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特許7428676清浄度推定方法、清浄度推定装置および清浄度推定プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-29
(45)【発行日】2024-02-06
(54)【発明の名称】清浄度推定方法、清浄度推定装置および清浄度推定プログラム
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/06 20060101AFI20240130BHJP
   C12M 1/34 20060101ALI20240130BHJP
【FI】
C12Q1/06
C12M1/34 D
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021044372
(22)【出願日】2021-03-18
(65)【公開番号】P2022143709
(43)【公開日】2022-10-03
【審査請求日】2022-06-23
(73)【特許権者】
【識別番号】515064009
【氏名又は名称】ソフトバンクロボティクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111202
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 周彦
(74)【代理人】
【識別番号】100187562
【弁理士】
【氏名又は名称】沼田 義成
(72)【発明者】
【氏名】中村 孝道
(72)【発明者】
【氏名】小暮 武男
(72)【発明者】
【氏名】中西 大介
【審査官】伊達 利奈
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-166847(JP,A)
【文献】特開2012-211785(JP,A)
【文献】パナソニック株式会社、パナソニック エコシステムズ株式会社,"取扱説明書 加湿空気清浄機 品番 F-VXJ70" ,[online], 2013年9月掲載,2023年5月16日検索,インターネット,https://dl-ctlg.panasonic.com/jp/manual/f-/f-vxj70_01.pdf
【文献】Journal of Aerosol Science,2017年,Vol.114,pp.209-218
【文献】note.com,"アフターコロナの施設清掃 床面の「汚さ」の実態2", 中村孝道 博士(農学), [online], 2020年5月29日掲載,2023年5月16日検索,インターネット,https://note.com/softbankrobotics/n/n6d97221b5036
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00
C12M 1/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象室内の空間の清浄度推定方法であって、
前記空間の即時的な浮遊微生物量を測定し、
前記対象室内の床面の生物汚染度として床面の単位面積当たりのATP測定値を測定し、
床面での活動前の単位体積当たりの前記浮遊微生物量と床面での活動後の単位体積当たりの前記浮遊微生物量との差分を浮遊微生物上昇量とする場合に、測定した前記生物汚染度が多い程、前記空間の潜在的な前記浮遊微生物上昇量が多いと推定し、
測定した前記浮遊微生物量に、推定した前記浮遊微生物上昇量を加算することによって、前記空間の即時的かつ潜在的な浮遊微生物量を推定することを特徴とする清浄度推定方法。
【請求項2】
推定した前記浮遊微生物量に基づいて前記空間の清浄度を評価することを特徴とする請求項1に記載の清浄度推定方法。
【請求項3】
対象室内の空間の清浄度推定装置であって、
前記空間の即時的な浮遊微生物量を測定した結果と、前記対象室内の床面の生物汚染度として床面の単位面積当たりのATP測定値を測定した結果とを入力し、
床面での活動前の単位体積当たりの前記浮遊微生物量と床面での活動後の単位体積当たりの前記浮遊微生物量との差分を浮遊微生物上昇量とする場合に、測定した前記生物汚染度が多い程、前記空間の潜在的な前記浮遊微生物上昇量が多いと推定し、
測定した前記浮遊微生物量に、推定した前記浮遊微生物上昇量を加算することによって、前記空間の即時的かつ潜在的な浮遊微生物量を推定することを特徴とする清浄度推定装置。
【請求項4】
推定した前記浮遊微生物量に基づいて前記空間の清浄度を評価することを特徴とする請求項に記載の清浄度推定装置。
【請求項5】
対象室内の空間の清浄度推定プログラムであって、
前記空間の即時的な浮遊微生物量を測定した結果と、前記対象室内の床面の生物汚染度として床面の単位面積当たりのATP測定値を測定した結果とを入力する処理と、
床面での活動前の単位体積当たりの前記浮遊微生物量と床面での活動後の単位体積当たりの前記浮遊微生物量との差分を浮遊微生物上昇量とする場合に、測定した前記生物汚染度が多い程、前記空間の潜在的な前記浮遊微生物上昇量が多いと推定する処理と、
測定した前記浮遊微生物量に、推定した前記浮遊微生物上昇量を加算することによって、前記空間の即時的かつ潜在的な浮遊微生物量を推定する処理と、
をコンピュータに実行させるための清浄度推定プログラム。
【請求項6】
推定した前記浮遊微生物量に基づいて前記空間の清浄度を評価する処理をコンピュータに実行させるための請求項に記載の清浄度推定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象室内の空間の清浄度を推定する清浄度推定方法、清浄度推定装置および清浄度推定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
感染能を有する浮遊菌や大気汚染物質である微小粒子などにより室内空間が汚染されている場合には、換気や清掃を行う必要がある。そのため、室内空間の浮遊菌や微小粒子を測定して、室内空間が衛生的かつ清潔的な空間であるかを適切に評価することが求められている。
【0003】
例えば、特許文献1に記載の浮遊菌数推定装置は、温度検出手段によって検出された温度、湿度検出手段によって検出された湿度およびパーティクルカウンタなどの浮遊粒子数検出手段によって検出された浮遊粒子数に基づいて浮遊菌数を導出する導出手段を備えていて、室内空間の浮遊菌数を推定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2006-166847号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来、室内空間の浮遊菌をより適切に測定することが求められている。例えば、培養法では、エアサンプラーにより一定量の空気を室内の培地に吹き付け、培養を行い、生育したコロニー数から空気質の浮遊菌数を測定する。しかし、培養法では、サンプル観測時から測定時までの培養に少なくとも数日を要し、その場で即座に浮遊菌数を知ることができないので、即時的に室内空間の清浄度を測定することができない。また、時間間隔をおいて連続した浮遊菌数を測定することができないので浮遊菌数の増減傾向を把握することができない。また、培地の種類によって生育する微生物種に違いが生じたり、培養不可能である微生物種が多く存在するために浮遊菌数を過小評価したりするという問題がある。
【0006】
また、室内では、感染能を有するカビ、細菌などの菌類やウイルス、大気汚染物質である微小粒子が空間中に浮遊しているだけでなく、床面に潜在的に蓄積されていることがあり、人の活動などにより床面から舞い上がることがある。特許文献1のようにパーティクルカウンタなどの浮遊粒子数検出手段によって空間の浮遊粒子数を測定しても、床面に潜在的に存在する菌類やウイルスなどを考慮した測定をすることはできないので、潜在的な室内空間の清浄度を推定することができない。そのため、室内空間が衛生的かつ清潔的な空間であるかを適切に評価することができない。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するために、即時的および潜在的な室内空間の清浄度を推定することができる清浄度推定方法、清浄度推定装置および清浄度推定プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の清浄度推定方法は、対象室内の空間の清浄度推定方法であって、前記空間の即時的な浮遊微生物量を測定し、前記対象室内の床面の生物汚染度を測定し、測定した前記浮遊微生物量および前記生物汚染度に基づいて前記空間の即時的かつ潜在的な浮遊微生物量を推定することを特徴とする。
【0009】
また、本発明の清浄度推定装置は、対象室内の空間の清浄度推定装置であって、前記空間の即時的な浮遊微生物量を測定した結果と、前記対象室内の床面の生物汚染度を測定した結果とを入力し、測定した前記浮遊微生物量および前記生物汚染度に基づいて前記空間の即時的かつ潜在的な浮遊微生物量を推定することを特徴とする。
【0010】
更に、本発明の清浄度推定プログラムは、対象室内の空間の清浄度推定プログラムであって、前記空間の即時的な浮遊微生物量を測定した結果と、前記対象室内の床面の生物汚染度を測定した結果とを入力する処理と、測定した前記浮遊微生物量および前記生物汚染度に基づいて前記空間の即時的かつ潜在的な浮遊微生物量を推定する処理と、をコンピュータに実行させる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、即時的および潜在的な室内空間の清浄度を推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施形態に係る清浄度推定装置を含む清浄度推定システムを示すブロック図である。
図2】本発明の実施形態に係る清浄度推定装置における室内空間の浮遊微生物量および清浄度の関係を示す表である。
図3】第1実験例において測定した室内空間の浮遊微粒子量および浮遊微生物量の関係を示すグラフである。
図4】本発明の実施形態に係る清浄度推定装置における室内空間の浮遊微粒子量、浮遊微生物の相当量および清浄度の関係を示す表である。
図5】第2実験例において測定した室内床面のATP測定値および真菌類細胞数の関係を示すグラフである。
図6】第3実験例において測定した室内床面のATP測定値、床面活動前の浮遊微生物量、床面活動後の浮遊微生物量および浮遊微生物上昇量の関係を示す表である。
図7】第3実験例において測定した室内床面のATP測定値および浮遊微生物上昇量の関係を示すグラフである。
図8】本発明の実施形態に係る清浄度推定装置における室内床面のATP測定値および室内空間の浮遊微生物上昇度の関係を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付の図面を参照しつつ、本発明の実施形態について説明する。本発明において室内空間の清浄度を推定する清浄度推定方法を、本実施形態の清浄度推定システム1を例に挙げて、図1を参照して説明する。図1は、清浄度推定システム1を示すブロック図である。
【0014】
本実施形態では、感染能を有するカビ、細菌などの菌類やウイルスなどを「感染性微生物」と称し、室内空間に浮遊している感染性微生物を単に「浮遊微生物」と称し、室内空間の単位体積当たりの浮遊微生物の量を「浮遊微生物量」と称する。清浄度推定システム1は、室内空間の即時的および潜在的な浮遊微生物量に応じて室内空間の清浄度を推定する。
【0015】
本実施形態の清浄度推定システム1は、浮遊微生物測定装置2、床面汚染度測定装置3および清浄度推定装置4を備える。
【0016】
浮遊微生物測定装置2は、対象室内の空間中に観測時に浮遊している浮遊微生物の浮遊微生物量を即時的に測定するものである。例えば、浮遊微生物測定装置2は、微生物センサで構成され、室内空間の単位体積(1m)当たりの浮遊微生物量(n/m)を即時的かつ連続的に測定して出力する。
【0017】
あるいは、浮遊微生物測定装置2は、微生物センサに代えてパーティクルカウンタで構成されてもよく、この場合、浮遊微生物や微小粒子を含む浮遊微粒子を検出し、浮遊微粒子量を測定する。また、浮遊微生物測定装置2は、パーティクルカウンタで測定した浮遊微粒子量に基づいて浮遊微生物の相当量を推測して浮遊微生物量を測定して出力する。
【0018】
床面汚染度測定装置3は、対象室内の床面の観測時の生物汚染度を即時的に測定するものである。例えば、床面汚染度測定装置3は、ATPふき取り検査の検査装置で構成され、床面の生物汚染度として床面の単位面積(1m)当たりのATP測定値(RLU)を測定して出力する。
【0019】
清浄度推定装置4は、浮遊微生物測定装置2によって即時的に測定した室内空間の浮遊微生物量と、床面汚染度測定装置3によって測定した室内床面のATP測定値(生物汚染度)とに基づいて、空間の即時的かつ潜在的な浮遊微生物量を清浄度として推定すると共に、推定した浮遊微生物量に基づいて空間の清浄度を知覚的(感覚的)に評価する。
【0020】
清浄度推定装置4は、例えば、パーソナルコンピュータや、スマートフォン、タブレットなどで構成されてよく、CPUなどの制御部(コンピュータ)や、ROM、RAM、ハードディスクドライブ、フラッシュメモリなどの記憶部を備える。清浄度推定装置4は、制御部が、記憶部に記憶されたプログラムやデータに基づいて演算処理を実行することにより各種構成要素および各種機能を制御し、例えば、記憶部に記憶された清浄度推定アプリケーション(清浄度推定プログラム)を実行することで清浄度推定処理を行う。
【0021】
清浄度推定装置4は、浮遊微生物測定装置2によって測定した浮遊微生物量と床面汚染度測定装置3によって測定したATP測定値とを、ユーザの操作に応じて入力する。あるいは、清浄度推定装置4は、浮遊微生物測定装置2との通信によって浮遊微生物量を入力してもよく、床面汚染度測定装置3との通信によってATP測定値を入力してもよい。
【0022】
また、清浄度推定装置4は、室内空間の浮遊微生物量と室内床面のATP測定値とに基づく清浄度推定処理の結果をユーザに対して出力し、例えば、ディスプレイによって表示する。
【0023】
清浄度推定処理として、清浄度推定装置4は、室内空間の浮遊微生物量が少ない程、室内空間の浮遊微生物量の清浄度が高いと評価し、例えば、浮遊微生物量に基づく評価基準の例として、図2に示すように、浮遊微生物量を複数段階に区分し、各段階の浮遊微生物量に対応する知覚的(感覚的)な清浄度の度合いを設定する。なお、清浄度推定装置4は、浮遊微生物量を区分する範囲をユーザが任意に設定可能にしてよく、各段階に対応する清浄度の度合いをユーザが任意に設定可能にしてよい。
【0024】
そして、清浄度推定装置4は、入力された浮遊微生物量に応じた清浄度を判定してユーザに対して出力する。なお、浮遊微生物測定装置2による浮遊微生物量の測定を、所定の測定期間(例えば、1時間)内に時間間隔を空けて所定回数(例えば、3回)行い、清浄度推定装置4は、浮遊微生物量の平均値を、清浄度を知覚的(感覚的)に評価するための評価値としてよい。
【0025】
また、清浄度推定装置4は、浮遊微生物量を数値的に出力すると共に、清浄度を「きれい」や「きたない」などの表現によって知覚的に出力してもよい。このとき、清浄度推定装置4は、図2に示すような浮遊微生物量および清浄度の表を表示すると共に、入力された浮遊微生物量および対応する清浄度を強調表示してもよい。
【0026】
ところで、第1実験例として、様々な室内環境において、パーティクルカウンタを用いて浮遊微生物や大気汚染物質などの微小粒子を含む浮遊微粒子を検出して単位体積(1m)当たりの浮遊微粒子量を測定し、また同じ単位体積(1m)当たりの浮遊微生物量(n/m)を測定し、その実験結果を図3に示す。なお、第1実験例では、パーティクルカウンタは、直径1~10μmの微粒子を測定し、測定結果の浮遊微粒子量は、直径1、2.5、5、10μmの微粒子を含む。第1実験例の結果、室内空間の浮遊微粒子量および浮遊微生物量は、図3に示すように、浮遊微生物量が多い程、浮遊微粒子量が多くなるという直線L1のような相関関係があることが分かる。
【0027】
浮遊微生物測定装置2としてパーティクルカウンタを適用する場合には、第1実験例の結果に基づき、清浄度推定装置4は、上記した評価基準の例と同様にして、図4に示すように、浮遊微生物の相当量を複数段階に区分し、上記の直線L1の相関関係に基づいて、各段階の浮遊微生物の相当量に対応するように浮遊微粒子量を複数段階に区分する。更に、清浄度推定装置4は、各段階の浮遊微生物の相当量、すなわち、各段階の浮遊微粒子量に対応する清浄度の度合いを設定する。なお、清浄度推定装置4は、浮遊微生物の相当量を区分する範囲、すなわち、浮遊微粒子量を区分する範囲をユーザが任意に設定可能にしてよく、各段階に対応する清浄度の度合いをユーザが任意に設定可能にしてよい。
【0028】
なお、パーティクルカウンタによる浮遊微粒子量の測定を、所定の測定期間(例えば、1時間)内に時間間隔を空けて所定回数(例えば、3回)行い、清浄度推定装置4は、浮遊微粒子量の平均値を、浮遊微生物量を推定するために用いてもよい。
【0029】
また、第2実験例として、様々な室内環境において、ATP検査装置を用いて単位面積(100cm)当たりのATP測定値(RLU)を測定し、また単位面積(100cm)当たりの真菌類細胞数(cell/cm)を測定し、その実験結果を図5に示す。第2実験例の結果、室内床面のATP測定値および真菌類細胞数は、図5に示すように、真菌類細胞数が多い程、ATP測定値が多くなるという直線L2のような相関関係があることが分かる。例えば、ATP測定値が10,000RLUの場合、100,000個/100cmの真菌類が存在する。
【0030】
ところで、床面に存在する生物汚染物は、人の活動などにより床面から舞い上がることがあるので、室内空間の浮遊微生物量を増加させることがある。そこで、第3実験例として、様々な室内環境において、床面汚染度測定装置3によって床面のATP測定値(RLU)を測定すると共に単位体積(1m)当たりの浮遊微生物量(n/m)を測定し、その実験結果を図6に示す。更に、第3実験例では、図6に示すように、同じ床面に対して人が歩行などの活動をして床面に蓄積された生物汚染物が舞い上げられた後の単位体積(1m)当たりの浮遊微生物量(n/m)を測定し、床面活動前の浮遊微生物量と床面活動後の浮遊微生物量との差分を浮遊微生物上昇量(n/m)として算出した。
【0031】
第3実験例の結果、室内床面のATP測定値が多い程、すなわち、室内床面の真菌類が多い程、床面から舞い上がる生物汚染物が多く、すなわち、潜在的な浮遊微生物量が多くなることが分かる。また、第3実験例の結果、図7に示すように、床面のATP測定値および浮遊微生物上昇量は、ATP測定値が多い程、浮遊微生物上昇量が多くなるという直線L3のような相関関係があることが分かる。
【0032】
そこで、清浄度推定処理として、第3実験例の結果に基づき、清浄度推定装置4は、室内床面のATP測定値に基づいて、室内床面の生物汚染度を推定すると共に室内空間の浮遊微生物上昇量を推定する。具体的には、清浄度推定装置4は、室内床面のATP測定値が多い程、室内空間の浮遊微生物上昇量が多いと推定し、ATP測定値に基づく推定基準の例として、図8に示すように、ATP測定値を複数段階に区分し、各段階のATP測定値に対応する浮遊微生物上昇量の度合い(浮遊微生物量上昇度)を設定する。なお、清浄度推定装置4は、ATP測定値を区分する範囲をユーザが任意に設定可能にしてよく、各段階に対応する浮遊微生物上昇量の度合いをユーザが任意に設定可能にしてよい。
【0033】
そして、清浄度推定装置4は、入力されたATP測定値に応じた浮遊微生物上昇量の度合いを判定してユーザに対して出力する。
【0034】
また、清浄度推定装置4は、ATP測定値および浮遊微生物上昇量を数値的に出力すると共に、浮遊微生物上昇量の度合いを「多い」や「少ない」などの表現によって知覚的に出力してもよい。このとき、清浄度推定装置4は、図8に示すようなATP測定値および浮遊微生物上昇量の度合いの表を表示すると共に、入力されたATP測定値および対応する浮遊微生物上昇量を強調表示してもよい。
【0035】
なお、清浄度推定装置4は、測定した室内空間の浮遊微生物量と、推定した室内床面の生物汚染度(例えば、浮遊微生物上昇量)とに基づいて、室内空間の即時的かつ潜在的な浮遊微生物量を推定する。例えば、清浄度推定装置4は、浮遊微生物上昇量と室内空間の浮遊微生物量とを加算することによって、即時的かつ潜在的な浮遊微生物量を推定し、室内空間の浮遊微生物予想量として出力してもよい。あるいは、清浄度推定装置4は、室内空間の浮遊微生物量と室内床面の浮遊微生物上昇量とに基づいて、他の関係式によって、若しくは、知覚的(感覚的)に識別することによって、即時的かつ潜在的な浮遊微生物量を推定してもよい。また、清浄度推定装置4は、浮遊微生物上昇量に応じて床面の清浄度(例えば、「きれい」や「きたない」)や床面の清掃の推奨度合い(例えば、「清掃要」や「清掃不要」)を表現して知覚的に出力してもよい。例えば、床面の浮遊微生物上昇量が比較的多い場合(例えば、10,000n/m以上の場合)、床面の清掃を推奨するとよい。
【0036】
また、清浄度推定装置4は、入力された浮遊微生物量に応じた清浄度と、入力されたATP測定値に応じた浮遊微生物上昇量の度合いとを同時に表示して出力してよい。
【0037】
本実施形態では、上述のように、対象室内の空間の清浄度推定装置4は、空間の即時的な浮遊微生物量を測定した結果と、対象室内の床面の生物汚染度を測定した結果とを入力し、測定した浮遊微生物量および生物汚染度に基づいて空間の即時的かつ潜在的な浮遊微生物量を推定する。
【0038】
また、清浄度推定装置4は、測定した生物汚染度に基づいて空間の潜在的な浮遊微生物上昇量を推定し、測定した浮遊微生物量および推定した浮遊微生物上昇量に基づいて、空間の即時的かつ潜在的な浮遊微生物量を推定する。
【0039】
例えば、清浄度推定装置4は、測定した浮遊微生物量に、推定した浮遊微生物上昇量を加算することによって、空間の即時的かつ潜在的な浮遊微生物量を推定する。
【0040】
更に、清浄度推定装置4は、推定した浮遊微生物量に基づいて空間の清浄度を知覚的(感覚的)に評価する。
【0041】
また、本発明の清浄度推定プログラムは、上記した清浄度推定装置4と同様にして、空間の即時的な浮遊微生物量を測定した結果と、対象室内の床面の生物汚染度を測定した結果とを入力する処理と、測定した浮遊微生物量および生物汚染度に基づいて空間の即時的かつ潜在的な浮遊微生物量を推定する処理とを、清浄度推定装置4の制御部などのコンピュータに実行させる。
【0042】
なお、本発明の清浄度推定方法は、上記した清浄度推定システム1の構成に限定されず、上記した清浄度推定装置4と同様にして、空間の即時的な浮遊微生物量を測定し、対象室内の床面の生物汚染度を測定し、測定した浮遊微生物量および生物汚染度に基づいて空間の即時的かつ潜在的な浮遊微生物量を推定する。
【0043】
上記したような構成によれば、即時的に測定した室内空間の浮遊微生物量を利用するので、室内空間の清浄度が衛生的かつ清潔的であるかを即時的に評価することができ、そのため、室内空気質の改善の前後で清浄度を評価することにより、改善効果を即座に知ることができる。また、人の活動などにより浮遊微生物量を生じさせる可能性のある床面の生物汚染度を利用するので潜在的な室内空間の清浄度を推定することができる。このように、即時的かつ潜在的な室内空間の清浄度を推定することにより、室内の清掃メンテナンスの指標をより適切に作業者に提供することができる。また、室内空間の浮遊微生物量や室内床面の生物汚染度を、専門知識を必要とすることなく測定することができるので、誰でもその場で清浄度の評価値を取得することができる。なお、室内の浮遊微生物量やATP測定値、清浄度のデータを、時間間隔をおいて連続的に取得すれば、データ推移を解析することにより、浮遊微生物量の増減傾向を予測することができる。
【0044】
上記した実施形態では、パーティクルカウンタで構成される浮遊微生物測定装置2が、パーティクルカウンタで測定した浮遊微粒子量に基づいて浮遊微生物の相当量を推測する例を説明したが、本発明はこの例に限定されない。例えば、他の実施形態では、パーティクルカウンタで構成される浮遊微生物測定装置2が、パーティクルカウンタで測定した浮遊微粒子量を出力した後、清浄度推定装置4が浮遊微粒子量を入力して、浮遊微粒子量に基づいて浮遊微生物の相当量を推測してもよい。
【0045】
上記した実施形態では、清浄度推定システム1が、浮遊微生物測定装置2、床面汚染度測定装置3および清浄度推定装置4を備える例を説明したが、本発明はこの例に限定されない。例えば、他の実施形態では、清浄度推定装置4が浮遊微生物測定装置2および床面汚染度測定装置3を備えていてもよい。
【0046】
上記した実施形態では、清浄度推定装置4が室内空間の浮遊微生物量と室内床面のATP測定値とに基づく清浄度推定処理の結果を出力する例を説明したが、本発明はこの例に限定されない。例えば、他の実施形態では、清浄度推定方法として、図2図4に示すような浮遊微生物量に基づく評価基準や図8に示すようなATP測定値に基づく推定基準をユーザに提示してもよい。この場合、ユーザは、浮遊微生物測定装置2によって測定した浮遊微生物量と床面汚染度測定装置3によって測定したATP測定値とを、提示された基準に照らし合わせて室内空間の清浄度を知覚的(感覚的)に評価してもよい。なお、これらの基準は、清浄度推定装置4のディスプレイに表示してもよく、あるいは、印刷出力してもよい。
【0047】
なお、実施形態の説明は、本発明に係る清浄度推定方法、清浄度推定装置および清浄度推定プログラムにおける一態様を示すものであって、本発明の技術範囲は、上記実施形態に限定されるものではない。本発明は技術的思想の趣旨を逸脱しない範囲において様々に変更、置換、変形されてよく、特許請求の範囲は技術的思想の範囲内に含まれ得る全ての実施態様を含む。
【符号の説明】
【0048】
1 清浄度推定システム
2 浮遊微生物測定装置
3 床面汚染度測定装置
4 清浄度推定装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8