(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-29
(45)【発行日】2024-02-06
(54)【発明の名称】四塩化チタンの製造方法及び塩化炉
(51)【国際特許分類】
C01G 23/02 20060101AFI20240130BHJP
B01J 8/24 20060101ALI20240130BHJP
【FI】
C01G23/02 D
B01J8/24 321
(21)【出願番号】P 2020093501
(22)【出願日】2020-05-28
【審査請求日】2022-12-15
(73)【特許権者】
【識別番号】390007227
【氏名又は名称】東邦チタニウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】丸山 雄市
(72)【発明者】
【氏名】中村 昌弘
【審査官】山本 吾一
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-241548(JP,A)
【文献】特公昭58-054610(JP,B2)
【文献】実開昭64-028945(JP,U)
【文献】特開平06-001613(JP,A)
【文献】特開平04-144917(JP,A)
【文献】特表2020-501895(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0304220(US,A1)
【文献】特開昭49-042518(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G
B01J 8/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のガス流路が形成された分散盤を備える塩化炉を使用する四塩化チタンの製造方法であって、
ガス流路ごとに接続されたガス供給管を介して前記塩化炉内に塩素含有ガスを供給し、前記分散盤上でチタン鉱石と炭素と塩素ガスとを接触して四塩化チタンを生成する塩化工程を含み、
前記塩素含有ガスの供給中、前記ガス流路内の圧力を圧力測定部で測定し、該圧力
の増加に応じて前記ガス供給管からガス流路に送るガスの流量を
増加させる
ことを含む、四塩化チタンの製造方法。
【請求項2】
前記ガス供給管は、通常操業ガス用配管と、詰まり解消ガス用配管と、該通常操業ガス用配管と詰まり解消ガス用配管との合流部とを備える、請求項1に記載の四塩化チタンの製造方法。
【請求項3】
前記詰まり解消ガス用配管からは、塩素、酸素、窒素、一酸化炭素及び二酸化炭素から選ばれる1以上を含むガスを供給する、請求項2に記載の四塩化チタンの製造方法。
【請求項4】
ガス流路ごとに接続されたガス供給管の一部又は全部は、元管に接続され、
前記元管に接続されるガス流路内の圧力と該元管内の圧力との差圧により、下記数Iにより計算される各ガス流路での塩素含有ガスの流量が、前記元管の流量から算出される各ガス流路1個当たりの塩素含有ガスの平均流量よりも少ないときに、前記ガス供給管から前記ガス流路に送るガスの流量を
増加させる、請求項1~3のいずれか一項に記載の四塩化チタンの製造方法。
【数I】
【請求項5】
複数のガス流路が形成された分散盤と、
ガス流路ごとに接続されたガス供給管と、
前記ガス流路内の圧力を測定可能な圧力測定部とを備え、
前記ガス供給管は、前記圧力測定部が圧力の増加を検知した場合、そのガス供給管のガスの流量を増加させる手段を有する、塩化炉。
【請求項6】
前記ガス供給管は、通常操業ガス用配管と、詰まり解消ガス用配管と、該通常操業ガス用配管と詰まり解消ガス用配管との合流部とを備える、請求項5に記載の塩化炉。
【請求項7】
前記通常操業ガス用配管の前記合流部よりも上流側にバルブが設けられ、
前記詰まり解消ガス用配管に前記圧力測定部が設けられる、請求項6に記載の塩化炉。
【請求項8】
前記詰まり解消ガス用配管に、塩素、酸素、窒素、一酸化炭素及び二酸化炭素から選ばれる1以上の供給源が接続される、請求項6又は7のいずれか一項に記載の塩化炉。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、四塩化チタンの製造方法及び塩化炉に関する。
【背景技術】
【0002】
四塩化チタンは、スポンジ状の固体金属チタン(以下、「スポンジチタン」と称する。)の製造原料のみならず、触媒或いは医薬の分野に幅広く利用されている。四塩化チタンは、炭素源であるコークスと、チタン鉱石と、塩素ガスとを高温にて反応させることにより製造されている。
【0003】
四塩化チタンの生成は、耐火物構造の塩化炉内に形成された鉱石とコークスを塩素ガスで流動化した流動層内で行われている。四塩化チタンの生成は過酷条件で実施され、製造効率の低下を抑制するための様々な技術が報告されている。
【0004】
例えば、特許文献1においては、「金属酸化物を含有する原料とコークスが上部に載置され、下部から供給される塩素ガスを前記原料に接触させる塩素ガスの分散盤であって、底板と、前記底板の上面に配置された不定形耐火物からなる断熱層と、前記断熱層の上部に配置された耐塩素性を有する不活性粒子からなる分散層とを備え、前記底板と前記断熱層には塩素ガスを通過させる複数のガス流路が設けられていることを特徴とする分散盤。」が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示の発明においては、四塩化チタンの製造中、塩素ガスによる分散盤の腐食を低減することができる。
ところで、塩化炉に設けられて塩素ガスを通過させる複数のガス流路を有する分散盤は、そのガス流路のいずれかが塩化反応由来の不純物等で詰まることがある。この場合、そのガス流路では流動層に塩素ガスを送り込むことができなくなる。その結果、流動層に供給される塩素ガス量が低減され、又は分散盤から供給される塩素ガスのバランスが失われるなどに起因し、四塩化チタンの生産効率が低下すると考えられる。このように、特許文献1に記載の技術に関して未だ改善の余地が残されている。
【0007】
そこで、本発明の一実施形態においては、塩化炉のガス流路の詰まりを速やかに解消することが可能な四塩化チタンの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明は一側面において、複数のガス流路が形成された分散盤を備える塩化炉を使用する四塩化チタンの製造方法であって、ガス流路ごとに接続されたガス供給管を介して前記塩化炉内に塩素含有ガスを供給し、前記分散盤上でチタン鉱石と炭素と塩素ガスとを接触して四塩化チタンを生成する塩化工程を含み、前記塩素含有ガスの供給中、前記ガス流路内の圧力を圧力測定部で測定し、該圧力に応じて前記ガス供給管からガス流路に送るガスの流量を変化させる、四塩化チタンの製造方法である。
【0009】
本発明に係る四塩化チタンの製造方法の一実施形態においては、前記ガス供給管は、通常操業ガス用配管と、詰まり解消ガス用配管と、該通常操業ガス用配管と詰まり解消ガス用配管との合流部とを備える。
【0010】
本発明に係る四塩化チタンの製造方法の一実施形態においては、前記詰まり解消ガス用配管からは、塩素、酸素、窒素、一酸化炭素及び二酸化炭素から選ばれる1以上を含むガスを供給する。
【0011】
本発明に係る四塩化チタンの製造方法の一実施形態においては、ガス流路ごとに接続されたガス供給管の一部又は全部は、元管に接続され、前記元管に接続されるガス流路内の圧力と該元管内の圧力との差圧により、下記数Iにより計算される各ガス流路での塩素含有ガスの流量が、前記元管の流量から算出される各ガス流路1個当たりの塩素含有ガスの平均流量よりも少ないときに、前記ガス供給管から前記ガス流路に送るガスの流量を変化させる。
【0012】
【0013】
また、本発明は別の一側面において、複数のガス流路が形成された分散盤と、ガス流路ごとに接続されたガス供給管と、前記ガス流路内の圧力を測定可能な圧力測定部とを備える、塩化炉である。
【0014】
本発明に係る塩化炉の一実施形態においては、前記ガス供給管は、通常操業ガス用配管と、詰まり解消ガス用配管と、該通常操業ガス用配管と詰まり解消ガス用配管との合流部とを備える。
【0015】
本発明に係る塩化炉の一実施形態においては、前記通常操業ガス用配管の前記合流部よりも上流側にバルブが設けられ、前記詰まり解消ガス用配管に前記圧力測定部が設けられる。
【0016】
本発明に係る塩化炉の一実施形態においては、前記詰まり解消ガス用配管に、塩素、酸素、窒素、一酸化炭素及び二酸化炭素から選ばれる1以上の供給源が接続される。
【発明の効果】
【0017】
本発明の一実施形態によれば、塩化炉のガス流路の詰まりを速やかに解消することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1A】本発明の一実施形態に係る四塩化チタンの製造方法に用いられる塩化炉の内部構造を示す概略図である。
【
図1B】
図1Aの塩化炉内の分散盤を示す部分拡大断面図である。
【
図1C】
図1Bの分散盤の他の例を示す部分拡大断面図である。
【
図1D】
図1Bの分散盤の他の例を示す部分拡大断面図である。
【
図1E】
図1Aの切断線A-Aにおける模式的な概略断面図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る四塩化チタンの製造方法に用いられる塩化炉の内部構造の他の例を示す概略図である。
【
図3】比較例1における塩化炉の内部構造を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の具体的な実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更が可能である。
【0020】
[四塩化チタンの製造方法]
本発明に係る四塩化チタンの製造方法の一実施形態においては、
図1Aに示す塩化炉100を使用するものであって、四塩化チタンを生成する塩化工程を含む。この塩化炉100では、分散盤120に複数のガス流路125が設けられており、ガス流路125(
図1B参照)ごとに接続されたガス供給管130を介して塩化炉100内に塩素含有ガスが供給される。塩化炉100内に供給された塩素含有ガスは分散盤120上にチタン鉱石及び炭素を含む流動層150を形成する。流動層150内にて塩化反応が生じ、これにより四塩化チタンが生成する。そして、塩素含有ガスの供給中、ガス流路125内の圧力を圧力測定部でそれぞれ測定し、該圧力に応じてガス供給管130からガス流路125に送るガスの流量を変化させる。例えば、ガス流路125に詰まりが生じると、該詰まりが生じたガス流路125の圧力が高くなる。詰まりが生じたと判断されたガス流路125に対し比較的多量のガスを短時間で供給するとガス流路125内の圧力の上昇に起因してガス流路125を詰まらせていた物質が排出され、ガス流路125の詰まりは速やかに解消される。一実施形態において、塩化炉100を解体せずとも詰まりが解消されるため、メンテナンスに必要な時間を短縮することもできる。また、詰まりが解消されたガス流路125内は圧力が低くなるので、その後ガス流路125の詰まりが解消される前の通常操業時と同様の塩素含有ガス量を供給すればよい。その結果、一実施形態においては、長期にわたっても安定した四塩化チタンの製造を実施することが可能となる。
【0021】
例えば、特許文献1に示す四塩化チタンを製造する塩化炉(特許文献1の
図2(a)参照)はウインドボックスを介して流動層に塩素ガスを供給している。当該塩化炉において、塩素ガスは、1本の塩素ガス用配管から分散盤の多数のガス流路を介して流動層に送られている。そのため、分散盤の多数のガス流路のうち、いずれかのガス流路に金属塩化物等の不純物が詰まった場合、どのガス流路が詰まったかを特定することが困難である。仮に、ウインドボックスの塩素ガス用配管から塩素ガスの流量を増大させることでその詰まりを解消しようとした場合、多数のガス流路の一部の詰まりを解消するために塩素ガスの全体の流量を必要以上に大きく増大させなければならない。このような塩化炉での詰まりの解消法は、ウインドボックスの耐久性等に依存する塩素ガスの最大許容流量を考慮すると、操業安全性の点から現実的ではない。当該塩化炉においては、ガス流路の詰まりを解消する場合、塩素ガス用配管からの塩素ガスの流量を増大させるのではなく、一度塩化炉を解体して分散盤を取り出した上でガス流路の詰まりの解消作業を行うことが必要になると考えられる。このような詰まり解消作業は塩化炉の解体を伴うため作業期間が長期化するという問題がある。
【0022】
もし、ガス流路の詰まり自体を抑制することができれば塩化炉での四塩化チタンの製造を効率的に実施できる。しかしながら、塩化炉での四塩化チタンの製造においてどのような機構でガス流路の詰まりが生じているか不明である。そのため、四塩化チタンの製造中、ガス流路の詰まり自体を回避することはできない。仮に、チタン鉱石に含まれる不純物がガス流路の詰まりに関与するものとして、ガス流路の詰まりの原因物質の生成を抑制するために塩素ガスの供給量を減らすと、四塩化チタンの製造量も減少する。したがって、このような手段は望ましくない。
【0023】
更に、塩化炉での四塩化チタンの製造で生じるガス流路の閉塞の原因物質は塩化反応で生じる塩化物だけなく酸化物もあり得る。例えば塩化物は水に可溶性なので水を供給すれば除去できる可能性がある。しかしながら、水の供給により塩化物を分解すると塩化水素ガスが発生し配管等の腐食を誘発するため、塩化炉への水の供給は望ましくない。なお、前記酸化物は塩化物と異なり水の供給では除去できず、ガス流路の閉塞の解消に関して水の供給は根本的な解決策とはならず改良の余地がある。
【0024】
そこで、本発明者は塩素含有ガスを流動層に供給するガス流路の詰まりを解消する手段を鋭意検討して以下の知見を得て、さらに検討を重ねて本発明を完成するに至った。すなわち、一実施形態においては、ウインドボックスを介して複数のガス流路に一様に塩素含有ガスを供給するのではなく、ガス流路に塩素含有ガスを供給するためのガス供給管を直接接続し、さらにそのガス供給管に圧力測定部を設ける。ガス流路が詰まれば詰まり部からガス供給管内に至るまで圧力が上昇する。よって、圧力の確認により、特定のガス流路について詰まりが発生したかどうかを早期に把握できる。そして、あるガス流路で詰まりが発生した場合、そのガス供給管内の圧力変化に応じてガス供給管からガス流路に送るガスの流量を変化(通常は増加)させれば詰まり原因物質を排出でき、ガス流路の詰まりを速やかに解消することができる。このような操作の間、詰まりが生じていないガス流路は特段のガス流量変更を行わなくてよいため、流動層に供給される塩素含有ガス量は大きく変化しない。その結果、塩化炉の解体を要せずにガス流路の詰まりを解消可能になり、長期にわたって連続的かつ安定的に四塩化チタンを製造することができ、また塩化炉の長寿命化にもつながるといえる。
【0025】
<塩化炉>
当該塩化炉100は、塩化炉本体110と、分散盤120と、ガス供給管130と、ウインドボックス140と、流動層150と、原料供給管160と、四塩化チタンガス回収管170とを備える。塩化炉本体110、分散盤120、ウインドボックス140、原料供給管160、四塩化チタンガス回収管170の形状又は材質は公知のものを適宜採用可能である。ガス供給管130は、その供給対象であるガスの性質に鑑み、適宜材質、形状、溶接方法などを決定できる。流動層150は四塩化チタンの製造が開始されてから塩化炉本体110内に形成される。よって、流動層150は塩化炉100の必須構成というよりは、操業時に形成される塩化炉100の構成である。
【0026】
(分散盤)
分散盤120は、ガス供給管130から供給された塩素含有ガスを分散させて流動層150へ流す。該分散盤120は、例えば
図1Bに示すように、底板122と、該底板122上に充填物で形成された断熱層124と、複数のガス流路125とを備えることとしてよい。なお、塩素含有ガスの塩素濃度は塩化炉100の操業状態に鑑み適宜決定すればよく、塩素の他には酸素、窒素等他のガスが適宜含まれてよい。
【0027】
(底板)
底板122は、塩化炉本体110においてウインドボックス140の上方に位置し、塩素含有ガスが通過するように複数のガス流路125が形成されている。分散盤120にはノズル126が設けられ、そのノズル126の上端は、断熱層124上の流動層150側まで延在している。塩素含有ガスがノズル126内のガス流路125を介して断熱層124の上側へ、さらには流動層150に供給される。ノズル126の外周を囲んで配置される保護管128の側壁に形成されたガス吹き出し口128aは断熱層124の上側に位置するように設けられている。円滑なガス吹き出しを行う観点から、ガス吹き出し口128aは互いに対面しないよう配置されることが好ましい。ノズル126及び保護管128の形状等は適宜変更可能である。例えば、
図1Cに示す分散盤120においては、ノズル126の上端が断熱層124内に位置しており、ガス吹き出し口128bが保護管128の側壁に設けられている。また、
図1Dに示すように、ノズル126の上端が断熱層124と流動層150の境界近傍に配置されており、ガス吹き出し口128cは保護管128の上端に設けてもよい。
また、底板122の材質は、耐熱性という観点から、例えば、炭素鋼、ステンレス鋼、及びNiよりなる群から選択される1種以上であればよい。なお、底板122の厚さは適宜設計可能であるが、例えば40~100mmである。炭素鋼は炭素含有量が2質量%以下の鋼であって、いわゆる極低炭素鋼、低炭素鋼、中炭素鋼、高炭素鋼等を含むものである。炭素鋼の具体例として、SS400等が挙げられる。ステンレス鋼は、耐熱性及び強度という観点から、クロム(Cr)、ニッケル(Ni)等が添加された鋼である。ステンレス鋼の具体例として、フェライト系ステンレス鋼、オーステナイト系ステンレス鋼、マルテンサイト系ステンレス鋼、二相ステンレス鋼等が挙げられる。
【0028】
(オリフィス)
底板122のウインドボックス140側にオリフィス123が設けられている。上記オリフィス123の径は、例えば、塩素含有ガスを分散させるために必要なガス流量と圧力損失等から適宜決定することができる。
【0029】
(断熱層)
断熱層124は、通常、底板122の上面に形成される。断熱層124は、単層構造であってもよいし、多層構造であってもよい。また、断熱層124を耐熱セラミックス製の充填物を充填して形成している場合、分散盤120を適切に軽量化しつつ塩素含有ガスによる腐食の影響を低減可能である。上記耐熱セラミックス製の充填物としては、例えば窒化ケイ素製、溶融シリカ製、又はアルミナ製等の充填物が挙げられる。上記耐熱セラミックス製の充填物の形状は特に限定されるものではないが、球状や平板状等が挙げられる。中でも上記充填物の形状は、分散盤120の耐久性の観点から、平板状がよい。また、充填物は、流動層150に巻き込まれないような大きさであることが好ましい。なお、断熱層124の厚さは適宜設計可能であるが、例えば300~600mmである。
また、
図1Eに示す一例のように、断熱層124内のガス流路125の配置は、塩素含有ガスを流動層150に均一に供給する観点から、断熱層124の内部を上面視した場合、中央領域T1と、その中央領域T1と塩化炉本体110の側壁111との間で周方向に等間隔に区分けした4つの周囲領域T2~T5とに分けることが可能である。ここで、図示は省略するが、その断熱層124の中央領域T1と各周囲領域T2~T5には、複数のガス流路125を等間隔に配置してよい。この他、断熱層124の上面視において、複数のガス流路125が塩化炉本体110の中心軸に対して点対称の関係となるように配置されてもよいし、塩化炉100の高さ方向と垂直である中心線に対して線対称の関係となるように配置されてもよい。
また、断熱層124内の複数のガス流路125は、前記中心軸から塩化炉本体110の側壁111に向かって、複数列に配置され、その各列について円形状或いは多角形状(例えば6角形、8角形等)となるように配置されてもよい。また、分散盤120内のガス流路125の個数は適宜設計可能であるが、例えば計60~120個である。
【0030】
(保護管)
断熱層124内に設けられ、上方に向かって延在した保護管128は、ノズル126の外周を囲みノズル126を保護している。保護管128は、耐熱性及び耐摩耗性という観点から、窒化珪素、炭化珪素、及びアルミナよりなる群から選択される1種以上で形成されていてよい。保護管128の上端側には、塩素含有ガスをノズル126から流動層150に供給するため、ガス吹き出し口(128a等)が形成されている。
ただし、保護管128のガス吹き出し口128a、128b、128cは、塩素含有ガスを効率的に供給する観点から、隣接する保護管128のガス吹き出し口128a、128b、128cと互いに対向しないように配置することが好ましい。
【0031】
(ガス供給管)
図1Aに示す一実施形態では、ガス供給管130は、通常操業ガス用配管132と、詰まり解消ガス用配管134と、通常操業ガス用配管132と詰まり解消ガス用配管134との合流部Jとを備える。
【0032】
(通常操業ガス用配管)
通常操業ガス用配管132は、ウインドボックス140内を通って、その端部がノズル126に接続され、もう一方の端部は、塩素含有ガス供給源である元管136に接続されている。通常操業ガス用配管132は、合流部Jよりも上流(ガス供給源)側にバルブV1が設けられる。また、通常操業ガス用配管132の合流部JとバルブV1との間に逆止弁を設置してもよく、またバルブV1より上流側に逆止弁を設置してもよい。そうすることで、詰まり解消ガス用配管134から元管136にガスが流れることをより確実に防ぐことが可能である。
【0033】
(詰まり解消ガス用配管)
図1Aに示す一実施形態では、詰まり解消ガス用配管134は、ガス流路125の詰まりを解消するため、通常操業ガス用配管132内の圧力よりも高い圧力でガスを供給することが可能である。詰まり解消ガス用配管134は合流部Jで通常操業ガス用配管132に接続され、バルブV2と、バルブV3と、該バルブV2とバルブV3との間に圧力測定部PG1とが設けられる。詰まり解消ガス用配管134は、通常操業ガス用配管132から供給される塩素含有ガスの圧力より高圧のガスを供給するために、図示しないガス供給源を接続してもよい。また、詰まり解消ガス用配管134には、塩素、酸素、窒素、一酸化炭素及び二酸化炭素から選ばれる1以上を含むガスの供給源が設けられることが好ましい。前記ガスとして、詰まりを解消する作業におけるコストや安全性の観点から、空気が好適である。空気は窒素と酸素を主に含むものであり、上記ガスに包含される。また、詰まり原因物質に酸化物が含まれると想定される場合、一酸化炭素を含むガス供給することで、前記酸化物の還元に基づく詰まり解消も期待できる。
【0034】
(圧力測定部)
圧力測定部PG1は、詰まり解消ガス用配管134内の圧力を測定可能であり、その測定された圧力値に基づいてガス流路125(又は、ノズル126)の詰まりを判断できる。流動層150に塩素含有ガスを供給する際は、バルブV1及びバルブV3が開いており、バルブV2が閉じている。ガス流路125が詰まると、その詰まった箇所でガス流路125が狭くなるので塩素含有ガスが流れにくくなり、ガス流路125に接続された通常操業ガス用配管132及び詰まり解消ガス用配管134内の圧力が上昇する。塩化炉100の操業においては、元管136からの塩素含有ガスの供給中、圧力測定部PG1にて詰まり解消ガス用配管134内の圧力が連続的又は断続的に測定されている。そうすることで、ガス流路125の詰まりの有無を監視する。詰まり解消操作時は、バルブV1が閉じており、バルブV2及びV3が開いている。詰まり解消ガス用配管134からガス供給を開始した直後は圧力測定部PG1の測定値が増加するが、詰まりが解消されると圧力が低下する。詰まり解消ガス用配管134内の圧力の低下を確認することでガス流路125の詰まりの解消の可否を検知できる。なお、バルブV1により元管136側へのガスの流れが阻止されるので、圧力測定部PG1で測定される詰まり解消ガス用配管134内に圧力は、ガス流路125内の圧力と同程度になりうる。
詰まり解消ガス用配管134及びその上流側の設備のメンテナンス、又は圧力測定部PG1のメンテナンスが必要となった場合はバルブV3を閉じることで塩素含有ガスの漏洩を適切に防止できる。
図1Aに示す一実施形態では、詰まりが生じたガス流路125を詰まり解消作業の対象とし、他のガス流路125は塩素含有ガス流量を維持することで流動層150への影響を軽減可能である。この観点より、塩化炉100において、ガス流路125の数(A)に対するバルブV1の数(B)との割合(B/A)は、例えば0.9以上である。
【0035】
(元管)
図1Aに示す一実施形態において、元管136は、塩素含有ガスの供給源である。該元管136は、圧力測定部PG2が設けられ、通常操業ガス用配管132と接続されている。なお、図示は省略するが、ガス流路125ごとに接続された通常操業ガス用配管132の一部が元管136に接続され、残りの通常操業ガス用配管132が別の元管に接続されてもよい。すなわち、塩素含有ガスの供給源は1であってもよいし2以上であってもよい。
【0036】
(ウインドボックス)
ウインドボックス140は、塩化炉本体110の下側に設けられる。該ウインドボックス140は、その上方の開口部を閉塞するように分散盤120が配置されている。
図1Aに示す一実施形態では、ウインドボックス140内には複数の通常操業ガス用配管132がそれぞれ挿通されている。一実施形態では合流部J、詰まり解消ガス用配管134、圧力測定部PG1等がウインドボックス140の外側に配置されている。なお、これらの1以上がウインドボックス140内に配置されてもよい。塩素含有ガスはウインドボックス140に接することなく流動層150に供給されるため、ウインドボックス140は塩化炉100の必須構成ではない。ただし、万が一の塩素含有ガス漏れ対策として有用な構成であるため、塩化炉100はウインドボックス140を備えることが好ましい。ウインドボックス140の形状又はウインドボックス140を区画する周囲壁の材質は公知のものを適宜採用可能である。
【0037】
(流動層)
流動層150は塩化炉100の操業時に分散盤120上に形成される。該流動層150は、金属酸化物原料と、炭素源であるコークスと、塩素含有ガスとを含んで形成され、流動状態を維持している。高温条件下で金属酸化物原料と、コークスと、塩素含有ガスとが接触して反応することで、四塩化チタンガスを生成する。金属酸化物原料は、酸化チタンを含有するチタン鉱石であってよい。
【0038】
(原料供給管)
原料供給管160は、流動層150にチタン鉱石及びコークスを供給するため、分散盤120の厚さ方向において分散盤120よりも高い位置で塩化炉本体110の側壁111に設けられている。原料供給管160の形状又は材質は公知のものを適宜採用可能である。なお、塩化炉本体110の施設においては、当該原料供給管160を、側壁111のレンガ間に挿通すればよい。
【0039】
(四塩化チタンガス回収管)
四塩化チタンガス回収管170は、塩化炉本体110内で生成された四塩化チタンガスを回収するために、塩化炉本体110の頂部近傍に設けられている。このとき、回収された四塩化チタンガスは四塩化チタンガス回収管170からコンデンサー(不図示)に送られ、該コンデンサーにおいて該四塩化チタンガスを四塩化チタンの沸点136℃以下に冷却することで、液体四塩化チタンとして回収すればよい。また、四塩化チタンガス回収管170の形状又は材質は公知のものを適宜採用可能である。
【0040】
(塩化炉の他の例)
また、他の実施形態として
図2に示す塩化炉200は、先述した塩化炉100と異なり、設備メンテナンスの負荷の軽減等の観点から、ガス供給管230が、分岐部Bを介して下流側に向かって分岐している通常操業ガス用配管232と、通常操業ガス用配管232に接続された詰まり解消ガス用配管234とを備え、さらに各通常操業ガス用配管232が接続された元管236とを備える。その分岐した通常操業ガス用配管232はウインドボックス140に挿通され分散盤120のガス流路125ごとに接続されている。なお、上流側の元管236から下流側のガス流路125までの間に分岐点を複数設けてよい。分岐部BはバルブV1の下流側に設けられてよい。これにより、複数のガス流路125をひとまとまりとして塩素含有ガス量を制御できる。また、分岐部Bは合流部Jの下流側に設けられてよい。これにより、複数のガス流路125をひとまとまりとして、すなわち一定のエリアごとに通常操業と詰まり解消作業とを切り替えることができる。また、通常操業ガス用配管232の一部が元管236に接続され、残りの通常操業ガス用配管232が別の元管に接続されてよい。
図2に示す他の実施形態では、先述した中央領域T1内に位置する複数のガス流路125、各周囲領域T2~T5内に位置する複数のガス流路125をそれぞれ、分岐部Bを有するガス供給管230を使用しひとまとまりとして塩素含有ガス供給等を制御している。
塩化炉200を一例として示すように、ガス供給管230を使用し複数のガス流路125をひとまりとして塩素含有ガス供給を制御している場合、メンテナンスの負荷を軽減する観点から、ガス流路125の数(A)に対するバルブV1の数(B)との割合(B/A)は、例えば0.9未満である。
【0041】
(製造例)
一実施形態において、当該塩化炉100、200を使用する四塩化チタンの製造例を説明する。
四塩化チタンの製造において、通常操業時(ガス流路125の詰まりがない状態)、圧力測定部PG1の上流側に設けたバルブV2を閉め、且つ圧力測定部PG1の下流側に設けたバルブV3を開けた状態で、塩素含有ガスが通常操業ガス用配管132、232に直接接続されたガス流路125を介してチタン鉱石とコークスを含む流動層150に供給される。このとき、塩素含有ガスを通常操業ガス用配管132、232からガス流路125に供給するとともに詰まり解消ガス用配管134、234内の圧力を圧力測定部PG1で測定する。ガス流路125に詰まりが生じていなければ、その圧力値が低圧にて安定する。一方、塩素含有ガスの供給中、ガス流路125に詰まりが生じると、圧力測定部PG1で測定される詰まり解消ガス用配管134、234内の圧力値が上昇する。例えば圧力値が予め定めた基準値を超えた場合にガス流路125に詰まりが生じたと判断する。ガス流路125の詰まりが生じたら圧力値が上昇した詰まり解消ガス用配管134、234に接続された通常操業ガス用配管132、232のバルブV1を閉じて塩素含有ガスの供給を停止し、詰まり解消ガス用配管134、234のバルブV2を開放して、通常操業時における詰まり解消ガス用配管134、234内の圧力よりも高圧となるようにガス供給源からガスを供給する。ガス流路125の詰まりが解消されるまでは、圧力測定部PG1での詰まり解消ガス用配管134、234内の圧力値は高くなるが、ガス流路125の詰まりが解消されると圧力測定部での詰まり解消ガス用配管134、234内の圧力値は低下して安定する。そして、ガス流路125の詰まりが解消されたら、詰まり解消ガス用配管134、234のバルブV2を閉め、通常操業ガス用配管132、232のバルブV1を開けて、塩素含有ガスの供給源である元管136、236から再度塩素含有ガスがガス流路125を介して流動層150に供給される。
【0042】
ここで、ガス流路125の詰まりが完全に除去されるまで、詰まり解消ガス用配管134、234からガスを供給し続けてもよい。また、ガス流路125の詰まりの一部が解消されていることを圧力測定部PG1での詰まり解消ガス用配管134、234内の圧力値から確認することができたところまで詰まり解消ガス用配管134、234からガスを供給し続けてもよい。その後、詰まり解消ガス用配管134、234のバルブV2を閉め、通常操業ガス用配管132、232のバルブV1を開けて、塩素含有ガスの供給源である元管136、236から再度塩素含有ガスがガス流路125を介して流動層150に供給されてよい。
【0043】
なお、通常操業ガス用配管132、232の合流部JとバルブV1との間に逆止弁を設置し又はバルブV1より上流側に逆止弁を設置した場合、詰まり解消ガス用配管134、234から供給されたガスが逆止弁で堰き止められ元管136に供給されない。その結果、詰まり解消ガス用配管134、234内の圧力をより確実に認識することが可能である。
【0044】
上記のようにガス流路125の詰まりを解消する際、複数のガス流路125のうち詰まりが生じていないガス流路125は通常操業ガス用配管132、232を使用し続ければよい。一方、詰まりが生じたガス流路125と合流部Jを介して接続された詰まり解消ガス用配管134、234からガスの流量を変化させてガス流路125の詰まりを解消できる。したがって、ガス流路125の詰まりを正確に把握できるのみならず、塩化炉100、200を解体せずともガス流路125の詰まりを解消できる。さらに、ガス流路125の詰まりの解消を早期に実現できるので、長期にわたって連続的かつ安定的に四塩化チタンの製造を確実に実施することができる。
【0045】
上記において、ガス流路125に詰まりが生じていると判断するにあたり、例えばガス流路125内の圧力が下記関係式(1)を満たす場合、通常操業ガス用配管132、232から塩素含有ガスの供給を一時的に停止し、詰まり解消ガス用配管134、234からガス流路125に送るガスの流量を増やせばよい。
また、詰まり解消ガス用配管134、234からは、塩素、酸素、窒素、一酸化炭素及び二酸化炭素から選ばれる1以上を含むガスを供給することが好ましい。中でも、詰まりを解消する作業におけるコストや安全性の観点から、空気が好適に利用できる。なお、空気は窒素と酸素を主に含むものであり、上記ガスに包含されるものである。また、詰まり原因物質に酸化物が含まれると想定される場合、一酸化炭素を含むガス供給することで、前記酸化物の還元に基づく詰まり解消も期待できる。
1.2≦C/D・・・関係式(1)
C:通常操業時における詰まり解消ガス用配管内の圧力値よりも上昇している詰まり解消ガス用配管内の圧力値(MPa)
D:通常操業時における詰まり解消ガス用配管内の圧力値(MPa)
【0046】
通常操業時において供給される塩素含有ガスの通常操業ガス用配管132、232内の圧力(すなわち、圧力測定部PG1で測定される圧力)は、ゲージ圧で20~200kPaの範囲内であることが好ましい。また、ガス流路125の詰まりの解消時における詰まり解消ガス用配管134、234内の圧力(すなわち、圧力測定部PG1で測定される圧力)は、ゲージ圧で60kPa~500kPaの範囲内であることが好ましい。なお、ガス流路125の詰まりの解消時における詰まり解消ガス用配管134、234内の圧力は、通常操業時における詰まり解消ガス用配管134、234内の圧力よりも高い。
【0047】
また、ガス流路125ごとに接続された通常操業ガス用配管132、232の一部又は全部は、元管136、236にそれぞれ接続され、元管136、236に連通するガス流路125内の圧力と該元管136、236内の圧力との差圧により、下記数Iにより計算されるガス流路125での塩素含有ガスの流量が、元管136、236の流量から算出されるガス流路1個当たりの塩素含有ガスの流量(平均流量ともいう)よりも少ないときに、ガス供給管130、230からガス流路125に送るガスの流量を変化させてもよい。そうすることで、ガス流路125の詰まりの解消をより確実に実現できるので、長期にわたって連続的かつ安定的に四塩化チタンの製造を確実に実施することができる。上記平均流量は、元管の流量をガス流路125の個数で割って求めてよい。ガス流路125内の圧力は、圧力測定部PG1により測定される詰まり解消ガス用配管134、234内の圧力である。また、元管136、236内の圧力は、圧力測定部PG2により測定される元管136、236内の圧力である。
なお、一実施形態においては、下記数Iの流路長は、通常操業ガス用配管132、232の長手方向の長さを意味し、流路径は、通常操業ガス用配管132、232の内径を意味する。
また、下記数Iの塩素含有ガスの粘度μは、塩素含有ガスの温度あたりの粘度を意味する。塩素含有ガスの粘度μについては、例えば、簡便には、20℃の塩素含有ガスが塩素ガス95体積%、酸素ガス5体積%である場合、各ガスの粘度及び各ガスの割合から加重平均を使用して、(0.0132(20℃の塩素ガスの粘度)mPa・s×95+0.0203(20℃の酸素ガスの粘度)×5)÷100=0.135と求めることができる。各ガスの粘度については、化学便覧又は商用データベースで入手可能である。
【0048】
【0049】
上記数Iは、圧力損失の式である下記数IIと、レイノルズ数Reを示す下記数IIIと、管損失係数λを示す下記数IVとを組み合わせることで成り立つものである。そうすることで、圧力測定部PG1及びPG2で測定された圧力値から通常操業ガス用配管132、232に流れる塩素含有ガスの流量uを算出することができる。
【0050】
【0051】
【0052】
【0053】
なお、ガス流路125の詰まりを解消する操作をしても詰まり解消ガス用配管134、234内の圧力が下がらない場合、塩化炉100、200の操業を停止することも可能である。塩化炉100、200の操業を停止した後は分散盤120を塩化炉100、200から取り外し、分散盤120の損耗が生じていた場合には、未使用の分散盤に交換し、ガス流路125ごとに通常操業ガス用配管132、232を接続すればよい。そうすることで、四塩化チタンの製造を再開できる。また、詰まりが生じていないガス流路125の数及び位置と、詰まりが生じたガス流路125の数及び位置と、を把握可能であるので、これら情報に基づき塩化炉100、200への塩素含有ガス供給量を適宜変更しながら四塩化チタンの製造を継続することも可能である。
【実施例】
【0054】
以下、本発明の内容を実施例によって更に具体的に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。なお、「圧力」は、圧力測定部で測定された圧力を意味する。
【0055】
[実施例1]
実施例1においては、塩化炉本体と、底板及び断熱層からなる分散盤と、ウインドボックスと、流動層と、原料供給管と、四塩化チタンガス回収管とを備えた塩化炉を組み立てた。分散盤には、流動層に塩素ガスを送り込めるように計60個(塩化炉本体の中心軸から塩化炉本体の側壁に向かって複数列で配置され、その各列が略同心円状に配置されている。)のガス流路を等間隔に設けた。ウインドボックスを介して各ガス流路と各通常操業ガス用配管とを接続した。各通常操業ガス用配管を元管にそれぞれ接続した。すなわち、
図1Bに示すように、1つのガス流路125に対し1つの通常操業ガス用配管132を接続し、元管には60本の通常操業ガス用配管を接続した。通常操業ガス用配管ごとに、詰まり解消ガス用配管を接続した。各通常操業ガス用配管に設けられたバルブは、通常操業ガス用配管と詰まり解消ガス用配管との合流部よりも上流側に設けられた。各詰まり解消ガス用配管は、
図1Aに示すように、2つのバルブV2、V3を備え、さらに該バルブV2、V3間に設置した圧力測定部PG1を備えた。なお、
図1Aに示すように分散盤120にはノズル126が配置され、そのノズル126を保護管128で被覆し、その保護管128のガス吹き出し口128aを流動層150内(すなわち断熱層124より上)に位置するように設けた。
【0056】
四塩化チタンを製造するために塩化炉の操業を開始した。原料供給管からチタン鉱石と炭素源であるコークスとを適宜供給し、通常操業ガス用配管ごとに接続されたノズルを介して塩素含有ガスを導入してチタン鉱石とコークスとを流動状態に維持しながら、流動層の温度を約1000℃に保持し連続的に塩化反応を行った。
【0057】
元管から塩素ガスを供給している間、元管内の圧力と各ガス流路内の圧力を圧力測定部の測定により得て上記数Iで計算される各ガス流路の流量が、平均的になるように維持しながら実施していた。四塩化チタンを製造するために塩化炉の操業を開始してから6ヶ月目で、60個のガス流路のうち1個の流量が、各ガス流路の平均に対して10%低下した。この流量が低下した原因は、ガス流路に塩化反応由来の不純物が詰まっているからであると推察された。そこで、元管から塩素ガスの供給を継続したまま、その流量が10%低下しているガス流路に接続された通常操業ガス用配管のバルブを閉とし、その通常操業ガス用配管と接続された詰まり解消ガス用配管から空気を供給した。この時、詰まり解消ガス用配管からガス流路に供給される空気の流量を、通常操業ガス用配管で塩素含有ガスを流した時の流量に対して1.5倍とすることで不純物の詰まりを解消した。なお、詰まり解消ガス用配管から空気を供給したときの圧力は、通常操業ガス用配管で給気するときの約2倍であった。その後も、ガス流路に詰まりが生じたと判断された場合は同様の作業にてガス流路の詰まりを解消した。
【0058】
その結果、塩化炉内の分散盤を解体することなく、塩化炉を約4年連続操業することができた。
【0059】
[比較例1]
比較例1においては、
図3に示すように、塩化炉本体310と、底板322と断熱層324とからなる分散盤320と、塩素ガス用配管332を設けたウインドボックス340と、流動層350と、原料供給管360と、四塩化チタンガス回収管370とを備えた塩化炉300を組み立てた。なお、分散盤320のガス流路325にノズル326が配置され、そのノズル326を保護管328で被覆し、その保護管328にガス吹き出し口を流動層350内に位置するように設けた。
【0060】
当該塩化炉300で四塩化チタンを製造するために塩化炉300の操業を開始した。原料供給管360からチタン鉱石とコークスとを適宜供給し、塩素ガス用配管332からノズル326を介して塩素ガスを導入してチタン鉱石とコークスとを流動状態に維持しながら、流動層350の温度を約1000℃に保持し連続的に塩化反応を行った。
【0061】
四塩化チタンを製造するために塩化炉300の操業を開始してから2年目で、1時間当たりの四塩化チタンガスの製造量が低下していた。四塩化チタンガスの製造量が低下した原因は、ガス流路325に塩化反応由来の不純物が詰まっているからであると推察された。そこで、塩化炉300を解体して分散盤320を別の分散盤に交換するため、塩化炉300の操業を停止した。すなわち、塩化炉300を2年連続操業することができた。
【0062】
(実施例による考察)
実施例1の塩化炉の操業においては、比較例1の塩化炉の操業と比べて、長期にわたって連続的かつ安定的に四塩化チタンを製造することができた。また、実施例1の塩化炉の操業中、塩化炉を解体しなかったので、メンテナンスに必要な時間が短縮されていることも確認した。したがって、実施例1においては、塩素含有ガスの供給中、ガス流路内の圧力を圧力測定部でそれぞれ測定し、該圧力に応じて前記ガス供給管からガス流路に送るガスの流量を変化させることが有用であるといえる。
【0063】
一方、比較例1の塩化炉300の操業においては、塩素ガスを塩素ガス用配管332からウインドボックス340を介してノズル326に供給しているので、詰まりが生じているノズル326を特定することが困難であったといえる。また、比較例1の塩化炉300の操業において、ウインドボックス340を開放するには塩素ガスの供給を止め、四塩化チタンの製造を停止する必要がある。
【符号の説明】
【0064】
100、200、300 塩化炉
110、310 塩化炉本体
111 側壁
120、320 分散盤
122、322 底板
123 オリフィス
124、324 断熱層
125、325 ガス流路
126、326 ノズル
128、328 保護管
128a、128b、128c ガス吹き出し口
130、230 ガス供給管
132、232 通常操業ガス用配管
134、234 詰まり解消ガス用配管
136、236 元管
140、340 ウインドボックス
150、350 流動層
160、360 原料供給管
170、370 四塩化チタンガス回収管
332 塩素ガス用配管
B 分岐部
J 合流部
PG1、PG2 圧力測定部
T1 中央領域
T2~T5 周囲領域
V1、V2、V3 バルブ