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特許7428484容器詰コーヒー含有飲料の苦渋味抑制方法、香味増強方法及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-29
(45)【発行日】2024-02-06
(54)【発明の名称】容器詰コーヒー含有飲料の苦渋味抑制方法、香味増強方法及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23F 5/24 20060101AFI20240130BHJP
【FI】
A23F5/24
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019128986
(22)【出願日】2019-07-11
(65)【公開番号】P2020031629
(43)【公開日】2020-03-05
【審査請求日】2022-07-11
(31)【優先権主張番号】P 2018159529
(32)【優先日】2018-08-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】303044712
【氏名又は名称】三井農林株式会社
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 史博
(72)【発明者】
【氏名】大野 敦子
【審査官】厚田 一拓
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-168238(JP,A)
【文献】特開2013-042703(JP,A)
【文献】特開2003-289807(JP,A)
【文献】特開2015-133958(JP,A)
【文献】特開昭53-079066(JP,A)
【文献】特開平04-211332(JP,A)
【文献】特開2002-291412(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23F 5/00 - 5/50
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/FSTA/AGRICOLA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器詰コーヒー含有飲料の苦渋味抑制方法及び香味増強方法であって、
(工程1)焙煎したコーヒー豆の粉砕物を密閉式抽出器に投入し、5℃~40℃の抽出水で10分~120分間浸漬する工程、
(工程2)工程1に引き続き、密閉式抽出器にて、5℃~40℃の抽出水で30分~180分かけて抽出する工程、
(工程3)工程2で得られた抽出液を加熱殺菌処理する工程を含み、(工程2)の抽出水の送液方法が抽出器の下端から抽出水を供給し、抽出器上部に設けられたフィルタを通過させて、上端から抽出液を回収する方法であることを特徴とする容器詰コーヒー含有飲料の苦味抑制方法及び香味増強方法。
【請求項2】
容器詰コーヒー含有飲料中の次の成分(A)、(B)、(C)及び(D)が、
(A)アーモンド様香気成分(ベンズアルデヒド(BENZALDEHYDE))
(B)熟したフルーツ様香気成分(酢酸フルフリル(FURFURYL ACETATE)、プロピオン酸フルフリル(FURFURYL PROPIONATE)、2-ブタノン(2-BUTANONE)、2,3-ブタンジオン(2,3-BUTANEDIONE)、2-ペンタノン(2-PENTANONE)、2,3-ペンタンジオン(2,3-PENTADIONE)、2,3-ヘキサジオン(2,3-HEXADIONE)、3,4-ヘキサジオン(3,4-HEXADIONE)、および1-(2-フリル)-2-ブタノン(1-(2-FURYL)-2-BUTANONE))について、ガスクロマトグラフ質量分析法(GC/MS分析法)にて分析した際の各グループ内ピークエリア合計の比(B)/(A)が7.0以上であり、かつ(B)熟したフルーツ様香気成分中のピークエリア合計に対する(B1)酢酸フルフリルのピークエリアの比(B1)/(B)が、0.50~0.63であり、
(C)クロロゲン酸2.8~60.0mg/100mL、且つ(D)カフェイン60~120mg/100mLに調整することを特徴とする請求項1に記載の容器詰コーヒー含有飲料の苦味抑制方法及び香味増強方法。
【請求項3】
容器詰コーヒー含有飲料の製造方法であって、
(工程1)焙煎したコーヒー豆の粉砕物を密閉式抽出器に投入し、5℃~40℃の抽出水で10分~120分間浸漬する工程、
(工程2)工程1に引き続き、密閉式抽出器にて、5℃~40℃の抽出水で30分~180分かけて抽出する工程、
(工程3)工程2で得られた抽出液を加熱殺菌処理する工程を含み、(工程2)の抽出水の送液方法が抽出器の下端から抽出水を供給し、抽出器上部に設けられたフィルタを通過させて、上端から抽出液を回収する方法であることを特徴とする容器詰コーヒー含有飲料の製造方法。
【請求項4】
容器詰コーヒー含有飲料中の次の成分(A)、(B)、(C)及び(D)が、
(A)アーモンド様香気成分(ベンズアルデヒド(BENZALDEHYDE))
(B)熟したフルーツ様香気成分(酢酸フルフリル(FURFURYL ACETATE)、プロピオン酸フルフリル(FURFURYL PROPIONATE)、2-ブタノン(2-BUTANONE)、2,3-ブタンジオン(2,3-BUTANEDIONE)、2-ペンタノン(2-PENTANONE)、2,3-ペンタンジオン(2,3-PENTADIONE)、2,3-ヘキサジオン(2,3-HEXADIONE)、3,4-ヘキサジオン(3,4-HEXADIONE)、および1-(2-フリル)-2-ブタノン(1-(2-FURYL)-2-BUTANONE))について、ガスクロマトグラフ質量分析法(GC/MS分析法)にて分析した際の各グループ内ピークエリア合計の比(B)/(A)が7.0以上であり、かつ(B)熟したフルーツ様香気成分中のピークエリア合計に対する(B1)酢酸フルフリルのピークエリアの比(B1)/(B)が、0.50~0.63であり、
(C)クロロゲン酸2.8~60.0mg/100mL、且つ(D)カフェイン60~120mg/100mLに調整することを特徴とする請求項3に記載の容器詰コーヒー含有飲料の製造方法。
【請求項5】
アイスコーヒー用である請求項3または4に記載の容器詰コーヒー含有飲料の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、苦渋味が抑制された香り立ちのよい容器コーヒー含有飲料の苦渋味抑制方法、香味増強方法及び容器コーヒー含有飲料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コーヒー飲料は、原料となるコーヒー豆の品種や焙煎等の加工方法によって、その香味が特徴付けられる。特に香気成分は、飲用後すぐに感じるトップノート、飲用後のラストノートのみならずコーヒーの味にも影響する重要なファクターであるが、缶やペットボトルコーヒー等の容器詰飲料の製造工程では、その香気成分は損失してしまう。
【0003】
コーヒー飲料は、大別すると、ブラックコーヒーと、コーヒー抽出液に甘味料とミルクとを添加したミルクコーヒーがある。ブラックコーヒーは、コーヒーそのものの味を楽しむのに適しており、特にアイスコーヒーで一般的に飲用されている。しかし、ブラックコーヒーは、コーヒーの濃度が高くなるほど雑味やイガイガしたエグ味等の苦渋味ばかりが強調されてしまい、最後までコーヒーの香りを楽しむができないこともある。一方、苦渋味を抑えて、飲みやすくするためにミルクや砂糖等の甘味料を添加することもあるが、この場合にはコーヒー本来のコクの深さ(ボディー感)やトップノートからラストノートにまで持続する特徴的な香りまで抑えられてしまうことが課題であった。
【0004】
そこで、コーヒー本来のコク深い苦味や香りを残したまま、スムースな香味に改善する取り組みが進められてきた。例えば、特許文献1では、焙煎コーヒー豆から得られたアロマ成分を含有するアロマ溶液と、抽出残渣から得られた残渣香気凝縮液を混合して、得られたコーヒー香料をコーヒー飲料に添加する方法、また特許文献2及び特許文献4では低温、中温、高温の抽出温度で得られたコーヒー抽出液とする混合する方法、特許文献3ではコーヒー豆を水と混合し、湿潤状態で粉砕したものを特許文献2と同様に抽出する方法、特許文献5では焙煎コーヒー豆を水蒸気蒸留して得られた留分を吸着体処理したコーヒー抽出液と混合する方法が開示されている。
一方、苦味成分であるカフェインの低減方法として、特許文献6、7及び8にはコーヒー抽出物に酸性白土、活性白土、焼成白土、活性炭等の吸着剤を接触させてカフェイン除去する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2004-201629号公報
【文献】特開平10-313785号公報
【文献】特開2002-306075号公報
【文献】特許第6086640号公報
【文献】特開2016-192971号公報
【文献】特開2014-212742号公報
【文献】特開2017-018013号公報
【文献】特開2017-153412号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記のとおり、コーヒーの香味を改善するための様々な方法が開示されているが、十分に満足しうるものではなかった。
たとえば、特許文献1の方法では技術の特殊性から製品の形態に限定が生じてしまう部分が大きく、汎用性が乏しい。また、水蒸気蒸留によってコーヒーフレーバーを採取し、後で抽出液に添加という方法では製造工程中に香りが損失ないし変質してしまう可能性が高い。特許文献2乃至4の方法では、抽出温度による影響が大きく、製造上の管理が難しく、安定したコーヒー抽出液が得られない。特許文献5は特許文献1同様香りが損失してしまう可能性が高く、またコーヒー抽出液を吸着体で処理しているためコーヒー本来の味が損失してしまう。特許文献6~8のカフェインを低減する方法では、雑味やエグ味のみを抑制するのは難しく、コーヒーらしい苦味まで失う可能性があり、コーヒー独特の苦味を保持しながら、更にコーヒーらしい良質なカラメル様の香気(焙煎香)をトップノートからラストノートまで持続させることは難しかった。
【0007】
したがって、本発明の目的は、苦味成分を保持しながら、イガイガしたエグ味、苦渋味等の雑味が抑制され、更にコーヒー独特のフルーツ様の酸味を有し、コーヒーの焙煎香が飲用後も持続できる、即ちトップノートからラストノートまで発現された容器詰コーヒー含有飲料の苦渋味抑制方法及び香味増強方法、その製造方法及び容器詰コーヒー含有飲料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、コーヒー豆の抽出工程において、密閉式の抽出器を用いて低温の抽出水で抽出することにより、飲用における苦味成分を保持しながら、雑味やイガイガしたエグ味等の苦渋味が抑制されて、コーヒー独特のフルーツ様の酸味を有し、香りにおいてはコーヒーの焙煎香がトップノートからラストノートまで発現できることを見出し本発明を完成するに至った。
なお、本発明における苦味とは、コーヒー特有な爽やかな苦味のことを示し、飲用に際して好ましい味を示す。また、苦渋味とは、不快な味、例えば、イガイガしたエグ味、収れん味、雑味など、飲用に際して好ましくない味を示す。
【0009】
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
[1]容器詰コーヒー含有飲料の苦渋味抑制方法及び香味増強方法であって、
次の成分(A)、(B)、(C)及び(D)カフェインにおいて、
(A)アーモンド様香気成分(ベンズアルデヒド(benzaldehyde))
(B)熟したフルーツ様香気成分(酢酸フルフリル(furfuryl acetate)、プロピオン酸フルフリル(furfuryl propionate)、2-ブタノン(2-butanone)、2,3-ブタンジオン(2,3-butanedione)、2-ペンタノン(2-pentanone)、2,3-ペンタンジオン(2,3-pentadione)、2,3-ヘキサジオン(2,3-hexadione)、3,4-ヘキサジオン(3,4-hexadione)、および1-(2-フリル)-2-ブタノン(1-(2-furyl)-2-butanone))について、ガスクロマトグラフ質量分析法(GC/MS分析法)にて分析した際の各グループ内ピークエリア合計の比(B)/(A)が7.0以上であり、かつ(B)熟したフルーツ様香気成分のピークエリア合計に対する(B1)酢酸フルフリルのピークエリアの比(B1)/(B)が、0.50~0.63に調整することを特徴とする容器詰コーヒー含有飲料の苦味抑制及び香味増強方法。
[2]容器詰コーヒー含有飲料の苦味抑制及び香味増強方法において、
(C)クロロゲン酸 2.8~60.0mg/100mLであり、且つ(D)カフェイン 60~120mg/100mLに調整することを特徴とする[1]に記載の容器詰コーヒー含有飲料の苦味抑制及び香味増強方法。
[3][1]または[2]に記載の容器詰コーヒー含有飲料の苦渋味抑制方法及び香味増強方法であって、(工程1)焙煎したコーヒー豆の粉砕物を5℃~40℃の抽出水で10分~60分間浸漬する工程、
(工程2)工程1に引き続き、密閉式抽出器にて、5℃~40℃の抽出水で30分~180分かけて抽出する工程、
(工程3)工程2で得られた抽出液を加熱殺菌処理する工程
を含むことを特徴とする容器詰コーヒー含有飲料の苦味抑制及び香味増強方法。
[4]容器詰コーヒー含有飲料の製造方法であって、
次の成分(A)、(B)、(C)及び(D)において、
(A)アーモンド様香気成分(ベンズアルデヒド(benzaldehyde))
(B)熟したフルーツ様香気成分(酢酸フルフリル(furfuryl acetate)、プロピオン酸フルフリル(furfuryl propionate)、2-ブタノン(2-butanone)、2,3-ブタンジオン(2,3-butanedione)、2-ペンタノン(2-pentanone)、2,3-ペンタンジオン(2,3-pentadione)、2,3-ヘキサジオン(2,3-hexadione)、3,4-ヘキサジオン(3,4-hexadione)、および1-(2-フリル)-2-ブタノン(1-(2-furyl)-2-butanone))について、ガスクロマトグラフ質量分析法(GC/MS分析法)にて分析した際の各グループ内ピークエリア合計の比(B)/(A)が7.0以上であり、かつ(B)熟したフルーツ様香気成分中のピークエリア合計に対する(B1)酢酸フルフリルのピークエリアの比(B1)/(B)が、0.50~0.63に調整することを特徴とする容器詰コーヒー含有飲料の製造方法。
[5][4]に記載の容器詰コーヒー含有飲料の製造方法であって、
(C)クロロゲン酸 2.8~60.0mg/100mLであり、且つ(D)カフェイン 60~120mg/100mLに調整することを特徴とする[4]に記載の容器詰コーヒー含有飲料の製造方法。
[6][4]または[5]に記載の容器詰コーヒー含有飲料の製造方法であって、
(工程1)焙煎したコーヒー豆の粉砕物を密閉式抽出器に投入し、5℃~40℃の抽出水で10分~120分間浸漬する工程、
(工程2)工程1に引き続き、密閉式抽出器にて、5℃~40℃の抽出水で30分~180分かけて抽出する工程、
(工程3)工程2で得られた抽出液を加熱殺菌処理する工程
を含む容器詰コーヒー含有飲料の製造方法。
[7][6]に記載の容器詰コーヒー含有飲料の製造方法において、(工程2)の抽出水の送液方法が抽出器の下端から抽出水を供給し、抽出器上部に設けられたフィルタを通過させて、上端から抽出液を回収する方法であることを特徴とする[6]に記載の製造方法。
[8]アイスコーヒー用である[4]~[7]のいずれか1項に記載の容器詰コーヒー含有飲料の製造方法。
[9]次の成分(A)、(B)、(C)及び(D)において、
(A)アーモンド様香気成分(ベンズアルデヒド(benzaldehyde))
(B)熟したフルーツ様香気成分(酢酸フルフリル(furfuryl acetate)、プロピオン酸フルフリル(furfuryl propionate)、2-ブタノン(2-butanone)、2,3-ブタンジオン(2,3-butanedione)、2-ペンタノン(2-pentanone)、2,3-ペンタンジオン(2,3-pentadione)、2,3-ヘキサジオン(2,3-hexadione)、3,4-ヘキサジオン(3,4-hexadione)、および1-(2-フリル)-2-ブタノン(1-(2-furyl)-2-butanone))について、ガスクロマトグラフ質量分析法(GC/MS分析法)にて分析した際の各グループ内ピークエリア合計の比(B)/(A)が7.0以上であり、かつ(B)熟したフルーツ様香気成分中のピークエリア合計に対する(B1)酢酸フルフリルのピークエリアの比(B1)/(B)が、0.50~0.63であり、
(C)クロロゲン酸を2.8~60.0mg/100mL、且つ(D)カフェインを60~120mg/100mL含有することを特徴とする容器詰コーヒー含有飲料。
[10]アイスコーヒー用である[9]に記載の容器詰コーヒー含有飲料。
【発明の効果】
【0010】
本発明の方法によれば、コーヒー特有の爽やかな苦味を保持しながら、更にコーヒー独特のフルーツ様の酸味を有し、コーヒーの焙煎香をトップノートからラストノートまで発現できる容器詰コーヒー含有飲料を提供することができる。
また、アイスコーヒー用として利用する場合において、雑味やイガイガしたエグ味等の苦渋味が抑制され、更に香りが十分保持しているため、砂糖、ミルク等を添加しない所謂ブラックコーヒーでも、十分にコーヒー独特なコク味、香りを楽しむことができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
〈コーヒー豆〉
本発明の容器詰コーヒー含有飲料に使用するコーヒー豆の産地は、特に限定されないが、例えば、ブラジル、コロンビア、インド、ペルー、メキシコ、グアテマラ、コスタリカ、ケニア、イエメン、エチオピア、インドネシア、ジャマイカ、ハワイ等が挙げられる。豆の種類としては、アラビカ種、ロブスタ種、アラブスタ種、リベリカ種等のものが挙げられる。コーヒー豆は1種でもよいし、複数種をブレンドして用いてもよい。焙煎は通常の方法で行えばよく、焙煎の程度は所望する呈味により適宜調整すればよい。具体的には、焙煎を深くすると苦みが強くなり、焙煎が浅いと酸味が強くなる。
焙煎したコーヒー豆を抽出原料として用いる際には粉砕加工が必要となるが、その粉砕方法や粉砕粒度は常法に従い、一般的に工業用原料として流通しているものを利用できる。粒度としては例えば、1.7mm(10mesh)以上が4~60%、好ましくは5~50%、より好ましくは5~15%が適している。
【0012】
〈コーヒー抽出工程〉
抽出に使用する装置は、カラム状の密閉式の抽出装置が好ましく、また抽出温度をコントロールできる装置であればよい。例えば、実用新案登録公報第2553689号の装置を使用することができる(森永エンジニアリング社製等)。開放式の抽出器を使用する方法は、カラム上方から抽出水を、ノズルを通してシャワー又はドリップにより供給し抽出方法であって、カラムが溶液で満たされない状態で抽出水を自然落下(流下)させて抽出する方法である。カラム上部に中空部が存在するため、空気と接触する機会が多く、コーヒー豆の酸化が進む可能性がある。また、カラム内に空気の排出口が備わっているため、コーヒーの香気成分が抽出の際に揮散してしまう可能性が高い。一方、本発明の密閉式の抽出器は空気に接触することなく抽出できるため、コーヒー豆の酸化が抑制され、また香気成分の揮散が少ないため、得られたコーヒー含有飲料は雑味等の苦渋味が少なく、コーヒーの焙煎香が飲用時においてもトップノートからラストノートまで保持された容器詰コーヒー含有飲料が得ることができる。
【0013】
本発明におけるコーヒーの抽出に使用する水は、コーヒーの製造に使用することができるものであれば特に制限されず、水道水、蒸留水、イオン交換水、殺菌水などいずれを用いてもよい。
【0014】
(工程1)焙煎したコーヒー豆の粉砕物をカラム状の密閉式抽出器に投入し、5℃~40℃の抽出水を加え、10分~120分間浸漬する。浸漬温度を一定に保つために、例えば保温性の高い抽出器、あるいは抽出器外側に一定温度の水を巡回させる。浸漬に使用する水は、コーヒー豆が十分浸漬できる量であればよく、抽出器の容積に合わせて適宜調節する。抽出水の送液時には抽出液移送管に接続されている空気抜き用バルブを開きカラム内の空気を抜き、抽出水がカラム内に充填された後に前記バルブを閉鎖する。
浸漬温度は、5℃~40℃に保つことが好ましく、10℃~20℃がより好ましい。40℃を超える温度で浸漬すると香りが逸脱し、また苦渋味を強く感じるため不適である。
浸漬時間は、コーヒー豆の種類、粒度によって調整するが、10分から120分が好ましく、30分から80分がより好ましく、40分~60分が更に好ましい。
これらの浸漬条件によって、コーヒー豆粉砕物を十分に膨潤させることができ、本発明の効果を発現することができる。
【0015】
(工程2)工程1に引き続き、5℃~40℃の水で30分~180分間抽出する。
抽出方法としては、上記同様カラム状の密閉式抽出器を使用することが好ましい。抽出時のカラム内は水で満たされた状態である。抽出水を流す方向としては、上昇、下降とも採用できるが、本発明の効果を顕著に奏する観点から、上昇方向が好ましく、具体的には、抽出器の下端から抽出水を供給し、抽出器上部に設けられたフィルターを通過させて、上端から抽出液を回収する。水を供給する場合、加圧抽出を行うことが好ましい。加圧圧力は、例えば、0.14~1.00MPaとすることができ、0.18~0.80MPaとすることが好ましく、0.20~0.30MPaとすることがより好ましい。
抽出水のpHは特に調整しなくても良いが、必要に応じて抽出液をpH5.0~6.5に調整することにより不溶物の生成を押さえることができる。pHの範囲は、より好ましくはpH5.8~6.2である。その他目的に応じて、抽出水にはアスコルビン酸ナトリウムほか水溶性の抗酸化剤、重曹などを添加しても良い。
【0016】
抽出時間は、抽出方法やスケール等により一様ではなく適宜設定可能であるが、例えば、前記の抽出水を下端から上昇させる抽出方法の場合、好ましくは10分~120分、更に好ましくは20分~60分である。また、抽出に使用する水の温度は5~30℃であることが好ましく、更に10℃~25℃であることが好ましい。
抽出倍率、すなわち(抽出液の質量)/(焙煎コーヒー豆の質量)は、好ましくは5~10、更に好ましくは6~8である。
工程1及び工程2は、同一の抽出器において連続して行われてもよい。2つの工程を同一の抽出器において行うことにより、香気成分が大気中に揮散することを抑制することが期待でき、更に生産効率を向上させることができる。
抽出器上部からコーヒー抽出液を流出する。抽出液の濃度(Brix)を上げることは通常の抽出方法では困難であるが、本発明の製造方法では、コーヒー粉砕物を十分に浸漬してから抽出しているため、十分なBrix値のコーヒー抽出液を得ることができる。
【0017】
(工程3)工程2で得られた抽出液は、そのまま、あるいは所望の濃度に適宜調整し、調合液とする。この際に乳成分、甘味料、pH調製剤その他の添加物等を混合してもよい。その他、必要により苦味抑制剤、酸化防止剤、香料、各種エステル類、有機酸類、有機酸塩類、無機酸類、無機酸塩類、無機塩類、色素類、乳化剤、保存料、調味料、酸味料、品質安定剤などの添加剤を1種又は2種以上配合してもよい。本発明の容器詰コーヒー含有飲料のpH(20℃)としては、保存性、香味バランスの観点から、好ましくは5.0~8.0の範囲内、より好ましくは5.5~6.5の範囲内が挙げられる。pH調整には、通常使用されるナトリウム塩やカリウム塩を添加することによって調整することができる。
上記のようにして得られた調合液は加熱殺菌した後冷却して容器に充填、あるいは加熱殺菌後そのまま容器に充填する方法、もしくは耐熱容器に充填した後に加熱殺菌して、容器詰コーヒー含有飲料とすることができる。殺菌処理方法としては、レトルト殺菌法、高温短時間殺菌法(HTST法)、超高温殺菌法(UHT法)などを用いることができる。殺菌条件は、適用されるべき法規(日本にあっては食品衛生法)に定められた殺菌条件で実施することができる。使用する容器等により、適した殺菌方法を採用すればよく、金属缶のように、飲料を容器に充填後、容器ごと加熱殺菌できる場合にあってはレトルト殺菌、またPETボトル、紙容器のようにレトルト殺菌できないものについては、あらかじめ上記と同等の殺菌条件、例えばプレート式熱交換器などで高温短時間殺菌後、一定の温度迄冷却して容器に充填する等の方法が採用できる。例えば、コーヒー調合液を130~138℃、10~20秒殺菌後、冷却して容器に充填する方法が挙げられる。
【0018】
本発明の容器詰コーヒー含有飲料は、必要に応じて公知の方法により濃縮液や乾燥させた固形状、粉末状等にしても良い。濃縮には減圧濃縮、逆浸透膜濃縮、凍結濃縮等の手段を採用すれば良いが、香味面を考慮すると熱負荷の小さい逆浸透膜濃縮や凍結濃縮が好ましい。濃縮の程度は特に制限されないが、飲料へ配合する際の作業性を考慮するとコーヒー抽出液のBrixは1~30%が好ましい。殺菌する場合には、高温長時間の加熱では香味のバランスが崩れるため、高温短時間の加熱(例えば85℃~135℃で10秒~30分程度)が適当である。さらに加熱後の濃縮液は冷蔵または冷凍保存することにより香味の劣化を防ぐことができる。乾燥させる場合には噴霧乾燥法や凍結乾燥法等、一般的に用いられている方法を採れば良い。
【0019】
また、本発明の容器詰コーヒー含有飲料の製造方法は、コーヒーの抽出方法として、複数の独立した抽出器を配管で直列につないだ装置を用いる抽出方法も包含される。例えば、焙煎コーヒー豆を、複数の独立した抽出塔それぞれに投入し、1段階目の抽出塔に抽出水を供給して該抽出塔からコーヒー抽出液を排出させる。次いで、1段階目の抽出塔から排出されたコーヒー抽出液を2段階目の抽出塔に供給し該抽出塔からコーヒー抽出液を排出させる。なお、3段階目以降の抽出塔を有する場合、前段階の抽出塔から排出されたコーヒー抽出液を次段階の抽出塔に供給しコーヒー抽出液を排出させるという操作を繰り返し行う。そして、最終段階の抽出塔から排出されたコーヒー抽出液を回収する。
抽出塔から排出されたコーヒー抽出液は、全ての抽出塔を連続して通過させるだけでなく、抽出塔から排出されたコーヒー抽出液を一旦タンク等に貯留してもよいし、貯留したコーヒー抽出液を次段階の抽出塔に供給してもよい。なお、抽出に使用する抽出塔の段数は2以上であれば特に限定されず、所望の風味が得られるように適宜選択可能である。また、抽出原料と抽出水を向かい合わせて逆方向に進行させて連続的に抽出する向流式抽出方法を採用すれば、より効率的に抽出を行うことができる。
【0020】
〈成分〉
本発明の容器詰コーヒー含有飲料は(A)アーモンド様香気成分(ベンズアルデヒド)、(B)熟したフルーツ様香気成分(酢酸フルフリル、プロピオン酸フルフリル、2-ブタノン、2,3-ブタンジオン、2-ペンタノン、2,3-ペンタンジオン、2,3-ヘキサンジオン、3,4-ヘキサンジオン、および1-(2-フリル)-2-ブタノン)について、ガスクロマトグラフ質量分析法(GC/MS分析法)にて分析した際の各グループ内ピークエリア合計の比(B)/(A)が7.0以上である。
(A)および(B)のグループ毎に合計した結果として評価する。本発明の製造方法で得られる容器詰コーヒー含有飲料では(B)熟したフルーツ様香気成分に対する(A)アーモンド様香気成分の比である [(B)/(A)]が7.0以上であり、トップノートからラストノートまで香気が維持されるという観点において、[(B)/(A)]が8.0以上であることがより好ましく、更に好ましくは8.5以上である。
更に、(B)熟したフルーツ様香気成分中の(B1)1-(2-フリル)-2-ブタノンのピークエリアの比が、0.8~1.0であることで効果が発現でき、0.8~1.0であることがより好ましい。
【0021】
なお、コーヒー含有飲料の香気成分は、各々の香気成分のピークエリアを(A)及び(B)のグループ毎に合計した結果として評価する。本発明におけるコーヒー含有飲料中の前記香気成分のピークエリアとは、固相マイクロ抽出法(Solid Phase Micro Extraction:SPME)を用いたガスクロマトグラフ質量分析法(GC/MS分析法)で得られる値を採用する。詳細な条件は本明細書の実施例の項に記載する。
【0022】
本発明の容器詰コーヒー含有飲料は更に、(C)クロロゲン酸、(D)カフェインを含み、(C)クロロゲン酸2.8~60.0mg/100mL、及び(D)カフェイン60~120mg/100mLを含有することを特徴とする。
苦味由来の成分を保持しながら、コーヒーの焙煎香がトップノートからラストノートまで香気が維持されるという観点から、クロロゲン酸は2.9~40.0mg/100mL、カフェインは90~100mg/100mLがより好ましい。
なお、カフェインおよびクロロゲン酸の分析条件は、本明細書の実施例に記載する。
【0023】
〈容器詰コーヒー含有飲料〉
本発明の容器詰コーヒー含有飲料に利用できる容器は、缶(アルミニウム、スチール)、紙、レトルトパウチ、瓶(ガラス)等が例示できる。直接飲用するものでもよく、一度別の容器に移して飲用するものでもよい。例えば、1L以上の紙容器、バックインボックスなどの容器に充填したものを氷などが入った容器に移して飲用するものが挙げられる。
【0024】
本発明の容器詰コーヒー含有飲料は「コーヒー飲料等の表示に関する公正競争規約」における「コーヒー」、「コーヒー飲料」、「コーヒー入り清涼飲料」、「コーヒー入り乳飲料」等が挙げられる。本発明の効果がより発現できることから、コーヒー、コーヒー飲料、コーヒー入り清涼飲料が好ましく挙げられる。また、コーヒー、コーヒー飲料、コーヒー入り清涼飲料には、それぞれブラックコーヒー、乳成分入りコーヒーが含まれ、特にブラックコーヒーが好ましい。
【0025】
本発明における容器詰コーヒー含有飲料の苦味抑制方法及び香味増強方法とは、焙煎したコーヒー豆の粉砕物を5℃~40℃の水で10分~60分間浸漬後、密閉式の抽出塔を用いて5℃~40℃の水で30分~180分で抽出することにより、コーヒーの爽やかな苦味、フルーツのような酸味を保持したまま、コーヒーの焙煎香をトップノートから、ラストノートまで発現できる。飲用時に感じるイガイガしたエグ味、雑味等の苦渋味を抑制できるので、ブラックコーヒーでも、コーヒー本来の爽やかな苦味、香気を楽しむことができる。特にアイスコーヒーとして飲用する場合は、イガイガしたエグ味等が抑制させているためシロップ等を入れなくてもよく、コーヒー本来の香味を味わうことができる。
【実施例
【0026】
以下に本発明を実施例によってさらに具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0027】
<カフェインおよびクロロゲン酸の測定用試料液の調製方法>
容器詰コーヒー含有飲料を親水性PTFEフィルター(アドバンテック(株)製,DISMIC-13HP;0.45μm)でろ過し、ろ液の2mL以降を測定用試料液とした。
【0028】
<カフェインおよびクロロゲン酸の分析条件>
カフェインおよびクロロゲン酸の定量はHPLC分析法により次の条件で行った。
・標準物質:カフェイン、クロロゲン酸(関東化学(株)製)
・装置:Alliance HPLCシステム(ウォーターズ社製)
・カラム:Poroshell 120 EC‐C18(4.6×100mm,粒子径2.7μm、アジレント社製)
・カラム温度:40℃
・移動相:A液0.05%リン酸水/アセトニトリル=1000/25(体積比)、B液メタノール・グラジエントプログラム:0~1分(B液0%)、1~11分(B液0~33%)、11~11.25分(B液33~95%)、11.25~13.25分(B95%)、13.25~13.5分(B液95~0%)、13.5~15.5分(B液0%)
・流速:1.5mL/min
・検出:UV275nm
【0029】
<香気成分の分析方法>
評価試料(コーヒー含有飲料)2mL、水8mL及び塩化ナトリウム3gを20mLバイアルに入れ、内部標準物質としてシクロヘプタノール(東京化成工業(株)製)を終濃度で500ppbとなるように添加した。このサンプル液について固相マイクロ抽出法(Solid Phase Micro Extraction:SPME)を用いたGC/MS分析に供した。評価は各香気成分のピークエリアと内部標準物質のピークエリアの比によって求めた。
<SPME-GC/MS条件>
GC:TRACE GC ULTRA(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)
MS:TSQ QUANTUM XLS(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)
SPMEファイバー:50/30μm Divinylbenzene/Carboxen/Polydimethylsiloxane Stableflex抽出:60℃、30分
カラム:SUPELCO WAX10(0.25mmI.D.×60m×0.25μm、シグマアルドリッチ社製)
オーブンプログラム:40℃で2分間保持した後、160℃まで3℃/分で昇温し、その後280℃まで10℃/分で昇温
キャリアーガス:ヘリウム(100kPa、一定圧力)
インジェクター:スプリットレス、240℃
イオン化:電子イオン化
イオン化電圧:70eV
【0030】
<官能評価方法>
後述の実施例及び比較例のコーヒー含有飲料は、5名の専門パネラーにより官能評価を行った。評価するコーヒーは室温のものを使用した。評価基準は以下に示す。
本発明のおける苦味とは、コーヒー特有な爽やかで、すっきりとした苦味のことを示し、飲用に際して好ましい味を示す。一方本発明における苦渋味(雑味)とは、不快な味、例えば、イガイガしたエグ味、収れん味、苦渋味など、飲用に際して好ましくない味を示す。また、酸味とは、飲用時に感じるフルーツのような酸味を示す。
<トップノートの焙煎香の評価基準>
飲用してすぐに感じるコーヒーの焙煎香をトップノートの焙煎香とした。
評価点:5(非常に良い)、4(やや良い)、3(良い)、2(やや悪い)、1(悪い)評価:5人の平均評価点が、3.6以上を◎、2.9~3.5を○、2.1~2.8を△、2.0以下を×とした。
<ラストノートの焙煎香の評価基準>
飲用後に残る焙煎香をラストノートの焙煎香とした。
評価点:5(非常に良い)、4(やや良い)、3(良い)、2(やや悪い)、1(悪い)評価:5人の平均評価点が、3.6以上を◎、2.9~3.5を○、2.1~2.8を△、2.0以下を×とした。
<苦味の評価基準>
飲用時に感じるコーヒー特有な爽やかですっきりとした苦味を苦味とした。
評価点:5(非常に良い)、4(やや良い)、3(良い)、2(やや悪い)1(悪い)
評価:5人の平均評価点が、3.6以上を◎、2.9~3.5を○、2.1~2.8を△、2.0以下を×とした。
<酸味の評価基準>
飲用時に感じるコーヒー独特のフルーツ様の酸味を酸味とした。
評価点:5(非常に良い)、4(やや良い)、3(良い)、2(やや悪い)1(悪い)
評価:5人の平均評価点が、3.6以上を◎、2.9~3.5を○、2.1~2.8を△、2.0以下を×とした。
<苦渋味の評価基準>
飲用時に感じる不快なイガイガしたエグ味、収れん味、苦渋味を苦渋味とした。
評価点:5(感じられない)、4(あまり感じられない)、3(感じられる)、2(やや強く感じられる)、1(強く感じられる)
評価:5人の平均評価点が、3.6以上を◎、2.9~3.5を○、2.0~2.8を△、1.9以下を×とした。
【0031】
さらに官能評価と成分(パラメータ)の結果から総合的に評価した。
〈総合評価〉
各サンプルの総合評価は、下記の基準に従って実施した。
◎:官能評価の全項目の評価が◎、(B)/(A)が8.5以上及び(B1)/(B)が0.55~0.60
○:官能評価の全項目の評価が○、(B)/(A)が7.0以上8.4以下、及び(B1)/(B)が0.50~0.54又は0.61~0.63
△:いずれかの項目に△、(B)/(A)が6.5以上6.9以下、又は(B1)/(B)が0.3~0.50未満又は0.64以上
×:いずれかの項目の評点に×、(B)/(A)が6.4以下、又は(B1)/(B)が0.3未満を含む
【0032】
[試験例1]
〈実施例1〉
ブレンドした焙煎コーヒー豆の粉砕物175gを円筒状抽出塔(カラム)(内径70mm×高さ250mm)1本に充填した。次いで10℃の水を抽出塔の下部から上部へ送液してカラム内を満たした後、40分間浸漬した。
次いで、10℃の水を、抽出塔下部から上部へ送液した。抽出塔の上部から排出されたコーヒー抽出液を、フィルターを通過させて回収した。Brixが3.0のコーヒー抽出液が得られた。得られた抽出液を、Brix1.5となるよう調合し、136℃、10秒で殺菌後、冷却工程を経て紙容器に充填して、容器詰コーヒー含有飲料を作製した。得られたコーヒーの成分分析及び官能評価を実施した。その結果を表1に示す。
【0033】
実施例1の浸漬温度と抽出温度を、20℃、30℃、40℃とした以外は実施例1と同様に操作し、実施例2~4の容器詰コーヒー含有飲料を作製した。
【0034】
〈比較例1及び2〉
比較例1及び2は、実施例1の浸漬温度と抽出温度を50℃、90℃とした以外は実施例1と同様に製造した。
【0035】
[試験例2]原料のコーヒー豆をモカとした以外は実施例1と同様に抽出した(実施例5)。
以下、実施例1~5、比較例1~2の製造方法と評価結果を表1に示す。
【0036】
【表1】
【0037】
表1の結果から、実施例1~4では、トップノートからラストノートまでコーヒーの良質なカラメル様の焙煎香が感じられた。また、コーヒーのすっきりとした苦味、フルーツ様の酸味が感じられた。カフェイン及びクロロゲン酸は十分に含まれているにもかかわらず、不快な苦渋味が感じられなかった。同様の結果はコーヒー豆をモカとした場合でも確認できた。
また、比較例1ではトップノートからラストノートまでの焙煎香は感じられたものの、苦渋味が感じられた。比較例2ではトップノートからラストノートまでの焙煎香が不十分で、苦渋味も感じられた。これらの結果から、本発明の製造方法によって、得られた容器詰コーヒー含有飲料は、コーヒーの苦味を保持しながら、コーヒーの焙煎香をトップノートからラストノートまで保持できるコーヒーが得られることが確認できた。
【0038】
[試験例3]ドリップ式(開放系)と密閉系(抽出送液が下部から)の比較
開放系であるドリップ式と、本発明の密閉式による抽出方法を比較し、香味を確認した。
比較例3では、抽出水の送液方法を上部から行い(いわゆるドリップ式)、90℃で抽出した。比較例3のドリップ式はカラム上部からシャワーノズルを通して抽出水を送液する方法であり、カラムが溶液で満たされない状態で抽出水を自然落下(流下)させて抽出する方法である。
評価結果を表2に示す。なお、実施例2、比較例2を再掲した。
【0039】
【表2】
【0040】
表2の結果から、比較例2及び3を比較すると、開放系の抽出方法では香気成分が十分保持されず、特にラストノートの焙煎香に劣っていた。また、不快な苦渋味がより強く感じられた。
また、これらの飲料に氷を入れてアイスコーヒーを作製し、香味を評価した結果、実施例2はトップノートからラストノートまでコーヒーの良質なカラメル様の焙煎香が感じられ、イガイガしたエグ味が少なく、コーヒーのすっきりとした苦味、フルーツ様の酸味が感じられた。一方、比較例2及び3は苦渋味が強く感じられ、トップノートからラストノートまでの焙煎香をあまり感じることができなかった。
【0041】
〈製造例〉
ブレンドした焙煎コーヒー豆の粉砕物73kgを円筒状抽出塔(森永エンジニアリング製)1本に充填した。次いで10℃の水を抽出塔の下部から上部へ送液してカラム内を満たした後、40分間浸漬した。
浸漬後、10℃の水を、抽出塔下部から上部へ送液した。抽出塔の上部から排出されたコーヒー抽出液を、フィルターを通過させて回収した。
その結果Brixが3.0のコーヒー抽出液が得られた。得られた抽出液を、Brix1.5となるよう調合し、136℃、10秒で殺菌後、冷却工程を経て紙容器に充填した。得られた容器詰コーヒー含有飲料の成分分析及び官能評価を実施した。カフェイン84.1mg/100mL、クロロゲン酸2.6mg/100mL、(B)/(A)=7.0、(B1)/(B)=0.55であった。
また、官能評価はトップノート、ラストノート、苦味、酸味、苦渋味とも◎であり、コーヒーの爽やかな苦味、コーヒーの焙煎香をトップノートからラストノートまで保持されたコーヒー含有飲料が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の容器詰コーヒー含有飲料の苦渋味抑制方法及び香味増強方法によれば、コーヒー豆の品種に制限されることなく、カフェイン、クロロゲン酸等の苦味成分を低減されていなくても、不快な苦渋味が抑えられ、コーヒーの焙煎香をトップノートからラストノートまで保持された、香り立ちのよい容器詰コーヒー含有飲料を提供することができる。