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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-29
(45)【発行日】2024-02-06
(54)【発明の名称】車両の排気バルブ装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 9/10 20060101AFI20240130BHJP
   F01N 13/08 20100101ALI20240130BHJP
   F16K 1/22 20060101ALI20240130BHJP
   F16K 27/02 20060101ALI20240130BHJP
【FI】
F02D9/10 H
F01N13/08 B
F16K1/22 B
F16K1/22 R
F16K27/02
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020023454
(22)【出願日】2020-02-14
(65)【公開番号】P2021127738
(43)【公開日】2021-09-02
【審査請求日】2022-12-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000177612
【氏名又は名称】株式会社ミクニ
(74)【代理人】
【識別番号】110002664
【氏名又は名称】弁理士法人相原国際知財事務所
(72)【発明者】
【氏名】石井 利昌
(72)【発明者】
【氏名】古山 誠
(72)【発明者】
【氏名】高山 大輔
(72)【発明者】
【氏名】田中 直記
【審査官】家喜 健太
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-120252(JP,A)
【文献】特開2006-105094(JP,A)
【文献】特開2007-085191(JP,A)
【文献】特許第5279968(JP,B2)
【文献】特開2017-207110(JP,A)
【文献】特開2011-021726(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 9/04 , 9/10
F16K 1/22
F16K 27/02
F02B 37/18
F02M 26/65
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
排気ガスが流通するボアを備えバルブボディと、
前記バルブボディに軸支された回動軸により前記ボア内で支持され、前記回動軸を中心としてアクチュエータにより全開位置と全閉位置との間で開閉駆動される弁体と、
全閉位置にあるときの前記弁体の外周縁の前記回動軸を挟んだ一側部及び他側部に沿うように、それぞれ前記ボアの内周面に一体形成された一対のシール突条と、
前記シール突条に形成され、全閉位置まで回動した前記弁体の外周縁の一側部及び他側部がそれぞれ当接する一対のシール面と
記ボアの内周面と前記シール面との間にそれぞれ形成されたR状の断面をなす一対のR状隅部と、
前記ボアの内周面において、前記シール突条のシール面側に隣接し且つ前記シール面の長さに対応する領域に形成されて、それぞれ前記ボアを拡大する一対の拡張部と、
前記ボアの内周面において、前記回動軸の近傍のリーク間隙を含む領域に形成されて、前記ボアが拡大されることなく残された非拡張部と、
を備え、
前記弁体は、前記外周縁の一側部及び他側部を前記シール面に当接させた全閉位置において、前記拡張部の形成に伴う前記ボア内の外周側への前記R状隅部の位置変位に対応して外形が拡大されている
ことを特徴とする車両の排気バルブ装置。
【請求項2】
前記拡張部は、前記回動軸の近傍の前記リーク間隙を含む領域に及ばないように形成され、
前記非拡張部は、前記回動軸の両端の周囲全体にそれぞれ形成されている
ことを特徴とする請求項1に記載の車両の排気バルブ装置。
【請求項3】
前記ボアを拡大する前記拡張部の深さは、前記R状隅部の高さと略等しく設定されている
ことを特徴とする請求項1または2に記載の車両の排気バルブ装置。
【請求項4】
前記拡張部は、前記シール面から離間するほど深さを次第に浅くしたスロープ状の断面をなす
ことを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の車両の排気バルブ装置。
【請求項5】
前記ボアは、断面円形状をなし、
前記拡張部は、前記ボアの内径を拡大して形成された断面円弧状をなしている
ことを特徴とする請求項1乃至の何れかに記載の車両の排気バルブ装置。
【請求項6】
前記ボアは、断面楕円状をなし、
前記拡張部は、前記ボアの内形を拡大して形成された断面楕円状をなしている
ことを特徴とする請求項1乃至何れかに記載の車両の排気バルブ装置。
【請求項7】
前記ボアは、断面四角状をなし、
前記拡張部は、前記ボアの内形を拡大して形成された断面四角状をなしている
ことを特徴とする請求項1乃至の何れかに記載の車両の排気バルブ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の排気バルブ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
4輪車両や2輪車両に搭載されたエンジンの排気管には排気バルブ装置が設けられる場合があり、排気騒音の低減や排圧上昇によるエンジンの早期暖機等のような種々の用途に利用されている。例えば特許文献1に記載された排気バルブ装置は、バルブボディに形成されたボアを介してエンジンの排気管の上流側と下流側とを連通させており、バルブボディに軸支された回動軸によりボア内で弁体が開閉可能に支持されている。バルブボディの一側にはブラケットを介してモータユニットが固定され、その出力軸がバルブボディの回動軸に連結されている。従って、モータユニットの駆動により回動軸が回動すると弁体が開閉され、それに応じて排気管を流通する排気ガスが制限される。
【0003】
例えばエンジンの吸気量を制御するスロットル装置に比較して、排気バルブ装置は排気ガスからの受熱により温度上昇して著しく熱膨張する。このためスロットル装置のように全閉時に弁体の外周縁をバルブボディのボア内周面に当接させる構造では、所謂ステックと称される弁体の噛込み現象が発生してしまう。全閉時でも弁体とボア内周面との間に多少の隙間を形成する対策も考えられるが、排気ガスを遮断できなくなるため用途が大幅に限定されてしまう。そこで特許文献1に記載のように、ボア内周面に半円状をなす一対のシール突条を形成して、全閉位置へと回動した弁体の外周縁を各シール突条に当接させることにより排気ガスを遮断するようにした排気バルブ装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-120252号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、排気バルブ装置のバルブボディはコスト面等の配慮から鋼管材や板金材を溶接したものにより製作されることが多いが、その場合は部品精度が低く、排気ガスの遮断が困難になる。対策として、鋳造により製作されることがあるが、このような場合には特許文献1の技術においても以下の理由から排気ガスの遮断が困難になる。
即ち、各シール突条はバルブボディの鋳造時に一体形成され、ボア内周面とシール突条との間の隅部は微小ではあるが必ずR状をなす。以下、この部位をR状隅部と称し、R状隅部の内周側の平面状をなす部位をシール面と称する。全閉時の弁体の外周縁がR状隅部に乗り上げるのを防止するために、弁体の外径はR状隅部が形作る内径よりも小さく設定されている。これにより弁体の全閉時には外周縁が各シール突条のシール面に当接するため、この部位では排気ガスが問題なく遮断される。
【0006】
一方で、回動軸の両端はバルブボディに設けられた軸受により軸支され、軸受以外のバルブボディの部位は回動軸との接触が防止されている。排気ガスからの受熱によりバルブボディや回動軸が膨張・収縮したときに、接触部位が回動軸を圧迫して回動を妨げる事態を防止するためである。この点はシール突条についても同様であり、半円状をなす各シール突条の上端及び下端は、それぞれ回動軸に対して僅かに離間して接触を防止されている。
【0007】
上記のように弁体の外周縁はボア内周面から少なくともR状隅部相当は内周側に離間していることから、結果として各シール突条の上端及び下端と回動軸の外周面との間の計4箇所の部位に、それぞれ上流側と下流側とを連通させる微小な間隙が形成されている。以下、これらの間隙をリーク間隙と称するが、弁体を全閉にしても各リーク間隙を介して排気ガスが下流側に漏れてしまうため、従来からリーク間隙の開口面積を縮小するための対策が要望されていた。
【0008】
本発明はこのような問題点を解決するためになされたもので、その目的とするところは、ボア内に形成されるリーク間隙の開口面積を縮小して、弁体の全閉時に排気ガスをより確実に遮断することができる車両の排気バルブ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するため、本発明の車両の排気バルブ装置は、排気ガスが流通するボアを備えバルブボディと、バルブボディに軸支された回動軸により前記ボア内で支持され、回動軸を中心としてアクチュエータにより全開位置と全閉位置との間で開閉駆動される弁体と、全閉位置にあるときの弁体の外周縁の回動軸を挟んだ一側部及び他側部に沿うように、それぞれボアの内周面に一体形成された一対のシール突条と、シール突条に形成され、全閉位置まで回動した弁体の外周縁の一側部及び他側部がそれぞれ当接する一対のシール面と、ボアの内周面とシール面との間にそれぞれ形成されたR状の断面をなす一対のR状隅部と、ボアの内周面において、シール突条のシール面側に隣接し且つシール面の長さに対応する領域に形成されて、それぞれボアを拡大する一対の拡張部と、ボアの内周面において、回動軸の近傍のリーク間隙を含む領域に形成されて、ボアが拡大されることなく残された非拡張部と、を備え、弁体が、外周縁の一側部及び他側部をシール面に当接させた全閉位置において、拡張部の形成に伴うボア内の外周側へのR状隅部の位置変位に対応して外形が拡大されていることを特徴とする。
【0010】
その他の態様として、拡張部が、前記回動軸の近傍の前記リーク間隙を含む領域に及ばないように形成され、非拡張部が、回動軸の両端の周囲全体にそれぞれ形成されていてもよい。
その他の態様として、ボアを拡大する拡張部の深さが、R状隅部の高さと略等しく設定されていてもよい。
その他の態様として、拡張部が、シール面から離間するほど深さを次第に浅くしたスロープ状の断面をなしていてもよい。
その他の態様として、ボアが、断面円形状をなし、拡張部が、ボアの内径を拡大して形成された断面円弧状をなしていてもよい。
その他の態様として、ボアが、断面楕円状をなし、拡張部が、ボアの内形を拡大して形成された断面楕円状をなしていてもよい。
その他の態様として、ボアが、断面四角状をなし、拡張部が、ボアの内形を拡大して形成された断面四角状をなしていてもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の車両の排気バルブ装置によれば、ボア内に形成されるリーク間隙の開口面積を縮小して、弁体の全閉時に排気ガスをより確実に遮断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施形態の排気バルブ装置を示す斜視図である。
図2】排気バルブ装置を示す図1のII-II線断面図である。
図3】排気バルブ装置を示す分解斜視図である。
図4】リーク間隙を示す図2のA部詳細図である。
図5】シール突条と弁体との関係を示す図2のV-V線断面図である。
図6】シール突条と弁体との関係を示す図5のVI-VI線断面図である。
図7】リーク間隙を示す図5のVII-VII線断面図である。
図8】シール突条と弁体との関係を示す図5のVIII-VIII線断面図である。
図9】ボアの内周面における拡径部の形成領域を示すバルブボディ単体の断面図である。
図10】各シール突条の前側及び後側の領域に拡径部を形成した別例を示す断面図である。
図11】スロープ状の断面をなす拡径部を形成した他の別例を示す断面図である。
図12】断面楕円状のボアを有するバルブボディに適用した別例を示す図である。
図13】断面四角状のボアを有するバルブボディに適用した他の別例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を4輪車両の排気バルブ装置に具体化した一実施形態を説明する。
排気バルブ装置1は図1に示す姿勢で図示しない車両の床下に設置されており、以下の説明では車両を主体として、前後、左右及び上下方向を表現する。エンジンからの排気管2a,2bは車両の床下を後方へと延設され、その上流側2aと下流側2bとが排気バルブ装置1のバルブボディ3に形成されたボア4を介して連通し、図示はしないが下流側の排気管2bには排気浄化用の触媒及び消音器が設けられている。
【0014】
バルブボディ3は鋳造により製作され、ステンレス鋼等の耐熱性の高い素材が用いられている。図1~3に示すように、バルブボディ3の断面円形状をなすボア4内には回動軸5が配設され、その上部及び下部は、バルブボディ3に形成された軸孔12を介してそれぞれ軸受6a,6bにより回動可能に軸支されている。回動軸5の上部及び下部は、本発明の回動軸の両端に相当する。
【0015】
バルブボディ3の上部には、後述する遮熱ブラケット11及びモータユニット13を固定するためのベース部9が一体形成され、ベース部9の中心に回動軸5の上端が上方に向けて突出している。ベース部9上には回動軸5の軸線Cを中心とした環状をなすガイド部10が突設され、その外周面をガイド面10aとしている。バルブボディ3の前後長に対応してガイド部10の前部及び後部が直線状に面取りされることにより、ガイド面10aは左右に分割されてそれぞれ回動軸5の軸線Cを中心とした円弧状をなしている。
【0016】
バルブボディ3上には鋼板をプレス成型して製作された遮熱ブラケット11が配設され、遮熱ブラケット11は上方に凹の皿状をなし、その一側に貫設されたガイド孔11aがバルブボディ3のガイド部10に嵌め込まれている。ガイド孔11aの内径は、ガイド部10の一対のガイド面10aが形作る外径と一致しているため、ガイド面10aにガイド孔11aの内周を摺接させながら、回動軸5の軸線Cを中心として遮熱ブラケット11の角度に任意に変更でき、所期の固定角度とした上で点付け溶接により遮熱ブラケット11がバルブボディ3に固定されている。但し、遮熱ブラケット11の固定構造はこれに限るものではなく、任意に変更可能である。
【0017】
遮熱ブラケット11上には、本発明のアクチュエータとしてのモータユニット13が配設されて3本のボルト14により固定され、下方に指向するモータユニット13の出力軸13aは回動軸5の軸線C上に配設され、遮熱ブラケット11内で回動軸5の上端に対して所定間隔をおいて相対向している。図示はしないがモータユニット13にはモータ及び減速機構が内蔵され、一側に設けられたコネクタ13bを介した給電によりモータが作動し、その回転が減速機構により減速されて出力軸13aを回転駆動するようになっている。
【0018】
以下に詳述するように、モータユニット13の出力軸13aとバルブボディ3の回動軸5とは、剛体ジョイント部材15及び可撓ジョイント部材16を介して互いに連結されている。モータユニット13の出力軸13aの回転は各ジョイント部材15,16を介して回動軸5に伝達され、弁体7が開閉駆動されて排気管2a,2bを流通する排気ガスが制限される。
【0019】
図2,3に示すように剛体ジョイント部材15は、平板状をなす封止体18と筒状をなす伝達体19とを溶接により結合してなり、ステンレス鋼等の耐熱性の高い素材が用いられている。封止体18の封止面18aには軸孔18bが貫設され、封止面18aの周囲の等分4箇所からはそれぞれアーム部18cが延設されている。封止体18の軸孔18bには、バルブボディ3のベース部9上から突出した回動軸5の上端が嵌め込まれてカシメ加工によりカシメ部5aが形成され、これにより回動軸5の上端に封止体18が固定されている。
【0020】
封止体18の封止面18aはバルブボディ3の上側の軸支箇所に上方から当接し、軸受6aにより形成された微小な間隙を封止して、ボア4内に流通する排気ガスの漏れを防止している。封止体18上には上方より伝達体19が配設され、伝達体19の下端に形成された係合溝19b内に封止体18の各アーム部18cがそれぞれ嵌合し、互いに溶接されることにより剛体ジョイント部材15が形作られている。
【0021】
可撓ジョイント部材16はピアノ線等の線材を螺旋状に巻回して製作され、その上端は出力軸13aに形成されたバネ溝13cに嵌め込まれ、下端は剛体ジョイント部材15の伝達体の上端に形成されたバネ溝19aに嵌め込まれている。可撓ジョイント部材16は出力軸13aと剛体ジョイント部材15との間に弾性をもって介装され、これにより所期の配置状態からの脱落が防止されている。
【0022】
可撓ジョイント部材16は螺旋状をなすことにより、断熱性と可撓性とを兼ね備えている。そして、可撓ジョイント部材16の断熱性により、高温の排気ガスで過熱したバルブボディ3からモータユニット13への熱の伝導が遮断されており、遮熱ブラケット11によるバルブボディ3からの輻射熱の遮断と相俟って、熱害からモータユニット13を保護する作用が奏される。また可撓ジョイント部材16の可撓性は、剛体ジョイント部材15側と出力軸13a側との間の僅かな軸線Cのズレを吸収する作用を奏する。
【0023】
バルブボディ3のボア4の内周面には、半円状をなす左右一対のシール突条21,22が一体形成され、弁体7の全閉時には外周縁が各シール突条21,22に当接して排気ガスを遮断しており、その詳細を以下に説明する。
【0024】
弁体7は回動軸5を中心として回動し、これにより図5に実線で示す全閉位置と二点鎖線で示す全開位置との間で開閉される。全開位置の弁体7は左右方向に面した姿勢でボア4内での排気ガスの流通を許容し、この全開位置から図5において反時計回りに90°回動した全閉位置では、弁体7が前後方向に面した姿勢に切り換えられて排気ガスの流通を遮断する。弁体7の外周縁は、回動軸5を挟んでそれぞれ半円状をなす右側部7aと左側部7bとに区分され、右側部7aは本発明の一側部に相当し、左側部7bは本発明の他側部に相当する。
【0025】
全閉位置へと回動するときの弁体7は、外周縁の右側部7aが前方に位置変位して一方のシール突条21の後面に当接し、外周縁の左側部7bが後方に位置変位して他方のシール突条22の前面に当接する。このため双方のシール突条21,22は、前後方向に弁体7の厚み分又は厚み分よりも広い間隔をおいてオフセット配置されており、具体的には、一方のシール突条21が全閉位置の弁体7の前側に形成され、他方のシール突条22が全閉位置の弁体7の後側に形成されている。以下、説明の便宜上、一方のシール突条21を前部シール突条、他方のシール突条22を後部シール突条と称して区別する。
【0026】
図2,5に示すように前部シール突条21は、ボア4の内周面の右側に沿って周方向に延設されて半円状をなし、後部シール突条22は、ボア4の内周面の左側に沿って周方向に延設されて半円状をなしている。各シール突条21,22は断面四角状をなし、弁体7の外周縁が当接する前部シール突条21の後面及び後部シール突条22の前面は、それぞれ排気ガスの遮断のために平坦に形成され、以下、シール面21a,22aと称する。
【0027】
図2,5に示すように、各シール突条21,22の下端21c,22cは回動軸5の外周面と相対向して円弧状をなし、それぞれ外周面から僅かに離間して接触を防止されている。図示はしないが各シール突条21,22の上端も回動軸5の外周面と相対向して円弧状をなし、それぞれ外周面から僅かに離間して接触を防止されている。接触防止の趣旨は、排気ガスから受熱によりバルブボディ3や回動軸5が膨張・収縮したときに、接触部位が回動軸5を圧迫して回動を妨げる事態を防止するためである。なお、同様の趣旨で、バルブボディ3の上下に形成された軸孔12の内周面も、回動軸5の外周面から僅かに離間して接触を防止されている。
【0028】
また図5に示すように、後部シール突条22の下端22cには全開ストッパ部23が連続して形成され、全開位置へと回動した弁体7が全開ストッパ部23に当接して回動規制されるようになっている。なお、必ずしも全開ストッパ部23をシール突条22と一体で形成する必要はなく、全く関係のない箇所に設けてもよい。
【0029】
各シール突条21,22がバルブボディ3の鋳造時に一体形成されているため、ボア4の内周面において各シール突条21,22の周囲に形成された隅部は全てR状の断面をなしている。これらの隅部の中で本発明の要旨と関係するものは、ボア4の内周面と前部シール突条21のシール面21aとの間に形成された円弧状に延びる隅部21b、及びボア4の内周面と後部シール突条22のシール面22aとの間に形成された円弧状に延びる隅部22bだけである。そこで以下の説明では、これらの隅部21b,22bをR状隅部と称する。
【0030】
そして、全閉時の弁体7の外周縁がR状隅部21b,22bに乗り上げると、各シール面21a,22aと弁体7の外周縁の間に間隙が生じて排気ガス漏れの原因になることから、その事態を防止するために、弁体7の外径は、外周側に位置する各R状隅部21b,22bが形作る内径よりも小さく設定されており、これにより全閉位置の弁体7の外周縁が各シール面21a,22aに正しく当接する。
【0031】
結果として、弁体7の外周縁はボア4の内周面に対して少なくともR状隅部21b,22bの高さH相当は内周側に離間し、且つ上記のように各シール突条21,22の上端及び下端21c,22cは回動軸5の外周面から僅かに離間している。このため、図4~8にクロスハッチングで示すように、各シール突条21,22の上端及び下端21c,22cと回動軸5の外周面との間の計4箇所の部位には、それぞれボア4内の上流側と下流側とを連通させる微小なリーク間隙24が形成され、[発明が解決しようとする課題]で述べたように、弁体7を全閉にしても各リーク間隙24を介して排気ガスが下流側に漏れるという不具合が生じる。
【0032】
このような不具合を鑑みて本発明者は、弁体7の外径を制限しているR状隅部21b,22bを外周側に位置変位させることにより、各リーク間隙24の開口面積を縮小する対策を見出した。即ち、ボア4内の周方向において各シール突条21,22と対応する領域のボア4の内径を拡大し、R状隅部21b,22bがボア4内の外周側に位置変位するため弁体7の外径を拡大する。以下、内径を拡大した領域を拡径部25、本来のボア4の内径のままの領域を非拡径部26と称するが、ボア4内の周方向において回動軸5近傍のリーク間隙24を含む領域は拡径されずに非拡径部26として残されるため、弁体7の外径の拡大分だけリーク間隙24の開口面積が縮小する。これらの拡径部25は、本発明の拡張部に相当し、非拡径部26は、本発明の非拡張部に相当する。
【0033】
本実施形態では、各シール突条21,22に対応して拡径部25が以下のように形成されている。
図9に示すようにボア4の内周面において、一方の拡径部25は前部シール突条21の後側に隣接して形成され、他方の拡径部25は後部シール突条22の前側に隣接して形成されている。詳しくは、前部シール突条21の後面に相当するシール面21aから後側の全ての領域が、シール面21aに対応する周方向の長さに亘って拡径されることで、一方の拡径部25が形成されている。同様に、後部シール突条22の前面に相当するシール面22aから前側の全て領域が、シール面22aに対応する周方向の長さに亘って拡径されることで、他方の拡径部25が形成されている。
【0034】
結果として拡径部25の形成領域は、ボア4の内周面の回動軸5近傍には及んでおらず、回動軸5の上部及び下部の周囲全体には非拡径部26が残されている。そして回動軸5に弁体7が支持されると、その全閉時には、弁体7の外周縁と非拡径部26との間の計4箇所の部位にリーク間隙24が形成されることになる。
【0035】
なお、非拡径部26は必ずしも回動軸5の周囲全体に形成する必要はない。例えば、弁体7の全閉時にリーク間隙24が形成される領域、具体的には、図5の平面視において全閉時の弁体7と重なる回動軸5を挟んだ左側及び右側のクロスハッチングで示す領域だけに非拡径部26を形成してもよい。
【0036】
各拡径部25の全ての領域は同一の深さDで形成され、これにより拡径部25は、元々のボア4の内径に相当する非拡径部26よりも半径が深さD相当だけ大きな断面円弧状をなしている。なお本実施形態では図6,8に示すように、拡径部25の深さDがシール突条21,22のR状隅部21b,22bの高さHよりも小さく設定されている。拡径部25の深さDを均等化しているのは、R状隅部21b,22bの高さHがシール突条21,22の周方向全体に亘ってほぼ均等な点を考慮したものである。周方向において一部でも拡径部25の深さDが浅い部位が存在すれば、その部位に対応した外径に弁体7が制限され、深く形成された拡径部25の他の部位はバルブボディ3の外径を無用に拡大する要因にしかならない。このような事態を防止して、拡径部25の形成により効果的に弁体7の外径を拡大することができる。
【0037】
以上のような拡径部25の形成により、非拡径部26に対する拡径部25の深さDに相当する分だけR状隅部21b,22bがボア4内の外周側に位置変位し、この位置変位に対応する分だけ弁体7の外径が拡大されている。結果として弁体7の全閉時において、その外周縁は各シール突条21,22のR状隅部21b,22bに乗り上げることなくそれぞれのシール面21a,22aに正しく当接し、排気バルブ装置1が正常な排気ガスの制限機能を奏する。そして外径の拡大により弁体7の外周縁は、本来のボア4の内径である非拡径部26に対してより接近し、外周縁と非拡径部26との間に形成される各リーク間隙24の開口面積が縮小する。よって弁体7の全閉時において、各リーク間隙24を介して下流側に漏れる排気ガスの量が減少し、より確実に排気ガスを遮断することができる。
【0038】
また、弁体7の全閉時に各リーク間隙24を流通する排気ガスは、エンジンの排気脈動の影響を受けて常に流れ方向が変動するため、弁体7等からガタツキ音が発生するが、各リーク間隙24での排気ガスの流通量が減少することから、騒音を低減できる。さらに、排気バルブ装置1が正常な排気ガスの制限機能を奏することにより、シール面21a,22aと弁体7の外周縁が正しく当接するため、シール面21a,22aと弁体7の外周縁の間隙で排気ガスが絞られて流速が高まることによる笛吹き騒音を低減できるという利点も得られる。
【0039】
なお、拡径部25の形状等は上記に限るものではない。例えば上記の例では、前部シール突条21のシール面21a及び後部シール突条22のシール面22aに対応する周方向の長さに亘って拡径部25を形成したが、これに限るものではない。各シール面21a,22aに対応する周方向の領域にR状隅部21b,22bが形成されるため、少なくともシール面21a,22aの長さに対応する領域に拡径部25を形成する必要はある。しかし、リーク間隙24を含んで非拡径部26を残すことができれば、シール面21a,22aを越えた周方向の領域まで拡径部25を延長してもよい。
【0040】
また上記の例では、拡径部25の深さDをシール突条21,22のR状隅部21b,22bの高さHよりも小さく設定した。しかしながら、例えば弁体7の外径やシール突条21,22の内径等の諸寸法が所期の精度に保たれている場合、換言すると、各部品が所期の位置関係で組付けられている場合には、R状隅部21b,22bの高さHを上限として拡径部25の深さDをより増加させてもよい。
【0041】
拡径部25の深さDを増加させるほど、弁体7の外径を拡大してリーク間隙24の開口面積を縮小できる一方、R状隅部21b,22bの高さHを越えて拡径部25の深さDを増加しても何ら利点は得られず、かえってバルブボディ3の外径の拡大により排気バルブ装置1を大型化させてしまう。よって、部品精度に関する条件が満たされている場合には、拡径部25の深さDをR状隅部21b,22bの高さHと等しく設定することが望ましい。また部品精度に関する条件が満たされない場合には、寸法誤差を見込んだ上で、全閉時の弁体7の外周縁がR状隅部21b,22bに乗り上げることがないように、拡径部25の深さDをR状隅部21b,22bの高さHよりも若干大きく設定すればよい。
【0042】
また上記の例では、ボア4の内周面における前部シール突条21のシール面21aから後側の全ての領域、及び後部シール突条22のシール面22aから前側の全ての領域を拡径部25としたが、これに限るものではない。例えば図10に示すように、各シール突条21,22の前側及び後側の領域を共に拡径部25としてもよく、この場合でも回動軸5の周囲全体に非拡径部26が残されるため、何ら問題なくリーク間隙24を縮小することができる。
【0043】
また、例えば図11に示すように、各シール突条21,22のシール面21a,22a側に隣接する前後に限られた領域に、各シール面21a,22aから離間するほど深さDを次第に浅くしたスロープ状の断面をなす拡径部27を形成してもよい。バルブボディ3を鋳造する金型の拡径部25に相当する部位はアンダーカット形状となるが、所謂無理抜きにより形成可能である。そして、拡径部25の断面をなだらかなスロープ状とすることにより、ボア4内で排気ガスをより円滑に流通させることができるという別の利点が得られる。
【0044】
本発明の態様はこの実施形態に限定されるものではない。上記実施形態では4輪車両の排気バルブ装置1として具体化したが、例えば、これに代えて2輪車両や3輪車両の排気バルブ装置に適用してもよい。
【0045】
また上記実施形態では、バルブボディ3に形成された断面円形状のボア4に対応して断面円弧状の拡径部25を形成したが、他の断面形状をなすボアの場合には、それに倣って拡径部の断面形状を設定すればよい。例えば図12に示すように、バルブボディ3のボア31が断面楕円状をなす場合には、そのボア31の内形を拡大して断面楕円状をなす拡径部32を形成すればよい。また図13に示すように、バルブボディ3のボア41が断面四角状をなす場合には、そのボア41の内形を拡大して断面四角状の拡径部42を形成すればよい。
【符号の説明】
【0046】
1 排気バルブ装置
3 バルブボディ
4,31,41 ボア
5 回動軸
7 弁体
7a 右側部(一側部)
7b 左側部(他側部)
13 モータユニット(アクチュエータ)
21 前部シール突条
21a,22a シール面
21b,22b R状隅部(隅部)
22 後部シール突条
25,27,32,42 拡径部(拡張部)
26 非拡径部(非拡張部)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13