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特許7428559ヒューズエレメント及びヒューズユニット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-29
(45)【発行日】2024-02-06
(54)【発明の名称】ヒューズエレメント及びヒューズユニット
(51)【国際特許分類】
   H01H 85/08 20060101AFI20240130BHJP
   H01H 85/10 20060101ALI20240130BHJP
   H01H 85/11 20060101ALI20240130BHJP
   H01H 85/12 20060101ALI20240130BHJP
【FI】
H01H85/08
H01H85/10
H01H85/11
H01H85/12
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020048294
(22)【出願日】2020-03-18
(65)【公開番号】P2021150151
(43)【公開日】2021-09-27
【審査請求日】2023-02-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000006895
【氏名又は名称】矢崎総業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】塩浜 貴宏
【審査官】井上 信
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-243757(JP,A)
【文献】特開2010-218687(JP,A)
【文献】特開2018-101506(JP,A)
【文献】特開2003-257301(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01H 85/08 - 85/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電体と、前記導電体を構成する材料の融点よりも低い融点を有する低融点材料から構成された低融点体と、を備えるヒューズエレメントであって、
前記導電体は、
当該導電体に電流が流れたときに当該導電体の温度が最も高くなる発熱部と、
前記発熱部からの距離が異なる複数の箇所に設けられる複数の配置部と、を有し、
前記低融点体は、
前記複数の前記配置部のうち、一の前記配置部に配置され、前記一の前記配置部以外の前記配置部には配置されない、
ヒューズエレメント。
【請求項2】
請求項1に記載のヒューズエレメントにおいて、
前記導電体は、矩形平板状の溶断部を有し、
前記複数の前記配置部は、前記導電体を貫通する孔形状を有し、前記溶断部の軸方向に沿って並ぶように設けられ、
隣り合う前記配置部に挟まれる前記導電体の長さが、前記配置部と前記溶断部の側縁とに挟まれる前記導電体の長さ以下である、
ヒューズエレメント。
【請求項3】
複数の導電体と、前記複数の前記導電体を構成する材料の融点よりも低い融点を有する低融点材料から構成されて前記複数の前記導電体の各々に設けられる低融点体と、を備えるヒューズユニットであって、
前記複数の前記導電体の各々は、
当該導電体に電流が流れたときに当該導電体の温度が最も高くなる発熱部を有し、
前記複数の前記導電体の少なくとも一つは、
前記発熱部からの距離が異なる複数の箇所に設けられる複数の配置部と、前記複数の前記配置部のうち、一の前記配置部に配置され、前記一の前記配置部以外の前記配置部には配置されない前記低融点体と、を有する、
ヒューズユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電体と、導電体を構成する材料の融点よりも低い融点を有する低融点材料から構成された低融点体と、を備えるヒューズエレメント、及び、そのヒューズエレメントを用いるヒューズユニット、に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、金属材料から構成された導電体と、その金属材料の融点よりも低い融点を有する低融点金属材料から構成された低融点体と、を備えたヒューズエレメントが提案されている(例えば、特許文献1を参照。)。
【0003】
この種のヒューズエレメントの原理は、以下の通りである。まず、導電体に電流が流れたときの発熱(即ち、ジュール熱)により、低融点体が導電体よりも先に溶融する。溶融した液相の低融点体が導電体に接触すると、導電体そのものは未だ融点に達していなくても、導電体を構成する金属材料が低融点体の中に拡散する。この拡散によって導電体が徐々に侵食され、最終的に導電体が切断(溶断)される。上述した原理から、導電体の温度が低融点体の融点に達した時点で、仮に導電体を構成する金属材料の融点に達していなくても、導電体を溶断させられることになる。これにより、ヒューズエレメントをより実用的な温度(即ち、低融点体の融点)で溶断させられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2004-127701号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した従来のヒューズエレメントが溶断に達するときの電流の大きさ(即ち、定格電流)は、導電体の導電断面積の大小によって調整可能となっている。しかし、この場合、定格電流が異なればヒューズエレメントの形状自体を異ならせる必要がある。そのため、実際には、ヒューズエレメントが用いられる各種の装置の仕様に応じて複数の種類のヒューズエレメントを準備することになる。そのため、ヒューズエレメントの製造コストを低減させ難い。
【0006】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、ヒューズエレメント自体の形状を異ならせることなく定格電流の大きさを調整可能なヒューズエレメント、及び、そのヒューズエレメントを用いたヒューズユニットの提供である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前述した目的を達成するために、本発明に係るヒューズエレメント及びヒューズユニットは、下記[1]~[3]を特徴としている。
[1]
導電体と、前記導電体を構成する材料の融点よりも低い融点を有する低融点材料から構成された低融点体と、を備えるヒューズエレメントであって、
前記導電体は、
当該導電体に電流が流れたときに当該導電体の温度が最も高くなる発熱部と、
前記発熱部からの距離が異なる複数の箇所に設けられる複数の配置部と、を有し、
前記低融点体は、
前記複数の前記配置部のうち、一の前記配置部に配置され、前記一の前記配置部以外の前記配置部には配置されない、
ヒューズエレメントであること。
[2]
上記[1]に記載のヒューズエレメントにおいて、
前記導電体は、
矩形平板状の溶断部を有し、
前記複数の前記配置部は、前記導電体を貫通する孔形状を有し、前記溶断部の軸方向に沿って並ぶように設けられ、
隣り合う前記配置部に挟まれる前記導電体の長さが、前記配置部と前記溶断部の側縁とに挟まれる前記導電体の長さ以下である、
ヒューズエレメントであること。
[3]
複数の導電体と、前記複数の前記導電体を構成する材料の融点よりも低い融点を有する低融点材料から構成されて前記複数の前記導電体の各々に設けられる低融点体と、を備えるヒューズユニットであって、
前記複数の前記導電体の各々は、
当該導電体に電流が流れたときに当該導電体の温度が最も高くなる発熱部を有し、
前記複数の前記導電体の少なくとも一つは、
前記発熱部からの距離が異なる複数の箇所に設けられる複数の配置部と、前記複数の前記配置部のうち、一の前記配置部に配置され、前記一の前記配置部以外の前記配置部には配置されない前記低融点体と、を有する、
ヒューズユニットであること。
【0008】
上記[1]の構成のヒューズエレメントによれば、ヒューズエレメントの導電体にあらかじめ設けられている複数の配置部(例えば、貫通孔、窪み、切り欠き、及び、図柄の表示など)の少なくとも一つに、低融点体が配置される。複数の配置部の各々と、導電体への通電時に最も高温となる発熱部と、の距離は、互いに相違している。そのため、導電体への通電時、複数の配置部の各々の温度は、発熱部との距離に基づいて異なる。具体的には、発熱部との距離が短いほど配置部の温度は高くなる。よって、低融点体を設ける配置部を異ならせれば、導電体が溶断に至る際の電流値(いわゆる定格電流の値)が異なることになる。したがって、本構成のヒューズエレメントは、導電体の形状は異ならせることなく、定格電流の大きさを調整可能である。
【0009】
上記[2]の構成のヒューズエレメントによれば、配置部を構成する貫通孔同士の間の導電体の長さ(例えば、図3におけるa1及びa2)が、配置部と溶断部の側縁とに挟まれる導電体の長さ(例えば、図3におけるb)以下である。よって、通電時、前者の導電体部分(貫通孔に挟まれる導電体部分)は、後者の導電体部分(配置部と溶断部の側縁との間に挟まれる導電体部分)よりも速やかに溶け終わる。その結果、本来溶断するべき後者の導電体部分を溶かすために用いるべき低融点体を、前者の部分が無用に消費してしまうことが抑えられる。したがって、本構成のヒューズエレメントは、設計された定格電流でより正確に導電体を溶断可能である。
【0010】
上記[3]の構成のヒューズユニットによれば、複数の導電体の少なくとも一つに複数の配置部が設けられ、それら配置部の少なくとも一つに低融点体が配置される。複数の配置部の各々と、導電体への通電時に最も高温となる発熱部と、の距離は、互いに相違している。そのため、導電体への通電時、複数の配置部の各々の温度は、発熱部との距離に基づいて異なる。よって、低融点体を設ける配置部を異ならせれば、導電体が溶断に至る際の電流値(いわゆる定格電流の値)が異なることになる。したがって、本構成のヒューズユニットは、各導電体の形状を異ならせることなく、定格電流の大きさを調整可能である。
【発明の効果】
【0011】
このように、本発明によれば、ヒューズエレメント自体の形状を異ならせることなく定格電流の大きさを調整可能なヒューズエレメント、及び、そのヒューズエレメントを用いたヒューズユニットを提供できる。
【0012】
以上、本発明について簡潔に説明した。更に、以下に説明される発明を実施するための形態を添付の図面を参照して通読することにより、本発明の詳細は更に明確化されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本発明の実施形態に係るヒューズエレメントを用いるヒューズユニット、及び、ヒューズユニットに接続される各種部品を示す斜視図である。
図2図2は、図1に示すヒューズエレメントを示す斜視図である。
図3図3は、図2に示すヒューズ部40Aを拡大して示す斜視図である。
図4図4は、図2に示すヒューズ部40A,40B,40Cを拡大して示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<実施形態>
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態に係るヒューズエレメント10、及び、ヒューズエレメント10を用いるヒューズユニット1について説明する。
【0015】
図1に示すように、本発明の実施形態に係るヒューズユニット1は、ヒューズエレメント10と、樹脂製のハウジング20と、を備える。ハウジング20は、ヒューズエレメント10の大部分を覆う(収容する)ように、樹脂材料によりヒューズエレメント10と一体に成形(モールド成形)されている。ヒューズユニット1は、バッテリ(図示省略)と各種外部負荷(図示省略)から延びる各種電線2A,2B,2C(図1参照)とを電気的に接続すると共に、定格電流を超える大きさの電流が流れたときにバッテリと各種電線2A,2B,2Cとの電気的接続を断つ機能を有する。
【0016】
図2に示すように、ヒューズエレメント10は、バスバ30(板状の金属部材)と、バスバ30の一部である複数(本例では、3つ)のヒューズ部40A,40B,40Cにそれぞれ配置された複数(本例では、3つ)の低融点体50A,50B,50Cと、を備える。
【0017】
バスバ30は、ハウジング20から外部に(少なくとも一部が)露出している部位として、図1に示すように、板状のバッテリ接続部31と、複数(本例では、3つ)の板状の接続部32A,32B,32Cと、複数(本例では、3つ)の板状のヒューズ部40A,40B,40Cと、を備える。バスバ30の板厚は、本例では、全域に亘って一定である。
【0018】
ヒューズユニット1(ヒューズエレメント10)は、バッテリ端子(図示省略)を介して、バッテリに接続される。具体的には、このバッテリ端子は、バッテリの上面に配置されたバッテリポスト(図示省略)に接続されると共に、円柱状の電極(スタッドボルト。図示省略)を有している。バッテリ接続部31は、自身に設けられた貫通孔33(図2参照)にこのスタッドボルトが挿通されてボルト締結されることにより、スタッドボルトに固定される。これにより、バッテリ接続部31が、バッテリ端子を介してバッテリポスト(ひいてはバッテリ)に電気的に接続された状態にて固定されることになる。
【0019】
接続部32Aは、図1に示すように、自身の貫通孔34A(図2参照)に挿通される円柱状の電極21A(スタッドボルト)に、電線2Aの一端部に設けられた端子3Aの貫通孔22Aを挿通させて、ナット4Aと接続部32Aとで端子3Aを挟むようにナット4Aを電極21Aに締結固定することで、電線2Aの他端部に接続されている外部負荷と電気的に接続される。
【0020】
同様に、接続部32Bは、自身の貫通孔34B(図2参照)に挿通される円柱状の電極21B(スタッドボルト)に、電線2Bの一端部に設けられた端子3Bの貫通孔22Bを挿通させて、ナット4Bと接続部32Bとで端子3Bを挟むようにナット4Bを電極21Bに締結固定することで、電線2Bの他端部に接続されている外部負荷と電気的に接続される。接続部32Cは、自身の貫通孔34C(図2参照)に挿通される円柱状の電極21C(スタッドボルト)に、電線2Cの一端部に設けられた端子3Cの貫通孔22Cを挿通させて、ナット4Cと接続部32Cとで端子3Cを挟むようにナット4Cを電極21Cに締結固定することで、電線2Cの他端部に接続されている外部負荷と電気的に接続される。
【0021】
図2に示すように、バスバ30において、バッテリ接続部31は、ヒューズ部40Aを介して接続部32Aと接続され、ヒューズ部40Bを介して接続部32Bと接続され、ヒューズ部40Cを介して接続部32Cと接続されている。換言すると、バッテリと、各種電線2A,2B,2C(即ち、各種外部負荷)とは、ヒューズ部40A,40B,40Cを介してそれぞれ電気的に接続される。
【0022】
以下、説明の便宜上、接続部32A,32B,32Cを互いに区別して表現する必要がない場合、これらを総称して「接続部32」と呼ぶことがある。同様に、ヒューズ部40A,40B,40Cを互いに区別して表現する必要がない場合、これらを総称して「ヒューズ部40」と呼ぶことがある。同様に、低融点体50A,50B,50Cを互いに区別して表現する必要がない場合、これらを総称して「低融点体50」と呼ぶことがある。
【0023】
各ヒューズ部40は、定格電流を超える大きさの電流が流れたときにジュール熱により、溶断されるように設計されている。ヒューズ部40が溶断されると、溶断したヒューズ部40と接続されている接続部32と、バッテリ接続部31との電気的接続が断たれる。
【0024】
以下、図3及び図4を参照しながら、ヒューズ部40について説明する。図4に示すように、各ヒューズ部40の輪郭形状は同形である。各ヒューズ部40は、バッテリ接続部31から接続部32側に向けて延びる延在部41と、接続部32からバッテリ接続部31側に向けて延びる延在部42と、延在部41及び延在部42の双方の延出端部を連結する溶断部43と、から構成される。
【0025】
本例では、延在部41及び延在部42は、互いに逆向きに屈曲する略L字状の平板状の形状を有し、溶断部43は、バッテリ接続部31と接続部32とを結ぶ連結方向(図4にて、上下方向)に沿って直線状に延びる矩形平板状の形状を有する。溶断部43は、バッテリ接続部31と接続部32とを、板厚方向に段差なく連結している。
【0026】
溶断部43の延在部41側の端部は、溶断部43の連結方向に延びる一対の側縁(側面)にそれぞれ窪みを形成することで、導電断面積(電流が流れる面積)がヒューズ部40のうちで最も小さい発熱部44となっている。通電断面積が小さいほど、電気抵抗がより大きくなるため、ジュール熱がより多く発生する。即ち、ヒューズ部40に電流が流れる際、発熱部44の温度がヒューズ部40のうちで最も高くなる。
【0027】
各ヒューズ部40のうちヒューズ部40Aのみについて、図3に示すように、溶断部43の上面(図3にて、紙面手前側の面)にて、複数(本例では、3つ)の配置部45a,45b,45cが、連結方向に直交する幅方向の中央位置にて連結方向に沿って並ぶように、設けられている。以下、説明の便宜上、配置部45a,45b,45cを互いに区別して表現する必要がない場合、これらを総称して「配置部45」と呼ぶことがある。配置部45は、低融点体50が載置される箇所(目印)として機能する。
【0028】
本例では、各配置部45はそれぞれ、板厚方向に貫通する円形の貫通孔であって、目視可能となっている。各配置部45の直径は、同じであることが好適である。なお、ヒューズ部40Aのうちで導電断面積が発熱部44にて最小となるように、各配置部45(貫通孔)の直径が設計されている。
【0029】
図3に示すように、配置部45a及び配置部45bに挟まれる溶断部43の最小長さを「a1」、配置部45b及び配置部45cに挟まれる溶断部43の最小長さを「a2」、配置部45及び連結方向に延びる溶断部43の側縁に挟まれる溶断部43の最小長さを「b」と定義すると、「b≧a1,b≧a2」という関係が成立している。これらの関係が成立することによる作用については後述する。以下、図3に示すように、隣接する配置部45に挟まれる溶断部43の部分を「溶断部43a」と呼び、配置部45及び連結方向に延びる溶断部43の側縁に挟まれる溶断部43の部分を「溶断部43b」と呼ぶ。
【0030】
ヒューズ部40Aにおいて、溶断部43の上面における配置部45a,45b,45cの何れか一つには、固相の低融点体50Aが載置される。本例では、図3及び図4に示すように、低融点体50Aが、配置部45a(即ち、貫通孔)に載置されている。具体的には、貫通孔である配置部45aの孔内に低融点体50Aの一部が入り込み、且つ、低融点体50Aの他部が配置部45aの開口周縁を覆いながら半球状の形状を有するように溶断部43の表面上に配置されている。このように低融点体50Aの一部が孔内に入り込むことで、低融点体50Aを目標の配置部45aに適正に配置できるとともに、配置後における低融点体50Aの位置ずれ等を抑制できる。この効果は、配置部45aが貫通孔以外の形状(例えば、窪みや切り欠き等)を有する場合においても、同様に発揮され得る。低融点体50を構成する材料(低融点金属材料)は、例えば、錫(Sn)を主成分とする合金である。一方、ヒューズ部40(バスバ30)を構成する金属材料は、例えば、銅(Cu)を主成分とする合金である。低融点体50を構成する低融点金属材料の融点(純Sn:232℃)は、ヒューズ部40を構成する金属材料の融点(純Cu:1085℃)よりも低い。
【0031】
他方、本例では、図4に示すように、ヒューズ部40Bにおいて、溶断部43の上面(図4にて、紙面手前側の面)にて、固相の低融点体50Bが、連結方向におけるヒューズ部40Aの配置部45aに対応する位置且つ幅方向における中央位置に載置されている。同様に、ヒューズ部40Cにおいて、溶断部43の上面にて、固相の低融点体50Cが、連結方向におけるヒューズ部40Aの配置部45bに対応する位置且つ幅方向における中央位置に載置されている。なお、低融点体50B,50Cの形状は、上述した低融点体50Aの形状と同様である。
【0032】
以下、図3及び図4に示す各ヒューズ部40における溶断動作を説明する。まず、その準備として、ヒューズ部40の溶断原理について説明する。ヒューズ部40に電流が流れると、その際にヒューズ部40に生じる発熱(ジュール熱)により、低融点体50が溶断部43よりも先に溶融する。溶融した(液相の)低融点体50が溶断部43に接触すると、溶断部43そのものは未だ融点に達していなくても、溶断部43を構成する金属材料が低融点体50の中に拡散する。この拡散によって溶断部43が徐々に侵食され、この侵食が溶断部43b(図3参照)の幅方向の全域に亘って進行した段階で、溶断部43が切断(溶断)される。上述した溶断原理から、低融点体50が載置されている箇所の溶断部43の温度が低融点体50の融点に達した時点にて(溶断部43を構成する金属材料の融点に達していなくても)、溶断部43を溶断させられることになる。これにより、ヒューズエレメント10をより実用的な温度(低融点体50の融点)にて溶断させられる。
【0033】
ヒューズ部40Aへの通電時において、ヒューズ部40Aの溶断部43では、最も高温となる発熱部44から遠ざかるにつれて、温度がより低くなる。即ち、配置部45b周辺の溶断部43の温度は、配置部45a周辺の溶断部43の温度より低く、配置部45c周辺の溶断部43の温度は、配置部45b周辺の溶断部43の温度より低い。ヒューズ部40Aを流れる電流の大きさが大きいほど、発熱部44の温度(即ち、各配置部45の温度)が高くなる。以上より、低融点体50Aを載置する配置部45を異ならせれば、溶断部43が溶断に至る際の電流の大きさ(即ち、定格電流)が異なることになる。
【0034】
具体的には、ヒューズ部40Aを流れる電流の大きさがA1のときに配置部45a周辺の溶断部43の温度が低融点体50の融点と等しくなるものとすると、ヒューズ部40Aを流れる電流の大きさがA1のときに、配置部45a周辺の溶断部43の温度が低融点体50の融点と等しくなり、配置部45b周辺及び配置部45c周辺の溶断部43の温度が低融点体50の融点より低くなる。即ち、低融点体50Aを配置部45aに載置した状態で、ヒューズ部40Aを流れる電流の大きさがA1に達すると、溶断部43における配置部45aに対応する連結方向の位置にて溶断部43を溶断させられる。換言すれば、図3及び図4に示すように、低融点体50Aを配置部45aに載置することで、ヒューズ部40Aの定格電流をA1に設定することができる。
【0035】
ヒューズ部40Aを流れる電流の大きさがA1より大きいA2のときに配置部45b周辺の溶断部43の温度が低融点体50の融点と等しくなるものとすると、ヒューズ部40Aを流れる電流の大きさがA2のときに、配置部45a周辺の溶断部43の温度が低融点体50の融点より高くなり、配置部45b周辺の溶断部43の温度が低融点体50の融点と等しくなり、配置部45c周辺の溶断部43の温度が低融点体50の融点より低くなる。即ち、低融点体50Aを配置部45bに載置した状態で、ヒューズ部40Aを流れる電流の大きさがA2に達すると、溶断部43における配置部45bに対応する連結方向の位置にて溶断部43を溶断させられる。換言すれば、低融点体50Aを配置部45bに載置することで、ヒューズ部40Aの定格電流をA2に設定することができる。
【0036】
ヒューズ部40Aを流れる電流の大きさがA2より大きいA3のときに配置部45c周辺の溶断部43の温度が低融点体50の融点と等しくなるものとすると、ヒューズ部40Aを流れる電流の大きさがA3のときに、配置部45a周辺及び配置部45b周辺の溶断部43の温度が低融点体50の融点より高くなり、配置部45c周辺の溶断部43の温度が低融点体50の融点と等しくなる。即ち、低融点体50Aを配置部45cに載置した状態で、ヒューズ部40Aを流れる電流の大きさがA3に達すると、溶断部43における配置部45cに対応する連結方向の位置にて溶断部43を溶断させられる。換言すれば、低融点体50Aを配置部45cに載置することで、ヒューズ部40Aの定格電流をA3に設定することができる。以上のように、ヒューズ部40Aでは、低融点体50Aを載置する配置部45を異ならせることで、ヒューズ部40(即ち、バスバ30)の形状を異ならせることなく、定格電流の大きさを調整可能である。
【0037】
ここで、上述したように、ヒューズ部40Aについて、「b≧a1,b≧a2」という関係が成立している(図3参照)。即ち、ヒューズ部40Aへの通電時、溶断部43を構成する金属材料が低融点体50の中に拡散する速度が、溶断部43の上面の延在領域に亘って均一であると仮定すると、溶断部43において、溶断部43aは溶断部43bと比べてより速やかに溶け終わる。このため、本来溶断するべき溶断部43bを溶かすために用いるべき低融点体50を、溶断部43aが無用に消費することが抑えられる。
【0038】
以上、本例では、図3及び図4に示すように、ヒューズ部40Aでは、低融点体50Aが配置部45aに載置されているので、ヒューズ部40Aの定格電流がA1に設定されている。ヒューズ部40Bでは、低融点体50Bが連結方向におけるヒューズ部40Aの配置部45aに対応する位置に載置されているので、ヒューズ部40Bの定格電流がA1に設定されている。ヒューズ部40Cでは、低融点体50Cが連結方向におけるヒューズ部40Aの配置部45bに対応する位置に載置されているので、ヒューズ部40Cの定格電流がA2に設定されている。
【0039】
なお、ヒューズ部40Aの各配置部45の何れか一つに低融点体50Aを載置する際には、配置部45が目視可能であることから、低融点体50Aが載置されるべき配置部45を目視しながら、作業者による手作業で、その配置部45に低融点体50Aを載置することが可能である。一方、ヒューズ部40B,40Cでは、溶断部43の上面において目視可能な配置部45に相当する目印が存在しない。即ち、ヒューズ部40B、40Cの溶断部43の上面の所定箇所に低融点体50B,50Cをそれぞれ載置する作業は、所定の機械等を利用して行うことが好ましい。
【0040】
<作用・効果>
以上、本実施形態に係るヒューズエレメント10によれば、ヒューズエレメント10のヒューズ部40にあらかじめ設けられている複数の配置部45の少なくとも一つに、低融点体50が配置される。複数の配置部45の各々と、ヒューズ部40への通電時に最も高温となる発熱部44と、の距離は、互いに相違している。そのため、ヒューズ部40(ヒューズエレメント10)への通電時、複数の配置部45の各々の温度は、発熱部44との距離に基づいて異なる。よって、低融点体50を設ける配置部45を異ならせれば、ヒューズ部40が溶断に至る際の電流値が異なることになる。したがって、本実施形態に係るヒューズエレメント10は、ヒューズ部40(即ち、ヒューズエレメント10)の形状を異ならせることなく、定格電流の大きさを調整可能である。
【0041】
更に、本実施形態に係るヒューズエレメント10によれば、配置部45を構成する貫通孔同士の間の溶断部43の長さ(図3におけるa1及びa2)が、配置部45と溶断部43の側縁とに挟まれる溶断部43の長さ(図3におけるb)以下である。よって、通電時、溶断部43a(図3参照)がより速やかに溶け終わるため、本来溶断するべき溶断部43b(図3参照)を溶かすために用いるべき低融点体50を溶断部43aが無用に消費することが抑えられる。したがって、本実施形態に係るヒューズエレメント10は、設計された定格電流にてより正確に導電体を溶断可能である。
【0042】
<他の形態>
なお、本発明は上記各実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。例えば、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。その他、上述した実施形態における各構成要素の材質、形状、寸法、数、配置箇所、等は本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。
【0043】
上記実施形態では、ヒューズ部40Aの溶断部43の上面にて、3つの配置部45が連結方向に沿って並ぶように設けられている。これに対し、ヒューズ部40Aの溶断部43の上面にて、2つの配置部45、或いは、4つ以上の配置部45が連結方向に沿って並ぶように設けられていてもよい。
【0044】
更に、上記実施形態では、配置部45として、溶断部43に貫通孔が形成されている。これに対し、配置部45として、溶断部43の上面にて貫通しない窪みが形成されてもよいし、溶断部43の上面に目印が描かれていてもよい。
【0045】
更に、上記実施形態では、溶断部43の連結方向に延びる一対の側縁(側面)にそれぞれ窪みを形成することで、導電断面積がヒューズ部40のうちで最も小さい発熱部44が形成されている。これに対し、溶断部43の厚さを他の部分と比べて薄くすることで、導電断面積がヒューズ部40のうちで最も小さい発熱部44が形成されていてもよい。
【0046】
更に、上記実施形態では、バスバ30は、バッテリ接続部31と、複数の接続部32A,32B,32Cと、複数のヒューズ部40A,40B,40Cと、を備え、バッテリ接続部31は、ヒューズ部40Aを介して接続部32Aと接続され、ヒューズ部40Bを介して接続部32Bと接続され、ヒューズ部40Cを介して接続部32Cと接続されている。これに対し、接続部32B,32C、及び、ヒューズ部40B,40Cが省略されて、バスバ30が、バッテリ接続部31と、単一の接続部32Aと、単一のヒューズ部40Aを備え、バッテリ接続部31が、ヒューズ部40Aを介してのみ、接続部32Aと接続されていてもよい。
【0047】
更に、上記実施形態では、ヒューズ部40Aにおいて、溶断部43の上面における配置部45a,45b,45cの何れか一つに低融点体50Aが載置されている。これに対し、ヒューズ部40Aにおいて、溶断部43の上面における配置部45a,45b,45cのうち何れか二つ、又は、配置部45a,45b,45cの全てに低融点体50Aがそれぞれ載置されていてもよい。
【0048】
ここで、上述した本発明に係るヒューズエレメント10及びヒューズユニット1の実施形態の特徴をそれぞれ以下[1]~[3]に簡潔に纏めて列記する。
[1]
導電体(40)と、前記導電体(40)を構成する材料の融点よりも低い融点を有する低融点材料から構成された低融点体(50)と、を備えるヒューズエレメント(10)であって、
前記導電体(40)は、
当該導電体(40)に電流が流れることによって当該導電体(40)の温度が最も高くなる発熱部(44)と、
前記発熱部(44)からの距離が異なる複数の箇所に設けられる複数の配置部(45)と、を有し、
前記低融点体(50)は、
前記複数の前記配置部(45)の少なくとも一つに配置される、
ヒューズエレメント(10)。
[2]
上記[1]に記載のヒューズエレメント(10)において、
前記導電体(40)は、
矩形平板状の溶断部(43)を有し、
前記複数の前記配置部(45)は、前記導電体(40)を貫通する孔形状を有し、前記溶断部(43)の軸方向に沿って並ぶように設けられ、
隣り合う前記配置部(45)に挟まれる前記導電体(40)の長さ(a1,a2)が、前記配置部(45)と前記溶断部(43)の側縁とに挟まれる前記導電体(40)の長さ(b)以下である、
ヒューズエレメント(10)。
[3]
複数の導電体(40)と、前記複数の前記導電体(40)を構成する材料の融点よりも低い融点を有する低融点材料から構成されて前記複数の前記導電体(40)の各々に設けられる低融点体(50)と、を備えるヒューズユニット(1)であって、
前記複数の前記導電体(40)の各々は、
当該導電体(40)に電流が流れることによって当該導電体(40)の温度が最も高くなる発熱部(44)を有し、
前記複数の前記導電体(40)の少なくとも一つは、
前記発熱部(44)からの距離が異なる複数の箇所に設けられる複数の配置部(45)と、前記複数の前記配置部(45)の少なくとも一つに配置される前記低融点体(50)と、を有する、
ヒューズユニット(1)。
【符号の説明】
【0049】
1 ヒューズユニット
10 ヒューズエレメント
40 ヒューズ部(導電体)
43 溶断部
44 発熱部
45 配置部
50 低融点体
図1
図2
図3
図4