(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-29
(45)【発行日】2024-02-06
(54)【発明の名称】電極
(51)【国際特許分類】
C02F 1/48 20230101AFI20240130BHJP
H05H 1/24 20060101ALI20240130BHJP
【FI】
C02F1/48 B
H05H1/24
(21)【出願番号】P 2020004381
(22)【出願日】2020-01-15
【審査請求日】2022-11-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000236160
【氏名又は名称】株式会社テクノ菱和
(74)【代理人】
【識別番号】100081961
【氏名又は名称】木内 光春
(74)【代理人】
【識別番号】100112564
【氏名又は名称】大熊 考一
(74)【代理人】
【識別番号】100163500
【氏名又は名称】片桐 貞典
(74)【代理人】
【識別番号】230115598
【氏名又は名称】木内 加奈子
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 朋且
【審査官】高橋 成典
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-061654(JP,A)
【文献】特開2006-134828(JP,A)
【文献】特開2004-146837(JP,A)
【文献】特開2012-217021(JP,A)
【文献】特開2001-029446(JP,A)
【文献】特開2002-149337(JP,A)
【文献】特開2011-155235(JP,A)
【文献】特開2009-302205(JP,A)
【文献】特開2000-133495(JP,A)
【文献】特開2002-83736(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/46 - 1/48
H05H 1/00 - 1/54
H03H 1/00 - 3/00
5/00 - 7/13
B01J 10/00 - 12/02
14/00 - 19/32
A61L 2/00 - 2/28
11/00 - 12/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円板状の金属板と、
前記金属板の下面に接着固定され
、前記金属板の直径より大きな寸法を有する板状の誘電体と、
前記誘電体の上下面において、少なくとも下面側に配置され、前記誘電体の端部を固定するカバーと、
を有し、
前記カバー
には
、前記金属板の直径より大きな寸法を有し、かつ、前記誘電体より小さな寸法を有する開口部が設けられ、
前記カバーは、前記開口部に前記金属板が位置し、前記金属板を露出させるように前記誘電体の端部を固定し、
前記金属板の外周面と、前記カバーの開口部の内周面との間には、空間が設けられている電極。
【請求項2】
前記金属板の外周面と、前記カバーの開口部の内周面との間の距離が、1cm以上である請求項1記載の電極。
【請求項3】
前記金属板の円周部分は、シリコンシーラントを介して、前記誘電体にモールド接着されている請求項1又は2記載の電極。
【請求項4】
リング状の固定ブラケットをさらに有し、
前記固定ブラケットの内周側に前記金属板が嵌め込まれ、前記固定ブラケットが前記誘電体にシリコンシーラントを介して固定されることにより、前記金属
板は前記誘電体に接着されている請求項1又は2記載の電極。
【請求項5】
前記金属板がステンレス板であり、
前記誘電体が石英ガラスである請求項1~4いずれか一項記載の電極。
【請求項6】
前記カバーの材質が、ポリカーボネート樹脂である請求項1~5いずれか一項記載の電極。
【請求項7】
前記カバーが、前記誘電体の端部を挟持する上面カバーおよび下面カバーである請求項1~6
いずれか一項記載の電極。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマの発生に用いる電極に関する。
【背景技術】
【0002】
近年では、薬液等を用いない殺菌方法として、放電プラズマを利用した殺菌方法が提案されている。この方法は、放電プラズマにより生成する反応性の高い化学活性種やイオンの酸化力を用いて殺菌するものである。電気的なエネルギーのみで高い殺菌効果が得られ、薬液などを用いる方法のような残留性が無いことから様々な分野で応用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開1999-187872号公報
【文献】特開2001-252665号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
プラズマを用いた殺菌には、電極を用いてコロナ放電を発生させ、生成したラジカル類により殺菌を行う方法がある。また、被処理水中にて電極間に高電圧パルスを印加することで被処理水を絶縁破壊し、生成するラジカル類と衝撃波により被処理水を殺菌する方法も提案されている。他にも、被処理水の水面に対して誘電体バリア放電を発生させ、水面にプラズマを照射してプラズマ処理水を生成し、このプラズマ処理水を用いて殺菌対象を殺菌する方法もある。
【0005】
これらのプラズマ処理において用いられる放電では、プラズマ発生時の発熱が大きなものとなる。そのため、プラズマの発生に用いられる電極は、耐熱性が求められ、熱による変形等を防止する必要があった。この耐熱性を確保するために、電極は高コスト化し、複雑な構造となっていた。
【0006】
本発明は、上述したような従来技術の問題点を解決するために提案されたものである。その目的は、構造が簡易化されるとともに低コスト化された電極を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明の電極は、以下の特徴を有する。
(1)円板状の金属板と、前記金属板の下面に接着固定され、前記金属板の直径より大きな寸法を有する板状の誘電体と、前記誘電体の上下面において、少なくとも下面側に配置され、前記誘電体の端部を固定するカバーと、を有し、前記カバーには、前記金属板の直径より大きな寸法を有し、かつ、前記誘電体より小さな寸法を有する開口部が設けられ、前記カバーは、前記開口部に前記金属板が位置し、前記金属板を露出させるように前記誘電体の端部を固定し、前記金属板の外周面と、前記カバーの開口部の内周面との間には、空間が設けられている。
【0008】
(2)前記金属板の外周面と、前記カバーの開口部の内周面との間の距離が、1cm以上であっても良い。
【0009】
(3)前記金属板の円周部分は、シリコンシーラントを介して、前記誘電体にモールド接着されていても良い。
【0010】
(4)リング状の固定ブラケットをさらに有し、前記固定ブラケットの内周側に前記金属板が嵌め込まれ、前記固定ブラケットが前記誘電体にシリコンシーラントを介して固定されることにより、前記金属板は前記誘電体に接着されていても良い。
【0011】
(5)前記金属板がステンレス板であり、前記誘電体が石英ガラスであっても良い。
【0012】
(6)前記カバーの材質が、ポリカーボネート樹脂であっても良い。
【0013】
(7)前記カバーが、前記誘電体の端部を挟持する上面カバーおよび下面カバーであっても良い。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、構造が簡易化されるとともに低コスト化された電極を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】第1の実施形態にかかる電極の一例を示す上面図である。
【
図2】第1の実施形態にかかる電極の一例を示す断面図である。
【
図3】金属板を誘電体にモールド接着する例を示す写真である。
【
図5】固定ブラケットを用いて、金属板を誘電体に接着固定した例を示す写真である。
【
図6】他の実施形態にかかる電極の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[構成]
本発明に係る電極の実施形態について図面を参照しつつ説明する。電極は、例えば、誘電体バリア放電電極であり、殺菌対象に供給されるプラズマ殺菌水を生成するプラズマ殺菌水生成装置に用いることができる。プラズマ殺菌水は、被処理水に対してプラズマ放電を行うことで生成されたラジカル類が溶存する水である。このラジカル類が有するとされる殺菌力により、殺菌対象は殺菌される。なお、電極は、プラズマ殺菌水生成装置以外にも、プラズマを用いる装置に対して適用可能である。また、電極の構成は、種々の平板状の電極に適用可能である。
【0017】
電極は、互いに対向するように配置された上部電極Aおよび下部電極を含む。上部電極Aは、金属板1、誘電体2、上面カバー3、および下面カバー4を有する。下部電極は接地極に相当する電極である。
【0018】
(金属板)
図1および
図2に示す通り、上部電極Aの金属板1は、円板状の電極である。円板状とは、真円の円板だけでなく、楕円や、四角形において角部分を丸めた形状等を含む。角を有さない形状とすることで、エッジ部への電界集中や火花放電の進展が防止される。金属板1は、耐腐食性のある金属として、例えばニッケル、チタン、各種ステンレス鋼、アルミ、銅、パラジウム、金を用いることができる。他には、誘電体2の一例であるガラスとの相性からコバールを用いても良い。特に、金属板1としてステンレス板を用いることにより、コストダウンと耐久性の向上が達成される。
【0019】
また、金属板1は、誘電体2上に0.1μm~50μm程度の金属層をスパッタリングや蒸着により形成しても良い。スパッタリングや蒸着により形成された金属板1は、誘電体2に接着固定された状態となる。金属板1をスパッタリングで形成する場合には、誘電体2に対し0.1μm~1μm程度の下地層を設け、その下地層の上に金属板1としての金属層を設ける構成としても良い。
【0020】
誘電体2に対し、金属板1をスパッタリングにより形成すると、成膜された層の誘電体2に対する密着力が向上し、膜応力も高くすることができる。下地層としては、チタン、パラジウム、ニッケル、クロムをスパッタリングにより形成することが好ましい。下地層を形成することにより、誘電体2に対する金属板1としての金属層の密着度がさらに向上される。
【0021】
なお、スパッタリングによる金属板1と下地層の厚みの合計を0.2~1μmとすると、十分な電極性能が得られる。また、平板状の金属板1を用いる場合と比較して、電極が軽量化される。また、金属板1と下地層の厚みの合計を0.2~0.5μmとすることが好ましい。合計0.2~0.5μmの薄膜を形成する場合には、電極性能を維持しつつも、スパッタリングにかかる時間が短縮可能となる。よって、製造工数削減により、電極をより低コストで提供できる。
【0022】
例えば金属板1および誘電体2が真円の円板状である場合、金属板1の水平方向の大きさ、すなわち直径は、誘電体2の直径より小さい。また、金属板1の直径は、後述する上面カバー3および下面カバー4の開口部の内径より小さい。金属板1の直径は、電極Aが適用される装置等の条件により適宜変更可能であるが、例えば1~20cmとすることができる。また、金属板1の厚みは、0.2μm~20mmとすると良い。このように、上部電極Aは、金属板1の面積を自由に設定可能であり、大小様々な電極構成が提供される。なお、以上のような金属板1には交流電圧印加による発熱が伝導する。金属板1の下面側には、誘電体2が設けられている。
【0023】
(誘電体2)
誘電体2は、円板状に形成されている。ただし、誘電体2は矩形等、他の形に形成されていても良い。誘電体4は、比誘電率(εr)が比較的大きく、誘電正接(tanδ)が小さく、絶縁耐力(KV/mm)が良いことが好ましい。誘電体4の材料としては、石英ガラス(εr:3.5~4.5、tanδ:~0.0005)、ガラス(εr:3~10、tanδ:0.003)、ポリエチレン(εr:2~2.5、tanδ:~0.0005)、ポリプロピレン(εr:2~2.3、tanδ:~0.0005)、ポリテトラフルオロエチレン(εr:2.0、tanδ:~0.0002)、アルマイト(蓚酸アルマイト;εr:6~10、tanδ:~0.001)や窒化ケイ素(εr:7~8、tanδ:0.0005)等のセラミックスを用いることができる。特に、誘電体2として石英ガラスを用いることにより、コストダウンと耐久性の向上が達成される。
【0024】
例えば金属板1および誘電体2が真円の円板状である場合、誘電体2の直径は、金属板1の直径より大きい。また、誘電体1の直径は、後述する上面カバー3および下面カバー4の開口部の内径より大きく、上部カバー3および下部カバー4により挟持可能に構成されている。誘電体2の直径は、電極Aが適用される装置等の条件により適宜変更可能であるが、例えば3.5~22.5cmとすることができる。誘電体2の厚さについては、薄い方が放電し易い。ただし、電極に対する電源の印加電圧と誘電体2の絶縁耐力との兼ね合いを考慮する必要がある。また、上部電極Aとしての耐久性・機械的な強度も考慮した上で、誘電体2の厚みを決定する。例えば、誘電体2の厚みは、1~3mmとすると良い。
【0025】
(上面カバーおよび下面カバー)
上面カバー3および下面カバー4は、誘電体の端部を固定するカバーである。上面カバー3は、誘電体2の上面に配置される。また、下面カバー4は、誘電体2の下面に配置される。上面カバー3および下面カバー4は、誘電体2の端部を上下方向から挟んで固定する部材である。なお、上面カバー3と下面カバー4の双方を必ずしも有している必要はない。下面カバー4を断面L字型に形成し、誘電体2を上方から嵌め込むことで、誘電体2の端部を下から支持しつつ固定する構成としても良い。
【0026】
上面カバー3は、矩形状の平板であり、その中央に開口部3aを有する。同様に、下面カバー4は、矩形状の平板であり、その中央に開口部4aを有する。上面カバー3および下面カバー4の材質としては、ポリフェニレンサルファイド樹脂や、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリサルホン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂等を用いることができる。特に、ポリカーボネート樹脂を用いることで、十分な耐熱性を維持しつつ、コストダウンが可能となる。
【0027】
上面カバー3および下面カバー4は、同じ寸法の平板であってよい。上面カバー3および下面カバー4は、誘電体2の直径よりも大きな寸法を有する必要がある。例えば、5~24cm×5~24cmの矩形の平板を用いることができる。また、上面カバー3の開口部3aおよび下面カバー4の開口部4aは、金属板1の形に倣った開口部である。例えば、金属板1が真円の円形の場合、開口部3aおよび4aも真円の円形とすると良い。また、開口部3aおよび4aは、同じ直径を有して良い。開口部3aおよび開口部4aの直径は、金属板1の直径より大きく、誘電体2の直径より小さい必要がある。
【0028】
例えば、開口部3aおよび開口部4aを真円の円形とした場合、直径は、3~22cmとすることができる。このような直径とすることで、上面カバー3および下面カバー4の間に、誘電体2の端部を挟持することが可能となる。ただし、金属板1の熱伝導により誘電体2の外周面も100℃近くまで加熱され得る。そのため、上面カバー3および下面カバー4と、誘電体2の接触面積は、固定強度を考慮した上で、極力少なくすることが好ましい。例えば、開口部3aおよび開口部4aの直径を、誘電体2の直径より5mm程度小さく構成することで、固定強度を確保しつつ接触面積を最小化することができる。
【0029】
また、金属板1の外周面と、上面カバー3の内周面との間には空間が設けられている。その空間の距離は、少なくとも1cm以上、好ましくは2cm以上に構成することが好ましい。金属板1の発熱が上面カバー3に伝わることを防止するためである。金属板1の外周面と、下面カバー4の内周面との間の空間も、同様に設定することができる。なお、カバーを下面カバー4のみで構成した場合には、金属板1の外周面と、下面カバー4の内周面との間に、少なくとも1cm以上の空間を設ければ良い。
【0030】
上面カバー3および下面カバー4は、固定孔5を複数有する。固定孔5の数は、上面カバー3および下面カバー4の大きさを考慮して適宜決定可能である。固定孔5には、誘電体2を上面カバー3および下面カバー4の間に挟持した状態で、固定具5aが挿入されて固定される。固定具5aとしては、ボルトやナット、ネジ等を適宜用いてよい。
【0031】
以上のような構成を有する上部電極Aの構成例としては、金属板1である直径120mmの円形のステンレス板を、誘電体2である直径175mmの透明溶解石英板に接着固定する構成がある。そして、直径170mmの開口部3aおよび4aを有するポリカーボネート樹脂製の上面カバー3および下面カバー4により、石英板の端部が挟持される。このような上部電極Aにおいては、ステンレス板の外周面と、上面カバー3の開口部3aの内周面との間に、27.5mmの空間が設けられることとなる。
【0032】
(下部電極)
以上のような上部電極Aは、接地極である下部電極と対向するように配置されて用いられる。例えば、プラズマ殺菌水生成装置の場合、下部電極を、被処理水が貯留された水槽の下部側に配置すればよい。下部電極を、水槽に貯留された被処理水中に水没する位置に設ける。すると、誘電体バリア放電の放電電流は、被処理水中を経由して下部電極に流れる構成となる。
【0033】
下部電極の材質は金属であれば良く、その形状も自由に変更可能である。ただし、誘電体バリア放電の放電電流を確実にアースに導くことができるように構成する。例えば、水槽の非処理水中に下部電極を水没させる場合、水中における耐腐食性に優れ、比較的硝酸系の酸にも耐力がある金属として、例えばステンレスを用いると良い。
【0034】
(電源)
以上のような上部電極Aおよび下部電極には、誘電体バリア放電発生用の交流電圧を印加する高圧電源である電源が接続されて良い。例えば、プラズマ殺菌水生成装置の場合、電源は、交流の交番周波数が数kHz~数十kHz、印加電圧は最大で10kV0-p(2~3kV/cm)程度、電源容量は500VA程度のものを用いることができる。ただし、電源は、電極が適用される装置の条件等を考慮したうえで、適宜選択可能である。
【0035】
(金属板と誘電体の接着構造)
上記の通り、金属板1の直径は、上面カバー3および下面カバー4の開口部の内径より小さく、上面カバー3および下面カバー4に接触しない。一方、誘電体2は、上面カバー3および下面カバー4により挟持可能に構成されている。金属板1の下面は、この誘電体2の上面に接着固定されている。具体的には、
図3(a)および(b)に示す通り、金属板1の円周部分はモールド部6が設けられ、誘電体2にモールド接着されている。
【0036】
モールド部6には、200℃以上の耐熱性を有する、シリコンシーラントを用いることが好ましい。例えば、250℃の耐熱性を有するモメンティブ社のTSE3826を用いると良い。このようなシリコンシーラントを金属板1の上面の一部、円周部分、および下面の一部に至るように塗布し、金属板1を誘電体2の所望の位置に圧着すると良い。シリコンシーラントが硬化されることによりモールド部6が形成され、金属板1が誘電体2に接着固定される。
【0037】
また、モールド固定に代わり、
図4に示す通り、固定ブラケット7を有し、固定ブラケット7を用いて誘電体2に金属板1を固定しても良い。固定ブラケット7は、200℃以上の耐熱性を有する樹脂を用いて形成すれば良く、例えばポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリアミドイミド樹脂等を用いることができる。固定ブラケット7は、断面が逆L字型のリング状の部材であり、逆L字型の内周面において、金属板1の上面の一部と円周部分に接触する。また、固定ブラケット7の底面において、誘電体2の上面の一部に接触する。固定ブラケット7の厚みを10mm以上とすることで、固定ブラケット7の熱変形が確実に防止される。
【0038】
図5(a)~(d)に示す通り、固定ブラケット7は、内周面と底面に至るように上記のシリコンシーラント7aが塗布され、金属板1および誘電体2に接着されて良い。このように接着することにより、固定ブラケット7の内周側に金属板1がはめ込まれるとともに、固定ブラケット7の底面が誘電体2に固定される。よって、金属板1が誘電体2に接着固定される。また、シリコンシーラント7aを介することにより、固定ブラケット7の熱変形が防止される。
【0039】
[作用効果]
以上のような本実施形態の電極の作用効果は、以下のとおりである。
(1)円板状の金属板と、金属板の下面に接着固定された誘電体と、誘電体の端部を固定するカバーと、と有し、カバーは開口部が設けられ、金属板の外周面と、カバーの開口部の内周面との間には、空間が設けられている。
【0040】
各種プラズマ処理において用いられる誘電体バリア放電は、プラズマ発生時の発熱が大きい特殊放電である。そのため、プラズマ処理に用いられる電極は、熱に対する強度が求められる。そのため、従来では、高価な電極材料を用いて、複雑な構造の電極を用いることが多い。
【0041】
しかし、本実施形態の電極では、発熱が生じる金属板1と、上面カバー3との間に空間が設けられている。そのため、上面カバー3は金属板1からの発熱の影響を受けにくくなり、変形が防止される。また、金属板1が接着固定された誘電体2は加熱されるが、誘電体2の端部の温度は100℃以下に留まることが明かとなった。従って、電極の耐熱性を向上することができる。
【0042】
また、上面カバー3および下面カバー4は、金属板1が接着固定された誘電体2の端部を挟持する構成を有する。そのため、誘電体2に対する、上面カバー3および下面カバー4の接触面積が低減される。金属板1の発熱により誘電体2も100℃以下ではあるが加熱される。しかし、誘電体2と上面カバー3および下面カバー4の接触面積を低減させることで、上面カバー3および下面カバー4の変形をさらに防止することが可能となる。以上より、比較的耐熱温度の低い安価な樹脂を用いて上面カバー3および下面カバー4を製造することができる。
【0043】
また、従来のように、上面カバー3および下面カバー4で、金属板1および誘電体2の双方を挟持しないため、カバーを用いて金属板1を誘電体2に固定することができない構成である。しかし、金属板1を誘電体2に接着固定させることにより、簡易化された電極構造を維持しつつ、上面カバー3および下面カバー4の変形を防止した、耐熱性に優れた電極を提供することができる。
【0044】
以上のような耐熱性の高い上部電極Aは、金属板1が接着固定された誘電体2を、上面カバー3および下面カバー4により挟持する、という簡易化された構造により形成されている。従って、この簡易化された構造により、上部電極Aのアッセンブリもの作業性も向上する。
【0045】
(2)金属板の外周面と、カバーの開口部の内周面との間の距離が、1cm以上である
【0046】
金属板1の外周面と、上面カバー3の開口部3aの内周面との間の距離を1cm以上とすることで、金属板1からの発熱が上面カバー3に直接伝導することを防止できる。よって、より耐熱性の高い電極を提供することが可能となる。
【0047】
(3)金属板の円周部分は、シリコンシーラントを介して、誘電体にモールド接着されている。
【0048】
シリコンシーラントを用いて金属板1を誘電体2にモールド接着することで、金属板1を強固に誘電体2に接着固定することができる。また、金属板1の円周部分をシリコンシーラントで覆うことにより、金属板1の端部からのエッジ放電を防止することができる。高発熱部位である金属板1の周囲にのみ耐熱シリコンシーラントを用いることにより、電極のコストダウンを達成できる。
【0049】
(4)固定ブラケットをさらに有し、金属板の円周部分は、固定ブラケットおよびシリコンシーラントを介して、誘電体に接着されている。
【0050】
固定ブラケット7を用いて金属板1を誘電体2に接着固定することで、金属板1を強固に誘電体1に接着固定することができる。固定ブラケット7は金属板1がはめ込まれるように構成されているため、作業者は金属板1の接着を用意に行うことができる。固定ブラケット7は、シリコンシーラント7aを介して金属板1に接触している。そのため、固定ブラケット7の熱変形が防止される。高発熱部位である金属板1の周囲にのみ固定ブラケット7および耐熱シリコンシーラント7aを用いることにより、電極のコストダウンを達成できる。
【0051】
(5)金属板がステンレス板であり、誘電体が石英ガラスである。
【0052】
上記のように、上部電極Aは簡易化された構造を有する。そのため、流通量が多い規格板厚のステンレス板や規格品の石英ガラス板を用いて上部電極を構成することが可能となる。これにより、コストダウンと耐久性が両立できる。そのうえ、電極を繰り返し利用したとしても、上記のように発熱による変形等が防止されるため、長期利用可能な電極を提供することができる。
【0053】
(6)カバーの材質が、ポリカーボネート樹脂である。
【0054】
上記の通り、誘電体2は金属板1により加熱されるが、その温度は100℃以下と比較的低温である。そのため、上面カバー3および下面カバー4の材質を、130℃耐熱のポリカーボネート樹脂としても、カバーに変形が生じることは無い。従って、上面カバー3および下面カバー4にポリカーボネート樹脂を採用し、コストダウンを図ることが可能となる。
【0055】
(7)カバーが、誘電体の端部を挟持する上面カバーおよび下面カバーである。
【0056】
上面カバー3および下面カバー4を用いて、誘電体2の端部を上下方向から挟持して固定することにより、より確実に誘電体2を固定することが可能となる。
【0057】
[その他の実施の形態]
(1)上記実施形態では、金属板1、誘電体2、開口部3aおよび4aを、例として真円状の部材としている。そのため、各部材の直径を用いて、寸法の関係性を説明している。ただし、これらの部材は、真円状に限定されない。上部電極Aにおいては、誘電体2および開口部3aおよび4aが金属板1よりも大きく、金属板1の外周面と、上面カバー3の開口部3aの内周面との間に、空間が設けられていることを条件に、種々の形状を採用可能である。
【0058】
(2)上記実施形態では、上面カバー3および下面カバー4を、それぞれ平板状の部材としている。しかし、例えば、一方を、断面L字型に形成しても良い。カバーのいずれかを断面L字型に形成することで、誘電体2の上下面の端部に加え、外周面をカバーすることが可能となり、誘電体2のズレを防止することができる。また、挿入された固定具5aをより強固に固定することが可能となる。
【0059】
特に、
図6に示す通り、下面カバー4を断面L字型のザグリ構造に形成し、誘電体2の端部を上面カバー3および下面カバー4が形成する断面矩形の溝にはめ込むことが好ましい。下面カバー4のザグリ構造部分の直径は、誘電体2の直径よりもやや大きく、はめ込まれた誘電体2がズレない構成となっている。また、下面カバー4のザグリ構造部分の深さは、誘電体2の厚みと同一となるように形成されている。このように構成することで、誘電体2の上面と、下面カバー4の上面が面一となり凹凸差がなくなる。したがって、上面カバー3と均一に接するため、固定が強固となる。
【符号の説明】
【0060】
A 上部電極
1 金属板
2 誘電体
3 上面カバー
3a 開口部
4 下面カバー
4a 開口部
5 固定孔
5a 固定具
6 モールド部
7 固定ブラケット
7a シリコンシーラント