(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-29
(45)【発行日】2024-02-06
(54)【発明の名称】抗体による癌治療
(51)【国際特許分類】
A61K 39/395 20060101AFI20240130BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20240130BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240130BHJP
C12P 21/08 20060101ALN20240130BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20240130BHJP
C07K 16/18 20060101ALN20240130BHJP
【FI】
A61K39/395 N ZNA
A61K39/395 D
A61K39/395 Y
A61K45/00
A61P35/00
A61K39/395 T
C12P21/08
C12N15/13
C07K16/18
(21)【出願番号】P 2021506746
(86)(22)【出願日】2019-08-12
(86)【国際出願番号】 EP2019071627
(87)【国際公開番号】W WO2020030827
(87)【国際公開日】2020-02-13
【審査請求日】2022-08-09
(32)【優先日】2018-08-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】519288939
【氏名又は名称】メダネックス エルティーディー.
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】ウッド、クリストファー バリー
(72)【発明者】
【氏名】フラタウ、ティナ シー.
(72)【発明者】
【氏名】デンプシー、フィオナ
(72)【発明者】
【氏名】クライトン、スコット
【審査官】松浦 安紀子
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-534914(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0086553(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 16/18
A61K 39/395
A61K 45/00
A61P 35/00
C12P 21/08
C12N 15/13
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトAnx-A1に結合する
抗体又はその抗原結合断片を含む、対象における癌の治療に使用するための医薬組成物であって、
(i)前記
抗体又はその抗原結合断片は、相補性決定領域(CDR)VLCDR1、VLCDR2、VLCDR3、VHCDR1、VHCDR2、およびVHCDR3を含み、
VLCDR1は、配列番号1、配列番号7
もしくは配列番号8に示す配列、
またはその配列内の9位および/または11位における保存的アミノ酸置換を含む改変型配列を有し、
VLCDR2は、配列番号2に示す配列を有し、
VLCDR3は、配列番号3に示す配列を有し、
VHCDR1は、配列番号4に示す配列を有し、
VHCDR2は、配列番号5に示す配列を有し、
VHCDR3は、配列番号6に示す配列を有
し、
および
(ii)
前記ヒトAnx-A1に結合する抗体は、
(
a)配列番号13もしくは15に示すアミノ酸配列、または、これらのアミノ酸配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖と、
(b)配列番号14または16に示すアミノ酸配列、または、これらのアミノ酸配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖とを含む、
医薬組成物。
【請求項2】
VLCDR1は、配列番号1に示す配列を有し、
VLCDR2は、配列番号2に示す配列を有し、
VLCDR3は、配列番号3に示す配列を有し、
VHCDR1は、配列番号4に示す配列を有し、
VHCDR2は、配列番号5に示す配列を有し、
VHCDR3は、配列番号6に示す配列を有する、請求項
1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
VLCDR1は、配列番号8に示す配列を有し、
VLCDR2は、配列番号2に示す配列を有し、
VLCDR3は、配列番号3に示す配列を有し、
VHCDR1は、配列番号4に示す配列を有し、
VHCDR2は、配列番号5に示す配列を有し、
VHCDR3は、配列番号6に示す配列を有する、請求項
1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
(i)前記抗体またはその
抗原結合断片は、ヒト化されているか、または、
(ii)前記抗体がモノクローナル抗体であるか、あるいは前記
抗原結合断片が、Fab
抗原結合断片、Fab'
抗原結合断片、もしくはF(ab')
2
抗原結合断片、またはscFv分子である、
請求項
1から3のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記抗体またはその
抗原結合断片は、
(i)配列番号9または配列番号10に示すアミノ酸配列、あるいは、これらのアミノ酸配列に対して少なくとも70%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、軽鎖可変領域と、
(ii)配列番号11または配列番号12に示すアミノ酸配列、あるいは、これらのアミノ酸配列に対して少なくとも70%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、重鎖可変領域と、を含む、請求項
4に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記癌はAnx-A1を発現する、請求項1~
5のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
Anx-A1は、前記癌の細胞の表面に発現する、請求項
6に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記癌は1つ以上の化学療法剤に対して耐性がある、請求項1~
7のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記癌は、
(i)多剤耐性であるか、
(ii)白金系化学療法剤に対して耐性があるか、または、
(iii)シスプラチン、アドリアマイシン、および/または、タモキシフェンに対して耐性がある、
請求項
8に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記治療はさらに、前記対象に対して第2の治療薬を投与することを含む、請求項1~
9のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項11】
前記第2の治療薬は化学療法剤である、請求項
10に記載の医薬組成物。
【請求項12】
前記化学療法剤は、細胞障害性薬剤である、請求項
11に記載の医薬組成物。
【請求項13】
前記対象はヒトである、請求項1~
12のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項14】
前記癌は、乳癌、大腸癌、卵巣癌、肺癌、および膵臓癌から選択される、請求項1~
13のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項15】
対象における癌の治療のための薬剤の製造における
抗体又はその抗原結合断片の使用であって、前記
抗体又はその抗原結合断片は、請求項1~
5のいずれか一項で定義されるものである、使用。
【請求項16】
前記癌
は、請求項
6~
9および14のいずれか一項で定義されるものであ
り、前記治療は、請求項10~12のいずれか一項で定義されるものであり、ならびに/または前記対象は、請求項13で定義されるものである、請求項
15に記載の使用。
【請求項17】
請求項1~
5のいずれか一項
に記載の医薬組成物と、化学療法剤とを含むキット。
【請求項18】
請求項1~
5のいずれか一項
に記載の医薬組成物と、対象における癌の治療において、別々に、同時にもしくは逐次的に使用するための、第2の治療薬とを含む製品。
【請求項19】
前記癌
は、請求項
6~
9および14のいずれか一項で定義されるものであ
り、前記第2の治療薬は、請求項11または12で定義されるものであり、ならびに/または前記対象は、請求項13で定義されるものである、請求項
18に記載
の製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象(subject)における癌の治療に使用するための特異的結合分子を提供する。前記特異的結合分子は、ヒトアネキシンA1(Anx-A1)に結合し、特定の実施形態においては、前記特異的結合分子は抗体または抗体断片である。
【0002】
癌とは、異常な細胞増殖を特徴とする疾患の一群である。癌に関連する異常な細胞増殖の結果、腫瘍(異常な細胞増殖のために形成された細胞の固形の塊)が形成されるのが特徴であるが、必ずしもそうとは限らない(特に血液の癌の場合)。2010年(詳細な統計がある直近の年)、全世界で死亡者数の多い単独の原因としては、癌が死亡者数最多となった(約800万人が死亡)(Lozano et al., Lancet 380: 2095-2128, 2012)。さらに、全世界の人口の老化に伴い、癌の率が増加すると見込まれている。したがって、新たな、改良された癌治療が緊急の課題となっている。
そのうえ、癌による死亡の多くは、化学療法薬に耐性のできた癌によるものである。癌が薬剤耐性を獲得するしくみについては、ハウスマン(Housman)ら(Cancers 6: 1769-1792, 2014)において考察されている。そこに詳細に記載されているように、癌は、薬剤の不活性化や代謝(または代謝活性化の防止)、薬剤の標的の変異や改変、ABCトランスポータを介した薬剤排出など、様々なメカニズムにより薬剤耐性を獲得しうる。かかるメカニズムによって、癌は多剤耐性(MDR)となりうる。下記に論じられているように、薬剤耐性は、白金系化学療法剤による治療にとって特に問題である。
【0003】
白金系化学療法剤は、精巣癌、卵巣癌、大腸癌、子宮頸癌、乳癌、膀胱癌、頭頚部癌、食道癌、肺癌、中皮腫、リンパ腫、脳腫瘍、神経芽細胞腫など、様々な癌において一般的な第一選択治療の選択肢である。白金系化学療法剤には、シスプラチン、オキサリプラチン、カルボプラチンなどがある。白金系化学療法剤はどれも、本質的には同じように働き、グアニン残基のN-7位と反応してDNA鎖間クロスリンクやDNA鎖内クロスリンク、DNAタンパク質クロスリンクを形成する。クロスリンクはDNAの合成および/または修復を阻害し、アポトーシスを開始させる(シェン(Shen)ら, Pharmacol. Rev. 64: 706-721, 2012)。しかしながら、患者は、一般的に白金系化学療法に対して初期の反応はよいが、治療への耐性が発達するために大半は病気をぶり返し(特にシスプラチンの場合)、その結果治療は失敗する(シェン(Shen)ら、上記参照)。このように、白金系療法への耐性の発達は、今日の腫瘍学において重大な課題である。癌は、標的細胞における白金系化学療法剤の蓄積の減少(取り込みの削減および/または排出の増加により)、DNA修復経路の(再)活性化など、数々のメカニズムを介して白金系療法への耐性を発達させる。
【0004】
このように、白金系療法への耐性の発達は、今日の腫瘍学において重大な課題である。従来の化学療法(特に白金系化学療法)に対してもともと耐性がある、または耐性を獲得した癌に対する新たな治療の選択肢が、至急必要である。
【0005】
本発明者らは、Anx-A1に対する特定の特異的結合分子(例えば抗体)が、癌治療に効果的であることを見出した。前記分子は、白金系化学療法に耐性のある癌など、薬剤に耐性のある癌の治療に特に効果があるとわかった。本発明は、したがって、癌患者、特に化学療法剤に耐性のある癌の患者に新たな治療の選択肢を提供する。従来の化学療法が効かない病を患う個人のために新たな治療が至急求められているが、かかる治療の選択肢は、この要求に応えるものである。
【0006】
本発明の特異的結合分子は、乳癌、大腸癌、卵巣癌、肺癌、膵臓癌など、多種多様な癌の治療に効果的であることがわかった。
【0007】
乳癌は、女性に最も多い癌であり、どの癌よりも、世界中で女性に死をもたらす癌である(ベッカー(Becker), Int J Gynaecol Obstet 131 (2015), S36-S39)。イギリスでは、毎年5万5千人が乳癌と診断されている(男性における乳癌は300を超える)。乳癌の死亡率は他の多くの癌の死亡率よりも低いが、イギリスでは毎年1万1千人以上の死亡が乳癌に起因するものである。エストロゲン受容体、プロゲステロン受容体およびホルモン上皮成長因子受容体HER2の発現の無い乳癌(トリプルネガティブ乳癌として知られている)は、とりわけ治療が困難である。現代の乳癌治療薬の多くはこれらの受容体を標的にしているからである。本発明の特異的結合分子は、トリプルネガティブ乳癌などの乳癌の治療に効果的であることがわかり、この疾患に対する重要かつ新たな治療の選択肢を提供する。
【0008】
卵巣癌は、女性に多いもう一つの癌であり、治療が困難である。イギリス一国だけでも、毎年7千5百を超える卵巣癌の罹患があり、4千人以上が亡くなっている(卵巣癌は末期になって診断されることが多く、その結果このような比較的低い生存率になる)。膵臓癌は比較的一般的であり、イギリス一国だけで毎年9千人が罹患するが、最も治療不能の癌の一つであるとして知られており、生存率は1%未満である(これも、末期に診断される疾患であることが主な理由である)。本発明の特異的結合分子は、これらの癌の双方の治療に効果的であることがわかり、治療の困難な癌にとって非常に必要である新たな治療法を提供する。大腸癌(または腸癌)もまた、イギリスで毎年4万2千人が罹患を診断される一般的な癌である。イギリスでは4番目に多い癌であるにもかかわらず、死に至ることが2番目に多い癌である。同様に、肺癌はイギリスで毎年4万7千人に診断されているが、診断後10年以上生存するのはわずか5%である。本発明の特異的結合分子は、これら癌に対する有用かつ新たな治療法を提供する。
【0009】
全長ヒトAnx-A1のアミノ酸配列は、配列番号17に示すものである。Anx-A1は、アネキシンタンパク質ファミリーのメンバーである。Anx-A1を含むこのファミリーのタンパク質のほとんどは、4つの相同の繰り返しドメインを含む「コア」領域の存在に特徴づけられる。各繰り返しドメインは、少なくとも1つのCa2+結合部位を含む。前記ファミリーの各メンバーは、特有のN末端領域によって見分けられる。Anx-A1は、単量体両親媒性タンパク質であり、主に細胞の細胞質に存在し、そこで発現する。ただし、Anx-A1は、排出されて細胞表面に局在化することもありうる(ダキスト(D'Acquisto)ら, Br. J. Pharmacol. 155: 152-169, 2008)。
【0010】
Anx-A1は、免疫系の調節の一端を担うことが知られている。自然免疫系および適応免疫系のいずれにおいても、様々な細胞種の恒常性の維持に関与している。例えば、Anx-A1は、好中球およびマクロファージなどの自然免疫系の細胞に対して恒常性を維持するための調節を行い、また、T細胞受容体(TCR)シグナリングの強度を調節することで、T細胞においても役割を果たすということが示されてきている(ダキスト(D'Acquisto)ら,ブラッド(Blood)109:1095~1102,2007)。Anx-A1に対する中和抗体を使用することにより、適応免疫系におけるAnx-A1の役割を阻害することが、慢性関節リュウマチや多発性硬化症などの自己免疫疾患を含む様々なT細胞媒介疾患の治療に効果的であることが示されている(WO2010/064012、WO2011/154705)。
Anx-A1に対する抗体が、ある精神状態、特に不安、強迫性障害(OCD)や関連する疾患の治療に有用であることも示されている(WO2013/088111)が、そうなるメカニズムはわかっていない。
WO2005/027965は、Anx-A1がアポトーシス細胞の表面に局在し、抗Anx-A1抗体がアポトーシスを監視するために使用できることを示している。前記文献は、これに基づき、癌の監視および診断にかかる抗体が使用できることを教示している。前記文献はまた、アポトーシス細胞表面におけるAnx-A1の発現が、当該細胞に対する免疫応答を阻害することも教示している。これに基づき、前記文献はまた、アポトーシスが始まった細胞へのAnx-A1の免疫抑制効果をブロックして癌に対する免疫応答を刺激することにより、Anx-A1に結合する抗体が癌治療に使用できると推測している。
【0011】
オー(Oh)ら(Nature 429: 629-635, 2004)は、Anx-A1がある固形腫瘍に発現し、放射免疫療法をその癌に向けて行う際に標的として使用できることを教示し、また、かかる療法が疾患の動物モデルの生存を向上することを示している。US2015/0086553は、抗Anx-A1抗体が癌治療や診断に使用されうることを示唆しているが、かかる治療がどのようになされるのかは教示していない。胃癌細胞株SNU-1へ抗Anx-A1 scFvを結合させることが示されている。ワング(Wang)ら(Biochem. BioPhys. Res. Commun.314: 565-570, 2004)は、癌におけるAnx-A1の発現と多剤耐性との相関を示している。このように、癌を含むいくつかの疾患がAnx-A1の発現との関連を呈することが示されている。しかし、抗Anx-A1抗体が、併用治療せずに使用される場合特に、癌治療のために使用できることは、本発明以前に実証されていなかった。
【0012】
確かに、ヒトAnx-A1に結合する特異的結合分子すべてから、癌治療における効果が得られるとはかぎらないことを、本発明は実証している。本発明は、ヒトAnx-A1に結合し、癌治療のために、特に、化学療法薬に耐性のある癌、および/または乳癌、大腸癌、卵巣癌、肺癌、および膵臓癌の治療のために有利に使用されうる、特定の特異的結合分子を提供する。なぜ本発明の特異的結合分子が癌治療に効果があって、同様にヒトAnx-A1に結合する他の特異的結合分子がそうでないのかは、不明である。論理的な裏付けはないが、ヒトAnx-A1に結合する特異的結合分子の活性は、認識されたエピトープに依存するのかもしれないと推測される。
【0013】
ヒトAnx-A1を認識する多数のモノクローナル抗体が、WO2018/146230に開示されている。WO2018/146230に開示されている抗体は、ヒトAnx-A1に非常に高い親和性で結合するという点で、特に有利な特性を有する。WO2018/146230に開示された抗体が以下に記載されるように癌治療に有用であることは、本発明者らによって今回見出されていた。
【0014】
したがって本発明は、第一の態様において、対象における癌の治療に使用するための、ヒトAnx-A1に結合する特異的結合分子を提供し、
(i)前記特異的結合分子は、相補性決定領域(CDR)VLCDR1、VLCDR2、VLCDR3、VHCDR1、VHCDR2、およびVHCDR3を含み、前記CDRそれぞれは以下のアミノ酸配列を有する。すなわち、
VLCDR1は、配列番号1、配列番号7または配列番号8に示す配列を有し、
VLCDR2は、配列番号2に示す配列を有し、
VLCDR3は、配列番号3に示す配列を有し、
VHCDR1は、配列番号4に示す配列を有し、
VHCDR2は、配列番号5に示す配列を有し、
VHCDR3は、配列番号6に示す配列を有するか、あるいは各配列において、その配列に対する配列同一性が少なくとも85%であるアミノ酸配列であり、および/または
(ii)前記特異的結合分子は、配列番号17の197~206位、220~224位、および227~237位のアミノ酸からなる不連続エピトープでAnx-A1に結合する。
【0015】
同様に、本発明は、対象における癌を治療する方法を提供し、前記方法は、上記で定義されるような特異的結合分子を前記対象に投与することを含む。また、本発明は、対象における癌の治療用の薬品の製造での、上記で定義されるような特異的結合分子の使用を提供する。
【0016】
本発明は第二の態様において、上記で定義されるような特異的結合分子と化学療法剤とを含むキットを提供する。
【0017】
本発明は第三の態様において、上記で定義されるような特異的結合分子と、対象における癌の治療に別々に、同時にもしくは逐次的に使用するための第2の治療薬とを含む製品を提供する。
【0018】
上記のように、本発明は、対象における癌の治療に使用するための、ヒトAnx-A1に結合する特異的結合分子を提供する。本明細書で定義されるような「特異的結合分子」とは、特定の分子パートナー(この場合は、ヒトAnx-A1)に特異的に結合する分子である。ヒトAnx-A1に特異的に結合する分子とは、他の分子に対する結合親和性、すなわち、少なくとも他のほとんどの分子に対する結合親和性よりも高い親和性で、ヒトAnx-A1に結合する分子である。したがって、例えば、ヒトAnx-A1に結合する特異的結合分子がヒト細胞の溶解産物と接触した場合には、特異的結合分子は、主にAnx-A1に結合する。特に、特異的結合分子は、ヒトAnx-A1に存在する配列または立体配置(configuration)に結合する。特異的結合分子が抗体である場合、前記配列または立体配置は、特異的結合分子が結合するエピトープである。本発明に係る使用のための特異的結合分子が結合するAnx-A1エピトープは、以下に記載される。
【0019】
本明細書に記載の使用のための特異的結合分子は、必ずしも、ヒトAnx-A1にのみ結合するものでなくてもよく、特異的結合分子は、ある不明確な他の標的分子と交差反応してもよいし、多数の分子の混合物(例えば、細胞溶解産物など)と接触した場合に、ある程度の非特異的な結合を呈してもよい。例えば、特異的結合分子は、ヒトアネキシンファミリーの他のメンバーと、および/または他の動物からのAnx-A1たんぱく質と、ある程度の交差反応性を呈してもよい。いずれにせよ、本発明に係る使用のための特異的結合分子は、Anx-A1に対して特異性を示す。当業者であれば、ELISA、ウエスタンブロット、表面プラズモン共鳴(SPR)などの当該技術分野における標準的な方法を用いて、特異的結合分子がAnx-A1に対して特異性を示すかどうかを容易に特定することができるであろう。特定の実施形態において、本明細書に記載の使用のための特異的結合分子は、20nM未満、15nM未満、または10nM未満のKD(解離定数)で、ヒトAnx-A1に結合する。好適な実施形態において、本明細書に記載の使用のための特異的結合分子は、5nM未満のKDで、ヒトAnx-A1に結合する。
【0020】
特異的結合分子のAnx-A1へのKDは、好適には、Ca2+イオンが少なくとも1mMの濃度で存在し、場合によってはHEPESが10~20mMの濃度で存在し、pHが7~8、好適には生理学的レベルである7.2以上7.5以下である条件下で測定される。NaClは、例えば100~250mMの濃度で存在していてもよく、低濃度の界面活性剤(例えば、ポリソルベート20)が存在していてもよい。かかる低濃度は、例えば、0.01~0.5%v/vであればよい。特異的結合分子とそのリガンドとの間の相互作用のKDを算出し得る方法として、多くの方法が当該技術分野において周知されている。公知の技術としては、SPR(例えば、ビアコア)や、分極変調斜め入射反射率差(OI-RD)などが挙げられる。
【0021】
上述したように、「ヒトAnx-A1に結合する」分子は、ヒトAnx-A1分子に対する特異性を示す。4つの選択的にスプライスされたAnx-A1 mRNAsを翻訳して得られたヒトAnx-A1のアイソフォームは3つある。全長ヒトAnx-A1タンパク質は、ANXA1-002転写産物またはANXA1-003転写産物の翻訳から得られ、上記のように、そのアミノ酸配列は配列番号17に示すものである。ANXA1-004転写産物およびANXA1-006転写産物は全長ヒトAnx-A1タンパク質の断片をコードし、そのアミノ酸配列は、それぞれ配列番号18、19に示すものである。
本発明に係る使用のための特異的結合分子は、全長ヒトAnx-A1(すなわち、ANXA1-002転写産物またはANXA1-003転写産物がコードする、346個のアミノ酸のタンパク質である、配列番号17のAnx-A1)に結合する。特異的結合分子は、ANXA1-004転写産物またはANXA1-006転写産物がコードする断片のような、全長Anx-A1の特定の断片、部分、または変異体(variant)に結合してもよい。
【0022】
後述するように、抗体(およびCDRを含む分子)は、本発明に係る使用のための好適な特異的結合分子を形成する。
【0023】
上述のように、ヒトAnx-A1を認識する多数のモノクローナル抗体が、WO2018/146230に開示されている。当業者には公知であるように、抗体は、2本の重鎖および2本の軽鎖という4本のポリペプチド鎖を含むタンパク質である。典型的には、重鎖は互いに同一であり、軽鎖は互いに同一である。軽鎖は、重鎖よりも短い(したがって、軽量である)。重鎖は、4つまたは5つのドメインを含む。すなわち、可変(VH)ドメインがN末端に位置し、それに3つまたは4つの定常ドメイン(N末端からC末端に向かって、それぞれ、CH1、CH2、CH3、および、存在する場合には、CH4)が続く。軽鎖は、2つのドメインを含む。すなわち、可変(VL)ドメインがN末端に位置し、定常(CL)ドメインがC末端に位置する。重鎖においては、不定形のヒンジ領域が、CH1ドメインとCH2ドメインとの間に位置している。抗体の2本の重鎖は、ヒンジ領域に存在するシステイン残基間に形成されるジスルフィド結合によって結合されており、各重鎖は、それぞれCH1ドメインおよびCLドメインに存在するシステイン残基間のジスルフィド結合によって、一本の軽鎖と結合されている。
【0024】
哺乳動物では、ラムダ(λ)およびカッパ(κ)として知られる、2種類の軽鎖が産生される。カッパ軽鎖においては、可変ドメインおよび定常ドメインは、それぞれVKドメインおよびCKドメインと称することができる。軽鎖がλ軽鎖とκ軽鎖のどちらであるかということは、その定常領域によって決定される。すなわち、λ軽鎖の定常領域とκ軽鎖の定常領域とは異なるものであるが、既定の種においては、同種の軽鎖の定常領域はすべて同じである。
【0025】
ある種における既定のアイソタイプの抗体では、重鎖の定常領域はすべて同じであるが、アイソタイプ間では異なっている(抗体のアイソタイプの例は、IgG、IgE、IgM、IgA、およびIgDといったクラスである;また、多くの抗体サブタイプが存在し、例えば、IgG抗体では、IgG1、IgG2、IgG3、およびIgG4という4つのサブタイプが存在する)。抗体の特異性は、その可変領域の配列によって決定される。可変領域の配列は、どの個体においても、同種の抗体間で異なっている。特に、抗体の軽鎖および重鎖のいずれも、超可変性の相補性決定領域(CDR)を3つ有している。軽鎖および重鎖の対において、この2本の鎖のCDRは、抗原結合部位を形成する。CDR配列が、抗体の特異性を決定する。
【0026】
重鎖の3つのCDRは、N末端からC末端に向けて、VHCDR1、VHCDR2、およびVHCDR3として知られており、軽鎖の3つのCDRは、N末端からC末端に向けて、VLCDR1、VLCDR2、およびVLCDR3として知られている。
WO2018/146230に開示されている1つの抗体は、下記のCDR配列を有する。
VLCDR1:RSSQSLENSNAKTYLN (配列番号1)、
VLCDR2:GVSNRFS (配列番号2)、
VLCDR3:LQVTHVPYT (配列番号3)、
VHCDR1:GYTFTNYWIG (配列番号4)、
VHCDR2:DIYPGGDYTNYNEKFKG (配列番号5)、および
VHCDR3:ARWGLGYYFDY (配列番号6)。
WO2018/146230に開示されている別の抗体は、下記のCDR配列を有する。
VLCDR1:RSSQSLENSNAKTYLN (配列番号7)、
VLCDR2:GVSNRFS (配列番号2)、
VLCDR3:LQVTHVPYT (配列番号3)、
VHCDR1:GYTFTNYWIG (配列番号4)、
VHCDR2:DIYPGGDYTNYNEKFKG (配列番号5)、および
VHCDR3:ARWGLGYYFDY (配列番号6)。
WO2018/146230に開示されている別の抗体は、下記のCDR配列を有する。
VLCDR1:RSSQSLENSNAKTYLN (配列番号8)、
VLCDR2:GVSNRFS (配列番号2)、
VLCDR3:LQVTHVPYT (配列番号3)、
VHCDR1:GYTFTNYWIG (配列番号4)、
VHCDR2:DIYPGGDYTNYNEKFKG (配列番号5)、および
VHCDR3:ARWGLGYYFDY (配列番号6)。
【0027】
このように、WO2018/146230に開示されている抗体のCDR配列は、VLCDR1配列以外は、同じである。配列番号7のVLCDR1配列は、野生型VLCDR1配列であり、寄託番号10060301として欧州細胞培養コレクション(ECACC)に寄託されたハイブリドーマから得られたマイナーなmRNA配列から構築されたマウス抗体Mdx001の中に見出だされた。Mdx001抗体をヒト化したものを作製したが、驚くべきことに、これらヒト化された抗体中のVLCDR1配列を改変することによって、強化された抗体が得られることが見出された。配列番号7の11位のグリシン残基を置換すると、抗体の安定性および機能が向上する。論理的な裏付けはないが、CDRの翻訳後修飾の部位を除去することにより、このことが得られたと考えられる。具体的には、このグリシン残基を置換することによって、タンパク質から脱アミド化部位が除去されると考えられる。配列番号7に示すVHCDR1配列は、配列モチーフSer-Asn-Glyを含む。この配列は、Asn残基の脱アミド化に関連し、アスパラギン残基をアスパラギン酸またはイソアスパラギン酸に変換するものであり、これは抗体の安定性と標的への結合に影響を与えうる。Ser-Asn-Glyモチーフ内の残基のいずれかを置換することにより、脱アミド化部位が除去されると考えられる。
【0028】
本発明者らは、配列番号7の11位のグリシン残基(上述した脱アミド化部位内に位置するグリシン残基である)がアラニンに置換され、標的(Anx-A1)への結合が、その天然型のMdx001抗体と比較して向上している抗体を同定した。11位のグリシンがアラニンに置換されたVLCDR1のアミノ酸配列は、RSSQSLENSNAKTYLNであり(太字で示す残基は、上記の置換によって導入されたアラニンである)、これは配列番号1に示された配列である。さらに、セリンのスレオニンへの置換によって9位が改変されたVLCDR1を含むヒト化抗体もまた、Mdx001と比較して、Anx-A1への結合が向上していることが見出された。9位のセリンがスレオニンに置換されたVLCDR1のアミノ酸配列は、RSSQSLENTNGKTYLNであり(太字で示す残基は、上記の置換によって導入されたスレオニンである)、これは配列番号8に示された配列である。上記のように、WO2018/146230に開示されている抗体が癌治療での使用に適していることを、本発明者らは見出した。
【0029】
WO2018/146230に開示されている抗体は、ヒトAnx-A1でマウスを遺伝子免疫することにより作られ、これはマウスの免疫系が、本来の構造をとっている、全長の改変の無いヒトAnx-A1に曝露されたことを意味する。実施例に詳述されているように、水素重水素交換(HDX)によってWO2018/146230の抗体を分析すると、抗体は、ヒトAnx-A1の197~206位、220~224位、および227~237位のアミノ酸(すなわち、配列番号17の197~206位、220~224位、および227~237位のアミノ酸)からなる不連続エピトープで、ヒトAnx-A1に結合することが示された。
【0030】
とりわけ、WO2018/146230の抗体は、生理的濃度のCa2+の存在下でのみAnx-A1に結合する。論理的な裏付けはないが、これはAnx-A1分子上のエピトープの位置の結果であると考えられる。Ca2+非存在下であれば、そのN末端は、この不連続エピトープに隣接して存在する「ポケット」内に入る。Ca2+をAnx-A1に結合すると(これは生理的濃度のCa2+の存在下で起こる)、Anx-A1の構造を変化させ、コアドメインのそのポケットからN末端を露出させ、これによってエピトープを露出させて抗体を結合させると考えられる。Anx-A1のこのエピトープに結合する抗体(または、同様の特異的結合分子)はいずれも、本明細書に記載の方法および使用に用いてもよい。
【0031】
本発明に係る使用のための特異的結合分子は、WO2018/146230に開示されている前記3つの抗体のいずれかのCDR配列、またはその変異体を含んでいてもよい。または/さらに、本発明に係る使用のための特異的結合分子は、WO2018/146230の抗体と同じエピトープでAnx-A1に結合してもよい。したがって、本発明に係る使用のための特異的結合分子は、
(i)相補性決定領域(CDR)VLCDR1、VLCDR2、VLCDR3、VHCDR1、VHCDR2、およびVHCDR3を含み、前記CDRそれぞれは以下のアミノ酸配列を有する。すなわち、
VLCDR1は、配列番号1、配列番号7または配列番号8に示す配列を有し、
VLCDR2は、配列番号2に示す配列を有し、
VLCDR3は、配列番号3に示す配列を有し、
VHCDR1は、配列番号4に示す配列を有し、
VHCDR2は、配列番号5に示す配列を有し、
VHCDR3は、配列番号6に示す配列を有するか、または、各配列において、その配列に対する配列同一性が少なくとも85%、少なくとも90%、または少なくとも95%である、アミノ酸配列であるか、および/または
(ii)配列番号17の197~206位、220~224位、および227~237位のアミノ酸からなる不連続エピトープでヒトAnx-A1に結合する。
【0032】
好適な態様において、前記(i)の特異的結合分子は、(ii)に記載されたようなエピトープに結合する。
【0033】
「または、各配列において、配列同一性が少なくとも85%、少なくとも90%、または少なくとも95%である、アミノ酸配列」とは、CDRのそれぞれのアミノ酸配列が、当該配列番号で規定されるものであるか、またはそれに対する配列同一性が少なくとも85%、少なくとも90%、または少なくとも95%である、アミノ酸配列であるということを意味する。したがって、VLCDR1は、配列番号1、配列番号7、または配列番号8に示す配列を有するか、あるいは配列番号1、配列番号7、または配列番号8に対する配列同一性が少なくとも85%、少なくとも90%、または少なくとも95%であるアミノ酸配列であり、VLCDR2は、配列番号2に示す配列を有するか、あるいは配列番号2に対する配列同一性が少なくとも85%、少なくとも90%、または少なくとも95%であるアミノ酸配列であり、VLCDR3は、配列番号3に示す配列を有するか、あるいは配列番号3に対する配列同一性が少なくとも85%、少なくとも90%、または少なくとも95%であるアミノ酸配列であり、VHCDR1は、配列番号4に示す配列を有するか、あるいは配列番号4に対する配列同一性が少なくとも85%、少なくとも90%、または少なくとも95%であるアミノ酸配列であり、VHCDR2は、配列番号5に示す配列を有するか、あるいは配列番号5に対する配列同一性が少なくとも85%、少なくとも90%、または少なくとも95%であるアミノ酸配列であり、VHCDR3は、配列番号6に示す配列を有するか、あるいは配列番号6に対する配列同一性が少なくとも85%、少なくとも90%、または少なくとも95%であるアミノ酸配列である。特定の配列番号に対する配列同一性が少なくとも85%、少なくとも90%、または少なくとも95%(ただし配列同一性が100%未満)であるアミノ酸配列は、本明細書では当該配列番号の変異体として記載される。例えば、配列番号1に対する配列同一性が少なくとも85%であるが、配列番号1に対する配列同一性が100%未満であるアミノ酸配列は、配列番号1の変異体である。
【0034】
特定の実施形態において、本発明に係る使用のための特異的結合分子は、下記のアミノ酸配列を有するCDRを含む。すなわち、
VLCDR1は、配列番号1に示す配列を有し、
VLCDR2は、配列番号2に示す配列を有し、
VLCDR3は、配列番号3に示す配列を有し、
VHCDR1は、配列番号4に示す配列を有し、
VHCDR2は、配列番号5に示す配列を有し、
VHCDR3は、配列番号6に示す配列を有する。
【0035】
上記のように、本発明に係る使用のための特異的結合分子は、ポリペプチド配列からなる6つのCDRを含んでもよい。本明細書において、「タンパク質」および「ポリペプチド」は交換可能であり、どちらも、1つ以上のペプチド結合で結合された2つ以上のアミノ酸からなる配列のことをいう。したがって、特異的結合分子は、ポリペプチドであってもよい。あるいは、特異的結合分子は、CDR配列を含むポリペプチドを、1つ以上含んでいてもよい。好ましくは、本発明に係る使用のための特異的結合分子は、抗体または抗体断片である。
【0036】
本発明に係る使用のための特異的結合分子は、当該技術分野で公知のいずれの方法によって合成されてもよい。特に、特異的結合分子は、原核細胞(例えば、細菌細胞)または真核細胞(例えば、酵母細胞、真菌細胞、昆虫細胞、または哺乳類細胞)を用いる細胞発現系などのタンパク質発現系を用いて合成されてもよい。別のタンパク質発現系としては、インビトロにおける無細胞発現系が挙げられ、この系では、インビトロにおいて、特異的結合分子をコードする塩基配列がmRNAに転写され、このmRNAがタンパク質に翻訳される。無細胞発現系のキットは、広く入手可能であり、例えばサーモフィッシャー・サイエンティフィック社(ThermoFisher Scientific)(米国)から購入することができる。あるいは、特異的結合分子は、非生物系において化学合成されてもよい。本発明に係る使用のための特異的結合分子を形成し得る、またはそれに含有され得るポリペプチドを作製するために、液相合成を用いてもよいし、固相合成を用いてもよい。当業者であれば、当該技術分野において一般的な手法のうち適切なものを用いて、特異的結合分子を容易に産生することができる。特に、特異的結合分子は、CHO細胞などの哺乳類細胞において、組み換え技術によって発現されてもよい。
【0037】
上記で定義されるようなエピトープでヒトAnx-A1に結合する(すなわち、配列番号17の197~206位、220~224位、および227~237位のアミノ酸からなる)特異的結合分子は、当該技術分野における標準的な手法(例えば、抗体の遺伝子免疫など)で作られてもよく、必要なエピトープを有する抗体は、当該技術分野で公知のエピトープマッピングの標準的な手法により同定されてもよい。かかる手法の例としては、HDX、エピトープ切除、ペプチドパニング、X線共結晶解析、NMRなどがある(Clementi et al., Methods Mol. Biol. 1131: 427-446, 2014; Abbott et al., Immunology 142(4): 526-535, 2014)。特異的結合分子はまた、当該エピトープに結合することがわかっている既存の特異的結合分子を改変して(例えば、改変配列の発現により改変して)作製してもよく、当該エピトープに結合する分子を本明細書に記載の方法で同定してもよい。当該エピトープに結合する特異的結合分子はまた、当該エピトープ(例えば、本明細書に記載するもの)に結合することがわかっている抗体との競合により、または、本明細書に開示されているエピトープとそのエピトープ変異体との結合を比較することにより、同定してもよい(あるエピトープの変異体へ結合しなければ、それは当該エピトープへの特異的な結合を示唆する)。
【0038】
本発明に係る使用のための特異的結合分子は、必要に応じて単離(すなわち、精製)されてもよい。本明細書における「単離された」とは、特異的結合分子が、これを含む溶液などの主成分(すなわち、成分の大部分)であるということを意味する。特に、特異的結合分子が、最初は混合物または混合溶液において産生される場合には、特異的結合分子の単離とは、特異的結合分子が分離または精製されていることを意味する。したがって、例えば、特異的結合分子がポリペプチドであり、該ポリペプチドが上述したようなタンパク質発現系を用いて産生される場合には、特異的結合分子は、それが存在する溶液または組成物においてもっとも量の多いポリペプチドとなるように、好ましくは溶液または組成物中のポリペプチドの大部分を占めるように、単離され、元の産生培地に存在する他のポリペプチドおよび生体分子よりも濃縮される。特に、本発明に係る使用のための特異的結合分子は、溶液または組成物において主要な(大部分の)特異的結合分子となるように、単離される。好ましい特徴においては、特異的結合分子は、溶液または組成物中の他の成分、特に他のポリペプチド成分の存在量と比較して評価した場合に、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、または少なくとも99%の純度で、溶液または組成物中に存在する。
【0039】
特異的結合分子が、例えばタンパク質発現系で産生されたタンパク質である場合には、定量的プロテオミクスによって特異的結合分子の溶液を解析して、本発明に係る使用のための特異的結合分子が最も主要であり、かつ単離されているかどうかを確認してもよい。例えば、2Dゲル電気泳動および/または質量分析が用いられてもよい。このような単離された分子は、以下で述べるような製剤または組成物中に存在し得る。
【0040】
本発明の特異的結合分子は、当該技術分野において公知のいずれの方法を用いて単離されてもよい。例えば、特異的結合分子は、適切な結合パートナーを用いるアフィニティクロマトグラフィによって分子を単離することができるように、ポリヒスチジンタグ、ストレップタグ(strep-tag)、FLAGタグ、およびHAタグなどのアフィニティタグを有して産生されてもよい。例えば、ポリヒスチジンタグがついた分子を、Ni2+イオンを用いて精製してもよい。特異的結合分子が抗体である実施形態においては、特異的結合分子は、プロテインG、プロテインA、プロテインA/G、またはプロテインLなどの抗体結合タンパク質を1つ以上用いるアフィニティクロマトグラフィによって単離されてもよい。あるいは、特異的結合分子は、例えばサイズ排除クロマトグラフィまたはイオン交換クロマトグラフィなどによって単離されてもよい。対照的に、化学合成(すなわち、非生物系の方法)によって産生された特異的結合分子は、単離された形態で産生され得る。したがって、単離されると考えられる本発明に係る使用のための特異的結合分子が、単離された分子を産生する様式で合成された場合には、特定の精製ステップまたは単離ステップは必要ではない。
【0041】
特異的結合分子が配列番号1(または配列番号7もしくは配列番号8)または配列番号2~6の変異体であるCDR配列を含む、本発明の実施形態においては、その変異体が、基準CDR配列(すなわち、特異的結合分子の配列同一性が少なくとも85%であるが、100%未満であるCDR配列)と比較して、アミノ酸残基の置換、付加および/または欠失により改変されてもよい。
【0042】
CDR配列が、ある特定のアミノ酸残基を置換することによって改変される場合は、その置換は保存的アミノ酸置換であってもよい。本明細書における「保存的アミノ酸置換」なる語は、あるアミノ酸残基を、類似の側鎖を有する他のアミノ酸残基に置き換えるアミノ酸置換のことをいう。類似の側鎖を有するアミノ酸は、類似の性質を有する傾向があるので、ポリペプチドの構造または機能において重要なアミノ酸の保存的置換は、同じ位置における非保存的アミノ酸置換よりも、ポリペプチドの構造/機能に及ぼす影響が小さいことが期待され得る。類似の側鎖を有するアミノ酸残基のファミリーは、当該技術分野において定義されており、塩基性側鎖(例えば、リジン、アルギニン、ヒスチジンなど)、酸性側鎖(例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸など)、無電荷極性側鎖(例えば、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシンなど)、非極性側鎖(例えば、グリシン、システイン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファンなど)、および芳香性側鎖(例えば、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジンなど)が挙げられる。したがって、保存的アミノ酸置換は、特定のアミノ酸残基を同じファミリーの別のアミノ酸と置換する置換とみなされてもよい。しかしながら、CDR残基の置換は、同様に、あるアミノ酸を、異なるファミリーに属する側鎖を有する他のアミノ酸と置換する、非保存的置換であってもよい。
【0043】
本発明の範囲におけるアミノ酸の置換または付加は、遺伝暗号がコードするタンパク質原性のアミノ酸を用いて行われてもよいし、遺伝暗号がコードしないタンパク質原性のアミノ酸を用いて行われてもよいし、非タンパク質原性のアミノ酸を用いて行われてもよい。好ましくは、アミノ酸の置換または付加は、タンパク質原性のアミノ酸を用いて行われる。CDRの配列を構成するアミノ酸は、天然由来のアミノ酸ではないが天然由来のアミノ酸の改変体であるアミノ酸を含んでいてもよい。これらの天然由来ではないアミノ酸が、配列を変化させず、特異性に影響を及ぼさないのであれば、配列同一性を低下させることなく、本明細書に記載のCDRを作製するのに用いられてもよい。すなわち、CDRのアミノ酸を与えるものとみなされる。例えば、メチル化アミノ酸などのアミノ酸誘導体が用いられてもよい。一実施形態では、本発明に係る使用のための特異的結合分子は、天然分子でない、すなわち、天然に見出される分子ではない。
【0044】
配列番号1~8に示すCDRのアミノ酸配列に対する改変は、コード化DNA配列の部位特異的変異誘発または固相合成などの適切ないずれの技術を用いて行われてもよい。
【0045】
本発明に係る使用のための特異的結合分子は、上記のCDRを含んでいてもよい。さらに、このような分子は、CDRの適切な提示を可能にするリンカー部分またはフレームワーク配列を含んでいてもよい。都合の良いように、さらなる性質を付与し得るさらなる配列が存在していてもよい。それは、例えば、これまでに述べてきたようなCDRを含む分子の単離または同定を可能にするペプチド配列である。このような場合、融合タンパク質が作製されてもよい。
【0046】
上述したように、本発明に係る使用のための特異的結合分子は、配列番号1(または配列番号7、もしくは配列番号8)および配列番号2~6に対する配列同一性が少なくとも85%であるCDRを含んでいてもよい。本発明の他の実施形態においては、CDR配列はそれぞれ、結果として得られるCDR配列の、配列番号1(または配列番号7もしくは配列番号8)および配列番号2~6に対する配列同一性が、上述したように、少なくとも85%または少なくとも90%であるという条件において、配列番号1(または配列番号7もしくは配列番号8)および配列番号2~6と比較して、2つ以下のアミノ酸の置換、付加、または欠失によって、改変されていてもよい。「置換、付加、または欠失」とは、置換、付加、および欠失を組み合わせたものも含む。したがって、特に、VLCDR1の配列は、配列番号1(または配列番号7もしくは配列番号8)の配列において1つまたは2つのアミノ酸が置換、付加、または欠失した配列であってもよく、VLCDR2の配列は、配列番号2の配列において1つのアミノ酸が置換、付加、または欠失した配列であってもよく、VLCDR3の配列は、配列番号3の配列において1つのアミノ酸が置換、付加、または欠失した配列であってもよく、VHCDR1の配列は、配列番号4の配列において1つのアミノ酸が置換、付加、または欠失した配列であってもよく、VHCDR2の配列は、配列番号5の配列において1つまたは2つのアミノ酸が置換、付加、または欠失した配列であってもよく、VHCDR3の配列は、配列番号6の配列において1つのアミノ酸が置換、付加、または欠失した配列であってもよく、好ましくは、配列番号1、配列番号7、または配列番号8における1つまたは2つのアミノ酸の置換は、その配列内の9位および/または11位において行われる。
【0047】
配列同一性は好都合ないずれの方法によって評価されてもよい。しかしながら、配列間の配列同一性の程度を求めるためには、配列を2つ1組でまたは複数で、アラインメントするコンピュータプログラムが有用であり、例えば、EMBOSSニードル(Needle)またはEMBOSSストレッチャー(stretcher)(いずれも、ライス、P(Rice, P.)ら、Trends Genet. 16, (6) pp. 276-277, 2000)が、2つ1組の配列アラインメントに用いられてもよく、また、クラスタル・オメガ(Clustal Omega)(シーバース F(Sievers F)ら,Mol. Syst. Biol. 7:539, 2011)またはMUSCLE(エドガー R.C.(Edgar, R.C.), Nucleic Acids Res. 32(5):1792-1797, 2004)が、複数配列のアラインメントに用いられてもよいが、適切な他のプログラムが用いられてもよい。アラインメントは、2つ1組または複数のいずれで行われたとしても、局所的ではなく全体的に(すなわち、参照配列の全体にわたって)行われなければならない。
【0048】
配列のアラインメントおよび同一性のパーセント値の算出結果は、例えば、クラスタル・オメガの標準的なパラメータを用いて求められてもよい。すなわち、マトリックスはゴネット(Gonnet)であり、ギャップオープニングペナルティは6であり、ギャップエクステンションペナルティは1である。あるいは、EMBOSSニードルの標準的なパラメータが用いられてもよい。すなわち、マトリックスはブロサム62(BLOSUM62)であり、ギャップオープニングペナルティは10であり、ギャップエクステンションペナルティは0.5である。適切な他のパラメータが代わりに用いられてもよい。
【0049】
このような用途に用いる目的では、異なる方法で得られた配列同一性の値に相違がある場合、デフォルトのパラメータでEMBOSSニードルを用いて2つ1組のアラインメントを全体的に行って得た値が、有効であるとみなされることになっている。
【0050】
上述したように、本発明に係る使用のための特異的結合分子は、好ましくは抗体または抗体断片である。「抗体」とは、これまでに述べた特徴を有する免疫グロブリンである。本発明は、後述するように、CDRを保持するが異なるフレームワークで提示され、同様に機能する、すなわち、抗原に対する特異性を保持している、天然由来の抗体の変異体をも意図するものである。したがって、抗体は、天然由来のドメインが、部分的または全体的に、同様に機能する天然または非天然の等価物または相同体と置き換わった、機能的等価物または機能的相同体を含む。
【0051】
本発明に係る使用のための特異的結合分子が抗体である場合、好ましくはモノクローナル抗体である。「モノクローナル抗体」とは、単一の抗体種からなる抗体製剤を意味する。すなわち、製剤中の抗体はすべて、アミノ酸配列が同一で、同じCDRを含んでおり、そのため、標的抗原(「標的抗原」とは、特定の抗体が結合するエピトープを含む抗原を意味し、すなわち、抗Anx-A1抗体の標的抗原は、Anx-A1である)上の同じエピトープに結合して同じ効果を発揮する。換言すると、本発明に係る使用のための抗体は、好ましくはポリクローナル抗体混合物の一部ではない。
【0052】
上述したように、抗体においては、CDR配列が、重鎖および軽鎖の可変ドメインに位置している。CDR配列はポリペプチドのフレームワーク内に存在し、それによって抗原結合のために適切にCDRが位置決めされる。したがって、可変ドメインの残部(すなわち、どのCDRの一部も形成しない可変ドメイン配列の部分)は、フレームワーク領域を構成する。成熟可変ドメインN末端はフレームワーク領域1(FR1)を形成し、CDR1とCDR2との間のポリペプチド配列はFR2を形成し、CDR2とCDR3との間のポリペプチド配列はFR3を形成し、CDR3を定常ドメインに連結するポリペプチド配列はFR4を形成する。本発明に係る使用のための抗体においては、可変領域のフレームワーク領域のアミノ酸配列は、抗体がそのCDRを介してヒトAnx-A1に結合するような、適切なアミノ酸配列のいずれかであればよい。定常領域は、いずれの哺乳類(好ましくはヒト)の抗体アイソタイプの定常領域であってもよい。
【0053】
本発明のある実施形態においては、特異的結合分子は、例えば二重特異性モノクローナル抗体などの多特異性モノクローナル抗体であってもよい。多特異性結合分子は、少なくとも2つの異なる分子結合パートナーに結合する、例えば、2つ以上の異なる抗原またはエピトープに結合する、領域またはドメイン(抗原結合領域)を含む。二重特異性抗体の場合、抗体は、2本の重鎖および2本の軽鎖の可変ドメインのそれぞれが異なっており、したがって2つの異なる抗原結合領域を形成していること以外は、上述したような構成において、2本の重鎖および2本の軽鎖を含む。多特異性モノクローナル抗体などの本発明に係る使用のための多特異性(例えば、二重特異性)結合分子においては、抗原結合領域のうちの1つは、本明細書で定義される本発明に係る使用のための特異的結合分子のCDR配列を有しており、したがって、Anx-A1に結合する。本発明に係る使用のための多特異性結合分子の他の抗原結合領域は、本発明に係る使用のためのCDRによって形成される抗原結合領域とは異なっており、例えば、本発明に係る使用のための特異的結合分子について本明細書において定義されたものとは異なる配列のCDRを有している。例えば、二重特異性抗体における、特異的結合分子のさらなる(例えば、第2の)抗原結合領域は、Anx-A1に結合してもよいが、Anx-A1に結合する(本発明に係る使用のための特異的結合分子のCDRを有する)第1の抗原結合領域とは異なるエピトープで結合する。あるいは、さらなる(例えば、第2の)抗原結合領域は、Anx-A1ではない、さらなる(例えば、第2の)異なる抗原に結合してもよい。別の実施形態においては、例えば抗体などの特異的結合分子における2つ以上の抗原結合領域は、それぞれ同じ抗原に結合してもよく、すなわち、多価(例えば、二価)分子を提供するものであってもよい。
【0054】
特異的結合分子は、ヒトAnx-A1に結合可能な、抗体断片であってもよいし、合成コンストラクトであってもよい。このように、本発明に係る使用のための抗体断片は、抗原結合ドメイン(すなわち、抗体断片の元である抗体の抗原結合ドメイン)を含む。抗体断片については、ロドリゴ(Rodrigo)ら,Antibodies, Vol. 4(3), p. 259-277, 2015に記載されている。本発明に係る使用のための抗体断片は、好ましくはモノクローナルである(すなわち、ポリクローナル抗体混合物の一部ではない)。抗体断片は、例えば、Fab断片、F(ab’)2断片、Fab’断片、およびFv断片を含む。Fab断片については、ロイット(Roitt)ら,Immunology second edition (1989), Churchill Livingstone, Londonに記載されている。Fab断片は、抗体の抗原結合ドメインからなる。すなわち、個々の抗体は、それぞれが軽鎖およびそれに結合した重鎖のN末端部からなる2つのFab断片を含むものとみなされてもよい。したがって、Fab断片は、軽鎖全体と、これが結合する重鎖のVHドメインおよびCH1ドメインとを含む。抗体をパパインで消化することによって、Fab断片が得られてもよい。
【0055】
F(ab’)2断片は、抗体のFab断片2つと重ドメインのヒンジ領域とからなり、2本の重鎖を連結するジスルフィド結合を含む。換言すると、F(ab’)2断片は、2つのFab断片が共有結合したものとみなすことができる。抗体をペプシンで消化することによって、F(ab’)2断片が得られてもよい。F(ab’)2断片を還元すると、2つのFab’断片が得られる。これらは、断片を他の分子に結合させるのに有用であり得るさらなるスルフヒドリル基を含むFab断片とみなすことができる。
【0056】
Fv断片は、軽鎖および重鎖の可変ドメインのみからなる。これらは共有結合で連結されておらず、非共有結合的な相互作用によって、弱く維持されているだけである。単鎖Fv(scFv)分子として知られる合成コンストラクトを産生するために、Fv断片を改変することができる。典型的には、このような改変は、抗体遺伝子を操作し、ひとつのポリペプチドがVHドメインおよびVLドメインの両方を含む融合タンパク質を産生することによって、組み換えで行うことができる。scFv断片は、一般的に、VH領域およびVL領域を共有結合させるペプチドリンカーを含み、ペプチドリンカーは分子の安定性に寄与する。このリンカーは、1~20個のアミノ酸からなるものであってもよく、例えば、1個、2個、3個、または4個のアミノ酸、あるいは、5個、10個、または15個のアミノ酸、あるいは、好都合には、1~20の範囲にある他の数であってもよい。ペプチドリンカーは、グリシンおよび/またはセリンなどの一般的に好都合なアミノ酸残基から形成されてもよい。適したリンカーの一例は、Gly4Serである。このようなリンカーの多量体、例えば、二量体、三量体、四量体、または五量体((Gly4Ser)2、(Gly4Ser)3、(Gly4Ser)4、または(Gly4Ser)5など)などが用いられてもよい。しかしながら、リンカーの存在は必須ではなく、VLドメインは、ペプチド結合によってVHドメインに連結されていてもよい。本明細書において、scFVは、抗体断片として定義される。
【0057】
特異的結合分子は、scFvの類似体であってもよい。例えば、scFvは他の特異的結合分子(例えば、他のscFv、Fab抗体断片、およびキメラIgG抗体(例えば、ヒトのフレームワークを有する))に連結されてもよい。scFvは、他のscFvに連結されて、例えば二量体、三量体、または四量体などの、多特異性結合タンパク質である多量体を形成してもよい。二重特異性scFvは、二重特異性抗体と称されることがあり、三重特異性scFvは、三重特異性抗体と称されることがあり、また、四重特異性scFvは、四重特異性抗体と称されることがある。他の実施形態においては、本発明に係る使用のためのscFvは、他の同一scFv分子に結合され、これによって、単一特異性であるが多価である多量体が形成されてもよく、例えば、二価二量体または三価三量体が形成されてもよい。
【0058】
使用可能な合成コンストラクトは、CDRペプチドを含む。これらは、抗体結合決定基を含む合成ペプチドである。ペプチド模倣物(mimetic)を使用することもできる。これらの分子は、通常、CDRループ構造を模倣し、抗原と相互作用する側鎖を有する、立体配置が制限された有機環である。
【0059】
上記のように、特定の実施形態において、本発明に係る使用のための特異的結合分子は、配列番号1、配列番号7、または配列番号8、および配列番号2~6に示すアミノ酸配列を有するCDRを含む。詳述されるように、これらは、マウス抗体Mdx001から誘導または変性されたものである。ただし、本発明に係る使用のための抗体、またはその断片は、好ましくはヒト抗体またはヒト化抗体である。
【0060】
本発明に係る使用のための抗体または抗体断片は、ヒト/マウスキメラ抗体であってもよいし、好ましくは、ヒト化されていてもよい。これは特に、モノクローナル抗体およびその抗体断片の場合である。分子をヒトの治療法に用いる場合には、ヒト化抗体またはキメラ抗体あるいはそれらの断片が望ましい。非ヒト抗体(例えば、マウス抗体)を使用したヒトに対する治療的処置は、下記のような多くの理由から効果が無い。たとえば、抗体のインビボにおける半減期が短いこと、ヒトの免疫エフェクター細胞上のFc受容体による非ヒト重鎖定常領域の認識率が低いために、異種の重鎖定常領域が媒介するエフェクター機能が弱いこと、抗体に対する患者の感作や、(マウス抗体では)ヒト抗マウス抗体(HAMA)応答が発生すること、HAMAによるマウス抗体の中和によって治療効果が失われること、などがその理由に挙げられる。
【0061】
キメラ抗体とは、ある種に由来する可変領域と、他の種に由来する定常領域とを有する抗体である。したがって、本発明に係る使用のための抗体または抗体断片は、マウス可変ドメインとヒト定常ドメインとを含む、キメラ抗体またはキメラ抗体断片であってもよい。
【0062】
上記に詳述したように、抗体のアイソタイプは、その重鎖定常領域の配列によって定義される。本発明に係る使用のためのキメラ抗体の定常領域は、いずれのヒト抗体アイソタイプのものであってもよく、また各アイソタイプ内のいずれのサブクラスのものであってもよい。例えば、キメラ抗体は、IgA抗体、IgD抗体、IgE抗体、IgG抗体、またはIgM抗体のFc領域を有していてもよい(すなわち、キメラ抗体は、重鎖α、δ、ε、γ、またはμの各定常ドメインを含んでいてもよい)が、好ましくは、本発明に係る使用のための抗体は、アイソタイプがIgGである。したがって、本発明のキメラ抗体は、どのアイソタイプであってもよい。キメラ抗体の軽鎖は、κ軽鎖であってもよいしλ軽鎖であってもよい。すなわち、ヒトλ軽鎖の定常領域を含んでいてもよいし、ヒトκ軽鎖の定常領域を含んでいてもよい。同様に、キメラ抗体断片は、定常ドメインを含む抗体断片(例えば、Fab断片、Fab’断片、またはF(ab’)2断片)である。本発明に係る使用のためのキメラ抗体断片の定常ドメインは、キメラモノクローナル抗体について上述したような定常ドメインであってもよい。
【0063】
キメラ抗体は適切ないずれの方法を用いて作製されてもよく、例えば、マウス可変ドメインのDNA配列をヒト定常ドメインのDNA配列に融合させてキメラ抗体をコードするようにした、組み換えDNA技術などを用いてもよい。キメラ抗体断片は、組み換えDNA技術を用いて、このようなポリペプチドをコードするDNA配列を産生することで得られてもよいし、本発明に係る使用のためのキメラ抗体を処理して、上述したような所望の断片を産生することで得られてもよい。キメラ抗体は、ヒトの治療法に異種の抗体、例えば、マウス抗体を用いることに伴う、インビボにおける半減期が短いことやエフェクター機能が弱いという問題を克服することが期待でき、患者の感作やHAMAが生じる可能性が低減できる。しかしながら、可変ドメインにマウス配列が存在しているために、キメラ抗体をヒトの患者に投与した際に、患者の感作やHAMAは依然として生じ得る。
【0064】
したがって、本発明に係る使用のための抗体または抗体断片は、好適には完全にヒト化されている。ヒト化抗体とは、マウスなどの他の種に由来する抗体であって、抗体鎖の定常ドメインがヒト定常ドメインと置き換わっており、抗体内の非ヒト配列が好ましくはCDR配列のみとなるように、可変領域のアミノ酸配列を改変して異種(例えば、マウス)フレームワーク配列をヒトフレームワーク配列と置き換えることも行われている、抗体である。ヒト化抗体によって、ヒトに対して非ヒト抗体を治療用途で用いることに伴う問題をすべて克服することができ、その例として、患者の感作やHAMAが生じる可能性を回避または最小化することが挙げられる。
【0065】
通常、抗体のヒト化は、CDR移植として知られるプロセスによって行われるが、当該技術分野における他の方法が用いられてもよい。抗体移植については、ウィリアムズ,D.G.(Williams, D.G.)ら,Antibody Engineering第1巻,編集:R.コンターマン(R. Kontermann)およびS.デュベル(S. Dubel),21章,pp.319~339にてよく説明されている。このプロセスにおいて、上述したようなキメラ抗体が最初に作製される。したがって、抗体のヒト化においては、非ヒト定常ドメインは最初にヒト定常ドメインと置き換えられ、これによってヒト定常ドメインと非ヒト可変ドメインとを含むキメラ抗体が得られる。
【0066】
続く異種(例えば、マウス)可変ドメインのヒト化は、各免疫グロブリン鎖からのマウスCDRを、最も適切なヒト可変領域のFR内に挿入することを含む。これは、マウス可変ドメインを、公知のヒト可変ドメインのデータベース(例えば、IMGTまたはKabat)とアライメントすることによって行われる。例えば、ヒトフレームワーク領域とマウスフレームワーク領域との間で高い配列同一性を有するドメインや、同じ長さのCDRを含むドメイン、(相同性モデリングに基づき)最も似通った構造を有するドメインなど、最もよくアライメントされた可変ドメインから、適切なヒトフレームワーク領域が識別される。次に、マウスCDR配列が、組み換えDNA技術を用いて、先頭のヒトフレームワーク配列の適切な位置に移植され、その後、ヒト化抗体が産生されて、標的抗原に対する結合について調べられる。当業者であれば、抗体のヒト化プロセスについて知り、かつ理解しており、さらなる指示がなくても本方法を行うことができる。抗体をヒト化するサービスも、ジェンスクリプト社(GenScript)(米国/中国)やMRCテクノロジー社(MRC Technology)(英国)など、多くの営利企業によって提供されている。ヒト化抗体断片は、上述したように、ヒト化抗体から容易に得ることができる。
【0067】
または、全長ヒトモノクローナル抗体を、インビトロで、ファージディスプレイ技術を用いた免疫化をすることなく得ることができ、これはフレンゼル(Frenzel)ら(Transfus. Med. Hemother.44(5): 312-318, 2017)が記載している通りである。
【0068】
したがって、本発明に係る使用のための抗体または抗体断片は、いずれの種に由来するものであってもよく、例えば、マウスの抗体または抗体断片であってもよい。しかしながら、抗体または抗体断片は、キメラ抗体またはその抗体断片であることが好ましい。すなわち、抗体または抗体断片の可変ドメインのみが非ヒト由来であり、定常ドメインはすべてヒト由来であることが好ましい。最適には、本発明に係る使用のための抗体または抗体断片は、ヒト化抗体またはその抗体断片である。
【0069】
WO2018/146230に詳述されているように、Mdx001をヒト化したものが本発明者らによって開発されている。配列番号9に示すアミノ酸配列(L1M2可変領域として知られる)と配列番号10(L2M2可変領域として知られる)で、上述されたCDRを含む、ヒト化軽鎖可変ドメインが開発されている。特定の実施形態において、本発明に係る使用のための抗体またはその断片は、配列番号9または配列番号10に示すアミノ酸配列、あるいは、これらのアミノ酸配列に対する配列同一性が少なくとも70%(好ましくは、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%)であり、かつCDR配列VLCDR1~3それぞれの配列番号1、配列番号7または配列番号8、および配列番号2~3に対する配列同一性が少なくとも85%であるアミノ酸配列、を含むか、またはこのようなアミノ酸配列からなる、軽鎖可変領域を含む。
【0070】
配列番号11に示すアミノ酸配列(H4可変領域として知られる)と配列番号12(H2可変領域として知られる)で、ヒト化重鎖可変ドメインが開発されている。特定の実施形態において、本発明に係る使用のための抗体またはその断片は、配列番号11または配列番号12に示すアミノ酸配列、あるいは、これらアミノ酸配列に対する配列同一性が少なくとも70%(好ましくは、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%)であり、かつCDR配列VHCDR1~3それぞれの配列番号4~6に対する配列同一性が少なくとも85%であるアミノ酸配列、を含むか、またはこのようなアミノ酸配列からなる、重鎖可変領域を含む。
【0071】
特定の実施形態において、本発明に係る使用のための特異的結合分子は、IgG1アイソタイプのモノクローナル抗体であり、κサブタイプの軽鎖を含む。L1M2軽鎖はκサブタイプであり、そのアミノ酸配列は、配列番号13に示すものである。H4重鎖のアミノ酸配列は、配列番号14に示すものである。特定の実施形態において、本発明に係る使用のための特異的結合分子は、L1M2軽鎖とH4重鎖を含むL1M2H4抗体である。したがって、本発明に係る使用のための特異的結合分子は、以下のものを含む、または以下のものからなる、モノクローナル抗体であってもよい。すなわち、
(i)配列番号13に示すアミノ酸配列、または、このアミノ酸配列に対する配列同一性が少なくとも70%(好ましくは、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%)であり、かつCDR配列VLCDR1~3それぞれの配列番号1、配列番号7または配列番号8、および配列番号2~3に対する配列同一性が少なくとも85%であるアミノ酸配列、を含むか、またはこのようなアミノ酸配列からなる、軽鎖と、
(ii)配列番号14に示すアミノ酸配列、あるいは、このアミノ酸配列に対する配列同一性が少なくとも70%(好ましくは、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%)であり、かつCDR配列VHCDR1~3それぞれの配列番号4~6に対する配列同一性が少なくとも85%であるアミノ酸配列、を含むか、またはこのようなアミノ酸配列からなる、重鎖と、を含む。
【0072】
同様に、L2M2軽鎖はκサブタイプであり、そのアミノ酸配列は、配列番号15に示すものである。H2重鎖のアミノ酸配列は、配列番号16に示すものである。特定の実施形態において、本発明に係る使用のための特異的結合分子は、L2M2軽鎖とH2重鎖を含むL2M2H2抗体である。したがって、本発明に係る使用のための特異的結合分子は、以下のものを含む、または以下のものからなる、モノクローナル抗体であってもよい。すなわち、
(i)配列番号15に示すアミノ酸配列、または、このアミノ酸配列に対する配列同一性が少なくとも70%(好ましくは、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%)であり、かつCDR配列VLCDR1~3それぞれの配列番号1、配列番号7または配列番号8、および配列番号2~3に対する配列同一性が少なくとも85%であるアミノ酸配列、を含むか、またはこのようなアミノ酸配列からなる、軽鎖と、
(ii)配列番号16に示すアミノ酸配列、あるいは、このアミノ酸配列に対する配列同一性が少なくとも70%(好ましくは、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%)であり、かつCDR配列VHCDR1~3それぞれの配列番号4~6に対する配列同一性が少なくとも85%であるアミノ酸配列、を含むか、またはこのようなアミノ酸配列からなる、重鎖と、を含む。
【0073】
別の実施形態においては、L1M2軽鎖はH2重鎖と対になり、L2M2軽鎖はH4重鎖と対になりうる。
【0074】
当業者にとっては公知であるが、抗体鎖は、天然ではシグナル配列とともに産生される。抗体のシグナル配列は、軽鎖および重鎖のN末端、すなわち、可変領域のN末端に位置するアミノ酸配列である。シグナル配列によって、抗体鎖は、産生された細胞から輸送される。細胞発現系で産生される場合、配列番号13~16のアミノ酸配列を有する軽鎖および重鎖が、シグナル配列でコードされてもよい。L1M2軽鎖およびL2M2軽鎖のシグナル配列は、配列番号20に示すものであり、H2重鎖およびH4重鎖のシグナル配列は、配列番号21に示すものである。したがって、シグナル配列と合成される場合、L1M2鎖は、配列番号22に示すアミノ酸配列と合成されてもよく、H4鎖は、配列番号23に示すアミノ酸配列と合成されてもよく、L2M2鎖は、配列番号24に示すアミノ酸配列と合成されてもよく、H2鎖は、配列番号25に示すアミノ酸配列と合成されてもよい。かかる配列をコードする塩基配列は、当業者であれば容易に誘導できるが、配列番号22~25の抗体鎖をコードし、その合成に使用するのに適した配列の例としては、それぞれ、配列番号26~29に示す塩基配列がある。
【0075】
上記に詳述したように、本発明は、対象における癌の治療に使用するための特異的結合分子(上記のような)を提供する。精巣癌、卵巣癌、大腸癌、子宮頸癌、乳癌、膀胱癌、胆管癌、胃癌、頭頚部癌、食道癌、肺癌、膵臓癌、中皮腫、リンパ腫、脳腫瘍、神経芽細胞腫などの、癌の治療における使用も、範囲内である。好ましい態様においては、卵巣癌が治療される。別の好ましい態様においては、乳癌が治療される。好ましい実施の形態において、乳癌が、エストロゲン受容体(ER)、プロゲステロン受容体(PR)、およびヒト上皮増殖因子受容体HER2のうちの1つ以上を発現する。別の実施の形態において、乳癌はトリプルネガティブ(すなわち、ER-/PR-/HER2-)である。別の好ましい態様においては、大腸癌が治療される。別の好ましい態様においては、膵臓癌が治療される。別の好ましい態様においては、肺癌が治療される。癌種(腺癌、扁平上皮癌、 基底細胞癌、移行上皮癌など)、肉腫、白血病、リンパ腫など、あらゆるタイプの癌を、本発明に従って治療してもよい。
【0076】
本発明によると、ステージIの癌、ステージIIの癌、ステージIIIの癌、およびステージIVの癌など、あらゆるステージ(すなわち悪性度)の癌を治療してもよい。転移性の癌も限局性(すなわち、非転移性)の癌も、治療してもよい。
【0077】
本発明の特定の実施形態において、癌は、Anx-A1を発現する(これは、癌の中の細胞がAnx-A1を、例えば細胞の表面に、発現することを意味する)。癌がAnx-A1を発現しているかどうか判断することは、当業者にとって簡単なことである。Anx-A1の発現は、癌の生検サンプル内で、例えばサンプルの免疫組織化学分析によるタンパク質レベルで、解析してもよい。サンプルは、抗Anx-A1抗体(本発明にしたがって使用できる、上記の抗体など)を用いて免疫染色され、当該技術分野における標準的な手順に従い、Anx-A1の発現を検出する。サンプルを透過処理する(例えば、当該技術分野で標準的に行われているように、洗浄剤を用いて)ことにより、細胞内および細胞外のAnx-A1を検出してもよい。
【0078】
または、Anx-A1発現は、核酸レベルで解析してもよく、例えば定量的PCR(qPCR)で解析してもよい。mRNAは、当該技術分野において標準的な手順を用いて、組織サンプルから抽出されDNAに反転転写される。その後、標的Anx-A1配列の定量的な増幅よりAnx-A1発現レベルを判定してもよい。例えばTaqManなどの適切なqPCR技術が、当該技術分野においてよく知られている。
【0079】
特定の実施形態において、癌はAnx-A1を過剰発現する。「Anx-A1を過剰発現する」とは、同じ由来元からの健康な組織と比べて高いレベルで、癌がAnx-A1を発現する、ということを意味する。すなわち、同じ由来元(source)からの健康な(つまり、非癌の)細胞と比べて高いレベルで、癌細胞がAnx-A1を発現する、ということである。「同じ由来元」とは、同じ組織ということを意味する。例えば、卵巣上皮細胞癌が健康な卵巣上皮組織と比べて高いレベルでAnx-A1を発現するなら、それはAnx-A1を過剰発現していると考えられるだろう。癌組織がAnx-A1を過剰に発現するかどうかについては、少なくとも2つの異なる組織(癌組織と健康な対照の組織)でAnx-A1で発現させて定量的な比較をする必要がある。この比較を行うために適切な技術であればどれを利用してもよいが、qPCRが最も適しているだろう。癌がAnx-A1を過剰発現しているかどうか判断することは、当業者にとって簡単なことであろう。特定の実施形態において、Anx-A1を過剰発現している癌と、健康な組織とで、Anx-A1の発現レベルの差異が統計学的に有意である。他の実施形態において、癌組織におけるAnx-A1の発現は、対応する健康な組織と比較して、少なくとも10%以上、20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、または100%以上増加している。
【0080】
本発明の別の実施形態において、癌は、その表面にAnx-A1を発現する(すなわち、癌の細胞の表面にAnx-A1が発現する)。癌細胞表面でAnx-A1が発現することは、その細胞がAnx-A1を発現し、発現したAnx-A1が輸送されて細胞表面に局在化することを意味する。Anx-A1の細胞表面での発現は、上述したように、免疫組織化学に同定されてもよい。特に、細胞表面におけるAnx-A1の発現を分析するために、透過処理を行うことなく、免疫組織化学的な分析が行われる。このことは、Anx-A1の検出に使用される抗体が細胞の内部に進入することができず、細胞外の(例えば、表面に局在する)タンパク質のみが検出されるということである。輸送されたAnx-A1は、通常、(血漿中や他の細胞外スペースに放出されるよりはむしろ)細胞表面に付着し、したがって免疫組織化学で検出される非透過処理の細胞のAnx-A1が表面に局在するAnx-A1であると考えてよい。しかしながら、標準的なプロトコルに従い、着色の前に組織を洗浄して、タンパク質など、遊離している細胞外物質を除去してもよい。
【0081】
本発明によって治療される癌は、薬剤に耐性のある癌であってもよい。すなわち、癌は1つ以上の化学療法剤(化学療法薬)に耐性があってもよい。癌における薬剤耐性は、ハウスマン(Housman)ら(上記参照)において考察されている。癌が化学療法薬を許容できれば、つまり薬が癌に対して効果が無い(無くなる)場合、その癌は化学療法薬に対して耐性があると考えてよい。ハウスマン(Housman)ら(上記参照)に詳細に記載されているように、癌は、薬剤の不活性化や代謝(または代謝活性化の防止)、薬剤の標的の変異や改変、ABCトランスポータを介した薬剤排出など、様々なメカニズムにより薬剤耐性を獲得しうる。癌が薬剤に耐性があるかどうかを識別する方法は当該技術分野において知られている。例えば、ワング(Wang)ら(Genes & Diseases 2: 219-221, 2015)およびヴォルム&エファース(Volm & Efferth)(Front. Oncol. 5: 282, 2015)の教示を参照。いずれもここに参照することにより本明細書に援用する。かかる方法は、エクスビボ(生体外)で細胞集団に与える薬剤の効果を試験し、感受性マーカー/耐性マーカーについて癌細胞を遺伝子スクリーニングすることを含む。
【0082】
特定の実施形態において、本発明によって治療される癌は、多剤耐性(MDR)である。MDR癌とは、1つ以上の化学療法薬に対して、特に化学療法薬の1つ以上のファミリーに対して、耐性がある癌を意味する。MDR癌は、2つ以上の、3つ以上の、4つ以上の、または5つ以上の異なる化学療法薬、または化学療法薬ファミリー(クラス)に対して耐性があってもよい。「MDR癌」という用語は、当該技術分野において周知されており、この文脈では当該技術分野での意味に従って使用されている。MDR癌は、周知の化学療法薬のすべてに対して耐性があってもよい。多剤耐性は、1つ以上のABCトランスポータ多剤耐性タンパク質(MDR1)、多剤耐性関連タンパク質1(MRP1)、および乳癌耐性たんぱく質(BCRP)の発現によって媒介されてもよい。3つはすべて幅広い基質特異性を有し、それらを発現させる細胞から、多数の異なるクラスの化学療法剤を排出することができる。
【0083】
本発明に係る使用のための特異的結合分子は、白金系化学療法に対する耐性のある癌細胞の増殖を阻害することに特に効果があると、実施例に示されている。特定の実施形態において、本発明に従って治療される癌は、白金系化学療法剤に耐性がある。(好ましくは、この場合の癌は、乳癌、大腸癌、卵巣癌、肺癌または膵臓癌である。)。白金系化学療法剤には、シスプラチン、オキサリプラチン、カルボプラチン、ネダプラチンがあり、どれもヒトに使用することが認められている。他の公知の白金系化学療法剤としては、サトラプラチン、ピコプラチン、フェナンスリプラチン、四硝酸トリプラチンがある。本発明に従って治療される癌は、これら薬剤のいずれに耐性があってもよく、または、これら薬剤すべてに耐性があってもよい。特定の実施形態において、癌はシスプラチンに耐性がある。
【0084】
癌細胞は、上記に加え、または上記に代わり、ナイトロジェンマスタード(例えば、ベンダムスチン、クロラムブシル、シクロホスファミド、イホスファミド、メクロレタミン、およびメルファラン)などの他の二機能性のアルキル化薬剤に対して耐性があってもよい。
【0085】
代替の、または追加の実施形態において、本発明に従って治療される癌は、タキサン(パクリタキセルやドセタキセルなど)、トポイソメラーゼ阻害剤(トポテカンなど)、アントラサイクリン(ドキソルビシンやエピルビシンなど)、ヌクレオシド類似体(ゲムシタビンなど)などの化学療法剤に対して耐性があってもよい。好ましくは、本実施形態における化学療法剤は、例えばドキソルビシン(アドリアマイシンとしても知られている)などのアントラサイクリンである。他の実施形態において、本発明に従って治療される癌は、ホルモン療法(例えば、タモキシフェンなどの、抗エストロゲンホルモン療法)に耐性がある。乳癌は特に、タモキシフェンなどのホルモン療法に耐性があってもよい。本発明に従って治療される癌は、これら薬剤のいずれに耐性があってもよく、または、これら薬剤すべてに耐性があってもよい。(好ましくは、この場合の癌は、乳癌、大腸癌、卵巣癌、肺癌または膵臓癌である。)。特定の実施形態において、癌は、(場合によっては、白金系化学療法剤に対する耐性に加えて)ドキソルビシンに耐性がある。
【0086】
癌細胞が白金系化学療法剤に対する耐性を獲得するメカニズムは、上記のように、多数ある。例えば、癌がメタロチオネインおよび/またはグルタチオンを産生すると、白金系薬剤が不活性化され、かかる薬剤によって誘発されるDNAの損傷がヌクレオチド切除修復と相同組み換えの活性経路によって修復されて、白金系薬剤の働きを覆す。他のメカニズムもまた働いており、白金系療法に対する耐性のある細胞を作るためには、多数の重複しないメカニズムが必要とされうる。白金耐性であると認められる患者には、直近の白金系化学療法の6か月の間に腫瘍の進行が見られる。薬物暴露の後に生殖細胞の生存を調べる増殖性細胞アッセイを使用して、細胞に白金耐性があると識別してもよい。癌細胞が薬物暴露の後に腫瘍や塊を形成することができるかどうかで、これを識別する。
【0087】
特異的結合分子は、医薬組成物の形態で、治療を受ける対象に投与されてもよい。かかる組成物は、1つ以上の薬学的に許容される希釈剤、担体、または賦形剤を含有してもよい。本明細書における「薬学的に許容される」とは、組成物の他の成分と親和性があり、かつ受容者が生理学的に許容できる成分のことをいう。組成物および担体または賦形物質の種類や投与量などは、好みや、望ましい投与経路などに応じて、所定の様式で選択されてもよい。また、投与量も、所定の様式で決定されてもよく、分子の種類、患者の年齢、投与形態などによって決まってもよい。
【0088】
医薬組成物は、対象に投与するために、適切ないずれかの手段によって調製されてもよい。このような投与は、例えば、経口投与、直腸投与、経鼻投与、局所投与、経膣投与、または非経口投与であってもよい。本明細書における経口投与は、頬側投与および舌下投与を含む。本明細書における局所投与は、経皮投与を含む。本明細書で定義される非経口投与は、皮下投与、筋肉内投与、静脈内投与、腹腔内投与、および皮内投与を含む。
【0089】
本明細書に開示する医薬組成物としては、溶液またはシロップや、粉末、細粒、錠剤、またはカプセルなどの固形組成物、クリーム、軟膏、および当該技術分野において一般的に用いられるその他の組成物の形式が挙げられる。このような組成物に用いられる薬学的に許容される適切な希釈剤、担体、および賦形剤は、当該技術分野においてよく知られている。例えば、適切な賦形剤としては、ラクトース、トウモロコシデンプンまたはその誘導体、ステアリン酸またはその塩、植物油、蝋、脂肪、およびポリオールが挙げられる。適切な担体または希釈剤としては、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、デキストロース、トレハロース、リポソーム、ポリビニルアルコール、医薬品グレードのデンプン、マンニトール、ラクトース、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、タルカム、セルロース、グルコース、スクロース(および他の糖)、炭酸マグネシウム、ゼラチン、油脂、アルコール、界面活性剤、およびポリソルベートなどの乳化剤が挙げられる。安定化剤、湿潤剤、乳化剤、甘味料などが用いられてもよい。安定化剤、湿潤剤、乳化剤、甘味料なども、使用されてもよい。
【0090】
液体医薬組成物は、溶液か、懸濁液か、その他類似のいずれの形態であろうと、以下に挙げるもののうちの1つ以上を含んでいてもよい:すなわち、注射用水、リンゲル液、等張塩化ナトリウム、溶媒または懸濁媒として働き得る合成モノグリセリドまたは合成ジグリセリド等の不揮発性油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、あるいは他の溶媒などの滅菌済希釈剤;ベンジルアルコールまたはメチルパラベンなどの抗菌剤;アスコルビン酸または亜硫酸水素ナトリウムなどの抗酸化剤;EDTAなどのキレート剤;酢酸塩、クエン酸塩、またはリン酸塩などの緩衝剤、および塩化ナトリウムまたはデキストロースなどの張性を調整するための薬剤である。非経口製剤は、ガラスまたはプラスチック製の、アンプル、使い捨て注射器、または複数回投与バイアルに封入することができる。注射可能な医薬組成物は、好ましくは滅菌済である。
【0091】
したがって、本発明に係る使用のための医薬組成物は、適切な様式で投与されればよい。投与量および投与回数は、患者の状態ならびに患者の疾患の種類および重症度などの要因によって決定されるが、適切な投与量は、臨床試験によって決定されてもよい。本発明に係る使用のための特異的結合分子は、都合の良いように、1日に1回、週に1回、または月に1回の投与で対象に提供されてもよいし、中間的な頻度で提供されてもよい。例えば、投与は、2日毎、3日毎、4日毎、5日毎、もしくは6日毎に、または2週間毎、3週間毎、4週間毎、5週間毎、もしくは6週間毎に、または2ヶ月毎、3ヶ月毎、4ヶ月毎、5ヶ月毎、もしくは6ヶ月毎に、または年に1回もしくは年に2回、行われてもよい。投与は、10ng/kg~100mg/体重kgの量で、例えば、1μg/kg~10mg/体重kgの量、または10μg/kg~1mg/体重kgの量で、行われてもよい。熟練の臨床医であれば、年齢、身長、体重、治療する病状などのすべての関連要因に基づいて、患者への適切な投与量を算出することができるであろう。
【0092】
好ましくは、本発明に係る使用のための特異的結合分子、製剤、または医薬組成物は、それを必要とする対象に、治療上有効な量で投与される。「治療上有効な量」とは、対象の病気に対して効果を示すのに十分な量を意味する。対象の病状に対して効果を示すのに十分な量であるかどうかは、医師/獣医によって決定されてもよい。
【0093】
治療はさらに、対象に対して第2の治療薬を投与することを含む。しかしながら、本発明に係る使用において、特異的結合分子は治療に用いられる唯一の治療用分子であるのが都合よく、例えば、他の細胞障害性薬物や免疫療法薬を併用して治療が行われることはない。細胞障害性薬剤については以下で述べる。免疫療法薬は、免疫応答を誘発する、向上する、または抑制するように働く、投与剤である。
【0094】
特定の実施形態において、本発明に係る使用のための特異的結合分子は、第2の治療用分子を標的の癌に運ぶために使用されることはない。例えば、特定の実施の形態において、特異的結合分子は細胞障害性分子や放射性核種などの第2の治療用分子に接合することはない(また、第2の治療用分子に結合パートナーを提供することもない)。
【0095】
第2の治療薬が使用される際には、Anx-A1と結合する特異的結合分子と同じ医薬組成物に入れて投与されてもよいし、別の医薬組成物に入れて投与されてもよく、別の医薬組成物は上述されているようなものであってもよい。(したがって、薬品を作る使用においては、前記薬品は特異的結合分子(または第2の治療薬)を含んでいてもよく、前記治療は、前記薬品と共に、第2の治療薬(または特異的結合分子)を、別々に、同時にもしくは逐次的に投与することを含んでいてもよい。)。Anx-A1と結合する特異的結合分子と第2の治療薬とは、対象に対して別々に、同時にもしくは逐次的に投与されてもよい。本明細書における「別々」の投与とは、特異的結合分子と第2の治療薬とが同時に、または少なくとも実質的に同じ時に逐次的に、しかし異なる投与ルートで、対象に対して投与されることを意味する。本明細書における「同時」の投与とは、特異的結合分子と第2の治療薬とが同時に、または少なくとも実質的に同時に、同じ投与ルートで、対象に対して投与されることを意味する。本明細書における「逐次」の投与とは、特異的結合分子と第2の治療薬とが異なる時間に対象に対して投与されることを意味する。特に、第1の治療薬の投与は、第2の治療薬の投与が始まる前に完了される。逐次的投与は、第1の治療薬の投与と、第2の治療薬の投与とが、10分から30日の間隔をあけて、例えば1時間から96時間(または2週間)間隔をあけて、行われればよい。対象に逐次的に投与されるとき、第1の治療薬と第2の治療薬とは、同じ投与ルートで投与されても、異なる投与ルートで投与されてもよい。
【0096】
第2の治療薬は、第2の抗癌剤であってもよいが、他の実施形態においては異なる働きをするものであってもよい。例えば、第2の治療薬は抗菌薬や抗真菌薬であってもよく、または、患者を治療するために有用な別の薬剤であってもよい。特定の実施形態において、第2の治療薬は化学療法剤、特に細胞障害性薬剤である。本明細書で言及するように、化学療法剤は、悪性細胞や悪性組織を破壊する投与薬である。細胞障害性の薬剤は、細胞を破壊するか、または、細胞の繁殖を防止する物質である。いずれのクラスのいずれの化学療法剤も使用してもよい。例えば、タキサン(パクリタキセルやドセタキセルなど)、トポイソメラーゼ阻害剤(トポテカンなど)、アントラサイクリン(ドキソルビシンやエピルビシンなど)、ヌクレオシド類似体(ゲムシタビンなど)、白金系薬剤(シスプラチンや、カルボプラチンなど)、アルキル化薬剤(シクロホスファミドなど)、キナーゼ阻害剤(イマチニブなど)、または他の化学療法剤やこれまでに述べた薬剤などを使用してもよい。
【0097】
かかる薬剤は、本発明に係る使用のための特異的結合分子と組み合わせて使用してもよい。一態様において、化学療法剤は、癌が(本発明で使用するための特異的結合分子を使用せずに治療するときに)耐性を有する薬剤であってもよい。別の態様において、化学療法剤は、癌が(本発明で使用するための特異的結合分子を使用せずに治療するときに)耐性を有する薬剤ではない。
【0098】
本発明に係る使用のための特異的結合分子もまた、放射線治療および/または手術と組み合わせて、対象に投与してもよい。
【0099】
上記に詳述したように、本発明は、対象における癌の治療に使用するためのものである。治療は、治癒的なものであってもよい(または、治癒を意図するものであってもよい)が、もしくは苦痛緩和のもの(すなわち、単に、癌の症状を制限する、和らげる、または改善する、もしくは延命するためのもの)であってもよい。好ましくは、治療によって腫瘍が小さくなるか、または、その増殖の速度が落ち着く、または減少する。腫瘍のサイズの減少が、少なくとも10%、好ましくは少なくとも20%、30%、または50%(例えば、30%まで、50%まで、75%まで、または100%まで)であることが好ましい。増殖低下のレベルについても同様であることが好ましい。
【0100】
本発明で治療される対象は、哺乳類のことをいい、例えば、ウシ、ウマ、ヒツジ、ブタ、またはヤギなどの家畜や、ウサギ、ネコ、またはイヌなどのペット動物、サル、チンパンジー、ゴリラ、またはヒトなどの霊長類である。最も好ましくは、対象はヒトである。対象は、癌を患っているか、または、癌を患っている疑いのある、いずれの動物(好ましくはヒト)であってもよい。したがって、対象は、癌治療の必要のある個体である。
【0101】
本発明は、したがって、対象における癌を治療する方法を提供し、前記方法は、ヒトAnx-A1に結合する特異的結合分子を前記対象に投与することを含む、とみなされてよい。前記治療、癌、対象、および/または特異的結合分子は、上記に定義された通りであればよい。
【0102】
同様に、本発明は、対象における癌の治療用の薬品の製造での、ヒトAnx-A1に結合する特異的結合分子の使用を提供する、とみなされてよい。前記治療、癌、対象、および/または特異的結合分子は、上記に定義された通りであればよい。
【0103】
他の態様において、本発明は、上記に定義されたようなヒトAnx-A1に結合する特異的結合分子と、化学療法剤とを含むキットを提供する。適切な化学療法剤は、上述されている。特異的結合分子と化学療法剤とは、別々の容器に提供されてもよく、すなわち、別々の組成物で提供されてもよく、もしくは、単一の組成物で単一の容器に提供されてもよい。各治療薬は、適切な形態で提供されればよく、例えば、水溶液として、または、凍結乾燥物として提供されてもよい。
【0104】
他の態様において、本発明は、対象における癌の治療に別々に、同時にもしくは逐次的に使用するための、上記で定義されたような、ヒトAnx-A1に結合する特異的結合分子と、第2の治療薬とを含む製品を提供する。第2の治療薬、癌および/または対象は、上記に定義された通りであればよい。特定の実施形態において、第2の治療薬は化学療法剤である。特異的結合分子と第2の治療薬とは、別々の容器に提供されてもよく、すなわち、別々の組成物で提供されてもよく、もしくは、単一の組成物で単一の容器に提供されてもよい。各治療薬は、適切な形態で提供されればよく、例えば、水溶液として、または、凍結乾燥物として提供されてもよい。
【0105】
本願において引用される文献は、すべて、参照によりその全体が本明細書に援用される。
【0106】
本発明は、以下の限定しない実施例を参照することによって、さらに理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0107】
【
図1】
図1は、乳癌細胞株MCF7の増殖に対する抗Anx-A1抗体L1M2H4および抗Anx-A1抗体L2M2H2の効果を示す。エラーバーは、平均値の標準誤差を示す。
【
図2】
図2は、乳癌細胞株HCC1806の増殖に対する抗Anx-A1抗体L1M2H4および抗Anx-A1抗体L2M2H2の効果を示す。エラーバーは、平均値の標準誤差を示す。
【
図3】
図3は、卵巣癌細胞株A2780の増殖に対する抗Anx-A1抗体L1M2H4および抗Anx-A1抗体L2M2H2の効果を示す。エラーバーは、平均値の標準誤差を示す。
【
図4】
図4は、卵巣癌細胞株A2780cisの増殖に対する抗Anx-A1抗体L1M2H4および抗Anx-A1抗体L2M2H2の効果を示す。エラーバーは、平均値の標準誤差を示す。
【
図5】
図5は、卵巣癌細胞株A2780ADRの増殖に対する抗Anx-A1抗体L2M2H2の効果を示す。エラーバーは、平均値の標準誤差を示す。
【
図6】
図6は、膵臓癌細胞株MIA PaCa-2の増殖に対する抗Anx-A1抗体L1M2H4および抗Anx-A1抗体L2M2H2の効果を示す。エラーバーは、平均値の標準誤差を示す。
【
図7】
図7は、膵臓癌細胞株BxPC-3の増殖に対する抗Anx-A1抗体L1M2H4および抗Anx-A1抗体L2M2H2の効果を示す。エラーバーは、平均値の標準誤差を示す。
【
図8】
図8は、乳癌細胞株HCC1806の増殖に対する抗Anx-A1抗体MDX-124および抗Anx-A1抗体ab65844の効果を示す。非特異的なコントロールIgGの影響も示されている。エラーバーは、平均値の標準誤差を示す。
【
図9】
図9は、乳癌細胞株MCF7の増殖に対する抗Anx-A1抗体MDX-124および非特異的なコントロールIgGの効果を示す。エラーバーは、平均値の標準誤差を示す。
【
図10】
図10は、タモキシフェン耐性乳癌細胞株MCF-7/TAMR7の増殖に対する抗Anx-A1抗体MDX-124および非特異的なコントロールIgGの効果を示す。エラーバーは、平均値の標準誤差を示す。
【
図11】
図11は、卵巣癌細胞株A2780の増殖に対する抗Anx-A1抗体MDX-124および抗Anx-A1抗体ab65844の効果を示す。非特異的なコントロールIgGの影響も示されている。エラーバーは、平均値の標準誤差を示す。
【
図12】
図12は、大腸癌細胞株HCT116の増殖に対する抗Anx-A1抗体MDX-124および抗Anx-A1抗体ab65844の効果を示す。非特異的なコントロールIgGの影響も示されている。エラーバーは、平均値の標準誤差を示す。
【
図13】
図13は、大腸癌細胞株Caco-2の増殖に対する抗Anx-A1抗体MDX-124および非特異的なコントロールIgGの効果を示す。エラーバーは、平均値の標準誤差を示す。
【
図14】
図14は、大腸癌細胞株SW480の増殖に対する抗Anx-A1抗体MDX-124および非特異的なコントロールIgGの効果を示す。エラーバーは、平均値の標準誤差を示す。
【
図15】
図15は、膵臓癌細胞株BxPC-3の増殖に対する抗Anx-A1抗体MDX-124および抗Anx-A1抗体ab65844の効果を示す。非特異的なコントロールIgGの影響も示されている。エラーバーは、平均値の標準誤差を示す。
【
図16】
図16は、膵臓癌細胞株MIA PaCa-2の増殖に対する抗Anx-A1抗体MDX-124および非特異的なコントロールIgGの効果を示す。エラーバーは、平均値の標準誤差を示す。
【
図17】
図17は、膵臓癌細胞株PANC-1の増殖に対する抗Anx-A1抗体MDX-124および非特異的なコントロールIgGの効果を示す。エラーバーは、平均値の標準誤差を示す。
【
図18】
図18は、肺癌細胞株COR-L23の増殖に対する抗Anx-A1抗体MDX-124および抗Anx-A1抗体ab65844の効果を示す。非特異的なコントロールIgGの影響も示されている。エラーバーは、平均値の標準誤差を示す。
【
図19】
図19は、アドリアマイシン耐性肺癌細胞株COR-L23.5010の増殖に対する抗Anx-A1抗体MDX-124および非特異的なコントロールIgGの効果を示す。エラーバーは、平均値の標準誤差を示す。
【
図20】
図20は、乳癌のマウスモデルにおけるMDX-124による治療の結果を示す。当図は4つの治療群について平均腫瘍体積を示す。第1群は、コントロール群であり、投与量分の媒質(PBS)のみを投与した。第2群には、投与量1mg/kgのMDX-124を投与し、第3群には、投与量10mg/kgのMDX-124を投与し、第4群には、投与量25mg/kgのMDX-124を投与した。エラーバーは、平均値の標準誤差を示す。
【
図21】
図21は、乳癌のマウスモデルにおけるMDX-124による治療の結果を示す。当図は4つの治療群について平均相対腫瘍体積を示す。第1群は、コントロール群であり、投与量分の媒質(PBS)のみを投与した。第2群には、投与量1mg/kgのMDX-124を投与し、第3群には、投与量10mg/kgのMDX-124を投与し、第4群には、投与量25mg/kgのMDX-124を投与した。最初の治療投与の日である12日目の腫瘍体積を、ベースラインの腫瘍体積、つまり、相対腫瘍体積100%と定義する。提示された相対腫瘍体積は、したがって、12日目の体積に基づくパーセンテージとしての各腫瘍の体積に対応する。
【0108】
実施例
実施例1―細胞の増殖に対する抗体の効果
材料
細胞株MCF7、細胞株MCF―7/TAMR7、細胞株A2780、細胞株A2780cis、細胞株A2780ADR、細胞株HCT116、細胞株Caco-2、細胞株SW480、細胞株COR-L23、細胞株COR-L23.5010、細胞株MIA-PaCa-2、細胞株PANC-1、および細胞株BxPC-3は、Public Health England Culture Collectionsから入手した。細胞株HCC1806は、ATCCから入手した。MCF7は、エストロゲン受容体とプロゲステロン受容体とに陽性であるヒト乳腺癌細胞株である。MCF-7/TAMR7は、MCF7のタモキシフェン耐性誘導体である。HCC1806は、トリプルネガティブヒト乳癌細胞株である。A2780は、ヒト卵巣癌細胞株であり、A2780cisは、シスプラチン耐性ヒト卵巣癌細胞株(A2780由来)である。A2780ADRは、アドリアマイシン耐性ヒト卵巣癌細胞株(A2780由来)である。MIA PaCa-2は、ヒト膵癌細胞株である。BxPC-3は、ヒト膵臓腺癌細胞株である。PANC-1は、ヒト膵臓類上皮癌細胞株である。Caco-2は、ヒト結腸直腸腺癌(colorectal carcinoma)細胞株である。HCT116は、ヒト結腸直腸癌細胞株である。SW480は、ヒト結腸直腸腺癌(colorectal adenocarcinoma)細胞株である。COR-L23は、ヒト肺大細胞癌細胞株である。COR-L23.5010は、COR-L23のアドリアマイシン耐性誘導体である。
L1M2H4抗Anx-A1抗体およびL2M2H2抗Anx-A1抗体は、WO2018/146230に開示され、配列は本明細書に記載されている。L1M2H4抗体は、配列番号13に示すアミノ酸配列を有する軽鎖と、配列番号14に示すアミノ酸配列を有する重鎖とを有する。L2M2H2抗体は、配列番号15に示すアミノ酸配列を有する軽鎖と、配列番号16に示すアミノ酸配列を有する重鎖とを有する。
抗Anx-A1抗体ab65844は、アブカム(Abcam)社(英国)から入手した。前記抗体は、ヒトAnx-A1アミノ酸3-24(配列番号30)に結合するポリクローナルウサギ抗体である。このエピトープ配列は、Ca2+非存在下でAnx-A1のコアのポケット内で結合する、Anx-A1のN末端領域の一部を形成する。これは上述した通りである。
【0109】
方法
細胞培養
初期増殖アッセイにおいて、細胞を下記培地で培養した。DMEM+グルタマックス、10%のFBS+ペニシリン/ストレプトマイシン(MCF7、MIA PaCa-2、HCC1806)、PRMI1640+2mMのL-glu,10%のFBS+ペニシリン/ストレプトマイシン(BxPc-3、A2780)。A2780cisおよびA2780ADRは、A2780と同一の増殖培地で培養されたが、様々な培養の段階で、薬剤耐性を維持するためにそれぞれの薬剤を含有した(すなわち、A2780cisはシスプラチンを、A2780ADRはアドリアマイシンを含有した)。
さらなる増殖アッセイにおいて、細胞を下記培地、下記条件下で培養した。
MCF7、HCC1806、MIA PaCa-2、PANC-1を、10%のFBS、1%のペニシリン/ストレプトマイシン、および1%のL-グルタミンを含有するDMEM中で培養。
MCF7/TAMR7を、1%のFBS、1%のペニシリン/ストレプトマイシン、1%のL-グルタミン、および1%のインスリンを含有するフェノールレッド不含のDMEM/F12中で培養。
A2780、COR-L23,COR-L23.5010、およびBxPC-3を、10%のFBS、1%のペニシリン/ストレプトマイシン、および1%のL-グルタミンを含有するRPMI中で培養。
HCT116を、10%のFBS、1%のペニシリン/ストレプトマイシン、および1%のL-グルタミンを含有するMcCoy’s5A中で培養。
SW480を、10%のFBS、1%のペニシリン/ストレプトマイシン、および1%のL-グルタミンを含有するL-15中で培養。
Caco-2を、10%のFBS、1%のペニシリン/ストレプトマイシン、1%のL-グルタミン、および1%の非必須アミノ酸溶液を含有するMEM中で培養。
さらに、COR-L23.5010を、アドリアマイシンの存在下で培養し、薬剤耐性を維持させた。細胞株はすべて、37℃で、5%のCO2を含む雰囲気中で培養した。
【0110】
細胞増殖アッセイ
細胞の増殖は、細胞代謝活性を測定するためにMTT比色アッセイを用いて測定した。このアッセイでは、NADPH依存性細胞酸化還元酵素が、黄色テトラゾリウム色素、つまりMTTを、還元して不溶性紫色ホルマザン生成物とし、分光光度計を用いて500~600nmでの吸光度を測定することによって、これを定量する。ホルマザンの量は、細胞増殖のレベルに比例し、急速に分裂する細胞は、より高いレベルのMTTを還元する。アッセイは3回行った。細胞は、100μLの最終体積で播種した。
初期増殖アッセイにおいて、細胞は下記の密度で播種した。1×105/mL(MCF7、MIA PaCa-2、およびn=2のA2780cis)、2×105/mL(A2780、A2780ADR、およびn=1のA2780cis)、5×104/mL(HCC1806)および2.5×104/mL(BxPC-3)。
さらなる増殖アッセイにおいて、細胞は下記の密度で播種した。
MCF7、HCC1806、A2780、A2780、A2780cis、COR-L23、およびHCT116の細胞を、5×103/ウェルずつ播種し、
MCF7/TAMR7、COR-L23.5010、SW480、Caco-2、MIA PaCa-2、BxPC-3、およびPANC-1の細胞を、1×104/ウェルずつ播種した。
そして細胞をアッセイ前に24時間培養し、その後細胞増殖を測定した。細胞増殖は、下記プロトコルのうちの一つにしたがって測定した。
(a)抗体非存在下(コントロールとして)、抗体(L1M2H4またはL2M2H2)を1μM加えて、または抗体(L1M2H4またはL2M2H2)を10μM加えて、48時間培養した。MTTアッセイは、最大3回別々に、様々な癌細胞株で行われた(初期増殖アッセイ)。または、
(b)抗体非存在下、または2.5μM、5μM、7.5μM、または10μMの濃度の抗体存在下で72時間培養した。このプロトコルで用いられた抗体は、L1M2H4(本明細書においてはMDX-124とも称される),市販の抗Anx-A1抗体ab65844、およびアイソタイプコントロールとしての非Anx-A1特異的IgG(サーモフィッシャーサイエンティフィック社、米国、カタログ番号31154)であった(さらなる増殖アッセイ)。
コントロール培養の細胞数は、増殖アッセイ用のベースラインカウントと定められた。抗体がある培養の細胞のカウントは、ベースラインを基準に標準化し、ベースライン値のパーセンテージとして提示した(“生存率”と称する)。細胞増殖アッセイ結果の統計的な分析は、マン・ホイットニーのU検定を用いて行われた。
【0111】
ELISA
ELISAは、標準的なELISA技術を用いてThe Antibody Company社(英国)によって行われた。25μg/mlの全長Anx-A1またはAnx-A1 N末端ペプチド(Anx-A1アミノ酸2-26、配列番号31に対応)、およびコーティング緩衝液(1mM CaCl2を添加した45mM Na2CO3、pH9.6)を用いて、4℃で17時間、ELISAプレートをコーティングした。その後、ブロッキング緩衝液(1mM CaCl2、10mM HEPES、2%w/v BSA)を用いて、室温で1.5時間、プレートのブロッキングを行った。
次いで、一次抗体(ab65844)をプレートに加えた。抗体は、プレートの全体に4倍希釈で2回塗布した。すなわち、1μg/mlの濃度から始まって、最後は2.38×10-7μg/mlの濃度とした。0.1 BSAを添加した洗浄緩衝液(10mM HEPES,150mM NaCl、0.05%(v/v) Tween-20、および1mM CaCl2)で抗体を希釈した。一次抗体を、プレートに室温で1時間添加した後、洗浄緩衝液を用いてプレートを洗浄した。
次いで、検出抗体を加えた。検出には、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)結合ヤギ抗ウサギ抗体(メルク社、ドイツ、カタログ番号AP156P)を、1:3000に希釈して用いた。これを、室温で1時間、ELISAプレートに加えた。その後、再度、洗浄緩衝液を用いてELISAプレートを洗浄した。
次に、比色用基質であるOPD(o-フェニレンジアミン二塩酸塩、シグマ・アルドリッチ社、P4664)をプレートに加えた。OPD溶液を製造者の説明書にしたがって作製し、リン酸-クエン酸緩衝液(pH5)を用いた0.4mg/ml OPD溶液を得た。使用直前に、OPD溶液100mlあたり40μlの30% H2O2を加えた。その後、得られたOPD溶液100μlを、プレートの各ウェルに加えた。
室温、暗所で20分間、プレートをインキュベートし、その後、50μlの3M H2SO4を加えて反応を停止させた。H2SO4の添加直後に、プレートの492nmにおける吸光度を読み取った。
【0112】
結果
市販の抗Anx-A1抗体ab65844をELISAによって調べ、その報告されたエピトープの結合を確認した。このアッセイは、抗体ab65844は全長Anx-A1にも、N末端Anx-A1ペプチドにも結合することを示し(データは示していない)、ヒトAnx-A1(配列番号30)のアミノ酸3-24の報告されたエピトープが正しいことを示している。
【0113】
初期増殖アッセイ
初めの増殖アッセイは、48時間にわたって増殖を測定し、2つの抗体、すなわち抗体L1M2H4と抗体L2M2H2の、当該細胞株への効果を、抗体が無い状態での(すなわち、上記のプロトコル(a)を用いた)インキュベーションと比較した。
乳癌細胞株についてのこれら増殖アッセイの結果を
図1および
図2に示す。図示されたように、L1M2H4抗体は、10μMで統計的に有意な効果(p<0.001)を有し、MCF7細胞の増殖を低減した。ただしこれはn=1である。HCC1806細胞株において、L2M2H2抗体もまた、10μMで、十分に有意に増殖を減少させた(p<0.05)(n=2)。
卵巣癌細胞株A2780の増殖アッセイの結果を、
図3に示す。図示されたように、L1M2H4抗体とともにインキュベーションすると、10μMで、十分に有意な増殖の減少が見られた(p<0.01)(n=2)。シスプラチン耐性卵巣癌細胞株、A2780cis(
図4)では、L1M2H4抗体とともにインキュベーションすると、1μM(p<0.001)および10μM(p<0.01)で、統計的に有意な増殖の減少が見られ(n=2)、L2M2H2抗体を使用すると10μMで、十分に有意な増殖の減少が見られた(p<0.05)(n=3)。アドリアマイシン耐性の卵巣癌細胞株A2780ADRの増殖アッセイの結果を、
図5に示す。L2M2H2抗体は、これら細胞の増殖に対して有意な効果を有していた。
膵臓癌細胞株の増殖アッセイの結果を、
図6および
図7に示す。
【0114】
さらなる増殖アッセイ
前記増殖アッセイを繰り返し、72時間かけて増殖を測定した。これらアッセイは、本発明のある抗体(L1M2H4,MDX-124としても知られる)の効果を、非特異的IgGコントロールの増殖に対する効果と比較し、記載のある場合は市販の抗Anx-A1抗体ab65844の増殖に対する効果と比較した。抗体非存在下での増殖に対する比較も行い、ベースラインとして使用した。実験はすべて3回行った(MDX-124とIgGコントロールについて3回行い、ab65844も調べられた場合については、この抗体を用いた実験は2回行った。)
【0115】
MDX-124がHCC1806乳癌細胞株の増殖に有意な効果をもち、ベースラインと比較して生存率をほぼ三分の二(63%)減少させることがわかった(
図8)。非特異的IgGコントロールは、生存率に影響をもたなかった。非特異的IgGコントロールと比較して、MDX-124は、調べられた濃度のすべてにおいて、HCC1806の細胞の生存率に統計的に有意な減少を引き起こすことがわかり、P値は<0.001(抗体濃度が2.5μMの時)、または<0.0001(すべての抗体濃度で)であった。特に、ポリクローナル抗Anx-A1抗体ab65844は、実際には細胞の生存率を(ひいては増殖を)増大させた。確かに、抗体の濃度のすべてにおいて、MDX-124はab65844と比較して、HCC1806の細胞の生存率に統計的に有意な減少を引き起こすことがわかり、P値は<0.01(抗体濃度が2.5μMの時)、または<0.001(すべての抗体濃度で)であった。この結果は、MDX-124がHCC1806細胞の(生存率に有意の減少を引き起こして)増殖を阻害することを表している。しかしながら、すべての抗Anx-A1抗体について、この効果が見られるわけではない。ab65844は細胞の生存率について反対の効果を有するからである。
【0116】
MDX-124はまた、乳癌細胞株MCF7と、そのタモキシフェン耐性誘導体の増殖にも有意の効果があることがわかった(それぞれ
図9および
図10)。どちらの例でも、非特異的IgGコントロールによる増殖の減少はせいぜい26%であった。MDX-124は最大濃度では、MCF7細胞の生存率に有意の76%の減少を引き起こし、また、タモキシフェン耐性誘導体MCF7細胞の生存率に有意の(より低くはあるが)47%の減少を引き起こした。非特異的IgGコントロールと比較して、MDX-124は、調べられた濃度のすべてにおいて、MCF7細胞の生存率に統計的に有意な減少を引き起こすことがわかり、P値は<0.0001であった。非特異的IgGコントロールと比較して、MDX-124はまた、5μMおよび7.5μMの濃度、ならびに10μMの濃度で、MCD7/TAMR7の細胞の生存率に統計的に有意な減少を引き起こすことがわかった。P値はそれぞれ、5μMおよび7.5μMの濃度でP<0.01、10μMの濃度でP<0.05であった。これらの結果はMDX-124が、トリプルネガティブ細胞株と、ホルモン受容体陽性細胞株との両方で、乳癌細胞の増殖を阻害する効果が高いことを示している。この抗体はまた、薬剤耐性乳癌に対しても効果がある。この効果は、MDX-124に対して特異的であり、抗Anx-A1抗体すべてに見られるわけではない。
【0117】
同様に、MDX-124が卵巣癌細胞株A2780の増殖に有意な効果をもつことがわかった(
図11)。非特異的IgGが増殖を減少させるのはせいぜい30%(最大濃度で)である一方で、MDX-124は増殖に対して二倍以上の効果を有した(最大濃度で増殖に61%の減少を引き起こした)。非特異的IgGコントロールと比較して、MDX-124はまた、5μMおよび7.5μMの濃度、ならびに10μMの濃度で、A2780の細胞の生存率に統計的に有意な減少を引き起こすことがわかった。P値はそれぞれ、5μMおよび7.5μMの濃度でP<0.05、10μMの濃度でP<0.01であった。また、ポリクローナル抗Anx-A1抗体ab65844についてもこの効果は見られず、増殖に対して有意な影響を与えなかった。この抗体については、低濃度(5μM以下)でわずかに増殖が増大するが、最大濃度では5%という控えめな増殖の減少が見られる。確かに、5μM、7.5μM、および10μMという抗体の濃度で、MDX-124はab65844と比較して、A2780の細胞の生存率に統計的に有意な減少を引き起こすことがわかり、P値は<0.001であった。
【0118】
MDX-124はまた、大腸癌細胞の増殖にかなりの影響を有することが分かった(
図12~14)。HCT116細胞株の増殖の結果を、
図12に示す。MDX-124は、これらの細胞の増殖を半分強に減少させる(最大濃度で増殖を最大54%減少させる)。非特異的IgGコントロールは、増殖に対して実際の影響が無く、ポリクローナル抗Anx-A1抗体ab65844は、異なる濃度では異なる影響を及ぼしていた。非特異的IgGコントロールと比較して、MDX-124は、調べられた濃度のすべてにおいて、HCT116の細胞の生存率に統計的に有意な減少を引き起こすことがわかり、P値は<0.001(抗体濃度が2.5μMおよび7.5μMの時)、または<0.0001(抗体濃度が5μMおよび10μMの時)であった。ab65844についてのデータはわずかに矛盾しているが、この抗体が癌細胞の増殖をさらに促進させるという一般的傾向がある。その一方で、ab65844と比較して、MDX-124は、HCT116の細胞の生存率に、抗体濃度2.5μMで、また抗体濃度5μMおよび10μMで、統計的に有意な減少を引き起こすことがわかった。濃度2.5μMではP<0.01、抗体濃度5μMおよび10μMでは、どちらもP<0.001であった。どのデータポイントでも、ab65844が増殖の減少を引き起こすことは示唆されない。
【0119】
細胞株Caco-2を用いた場合の結果(
図13)と、SW480を用いた場合の結果(
図14)とからは同様のことがわかった。すなわち、MDX-124は有意に増殖の減少を引き起こし、一方で、非特異的IgGコントロールはせいぜい最小限の影響を有するだけである。非特異的IgGコントロールと比較して、MDX-124は、調べられた濃度のすべてにおいて、Caco-2の細胞の生存率に統計的に有意な減少を引き起こすことがわかり、P値は<0.05(抗体濃度が2.5μMおよび5μMの時)、または<0.001(抗体濃度が7.5μMおよび10μMの時)であった。非特異的IgGコントロールと比較して、MDX-124は、調べられた濃度のすべてにおいて、SW480の細胞の生存率に統計的に有意な減少を引き起こすことがわかり、P値は<0.01(抗体濃度が2.5μMの時)、または<0.0001(調べられた抗体濃度すべてで)であった。MDX-124は大腸癌細胞の増殖の阻害に非常に効果的があることを、これらの結果が示している。この効果もまた、MDX-124に対して特異的であり、抗Anx-A1抗体すべてに見られるわけではない。
【0120】
膵臓癌細胞株へのMDX-124の影響を、
図15~17に示す。細胞株BxPC-3へのMDX-124の影響を、
図15に示す。MDX-124はまた、細胞増殖に有意の影響を有し、最大濃度では増殖を半減させる。非特異的IgGコントロールは増殖に対して最小限の影響を有するのみであったが、ポリクローナル抗Anx-A1抗体ab65844はここでもまた増殖を有意に増大させた。非特異的IgGコントロールと比較して、MDX-124は、調べられた濃度のすべてにおいて、BxPC-3の細胞の生存率に統計的に有意な減少を引き起こすことがわかり、P値は<0.001(抗体濃度が2.5μMの時)、または<0.0001(調べられた抗体濃度すべてで)であった。ab65844と比較して、MDX-124は、BxPC-3の細胞の生存率に統計的に有意な減少を引き起こすことがわかり、P値は調べられた抗体濃度すべてで<0.001であった。
【0121】
細胞株MIA PaCa-2およびPANC-1へのMDX-124の影響を、それぞれ
図16および
図17示す。どちらの例でも、MDX-124は増殖にほぼ半分という有意の減少を引き起こし、一方で非特異的IgGが生存率に引き起こす減少は大幅に小さい。非特異的IgGコントロールと比較して、MDX-124は、抗体濃度が5μMおよび10μMの時MIA PaCa-2の細胞の生存率に統計的に有意な減少を引き起こすことがわかり、P値は<0.05であった。非特異的IgGコントロールと比較して、MDX-124は、調べられた濃度のすべてにおいて、PANC-1の細胞の生存率に統計的に有意な減少を引き起こすことがわかり、P値は<0.05(抗体濃度が2.5μMの時)、または<0.001(調べられた抗体濃度すべてで)であった。
【0122】
肺癌細胞株COR-L23およびCOR-L23.5010へのMDX-124の影響を、それぞれ
図18および
図19に示す。MDX-124抗体が、増殖に対して控えめではあるが負の効果を有するが、非特異的IgGコントロールとポリクローナル抗Anx-A1抗体ab65844とは増殖に対して非常に小さい効果を示したことを、これらの結果は示している。他の肺癌細胞株でも同様の結果が得られた(データは示していない)。
【0123】
結論
MDX-124に暴露することにより、乳癌(トリプルネガティブ細胞株、ホルモン受容体陽性細胞株、および薬剤耐性細胞株を含む)、大腸癌、卵巣癌、肺癌、および膵臓癌からの細胞株の増殖が有意に減少した。
MDX-124の癌細胞増殖への影響は、抗体特異的であり、つまり同じ標的(Anx-A1)に対してすべての抗体が同じ影響を有するとは限らない。これは、ab65844が調べられた細胞株のいずれの増殖も有意に減少させることが無く、むしろ多くの場合、増殖を増大させたという事実によって示されている。MDX-124を使用した場合に見られた増殖の有意な減少を、非特異的IgGコントロールが起こすことも無かった。
【0124】
実施例2―エピトープ判定
HDX解析は、L1M2H4抗体を用いて、ドイツ、チュービンゲン大学の自然科学医学研究所(Natural and Medical Sciences Institute)(NMI)にて行った。
【0125】
サンプル調製および分析
抗体―抗原複合体形成および水素―重水素交換
抗体-抗原サンプルの5つのアリコート、および抗体を伴わない抗原の5つのアリコートを、下記のように調製した:0.8μLのAnx-A1(41μM)と、1.8μLの抗体(38.7μM)またはHEPES緩衝液(10mM HEPES,1mM CaCl2,150mM NaCl、pH7.4)をそれぞれと、1μLのHEPES緩衝液と、0.5μLのCaCl2(8mM)とを混合し、10分間20℃でインキュベートした。8.5μLのHEPES緩衝液を添加して、塩含有量を調整した。この抗体-抗原複合体を0℃で一晩、その後15℃で2時間、凍結乾燥させて、水分をできるだけ取り除いた。10個の凍結乾燥アリコートを、HDX交換とLC-MS分析まで-20℃で凍結した。各抗体-抗原複合体と、抗体を伴わない抗原とは、アリコート一つずつを12.5μlのH2O中で可溶化し、その他を12.5μLのD2Oで可溶化した。各アリコートを分析直前に別々に調製し、アリコートを下記時間インキュベートした。
0分間(H2O標準サンプル);
5分間、70分間、360分間、および24時間(D2O重水素交換動的サンプル)。
用意したて(freshly prepared)のクエンチング溶液12.5μLを加えて、前記交換をクエンチした(塩酸グアニジンを0.8M、TCEPを0.4M、100mMの蟻酸アンモニウム緩衝液、pH2.5)。
【0126】
ペプシン消化
クエンチング溶液添加直後、0.35μLのペプシン(100μM)を加え、20℃で2分間消化を行った。アリコートをすぐに-20℃に予め冷却されたオートサンプラーバイアルに入れ、予め冷却された注射器を介して液体クロマトグラフィ質量分析(LC-MS)に注入した。
【0127】
LC-MS
得られたペプチド混合物を、逆相高速液体クロマトグラフィ(HPLC、RSLC3000 LC, Thermo Scientific Dionex, Idstein, Germany)を使用して前処理せずに注入して分離した。サンプルの分離には、LCカラム(ACQUITY UPLC BEH300 C18 1.7 μm 1x50mm Thermo Scientific Dionex, Idstein, Germany)を使用した。空試験運転と、カラム洗浄運転とを、連続したサンプル運転中に行った。
クロマトグラフィによる分離は、ほぼ均一濃度の勾配を31分間使用して行った。溶離液Aは、0.1%蟻酸を含む水であり、溶離液Bは、0.1%蟻酸を含むアセトニトリルであった。最適化した20分の直線勾配を、傾斜を変えて、0℃までの温度で次のように適用した(分/%B):0/8、3/8、11.9/20、31.9/20、33/99、34/99、35/8。手動注入を行った。注入量は、体積20μLのサンプルループを使用して、25.35μLであった。流速は40μL/minであった。HPLCの溶離液は、QTOF型の質量分析計(MaXis HD、ブルカー(Bruker)社)に直接注入した。質量分析計は陽イオンモードで動作し、スプレー電圧は1.9kV、キャピラリ温度は275℃、SレンズRF電圧は55Vであった。
【0128】
データ分析
データは、ソフトウェアHDExaminer2.40 beta1、64ビット(SierraAnalytics、米国カリフォルニア州モデスト市)を使用して解析した。簡単に言うと、異なる交換時点(exchange time points)を含む未処理データセットと、各時点について抗体を伴うAnx-A1の分析と抗体を伴わないAnx-A1の分析とを検討した。Anx-A1配列情報と、対応する保持時間と荷電を併記した消化性ペプチド(peptic peptides)の配列リストとを使用して、前記ソフトウェアにより、重水素交換されたペプチドと、重水素交換されていないペプチドとを識別し、重水素化ペプチドと非重水素化ペプチドとの重心質量の違いとしてペプチドごとの重水素取り込みを算出する。重複するペプチド情報(重複するペプチドの個々の質量シフト)を使用して、エピトープ領域を手動でさらに限定した。
【0129】
結果
HDExaminerを使用した初期データ評価の後、統計的に妥当な重水素取り込みについて個々の消化性ペプチド(peptic peptides)を手動で検証した。いくつかの重複するペプチドの場合、エピトープ領域は、重水素取り込みのあるペプチドのN末端部分およびC末端部分をカバーする、重水素取り込み無しのHDXデータを用いて、さらに限定した。全実験は、2回繰り返した。1回目の実験では、潜在的なエピトープ領域が識別されたが、統計的に妥当な重水素取り込みもまた、N末端を含む非常に長いペプチド中に観察された。構造的な観点からは、これはややフレキシブルである。2回目の実験では、エピトープ領域を確定可能であったが、N末端は重水素取り込みを示さなかった。
配列中の下線の領域は、抗体が結合するエピトープを指す。
MAMVSEFLKQAWFIENEEQEYVQTVKSSKGGPGSAVSPYPTFNPSSDVAALHKAIMVKGVDEATIIDILTKRNNAQRQQIKAAYLQETGKPLDETLKKALTGHLEEVVLALLKTPAQFDADELRAAMKGLGTDEDTLIEILASRTNKEIRDINRVYREELKRDLAKDITSDTSGDFRNALLSLAKGDRSEDFGVNEDLADSDARALYEAGERRKGTDVNVFNTILTTRSYPQLRRVFQKYTKYSKHDMNKVLDLELKGDIEKCLTAIVKCATSKPAFFAEKLHQAMKGVGTRHKALIRIMVSRSEIDMNDIKAFYQKMYGISLCQAILDETKGDYEKILVALCGGN(配列番号17)
【0130】
識別されたエピトープ領域は、Anx-A1の自己相互作用領域には無く、自己相互作用領域からのペプチドが、抗体-抗原複合体サンプル中により多くの重水素を取り込む傾向をわずかに示す。これは、2つのAnx-A1分子が抗体の2つのアームに結合する場合に、局所的にAnx-A1濃度がわずかに異なるためであろう。
【0131】
実施例3-MDX-124のインビボ抗癌活性
方法
忍容性試験
クラウン・バイオサイエンス社(米国)により、忍容性試験がなされた。マウスに2週間のあいだ、週1回、MDX-124を1mg/kg、10mg/kg、または29mg/kg、投与した。各マウスの体重を、実験期間中毎日測定した。体重の減少は、抗体のマウスに対する毒性を示すものと考えられよう。
【0132】
マウス乳癌モデル
クラウン・バイオサイエンス社(米国)により、マウスを使用した実験がなされた。使用されるマウスは、8~9週齢の雌のBALB/cマウスであった。使用された乳癌モデルには、ルシフェラーゼ発現マウス乳癌細胞株4T1-Lucが使用された。細胞株は、ATCCから入手し、10%のFBSと、2mMのL-グルタミンと、2μg/mlのピューロマイシンを含有するRPMI培地で培養した。
マウスは毛をそり、72時間後に個々のマウスの識別のためのトランスポンダ・チップを埋め込んだ。毛をそった後すぐにと、その後は腫瘍を接種するまで毎日、ベパンテンクリームを塗った。
各マウスには、まず、100μlのPBSに懸濁された4T1-Luc細胞を5×104個接種した。接種は、0日目に、マウスにガス麻酔をしながら、乳腺皮下脂肪(左下側、下から2番目の乳腺皮下脂肪)内に行った。接種部位の皮膚は、接種前に70%エタノールで消毒した。
【0133】
腫瘍のサイズの測定は、IVISスペクトルin vivoイメージングシステム(パーキンエルマー(PerkinElmer)社、米国)を使用し、5日目から開始して、週3回行った。電子ノギスを使用して、各腫瘍を二次元で測定するために、生物発光イメージングが用いられた。腫瘍体積は、式0.5(L×W2)を用いて推定した。式中、Lは腫瘍長さ、Wは腫瘍幅である。平均値腫瘍体積が50~60mm3に達した時に、治療を開始した。最初の腫瘍の測定の後、ベパンテンクリームを再度腫瘍のまわりの領域に塗った。ベパンテンクリームは、その後毎日塗った。
マウスは、グループ間で平均腫瘍体積が一定になるように、1グループに12体ずつ4グループに分けた。治療は、毎週投与することで行った。4つのマウスのグループうち、コントロールのグループには、媒質のみ(PBS)を投与した。3つ実験グループは、PBS中1mg/kg、10mg/kg、または25mg/kgのMDX-124の投与量を摂取した。各投与は、10ml/kgの体積で静脈内に投与した。治療は、最長3週間継続した。週3回の腫瘍の測定は、治療開始後も継続した。マウスの体重測定は、治療前は週3回、治療開始後は毎日行った。
【0134】
結果
MDX-124がマウスにとってもともと毒性があるかどうかを調べるために、忍容性試験を行った。マウスに抗体を投与し、その体重を監視した。明らかな体重減少はどのマウスにも見られず(データ示していない)、これは調査したどの投与量でも、抗体はマウスに対して毒性が無かったことを示している。
MDX-124の抗癌効果を、乳癌のマウスモデルで調べた。調べたマウスの各グループの平均腫瘍体積を、
図20に示す。0日目の腫瘍細胞の接種の後、最初の投与量(treatment dose)を、12日目にすべてのグループに投与した。図示されたように、調査17日目までに、MDX-124で治療されたマウスには、媒質で治療されたコントロールのマウスと比べて、腫瘍体積に有意の減少が見られた。コントロールグループにおいて益々腫瘍が成長する傾向は、19日目まで継続した。MDX-124で治療したグループでは腫瘍体積の減少がみられたが、これはまた、これらのグループの相対腫瘍体積の減少と対応していた(
図21参照)。
12日目の腫瘍体積を、ベースラインの腫瘍体積(つまり、相対腫瘍体積100%)と定義する。19日目までに、MDX-124で治療されたマウスの腫瘍は、約2.5倍のサイズに増大していた。コントロールのマウスの腫瘍は、約3.3倍のサイズに増大していた。これは、MDX-124での治療の結果、19日目までに、コントロールと比較して腫瘍の成長を約3分の1減少させたことを意味し、この抗体の抗癌効果を示している。異なる3つの濃度(1mg/kg、10mg/kgおよび25mg/kg)で抗体をマウスに投与したが、これらの治療投薬法のどれも、腫瘍の成長には同じような効果を有した(すなわち、投与された抗体の量を増やしても、治療の効果が上りはしなかったように見える)。
【配列表】