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  • 特許-密封装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-29
(45)【発行日】2024-02-06
(54)【発明の名称】密封装置
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/10 20060101AFI20240130BHJP
   F16B 43/00 20060101ALI20240130BHJP
【FI】
F16J15/10 K
F16B43/00 C
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020046500
(22)【出願日】2020-03-17
(65)【公開番号】P2021148157
(43)【公開日】2021-09-27
【審査請求日】2023-01-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179970
【弁理士】
【氏名又は名称】桐山 大
(74)【代理人】
【識別番号】100071205
【弁理士】
【氏名又は名称】野本 陽一
(72)【発明者】
【氏名】門馬 弘明
【審査官】大谷 謙仁
(56)【参考文献】
【文献】実開昭53-030068(JP,U)
【文献】特開昭64-026014(JP,A)
【文献】特開平07-269710(JP,A)
【文献】特開昭52-043059(JP,A)
【文献】実開昭50-020215(JP,U)
【文献】特開2009-209985(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/10
F16B 43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属環と、前記金属環の内周面から軸方向一方の端面へかけての部位に設けられた面取り部と、前記面取り部および前記軸方向一方の端面を含む前記金属環の表面に接着されたゴム状弾性体製のシールと、を備え、
前記金属環の最小内径寸法をd、寸法が最小となる内径箇所と軸方向同一位置における前記シールの内径寸法をdとして、
≦1.1d
の関係を充足することを特徴とする密封装置。
【請求項2】
請求項1記載の密封装置において、
前記面取り部は、断面直線状のカット部として設けられていることを特徴とする密封装置。
【請求項3】
請求項2記載の密封装置において、
前記面取り部の最大内径寸法をd、寸法が最小となる内径箇所と軸方向同一位置における前記シールの内径寸法をdとして、
1.05d≦d≦1.2d
の関係を充足し、
前記面取り部を除く前記金属環の内周面の軸方向高さ寸法をH、前記面取り部を含む前記金属環の内周面の軸方向高さ寸法をHとして、
0.1H≦H≦0.25H
の関係を充足することを特徴とする密封装置。
【請求項4】
請求項1記載の密封装置において、
前記面取り部は、断面円弧状のアール部として設けられていることを特徴とする密封装置。
【請求項5】
請求項4記載の密封装置において、
前記面取り部の曲率半径をR、前記面取り部を含む前記金属環の内周面の軸方向高さ寸法をHとして、
0.75H≦R≦0.9H
の関係を充足し、
前記面取り部を除く前記金属環の内周面の軸方向高さ寸法をH、前記面取り部を含む前記金属環の内周面の軸方向高さ寸法をHとして、
0.1H≦H≦0.25H
の関係を充足することを特徴とする密封装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、密封装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から図3に示す密封装置51が知られている(特許文献1参照)。
【0003】
密封装置51は、金属環61と、金属環61に保持されたゴム状弾性体製のシール71とを有している。
【0004】
シール71は、金属環61の内周面62および軸方向一方(図では下方、密封対象側)の端面63の双方に対し接着されている。
【0005】
またシール71は、その内周面72をもって相手部品(図示せず)に接触することにより相手部品との間のスキマを無くし、密封対象がスキマを通過して漏洩するのを抑制する。
【0006】
相手部品は例えば、締結用のボルト部品とされる。この場合、シール71はボルトネジ部の外周面に接触し、径方向に圧縮され、ネジ部の谷部を埋めるよう弾性変形することによりスキマを無くすことになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】実開昭60-110708号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記密封装置51においては、以下の点で改良の余地がある。
【0009】
金属環61の内径寸法dとシール71の内径寸法dとの寸法差が大きく設定され、これにより金属環61の内周側におけるシール71の径方向幅が大きく設定されているため、シール71が径方向に圧縮されたときに軸方向他方(図では上方、反密封対象側)へ向けて大きく膨らむように弾性変形する可能性がある。
【0010】
したがって、シール71が接触する相手面(ボルトネジ部の外周面)の形状やボルトの締め付け具合の如何によっては、シール71が軸方向他方へ向けて大きく膨らむように弾性変形するため、その結果としてシール71が相手面の形状に十分追随できずに相手面との間にスキマを生じ、スキマを通して密封対象が漏洩することが懸念される。状況としてはシール71がネジ部の谷部を埋めきらずに谷底部にスキマが残る状態を想起されたい。
【0011】
また、金属環61の内周面62が円筒面状に形成される一方で金属環61の軸方向一方の端面63が軸直角平面状に形成されているため、両面62,63が交差する角部64が断面直角状の角部として形成されている。
【0012】
したがって、圧力変動などによりこの角部64に対しシール71が繰り返し押し付けられると、シール71に大きな応力集中が発生し、応力集中によるクラックが発生することが懸念される。
【0013】
本発明は、シールが軸方向へ向けて大きく弾性変形することなく内周側の相手面の形状に追随し、スキマを生じず、密封性能を向上させることができ、併せて、圧力変動などによりシールが金属環に繰り返し押し付けられても応力集中によるクラックを発生しにくい構造の密封装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
封装置の一形態は、金属環と、前記金属環の内周面から軸方向一方の端面へかけての部位に設けられた面取り部と、前記面取り部および前記軸方向一方の端面を含む前記金属環の表面に接着されたゴム状弾性体製のシールと、を備え、前記金属環の最小内径寸法をd、寸法が最小となる内径箇所と軸方向同一位置における前記シールの内径寸法をdとして、
≦1.1d
の関係を充足する。
【発明の効果】
【0015】
ールが軸方向へ向けて大きく弾性変形することなく内周側の相手面の形状に追随し、スキマを生じず、密封性能を向上させることができ、併せて、圧力変動などによりシールが金属環に繰り返し押し付けられても応力集中によるクラックを発生しにくい構造の密封装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】第1実施の形態に係る密封装置の要部断面図
図2】第2実施の形態に係る密封装置の要部断面図
図3】背景技術に係る密封装置の断面図
【発明を実施するための形態】
【0017】
第1実施の形態・・・・
図1に示すように、密封装置11は、金属環21と、金属環21に保持されたゴム状弾性体製のシール31との組み合わせにより構成されている。金属環21に対しシール31は接着(加硫接着)されているので、密封装置11は一体の成形品(加硫成形品)として成形されている。
【0018】
金属環21は、板金プレスの加工品とされている。金属環21は平板環状に成形され、内周面22、軸方向一方(図では下方、密封対象側)の端面23および軸方向他方(図では上方、反密封対象側)の端面24を有している。金属環21の外周部については、図示するように外周縁部が軸方向一方へ向けて屈曲されることにより外周筒部25が一体に成形され、これにより金属環21の軸方向高さが素材板金の厚みよりも大きく設定されている。
【0019】
金属環21の内周部であって金属環21の内周面22から軸方向一方の端面23へかけての部位に、内径寸法が軸方向他方から軸方向一方へかけて徐々に拡大する形状の面取り部26が設けられている。
【0020】
面取り部26は、金属環21の内周面22の全面ではなく軸方向一方の側に偏して一部に設けられている。したがって面取り部26の軸方向他方の側には円筒面状のストレート部27が設けられている。
【0021】
面取り部26は、断面直線状のカット部として設けられている。したがって面取り部26は全体としてテーパー状に形成されている。
【0022】
また、このように面取り部26が断面直線状のカット部として設けられているので、面取り部26と軸直角平面状の軸方向一方の端面23とが交差する角部28が断面鈍角状の角部として形成されている。
【0023】
面取り部26および軸方向一方の端面23を含む金属環21の表面であってストレート部27から面取り部26を介して軸方向一方の端面23へかけての部位に、シール31が接着されている。
【0024】
シール31は、金属環21のストレート部27に接着された被膜状シール部32と、金属環21の面取り部26に接着された被膜状シール部33と、金属環21の軸方向一方の端面23に接着されたリップ状シール部34とを一体に有している。シール31は環状に成形され、各シール部32,33,34も環状に成形されている。
【0025】
リップ状シール部34の外周側であってリップ状シール部34と金属環21の外周筒部25との間に環状であってかつ溝状の空間部41が設けられている。したがってリップ状シール部34はその先端が径方向に向けて弾性変形しやすいものとされている。
【0026】
リップ状シール部34の外周側に環状であってかつ薄膜状の被膜部35が一体に成形されている。被膜部35はリップ状シール部34と共に金属環21の軸方向一方の端面23に接着され、更に金属環21の外周筒部25の内周面まで延長されてこの内周面にも接着されている。したがって上記空間部41はこの被膜部35およびリップ状シール部34によって囲まれている。
【0027】
シール31の軸方向他方の端面36であって被膜状シール部32の端面は、軸直角平面状に形成されている。また、このシール31の端面36は、金属環21の端面24と同一平面上に設けられている。
【0028】
シール31の内周面37は、円筒面状に形成されているが、軸方向他方から軸方向一方へかけて内径寸法が縮小または増大するテーパー状に形成されても良い。
【0029】
リップ状シール部34の先端は、金属環21の外周筒部25よりも軸方向一方に突出するように設けられている。
【0030】
密封装置11は、その寸法関係が以下のように設定されている。
【0031】
金属環21の最小内径寸法dすなわちストレート部27の内径寸法が、これと軸方向同一位置(寸法が最小となる内径箇所と軸方向同一位置)におけるシール31の内径寸法dすなわち被膜状シール部32の内径寸法に対し
≦1.1d・・・・(A)式
の関係を充足するように設定されている。
【0032】
また、面取り部26の最大内径寸法dが、上記金属環21の最小内径寸法dと軸方向同一位置(寸法が最小となる内径箇所と軸方向同一位置)におけるシール31の内径寸法dすなわち被膜状シール部32の内径寸法に対し、105~120%の範囲に設定され、
1.05d≦d≦1.2d・・・・(B)式
の関係を充足するように設定されている。
【0033】
また、面取り部26を除く金属環21の内周面22の軸方向高さ寸法Hすなわちストレート部27の軸方向高さ寸法が、面取り部26を含む金属環21の内周面22の軸方向高さ寸法Hすなわち金属環21の全厚寸法に対し、10~25%の範囲に設定され、
0.1H≦H≦0.25H・・・・(C)式
の関係を充足するように設定されている。
【0034】
上記構成の密封装置11は例えば、ボルト締結部の固定用密封装置として用いられ、具体的には、ボルトおよびナットの締め付けにより被締結部材を締結する構造において、ナットおよび被締結部材間に装着され、シール31の内周面をもってボルトのネジ部外周面に接触し、これにより被締結部材の内部から外部へと密封流体が漏洩するのを抑制する。
【0035】
上記構成の密封装置11によれば、以下の作用効果が発揮される。
【0036】
金属環21の最小内径寸法dすなわちストレート部27の内径寸法とこれと軸方向同一位置におけるシール31の内径寸法dすなわち被膜状シール部32の内径寸法の関係が上記(A)式に基づいて設定されているため、軸方向他方の端部におけるシール31の径方向幅すなわち被膜状シール部32の径方向幅が従来対比で小さく形成されている。
【0037】
したがって、密封装置11の装着使用時、シール31が径方向に圧縮されても軸方向他方へ向けて大きく膨らむように弾性変形しないため、シール31が相手面の形状に追随し、スキマを生じない。したがって、シール31の過度の変形に基づいて密封性能が低下するのを抑制することが可能とされている。
【0038】
また、金属環21の内周面22から軸方向一方の端面23へかけての部位に面取り部26が設けられ、面取り部26が断面直線状のカット部として設けられているため、面取り部26と軸方向一方の端面23とが交差する角部28が断面鈍角状の角部として形成されている。
【0039】
したがって、圧力変動などによりシール31が金属環21に繰り返し押し付けられてもシール31に発生する応力集中の度合いが従来よりも小さく抑えられるため、シール31に応力集中によるクラックが発生するのを抑制することが可能とされている。
【0040】
面取り部26の構成については、上記(B)式および(C)式に基づいて設定するのが好適である。面取り部26の寸法関係が(B)式の下限値を下回ると応力集中が十分に緩和されないことがあり、上限値を上回ると金属環21によるシール保持力が不足することにもなりかねない。
【0041】
第2実施の形態・・・・
上記第1実施の形態では金属環21の内周面に面取り部26として断面直線状のカット部を設けたが、これに代えて図2に示すように、面取り部26を断面円弧状のアール部として設けても良い。
【0042】
また、この場合には、上記(B)式に代えて、以下の(D)式が(A)式および(C)式とともに用いられる。
【0043】
面取り部26の曲率半径Rが、面取り部26を含む金属環21の内周面22の軸方向高さ寸法Hすなわち金属環21の全厚寸法に対し、75~90%の範囲に設定され、
0.75H≦R≦0.9H・・・・(D)式
の関係を充足するように設定されている。
【0044】
上記構成によれば、金属環21の内周面22から軸方向一方の端面23へかけての部位に面取り部26が設けられ、面取り部26が断面円弧状のアール部として設けられているため、面取り部26と軸方向一方の端面23とが滑らかに接続され、金属環21の内周面22と軸方向一方の端面23とが交差する角部と云うものが存在しない。
【0045】
したがって、圧力変動などによりシール31が金属環21に繰り返し押し付けられてもシール31に発生する応力集中の度合いが従来よりも小さく抑えられるため、シール31に応力集中によるクラックが発生するのを抑制することが可能とされている。
【0046】
面取り部26の構成については、上記(D)式および(C)式に基づいて設定するのが好適である。面取り部26の寸法関係が(D)式の下限値を下回ると応力集中が十分に緩和されないことがあり、上限値を上回ると金属環21によるシール保持力が不足することにもなりかねない。
【0047】
第2実施の形態に係る密封装置11のその他の構成および作用効果は、第1実施の形態に係る密封装置11と同じである。したがって図2図1と同じ符号を付してその説明を省略する。
【符号の説明】
【0048】
11 密封装置
21 金属環
22,37 内周面
23 軸方向一方の端面
24,36 軸方向他方の端面
25 外周筒部
26 面取り部
27 ストレート部
28 角部
31 シール
32,33 被膜状シール部
34 リップ状シール部
35 被膜部
41 空間部
図1
図2
図3