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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-29
(45)【発行日】2024-02-06
(54)【発明の名称】エンジン
(51)【国際特許分類】
   F02D 19/08 20060101AFI20240130BHJP
   F02D 19/06 20060101ALI20240130BHJP
   F02D 41/04 20060101ALI20240130BHJP
   F02D 41/14 20060101ALI20240130BHJP
   F02D 41/20 20060101ALI20240130BHJP
   F02D 41/38 20060101ALI20240130BHJP
   F02D 45/00 20060101ALI20240130BHJP
【FI】
F02D19/08 C
F02D19/06 B
F02D41/04
F02D41/14
F02D41/20
F02D41/38
F02D45/00 362
F02D45/00 364
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018127456
(22)【出願日】2018-07-04
(65)【公開番号】P2020007923
(43)【公開日】2020-01-16
【審査請求日】2021-01-12
【審判番号】
【審判請求日】2022-11-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000006781
【氏名又は名称】ヤンマーパワーテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118784
【弁理士】
【氏名又は名称】桂川 直己
(72)【発明者】
【氏名】洞井 正義
【合議体】
【審判長】河端 賢
【審判官】倉橋 紀夫
【審判官】吉村 俊厚
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/029760(WO,A1)
【文献】特開平11-50871(JP,A)
【文献】特開2000-80941(JP,A)
【文献】特開2008-215127(JP,A)
【文献】特開2017-8897(JP,A)
【文献】特開2009-203816(JP,A)
【文献】特開2009-287479(JP,A)
【文献】特開2014-98347(JP,A)
【文献】特開2001-280172(JP,A)
【文献】特開2017-20445(JP,A)
【文献】特開2010-14112(JP,A)
【文献】特開2012-154180(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 19/08
F02D 19/06
F02D 41/04
F02D 41/14
F02D 41/20
F02D 41/38
F02D 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
気体燃料を空気と混合させてから燃焼室に流入させて燃焼させるガスモードと、液体燃料を前記燃焼室内に噴射して燃焼させるディーゼルモードと、を切替可能なエンジンにおいて、
前記ガスモードにおいて、着火のための液体燃料であるパイロット燃料を前記燃焼室に供給するパイロット噴射弁と、
エンジントルクを検出するトルクセンサと、
前記トルクセンサが検出した前記エンジントルクの時間あたりの上昇量であるトルク変動が第1閾値以上の場合は、当該トルク変動が第1閾値より小さい場合と比較して、前記パイロット燃料の噴射量を増加させる増量制御を行う制御装置と、
を備えることを特徴とするエンジン。
【請求項2】
請求項1に記載のエンジンであって、
エンジン回転速度を検出する回転速度センサを備え、
前記制御装置は、前記トルク変動が大きくなるに連れて前記パイロット燃料の噴射量を増加させるとともに、前記回転速度センサが検出した前記エンジン回転速度の時間あたりの低下量である回転速度変動が大きくなるに連れて前記パイロット燃料の噴射量を増加させることを特徴とするエンジン。
【請求項3】
請求項2に記載のエンジンであって、
ポンプによって送られた高圧のパイロット燃料を貯留するコモンレールと、
前記コモンレール内の前記パイロット燃料の圧力であるレール圧を検出するレール圧センサと、
を備え、
前記制御装置は、
前記レール圧センサが検出した前記レール圧を目標レール圧に近づける制御を行い、
前記トルク変動が大きくなるに連れて前記目標レール圧を上昇させるとともに、前記回転速度変動が大きくなるに連れて前記目標レール圧を上昇させることを特徴とするエンジン。
【請求項4】
請求項2に記載のエンジンであって、
ポンプによって送られた高圧のパイロット燃料を貯留するコモンレールと、
前記コモンレール内の前記パイロット燃料の圧力であるレール圧を検出するレール圧センサと、
を備え、
前記制御装置は、
前記レール圧センサが検出した前記レール圧を目標レール圧に近づける制御を行い、
パイロット燃料の噴射量が多くなるに連れて前記目標レール圧を上昇させることを特徴とするエンジン。
【請求項5】
請求項2から4までの何れか一項に記載のエンジンであって、
前記制御装置は、前記トルク変動が大きくなるに連れて前記パイロット燃料の噴射タイミングのリタード量を増加させるとともに、前記回転速度変動が大きくなるに連れて前記リタード量を増加させることを特徴とするエンジン。
【請求項6】
請求項2から5までの何れか一項に記載のエンジンであって、
前記制御装置は、前記回転速度変動が第2閾値以下になった場合、前記増量制御を停止することを特徴とするエンジン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多種燃料採用型のエンジンに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、軽油、バイオディーゼル、又は重油等である第1の燃料(液体燃料)と、天然ガス等である第2の燃料(気体燃料)と、の何れかを用いて動力を発生させるエンジン(デュアルフューエルエンジン)が記載されている。特許文献1では、天然ガスと空気を混合させた後に、重油を用いてパイロット噴射を行うことで、天然ガスと空気の混合気を着火させることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5204042号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
エンジンは、様々な要因によりトルク変動が生じ、その結果、エンジン回転速度が一時的に低下する。この点、特許文献1には、トルク変動が生じた場合の対応について言及されていない。
【0005】
本発明は以上の事情に鑑みてされたものであり、その主要な目的は、多種燃料採用型のエンジンにおいて、トルク変動が生じた場合のエンジン回転速度の低下を抑制するエンジンを提供することにある。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0006】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0007】
本発明の観点によれば、以下の構成のエンジンが提供される。即ち、このエンジンは、気体燃料を空気と混合させてから燃焼室に流入させて燃焼させるガスモードと、液体燃料を前記燃焼室内に噴射して燃焼させるディーゼルモードと、を切替可能である。このエンジンは、パイロット噴射弁と、トルクセンサと、制御装置と、を備える。前記パイロット噴射弁は、前記ガスモードにおいて、着火のための液体燃料であるパイロット燃料を前記燃焼室に供給する。前記トルクセンサは、エンジントルクを検出する。前記制御装置は、前記トルクセンサが検出した前記エンジントルクの時間あたりの上昇量であるトルク変動が第1閾値以上の場合は、当該トルク変動が第1閾値より小さい場合と比較して、前記パイロット燃料の噴射量を増加させる増量制御を行う。
【0008】
これにより、様々な要因によりトルク変動が上昇した場合であっても、それに応じてパイロット燃料の噴射量を増加させることで、エンジン回転速度が大幅に低下することを抑制できる。
【0009】
前記のエンジンにおいては、以下の構成とすることが好ましい。即ち、このエンジンは、エンジン回転速度を検出する回転速度センサを備える。前記制御装置は、前記トルク変動が大きくなるに連れて前記パイロット燃料の噴射量を増加させるとともに、前記回転速度センサが検出した前記エンジン回転速度の時間あたりの低下量である回転速度変動が大きくなるに連れて前記パイロット燃料の噴射量を増加させる。
【0010】
これにより、トルク変動と回転速度変動の両方を考慮してパイロット燃料の噴射量が決定されるため、エンジン回転速度の低下をより適切に抑制できる。
【0011】
前記のエンジンにおいては、以下の構成とすることが好ましい。即ち、このエンジンは、コモンレールと、レール圧センサと、を備える。前記コモンレールは、ポンプによって送られた高圧のパイロット燃料を貯留する。前記レール圧センサは、前記コモンレール内の前記パイロット燃料の圧力であるレール圧を検出する。前記制御装置は、前記レール圧センサが検出した前記レール圧を目標レール圧に近づける制御を行う。前記制御装置は、前記トルク変動が大きくなるに連れて前記目標レール圧を上昇させるとともに、前記回転速度変動が大きくなるに連れて前記目標レール圧を上昇させる。
【0012】
なお、前記のエンジンにおいては、パイロット燃料の噴射量が多くなるに連れて前記目標レール圧を上昇させることもできる。
【0013】
これらの構成では、パイロット燃料の噴射量の増加に伴ってレール圧が低下するが、それに応じて目標レール圧を上昇させることで、レール圧を早期に上昇させるとともに、レール圧が大幅に低下することを抑制できる。
【0014】
前記のエンジンにおいては、前記制御装置は、前記トルク変動が大きくなるに連れて前記パイロット燃料の噴射タイミングのリタード量を増加させるとともに、前記回転速度変動が大きくなるに連れて前記リタード量を増加させることが好ましい。
【0015】
これにより、ノッキングの発生を抑制できる。
【0016】
前記のエンジンにおいては、前記制御装置は、前記回転速度変動が第2閾値以下になった場合、前記増量制御を停止することが好ましい。
【0017】
これにより、負荷の変化に敏感に反応するトルクに基づいて増量制御の開始タイミングが決定され、制御の目的となる値であるエンジン回転速度に基づいて増量制御の終了タイミングが決定される。そのため、増量制御を適切な期間に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施形態に係るエンジンを概略的に示す図。
図2】エンジンの吸排気の流れ及び液体燃料の流れを示す模式図。
図3】トルク変動対応制御を行うための電気的な構成を示すブロック図。
図4】トルク変動対応制御を示すフローチャート。
図5】補正噴射量、リタード量、及び補正レール圧の大きさを概略的に示すマップ。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。初めに、図1及び図2を参照して、エンジン1の概要について説明する。図1は、本発明の一実施形態に係るエンジン1を概略的に示す図である。図2は、エンジン1の吸排気の流れ及び液体燃料の流れを示す模式図である。
【0020】
本実施形態のエンジン1は、天然ガス等の気体燃料を空気と混合させてから燃焼室に流入させるガスモード(予混合燃焼モード、気体燃料モード)と、重油等の液体燃料を燃焼室内に噴射して燃焼させるディーゼルモード(拡散燃焼モード、液体燃料モード)と、を切替可能に構成されている。このように本実施形態のエンジン1は、気体燃料と液体燃料の2種類の燃料に対応可能であるため、デュアルフューエルエンジンである。エンジン1は、例えば、船舶の推進用のエンジン(主機)、船舶の発電用のエンジン(補機)、船舶以外の乗物用のエンジン、又は、陸上に設置される発電用のエンジン等である。
【0021】
図1に示すように、エンジン1は、エンジン本体10と、液体燃料タンク91と、液化気体燃料タンク92と、気化装置93と、を備える。
【0022】
エンジン本体10には、液体燃料及び気体燃料の少なくとも一方が供給される。エンジン本体10は、図2に示すように複数のシリンダ20を有しており、それぞれのシリンダ20で液体燃料及び気体燃料の少なくとも一方を燃焼させて動力を発生させる。
【0023】
液体燃料タンク91は、液体燃料を貯留する。液体燃料タンク91の液体燃料は、エンジン本体10へ供給される。
【0024】
液化気体燃料タンク92は、液化気体燃料(液化した気体燃料、例えばLNG)を貯留する。液化気体燃料タンク92の液化気体燃料は、気化装置93へ供給される。気化装置93は、液化気体燃料を気化し、この気体燃料をエンジン本体10へ供給する。
【0025】
図2に示すように、エンジン1は、吸気管11と、吸気マニホールド12と、吸気枝管13と、を備える。吸気管11は、外部から吸入された空気(外気、吸気)が流れる吸気経路を構成している。吸気経路には、例えば、エアクリーナ、過給機、及び吸気スロットル等が配置される。吸気管11の空気流れ方向の下流側には吸気マニホールド12が接続されている。吸気マニホールド12は、吸気管11から供給された空気をそれぞれのシリンダ20に分配する。具体的には、吸気マニホールド12には、シリンダ20の数と同数の吸気枝管13が接続されている。吸気マニホールド12に供給された空気は、吸気枝管13を介して、それぞれのシリンダ20に分配される。
【0026】
また、複数の吸気枝管13には、それぞれガスインジェクタ15が設けられている。ガスインジェクタ15には、気化装置から供給された気体燃料が図略のガスマニホールド等を介して供給されている。ガスインジェクタ15は、気体燃料を吸気枝管13に噴射する。これにより、空気と気体燃料が混合される。この混合気は、吸気枝管13を介して、シリンダ20の内部の燃焼室へ供給される。なお、ガスインジェクタ15が気体燃料を噴射するのは、エンジン1がガスモードで稼動している間のみであり、エンジン1がディーゼルモードで稼動している間は、ガスインジェクタ15は気体燃料を噴射しない。
【0027】
ガスモードでは、混合気の着火のために、少量の液体燃料が噴射される。また、以下の説明では、ガスモードにおいて着火を目的として供給される液体燃料を特にパイロット燃料と称し、パイロット燃料を噴射することをパイロット噴射と称する。また、パイロット噴射によるパイロット燃料の噴射量をパイロット噴射量と称する。図2に示すように、エンジン1は、パイロット噴射を行うための部品として、パイロット噴射ポンプ(ポンプ)31と、コモンレール32と、パイロット燃料枝管33と、パイロット噴射弁34と、を備える。
【0028】
パイロット噴射ポンプ31は、パイロット燃料を昇圧してコモンレール32へ送る。なお、液体燃料タンク91とパイロット噴射ポンプ31との間には、液体燃料を送る別のポンプが更に設けられていてもよい。パイロット噴射ポンプ31によって送られた高圧のパイロット燃料はコモンレール32に一時的に貯留される。コモンレール32には、シリンダ20の数と同数のパイロット燃料枝管33が接続されている。また、それぞれのパイロット燃料枝管33の先端には、パイロット噴射弁34が接続されている。
【0029】
エンジン1がガスモードとして稼動する場合、パイロット燃料は、混合気が圧縮された適宜のタイミングで、パイロット噴射弁34を介して燃焼室へ噴射される。これにより、混合気が着火して燃焼室で爆発が発生する。この爆発で得られる推進力によって、ピストンがシリンダ20内を往復運動し、ピストンの往復運動がロッドを介してクランク軸の回転運動に変換されて動力が得られる。
【0030】
一方、エンジン1がディーゼルモードとして稼動する場合は、パイロット噴射に加えて又はパイロット噴射の代わりに別系統からのメイン噴射が行われる。具体的には、図2に示すように、エンジン1は、液体燃料供給レール41と、メイン噴射ポンプ42と、メイン噴射弁43と、を備える。
【0031】
液体燃料供給レール41は、液体燃料タンク91から図略のポンプにより供給された液体燃料を一時的に貯留する。液体燃料供給レール41には、シリンダ20の数と同数のメイン噴射ポンプ42が設けられている。また、メイン噴射ポンプ42には、シリンダヘッドに形成された図略の液体燃料供給経路を介して、メイン噴射弁43がそれぞれ接続されている。このメイン噴射弁43によりエンジン1のメイン噴射が行われる。なお、パイロット噴射及びメイン噴射の燃料の供給経路は一例である。
【0032】
エンジン1がディーゼルモードとして稼動する場合、液体燃料は、空気が圧縮された適宜のタイミングで、メイン噴射弁43を介して燃焼室へ噴射される。これにより、液体燃料が着火して燃焼室で爆発が発生する。この爆発で得られる推進力によって、ガスモード時と同様に動力が得られる。
【0033】
ガスモードで稼動した場合にも、ディーゼルモードで稼動した場合にも、燃焼により生じた排気はピストンの運動によりシリンダ20から押し出される。この排気は、排気枝管51を介して排気マニホールド52に集められた後に、排気管53を介して外部へ排出される。
【0034】
次に、エンジン1がガスモードで稼動している場合においてエンジン1のトルク変動が生じた場合のエンジン回転速度の低下を抑制する制御(以下、トルク変動対応制御)について、図3及び図4を参照して説明する。図3は、トルク変動対応制御を行うための電気的な構成を示すブロック図である。図4は、トルク変動対応制御を示すフローチャートである。
【0035】
図3に示す制御装置60は、公知のコンピュータとして構成されており、図示しないCPU等の演算装置と、フラッシュメモリ等の記憶装置と、入出力部等と、を備える。記憶装置には、各種のプログラムやデータが記憶されている。演算装置は、各種プログラム等を記憶装置から読み出して実行することで、エンジン1の各部を制御する。具体的には、制御装置60は、エンジン1の各部に設けられたセンサからデータを取得して、このデータ及び予め定められた設定値等に基づいて、エンジン1の各部品の動作を制御する。
【0036】
図3に示すように、エンジン1は、トルクセンサ61、回転速度センサ62、及びレール圧センサ63を備える。また、図3には、制御装置60の制御対象の一例として、パイロット噴射弁34、メイン噴射弁43、及びパイロット噴射ポンプ31が記載されている。
【0037】
トルクセンサ61は、エンジン1の適宜の位置(例えばクランク軸)に配置されており、エンジン1が出力するトルク(エンジントルク)を検出する。トルクセンサ61は、例えば歪みゲージ式又は磁歪式である。トルクセンサ61は、検出したエンジントルクを制御装置60へ出力する。トルク変動対応制御では、負荷の上昇に伴うエンジントルクの上昇を検出するため、エンジントルクの低下量ではなく上昇量に着目する。つまり、制御装置60は、入力されたエンジントルクの時間あたりの上昇量であるトルク変動を算出する。制御装置60は、直前に検出したエンジントルクに対する現在のエンジントルクの上昇量を算出することでトルク変動を算出する。なお、「直近に検出したエンジントルク」は、瞬時値であってもよいし、過去の所定期間の平均値であってもよい。
【0038】
回転速度センサ62は、エンジン1の適宜の位置(例えばシリンダブロック)に配置されており、エンジン1のエンジン回転速度を検出する。回転速度センサ62は、例えばセンサとパルス発生器により構成され、クランク軸の回転に応じてパルス信号を発生する。回転速度センサ62は、検出したエンジン回転速度を制御装置60へ出力する。トルク変動対応制御では、エンジントルクの上昇に伴いエンジン回転速度が低下するため、エンジン回転速度の上昇量ではなく低下量が重要となる。また、制御装置60は、入力されたエンジン回転速度の時間あたりの低下量(正の値)である回転速度変動を算出する。直前に検出したエンジン回転速度に対する現在のエンジン回転速度の低下量を算出することで回転速度変動が求められる。なお、「直近に検出したエンジン回転速度」は、瞬時値であってもよいし、過去の所定期間の平均値であってもよい。
【0039】
レール圧センサ63は、例えばコモンレール32の内部に配置されており、コモンレール32内の燃料の圧力(以下、レール圧)を検出する。レール圧センサ63は、検出したレール圧を制御装置60へ出力する。
【0040】
次に、トルク変動対応制御の具体的な処理について説明する。制御装置60は、初めに、トルク変動対応制御の開始条件を満たすか否かを判定する(S101)。開始条件としては様々な条件が考えられるが、例えば以下で説明する条件1から条件6のうち1又は複数の条件が用いられる。
【0041】
条件1は、「エンジン1の始動後に所定時間が経過したこと」である。条件2は、「回転速度センサ62が検出したエンジン回転速度が所定範囲以内であること」である。条件3は、「レール圧センサ63が検出したレール圧が所定範囲内であること」である。条件1から3の何れかを満たさない場合、負荷変動(トルク変動)が生じ易くなるため、トルク変動対応制御を行うことが適切ではない可能性がある。
【0042】
条件4は、「トルクセンサ61が正常であること」である。条件5は、「パイロット燃料の供給及び噴射に関連する部品が正常であること」である。条件4は、例えばトルクセンサ61の検出値が正常範囲内か否かに応じて判定される。条件5は、例えばパイロット噴射ポンプ31及びパイロット噴射弁34の自己診断の結果又はレール圧センサ63が検出したレール圧が所定範囲内か否か等に応じて判定される。条件4又は条件5を満たさない場合、トルク変動対応制御を正確に又は適切に行うことができない可能性がある。
【0043】
条件6は、「ディーゼルモードからガスモードへの移行処理の途中ではないこと」である。ディーゼルモードからガスモードへの移行処理の途中では、エンジン1が安定して稼動していない(各種状態値が定常値になっていない)ため、補正の影響を見積もることが難しく、適切な補正量の算出が困難であるからである。
【0044】
また、トルク変動対応制御は、エンジン1がガスモードで稼動している場合において、トルク変動(具体的にエンジントルクの上昇)が生じた場合に、パイロット噴射量等を増加させて、エンジン回転数の低下を抑制する制御である。そのため、トルク変動対応制御は、基本的には、エンジン1がガスモードで稼動していることが前提となる。しかし、エンジン1がディーゼルモードで稼動している場合であっても、同様の処理を行うことで、煙の発生を抑制できる等の効果がある。従って、本実施形態では、エンジン1のモードを問わずにトルク変動対応制御を行う。これに代えて、エンジン1がガスモードで稼動している場合にのみ、トルク変動対応制御を行う構成であってもよい。
【0045】
制御装置60は、トルク変動対応制御の開始条件を満たすと判定した場合は、次に、トルク変動が第1閾値以上か否かを判定する(S102)。第1閾値は予め定められており、制御装置60等に記憶されている。なお、第1閾値の値は変更可能であってもよい。第1閾値は正の値であるため、制御装置60は、エンジントルクが上昇傾向であって、その程度(時間あたりの上昇量)がある程度高いときにトルク変動が第1閾値以上と判定することとなる。
【0046】
制御装置60は、トルク変動が第1閾値以上である場合、制御装置60は、パイロット噴射量を増加させる処理、パイロット噴射タイミングを遅らせる処理、及び、目標レール圧を低下させる処理を行う。具体的には、トルク変動が大きくなった場合、少しの時間遅れの後にエンジン回転速度が低下する。そのため、制御装置60は、パイロット噴射量を増加させてエンジン出力を上昇させることで、エンジン回転速度の低下を抑制する。なお、パイロット噴射量を増加させる量を補正噴射量と称する。
【0047】
パイロット噴射量が多くなることで、ノッキングが発生し易くなる。ノッキングを抑制するために、制御装置60は、パイロット噴射タイミングを遅角させる。なお、パイロット噴射タイミングを遅角させる時間長さをリタード量と称する。
【0048】
パイロット噴射量が多くなることで、レール圧が低下する。レール圧の低下を抑制するために、制御装置60は、目標レール圧を上昇させる。制御装置60は、現在レール圧と目標レール圧の差分に基づいて、現在レール圧が目標レール圧に近づくようにパイロット噴射ポンプ31を制御する。目標レール圧を上昇させることで、この差分が大きくなるため、結果的にレール圧を上昇させることができる。また、目標レール圧を上昇させる量を補正レール圧と称する。なお、以下の説明では、補正噴射量、リタード量、及び補正レール圧をまとめて「補正量」と称することがある。
【0049】
制御装置60は、トルク変動が第1閾値以上である場合、トルク変動及び回転速度変動に基づいて、上記の補正噴射量、リタード量、及び補正レール圧をそれぞれ算出する(S103)。図5に示すように、制御装置60は、トルク変動が大きくになるに連れて、より多い補正噴射量、より長いリタード量、及びより高い補正レール圧(即ち、より大きい補正量)を算出する。また、制御装置60は、回転速度変動が大きくなるに連れて、同様に、より大きい補正量を算出する。トルク変動が大きい場合及び回転速度変動が大きい場合は、何れも、エンジン回転速度の大幅な低下が見込まれるため、より大きい補正量を算出して、エンジン回転速度の大幅な低下を抑制する。
【0050】
本実施形態では、制御装置60が図5に示すマップを記憶しており、算出されたトルク変動及び回転速度変動に基づいて、これらの補正量が算出される。なお、マップに代えて、トルク変動及び回転速度変動から補正量を算出する関係式を用いてもよい。また、トルク変動及び回転速度変動の一方のみを用いて補正量を算出してもよいし、トルク変動及び回転速度変動に加えて又は代えて、別の値を用いてもよい。例えば、トルク変動及び回転速度変動に基づいて補正噴射量を算出し、この補正噴射量に基づいて、リタード量及び補正レール圧を算出してもよい。
【0051】
次に、制御装置60は、算出した補正量を用いて、パイロット噴射量、パイロット噴射タイミング、及び目標レール圧を設定する(S104)。具体的には、パイロット噴射量は、トルク変動対応制御以外の要因で決定される定常噴射量に、補正噴射量を加えた値が設定される(増量制御)。パイロット噴射タイミングについても同様に、トルク変動対応制御以外の要因で決定される定常値(定常タイミング)に、リタード量を適用した値が設定される。目標レール圧についても同様に、トルク変動対応制御以外の要因で決定される定常目標レール圧に、補正レール圧を加えた値が設定される。なお、トルク変動及び回転速度変動は随時変化するため、それぞれの補正量も随時更新される。
【0052】
制御装置60は、ステップS104で設定した値を用いて制御を行いつつ、回転速度変動が第2閾値以下か否かを判定する(S105)。第2閾値は、トルク変動対応制御を停止するか否かを決定するための値である。第2閾値は予め定められており、制御装置60等に記憶されている。なお、第2閾値の値は変更可能であってもよい。回転速度変動が小さくなった場合は、エンジン回転速度の減少の程度が小さい又は0であるため、エンジン回転速度の大幅な低下が生じないと考えられる。そのため、制御装置60は、回転速度変動に基づいて、トルク変動対応制御の停止を判断するように構成されている。
【0053】
このように、本実施形態では、トルク変動に基づいてトルク変動対応制御の開始を判断し、回転速度変動に基づいてトルク変動対応制御の停止を判断する。エンジントルクは負荷の変動に敏感に反応するため、トルク変動対応制御を早期に開始できる。また、エンジン回転速度は最終的に調整したい値であるため、この値に基づくことで、適切なタイミングでトルク変動対応制御を停止できる。
【0054】
また、制御装置60は、トルク変動対応制御を停止する場合は、エンジン状態が急激に変動することを防止するため、補正噴射量、リタード量、及び補正レール圧を徐々に低下させて0にする(S106)。また、制御装置60は、トルク変動対応制御の停止後も再びステップS101の処理を行うため、トルク変動が第1閾値以上になれば、再びトルク変動対応制御が開始される。
【0055】
以上に説明したように、このエンジン1は、気体燃料を空気と混合させてから燃焼室に流入させて燃焼させるガスモードと、液体燃料を燃焼室内に噴射して燃焼させるディーゼルモードと、を切替可能である。このエンジンは、パイロット噴射弁34と、トルクセンサ61と、制御装置60と、を備える。パイロット噴射弁34は、ガスモードにおいて、着火のための液体燃料であるパイロット燃料を燃焼室に供給する。トルクセンサ61は、エンジントルクを検出する。制御装置60は、トルクセンサ61が検出したエンジントルクの時間あたりの上昇量であるトルク変動が第1閾値以上の場合は、当該トルク変動が第1閾値より小さい場合と比較して、パイロット燃料の噴射量を増加させる増量制御を行う。
【0056】
これにより、様々な要因によりトルク変動が上昇した場合であっても、それに応じてパイロット燃料の噴射量を増加させることで、エンジン回転速度が大幅に低下することを抑制できる。
【0057】
また、本実施形態のエンジン1は、エンジン回転速度を検出する回転速度センサ62を備える。制御装置60は、トルク変動が大きくなるに連れてパイロット燃料の噴射量を増加させるとともに、回転速度センサ62が検出したエンジン回転速度の時間あたりの低下量である回転速度変動が大きくなるに連れてパイロット燃料の噴射量を増加させる。
【0058】
これにより、トルク変動と回転速度変動の両方を考慮してパイロット噴射量が決定されるため、エンジン回転速度の低下をより適切に抑制できる。
【0059】
また、本実施形態のエンジン1は、コモンレール32と、レール圧センサ63と、を備える。コモンレール32は、パイロット噴射ポンプ31によって送られた高圧のパイロット燃料を貯留する。レール圧センサ63は、コモンレール32内のパイロット燃料の圧力であるレール圧を検出する。制御装置60は、レール圧センサ63が検出したレール圧を目標レール圧に近づける制御を行う。制御装置60は、トルク変動が大きくなるに連れて目標レール圧を上昇させるとともに、回転速度変動が大きくなるに連れて目標レール圧を上昇させる。
【0060】
なお、エンジン1は、パイロット燃料の噴射量が多くなるに連れて目標レール圧を上昇させることもできる。
【0061】
これらの構成では、パイロット噴射量の増加に伴ってレール圧が低下するが、それに応じて目標レール圧を上昇させることで、レール圧を早期に上昇させるとともに、レール圧が大幅に低下することを抑制できる。
【0062】
また、本実施形態のエンジン1において、制御装置60は、トルク変動が大きくなるに連れてパイロット燃料の噴射タイミングのリタード量を増加させるとともに、回転速度変動が大きくなるに連れてリタード量を増加させる。
【0063】
これにより、ノッキングの発生を抑制できる。
【0064】
また、本実施形態のエンジン1において、制御装置60は、回転速度変動が第2閾値以下になった場合、増量制御を停止する。
【0065】
これにより、負荷の変化に敏感に反応するトルクに基づいて増量制御の開始タイミングが決定され、制御の目的となる値であるエンジン回転速度に基づいて増量制御の終了タイミングが決定される。そのため、増量制御を適切な期間に行うことができる。
【0066】
以上に本発明の好適な実施の形態を説明したが、上記の構成は例えば以下のように変更することができる。
【0067】
上記実施形態で示したフローチャートは一例であり、処理の追加、処理の省略、処理を行う順序が変更されてもよい。例えば、トルク変動対応制御の停止はトルク変動又は他の値に基づいて決定してもよい。
【0068】
上記実施形態では、パイロット噴射量、パイロット噴射タイミング、目標レール圧の全てについて補正を行うが、パイロット噴射タイミング及び目標レール圧の少なくとも一方の補正を省略してもよい。
【符号の説明】
【0069】
1 エンジン
31 パイロット噴射ポンプ(ポンプ)
32 コモンレール
33 パイロット燃料枝管
34 パイロット噴射弁
60 制御装置
61 トルクセンサ
62 回転速度センサ
63 レール圧センサ
図1
図2
図3
図4
図5