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特許7428573発電素子、発電モジュール、発電装置、及び、発電システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-29
(45)【発行日】2024-02-06
(54)【発明の名称】発電素子、発電モジュール、発電装置、及び、発電システム
(51)【国際特許分類】
   H10N 15/00 20230101AFI20240130BHJP
   H02N 11/00 20060101ALI20240130BHJP
【FI】
H10N15/00
H02N11/00 A
【請求項の数】 22
(21)【出願番号】P 2020068610
(22)【出願日】2020-04-06
(65)【公開番号】P2021166231
(43)【公開日】2021-10-14
【審査請求日】2022-09-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(74)【代理人】
【識別番号】110004026
【氏名又は名称】弁理士法人iX
(72)【発明者】
【氏名】吉田 学史
(72)【発明者】
【氏名】木村 重哉
【審査官】宮本 博司
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-013886(JP,A)
【文献】特開2013-084781(JP,A)
【文献】特開2018-195790(JP,A)
【文献】特表2009-535840(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10N 15/00
H02N 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Alx1Ga1-x1N(0<x1≦1)を含む第1結晶領域と、
Si、Ge、Te及びSnよりなる群から選択された少なくとも1つを含む第1元素を含み、Alx2Ga1-x2N(0≦x2<x1)を含む第2結晶領域と、
を備え、
前記第1結晶領域は、第1面及び第2面を含み、前記第2面は、前記第2結晶領域と前記第1面との間にあり、
前記第2結晶領域は、第3面及び第4面を含み、前記第3面は、前記第4面と前記第1結晶領域との間にあり、
前記第4面から前記第3面への向きは、前記第2結晶領域の<0001>方向に沿い、
前記第2面から前記第1面への向きは、前記第1結晶領域の<000-1>方向に沿い、
前記第1結晶領域の厚さは、40nm以下であり、
前記第2結晶領域の厚さは、0.1μm以上10μm以下である、発電素子。
【請求項2】
前記第3面は、前記第2結晶領域の(0001)面であり、
前記第1面は、前記第1結晶領域の(000-1)面である、請求項1記載の発電素子。
【請求項3】
対向導電領域をさらに備え、
前記第1結晶領域は、前記第2結晶領域と前記対向導電領域との間にあり、
前記第1結晶領域と前記対向導電領域との間に間隙が設けられた、請求項1または2に記載の発電素子。
【請求項4】
前記対向導電領域は、前記第1元素を含み、Alz1Ga1-z1N(0≦z1<1、z1<x1)を含む、請求項3記載の発電素子。
【請求項5】
前記対向導電領域は、第1対向面及び第2対向面を含み、
前記第1対向面は、前記第1結晶領域と前記第2対向面との間にあり、
前記第2対向面から前記第1対向面への向きは、前記対向導電領域の<000-1>方向に沿う、請求項4記載の発電素子。
【請求項6】
前記第1対向面は、前記対向導電領域の(000-1)面に沿う、請求項5に記載の発電素子。
【請求項7】
前記z1は、0.75未満である、請求項4~6のいずれか1つに記載の発電素子。
【請求項8】
第1電極と、
第2電極と、
をさらに備え、
前記第2結晶領域は、前記第1電極と前記第2電極との間にあり、
前記第1結晶領域は、前記第2結晶領域と前記第2電極との間にあり、
前記対向導電領域は、前記第1結晶領域と前記第2電極との間にあり、
前記第1電極は、前記第2結晶領域と電気的に接続され、
前記第2電極は、前記対向導電領域と電気的に接続された、請求項3~7のいずれか1つに記載の発電素子。
【請求項9】
前記第2結晶領域と前記第1結晶領域との間に設けられた第3結晶領域をさらに備え、
前記第3結晶領域は、Alx3Ga1-x3N(x2<x3≦1)を含み、
前記第3結晶領域は、第5面及び第6面を含み、前記第5面は、前記第6面と前記第1結晶領域との間にあり、
前記第6面から前記第5面への向きは、前記第3結晶領域の<0001>方向に沿う、請求項1~8のいずれか1つに記載の発電素子。
【請求項10】
前記x3は、0.75以上である、請求項9記載の発電素子。
【請求項11】
前記第3結晶領域における前記第1元素の濃度は、2×1018cm-3以下である、請求項9または10に記載の発電素子。
【請求項12】
前記第3結晶領域の厚さは、10nm以下である、請求項9~11のいずれか1つに記載の発電素子。
【請求項13】
前記x1は、0.75以上である、請求項1~12のいずれか1つに記載の発電素子。
【請求項14】
前記x2は、0.75未満である、請求項1~13のいずれか1つに記載の発電素子。
【請求項15】
前記第1結晶領域におけるキャリア濃度は、2×1016cm-3以下である、請求項1~14のいずれか1つに記載の発電素子。
【請求項16】
前記第1結晶領域における前記第1元素の濃度は、2×1018cm-3以下である、請求項1~15のいずれか1つに記載の発電素子。
【請求項17】
前記第1結晶領域は、分極を有する、請求項1~1のいずれか1つに記載の発電素子。
【請求項18】
前記第2結晶領域と電気的に接続された第1端子と、
前記対向導電領域と電気的に接続された第2端子と、
をさらに備え、
前記第1端子と前記第2端子との間に負荷が電気的に接続可能である、請求項のいずれか1つに記載の発電素子。
【請求項19】
前記第1端子の温度が前記第2端子の温度よりも高いときに、前記負荷に電流が流れる、請求項1記載の発電素子。
【請求項20】
請求項1~19のいずれか1つに記載の前記発電素子を複数備えた発電モジュール。
【請求項21】
請求項2記載の前記発電モジュールを複数備えた発電装置。
【請求項22】
請求項2記載の発電装置と、
駆動装置と、
を備え、
前記駆動装置は、前記発電装置を太陽の動きに追尾させる、発電システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、発電素子、発電モジュール、発電装置、及び、発電システムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、熱源からの熱に応じて発電する発電素子がある。発電素子において、効率を安定して向上することが望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-195790号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の実施形態は、安定して効率を向上できる発電素子、発電モジュール、発電装置、及び、発電システムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の実施形態によれば、発電素子は、Alx1Ga1-x1N(0<x1≦1)を含む第1結晶領域と、Si、Ge、Te及びSnよりなる群から選択された少なくとも1つを含む第1元素を含み、Alx2Ga1-x2N(0≦x2<x1)を含む第2結晶領域と、を含む。前記第1結晶領域は、第1面及び第2面を含み、前記第2面は、前記第2結晶領域と前記第1面との間にある。前記第2結晶領域は、第3面及び第4面を含み、前記第3面は、前記第4面と前記第1結晶領域との間にある。前記第4面から前記第3面への向きは、前記第2結晶領域の<0001>方向に沿う。前記第2面から前記第1面への向きは、前記第1結晶領域の<000-1>方向に沿う。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1図1は、第1実施形態に係る発電素子を例示する模式的断面図である。
図2図2は、第1実施形態に係る発電素子を例示する模式的断面図である。
図3図3は、第1実施形態に係る発電素子を例示する模式的斜視図である。
図4図4(a)~図4(c)は、発電素子の特性を例示するグラフ図である。
図5図5(a)~図5(c)は、発電素子の特性を例示するグラフ図である。
図6図6(a)及び図6(b)は、第1実施形態に係る発電素子を例示する模式的断面図である。
図7図7は、第1実施形態に係る発電素子を例示する模式的断面図である。
図8図8は、発電素子の特性を例示するグラフ図である。
図9図9は、第1実施形態に係る発電素子を例示する模式的断面図である。
図10図10(a)及び図10(b)は、第2実施形態に係る発電モジュール及び発電装置を示す模式図的断面図である。
図11図11(a)及び図11(b)は、実施形態に係る発電装置及び発電システムを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下に、本発明の各実施の形態について図面を参照しつつ説明する。
図面は模式的または概念的なものであり、各部分の厚さと幅との関係、部分間の大きさの比率などは、必ずしも現実のものと同一とは限らない。同じ部分を表す場合であっても、図面により互いの寸法や比率が異なって表される場合もある。
本願明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。
【0008】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係る発電素子を例示する模式的断面図である。
図1に示すように、実施形態に係る発電素子101は、第1結晶領域11及び第2結晶領域12を含む。
【0009】
第1結晶領域11は、Alx1Ga1-x1N(0<x1≦1)を含む。組成比x1は、例えば、0.75以上である。1つの例において、第1結晶領域11は、AlN層である。第1結晶領域11は、分極を有する。
【0010】
第2結晶領域12は、Alx2Ga1-x2N(0≦x2<x1)を含む。組成比x2は、例えば、0.75未満である。1つの例において、第2結晶領域12は、GaN層である。第2結晶領域12は、Si、Ge、Te及びSnよりなる群から選択された少なくとも1つを含む第1元素を含む。第1元素は、n形不純物である。第2結晶領域12は、例えば、n形のGaN層である。
【0011】
この例では、発電素子101は、第1電極E1を含む。第1電極E1と第1結晶領域11との間に第2結晶領域12がある。第1電極E1と第2結晶領域12は電気的に接続される。
【0012】
第1結晶領域11は、第1面f1及び第2面f2を含む。第2面f2は、第2結晶領域12と第1面f1との間にある。第2面f2は、例えば、下面であり、第1面f1は、上面である。
【0013】
第2結晶領域12は、第3面f3及び第4面f4を含む。第3面f3は、第4面f4と第1結晶領域11との間にある。第4面f4、例えば、下面であり、第3面f3は、上面である。
【0014】
第2結晶領域12から第1結晶領域11への方向をZ軸方向とする。Z軸方向は、積層方向に対応する。Z軸方向に対して垂直な1つの方向をX軸方向とする。Z軸方向及びX軸方向に対して垂直な方向をY軸方向とする。例えば、第1~第4面f1~f4は、X-Y平面に沿う。
【0015】
第4面f4から第3面f3への向きOr2は、第2結晶領域12の<0001>方向に沿う。<0001>方向は、例えば、+c方向である。第2結晶領域12は、III族面(例えばGa面)である。第2結晶領域12は、例えば、III族極性(例えば、Ga極性)である。
【0016】
第2面f2から第1面f1への向きOr1は、第1結晶領域11の<000-1>方向に沿う。本願明細書における結晶方位の記載において、「-1」は、「-1」の後の数字のバーに対応する。<000-1>方向は、例えば、-c方向である。第結晶領域1の第1面f1は、IV族面(例えばN面)である。第結晶領域1は、例えば、IV族極性(例えば、N極性)である。
【0017】
例えば、第3面f3は、第2結晶領域12の(0001)面である。例えば、第1面f1は、第1結晶領域11の(000-1)面である。
【0018】
このような第2結晶領域12及び第1結晶領域11は、例えば、炭素や酸素を不純物として吸着させた表面層を形成し、その後、結晶成長することで得られる。このような第2結晶領域12及び第1結晶領域11は、例えば、非平衡な結晶成長法である分子線エピタキシーによって極性を制御することで得られる。
【0019】
例えば、第1面f1は、Al組成比が高い窒化物半導体のN面である。このような第1面f1から電子が放出し易い。例えば、第1電極E1から第2結晶領域12に電子が供給され、その電子が、第1結晶領域11の第1面f1から効率的に放出される。
【0020】
後述するように、Al組成比が低い窒化物半導体(例えばGaN)の表面からの電子の放出の効率は低い。Al組成比が高い窒化物半導体(例えばAlN)の表面からの電子の放出の効率は高い。
【0021】
例えば、Al組成比が高い窒化物半導体(例えばAlN)において、放出される電子を第1電極E1から供給するためには、Al組成比が高い窒化物半導体における導電性が高いことが好ましい。しかしながら、Al組成比が高い窒化物半導体におけるキャリア濃度を高めることは、実用的に困難である。例えば、Al組成比が0.75以上である窒化物半導体においては、高い導電性を得ることは困難である。
【0022】
実施形態においては、Al組成比が低いn形の窒化物半導体の第2結晶領域12が設けられる。第2結晶領域12を介して、電子が第1結晶領域11に供給され、第1結晶領域11の第1面f1から電子が効率良く放出される。高効率の発電が可能になる。
【0023】
例えば、第1結晶領域11の厚さt1(図1参照)は、第2結晶領域12の厚さt2(図1参照)よりも薄い。電子は、第2面f2から第1面f1へ効率的に移動できる。
【0024】
第1結晶領域11の厚さt1は、40nm以下である。これにより、第1結晶領域11のなかを電子が効率よく移動できる。第2結晶領域12の厚さt2は、例えば、0.1μm以上10μm以下である。厚さt1及び厚さt2は、Z軸方向に沿う長さである。
【0025】
例えば、第1結晶領域11は、真性半導体のAlN(i-AlN)でも良い。例えば、第1結晶領域11におけるキャリア濃度は、2×1016cm-3以下である。例えば、第1結晶領域11における第1元素の濃度は、2×1018cm-3以下である。このような第1結晶領域11は、生産性良く製造できる。
【0026】
図2は、第1実施形態に係る発電素子を例示する模式的断面図である。
図2に示すように、実施形態に係る発電素子110は、第1結晶領域11及び第2結晶領域12に加えて、対向導電領域21をさらに含む。この例では、発電素子110は、第2電極E2を含む。
【0027】
第1結晶領域11は、第2結晶領域12と対向導電領域21との間にある。第1結晶領域11と対向導電領域21との間に間隙40が設けられる。電子が、第1面f1から対向導電領域21に向けて効率良く放出される。
【0028】
対向導電領域21は、例えば、上記の第1元素(n形不純物)を含み、Alz1Ga1-z1N(0≦z1<1、z1<x1)を含む。組成比z1は、例えば0.75未満である。対向導電領域21は、n形のGaN層である。
【0029】
例えば、対向導電領域21は、第1対向面fc1及び第2対向面fc2を含む。第1対向面fc1は、第1結晶領域11と第2対向面fc2との間にある。例えば、第2対向面fc2から第1対向面fc1への向きOc1は、対向導電領域21の<000-1>方向に沿う。例えば、第1対向面fc1は、対向導電領域21の(000-1)面に沿う。第1対向面fc1は、例えば、対向導電領域21のN面である。このような第1対向面fc1に向けて、上記の第1面f1から効率的に電子が放出できる。
【0030】
図2に示すように、第2結晶領域12は、第1電極E1と第2電極E2との間にある。第1結晶領域11は、第2結晶領域12と第2電極E2との間にある。対向導電領域21は、第1結晶領域11と第2電極E2との間にある。第1電極E1は、第2結晶領域12と電気的に接続される。第2電極E2は、対向導電領域21と電気的に接続される。
【0031】
対向導電領域21の厚さtc1は、例えば、0.1μm以上10μm以下である。厚さtc1は、Z軸方向に沿う長さである。第1面f1と第1対向面fc1との間の距離d1は、例えば、0.1μm以上50μm以下である。距離d1は、Z軸方向に沿う長さである。距離d1は、間隙40のZ軸方向に沿う長さに対応する。
【0032】
図3は、第1実施形態に係る発電素子を例示する模式的斜視図である。
図3に示すように、例えば、容器70が設けられる。容器70の内部に、第1電極E1、第2結晶領域12、第1結晶領域11、対向導電領域21及び第2電極E2が設けられる。容器70の内部が減圧状態とされる。これにより、間隙40が、減圧状態となる。
【0033】
例えば、第1端子71及び第2端子72が設けられる。第1端子71は、第1電極E1と電気的に接続される。第2端子72は、第2電極E2と電気的に接続される。第1端子71と第2端子72との間に、負荷30が電気的に接続可能である。
【0034】
負荷30が、第1配線71aにより第1電極E1と電気的に接続される。この例では、接続は、第1端子71を介して行われる。負荷30が、第2配線72aにより第2電極E2と電気的に接続される。この例では、接続は、第2端子72を介して行われる。発電素子110は、容器70、第1端子71及び第2端子72を含んでも良い。発電素子110は、第1配線71a及び第2配線72aを含んでも良い。
【0035】
第1結晶領域11の温度は、熱伝導により、第1電極E1の温度と実質的に同じと考えて良い。対向導電領域21の温度は、熱伝導により、第2電極E2の温度と実質的に同じと考えて良い。
【0036】
第1電極E1の温度、及び、第1結晶領域11の温度を第1温度T1とする。第2電極E2の温度、及び、対向導電領域21の温度を第2温度T2とする。1つの例において、第1温度T1が第2温度T2よりも高くされる。例えば、第1電極E1を熱源に、接触または近づけることで、このような温度の差を設けることができる。
【0037】
実施形態において、このような温度差が設けられたときに、第1配線71aに、第1電極E1から負荷30への電流I1が流れる。第2配線72aに、負荷30から第2電極E2への電流I1が流れる。この電流I1が、発電素子110から得られる電力となる。
【0038】
この電流I1は、電子51の移動に基づくと考えられる。例えば、第1結晶領域11から間隙40に向けて、電子51が放出される。間隙40中を移動した電子51が、対向導電領域21に到達する。電子51は、対向導電領域21を経て第2電極E2に流れ、第2配線72aを介して、負荷30に到達する。電子51は、第1配線71aを介して、第1電極E1に流れる。第1端子71の温度が第2端子72の温度よりも高いときに、負荷30に電流が流れる。温度の差が、電流(電子の移動)に変換される。
【0039】
以下、発電素子の特性のシミュレーション結果の例について説明する。
図4(a)~図4(c)、及び、図5(a)~図5(c)は、発電素子の特性を例示するグラフ図である。
これらの図は、種々の構成を有する発電素子のモデルにおける伝導帯のエネルギーを示している。第1~第6モデルMD1~MD6においては、第1電極E1及び第2電極E2として、Moの物性値が適用される。第1~第6モデルMD1~MD6においては、対向導電領域21は、n形のGaN層である。第1対向面fc1は、N面である。
【0040】
第1~第3モデルMD1~MD3においては、第2結晶領域12は、n形のGaN層である。第3面f3は、Ga面である。第2結晶領域12は、Ga極性である。第1~第3モデルMD1~MD3においては、第1結晶領域11は、i-AlN層である。i-AlN層におけるキャリア濃度は、2×1016cm-3以下である。第1結晶領域11の第1面f1は、N面である。第1結晶領域11は、N極性である。第1モデルMD1において、第1結晶領域11の厚さt1は、10nmである。第2モデルMD2において、第1結晶領域11の厚さt1は、20nmである。第3モデルMD3において、第1結晶領域11の厚さt1は、40nmである。
【0041】
第4モデルMD4及び第5モデルMD5においては、第1結晶領域11が設けられず、第2結晶領域12は、n形のGaN層である。第4モデルMD4においては、第3面f3は、Ga面である。第5モデルMD5においては、第3面f3は、N面である。
【0042】
第6モデルMD6においては、第2結晶領域12は、n形のGaN層であり、第3面f3は、Ga面である。第6モデルMD6において、第1結晶領域11は、i-AlN層であり、第1面f1は、Al面である。第1結晶領域11の厚さt1は、20nmである。
【0043】
図4(a)~図4(c)、及び、図5(a)~図5(c)において、横軸は、Z軸方向に沿う位置pZである。縦軸は、エネルギーEgである。図4(a)~図4(c)、及び、図5(a)~図5(c)の例では、第1電極E1の温度が800Kであり、第2電極E2の温度が300Kである。
【0044】
図5(a)及び図5(b)に示すように、第4モデルMD4及び第5モデルMD5においては、第2結晶領域12の表面(間隙40に対向する面)に対応する位置におけるエネルギー差Ehは、2.5eVまたは2.3eVと大きい。図5(c)に示すように、第6モデルMD6においては、第1結晶領域11の表面(間隙40に対向する面)に対応する位置におけるエネルギー差Ehは、3.6eVと大きい。第4~第6モデルMD4~MD6においては、電子51は間隙40に効率良く放出されることが困難である。
【0045】
図4(a)~図4(c)に示すように、第1~第3モデルMD1~MD3において、第1結晶領域11の表面(間隙40に対向する面)に対応する位置に、鋭いピークpkが観察される。ピークpkの幅(Z軸方向に沿う長さ)は狭いため、電子51はピークpkをトンネルして放出しやすい。第1~第3モデルMD1~MD3において、鋭いピークpkを除いたエネルギー差Ehが、実質的に、電子51の放出のし易さに関係する。第1~第3モデルMD1~MD3において、エネルギー差Ehは、2.0eV以下である。第1モデルMD1におけるエネルギー差Ehは、1.9eVである。第2モデルMD2おけるエネルギー差Ehは、1.4eVである。第3モデルMD3におけるエネルギー差Ehは、0.6eVである。第1~第3モデルMD1~MD3において、電子51は効率良く放出できる。高い効率の発電が得られる。厚さt1が厚いと、エネルギー差Ehは小さくなる。
【0046】
図6(a)及び図6(b)は、第1実施形態に係る発電素子を例示する模式的断面図である。
図6(a)に示すように、第2面f2から第1面f1への向きOr1は、<000-1>方向に対して傾斜しても良い。向きOr1と<000-1>方向との間の角度は、例えば0度以上10度以下である。
【0047】
図6(b)に示すように、第4面f4から第3面f3への向きOr2は、<0001>方向に対して傾斜しても良い。向きOr2と<0001>方向との間の角度は、例えば0度以上10度以下である。
【0048】
実施形態において、第1結晶領域11の第1面f1には、Li、Na、K、Rb、Cs、Fr、Be、Mg、Ca、Sr、Ba及びRaよりなる群から選択された少なくとも1つが存在して良い。例えば、第1面f1にこれらの元素が吸着する。例えば、第1結晶領域11の第1面f1は、Li、Na、K、Rb、Cs、Fr、Be、Mg、Ca、Sr、Ba及びRaよりなる群から選択された少なくとも1つを含む。これにより、第1結晶領域11から電子51が、より効率的に放出される。
【0049】
図7は、第1実施形態に係る発電素子を例示する模式的断面図である。
図7に示すように、実施形態に係る発電素子111は、第1結晶領域11及び第2結晶領域12に加えて、第3結晶領域13をさらに含む。第3結晶領域13は、第2結晶領域12と第1結晶領域11との間に設けられる。第3結晶領域13は、Alx3Ga1-x3N(x2<x3≦1)を含む。例えば、組成比x3は、0.75以上である、第3結晶領域13は、例えば、AlN層である。第3結晶領域13は、i-AlN層でも良い。例えば、第3結晶領域13は、第5面f5及び第6面f6を含む。第5面f5は、第6面f6と第1結晶領域11との間にある。
【0050】
第6面f6から第5面f5への向きOr3は、第3結晶領域13の<0001>方向に沿う。例えば、第5面f5は、第3結晶領域13の(0001)面でも良い。
【0051】
第3結晶領域13と第1結晶領域11とにおいて、結晶の極性が反転する。このような第2結晶領域12、第3結晶領域13及び第1結晶領域11は、例えば、炭素や酸素を不純物として吸着させた表面層を形成し、その後、結晶成長することで得られる。このような第2結晶領域12、第3結晶領域13及び第1結晶領域11は、例えば、非平衡な結晶成長法である分子線エピタキシーによって極性を制御することで得られる。
【0052】
第3結晶領域13における第1元素(n形不純物)の濃度は、2×1018cm-3以下である。第3結晶領域13の厚さt3は、10nm以下である。第3結晶領域13の厚さt3は、例えば、0.1nm以上で良い。
【0053】
図8は、発電素子の特性を例示するグラフ図である。
図8は、発電素子の1つのモデルにおける伝導帯のエネルギーを示している。第7モデルMD7においては、第1電極E1及び第2電極E2として、Moの物性値が適用される。第7モデルMD7においては、対向導電領域21は、n形のGaN層である。第1対向面fc1は、N面である。
【0054】
第7モデルMD7においては、第2結晶領域12は、n形のGaN層である。第3面f3は、Ga面である。第2結晶領域12は、Ga極性である。第7モデルMD7においては、第3結晶領域13は、i-AlN層である。第5面f5は、Al面である。第3結晶領域13は、Al極性である。第3結晶領域13の厚さt3は、10nmである。第7モデルMD7においては、第1結晶領域11は、i-AlN層である。i-AlN層におけるキャリア濃度は、2×1016cm-3以下である。第1結晶領域11の第1面f1は、N面である。第1結晶領域11は、N極性である。第1結晶領域11の厚さt1は、10nmである。
【0055】
図8に示すように、第7モデルMD7において、第1結晶領域11の表面(間隙40に対向する面)に対応する位置に、鋭いピークpkが観察される。ピークpkの幅(Z軸方向に沿う長さ)は狭いため、電子51はピークpkをトンネルして放出しやすい。第7モデルMD7において、鋭いピークpkを除いたエネルギー差Ehが、実質的に、電子51の放出のし易さに関係する。第7モデルMD7において、エネルギー差Ehは、2.4eVである。
【0056】
第7モデルMD7のように、第2結晶領域12、第3結晶領域13及び第1結晶領域11の構成において、比較的小さいエネルギー差Ehが得られる。第2結晶領域12と第1結晶領域11との間に、III族(Al)極性の第3結晶領域13が設けられる。III族(Al)極性の第3結晶領域13は、製造が容易である。第3結晶領域13において、安定した結晶品質が得られる。このような第3結晶領域13の上にN極性の第1結晶領域11が設けられることで、第1結晶領域11において、安定した結晶品質が得られる。安定した結晶品質により、電子51が高い効率で放出できる。
【0057】
図9は、第1実施形態に係る発電素子を例示する模式的断面図である。
図9に示すように、第6面f6から第5面f5への向きOr3は、<0001>方向に対して傾斜しても良い。向きOr3と<0001>方向との間の角度は、例えば0度以上10度以下である。
【0058】
(第2実施形態)
図10(a)及び図10(b)は、第2実施形態に係る発電モジュール及び発電装置を示す模式図的断面図である。
図10(a)に示すように、実施形態に係る発電モジュール210においては、第1実施形態に係る発電素子(例えば発電素子110など)を含む。この例では、基板120の上において、複数の発電素子110が並ぶ。
【0059】
図10(b)に示すように、実施形態に係る発電装置310は、上記の発電モジュール210を含む。複数の発電モジュール210が設けられても良い。この例では、基板220の上において、複数の発電モジュール210が並ぶ。
【0060】
図11(a)及び図11(b)は、実施形態に係る発電装置及び発電システムを示す模式図である。
図11(a)及び図11(b)に示すように、実施形態に係る発電装置310(すなわち、実施形態に係る発電素子110など)は、太陽熱発電に応用できる。
【0061】
図11(a)に示すように、例えば、太陽61からの光は、ヘリオスタット62で反射し、発電装置310(発電素子110または発電モジュール210)に入射する。光は、第1電極E1の第1温度T1を上昇させる。第1温度T1が第2温度T2よりも高くなる。熱が、電流に変化される。電流が電線65などにより送電される。
【0062】
図11(b)に示すように、例えば、太陽61からの光は、集光ミラー63で集光され、発電装置310(発電素子110または発電モジュール210)に入射する。光による熱が、電流に変化される。電流が電線65などにより送電される。
【0063】
例えば、発電システム410は、発電装置310を含む。この例では、複数の発電装置310が設けられる。この例では、発電システム410は、発電装置310と、駆動装置66と、を含む。駆動装置66は、発電装置310を太陽61の動きに追尾させる。追尾により、効率的な発電が実施できる。
【0064】
実施形態に係る発電素子(例えば発電素子110など)を用いることで、高効率の発電が実施できる。
【0065】
実施形態によれば、安定して効率を向上できる発電素子、発電モジュール、発電装置、及び、発電システムが提供できる。
【0066】
なお、本明細書において「窒化物半導体」とは、BInAlGa1-x-y-zN(0≦x≦1,0≦y≦1,0≦z≦1,x+y+z≦1)なる化学式において組成比x、y及びzをそれぞれの範囲内で変化させた全ての組成の半導体を含むものとする。またさらに、上記化学式において、N(窒素)以外のV族元素もさらに含むもの、導電形などの各種の物性を制御するために添加される各種の元素をさらに含むもの、及び、意図せずに含まれる各種の元素をさらに含むものも、「窒化物半導体」に含まれるものとする。
【0067】
以上、具体例を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明した。しかし、本発明は、これらの具体例に限定されるものではない。例えば、発電素子に含まれる電極、部材結晶領域、層領域及び端子などの各要素の具体的な構成に関しては、当業者が公知の範囲から適宜選択することにより本発明を同様に実施し、同様の効果を得ることができる限り、本発明の範囲に包含される。
【0068】
また、各具体例のいずれか2つ以上の要素を技術的に可能な範囲で組み合わせたものも、本発明の要旨を包含する限り本発明の範囲に含まれる。
【0069】
その他、本発明の実施の形態として上述した発電素子、発電モジュール、発電装置、発電システム、及び、発電素子の製造方法を基にして、当業者が適宜設計変更して実施し得る全ての発電素子、発電モジュール、発電装置、発電システム、及び、発電素子の製造方法も、本発明の要旨を包含する限り、本発明の範囲に属する。
【0070】
その他、本発明の思想の範疇において、当業者であれば、各種の変更例及び修正例に想到し得るものであり、それら変更例及び修正例についても本発明の範囲に属するものと了解される。
【0071】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0072】
11~13…第1~第3結晶領域、 21…対向導電領域、 30…負荷、 40…間隙、 51…電子、 61…太陽、 62…ヘリオスタット、 63…集光ミラー、 65…電線、 66…駆動装置、 70…容器、 71、72…第1、第2端子、 71a、72a…第1、第2配線、 101、110、111…発電素子、 120…基板、 210…発電モジュール、 220…基板、 310…発電装置、 410…発電システム、 E1、E2…第1、第2電極、 Eg…エネルギー、 Eh…エネルギー差、 I1…電流、 MD1~MD7…第1~第7モデル、 Oc1、Or1~Or3…向き、 T1、T2…第1、第2温度、 d1…距離、 f1~f6…第1~第6面、 fc1、fc2…第1、第2対向面、 pZ…位置、 pk…ピーク、 t1~t3、tc1…厚さ
図1
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