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  • 特許-レーザアニール方法及びレーザ制御装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-29
(45)【発行日】2024-02-06
(54)【発明の名称】レーザアニール方法及びレーザ制御装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/268 20060101AFI20240130BHJP
   H01L 21/265 20060101ALI20240130BHJP
   H01S 3/00 20060101ALI20240130BHJP
   H01S 3/11 20230101ALI20240130BHJP
【FI】
H01L21/268 T
H01L21/265 602C
H01L21/268 J
H01S3/00 A
H01S3/11
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019107012
(22)【出願日】2019-06-07
(65)【公開番号】P2020202242
(43)【公開日】2020-12-17
【審査請求日】2022-04-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105887
【弁理士】
【氏名又は名称】来山 幹雄
(72)【発明者】
【氏名】岡田 康弘
(72)【発明者】
【氏名】萬 雅史
【審査官】桑原 清
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-212530(JP,A)
【文献】特開2006-134986(JP,A)
【文献】特開2012-009603(JP,A)
【文献】特表2018-532595(JP,A)
【文献】特表2012-527772(JP,A)
【文献】特開2003-178982(JP,A)
【文献】特開2006-156784(JP,A)
【文献】特開2015-018980(JP,A)
【文献】特開2006-041082(JP,A)
【文献】特開2007-103957(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/268
H01L 21/265
H01S 3/00
H01S 3/11
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体ウエハに周期的に緑色の波長域のパルスレーザビームのレーザパルスを入射させ、ビームスポットの領域が、直前のレーザパルスのビームスポットの領域と部分的に重なるように前記半導体ウエハに対してビームスポットを移動させながらアニールする方法において、パルスの繰返し周波数を100kHz以上とし、パルス幅を10ns以上100ns以下にし、直前のレーザパルスの入射による前記半導体ウエハの表面の温度の上昇幅の99%に相当する温度幅だけ低下する時点より前に、次の周期のレーザパルスを入射させるレーザアニール方法。
【請求項2】
直前のレーザパルスの入射による前記半導体ウエハの表面の温度の上昇幅の95%に相当する温度幅だけ低下する時点より前に、次の周期のレーザパルスを入射させる請求項1に記載のレーザアニール方法。
【請求項3】
さらに、パルスの繰返し周波数を150kHz以下とする請求項1または2に記載のレーザアニール方法。
【請求項4】
緑色のパルスレーザビームを出力するレーザ光源と、
前記レーザ光源から出力されたパルスレーザビームが入射する位置に半導体ウエハを保持する保持テーブルと、
前記半導体ウエハに対してパルスレーザビームのビームスポットを移動させる走査機構と
を備えたレーザアニール装置を制御するレーザ制御装置であって、
パルスの繰返し周波数を100kHz以上とし、パルス幅を10ns以上100ns以下にし、ビームスポットの領域が、直前のレーザパルスのビームスポットの領域と部分的に重なるように前記半導体ウエハに対してビームスポットを移動させながら直前のレーザパルスの入射による前記半導体ウエハの表面の温度の上昇幅の99%に相当する温度幅だけ低下する時点より前に、次の周期のレーザパルスを入射させるように前記レーザ光源及び前記走査機構を制御するレーザ制御装置。
【請求項5】
さらに、パルスの繰返し周波数を150kHz以下とする請求項4に記載のレーザ制御装置。
【請求項6】
前記レーザ光源は、ファイバレーザ発振器またはモードロックレーザ発振器を含む請求項4または5に記載のレーザ制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザアニール方法及びレーザ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
不純物をドープしたシリコンウエハ等の半導体ウエハの再結晶化及び活性化を行うために、半導体ウエハを加熱(アニール)する必要がある。絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)等の製造工程に、半導体ウエハの一方の面(非照射面)に回路素子を形成した後、他方の面(照射面)に不純物をドープしてアニールを行う工程がある。このとき、既に形成されている回路素子を保護するために、非照射面の温度上昇を抑制することが望まれる。
【0003】
照射面を十分加熱し、かつ非照射面の温度上昇を抑制するために、照射面にレーザ光を照射するレーザアニールが用いられる(例えば、特許文献1等)。アニール用のレーザ発振器として、連続発振(CW)レーザ、またはQスイッチレーザやエキシマレーザ等のパルスレーザが用いられる。特許文献1には、レーザダイオード励起全個体パルスレーザ発振器を用いたレーザアニール技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-114052号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
半導体ウエハの厚さが薄くなると、半導体ウエハの非照射面の温度上昇を抑制するとともに、照射面の温度を十分高くするためのレーザ照射条件がより厳しくなる。本発明の目的は、半導体ウエハの非照射面の温度上昇を抑制するとともに、照射面を効率的に加熱することが可能なレーザアニール方法及びレーザ制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一観点によると、
半導体ウエハに周期的に緑色の波長域のパルスレーザビームのレーザパルスを入射させ、ビームスポットの領域が、直前のレーザパルスのビームスポットの領域と部分的に重なるように前記半導体ウエハに対してビームスポットを移動させながらアニールする方法において、パルスの繰返し周波数を100kHz以上とし、パルス幅を10ns以上100ns以下にし、直前のレーザパルスの入射による半導体ウエハの表面の温度の上昇幅の99%に相当する温度幅だけ低下する時点より前に、次の周期のレーザパルスを入射させるレーザアニール方法が提供される。
【0007】
本発明の他の観点によると、
緑色のパルスレーザビームを出力するレーザ光源と、
前記レーザ光源から出力されたパルスレーザビームが入射する位置に半導体ウエハを保持する保持テーブルと、
前記半導体ウエハに対してパルスレーザビームのビームスポットを移動させる走査機構と
を備えたレーザアニール装置を制御するレーザ制御装置であって、
パルスの繰返し周波数を100kHz以上とし、パルス幅を10ns以上100ns以下にし、ビームスポットの領域が、直前のレーザパルスのビームスポットの領域と部分的に重なるように前記半導体ウエハに対してビームスポットを移動させながら直前のレーザパルスの入射による前記半導体ウエハの表面の温度の上昇幅の99%に相当する温度幅だけ低下する時点より前に、次の周期のレーザパルスを入射させるように前記レーザ光源及び前記走査機構を制御するレーザ制御装置が提供される。
【発明の効果】
【0008】
半導体ウエハに入射させるレーザパルスのエネルギを有効に利用することができる。これにより、半導体ウエハに投入するエネルギ量をすくなくすることが可能になり、その結果、非照射面の温度上昇を抑制することができる。レーザパルスの繰り返し周波数が15kHz以上になると、レーザパルスのエネルギを有効に利用しやすくなる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、実施例によるレーザアニール装置の概略図である。
図2図2は、シリコンウエハに1つのレーザパルスを入射させたときの表面温度の時間変化の計算値を示すグラフである。
図3図3Aは、半導体ウエハ60の表面におけるビームスポットの移動の様子を示す図であり、図3Bは、点Pの位置の表面温度の時間変化を示すグラフである。
図4図4は、パルスの繰り返し周波数と温度保持率Trとの関係の計算結果を示すグラフである。
図5図5は、アニールに用いたパルスレーザビームの相対パルスエネルギ密度と、シリコンウエハの相対溶融深さとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1から図5までの図面を参照して、実施例によるレーザアニール方法及びレーザアニール装置について説明する。
【0011】
図1は、実施例によるレーザアニール装置の概略図である。実施例によるレーザアニール装置は、レーザ発振器10、レーザ制御装置30、伝送光学系40、及びチャンバ50を含む。チャンバ50内に走査機構52によって保持テーブル53が支持されている。走査機構52は、レーザ制御装置30からの指令を受けて、保持テーブル53を水平面内で移動させることができる。保持テーブル53の上に、アニール対象物である半導体ウエハ60が保持される。レーザ発振器10から出力されたパルスレーザビームが伝送光学系40を経由し、チャンバ50の天板に設けられたレーザ透過窓51を透過して、半導体ウエハ60に入射する。本実施例によるレーザアニール装置は、例えば半導体ウエハ60にドープされたドーパントの活性化アニールを行う。半導体ウエハ60は、例えばシリコンウエハである。
【0012】
伝送光学系40は、例えばビームホモジナイザ、レンズ、ミラー等を含む。ビームホモジナイザ及びレンズは、半導体ウエハ60の表面におけるビームスポットを整形するとともに、ビームプロファイルを均一化する。
【0013】
次に、レーザ発振器10の構成について説明する。レーザ発振器10として、ファイバレーザ発振器が用いられる。レーザ活性媒質がドープされた利得ファイバ11の一端に入力側光ファイバ12が接続され、他端に出力側光ファイバ15が接続されている。入力側光ファイバ12に高反射率型のファイバブラッググレーティング13が形成されており、出力側光ファイバ15に低反射率型のファイバブラッググレーティング16が形成されている。高反射率型のファイバブラッググレーティング13と低反射率型のファイバブラッググレーティング16とによって光共振器が構成される。
【0014】
レーザダイオード20から出力された励起光が入力側光ファイバ12を通って利得ファイバ11に導入される。利得ファイバ11にドープされているレーザ活性媒質が励起光によって励起される。レーザ活性媒質が低エネルギ状態に遷移するときに誘導放出が生じ、レーザ光が発生する。利得ファイバ11で発生したレーザ光が、出力側光ファイバ15を通って波長変換素子22に入射する。波長変換素子22で波長変換されたレーザビームが伝送光学系40を経由して半導体ウエハ60に入射する。利得ファイバ11は、例えば赤外域のレーザ光を出力し、波長変換素子22は赤外域のレーザ光を緑色の波長域のレーザ光に変換する。
【0015】
ドライバ21が、レーザ制御装置30からの指令に基づいてレーザダイオード20を駆動する。レーザ制御装置30から受ける指令には、レーザダイオード20から出力されるレーザパルスの繰り返し周波数を指定する情報が含まれる。ドライバ21は、レーザ制御装置30から指令されたレーザパルスの繰り返し周波数で、レーザダイオードから励起用レーザ光を出力させる。その結果、レーザ発振器10から、指令された繰り返し周波数でレーザパルスが出力される。
【0016】
レーザ制御装置30は、オペレータが操作するコンソール31を含む。オペレータは、コンソール31を操作して、レーザパルスの繰り返し周波数を指定する情報を入力する。レーザ制御装置30は、入力されたレーザパルスの繰り返し周波数を指定する情報をドライバ21に与える。
【0017】
本願発明者らの考察によると、レーザアニールに用いるレーザ光としてCWレーザよりパルスレーザの方が好ましいことが判明した。次に、半導体ウエハ60にレーザ光が入射したときの温度変化の観点から、レーザアニールに用いるレーザ光としてCWレーザよりパルスレーザの方が好ましい理由について説明する。簡単のために、均一なパワー密度Pのレーザパルスが半導体ウエハ60に入射する場合について説明する。
【0018】
半導体ウエハ60の表面(照射面)の表面温度Tは以下の式で表すことができる。
【数1】

ここで、tは加熱開始からの経過時間、Cは半導体ウエハ60の比熱、ρは半導体ウエハ60の密度、λは半導体ウエハ60の熱伝導率である。例えば、表面温度Tの単位は「K」であり、パワー密度Pの単位は「W/cm」であり、経過時間tの単位は「秒」であり、比熱Cの単位は「J/g・K」であり、密度ρの単位は「g/cm」であり、熱伝導率λの単位は「W/cm・K」である。
【0019】
加熱開始(レーザパルスの立ち上がり時点)から経過時間tが経過するまでの間に半導体ウエハ60に与えられるエネルギ密度Eは以下の式で表すことができる。
【数2】

エネルギ密度Eの単位は、例えば「J/cm」である。
【0020】
加熱開始からの経過時間がtの時点における半導体ウエハ60の表面温度をTまで到達させるためには、式(1)から、以下の条件を満たす必要があることがわかる。
【数3】

式(2)と式(3)とから経過時間tを消去すると、以下の式が得られる。
【数4】
【0021】
表面温度をTまで上昇させるという条件の下で、半導体ウエハ60の裏面の温度上昇を抑制して効率的なアニールを行うためには、半導体ウエハ60に投入するエネルギ密度Eを小さくすることが好ましい。式(4)の右辺のカッコ内のパラメータは定数であるため、エネルギ密度Eを小さくするためには、パワー密度Pを大きくすればよいことがわかる。実用的に必要なパワー密度のオーダは数MW/cm以上である。
【0022】
CWレーザで数MW/cm以上のパワー密度を達成するためには、例えば数十W程度のパワーのレーザビームのビームスポットを1×10μm程度の面積まで小さくしなければならない。これは技術的に容易ではない。
【0023】
パルスレーザのピークパワーは、1パルス当たりのエネルギ(以下、パルスエネルギという。)をパルス幅で除した値で定義される。なお、パルスレーザの平均パワーは、パルスエネルギとパルスの繰り返し周波数との積で定義される。式(4)のパワー密度Pは、ピークパワーをビームスポットの面積で除した値に相当する。
【0024】
一般的にアニールに用いられるQスイッチレーザやエキシマレーザのパルスエネルギは数十mJのオーダであり、パルス幅は100ns程度である。このため、ピークパワーは数百kWのオーダになる。このように、CW発振レーザのパワーに比べて十分大きなピークパワーを実現することが可能である。従って、パワー密度Pを大きくしてアニールを行うためのレーザ光源として、CW発振レーザよりもパルスレーザの方が適していることがわかる。
【0025】
次に、レーザパルス照射後の半導体ウエハ60の冷却過程について説明する。レーザパルスの立ち上がり時点からの経過時間をtで表し、パルス幅をtで表し、レーザパルス立ち下がり時点(経過時間t=t)の表面温度をTで表すと、半導体ウエハ60の表面温度Tは以下の式で表される。
【数5】
【0026】
一般的に半導体ウエハのアニールに用いられるパルスレーザのレーザパルスの繰り返し周波数はkHzのオーダであるため、レーザパルスの時間間隔はmsのオーダになる。アニールに用いるパルスレーザのパルス幅tを、Qスイッチレーザやエキシマレーザの一般的なパルス幅である100nsとし、あるレーザパルスの立ち上がりから次の周期のレーザパルスの立ち上がりまでの時間間隔を1msとすると、直前のレーザパルスの入射後に、次の周期のレーザパルスが立ち上がる時点における半導体ウエハ60の表面温度Tは、以下の式で近似される。
【数6】
【0027】
式(6)から、レーザパルスの入射時には、直前のレーザパルスの入射によって上昇した温度は、直前のレーザパルスの入射前の温度とほぼ等しい温度まで低下することがわかる。
【0028】
図2は、シリコンウエハに1ショットのレーザパルスを入射させたときの表面温度の時間変化の計算値を示すグラフである。横軸はレーザパルスの立ち上がり時点からの経過時間tを単位「ns」で表し、左縦軸は半導体ウエハ60の表面温度Tを単位「℃」で表し、右縦軸はレーザ光のパワー密度を単位「MW/cm」で表す。グラフ中の破線はレーザパルスのパワー密度の時間変化を示し、実線は半導体ウエハ60の表面温度Tの時間変化を示す。レーザパルスのパルス幅はtであり、ピークパワー密度は5MW/cmである。
【0029】
レーザパルスが入射している期間(0≦t≦t)は、式(1)に従って表面温度Tが上昇する。レーザパルスの立ち上がり時点からパルス幅tに相当する時間が経過した時点(t=t)における表面温度Tが最高到達温度Tに等しい。レーザパルスが立ち下がった後(t≧t)は、式(5)に従って表面温度Tが低下する。
【0030】
次に、図3A及び図3Bを参照して、実際に活性化アニールを行う際の半導体ウエハ60の表面温度の時間変化について説明する。活性化アニール時は、半導体ウエハ60の表面に周期的に、すなわち一定の周期で、レーザパルスを入射させ、レーザビームのビームスポットを移動させることにより、所望の領域のアニールを行う。ビームスポットの移動速度は、現時点のレーザパルスのビームスポットが、直前のレーザパルスのビームスポットと部分的に重なるように設定される。
【0031】
図3Aは、半導体ウエハ60の表面におけるビームスポットBSの移動の様子を示す図である。図3Aは、特定の点Pに入射する1番目から3番目までのレーザパルスLP、LP、LPのビームスポットBS、BS、BSを示している。各ビームスポットBSは一方向(図3Aにおいて縦方向)に長い形状を有する。アニール期間中は、ビームスポットBSを、長さ方向と直交する幅方向に、半導体ウエハ60に対して相対的に移動させる。直前のレーザパルスの入射時点から、その次のレーザパルスが入射する時点までの1周期の間にビームスポットBSが移動する距離は、例えばビームスポットBSの幅の1/3である。すなわち、オーバラップ率が約67%である。
【0032】
このとき、半導体ウエハ60の表面の1つの点Pに着目すると、点Pは、3つのビームスポットBS、BS、及びBSに包含される。すなわち、アニール中に1つの点Pに3つのレーザパルスLP、LP、LPが入射することになる。3つのレーザパルスLP、LP、LPのパルスエネルギは同一である。
【0033】
図3Bは、点Pの位置における表面温度の時間変化を示すグラフである。横軸は経過時間を表し、縦軸は点Pの位置における表面温度を表す。レーザパルスLP、LP、LPが入射している期間に表面温度が上昇し、入射していない期間に表面温度が低下する。レーザパルスLPの入射直前の点Pにおける表面温度をTと表し、レーザパルスLPの入射による最高到達温度をTaと表す。
【0034】
実施例においては、直前のレーザパルスLPの入射による温度上昇後の冷却過程にある箇所(点Pの位置)に次の周期のレーザパルスLPを入射させる。すなわち、表面温度が、レーザパルスLPの入射前の表面温度Tまで低下するよりも前に次のレーザパルスLPを点Pの位置に入射させる。レーザパルスLPの入射直前の点Pにおける表面温度をTと表す。レーザパルスLPの入射時点の表面温度Tが、レーザパルスLPの入射時点の表面温度Tより高いため、レーザパルスLPによる最高到達温度Taは、直前のレーザパルスLPによる最高到達温度Taよりも高くなる。このため、3ショット目のレーザパルスLPの入射直前の点Pにおける表面温度Tは、表面温度Tより高い。従って、3ショット目のレーザパルスLPによる最高到達温度Taは、最高到達温度Taより高くなる。
【0035】
レーザパルスの入射による表面温度の上昇幅をΔTuと表し、次の周期のレーザパルスが入射するまでの表面温度の低下幅をΔTdと表すこととする。温度保持率Trを以下の式で定義する。
【数7】
【0036】
図4は、パルスの繰り返し周波数と温度保持率Trとの関係の計算結果を示すグラフである。横軸はパルスの繰り返し周波数を単位「kHz」で表し、縦軸は温度保持率Trを単位「%」で表す。図4のグラフ中の実線及び破線は、それぞれパルス幅が10nsのとき、及びパルス幅が100nsのときの計算結果を示す。
【0037】
パルス幅が一定の条件下で、パルスの繰り返し周波数が高くなるに従って、温度保持率Trも高くなっている。パルスの繰り返し周波数が一定の条件下では、パルス幅が長いほど、温度保持率Trが高い。これは、パルスの繰り返し周波数が高くなるほど、またはパルス幅が長くなるほど、レーザパルスが立ち下がって次のレーザパルスが立ち上がるまでの非照射時間の間隔が短くなり、表面温度の低下幅ΔTdがより小さくなるためである。
【0038】
次に、上記実施例の優れた効果について説明する。
実施例においては、直前のレーザパルスの入射による温度上昇後の冷却過程にある箇所に次の周期のレーザパルスを入射させる。例えば図3Bに示したように、1ショット目のレーザパルスLPの入射による温度上昇後の冷却過程にある箇所(点Pの位置)に、2ショット目のレーザパルスLPを入射させる。さらに、2ショット目のレーザパルスLPの入射による温度上昇後の冷却過程にある箇所(点Pの位置)に、3ショット目のレーザパルスLPを入射させる。このため、レーザパルスによって半導体ウエハに投入されるエネルギに、直前のレーザパルスによって投入されたエネルギの一部が重畳されて、半導体ウエハが加熱される。このように、複数のレーザパルスによって半導体ウエハに投入されたエネルギが重畳されることにより、1つのレーザパルスのパルスエネルギが実質的に高くなったのと同等の熱的効果が得られるため、レーザエネルギを有効に利用することができる。
【0039】
また、半導体ウエハを目標とする温度まで加熱すために必要となるパルスエネルギを小さくすることができる。一例として、3ショット目のレーザパルスLPによる最高到達温度Taを加熱の目標値とする場合について説明する。レーザパルスによって投入されたエネルギが重畳される効果が得られないほどレーザパルスの繰返し周波数が低い場合、例えば1kHz程度である場合には、1ショットのレーザパルスで、半導体ウエハの表面を目標値まで加熱しなければならない。すなわち、1ショット目のレーザパルスLPの最高到達温度Taを加熱の目標値まで高めなければならない。
【0040】
これに対して実施例では、1ショット目のレーザパルスLPの最高到達温度Taが加熱の目標値より低い場合であっても、3ショット目のレーザパルスLPの最高到達温度Taを加熱の目標値以上にすることができる。このため、レーザパルスLP、LP、LPの各々のパルスエネルギを低くすることができる。
【0041】
レーザパルスごとのパルスエネルギを小さくすることにより、半導体ウエハに投入されるエネルギの総量が少なくなる。投入エネルギ総量の低下は、半導体ウエハの非照射面の温度上昇を抑制する方向に作用する。従って、半導体ウエハの非照射面の温度上昇を抑制可能な条件でアニールを行うことが可能になる。
【0042】
半導体ウエハの非照射面の温度上昇を抑制することができるため、半導体ウエハの厚さ、使用可能な材料等の制限が緩和される。
【0043】
従来は、直前のレーザパルスの熱的影響が実質的に残っていない状態で、次の周期の
レーザパルスを入射させていた。例えば、式(6)に示したように温度保持率Trが0.5%以下の条件でアニールを行っていた。直前のレーザパルスの入射による温度上昇後の冷却過程にある箇所に次の周期のレーザパルスを入射させることの十分な効果を得るために、温度保持率Trが1%以上の条件でアニールを行うことが好ましい。すなわち、直前のレーザパルスの入射による半導体ウエハの表面の温度の上昇幅の99%に相当する温度幅だけ低下する時点より前に、次の周期のレーザパルスを入射させることが好ましい。この条件を容易に満たすために、パルスの繰り返し周波数を15kHz以上にすることが好ましい。直前のレーザパルスの入射から次の周期のレーザパルスを入射させるまでの時間、またはパルスの繰り返し周波数を上述のように設定することにより、従来の方法に比べて、半導体ウエハの非照射面の温度上昇を抑制するという十分な効果が得られる。
【0044】
次に図5を参照して、パルスの繰り返し周波数を異ならせて実際にシリコンウエハのアニールを行った評価実験の結果について説明する。
【0045】
図5は、アニールに用いたパルスレーザビームの相対パルスエネルギ密度と、シリコンウエハの相対溶融深さとの関係を示すグラフである。横軸は相対パルスエネルギ密度を任意単位で表し、縦軸は相対溶融深さを任意単位で表す。
【0046】
グラフ中の丸記号は、パルスの繰り返し周波数が1kHzの場合の実験結果を示しており、三角記号は、パルスの繰り返し周波数が150kHzの場合の実験結果を示している。パルスの繰り返し周波数が1kHzの場合の評価実験には、全固体レーザの2倍高調波(波長532nm)を用い、パルス幅を100nsとした。パルスの繰り返し周波数が150kHzの場合の評価実験には、ファイバレーザの2倍高調波(波長530nm)を用い、パルス幅を10nsとした。パルスレーザビームの平均パワーは、両者ともほぼ同一とした。アニール時のオーバラップ率は、両者とも67%とした。
【0047】
パルスエネルギ密度が大きくなるに従って、溶融深さが深くなっている。また、パルスの繰り返し周波数を高くすると、同一の溶融深さを得るために必要なパルスエネルギ密度が低くなることがわかる。言い換えると、パルスエネルギ密度が同一であれば、平均パワーが一定であっても、パルスの繰り返し周波数を高くするほど溶融深さが深くなる。これは、パルスの繰り返し周波数を高くするほど、レーザ光の持つエネルギを有効に利用することができるためである。
【0048】
レーザ光の持つエネルギを有効に利用するという観点から、直前のレーザパルスの入射による半導体ウエハの表面の温度の上昇幅の95%に相当する温度幅だけ低下する時点より前に、次の周期のレーザパルスを入射させることが好ましい。また、この条件を満たしやすくするために、パルスの繰り返し周波数を100kHz以上にすることが好ましい。直前のレーザパルスの入射から次の周期のレーザパルスを入射させるまでの時間、またはパルスの繰り返し周波数を上述のように設定することにより、従来の方法に比べて、レーザ光の持つエネルギを有効に利用するという十分な効果が得られる。
【0049】
次に、上記実施例の変形例について説明する。
上記実施例ではレーザ発振器としてファイバレーザ発振器を用いたが、15kHz以上のパルスの繰り返し周波数を容易に実現することが可能な他のパルスレーザ発振器、例えばモードロックレーザ発振器等を用いてもよい。
【0050】
上記実施例では、半導体ウエハ60の表面上でビームスポットを移動させることにより、所望の領域のアニールを行っているが、半導体ウエハに対してビームスポットの位置を固定して必要なショット数のレーザパルスを入射させてもよい。複数のレーザパルスの入射による半導体ウエハの最高到達温度を同一にしたい場合には、2ショット目のレーザパルスのパルスエネルギを、1ショット目のレーザパルスのパルスエネルギより低くするとよい。2ショット目のレーザパルスの入射時点で1ショット目のレーザパルスの入射による熱的影響が残っているため、2ショット目のレーザパルスのパルスエネルギを低くしても、1ショット目のレーザパルスによる最高到達温度と同程度の温度まで加熱することができる。
【0051】
上記実施例は例示であり、本発明は上述の実施例に制限されるものではない。例えば、種々の変更、改良、組み合わせ等が可能なことは当業者に自明であろう。
【符号の説明】
【0052】
10 レーザ発振器
11 利得ファイバ
12 入力側光ファイバ
13 ファイバブラッググレーティング
15 出力側光ファイバ
16 ファイバブラッググレーティング
20 レーザダイオード
21 ドライバ
22 波長変換素子
30 レーザ制御装置
31 コンソール
40 伝送光学系
50 チャンバ
51 レーザ透過窓
52 走査機構
53 保持テーブル
60 半導体ウエハ
図1
図2
図3
図4
図5