(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-29
(45)【発行日】2024-02-06
(54)【発明の名称】レーザ・アークハイブリッド溶接装置
(51)【国際特許分類】
B23K 26/348 20140101AFI20240130BHJP
B23K 9/16 20060101ALI20240130BHJP
B23K 26/00 20140101ALI20240130BHJP
B23K 26/323 20140101ALI20240130BHJP
B23K 26/073 20060101ALI20240130BHJP
【FI】
B23K26/348
B23K9/16 K
B23K26/00 N
B23K26/323
B23K26/073
(21)【出願番号】P 2020101505
(22)【出願日】2020-06-11
【審査請求日】2023-04-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤原 雅之
(72)【発明者】
【氏名】玉城 怜士
【審査官】山下 浩平
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-204090(JP,A)
【文献】特開2010-172911(JP,A)
【文献】特開2005-034868(JP,A)
【文献】特開2008-229631(JP,A)
【文献】特開2005-270995(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00 - 26/70
B23K 9/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
異材接合に用いられるレーザ・アークハイブリッド溶接装置であって、
接合部に向けてレーザを照射するように構成されたレーザ照射装置と、
前記接合部との間にアークを発生させるように構成されたアーク溶接装置とを備え、
前記レーザ照射装置及び前記アーク溶接装置の少なくとも一方は、自装置からの出力を第1周波数から第2周波数の間の周波数で変化させるように構成され、
前記第1周波数は、所定の溶接速度で溶接が行なわれる場合に、溶接進行方向の出力変動の周期が12mmとなる周波数であり、
前記第2周波数は、前記溶接速度で溶接が行なわれる場合に、前記出力変動の周期が2mmとなる周波数であり、
前記溶接速度は、0.8m/分から2.0m/分である、レーザ・アークハイブリッド溶接装置。
【請求項2】
前記レーザ照射装置は、レーザが照射される照射領域の形状を調整するように構成された調整機構を含み、
前記調整機構は、前記レーザ照射装置に前記調整機構が設けられない場合に比べて前記照射領域を溶接の幅方向に拡大するとともに、前記照射領域の形状を調整することによってレーザによる入熱量の前記幅方向の分布が所定のプロファイルを有するように構成され、
前記所定のプロファイルは、前記幅方向の中央部における前記入熱量が前記幅方向の端部における前記入熱量以下となるプロファイルである、請求項1に記載のレーザ・アークハイブリッド溶接装置。
【請求項3】
前記レーザ照射装置は、レーザ出力を前記周波数で変化させるように構成され、
前記アーク溶接装置は、溶接電流の平均値が一定となるアークを発生させるように構成される、請求項1又は請求項2に記載のレーザ・アークハイブリッド溶接装置。
【請求項4】
前記アーク溶接装置は、溶接電流の平均値を前記周波数で揺動させるように構成され、
前記レーザ照射装置は、一定出力のレーザを前記接合部に照射するように構成される、請求項1又は請求項2に記載のレーザ・アークハイブリッド溶接装置。
【請求項5】
前記周波数での前記溶接電流平均値の変化幅は、10Aから100Aである、請求項4に記載のレーザ・アークハイブリッド溶接装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、異材接合に使用可能なレーザ・アークハイブリッド溶接装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2006-224146号公報(特許文献1)は、アルミニウム又はアルミニム合金材(アルミニウム系材)と鋼材とを接合可能な異材接合方法を開示する。この異材接合方法では、アルミニウム系材と、表面にアルミニウム系めっき層が形成された鋼材との重ね部に、アルミニウム系材側から、回転駆動された接合ツールのピン部を進入させて、摩擦撹拌接合が行なわれる(特許文献1参照)。
【0003】
また、その他の異材接合方法として、特開2019-7623号公報(特許文献2)には、異材接合用リベットを用いた異材接合方法が記載されている。また、特開2006-167725号公報(特許文献3)には、レーザブレージング加工を用いた異材接合方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2006-224146号公報
【文献】特開2019-7623号公報
【文献】特開2006-167725号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
異材接合(たとえば、GI鋼板やGA鋼板等の溶融亜鉛メッキ鋼板とアルミニウム合金板との接合)の溶接においては、溶接に伴ない接合界面に金属間化合物(IMC(Intermetallic Compound))が生成される。金属間化合物は、母材自体に比べて脆いため、金属間化合物の生成部位において、接合部の剥離や接合強度の低下を生じる可能性がある。
【0006】
上記の摩擦撹拌接合による手法は、金属間化合物を物理的に破壊するものであるが、溶接の終端部に加工痕が残るという問題がある。また、その他の異材接合方法も、十分な接合強度が得られなかったり、接合プロセスが複雑であったり、施工におけるランニングコストが高くなるといった問題がある。
【0007】
本開示は、上記の問題を解決するためになされたものであり、本開示の目的は、レーザ・アークハイブリッド溶接装置を用いて接合強度の高い異材接合を実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示のレーザ・アークハイブリッド溶接装置は、異材接合に用いられるレーザ・アークハイブリッド溶接装置であって、接合部に向けてレーザを照射するように構成されたレーザ照射装置と、接合部との間にアークを発生させるように構成されたアーク溶接装置とを備える。レーザ照射装置及びアーク溶接装置の少なくとも一方は、自装置からの出力を第1周波数から第2周波数の間の周波数で変化させるように構成される。第1周波数は、所定の溶接速度で溶接が行なわれる場合に、溶接進行方向の出力変動の周期が12mmとなる周波数である。第2周波数は、所定の溶接速度で溶接が行なわれる場合に、溶接進行方向の出力変動の周期が2mmとなる周波数である。溶接速度は、0.8m/分から2.0m/分である。
【0009】
このレーザ・アークハイブリッド溶接装置は、異材接合に用いられる。異材接合では、接合界面に生成される金属間化合物において、接合界面に沿って割れが伝播し、接合部の剥離が生じる可能性がある。このレーザ・アークハイブリッド溶接装置では、上記のような条件で溶接を行なうことにより、母材の溶け込み形状及び金属間化合物の生成位置について、溶接進行方向に2mm~12mm程度のピッチで、溶接深さ方向の凹凸が形成される。これにより、凹凸が形成されない場合に比べて、金属間化合物において割れが伝播するのを抑制することができる。
【0010】
なお、周波数が低すぎると、十分な凹凸が形成されず、割れの伝播抑制効果が低減する。一方、周波数が高すぎても、入熱が平均化されるために十分な凹凸が形成されず、割れの伝播抑制効果が低減する。このレーザ・アークハイブリッド溶接装置では、上記の条件で溶接を行なうことにより、適度な凹凸を形成することができる。したがって、このレーザ・アークハイブリッド溶接装置によれば、接合強度の高い異材接合を実現することができる。
【0011】
レーザ照射装置は、レーザが照射される照射領域の形状を調整するように構成された調整機構を含んでもよい。この調整機構は、レーザ照射装置に調整機構が設けられない場合に比べて照射領域を溶接の幅方向に拡大するとともに、照射領域の形状を調整することによってレーザによる入熱量の幅方向の分布が所定のプロファイルを有するように構成されてもよい。所定のプロファイルは、幅方向の中央部における入熱量が幅方向の端部における入熱量以下となるプロファイルである。
【0012】
上記のような調整機構が設けられることにより、レーザの照射領域が溶接の幅方向に拡大されるとともに、幅方向の中央部における入熱量が抑制される。これにより、金属間化合物の生成量を抑制しつつ広い溶接ビード幅を形成することが可能となる(詳細は後述)。その結果、接合強度を確保することができる。
【0013】
レーザ照射装置は、レーザ出力を上記周波数で変化させるように構成され、アーク溶接装置は、溶接電流の平均値が一定となるアークを発生させるように構成されてもよい。
【0014】
レーザのエネルギ密度は、アークのエネルギ密度よりも高いので、レーザ出力を変化させることにより、アークの出力を変化させる場合に比べて、溶け込み形状及び金属間化合物の生成位置の凹凸を粗くする(滑らかでない)ことができる。したがって、このレーザ・アークハイブリッド溶接装置によれば、溶け込み形状及び金属間化合物の生成位置の凹凸を効果的に形成することができる。
【0015】
また、アーク溶接装置は、溶接電流の平均値を上記周波数で変化させるように構成され、レーザ照射装置は、一定出力のレーザを接合部に照射するように構成されてもよい。
【0016】
アーク溶接装置は、レーザ照射装置よりも一般的に出力の調整が容易である。したがって、このレーザ・アークハイブリッド溶接装置によれば、溶け込み形状及び金属間化合物の生成位置の凹凸を容易に形成することができる。
【0017】
上記周波数での溶接電流平均値の変化幅は、10Aから100Aであってもよい。
これにより、溶け込み形状及び金属間化合物の生成位置の凹凸を容易かつ効果的に形成することができる。
【発明の効果】
【0018】
本開示のレーザ・アークハイブリッド溶接装置によれば、金属間化合物において割れが伝播するのを抑制して接合強度の高い異材接合を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】実施の形態1に従うレーザ・アークハイブリッド溶接装置の全体構成を示す図である。
【
図2】重ね継手のすみ肉溶接における接合部の断面の一例を示す図である。
【
図3】
図2に示す接触部位の溶接進行方向に沿った断面を模式的に示す図である。
【
図4】アーク出力の揺動によるIMC層での割れの伝播抑制効果を示す実験結果を示す図である。
【
図5】比較例として、アーク出力及びレーザ出力を一定とした場合の接触部位の断面を模式的に示す図である。
【
図6】アーク出力を変化させる周波数と溶接速度との関係を説明する図である。
【
図7】アーク溶接装置の出力波形の一例を示す図である。
【
図8】実施の形態2に従うレーザ・ハイブリッド溶接装置で溶接した場合に、接触部位の溶接進行方向に沿った断面を模式的に示す図である。
【
図9】実施の形態3におけるレーザトーチの構成を概略的に示す図である。
【
図10】照射領域の平面形状の一例を示す図である。
【
図11】溶接幅方向の入熱量の分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。以下では、複数の実施の形態について説明するが、各実施の形態で説明された構成を適宜組合わせることは出願当初から予定されている。なお、図中同一又は相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0021】
[実施の形態1]
図1は、本開示の実施の形態1に従うレーザ・アークハイブリッド溶接装置の全体構成を示す図である。
図1を参照して、レーザ・アークハイブリッド溶接装置1(以下、単に「ハイブリッド溶接装置1」と称する場合がある。)は、溶接トーチ10と、溶接ワイヤ20と、溶接電源装置30と、レーザトーチ40と、レーザ発振装置60とを備える。
【0022】
このハイブリッド溶接装置1は、異材接合の溶接に用いることができる。異材接合とは、互いに主成分が異なる異種材料の接合であり、ハイブリッド溶接装置1は、たとえば、GI鋼板やGA鋼板等の溶融亜鉛メッキ鋼板と、アルミニウム合金板との溶接に用いることができる。アルミニウム合金板には、軟質アルミニウムだけでなく、JIS規格の5000番台(たとえば5052)、6000番台(たとえば6063)、7000番台(たとえば7075)等の硬質アルミニウムも適用可能である。ハイブリッド溶接装置1によって、互いに接合される母材70の一方と他方とが、たとえば、重ね隅肉溶接継手やフレア溶接継手等によって接合される。
【0023】
溶接トーチ10及び溶接電源装置30は、母材70の接合部との間にアークを発生させることで溶接を行なうアーク溶接装置を構成する。溶接トーチ10は、母材70の接合部に向けて、溶接ワイヤ20及び図示しないシールドガスを供給する。溶接トーチ10は、溶接電源装置30から溶接電流の供給を受け、溶接ワイヤ20の先端と母材70の接合部との間にアーク25を発生させるとともに、溶接部に向けてシールドガス(アルゴンガスや炭酸ガス等)を供給する。
【0024】
溶接電源装置30は、アーク溶接を行なうための溶接電圧及び溶接電流を生成し、生成された溶接電圧及び溶接電流を溶接トーチ10へ出力する。また、溶接電源装置30は、溶接トーチ10における溶接ワイヤ20の送給速度も制御する。
【0025】
レーザトーチ40及びレーザ発振装置60は、母材70の接合部に向けてレーザを照射することで溶接を行なうレーザ照射装置を構成する。レーザトーチ40は、レーザ発振装置60からレーザ光の供給を受け、母材70の接合部に向けてレーザを照射する。レーザトーチ40からのレーザは、溶接トーチ10から発生するアーク25の近傍に照射され、このハイブリッド溶接装置1では、アーク25の溶接進行方向前方にレーザが照射される。アーク25の前方にレーザを照射することで、アーク25を安定させることができる。
【0026】
本実施の形態1に従うハイブリッド溶接装置1では、溶接トーチ10及び溶接電源装置30から成るアーク溶接装置の出力を周波数f1から周波数f2(f2>f1)の間の周波数で揺動させる。詳しくは、溶接電流は、瞬時的には溶滴移行毎に高周波(たとえば100Hzレベル)で変動するところ、このハイブリッド溶接装置1では、溶接電流の平均値を周波数f1から周波数f2の間の周波数で揺動させる。
【0027】
ここで、周波数f1は、所定の溶接速度で溶接が行なわれる場合に、溶接進行方向の出力変動の周期が12mmとなる周波数である。周波数f2は、所定の溶接速度で溶接が行なわれる場合に、溶接進行方向の出力変動の周期が2mmとなる周波数である。所定の溶接速度は、0.8m/分~2.0m/分である。
【0028】
溶接電流の平均値の変化幅は、本実施の形態1では、10Aから100Aの間の値に適宜設定される。なお、本実施の形態1では、レーザトーチ40及びレーザ発振装置60から成るレーザ照射装置の出力は一定とする。以下、ハイブリッド溶接装置1において、アーク溶接装置の出力を上記のように変化させる理由について説明する。なお、以下では、「溶接電流」とは、特に断りのない限り、溶接電流の平均値を意味するものとする。また、アーク溶接装置の出力を単に「アーク出力」と称する場合がある。
【0029】
図2は、重ね継手のすみ肉溶接における接合部の断面の一例を示す図である。この
図2では、溶接進行方向(
図1のx方向)に垂直なyz平面に沿った断面が示されている。
【0030】
図2を参照して、この例では、母材(被溶接材)70は、GI材71と、GI材71上に重ねられたアルミニウム合金板72とを含む。そして、GI材71上におけるアルミニウム合金板72の端部に、接触部位74においてGI材71と接合する溶接ビード73が形成されている。
【0031】
異材接合の溶接においては、溶接に伴ない接合界面(接触部位74)に金属間化合物が生成される。GI材71とアルミニウム合金板72との異材接合の場合、生成される金属間化合物は、アルミニウムと鉄との合金(たとえば、FeAl、Fe3Al、Fe2Al5等)である。金属間化合物は、母材70(GI材71及びアルミニウム合金板72)に比べて脆いため、接触部位74において溶接ビード73の剥離や接合強度の低下が生じる可能性がある。具体的には、金属間化合物の生成層に沿って割れが伝播し、金属間化合物の生成層を境に溶接ビード73が剥離してしまう可能性がある。
【0032】
本発明者らは、金属間化合物の生成層に沿った割れを抑制するために種々の実験を試みた結果、溶接進行方向の出力変動の周期が2mm~12mmとなるようにアーク出力(溶接電流)を周波数f1~f2の間の周波数で揺動させると、金属間化合物の生成層に沿った割れの進展を抑制できることを見い出した。以下、この点について詳しく説明する。
【0033】
図3は、
図2に示した接触部位74の溶接進行方向に沿った断面を模式的に示す図である。この
図3では、
図2のy方向に垂直なxz平面に沿った断面が示されている。
【0034】
図3を参照して、GI材71のFe層80と、溶接ビード73のAl層81との間に、金属間化合物のIMC層82が形成されている。上記のように、本実施の形態1では、アーク出力(溶接電流)を周波数f1~f2の間の周波数で揺動させるところ、領域91は、領域92に比べて相対的に大きいアーク出力で溶接された領域であり、領域92は、領域91に比べて相対的に小さいアーク出力で溶接された領域である。
【0035】
図示のように、アーク出力が大きい領域91では、Fe層80の溶け込みが深く、アーク出力が小さい領域92では、Fe層80の溶け込みが浅い。このため、アーク出力の揺動に応じてFe層80の溶け込み形状が凹凸となり、Fe層80とAl層81との間に生成されるIMC層82の生成位置も、アーク出力の揺動に応じて凹凸となる。これにより、Fe層80及びAl層81よりも相対的に脆いIMC層82においてx方向に割れが伝播するのを抑制することができる。
【0036】
なお、アーク出力を変化させる周波数が低すぎると、IMC層82の凹凸の間隔Lが長くなるため、IMC層82での割れの伝播抑制効果が低減する。一方、アーク出力を変化させる周波数が高すぎると、アークの入熱が平均化されるために十分な凹凸が形成されず、割れの伝播抑制効果が低減する。
【0037】
図4は、アーク出力の揺動によるIMC層82での割れの伝播抑制効果を示す実験結果を示す図である。実験は、上板が板厚2.0mmの硬質アルミニウム合金板(A6063)であり、下板が板厚1.6mmの溶融亜鉛メッキ鋼板(SGCC)の重ねすみ肉溶接において、レーザ出力2kW、アーク溶接設定100A-18V、溶接速度1.5mm/分の条件下で行なった。そして、レーザ出力を一定とし、アーク出力(溶接電流)を揺動させて溶接を行ない、溶融部の底部のマクロ観察を行なった。
【0038】
図4には、アーク出力の揺動周波数毎に、IMC層82が接合界面に沿って凹凸状或いは波状に生成され、金属間化合物に由来する割れの進展の抑制が確認されたか否かの結果と、溶接進行方向の出力変動の周期(凹凸の間隔)とが示されている。
【0039】
図4を参照して、結果「○」は、IMC層82が接合界面に沿って凹凸状或いは波状に生成され、金属間化合物に由来する割れの進展の抑制が確認されたことを示す。結果「△」は、IMC層82が接合界面に沿って凹凸状或いは波状に生成されたが、金属間化合物に由来する割れの進展の抑制が確認されなかったことを示す。結果「×」は、接合界面において十分な凹凸が形成されず、金属間化合物に由来する割れの進展の抑制が確認されなかったことを示す。
【0040】
図4の結果から、溶接進行方向の出力変動の周期(凹凸の間隔)が2mm~12mm程度の範囲において、IMC層82での割れの伝播抑制効果が生じるものと考えられる。そこで、本実施の形態1に従うハイブリッド溶接装置1では、溶接進行方向の出力変動の周期が2mm~12mmとなるようにアーク出力を揺動させることとしたものである。
【0041】
なお、再び
図3を参照して、アーク出力を変化させる場合に、出力の変化幅が小さすぎると、領域91の溶け込み深さと領域92の溶け込み深さとの差が小さくなり、IMC層82の生成位置について効果的な凹凸が生成されない。このハイブリッド溶接装置1では、10Aから100A程度の間の変化幅でアーク出力(溶接電流)を周期的に変化させるので、溶け込み形状及びIMC層82の生成位置について凹凸を効果的に形成することができる。
【0042】
図5は、比較例として、アーク出力及びレーザ出力を一定とした場合における接触部位74の断面を模式的に示す図である。この
図5は、上記の
図3に対応するものである。
【0043】
図5を参照して、アーク出力及びレーザ出力が一定である場合、Fe層80の溶け込み形状(溶け込み深さ)は一定であり、Fe層80とAl層81との間に生成されるIMC層82も平坦な平面形状となる。この場合、Fe層80及びAl層81よりも相対的に脆いIMC層82において、一旦生じた割れが平面状のIMC層82に沿って伝播し進展する可能性がある。これに対して、本実施の形態1では、
図3に示したように、IMC層82の生成位置が凹凸であるので、IMC層82に沿って割れが伝播するのを抑制することができる。
【0044】
図6は、アーク出力を揺動させる周波数の範囲を示す図である。
図6において、縦軸は、アーク出力を揺動させる周波数(Hz)を示し、横軸は、ハイブリッド溶接装置1の溶接速度(m/分)を示す。この例では、溶接速度は、0.8m/分~2.0m/分の範囲で設定可能であり、この溶接速度の範囲内において、アーク出力の効果的な揺動周波数が示されている。
【0045】
図6を参照して、線L1は、溶接進行方向の出力変動の周期(IMC層82の凹凸間隔L)が12mmとなるときの周波数f1を示す。溶接速度が0.8m/分のとき、周波数f1は1.1Hzであり、溶接速度が2.0m/分のとき、周波数f1は2.8Hzである。
【0046】
線L2は、溶接進行方向の出力変動の周期(IMC層82の凹凸間隔L)が2mmとなるときの周波数f2を示す。溶接速度が0.8m/分のとき、周波数f2は6.7Hzであり、溶接速度が2.0m/分のとき、周波数f2は16.7Hzである。線で囲まれた領域S内の条件で溶接を行なうことにより、アーク出力を揺動させて溶接進行方向に2mm~12mmの間隔の凹凸をIMC層82に設けることができる。
【0047】
なお、アーク出力を変化させる場合に、出力の変化幅が小さすぎると、十分な凹凸が形成されない可能性がある。このハイブリッド溶接装置1では、10Aから100A程度の間の変化幅で溶接電流の平均値を周期的に変化させるので、接合界面において十分な凹凸を有するIMC層82を形成することができる。
【0048】
図7は、本実施の形態1におけるアーク溶接装置の出力波形の一例を示す図である。この
図7では、一例として、短絡移行型の溶接が行なわれる場合の溶接電流Iw及び溶接電圧Vwの波形が示されている。なお、この
図7では、「溶接電流」の文言は、平均値ではない真の電流値を示す。
【0049】
図7を参照して、溶接電源装置30(
図1)は、溶接電圧Vwが設定電圧Vsetとなるように溶接電流Iwを調整する定電圧制御を行なう。なお、ワイヤ供給速度Wfは、設定電流Isetにより決定される。
【0050】
溶接電流Iw及び溶接電圧Vwは、瞬時的には溶滴移行毎に変動する。具体的には、たとえば、時刻t2において、溶接ワイヤ20が母材70に接触し、溶接ワイヤ20と母材70とは短絡状態となる。これにより、溶接電圧Vwは約0Vに低下する。
【0051】
溶接電源装置30は定電圧制御を行なっているため、溶接電圧Vwの低下に応じて溶接電流Iwが急激に上昇する。なお、溶接電流Iwが上昇するに従って、溶接ワイヤ20において抵抗発熱が生じるため、溶接電圧Vwは徐々に上昇する。
【0052】
溶接ワイヤ20の抵抗発熱により溶接ワイヤ20が溶融し始めると、溶接電流Iwによるピンチ効果により、溶融し始めた溶接ワイヤ20が細くなる。そうすると、溶接ワイヤ20の抵抗値が上昇し、抵抗発熱がさらに促進される。その結果、溶接ワイヤ20が溶断し、溶接ワイヤ20と母材70との間にアークが発生する。
【0053】
アークが発生すると、時刻t2~t3の短絡期間に溶接ワイヤ20が温められているため、溶接ワイヤ20が急激に燃え上がる。その結果、アーク長が長くなり、時刻t3において、溶接電圧Vwは急上昇する。
【0054】
溶接電源装置30は定電圧制御を行なっているため、溶接電圧Vwの上昇に応じて溶接電流Iwが低下する。そして、溶接電流Iwの低下と溶接ワイヤ20の送給とにより、時刻t4において、溶接ワイヤ20が母材70に接触し、溶接ワイヤ20と母材70とは再び短絡状態となる。
【0055】
このように、溶接電流Iw及び溶接電圧Vwは、瞬時的には溶滴移行毎に変動する(たとえば100Hzレベル)。そして、本実施の形態1に従うハイブリッド溶接装置1では、溶接電流Iwの平均値を示す平均電流Iaveが周波数fで揺動するように、アーク溶接装置が作動する。
【0056】
具体的には、周波数fで交互に切り替わるロー(L)出力期間及びハイ(H)出力期間に応じて、平均電流Iaveが所定の変化幅で変化するように設定電流Isetが設定され、平均電流Iaveが設定電流Isetとなるように設定電圧Vsetが設定される。そして、溶接電圧Vwが設定電圧Vsetとなるように溶接電流Iwが調整される。平均電流Iaveの上記所定の変化幅は、たとえば10A~100Aである。
【0057】
なお、ロー出力期間及びハイ出力期間の各々において、ワイヤ送給速度Wfが一定(すなわち設定電流Isetが一定)の下で定電圧制御(設定電圧Vsetが一定)が行なわれる場合、アーク長の自己制御作用によって、アーク長と平均電流Iaveとが一定に維持される。したがって、ロー出力期間及びハイ出力期間の各々において、設定電圧Vset及び設定電流Isetを適宜設定することにより、平均電流Iaveを所望の値に一定に制御することができる。
【0058】
なお、アーク溶接の形態は、短絡及びアークを繰り返す短絡移行型に限定されるものではなく、ピーク期間及びベース期間を繰り返すパルス溶接であってもよい。パルス溶接の場合、平均電流Iaveが周波数fで変化し、かつ、その変化幅が10Aから100Aの値となるように、設定電圧Vsetが周期的に変更される。そして、溶接電圧Vwの平均値Vaveが設定電圧Vsetとなるようにピーク電流及びベース電流の変調が行なわれ、結果として平均電流Iaveが目標に制御される。
【0059】
以上のように、この実施の形態1においては、溶接進行方向の出力変動の周期が2mm~12mmとなるようにアーク出力を揺動させることにより、母材の溶け込み形状及びIMC層82に凹凸を形成する。これにより、凹凸が形成されない場合に比べて、金属間化合物の生成層において割れが伝播するのを抑制することができる。
【0060】
また、本実施の形態1においては、溶け込み形状及び金属間化合物の生成位置の凹凸を形成するのに、アーク溶接装置の出力を変化させる。アーク溶接装置は、レーザ照射装置よりも一般的に出力の調整が容易であるため、本実施の形態1によれば、上記の凹凸を容易に形成することができる。
【0061】
[実施の形態2]
上記の実施の形態1では、溶接トーチ10及び溶接電源装置30から成るアーク溶接装置の出力を周期的に変化させるものとしたが、この実施の形態2では、レーザトーチ40及びレーザ発振装置60から成るレーザ照射装置の出力を周期的に変化させる。
【0062】
レーザのエネルギ密度は、アークのエネルギ密度よりも高いので、レーザ出力を変化させることにより、アーク出力を変化させる場合に比べて溶け込み形状及び金属間化合物の生成位置についての凹凸を粗くする(滑らかでない)ことができる。
【0063】
再び
図1を参照して、実施の形態2に従うハイブリッド溶接装置1では、レーザトーチ40及びレーザ発振装置60から成るレーザ照射装置の出力を周波数f1から周波数f2(f2>f1)の間の周波数で変化させる。そのため、レーザ発振装置60は、上記周波数でレーザ出力を変化させる。たとえば、レーザ発振装置60は、デューティ比50%の上記周波数のパルス状レーザを発振するようにしてもよい。なお、本実施の形態2では、溶接トーチ10及び溶接電源装置30から成るアーク溶接装置の出力は一定とする。
【0064】
図8は、実施の形態2に従うレーザ・ハイブリッド溶接装置1で溶接した場合に、接触部位74の溶接進行方向に沿った断面を模式的に示す図である。この
図8は、上記の
図3に対応するものである。すなわち、この
図8でも、
図2のy方向に垂直なxz平面に沿った断面が示されている。
【0065】
図8を参照して、本実施の形態2では、レーザ出力を周期的に変化させて溶接が行なわれるところ、領域93は、領域94に比べて相対的に大きいレーザ出力で溶接された領域であり、領域94は、領域93に比べて相対的に小さいレーザ出力で溶接された領域である。
【0066】
図示のように、レーザ出力が大きい領域93では、Fe層80の溶け込みが深く、レーザ出力が小さい領域94では、Fe層80の溶け込みが浅い。このため、レーザ出力の周期的変化に応じてFe層80の溶け込み形状が凹凸となり、Fe層80とAl層81との間に生成されるIMC層82の生成位置も、レーザ出力の周期的変化に応じて凹凸となる。これにより、Fe層80及びAl層81よりも相対的に脆いIMC層82においてx方向に割れが伝播するのを抑制することができる。
【0067】
また、この実施の形態2では、アーク出力よりもエネルギ密度の高いレーザ出力を変化させるので、実施の形態1のようにアーク出力を揺動させる場合よりも、生成される凹凸の変化が急峻となる(凹凸が粗い)。したがって、溶け込み形状及びIMC層82の凹凸を効果的に形成することができる。
【0068】
なお、この実施の形態2でも、レーザ出力を変化させる周波数が低すぎると、IMC層82の凹凸の間隔Lが長くなるため、IMC層82での割れの伝播抑制効果が低減する。一方、レーザ出力を変化させる周波数が高すぎると、レーザの入熱が平均化されるために十分な凹凸が形成されず、割れの伝播抑制効果が低減する。この実施の形態2に従うハイブリッド溶接装置1では、溶接進行方向の出力変動の周期が2mm~12mmとなるようにレーザ出力を変化させることにより、溶け込み形状及びIMC層82の生成位置に適度な凹凸を形成することができる。
【0069】
以上のように、この実施の形態2によれば、母材の溶け込み形状及びIMC層82に凹凸を形成するのに、エネルギ密度の高いレーザの出力を変化させるので、溶け込み形状及びIMC層82の凹凸を効果的に形成することができる。
【0070】
[実施の形態3]
接合部への入熱量(J)が多いと、溶融池の凝固速度が遅くなることにより、溶接に伴なって生成される金属間化合物の生成量が多くなる。レーザは、通常、照射領域における照射エネルギ密度を高めて効果的に部材を溶融するために、照射領域においてフォーカスが合うように焦点が調整される。しかしながら、この場合、接合部への入熱量が多くなり、上述のように、金属間化合物の生成量が増加することにより接合強度が低下する可能性がある。
【0071】
そこで、金属間化合物の生成量を抑制するために入熱量を抑制することが考えられる。しかしながら、入熱量を抑制すると、溶接ビードと母材との接合面積が減少し、その結果、接合強度が低下する可能性がある。接合面積の減少による接合強度の低下は、溶接ビード幅を大きくすることで解消可能である。
【0072】
入熱量を抑制するために、レーザの焦点をデフォーカスすることが考えられる。しかしながら、レーザの焦点をデフォーカスしただけでは、レーザ照射領域の平面形状は通常円形であるから、溶接幅方向の入熱量の分布は、中央部において最大であり、端部へ向かうに従って減少する。したがって、中央部から離れた部位(たとえば幅方向端部)において入熱量が不足し、接合強度が不足する可能性がある。
【0073】
そこで、この実施の形態3では、レーザトーチ40は、レーザが照射される照射領域の形状、及び照射領域におけるレーザの照射エネルギ密度の分布を調整する調整機構を含む。この調整機構は、当該調整機構が設けられない場合に比べて、照射領域を溶接の幅方向に拡大する。そして、調整機構は、レーザによる入熱量(J)の溶接幅方向の分布が、その幅方向の中央部における入熱量が幅方向の端部における入熱量よりも少なくなるプロファイルとなるように、照射領域の形状及び照射エネルギ密度の分布を調整する。本実施の形態3では、そのような調整機構として、レーザトーチ40に回折光学素子(DOE:Diffractive Optical Element)が設けられる。このような調整機構(DOE)が設けられることにより、接合部への入熱量を抑制して金属間化合物の生成量を抑制しつつ、広い溶接ビード幅を形成することができる。その結果、接合部の接合強度を確保することができる。
【0074】
なお、この実施の形態3では、レーザトーチ40及びレーザ発振装置60から成るレーザ照射装置の出力は一定とし、溶接トーチ10及び溶接電源装置30から成るアーク溶接装置において、溶接電流の平均値を周波数f1から周波数f2の間の周波数で揺動させる。
【0075】
図9は、実施の形態3におけるレーザトーチ40の構成を概略的に示す図である。
図9を参照して、レーザトーチ40は、DOE41と、レンズ42とを含む。レーザ発振装置60から出力されたレーザ光は、DOE41及びレンズ42を通過して母材70に照射され、母材70において照射領域100が形成される。
【0076】
DOE41は、レーザ発振装置60から受けるレーザ光を、回折現象を利用して所望のビームパターンに加工する。具体的には、DOE41は、レーザ発振装置60から受ける入射光を幾何学的に分散し、母材70上の照射領域100が、DOE41が設けられない場合よりも拡幅され、かつ、略矩形となるように、照射レーザを成形する。
【0077】
レンズ42は、DOE41によって加工されたレーザ光を集光して、母材70に向けて出力する。
【0078】
図10は、照射領域100の平面形状の一例を示す図である。
図10において、X軸方向は、レーザトーチ40の進行方向を示し、Y軸方向は、溶接の幅方向を示す。
図10を参照して、照射領域100が略矩形となるように、DOE41によってレーザ光が加工される。
【0079】
点線群は、レーザの照射エネルギ密度の分布を示している。図示のように、照射領域100において、幅方向(Y軸方向)の中央Cから幅方向の端部へ向かうに従って照射エネルギ密度が高くなるように、DOE41によってレーザが成形される。
【0080】
なお、この例では、照射領域100は、レーザトーチ40の進行方向(X軸方向)に平行な対辺が短辺であり、幅方向(Y軸方向)に平行な対辺が長辺であるものとしたが、照射領域100は、略正方形であってもよいし、レーザトーチ40の進行方向(X軸方向)に平行な対辺を長辺としてもよい。
【0081】
図11は、溶接幅方向の入熱量の分布を示す図である。
図11において、(a)は、レーザによる入熱量の分布を示し、(b)は、アークによる入熱量の分布を示す。(c)は、レーザによる入熱量とアークによる入熱量との和の分布を示す。すなわち、(c)は、レーザ及びアークによるトータルの入熱量の分布を示している。各図において、縦軸は、入熱量Qを示し、Y軸方向は、溶接の幅方向を示す。入熱量Qは、幅方向の各点において、溶接開始から終了までのトータルの入熱量(J)である。
【0082】
図11を参照して、
図10に示した照射領域100を有するレーザ照射によって、レーザによる入熱量の分布は、(a)に示されるように、幅方向の中央Cにおける入熱量が少なく、端部へ向かうにつれて入熱量が多くなるプロファイルとなる。なお、参考までに、レーザ照射領域の平面形状が仮に円形である場合には、照射領域において、中央の照射エネルギ密度を低くし、周辺部の照射エネルギ密度が高くしたとしても、入熱量としては、幅方向の中央において多くなり、幅方向の端部へ向かうにつれて少なくなる可能性が高い。
【0083】
アークによる入熱量の分布は、(b)に示されるように、幅方向の中央Cにおける入熱量が多く、端部へ向かうにつれて入熱量が少なくなるプロファイルとなる。したがって、レーザによる入熱量とアークによる入熱量との和の熱分布は、(c)に示されるように、幅方向において略均一となっている。
【0084】
言い換えると、アークによる入熱量のプロファイルを考慮して、レーザによる入熱量とアークによる入熱量との和の熱分布のプロファイルが幅方向において略均一となるように、レーザによる入熱量のプロファイルが決定される。そして、そのレーザによる入熱量のプロファイルに基づいて、レーザの照射領域100の形状及び照射エネルギ密度分布(
図10に示した形状及び照射エネルギ密度分布)が決定され、そのような照射領域100を実現するDOE41の構成が決定される。
【0085】
或いは、(a)に示されるようなレーザによる入熱量のプロファイルが得られるようにDOE41を構成し、レーザによる入熱量とアークによる入熱量との和の熱分布のプロファイルが幅方向において略均一となるように、溶接トーチ10の出力を溶接電源装置30によって調整してもよい。
【0086】
溶接部への入熱量及び各溶接プロセスの熱分布によって溶接部の機械的特性が決まることから、上記のようにレーザによる入熱量とアークによる入熱量との和を調整することにより、溶接部において所望の機械的特性を得ることができる。そして、レーザによる入熱量とアークによる入熱量との和を幅方向において均一化することにより、生成される金属間化合物が一部に集中することのない、品質の高い溶接ビードを形成することができる。
【0087】
なお、特に異材接合の溶接(たとえば、アルミニウム合金板と溶融亜鉛メッキ鋼板との溶接等)においては、金属間化合物の生成量及びその分布を制御する上で、溶融金属の量及びその分布を制御する必要がある。本実施の形態では、上記のような調整機構によってレーザによる入熱量のプロファイルを調整することにより、主に母材の溶融を調整することができ、溶接のビード幅と、溶融池の深さ(溶込深さ)及びその分布とを調整することができる。また、溶接トーチ10の出力を溶接電源装置30によって調整することにより、主に溶接ワイヤの溶融を調整することができ、溶融金属の量を調整することができる。
【0088】
以上のように、この実施の形態3によれば、
図10に示したレーザ照射領域を形成可能なDOE41が設けられることにより、入熱量の幅方向の分布は、
図11に示したようなプロファイルとなる。したがって、接合部への入熱量を抑制して金属間化合物の生成量を抑制しつつ、広い溶接ビード幅を形成することができる。その結果、接合部の接合強度を確保することができる。
【0089】
また、この実施の形態3によれば、レーザによる入熱量とアークによる入熱量との和の幅方向の分布(プロファイル)を調整することにより、溶接部において所望の機械的特性を得ることができる。さらに、レーザによる入熱量とアークによる入熱量との和の幅方向の分布を幅方向において均一化することにより、生成される金属間化合物が一部に集中することのない、品質の高い溶接ビードを形成することができる。
【0090】
また、上記のような調整機構(DOE41)によってレーザによる入熱量のプロファイルを調整することにより、母材の溶融を調整することができ、溶接のビード幅と、溶融池の深さ(溶込深さ)及びその分布とを調整することができる。また、溶接電源装置30によって溶接トーチ10の出力を調整することにより、溶接ワイヤの溶融を調整することができ、溶融金属の量を調整することができる。
【0091】
なお、上記の実施の形態3では、アーク出力(溶接電流)を周期的に変化させるものとしたが、実施の形態2で説明したように、レーザ出力を周期的に変化させてもよい。
【0092】
また、上記の実施の形態3では、DOE41によって、
図10に示したようなレーザの照射領域100を形成するものとしたが、DOEに代えて、母材70に照射されるレーザを母材70上で走査可能なレーザスキャン装置をレーザトーチに設けてもよい。そして、レーザスキャン装置によりレーザを走査することによって、実施の形態3と同様の照射領域を形成するようにしてもよい。
【0093】
なお、上記の各実施の形態では、アーク溶接は、溶接ワイヤ20を用いる溶極式(マグ溶接やミグ溶接等)のものとしたが、溶接ワイヤ20に代えて非消耗材の電極(タングステン等)を用いる非溶極式(ティグ溶接等)のものであってもよい。
【0094】
また、上記の各実施の形態では、アーク出力(溶接電流)とレーザ出力とのいずれかを周期的に変化させるものとしたが、これらを組み合わせて、アーク出力及びレーザ出力の双方を同期させて周期的に変化させてもよい。これにより、溶け込み形状及びIMC層82の凹凸をより効果的に形成することができる。
【0095】
今回開示された実施の形態は、全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0096】
1 レーザ・アークハイブリッド溶接装置、10 溶接トーチ、20 溶接ワイヤ、30 溶接電源装置、40 レーザトーチ、41 DOE、42 レンズ、60 レーザ発振装置、70 母材、71 GI材、72 アルミニウム合金板、73 溶接ビード、74 接触部位、80 Fe層、81 Al層、82 IMC層、91~94,S 領域、100 照射領域。