特許 7428695 計時器のための自由ダイレクト脱進機構

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)

(12)【公報種別】特許公報(B2)

(11)【特許番号】

(24)【登録日】2024-01-29

(45)【発行日】2024-02-06

(54)【発明の名称】計時器のための自由ダイレクト脱進機構

(51)【国際特許分類】

   G04B 15/14 20060101AFI20240130BHJP

   G04B 15/08 20060101ALI20240130BHJP

【ＦＩ】

G04B15/14 Z

G04B15/08

【請求項の数】 21

(21)【出願番号】P 2021506052

(86)(22)【出願日】2019-04-17

(65)【公表番号】

(43)【公表日】2021-08-30

(86)【国際出願番号】 EP2019059890

(87)【国際公開番号】W WO2019201977

(87)【国際公開日】2019-10-24

【審査請求日】2022-03-18

(31)【優先権主張番号】18195289.6

(32)【優先日】2018-09-18

(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP

(31)【優先権主張番号】18167638.8

(32)【優先日】2018-04-17

(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP

(31)【優先権主張番号】18172526.8

(32)【優先日】2018-05-16

(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP

(73)【特許権者】

【識別番号】523164469

【氏名又は名称】フランソワ ベッセ

(74)【代理人】

【識別番号】110000855

【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所

(72)【発明者】

【氏名】ルノー、ドミニク

【審査官】榮永 雅夫

(56)【参考文献】

【文献】スイス国特許発明第２６３９７（ＣＨ，Ａ）

【文献】特開２０１８－４８９５８（ＪＰ，Ａ）

【文献】仏国特許発明第１００９８５３（ＦＲ，Ａ）

(58)【調査した分野】(Int.Cl.，ＤＢ名)

Ｇ０４Ｂ １５／００ － １５／１４

(57)【特許請求の範囲】

【請求項1】

計時器のためのダイレクトインパルス自由脱進機構（１）であって、
－ 面Ｐ１内に延び、前記面に垂直な回転軸（Ｘ１）の周りで回転可能であり、且つ一連の周辺歯（３）を備えるガンギ車（２）であって、前記歯（３）は、それらの端によって、前記ガンギ車の回転中に円形軌道Ｃを画定する、ガンギ車（２）と、
－ 少なくとも１つの係止パレット（４１）を有する係止デバイス（４）であって、前記少なくとも１つの係止パレット（４１）は、前記係止デバイス（４）の少なくとも１つの係止位置において前記ガンギ車（２）の歯（３）と当接して協働するように配置される、係止デバイス（４）と、
－ 前記係止デバイス（４）の少なくとも１つの相補的な係止解除機（４４）と協働するために、回転軸（Ｘ２）の周りで枢動する調速機（５）に取り付け可能な少なくとも１つの制御パレット（６）であって、それにより前記調速機（５）の各循環で係止解除位置において前記係止デバイス（４）を前記ガンギ車（２）から解放する、少なくとも１つの制御パレット（６）と、
－ それぞれのインパルス面（９ｐ）上で前記ガンギ車（２）の歯（３）と協働して前記調速機（５）にダイレクトインパルスを伝えるように前記調速機（５）に取り付け可能な複数のインパルスパレット（９）と
を有し、
前記係止デバイス（４）は、各係止位置において前記ガンギ車（２）による引張りを受けるように配置されること、また前記ガンギ車（２）の前記歯（３）、及び前記インパルスパレット（９）は、前記ガンギ車（２）の前記面Ｐ１の外で前記ダイレクトインパルスが生じるように構成及び配置されることを特徴とする、ダイレクトインパルス自由脱進機構（１）。

【請求項2】

前記ガンギ車の前記歯（３）の少なくとも一部分は、前記ガンギ車（２）の前記面Ｐ１に垂直な突出部（３１、３２）を形成することを特徴とする、請求項１に記載の脱進機構。

【請求項3】

前記少なくとも１つの係止パレット（４１）は、少なくとも部分的に前記ガンギ車（２）の前記面Ｐ１内で前記ガンギ車の前記歯（３）と協働するように前記係止デバイス（４）上に配置されることを特徴とする、請求項１又は２に記載の脱進機構。

【請求項4】

前記各インパルスパレット（９）は、そのインパルス面が軌跡を描くように、前記調速機（５）と回転的に一体であるように配置され、前記軌跡の幅は、前記脱進機構の軌跡内で測定して、最大でも前記ガンギ車の２つの歯（３）を分離するピッチの半分に等しいことを特徴とする、請求項１から３までのいずれか一項に記載の脱進機構。

【請求項5】

前記各インパルスパレット（９）は、前記調速機（５）の拘束角が１０°から３５°の間であるように、前記調速機（５）と回転的に一体に配置されることを特徴とする、請求項１から４までのいずれか一項に記載の脱進機構。

【請求項6】

前記係止デバイス（４）は、第１及び第２の係止パレット（４１）を備える係止アンクル（４３）を有し、前記係止アンクル（４３）は、前記係止解除位置を通過する２つの係止位置の間で軸（Ｘ３）の周りに回転可能に取り付けられた戻しレバー（４２）と一体であり、前記係止位置及び係止解除位置は、前記戻しレバー（４２）の第２の端部の両側の少なくとも２つの保持止め具（７）と、前記戻しレバー（４２）の第１の端部に配置された相補的な係止解除機（４４）とによって決定されることを特徴とする、請求項１から５までのいずれか一項に記載の脱進機構。

【請求項7】

前記相補的な係止解除機（４４）はアーモンド形状のリング（４４３）で形成され、前記リング（４４３）内において、前記調速機（５）の前記軸（Ｘ２）は、制御カム（８）を画定する前記リング（４４３）の内壁に沿って前記制御パレット（６）が接触することなく移動するように延び、前記制御パレット（６）の係止解除ノッチ（４５）が、前記戻しレバーの長手軸と整列する位置において前記リング（４４３）の前記内壁に形成されることを特徴とする、請求項６に記載の脱進機構。

【請求項8】

前記相補的な係止解除機（４４）は、ノッチによって分離され且つけん先を欠いている２つのツノを有するフォークによって形成され、前記ツノは、前記回転軸（Ｘ３）及び前記ノッチの中心を通過する前記戻しレバー（４２）の長手軸に関して対称であり、且つ前記ノッチから円の円弧に沿って延びていることを特徴とする、請求項６に記載の脱進機構。

【請求項9】

前記調速機と一体であるインパルス板（９１）に固定された第１及び第２のインパルスパレット（９）であって、前記ガンギ車（２）の前記面Ｐ１に平行な面Ｐ２内に延びる第１及び第２のインパルスパレット（９）を有することを特徴とする、請求項６から８までのいずれか一項に記載の脱進機構。

【請求項10】

前記ガンギ車の前記歯（３）は、前記面Ｐ１の外で前記インパルスパレット（９）の前記インパルス面に係合するように前記面Ｐ１から突出するインパルス指（３１）を有し、前記歯の径方向端部が、前記円形軌道Ｃを描くことを特徴とする、請求項６から９までのいずれか一項に記載の脱進機構。

【請求項11】

前記制御パレット（６）は、前記インパルス板（９１）と一体のピン（６１）であることを特徴とする、請求項９に記載の脱進機構。

【請求項12】

前記係止デバイス（４）が戻しレバー（４２）を有し、前記戻しレバー（４２）は第１の端部に前記係止パレット（４１）を担持し、且つ前記係止位置と解放位置との間で軸（Ｘ３）の周りに回転可能に取り付けられ、前記係止位置及び前記解放位置は、少なくとも１つの保持止め具（７）と、前記調速機（５）と回転的に剛体であるように配置された少なくとも１つの制御カム（８）とによって決定されることを特徴とする、請求項１から５までのいずれか一項に記載の脱進機構。

【請求項13】

前記相補的な係止解除機（４４）は係止解除アーム（４４１）を有し、前記係止解除アーム（４４１）は前記戻しレバーと一体であり、且つ前記係止解除位置において前記制御パレット（６）と協働するように配置された係止解除歯（４４２）の自由端に設けられることを特徴とする、請求項１２に記載の脱進機構。

【請求項14】

前記制御カム（８）は、カム表面（８１）と、前記係止パレット（４１）の反対側の前記戻しレバー（４２）の第２の端部に形成されたカム従動子（４２１）と協働するために前記カム表面に形成されたカム・ノッチ（８２）とを有し、前記制御カム（８）及び前記戻しレバー（４２）は、前記カム従動子（４２１）が前記係止解除位置で前記カム・ノッチ（８２）内に落ち、また前記係止位置で前記ノッチ（８２）から押し出されて前記戻しレバー（４２）を枢動させるように、それぞれ配置されることを特徴とする、請求項１２又は１３に記載の脱進機構。

【請求項15】

前記制御パレット（６）は、板（６２）上に固定されたパレット（６１）であり、前記板（６２）は、前記調速機（５）と回転的に一体であり、且つ前記ガンギ車の前記面Ｐ１に平行であるが前記面Ｐ１とは異なる面Ｐ３内で移動可能であることを特徴とする、請求項１２から１４までのいずれか一項に記載の脱進機構。

【請求項16】

前記制御カム（８）は、リングと、前記リングの内側リム上に形成されたカム・ノッチ（８２）とを有し、前記リングはカム表面（８１）を形成し、前記係止解除アーム（４４１）の自由端におけるピンが前記リング内に延び、前記ピンがカム従動子（４２１）を形成し、それにより、前記係止解除位置で前記カム従動子（４２１）が前記カム・ノッチ（８２）内に落ち、また前記カム・ノッチ（８２）から押し出されて前記戻しレバー（４２）を前記係止位置まで枢動させることを特徴とする、請求項１３に記載の脱進機構。

【請求項17】

前記制御パレット（６）は、前記調速機の前記回転軸（Ｘ２）に関して前記カム・ノッチと径方向に位置合わせされた位置において前記制御カムに固定されたピンであることを特徴とする、請求項１６に記載の脱進機構。

【請求項18】

前記調速機（５）と一体のインパルス板（９１）にそれぞれ固定され、且つ第１の面Ｐ２及び第２の面Ｐ２’内にそれぞれ延びる第１及び第２のインパルスパレット（９）を有し、前記面Ｐ２、Ｐ２’は、前記ガンギ車の前記面Ｐ１に関して対称的であることを特徴とする、請求項１から５までのいずれか一項又は請求項１２から１７までのいずれか一項に記載の脱進機構。

【請求項19】

前記ガンギ車（２）は、前記ガンギ車の前記面Ｐ１に関して対称的に突出して前記面Ｐ１の外で前記インパルスパレット（９）に係合するインパルスバー（３２）を有する歯（３）と、前記面Ｐ１に関して突出部を欠いている歯（３）との規則的な交互配列を有し、前記歯（３）の径方向端部が前記円形軌道Ｃを描くことを特徴とする、請求項１８に記載の脱進機構。

【請求項20】

請求項１から１９までのいずれか一項に記載の脱進機構（１）を有する計時器。

【請求項21】

前記調速機（５）の前記拘束角が１５°から３０°の間であることを特徴とする、請求項５に記載の脱進機構。

【発明の詳細な説明】

【技術分野】

【0001】

本発明は、時計製造の分野に関する。本発明は、より詳細には、自由ダイレクト脱進機構（ｆｒｅｅ ｄｉｒｅｃｔ ｅｓｃａｐｅｍｅｎｔ ｍｅｃｈａｎｉｓｍ）に関する。

【0002】

本発明はまた、そのような脱進機構を組み込んだ計時器に関する。

【背景技術】

【0003】

アンクル脱進機は、確かに、少なくともいわゆる自由脱進機の部類では、機械式携帯時計機構における最も一般的なタイプの脱進機である。典型的には振り子又はばねてんぷ（ｓｐｒｕｎｇ ｂａｌａｎｃｅ）組立体タイプのものである調速機に関連付けられるアンクル脱進機は、少なくとも１つのぜんまい（ｂａｒｒｅｌ ｓｐｒｉｎｇ）を通常有する前述の携帯時計機構の機械的エネルギー源の機械的エネルギーの一部を所定の振動数で規則的なインパルス（ｉｍｐｕｌｓｅ）によって前述の調速機に伝えることにより、調速機の振動を維持することを可能にする。同時に、脱進機は、調速機の振動が数えられること、したがって時間が数えられることも可能にする。

【0004】

アンクル脱進機の多数の変形形態が、最新技術において提案されており、時計製造の分野における当業者には良く知られている。同様に良く知られているそれらの限界は、主に、一方ではアンクルと調速機との間での、また他方ではアンクルとガンギ車との間での連続的な衝撃（ｓｈｏｃｋ）及び摩擦に起因する、調速機の振動の等時性を乱す傾向、並びに、主に同じ理由による低い機械効率である。実際、アンクル・タイプの脱進機は、駆動源から受け取る駆動力のうちのたった３０％程度の限られた量しか調速機に伝えないと通常考えられている。

【0005】

別の見方をすれば、アンクル脱進機は、それらの確実な動作を称えられ、また、自己始動可能である。

【0006】

ロビン・タイプのアンクル機構は、スイス・アンクル脱進機構よりも良好な性能の利点を有する。ロビン脱進機は、デテント脱進機の利点（ガンギ車とてんぷとの間での高効率且つ直接的なエネルギーの伝達）とアンクル脱進機の利点（良好な動作安全性）とを組み合わせた脱進機である。ロビン脱進機は、ガンギ車からてんぷへのダイレクトインパルス自由脱進機であり、脱進機構のアンクルは、本質的に２つの係止パレットを備えたレバーを構成し、レバーは、インパルスフェーズの外側のガンギ車の２つの極端係止位置間で傾動する。それらはスイス・アンクル脱進機と比較して調速機へのエネルギー伝達における相当な利得を可能にするので、それらの効率は高く評価されており、伝達されるエネルギーは、約５０％である。

【0007】

しかし、ロビン・アンクルの拘束角（リフトアングル）は、古典的なスイス・アンクル（約１５°）と比較すると非常に小さく（約５°）、そのことが、けん先（ｇｕａｒｄ ｐｉｎ）及び板によって後者を固定する通常の解決策を適用することを困難にする。この目的のために、代替的な解決策が、欧州特許第１１２２６１７（Ｂ１）号及び欧州特許第２４４４８６０（Ａ１）号又は欧州特許第２４０７８３０（Ｂ１）号で提案された。しかし、これらのロビン脱進機構及び関連する安全デバイスは、実装するのに繊細であり、非常にそうであるため、ロビン脱進機構及び関連する安全デバイスは、それらの固有の技術的性能を正当化することができる大規模な商業的及び工業的な発展をこれまでに経験したことがない。

【先行技術文献】

【特許文献】

【0008】

【文献】欧州特許第１１２２６１７（Ｂ１）号

【文献】欧州特許第２４４４８６０（Ａ１）号

【文献】欧州特許第２４０７８３０（Ｂ１）号

【文献】国際出願第２０１６／０１２２８１（Ａ１）号

【発明の概要】

【発明が解決しようとする課題】

【0009】

本発明の目的はまた、スイス・レバー脱進機のように動作が単純且つ確実であるがダイレクトインパルス脱進機の動作の難しさを提示することなしに、少なくともダイレクトインパルス脱進機のクロノトリメック性能と同様の著しく改善されたクロノトリメック性能から恩恵を受ける、直接的且つ自由な携帯時計脱進機構を提供することである。

【0010】

最後に、本発明は、そのような脱進機構を有する計時器を提供する目的を有する。

【課題を解決するための手段】

【0011】

この目的のために、本発明は、請求項１に記載のアンクル脱進機構、及び、そのような脱進機を備え且つ請求項２０で定義される計時器を提供する。

【0012】

したがって、本発明は、第１の目的によれば、計時器のためのダイレクトインパルス自由脱進機構であって、
－ 平面Ｐ１に延在し、この面に対して直角な第１の回転軸の周りで回転可能であり、且つ一連の周辺歯を備えるガンギ車であって、前述の歯が、それらの自由端により、ガンギ車の回転中に円形軌道Ｃを画定する、ガンギ車と、
－ 少なくとも１つの係止パレットを有する係止デバイスであって、少なくとも１つの係止パレットが、前述の係止デバイスの少なくとも１つの係止位置においてガンギ車の歯と当接して協働するように配置される、係止デバイスと、
－ 係止デバイスの少なくとも１つの相補的な係止解除機（ｕｎｌｏｃｋｉｎｇ ｏｒｇａｎ）と協働して調速機の循環（ａｌｔｅｒｎａｔｉｏｎ）ごとに係止解除位置において係止デバイスをガンギ車から係止解除するために、回転軸の周りで枢動する前述の調速機に取り付けられることが可能な少なくとも１つの制御パレットと、
－ インパルス面上でガンギ車の歯とそれぞれ協働して前述の調速機にダイレクトインパルスを伝えるために前述の調速機に取り付けられることが可能なインパルスパレットと、
を有する、ダイレクトインパルス自由脱進機構を提案する。

【0013】

本発明によれば、脱進機構は、係止デバイスが、各係止位置においてガンギ車による引張り（ｄｒａｗ）を受けるように配置されること、並びに、ガンギ車の歯、及びインパルスパレットが、ガンギ車の面Ｐ１の外側でインパルスが生じるように構成され且つ配置されることを特徴とする。

【0014】

したがって、本発明の機構は、ガンギ車が延在し且つ回転する面Ｐ１の外でガンギ車のインパルス場所を調速機に取り付けられたインパルスパレット上に移動させるために、発明性のある態様で提案する。したがって、有効なガンギ車の歯の部分の寸法を縮小して、インパルスパレットのインパルス面に効率的なインパルスを提供することが可能であると同時に、関連する引張りのおかげで、インパルスパレットがガンギ車の歯の間でガンギ車の面Ｐ１に平行な軌跡（ｔｒａｃｅ；トレース）を描く調速機の軸上での回転における調速機の自由経路をインパルスから外すことが可能である。したがって、インパルスパレットのインパルスの面の配向を利用することにより、最大で３００°までの最大回転振幅で、既知の脱進機と比較して非常に小さな調速機の拘束角を得ることが可能であり、したがって、本発明の機構に非常に良好な品質係数を提供することが可能であり、本発明の機構はさらに、自己始動可能である。

【0015】

一実施例によれば、ガンギ車の歯の少なくとも一部分は、前述のガンギ車の面Ｐ１に対して直角な突出部を形成する。そのような突起部は、ガンギ車のインパルス場所をガンギ車の面Ｐ１の外の調速機に取り付けられたインパルスパレットに移すことを容易にする。

【0016】

インパルスパレットとは対照的に、少なくとも１つの係止パレットは、少なくとも部分的に前述のガンギ車の面Ｐ１においてガンギ車の歯と協働するように係止デバイス上に配置されることが好ましい。具体的には、これにより、調速機を乱すことなしに、係止フェーズ中の係止デバイス上でのガンギ車の良好な安定性及び良好な引張りが確実とされ、調速機は、ガンギ車の歯の間で自由に交互に回転する。

【0017】

本発明の機構の一実施例によれば、インパルスパレットは、脱進機構の軌跡において測定されたその幅が精々ガンギ車の２つの歯を分離するピッチの半分に等しい軌跡をインパルスパレットのインパルス面が描くように、調速機と回転的に一体であるように配置される。これは、インパルスパレットとガンギ車の歯との間での衝撃の恐れを伴わずに、調速機がガンギ車の歯の間で、特に歯の突出する部分の間で自由に移動することができることを確実にする。

【0018】

好ましい実施例によれば、インパルスパレットは、調速機の拘束角が１０°から３５°の間、好ましくは１５°から３０°の間であるように、調速機上に回転的に固定された態様で配置される。

【0019】

一実施例では、係止デバイスは、係止アンクルを有し、この係止アンクルは、第１及び第２の係止パレットを備え、且つ、係止解除位置を通過する２つの係止解除位置の間の軸の周りに回転可能に取り付けられた戻しレバーと一体であり、前述の係止位置及び係止解除位置は、戻しレバーの第２の端部の両側の少なくとも２つの保持止め具と、前述の戻しレバーの第１の端部に配置された相補的な係止解除機とによって決定される。この実施例は、フォークにより又は以下で説明されるように、一方では制限ピン又は止め具と直接相互作用する戻しレバーにより、また他方では調速機の係止解除パレットにより、より慣例的な方法で制御され得るアンクル係止デバイスを使用して、調節が非常に容易であるという利点を有する。

【0020】

したがって、この実施例では、相補的な係止解除機は、有利には、アーモンド形状のリングで形成されてよく、このリング内では、調速機の軸が、脱進機構の通常動作中に制御パレットが前述のリングの内壁に沿って接触することなく移動するように、延在し、前述のリングは、制御カムを画定し、制御パレットを係止解除するためのノッチが、戻しレバーの長手軸と整列する位置において前述のリングの内壁に形成される。したがって、アーモンド形状のリングは、脱進機のための機能上の保護手段を形成する。

【0021】

或いは、相補的な係止解除機は、ノッチによって分離され且つけん先などを欠いている２つのツノを有するフォークによって形成されてもよく、前述のツノは、回転軸及びノッチの中心を通過する戻しレバーの長手軸に関して対称であり、且つ、前述のノッチから円の円弧に沿って延在する。

【0022】

好ましくは、前述のインパルスパレットは、調速機と一体であり且つガンギ車の面Ｐ１に平行な面Ｐ２に延在するインパルス板上に固定される。

【0023】

ガンギ車の歯は、前述の面Ｐ１の外でインパルスパレットのインパルス面に係合するように面Ｐ１から突出するインパルス指を有し、前述のインパルス及び係止歯の径方向端部は、円形軌道Ｃを描く。

【0024】

有利には、この実施例では、制御パレットは、インパルス板に取り付けられたピンである。

【0025】

本発明の脱進機構の別の実施例では、係止デバイスは、戻しレバーを有し、この戻しレバーは、第１の端部に前述の係止パレットを担持し、且つ、係止位置と係止解除位置との間の軸の周りに回転可能に取り付けられ、係止位置及び係止解除位置は、少なくとも１つの保持止め具と、前述の調速機と回転的に剛体であるように配置された少なくとも１つの制御カムとによって決定される。この実施例は、１つだけの係止パレットで済むという利点を有し、且つ、単純且つ簡潔な脱進機構造を提供する。

【0026】

この実施例では、相補的な係止解除機は、係止解除アームを有し、この係止解除アームは、戻しレバーと一体であり、且つ、前述の係止解除位置において前述の制御パレットと協働するように配置された係止解除歯を自由端に備える。

【0027】

さらに、制御カムは、カム表面、及び、前述の係止パレットの反対側の戻しレバーの第２の端部に形成されたカム従動子と協働するために前述のカム表面に形成されたカム・ノッチを有し、前述の制御カム及び前述の戻しレバーは、前述のカム従動子が前述の係止解除位置では前述のカム・ノッチ内に落ち、係止位置ではノッチから押し出されて戻しレバーを枢動させて係止パレットをガンギ車の経路へ運ぶように、それぞれ配置される。

【0028】

この特定の実施例では、制御パレットは、板上に固定されたパレットであってよく、この板は、調速機に回転的に固定され、且つ、ガンギ車の面Ｐ１に平行であり且つ面Ｐ１とは異なる面Ｐ３において移動可能である。

【0029】

或いは、制御カムは、リング、及び前述のリングの内側リム上に形成されたノッチを有してもよく、係止解除レバーの自由端におけるカム従動子ピンが、前述のカム従動子が前述の係止解除位置では係止解除パレットの作用の下で前述のカム・ノッチ内に落ち、係止位置では前述のノッチから押し出されて戻しレバーを枢動させて係止パレットをガンギ車の経路へ運ぶように、前述のリング内に延在する。

【0030】

この代替形態では、リングは、カム上の周辺溝によって形成されてもよく、制御パレットは、調速機の回転軸に関して前述のカム・ノッチと径方向に位置合わせされた位置において制御カムに固定されたピンであってもよい。

【0031】

この実施例では、インパルスパレットは、調速機と一体のインパルス板にそれぞれ固定され、且つ、第１の面Ｐ２’及び第２の面Ｐ２”にそれぞれ延在し、面Ｐ２’、Ｐ２”は、ガンギ車の面Ｐ１に関して対称的である。

【0032】

ガンギ車は、前述のインパルスパレット及び係止デバイスの係止パレットと協働するために、前述のガンギ車の面Ｐ１に関して対称的に突出して前述の面Ｐ１の外でインパルスパレットに係合するインパルスバーを有する歯と、面Ｐ１に関して突出部を欠いている歯との規則的な交互配列を有し、前述の歯の径方向端部は、円形軌道Ｃを描く。

【0033】

本発明の他の詳細は、添付の図面を参照しながら以下の説明を読めば明らかになるであろう。

【図面の簡単な説明】

【0034】

【図1】第１の実施例における本発明による脱進機構及び概略的に表わされたてんぷなどの関連する調速機の斜視図である。

【図2】脱進機の死点における、図１の脱進機構の上面図である。

【図3】脱進機死点における、図１からの脱進機構の正面図である。

【図4】インパルスフェーズの終わりにおける、図１の脱進機構の上面図である。

【図5】図４に示されたようなインパルスフェーズの終わりにおける、本発明の脱進機構の正面図である。

【図6】調速機の自由循環中の係止位置における、図１の脱進機構の上面図である。

【図7】インパルスパレットの背面と機構のガンギ車の歯のインパルス面との間の遊びを示す、図６の拡大図である。

【図8】単一の係止パレット及び係止解除アームを含む係止デバイスを有する、第２の実施例における本発明による脱進機構の斜視図である。

【図9】図８の脱進機構の上面図である。

【図10】図９の脱進機構の上面図である。

【図11】係止デバイスが環状の制御カムと係止解除アームに取り付けられたカム従動子とを有する、図８から１０の脱進機構の変形形態の図である。

【図12】係止デバイスが環状の制御カムと係止解除アームに取り付けられたカム従動子とを有する、図８から１０の脱進機構の変形形態の図である。

【図13】係止デバイスが環状の制御カムと係止解除アームに取り付けられたカム従動子とを有する、図８から１０の脱進機構の変形形態の図である。

【発明を実施するための形態】

【0035】

本発明は、ダイレクトインパルスを伴う自由脱進機において、調速機における拘束角を著しく減少させるとともに調速機の回転の大振幅を可能にすることでその性能を特異的に向上させることにより、数十年間にわたって時計職人によく知られてきたスイス・アンクル脱進機の信頼性、調節の単純性、及び自己始動性の利点を利用し且つ組み合わせるように設計され且つ配置された、新規な種類の自由脱進機構１を提案し、したがって、既知の脱進機をはるかに凌ぐ品質係数を提供する。さらに、ダイレクトな拍動動作は、高いエネルギー効率を促進する。

【0036】

自由脱進機構１は、懐中時計又は腕時計に古くから使用されているばねてんぷタイプの調速機の使用と互換性のある、非常に単純且つ簡潔な構造を有利に提示し、既存のアンクル機構の大半と比較して、等時性又はクロノメトリの観点から、低い振幅及び高い振動数を有する調速機のレベルにおいて、又は逆に大きな振動の振幅及びより低い振動数を有する調速機のレベルにおいて、あらゆる場合において向上した性能で動作する、前例のない可能性を提供する。

【0037】

これらの組み合わせられた利点は、本発明により、また、図１から１３に示されるように、一連の周辺歯３を有するガンギ車２と、係止位置においてガンギ車２の歯３と当接して協働するようにまたこの位置において引張りを受けるように配置された係止デバイス４と、ばねてんぷなどの調速機５がガンギ車２の歯３からのインパルスを周期的に受け取ってその振動を維持するように、調速機５に取り付けられることが可能なインパルス部材と、を有する直接インパルス自由脱進機構１によって得られ、前述の歯３及びインパルス部材９は、インパルスがガンギ車２の面Ｐ１の外側で生じるように、構成され且つ配置される。

【0038】

これは、本発明によれば、その少なくとも一部が前述のガンギ車の面Ｐ１に対して直角な突出部を形成するガンギ車２の歯３の独創的な高次構造、並びにインパルス機９の調節された構成及び配向によって可能とされ、前述の歯３及び前述のインパルス部材９のそれぞれの拍動面は、機構の死点に最も近い調速機の循環ごとに前述のガンギ車２の面Ｐ１の外側で直接相互作用し、したがって、拘束角は低くなり、インパルスにおける調速機の乱れは最小限に抑えられる。係止引張りは、ガンギ車２の歯の突出する部分間での調速機の運動の振幅全体にわたって、係止フェーズ中の調速機の自由移動を確実にする。

【0039】

実際には、ガンギ車の歯３は、それらの自由端に突起部を形成し、この突起部は、ガンギ車２の大輪２２の厚さよりも大きな、ガンギ車２の面Ｐ１に対して直角に測定された長さを有する。この突起部は、各歯３の端部における肩線によって概略的に表わされている実質的に三角形の形状を画定する。さらに、本発明の脱進機構１の例えばルビー・パレットから構成されるインパルス部材９は、有利には、それらのインパルス面が、脱進機構の経路において測定されたその幅が精々ガンギ車２の２つの歯３を分離するピッチの半分に等しい軌跡をそれらのインパルス面が描くように、調速機５と回転的に一体に配置される。これは、調速機５の拘束角が１０°から３５°の間、好ましくは１５°から３０°の間であるように、言い換えれば今日までに知られている他のいかなる脱進機構よりも低くなるように、脱進機１が構成されることを可能にする。

【0040】

係止デバイス４は、調速機５の動作を可能な限り乱さないように構成され、したがって前述のガンギ車２の面Ｐ１において少なくとも部分的にまた好ましくは完全にガンギ車の歯３と協働するように構成される。これは、歯３の突出部の特定の構成と組み合わせられて、前述の歯３１の重ね合わせられ且つ正割の平行な面において係止デバイス４及びインパルス部材９と交互に協働する能力を、ガンギ車２に与える。したがって、本発明の脱進機構のインパルスフェーズ及び係止フェーズは、互いに分離されるだけでなく機構の異なる面又はレベルに介在し、これは、非常に簡潔な構造及び最小限の乱れを可能にするとともに、ガンギ車２及びその歯３の外接円並びにインパルス機９の外接円の可能な絡み合いにより、調速機の動作の振動数及び振幅の幅広い選択肢を提供する。

【0041】

本発明の脱進機構１は、図１から７及び図８から１３にそれぞれ示された２つの特定の実施例の下で、より具体的に図に提示される。

【0042】

まず、本発明の脱進機構１に関して、第１の実施例を参照する。脱進機構１は、面Ｐ１に延在し且つ周辺歯３を備え且つこの面Ｐ１に対して直角な回転軸Ｘ１の周りに回転可能に取り付けられた、ガンギ車２を有する。前述の歯３は、それらの自由端により、ガンギ車２の回転中に円形軌道Ｃを画定する。このガンギ車２は、慣例的な方法で、ガンギ車２と共通の軸Ｘ１のピボット上で駆動される脱進機かな（ｅｓｃａｐｅｍｅｎｔ ｐｉｎｉｏｎ）２１に関連付けられ、この脱進機かな２１により、ガンギ車２は、使用に際して、回転軸Ｘ２の周りに回転可能に取り付けられたムーブメントの調速機５の振動を維持するために、脱進機構１が組み入れられた携帯時計ムーブメントの仕上げ歯車列及び駆動源に結合され得る。

【0043】

本発明によれば、ガンギ車２の歯３は、それぞれ、ガンギ車２の面Ｐ１の外での調速機５へのインパルスの伝達を可能にするために、ガンギ車２の表面上に突出部分を有する。これらの突出部は、この実施例では、ガンギ車２の回転のステップごとに、調速機５と一体であり且つガンギ車２の面Ｐ１に平行な面Ｐ２に延在するインパルス板９１に固定された第１又は第２のインパルスパレット９のインパルス面９ｐに係合するために、面Ｐ１に対して突出するインパルス指３１によって形成される。有利には、前述のインパルスパレット９は、任意の適切な手段により板９１に固定され、また、インパルスパレット９は、図１、３及び５から特に分かるように、板９１の面Ｐ２に対して直角に、ガンギ車２に向かう方向に突出して延在する。したがって、ガンギ車２の歯３のインパルス指３１、及び、調速機５と一体のインパルスパレット９は、前述の面Ｐ１の外側でのそれらの相互作用、またより具体的にはこの場合ガンギ車の面Ｐ１とインパルス板９１の面Ｐ２との間でのそれらの相互作用を確実にするために、「ヘッド・トゥ・テール」で配置される。

【0044】

示されるように、ガンギ車２の歯３の指３１がその上で摺動し且つ作用するインパルスパレット９のインパルス表面９ｐは、平坦な表面を有する。それらはまた、有利には、インパルスの漸進的な加速を提供するために、又は、インパルスパレット９のそれぞれへのインパルスを調速機５のＸ２軸に関して対称的にするために、湾曲した形状、凹状の形状、又は凸状の形状を有し得る。したがって、ガンギ車２に対するインパルスパレット９の運動に、それらの角度値、それらの速度、及び伝達されるトルクのレベルにおいて作用することにより、脱進機の経路に直接影響を与えることができる。

【0045】

脱進機構１はまた、それ自体が回転軸Ｘ３の周りで回転可能である係止デバイス４を有する。ガンギ車２、調速機５、及び係止デバイス４の回転軸Ｘ１、Ｘ２、Ｘ３は、互いに平行であることが好ましい。したがって、脱進機構１の一部ではない調速機５は、時計職人によく知られているばねてんぷ、又は、例えば本出願人により国際出願第２０１６／０１２２８１（Ａ１）号で提案されているようなナイフ共振器などの任意の振動調速機から構成され得る。

【0046】

係止デバイス４は、軸Ｘ３の周りのピボット上に回転可能に取り付けられた棒形状の戻しレバー４２を有し、この戻しレバー４２には、戻しレバー４２と同じ材料で作られ且つ戻しレバー４２の回転のピボット上にリベット留めされるか又は打ち込まれたアンクル４３が取り付けられ、アンクル４３のアームの端部には、２つの係止パレット４１が配置され、２つの係止パレット４１は、それぞれ、戻しレバー４２のその軸Ｘ３の周りでの回転の２つの極端位置においてガンギ車２の歯３に対する当接係止表面を交互に形成するための係止面４１ｒを有し、２つの極端位置は、係止位置と呼ばれ、そのうちの一方の位置が図５及び６に示されている。

【0047】

係止アンクル４３を２つの係止位置間で移動させるための軸Ｘ３の周りでの回転における戻しレバー４２の枢動は、調速機５が戻しレバー４２の一方の端部に作用することにより、慣例的なアンクル脱進機におけるように制御される。この相互作用は、戻しレバー４２の前述の第１の端部４２に形成された相補的な係止解除機４４上の摺動絆９１に固定された例えばピン６１によって形成された係止解除パレット６により、いわゆる係止解除位置において各循環で行われる。この相互作用は、軸Ｘ３の周りでの戻しレバー４２の枢動を引き起こし、したがって、係止アンクル４３の係止解除、より正確にはガンギ車の１つの歯により調速機５のインパルス要素９のうちの１つにインパルスが与えられるのに先立ってガンギ車２の別の歯３により係止パレット４１のうちの１つが係止解除されることを引き起こす。さらに、戻しレバー４２の角度移動もまた、戻しレバー４２の第２の端部の両側に配置された、例えばピンによって形成された制限止め具７によって制限される。これらの止め具７は、戻しレバー４２が止め具７のうちの一方と接触するときに各係止パレット４１がガンギ車の歯３によって画定された軌道Ｃ内に置かれるように、係止アンクル４３の係止位置を決定する。すると、戻しレバー４２及び係止アンクル４３は、係止アンクル４３及び戻しレバー４２へのガンギ車２の引張り作用により、インパルス後の調速機５の自由経過中に所定の位置に保持される。

【0048】

図２及び３から分かるように、戻しレバー４２及び係止アンクル４３は、図１に示された脱進機の死点において係止パレット４１がガンギ車２の回転軸Ｘ１からガンギ車２の歯３の外接円Ｃの半径よりも大きい距離に置かれると同時に、インパルスパレット９の端部が前述の外接円Ｃに交わり、したがってガンギ車２の回転軸から半径Ｒよりも小さい距離に置かれるように、調速機５及びガンギ車２に対して配置される。

【0049】

この構成によれば、脱進機１の死点において、インパルスパレット９の拍動面９ｐは、ガンギ車の歯３の指３１の経路に置かれ、一方で、係止パレット４１は、この経路の外側に置かれる。また、ガンギ車２の回転は、インパルスパレット９のインパルス面９ｐの指３１による係合と、調速機５のその軸の周りでの回転における駆動とを必然的に伴う。これは、本発明の脱進機構１に対して自己始動特性を確実にする。

【0050】

別の有利な特徴は、インパルス指３１及びインパルスパレット９がまた、各係止位置においてインパルスパレット９がガンギ車２の歯３の指３１間で完全に円運動をすることができ、したがってこの場合では最大で３００°であり得る調速機５における角偏向の最大振幅を確実とするように、成形されることである。この目的のために、図６及び７に特に示されるように、指３１の後逃げ面は面取りされ、したがって、ガンギ車２の係止位置において調速機５が自由に通過するときに各インパルスパレット９の後端における遊びＪを自由にするように、指３１に三角形の形状を与える。

【0051】

図１から７に示された実例では、相補的な係止解除機４４は、有利には、アーモンド形状のリング４４３によって形成され、このリング４４３内では、調速機５の軸Ｘ２が延在する。このリング４４３は、脱進機構１の通常動作中に調速機５と一体の制御パレット６が前述のリングの内壁４４４に沿って接触することなく円運動をするように構成され、したがって、これは、戻しレバー４２の係止解除のための制御カム８を画定する。係止解除ノッチ４５が、戻しレバーの回転軸Ｘ３を通過する戻しレバーの長手軸と整列する位置において前述のリング４４３の内壁に形成される。この係止解除ノッチは、慣例的な態様で、戻しレバー４２が枢動し係止アンクルが係止解除されるように、制御ピン６１が調速機の各循環において落ちることを可能にする。そのようなリング４４３は、非常に単純な構成により、係止解除だけでなく脱進機の安全性も提供する利点を有し、リングの内壁は、衝突が生じた場合に、インパルス外のいかなる不時の係止解除をも防ぐ。

【0052】

しかし、相補的な係止解除機４４は、図１から７に示された形態とは異なる形態であってもよい。相補的な係止解除機４４は、具体的には、ノッチによって分離され且つけん先を欠いている２つのツノを有するフォークによって形成されてもよく、前述のツノは、回転軸Ｘ３及びノッチの中心を通過する戻しレバー４２の長手軸に関して対称であり、且つ、前述のノッチから円の円弧に沿って延在する。

【0053】

図８から１３は、本発明による脱進機構の第２の実施例を示す。この実施例は、係止デバイス４を単純化するという点で先の実施例とは異なり、この係止デバイス４は、トリガ・タイプの係止解除デバイスによってその運動が制御される、１つだけの係止パレット４を有する。さらに、以下で説明されるように、ガンギ車２の２つの歯３のうちの１つだけが、ガンギ車２の面Ｐ１の両側でインパルスの２つの平行なレベルに交互に作用することにより、インパルスに実際に関与する。

【0054】

図８及び１０を特に参照すると、この第２の実施例の脱進機構１は、面Ｐ１に対して直角な回転軸Ｘ１の周りに回転可能に取り付けられた、面Ｐ１に延在するガンギ車２を有する。ガンギ車２は、ガンギ車２の回転中にそれらの自由端により円形の経路Ｃを画定する、周辺歯３を備える。この第２の実施例におけるガンギ車２の歯３の数は、以下で説明されるように、具体的には係止デバイス４における第２の係止パレット４１の除去を補償するために、第１の実施例による脱進機構のガンギ車の歯の数の２倍に等しい。ガンギ車２は、慣例的な方法で、ガンギ車２と共通の軸Ｘ１のピボット上で駆動される脱進機かな２１に関連付けられ、この脱進機かな２１により、ガンギ車２は、使用に際して、回転軸Ｘ２の周りに回転可能に取り付けられたムーブメントの調速機５の振動を維持するために、脱進機構１が組み入れられた携帯時計ムーブメントの仕上げ歯車列及び駆動源に結合され得る。

【0055】

独創的な方法において、ガンギ車２の歯３は、ガンギ車２の面Ｐ１の両側に２つの対称的な突出部を形成するインパルスバー３２を有する歯３と、突出部を含まず且つ通常のガンギ車２におけるように実質的に面Ｐ１内に収められる歯３との規則的な交互配列を有する。実際には面Ｐ１に関して対称的な第１の実施例の２つの指３１のように成形されるインパルスバー３２は、上部インパルス板９１及び下部インパルス板９２にそれぞれ固定された第１及び第２のインパルスパレット９のインパルス面９ｐに係合するように配置され、上部インパルス板９１及び下部インパルス板９２は、調速機５と一体であり、且つ、ガンギ車２の面Ｐ１に対して平行且つ対称的な２つの面Ｐ２’、Ｐ２”にそれぞれ延在する。

【0056】

インパルスパレット９はまた、特に図８、１０及び１２で分かるように、板９１、９２のＰ’面、Ｐ”面に対して直角にガンギ車２に向かう方向に突出して延在する。したがって、各インパルスパレット９は、調速機５の各循環において一方では面Ｐ１と面Ｐ２’との間でまた他方では面Ｐ１と面Ｐ２”との間で交互にインパルスを提供するように、ガンギ車の２つの歯のうちの１つの歯に形成されたインパルスバー３２の突出部分のうちの１つと「ヘッド・トゥ・テール」に配置される。

【0057】

示されるように、ガンギ車２の歯３の指３２がその上で摺動し且つ作用する摺動パレット９のインパルス表面９ｐは、平坦な表面を有する。それらはまた、有利には、インパルスの漸進的な加速を提供するために、又は、インパルスパレット９のそれぞれへのインパルスを調速機５のＸ２軸に関して対称的にするために、湾曲した形状、凹状の形状、又は凸状の形状を有し得る。したがって、ガンギ車２に対するインパルスパレット９の運動に、それらの角度値、それらの速度、及び伝達されるトルクのレベルにおいて作用することにより、脱進機の経路に直接影響を与えることができる。

【0058】

脱進機構１はまた、回転軸Ｘ３の周りに回転可能に取り付けられた係止デバイス４を有する。この係止デバイス４は、先に提示されたように、極めて単純化されており、且つ、弓形の戻しレバー４２の一方の端部に配置された単一の係止パレット４１のみを有し、戻しレバー４２は、図８、９及び１１に示された係止位置と図１３に示された係止解除位置との間で、軸Ｘ３のピボットの周りで回転可能である。これらの２つの位置は、単一のピンによって形成された保持止め具７、及び、前述の調速機５の回転の不可欠な部分として配置された制御カム８によって決定される。

【0059】

係止位置と係止解除位置との間での軸Ｘ３の周りでの回転における戻しレバー４２の枢動は、一方ではレバー４２と一体の相補的な係止解除機４４に作用する係止解除パレット６を介して、また他方では戻しレバー４２に直接作用する制御カム８を介して、調速機５によって制御される。

【0060】

図８から１０に示された実施例では、制御パレット６は、調速機５に固定され且つ上部インパルス板９１上に配置された板６２に取り付けられた、パレット６１である。したがって、係止解除パレット６１及びその板６２は、ガンギ車２の面Ｐ１及びインパルス板９１、９２の面Ｐ２’、Ｐ２”に平行であり且つそれらとは異なる面Ｐ３において可動である。制御パレット６は、係止デバイス４の係止位置からの係止解除をトリガするように、すなわち、より具体的には、調速機５の循環ごとにガンギ車の歯３によるインパルスパレット９のうちの１つへのインパルスの伝達を可能にするために係止パレット４１をそのガンギ車の歯３に対する係合から解放するように、配置される。この目的のために、係止解除パレット６は、相補的な係止解除機４４と協働し、この相補的な係止解除機４４は、係止解除アーム４４１によって形成された相補的な係止解除機４４と協働し、係止解除アーム４４１は、戻しレバー４２と回転的に一体であり、また、この実例では、戻しレバー４２の枢支点上で駆動される。係止解除アーム４４１は、一方の自由端に係止解除歯４４２を有し、その両側では、係止解除パレット６１が、インパルスに先立って係止解除位置に支持され、且つ、戻しレバー４２をその解放軸Ｘ３の周りで（図の慣例によれば）反時計方向に旋回させるように係止解除アーム４４１を押す。

【0061】

しかし、係止パレット４１をガンギ車から係止解除するためのこのレバー４２の回転は、制御カム８によって確保され、制御カム８は、係止パレット４１の反対側でカム従動子を形成する戻しレバー４２の自由端４２１において、戻しレバー４２の回転を制御する。この目的のために、制御カム８は、調速機５の軸若しくはピボットの一部と一体であり且つ／又はそれを形成する軸Ｘ２のシャフトによって形成され、前述のシャフトは、上部インパルス板９１と下部インパルス板９２との間に嵌め込まれている。このシャフトの円筒形の周囲表面８１は、係止解除ノッチ８２が形成されるカム表面を形成する。戻しレバー４２は、係止位置では戻しレバー４２が止め具７に寄り掛かり、その端部４２１が反対側に位置決めされるがカム表面８に接触せず、係止パレット４１がその係止面４１ｒ上でガンギ車の歯３に寄り掛かるように、ガンギ車２及び調速機５に対して配置される。したがって、衝突が生じた場合に、前述の端部４２１は、前述のカム表面８１と接触して、戻しレバー４２の回転を防ぎ、したがって係止パレット４１のいかなる係止解除をも防ぐ。そのような係止解除は、係止解除アーム４４１の歯４４２への係止解除パレット６１の押付けと同時にカム従動子４２１がカム溝８２内に落ちる、係止解除位置においてのみ認められる。このノッチ内へのカム従動子４２１の降下は、アーム４４１が受ける推力の下で回転する回転レバー４２を解放して、係止パレット４を解放する。ガンギ車２は、回転し、且つ、インパルスパレット９上のインパルスストリップ３２を介して調速機５にインパルスを与える。ガンギ車２のインパルス下での調速機５の回転中、カム従動子４２１は、カム表面８１によって押し戻され、調速機は、その自由循環を開始し、それにより、戻しレバー４２は、時計方向に回転されて、係止パレット４１をガンギ車の経路Ｃに戻し、したがって、係止フェーズに必要な止めが提供され、また、引張り力の影響下で、戻しレバー４２が保持止め具７に押し付けられる。

【0062】

したがって、係止解除フェーズ及び係止フェーズは、調速機５の高振動数のときでさえも、衝撃が生じた場合及び拍動外での意図的でない解放の危険性を少しも伴わずに、制御カム８によって容易に制御され且つ確保される。

【0063】

図１１から１３は、脱進機構１を、代替的な係止解除及び安全機構を含むその第２の実施例で示す。この実施例では、制御カム８は、カム・ノッチ８２が凹設されるカム表面８１を形成する円形の内壁又はリムを含むリングによって形成される。示された実例では、リング８は、軸Ｘ２に対して同心の円から形成され、且つ、上部インパルス板９１への接着又は他の付着手段により調速機５に取り付けられ得る。リング８はまた、インパルス板９１とともに一かたまりの材料で作られてもよい。次いで、係止解除パレット６は、調速機５に固定される指又はフィーラ６１によって形成され、この指又はフィーラ６１の自由端は、リングのノッチ８２に位置合わせされ且つノッチ８２内に部分的に入り込む。

【0064】

カム従動子４２１は、係止解除レバー４４１の自由端に打ち込まれ且つ前述のリング８内に延在する、ピンなどから構成される。

【0065】

したがって、図１３に示されるように、また、図８から１０を参照して先に定められた動作原理によれば、カム従動子４２１は、前述の係止解除位置では係止解除パレット６１の働きの下で前述のカム・ノッチ８２内に落ち、係止位置ではノッチ８２からリングの内側カム表面８１の反対側に押し出される。

【0066】

示されていない別の実施例では、カム・リング８はまた、その中にカム従動子ピン４２１が収められる上部インパルス板９１上の円形の溝によって形成されてもよく、前述の溝は、前述のカム・ノッチを有し、係止解除パレット６は、調速機５の回転軸Ｘ２に関してカム・ノッチと径方向に位置合わせされたピンによって形成される。

【0067】

最後に、図１から７の実施例におけるように、図８から１３の第２の実施例における脱進機構１もまた、自己始動可能である。特に図１３から分かるように、戻しレバー４２は、係止解除位置では、したがって脱進機の死点の直前では、係止パレット４１がガンギ車２の歯３の外接円Ｃから離れていき、それと同時にインパルスパレット９の端部が前述の外接円Ｃと交わり、したがってガンギ車２の回転軸から半径Ｒよりも小さい距離に置かれるように、調速機５及びガンギ車２に関して配置される。

【0068】

この構成によれば、脱進機１の死点において、インパルスパレット９のインパルス面９ｐは、ガンギ車の歯３の経路Ｃに置かれ、一方で、係止パレット４１は、この経路の外側に置かれる。また、ガンギ車２の回転は、インパルスパレット９のインパルス面９ｐのバー３２による係合と、調速機５のその軸の周りでの回転における駆動と、本発明による脱進機構１の駆動とを必然的に伴う。

【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】

【図13】