(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-29
(45)【発行日】2024-02-06
(54)【発明の名称】エンジンユニット
(51)【国際特許分類】
F01P 3/02 20060101AFI20240130BHJP
F01P 7/16 20060101ALI20240130BHJP
F02F 1/10 20060101ALI20240130BHJP
F02F 1/36 20060101ALI20240130BHJP
F02F 1/00 20060101ALI20240130BHJP
【FI】
F01P3/02 P
F01P7/16 502
F02F1/10 Z
F02F1/36 Z
F02F1/00 Z
(21)【出願番号】P 2020096619
(22)【出願日】2020-06-03
【審査請求日】2023-03-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000010076
【氏名又は名称】ヤマハ発動機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】弁理士法人ATEN
(72)【発明者】
【氏名】田中 浩一
【審査官】家喜 健太
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-031736(JP,A)
【文献】独国実用新案第202015106562(DE,U1)
【文献】特開2010-151066(JP,A)
【文献】特開平05-005416(JP,A)
【文献】特開2019-215007(JP,A)
【文献】特開2011-017296(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01P 3/00
F01P 7/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのシリンダボアが形成されたシリンダボディと、
前記シリンダボディに接続されたシリンダヘッドと、
少なくとも一部が前記シリンダヘッドおよび前記シリンダボディを通りかつ内部を冷却液が循環する冷却液通路部と、
前記冷却液通路部に設けられ、かつ、前記冷却液を圧送して前記冷却液を前記冷却液通路部内で循環させる冷却液ポンプ装置と、
前記冷却液通路部に設けられたラジエータと、
前記冷却液通路部に設けられた切換弁であって、前記冷却液の温度が第1低温領域にあるときは、前記ラジエータおよび前記シリンダボディを通らずに、前記冷却液ポンプ装置、前記シリンダヘッド、前記冷却液ポンプ装置の順で前記冷却液通路部内を前記冷却液が流れ
ることを許容する第1状態となり、かつ、前記冷却液の温度が前記第1低温領域より高い高温領域にあるときは、前記冷却液ポンプ装置、前記シリンダヘッド、前記ラジエータ、前記シリンダボディ、前記冷却液ポンプ装置の順で前記冷却液通路部内を前記冷却液が流れる
ことを許容する第2状態となるように構成された
切換弁と、
を備え、
前記切換弁が、
前記シリンダヘッドから流出した前記冷却液が流入する第1入口、前記冷却液を前記ラジエータに向かって流出するのを許容する第1出口、前記シリンダボディから流出した前記冷却液が流入する第2入口、および前記冷却液が前記冷却液ポンプ装置に向かって流出するのを許容する第2出口、を有する4方弁であり、
前記4方弁が、
前記第1入口に流入した前記冷却液が前記第2出口から流れ出るようにし、かつ、前記第2入口に流入した前記冷却液が前記第1出口および前記第2出口から流れ出ないようにする前記第1状態と、
前記第1入口に流入した前記冷却液が前記第1出口から流れ出るようにし、かつ、前記第2入口に流入した前記冷却液が前記第2出口から流れ出るようにする前記第2状態と、
に切り換えられるように構成され、
前記冷却液の温度が前記第1低温領域にあるときは、前記4方弁が前記第1状態となることにより、前記ラジエータおよび前記シリンダボディを通らずに、前記冷却液ポンプ装置、前記シリンダヘッド、前記4方弁、前記冷却液ポンプ装置の順で、前記冷却液が前記冷却液通路部内を循環し、
前記冷却液の温度が前記高温領域にあるときは、前記4方弁が前記第2状態となることにより、前記冷却液ポンプ装置、前記シリンダヘッド、前記4方弁、前記ラジエータ、前記シリンダボディ、前記4方弁、前記冷却液ポンプ装置の順で、前記冷却液が前記冷却液通路部内を循環することを特徴とするエンジンユニット。
【請求項2】
前記
4方弁が、前記シリンダヘッドおよび前記シリンダボディの外部に位置し、かつ、前記シリンダヘッドおよび前記シリンダボディとは別体であることを特徴とする請求項
1に記載のエンジンユニット。
【請求項3】
前記
4方弁が前記第1状態にあるとき、前記冷却液および空気の少なくとも一方が、前記ラジエータを介して前記シリンダボディに形成された前記冷却液通路部内に流入し、
前記シリンダボディにおいて前記冷却液通路部と接続され、かつ、前記シリンダヘッドにおいて前記冷却液通路部と接続されるバイパス通路部を有することを特徴とする請求項
1又は2に記載のエンジンユニット。
【請求項4】
前記エンジンユニットがクランクシャフトを有し、
前記冷却液ポンプ装置が、前記クランクシャフトの動きとは独立して、停止状態と作動状態とに切り換えられるように構成されたことを特徴とする請求項1~
3のいずれか1項に記載のエンジンユニット。
【請求項5】
前記冷却液ポンプ装置が、前記冷却液の温度が前記第1低温領域より低い第2低温領域にあるとき前記停止状態になるように構成されたことを特徴とする請求項
4に記載のエンジンユニット。
【請求項6】
前記エンジンユニットが、前記少なくとも1つのシリンダボア内をそれぞれ前記シリンダボアの中心軸線であるシリンダ軸線に沿って往復移動する少なくとも1つのピストンを有し、
前記少なくとも1つのシリンダボアの径が第1径であり、
前記第1径を有する前記シリンダボア内を往復移動する前記ピストンのストロークが、前記第1径より長い第1ストロークであることを特徴とする請求項1~
5のいずれか1項に記載のエンジンユニット。
【請求項7】
前記エンジンユニットが、
吸気口が形成された燃焼室と、
前記シリンダヘッドに形成され、前記吸気口に接続される第1吸気通路部と、
前記第1吸気通路部の空気の流れ方向における上流端に接続されかつスロットルバルブが配置される、前記シリンダヘッドの外部に配置される第2吸気通路部と、
前記第1吸気通路部内または前記第2吸気通路部内で燃料を噴射する燃料噴射装置と、
を有することを特徴とする請求項1~
6のいずれか1項に記載のエンジンユニット。
【請求項8】
前記エンジンユニットが、
前記燃焼室内において、空気と燃料との混合気に点火する点火プラグを有することを特徴とする請求項
7に記載のエンジンユニット。
【請求項9】
前記シリンダボアの中心軸線であるシリンダ軸線が、前記エンジンユニットが搭載される車両の上下方向に対して傾斜し、
前記エンジンユニットが、
排気口が形成された燃焼室と、
前記シリンダヘッドに形成され、前記排気口に接続される第1排気通路部と、
前記第1排気通路部の気体の流れ方向における下流端に接続された、前記シリンダヘッドの外部に配置される第2排気通路部と、
を有し、
前記エンジンユニットが搭載される車両の上下方向を上下方向とした場合に、前記シリンダヘッドの下向きの外面に、前記第1排気通路部の前記下流端が形成さ
れたことを特徴とする請求項1~
8のいずれか1項に記載のエンジンユニット。
【請求項10】
前記シリンダボディに前記シリンダボアが1つのみ形成されたことを特徴とする請求項1~
9のいずれか1項に記載のエンジンユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1および特許文献2に開示されたエンジンユニットは、冷却水の温度に応じて切り換わる切換弁を有する冷却水回路を備えている。
【0003】
特許文献1のエンジンユニットの冷却水は低温のときに、サーモスタット弁(切換弁)の働きにより、以下のように流れる。即ち、冷却水は、ウォーターポンプ→シリンダヘッド→ウォーターポンプの順で流れる。冷却水は高温のとき、サーモスタット弁の働きにより、以下のように流れる。即ち、冷却水は、ウォーターポンプ→シリンダヘッド→シリンダボディ(シリンダブロック)→ラジエータ→ウォーターポンプの順で流れる。低温のときに冷却水がシリンダボディにほとんど流れないので、暖機運転時にシリンダボディの温度が比較的早く上昇し、潤滑油の粘度が比較的早く低下する。そのため、暖機運転時のエンジンユニットの摩擦損失が低減する。
【0004】
特許文献2のエンジンユニットの冷却水は低温のときに、サーモスタット弁(切換弁)の働きにより、以下のように流れる。即ち、冷却水は、ウォーターポンプ→シリンダヘッド→ウォーターポンプの順で流れる。冷却水は高温のとき、サーモスタット弁の働きにより、以下のように流れる。即ち、冷却水は、ウォーターポンプ→シリンダヘッド→シリンダボディ(シリンダブロック)→ラジエータ→ウォーターポンプの順で流れる。高温のときに冷却水がシリンダボディに供給されるので、シリンダボディの温度を低下させることが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第4278131号公報
【文献】特開2002-97959号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本願発明者らは特許文献1、2のエンジンユニットを研究した。その結果、冷却液を冷却するための装置を大型化および/または複雑化しない場合は、特許文献1、2のエンジンユニットに問題が発生することが判明した。即ち、冷却液が高温のとき、特許文献1、2のエンジンユニットはノッキングを発生し易いことが判明した。
【0007】
本発明は、冷却液を冷却するための装置を大型化および複雑化させない場合であっても、ノッキングが発生しにくいエンジンユニットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明者らは、特許文献1、2のエンジンユニットを研究することによって、以下の知見を得た。特許文献1、2のエンジンユニットの冷却水は高温のとき、ラジエータから流出した後に、ウォーターポンプおよびシリンダヘッドを経てシリンダボディに供給される。換言すると、ラジエータによって冷却された冷却水は、シリンダヘッドで温められた後にシリンダボディに供給される。そのため、特許文献1、2のエンジンユニットは、シリンダボディを流れる冷却水によって、シリンダボディ(特にシリンダボア)の温度を十分に低下させられない場合があることがわかった。そのため、吸入行程中にシリンダボアに流入した空気である吸入空気とシリンダボアとの熱交換によって、吸入空気の温度が大幅に上昇する場合がある。そのため、特許文献1、2のエンジンユニットは、ノッキングを発生しやすくなる。
【0009】
例えば、冷却液ポンプ装置が発生可能な圧力の大きさおよび/またはラジエータの熱交換機能を高くすれば、冷却水によってシリンダボディ(シリンダボア)の温度を低下させることが可能になる。しかし、この場合は、冷却水を冷却するための装置である冷却液ポンプ装置および/またはラジエータが大型化および複雑化する。
【0010】
本願発明者らは、シリンダヘッドを冷却することよりも、シリンダボディを冷却することの方が、ノッキングの発生し難さと強い相関関係を有することに気付いた。そこで本発明者らは、冷却液が高温のとき、ラジエータから流出した冷却水が、シリンダヘッドを経ずに、シリンダボディに供給されるように、冷却液回路を構成することを思い付いた。それにより、冷却液を冷却するための装置を大型化および複雑化することなく、冷却液によってシリンダボディの温度を十分に低下させることができる。その結果、冷却液を冷却するための装置を大型化および複雑化することなく、エンジンユニットがノッキングを発生し難くなる。
【0011】
(1)本発明のエンジンユニットは、少なくとも1つのシリンダボアが形成されたシリンダボディと、前記シリンダボディに接続されたシリンダヘッドと、少なくとも一部が前記シリンダヘッドおよび前記シリンダボディを通りかつ内部を冷却液が循環する冷却液通路部と、前記冷却液通路部に設けられ、かつ、前記冷却液を圧送して前記冷却液を前記冷却液通路部内で循環させる冷却液ポンプ装置と、前記冷却液通路部に設けられたラジエータと、を備える。
前記冷却液の温度が第1低温領域にあるときは、前記ラジエータおよび前記シリンダボディを通らずに、前記冷却液ポンプ装置、前記シリンダヘッド、前記冷却液ポンプ装置の順で前記冷却液通路部内を前記冷却液が流れ、前記冷却液の温度が前記第1低温領域より高い高温領域にあるときは、前記冷却液ポンプ装置、前記シリンダヘッド、前記ラジエータ、前記シリンダボディ、前記冷却液ポンプ装置の順で前記冷却液通路部内を前記冷却液が流れる。
【0012】
この構成によると、冷却液の温度が第1低温領域にあるときに、冷却液がシリンダボディに流れない。そのため、エンジンユニットが暖機運転を行っているときにシリンダボディの温度が比較的早く上昇する。
また、冷却液の温度が高温領域にあるときに、ラジエータによって冷却された冷却液が、シリンダボディに直接流れる。換言すると、ラジエータによって冷却された冷却液が、冷却液ポンプ装置およびシリンダヘッドを介さずに、シリンダボディに供給される。換言すると、ラジエータによって冷却された冷却液は、シリンダヘッドにより温められることなく、シリンダボディに供給される。そのため、冷却液を冷却するための装置である冷却液ポンプ装置および/またはラジエータを大型化および複雑化させなくても、ラジエータによって冷却された冷却液が冷却液ポンプ装置およびシリンダヘッドを介してシリンダボディに供給される場合と比べて、冷却液によってシリンダボディの温度をより低下させることが可能である。即ち、例えば、冷却液ポンプ装置が発生可能な圧力の大きさおよび/またはラジエータの熱交換機能を高くすることなく、シリンダボディ(シリンダボア)の温度を十分に低下させることが可能になる。そのため、エンジンユニットが吸入行程を実行中にシリンダボアに流入した空気である吸入空気とシリンダボアとの熱交換によって、吸入空気の温度が大幅に上昇することを抑制可能である。そのため、冷却液を冷却するための装置である冷却液ポンプ装置および/またはラジエータを大型化および複雑化させない場合であっても、ノッキングがエンジンユニットで発生し難い。
【0013】
(2)本発明の1つの観点によると、本発明のエンジンユニットは、以下の構成を有することが好ましい。
前記冷却液の温度が前記第1低温領域にあるときは、前記ラジエータおよび前記シリンダボディを通らずに、前記冷却液ポンプ装置、前記シリンダヘッド、前記冷却液ポンプ装置の順で前記冷却液通路部内を前記冷却液が流れるようにする第1状態となり、かつ、前記冷却液の温度が前記高温領域にあるときは、前記冷却液ポンプ装置、前記シリンダヘッド、前記ラジエータ、前記シリンダボディ、前記冷却液ポンプ装置の順で前記冷却液通路部内を前記冷却液が流れるようにする第2状態となるように構成された切換弁が、前記冷却液通路部に設けられる。
【0014】
この構成によると、冷却液の温度に応じて、切換弁が冷却液の流れを制御する。そのため、冷却液を冷却するための装置である冷却液ポンプ装置および/またはラジエータを大型化および複雑化させなくても、ノッキングがエンジンユニットで発生し難い。
【0015】
(3)本発明の1つの観点によると、本発明のエンジンユニットは、上記(2)の構成に加えて、以下の構成を有することが好ましい。
前記切換弁が、前記シリンダヘッドから流出した前記冷却液が流入する第1入口、前記冷却液を前記ラジエータに向かって流出するのを許容する第1出口、前記シリンダボディから流出した前記冷却液が流入する第2入口、および前記冷却液が前記冷却液ポンプ装置に向かって流出するのを許容する第2出口、を有する4方弁である。
前記4方弁が、前記第1入口に流入した前記冷却液が前記第2出口から流れ出るようにし、かつ、前記第2入口に流入した前記冷却液が前記第1出口および前記第2出口から流れ出ないようにする前記第1状態と、前記第1入口に流入した前記冷却液が前記第1出口から流れ出るようにし、かつ、前記第2入口に流入した前記冷却液が前記第2出口から流れ出るようにする前記第2状態と、に切り換えられるように構成される。
前記冷却液の温度が前記第1低温領域にあるときは、前記4方弁が前記第1状態となることにより、前記ラジエータおよび前記シリンダボディを通らずに、前記冷却液ポンプ装置、前記シリンダヘッド、前記4方弁、前記冷却液ポンプ装置の順で、前記冷却液が前記冷却液通路部内を循環し、前記冷却液の温度が前記高温領域にあるときは、前記4方弁が前記第2状態となることにより、前記冷却液ポンプ装置、前記シリンダヘッド、前記4方弁、前記ラジエータ、前記シリンダボディ、前記4方弁、前記冷却液ポンプ装置の順で、前記冷却液が前記冷却液通路部内を循環する。
【0016】
この構成によると、1つの切換弁(4方弁)を用いることによって、シリンダボディの温度を十分に低下させるように、冷却液が冷却液通路部内を循環する。即ち、吸入空気とシリンダボアとの熱交換によって、吸入空気の温度が大幅に上昇することが、1つの切換弁を用いることによって抑制される。そのため、冷却液を冷却するための装置である冷却液ポンプ装置および/またはラジエータを大型化および複雑化させなくても、ノッキングがエンジンユニットで発生し難い。
【0017】
(4)本発明の1つの観点によると、本発明のエンジンユニットは、上記(2)の構成に加えて、以下の構成を有することが好ましい。
前記切換弁が、前記シリンダヘッドおよび前記シリンダボディの外部に位置し、かつ、前記シリンダヘッドおよび前記シリンダボディとは別体である。
【0018】
(5)本発明の1つの観点によると、本発明のエンジンユニットは、上記(2)の構成に加えて、以下の構成を有することが好ましい。
前記切換弁が前記第1状態にあるとき、前記冷却液および空気の少なくとも一方が、前記ラジエータを介して前記シリンダボディに形成された前記冷却液通路部内に流入する。
前記エンジンユニットは、前記シリンダボディにおいて前記冷却液通路部と接続され、かつ、前記シリンダヘッドにおいて前記冷却液通路部と接続されるバイパス通路部を有する。
【0019】
切換弁が第1状態にあるとき、少量の冷却液および空気の少なくとも一方が、切換弁を通り抜けて、ラジエータを介してシリンダボディに形成された冷却液通路部内に流入することがある。すると、この少量の冷却液および空気の少なくとも一方が、シリンダボディに形成された冷却液通路部内にある冷却液および空気の少なくとも一方に圧力を及ぼす。そのため、シリンダボディに形成された冷却液通路部内にある冷却液および空気の少なくとも一方が、バイパス通路部の内部空間を介してシリンダヘッドに形成された冷却液通路部内に流入する。
シリンダボディに形成された冷却液通路部内に少量の冷却液が滞留する場合は、この冷却液がシリンダボディから熱を受けることによって、急激に高温になる。また、空気は冷却液より熱伝導率が低い。そのため、シリンダボディに形成された冷却液通路部内に空気が滞留する場合は、シリンダボディが過剰に高温になり易い。そのため、冷却液および空気の少なくとも一方がこのような状態になると、シリンダボディの温度が過剰に高温になるおそれがある。
この構成によると、切換弁が第1状態にある場合であっても、シリンダボディに形成された冷却液通路部内に冷却液および空気が滞留し難い。そのため、冷却液を冷却するための装置である冷却液ポンプ装置および/またはラジエータを大型化および複雑化させなくても、切換弁が第2状態になったときに、シリンダボディの温度を十分に低下させることが可能である。そのため、吸入空気とシリンダボアとの熱交換によって、吸入空気の温度が大幅に上昇することを抑制可能である。そのため、冷却液を冷却するための装置である冷却液ポンプ装置および/またはラジエータを大型化および複雑化させなくても、ノッキングがエンジンユニットで発生し難い。
【0020】
(6)本発明の1つの観点によると、本発明のエンジンユニットは、以下の構成を有することが好ましい。
前記エンジンユニットがクランクシャフトを有する。
前記冷却液ポンプ装置が、前記クランクシャフトの動きとは独立して、停止状態と作動状態とに切り換えられるように構成される。
【0021】
この構成によると、例えば、冷却液の温度が第1低温領域より低くかつエンジンユニットが作動状態にあるときに、冷却液ポンプ装置が停止状態になる。すると、シリンダヘッドおよびシリンダボディが高温になる。例えば、その後に冷却液の温度が高温領域になったときに、冷却液ポンプ装置が作動状態に切り換えられる。すると、ラジエータによって冷却された冷却液が、シリンダヘッドを通らずにシリンダボディに流れる。そのため、冷却液を冷却するための装置である冷却液ポンプ装置および/またはラジエータを大型化および複雑化させなくても、シリンダボディの温度を十分に低下させることが可能である。そのため、吸入空気とシリンダボアとの熱交換によって、吸入空気の温度が大幅に上昇することを抑制可能である。そのため、冷却液を冷却するための装置である冷却液ポンプ装置および/またはラジエータを大型化および複雑化させなくても、ノッキングがエンジンユニットで発生し難い。
【0022】
(7)本発明の1つの観点によると、本発明のエンジンユニットは、上記(6)の構成に加えて、以下の構成を有することが好ましい。
前記冷却液ポンプ装置が、前記冷却液の温度が前記第1低温領域より低い第2低温領域にあるとき前記停止状態になるように構成される。
【0023】
この構成によると、冷却液の温度が第2低温領域にありかつエンジンユニットが作動状態にあるときに、冷却液ポンプ装置が停止状態になる。すると、シリンダヘッドおよびシリンダボディが高温になる。例えば、その後に冷却液の温度が高温領域になったときに、冷却液ポンプ装置が作動状態に切り換えられる。すると、ラジエータによって冷却された冷却液が、シリンダヘッドを通らずにシリンダボディに供給される。そのため、冷却液を冷却するための装置である冷却液ポンプ装置および/またはラジエータを大型化および複雑化させなくても、シリンダボディの温度を十分に低下させることが可能である。そのため、吸入空気とシリンダボアとの熱交換によって、吸入空気の温度が大幅に上昇することを抑制可能である。そのため、冷却液を冷却するための装置である冷却液ポンプ装置および/またはラジエータを大型化および複雑化させなくても、ノッキングがエンジンユニットで発生し難い。
【0024】
(8)本発明の1つの観点によると、本発明のエンジンユニットは、以下の構成を有することが好ましい。
前記エンジンユニットが、前記少なくとも1つのシリンダボア内をそれぞれ前記シリンダボアの中心軸線であるシリンダ軸線に沿って往復移動する少なくとも1つのピストンを有する。
前記少なくとも1つのシリンダボアの径が第1径であり、前記第1径を有する前記シリンダボア内を往復移動する前記ピストンのストロークが、前記第1径より長い第1ストロークである。
【0025】
この構成によると、エンジンユニットはロングストロークエンジンユニットである。
ロングストロークエンジンユニットとショートストロークエンジンユニットの排気量が同一の場合は、シリンダボアの中心軸線であるシリンダ軸線と平行な方向の長さは、ロングストロークエンジンユニットの方がショートストロークエンジンユニットよりも相対的に長い。そのため、シリンダボアの内面と吸入空気との間の接触面積が広いので、ロングストロークエンジンユニットの吸入空気の温度の上昇量はショートストロークエンジンユニットの場合より相対的に大きい。また、ロングストロークエンジンユニットとショートストロークエンジンユニットのエンジン回転速度が同じ場合は、ロングストロークエンジンユニットの方がショートストロークエンジンユニットより、平均ピストンスピードが高い。そのため、吸入空気の吸入速度は、ロングストロークエンジンユニットの方がショートストロークエンジンユニットより大きい。そのため、流体の乱れの大きさに比例して増大する熱伝達率が、ロングストロークエンジンユニットの方がショートストロークエンジンユニットより大きくなる。そのため、ロングストロークエンジンユニットの方がショートストロークエンジンユニットより、吸入空気の温度の上昇量が大きい。
この構成によると、冷却液の温度が高温領域にあるときに、冷却液を冷却するための装置である冷却液ポンプ装置および/またはラジエータを大型化および複雑化させなくても、シリンダボディの温度を十分に低下させることが可能である。
そのため、冷却液の温度が高温領域にあるときに、冷却液によってロングストロークエンジンユニットのシリンダボディの温度を十分に低下させることが可能である。その結果、吸入行程中の吸入空気とシリンダボアとの熱交換を抑制し、吸入空気の温度上昇量を低減させることが可能である。そのため、ノッキングがロングストロークエンジンユニットで発生し難い。
【0026】
(9)本発明の1つの観点によると、本発明のエンジンユニットは、以下の構成を有することが好ましい。
前記エンジンユニットが、吸気口が形成された燃焼室と、前記シリンダヘッドに形成され、前記吸気口に接続される第1吸気通路部と、前記第1吸気通路部の空気の流れ方向における上流端に接続されかつスロットルバルブが配置される、前記シリンダヘッドの外部に配置される第2吸気通路部と、前記第1吸気通路部内または前記第2吸気通路部内で燃料を噴射する燃料噴射装置と、を有する。
【0027】
この構成によると、エンジンユニットは第1吸気通路部内または第2吸気通路部内で燃料を噴射する燃料噴射装置を備える。そのため、燃焼室内で燃料を噴射する燃料噴射装置を備える直噴式のエンジンユニットと比べて、シリンダヘッドおよびシリンダボディが高温になり易い。そのため、冷却液によるシリンダヘッドおよびシリンダボディの冷却効果が大きい。
【0028】
(10)本発明の1つの観点によると、本発明のエンジンユニットは、以下の構成を有することが好ましい。
前記エンジンユニットが、前記燃焼室内において、空気と燃料との混合気に点火する点火プラグを有する。
【0029】
(11)本発明の1つの観点によると、本発明のエンジンユニットは、以下の構成を有することが好ましい。
前記シリンダボアの中心軸線であるシリンダ軸線が、前記エンジンユニットが搭載される車両の上下方向に対して傾斜する。
前記エンジンユニットが、排気口が形成された燃焼室と、前記シリンダヘッドに形成され、前記排気口に接続される第1排気通路部と、前記第1排気通路部の気体の流れ方向における下流端に接続された、前記シリンダヘッドの外部に配置される第2排気通路部と、を有する。
前記エンジンユニットが搭載される車両の上下方向を上下方向とした場合に、前記シリンダヘッドの下向きの外面に、前記第1排気通路部の前記下流端が形成される。
【0030】
(12)本発明の1つの観点によると、本発明のエンジンユニットは、以下の構成を有することが好ましい。
前記シリンダボディに前記シリンダボアが1つのみ形成される。
【0031】
<用語の定義>
本発明において冷却液とは、冷却機能を有する液体を意味する。冷却液には冷却水が含まれる。冷却水は、水を含む液体である。冷却液は、水を含まない液体であってもよい。冷却液には、ピストン等を潤滑するための潤滑油は含まれない。冷却液は、潤滑油以外の油を含んでもよく、含まなくてもよい。
【0032】
本発明において「切換弁が第1状態にあるとき、冷却液および空気の少なくとも一方が、ラジエータを介してシリンダボディに形成された冷却液通路部内に流入し」とは、切換弁が第1状態にあるとき、切換弁を通り抜けて冷却液ポンプ装置に流入する冷却液よりも、単位時間当たりの量が少ない冷却液が、切換弁を通り抜けて、ラジエータを介してシリンダボディに形成された冷却液通路部内に流入すること、および/または、切換弁が第1状態にあるとき、切換弁を通り抜けて冷却液ポンプ装置に流入する空気よりも、単位時間当たりの量が少ない空気が、切換弁を通り抜けて、ラジエータを介してシリンダボディに形成された冷却液通路部内に流入すること、を意味する。
【0033】
本発明において「冷却液ポンプ装置が、クランクシャフトの動きとは独立して、停止状態と作動状態とに切り換えられる」とは、冷却液ポンプ装置が、クランクシャフトの動きとは無関係に、停止状態と作動状態とに切り換えられること、を意味する。即ち、クランクシャフトが回転していないときに、冷却液ポンプ装置は停止状態と作動状態の何れになることも可能である。また、クランクシャフトが回転しているときに、冷却液ポンプ装置は停止状態と作動状態の何れになることも可能である。
【0034】
本発明および本明細書において、車両の上下方向とは、車両が鞍乗型車両である水上バイクである場合は、静水に浮かべられた水上バイクが静止状態にあるときの水上バイクの上下方向である。
【0035】
本発明および本明細書において、シリンダ軸線が、エンジンユニットが搭載される車両の上下方向に対して交差するとは、シリンダ軸線が水平なことを含む意味である。
【0036】
本発明および本明細書において、回転とは、360°以上の回転に限定されない。本明細書における回転は、360°未満の回転も含む。正転および逆転の定義も、回転のこの定義と同様である。本明細書における揺動は、360°未満の回転を意味する。
【0037】
本発明および本明細書において、ある部品の端部とは、部品の端とその近傍部とを合わせた部分を意味する。
【0038】
本明細書にて使用される用語「および/または」はひとつの、または複数の関連した列挙された構成物のあらゆるまたはすべての組み合わせを含む。
【0039】
本発明における通路部とは、経路を囲んで経路を形成する壁体等を意味する。また、経路とは対象が通過する空間を意味する。例えば、冷却液通路部、バイパス通路部、吸気通路部、および排気通路部にこの定義が適用される。
【0040】
本明細書において、AがBよりも前方向にあるとは、特に限定しない限り、以下の状態を指す。Aが、Bの最前端を通り前後方向に直交する平面によって仕切られる2つの空間のうち前方の空間にある。AとBは、前後方向に並んでいてもよく、並んでいなくてもよい。Bが前後方向に直交する平面または直線の場合、Bの最前端を通る平面とは、Bを通る平面のことである。Bが前後方向の長さが無限の直線または平面である場合、Bの最前端は特定されない。前後方向の長さが無限の直線または平面とは、前後方向に平行な直線または平面に限らない。
なお、Bについて同じ条件の元、AがBより後方向にあるという表現にも、同様の定義が適用される。また、Bについて同様の条件の元、AがBより上方向または下方向にある、AがBより右方向または左方向にあるという表現にも、同様の定義が適用される。
【0041】
本明細書中で使用される場合、用語「含む、備える(comprising)」または「有する(having)」およびその変形の使用は、記載された特徴、行程、操作、要素、成分および/またはそれらの等価物の存在を特定するが、ステップ、動作、要素、コンポーネント、および/またはそれらのグループのうちの1つまたは複数を含むことができる。
【0042】
本発明において、取り付けられた(mounted)、接続された(connected)、結合された(coupled)、支持された(supported)という用語は、広義に用いられている。具体的には、直接的な取付、接続、結合、支持だけでなく、間接的な取付、接続、結合および支持も含む。さらに、接続された(connected)および結合された(coupled)は、物理的又は機械的な接続/結合に限られない。それらは、直接的なまたは間接的な電気的接続/結合も含む。
【0043】
他に定義されない限り、本明細書で使用される全ての用語(技術用語および科学用語を含む)は、本発明が属する当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。一般的に使用される辞書に定義された用語のような用語は、関連する技術および本開示の文脈における意味と一致する意味を有すると解釈されるべきであり、本明細書で明示的に定義されない限り、理想化されたまたは過度に形式的な意味で解釈されることはない。
【0044】
本明細書において、「好ましい」という用語は非排他的なものである。「好ましい」は、「好ましいがこれに限定されるものではない」ということを意味する。本明細書において、「好ましい」と記載された構成は、少なくとも、上記(1)の構成により得られる上記効果を奏する。また、本明細書において、「してもよい」という用語は非排他的なものである。「してもよい」は、「してもよいがこれに限定されるものではない」という意味である。本明細書において、「してもよい」と記載された構成は、少なくとも、上記(1)の構成により得られる上記効果を奏する。
【0045】
特許請求の範囲において、ある構成要素の数を明確に特定しておらず、英語に翻訳された場合に単数で表示される場合、本発明は、この構成要素を、複数有していてもよい。また本発明は、この構成要素を1つだけ有していてもよい。
【0046】
本発明では、上述した好ましい構成を互いに組み合わせることを制限しない。本発明の実施形態を詳細に説明する前に、本発明は、以下の説明に記載されたまたは図面に図示された構成要素の構成および配置の詳細に制限されないことが理解されるべきである。本発明は、後述する実施形態以外の実施形態でも可能である。本発明は、後述する実施形態に様々な変更を加えた実施形態でも可能である。また、本発明は、後述する実施形態および変形例を適宜組み合わせて実施することができる。
【発明の効果】
【0047】
本発明のエンジンユニットは、冷却液を冷却するための装置を大型化および複雑化させない場合であっても、ノッキングがエンジンユニットで発生し難い。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【
図1】本発明の実施形態のエンジンユニットの概要構成図である。
【
図2】本発明の実施形態の具体例に係る自動二輪車の右側面図である。
【
図3】エンジンユニットの構成を説明するための模式図である。
【
図4】冷却液の温度が第1低温領域にあるときの冷却液の流れを説明するためのエンジンユニットの模式図である。
【
図5】冷却液の温度が高温領域にあるときの冷却液の流れを説明するためのエンジンユニットの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0049】
<本発明の実施形態>
以下、本発明の実施形態について
図1を参照しつつ説明する。本発明の実施形態のエンジンユニット11は、シリンダボディ20B、シリンダヘッド20C、冷却液通路部41、冷却液ポンプ装置42、およびラジエータ44、を備える。
【0050】
シリンダボディ20Bには、少なくとも1つのシリンダボア20Baが形成される。シリンダヘッド20Cは、シリンダボディ20Bに接続される。冷却液通路部41の少なくとも一部は、シリンダヘッド20Cおよびシリンダボディ20Bを通る。冷却液通路部41の内部を冷却液が循環可能である。冷却液ポンプ装置42は、冷却液通路部41に設けられる。冷却液ポンプ装置42は、冷却液を圧送して冷却液を冷却液通路部41内で循環させる。ラジエータ44は、冷却液通路部41に設けられる。
【0051】
エンジンユニット11は、冷却液の温度が第1低温領域にあるときは、ラジエータ44およびシリンダボディ20Bを通らずに、冷却液ポンプ装置42、シリンダヘッド20C、冷却液ポンプ装置42の順で冷却液通路部41内を冷却液が流れるように構成される。エンジンユニット11は、冷却液の温度が第1低温領域より高い高温領域にあるときは、冷却液ポンプ装置42、シリンダヘッド20C、ラジエータ44、シリンダボディ20B、冷却液ポンプ装置42の順で冷却液通路部41内を冷却液が流れるように構成される。
【0052】
本発明の実施形態のエンジンユニット11の冷却液の温度が第1低温領域にあるときに、冷却液がシリンダボディ20Bに流れない。そのため、エンジンユニット11が暖機運転を行うときにシリンダボディ20Bの温度が比較的早く上昇する。
【0053】
また、冷却液の温度が高温領域にあるときに、ラジエータ44によって冷却された冷却液が、シリンダボディ20Bに直接流れる。換言すると、ラジエータ44によって冷却された冷却液が、冷却液ポンプ装置42およびシリンダヘッド20Cを介さずに、シリンダボディ20Bに供給される。換言すると、ラジエータ44によって冷却された冷却液は、シリンダヘッド20Cにより温められることなく、シリンダボディ20Bに供給される。そのため、冷却液を冷却するための装置である冷却液ポンプ装置42および/またはラジエータ44を大型化および複雑化させなくても、ラジエータ44によって冷却された冷却液が冷却液ポンプ装置42およびシリンダヘッド20Cを介してシリンダボディ20Bに供給される場合と比べて、冷却液によってシリンダボディ20Bの温度をより低下させることが可能である。即ち、例えば、冷却液ポンプ装置42が発生可能な圧力の大きさおよび/またはラジエータ44の熱交換機能を高くすることなく、シリンダボディ20B(シリンダボア20Ba)の温度を十分に低下させることが可能になる。そのため、エンジンユニット11が吸入行程を実行中にシリンダボア20Baに流入した空気である吸入空気とシリンダボア20Baとの熱交換によって、吸入空気の温度が大幅に上昇することを抑制可能である。
【0054】
そのため、冷却液を冷却するための装置である冷却液ポンプ装置42および/またはラジエータ44を大型化および複雑化させなくても、ノッキングがエンジンユニット11で発生し難い。
【0055】
<実施形態の具体例>
次に、上述した本発明の実施形態の具体例について、
図2~
図5を用いて説明する。以下の説明において、上述した本発明の実施形態と同じ部位についての説明は省略する。具体例は上述した本発明の実施形態に包含される。本実施形態の具体例は、本発明を自動二輪車1に適用した一例である。以下の説明において、特に限定が無い限り、前後方向とは、車両の前後方向のことである。車両の前後方向とは、自動二輪車1の後述するシート5に着座したライダーから見た前後方向のことである。以下の説明において、左右方向とは、車両の左右方向のことである。車両の左右方向とは、自動二輪車1の後述するシート5に着座したライダーから見た左右方向のことである。車両の左右方向は、自動二輪車1の車幅方向でもある。以下。車両の上下方向とは、全ての車輪が水平な路面に接触した自動二輪車1を水平な路面に直立させた状態における上下方向である。車両前後方向と車両左右方向と車両上下方向は互いに直交する。
図2の説明において、特に限定が無い限り、上下方向とは、車両の上下方向のことであるに示す矢印F、矢印B、矢印U、矢印Dは、それぞれ、前方、後方、上方、下方を表している。
【0056】
[1]自動二輪車の概略構成
図2に示すように、自動二輪車1は、前輪2と、後輪3と、車体フレーム4とを含む。車体フレーム4の上部にはシート5が支持されている。車体フレーム4には、エンジンユニット11を支持する。また、車体フレーム4は、エンジンユニット11の後述するECU(Electronic Control Unit)80、冷却液ポンプ装置42、および各種センサなどの電子機器に電力を供給するバッテリ(図示せず)を支持する。
【0057】
[2]エンジンユニットの構成
以下、エンジンユニット11の構成について説明する。
図3は、エンジンユニット11の構成を示す模式図である。エンジンユニット11は、エンジン本体20と、冷却ユニット40と、外部吸気通路部51と、外部排気通路部61とを有する。冷却ユニット40、外部吸気通路部51、および外部排気通路部61は、エンジン本体20の外部に位置する。エンジン本体20の内部には、クランクシャフト21、ピストン22、吸気バルブ25、排気バルブ26、点火プラグ27、燃料噴射装置28の少なくとも一部が配置される。エンジンユニット11は、単気筒エンジンユニットである。エンジンユニット11は、吸入行程、圧縮行程、燃焼行程(膨張行程)、および排気行程を繰り返す4ストローク式のエンジンである。
【0058】
エンジン本体20は、クランクケース20A、シリンダボディ20B、シリンダヘッド20C、および、ヘッドカバー20Dを有する。これらはこの順で連結されている。クランクシャフト21は、クランクケース20Aに回転可能に設けられる。クランクシャフト21の回転中心軸線は、左右方向と平行である。クランクケース20Aは、潤滑油を貯留するオイルパンを有する。クランクケース20Aの内部には、潤滑油を圧送するオイルポンプ(図示せず)が配置されている。オイルポンプはクランクシャフト21の回転力によって動作する。なお、ヘッドカバー20Dは、シリンダヘッド20Cと一体化されていてもよい。
【0059】
シリンダボディ20Bは、シリンダボア20Baを有する。シリンダボア20Baの中心軸であるシリンダ軸線20Xが、上下方向に対して傾斜する。
図2に示すように、エンジンユニット11を左右方向に見たときに、シリンダ軸線20Xの上部は下部よりも前方に位置する。エンジンユニット11を左右方向に見たときに、シリンダ軸線20Xの上下方向に対する傾斜角度は0°より大きく45°以下である。なお、シリンダ軸線20Xは、シリンダボア20Baが存在する領域だけに存在する線分ではなく、無限に延びる直線である。ピストン22は、シリンダボア20Ba内に、シリンダ軸線20Xに沿って往復動可能に設けられる。ピストン22は、コネクティングロッド23を介してクランクシャフト21に連結される。
図3に示すように、ピストン22の往復移動時のストロークである第1ストロークStは、シリンダボア20Baの径である第1径Dbより長い。即ち、具体例のエンジンユニット11は、ロングストロークエンジンユニットである。
【0060】
エンジン本体20は、燃焼室24、シリンダヘッド吸気通路部20Ca、およびシリンダヘッド排気通路部20Cbを有する。なお、本明細書において、通路部とは、経路を形成する構造物を意味する。燃焼室24は、シリンダヘッド20C、シリンダボア20Ba、およびピストン22によって形成される。燃焼室24は、シリンダヘッド20Cに形成された吸気口24aおよび排気口24bを有する。空気は吸気口24aから燃焼室24に供給される。燃焼室24で発生した排ガスは排気口24bから排出される。シリンダヘッド吸気通路部20Caおよびシリンダヘッド排気通路部20Cbは、シリンダヘッド20Cに形成される。シリンダヘッド吸気通路部20Caは、吸気口24aに接続される。シリンダヘッド排気通路部20Cbは、排気口24bに接続される。
【0061】
シリンダヘッド吸気通路部20Caの空気の流れ方向の上流端は、外部吸気通路部51に接続される。外部吸気通路部51内には、スロットルバルブ52が配置される。大気中の空気は、外部吸気通路部51およびシリンダヘッド吸気通路部20Caを通って、燃焼室24に供給される。
【0062】
シリンダヘッド排気通路部20Cbの排ガスの流れ方向の下流端は、シリンダヘッド20Cの前面20C3に形成された開口部(図示せず)である。前面20C3は、シリンダヘッド20Cの下向きの外面である。シリンダヘッド排気通路部20Cbの排ガスの流れ方向の下流端は、外部排気通路部61に接続される。外部排気通路部61内には、排ガスを浄化する触媒(図示せず)が配置される。燃焼室24で発生した排ガスは、シリンダヘッド排気通路部20Cbと外部排気通路部61を通って、大気に排出される。
【0063】
吸気バルブ25は、吸気口24aを開閉するようにシリンダヘッド20Cに設けられる。排気バルブ26は、排気口24bを開閉するようにシリンダヘッド20Cに設けられる。吸気バルブ25および排気バルブ26は、図示しないバルブ駆動機構によって駆動される。
【0064】
図3に示すように、点火プラグ27の先端部が、燃焼室24内に配置される。点火プラグ27は、燃焼室24内の燃料(例えばガソリン)と空気とを含む混合気に点火する。燃料噴射装置28は、シリンダヘッド吸気通路部20Ca内で燃料を噴射するようにシリンダヘッド20Cに設けられる。なお、燃料噴射装置28は、外部吸気通路部51内で燃料を噴射するように配置されてもよい。
【0065】
エンジン本体20の内部には、冷却液通路部41の一部が形成されている。冷却液は、冷却液通路部41を循環する。冷却液通路部41は、エンジン本体20の内部に形成された、シリンダヘッド冷却液通路部41b、シリンダボディ冷却液通路部41f、およびバイパス通路部41gを含む。シリンダヘッド冷却液通路部41bは、シリンダヘッド20Cの内部に形成される。シリンダヘッド冷却液通路部41bの冷却液の流れ方向における上流端は、シリンダヘッド20Cの外面に形成された第1開口部20C1(
図4および
図5参照)である。シリンダヘッド冷却液通路部41bの下流端は、シリンダヘッド20Cの外面に形成された第2開口部20C2(
図4および
図5参照)である。シリンダボディ冷却液通路部41fは、シリンダボディ20Bの内部に形成される。シリンダボディ冷却液通路部41fの冷却液の流れ方向における上流端は、シリンダボディ20Bの外面に形成された第3開口部20B1(
図4および
図5参照)である。シリンダボディ冷却液通路部41fの下流端は、シリンダボディ20Bの外面に形成された第4開口部20B2(
図4および
図5参照)である。バイパス通路部41gは、シリンダボディ20Bおよびシリンダヘッド20Cの内部に形成される。バイパス通路部41gの冷却液の流れ方向における上流端は、シリンダボディ冷却液通路部41fに接続されている。バイパス通路部41gの冷却液の流れ方向における下流端は、シリンダヘッド冷却液通路部41bに接続されている。シリンダヘッド20Cには、冷却液通路部41を流れる冷却液の温度を検出する冷却液温度センサ29が設けられている。
【0066】
図2~
図5に示すように、エンジンユニット11の冷却ユニット40は、冷却液ポンプ装置42、切換弁43、ラジエータ44、ファン(図示せず)を有している。さらに、冷却ユニット40は、冷却液通路部41の一部を含む。
【0067】
冷却液ポンプ装置42は、電動冷却液ポンプ装置である。冷却液ポンプ装置42は、エンジン本体20の任意の部位に固定可能である。
図3の例では、冷却液ポンプ装置42は、クランクケース20Aの外面に固定されている。冷却液ポンプ装置42は、電動モータと、電動モータの駆動力によって回転するポンプと、を有している。電動モータは、上記バッテリの電力が供給されたときに回転する。冷却液ポンプ装置42は、クランクシャフト21およびクランクシャフト21に連動して回転するカムシャフトの動きとは独立して、停止状態と作動状態とに切り換えられる。即ち、クランクシャフト21が回転していないときに、冷却液ポンプ装置42は停止状態と作動状態の何れになることも可能である。また、クランクシャフト21が回転しているときに、冷却液ポンプ装置42は停止状態と作動状態の何れになることも可能である。
【0068】
切換弁43はサーモスタット弁である。切換弁43は、シリンダボディ20Bおよびシリンダヘッド20Cの少なくとも一方の外面に固定されている。切換弁43は、シリンダボディ20Bおよびシリンダヘッド20Cとは別体である。
図4および
図5に示すように、切換弁43のケース43aには、第1入口43b1、第2入口43b2、第1出口43c1、および第2出口43c2が形成されている。即ち、切換弁43は4方弁である。ケース43aの内部には、低温位置と高温位置との間を移動可能な可動弁体43dが設けられている。可動弁体43dは、切換弁43を流れる冷却液の温度によって、低温位置から高温位置へ、または、高温位置から低温位置へ移動する。
【0069】
冷却液の温度が第1低温領域のとき、および、第1低温領域より低い第2低温領域のとき、可動弁体43dは
図4に示す低温位置に位置する。即ち、ケース43a内の冷却液の温度が、第1低温領域および第2低温領域のいずれのときも、可動弁体43dは
図4に示す低温位置に位置する。このときの切換弁43の状態が第1状態である。冷却液の温度が第1低温領域より高い高温領域のとき、可動弁体43dは
図5に示す高温位置に位置する。即ち、ケース43a内の冷却液の温度が高温領域のとき、可動弁体43dは
図5に示す高温位置に位置する。このときの切換弁43の状態が第2状態である。切換弁43はいかなる方式のサーモスタット弁であってよい。例えば、切換弁43はバイメタルを利用した機械式サーモスタット弁であってよい。切換弁43はワックスを利用した膨張式サーモスタット弁であってよい。
図2に示すように、ラジエータ44は、エンジン本体20の上部より前方に配置されている。エンジン本体20とラジエータ44との間にはファン(図示せず)が設けられている。
【0070】
切換弁43の第1入口43b1は、シリンダヘッド冷却液通路部41bの下流端である第2開口部20C2に接続されている。切換弁43の第2入口43b2は、シリンダボディ冷却液通路部41fの下流端である第4開口部20B2に接続されている。
【0071】
冷却ユニット40は、第1通路部41a、第2通路部41c、ラジエータ送り通路部41d、およびラジエータ戻り通路部41eを有する。第1通路部41a、第2通路部41c、ラジエータ送り通路部41d、およびラジエータ戻り通路部41eは、冷却液通路部41に含まれる。第1通路部41aの冷却液の流れ方向における上流端は、冷却液ポンプ装置42に接続されている。第1通路部41aの下流端は、シリンダヘッド冷却液通路部41bの上流端である第1開口部20C1に接続されている。第2通路部41cの冷却液の流れ方向における上流端は、切換弁43の第2出口43c2に接続されている。第2通路部41cの下流端は、冷却液ポンプ装置42に接続されている。ラジエータ送り通路部41dの冷却液の流れ方向における上流端は、切換弁43の第1出口43c1に接続されている。ラジエータ送り通路部41dの下流端は、ラジエータ44に接続されている。ラジエータ戻り通路部41eの冷却液の流れ方向における上流端は、ラジエータ44に接続されている。ラジエータ戻り通路部41eの下流端は、シリンダボディ冷却液通路部41fの上流端である第3開口部20B1に接続されている。
【0072】
ECU80(
図2参照)は、エンジンユニット11の動作を制御する。ECU80は、点火プラグ27、燃料噴射装置28、および冷却液ポンプ装置42などを制御する。ECU80は、プロセッサ(演算処理部)およびメモリを含む。ECU80は、離れた位置に配置された複数の装置で構成されていてもよい。ECU80は、冷却液温度センサ29等の各種センサと電気的に接続される。
【0073】
[3]冷却ユニットにおける冷却液の流れ
エンジンユニット11が始動すると、ECU80は、冷却液温度センサ29から送信された検出結果に基づいて冷却液ポンプ装置42を制御する。冷却液温度センサ29によって検出された冷却液の温度が第2低温領域にあるとき、ECU80の制御により、バッテリの電力は冷却液ポンプ装置42に供給されない。そのため、冷却液温度センサ29によって検出された冷却液の温度が第2低温領域にあるとき、冷却液ポンプ装置42は停止状態になる。このとき切換弁43の可動弁体43dは
図4に示す低温位置に位置する。このとき、可動弁体43dが、第1入口43b1から第2出口43c2へ冷却液が流れるのを許容する。エンジンユニット11が始動すると、シリンダボディ20Bおよびシリンダヘッド20Cの温度が上昇する。そして、シリンダボディ20Bおよびシリンダヘッド20Cの熱が冷却液に伝わる。そのため、少量の冷却液が、冷却液ポンプ装置42→第1通路部41a→シリンダヘッド冷却液通路部41b→第1入口43b1→第2出口43c2→第2通路部41c→冷却液ポンプ装置42の順で冷却液通路部41内を対流する。一方、このとき、可動弁体43dは、第1入口43b1から第1出口43c1へ冷却液が流れるのを殆ど阻止し、かつ、第2入口43b2から第1出口43c1および第2出口43c2へ冷却液が流れるのを阻止する。但し、このとき、第1入口43b1から第1出口43c1へ冷却液および空気の少なくとも一方が僅かに流れる。
このように冷却液の温度が第2低温領域にあるとき、シリンダボディ20Bの内部およびシリンダヘッド20Cの内部にある冷却液は殆ど流れない。そのため、エンジンユニット11の始動時にシリンダボディ20Bおよびシリンダヘッド20Cの温度が比較的早く上昇し、エンジン本体20を流れる潤滑油の粘度が比較的早く低下する。そのため、エンジンユニット11の始動時にエンジンユニット11の摩擦損失が低減する。
【0074】
また、冷却液の温度が第2低温領域にあるとき、ラジエータ戻り通路部41e内を対流する冷却液がシリンダボディ20Bの内部に設けられたシリンダボディ冷却液通路部41fに流れる。すると、シリンダボディ冷却液通路部41fに流入した冷却液の圧力によって、シリンダボディ冷却液通路部41f内に存在していた冷却液および空気の少なくとも一方が、バイパス通路部41gを通ってシリンダヘッド冷却液通路部41bへ流れる。仮に、冷却液通路部41がバイパス通路部41gを具備しない場合は、シリンダボディ冷却液通路部41f内にある少量の冷却液がシリンダボディ20Bの熱によって沸騰するおそれがある。しかし、具体例の冷却液通路部41はバイパス通路部41gを具備するので、シリンダボディ冷却液通路部41f内にある冷却液がバイパス通路部41gを通ってシリンダヘッド冷却液通路部41bへ流れる。そのため、シリンダボディ冷却液通路部41f内にある冷却液が沸騰するおそれは小さい。また、冷却液通路部41がバイパス通路部41gを具備せずかつ冷却液通路部41内に空気が存在する場合は、シリンダボディ冷却液通路部41f内に空気が残留するおそれがある。空気は冷却液より熱伝導率が低い。そのため、シリンダボディ冷却液通路部41f内に空気が残留する場合は、シリンダボディ20Bが冷却され難くなる。しかし、具体例の冷却液通路部41はバイパス通路部41gを具備するので、シリンダボディ冷却液通路部41f内に空気が残留しない。そのため、シリンダボディ冷却液通路部41f内の冷却液によって、シリンダボディ20Bを冷却できる。なお、冷却液の温度が第1低温領域および高温領域にあるときも、シリンダボディ冷却液通路部41f内にある冷却液および空気の少なくとも一方は、バイパス通路部41gを通ってシリンダヘッド冷却液通路部41bへ流れる。
【0075】
冷却液温度センサ29によって検出された冷却液の温度が第1低温領域にあるとき、ECU80の制御により、バッテリの電力が冷却液ポンプ装置42に供給される。そのため、冷却液ポンプ装置42が作動して冷却液通路部41内の冷却液を圧送する。また、切換弁43の可動弁体43dは
図4に示す低温位置に位置する。そのため、冷却液は
図4の矢印の方向に沿って冷却液通路部41内を循環する。即ち、冷却液が、冷却液ポンプ装置42→第1通路部41a→シリンダヘッド冷却液通路部41b→第1入口43b1→第2出口43c2→第2通路部41c→冷却液ポンプ装置42の順で冷却液通路部41内を循環する。上述のように、このとき可動弁体43dは、第1入口43b1から第1出口43c1へ冷却液が流れるのを殆ど阻止する。そのため、切換弁43内にある冷却液は、ラジエータ送り通路部41d、ラジエータ44、ラジエータ戻り通路部41e、およびシリンダボディ冷却液通路部41fへ殆ど流れない。このように冷却液の温度が第1低温領域にあるとき、冷却液がシリンダボディ20Bに殆ど流れない。そのため、エンジンユニット11の始動時にシリンダボディ20Bの温度が比較的早く上昇し、エンジン本体20内の潤滑油の粘度が比較的早く低下する。そのため、エンジンユニット11の始動時にエンジンユニット11の摩擦損失が低減する。
【0076】
冷却液温度センサ29によって検出された冷却液の温度が高温領域にあるとき、ECU80の制御により、バッテリの電力が冷却液ポンプ装置42に供給される。そのため、冷却液ポンプ装置42が作動して冷却液通路部41内の冷却液を圧送する。また、切換弁43の可動弁体43dは
図5に示す高温位置に位置する。そのため、冷却液は
図5の矢印の方向に沿って冷却液通路部41内を循環する。即ち、冷却液が、冷却液ポンプ装置42→第1通路部41a→シリンダヘッド冷却液通路部41b→第1入口43b1→第1出口43c1→ラジエータ送り通路部41d→ラジエータ44→ラジエータ戻り通路部41e→シリンダボディ冷却液通路部41f→第2入口43b2→第2出口43c2→第2通路部41c→冷却液ポンプ装置42の順で冷却液通路部41内を循環する。
このように冷却液の温度が高温領域にあるとき、ラジエータ44によって冷却された冷却液が、冷却液ポンプ装置42およびシリンダヘッド20Cを介さずに、シリンダボディ20Bに供給される。そのため、冷却液によってシリンダボディ20Bの温度を低下させることが可能である。そのため、ノッキングがエンジンユニット11で発生し難い。ノッキングとは、燃焼室内において異常燃焼が発生することで、金属性の打撃音または打撃的な振動が発生する現象である。
【0077】
以上、本発明の実施形態の具体例について説明した。本発明の実施形態の具体例は、上述した本発明の実施形態の効果に加えて、以下の効果を奏する。
【0078】
具体例のエンジンユニット11は、1つの切換弁43を用いることによって、シリンダボディ20Bの温度を十分に低下させるように、冷却液を冷却液通路部41内で循環させる。即ち、吸入空気とシリンダボアとの熱交換によって、燃焼室24に吸入される空気である吸入空気の温度が大幅に上昇することが、1つの切換弁43を用いることによって抑制される。そのため、冷却液を冷却するための装置である冷却液ポンプ装置42および/またはラジエータ44を大型化および複雑化させなくても、ノッキングがエンジンユニット11で発生し難い。
【0079】
冷却液ポンプ装置42が、クランクシャフト21の動きとは独立して、停止状態と作動状態とに切り換え可能に構成された電動冷却液ポンプ装置である。そのため、冷却液の温度が第2低温領域にありかつエンジンユニット11が作動状態にあるときに、冷却液ポンプ装置42を停止状態にすることが可能である。そのため、エンジンユニット11の始動時にシリンダボディ20Bおよびシリンダヘッド20Cの温度が比較的早く上昇し、エンジン本体20内の潤滑油の粘度が比較的早く低下する。そのため、エンジンユニット11の始動時にエンジンユニット11の摩擦損失が低減する。
【0080】
具体例のエンジンユニット11は、ロングストロークエンジンユニットである。ロングストロークエンジンユニットとショートストロークエンジンユニットの排気量が同一の場合は、シリンダボアの中心軸線であるシリンダ軸線と平行な方向の長さは、ロングストロークエンジンユニットの方がショートストロークエンジンユニットよりも相対的に長い。そのため、シリンダボアの内面と吸入空気との間の接触面積が広いので、ロングストロークエンジンユニットの吸入空気の温度の上昇量はショートストロークエンジンユニットの場合より相対的に大きい。また、ロングストロークエンジンユニットとショートストロークエンジンユニットのエンジン回転速度が同じ場合は、ロングストロークエンジンユニットの方がショートストロークエンジンユニットより、平均ピストンスピードが高い。そのため、吸入空気の吸入速度は、ロングストロークエンジンユニットの方がショートストロークエンジンユニットより大きい。そのため、流体の乱れの大きさに比例して増大する熱伝達率が、ロングストロークエンジンユニットの方がショートストロークエンジンユニットより大きくなる。そのため、ロングストロークエンジンユニットの方がショートストロークエンジンユニットより、吸入空気の温度の上昇量が大きい。具体例のエンジンユニット11は、冷却液の温度が高温領域にあるときに、冷却液を冷却するための装置である冷却液ポンプ装置42および/またはラジエータ44を大型化および複雑化させなくても、シリンダボディ20Bの温度を十分に低下させることが可能である。そのため、冷却液の温度が高温領域にあるときに、冷却液によってロングストロークエンジンユニットであるエンジンユニット11のシリンダボディ20Bの温度を十分に低下させることが可能である。その結果、吸入行程中の吸入空気とシリンダボア20Baとの熱交換を抑制し、吸入空気の温度上昇量を低減させることが可能である。そのため、ノッキングがロングストロークエンジンユニットであるエンジンユニット11で発生し難い。
【0081】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は上述した実施形態およびその具体例に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々な変更が可能である。以下、本発明の実施形態の変更例について説明する。
【0082】
本発明のエンジンユニットが電動冷却液ポンプ装置ではない冷却液ポンプ装置を具備してもよい。この冷却液ポンプ装置は、クランクシャフトの回転力によって動作する機械式冷却液ポンプ装置であってもよい。機械式冷却液ポンプ装置は、カムシャフトに接続されていてもよい。カムシャフトに接続された機械式ポンプ装置は、クランクシャフトの回転に連動してカムシャフトが回転したときに、カムシャフトの回転力によって動作する。機械式冷却液ポンプ装置は、クランクシャフトに接続されていてもよい。機械式冷却液ポンプ装置は、クランクシャフトおよびカムシャフトとは異なる回転可能なシャフトに接続されていてもよい。
【0083】
本発明の冷却液ポンプ装置が、マグネット駆動式ポンプ装置であってもよい。マグネット駆動式ポンプ装置は、ポンプに永久磁石が設けられる。この永久磁石は、回転可能な磁性材料製のシャフトに磁力を及ぼす。例えば、永久磁石がポンプのインペラに固定され、かつ、シャフトがカムシャフトの場合を想定する。この場合は、カムシャフトが回転すると、永久磁石が発生する磁力によって、インペラがカムシャフトと一緒に回転する。
【0084】
本発明の冷却液ポンプ装置は、エンジン本体のクランクケースとは異なる部位に設けられてもよい。例えば、本発明の冷却液ポンプ装置は、シリンダボディに設けられてもよい。
【0085】
本発明の単気筒エンジンユニットであるエンジンユニットのシリンダボアの径が、ピストンのストロークより大きくてもよい。つまり、本発明の単気筒エンジンユニットは、ショートストロークエンジンユニットでもよい。
【0086】
本発明のエンジンユニットが、1つの燃焼室に対して複数の吸気口を有していてもよい。本発明のエンジンユニットが、1つの燃焼室に対して複数の排気口を有していてもよい。
【0087】
本発明のエンジンユニットが、複数のシリンダボアを有する多気筒エンジンユニットであってもよい。この場合、全てのシリンダボアの径が第1径であり、かつ、各シリンダボア内を往復移動する全てのピストンのストロークが、第1径より長い第1ストロークであってもよい。また、この場合に、一部のシリンダボアの径が第1径であり、第1径を有する各シリンダボア内を往復移動するピストンのストロークが、第1径より長い第1ストロークであってもよい。また、この場合に、全てのシリンダボアの径が、各シリンダボア内を往復移動するピストンのストロークより大きくてもよい。
【0088】
本発明のエンジンユニットが多気筒エンジンユニットの場合、または、本発明のエンジンユニットが1つの燃焼室に対して複数の吸気口を有する場合、エンジンユニットは、複数の吸気口にそれぞれ接続される複数の第1吸気通路部と、複数の第1吸気通路部の上流端にそれぞれ接続される複数の分岐吸気通路部と、複数の分岐吸気通路部の上流端に接続される1つの集合吸気通路部を有してもよい。第2吸気通路部は、複数の分岐吸気通路部とサージタンクを有する。スロットルバルブは、各分岐吸気通路部の内部に配置されてもよい。スロットルバルブは、集合吸気通路部に配置されてもよい。この場合、スロットルバルブは、集合吸気通路部のサージタンクに配置される。スロットルバルブは、サージタンクに配置されなくてもよい。
【0089】
本発明のエンジンユニットが多気筒エンジンユニットの場合、または、本発明のエンジンユニットが1つの燃焼室に対して複数の吸気口を有する場合、第1吸気通路部は、複数の吸気口にそれぞれ接続される複数の分岐吸気通路部と、複数の分岐吸気通路部の上流端に接続される1つの集合吸気通路部とを有してもよい。
【0090】
本発明のエンジンユニットが多気筒エンジンユニットの場合、または、本発明のエンジンユニットが1つの燃焼室に対して複数の排気口を有する場合、エンジンユニットは、複数の排気口にそれぞれ接続される複数の第1排気通路部と、複数の第1排気通路部の下流端にそれぞれ接続される複数の第2排気通路部とを有してもよい。
【0091】
本発明のエンジンユニットが多気筒エンジンユニットの場合、または、本発明のエンジンユニットが1つの燃焼室に対して複数の排気口を有する場合、第1排気通路部は、複数の排気口にそれぞれ接続される複数の独立排気通路部と、複数の独立排気通路部の下流端に接続される1つの集合排気通路部とを有してもよい。
【0092】
本発明のエンジンユニットが、直噴式エンジンユニットであってもよい。直噴式エンジンユニットとは、燃焼室内で燃料が噴射されるタイプのエンジンユニットである。本発明のエンジンユニットが2ストロークエンジンユニットであってもよい。本発明のエンジンユニットがディーゼル式エンジンユニットであってもよい。ディーゼル式エンジンユニットは、点火プラグを有さない。本発明のエンジンユニットは、過給機を備えた過給エンジンであってもよい。過給機は、燃焼室に供給される空気を圧縮する装置である。過給機は、機械式過給機であってもよく、排気タービン式過給機(いわゆるターボチャージャ)であってもよい。
【0093】
本発明のエンジンユニットが、シリンダヘッドまたはシリンダボディの内部に配置され、かつ、冷却液通路部に設けられた切換弁を備えてもよい。
【0094】
本発明の切換弁はサーモスタット弁でなくてもよい。例えば、切換弁は、冷却液温度センサが検出した冷却液の温度に応じて、低温位置と高温位置との間を移動可能な可動弁体を有する電磁弁または電動弁であってもよい。
【0095】
本発明の切換弁は4方弁でなくてもよい。例えば、本発明の切換弁を3方弁とし、かつ、冷却液通路部に複数の3方弁を設けてもよい。この場合も、冷却液の温度が第1低温領域にあるときに、冷却液が、ラジエータおよびシリンダボディを通らずに、冷却液ポンプ装置、シリンダヘッド、冷却液ポンプ装置の順で冷却液通路部内を循環するようにする。また、冷却液の温度が高温領域にあるときに、冷却液が、冷却液ポンプ装置、シリンダヘッド、ラジエータ、シリンダボディ、冷却液ポンプ装置の順で冷却液通路部内を循環するようにする。
【0096】
本発明のエンジンユニットはバイパス通路部を備えなくてもよい。
【0097】
本発明のエンジンユニットが車両に搭載される場合、エンジンユニットのクランクシャフトの回転中心軸線は、車両左右方向に平行に限らない。例えば、クランクシャフトの回転中心軸線が、車両前後方向と平行であってもよい。
本発明のエンジンユニットが車両に搭載される場合、エンジン本体のシリンダボアの中心軸線であるシリンダ軸線の方向は、具体例の方向に限定されない。エンジンユニットを車両の左右方向に見たときに、シリンダ軸線は車両上下方向と平行であってもよい。エンジンユニットを車両の左右方向に見たときに、シリンダ軸線の上下方向に対する傾斜角度は、45°より大きく90°以下であってもよい。
【0098】
本発明のエンジンユニットが搭載される車両は、自動二輪車に限らない。本発明は、自動二輪車以外の鞍乗型車両に搭載されてもよい。鞍乗型車両とは、乗員が鞍にまたがるような状態で乗車する車両全般を指す。本発明のエンジンユニットが搭載される鞍乗型車両には、例えば、自動二輪車、三輪車、四輪バギー(ATV:All Terrain Vehicle(全地形型車両))、水上バイク、スノーモービル等が含まれる。自動二輪車としては、例えば、スクータ型、オフロード型、モペット型等がある。本発明のエンジンユニットは、鞍乗型車両以外の車両に搭載されてもよい。例えば、本発明のエンジンユニットは、鞍乗型車両ではない四輪車両(自動車)または船舶に搭載されてもよい。本発明が適用される車両は、駆動源としてエンジンユニットおよび電動モータを有するハイブリッド車両であってもよい。また、本発明のエンジンユニットは車両以外の装置に搭載されてもよい。
【符号の説明】
【0099】
11 エンジンユニット
20 エンジン本体
20A クランクケース
20Ba シリンダボア20Ba
20C シリンダヘッド
20Ca シリンダヘッド吸気通路部(第1吸気通路部)
20Cb シリンダヘッド排気通路部(第1排気通路部)
20X シリンダ軸線
22 ピストン
41 冷却液通路部
41g バイパス通路部
42 冷却液ポンプ装置(電動冷却液ポンプ装置)
43 切換弁
43b1 第1入口
43b2 第2入口
43c1 第1出口
43c2 第2出口
43d 可動弁体
44 ラジエータ
51 外部吸気通路部(第2吸気通路部)
61 外部排気通路部(第2排気通路部)
St 第1ストローク
Db 第1径