(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-29
(45)【発行日】2024-02-06
(54)【発明の名称】樹脂ガラス用コーティング剤および樹脂ガラス
(51)【国際特許分類】
C09D 175/16 20060101AFI20240130BHJP
C09D 4/02 20060101ALI20240130BHJP
C09D 7/62 20180101ALI20240130BHJP
C09D 7/47 20180101ALI20240130BHJP
C09D 7/48 20180101ALI20240130BHJP
B05D 7/02 20060101ALI20240130BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20240130BHJP
B32B 27/08 20060101ALI20240130BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20240130BHJP
【FI】
C09D175/16
C09D4/02
C09D7/62
C09D7/47
C09D7/48
B05D7/02
B05D7/24 302P
B32B27/08
B32B27/30 A
(21)【出願番号】P 2021006806
(22)【出願日】2021-01-20
【審査請求日】2023-02-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(73)【特許権者】
【識別番号】000001409
【氏名又は名称】関西ペイント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宗像 秀典
(72)【発明者】
【氏名】磯部 元成
(72)【発明者】
【氏名】野田 謙
(72)【発明者】
【氏名】後藤 宏太
(72)【発明者】
【氏名】上里 直子
【審査官】福山 駿
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-256344(JP,A)
【文献】特開2019-018449(JP,A)
【文献】特開2013-136705(JP,A)
【文献】特開2013-234217(JP,A)
【文献】特開2020-128558(JP,A)
【文献】特開2020-002315(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00-201/10
B05D 7/02
B05D 7/24
B32B 27/08
B32B 27/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イソシアヌル環骨格を有するウレタン(メタ)アクリレートからなるA成分と、
イソシアヌル環骨格を有し、ウレタン結合を有しないトリ(メタ)アクリレートからなるB成分と、
(メタ)アクリロイル基
を備えたシランカップリング剤(c2)および炭素数3~13の炭化水素基を備えた
シランカップリング剤(c3)を用いてコロイダルシリカ(c1)を化学的に修飾した表面修飾コロイダルシリカからなるC成分と、を含む膜形成成分と、
光ラジカル重合開始剤からなるD成分と、を含み、
前記D成分の含有量は、前記膜形成成分の合計100質量部に対して0.1質量部以上10質量部以下である、樹脂ガラス用コーティング剤。
【請求項2】
前記膜形成成分の合計100質量部に対して、前記A成分の含有量は3質量部以上60質量部以下であり、前記B成分の含有量は10質量部以上50質量部以下であり、前記C成分の含有量は1質量部以上30質量部以下である、請求項1に記載の樹脂ガラス用コーティング剤。
【請求項3】
前記膜形成成分には、さらに、(メタ)アクリル当量80~200の多官能(メタ)アクリレートからなるE成分が含まれている、請求項1または2に記載の樹脂ガラス用コーティング剤。
【請求項4】
前記E成分の含有量は、前記膜形成成分の合計100質量部に対して5質量部以上50質量部以下である、請求項3に記載の樹脂ガラス用コーティング剤。
【請求項5】
前記樹脂ガラス用コーティング剤は、さらに、紫外線吸収剤からなるF成分を含有しており、前記F成分の含有量は、前記膜形成成分の合計100質量部に対して1質量部以上12質量部以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載の樹脂ガラス用コーティング剤。
【請求項6】
前記樹脂ガラス用コーティング剤は、更に、シリコーン系表面調整剤およびフッ素系表面調整剤から選択される1種以上の化合物からなるG成分を含有しており、前記G成分の含有量は、前記膜形成成分の合計100質量部に対して0.01質量部以上1.0質量部以下である、請求項1~5のいずれか1項に記載の樹脂ガラス用コーティング剤。
【請求項7】
透明樹脂からなる基材と、
請求項1~6のいずれか1項に記載の樹脂ガラス用コーティング剤の硬化物からなり、前記基材の表面を被覆するコーティング膜と、を有する、樹脂ガラス。
【請求項8】
前記基材は前記透明樹脂としてのポリカーボネートから構成されている、請求項7に記載の樹脂ガラス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂ガラス用コーティング剤および樹脂ガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車や鉄道等の車両における窓は、無機ガラスから構成されている。近年では、車両の軽量化を目的として、窓などを構成する無機ガラスを、無機ガラスよりも軽量な透明樹脂からなる樹脂ガラスへ置き換えることが検討されている。しかし、樹脂ガラスは、無機ガラスに比べて擦り傷がつきやすいという問題がある。
【0003】
かかる問題を解決し、樹脂ガラスの耐擦傷性を向上させるため、透明樹脂の表面に硬い皮膜を形成する技術が提案されている。例えば、特許文献1には、ポリカーボネートの板状成形体と、当該成形体の少なくとも片面上に設けられたプライマー層と、プライマー層の上に形成されたハードコート層とを有する被覆ポリカーボネート板状成形体の形成方法が記載されている。ハードコート層は、コロイダルシリカとトリアルコキシシランの加水分解縮合物とを含むハードコート塗液を加熱して硬化させることにより形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1の被覆ポリカーボネート板状成形体のように、プライマー層とハードコート層との2層構造からなる皮膜を形成するに当たっては、板状成形体上にプライマーを塗布する工程、プライマーを乾燥させてプライマー層を形成する工程、プライマー層上にコーティング剤を塗布する工程およびコーティング剤を硬化させてハードコート層を形成する工程を順次行う必要がある。そのため、皮膜の形成作業が煩雑になるとともに、皮膜の形成作業に要するコストの増大を招いている。
【0006】
本発明は、かかる背景に鑑みてなされたものであり、簡便な方法で擦り傷がつきにくいコーティング膜を形成することができる樹脂ガラス用コーティング剤およびこの樹脂ガラス用コーティング剤を用いて作製された樹脂ガラスを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、イソシアヌル環骨格を有するウレタン(メタ)アクリレートからなるA成分と、
イソシアヌル環骨格を有し、ウレタン結合を有しないトリ(メタ)アクリレートからなるB成分と、
(メタ)アクリロイル基を備えたシランカップリング剤(c2)および炭素数3~13の炭化水素基を備えたシランカップリング剤(c3)を用いてコロイダルシリカ(c1)を化学的に修飾した表面修飾コロイダルシリカからなるC成分と、を含む膜形成成分と、
光ラジカル重合開始剤からなるD成分と、を含み、
前記D成分の含有量は、前記膜形成成分の合計100質量部に対して0.1質量部以上10質量部以下である、樹脂ガラス用コーティング剤にある。
【0008】
本発明の他の態様は、透明樹脂からなる基材と、
前記の態様の樹脂ガラス用コーティング剤の硬化物からなり、前記基材の表面を被覆するコーティング膜と、を有する、樹脂ガラスにある。
【発明の効果】
【0009】
前記樹脂ガラス用コーティング剤(以下、「コーティング剤」という。)は、前記A成分~前記C成分を含む膜形成成分と、光ラジカル重合開始剤からなるD成分とを含有している。前記A成分~前記C成分は、いずれも、(メタ)アクリロイル基等の光ラジカル重合性官能基を有している。そのため、前記コーティング剤を基材上に塗布した後、コーティング剤に光を照射してD成分からラジカルを発生させるという簡便な方法により、膜形成成分を硬化させてコーティング膜を形成することができる。
【0010】
前記コーティング剤を硬化させてなるコーティング膜は、各成分が三次元的に架橋してなる網状構造を有している。この網状構造には、C成分に由来するコロイダルシリカが組み込まれている。それ故、前記コーティング剤を硬化させてなるコーティング膜は、優れた耐擦傷性を有している。
【0011】
従って、前記の態様によれば、簡便な方法で擦り傷がつきにくいコーティング膜を形成することができる樹脂ガラス用コーティング剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(樹脂ガラス用コーティング剤)
前記コーティング剤における膜形成成分には、A成分~C成分が含まれている。これらの成分を含むコーティング剤を硬化させることにより、耐擦傷性に優れたコーティング膜を形成することができる。また、前記コーティング剤を硬化させてなるコーティング膜は、基材との密着性及び耐候性にも優れている。以下、コーティング剤に含まれる各成分について説明する。
【0013】
・A成分:イソシアヌル環骨格を有するウレタン(メタ)アクリレート
前記コーティング剤中には、必須成分として、イソシアヌル環骨格を有するウレタン(メタ)アクリレートからなるA成分が含まれている。前記コーティング剤中にA成分を配合することにより、前記コーティング剤を硬化させてなるコーティング膜の耐候性を向上させることができる。
【0014】
前記コーティング剤中のA成分の含有量は、膜形成成分100質量部に対して3質量部以上60質量部以下であることが好ましい。この場合には、A成分による耐候性向上の効果を確保しつつ、A成分以外の成分の含有量を十分に多くし、これらの成分による作用効果をバランスよく高めることができる。その結果、耐擦傷性、基材との密着性および耐候性をバランスよく向上させることができる。かかる作用効果をより高める観点からは、前記コーティング剤中のA成分の含有量は、膜形成成分100質量部に対して5質量部以上55質量部以下であることがより好ましく、10質量部以上50質量部以下であることがさらに好ましく、15質量部以上40質量部以下であることが特に好ましい。
【0015】
A成分としては、例えば、下記一般式(1)で表される化合物を採用することができる。下記一般式(1)で表される化合物は、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネートのヌレート型三量体とヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートまたはそのε-カプロラクトン変性体との付加反応によって合成することができる。A成分としては、これらの化合物から選択された1種の化合物を使用してもよいし、2種以上の化合物を併用してもよい。
【0016】
【0017】
なお、前記一般式(1)におけるR1、R2およびR3は炭素数2~10の2価の有機基である。R1、R2およびR3は同一の有機基であってもよいし、互いに異なる有機基であってもよい。ヘキサメチレンジイソシアネートのヌレート型三量体にヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートのε-カプロラクトン変性体が付加された場合には、前述した2価の有機基に-COCH2CH2CH2CH2CH2-または-OCOCH2CH2CH2CH2CH2-のいずれかの部分構造が含まれる。
【0018】
R1、R2およびR3は、例えばエチレン基、トリメチレン基、プロピレン基およびテトラメチレン基等の、炭素数2~4のアルキレン基であることが好ましく、テトラメチレン基であることがより好ましい。この場合には、コーティング膜の耐擦傷性および耐候性をより向上させることができる。
【0019】
前記一般式(1)におけるR4、R5およびR6は水素原子またはメチル基である。R4、R5およびR6は同一であってもよいし、互いに異なっていてもよい。R4、R5およびR6は、水素原子であることが好ましい。この場合には、前記コーティング剤の硬化性をより向上させることができる。
【0020】
ヘキサメチレンジイソシアネートのヌレート型三量体とヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートまたはそのε-カプロラクトン変性体との付加反応は、触媒を用いずに行ってもよいし、反応を促進させるために触媒を用いて行ってもよい。触媒としては、例えば、ジブチルスズジラウリレート等のスズ系触媒や、トリエチルアミン等のアミン系触媒を使用することができる。
【0021】
・B成分:イソシアヌル環骨格を有し、ウレタン結合を有しないトリ(メタ)アクリレート
前記コーティング剤中には、必須成分として、イソシアヌル環骨格を有し、ウレタン結合を有しないトリ(メタ)アクリレートからなるB成分が含まれている。前記コーティング剤中にB成分を配合することにより、硬化後のコーティング膜の耐候性を向上させるとともに、コーティング膜と基材との密着性を向上させることができる。
【0022】
前記コーティング剤中のB成分の含有量は、膜形成成分100質量部に対して10質量部以上50質量部以下であることが好ましい。この場合には、B成分による耐候性および密着性向上の効果を確保しつつ、B成分以外の成分の含有量を十分に多くし、これらの成分による作用効果をバランスよく高めることができる。その結果、耐擦傷性、基材との密着性および耐候性をバランスよく向上させることができる。
【0023】
かかる作用効果をより高める観点からは、前記コーティング剤中のB成分の含有量は、膜形成成分100質量部に対して15質量部以上50質量部以下であることがより好ましく、20質量部以上45質量部以下であることがさらに好ましく、30質量部以上45質量部以下であることが特に好ましい。
【0024】
B成分としては、例えば、下記一般式(2)で表される化合物等を使用することができる。下記一般式(2)で表される化合物は、例えば、イソシアヌル酸のアルキレンオキサイド付加体と(メタ)アクリル酸またはそのε-カプロラクトン変性体との縮合反応によって合成することができる。B成分としては、これらの化合物から選択された1種の化合物を使用してもよいし、2種以上の化合物を併用してもよい。
【0025】
【0026】
なお、前記一般式(2)におけるR7、R8およびR9は炭素数2~10の2価の有機基である。また、n1=1~3であり、n2=1~3であり、n3=1~3であり、n1+n2+n3=3~9である。n1+n2+n3の値は、前記一般式(2)で表される化合物1分子当たりのアルキレンオキサイドの平均付加モル数を表す。
【0027】
前記一般式(2)におけるR7、R8およびR9は同一の有機基であってもよいし、互いに異なる有機基であってもよい。また、n1、n2、n3は同一の値であってもよいし、互いに異なる値であってもよい。イソシアヌル酸に(メタ)アクリル酸のε-カプロラクトン変性体が縮合した場合には、前述した2価の有機基に-COCH2CH2CH2CH2CH2-または-OCOCH2CH2CH2CH2CH2-のいずれかの部分構造が含まれる。
【0028】
前記一般式(2)におけるR7、R8およびR9は、例えばエチレン基、トリメチレン基、プロピレン基およびテトラメチレン基等の、炭素数2~4のアルキレン基であることが好ましく、エチレン基であることがより好ましい。この場合には、コーティング膜の耐擦傷性および耐候性をより向上させることができる。
【0029】
また、前記一般式(2)におけるn1の値、n2の値およびn3の値は1であることが好ましい。この場合には、基材に対するコーティング膜の密着性をより向上させることができる。
【0030】
前記一般式(2)におけるR10、R11およびR12は水素原子またはメチル基である。R10、R11およびR12は同一であってもよいし、互いに異なっていてもよい。R10、R11およびR12は、水素原子であることが好ましい。この場合には、前記コーティング剤の硬化性をより向上させることができる。
【0031】
・C成分:(メタ)アクリロイル基および炭素数3~13の炭化水素基を備えたコロイダルシリカ
前記コーティング剤は、必須成分として、(メタ)アクリロイル基および炭素数3~13の炭化水素基を備えたコロイダルシリカからなるC成分を含有している。コーティング剤中にC成分を配合することにより、コーティング剤の硬化性を向上させるとともに、硬化後のコーティング膜の耐擦傷性、耐候性及び耐水性を向上させることができる。耐候性及び耐水性をより高める観点からは、炭化水素基の炭素数は、4以上8以下であることが好ましい。
【0032】
前記コーティング剤中のC成分の含有量は、膜形成成分100質量部に対して1質量部以上であることが好ましく、3質量部以上であることがより好ましく、5質量部以上であることがより好ましい。この場合には、コーティング膜の耐擦傷性をより向上させることができる。
【0033】
また、コーティング剤中のC成分の含有量は、膜形成成分100質量部に対して30質量部以下であることが好ましく、25質量部以下であることがより好ましく、20質量部以下であることがさらに好ましい。この場合には、C成分による硬化性および耐擦傷性向上の効果を確保しつつ、C成分以外の成分の含有量を十分に多くし、これらの成分による作用効果をバランスよく高めることができる。その結果、耐擦傷性、基材との密着性および耐候性をバランスよく向上させることができる。
【0034】
C成分としては、(メタ)アクリロイル基を備えたシランカップリング剤(c2)および炭素数3~13の炭化水素基を備えたシランカップリング剤(c3)を用いてコロイダルシリカ(c1)を化学的に修飾した表面修飾コロイダルシリカを使用することができる。
【0035】
C成分を作製する際に用いられるコロイダルシリカ(c1)は、例えば、アルコール系分散媒と、アルコール系分散媒中に分散したシリカ一次粒子とを有していてもよい。シリカ一次粒子は、アルコール系分散媒中において、互いに分離した状態で存在していてもよいし、複数個のシリカ一次粒子が凝集してなる二次粒子として存在していてもよい。
【0036】
シリカ一次粒子の平均一次粒子径は、1nm以上50nm以上であることが好ましく、1nm以上30nm以下であることがより好ましい。シリカ一次粒子の平均一次粒子径を1nm以上とすることにより、硬化後のコーティング膜の耐擦傷性をより向上させることができる。また、シリカ一次粒子の平均一次粒子径を50nm以下とすることにより、コロイダルシリカの分散安定性をより向上させることができる。
【0037】
なお、シリカ一次粒子の平均一次粒子径は、BET法によって測定された比表面積に基づいて算出することができる。例えば、シリカ一次粒子の平均一次粒子径が1nm以上50nm以下の場合、BET法によって測定される比表面積は30m2/g以上3000m2/g以下である。
【0038】
コロイダルシリカ(c1)と反応させる、(メタ)アクリロイル基を備えたシランカップリング剤(c2)としては、例えば、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメトキシシラン、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルトリエトキシシラン、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルメチルジメトキシシラン等を使用することができる。これらのシランカップリング剤(c2)は、単独で使用されていてもよいし、2種以上が併用されていてもよい。
【0039】
コロイダルシリカ(c1)と反応させる、炭素数3~13の炭化水素基を備えたシランカップリング剤(c3)としては、例えば、プロピルトリメトキシシラン、イソプロピルトリメトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、シクロヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、ドデシルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン等を使用することができる。シランカップリング剤(c3)における炭化水素基の炭素数は、4以上8以下であることが好ましい。これらのシランカップリング剤(c3)は、単独で使用されていてもよいし、2種以上が併用されていてもよい。
【0040】
C成分を合成するに当たっては、例えば、コロイダルシリカ(c1)とシランカップリング剤(c2)及びシランカップリング剤(c3)とを有機溶媒の存在下で反応させる方法を採用することができる。この場合、シランカップリング剤(c2)の添加量は、100質量部のシリカ一次粒子に対して10質量部以上40質量部以下であることが好ましく、10質量部以上30質量部以下であることがより好ましい。また、シランカップリング剤(c3)の添加量は、100質量部のシリカ一次粒子に対して0質量部超え100質量部以下であることが好ましく、5質量部以上50質量部以下であることがより好ましく、5質量部以上20質量部以下であることがさらに好ましい。
【0041】
・D成分:光ラジカル重合開始剤
前記コーティング剤中には、必須成分として、光ラジカル重合開始剤からなるD成分が含まれている。D成分は、コーティング剤に、D成分の分子構造に応じて定まる特定の波長の光を照射することにより、コーティング剤中にラジカルを発生させることができる。そして、このラジカルによって、(メタ)アクリロイル基等の膜形成成分中に含まれる光ラジカル重合性官能基同士の重合反応を開始させることができる。
【0042】
前記コーティング剤中のD成分の含有量は、膜形成成分100質量部に対して0.1質量部以上10質量部以下とする。前記コーティング剤中のD成分の含有量を0.1質量部以上とすることにより、基材上に配置した前記コーティング剤を硬化させてコーティング膜を形成することができる。
【0043】
D成分の含有量が0.1質量部未満の場合には、重合反応の開始点となるラジカルの量が不足するため、コーティング剤を十分に硬化させることが難しくなる。その結果、コーティング膜の硬さが低くなり、傷に対する耐久性が低下するおそれがある。また、この場合には、コーティング膜の基材に対する密着性の低下や耐候性の低下などの問題が生じるおそれもある。
【0044】
一方、D成分の含有量が過度に多くなると、コーティング剤の保管中に意図しないラジカル重合反応が開始されやすくなる等、コーティング剤の保存安定性の低下を招くおそれがある。また、この場合には、硬化後のコーティング膜中に未反応の重合開始剤が残存しやすくなる。コーティング膜中に残存する未反応の重合開始剤の量が過度に多くなると、コーティング膜の劣化が促進されるおそれがある。更に、この場合には、材料コストの増大を招くおそれもある。
【0045】
D成分の含有量を10質量部以下とすることにより、前述した問題を回避しつつ重合反応の開始点となるラジカルの量を十分に多くし、コーティング剤を十分に硬化させることができる。
【0046】
D成分としては、例えば、アセトフェノン系化合物、ベンゾフェノン系化合物、α-ケトエステル系化合物、フォスフィンオキサイド系化合物、ベンゾイン化合物、チタノセン系化合物、アセトフェノン/ベンゾフェノンハイブリッド系光開始剤、オキシムエステル系光重合開始剤およびカンファーキノン等を使用することができる。
【0047】
アセトフェノン系化合物としては、例えば、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、1-〔4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル〕-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン、2-メチル-1-〔4-(メチルチオ)フェニル〕-2-モルフォリノプロパン-1-オン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタン-1-オン、ジエトキシアセトフェノン、オリゴ{2-ヒドロキシ-2-メチル-1-〔4-(1-メチルビニル)フェニル〕プロパノン}および2-ヒドロキシ-1-{4-〔4-(2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオニル)ベンジル〕フェニル}-2-メチルプロパン-1-オン等が挙げられる。
【0048】
ベンゾフェノン系化合物としては、例えば、ベンゾフェノン、4-フェニルベンゾフェノン、2,4,6-トリメチルベンゾフェノンおよび4-ベンゾイル-4’-メチルジフェニルスルファイド等が挙げられる。α-ケトエステル系化合物としては、例えば、メチルベンゾイルフォルメート、オキシフェニル酢酸の2-(2-オキソ-2-フェニルアセトキシエトキシ)エチルエステルおよびオキシフェニル酢酸の2-(2-ヒドロキシエトキシ)エチルエステル等が挙げられる。
【0049】
フォスフィンオキサイド系化合物としては、例えば、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルフォスフィンオキサイド等が挙げられる。ベンゾイン化合物としては、例えば、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテルおよびベンゾインイソブチルエーテル等が挙げられる。アセトフェノン/ベンゾフェノンハイブリッド系光開始剤としては、例えば、1-〔4-(4-ベンゾイルフェニルスルファニル)フェニル〕-2-メチル-2-(4-メチルフェニルスルフィニル)プロパン-1-オン等が挙げられる。オキシムエステル系光重合開始剤としては、例えば、2-(O-ベンゾイルオキシム)-1-〔4-(フェニルチオ)〕-1,2-オクタンジオン等が挙げられる。
【0050】
D成分としては、これらの化合物から選択された1種の化合物を使用してもよいし、2種以上の化合物を併用してもよい。
【0051】
・E成分:(メタ)アクリル当量80~200の多官能(メタ)アクリレート
前記コーティング剤中には、任意成分として、(メタ)アクリル当量80~200の多官能(メタ)アクリレートからなるE成分が含まれていてもよい。E成分は、1分子中に複数の(メタ)アクリロイル基を有している。E成分の(メタ)アクリロイル基がA成分等に含まれる(メタ)アクリロイル基と重合することにより、1分子のE成分に対して2分子以上の(メタ)アクリロイル基を有する成分を結合させることができる。それ故、E成分を含む前記コーティング剤を硬化させることにより、コーティング膜中の網状構造をよりち密にし、樹脂ガラスの耐摩耗性及び耐衝撃性をより向上させることができる。
【0052】
前記コーティング剤中のE成分の含有量は、膜形成成分の合計100質量部に対して5質量部以上50質量部以下であることが好ましい。E成分の含有量を5質量部以上とすることにより、耐擦傷性、基材との密着性、耐候性及び耐摩耗性に優れたコーティング膜を得ることができる。かかる作用効果をより高める観点からは、E成分の含有量は、膜形成成分の合計100質量部に対して10質量部以上であることがより好ましく、15質量部以上であることがさらに好ましい。
【0053】
また、E成分の含有量を50質量部以下とすることにより、E成分による耐摩耗性向上の効果を確保しつつ、E成分以外の成分の含有量を十分に多くし、これらの成分による作用効果をバランスよく高めることができる。その結果、耐擦傷性、基材との密着性、耐候性および耐摩耗性をバランスよく向上させることができる。かかる作用効果をより確実に奏する観点からは、E成分の含有量は、膜形成成分の合計100質量部に対して45質量部以下であることがより好ましく、40質量部以下であることがさらに好ましい。
【0054】
E成分としては、1分子当たり3個以上の(メタ)アクリロイル基を備え、かつ、(メタ)アクリル当量、つまり、(メタ)アクリロイル基1個当たりの分子量が80~200である化合物を使用することができる。E成分としては、これらの化合物から選択された1種の化合物を使用してもよいし、2種以上の化合物を併用してもよい。
【0055】
E成分の(メタ)アクリル当量が80未満の場合には、1分子当たりの(メタ)アクリロイル基の数が過度に多くなるため、硬化後のコーティング膜中に含まれる未反応の(メタ)アクリロイル基の量が多くなりやすい。その結果、コーティング膜を形成した後に、コーティング膜内で意図しない架橋反応が進行し、クラックの発生が起こりやすくなるおそれがある。
【0056】
E成分の(メタ)アクリル当量が200よりも大きい場合には、1分子当たりの(メタ)アクリロイル基の数が少なくなるため、硬化後のコーティング膜中に含まれる架橋点の数が不足しやすい。この場合、コーティング膜の硬さが低下しやすくなり、耐摩耗性の低下を招くおそれがある。
【0057】
・F成分:紫外線吸収剤
前記コーティング剤は、任意成分として、紫外線吸収剤からなるF成分を含有していてもよい。F成分は、紫外線によるコーティング膜の劣化を抑制する作用を有している。F成分の含有量は、膜形成成分100質量部に対して1質量部以上12質量部以下の範囲から適宜設定することができる。前記コーティング剤中のF成分の含有量を1質量部以上とすることにより、硬化後のコーティング膜の耐候性をより向上させることができる。
【0058】
一方、F成分の含有量が過度に多い場合には、コーティング膜の耐擦傷性の低下を招くおそれがある。さらに、この場合には、かえってコーティング膜の耐候性が低下するおそれもある。F成分の含有量を12質量部以下とすることにより、これらの問題を回避することができる。
【0059】
F成分としては、例えば、トリアジン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤、紫外線を吸収する無機微粒子等を使用することができる。
【0060】
トリアジン系紫外線吸収剤としては、例えば、2-[4-{(2-ヒドロキシ-3-ドデシロキシプロピル)オキシ}-2-ヒドロキシフェニル]-4,6-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-1,3,5-トリアジン、2-[4-{(2-ヒドロキシ-3-トリデシロキシプロピル)オキシ}-2-ヒドロキシフェニル]-4,6-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-1,3,5-トリアジン、2-[4-{(2-ヒドロキシ-3-(2-エチルヘキシロキシ)プロピル)オキシ}-2-ヒドロキシフェニル]-4,6-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-1,3,5-トリアジン、2,4-ビス(2-ヒドロキシ-4-ブチロキシフェニル)-6-(2,4-ビス-ブチロキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、2-(2-ヒドロキシ-4-[1-オクチロキシカルボニルエトキシ]フェニル)-4,6-ビス(4-フェニルフェニル)-1,3,5-トリアジン等が挙げられる。
【0061】
ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤としては、例えば、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4,6-ビス(1-メチル-1-フェニルエチル)フェノール、2-(2-ヒドロキシ-5-tert-ブチルフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール、2-[2-ヒドロキシ-5-{2-(メタ)アクリロイルオキシエチル}フェニル]-2H-ベンゾトリアゾール等が挙げられる。
【0062】
ベンゾフェノン系紫外線としては、例えば、2,4-ジヒドロキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン等を使用することができる。シアノアクリレート系紫外線吸収剤としては、例えば、エチル-2-シアノ-3,3-ジフェニルアクリレート、オクチル-2-シアノ-3,3-ジフェニルアクリレート等が挙げられる。無機微粒子としては、例えば、酸化チタン微粒子、酸化亜鉛微粒子、酸化錫微粒子等が挙げられる。
【0063】
F成分としては、前述した化合物および無機微粒子から選択された1種を使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。F成分としては、(メタ)アクリロイル基を有するベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤を使用することが好ましい。この場合には、コーティング膜の耐擦傷性および耐候性をバランスよく高めることができる。
【0064】
・G成分:シリコーン系表面調整剤およびフッ素系表面調整剤
前記コーティング剤は、任意成分として、シリコーン系表面調整剤およびフッ素系表面調整剤のうち1種以上の化合物からなるG成分を含有していてもよい。G成分の含有量は、膜形成成分100質量部に対して0.01質量部以上1質量部以下の範囲から適宜設定することができる。前記コーティング剤中のG成分の含有量を0.01質量部以上とすることにより、硬化後のコーティング膜の耐擦傷性をより向上させることができる。
【0065】
一方、コーティング剤中のG成分の含有量が過度に多い場合には、硬化後にコーティング膜の表面が粗くなる等の外観の悪化を招くおそれがある。更に、G成分の含有量が多くなると、材料コストの増大を招くおそれもある。G成分の含有量を1質量部以下とすることにより、かかる問題を回避することができる。
【0066】
G成分としては、シリコーン系表面調整剤およびフッ素系表面調整剤から選択される1種または2種以上の化合物を使用することができる。
【0067】
シリコーン系表面調整剤としては、例えば、シリコーン鎖とポリアルキレンオキサイド鎖とを有するシリコーン系ポリマーおよびシリコーン系オリゴマー、シリコーン鎖とポリエステル鎖とを有するシリコーン系ポリマーおよびシリコーン系オリゴマー、EBECRYL350、EBECRYL1360(以上、ダイセル・オルネクス株式会社製)、BYK-315、BYK-349、BYK-375、BYK-378、BYK-371、BYK-UV3500、BYK-UV3570(以上、ビックケミー・ジャパン株式会社製)、X-22-164、X-22-164AS、X-22-164A、X-22-164B、X-22-164C、X-22-164E、X-22-174DX、X-22-2426、X-22-2475(以上、信越化学工業株式会社製)、AC-SQTA-100、AC-SQSI-20、MAC-SQTM-100、MAC-SQSI-20、MAC-SQHDM(以上、東亞合成株式会社製)、8019additive(ダウ・東レ株式会社製)、ポリシロキサン、ジメチルポリシロキサン等を使用することができる。なお、「EBECRYL」はダイセル・オルネクス株式会社の登録商標であり、「BYK」はビックケミー・ジャパン株式会社の登録商標である。
【0068】
フッ素系表面調整剤としては、例えば、パーフルオロアルキル基とポリアルキレンオキサイド基とを有するフッ素系ポリマーおよびフッ素系オリゴマー、パーフルオロアルキルエーテル基とポリアルキレンオキサイド基とを有するフッ素系ポリマーおよびフッ素系オリゴマー、メガファックRS-75、メガファックRS-76-E、メガファックRS-72-K、メガファックRS-76-NS、メガファックRS-90(以上、DIC株式会社製)、オプツールDAC-HP(ダイキン工業株式会社製)、ZX-058-A、ZX-201、ZX-202、ZX-212、ZX-214-A(以上、株式会社T&KTOKA製)等を使用することができる。なお、「メガファック」はDIC株式会社の登録商標であり、「オプツール」はダイキン工業株式会社の登録商標である。
【0069】
・有機溶媒
前記コーティング剤は、前述した各成分を溶解または分散させるための有機溶媒を含んでいてもよい。有機溶媒としては、例えば、エタノールおよびイソプロパノール等のアルコール;エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル等のアルキレングリコールモノエーテル;トルエンおよびキシレン等の芳香族化合物;プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル;アセトン、メチルエチルケトンおよびメチルイソブチルケトン等のケトン;ジブチルエーテル等のエーテル;ジアセトンアルコール;N-メチルピロリドン等を使用することができる。前記コーティング剤は、これらの有機溶媒のうち1種を含んでいてもよく、2種以上を含んでいてもよい。
【0070】
前記コーティング剤は、有機溶媒としてのアルキレングリコールモノエーテルを含んでいることが好ましい。アルキレングリコールモノエーテルは、前述した各成分の分散性または溶解性に優れているため、基材上に前記コーティング剤を塗布した後に、均一な塗膜を形成することができる。また、基材がポリカーボネートから構成されている場合には、有機溶媒としてアルキレングリコールモノエーテルを使用することにより、基材を溶かすことなく塗膜を形成することができる。
【0071】
・その他の添加剤
前記コーティング剤中には、必須成分としてのA成分~D成分の他に、コーティング剤の硬化を損なわない範囲で、コーティング剤用の添加剤が含まれていてもよい。例えば、前記コーティング剤中には、添加剤として、ラジカル捕捉剤、ヒンダードアミン系光安定剤等の、コーティング膜の劣化を抑制するための添加剤が含まれていてもよい。これらの添加剤を使用することにより、コーティング膜の耐候性を向上させる効果を期待することができる。
【0072】
(樹脂ガラス)
前記樹脂ガラス用コーティング剤を透明樹脂からなる基材の表面に塗布した後硬化させることにより、透明樹脂からなる基材と、前記樹脂ガラス用コーティング剤の硬化物からなり、基材の表面を被覆するコーティング膜と、を有する樹脂ガラスを得ることができる。基材が板状である場合には、コーティング膜は、基材の片面にのみ形成されていてもよいし、両面に形成されていてもよい。コーティング膜の膜厚は特に限定されることはないが、例えば、1μm以上50μm以下の範囲から適宜設定することができる。コーティング膜の膜厚は5μm以上40μm以下であることが好ましい。
【0073】
前記コーティング剤の硬化物は透明であるため、透明樹脂からなる基材の表面に前記コーティング膜を形成することにより、無機ガラスに比べて軽量な樹脂ガラスを得ることができる。また、前記コーティング膜は、網目構造中に前記C成分に由来する構造単位が組み込まれているため、樹脂ガラスの耐擦傷性を向上させることができる。
【0074】
基材を構成する透明樹脂は特に限定されるものではないが、例えば、ポリカーボネートを採用することができる。ポリカーボネートは耐候性、強度、透明性等の窓用透明部材に要求される諸特性に優れているため、ポリカーボネートからなる基材の表面に前記コーティング膜を形成することにより、窓用透明部材として好適な樹脂ガラスを得ることができる。
【0075】
前記樹脂ガラスを作製するに当たっては、例えば、基材を準備する準備工程と、
基材の表面上にコーティング剤を塗布する塗布工程と、
コーティング剤中のD成分からラジカルを発生させ、基材の表面上においてコーティング剤を硬化させる硬化工程と、
を有する製造方法を採用することができる。
【0076】
前記製造方法において、塗布工程でのコーティング剤の塗布には、スプレーコーター、フローコーター、スピンコーター、ディップコーター、バーコーター、アプリケーター等の公知の塗布装置の中から、所望する膜厚や基材の形状等に応じて適切な装置を選択して使用することができる
【0077】
塗布工程の後、必要に応じてコーティング剤を加熱して乾燥させる工程を行ってもよい。
【0078】
硬化工程においては、D成分の分子構造に応じて定まる適切な波長の光をコーティング剤に照射することにより、D成分からラジカルを発生させることができる。
【0079】
硬化工程の後、必要に応じてコーティング膜を加熱し、硬化を促進させる工程を行ってもよい。
【実施例】
【0080】
前記コーティング剤および樹脂ガラスの実施例について説明する。なお、本発明に係るコーティング剤および樹脂ガラスの態様は、以下に示す態様に限定されるものではなく、その趣旨を損なわない範囲で適宜構成を変更することができる。
【0081】
本例のコーティング剤には、イソシアヌル環骨格を有するウレタン(メタ)アクリレートからなるA成分と、イソシアヌル環骨格を有し、ウレタン結合を有しないトリ(メタ)アクリレートからなるB成分と、(メタ)アクリロイル基および炭素数3~13の炭化水素基を備えたコロイダルシリカからなるC成分と、を含む膜形成成分と、
光ラジカル重合開始剤からなるD成分と、が含まれている。
D成分の含有量は、膜形成成分の合計100質量部に対して0.1質量部以上10質量部以下である。
【0082】
本例においてコーティング剤の作製に用いられる化合物は、具体的には以下の通りである。
【0083】
・A成分
A-1:ヘキサメチレンジイソシアネートのヌレート型三量体とヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートとの付加生成物
・B成分
B-1:M-315(東亞合成株式会社製、イソシアヌル酸エチレンオキシド変性トリアクリレートを含む混合物)
【0084】
・C成分
C-1:(メタ)アクリロイル基および炭素数3~13の炭化水素基を備えた表面修飾コロイダルシリカ
C-2:(メタ)アクリロイル基および炭素数3~13の炭化水素基を備えた表面修飾コロイダルシリカ
C-3:(メタ)アクリロイル基および炭素数3~13の炭化水素基を備えた表面修飾コロイダルシリカ
【0085】
前述したC-1からC-3は、いずれも、シランカップリング剤を用いてコロイダルシリカを化学的に修飾することにより得られる物質である。C-1からC-3の作製方法は、具体的には以下の通りである。
【0086】
<C-1>
還流冷却器、温度計及び攪拌機を取り付けたセパラブルフラスコに、シリカ濃度30質量%のコロイダルシリカ333質量部(つまり、シリカ微粒子として100質量部)、3-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン20質量部、p-メトキシフェノール0.35質量部及びイソプロパノール233質量部を入れた後、セパラブルフラスコ内の混合物を攪拌しながら昇温した。なお、C-1の作製に用いたコロイダルシリカは、具体的には、日産化学株式会社製「IPA-ST」(分散媒:イソプロパノール、平均一次粒子径:12.5nm)である。
【0087】
揮発成分の還流が始まったところで、セパラブルフラスコ内にプロピレングリコールモノメチルエーテルを加えて溶剤を共沸留出させ、反応系内の溶剤を置換した。続いて、セパラブルフラスコ内にヘキシルトリメトキシシラン10質量部を添加し、95℃で2時間攪拌しながら脱水縮合反応を行った。その後、セパラブルフラスコ内の温度を80℃に下げ、テトラブチルアンモニウムフルオリド0.25質量部を加えて更に1時間攪拌しながら反応させた。反応終了後、減圧状態で揮発成分を留出させ、さらにプロピレングリコールモノメチルエーテルを加えて溶剤を共沸留出させた。プロピレングリコールモノメチルエーテルを加えて共沸留出する操作を数回行うことで溶剤を置換し、C-1の分散液を得た。なお、分散液中の不揮発分は30質量%であった。
【0088】
<C-2>
C-2の作製方法は、セパラブルフラスコ内に添加する3-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランの量を10質量部、ヘキシルトリメトキシシランの量を15質量部に変更した以外は、C-1の作製方法と同様である。本例において得られたC-2の分散液中の不揮発分は30質量%であった。
【0089】
<C-3>
C-3の作製方法は、セパラブルフラスコ内に添加する3-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランの量を10質量部、ヘキシルトリメトキシシランの量を80質量部に変更した以外は、C-1の作製方法と同様である。本例において得られたC-3の分散液中の不揮発分は30質量%であった。
【0090】
・D成分
Omnirad754(IGM Resins B.V.社製、フォスフィンオキサイド系光ラジカル重合開始剤)及びOmnirad819(IGM Resins B.V.社製、α-ケトエステル系化合物を含む光ラジカル重合開始剤)
【0091】
・E成分
E-1:ジペンタエリトリトールヘキサアクリレート(新中村化学工業株式会社製「A-DPH」、(メタ)アクリル当量96)
【0092】
・その他の成分
マレイミドシリカ:マレイミド基及び(メタ)アクリレート基を備えたアルコキシシランとコロイダルシリカとの縮合生成物
【0093】
なお、「Omnirad」はIGM Group B.V.社の登録商標である。
【0094】
表1に、これらの化合物を用いて作製されるコーティング剤の組成の例(試験剤1~試験剤6)を示す。試験剤1~試験剤6を作製するに当たっては、有機溶媒中に表1に示す質量比で各成分を溶解または分散させるとともに、膜形成成分、つまり、A成分~C成分及びE成分の合計100質量部に対して0.1質量部以上10質量部以下のD成分を配合すればよい。なお、表1に示す試験剤7~試験剤8は、試験剤1~試験剤6との比較のための試験剤である。試験剤7~試験剤8の作製方法は、各成分の質量比を表1に示すように変更する以外は、試験剤1~試験剤6の作製方法と同様である。
【0095】
また、表1には示さないが、試験剤1~試験剤8には、膜形成成分の合計100質量部に対して1質量部以上12質量部以下の紫外線吸収剤(F成分)及び膜形成成分の合計100質量部に対して0.01質量部以上1.0質量部以下の表面調整剤(G成分)が含まれている。本例において使用した紫外線吸収剤は、具体的には、RUVA93(大塚化学株式会社製)およびTinuvin479(BASF社製、ヒドロキシフェニルトリアジン系紫外線吸収剤)である。また、本例において使用した表面調整剤は、具体的には、8019additive(ダウ・東レ株式会社製、シリコーン系表面調整剤)である。なお、「Tinuvin」はBASF社の登録商標である。
【0096】
次に、コーティング剤を用いた樹脂ガラスの作製方法の例を説明する。まず、コーティング剤を塗布するための基材を準備する。本例で用いる基材は、ポリカーボネートからなる板厚5mmの板材である。
【0097】
フローコーターを用いて基材の片面上にコーティング剤を塗布した後、基材を100℃の温度で10分間加熱してコーティング剤を乾燥させる。その後、コーティング剤中のD成分からラジカルを発生させることにより、コーティング剤を硬化させてコーティング膜とすることができる。表1に示す試験剤1~試験剤8においては、例えば、試験剤に、ピーク照度300mW/cm2の高圧水銀ランプから発生する紫外光を照射すればよい。
【0098】
以上により、基材の片面上に試験剤の硬化物からなるコーティング膜を形成し、樹脂ガラスを得ることができる。
【0099】
コーティング膜の耐擦傷性および耐摩耗性は、以下の方法により評価することができる。
【0100】
・耐擦傷性
コーティング膜の耐擦傷性は、洗車試験を行った場合の光沢保持率に基づいて評価することができる。洗車試験は、具体的にはUN R43に規定された方法により実施する。すなわち、基材上のコーティング膜に、水1Lに対して1.5±0.05gのシリカ粉末(平均粒径24μm)を懸濁させた懸濁液を噴霧しながら洗車動作を10回繰り返し行う。そして、洗車試験前の光沢率に対する洗車試験後の光沢率の比率を百分率で表した値を、光沢保持率とする。各試験剤を用いて得られたコーティング膜の光沢保持率は表1に示した値となる。
【0101】
・耐摩耗性
コーティング膜の耐摩耗性は、摩耗試験前後でのヘイズ値の増加量ΔH(単位:%)に基づいて評価することができる。摩耗試験においては、予め試験前のヘイズ値を測定した樹脂ガラスをテーバー式摩耗試験機に取り付ける。そして、摩耗輪を用いて樹脂ガラス上のコーティング膜を摩耗させる。本例におけるテーバー式摩耗試験機の摩耗輪はCS-10Fである。また、摩耗試験における荷重は500gfとし、回転数は500回とする。
【0102】
前述の条件で摩耗試験を行った後、ヘイズメーターを用いて試験後の樹脂ガラスのヘイズ値を測定する。そして、試験後の樹脂ガラスのヘイズ値から試験前の樹脂ガラスのヘイズ値を差し引いた値をヘイズ値の増加量とする。各試験剤を用いて得られたコーティング膜のヘイズ値の増加量ΔHは表1に示した値となる。なお、試験剤2については、耐摩耗性の評価を実施していないため、表1中に記号「-」を記載した。
【0103】
【0104】
表1において各成分の比率が概ね同程度である試験剤1~試験剤5と試験剤7とを比較すると、前述したA成分~D成分をすべて含有している試験剤1~試験剤5は、C成分を含まない以外は同様の組成を有する試験剤7に比べて高い光沢保持率を示す。同様に、試験剤6と試験剤8とを比較すると、前述したA成分~D成分をすべて含有している試験剤6は、C成分を含まない以外は同様の組成を有する試験剤8に比べて高い光沢保持率を示す。これらの結果から、前述したA成分~D成分を含む樹脂ガラス用コーティング剤は、優れた耐擦傷性を有していることが理解できる。
【0105】
また、前述したA成分~D成分を含む樹脂ガラス用コーティング剤は、基材に塗布した後、光を照射してコーティング剤を硬化させるという簡便な作業により、耐擦傷性に優れたコーティング膜を容易に形成することができる。
【0106】
さらに、試験剤1~試験剤6の中でも、前述したE成分を含む試験剤1~試験剤5は、E成分を含まない試験剤6に比べて摩耗試験後のヘイズ値の増加量が小さく、優れた耐摩耗性を示すことが理解できる。