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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-29
(45)【発行日】2024-02-06
(54)【発明の名称】エマルジョン組成物と、その発泡シート
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/00 20060101AFI20240130BHJP
   C08K 3/015 20180101ALI20240130BHJP
   C08J 9/30 20060101ALI20240130BHJP
【FI】
C08L101/00
C08K3/015
C08J9/30 CEY
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020112074
(22)【出願日】2020-06-29
(65)【公開番号】P2022011138
(43)【公開日】2022-01-17
【審査請求日】2022-11-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000119232
【氏名又は名称】株式会社イノアックコーポレーション
(73)【特許権者】
【識別番号】000127307
【氏名又は名称】株式会社イノアック技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100105315
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 温
(72)【発明者】
【氏名】清水 淳志
(72)【発明者】
【氏名】菊地 敦紀
(72)【発明者】
【氏名】永澤 拓也
【審査官】中落 臣諭
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-188571(JP,A)
【文献】特開2017-218516(JP,A)
【文献】特開2003-160412(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L1/00-101/14
C08K3/00-13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂成分と、界面活性剤と、抗ウイルス剤とを含むエマルジョン組成物であって、
前記エマルジョン組成物の固形分全体の質量を100質量%とした場合の前記界面活性剤の固形分濃度(Cs)と前記抗ウイルス剤の固形分濃度(Cv)との固形分濃度比率(Cs/Cv)が、0.3~2.5であり、
前記エマルジョン組成物の固形分全体の質量を100質量%とした場合の前記Csと前記Cvとの合計が、10~20質量%であることを特徴とする、エマルジョン組成物。
【請求項2】
前記抗ウイルス剤が無機系抗ウイルス剤であることを特徴とする、請求項1に記載のエマルジョン組成物。
【請求項3】
前記界面活性剤のpHが、7以上であることを特徴とする、請求項1又は2に記載のエマルジョン組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載のエマルジョン組成物を発泡及び硬化してなる発泡シート。
【請求項5】
前記発泡シートの密度が、150~500kg/mであることを特徴とする、請求項4に記載の発泡シート。
【請求項6】
前記発泡シートの厚みが、0.5~1.5mmであることを特徴とする、請求項4又は5に記載の発泡シート。
【請求項7】
前記発泡シートは、25℃環境下における25%圧縮時の応力が5~150kPaであることを特徴とする、請求項4~6のいずれか一項に記載の発泡シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エマルジョン組成物と、その発泡シートに関する。
【背景技術】
【0002】
コロナウイルス等の感染を防止するため、抗ウイルス性を付与した樹脂成型品、繊維、シート等が開発されている。一般にこれらは、ウイルス・菌を吸着/分解するフィラー(無機物+酸化チタン系等)を素材に添加、含浸、コーティング等することにより製造されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、樹脂成形品に、分子量1500以下の第四級アンモニウムハロゲン化物からなる抗ウイルス性化合物(A)を含有する処理液体を接触させた状態で、常圧又は加圧下で加熱処理を行うことにより、上記抗ウイルス性化合物(A)を、樹脂成形品の少なくとも表面に固定させて、耐水性、洗濯耐久性を備えた、優れた抗ウイルス加工製品を得ることができることが開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、高分子樹脂を含むシート基材の少なくとも一方の表面に酸化チタンと銅化合物を含有する光触媒層が設けられている光触媒担持シートが、高い抗菌性及び抗ウイルス性を有し、かつその抗菌性・抗ウイルス性が速効性を有し長期間に渡り持続することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開公報WO2016/009928
【文献】特開2016―112480号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
抗ウイルス性を付与した樹脂成型品、繊維、シート等の抗ウイルス性の効果は、表面の抗ウイルス剤露出量に依存する。このため、特許文献1の樹脂成型物や特許文献2のシート等は表面積が相対的に小さいため、抗ウイルス効果が不十分であるおそれがあった。また、抗ウイルス性をテープに付与して用いるような場合、即ち、抗ウイルス性を有さない物品(例えば、ドアノブ)に抗ウイルス性を付与したい場合には、特許文献2のようなシートをテープ状にして、例えば、用いた場合には、貼り付け時の物品に対するシートの形状追従性が乏しいため、例えば、ドアノブの形状に追従できず、浮いた部分ができる。このため、触感や風合いが悪くなるおそれがあるとともに、意匠性の良くないおそれがあった。また、貼り付けて使用した後など、適時貼り換えることを想定すると、粘着剤を用いたテープでは、粘着剤の粘着強度が強く脱着時に糊残りする可能性もあり、清掃の手間がかかったり、残った粘着剤が手などに付着して衛生的ではなかったりする場合があった。
【0007】
そこで本発明の目的は、優れた抗ウイルス性を有し、曲面などに対する形状追従性を有するため触感や風合いに優れ、自己粘着性を有するため交換時の作業性が良好な、発泡シートを形成可能なエマルジョン組成物と、前記エマルジョン組成物を発泡、硬化してなる発泡シートを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的の実現に向け鋭意検討し、抗ウイルス剤と界面活性剤とを、特定の濃度及び特定の濃度比率で含有するエマルジョン組成物が、上記課題を解決可能なことを見出し、本発明を完成させるに至った。即ち、本発明は以下の通りである。
【0009】
本発明(1)は、
樹脂成分と、界面活性剤と、抗ウイルス剤とを含むエマルジョン組成物であって、
前記エマルジョン組成物の固形分全体の質量を100質量%とした場合の前記界面活性剤の固形分濃度(Cs)と前記抗ウイルス剤の固形分濃度(Cv)との固形分濃度比率(Cs/Cv)が、0.3~2.5であり、
前記Csと前記Cvとの合計が、10~20質量%であることを特徴とする、エマルジョン組成物である。
本発明(2)は、
前記抗ウイルス剤が無機系抗ウイルス剤であることを特徴とする、前記発明(1)のエマルジョン組成物。
本発明(3)は、
前記界面活性剤のpHが、7以上であることを特徴とする、前記発明(1)又は(2)のエマルジョン組成物である。
本発明(4)は、
前記発明(1)~(3)のいずれかのエマルジョン組成物を発泡、硬化してなる発泡シートである。
本発明(5)は、
前記発泡シートの密度が、150~500kg/mであることを特徴とする、前記発明(4)のエマルジョン組成物である。
本発明(6)は、
前記発泡シートの厚みが、0.5~1.5mmであることを特徴とする、前記発明(4)又は(5)のエマルジョン組成物である。
本発明(7)は、
前記発泡シートは、25℃環境下における25%圧縮時の応力が5~150kPaであることを特徴とする、前記発明(4)~(6)のいずれかのエマルジョン組成物である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、優れた抗ウイルス性を有し、曲面などに対する形状追従性を有するため触感や風合いに優れ、自己粘着性を有するため交換時の作業性が良好な発泡シートを、形成可能なエマルジョン組成物と、前記エマルジョン組成物を発泡、硬化してなる発泡シートを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
1.エマルジョン組成物
本発明のエマルジョン組成物は、樹脂成分と、界面活性剤と、抗ウイルス剤とを含む。
【0012】
本発明のエマルジョン組成物は、エマルジョン組成物の固形分全体の質量を100質量%とした場合の界面活性剤の固形分濃度(Cs)と前記抗ウイルス剤の固形分濃度(Cv)との固形分濃度比率(Cs/Cv)が、0.3~2.5であることを特徴とする。
【0013】
本発明のエマルジョン組成物は、CsとCvとの合計が、10~20質量%であることを特徴とする。
【0014】
2.エマルジョン組成物の原料
2-1.樹脂成分
本発明にかかる樹脂成分は、本発明の効果を阻害しない限りにおいて特に限定されない。樹脂成分としては、例えば、アクリル系エマルジョン、スチレン系エマルジョン、ウレタン系エマルジョン、エチレン酢酸ビニル共重合体樹脂エマルジョン、塩化ビニル系エマルジョン、エポキシ系エマルジョン等を挙げることができる。これらは、単独で、又は、複数を組み合わせて用いることができる。特にアクリル系エマルジョン、ウレタン系エマルジョン、エチレン酢酸ビニル共重合体樹脂エマルジョンを用いることが好ましく、アクリル系エマルジョンとウレタン系エマルジョンを用いることがより好ましく、ウレタンを用いることがさらに好ましい。これらを用いることにより、優れた抗ウイルス性を有し、曲面などに対する形状追従性を有するため触感や風合いに優れ、自己粘着性を有するため交換時の作業性が良好な発泡シートを得ることができる。
【0015】
アクリル系エマルジョンとしては、以下の製法によって製造されたものを用いることができる。
【0016】
アクリル系エマルジョンの製法としては、重合開始剤、必要に応じて乳化剤及び分散安定剤の存在下に、例えば、(メタ)アクリル酸エステル系単量体を必須の重合性単量体成分とし、さらに必要に応じてこれらの単量体と共重合可能なその他の重合性単量体の混合物を共重合させることにより得ることができる。なお、2種以上アクリル系エマルジョンを組み合わせて用いてもよい。なお、本願において、(メタ)アクリル酸エステルと記載した場合には、アクリル酸エステルと、メタクリル酸エステルを含むものとする。
【0017】
アクリル系エマルジョンの製造に使用することができる重合性単量体としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アルリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸ヘプチル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸オクタデシル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ベンジル等の(メタ)アクリル酸エステル系単量体;アクリル酸、メタクリル酸、β-カルボキシエチル(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリロイルプロピオン酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸ハーフエステル、マレイン酸ハーフエステル、無水マレイン酸、無水イタコン酸等のカルボキシル基を有する不飽和結合含有単量体;
グリシジル(メタ)アクリレート、アリルグリシジルエーテル等のグリシジル基含有重合性単量体;2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、グリセロールモノ(メタ)アクリレート等の水酸基含有重合性単量体;
エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジアリルフタレート、ジビニルベンゼン、アリル(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
【0018】
なお、アクリル系エマルジョンの製造時に乳化剤を使用する場合には、公知の乳化剤等を使用すればよい。
【0019】
ウレタン系エマルジョンとしては、以下の製法によって製造されたものを用いることができる。
【0020】
ウレタン系エマルジョンの製法としては、下記の方法(I)~(III)が例示することができる。
(I)活性水素含有化合物、親水性基を有する化合物、及び、ポリイソシアネートを反応させて得られた親水性基を有するウレタン樹脂の有機溶剤溶液又は有機溶剤分散液に、必要に応じ、中和剤を含む水溶液を混合し、ウレタン系エマルジョンを得る方法。
(II)活性水素含有化合物、親水性基を有する化合物、及び、ポリイソシアネートを反応させて得られた親水性基を有する末端イソシアネート基含有ウレタンプレポリマーに、中和剤を含む水溶液と混合するか、又は、予めプレポリマー中に中和剤を加え、水を混合して水に分散させた後、ポリアミンと反応させて、ウレタン系エマルジョンを得る方法。
(III)活性水素含有化合物、親水性基を有する化合物、及び、ポリイソシアネートを反応させて得られた親水性基を有する末端イソシアネート基含有ウレタンプレポリマーに、中和剤及びポリアミンを含む水溶液と混合するか、又は、予めプレポリマー中に中和剤を加えた後、ポリアミンを含む水溶液を添加混合し、ウレタン系エマルジョンを得る方法。
【0021】
前記ウレタン系エマルジョンの製造において用いるポリイソシアネートとしては、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、m-フェニレンジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,2’-ジフェニルメタンジイソシアネート、3,3’-ジメチル-4,4’-ビフェニレンジイソシアネート、3,3’-ジメトキシ-4,4’-ビフェニレンジイソシアネート、3,3’-ジクロロ-4,4’-ビフェニレンジイソシアネート、1,5-ナフタレンジイソシアネート、1,5-テトラヒドロナフタレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、1,3-シクロヘキシレンジイソシアネート、1,4-シクロヘキシレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、水素添加キシリレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、3,3’-ジメチル-4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート等が例示できる。これらは、単独で、又は、複数を組み合わせて用いることができる。
【0022】
親水性基を有する化合物としては、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリアセタールポリオール、ポリアクリレートポリオール、ポリエステルアミドポリオール、ポリチオエーテルポリオール、ポリブタジエン系等のポリオレフィンポリオール等を挙げることができる。これらは、単独で、又は、複数を組み合わせて用いることができる。
【0023】
上記方法(I)~(III)において、発明の効果を損なわない範囲で、さらに乳化剤を使用することができる。乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル、ポリオキシエチレンソルビトールテトラオレエート等のノニオン系乳化剤;オレイン酸ナトリウム等の脂肪酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、ナフタレンスルホン酸塩、アルカンスルホネートナトリウム塩、アルキルジフェニルエーテルスルフォン酸ナトリウム塩等のアニオン系乳化剤;ポリオキシエチレンアルキル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニル硫酸塩等のノニオンアニオン系乳化剤、等を挙げることができる。これらは、単独で、又は、複数を組み合わせて用いることができる。
【0024】
エチレン酢酸ビニル共重合体樹脂エマルジョンは、以下の製法によって製造されたものを用いることができる。
【0025】
エチレン酢酸ビニル共重合体樹脂エマルジョンの製法としては、例えば、ポリビニルアルコール等を保護コロイドとし、ヒドロキシエチルセルロースのようなセルロース系誘導体や界面活性剤等を乳化分散剤として併用し、エチレンと酢酸ビニルモノマーとを乳化重合法により共重合して得ることができる。
【0026】
エチレン酢酸ビニル共重合体樹脂エマルジョンは、例えば、カルボキシル基、エポキシ基、スルフォン酸基、水酸基、メチロール基、アルコキシ酸基等の官能基を有するビニルモノマーがさらに共重合されたものであってもよい。
【0027】
エチレン酢酸ビニル共重合体樹脂エマルジョンは、複数のエチレン酢酸ビニル共重合体樹脂エマルジョンを組み合わせて用いることができる。それぞれのエチレン酢酸ビニル共重合体樹脂エマルジョンの配合量を調節することで、その柔軟性や、材料強度を調整することができる。
【0028】
エマルジョン組成物の分散媒は、本発明の効果を阻害しない限りにおいて特に限定されない。エマルジョン組成物の分散媒としては、水を必須成分とするが、水と水溶性溶剤との混合物であってもよい。水溶性溶剤とは、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、エチルカルビトール、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ等のアルコール類、N-メチルピロリドン等の極性溶剤等であり、これらは、単独で、又は、複数を組み合わせて用いることができる。
【0029】
2-2.界面活性剤
本発明にかかる界面活性剤は、本発明の効果を阻害しない限りにおいて特に限定されない。界面活性剤としては、起泡剤や整泡剤として用いることができる。界面活性剤としては、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、両性界面活性剤を用いることができる。これらは、単独で、又は、複数を組み合わせて用いることができる。これらのうちアニオン系界面活性剤と両性界面活性剤を併用することが好ましい。
【0030】
界面活性剤は、pHが7以上のものを含む。また、界面活性剤のpHの上限としては、本発明の効果を阻害しない限りにおいて特に限定されないが、例えば、pH12以下とすることができ、pH11以下が好ましい。界面活性剤のpHがかかる範囲にある場合には、優れた抗ウイルス性を有し、曲面などに対する形状追従性を有するため触感や風合いに優れ、自己粘着性を有するため交換時の作業性が良好な発泡シートを、形成可能なエマルジョン組成物を得ることができる。
【0031】
アニオン性界面活性剤は、主にエマルジョン組成物の起泡剤として機能する。
【0032】
アニオン性界面活性剤の具体例としては、ラウリン酸ナトリウム、ミリスチン酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸アンモニウム、オレイン酸ナトリウム、オレイン酸カリウム石鹸、ひまし油カリウム石鹸、やし油カリウム石鹸、ラウロイルサルコシンナトリウム、ミリストイルサルコシンナトリウム、オレイルサルコシンナトリウム、ココイルサルコシンナトリウム、やし油アルコール硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム、アルキルスルホコハク酸ナトリウム、ラウリルスルホ酢酸ナトリウム、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、α-オレフィンスルホン酸ナトリウム、ベタイン型等の両性界面活性剤のpHを調整してアニオン性界面活性剤としたものが挙げられるが、特に、ステアリン酸アンモニウム、アルキルスルホコハク酸ナトリウム、ベタイン型等の両性界面活性剤のpHを調整してアニオン性界面活性剤としたものが好ましい。これらは、単独で、又は、複数を組み合わせて用いることができる。また、アニオン系界面活性剤は複数を組み合わせて用いることが好ましい。
【0033】
アニオン性界面活性剤は、エマルジョン組成物に分散しやすくするため、HLBが、10以上であることが好適であり、20以上であることがより好適であり、30以上であることが特に好適である。
【0034】
両性界面活性剤は、アニオン性界面活性剤に加えて、さらに両性界面活性剤を用いることにより、気泡が微細かつ均一化ことができる。
【0035】
特にアニオン系界面活性剤と両性界面活性剤を併用した場合、アニオン系界面活性剤の分子同士の親水基の電荷が反発し、アニオン系界面活性剤の分子同士がある程度の距離を保っている間に、電気的に中性である両面活性剤がアニオン系界面活性剤の分子の間に入り込むことによって、気泡をより安定化し、気泡のサイズを小さくすることができる。このため、層間剥離強度を向上させることができる。よって、アニオン系界面活性剤と両性界面活性剤を併用することが好ましい。
【0036】
両性界面活性剤は、本発明の効果を阻害しない限りにおいて特に限定されず、例えば、アミノ酸型、ベタイン型、アミンオキシド型等の両性界面活性剤を使用することができる。両性界面活性剤は、単独で、又は、複数を組み合わせて用いることができる。ベタイン型の両性界面活性剤は、前述の効果がより高いことから、好適である。さらに、アニオン系界面活性剤の分子の間への入り込み易さの点から、炭素数が10~12個のものが好ましい。
【0037】
アミノ酸型の両性界面活性剤としては、例えば、N-アルキル若しくはアルケニルアミノ酸又はその塩等が挙げられる。N-アルキル若しくはアルケニルアミノ酸は、チッ素原子にアルキル基又はアルケニル基が結合し、さらに1つ又は2つの「-R-COOH」(式中、Rは2価の炭化水素基を示し、好ましくはアルキレン基であり、特に炭素数1~2であることが好ましい。)で表される基が結合した構造を有する。「-R-COOH」が1つ結合した化合物においては、チッ素原子にはさらに水素原子が結合している。「-R-COOH」が1つのものをモノ体、2つのものをジ体という。本発明にかかる両性界面活性剤としては、これらモノ体、ジ体のいずれも用いることができる。N-アルキル若しくはアルケニルアミノ酸において、アルキル基、アルケニル基は直鎖状でも分岐鎖状であってもよい。具体的には、アミノ酸型の両性界面活性剤として、ラウリルジアミノエチルグリシンナトリウム、トリメチルグリシンナトリウム、ココイルタウリンナトリウム、ココイルメチルタウリンナトリウム、ラウロイルグルタミン酸ナトリウム、ラウロイルグルタミン酸カリウム、ラウロイルメチル-β-アラニン等を挙げることができる。
【0038】
ベタイン型の両性界面活性剤としては、例えば、アルキルベタイン、イミダゾリニウムベタイン、カルボベタイン、アミドカルボベタイン、アミドベタイン、アルキルアミドベタイン、スルホベタイン、アミドスルホベタイン、ホスホベタイン等がある。具体的には、ベタイン型の両性界面活性剤として、ラウリルベタイン、ステアリルベタイン、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ステアリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ラウリン酸アミドプロピルジメチルアミノ酢酸ベタイン、イソステアリン酸アミドエチルジメチルアミノ酢酸ベタイン、イソステアリン酸アミドプロピルジメチルアミノ酢酸ベタイン、イソステアリン酸アミドエチルジエチルアミノ酢酸ベタイン、イソステアリン酸アミドプロピルジエチルアミノ酢酸ベタイン、イソステアリン酸アミドエチルジメチルアミノヒドロキシスルホベタイン、イソステアリン酸アミドプロピルジメチルアミノヒドロキシスルホベタイン、イソステアリン酸アミドエチルジエチルアミノヒドロキシスルホベタイン、イソステアリン酸アミドプロピルジエチルアミノヒドロキシスルホベタイン、N-ラウリル-N,N-ジメチルアンモニウム-N-プロピルスルホベタイン、N-ラウリル-N,N-ジメチルアンモニウム-N-(2-ヒドロキシプロピル)スルホベタイン、N-ラウリル-N,N-ジメチル-N-(2-ヒドロキシ-1-スルホプロピル)アンモニウムスルホベタイン、ラウリルヒドロキシスルホベタイン、ドデシルアミノメチルジメチルスルホプロピルベタイン、オクタデシルアミノメチルジメチルスルホプロピルベタイン、2-アルキル-N-カルボキシメチル-N-ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン(2-ラウリル-N-カルボキシメチル-N-ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン2-ステアリル-N-カルボキシメチル-N-ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン等)、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルベタイン、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルヒドロキシスルタイン等を挙げることができる。
【0039】
アミンオキシド型の両性界面活性剤としては、例えば、ラウリルジメチルアミン-N-オキシド、オレイルジメチルアミン-N-オキシド等を挙げることができる。
【0040】
これら両性界面活性剤のうち、ベタイン型の両性界面活性剤を使用することが好ましく、ベタイン型の中でも、アルキルベタイン、イミダゾリニウムベタイン、カルボベタインが特に好ましい。アルキルベタインとしては、ステアリルベタイン、ラウリルベタイン等を挙げることができ、イミダゾリニウムベタインとしては、2-アルキル-N-カルボキシメチル-N-ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン等を挙げることができる。
【0041】
2-3.抗ウイルス剤
本発明にかかる抗ウイルス剤は、本発明の効果が阻害されない限りにおいて特に限定されない。抗ウイルス剤としては、有機系抗ウイルス剤、無機系抗ウイルス剤、抗ウイルス性界面活性剤を用いることができるが、発泡体との化学反応や環境による劣化の観点から無機系抗ウイルス剤が好ましい。無機系抗ウイルス剤としては、例えば、光触媒や金属化合物、無機化合物があり、光触媒としては酸化チタンや酸化タングステンなどに銅や鉄などを担持させた複合体を挙げることができる。また、これらをゼオライト等の多孔質体等に担持させて用いることもできる。金属化合物としては銀イオン等を含む化合物や金属イオンとゼオライトやシリカゲル、珪藻土といった多孔性無機化合物を組み合わせたものを挙げることができる。無機化合物としては、貝殻由来等の酸化カルシウムや消石灰のような水酸化カルシウムやドロマイトなどを挙げることができる。これらは、単独で、又は、複数を組み合わせて用いることができる。これらのうち、酸化チタンや酸化タングステンなどの光触媒、消石灰を用いることがより好ましく、ゼオライト又はアパタイトに酸化チタンを担持させたもの及び消石灰がさらに好ましく、ゼオライトに酸化チタンを担持させたもの及び消石灰が特に好ましい。
【0042】
無機系抗ウイルス剤の平均粒径は0.1~30μmとすることができ、0.1~20μmが好ましく、0.1~10μmがより好ましい。無機系抗ウイルス剤の平均粒径がかかる範囲にある場合には、発泡シートとした際の気泡の壁内に、無機系抗ウイルス剤が完全に包埋されず、気泡の表面(壁面)から無機系抗ウイルス剤の一部が露出することが可能となる。さらに無機系抗ウイルス剤の粒子が十分に小さいため、気泡の壁面に露出している無機系抗ウイルス剤の表面積を大きくすることができ、発泡シートの抗ウイルス性を優れたものとすることができる。
【0043】
無機抗ウイルス剤の平均粒径は、パーティクルカウンターを用いて測定する。
【0044】
2-4.その他添加剤
本発明のエマルジョン組成物は、本発明の効果を阻害しない限りにおいて、その他の添加剤を含むことができる。その他の添加剤としては、架橋剤、水分散性樹脂分散用界面活性剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、抗菌剤、分散剤、充填剤、着色料等、添加剤として公知のものを添加することができる。
【0045】
架橋剤を用いることで、エマルジョン組成物を発泡、硬化させた発泡シートの強度を向上させることが可能となる。
【0046】
このような架橋剤としては特に限定されず、用途等に応じて、必要量添加すればよい。架橋剤による架橋手法としては、例えば、物理架橋、イオン架橋、化学架橋があり、架橋方法は、水分散性樹脂の種類に応じて選択することができる。架橋剤としては、公知の架橋剤を使用可能でありエポキシ系架橋剤、メラミン系架橋剤、イソシアネート系架橋剤、カルボジイミド系架橋剤、オキサゾリン系架橋剤等を、使用する樹脂配合系が含有する官能基の種類及び、官能基量に応じて適量使用することができる。粘着強度、タック強度及び層間剥離強度を向上させるため、エポキシ系架橋剤、イソシアネート系架橋剤が好ましい。イソシアネート系及びエポキシ系架橋剤は、材料強度を上げることにより、被着体及び多孔質フォームの材料破壊を防ぐことができる。中でも脂肪族イソシアネートがより好ましい。これら架橋剤は、2種以上併用してもよい。
【0047】
水分散性樹脂分散用界面活性剤とは、水分散性樹脂を分散させるための界面活性剤である(上述したアニオン性界面活性剤と異なり、起泡剤としての効果を有さずともよい)。このような界面活性剤は、選択する水分散性樹脂に応じて適宜選択すればよい。
【0048】
3.エマルジョン組成物の特性
3-1.粘度
本発明のエマルジョン組成物の粘度は、特に限定されないが、例えば、3,000~20,000mPa・sとすることができ、5,000~18,000mPa・sが好ましく、8,000~15,000mPa・sがより好ましい。エマルジョン組成物の粘度がかかる範囲にある場合には、成形時の泡保持力が十分となり、より微細なセルが成形でき、粘着強度がより強くなる傾向にあり、成形時に原料へのせん断力を低減できるため、歪な形のセルが成形することを防げるため、より十分な自己粘着強度が得られる。
【0049】
また、エマルジョン組成物の粘度は、攪拌効率に影響を及ぼす。撹拌効率は、例えば、メカニカルフロス法で発泡シートを製造する際の泡の形成において、重要なファクターの一つであると考えられる。撹拌効率の増加は、原料中に入り込んだ泡をより微細、かつ、均一に成形することを可能とする。これにより被着体に対しての接着面積が上がることで、被着体に対する粘着強度が向上するものと考えられる。また、このことは微細セルがもたらす強い吸盤効果にも影響していると推定される。
【0050】
エマルジョン組成物の粘度は、ブルックフィールド粘度計(25℃)によって測定する。
【0051】
3-2.ガラス転移温度
エマルジョン組成物のガラス転移温度は、特に限定されないが、-30℃~30℃とすることができ、-25℃~25℃であることがより好ましい。エマルジョン組成物のガラス転移温度がかかる範囲にある場合には、低温環境下での使用においても、高硬度化したり、減粘着化したりすることを防止することができる。
【0052】
エマルジョン組成物のガラス転移温度の測定は、動的粘弾性装置を用いて、JIS-K7198に準拠した手順で-80℃~150℃、5℃/minで昇温、周波数1Hzの条件で測定したtanδのピーク値を示す温度をガラス転移温度として測定する。
【0053】
4.エマルジョン組成物の製造方法
4-1.原料の配合量
本願におけるエマルジョン組成物の「固形分」を構成する成分は、エマルジョン組成物から分散媒を除いた成分である。具体的には、樹脂の他、界面活性剤やその他の添加剤等を含有したものである。固形分とは、エマルジョン組成物の揮発成分を除去し、乾固させた場合の残留物のことを示す。以下では本発明にかかる発泡体の好適配合比について説明する。なお、以下の記載における配合量や配合比は、特記しない限り、固形分を基準とする。
【0054】
エマルジョン組成物は、エマルジョン組成物の全量を基準、即ち、固形分量及び非固形分量の合計を100質量%として、10~90質量%の固形分を含有することが好ましい。20~80質量%であることがより好ましく、30~75質量%であることがさらに好ましい。
【0055】
樹脂成分(エマルジョン)の固形分は、エマルジョン組成物の固形分全体の質量を100質量%とした場合に、70~90質量%とすることができ、75~90質量%が好ましい。なお、以下の記載における配合量や配合比は、特記しない限り、固形分を基準とする。
【0056】
界面活性剤の固形分は、エマルジョン組成物の固形分全体の質量を100質量%とした場合に、1~10質量%とすることができ、2~8質量%が好ましく、2.5~7.5質量%がより好ましく、5~7.5質量%がさらに好ましい。このような範囲とすることで、優れた抗ウイルス性を有し、曲面などに対する形状追従性を有するため触感や風合いに優れ、自己粘着性を有するため交換時の作業性が良好な発泡シートを、形成可能なエマルジョン組成物を得ることができる。
【0057】
界面活性剤としては、アニオン界面活性剤と両性界面活性剤を併用することが好ましく、その場合に、アニオン界面活性剤の固形分の質量(Ma)と両性界面活性剤の固形分の質量(Mz)の比(Ma:Mz)は、20:1~1:1とすることができ、15:1~5:1が好ましく、15:1~10:1がより好ましい。このような範囲とすることで、優れた抗ウイルス性を有し、曲面などに対する形状追従性を有するため触感や風合いに優れ、自己粘着性を有するため交換時の作業性が良好な発泡シートを、形成可能なエマルジョン組成物を得ることができる。
【0058】
抗ウイルス剤の固形分は、エマルジョン組成物の固形分全体の質量を100質量%とした場合に、3~15質量%とすることができ、5~12質量%が好ましく、6~12質量%がより好ましく、8.5~11.5質量%がさらに好ましい。このような範囲とすることで、優れた抗ウイルス性を有し、曲面などに対する形状追従性を有するため触感や風合いに優れ、自己粘着性を有するため交換時の作業性が良好な発泡シートを、形成可能なエマルジョン組成物を得ることができる。
【0059】
本発明のエマルジョン組成物の界面活性剤の固形分濃度(Cs)と抗ウイルス剤の固形分濃度(Cv)との固形分濃度比率(Cs/Cv)は、0.3~2.5であり、0.3~2.0が好ましく、0.34~1.84がより好ましい。このような範囲とすることで、優れた抗ウイルス性を有し、曲面などに対する形状追従性を有するため触感や風合いに優れ、自己粘着性を有するため交換時の作業性が良好な発泡シートを、形成可能なエマルジョン組成物を得ることができる。
【0060】
本発明のエマルジョン組成物の界面活性剤の固形分濃度(Cs)と抗ウイルス剤の固形分濃度(Cv)との合計(Cs+Cv)は、10~20質量%であり、11~19質量%が好ましく、11.6~18.6質量%がより好ましい。このような範囲とすることで、優れた抗ウイルス性を有し、曲面などに対する形状追従性を有するため触感や風合いに優れ、自己粘着性を有するため交換時の作業性が良好な発泡シートを、形成可能なエマルジョン組成物を得ることができる。
【0061】
4-2.配合
本発明のエマルジョン組成物は各原料を混合することで調製することができる。混合方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、各成分を混合する混合タンク等の容器内で撹拌しながら混合することができる。
【0062】
5.エマルジョン組成物の用途
本発明のエマルジョン組成物は、発泡、硬化することで発泡シートとして使用することができる。本発明にかかる発泡シートは、自己粘着性を有し、粘着剤なしに被着体に貼り合わせることができる。このため、抗ウイルス性が付与されていない物品に貼り合わせることで、その物品に抗ウイルス性を付与することが可能となる。物品としては、特に限定されるものではないが、人体が触れるようなもの、特にドアノブ、取っ手、ハンドル等を挙げることができる。
【0063】
5-1.発泡シートの特性
本発明の発泡シートの密度は、50~800kg/mとすることができ、150~500kg/mが好ましく、150~400kg/mがより好ましく、150~230kg/mがさらに好ましく、150~200kg/mが特に好ましい。発泡シートの密度がかかる範囲にある場合には、優れた抗ウイルス性を有し、曲面などに対する形状追従性を有するため触感や風合いに優れ、自己粘着性を有するため交換時の作業性が良好な発泡シートとなる。
【0064】
発泡シートの密度は、JIS K7222:2005「発泡プラスチック及びゴム―見掛け密度の求め方」に従って、測定する。
【0065】
本発明の発泡シートの厚みは、本発明の効果が阻害しない限りにおいて特に限定されないが、0.1~3.0mmとすることができ、0.5~1.5mmが好ましく、0.6~1.5mmがより好ましく、1~1.5mmがさらに好ましい。発泡シートの厚みがかかる範囲にある場合には、曲面などに対する形状追従性を有するため触感や風合いに優れる発泡シートを得ることができる。
【0066】
本発明の発泡シートの25℃環境下における25%圧縮時の応力(本願において、圧縮硬度(25%CLD)と記載する場合がある)は、5~150kPaとすることができる。発泡シートの圧縮硬度(25%CLD)がかかる範囲にある場合には、曲面などに対する形状追従性を有するため触感や風合いに優れる発泡シートとなる。
【0067】
発泡シートの圧縮硬度(25%CLD)は、JIS K6254-2:2016「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム-応力-ひずみ特性の求め方」に記載のD法によって測定する。
【0068】
本発明の発泡シートの25℃環境下におけるステンレス(SUS)板に対する粘着強度は、0.1~4.0N/24mmとすることができ、0.4~1.2N/24mmが好ましい。発泡シートの25℃環境下におけるステンレス(SUS)板に対する粘着強度がかかる範囲にある場合には、様々な被着体に対し、十分な粘着力を発揮するとともに、交換時の脱着も容易となり、交換時の作業性が優れたものとなる。
【0069】
本発明の発泡シートの25℃環境下におけるステンレス(SUS)板に対する粘着強度の測定は、JIS Z 0237:2009「粘着テープ・粘着シート試験方法」に記載の90°剥離試験に従って測定する。
【0070】
本発明の発泡体シートの25℃環境下における引張強度は、0.1~4.0MPaとすることができ、0.1~3.0MPaが好ましい。発泡シートの25℃環境下における引張強度がかかる範囲にある場合には、剥離の際に材料残りが生じないという効果が得られる。
【0071】
本発明の発泡体シートの25℃環境下における引張破断伸びは、50%以上とすることができ、100~400%が好ましく、150~350%がより好ましい。発泡シートの25℃環境下における引張破断伸びがかかる範囲にある場合には、曲面追従性を有するという効果が得られる。
【0072】
発泡シートの25℃環境下における引張強度及び引張破断伸びは、JIS K6251:2010「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム-引張特性の求め方」に従って測定する。
【0073】
発泡シートの平均気泡径(平均セル径と称する場合がある)は、10~500μmとすることができ、20~300μmが好ましく、30~200μmがより好ましい。発泡シートの平均気泡径がかかる範囲にある場合には、発泡シートの表面積を大きくすることが可能となり、その壁面に抗ウイルス剤を露出することができる。そのため、抗ウイルス性に優れた発泡シートを得ることができる。
【0074】
発泡シートの平均気泡径の測定は、発泡シートの断面を走査型電子顕微鏡で撮影し、その撮影画像を市販のソフトで処理することで、画像上における各気泡の平均投影面積を求め、平均投影面積を円の面積として、平均気泡径を算出する。
【0075】
5-2.発泡シートの製造方法
発泡シートは、本発明のエマルジョン組成物を発泡、硬化させて得ることができる。
【0076】
5-2-1.発泡方法、発泡条件
本発明にかかる発泡シートの製造方法で使用される発泡方法としては、メカニカルフロス(機械発泡)法を使用する。メカニカルフロス法は、エマルジョン組成物を攪拌羽根等で攪拌することにより、大気中の空気をエマルジョン組成物に混入させて発泡させる方法である。撹拌装置としては、メカニカルフロス法に一般に用いられる撹拌装置を特に制限なく使用可能であるが、例えば、ホモジナイザー、ディゾルバー、メカニカルフロス発泡機等を使用することができる。このメカニカルフロス法によれば、エマルジョン組成物と空気との混合割合を調節することによって、種々の用途に適した密度の多孔質フォームを得ることができる。その他の発泡方法を併用することも可能であるが、化学発泡剤を用いた発泡方法を併用すると、独立泡の割合が高くなることで、密度が大きくなり、多孔質フォームの柔軟性が失われるため、好ましくない。
【0077】
エマルジョン組成物と空気との混合時間は特に制限されないが、通常は1~10分、好ましくは2~6分である。混合温度も特に制限されないが、通常は常温である。また、上記の混合における攪拌速度は、気泡を細かくするために200rpm以上が好ましく(500rpm以上がより好ましく)、発泡機からの発泡物の吐出をスムーズにするために2000rpm以下が好ましい(800rpm以下がより好ましい)。
【0078】
5-2-2.発泡シートの形成
以上のようにして発泡したエマルジョン組成物(発泡エマルジョン組成物)は、例えば、ドクターナイフ、ドクターロール等の公知の手段により、所望の厚みに合わせたシート状等の発泡体に形成される。
【0079】
5-2-3.硬化
発泡シートの硬化方法としては、公知の方法を用いることができる。発泡シートは自己架橋をさせることもできるが、エネルギーを印加してエマルジョンを構成する樹脂を、架橋剤を介して架橋させることにより、発泡シートを硬化させてもよい。エネルギーを印加する工程としては特に限定されないが、例えば、加熱工程(熱架橋)を挙げることができる。
【0080】
加熱工程では、シート状に成形された発泡したエマルジョン組成物中の分散媒を蒸発させる。この際の乾燥方法としては特に制限されるものではないが、例えば、熱風乾燥等を用いればよい。また、乾燥温度及び乾燥時間についても特に制限されるものではないが、例えば、80℃程度で1~3時間程度とすればよい。
【0081】
また、この加熱工程において、分散媒が発泡したエマルジョン組成物中から蒸発するが、この蒸気が抜ける際の通り道が、多孔質フォームの内部から外部まで連通されることとなる。従って、発泡シートでは、この水蒸気が抜ける際の通り道が連続気泡として残るため、多孔質フォーム中に存在する気泡の少なくとも一部が連続気泡となる。ここで、混入された発泡用気体がそのまま残存している場合には、得られた多孔質フォーム中では独立気泡となり、混入された発泡用気体が、本工程において蒸気が抜ける際に連通された場合には、得られた多孔質フォーム中では連続気泡となる。すなわち、本発明においては、多孔質フォーム中の気泡の一部が連続気泡であり、残りの気泡が独立気泡であるという構造となり、連続気泡と独立気泡が混在する半連続気泡構造となる。
【0082】
架橋剤を添加した場合には、加熱工程では、原料の架橋反応を進行及び完了させる。具体的には、上述した架橋剤により原料同士が架橋され、硬化した多孔質フォームが形成される。この際の加熱手段としては、原料に充分な加熱を施し、原料を架橋させ得るものであれば特に制限はされないが、例えば、トンネル式加熱炉等を使用することができる。また、加熱温度及び加熱時間も、原料を架橋させることができる温度及び時間であればよく、例えば、80~150℃(特に、120℃程度が好適)で1時間程度とすればよい。
【実施例
【0083】
<<エマルジョン組成物の作製>>
<原料>
<水分散性樹脂>
・アクリル樹脂エマルジョン1:アクリル共重合体、固形分54%、pH9、粘度12,000mPa・s、Tg=-20℃(計算値)、(アイカ工業社製)
・ウレタン樹脂エマルジョン1:ポリカーボネート系、固形分60%、pH8
・エチレン-酢酸ビニル共重合体エマルジョン1:固形分55%、pH8.5、粘度2,500mPa・s、Tg-18℃(住化ケムテックス社製)
<界面活性剤>
・アニオン性界面活性剤1:ステアリン酸アンモニウム、pH11、固形分33%
・アニオン性界面活性剤2:アルキルスルホコハク酸ナトリウム、pH9.4、固形分30%、HLB39.7
・アニオン界面活性剤3:アルキルベタイン、脂肪酸アルカノールアミド、ジエタノールアミン、アニオン系界面活性剤混合系、pH10、固形分30.5%
・両性界面活性剤:アルキルベタイン、pH10、固形分40%
<抗ウイルス剤>
抗ウイルス剤1:ゼオライト+酸化チタン、粒径:0.2~0.4μm
抗ウイルス剤2:アパタイト+酸化チタン、粒径:3~8μm
抗ウイルス剤3:漆喰(消石灰)
<架橋剤>
架橋剤1:疎水系HDIイソシアヌレート:官能基数3.5
【0084】
<エマルジョン組成物の作製>
<実施例1のエマルジョン組成物>
アクリル樹脂エマルジョン1とウレタン樹脂エマルジョン1を主剤として使用し、エマルジョンの全量を基準(固形分量及び非固形分量の合計を100重量部とする。)として、各50:50重量部に対し、4重量部のアニオン性界面活性剤1、3重量部のアニオン性界面活性剤2、3重量部のアニオン性界面活性剤3、1重量部の両性界面活性剤、15重量部の抗ウイルス剤1、2.0重量部の架橋剤を混合して、実施例1のエマルジョン組成物とした。
<実施例2~14及び比較例1~5のエマルジョン組成物>
表1~2に示す割合(実施例2~14に対応する)で原料を配合した以外は、実施例1のエマルジョン組成物と同様にして各実施例2~14及び比較例1~5のエマルジョン組成物を調製した。
【0085】
<<発泡シートの作製>>
<発泡シートの作製>
得られた各実施例及び比較例のエマルジョン組成物にエアーを加えて、メカニカルフロス法により(発泡条件100~1000rpmにて)発泡させ、基材にキャスティングした後、加熱処理(オーブン又は乾燥炉)して、各実施例及び比較例の発泡シートを得た。
【0086】
<<測定・評価>>
<厚さ>
各実施例及び比較例の発泡シートの厚さを、シックネスゲージによって測定した。結果を表1~2に示した。
【0087】
<密度測定>
各実施例及び比較例の発泡シートの密度は、JIS K7222:2005「発泡プラスチック及びゴム―見掛け密度の求め方」に従って測定した。具体的には、単位体積当たりの重さを計算することによって測定した。結果を表1~2に示した。
【0088】
<圧縮硬度(25%CLD)測定>
各実施例及び比較例の発泡シートの圧縮硬度は、JIS K6254:2016「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム-応力-ひずみ特性の求め方」の圧縮に準拠し、厚みに対し25%圧縮した際の荷重を測定した。具体的には、φ50のサンプルを100φの圧縮板にて、1.0mm/minの速度で、厚さの25%分を(元のサンプル厚みに対する75%の厚さに)押しつぶした時の荷重を測定し、圧縮硬度を算出した。結果を表1~2に示した。
【0089】
<粘着強度(SUS)測定>
各実施例及び比較例の発泡シートを、24mm幅×150mmに打ち抜き、伸びの影響をなくすため表面(粘着面でない方)に片面接着テープを止めた発泡体を30mm幅×200mmの壁紙(株式会社サンゲツ社製、型番LB-9721)に貼り、2kgローラーで2回往復し圧着させ室温に24時間放置した。その後、インストロン型材料試験機(島津製作所社製オートグラフ)を用い、クロスヘッド速度を300mm/minとして引き上げ、90°剥離試験を行い、粘着強度とした。試験は、JIS Z 0237:2009「粘着テープ・粘着シート試験方法」に記載の90°剥離試験に従って行った。結果を表1~2に示した。
【0090】
<引張強度測定、引張破断伸び測定>
各実施例及び比較例の発泡シートの引張強度及び引張破断伸びを、JIS K6251:2010「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム-引張特性の求め方」に準拠して測定した。具体的には、各実施例及び比較例の発泡シートをダンベル状3号形に打ち抜き試験片を作成し、インストロン型材料試験機(島津製作所社製、オートグラフ)を用い、クロスヘッド速度を200mm/minとして、引張試験を行い、破断時の応力及び伸びを測定した。結果を表1~2に示した。
【0091】
<成形性評価>
各実施例及び比較例の発泡シートの表面を肉眼で観察し、成形性を評価した。セル径が均一であれば5点、セルの合一が存在すれば3点、表面割れが生じている場合には0点とした。結果を表1~2に示した。
【0092】
<形状追従性評価>
各実施例及び比較例の発泡シートの形状追従性は、各発泡シートを長さ160mm×幅50mmに加工し、ドアノブ(美和ロック社製、型式MIWA HM)に貼り付けた際の空気の噛みこみを肉眼で観察して評価した。空気を噛みこまずに貼り付けることができた場合を1点、空気を噛みこんだ場合を0点として評価した。結果を表1~2に示した。
【0093】
<触感評価>
各実施例及び比較例の発泡シートを、各発泡シートを長さ160mm×幅50mmに加工し、ドアノブ(美和ロック社製、型式MIWA HM)に貼り付けた。前記ドアノブを無作為に選抜した5人の評価者がドアノブを使用して、発泡シートの触感を以下の基準で判定した。5人の判定結果が過半数を超えた評価を触感評価とした。結果を表1~2に示した。
2点:柔らかさと滑らかさがはっきりと感じられる。
1点:柔らかいが若干のタック性を感じられる。
0点:硬さを感じ違和感を覚える。
【0094】
<糊残り評価>
各実施例及び比較例の発泡シートを、各発泡シートを長さ160mm×幅50mmに加工し、ドアノブ(美和ロック社製、型式MIWA HM)に貼り付け、1週間放置したのち、手で引き剥がし、糊残りを肉眼で観察し、以下の判断基準で評価した。結果を表1~2に示した。
2点:ドアノブの剥離面に糊残りがない場合
1点:ドアノブの剥離面の50%未満に糊残りがある場合
0点:ドアノブの剥離面の50%以上に糊残りがある場合又は発泡シートが破断した場合
【0095】
<抗ウイルス活性値評価>
(実施例1~13、比較例1~5)
実施例1~13及び比較例1~5の発泡シートの抗ウイルス活性値を、JIS R1706:2013「ファインセラミックス-光触媒材料の抗ウイルス性試験方法-バクテリオファージQβを用いる方法」に準拠して測定した。具体的には、実施例1~13及び比較例1~5の発泡シートに対し、紫外光強度が0.25mW/cmの紫外線を4時間照射し、抗ウイルス活性値を算出した。結果を表1~2に示した。
(実施例14)
実施例14の発泡シートの抗ウイルス活性値を、JIS R1706:2013「ファインセラミックス-光触媒材料の抗ウイルス性試験方法-バクテリオファージQβを用いる方法」に準拠して測定した。具体的には、実施例14の発泡シートに対し、暗所条件で、4時間静止し、抗ウイルス活性値を算出した。結果を表1~2に示した。
(評価基準)
上記の方法によって得られた抗ウイルス活性値に対し、以下の判断基準で評価した。結果を表1~2に示した。
5点:抗ウイルス活性値が3.0以上の場合
3点:抗ウイルス活性値が2.0以上3.0未満の場合
0点:抗ウイルス活性値が2.0未満の場合
【0096】
<総合判定>
以上の評価項目の評価点数を合計し、以下の判断基準で総合判定を行った。結果を表1~2に示した。
○:合計点数が14~15点
△:合計点数が10~13点
×:合計点数が9点以下
【0097】
【表1】
【0098】
【表2】