(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-29
(45)【発行日】2024-02-06
(54)【発明の名称】造形条件の設定方法、積層造形方法、積層造形システム、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
B23K 9/04 20060101AFI20240130BHJP
B23K 26/34 20140101ALI20240130BHJP
B23K 26/21 20140101ALI20240130BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20240130BHJP
B33Y 50/02 20150101ALI20240130BHJP
B29C 64/393 20170101ALI20240130BHJP
【FI】
B23K9/04 G
B23K9/04 Z
B23K26/34
B23K26/21 Z
B33Y10/00
B33Y50/02
B29C64/393
(21)【出願番号】P 2020161261
(22)【出願日】2020-09-25
【審査請求日】2022-11-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】迎井 直樹
(72)【発明者】
【氏名】泉谷 瞬
【審査官】黒石 孝志
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0151714(US,A1)
【文献】国際公開第2017/038985(WO,A1)
【文献】特開2020-032564(JP,A)
【文献】特開2002-144061(JP,A)
【文献】特開2020-37246(JP,A)
【文献】特開2016-168828(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/00 - 9/32
B23K 26/00 - 26/70
B29C 64/393
B33Y 10/00
B33Y 50/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物の造形形状データに基づいて前記対象物の積層造形を行うための造形条件の設定方法であって、
前記造形形状データにて示される形状を所定の単位サイズの要素に分割する分割工程と、
積層方向における複数の断面形状それぞれに対し、断面形状を構成する前記要素を予め規定された位置種別にて区分けする区分け工程と、
前記区分け工程にて区分けされた領域それぞれに対し、前記位置種別に対応して規定されている積層パターンの中から前記造形条件を設定する設定工程と、
を有
し、
前記断面形状の高さは、前記所定の単位サイズの高さ以上であり、
前記設定工程において、前記断面形状の高さと前記位置種別に基づいて、前記位置種別に対応して規定されている積層パターンの中から前記造形条件を設定する、ことを特徴とする設定方法。
【請求項2】
前記複数の断面形状それぞれの区分けされた領域に設定された造形条件を調整する調整工程を更に有することを特徴とする請求項1に記載の設定方法。
【請求項3】
前記積層パターンは、少なくとも溶着条件情報および形成経路情報に基づいて決定されることを特徴とする請求項1または2に記載の設定方法。
【請求項4】
前記溶着条件情報は、ビードの高さまたはビード幅のうちの少なくとも1つに基づいて決定された溶着プロセス情報を含むことを特徴とする請求項3に記載の設定方法。
【請求項5】
前記溶着プロセス情報は、溶着速度、入熱量、熱源方向に係る情報の条件を含むことを特徴とする請求項4に記載の設定方法。
【請求項6】
前記位置種別は、傾斜部、曲面部、外縁部、内部充填部、および平坦部のうちの少なくとも2つ以上を含むことを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載の設定方法。
【請求項7】
前記積層パターンにて示されるビードの高さは、前記所定の単位サイズの高さと一致することを特徴とする請求項1~6のいずれか一項に記載の設定方法。
【請求項8】
前記設定工程は更に、積層造形を行う際のビードの高さおよび幅の少なくとも一方に基づいて、前記位置種別に対応して規定されている積層パターンの中から前記造形条件を設定することを特徴とする請求項1に記載の設定方法。
【請求項9】
前記位置種別は、外縁部、内部充填部、前記外縁部と前記内部充填部の境界に位置する境界部、および、前記境界部の角に位置する境界部隅のうちの少なくとも2以上を含むことを特徴とする請求項8に記載の設定方法。
【請求項10】
前記積層パターンは、前記位置種別に応じて積層造形を行う際のビードの高さが異なり、
前記ビードの高さに応じて、積層造形を行う際のビードの形成順を決定する決定工程を更に有することを特徴とする請求項8または9に記載の設定方法。
【請求項11】
前記設定工程は、1パスにて異なる位置種別の領域を形成するように前記造形条件を設定することを特徴とする請求項8~10のいずれか一項に記載の設定方法。
【請求項12】
対象物の造形形状データに基づいて前記対象物の積層造形を行う積層造形方法であって、
前記造形形状データにて示される形状を所定の単位サイズの要素に分割する分割工程と、
積層方向における複数の断面形状それぞれに対し、断面形状を構成する前記要素を予め規定された位置種別にて区分けする区分け工程と、
前記区分け工程にて区分けされた領域それぞれに対し、前記位置種別に対応して規定されている積層パターンの中から造形条件を設定する設定工程と、
前記設定工程にて設定された造形条件に基づき、造形手段に前記対象物の積層造形を行わせる制御工程と
を有
し、
前記断面形状の高さは、前記所定の単位サイズの高さ以上であり、
前記設定工程において、前記断面形状の高さと前記位置種別に基づいて、前記位置種別に対応して規定されている積層パターンの中から前記造形条件を設定する、することを特徴とする積層造形方法。
【請求項13】
対象物の造形形状データに基づいて、前記対象物の積層造形を行う積層造形システムであって、
前記造形形状データを取得する取得手段と、
対象物を構成する要素の要素形状と、要素を造形するための積層パターンとを対応付けて保持する記憶手段と、
前記造形形状データにて示される形状を所定の単位サイズの要素に分割する分割手段と、
積層方向における複数の断面形状それぞれに対し、断面形状を構成する前記要素を予め規定された位置種別にて区分けする区分け手段と、
前記区分け手段にて区分けされた領域それぞれに対し、前記位置種別に対応して規定されている積層パターンの中から造形条件を設定する設定手段と、
前記設定手段にて設定された造形条件に基づき、前記対象物の積層造形を行う造形手段と
を有
し、
前記断面形状の高さは、前記所定の単位サイズの高さ以上であり、
前記設定手段は、前記断面形状の高さと前記位置種別に基づいて、前記位置種別に対応して規定されている積層パターンの中から前記造形条件を設定する、ことを特徴とする積層造形システム。
【請求項14】
コンピュータに、
対象物の造形形状データにて示される形状を所定の単位サイズの要素に分割する分割工程と、
積層方向における複数の断面形状それぞれに対し、断面形状を構成する前記要素を予め規定された位置種別にて区分けする区分け工程と、
前記区分け工程にて区分けされた領域それぞれに対し、前記位置種別に対応して規定されている積層パターンの中から、前記対象物の積層造形を行うための造形条件を設定する設定工程と、
を実行させ
、
前記断面形状の高さは、前記所定の単位サイズの高さ以上であり、
前記設定工程において、前記断面形状の高さと前記位置種別に基づいて、前記位置種別に対応して規定されている積層パターンの中から前記造形条件を設定する、プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、造形条件の設定方法、積層造形方法、積層造形システム、およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、3Dプリンタを用いた造形による部品製造のニーズが高まっており、金属材料を用いた造形の実用化に向けて研究開発が進められている。金属材料を造形する3Dプリンタの多くは、レーザや電子ビーム、アーク等の熱源を用いて金属粉体や金属ワイヤを融解および凝固させて形成する溶接金属を積層させることで積層造形物を造形している。
【0003】
従来技術として、特許文献1では積層造形物を造形する際には、造形形状を一定の単位高さにスライスし、その単位にて造形条件を設定することが行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
積層造形物を造形する際の状況などによって、融合不良や溶け落ちなどの欠陥が生じる場合がある。例えば、積層造形物を造形する際の経路上に角部がある場合、他の部分と同じ溶着条件にてその角部を形成した際には融合不良の欠陥が生じる場合がある。また、造形の能率を重視して熱エネルギーを上昇させると積層造形物の縁の部分で溶け落ちが生じ得る。逆に、溶け落ちの防止を必要以上に重視すると造形の能率が低下することとなる。特許文献1のような手法では、層単位にて造形条件を設定しているため、1の層の中での溶接欠陥が生じやすい位置や能率を重視する位置などを考慮して造形条件を制御することは行われていなかった。つまり、造形の能率向上と溶接欠陥の抑制の両立を行うためには、従来の手法では改良の余地があった。
【0006】
上記課題を鑑み、本願発明は、積層造形の能率向上と溶接欠陥の抑制の両立を可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために本願発明は以下の構成を有する。
(1) 対象物の造形形状データに基づいて前記対象物の積層造形を行うための造形条件の設定方法であって、
前記造形形状データにて示される形状を所定の単位サイズの要素に分割する分割工程と、
積層方向における複数の断面形状それぞれに対し、断面形状を構成する前記要素を予め規定された位置種別にて区分けする区分け工程と、
前記区分け工程にて区分けされた領域それぞれに対し、前記位置種別に対応して規定されている積層パターンの中から前記造形条件を設定する設定工程と、
を有することを特徴とする設定方法。
【0008】
また、本願発明の別の一形態として、以下の構成を有する。
(2) 対象物の造形形状データに基づいて前記対象物の積層造形を行う積層造形方法であって、
前記造形形状データにて示される形状を所定の単位サイズの要素に分割する分割工程と、
積層方向における複数の断面形状それぞれに対し、断面形状を構成する前記要素を予め規定された位置種別にて区分けする区分け工程と、
前記区分け工程にて区分けされた領域それぞれに対し、前記位置種別に対応して規定されている積層パターンの中から造形条件を設定する設定工程と、
前記設定工程にて設定された造形条件に基づき、造形手段に前記対象物の積層造形を行わせる制御工程と
を有することを特徴とする積層造形方法。
【0009】
また、本願発明の別の一形態として、以下の構成を有する。
(3) 対象物の造形形状データに基づいて、前記対象物の積層造形を行う積層造形システムであって、
前記造形形状データを取得する取得手段と、
対象物を構成する要素の要素形状と、要素を造形するための積層パターンとを対応付けて保持する記憶手段と、
前記造形形状データにて示される形状を所定の単位サイズの要素に分割する分割手段と、
積層方向における複数の断面形状それぞれに対し、断面形状を構成する前記要素を予め規定された位置種別にて区分けする区分け手段と、
前記区分け手段にて区分けされた領域それぞれに対し、前記位置種別に対応して規定されている積層パターンの中から造形条件を設定する設定手段と、
前記設定手段にて設定された造形条件に基づき、前記対象物の積層造形を行う造形手段と
を有することを特徴とする積層造形システム。
【0010】
また、本願発明の別の一形態として、以下の構成を有する。
(4) コンピュータに、
対象物の造形形状データにて示される形状を所定の単位サイズの要素に分割する分割工程と、
積層方向における複数の断面形状それぞれに対し、断面形状を構成する前記要素を予め規定された位置種別にて区分けする区分け工程と、
前記区分け工程にて区分けされた領域それぞれに対し、前記位置種別に対応して規定されている積層パターンの中から、前記対象物の積層造形を行うための造形条件を設定する設定工程と、
を実行させるためのプログラム。
【発明の効果】
【0011】
本願発明により、積層造形の能率向上と溶接欠陥の抑制の両立が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本願発明の第1の実施形態に係るシステムの全体構成の例を示す概略図。
【
図2】本願発明の第1の実施形態に係る造形制御装置の機能構成の例を示すブロック図。
【
図3】本願発明の第1の実施形態に係る溶着条件DBの構成例を示す概略図。
【
図4】本願発明の第1の実施形態に係る位置種別の分類の流れを説明するための概略図。
【
図5】本願発明の第1の実施形態に係る処理のフローチャート。
【
図6】本願発明の第2の実施形態に係る造形制御装置の機能構成の例を示すブロック図。
【
図7】本願発明の第2の実施形態に係る溶着条件DBの構成例を示す概略図。
【
図8】本願発明の第2の実施形態に係る位置種別の分類の流れを説明するための概略図。
【
図9】本願発明の第2の実施形態に係る位置種別の例を説明するための概略図。
【
図10】本願発明の第2の実施形態に係る処理のフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本願発明を実施するための形態について図面などを参照して説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本願発明を説明するための一実施形態であり、本願発明を限定して解釈されることを意図するものではなく、また、各実施形態で説明されている全ての構成が本願発明の課題を解決するために必須の構成であるとは限らない。また、各図面において、同じ構成要素については、同じ参照番号を付すことにより対応関係を示す。
【0014】
<第1の実施形態>
以下、本願発明の第1の実施形態について説明を行う。
【0015】
[システム構成]
以下、本願発明の一実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本願発明に係る積層造形方法を適用可能な積層造形システムの全体構成の例を示す概略図である。
【0016】
本実施形態に係る積層造形システム1は、造形制御装置2、マニピュレータ3、マニピュレータ制御装置4、コントローラ5、および熱源制御装置6を含んで構成される。
【0017】
マニピュレータ制御装置4は、マニピュレータ3や熱源制御装置6、マニピュレータ3に対して溶加材(以降、ワイヤとも称する)を供給する不図示の溶加材供給部を制御する。コントローラ5は、積層造形システム1の操作者の指示を入力するための部位であり、マニピュレータ制御装置4に対して、任意の操作を入力可能である。
【0018】
マニピュレータ3は、例えば多関節ロボットであり、先端軸に設けたトーチ8には、ワイヤが連続供給可能に支持される。トーチ8は、ワイヤを先端から突出した状態に保持する。トーチ8の位置や姿勢は、マニピュレータ3を構成するロボットアームの自由度の範囲で3次元的に任意に設定可能となっている。マニピュレータ3は、6軸以上の自由度を有するものが好ましく、先端の熱源の軸方向を任意に変化させられるものが好ましい。
図1の例では、矢印にて示すように、6軸の自由度を有するマニピュレータ3の例を示している。マニピュレータ3の形態は、4軸以上の多関節ロボットの他、2軸以上の直交軸に角度調整機構を備えたロボットであってもよい。
【0019】
トーチ8は、不図示のシールドノズルを有し、シールドノズルからシールドガスが供給される。シールドガスは、大気を遮断し、溶接中の溶融金属の酸化、窒化などを防いで溶接不良を抑制する。本実施形態で用いられるアーク溶接法としては、被覆アーク溶接や炭酸ガスアーク溶接等の消耗電極式、TIG溶接やプラズマアーク溶接等の非消耗電極式のいずれであってもよく、造形する積層造形物に応じて適宜選定される。本実施形態では、ガスメタルアーク溶接を例に挙げて説明する。
【0020】
マニピュレータ3において、アーク溶接法が消耗電極式の場合、シールドノズルの内部にはコンタクトチップが配置され、電流が給電されるワイヤがコンタクトチップに保持される。トーチ8は、ワイヤを保持しつつ、シールドガス雰囲気でワイヤの先端からアークを発生する。ワイヤは、ロボットアーム等に取り付けた不図示の繰り出し機構により、不図示の溶加材供給部からトーチ8に送給される。そして、トーチ8を移動させつつ、連続送給されるワイヤを溶融及び凝固させると、ワイヤの溶融凝固体である線状のビードがベース7上に形成される。ビードが積層されることで、目的とする積層造形物Wが造形される。
【0021】
なお、ワイヤを溶融させる熱源としては、上記したアークに限らない。例えば、アークとレーザとを併用した加熱方式、プラズマを用いる加熱方式、電子ビームやレーザを用いる加熱方式等、他の方式による熱源を採用してもよい。電子ビームやレーザにより加熱する場合、加熱量を更に細かく制御でき、ビードの状態をより適正に維持して、積層構造物の更なる品質向上に寄与できる。また、ワイヤの材質についても特に限定するものではなく、例えば、軟鋼、高張力鋼、アルミ、アルミ合金、ニッケル、ニッケル基合金など、積層造形物Wの特性に応じて、用いるワイヤの種類が異なっていてよい。
【0022】
マニピュレータ制御装置4は、造形制御装置2から提供される所定のプログラム群に基づいてマニピュレータ3や熱源制御装置6を駆動させ、ベース7上に積層造形物Wを造形させる。つまり、マニピュレータ3は、マニピュレータ制御装置4からの指令により、ワイヤをアークで溶融させながらトーチ8を移動させる。熱源制御装置6は、マニピュレータ3による溶接に要する電力を供給する溶接電源である。熱源制御装置6は、ビードを形成する際に電流や電圧などを切り替えることが可能である。本実施形態においてベース7は平面状のものを用いる構成を示しているが、これに限定するものではない。例えば、ベース7が円柱状にて構成され、その側面外周にビードが形成されるような構成であってもよい。また、本実施形態に係る造形形状データにおける座標系と、積層造形物Wが造形されるベース7上での座標系は対応付けられており、任意の位置を原点として、3次元における位置が規定されるように座標系の3軸が設定されていてもよく、ベース7が円柱状にて構成される場合には、円筒座標系が設定されていてもよく、場合によっては球面座標系が設定されていてもよい。なお、座標成分(以降、「座標軸」とも称する)は、直交座標系、円筒座標系、球座標系等の座標系の種類によって、任意で設定しても良く、例えば、直交座標系の3軸は、空間内で互いに直交する3本の数直線として、各々X軸、Y軸、Z軸で示す。
【0023】
造形制御装置2は、例えば、PC(Personal Computer)などの情報処理装置などであってよい。後述する造形制御装置2の各機能は、不図示の制御部が、不図示の記憶装置に記憶された本実施形態に係る機能のプログラムを読み出して実行することで実現されてよい。記憶装置としては、揮発性の記憶領域であるRAM(Random Access Memory)や、不揮発性の記憶領域であるROM(Read Only Memory)やHDD(Hard Disk Drive)などが含まれてよい。また、制御部としては、CPU(Central Processing Unit)や専用回路などが用いられてよい。
【0024】
[機能構成]
図2は、本実施形態に係る造形制御装置2の機能構成を主として示すブロック図である。造形制御装置2は、入力部10、記憶部11、分割部15、位置種別決定部16、積層パターン設定部17、造形条件調整部18、プログラム生成部19、および出力部20を含んで構成される。入力部10は、例えば、不図示のネットワークを介して外部から各種情報を取得する。ここで取得される情報としては、例えば、CAD/CAMデータなどの積層造形物の設計データ(以下、「造形形状データ」と称する)が挙げられる。なお、本実施形態に用いる各種情報の詳細については後述する。造形形状データは、通信可能に接続された不図示の外部装置から入力されてもよいし、造形制御装置2上にて所定の不図示のアプリケーションを用いて作成されてもよい。
【0025】
記憶部11は、入力部10にて取得された各種情報を記憶する。また、記憶部11は、本実施形態に係る位置種別および積層パターンのデータベース(DB)を保持、管理する。位置種別および積層パターンの詳細については後述する。
【0026】
分割部15は、造形形状データが示す積層造形物の形状を、予め規定された処理単位のサイズにて分割する。本実施形態では、処理単位への分割処理として、メッシュ分割と、スライス分割を用い、これらの処理の詳細は後述する。
【0027】
位置種別決定部16は、分割部15にて分割された単位サイズの複数の要素それぞれに対し、位置種別DB13を参照して、積層造形物W内での位置に応じた種別を決定する。
【0028】
積層パターン設定部17は、位置種別決定部16にて決定された位置種別と積層パターンDB14とに基づいて、積層造形物Wを構成する要素群の積層パターンを設定する。
【0029】
造形条件調整部18は、積層パターン設定部17にて設定された積層パターンに基づき、形成経路条件、や溶着条件等を含む造形条件の調整を行う。なお、形成経路条件とは、ある基準座標に対する、熱源およびトーチ等の材料供給装置の移動経路、溶着の始点、終点および次パス始点への軌跡等の条件を指す。また、溶着条件とは、溶着速度に係る情報、入熱量に係る情報、熱源方向に係る情報によって決定された溶着プロセスのパラメータ群を指す。例えば、熱源がアークの場合、溶着速度に係る情報はワイヤ送り速度、ワイヤ径等が挙げられ、入熱量に係る情報は電流、電圧、チップ-母材間距離等が挙げられ、熱源方向に係る情報はトーチ角度等が挙げられる。さらに、熱源がレーザの場合、溶着速度に係る情報はワイヤ送り速度、ワイヤ径等が挙げられ、入熱量に係る情報はレーザ出力等が挙げられ、熱源方向に係る情報はレーザ入射角度、光学系の焦点距離、対象と焦点位置の相対距離等が挙げられる。ここでの調整は、例えば、熱歪み形状を予測し、形状を補正するために、ビードの形成順の決定や、溶着条件のパラメータの調整などを行うことが挙げられる。なお、造形条件の調整は必須の処理ではなく、省略されてもよい。
【0030】
プログラム生成部19は、必要に応じて造形条件調整部18にて調整された造形条件に基づき、積層造形物Wを造形するためのプログラム群を生成する。例えば、1のプログラムが、積層造形物Wを構成する1のビードに対応してよい。ここで生成されるプログラム群は、マニピュレータ制御装置4にて処理、実行されることで、マニピュレータ3や熱源制御装置6の制御が行われる。なお、マニピュレータ制御装置4にて処理可能なプログラム群の種類や仕様は特に限定するものではないが、プログラム群の生成に要するマニピュレータ3や熱源制御装置6の仕様、およびワイヤの仕様などは予め取得されているものとする。
【0031】
出力部20は、プログラム生成部19にて生成されたプログラム群をマニピュレータ制御装置4に出力する。なお、出力部20は更に、造形制御装置2が備えるディスプレイなどの出力装置を用いて、各部位の処理結果を出力するような構成であってもよい。
【0032】
[データベース]
本実施形態においては、
図2に示したように位置種別DB13と積層パターンDB14を用いる。位置種別DB13と積層パターンDB14は、予め規定され、記憶部11にて保持、管理される。本実施形態では、造形対象となる積層造形物Wを複数の単位サイズの要素に分割し、その要素それぞれは積層造形物Wの位置に応じた位置種別が割り当てられることとなる。位置種別DB13は、その位置種別の分類を規定したものであり、割り当ての際の条件が指定される。位置種別としては、例えば、平坦部、傾斜部などが規定されるが、その種別は特に限定するものではない。位置種別を割り当てる際の条件は、その要素の位置や周辺要素との配置関係などが用いられてよい。
【0033】
積層パターンDB14は、位置種別DB13に規定された位置種別それぞれに対して積層造形を行う際の条件等を定義したデータベースである。積層パターンDB14は、少なくとも溶着条件情報とトーチ経路、溶着開始/終了等のデータが含まれる形成経路情報に基づいて決定されたデータを含む。
【0034】
図3は、本実施形態に係る積層パターンDB14に含まれる溶着条件情報(以降、溶着条件DBとも称する)の構成例を示す。溶着条件DBは、位置種別ごとにパス高さまたはパス幅といったビード形状を示すデータに基づいた溶着速度に係る情報、入熱量に係る情報、熱源方向に係る情報が少なくとも含まれる。なお、ビード形状を示すデータに基づく情報、すなわち溶着速度に係る情報、入熱量に係る情報、熱源方向に係る情報を含む情報全般を総称して、溶着プロセス情報と称する。因みに、溶着速度、入熱量、熱源方向に係る情報以外では、例えば、周囲の気温、風速等の環境条件やトーチのノズル径、熱源制御装置の特性等の設備条件等が挙げられる。溶着速度に係る情報は、例えば、ワイヤ送り速度、ワイヤ径、チップ-母材間距離(以降、ワイヤ突き出し長さとも称する)または溶加材の種類や材質等が挙げられる。
【0035】
入熱量に係る情報は、例えば、電流、電圧、またはワイヤ突き出し長さ等が挙げられ、熱源方向に係る情報は、例えば、トーチ角度等が挙げられる。
図3では、溶着速度は単位時間当たりに溶融するワイヤの重量で示しているが、例えば、単位時間あたりに送給される速度、すなわちワイヤ送給速度(m/min)を適用してもよい。また、
図3では入熱量は大、中、小で表示した定性的なデータであるが、さらに細かい定性評価で示してもよく、定量的に示してもよい。定量的な例としては、例えば、溶接の分野で用いられる、電流、電圧、速度から導き出される入熱量、すなわち電力(電流A×電圧V=W=J/s)を速度(cm/min=1/60cm/s)で割った値(J/cm)を適用してもよい。また、
図3では溶接方向に係る情報として、熱源角度で示している。本実施形態において熱源角度とは指向性熱源の入射角度であり、熱源の移動方向に垂直な面において、ビードを形成する面と熱源方向とがなす角を指す。熱源の角度は任意に設定可能であり、トーチ8の入射角度とは必ずしも一致しない。位置種別は、位置種別DB13にて規定された位置種別に対応する。本実施形態では、位置種別として平坦部および傾斜部を例に挙げて説明するが、これに限定するものではなく、更に詳細な分類を用いてもよい。
【0036】
パス高さは、対応する位置種別を形成する際のビードの1パス当たりの高さを示す。パス幅は、対応する位置種別を形成する際のビードの1パス当たりの幅を示す。上述のとおり、パス高さ、パス幅は、ビード形状を示す要素データである。ビード形状は、溶着速度、入熱量、熱源方法に係る各種条件によって決定した形状である。そのため、溶着条件DBは少なくとも、ビード形状を示す要素データに係るパス高さまたはパス幅の少なくとも一つのデータに基づいて、溶着速度、入熱量、熱源方法に係る各種条件が含まれるように設けられている。なお、ビード形状を示す要素データはパス高さ、パス幅の他に、例えば、パス高さとパス幅の比、フランク角、余盛角度等が挙げられるが、本実施形態においては、積層パターン設定の容易性の観点から、ビード形状を示す要素データはパス幅、パス高さのうちの少なくとも一つを用いることが好ましい。
【0037】
溶着条件DBの構成は、
図3に示す項目に限定するものではなく、他の項目が含まれてよい。例えば、マニピュレータ3や熱源の種類といった設備情報などに対応した条件が含まれてもよく、パスの形成経路のパターンを示す形成経路情報をまとめたDBとしてもよい。
【0038】
溶着条件が特定されると、形成経路情報などから、実際のビードを形成するための積層パターンを決定することができる。なお、積層パターンや形状の補正条件など、積層造形物Wを造形するための各種条件をまとめて造形条件とも称する。
【0039】
[位置種別の決定]
図4を用いて、本実施形態に係る積層造形物Wに対する位置種別の決定について説明する。積層造形物Wの例として、立体形状の積層造形物W1aを用いる。また、
図4において、3次元空間とそれを示す3軸はそれぞれ対応しているものとする。なお、座標軸はX軸、Y軸、Z軸で示す。
【0040】
まず、積層造形物W1aを単位サイズの要素に分割する。本実施形態において、単位サイズは3軸方向にて同じ長さとなる立方体(以降、「メッシュ」とも称する)とする。また、ここでの分割をメッシュ分割とも称する。なお、単位サイズは特に限定するものでは無いが、例えば、マニピュレータ3を制御可能な精度やビードを形成する際のパス高さやパス幅といったサイズなどに応じて規定されてよい。積層造形物W1bは、メッシュ分割を行った状態を示す。
【0041】
次に、メッシュ分割を行った積層造形物W1bを、メッシュの高さを層の高さとして複数の層に分割する。以下、層への分割をスライス分割とも称し、各層のデータをスライスデータとも称する。積層造形物W1cは、積層造形物W1bを複数の層にスライス分割した状態を示し、ここでは4つの層に分割されている。
【0042】
次に、スライス分割した各層に着目して位置種別の決定を行う。積層造形物W1d、W1eは、積層造形物W1cの最下層のスライスデータに着目したものである。積層造形物W1dはY軸方向に沿って見た図であり、積層造形物W1eはZ軸方向に沿って見た断面形状を示す図である。そして、各要素の位置種別を、位置種別DB13を参照して決定する。ここでは、要素群301(4つの要素)は位置種別が傾斜部として決定され、要素群302(12の要素)は位置種別が平坦部として決定されるものとする。同様に、積層造形物W1cの他の層についても位置種別が決定される。
【0043】
なお、上記の例では、メッシュ分割を行った後にスライス分割を行うような構成であったが、スライス分割を行った上でメッシュ分割を行うような構成であってもよい。これは、例えば、メッシュ分割を行う際の単位サイズと、スライス分割を行う際の層の高さの関係に応じて、いずれを先に行うかを決定してよい。上記の例では、メッシュ分割における単位サイズの高さと、スライス分割における層高さは同じである例を示したが、これに限定するものではない。例えば、スライス分割を行う際の層高さは、単位サイズの高さの整数倍となるような構成であってもよい。
【0044】
[処理フロー]
図5は、本実施形態に係る処理のフローチャートである。本処理は、例えば、造形制御装置2が備えるCPUやGPUなどの制御部が
図2に示した各部位を実現するためのプログラムを不図示の記憶装置から読み出して実行することにより実現されてよい。ここでは、説明を簡単にするため、処理主体を造形制御装置2としてまとめて記載する。
【0045】
S501にて、造形制御装置2は、造形する積層造形物Wの造形形状データを取得する。上述したように、造形形状データは外部から取得されてもよいし、造形制御装置2が備える不図示のアプリケーションを用いて作成されたものが取得されてもよい。
【0046】
S502にて、造形制御装置2は、S501にて取得した造形形状データが示す積層造形物Wの形状を単位サイズにメッシュ分割する。ここでの単位サイズは予め規定され、記憶装置等に保持されているものとする。
【0047】
S503にて、造形制御装置2は、S502にてメッシュ分割を行った造形形状データに対し、複数の層への分割を行う。なお、この分割はスライス分割のことを指す。ここでの1つの層に対応する層高さは予め規定され、記憶装置等に保持されているものとする。ここでは、層高さはS502にて用いた単位サイズの高さと同じであるものとして説明する。
【0048】
S504にて、造形制御装置2は、S503のスライス分割で得られた複数のスライスデータのうち未処理のスライスデータの1つに着目する。例えば、未処理のスライスデータのうちの最下層のスライスデータから順に着目してよい。
【0049】
S505にて、造形制御装置2は、着目しているスライスデータにおいて、各要素に対して位置種別を決定する。決定方法は、
図4を用いて説明したとおりである。
【0050】
S506にて、造形制御装置2は、S505にて決定した位置種別と積層パターンDB14に基づき、各要素に対応する積層パターンを設定する。例えば、スライスデータの層高さに一致するパス高さと位置種別に基づいて、積層パターンDB14を参照し、各要素に対応する積層パターンが設定される。このとき更に、同じ位置種別を有する連続する要素群の横方向(幅方向)の大きさと、積層パターンDB14にて示されるパス幅とに基づいて積層パターンを設定してよい。また、スライスデータに対応する形状を形成する際の1または複数のパスの経路を積層パターンとして設定してよい。1のパスは1のビードに対応し、1のビードはメッシュ分割における1または複数の要素を含むこととなる。
【0051】
S507にて、造形制御装置2は、全てのスライスデータに対する処理が完了したか否かを判定する。全てのスライスデータに対する処理が完了した場合(S507にてYES)、造形制御装置2の処理はS508へ進む。一方、未処理のスライスデータがある場合(S507にてNO)、造形制御装置2の処理はS504へ戻り、未処理のスライスデータに対する処理を繰り返す。
【0052】
S508にて、造形制御装置2は、各スライスデータに対応して設定された積層パターンに基づき、造形条件の調整を行う。ここでの調整は、例えば、ビードの形成順の決定や、溶着条件の調整などが挙げられる。これらは、隣接するビードとの位置関係や、エアカットの有無などを考慮して調整する項目を設定してよい。なお、造形条件の調整は必須の処理ではなく、省略されてもよい。
【0053】
S509にて、造形制御装置2は、設定された積層パターンに基づいてマニピュレータ制御装置4にて用いられるプログラム群を生成する。
【0054】
S510にて、造形制御装置2は、S509にて生成したプログラム群をマニピュレータ制御装置4へ出力する。そして、本処理フローを終了する。
【0055】
以上、本実施形態により、積層造形物内の位置に応じて、溶着条件や形成経路といった条件を含む積層パターンを設定することができる。そのため、積層造形の能率向上と溶接欠陥の抑制の両立が可能となる。
【0056】
また、積層造形物を構成する複数の層のそれぞれにおいて、位置に応じた造形条件の設定を行うことができるため、積層造形物を造形した後の削りシロを削減することができる。例えば、従来の手法では、削りシロを削減するために、層の高さを小さくして、層数を増やす必要がある。しかし、本実施形態では、位置に応じた造形条件を設定できるため、層数を増やすことを抑制でき、積層造形物全体の施工効率を向上させることができる。
【0057】
<第2の実施形態>
本願発明の第2の実施形態について説明する。なお、第1の実施形態と重複する箇所については説明を省略し、差分に着目して説明を行う。
【0058】
[機能構成]
図6は、本実施形態に係る造形制御装置2の機能構成を主として示すブロック図である。第1の実施形態にて示した
図2との差異として、メッシュ分割部51と形成順調整部52を備える。また、位置種別DB13と積層パターンDB14の構成が異なる。各DBの構成については後述する。
【0059】
メッシュ分割部51は、造形形状データが示す積層造形物の形状を、予め規定された単位サイズにて分割する。第1の実施形態では、メッシュ分割とスライス分割を行ったが、本実施形態では、メッシュ分割を行う。処理の詳細については後述する。
【0060】
形成順調整部52は、積層パターン設定部17にて設定された積層パターンに基づき、積層造形物Wを構成する複数のビードを形成する順番を調整する。処理の詳細については後述する。
【0061】
[データベース]
本実施形態においては、第1の実施形態と同様、位置種別DB13と積層パターンDB14を用いる。位置種別DB13と積層パターンDB14は、予め規定され、記憶部11にて保持、管理される。本実施形態では、造形対象となる積層造形物Wを複数の単位サイズの要素にメッシュ分割し、その要素それぞれは積層造形物Wの位置に応じた位置種別が割り当てられることとなる。位置種別DB13は、その位置種別の分類を規定したものであり、割り当ての際の条件が指定される。位置種別としては、例えば、外縁部、内部充填部、境界部境界部隅などが規定されるが、その種別は特に限定するものではない。境界部は、外縁部と内部充填部の境界に位置する部位が該当する。境界部隅は、境界部のうち角に位置する部位が該当する。位置種別を割り当てる際の条件は、その要素の位置や周辺要素との配置関係などが用いられてよい。例えば、境界部は、1つの面が外縁部に接した部位としてよい。境界部隅は、2つの面が外縁部に接した部位としてよい。
【0062】
積層パターンDB14は、位置種別DB13に規定された位置種別それぞれに対して積層造形を行う際の条件等を定義したデータベースである。
図7は、本実施形態に係る積層パターンDB14に含まれる溶着条件DBの構成例を示す。積層パターンDB14に含まれる溶着条件DBは、位置種別、パス高さ、パス幅、溶着速度、入熱量、熱源角度などが含まれる。位置種別は、位置種別DB13にて規定された位置種別に対応する。本実施形態では、位置種別として外縁部、内部充電部、境界部、境界部隅を例に挙げて説明するが、これに限定するものではなく、更に詳細な分類を用いてもよい。
【0063】
パス高さは、対応する位置種別を形成する際のビードの1パス当たりの高さを示す。パス幅は、対応する位置種別を形成する際のビードの1パス当たりの幅を示す。溶着速度は、ビードを形成する際の単位時間当たりの溶着速度を示す。入熱量は、ビードを形成する際の熱源による入熱量を示す。ここでは、大、中、小の3段階にて入熱量を示しているが、これ以外の水準数や数値にて示してもよい。熱源角度は、ビードを形成する際の熱源の角度を示す。電流および電圧は、熱源制御装置6により制御される電源の制御値である。
【0064】
積層パターンDB14の構成は、
図3に示す溶着条件DBの他に、例えば、パスの形成経路のパターンを示す形成経路情報を含んでもよいし、溶着条件DBに形成経路情報を含めた一つのDBとしてもよい。第1の実施形態にて述べたように、溶着条件が特定されると、実際のビードを形成するための積層パターンを決定することができる。
【0065】
[位置種別の決定]
図8を用いて、本実施形態に係る積層造形物Wに対する位置種別の決定について説明する。積層造形物Wの例として、3次元形状の積層造形物W2aを用いる。また、
図8において、3次元空間とそれを示す3軸はそれぞれ対応しているものとする。なお、座標軸はX軸、Y軸、Z軸で示す。
【0066】
まず、積層造形物W2aを単位サイズの要素にメッシュ分割する。本実施形態において、単位サイズは3軸方向にて同じ長さとなる立方体とする。単位サイズは特に限定するものでは無いが、例えば、マニピュレータ3を制御可能な精度やビードを形成する際のパス高さやパス幅といったサイズなどに応じて規定されてよい。積層造形物W2bは、メッシュ分割を行った状態を示す。
【0067】
次に、メッシュ分割を行った積層造形物W2bの各層に着目して位置種別の決定を行う。積層造形物W2cは、積層造形物W2bの最下層に着目したものである。積層造形物W2cはZ軸方向に沿って見た断面形状を示す図である。そして、各要素の位置種別を、位置種別DB13を参照して決定する。ここでは、要素群701は位置種別が外縁部として決定され、30の要素を含む。要素群702は位置種別が境界部として決定され、18の要素を含む。また、要素群703は位置種別が境界部隅として決定され、4の要素を含む。要素群704は位置種別が内部充填部として決定され、20の要素を含む。同様に、積層造形物W2bの他の層についても位置種別が決定される。そして、この位置種別に応じて、各層における要素群の区分けが行われる。
【0068】
[形成順調整]
本実施形態では、積層造形物Wを造形する際に、積層造形の能率向上と溶接欠陥の抑制を両立させるために、その位置種別に応じて異なる造形条件を用いる。このとき、1パス当たりのパス高さやパス幅が異なる場合がある。そこで、本実施形態では、形成順調整部52により、ビードの形成順の調整を行う。なお、1パスは1ビードまたは1溶接長と称することもある。
【0069】
図9は、位置種別に応じて、1のビードのパス高さやパス幅の違いを説明するための図である。積層造形物W3は、
図8に示した積層造形物W2aを造形した結果の例を示し、Y軸方向に沿って見た場合の断面図である。
図9の例において、積層造形物W3は、外縁部801、境界部802、内部充填部803の位置種別に対応して形成された複数のビードから構成されている。積層方向であるZ軸において、外縁部801は7層(7つのビードが積層されたものを指す)から形成され、境界部は5層(5つのビードが積層されたものを指す)から形成され、内部充填部803は5層(5つのビードが積層されたものを指す)から形成される。また、幅方向であるX軸方向において、外縁部801は1パス(1つのビード)から形成され、境界部802は1パス(1つのビードを指す)から形成され、内部充填部803は3パス(3つのビードが積層されたものを指す)から形成される。なお、内部充填部803は便宜上、3つのパスから形成しているように示したが、各層において1パスにて形成されるような構成であってもよい。また、外縁部801の最上層は、一部が積層造形物Wの形状からはみ出ているが、この部分は削りシロとして造形後に削られるものとして扱う。
【0070】
また、
図9における各ビードのサイズと、
図8を用いて説明したメッシュの単位サイズとの関係は以下であるものとして説明する。
メッシュの高さ:外縁部のパス高さ:境界部のパス高さ:内部充填部のパス高さ=2:3:4:4
メッシュの幅:外縁部のパス幅:境界部のパス幅:内部充填部のパス幅=1:1:2:2
この関係性に基づいて、各部位のビードを形成する際の基準の高さを設定する。より具体的には、メッシュの高さを2mmとした場合、外縁部を形成する際のパス高さを3mm、境界部のパス高さを4mm、内部充填部のパス高さを4mmと設定する。なお、上記の関係は一例であり、これに限定するものではない。
【0071】
上述したように、本実施形態では、位置種別と積層パターンDB14に基づいて、積層造形物Wを構成する各部位の積層パターンを設定する。このときの設定方法は、例えば、位置種別と、上記の関係性にて基準として特定されるパス高さとの組み合わせに対応する積層パターンを、積層パターンDB14を参照することで設定してよい。または、位置種別と、上記の関係性にて基準として特定されるパス高さおよびパス幅との組み合わせに対応する積層パターンを、積層パターンDB14を参照することで設定してもよい。または、位置種別と、上記の関係性にて基準として特定されるパス幅との組み合わせに対応する積層パターンを、積層パターンDB14を参照することで設定してもよい。
【0072】
そして、各部位に対する積層パターンを設定した後、形成順調整部52は、各ビードを形成する際の形成順を調整する。溶接欠陥を抑制するために、ビードの形成順に対する規則を規定することができる。例えば、ある層において、外縁部を先に形成し、その後、内部充填部を形成した方が内部充填部のビードを形成する際の垂れ落ちなど抑制することができる。また、積層時において外縁部の高さと内部充填部の高さの差異が一定の範囲内にすることでトーチの干渉を抑制することができる。また、造形の効率性を向上させるために、パスの開始位置や終了位置、エアカットの経路を調整するような条件が設定されてもよい。上記のような条件を予め規定しておき、ビードの形成順を調整する。
【0073】
なお、ビードの形成順を調整する際には、積層方向において所定の単位高さごとに形成順を決定する判断を行うような構成であってよい。より具体的には、ある単位高さを基準として、その基準を超えているか否かに基づいて次に形成するビードを決定してよい。このとき、複数の候補が該当する場合には、上述した条件に基づいて、更に形成順を調整してよい。上記の所定の単位高さは、例えば、メッシュ分割を行った際に用いた単位サイズの高さに基づいて決定されてよい。
【0074】
[処理フロー]
図10は、本実施形態に係る処理のフローチャートである。本処理は、例えば、造形制御装置2が備えるCPUやGPUなどの制御部が
図2に示した各部位を実現するためのプログラムを不図示の記憶装置から読み出して実行することにより実現されてよい。ここでは、説明を簡単にするため、処理主体を造形制御装置2としてまとめて記載する。
【0075】
S1001にて、造形制御装置2は、造形する積層造形物Wの造形形状データを取得する。上述したように、造形形状データは外部から取得されてもよいし、造形制御装置2が備える不図示のアプリケーションを用いて作成されたものが取得されてもよい。
【0076】
S1002にて、造形制御装置2は、S1001にて取得した造形形状データが示す積層造形物Wの形状を単位サイズにメッシュ分割する。ここでの単位サイズは予め規定され、記憶装置等に保持されているものとする。
【0077】
S1003にて、造形制御装置2は、S1002にてメッシュ分割を行った造形形状データの複数の層のうち未処理の層の1つに着目する。例えば、未処理の層のうちの最下層のスライスデータから順に着目してよい。
【0078】
S1004にて、造形制御装置2は、着目している層において、各要素に対して位置種別を決定し、区分けを行う。決定方法は、
図8を用いて説明したとおりである。
【0079】
S1005にて、造形制御装置2は、全ての層に対する処理が完了したか否かを判定する。全ての層に対する処理が完了した場合(S1005にてYES)、造形制御装置2の処理はS1006へ進む。一方、未処理の層がある場合(S1005にてNO)、造形制御装置2の処理はS1003へ戻り、未処理の層に対する処理を繰り返す。
【0080】
S1006にて、造形制御装置2は、S1004にて決定した位置種別と積層パターンDB14に基づき、各部位に対応する積層パターンを設定する。ここでの設定方法は、上述したとおりである。
【0081】
S1007にて、造形制御装置2は、各部位に対応して設定された積層パターンに基づき、各ビードの形成順の調整を行う。ここでの調整方法は上述したとおりである。
【0082】
S1008にて、造形制御装置2は、設定された積層パターンおよび形成順に基づいてマニピュレータ制御装置4にて用いられるプログラム群を生成する。
【0083】
S1009にて、造形制御装置2は、S1008にて生成したプログラム群をマニピュレータ制御装置4へ出力する。そして、本処理フローを終了する。
【0084】
以上、本実施形態により、積層造形物内の位置に応じて、溶着条件や積層パターンといった造形条件を設定することができる。そのため、積層造形の能率向上と溶接欠陥の抑制の両立が可能となる。
【0085】
<その他の実施形態>
また、本願発明において、上述した1以上の実施形態の機能を実現するためのプログラムやアプリケーションを、ネットワーク又は記憶媒体等を用いてシステム又は装置に供給し、そのシステム又は装置のコンピュータにおける1つ以上のプロセッサがプログラムを読出し実行する処理でも実現可能である。
【0086】
また、1以上の機能を実現する回路によって実現してもよい。なお、1以上の機能を実現する回路としては、例えば、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やFPGA(Field Programmable Gate Array)が挙げられる。
【0087】
以上の通り、本明細書には次の事項が開示されている。
(1) 対象物の造形形状データに基づいて前記対象物の積層造形を行うための造形条件の設定方法であって、
前記造形形状データにて示される形状を所定の単位サイズの要素に分割する分割工程と、
積層方向における複数の断面形状それぞれに対し、断面形状を構成する前記要素を予め規定された位置種別にて区分けする区分け工程と、
前記区分け工程にて区分けされた領域それぞれに対し、前記位置種別に対応して規定されている積層パターンの中から前記造形条件を設定する設定工程と、
を有することを特徴とする設定方法。
この構成によれば、積層造形の能率向上と溶接欠陥の抑制の両立が可能となる。特に、積層造形物内の位置に応じて適切な造形条件の設定が可能となる。
【0088】
(2) 前記複数の断面形状それぞれの区分けされた領域に設定された造形条件を調整する調整工程を更に有することを特徴とする(1)に記載の設定方法。
この構成によれば、位置に応じて設定された造形条件に対して調整を行うことで、より適切な制御が可能となる。
【0089】
(3) 前記積層パターンは、少なくとも溶着条件情報および形成経路情報に基づいて決定されることを特徴とする(1)または(2)に記載の設定方法。
この構成によれば、ビードを形成するための溶着条件や経路に応じて積層パターンを決定することが可能となる。
【0090】
(4) 前記溶着条件情報は、ビードの高さまたはビード幅のうちの少なくとも1つに基づいて決定された溶着プロセス情報を含むことを特徴とする(3)に記載の設定方法。
この構成によれば、ビードの高さまたはビード幅のうちの少なくとも1つに基づいて決定される溶着プロセス情報を用いて、積層パターンを決定することができる。
【0091】
(5) 前記溶着プロセス情報は、溶着速度、入熱量、熱源方向に係る情報の条件を含むことを特徴とする(4)に記載の設定方法。
この構成によれば、ビード形状を示すデータに基づく情報、すなわち溶着速度に係る情報、入熱量に係る情報、熱源方向に係る情報を含む溶着プロセス情報を用いて、積層パターンを決定することができる。
【0092】
(6) 前記位置種別は、傾斜部、曲面部、外縁部、内部充填部、および平坦部のうちの少なくとも2つ以上を含むことを特徴とする(1)~(5)のいずれかに記載の設定方法。
この構成によれば、位置種別としての平坦部、曲面部、外縁部、内部充填部、および傾斜部それぞれに対して適切な造形条件を設定することが可能となる。
【0093】
(7) 前記積層パターンにて示されるビードの高さは、前記所定の単位サイズの高さと一致することを特徴とする(1)~(6)のいずれかに記載の設定方法。
この構成によれば、ビードの高さとデータにて示される形状を区分けする際の高さとを一致させることで、造形条件の設定が容易になる。
【0094】
(8) 前記設定工程は更に、積層造形を行う際のビードの高さおよび幅の少なくとも一方に基づいて、前記位置種別に対応して規定されている積層パターンの中から前記造形条件を設定することを特徴とする(1)に記載の設定方法。
この構成によれば、ビードの高さおよび幅に応じて、より適切な造形条件の設定が可能となる。
【0095】
(9) 前記位置種別は、外縁部、内部充填部、前記外縁部と前記内部充填部の境界に位置する境界部、および、前記境界部の角に位置する境界部隅のうちの少なくとも2以上を含むことを特徴とする(8)に記載の設定方法。
この構成によれば、位置種別としての外縁部、内部充填部、境界部、および境界部隅それぞれに対して適切な造形条件を設定することが可能となる。
【0096】
(10) 前記積層パターンは、前記位置種別に応じて積層造形を行う際のビードの高さが異なり、
前記ビードの高さに応じて、積層造形を行う際のビードの形成順を決定する決定工程を更に有することを特徴とする(8)または(9)に記載の設定方法。
この構成によれば、位置種別に応じて異なる造形時のビードの高さに対応して、ビードの形成順を決定することができる。したがって、位置種別に応じて、積層造形の能率向上と溶接欠陥の抑制の調整が可能となる。
【0097】
(11) 前記設定工程は、1パスにて異なる位置種別の領域を形成するように前記造形条件を設定することを特徴とする(8)~(10)のいずれかに記載の設定方法。
この構成によれば、1のビードに対応した1パスにおいて、複数種類の位置種別に対応した複数種類の造形条件を設定して積層造形を行うことが可能となる。
【0098】
(12) 対象物の造形形状データに基づいて前記対象物の積層造形を行う積層造形方法であって、
前記造形形状データにて示される形状を所定の単位サイズの要素に分割する分割工程と、
積層方向における複数の断面形状それぞれに対し、断面形状を構成する前記要素を予め規定された位置種別にて区分けする区分け工程と、
前記区分け工程にて区分けされた領域それぞれに対し、前記位置種別に対応して規定されている積層パターンの中から造形条件を設定する設定工程と、
前記設定工程にて設定された造形条件に基づき、造形手段に前記対象物の積層造形を行わせる制御工程と
を有することを特徴とする積層造形方法。
この構成によれば、積層造形の能率向上と溶接欠陥の抑制の両立が可能となる。特に、積層造形物内の位置に応じて適切な造形条件の設定が可能となる。
【0099】
(13) 対象物の造形形状データに基づいて、前記対象物の積層造形を行う積層造形システムであって、
前記造形形状データを取得する取得手段と、
対象物を構成する要素の要素形状と、要素を造形するための積層パターンとを対応付けて保持する記憶手段と、
前記造形形状データにて示される形状を所定の単位サイズの要素に分割する分割手段と、
積層方向における複数の断面形状それぞれに対し、断面形状を構成する前記要素を予め規定された位置種別にて区分けする区分け手段と、
前記区分け手段にて区分けされた領域それぞれに対し、前記位置種別に対応して規定されている積層パターンの中から造形条件を設定する設定手段と、
前記設定手段にて設定された造形条件に基づき、前記対象物の積層造形を行う造形手段と
を有することを特徴とする積層造形システム。
この構成によれば、積層造形の能率向上と溶接欠陥の抑制の両立が可能となる。特に、積層造形物内の位置に応じて適切な造形条件の設定が可能となる。
【0100】
(14) コンピュータに、
対象物の造形形状データにて示される形状を所定の単位サイズの要素に分割する分割工程と、
積層方向における複数の断面形状それぞれに対し、断面形状を構成する前記要素を予め規定された位置種別にて区分けする区分け工程と、
前記区分け工程にて区分けされた領域それぞれに対し、前記位置種別に対応して規定されている積層パターンの中から、前記対象物の積層造形を行うための造形条件を設定する設定工程と、
を実行させるためのプログラム。
この構成によれば、積層造形の能率向上と溶接欠陥の抑制の両立が可能となる。特に、積層造形物内の位置に応じて適切な造形条件の設定が可能となる。
【符号の説明】
【0101】
1…積層造形システム
2…造形制御装置
3…マニピュレータ
4…マニピュレータ制御装置
5…コントローラ
6…熱源制御装置
7…ベース
8…トーチ
10…入力部
11…記憶部
12…造形形状データ
13…位置種別DB(データベース)
14…積層パターンDB(データベース)
15…分割部
16…位置種別決定部
17…積層パターン設定部
18…造形条件調整部
19…プログラム生成部
20…出力部
51…メッシュ分割部
52…形成順調整部
W…積層造形物