のフィルム基材1は、プラスチックフィルムとアンカーコート層との密着力を強くする目的で、プラスチックフィルム上に、易接着コート、コロナ処理等の表面処理がされたものでもよく、これら表面処理がされたプラスチックフィルムも、本発明におけるフィルム基材1に含まれる。
【0014】
上記のフィルム基材1の厚さは特に限定されないが、可塑性、熱的安定性、機械的特性等からは、2~250μmの範囲とすることが好ましく、9~125μmの範囲であることがより好ましい。フィルム基材1の厚さが2μmよりも薄いと、本発明の金属蒸着フィルムを製造する際に、カールやシワ等が発生しやすくなる恐れがあるため好ましくなく、逆に、プラスチックフィルムの厚さが250μmよりも厚いと、本発明の金属蒸着フィルムを製造する際に作業性が悪くなり、又、製造コストも上がるため、好ましくない。
【0015】
(アンカーコート層2)
本発明におけるアンカーコート層2は、粘度平均分子量500~10,000のポリエステル系樹脂(ポリエステルポリオール)を主剤とし、硬化剤としてイソシアネート化合物(イソシアネート基含有化合物)が添加され、更に添加剤としてグルコース環を有する化合物を含むコーティング液を、上記のフィルム基材1上にコーティング(塗工)した後、乾燥、硬化させることにより形成された層である。
本発明では、このようなアンカーコート層2を設けることによって、フィルム基材1との間の密着強度を高めることができると共に、金属薄膜層3との間の密着強度を高めることができ、本発明の金属蒸着フィルムが、優れたガスバリア性及び密着性を発揮することができる。
【0016】
上記のポリエステル系樹脂は、多塩基酸成分と多価アルコール成分とを主成分とする高分子である。
ポリエステル系樹脂を構成する多塩基酸成分としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、無水フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ビフェニルジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸;シュウ酸、コハク酸、無水コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、アイコサン二酸、水添ダイマー酸等の飽和脂肪族ジカルボン酸;フマル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、シトラコン酸、無水シトラコン酸、ダイマー酸等の不飽和脂肪族ジカルボン酸;1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、2,5-ノルボルネンジカルボン酸及びその無水物、テトラヒドロフタル酸およびその無水物等の脂環式ジカルボン酸が挙げられる。
【0017】
ポリエステル系樹脂を構成する多価アルコール成分としては、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、2-メチル-1,3‐プロパンジオール、1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,9-ノナンジオール、2-エチル-2-ブチルプロパンジオール等の脂肪族グリコール;1,4-シクロヘキサンジメタノール等の脂環族グリコール;ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のエーテル結合含有グリコール;2,2-ビス[4-(ヒドロキシエトキシ)フェニル]プロパンのようなビスフェノール類(ビスフェノールA等)およびそのエチレンオキシド付加体、ビス[4-(ヒドロキシエトキシ)フェニル]スルホンのようなビスフェノール類(ビスフェノールS等)およびそのエチレンオキシド付加体等が挙げられる。
【0018】
さらに、多価アルコール成分として3官能以上の多価アルコール、例えば、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等が含まれていてもよい。
【0019】
ポリエステル系樹脂には、モノカルボン酸、モノアルコール、ヒドロキシカルボン酸が共重合されていてもよく、例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、安息香酸、p-tert-ブチル安息香酸、シクロヘキサン酸、4-ヒドロキシフェニルステアリン酸、ステアリルアルコール、2-フェノキシエタノール、ε-カプロラクトン、乳酸、β-ヒドロキシ酪酸、p-ヒドロキシエトキシ安息香酸等を用いることができる。
【0020】
本発明における上記ポリエステル系樹脂の粘度平均分子量が500~10,000の範囲内であることが好ましく、1,500~9,000の範囲内がより好ましい。この際、ポリエステル系樹脂の粘度平均分子量が10,000を超える場合には、グルコース環を有する化合物との相溶性が悪くなり、優れたガスバリア性及び密着性の両方が得られない。
【0021】
本発明において、アンカーコート層2を構成する硬化剤のイソシアネート化合物(イソシアネート基含有化合物)としては、芳香族イソシアネート化合物及び脂環式イソシアネート化合物からなるグループより選ばれたものが好ましく、例えば、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネート、3-イソシアネートメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキシルイソサネート、1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、ノルボルネンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート、ジフェニルメタン-2,4’-ジイソシアネート、2,4-トリレンジイソシアネート(TDI)、2,6-トリレンジイソシアネート等の各種ジイソシアネート、及びそれらの各種変性物、及びそれらを多官能化したダイマー体、アダクト体、アロファネート体、トリマー体、カルボジイミドアダクト体、ビウレット体、又、それらの重合物、及び多価アルコールを付加した重合物が挙げられる。本発明にて特に好ましいイソシアネート化合物は、キシレンジイソシアネート(XDI)である。
本発明では、主剤:硬化剤の固形分重量比率は100:20~200の範囲であり、100:50~150の範囲がより好ましい。
【0022】
本発明において、アンカーコート層2を構成する添加剤のグルコース環を有する化合物としては、セルロース、プルラン等の多糖類、及びそれららのメチル化物、ニトロ化物、アセチル化物、カルボキシメチル化物、シアノエチル化物、ミリストイル化物等の誘導体であってもよい。例えばセルロースアセテートブチレート、セルロースアセテート、メチルセルロース、ニトロセルロース、プルラン、ミリストイルプルラン等が挙げられる。
本発明では、主剤+硬化剤:添加剤の固形分重量比率は100:10~200の範囲であり、100:20~100の範囲がより好ましい。
【0023】
本発明におけるアンカーコート層2の厚さは、0.1μm~3.0μmの範囲内であることが好ましく、0.3μm~1.0μmの範囲内であることが特に好ましい。この際、アンカーコート層2の厚さが3.0μmを超える場合には、アンカーコート層2の内部応力によりフィルム基材1から剥離し易くなり、0.1μm未満の場合には、厚さが均一にならない可能性がある。本発明では、フィルム基材1とアンカーコート層2との密着強度を向上させるために、アンカーコート層2を形成する前にフィルム基材1上に、易接着コート、コロナ処理等の表面処理がされていてもよい。
アンカーコート層2のコーティング方法(塗工方式)は、例えば、バーコーター、ナイフコート、ダイコート、グラビアコート、マイクログラビアコート、スプレーコート、ディップコート、スクリーン印刷などが挙げられるが特に限定されない。
又、コーティングされたアンカーコート層2を乾燥させる乾燥方法は、例えば、熱風乾燥、熱ロール乾燥、高周波照射、赤外線照射、UV照射など熱をかける方法を1種類あるいは2種類以上組み合わせて用いることができる。
【0024】
(金属薄膜層3)
金属薄膜層3に用いる材料(蒸着用材料)としては、アルミニウム、珪素、クロム、錫、金、銀、銅、亜鉛、ニッケル、インジウム等の各種従来公知の金属を使用することができ、所望の目的により適宜選択すればよい。また、金属薄膜層は、上記従来公知の金属の酸化物、硫化物、窒化物の薄膜層であっても構わない。
金属薄膜層3の成膜方法としては、真空蒸着法、スパッタリング蒸着法、CVD法等、従来公知の方法が使用でき、真空蒸着法の場合には、例えば電子ビームやレーザービーム等による加熱蒸着法が好ましく用いられる。
【0025】
アンカーコート層2の表面上に形成した金属薄膜層3の厚さは、一般的には3nm~300nmの範囲内が好ましく、さらに好ましくは3nm~150nmの範囲内であり、その値は適宜選択される。
金属薄膜層3の厚さが3nm未満の場合には、均一な膜が得られない場合や、所望のガスバリア性能を発揮できない場合がある。又、金属薄膜層3の厚さが300nmを超える場合には、膜にフレキシビリティ(柔軟性)を保持させることができず、成膜後に折り曲げ、引張りなどの外的要因により、金属薄膜層に亀裂が生じる恐れがあり、所望のガスバリア性を発揮できない場合がある。
【0026】
(トップコート層4)
本発明では、
図2に示されるようにして、上記の金属薄膜層3の上にトップコート層4を設けてもよく、このトップコート層4としては、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、メラミン系樹脂、エポキシ系樹脂等、各種公知の樹脂1種、または2種以上の混合樹脂としてもよく、目的に応じて適宜選択すればよい。
本発明では、トップコート層4を形成することで、ガスバリア性がより向上する。
また、トップコート層4には、必要に応じて、硬化剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、着色剤、熱安定剤、シランカップリング剤等の各種添加剤が添加されていても構わない。
トップコート層4にシランカップリング剤を使用する場合、使用するシランカップリング剤は、ビニル系、エポキシ系、スチリル系、メタクリル系、アクリル系、アミノ系、イソシアヌレート系、ウレイド系、メルカプト系、スルフィド系、イソシアネート系等、各種シランカップリング剤を使用することができ、所望の目的に応じて適宜選択すればよい。このようなトップコート層4は、上記の成分を混合した塗料を、グラビアコート法、リバースコート法、ダイコート法等、従来公知のコーティング方法によりコーティングすることによって形成できる。
尚、上記のトップコート層4の厚さは、ガスバリア性及び密着性の点から、0.1~3.0μmの範囲が好ましく、0.1~1.0μmの範囲であればより好ましい。
【0027】
以下、本発明の実施例を示して本発明を説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【実施例】
【0028】
[アンカーコート層を構成する樹脂の違い及び添加剤の有無による物性比較実験]
フィルム基材として無延伸ポリプロピレン(CPP)フィルム(厚さ25μm)を準備し、アンカーコート層を形成させるための主剤として、以下の2種類の樹脂を準備した。
・ポリエステル系樹脂(粘度平均分子量:8,000)
・アクリル系樹脂(粘度平均分子量:8,000)
又、硬化剤としては、前述のXDI系イソシアネートを使用し、添加剤として、市販のニトロセルロース(NC)を準備した。
【0029】
上記の2種類の主剤を用い、主剤:硬化剤の固形分重量比率が100:100となるように添加したコーティング液と、さらに添加剤(NC)を、主剤:硬化剤:添加剤の固形分重量比率が100:100:100となるように添加したコーティング液を調製し、上記CPPフィルムの片面にグラビア法でコーティングを行い、乾燥、硬化させ、以下の表1に記載される厚さのアンカーコート層を形成した。そして、このアンカーコート層の表面に、真空蒸着法にて厚さ35nmの酸化珪素薄膜層を形成し、測定試料を作製した。
比較対照としては、アンカーコート層を設けずに酸化珪素薄膜層を形成した試料も作製した。
各試験試料について、下記の水蒸気透過性試験、及び酸素透過性試験にてガスバリア性を測定した。又、密着強度については、下記180度剥離試験にて密着強度を測定した。
【0030】
[水蒸気透過性試験]
(測定方法)
JIS K 7129A法に準拠し、各試験試料について、温度40℃、湿度90%の雰囲気下で、水蒸気透過度測定装置(スイス リッシー社製 L80-4000J)を使用して水蒸気透過度を測定した。
【0031】
[酸素透過性試験]
(測定方法)
JIS K 7126B法に準拠し、各試験試料について、温度23℃、湿度75%の雰囲気下で、酸素透過度測定装置(米国 モコン社製 MOCON OX-TRAN)を使用して酸素透過度を測定した。
【0032】
[密着強度の測定]
(試験試料)
前記各測定試料の金属薄膜層上にドライラミネート用接着剤樹脂をコーティングして接着剤層を形成し、厚さ12μmのPETフィルムと貼り合わせた積層フィルムを作製し、それぞれ、幅15mm、長さ10cmにカットし、測定に用いた。
【0033】
[180度剥離試験]
(測定方法)
JIS K 6854-2法(接着剤-剥離接着強度試験方法-第2部:180度剥離)に準拠し、各試験試料について、金属蒸着フィルムと、他のプラスチックフィルムとの密着強度を測定した。(剥離速度:300mm/min)
【0034】
(試験結果)
上記の測定結果を、以下の表1に示す。
【0035】
【0036】
上記表1の結果から、アンカーコート層を構成する樹脂がポリエステル系樹脂である場合、アクリル系樹脂より高い密着強度が得られた。また、フィルム基材が厚さ25μmのCPPフィルムで、金属薄膜層が厚さ35nmの酸化珪素薄膜層である場合、アンカーコート層をポリエステル系樹脂、イソシアネート化合物、及び添加剤を少なくとも含む層とすることで、優れたガスバリア性及び優れた密着性が達成された。
【0037】
[アンカーコート層の厚さの違いによる物性比較実験I]
フィルム基材として無延伸ポリプロピレン(CPP)フィルム(厚さ25μm)を使用し、アンカーコート層を形成させるための主剤として、前述の粘度平均分子量8000のポリエステル系樹脂を準備した。
又、硬化剤としては、前述のXDI系イソシアネートを使用し、添加剤として、市販のニトロセルロース(NC)を準備した。
【0038】
上記の主剤を用い、主剤:硬化剤:添加剤の固形分重量比率が100:100:100となるようにしてそれぞれコーティング液を調製し、上記のフィルム基材(CPPフィルム)の片面にグラビア法でコーティングを行い、乾燥、硬化させ、以下の表2に記載される厚さのアンカーコート層を形成した。そして、このアンカーコート層の表面に、真空蒸着法にて厚さ35nmの酸化珪素薄膜層を形成し、測定試料を作製した。
各試験試料について、前述の水蒸気透過性試験、及び酸素透過性試験にてガスバリア性を測定し、密着強度については、前述と同様にして積層フィルムを作製し、前述の180度剥離試験にて密着強度を測定した。
上記の測定結果を、以下の表2に示す。
【0039】
【0040】
上記表2の結果から、ポリエステル系樹脂、硬化剤及びニトロセルロース(NC)を含むアンカーコート層を形成することによってガスバリア性が向上し、水蒸気透過度及び酸素透過度が小さくなることが確認され、アンカーコート層の厚さが1μm未満の場合に、特に高い密着強度が得られることが確認された。
【0041】
[フィルム基材の種類の違いによる物性比較実験I]
フィルム基材として、PETフィルム(厚さ12μm)、ポリエチレン(PE)フィルム(厚さ17μm)、二軸延伸ポリプロピレン(OPP)フィルム(厚さ20μm)、セロファンフィルム(厚さ20μm)を準備し、アンカーコート層を形成させるための主剤として、前述の粘度平均分子量8000のポリエステル系樹脂を用い、この樹脂に、前述の硬化剤及び添加剤を、主剤:硬化剤:添加剤の固形分重量比率が100:100:100となるようにしてコーティング液を調製し、上記4種類のフィルム基材の片面にグラビア法でコーティングを行い、乾燥、硬化させ、以下の表3に記載される厚さのアンカーコート層を形成した。そして、このアンカーコート層の表面に、真空蒸着法にて厚さ40nmのアルミニウム薄膜層を形成し、測定試料を作製した。
各試験試料について、前述の水蒸気透過性試験、及び酸素透過性試験にてガスバリア性を測定し、密着強度については、前述と同様にして積層フィルムを作製し、前述の180度剥離試験にて密着強度を測定した。
上記の測定結果を、以下の表3に示す。
【0042】
【0043】
上記表3の結果から、上記の4種類の測定試料はいずれも、水蒸気透過度及び酸素透過度が同程度で、水蒸気透過度が0.1g/m2・24hr、酸素透過度が0.1又は0.5cc/m2・24hrで、優れたガスバリア性及び密着性を有していることが確認された。ただし、密着強度の点では、セロファンフィルムよりもPEフィルムの方が高い密着強度が得られ、PEフィルムよりもOPPフィルムの方が密着性がよく、OPPフィルムよりもPETフィルムの方が高い密着強度が得られた。
【0044】
[アンカーコート層の厚さの違いによる物性比較実験II]
フィルム基材として厚さ25μmのCPPフィルムを使用し、アンカーコート層を形成させるための主剤として、前述の粘度平均分子量8000のポリエステル系樹脂を用い、この樹脂に、前述の硬化剤を、主剤:硬化剤の固形分重量比率が100:100となるように添加したコーティング液と、さらに添加剤セルロースアセテートブチレート(CAB)を、主剤:硬化剤:添加剤の固形分重量比率が100:100:100となるように添加したコーティング液を調製し、上記CPPフィルムの片面にグラビア法でコーティングを行い、乾燥、硬化させ、以下の表4に記載される厚さのアンカーコート層を形成した。そして、このアンカーコート層の表面に、真空蒸着法にて厚さ35nmのアルミニウム薄膜層を形成し、測定試料を作製した。
各試験試料について、前述の水蒸気透過性試験、及び酸素透過性試験にてガスバリア性を測定し、密着強度については、前述と同様にして積層フィルムを作製し、前述の180度剥離試験にて密着強度を測定した。
上記の測定結果を、以下の表4に示す。
【0045】
【0046】
上記表4の結果から、アンカーコート層を形成させるためのコーティング液中にセルロースアセテートブチレート(CAB)が添加されていない場合には、200g以上の優れた密着性は得られないことがわかった。又、アンカーコート層の厚さが0.4μmである場合を比較すると、アンカーコート層を形成させるためのコーティング液中にセルロースアセテートブチレート(CAB)を配合させることによって、優れたガスバリア性及び密着性を得ることができ、特に酸素透過度及び密着強度がいずれも大きく向上することが確認された。
【0047】
[添加剤の種類、添加剤の量、蒸着金属の種類の違いによる物性比較実験]
添加剤としては、ニトロセルロース(NC)、ミリストイルプルラン、セルロースアセテートブチレート(CAB)の3種類を準備した。そして、主剤と硬化剤との合計100重量部に対して、添加剤の添加量を表5に記載される重量部とし、ガスバリア性と密着性の変化を調べた(金属薄膜層は、厚さ35nmの酸化珪素薄膜層とした)。更に、金属薄膜層として、前記酸化珪素薄膜層と同じ厚さのアルミニウム(AL)薄膜層を形成させた金属蒸着フィルムを作製し、蒸着金属の種類の違いによる物性比較を行った。密着強度については、前述と同様にして積層フィルムを作製し、前述の180度剥離試験にて密着強度を測定した。
上記の測定結果を、以下の表5に示す。
【0048】
【0049】
上記表5の結果から、NC、ミリストイルプルラン、CABのいずれを添加した場合においても、優れたガスバリア性及び密着性が発揮されることが確認された。又、主剤と硬化剤との合計100重量部に対する添加剤(NC)の配合割合が10~200重量部の範囲において、特に優れたガスバリア性及び密着性を有する金属蒸着フィルムが得られることもわかった。尚、ガスバリア性(水蒸気透過度及び酸素透過度)に関しては、酸化珪素薄膜層よりもアルミニウム薄膜層の方が優れていることも確認された。
【0050】
[アンカーコート層形成用のポリエステル系樹脂の粘度平均分子量の違いによる添加剤との相溶性比較実験]
アンカーコート層形成用のポリエステル系樹脂として、以下の表6に記載される粘度平均分子量を有した7種類の樹脂を準備し、以下の測定方法を用いて、添加剤ニトロセルロース(NC)、ミリストイルプルラン、CABとの相溶性を測定した。
(添加剤との相溶性試験方法)
上記の7種類のポリエステル系樹脂を用いてそれぞれアンカーコート層を形成させるためのコーティング液(主剤:硬化剤=100:100)を調製し、各コーティング液に添加剤を主剤:硬化剤:添加剤=100:100:100となる量、添加して、それぞれの添加剤の相溶性を目視により評価した。評価基準は以下の通りである。
【0051】
(評価基準)
○:添加剤が溶ける(コーティング液のゲル化はなく、白濁もない)
×:添加剤が溶けない(コーティング液のゲル化があり、白濁もある)
上記の測定結果を、以下の表6に示す。
【0052】
【0053】
上記表6の結果から、アンカーコート層形成用のポリエステル系樹脂の粘度平均分子量が500未満である場合、及び10,000を超える場合には、アンカーコート層形成用のコーティング液中に含まれるニトロセルロース、CAB、ミリストイルプルランとの相溶性が悪くなることが確認された。
【0054】
[アンカーコート層形成用のポリエステル系樹脂の粘度平均分子量の違いによる物性比較実験]
アンカーコート層形成用のポリエステル系樹脂として、粘度平均分子量が500~20,000の樹脂をそれぞれ準備し、前述の硬化剤及び添加剤(NC)を用いて金属蒸着フィルムを作製した。又、上記の金属蒸着フィルムの他に、金属薄膜層の上に、表7の欄外に記載される組成を有したコーティング液を用いて厚さ0.1μmのトップコート層を形成した金属蒸着フィルム(フィルム基材:CPPフィルム又はOPPフィルム)も作製した。
そして、各金属蒸着フィルムについて、ガスバリア性及び、前述と同様にして作製した積層フィルムの密着強度を測定した。尚、トップコート層を形成した金属蒸着フィルムは、トップコート層上にドライラミネート用接着剤樹脂をコーティングして接着剤層を形成し、厚さ12μmのPETフィルムと貼り合わせて積層フィルムとした。
また、前述の粘度平均分子量が300、13000、及び20000のポリエステル系樹脂は、コーティング液がゲル化、及び白濁し、フィルム基材上にアンカーコート層を形成することができなかった為、測定試料から除外した。
上記の測定結果を、以下の表7に示す。
【0055】
【0056】
上記表7の結果から、アンカーコート層形成用のポリエステル系樹脂として、粘度平均分子量が500~10000の範囲のものを用いた場合に、特に優れたガスバリア性及び密着性を有する金属蒸着フィルムが得られることがわかったので、本発明におけるアンカーコート層の形成に使用するポリエステル系樹脂の粘度平均分子量の範囲を500~10,000の範囲に設定した。又、金属薄膜層の上にトップコート層を設けることによって、更にガスバリア性(水蒸気透過度及び酸素透過度)が向上することも確認された。
【0057】
[フィルム基材の種類の違いによる物性比較実験II]
フィルム基材として、PETフィルム(厚さ12μm)と、CPPフィルム(厚さ25μm)を準備した。
一方、アンカーコート層を形成させるための主剤として、前述の粘度平均分子量8000のポリエステル系樹脂を用い、この樹脂に、前述の硬化剤及び添加剤(NC)を、主剤:硬化剤:添加剤の固形分重量比率が100:100:100となるようにしてコーティング液を調製し、上記の各フィルム基材の片面にグラビア法でコーティングを行い、乾燥、硬化させ、以下の表8に記載される厚さのアンカーコート層を形成した。その後、このアンカーコート層の表面に、真空蒸着法にて厚さ40nmのアルミニウム薄膜層を形成し、測定試料を作製した(実施例1~6)。
尚、比較対照として、PETフィルム、CPPフィルムの表面にアンカーコート層を設けずにアルミニウム薄膜層を形成した試料を作製した(比較例1、2)。
上記の各試験試料について、前述の水蒸気透過性試験、及び酸素透過性試験にてガスバリア性を測定し、密着強度については、前述と同様にして積層フィルムを作製し、前述の180度剥離試験にて密着強度を測定した。
上記の測定結果を、以下の表8に示す。
【0058】
【0059】
表8に示されるように、実施例1~6の本発明の金属蒸着フィルムはいずれも、水蒸気透過度が0.3g/m2・24hr以下で、酸素透過度が1.6cc/m2・24hr以下であり、優れたガスバリア性を有していた。これに対し、比較例1~2の金属蒸着フィルムはいずれも、本発明の金属蒸着フィルムよりもガスバリア性が良くないことが確認された。
【0060】
又、密着強度についても、実施例1~6の本発明の金属蒸着フィルムはいずれも、フィルム基材とアンカーコート層との間の180度剥離試験の密着強度が200g/15mm以上であったのに対して、比較例1~2の金属蒸着フィルムはいずれも、フィルム基材とアンカーコート層との間の180度剥離試験の密着強度が200g/15mm未満であり、優れた密着性を有していないことが確認された。
【符号の説明】
【0061】
A 金属蒸着フィルム
1 フィルム基材
2 アンカーコート層
3 金属薄膜層
4 トップコート層
【要約】
水蒸気や酸素などのガスに対する高いガスバリア性と、フィルム基材と金属薄膜層との間の高い密着強度を有する金属蒸着フィルムの提供。
本発明の金属蒸着フィルムAは、フィルム基材1の一方の面に、少なくともアンカーコート層2と金属薄膜層3が順次積層された層構成を有し、アンカーコート層2が、粘度平均分子量500~10,000のポリエステル系樹脂である主剤と、イソシアネート化合物である硬化剤と、添加剤とを少なくとも含む層であり、主剤:硬化剤の固形分重量比率が100:20~200で、(主剤+硬化剤):添加剤=100:10~200(固形分重量比率)で、しかも、添加剤はグルコース環を有する化合物である。上記の硬化剤としては、芳香族イソシアネート化合物や脂環式イソシアネート化合物が挙げられる。