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特許7428460肥満レベルの推定方法、推定装置及び推定プログラム、並びに、皮下組織の粘弾性又は全身の酸素レベルの推定方法、推定装置及び推定プログラム
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  • 特許-肥満レベルの推定方法、推定装置及び推定プログラム、並びに、皮下組織の粘弾性又は全身の酸素レベルの推定方法、推定装置及び推定プログラム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-29
(45)【発行日】2024-02-06
(54)【発明の名称】肥満レベルの推定方法、推定装置及び推定プログラム、並びに、皮下組織の粘弾性又は全身の酸素レベルの推定方法、推定装置及び推定プログラム
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/00 20060101AFI20240130BHJP
   A61B 8/08 20060101ALI20240130BHJP
【FI】
A61B5/00 M
A61B5/00 G
A61B8/08
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019163640
(22)【出願日】2019-09-09
(65)【公開番号】P2021040792
(43)【公開日】2021-03-18
【審査請求日】2022-07-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000113470
【氏名又は名称】ポーラ化成工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137338
【弁理士】
【氏名又は名称】辻田 朋子
(74)【代理人】
【識別番号】100196313
【弁理士】
【氏名又は名称】村松 大輔
(72)【発明者】
【氏名】水越 興治
(72)【発明者】
【氏名】▲浜▼中 祥弘
【審査官】門田 宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-159798(JP,A)
【文献】特開2019-146897(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/00 - 5/398
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮下組織の粘弾性と肥満レベルとの間の相関関係を利用して、前記皮下組織の粘弾性を指標として前記肥満レベルを推定することを特徴とする、肥満レベルの推定方法であって、
前記肥満レベルは、皮下組織の粘弾性の測定値を説明変数、肥満レベルの評価値を目的変数とする回帰式を用いて算出し、
前記皮下組織の粘弾性の測定は、皮下組織の粘性及び弾性の両方を測定することを特徴とし、
前記皮下組織の粘弾性が、皮下組織上層の粘弾性であることを特徴とし、
前記皮下組織の粘弾性は、超音波エラストグラフィにより測定されたものであることを特徴とする、肥満レベルの推定方法。
【請求項2】
前記皮下組織の粘弾性が、皮下組織を深さ方向に1:2:1の比率で分割したとき、一番上層に位置し、真皮に接する皮下組織上層の粘弾性であることを特徴とする、請求項1記載の肥満レベルの推定方法。
【請求項3】
前記皮下組織の粘弾性は、超音波エラストグラフィにより測定された皮下組織上層のヤング率又はひずみにより評価されることを特徴とする、請求項1に記載の肥満レベルの推定方法。
【請求項4】
前記皮下組織の粘弾性は、超音波エラストグラフィにより測定された皮下組織上層のヤング率又はひずみの平均により評価されることを特徴とする、請求項3に記載の肥満レベルの推定方法。
【請求項5】
皮下組織の粘弾性と肥満レベルとの間の相関関係を利用して、前記皮下組織の粘弾性の測定値を指標として前記肥満レベルを推定する肥満レベルの推定装置であって、
前記相関関係を示す相関データを記憶する記憶手段と、
被験者の肌の皮下組織の粘弾性を、前記記憶手段に記憶された前記相関データと照合して、前記肥満レベルを算出する肥満レベル算出手段と、を備え
前記肥満レベルは、皮下組織の粘弾性の測定値を説明変数、肥満レベルの評価値を目的変数とする回帰式を用いて算出し、
前記皮下組織の粘弾性の測定は、皮下組織の粘性及び弾性の両方を測定することを特徴とし、
前記皮下組織の粘弾性が、皮下組織上層の粘弾性であることを特徴とし、
前記皮下組織の粘弾性は、超音波エラストグラフィにより測定されたものであることを特徴とする、肥満レベルの推定装置。
【請求項6】
皮下組織の粘弾性と肥満レベルとの間の相関関係を利用して、前記皮下組織の粘弾性の測定値を指標として前記肥満レベルを推定する肥満レベルの推定プログラムであって、
コンピュータを、
被験者の肌の皮下組織の粘弾性を、前記相関関係を示す相関データと照合して、前記肥満レベルを算出する肥満レベル算出手段として、
機能させることを特徴とし、
前記肥満レベルは、皮下組織の粘弾性の測定値を説明変数、肥満レベルの評価値を目的変数とする回帰式を用いて算出し、
前記皮下組織の粘弾性の測定値は、皮下組織の粘性及び弾性の両方を測定することを特徴とし、
前記皮下組織の粘弾性が、皮下組織上層の粘弾性であることを特徴とし、
前記皮下組織の粘弾性は、超音波エラストグラフィにより測定されたものであることを特徴とする、肥満レベルの推定プログラム。
【請求項7】
皮下組織の粘弾性と肥満レベルとの間の相関関係を利用して、前記肥満レベルを指標として皮下組織の粘弾性を推定することを特徴とする、皮下組織の粘弾性の推定方法であって、
前記推定される皮下組織の粘弾性は、肥満レベルの計算値を説明変数、皮下組織の粘弾性の測定値を目的変数とする回帰式を用いて算出することを特徴とし、
前記皮下組織の粘弾性の測定は、皮下組織の粘性及び弾性の両方を測定することを特徴とし、
前記皮下組織の粘弾性が、皮下組織上層の粘弾性であることを特徴とし、
前記皮下組織の粘弾性は、超音波エラストグラフィにより測定されたものであることを特徴とする、皮下組織の粘弾性の推定方法。
【請求項8】
前記回帰式の目的変数である、皮下組織の粘弾性の測定値は、
前記皮下組織上層の粘弾性の平均を超音波エラストグラフィにより測定することを特徴とする、請求項に記載の皮下組織の粘弾性の推定方法。
【請求項9】
前記肥満レベルは、ボディマス指数(BMI)を指標とすることを特徴とする、請求項7又は8に記載の粘弾性推定方法。
【請求項10】
皮下組織の粘弾性と肥満レベルとの間の相関関係を利用して、前記肥満レベルを指標として皮下組織の粘弾性を推定する皮下組織の粘弾性の推定装置であって、
前記相関関係を示す相関データを記憶する記憶手段と、
被験者の肥満レベルを、前記記憶手段に記憶された前記相関データと照合して、前記粘弾性を算出する粘弾性算出手段と、を備え、
前記推定される皮下組織の粘弾性は、肥満レベルの計算値を説明変数、皮下組織の粘弾性の測定値を目的変数とする回帰式を用いて算出することを特徴とし、
前記皮下組織の粘弾性の測定は、皮下組織の粘性及び弾性の両方を測定することを特徴とし、
前記皮下組織の粘弾性が、皮下組織上層の粘弾性であることを特徴とし、
前記皮下組織の粘弾性は、超音波エラストグラフィにより測定されたものであることを特徴とする、皮下組織の粘弾性の推定装置。
【請求項11】
皮下組織の粘弾性と肥満レベルとの間の相関関係を利用して、前記肥満レベルを指標として皮下組織の粘弾性を推定する皮下組織の粘弾性の推定プログラムであって、
コンピュータを、
被験者の肥満レベルを、前記相関関係を示す相関データと照合して、前記粘弾性を算出する粘弾性算出手段として、機能させ、
前記推定される皮下組織の粘弾性は、肥満レベルの計算値を説明変数、皮下組織の粘弾性の測定値を目的変数とする回帰式を用いて算出することを特徴とし、
前記皮下組織の粘弾性の測定値は、皮下組織の粘性及び弾性の両方を測定することを特徴とし、
前記皮下組織の粘弾性が、皮下組織上層の粘弾性であることを特徴とし、
前記皮下組織の粘弾性は、超音波エラストグラフィにより測定されたものであることを特徴とする、皮下組織の粘弾性の推定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮下組織の粘弾性又は全身の酸素レベルを指標とする肥満レベルの推定方法、推定装置及び推定プログラムに関する。
また、本発明は、肥満レベルを指標とする皮下組織の粘弾性又は全身の酸素レベルの推定方法、推定装置及び推定プログラムにも関する。
【背景技術】
【0002】
加齢に伴う肌の老化現象、すなわち皺、たるみ、しみなどの外見上の変化は、皮膚の内部構造の生理化学的変化に起因する。近年、このような肌の老化現象の抑制を目的として、皮膚の内部構造における加齢変化のメカニズム解明に関心が集まっている。
【0003】
皮膚は、大きく分けて表皮、真皮、そして皮下組織の3層よりなる。表皮はさらに角質層、顆粒層、有棘層及び基底層の4つの層に分類でき、下層に位置する真皮は乳頭層、乳頭下層及び網状層の3つの層に分類できる。これら表皮、真皮を支える役割を担うのが皮下組織である。
【0004】
皮下組織の大部分は脂肪細胞が集塊を形成した脂肪小葉から構成される皮下脂肪であり、保温や外力に対する緩衝作用などを有する。脂肪小葉はコラーゲン線維やエラスチン線維などの結合組織等によって周囲が網目状に取り囲まれることで、線維構造を形成する。
【0005】
皮膚の硬さなどを判断する手法として古くは触診が行われていたが、超音波エラストグラフィ技術(例えば特許文献1)の発展により、皮膚を構成するそれぞれの層の物理学的特性、とりわけ粘弾性の定量的測定が可能となっている。
【0006】
ところで、体組織の線維化を病理的に診断する方法として、生体組織診断(いわゆる「生検」)が一般に行われる。しかし、生検は被検者への侵襲を伴うことから頻回に行うことは困難であった。超音波エラストグラフィを原理とした「フィブロスキャン」では、肝線維化の評価を非侵襲的に行うことが可能であると開示されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特表2009-539528号公報
【文献】国際公開2011/081214号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の解決しようとする課題は、皮下組織の粘弾性又は全身の酸素レベルと、肥満レベルの推定を可能とする、新規な技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らの鋭意研究の結果、皮下組織の粘弾性又は全身の酸素レベルと、肥満レベルとの間には相関関係があることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、上記課題を解決する本発明は、皮下組織の粘弾性又は全身の酸素レベルと、肥満レベルと、の間の相関関係を利用して、前記皮下組織の粘弾性又は前記全身の酸素レベルを指標として前記肥満レベルを推定することを特徴とする、肥満レベルの推定方法である。
本発明によれば、皮下組織の粘弾性又は全身の酸素レベルという物理特性ないし生理特性から、肥満レベルを推定することができる。
【0011】
本発明の好ましい形態では、皮下組織の粘弾性又は全身の酸素レベルの測定値を説明変数、肥満レベルの評価値を目的変数とする回帰式を用いて、前記皮下組織の粘弾性又は前記全身の酸素レベルの測定値から前記肥満レベルを算出することを特徴とする。
予め用意した回帰式を用いることで、より正確に肥満レベルを推定することができる。
【0012】
本発明の好ましい形態では、前記皮下組織の粘弾性を、超音波エラストグラフィにより測定することを特徴とする。
これにより、非侵襲的かつ定量的に皮下組織の粘弾性の測定結果を得ることができ、より精度よく肥満レベルを推定することができる。
【0013】
本発明の好ましい形態では、前記粘弾性が皮下組織上層の粘弾性であることを特徴とする。
特に皮下組織上層の粘弾性を指標とすることで、より正確に肥満レベルを推定することができる。
【0014】
本発明の好ましい形態では、前記全身の酸素レベルを、パルスオキシメーターにより測定することを特徴とする。
これにより、非侵襲的かつ定量的に全身の酸素レベルの測定結果を得ることができ、より精度よく肥満レベルを推定することができる。
【0015】
また、本発明は、皮下組織の粘弾性又は全身の酸素レベルと、肥満レベルと、の間の相関関係を利用して、前記皮下組織の粘弾性又は前記全身の酸素レベルの測定値を指標として前記肥満レベルを推定する肥満レベルの推定装置にも関する。
本発明の肥満レベル推定装置は、
前記相関関係を示す相関データを記憶する記憶手段と、
被験者の肌の皮下組織の粘弾性又は全身の酸素レベルを、前記記憶手段に記憶された前記相関データと照合して、前記肥満レベルを算出する肥満レベル算出手段と、を備えることを特徴とする。
【0016】
また、本発明は、皮下組織の粘弾性又は全身の酸素レベルと、肥満レベルと、の間の相関関係を利用して、前記皮下組織の粘弾性又は前記全身の酸素レベルの測定値を指標として前記肥満レベルを推定する肥満レベルの推定プログラムにも関する。
本発明の肥満レベル推定プログラムは、
コンピュータを、
被験者の肌の皮下組織の粘弾性又は全身の酸素レベルを、前記相関関係を示す相関データと照合して、前記肥満レベルを算出する肥満レベル算出手段として、
機能させることを特徴とする。
【0017】
また、本発明は、皮下組織の粘弾性又は全身の酸素レベルと、肥満レベルと、の間の相関関係を利用して、前記肥満レベルを指標として皮下組織の粘弾性又は全身の酸素レベルを推定することを特徴とする、皮下組織の粘弾性又は全身の酸素レベルの推定方法にも関する。
本発明は、上述した肥満レベルの推定方法と表裏をなすものである。本発明によれば、肥満レベルという生理学的特性から、皮下組織の粘弾性又は全身の酸素レベルを推定することができる。
【0018】
本発明の好ましい形態では、肥満レベルの計算値を説明変数、皮下組織の粘弾性又は全身の酸素レベルの測定値を目的変数とする回帰式を用いて、前記肥満レベルの計算値から皮下組織の粘弾性又は全身の酸素レベルを算出することを特徴とする。
予め用意した回帰式を用いることで、より正確に皮下組織の粘弾性又は全身の酸素レベルを推定することができる。
【0019】
本発明の好ましい形態では、前記肥満レベルは、ボディマス指数(BMI)を指標とすることを特徴とする。
これにより、非侵襲的かつ定量的に肥満レベルの計算値を得ることができ、より精度よく安全に皮下組織の粘弾性又は全身の酸素レベルを推定することができる。
【0020】
本発明の好ましい形態では、前記粘弾性が皮下組織上層の粘弾性であることを特徴とする。
本発明は、特に皮下組織上層の粘弾性の推定に有用である。
【0021】
また、本発明は、皮下組織の粘弾性又は全身の酸素レベルと、肥満レベルと、の間の相関関係を利用して、前記肥満レベルを指標として皮下組織の粘弾性又は全身の酸素レベルを推定する皮下組織の粘弾性又は全身の酸素レベルの推定装置にも関する。
本発明の粘弾性又は全身の酸素レベルの推定装置は、
前記相関関係を示す相関データを記憶する記憶手段と、
被験者の肥満レベルを、前記記憶手段に記憶された前記相関データと照合して、前記粘弾性又は酸素レベルを算出する粘弾性又は酸素レベル算出手段と、を備えることを特徴とする。
【0022】
また、本発明は、皮下組織の粘弾性又は全身の酸素レベルと、肥満レベルと、の間の相関関係を利用して、前記肥満レベルを指標として皮下組織の粘弾性又は全身の酸素レベルを推定する皮下組織の粘弾性又は全身の酸素レベルの推定プログラムにも関する。
本発明の粘弾性又は全身の酸素レベルの推定プログラムは、
コンピュータを、
被験者の肥満レベルを、前記相関関係を示す相関データと照合して、前記粘弾性又は酸素レベルを算出する粘弾性又は酸素レベル算出手段として、
機能させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、皮下組織の粘弾性又は全身の酸素レベルから、肥満レベルを推定することができる。
また、本発明によれば、肥満レベルから、皮下組織の粘弾性又は全身の酸素レベルを推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の肥満レベル推定装置の一実施形態を示すハードウェアブロック図である。
図2】本発明の粘弾性又は酸素レベル推定装置の一実施形態を示すハードウェアブロック図である。
図3】肥満により皮下組織の粘弾性が低下することを示すグラフである。
図4】肥満により全身の酸素レベルが悪化することを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
<1>肥満レベルの推定方法
以下、本発明の実施の形態について詳述する。
皮下組織の粘弾性(以下、単に粘弾性ともいう)と脂肪細胞を包む線維構造の肥満レベル(以下、単に肥満レベルともいう)との間には、負の相関関係が成立する。つまり、肥満レベルが高いほど、粘弾性が低下する関係にある。
また、全身の酸素レベル(以下、単に酸素レベルともいう)と肥満レベルとの間にも、負の相関関係が成立する。つまり、肥満レベルが高いほど、酸素レベルが低下する関係にある。
本発明は、かかる相関関係を利用して、粘弾性又は酸素レベルから肥満レベルを推定する。
【0026】
皮下組織は、粘弾性が略均一な部分ごとに、深さ方向について大きく3つの層に分類することができる。具体的には、皮下組織を深さ方向に1:2:1の比率で分割したとき、一番上に位置する層(真皮に接する層)のことを皮下組織上層という。
本発明においては、真皮に最も近い層である皮下組織上層の粘弾性を指標とすることが好ましい。
【0027】
上記相関関係は好ましくは式またはモデルで示される。式またはモデルとしては、単回帰式又は単回帰モデルが好ましく挙げられる。
【0028】
粘弾性は、粘性と弾性の両方を合わせた性質のことをいう。したがって、粘弾性の評価に当たっては粘性と弾性の両方を評価することになる。しかし、生体組織においては粘性と弾性を明確に区別することは困難であり、粘弾性は主として弾性率(ヤング率)により評価されることが一般的である。
また、フックの法則(下記式1)に基づき、粘弾性を「ひずみ」により評価してもよい。
【0029】
【数1】
式1
【0030】
そのため、本発明において指標とされる粘弾性は、弾性率(ヤング率)又はひずみとして算出される形態としてもよい。
上述の回帰式又は回帰モデルの作成に当たっても、説明変数を皮下組織のヤング率又はひずみ、目的変数を肥満レベルと置いてよい。
【0031】
肥満レベルは、ヒトの肥満度を表す体格指数として表されることが好ましい。このような体格指数としては、一般に成人に対して用いられるボディマス指数(Body Mass Index;BMI、又はケトレー指数)、6~12歳程度の子供に対して用いられるローレル指数(Rohrer Index)、乳幼児に対して用いられるカウプ指数(Kaup Index)、BMIを改良したボディ・シェイプ・インデックス(A Body Shape Index)などを例示することができる。その中でも、BMIとして表されることが特に好ましい。
【0032】
ここで、皮下組織の粘弾性は超音波エラストグラフィにより測定することができる。超音波エラストグラフィの手法としては、外部から応力σを加えて肌を変形させてひずみε測定し、フックの法則よりヤング率Eを求めるストレイン・イメージングや、肌にせん断波を伝搬させ、その伝搬速度Cを測定することでヤング率Eを求めるシアウェーブ・イメージングなど公知の手法を制限なく用いることができる。
【0033】
超音波エラストグラフィ装置としては、例えば日立製作所製「ARIETTA E70」や「Noblus」、シーメンスヘルスケア製「アキュソンS2000e」などを用いることができる。
【0034】
超音波エラストグラフィによれば、肌の内部断面における粘弾性(ヤング率(機種によってはひずみ))の分布を画像として得ることができる。本発明の実施に当たっては皮下組織に不均一に分布する粘弾性の平均を測定値として用いてもよい。
【0035】
皮下組織の粘弾性の測定に当たっては、皮下組織を深さ方向について上層、中層、下層の3層に分け、それぞれの層における粘弾性の平均を求める形態とすることが好ましい。特に皮下組織上層の粘弾性の平均を測定値として用いて、肥満レベルを推定する実施の形態とすることが好ましい。
【0036】
酸素レベルは、全身を循環する動脈血中の酸素飽和度を指す。酸素レベルの測定方法は特に限定されず、動脈血を直接採血して動脈血酸素飽和度(SaO)を測定してもよいし、パルスオキシメーター等の測定装置を用いて経皮的酸素飽和度(SpO)を測定してもよいが、侵襲性や簡便さの観点から、パルスオキシメーター等の測定装置を用いて測定することがより好ましい。
【0037】
このように、本発明において指標とされる全身の酸素レベルは、上述の方法で測定される酸素レベルを評価値とする形態としてもよい。
上述の回帰式又は回帰モデルの作成に当たっても、説明変数を全身の酸素レベルの評価値、目的変数を肥満レベルと置いてよい。
【0038】
<2>皮下組織の粘弾性又は全身の酸素レベルの推定方法
上述したとおり、皮下組織の粘弾性と肥満レベルとの間には、負の相関関係が成立する。
また、全身の酸素レベルと肥満レベルとの間にも、負の相関関係が成立する。
本発明は、かかる相関関係を利用して肥満レベルから皮下組織の粘弾性又は全身の酸素レベルを推定する。
上記相関関係は好ましくは式またはモデルで示される。式またはモデルとしては、単回帰式又は単回帰モデルが好ましく挙げられる。
【0039】
本発明において指標とされる肥満レベルは、BMIの計算値とする形態が好ましい。BMIは、身長(m)の2乗に対する体重(kg)の比として算出することができる。
【0040】
なお、上記<1>の項目及び本項目において、推定のための指標としての粘弾性、酸素レベル、肥満レベルの測定ないし算出の方法を説明した。この説明は、回帰式又は回帰モデルを作成するための粘弾性、酸素レベル、肥満レベルの測定ないし算出の方法にも妥当する。
【0041】
<3>肥満レベルの推定装置
以下、肥満レベルの推定装置について図1を参照しながら説明を加える。なお、本発明の肥満レベルの推定装置は、上記<1>の項目で説明した肥満レベルの推定方法を実施するための装置である。したがって、上記<1>の項目の説明は、以下の肥満レベルの推定装置に関しても妥当する。
【0042】
本発明の肥満レベルの推定装置1は、皮下組織の粘弾性又は全身の酸素レベルと、肥満レベルとの相関関係を示す肥満レベル相関データを記憶する記憶手段121と、被験者の肌の皮下組織の粘弾性又は全身の酸素レベルを、記憶手段121に記憶された肥満レベル相関データと照合して、前記肥満レベルを算出する肥満レベル算出手段112と、を備える。
【0043】
図1に示すように、肥満レベルの推定装置1は、粘弾性又は酸素レベル測定部13、記憶手段121を備えるROM(Read Only Memory)12、肥満レベル算出手段112を備えるCPU(Central Processing Unit)11、及び肥満レベル表示部14を有している。
【0044】
本発明の好ましい実施の形態では、粘弾性又は酸素レベル測定部13により測定された被験者の肌の皮下組織の粘弾性又は全身の酸素レベルを数値化する数値化手段111を備えることが好ましい。CPU11が数値化手段111を備える。
【0045】
肥満レベル表示部14は、肥満レベル算出手段112が算出した肥満レベルの推定値を表示するディスプレイである。
【0046】
このような構成とした本発明の肥満レベルの推定装置1は、被験者の肌の皮下組織の粘弾性又は全身の酸素レベルを測定するだけで、容易に被験者の肥満レベルを算出することができる。
【0047】
なお、他の実施形態では、粘弾性又は酸素レベル測定部13及び数値化手段111に代えて、別途測定した粘弾性又は酸素レベルの測定値を入力する、粘弾性又は酸素レベル入力部を備えていてもよい。
【0048】
<4>肥満レベルの推定プログラム
本発明は上述の肥満レベルの推定方法をコンピュータに実行させる肥満レベルの推定プログラムにも関する。本発明のプログラムは、上述した本発明の肥満レベルの推定装置に含まれるCPUにおける各手段に対応するため、図1の符号を付しながら説明する。
【0049】
本発明の肥満レベルの推定プログラムは、被験者の肌の皮下組織の粘弾性又は全身の酸素レベルを、皮下組織の粘弾性又は全身の酸素レベルと肥満レベルとの相関関係を示す肥満レベル相関データと照合して、前記肥満レベルを算出する肥満レベル算出手段112として、コンピュータを機能させることを特徴とする。
【0050】
本発明の肥満レベルの推定プログラムは、図1のブロック図に示すように、コンピュータを数値化手段111として機能させるように構成することが好ましい。
【0051】
<5>皮下組織の粘弾性又は全身の酸素レベルの推定装置
以下、皮下組織の粘弾性又は全身の酸素レベルの推定装置について図2を参照しながら説明を加える。なお、本発明の皮下組織の粘弾性又は全身の酸素レベルの推定装置は、上記<2>の項目で説明した皮下組織の粘弾性又は全身の酸素レベルの推定方法を実施するための装置である。したがって、上記<2>の項目の説明は、以下の皮下組織の粘弾性又は全身の酸素レベルの推定装置に関しても妥当する。
【0052】
本発明の皮下組織の粘弾性又は全身の酸素レベルの推定装置2は、皮下組織の粘弾性又は全身の酸素レベルと、肥満レベルとの相関関係を示す粘弾性又は酸素レベル相関データを記憶する記憶手段221と、被験者の肥満レベルを、記憶手段221に記憶された粘弾性又は酸素レベル相関データと照合して、前記粘弾性又は酸素レベルを算出する粘弾性又は酸素レベル算出手段212と、を備える。
【0053】
図2に示すように、皮下組織の粘弾性又は全身の酸素レベルの推定装置2は、肥満レベル計算部23、記憶手段221を備えるROM22、粘弾性又は酸素レベル算出手段212を備えるCPU21、及び粘弾性又は酸素レベル表示部24を有している。
【0054】
本発明の好ましい実施の形態では、肥満レベル計算部23により計算された被験者の肥満レベルを数値化する数値化手段211を備えることが好ましい。CPU21が数値化手段211を備える。
【0055】
粘弾性又は酸素レベル表示部24は、粘弾性又は酸素レベル算出手段212が算出した皮下組織の粘弾性又は全身の酸素レベルの推定値を表示するディスプレイである。
【0056】
このような構成とした本発明の皮下組織の粘弾性又は全身の酸素レベルの推定装置2は、被験者の肥満レベルを測定するだけで、容易に被験者の皮下組織の粘弾性又は全身の酸素レベルを算出することができる。
【0057】
なお、他の実施形態では、肥満レベル計算部23及び数値化手段211に代えて、別途計算した肥満レベルの計算値を入力する、肥満レベル入力部を備えていてもよい。
【0058】
<6>皮下組織の粘弾性又は全身の酸素レベルの推定プログラム
本発明は上述の皮下組織の粘弾性又は全身の酸素レベルの推定方法をコンピュータに実行させる皮下組織の粘弾性又は全身の酸素レベルの推定プログラムにも関する。本発明のプログラムは、上述した本発明の粘弾性又は酸素レベル推定装置に含まれるCPUにおける各手段に対応するため、図2の符号を付しながら説明する。
【0059】
本発明の皮下組織の粘弾性又は全身の酸素レベルの推定プログラムは、被験者の肥満レベルを、皮下組織の粘弾性又は全身の酸素レベルと、肥満レベルとの相関関係を示す粘弾性又は酸素レベル相関データと照合して、前記粘弾性又は酸素レベルを算出する粘弾性又は酸素レベル算出手段212として、コンピュータを機能させることを特徴とする。
【0060】
本発明の粘弾性又は酸素レベル推定プログラムは、図2のブロック図に示すように、コンピュータを数値化手段211として機能させるように構成することが好ましい。
【実施例
【0061】
<試験例1>粘弾性及び酸素飽和度の測定とBMIの算出
60名の被験者に対し、エラストグラフィ(日立製作所製)を用いて皮膚内部のエラストグラフィ画像を取得し、粘弾性を測定した。なお、粘弾性の測定については、測定エリアを皮膚の表層部分(真皮)と、皮下組織上層、皮下組織中層及び皮下組織下層の合計4層に分け、層別の相対的な粘弾性を算出した。皮下組織上層、皮下組織中層及び皮下組織下層については、皮下組織を深さ方向において1:2:1の比率で分割することで設定した。
【0062】
次に、同被験者に対し、パルスオキシメーター(コニカミノルタ社製)を用いて動脈血の酸素飽和度を測定した。
【0063】
そして、同被験者について、身長及び体重の測定を行い、これらの測定値に基づきBMIを算出した。
【0064】
<試験例2>回帰分析
試験例1で得られた粘弾性と酸素飽和度の各測定値、及び算出したBMIについて、それぞれ回帰分析を行った。結果を図3及び4に示す。
【0065】
図3に示すように、粘弾性とBMIの間には、負の相関関係が成立することが確認された。また、図4に示すように、酸素飽和度とBMIの間にも、負の相関関係が成立することが確認された。
【0066】
これらの結果より、皮下組織の粘弾性又は全身の酸素レベルを指標として、肥満レベルを推定できることが示された。同様に、肥満レベルを指標として、皮下組織の粘弾性又は全身の酸素レベルを推定できることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明は肌解析技術に応用することができる。
【符号の説明】
【0068】
1 肥満レベル推定装置
11 CPU
111 数値化手段
112 肥満レベル算出手段
12 ROM
121 記憶手段
13 粘弾性又は酸素レベル測定部
14 肥満レベル表示部
2 粘弾性又は酸素レベル推定装置
21 CPU
211 数値化手段
212 粘弾性又は酸素レベル算出手段
22 ROM
221 記憶手段
23 肥満レベル計算部
24 粘弾性又は酸素レベル表示部

図1
図2
図3
図4