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特許7428539表面処理剤及び表面処理皮膜を有する材料
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-29
(45)【発行日】2024-02-06
(54)【発明の名称】表面処理剤及び表面処理皮膜を有する材料
(51)【国際特許分類】
   C23C 26/00 20060101AFI20240130BHJP
   C08G 18/80 20060101ALI20240130BHJP
   C08G 18/08 20060101ALI20240130BHJP
   C08G 18/32 20060101ALI20240130BHJP
   C09D 163/10 20060101ALI20240130BHJP
   C09D 5/02 20060101ALI20240130BHJP
   C08G 18/62 20060101ALI20240130BHJP
【FI】
C23C26/00 A
C08G18/80
C08G18/08 038
C08G18/32 006
C09D163/10
C09D5/02
C08G18/62 016
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020033692
(22)【出願日】2020-02-28
(65)【公開番号】P2021134325
(43)【公開日】2021-09-13
【審査請求日】2022-12-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000229597
【氏名又は名称】日本パーカライジング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】末内 優輝
(72)【発明者】
【氏名】工藤 英介
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-292775(JP,A)
【文献】国際公開第2007/004436(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/093323(WO,A1)
【文献】特表2019-516002(JP,A)
【文献】特開2019-137862(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 24/00-30/00
C09D 1/00-10/00
C08G 18/00-18/87
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性エポキシ樹脂(A)と、ブロックイソシアネート(B)と、カルボジイミド化合物(C)と、水とを含有する表面処理剤であって、
前記水性エポキシ樹脂(A)は、1又は複数種のビニルモノマーが重合した構造を有し、前記1又は複数種のビニルモノマーは、カルボキシル基を有するビニルモノマーを含み、
前記ブロックイソシアネート(B)は、ブロック剤によりブロックされたイソシアネート基、イソシアヌレート構造及びポリアルキレンオキシ鎖を有する、
表面処理剤。
【請求項2】
前記水性エポキシ樹脂(A)の質量(M A )に対する前記カルボジイミド化合物(C)の質量(M c )の比率(M c /M A )が0.040~0.700である、請求項1に記載の表面処理剤。
【請求項3】
静的表面張力の値が35dyne/cm以下である請求項1又は2に記載の表面処理剤。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の表面処理剤を材料の表面又は表面上に接触させて形成される、表面処理皮膜を有する材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面処理剤及び表面処理皮膜を有する材料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、家庭電化製品、自動車、建築材料等の各分野において、製品の高機能化に伴い、使用される材料に対する要求性能も高まっている。従来、耐食性や塗膜密着性の付与を目的として、材料を表面処理剤で処理して表面処理皮膜で被覆することが知られているが、材料に対する要求性能の高まりに応えるべく、より優れた性能を有する表面処理剤が求められている。
【0003】
特許文献1(特許第6118419号公報)においては、ジルコニウム化合物と、カルボキシル基含有ビニルモノマー由来の繰り返し単位を含むカルボキシル基含有ポリマーを骨格内に有する水性エポキシ樹脂と、ヒドロキシカルボン酸とを所定量含有する表面処理剤が提案されている。当該表面処理剤によれば、防錆油を塗油すること無く初期防錆性に優れ、潤滑性に優れ、リン酸塩系化成処理やジルコニウム系化成処理などの塗装下地処理を省略した場合の塗膜の耐食性及び密着性に優れる表面処理金属材料を製造することができると特許文献1に記載されている。
【0004】
特許文献2(特許第6127198号公報)においては、ブロック剤によりブロックされたイソシアネート基を有し、さらに、イソシアヌレート構造及びポリアルキレンオキシ鎖を有するブロックイソシアネート(A)と、ヒドロキシ基、アミノ基、スルホ基、及び、カルボキシ基からなる群から選択される少なくとも1種の官能基を有する有機樹脂(B)と、を含む金属表面処理液が提案されている。当該金属表面処理液によれば、耐食性、耐加工性、耐薬品性、塗膜密着性及び塗装後耐食性に優れた表面処理金属材料を得ることができると特許文献2に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第6118419号公報
【文献】特許第6127198号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献に記載の表面処理剤を用いることで材料の平面部の耐久性(耐食性及び塗膜密着性)に優れる皮膜を形成することはできる。しかしながら、本発明者の検討結果によると、上記特許文献に記載の表面処理剤は、材料の加工部(材料が加工を受けて凹凸が形成されている箇所)の耐久性(耐食性及び塗膜密着性)に優れる皮膜を形成する上では改善の余地が残されている。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みて創作されたものであり、材料の平面部のみならず加工部の耐久性(耐食性及び塗膜密着性)にも優れる皮膜を形成可能な表面処理剤を提供することを課題とする。また、本発明は、そのような表面処理剤で材料を表面処理することで作製される、表面処理皮膜を有する材料を提供することを別の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、水性エポキシ樹脂(A)であって、1又は複数種のビニルモノマーが重合した構造を有し、前記1又は複数種のビニルモノマーは、カルボキシル基を有するビニルモノマーを含む、水性エポキシ樹脂(A)と、ブロック剤によりブロックされたイソシアネート基、イソシアヌレート構造及びポリアルキレンオキシ鎖を有するブロックイソシアネート(B)とを併用することが、材料の平面部のみならず加工部の耐久性(耐食性及び塗膜密着性)にも優れる皮膜を形成可能な表面処理剤を得るのに有利であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明は例示的に以下のように特定される。
[1]
水性エポキシ樹脂(A)と、ブロックイソシアネート(B)と、水とを含有する表面処理剤であって、
前記水性エポキシ樹脂(A)は、1又は複数種のビニルモノマーが重合した構造を有し、前記1又は複数種のビニルモノマーは、カルボキシル基を有するビニルモノマーを含み、
前記ブロックイソシアネート(B)は、ブロック剤によりブロックされたイソシアネート基、イソシアヌレート構造及びポリアルキレンオキシ鎖を有する、
表面処理剤。
[2]
さらに、カルボジイミド化合物(C)を含有する[1]に記載の表面処理剤。
[3]
静的表面張力の値が35dyne/cm以下である[1]又は[2]に記載の表面処理剤。
[4]
[1]~[3]のいずれかに記載の表面処理剤を材料の表面又は表面上に接触させて形成される、表面処理皮膜を有する材料。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、材料の加工部の耐久性(耐食性及び塗膜密着性)に優れる皮膜を形成可能な表面処理剤を提供することができる。従って、本発明は、家庭電化製品、自動車、建築材料等の各分野において使用される材料の高性能化に寄与することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、表面処理剤及び表面処理皮膜を有する材料を含む本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は、その本発明の趣旨から逸脱しない範囲で任意に変更可能であり、下記の実施形態に限定されない。
【0012】
<1.表面処理剤>
本発明の一実施形態によれば、水性エポキシ樹脂(A)と、ブロックイソシアネート(B)と、水とを含有する表面処理剤であって、前記水性エポキシ樹脂(A)は、1又は複数種のビニルモノマーが重合した構造を有し、前記1又は複数種のビニルモノマーは、カルボキシル基を有するビニルモノマーを含み、前記ブロックイソシアネート(B)は、ブロック剤によりブロックされたイソシアネート基、イソシアヌレート構造及びポリアルキレンオキシ鎖を有する、表面処理剤が提供される。(A)及び(B)を併用することが、材料の平面部のみならず加工部の耐久性(耐食性及び塗膜密着性)にも優れる皮膜を形成可能な表面処理剤を得る上で有利である。
【0013】
(水性エポキシ樹脂(A))
水性エポキシ樹脂(A)は、1又は複数種のビニルモノマーが重合した構造を有する。この構造は、1又は複数種のビニルモノマーに対応する構成単位を含む。また、前記1又は複数種のビニルモノマーには、カルボキシル基を有するビニルモノマー(以下、カルボキシル基含有ビニルモノマーとも称する)が含まれる。この構造における、ビニルモノマーに対応する全ての構成単位に対する、カルボキシル基を有するビニルモノマーに対応する構成単位の含有量は特に制限されないが、0.01~100モル%が好ましく、0.1~80モル%がより好ましい。
1又は複数種のビニルモノマーが重合した構造には、カルボキシル基を有するビニルモノマーに対応する構成単位以外の他の構成単位が含まれていてもよい。言い換えると、カルボキシル基を有するビニルモノマー以外の他のビニルモノマーに対応する構成単位が含まれていてもよい。他のビニルモノマーに関しては、後段で詳述する。
【0014】
水性エポキシ樹脂(A)の骨格中に含まれる、1又は複数種のビニルモノマーが重合した構造の含有量は、特に限定されないが、0.1~30質量%の範囲内であることが好ましい。また、水性エポキシ樹脂(A)の水分散性の指標である酸価は、5~45mgKOH/gであることが好ましく、17~40mgKOH/gがより好ましく、18~35mgKOH/gが更により好ましい。本明細書において、酸価は、JIS K0070-1992に準ずる電位差滴定法で測定する。
【0015】
水性エポキシ樹脂(A)の製造方法は特に制限されず、公知の方法を採用できる。例えば、まず、必要に応じて添加されるアミン類の存在下にて、エポキシ樹脂と、グリシジル基含有ビニルモノマー、アミド基含有ビニルモノマー、アミノ基含有ビニルモノマー、及び、ポリアルキレングリコール類のグリシジルエーテル類からなる群から選択される少なくとも1種とを少なくとも反応させて得られる生成物Xを製造する。その後、生成物Xに対して、カルボキシル基含有ビニルモノマーを重合させる方法が挙げられる。つまり、該水性エポキシ樹脂は、生成物Xとカルボキシル基含有ビニルモノマーとを反応させて得られる重合体であり、より具体的には、生成物Xの存在下、カルボキシル基含有ビニルモノマーを重合させることにより得られる。カルボキシル基含有ビニルモノマーは、何れの反応によっても生成物Xと反応してもよいが、例えば、カルボキシル基含有ビニルモノマーは、生成物X中に導入されたビニル基を介して、生成物Xと反応する。
【0016】
生成物Xを製造する際に使用されるエポキシ樹脂の種類は特に制限されず、エポキシ基が含まれていればよい。例えば、1分子中に2個以上のヒドロキシルフェニル基を有する化合物及びアルキレングリコールからなる群から選択される化合物Wと、エピクロルヒドリンとの反応により得られるエポキシ樹脂が使用される。当該反応の際に、必要に応じて触媒を添加してもよい。言い換えると、触媒の存在下で当該反応を実施してもよい。触媒としては、水酸化ナトリウム、ナトリウムメトキシド等の塩基性金属塩のほか、ジメチルベンジルアミン、トリブチルアミン等のアミン化合物;テトラメチルアンモニウムブロミド、テトラブチルアンモニウムブロミド、テトラフェニルホスホニウムクロリド等のオニウム塩を用いることができる。また、当該反応の際に、必要に応じて、溶媒(水、又は有機溶媒)を使用してもよい。
【0017】
生成物Xを製造する際に使用されるグリシジル基含有ビニルモノマーとしては、グリシジル基と重合性ビニル基を分子内に含有する各種公知の化合物であれば特に制限なく使用できる。具体的には、グリシジル(メタ)アクリレート、β-メチルグリシジル(メタ)アクリレート、(メタ)アリルグリシジルエーテル等が挙げられる。
生成物Xを製造する際に使用されるアミド基含有ビニルモノマーとしては、アミド基と重合性ビニル基を分子内に含有する各種公知の化合物であれば特に制限なく使用できる。具体的には、アクリルアミド、N-ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-メチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、N-ビニルホルムアミド等が挙げられる。
生成物Xを製造する際に使用されるアミノ基含有ビニルモノマーとしては、アミノ基と重合性ビニル基を分子内に含有する各種公知の化合物であれば特に制限なく使用できる。具体的には、N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
また、生成物Xを製造する際に使用されるポリアルキレングリコール類のグリシジルエーテル類としては、少なくとも一方の末端にグリシジル基を有するポリアルキレングリコールであり、分子中に芳香族環を含有しないものが好ましい。ポリアルキレングリコール類としては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール等、公知のものを用いることができる。
【0018】
アミン類の種類は特に制限されず、各種公知のアミン類を特に制限なく使用できる。例えば、アルカノールアミン類、脂肪族アミン類、芳香族アミン類、脂環族アミン類、芳香核置換脂肪族アミン類等が挙げられ、これらは1種又は2種以上を適宜選択して使用できる。
アミン類の種類を具体的に示すと、アルカノールアミン類としては、例えば、ジエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、ジ-2-ヒドロキシブチルアミン、N-メチルエタノールアミン、N-エチルエタノールアミン、N-ベンジルエタノールアミン等が挙げられる。また、脂肪族アミン類としては、例えば、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ヘキシルアミン、ラウリルアミン、ステアリルアミン、パルミチルアミン、オレイルアミン、エルシルアミン等の一級アミン類やジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン等の二級アミン類が挙げられる。また、芳香族アミン類としては、例えば、トルイジン類、キシリジン類、クミジン(イソプロピルアニリン)類、ヘキシルアニリン類、ノニルアニリン類、ドデシルアニリン類等が挙げられる。脂環族アミン類としてはシクロペンチルアミン類、シクロヘキシルアミン類、ノルボルニルアミン類が挙げられる。また、芳香核置換脂肪族アミン類としては、例えば、ベンジルアミン、フェネチルアミン等が挙げられる。
【0019】
生成物Xの製造条件は特に制限されず、使用される材料に応じて最適な条件が選択される。反応温度は特に制限されないが、反応がより効率的に進行する点から、30℃~150℃が好ましく、50℃~150℃がより好ましい。反応時間は特に制限されないが、生産性の点から、1時間~24時間が好ましい。
【0020】
カルボキシル基含有ビニルモノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等が挙げられる。
【0021】
カルボキシル基含有ビニルモノマーとの反応の際に、他のビニルモノマーを使用してもよい。カルボキシル基含有ビニルモノマーと共重合し得る任意成分である他のビニルモノマーとしては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸tert-ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル等のアクリル酸エステル類;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-プロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸tert-ブチル、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸2-エチルヘキシル等のメタクリル酸エステル類;スチレン、ビニルトルエン、α-メチルスチレン等のスチレン系ビニル単量体;その他、酢酸ビニル、アクリル酸β-ヒドロキシエチル、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等が挙げられる。これらビニル単量体は、いずれも1種を単独で使用でき、又は2種以上を併用できる。
【0022】
生成物X、及び、カルボキシル基含有ビニルモノマーの重合反応の条件は特に制限されず、使用される化合物に応じて、最適な態様が選択される。例えば、重合開始剤の存在下で、60~150℃程度の反応温度で重合できる。
生成物Xの使用量と、カルボキシル基含有ビニルモノマー及び他のビニルモノマーの合計使用量との質量比(生成物X/〔(カルボキシル基含有ビニルモノマー)+(他のビニルモノマー)〕)は、上述した酸価の量となるように調整されることが好ましいが、通常は、4~95の範囲内とするのが好ましい。
また、使用されるビニルモノマー中のカルボキシル基含有ビニルモノマーの質量比(カルボキシル基含有ビニルモノマーの質量/カルボキシル基含有ビニルモノマー及び他のビニルモノマーの合計質量)は特に制限されないが、0.01~0.8が好ましい。
【0023】
(ブロックイソシアネート(B))
ブロックイソシアネート(B)は、ブロック剤によりブロックされたイソシアネート基(ブロック化イソシアネート基)を有し、さらに、イソシアヌレート構造及びポリアルキレンオキシ鎖を有する。ブロックイソシアネートとは、イソシアネート化合物の一部又は全部のイソシアネート基をブロック剤と反応させたものであって、加熱することにより保護基(ブロック剤の残基)が解離してイソシアネート基を再生するものである。解離温度の低いブロックイソシアネートほど比較的低温にてイソシアネート基を再生する。
【0024】
イソシアネート基をブロック(保護)するために使用されるブロック剤は、イソシアネート基と反応してイソシアネート基を保護し、加熱時に解離してイソシアネート基を再生するものであればよく、その種類は特に制限されないが、通常、活性水素を分子内に1個有する化合物が好適に用いられる。例えば、フェノール系ブロック剤(例えば、フェノール、クレゾール)、ラクタム系ブロック剤(例えば、カプロラクタム、バレロラクタム)、オキシム系ブロック剤(例えば、ホルムアミドオキシム、アセトアミドオキシム、メチルエチルケトオキシム)、活性メチレン系ブロック剤(例えば、マロン酸ジエチル、マロン酸ジメチル)、アルコール系ブロック剤(例えば、メタノール、エタノール、エチレングリコールモノブチルエーテル)、ピラゾール系ブロック剤(例えば、3,5-ジメチルピラゾール)、メルカプタン系ブロック剤(例えば、ブチルメルカプタン)、酸アミド系ブロック剤(例えば、アセトアニリド、酢酸アミド)、イミダゾール系ブロック剤(例えば、イミダゾール)、アミン系ブロック剤(例えば、ジフェニルアミン、アニリン)、イミン系ブロック剤(例えば、エチレンイミン)、尿素系ブロック剤(例えば、尿素、チオ尿素)が挙げられる。これらの中でも、オキシム系ブロック剤、活性メチレン系ブロック剤、アルコール系ブロック剤、及び、ピラゾール系ブロック剤が好ましく、ピラゾール系ブロック剤がより好ましい。1つのブロック剤によってすべてのイソシアネート基をブロックしてもよく、2種以上のブロック剤を併用してもよい。
【0025】
ブロックイソシアネート(B)中の、ブロック剤によりブロックされたイソシアネート基の含有量は特に制限されないが、ブロックイソシアネート(B)中の有効イソシアネート基の含有量は、ブロックイソシアネート(B)全質量中、0.5~10質量%が好ましく、1~7質量%がより好ましい。
【0026】
有効イソシアネート基の含有量とは、ブロックイソシアネート(B)において、ブロック化イソシアネート基からイソシアネート基をブロックするブロック基を解離させた後のイソシアネート基の含有量を示す。有効イソシアネート基の含有量(濃度)は、JIS K1603-1:2007に規定された方法に則って測定する。
【0027】
ブロックイソシアネート(B)は、イソシアヌレート構造(イソシアヌレート環構造)を有する。イソシアヌレート構造とは、以下式(X)で表される構造である。*は、結合位置を表す。ブロックイソシアネート(B)中のイソシアヌレート構造の有無は、ジ-n-ブチルアミン法によるイソシアナト滴定、ガスクロマトグラフィー、屈折率、粘度、赤外分光測定等により確認することができる。
【0028】
【化1】
【0029】
上記イソシアヌレート構造は、各種のジイソシアネート又はトリイソシアネートのイソシアネート基同士を環化三量化して得ることができる。
ジイソシアネートとしては、1,4-テトラメチレンジイソシアネート、エチル(2,6-ジイソシアネート)ヘキサノエート、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート、1,12-ドデカメチレンジイソシアネート、2,2,4-又は2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネートなどの脂肪族ジイソシアネート;1,3-又は1,4-ビス(イソシアネートメチルシクロヘキサン)、1,3-又は1,4-ジイソシアネートシクロヘキサン、3-イソシアネート-メチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキシルイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネート、2,5-又は2,6-ジイソシアネートメチルノルボルナンなどの脂環族ジイソシアネート;m-又はp-フェニレンジイソシアネート、トリレン-2,4-又は2,6-ジイソシアネート、ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート、1,3-ビス(2-イソシアネート2-プロピル)ベンゼン、ナフタレン-1,5-ジイソシアネート、ジフェニル-4,4’-ジイソシアネート、4,4’-ジイソシアネート3,3’-ジメチルジフェニル、3-メチル-ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート、ジフェニルエーテル-4,4’-ジイソシアネートなどの芳香族ジイソシアネートなどが挙げられる。
また、トリイソシアネートとしては、1,3,6-ヘキサメチレントリイソシアネート、1,8-ジイソシアネート4-イソシアネートメチルオクタン、2-イソシアネートエチル(2,6-ジイソシアネート)ヘキサノエートなどの脂肪族トリイソシアネート;2,5-又は2,6-ジイソシアネートメチル-2-イソシアネートプロピルノルボルナンなどの脂環族トリイソシアネート;トリフェニルメタントリイソシアネート、トリス(イソシアネートフェニル)チオホスフェートなどの芳香族トリイソシアネートが挙げられる。
ブロックイソシアネート(B)中に含まれるイソシアヌレート構造の数は特に制限されないが、本発明の効果がより優れる点で、1~10個が好ましく、1~4個がより好ましい。
【0030】
ブロックイソシアネート(B)は、ポリアルキレンオキシ鎖(例えば、ポリエチレンオキシ鎖、ポリプロピレンオキシ鎖)を有する。ポリアルキレンオキシ鎖とは、下記の式(2)で表される構造単位(繰り返し単位)を有する鎖である。
式(2)-(L-O)n
上記式(2)中、Lはアルキレン基を表す。アルキレン基中に含まれる炭素原子数は特に制限されないが、2~10が好ましく、2~4がより好ましい。nで表される構造単位(繰り返し単位)の数は特に制限されないが、2~1000が好ましく、5~400がより好ましく、10~200がより好ましく、15~150がさらにより好ましい。
【0031】
ポリアルキレンオキシ鎖の分子量は特に制限されないが、100~10000が好ましく、200~5000がより好ましい。
【0032】
ブロックイソシアネート(B)中のポリアルキレンオキシ鎖の含有量は特に制限されないが、ブロックイソシアネート(B)全質量中、10質量%~70質量%が好ましく、20質量%~60質量%がより好ましい。
【0033】
ブロックイソシアネート(B)の重量平均分子量は特に制限されないが、300~20000が好ましく、400~15000がより好ましく、1000~7000が更により好ましい。ブロックイソシアネート(B)の重量平均分子量は、形成される皮膜の物性に影響を与える。特に、ブロックイソシアネート(B)の重量平均分子量は、皮膜に優れた弾性や強度を付与する点で、高分子量であることが好ましい。優れた弾性や硬度は、皮膜に耐加工性、より具体的には耐疵つき性、耐摩耗性等の機械的耐性を付与するだけでなく、耐薬品性等の化学的耐性を付与することにも有効である。
【0034】
ブロックイソシアネート(B)は、自己乳化型のブロックイソシアネートであることが好ましい。自己乳化型ブロックイソシアネートとは、化合物自身が水との親和性を持ち、水中で乳化分散できることを意図する。表面処理剤中においてブロックイソシアネート(B)が自己乳化している場合、表面処理剤中のブロックイソシアネート(B)の粒子の粒子径は0.01μm~1.00μmが好ましく、0.05μm~0.50μmがより好ましい。ここでいう粒子径は、レーザー回折/散乱法による粒度分布測定装置を用いて測定される体積基準のメジアン径を指す。
【0035】
ブロックイソシアネート(B)の好適態様としては、下記の式(1)で表される構造単位、及び、上記式(2)で表される構造単位を有する態様が挙げられる。*は、結合位置を表す。
【0036】
【化2】
【0037】
式(1)中、Xは、それぞれ独立に、2価の炭化水素基を表す。2価の炭化水素基に含まれる炭素原子数は特に制限されないが、1~20が好ましく、2~20がより好ましく、4~12がさらに好ましい。
2価の炭化水素基としては、2価の脂肪族炭化水素基、2価の芳香族炭化水素基、又は、これらの組み合わせが挙げられる。2価の脂肪族炭化水素基は、直鎖状、分岐鎖状、又は環状のいずれであってもよい。環状としては単環式及び多環式のいずれでもよく、単環式の脂肪族炭化水素基としてはシクロヘキサンジイルが挙げられ、多環式の脂肪族炭化水素基としてはアダマンタンジイル基、ノルボルナンジイル基などが挙げられる。
これらの中でも、2価の炭化水素基としては、炭素原子数1~6のアルキレン基、アルキル基が置換されていてもよい脂肪族六員環基、又は、アルキル基が置換されていてもよいキシリレン基などが好ましく挙げられる。
【0038】
1は、ブロック剤の残基を表す。ブロック剤の残基とは、イソシアネート基と反応可能なブロック剤から水素原子を除いた残基を意図する。ブロック剤の種類は、上述した通りである。なかでも、炭素原子数3~8のアルキルアミノ基、炭素原子数2~8の1,3-ジカルボニル基、又は、炭素原子数2~8のピラゾール基などが好ましく挙げられる。
【0039】
ブロックイソシアネート(B)中における式(1)で表される構造単位の数は特に制限されないが、上述したイソシアヌレート構造の数と同義である。
【0040】
表面処理剤中のブロックイソシアネート(B)の含有量は特に制限されないが、水性エポキシ樹脂(A)の質量(MA)に対するブロックイソシアネート(B)の質量(MB)の比率(MB/MA)が0.100~2.200となるように表面処理剤に配合することが好ましく、0.200~1.200となるように表面処理剤に配合することがより好ましい。
【0041】
ブロックイソシアネート(B)の製造方法は特に制限されず公知の方法が採用されるが、例えば、ジイソシアネートなどのポリイソシアネートを反応させて、イソシアヌレート構造を有するポリイソシアネートを製造して、その後、ブロック剤を添加してイソシアネート基の一部を保護して、さらに、ポリアルキレンオキシ化合物を添加して反応させる方法が挙げられる。なお、ポリアルキレンオキシ化合物は、上述した式(2)で表される構造単位(繰り返し単位)を有し、末端(好ましくは、両末端)にヒドロキシ基などのイソシアネート基と反応可能な基を有する化合物である。
【0042】
イソシアヌレート構造を有するポリイソシアネートを合成する際には、必要に応じて、触媒(例えば、塩基性触媒)を用いてもよい。触媒としては、例えば、トリアルキルベンジルアンモニウムのハイドロオキサイド;テトラアルキルアンモニウムのハイドロオキサイド;アルキルカルボン酸の錫、亜鉛、鉛等のアルキル金属塩;ナトリウム、カリウム等の金属アルコラート;ヘキサメチルジシラザンなどのアミノシリル基含有化合物;マンニッヒ塩基類;第3級アミン類とエポキシ化合物の併用;及びトリブチルホスフィンなどの燐系化合物等が挙げられる。これらは1種のみを使用しても、2種以上を併用してもよい。なお、触媒として塩基性触媒を使用した場合は、必要に応じて、酸性化合物で中和することが好ましい。酸性化合物は、1種のみを使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0043】
金属材料用表面処理剤は、成分の溶解や分散及び濃度調整のために溶媒を含有していてもよい。溶媒の種類は特に限定されず、ヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン、N-メチルピロリドン、水(例えば、脱イオン水)などが使用可能であり、表面処理剤の取り扱いがより容易であるという観点から、脱イオン水を用いることが好ましい。
また、溶媒の含有量は、表面処理剤全量に対して、30~95質量%が好ましい。
また、溶媒として水(例えば、脱イオン水)を使用する場合、金属材料用表面処理剤のpHを6~10とすることが好ましい。より好ましいpHは8~10である。
なお、pHの調整にはアンモニア、炭酸、硝酸、有機酸などを用いることが好ましい。
【0044】
(カルボジイミド化合物(C))
表面処理剤中には、カルボジイミド化合物(C)を配合することが好ましい。カルボジイミド化合物としては、N,N’-ジシクロヘキシルカルボジイミド、N,N’-ジイソプロピルカルボジイミド、N,N’-ジイソプロピルフェニルカルボジイミド、N-エチル-N’-(3-ジメチルアミノプロピル)-カルボジイミド塩酸塩などが挙げられる。カルボジイミド化合物は、1種のみを使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0045】
表面処理剤中のカルボジイミド化合物(C)の含有量は特に制限されないが、水性エポキシ樹脂(A)の質量(MA)に対するカルボジイミド化合物(C)の質量(Mc)の比率(Mc/MA)が0.020~1.100となるように表面処理剤中に配合することが好ましく、0.040~0.700となるように表面処理剤に配合することがより好ましく、0.080~0.350となるように表面処理剤に配合することが更により好ましい。
【0046】
(界面活性剤(D))
表面処理剤の静的表面張力の値は低い方が好ましい。具体的には、80dyne/cm以下であることが好ましく、50dyne/cm以下であることがより好ましく、40dyne/cm以下であることがより好ましく、35dyne/cm以下であることが更により好ましく、例えば20dyne/cm~35dyne/cmとすることができる。本明細書において、静的表面張力はJIS K 2241:2017に準拠するウィルヘルミー法によって温度25℃で測定される値を指す。表面処理剤の静的表面張力の値を低下させるために、表面処理剤中に界面活性剤(D)を配合することが好ましい。好適な界面活性剤(D)としては、フッ素系界面活性剤が挙げられ、特にパーフロロアルキル基を側鎖に持つ非イオン性のポリオキシアルキレンエーテル化合物を好適に使用可能である。界面活性剤は、1種のみを使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0047】
表面処理剤中の界面活性剤(D)の含有量は特に制限されないが、表面処理剤中の界面活性剤(D)の固形分の濃度を0.005質量%~0.250質量%とするのが好ましく、0.010質量%~0.150質量%とするのがより好ましく、0.015質量%~0.080質量%とするのが更により好ましい。
【0048】
(シラン化合物(E))
表面処理剤中には、シラン化合物(E)を配合することが好ましい。シラン化合物(E)の種類は特に限定されないが、アルコキシシラン、シランカップリング剤、及びこれらの加水分解物、縮合物から選ばれる1種以上を用いることができる。例えば、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、及び2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランなどのエポキシシラン、N-(2-アミノエチル)3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-(アミノエチル)3-アミノプロピルトリメトキシシラン、及び3-アミノプロピルトリエトキシシランなどのアミノシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシランなどのメルカプトシラン、3-イソシアネートプロピルトリメトキシシラン、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシランなどのイソシアネートシラン、ビニルトリエトキシシラン、p-スチリルトリメトキシシランなどのビニル基含有シランなどが挙げられる。これらの中でも、メトキシ基及び/又はエトキシ基を有するシラン化合物が好ましく、メトキシ基を有するシラン化合物がさらに好ましい。シラン化合物は、1種のみを使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0049】
表面処理剤中のシラン化合物(E)の含有量は特に制限されないが、水性エポキシ樹脂(A)の質量(MA)に対するシラン化合物(E)の質量(ME)の比率(ME/MA)が0.005~0.350となるように表面処理剤中に配合することが好ましく、0.010~0.250となるように表面処理剤に配合することがより好ましく、0.020~0.150となるように表面処理剤に配合することが更により好ましい。
【0050】
(金属化合物(F))
表面処理剤中には、ジルコニウム化合物、チタン化合物、及びバナジウム化合物から選択される少なくとも一種の金属化合物(F)を配合することが好ましい。金属化合物(F)はジルコニウム原子、チタン原子、及びバナジウム原子の少なくとも一種が含まれていればその種類は特に限定されない。金属化合物(F)は、1種のみを使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0051】
ジルコニウム化合物(ジルコニウム原子を含む化合物)としては、例えば、ジルコニウムの炭酸塩、塩化物、硝酸塩及び硫酸塩;炭酸ジルコニウムアンモニウムなどのジルコニウムの炭酸アンモニウム塩;ジルコン酸及びその塩;ジルコニウム酸化物;乳酸ジルコニウム及び酢酸ジルコニウムなどのジルコニウムの有機酸塩:ジルコニウムエトキシド、ジルコニウムテトライソプロポキシド、ジイソプロポキシジルコニウムジアセチルアセトナト、ジイソプロポキシジルコニウムジトリエタノールアミネートなどのジルコニウムアルコキシド、ジルコニウムヘキサフルオロアセチルアセトナート、ジルコニウムテトラアセチルアセトネート、ジルコニウム原子を含むキレート錯体などの有機ジルコニウム化合物を使用できる。
【0052】
チタン化合物(チタン原子を含む化合物)としては、例えば、チタンアルコキシド、チタン原子を含むキレート錯体、チタンの無機塩、有機酸塩及びチタニウムアセチルアセトナートなどの有機チタン化合物を使用できる。
【0053】
バナジウム化合物(バナジウム原子を含む化合物)としては、例えば、バナジウムアルコキシド、バナジウムを含むキレート錯体、バナジウムの無機塩、有機塩及び酸化物を使用できる。具体的には、バナジルアセチルアセトナート、メタバナジン酸、メタバナジン酸ナトリウム、メタバナジン酸カリウム、メタバナジン酸アンモニウム、五酸化バナジウム、三酸化バナジウム、フッ化バナジウム、リン酸バナジウム、硫酸バナジウム、シュウ酸バナジウム、バナジウムオキシトリイソプロポキシド、バナジウムオキシトリブトキシド、バナジウムオキシトリイソブトキシド、バナジウムオキシトリエタノールアミネートなどが挙げられる。
【0054】
表面処理剤中の金属化合物(F)の含有量は特に制限されないが、水性エポキシ樹脂(A)の質量(MA)に対する金属化合物(F)の質量(MF)の比率(MF/MA)が0.001~0.050となるように表面処理剤中に配合することが好ましく、0.002~0.035となるように表面処理剤に配合することがより好ましく、0.003~0.020となるように表面処理剤に配合することが更により好ましい。
【0055】
(その他の成分)
表面処理剤中には、顔料、水系潤滑剤、樹脂硬化成分、可塑剤、水溶性溶剤、消泡剤、防菌防カビ剤、着色剤、均一塗工のための濡れ性向上剤などのその他の成分を、表面処理剤の液安定性や本発明の効果を損なわない範囲で配合することができる。
【0056】
好ましい実施形態において、本発明に係る表面処理剤は、無機リン酸、無機リン酸塩、有機リン酸、有機リン酸塩、有機ホスホン酸、及び有機ホスホン酸塩などのリン含有化合物を含有しない。本発明に係る表面処理剤は、リン含有化合物を添加しなくても材料の加工部(耐食性及び塗膜密着性)の耐久性に優れる皮膜を形成可能である。
【0057】
<2.表面処理皮膜を有する材料>
本発明の一実施形態によれば、本発明に係る表面処理剤を材料の表面又は表面上に接触させて形成される、表面処理皮膜を有する材料が提供される。表面処理皮膜を有する材料を製造する方法は特に制限されないが、例えば、上述した表面処理剤を材料の表面又は表面上に接触させ、加熱乾燥する方法が挙げられる。これにより、材料の表面又は表面上に表面処理皮膜が形成される。材料の表面には、1又は複数の他の皮膜が存在していてもよく、この場合は、他の皮膜の表面に、上述した表面処理剤を接触させ、加熱乾燥する。これにより、他の皮膜の表面に、言い換えると、材料の表面上に、表面処理皮膜が形成される。他の皮膜は、任意の方法により形成されてよく、例えば、後述する下地処理により形成され得る。以下、表面処理皮膜を有する材料を製造する方法について詳細に説明する。
【0058】
(材料)
本発明に係る表面処理剤が対象とする材料は特に制限はないが、例えば、金属材料全般(金属材料)が挙げられる。使用される金属材料の種類は特に限定されず、公知の金属材料を使用することができる。例えば、鉄系材料、めっき系材料、亜鉛系材料、アルミニウム系材料、マグネシウム系材料などが挙げられる。より具体的には、鉄板、亜鉛板、冷延鋼板、熱延鋼板、溶融亜鉛メッキ鋼板、電気亜鉛メッキ鋼板、溶融合金化亜鉛メッキ鋼板、アルミニウムメッキ鋼板、アルミ-亜鉛合金メッキ鋼板、スズ-亜鉛合金メッキ鋼板、亜鉛-ニッケル合金メッキ鋼板、ステンレス鋼板、アルミニウム板(単体のアルミニウム板のみならず、アルミニウム合金板を含む)、銅板、チタン板、マグネシウム板などが挙げられる。金属材料の形状としては、金属板金構成体のような形状物であっても構わない。
【0059】
(前洗浄)
表面処理剤による処理に先立って、必須ではないが、被処理物である材料に付着した油分、汚れを取り除くために、脱脂剤によるアルカリ洗浄、湯洗、酸洗、溶剤洗浄などを適宜組み合わせて行うことが好ましい。前洗浄後、材料表面に洗浄液が残留しないように水洗し乾燥することが好ましい。
【0060】
(下地処理)
通常不要であるが、表面処理剤による処理を行なう前に、材料の耐食性及び皮膜と金属材料との密着性をさらに向上させる目的で、下地処理を施してもよい。下地処理の方法は特に制限されないが、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Mn、Zr、Ti、又はVなどの金属を付着させる表面調整処理や、リン酸塩系及びジルコニウム系などの化成処理などが挙げられる。下地処理後、材料表面に処理液が残留しないように水洗し乾燥してもよく、水洗しなくてもよい。
【0061】
(表面処理剤による表面処理)
材料への表面処理剤の接触方法は特に制限されず、例えば、ロールコーター法、浸漬法、スプレー法、バーコート法など塗布方法が挙げられる。接触時の表面処理剤温度については、特に制限はないが、10℃~60℃が好ましく、15℃~40℃がより好ましい。材料を表面処理剤と接触させた後、材料に加熱乾燥処理を施す。加熱乾燥方法としては特に制限はなく、ドライヤー、熱風炉、高周波誘導加熱炉、赤外線炉等が挙げられる。水性エポキシ樹脂(A)及びブロックイソシアネート(B)の硬化、並びに架橋の促進による被覆効果を高めるためには、熱風炉、誘導加熱炉、電気炉などによる加熱乾燥が好ましい。加熱乾燥温度は、特に制限はないが、乾燥時の最高到達板温度(PMT: Peak Metal Temperature)が50℃~250℃であることが好ましく、70℃~220℃であることがより好ましい。
【0062】
上記手順により形成される表面処理皮膜の厚みは特に制限はないが、平均厚みが0.1μm~5.0μmであることが好ましく、0.5μm~4.0μmであることがより好ましい。
【実施例
【0063】
以下に、実施例及び比較例を挙げて本発明の内容を具体的に説明する。本実施例はあくまで本発明を説明する一部に過ぎず、本発明を限定するものではない。
【0064】
まず、実施例及び比較例で用いた水性エポキシ樹脂(A)について説明する。
(1)水性エポキシ樹脂(A1)~(A4)
【0065】
水性エポキシ樹脂(A1)の合成
冷却管を備えたフラスコに、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンを114質量部、エピクロルヒドリンを56質量部、及び、テトラブチルアンモニウムブロミドを17質量部加え、70℃で24時間反応させた。次いで、反応溶液を室温まで冷却し、反応溶液に20質量%の水酸化ナトリウム水溶液を12質量部加え、室温で5時間程度反応させ、クロロホルムで抽出し反応生成物を得た。
この反応生成物590質量部に対して、グリシジルメタクリレートを43質量部、ジメチルベンジルアミンを7質量部加え、130℃で4時間反応させ、反応生成物(a1)を得た。
この反応生成物(a1)265質量部に対して、ブチルセロソルブを150質量部加え、メチルメタクリレート/2-ヒドロキシエチルメタクリレート/アクリル酸=375/210/173の質量割合の混合物30質量部と、ブチルセロソルブ30質量部と、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート10質量部とからなる混合物を2時間かけて滴下して100℃で4時間反応させた。その後、反応容器を80℃に冷却し、トリエチルアミン10質量部及び脱イオン水500質量部を順に反応容器に添加し混合することにより、水性エポキシ樹脂(A1)を得た。この水性エポキシ樹脂(A1)の酸価は17mgKOH/gであった。
【0066】
水性エポキシ樹脂(A2)の合成
冷却管を備えたフラスコに、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタンを100質量部、エピクロルヒドリンを56質量部、及び、テトラブチルアンモニウムブロミドを17質量部加え、70℃で24時間反応させた。次いで、反応溶液を室温まで冷却し、反応溶液に20質量%の水酸化ナトリウム水溶液を12質量部加え、室温で5時間程度反応させ、クロロホルムで抽出し反応生成物を得た。
この反応生成物534質量部に対して、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル(ナガセケムテック製、EX-821)を60質量部、ジメチルベンジルアミンを7質量部加え、130℃で4時間反応させ、反応生成物(a2)を得た。
この反応生成物(a2)254質量部に対してブチルセロソルブを150質量部加え、メチルメタクリレート/2-ヒドロキシエチルメタクリレート/アクリル酸=375/210/288の質量割合の混合物35質量部と、ブチルセロソルブ30質量部と、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート10質量部とからなる混合物を2時間かけて滴下して100℃で4時間反応させた。その後、反応容器を80℃に冷却し、トリエチルアミン16質量部及び脱イオン水500質量部を順に反応容器に添加し混合することにより、水性エポキシ樹脂(A2)を得た。この水性エポキシ樹脂(A2)の酸価は28mgKOH/gであった。
【0067】
水性エポキシ樹脂(A3)の合成
冷却管を備えたフラスコに、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンを114質量部、エピクロルヒドリンを56質量部、及び、テトラブチルアンモニウムブロミドを17質量部加え、70℃で24時間反応させた。次いで、反応溶液を室温まで冷却し、反応溶液に20質量%の水酸化ナトリウム水溶液を12質量部加え、室温で5時間程度反応させ、クロロホルムで抽出し反応生成物を得た。
この反応生成物590質量部に対して、グリシジルメタクリレートを43質量部、ジメチルベンジルアミンを7質量部加え、130℃で4時間反応させ、反応生成物(a3)を得た。
この反応生成物(a3)254質量部に対してブチルセロソルブを150質量部加え、メチルメタクリレート/2-ヒドロキシエチルメタクリレート/アクリル酸=375/210/405の質量割合の混合物40質量部と、ブチルセロソルブ30質量部と、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート10質量部とからなる混合物を2時間かけて滴下して100℃で4時間反応させた。その後、反応容器を80℃に冷却し、トリエチルアミン22質量部及び脱イオン水500質量部を順に反応容器に添加し混合することにより、水性エポキシ樹脂(A3)を得た。この水性エポキシ樹脂(A3)の酸価は40mgKOH/gであった。
【0068】
(水性エポキシ樹脂の性状測定:酸価)
上記合成例で製造された水性エポキシ樹脂の酸価は、JISK0070-1992に準ずる電位差滴定法で測定した。
【0069】
水性エポキシ樹脂(A4)
水性エポキシ樹脂(A4)として、ヒドロキシ基を有するエポキシ樹脂(ウォーターゾールEFD-5560、DIC社製)を使用した。
【0070】
次に、実施例及び比較例で使用したブロックイソシアネート(B)について説明する。
(2)ブロックイソシアネート(B)の合成
ポリイソシアネートの調製
攪拌機のついた反応装置(1Lセパラブルフラスコ)に表1の「イソシアネート種」欄に示す各イソシアネート300gを加えて、60℃での攪拌下、触媒としてトリメチルベンジルアンモニウム・ハイドロオキサイド0.1gを加えた。4時間後、反応液の転化率が38%になった時点で有機酸を添加し、反応を停止した。
【0071】
ブロックイソシアネートの調製
以下に、ブロックイソシアネートの調製方法を述べる。なお、各合成例に使用した「ポリイソシアネート」は、表1に記載の各合成例の「イソシアネート種」欄に記載のイソシアネートを用いて、上記手順にして作製したポリイソシアネートを用いた。
なお、以下各合成例で合成したブロックイソシアネートは、いわゆる自己乳化型のブロックイソシアネートであった。
【0072】
(合成例B1、B4)
ポリイソシアネート(100g)、3,5-ジメチルピラゾール(28.8g)及びナトリウムメトキシド(1.0g)を反応器に装入し、65~70℃で加熱した。次いで、ポリエチレングリコール(188.4g)を反応液に添加し、反応液温度を70℃にし、5時間保持した。その後、反応液を攪拌しながら水(430g)を反応液に添加し、ブロックイソシアネート乳化液を調製した。
なお、B1及びB4の各製造の際に、上記ポリエチレングリコールの種類を変更して、表1に示す重量平均分子量が得られるようにした。具体的には、B1の合成の際にはポリエチレングリコール(繰り返し単位の数(n):22)を、B4の合成の際にはポリエチレングリコール(繰り返し単位の数(n):180)を用いた。
【0073】
(合成例B2)
ポリエチレングリコールをポリプロピレングリコール(繰り返し単位の数(n):17)に変更した以外は、合成例B1と同様の手順に従って、ブロックイソシアネート乳化液を調製した。
【0074】
(合成例B3)
ポリイソシアネート(100g)、3,5-ジメチルピラゾール(26.2g)及びナトリウムメトキシド(1.0g)を反応器に装入し、65~70℃で加熱した。次いで、ポリエチレングリコール(136.6g)(繰り返し単位の数(n):68)を反応液に添加し、反応液温度を70℃にし、5時間保持した。その後、反応液を攪拌しながら水(350g)を反応液に添加し、ブロックイソシアネート乳化液を調製した。
【0075】
(合成例B5)
3,5-ジメチルピラゾールをエチレングリコールモノブチルエーテルに変更した以外は、合成例B1と同様の手順に従って、ブロックイソシアネート乳化液を調製した。
【0076】
(合成例B6)
ポリイソシアネート(100g)、3,5-ジメチルピラゾール(75.7g)及びナトリウムメトキシド(1.0g)を反応器に装入し、反応液を65~70℃で加熱した。その後、反応液を攪拌しながら水(260g)を反応液に添加し、ブロックイソシアネート乳化液を調製した。
【0077】
得られたブロックイソシアネートの重量平均分子量は、ブロックイソシアネートの相対分子量分布をGPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)により求め、ポリエチレングリコール換算重量平均分子量として求めた。GPCの測定条件は次の通りである。
【0078】
測定機種:東ソー(株)製SC-8010システム
カラム:Shodex Ohpak SB-G+Ohpak SB-806MHQ×2本
溶解液:DMF/0.06M LiBr/0.04M H3 PO3
温度:カラム恒温槽40℃
流速:0.05mL/分
濃度:0.1wt/Vol%
注入量:50μL
溶解性:完全溶解
前処理:0.45μmフィルター
検出器:示差屈折計
【0079】
上記で合成されたB1~B5にはイソシアヌレート構造と、ポリアルキレンオキシ鎖とが含まれていた。
B6にはイソシアヌレート構造は含まれていたが、ポリアルキレンオキシ鎖は含まれていなかった。
以下の表1中、「重合形態」欄において、「三量体」はイソシアヌレート構造が含まれていることを表す。
「アルキレンオキシ数」は、アルキレンオキシユニットの数を表す。
「粒子径」は、各ブロックイソシアネート乳化液中におけるブロックイソシアネートの、レーザー回折/散乱法による粒度分布測定装置(HORIBA社製型式LA―960)を用いて測定された体積基準のメジアン径を表す。
「有効NCO%」は、JIS K1603-1:2007に規定された方法に則って測定した、各ブロックイソシアネート中における有効イソシアネート基の含有量(質量%)を表す。
【0080】
【表1】
【0081】
なお、上記表中の各記号は以下を表す。
HDI:1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート,TMXDI:1,3-ビス(2-イソシアネート2-プロピル)ベンゼン,TDI:トリレン-2,6-ジイソシアネート,PEG:ポリエチレングリコール,PPG:ポリプロピレングリコール,DMP:3,5-ジメチルピラゾール,EGB:エチレングリコールモノブチルエーテル
【0082】
(3)表面処理剤の調製
次に、上述した水性エポキシ樹脂(A1)~(A4)と表1に示すブロックイソシアネート(B1)~(B6)を用い、表2に示す組成となるように(A)~(F)の各成分を脱イオン水中で混合し、金属材料用表面処理剤を得た。なお、何れの金属材料用表面処理剤についても、固形分濃度は10質量%であった。
【0083】
表2中、「MB/MA」は水性エポキシ樹脂(A)の質量に対するブロックイソシアネート(B)の質量の比を、「MC/MA」は水性エポキシ樹脂(A)の質量に対するカルボジイミド化合物(C)の質量の比を、「(D)含有量(%)」は表面処理剤中の界面活性剤(D)の固形分の質量%を、「ME/MA」は水性エポキシ樹脂(A)の質量に対するシラン化合物(E)の質量の比を、「MF/MA」は水性エポキシ樹脂(A)の質量に対する金属化合物(F)の質量の比をそれぞれ表す。
【0084】
以下に、表2に記載の化合物(C)、(D)、(E)、(F)について説明する。
C1:N,N’-ジシクロヘキシルカルボジイミド
【0085】
D1:パーフロロアルキル基を側鎖に持つ非イオン性のポリオキシアルキレンエーテル化合物(オムノバ社製PolyFox PF-151N)
【0086】
E1:3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン
E2:3-アミノプロピルトリエトキシシラン
E3:ビニルトリエトキシシラン
【0087】
F1:炭酸ジルコニウムアンモニウム
F2:チタニウムアセチルアセトナート
F3:バナジルアセチルアセトナート
F4:ジルコニウムヘキサフルオロアセチルアセトナート
【0088】
なお、表2には記載していないが、特許文献1の発明に相当する比較例4では水性エポキシ樹脂(A)の質量に対するクエン酸一水和物の質量の比率(クエン酸一水和物の質量/水性エポキシ樹脂(A)の質量)が0.12となるようにクエン酸一水和物を更に添加し、特許文献2の実施例C13に相当する比較例7ではリン含有化合物の質量に対するブロックイソシアネート(B)の質量の比率(ブロックイソシアネート(B)の質量/リン含有化合物の質量)が0.1となるように、リン含有化合物としてリン酸アンモニウムを更に添加した。
【0089】
(4)表面処理剤の静的表面張力測定
上記手順で調製した金属材料用表面処理剤について、高機能表面張力計(協和界面科学製「DY-500」)を使用し、JIS K 2241:2017に準拠するウィルヘルミー法によって静的表面張力の測定を温度25℃にて行った。結果を表2に示す。
【0090】
(5)表面処理皮膜を有する試験板の作製
以下、(5-1)から(5-3)の手順に従い表面処理皮膜を有する試験板を作製し、(5-4)の手順に従い皮膜の膜厚を測定した。
(5-1)供試材
試験板として、冷延鋼板(SPCC)板厚0.8mmを使用した。
【0091】
(5-2)前洗浄
あらかじめ、試験板を、アルカリ脱脂剤(日本パーカライジング株式会社製アルカリ脱脂剤ファインクリーナーL4460、脱脂条件:水中脱脂剤濃度2.0g/L、処理液温度45℃、脱脂時間120秒、スプレー処理)を用いて脱脂処理し、表面の油分や汚れを取り除いた。次に、水道水で水洗して試験板表面が水で100%濡れることを確認した後、さらに脱イオン水を流しかけ、100℃雰囲気のオーブンで水分を乾燥した。
【0092】
(5-3)表面処理皮膜を有する試験板の作製
前洗浄後、表2に示す組成の金属材料用表面処理剤を、バーコーターを用いて試験板の一方の表面に塗布し、熱風乾燥炉で最高到達板温度(PMT:Peak Metal Temperature)が表2に記載の温度となるように乾燥し、表面処理皮膜を有する試験板を得た。
【0093】
(5-4)皮膜の膜厚測定
表面処理皮膜を有する試験板の皮膜の膜厚を、デュアルタイプ膜厚計LZ-373(ケツト科学研究所製)を用いて、70mm×150mmの鋼板表面の範囲で5か所測定し、平均値を算出した。結果を表2に示す。
【0094】
(6)評価試験方法
上記手順で得られた表面処理皮膜を有する試験板に対して、以下の(6-1)~(6-3)の評価を行った結果を、表3に示す。評価基準について、実用上、「◎」、「〇+」、「〇」が好ましい。
【0095】
(6-1)湿潤試験初期防錆性評価
表面処理皮膜を有する試験板から70mm×150mmの試験片(以下、単に「サンプル」という。)を切り出し、各サンプルの裏面(表面処理皮膜が形成されていない他方の表面)と端面をビニールテープでシールして、JIS K 2246:2018に準拠する湿潤試験(49℃、95%RH)を行い、サンプル表面の赤錆の発生までの時間を目視判定した。次の評価基準に基づき評価した。結果を表3の「湿潤試験」の欄に示す。
◎:720時間以上
〇+:600時間以上720時間未満
〇:480時間以上600時間未満
△:240時間以上480時間未満
×:240時間未満
【0096】
(6-2)SST初期防錆性評価
平面部
各サンプルの裏面と端面をビニールテープでシールして、JIS Z 2371:2000に準拠する塩水噴霧試験(SST)を実施した。36時間後の赤錆発生面積率を目視にて確認し、サンプル表面(平面部)における耐食性を次の評価基準に基づき評価した。結果を表3の「平面部SST」の欄に示す。
◎:赤錆面積率5%未満
〇+:赤錆面積率5%以上10%未満
〇:赤錆面積率10%以上20%未満
△:赤錆面積率20%以上30%未満
×:赤錆面積率30%以上
加工部
各サンプルの裏面と端面をビニールテープでシールして、エリクセン試験機にてサンプル表面に高さ5mmの凸部が形成されるように押出し加工を施した。次いで、JIS Z 2371:2000に準拠する塩水噴霧試験(SST)を実施した。24時間後の赤錆発生面積率を目視にて確認し、サンプル表面の凸部(加工部)における耐食性を評価した。次の評価基準に基づき評価した。結果を表3の「加工部SST」の欄に示す。
◎:赤錆面積率5%未満
〇+:赤錆面積率5%以上10%未満
〇:赤錆面積率10%以上20%未満
△:赤錆面積率20%以上30%未満
×:赤錆面積率30%以上
【0097】
(6-3)塗膜密着性評価
各サンプルの表面にメラミン系塗料(アミラック#1000、関西ペイント(株)製)を、焼き付け乾燥後の膜厚が25μmになるように塗布して、125℃で20分間焼き付けることにより、上塗り塗装を行った。
【0098】
一次密着
上塗り塗装後の各サンプルの表面にカッターを用いて1mm間隔の平行線11本を引き、更にこれらの平行線に直交する1mm間隔の平行線11本を引いて、100個の碁盤目状カット傷を入れた。次いで、エリクセン試験機にてサンプル表面に高さ5mmの凸部が形成されるように押出し加工を施し、碁盤目部分にセロテープを貼り、テープ剥離した後、塗膜の碁盤目剥離個数を下記判定基準に従って評価した。(以下「碁盤目試験」と言う。)結果を表3の「塗装性能」の「一次」の欄に示す。
◎:0個
〇+:1~5個
〇:6~10個
△:11~30個
×:31個以上
二次密着
上塗り塗装後の各サンプルを脱イオン水の沸騰水中に2時間浸漬した後、一日放置し、各サンプルの表面にカッターを用いて1mm間隔の平行線11本を引き、更にこれらの平行線に直交する1mm間隔の平行線11本を引いて、100個の碁盤目状カット傷を入れた。次いで、エリクセン試験機にてサンプル表面に高さ5mmの凸部が形成されるように押出し加工を施し、碁盤目試験で評価した。結果を表3の「塗装性能」の「二次」の欄に示す。
◎:0個
〇+:1~5個
〇:6~10個
△:11~30個
×:31個以上
【0099】
【表2】
【0100】
【表3】
【0101】
なお、本検討以外の供試材を用いた場合でも、上記実施例と同様の評価傾向を示し、優れた特性を有する、表面処理皮膜を有する材料が得られた。