(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-29
(45)【発行日】2024-02-06
(54)【発明の名称】クライオポンプおよび極低温冷凍機防振構造
(51)【国際特許分類】
F04B 37/08 20060101AFI20240130BHJP
【FI】
F04B37/08
(21)【出願番号】P 2021511224
(86)(22)【出願日】2020-02-26
(86)【国際出願番号】 JP2020007668
(87)【国際公開番号】W WO2020202910
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2023-01-18
(31)【優先権主張番号】P 2019070799
(32)【優先日】2019-04-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】中西 嵩裕
【審査官】松浦 久夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-193993(JP,A)
【文献】特表昭63-501519(JP,A)
【文献】特開2004-225722(JP,A)
【文献】特表平09-506400(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04B 37/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クライオポンプ真空容器と、
極低温冷凍機と、
前記クライオポンプ真空容器に固定された第1フランジと、
前記極低温冷凍機に固定され、前記第1フランジと気密に接続された第2フランジと、
前記第1フランジから前記第2フランジに向かって、第1環状防振材料、第1環状支持部材、中間環状防振材料、第2環状支持部材、第2環状防振材料がこの記載の順に配置された環状積層防振体と、を備え、
前記第1フランジおよび前記第2環状支持部材が前記第2フランジおよび前記第1環状支持部材から振動絶縁されるように、前記第2環状支持部材が前記第1フランジに固定されるとともに前記第1環状支持部材が前記第2フランジに固定されていることを特徴とするクライオポンプ。
【請求項2】
前記第1フランジと前記第2環状支持部材との間に前記第1環状防振材料、前記第1環状支持部材、前記中間環状防振材料を挟み込んで保持するように前記第2環状支持部材を前記第1フランジに固定する第1締結部材と、
前記第2フランジと前記第1環状支持部材との間に前記中間環状防振材料、前記第2環状支持部材、前記第2環状防振材料を挟み込んで保持するように前記第1環状支持部材を前記第2フランジに固定する第2締結部材と、をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載のクライオポンプ。
【請求項3】
前記第1締結部材は、前記第1環状支持部材および前記第2フランジとは非接触に配置され、
前記第2締結部材は、前記第2環状支持部材および前記第1フランジとは非接触に配置されることを特徴とする請求項2に記載のクライオポンプ。
【請求項4】
前記第1環状支持部材は、前記第1締結部材よりも大径の第1挿通孔を有し、
前記第2環状支持部材は、前記第2締結部材よりも大径の第2挿通孔を有することを特徴とする請求項2または3に記載のクライオポンプ。
【請求項5】
前記中間環状防振材料は、前記環状積層防振体の中心軸方向において前記第1環状防振材料に比べて厚いことを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のクライオポンプ。
【請求項6】
前記第1フランジと前記第2フランジの間には真空シール部が形成され、前記環状積層防振体は、前記真空シール部の径方向外側に配置されていることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載のクライオポンプ。
【請求項7】
前記第1フランジは、第1フランジ筒部を有し、前記第2フランジは、第2フランジ筒部を有し、前記第1フランジ筒部と前記第2フランジ筒部のうち一方が他方に挿入され、
前記真空シール部は、前記第1フランジ筒部と前記第2フランジ筒部の間に配置されたシール部材を備えることを特徴とする請求項6に記載のクライオポンプ。
【請求項8】
前記真空シール部としてのベローズをさらに備え、前記第1フランジと前記第2フランジが前記ベローズで接続されていることを特徴とする請求項6に記載のクライオポンプ。
【請求項9】
前記環状積層防振体は、互いに環状に結合され、または環状に並べられて、前記環状積層防振体を形成する複数の部分からなることを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載のクライオポンプ。
【請求項10】
真空容器と極低温冷凍機との間に装着される極低温冷凍機防振構造であって、
前記真空容器に固定される第1フランジと、
前記極低温冷凍機に固定され、前記第1フランジと気密に接続された第2フランジと、
前記第1フランジから前記第2フランジに向かって、第1環状防振材料、第1環状支持部材、中間環状防振材料、第2環状支持部材、第2環状防振材料がこの記載の順に配置された環状積層防振体と、を備え、
前記第1フランジおよび前記第2環状支持部材が前記第2フランジおよび前記第1環状支持部材から振動絶縁されるように、前記第2環状支持部材が前記第1フランジに固定されるとともに前記第1環状支持部材が前記第2フランジに固定されていることを特徴とする極低温冷凍機防振構造。
【請求項11】
前記第1フランジと前記第2環状支持部材との間に前記第1環状防振材料、前記第1環状支持部材、前記中間環状防振材料を挟み込んで保持するように前記第2環状支持部材を前記第1フランジに固定する第1締結部材と、
前記第2フランジと前記第1環状支持部材との間に前記中間環状防振材料、前記第2環状支持部材、前記第2環状防振材料を挟み込んで保持するように前記第1環状支持部材を前記第2フランジに固定する第2締結部材と、をさらに備えることを特徴とする請求項10に記載の極低温冷凍機防振構造。
【請求項12】
前記第1締結部材は、前記第1環状支持部材および前記第2フランジとは非接触に配置され、
前記第2締結部材は、前記第2環状支持部材および前記第1フランジとは非接触に配置されることを特徴とする請求項11に記載の極低温冷凍機防振構造。
【請求項13】
真空容器と極低温冷凍機との間に装着される極低温冷凍機防振構造であって、
前記真空容器に固定される第1フランジと、
前記極低温冷凍機に固定され、前記第1フランジと気密に接続された第2フランジと、
前記第1フランジから前記第2フランジに向かって、第1防振材料、第1支持部材、中間防振材料、第2支持部材、第2防振材料がこの記載の順に配置された積層防振体と、
前記第2支持部材を前記第1フランジに固定する第1固定部材であって、前記第1防振材料および前記中間防振材料を支持する第1支持構造を、前記第1フランジおよび前記第2支持部材とともに形成する第1固定部材と、
前記第1支持部材を前記第2フランジに固定する第2固定部材であって、前記中間防振材料および前記第2防振材料を支持する第2支持構造を、前記第2フランジおよび前記第1支持部材とともに形成する第2固定部材と、を備え、
前記第1支持構造と前記第2支持構造とは、前記第1防振材料、前記中間防振材料、および前記第2防振材料によって互いに振動絶縁されていることを特徴とする極低温冷凍機防振構造。
【請求項14】
前記第1固定部材は、前記第1支持部材および前記第2フランジとは非接触に配置され、
前記第2固定部材は、前記第2支持部材および前記第1フランジとは非接触に配置されることを特徴とする請求項13に記載の極低温冷凍機防振構造。
【請求項15】
前記第1固定部材は、前記第1フランジと前記第2支持部材との間に前記第1防振材料、前記第1支持部材、前記中間防振材料を挟み込んで保持するように前記第2支持部材を前記第1フランジに固定する第1締結部材を備え、
前記第2固定部材は、前記第2フランジと前記第1支持部材との間に前記中間防振材料、前記第2支持部材、前記第2防振材料を挟み込んで保持するように前記第1支持部材を前記第2フランジに固定する第2締結部材を備えることを特徴とする請求項13または14に記載の極低温冷凍機防振構造。
【請求項16】
前記第1フランジと前記第2フランジの間には真空シール部が形成され、前記積層防振体は、前記真空シール部の径方向外側に配置されていることを特徴とする請求項13から15のいずれかに記載の極低温冷凍機防振構造。
【請求項17】
前記第1フランジは、第1フランジ筒部を有し、前記第2フランジは、第2フランジ筒部を有し、前記第1フランジ筒部と前記第2フランジ筒部のうち一方が他方に挿入され、
前記真空シール部は、前記第1フランジ筒部と前記第2フランジ筒部の間に配置されたシール部材を備えることを特徴とする請求項16に記載の極低温冷凍機防振構造。
【請求項18】
前記真空シール部としてのベローズをさらに備え、前記第1フランジと前記第2フランジが前記ベローズで接続されていることを特徴とする請求項16に記載の極低温冷凍機防振構造。
【請求項19】
複数の積層防振体が、互いに環状に結合され、または環状に並べられていることを特徴とする請求項13から18のいずれかに記載の極低温冷凍機防振構造。
【請求項20】
請求項13から19のいずれかに記載の極低温冷凍機防振構造と、
クライオポンプ真空容器と、
極低温冷凍機と、を備え、
前記第1フランジは、前記クライオポンプ真空容器に固定され、前記第2フランジは、前記極低温冷凍機に固定されていることを特徴とするクライオポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クライオポンプおよび極低温冷凍機防振構造に関する。
【背景技術】
【0002】
クライオポンプは、極低温に冷却されたクライオパネルに気体分子を凝縮または吸着により捕捉して排気する真空ポンプである。クライオポンプは、例えば、半導体回路製造プロセスなどの真空プロセスを行う真空プロセス装置に設置され、真空環境を提供する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
クライオポンプには、クライオパネルを冷却するために、極低温冷凍機が備わっている。極低温冷凍機は、内部で冷媒ガスの圧力を周期的に変動させるように構成され、このような圧力変動は極低温冷凍機を振動させうる。また、例えばギフォード・マクマホン(Gifford-McMahon;GM)冷凍機のように、ディスプレーサなど可動部材とその駆動源が組み込まれていれば、これらも極低温冷凍機を振動させる。極低温冷凍機から生じる振動は、クライオポンプを介して真空プロセス装置に伝わりうる。振動は、真空プロセスの品質に影響を与えうるひとつの因子となるかもしれない。
【0005】
本発明のある態様の例示的な目的のひとつは、極低温冷凍機から他の機器に伝わる振動を低減することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様によると、クライオポンプは、クライオポンプ真空容器と、極低温冷凍機と、クライオポンプ真空容器に固定された第1フランジと、極低温冷凍機に固定され、第1フランジと気密に接続された第2フランジと、第1フランジから第2フランジに向かって、第1環状防振材料、第1環状支持部材、中間環状防振材料、第2環状支持部材、第2環状防振材料がこの記載の順に配置された環状積層防振体と、を備える。第1フランジおよび第2環状支持部材が第2フランジおよび第1環状支持部材から振動絶縁されるように、第2環状支持部材が第1フランジに固定されるとともに第1環状支持部材が第2フランジに固定されている。
【0007】
本発明のある態様によると、極低温冷凍機防振構造は、第1フランジと、第1フランジと気密に接続された第2フランジと、第1フランジから第2フランジに向かって、第1環状防振材料、第1環状支持部材、中間環状防振材料、第2環状支持部材、第2環状防振材料がこの記載の順に配置された環状積層防振体と、を備える。第1フランジおよび第2環状支持部材が第2フランジおよび第1環状支持部材から振動絶縁されるように、第2環状支持部材が第1フランジに固定されるとともに第1環状支持部材が第2フランジに固定されている。
【0008】
本発明のある態様によると、極低温冷凍機防振構造は、第1フランジと、第1フランジと気密に接続された第2フランジと、第1フランジから第2フランジに向かって、第1防振材料、第1支持部材、中間防振材料、第2支持部材、第2防振材料がこの記載の順に配置された積層防振体と、第2支持部材を第1フランジに固定する第1固定部材であって、第1防振材料および中間防振材料を支持する第1支持構造を、第1フランジおよび第2支持部材とともに形成する第1固定部材と、第1支持部材を第2フランジに固定する第2固定部材であって、中間防振材料および第2防振材料を支持する第2支持構造を、第2フランジおよび第1支持部材とともに形成する第2固定部材と、を備える。第1支持構造と第2支持構造とは、第1防振材料、中間防振材料、および第2防振材料によって互いに振動絶縁されている。
【0009】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや本発明の構成要素や表現を、方法、装置、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、極低温冷凍機から他の機器に伝わる振動を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施の形態に係るクライオポンプを概略的に示す図である。
【
図2】実施の形態に係る防振構造を概略的に示す分解図である。
【
図3】
図3(a)は、実施の形態に係る防振構造を第1フランジ側から見た概略平面図であり、
図3(b)は、実施の形態に係る防振構造を第2フランジ側から見た概略平面図である。
【
図4】
図4(a)は、
図3(b)のA-A断面を概略的に示し、
図4(b)は、
図3(b)のB-B断面を概略的に示す。
【
図5】
図5(a)は、実施の形態に係る第1環状支持部材の概略斜視図であり、
図5(b)は、実施の形態に係る第2環状支持部材の概略斜視図である。
【
図6】
図6(a)は、比較例に係るクライオポンプについての振動測定結果を示し、
図6(b)は、実施の形態に係るクライオポンプについての振動測定結果を示す。
【
図7】他の実施の形態に係るクライオポンプを概略的に示す図である。
【
図8】
図8(a)および
図8(b)は、他の実施の形態に係るフランジ体を示す概略側面図および斜視図である。
【
図9】他の実施の形態に係る防振構造を概略的に示す分解斜視図である。
【
図10】
図10(a)および
図10(b)は、防振構造の組立手順の一例を説明するための図である。
【
図11】更なる他の実施の形態に係る防振構造を概略的に示す図である。
【
図12】更なる他の実施の形態に係る防振構造を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。説明および図面において同一または同等の構成要素、部材、処理には同一の符号を付し、重複する説明は適宜省略する。図示される各部の縮尺や形状は、説明を容易にするために便宜的に設定されており、特に言及がない限り限定的に解釈されるものではない。実施の形態は例示であり、本発明の範囲を何ら限定するものではない。実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0013】
図1は、実施の形態に係るクライオポンプ10を概略的に示す図である。クライオポンプ10は、例えばイオン注入装置、スパッタリング装置、蒸着装置、またはその他の真空プロセス装置の真空チャンバに取り付けられて、真空チャンバ内部の真空度を所望の真空プロセスに要求されるレベルまで高めるために使用される。
【0014】
クライオポンプ10は、クライオポンプ真空容器12、極低温冷凍機14、防振構造16、第1段クライオパネル18、第2段クライオパネル20を備える。
【0015】
詳細は後述するが、極低温冷凍機14は、防振構造16を介してクライオポンプ真空容器12に装着され、それにより、クライオポンプ真空容器12は、極低温冷凍機14から振動絶縁されている。
【0016】
クライオポンプ真空容器12は、吸気口フランジ22を有する真空容器本体12aと、真空容器フランジ24を有する冷凍機収容筒12bとを備える。真空容器本体12aは、一端がクライオポンプ吸気口10aとして開放され、他端が閉塞された筒(例えば円筒)であり、吸気口フランジ22は、クライオポンプ吸気口10aを囲むように真空容器本体12aに設けられている。通例、吸気口フランジ22はゲートバルブに装着される。真空プロセス装置の真空チャンバのガスは、ゲートバルブおよびクライオポンプ吸気口10aを通じてクライオポンプ10内に進入する。図示されるクライオポンプ10は、いわゆる横型のクライオポンプであるから、冷凍機収容筒12bは、両端が開放された筒(例えば円筒)であり、一端が真空容器本体12aの側面に形成された冷凍機挿通孔に接合され、他端に真空容器フランジ24が設けられている。
【0017】
なお、クライオポンプ10は、いわゆる縦型であってもよく、その場合、真空容器本体12aは、冷凍機挿通孔を側面ではなく底面に有し、冷凍機収容筒12bは、真空容器本体12aの底面で冷凍機挿通孔に接合される。
【0018】
極低温冷凍機14は、室温部14a、第1冷却ステージ14b、および第2冷却ステージ14cを備え、防振構造16および冷凍機収容筒12bを挿通して真空容器本体12a内へと挿入されている。室温部14aは、クライオポンプ真空容器12の外に位置する。一方、第1冷却ステージ14bおよび第2冷却ステージ14cは、クライオポンプ真空容器12の中に位置する。例えば、第1冷却ステージ14bは、冷凍機収容筒12bの内部スペースに位置し、第2冷却ステージ14cは、真空容器本体12aの内部スペースに位置する。第1冷却ステージ14bは、冷凍機収容筒12bと真空容器本体12aの接合部付近に位置してもよい。極低温冷凍機14は、一例として、二段式のGM冷凍機であるが、パルス管冷凍機などそのほかの極低温冷凍機であってもよい。
【0019】
第1段クライオパネル18は、第1冷却ステージ14bに熱的に結合され、真空容器本体12a内に配置されている。第1段クライオパネル18は、クライオポンプ真空容器12とは非接触となるように、第1冷却ステージ14bによって構造的に支持されている。第1段クライオパネル18は、放射シールドとも称され、多くの場合、真空容器本体12aに比べて若干小径の筒型形状を有する。第1段クライオパネル18は、放射シールドに熱的に結合され、クライオポンプ吸気口10aまたはその近傍に配置された例えば板状(例えば円板状)またはルーバ状の吸気口クライオパネルを有してもよい。
【0020】
第2段クライオパネル20は、第2冷却ステージ14cに熱的に結合され、真空容器本体12a内に配置されている。第2段クライオパネル20は、第1段クライオパネル18とは非接触となるように、第2冷却ステージ14cによって構造的に支持されている。第2冷却ステージ14cおよび第2段クライオパネル20は、第1段クライオパネル18に包囲されている。
【0021】
第1段クライオパネル18および第2段クライオパネル20の配置や形状は、図示される特定のものには限られず、種々の公知の構成を適宜採用することができる。
【0022】
第1段クライオパネル18は、第1冷却ステージ14bによって第1冷却温度に冷却され、第2段クライオパネル20は、第2冷却ステージ14cによって第2冷却温度に冷却される。第2冷却温度は、第1冷却温度より低い。第1冷却温度は、例えば約65~120K、または約80~100Kの範囲にあってもよい。第2冷却温度は、約10~20Kの範囲にあってもよい。
【0023】
よって、第1段クライオパネル18には、例えば水蒸気など、第1冷却温度で蒸気圧が(例えば10-8Pa以下など)充分に低い気体(タイプ1ガスとも称される)が凝縮される。第2段クライオパネル20には、例えばアルゴン、窒素、酸素など、第2冷却温度で蒸気圧が充分に低い気体(タイプ2ガスとも称される)が凝縮される。第2段クライオパネル20には活性炭などの吸着材が設けられていてもよく、その場合、吸着材には、例えば水素など、第2冷却温度でも蒸気圧が充分に低くない気体(タイプ3ガスとも称される)が吸着される。このようにして、クライオポンプ10は、種々の気体を凝縮または吸着により排気し、所望される真空環境を提供することができる。
【0024】
極低温冷凍機14の室温部14aは、冷凍機フランジ26を有する。典型的なクライオポンプにおいては、冷凍機フランジ26が真空容器フランジ24に締結され、それにより極低温冷凍機14がクライオポンプ真空容器12に取り付けられうる。しかし、この実施の形態に係るクライオポンプ10においては、防振構造16が、冷凍機フランジ26を真空容器フランジ24に接続する。極低温冷凍機14は、防振構造16を介してクライオポンプ真空容器12に装着されている。よって、極低温冷凍機14は、クライオポンプ真空容器12に直接取り付けられていない。
【0025】
防振構造16は、第1フランジ28と、第2フランジ30と、第1フランジ28と第2フランジ30との間に配置された環状積層防振体32とを備える。環状積層防振体32は、第1環状防振材料38、第1環状支持部材40、中間環状防振材料42、第2環状支持部材44、第2環状防振材料46を備える。
【0026】
第1フランジ28は、真空容器フランジ24に装着され、クライオポンプ真空容器12に固定されている。例えば、第1フランジ28は、複数本の第1締結ボルト34により真空容器フランジ24と締結されている。第2フランジ30は、冷凍機フランジ26に装着され、極低温冷凍機14の室温部14aに固定されている。例えば、第2フランジ30は、複数本の第2締結ボルト36により冷凍機フランジ26と締結されている。
【0027】
図示される例においては、真空容器フランジ24および冷凍機フランジ26がともに円環形状を有するので、防振構造16も円環形状を有する。ただし、防振構造16が装着されるフランジが例えば矩形など他の形状を有する場合には、防振構造16も例えば角筒形状など他の形状を有してもよい。
【0028】
図2は、実施の形態に係る防振構造16を概略的に示す分解図である。
図3(a)は、実施の形態に係る防振構造16を第1フランジ28側から見た概略平面図であり、
図3(b)は、実施の形態に係る防振構造16を第2フランジ30側から見た概略平面図である。
図4(a)は、
図3(b)のA-A断面を概略的に示し、
図4(b)は、
図3(b)のB-B断面を概略的に示す。また、
図5(a)は、実施の形態に係る第1環状支持部材40の概略斜視図であり、
図5(b)は、実施の形態に係る第2環状支持部材44の概略斜視図である。
【0029】
第1フランジ28から第2フランジ30に向かって、第1環状防振材料38、第1環状支持部材40、中間環状防振材料42、第2環状支持部材44、第2環状防振材料46がこの記載の順に配置され、環状積層防振体32が構成される。
【0030】
環状積層防振体32のこれら構成要素はそれぞれリング形状を有し、環状積層防振体32の中心軸方向に沿って互いに隣接して同軸に配置されている。各構成要素のリング形状は、共通の内径および外径を有してもよい。防振構造16の外径は第1フランジ28および第2フランジ30の外径により定まるが、環状積層防振体32の外径はそれより小さく、環状積層防振体32は、第1フランジ28と第2フランジ30に挟まれたスペースに収められている。
【0031】
第1環状支持部材40、第2環状支持部材44は、第1フランジ28、第2フランジ30と同様に、例えばステンレス鋼などの金属材料、またはその他の適する構造材料で形成されている。第1環状防振材料38、中間環状防振材料42、第2環状防振材料46は、例えばゴムで形成されている。あるいは、第1環状防振材料38、中間環状防振材料42、第2環状防振材料46は、ゲル、フッ素樹脂などの合成樹脂、または、例えばアルミニウムなどの軟質金属、またはその他の防振材料で形成されていてもよい。第1環状防振材料38、中間環状防振材料42、第2環状防振材料46は、同じ材料で形成されてもよいし、あるいは、異なる材料で形成されてもよい。
【0032】
これら環状防振材料(38,42,46)の材料を選択することによって、防振構造16の振動絶縁特性(例えば、振動の周波数と振動伝達率との関係)が調節されてもよい。環状防振材料の寸法(例えば、環状積層防振体32の中心軸方向の厚さ、隣接する環状支持部材との接触面積など)を選択することによって、防振構造16の振動絶縁特性が調節されてもよい。また、環状支持部材(40,44)の寸法及び/または材料を選択することによって、防振構造16の振動絶縁特性が調節されてもよい。
【0033】
実施の形態に係る防振構造16においては、第1フランジ28および第2環状支持部材44が第2フランジ30および第1環状支持部材40から振動絶縁されるように、第2環状支持部材44が第1フランジ28に固定されるとともに第1環状支持部材40が第2フランジ30に固定されている。防振構造16は、第1フランジ28、第2フランジ30、および環状積層防振体32を互いに固定するために、第1締結部材48および第2締結部材50を備える。
【0034】
第1締結部材48は、第1フランジ28と第2環状支持部材44との間に第1環状防振材料38、第1環状支持部材40、中間環状防振材料42を挟み込んで保持するように第2環状支持部材44を第1フランジ28に固定する。
【0035】
防振構造16は、第2環状支持部材44、中間環状防振材料42、第1環状支持部材40、および第1環状防振材料38を貫通して、第1フランジ28に達する第1締結穴49を有する。第1締結部材48が第1締結穴49に挿入され、第1締結部材48により第2環状支持部材44が第1フランジ28と締結される。第1フランジ28と第2環状支持部材44との間に挟み込まれた第1環状防振材料38、第1環状支持部材40、中間環状防振材料42には、第1締結部材48による締結力が働く。
【0036】
図示される例では、第1締結部材48は皿ボルトであり、第1締結穴49は第2環状支持部材44でザグリ穴とされ、第1締結部材48の頭部は第2環状支持部材44に収められている。また、第1締結穴49は、第1フランジ28でボルト穴となっており、それにより、第1締結部材48は、第2環状支持部材44を第1フランジ28と締結する。第1締結穴49は、第1フランジ28を貫通していない。第1締結部材48および第1締結穴49は、周方向に等角度間隔に複数箇所(例えば8箇所)に設けられている。
【0037】
第1締結部材48は、第1環状支持部材40とは非接触に配置される。第1環状支持部材40は、第1締結部材48よりも大径の第1挿通孔52を有する。第1挿通孔52は、第1環状支持部材40に形成されたいわゆるバカ穴であり、第1締結穴49の一部となっている。第1締結部材48は、第1環状支持部材40との間にいくらかの遊びをもって第1挿通孔52を挿通する。したがって、第1締結部材48と第1環状支持部材40の間に振動伝達経路が形成されない。第1環状支持部材40の第1挿通孔52と同様に、第1環状防振材料38および中間環状防振材料42にも、第1締結部材48が挿通する挿通孔が形成されている。これら挿通孔は例えば円形の貫通孔であるが、矩形など他の形状の貫通孔であってもよい。
【0038】
また、第1締結部材48は、第2フランジ30とは非接触に配置される。第1締結部材48の頭部が第2環状支持部材44に支持され、第2フランジ30と第2環状支持部材44の間には第2環状防振材料46が挿入されているので、第1締結部材48は、第2フランジ30と接触しない。
【0039】
第2締結部材50は、第2フランジ30と第1環状支持部材40との間に中間環状防振材料42、第2環状支持部材44、第2環状防振材料46を挟み込んで保持するように第1環状支持部材40を第2フランジ30に固定する。
【0040】
防振構造16は、第2フランジ30、第2環状防振材料46、第2環状支持部材44、および中間環状防振材料42を貫通して、第1環状支持部材40に達する第2締結穴51を有する。第2締結部材50が第2締結穴51に挿入され、第2締結部材50により第2フランジ30が第1環状支持部材40と締結される。第2フランジ30と第1環状支持部材40との間に挟み込まれた中間環状防振材料42、第2環状支持部材44、第2環状防振材料46には、第2締結部材50による締結力が働く。
【0041】
図示される例では、第2締結部材50はボルトであり、第2締結穴51は第2フランジ30で深ザグリ穴とされ、第2締結部材50の頭部は第2フランジ30に収められている。また、第2締結穴51は、第1環状支持部材40でボルト穴となっており、それにより、第2締結部材50は、第2フランジ30を第1環状支持部材40と締結する。第2締結穴51は、第1環状支持部材40を貫通している。第2締結部材50および第2締結穴51は、周方向に等角度間隔に複数箇所(例えば8箇所)に設けられている。
【0042】
第2締結部材50は、第2環状支持部材44とは非接触に配置される。第2環状支持部材44は、第2締結部材50よりも大径の第2挿通孔54を有する。第2挿通孔54は、第2環状支持部材44に形成されたいわゆるバカ穴であり、第2締結穴51の一部となっている。第2締結部材50は、第2環状支持部材44との間にいくらかの遊びをもって第2挿通孔54を挿通する。したがって、第2締結部材50と第2環状支持部材44の間に振動伝達経路が形成されない。第2環状支持部材44の第2挿通孔54と同様に、中間環状防振材料42および第2環状防振材料46にも、第2締結部材50が挿通する挿通孔が形成されている。これら挿通孔は例えば円形の貫通孔であるが、矩形など他の形状の貫通孔であってもよい。
【0043】
また、第2締結部材50は、第1フランジ28とは非接触に配置される。第1フランジ28と第1環状支持部材40の間には第1環状防振材料38が挿入されているため、第2締結部材50の先端部は、第1フランジ28に達していない。
【0044】
中間環状防振材料42には、第1環状防振材料38に比べて大きな軸方向圧縮力が作用する。なぜなら、第1環状防振材料38は第1締結部材48の締結力によって圧縮されるにすぎないのに対して、中間環状防振材料42は、第1締結部材48と第2締結部材50の両方の締結力によって圧縮されているからである。
【0045】
そこで、中間環状防振材料42は、環状積層防振体32の中心軸方向において第1環状防振材料38に比べて厚くなっている。これにより、中間環状防振材料42の強度を高めることができる。中間環状防振材料42の厚さCは、例えば、第1環状防振材料38の厚さDの約1.5~3倍、例えば2倍程度であってもよい。中間環状防振材料42は、この厚さCをもつ一枚の材料層で形成されてもよい。あるいは、中間環状防振材料42は、複数枚(例えば2枚)の材料層を重ね合わせたものであってもよい(例えば、第1環状防振材料38として使用されている材料層と同一のものを2枚重ねてもよい)。同様に、中間環状防振材料42には、第2環状防振材料46に比べて大きな軸方向圧縮力が作用するから、中間環状防振材料42は、環状積層防振体32の中心軸方向において第2環状防振材料46に比べて厚くなっている。
【0046】
環状防振材料の挿通孔は、円形の貫通孔に代えて、環状防振材料の外周(または内周)につながっている(例えば、平面視でU字状の)切り欠き部であってもよい。環状防振材料はゴムなどの軟らかい材料で形成されているので、こうした切り欠きのほうが、貫通孔に比べて、加工が容易でありうる。同様に、環状支持部材の挿通孔も、環状支持部材の外周(または内周)につながった切り欠き部であってもよい。
【0047】
第1締結部材48と第2締結部材50(すなわち第1締結穴49と第2締結穴51)は、環状積層防振体32の径方向に同じ位置で周方向に互いに異なる位置に配置されている。ただし、例えば第1締結部材48と第2締結部材50を径方向に異なる位置に配置することにより、第1締結部材48と第2締結部材50が、環状積層防振体32の周方向に同じ位置に配置されることも可能である。
【0048】
第2フランジ30は、第1フランジ28と気密に接続されている。第1フランジ28と第2フランジ30の間には真空シール部56が形成されている。第1フランジ28はその開口部から第2フランジ30に向かって延長された第1フランジ筒部28aを有し、第2フランジ30はその開口部から第1フランジ28に向かって延長された第2フランジ筒部30aを有する。
【0049】
第2フランジ筒部30aの外径は、第1フランジ筒部28aの内径よりもわずかに小さく、第2フランジ筒部30aは第1フランジ筒部28aに挿入されている。第1フランジ筒部28aの内周面と第2フランジ筒部30aの外周面との間に例えばOリングなどのシール部材56aが配置され、それにより真空シール部56が形成されている。シール部材56aは、第2フランジ筒部30aの外周面に装着されている。
【0050】
真空シール部56においては、第1フランジ筒部28aと第2フランジ筒部30aは、シール部材56aのみを介して互いに接触するように両者の寸法公差が定められている。よって、第1フランジ筒部28aの内周面と第2フランジ筒部30aの外周面との間には、例えば、約0.05~0.3mm、例えば約0.1mmの隙間が形成され、第1フランジ28と第2フランジ30は、互いに接触していない。
【0051】
なお、第1フランジ筒部28aと第2フランジ筒部30aの径方向の位置関係は逆にすることも可能であり、第1フランジ筒部28aが第2フランジ筒部30aに挿入され、真空シール部56が第1フランジ筒部28aの外周面と第2フランジ筒部30aの内周面との間に形成されてもよい。
【0052】
第1フランジ28は、真空容器フランジ24と気密接続される真空フランジであり、フランジ端面にはOリングなどのシール部材を収める第1リング溝58が形成されている。第1リング溝58は、第1締結ボルト34用の第1ボルト孔34aより径方向内側で、第1締結部材48より径方向外側に位置する。また、第2フランジ30は、冷凍機フランジ26と気密接続される真空フランジであり、フランジ端面にはOリングなどのシール部材を収める第2リング溝60が形成されている。第2リング溝60は、第2締結部材50より径方向内側に位置する。第2締結ボルト36用の第2ボルト孔36aは、第2締結部材50より径方向外側に形成されている。
【0053】
環状積層防振体32は、真空シール部56の径方向外側に配置されている。環状積層防振体32は、第1フランジ筒部28aおよび第2フランジ筒部30aを囲むようにして、真空環境の外に配置されている。すなわち、環状積層防振体32は、極低温冷凍機14の室温部14aと同様に周囲環境に配置されている。これにより、環状積層防振体32を真空環境に配置する場合に比べて、真空シール部56並びに真空フランジの径を小さく設計することが容易となる。また、環状積層防振体32の径を大きく設計することが容易となる。その場合、環状防振材料の面積の増加により、防振構造16のばね定数を小さくし、高周波数の振動伝達率を低減させやすくなる。
【0054】
防振構造16の組立手順の一例を述べる。まず、第1フランジ28が、第1フランジ筒部28aを上向きとするように載置される。第1環状防振材料38、第1環状支持部材40、中間環状防振材料42、および第2環状支持部材44がこの順番で第1フランジ28に積層される。これらの部材は、各部材の貫通孔の位置を合わせるようにして第1フランジ28に積み重ねられ、それにより、第1締結穴49が形成される。第1締結部材48が第1締結穴49に挿入され、第2環状支持部材44が第1フランジ28と締結される。
【0055】
次に、第2環状支持部材44の上に第2環状防振材料46を重ね合わせ、さらにその上から、第2フランジ30が取り付けられる。このとき、第2フランジ筒部30aが第1フランジ筒部28aに挿入される。また、各部材の貫通孔の位置を合わせることにより、第2締結穴51が形成される。第2締結部材50が第2締結穴51に挿入され、第2フランジ30が第1環状支持部材40と締結される。こうして、防振構造16は組み立てられる。
【0056】
このようにして、第1環状支持部材40は、第1環状防振材料38と中間環状防振材料42に挟持されるとともに、第1フランジ28、第2環状支持部材44、第1締結部材48とは非接触に配置される。第2環状支持部材44は、第2環状防振材料46と中間環状防振材料42に挟持されるとともに、第2フランジ30、第1環状支持部材40、第2締結部材50とは非接触に配置される。また、上述のように、第1フランジ28と第2フランジ30は互いに直接触れていない。
【0057】
よって、防振構造16は、第1フランジ28と第2環状支持部材44と第1締結部材48を有する第1支持構造と、第2フランジ30と第1環状支持部材40と第2締結部材50を有する第2支持構造とを備え、第1支持構造と第2支持構造とは第1環状防振材料38、中間環状防振材料42、および第2環状防振材料46によって互いに振動絶縁されている。第1支持構造はクライオポンプ真空容器12に固定され、第2支持構造は極低温冷凍機14に固定されている。
【0058】
既存のクライオポンプにおいては、多くの場合、極低温冷凍機がクライオポンプ真空容器に直接固定されている。極低温冷凍機は、内部での周期的な圧力変動およびディスプレーサなど可動部材の動きに起因して、振動源となりうる。極低温冷凍機の振動は、クライオポンプ真空容器に伝わり、さらには、クライオポンプが装着された真空プロセス装置へと伝わりうる。
【0059】
これに対して、実施の形態に係るクライオポンプ10によれば、極低温冷凍機14は、防振構造16を介してクライオポンプ真空容器12に装着されている。防振構造16は、クライオポンプ真空容器12に固定された第1フランジ28と、極低温冷凍機14に固定された第2フランジ30と、第1フランジ28から第2フランジ30に向かって、第1環状防振材料38、第1環状支持部材40、中間環状防振材料42、第2環状支持部材44、第2環状防振材料46がこの記載の順に配置された環状積層防振体32と、を備える。第1フランジ28および第2環状支持部材44が第2フランジ30および第1環状支持部材40から振動絶縁されるように、第2環状支持部材44が第1フランジ28に固定されるとともに第1環状支持部材40が第2フランジ30に固定されている。
【0060】
これにより、クライオポンプ真空容器12は、極低温冷凍機14から振動絶縁されている。したがって、極低温冷凍機14から他の機器に伝わる振動を低減することができる。極低温冷凍機14の振動が真空プロセス装置に与えうるリスクも低減される。
【0061】
図6(a)は、比較例に係るクライオポンプについての振動測定結果を示し、
図6(b)は、実施の形態に係るクライオポンプ10についての振動測定結果を示す。比較例に係るクライオポンプでは、極低温冷凍機がクライオポンプ真空容器に直接固定されている。実施の形態に係るクライオポンプ10では、極低温冷凍機14が防振構造16を介してクライオポンプ真空容器12に装着されている。その余の測定条件は共通である。これらの測定結果は、クライオポンプ真空容器のz軸方向(
図1における上下方向)の振動を示す。縦軸は振動の大きさを表す値(例えば加速度)であり、横軸は時間である。
【0062】
図6(a)に示されるように、極低温冷凍機がクライオポンプ真空容器に直接固定されている場合、極低温冷凍機の周期的動作に起因する振動が繰り返し発生することがわかる。これに対して、
図6(b)に示されるように、クライオポンプ10が防振構造16を有する場合、振動が大きく低減している。この測定結果では、
図6(a)の従来機に比して、振動の最大加速度が約7%にまで減少している(すなわち約93%の減少)。x軸方向およびy軸方向の最大加速度についても従来機に比して約12%にまで減少することが確認されている。
【0063】
また、実施の形態に係る防振構造16は、フランジ(28,30)、環状支持部材(40,44)、締結部材(48,50)によって構造的な支持を実現している。極低温冷凍機14の重量はこうした支持構造によって支えられているので、環状防振材料に作用する荷重を低減することができる。
【0064】
環状防振材料は、リング形状の材料シートを採用することができ、こうした形状の防振材料は、一般に入手が容易である。特殊な形状をもつ特注品を用いる必要が無く、設計上および製造上有利である。
【0065】
防振構造16は、クライオポンプ真空容器12と極低温冷凍機14の間に装着されるので、既存のクライオポンプのクライオポンプ真空容器と極低温冷凍機の間に容易に追加することができる。クライオポンプや極低温冷凍機の設計変更など大幅な改造を要することなく、防振性能を向上することができる。
【0066】
上述の実施の形態では、防振構造16の内部に真空環境を保持するために真空シール部56が設けられている。真空シール部56は、第1フランジ28と第2フランジ30との嵌め合い構造(いわゆるインロー構造)と、これら2つのフランジ間に装着されたシール部材56aとにより形成されている。しかし、防振構造16の気密性を確保する他の構造を用いることも可能である。たとえば、第1フランジ28と第2フランジ30がベローズ接続により一体構造として製作されてもよい。この場合、第1フランジ28と第2フランジ30の間に設置される環状積層防振体32は、複数の部分を組み合わせて構成される分割構造を有してもよい。そうした実施の形態を、
図7から
図10(b)を参照して以下に述べる。
【0067】
図7は、他の実施の形態に係るクライオポンプ110を概略的に示す図である。
図7には、クライオポンプ110の外観の側面が示される。クライオポンプ110は、クライオポンプ真空容器12、極低温冷凍機14、防振構造116を備える。クライオポンプ真空容器12、極低温冷凍機14、およびクライオポンプ110の内部構造は、
図1を参照して説明したものと同様であってもよい。
【0068】
極低温冷凍機14は、防振構造116を介してクライオポンプ真空容器12に装着され、それにより、クライオポンプ真空容器12は、極低温冷凍機14から振動絶縁されている。第1フランジ128から第2フランジ130に向かって、第1防振材料138、第1支持部材140、中間防振材料142、第2支持部材144、第2防振材料146がこの記載の順に配置され、積層防振体132が構成される。第1フランジ128が真空容器フランジ24に取り付けられ、第2フランジ130が冷凍機フランジ26に取り付けられる。
【0069】
図8(a)および
図8(b)は、他の実施の形態に係るフランジ体170を示す概略側面図および斜視図である。フランジ体170は、第1フランジ128、第2フランジ130、およびベローズ172により構成される。真空シール部としてのベローズ172が第1フランジ128を第2フランジ130に接続し、それによりフランジ体170の内部の気密性が保持される。ベローズ172は、たとえば、金属製の真空ベローズであり、その一端が第1フランジ128に、他端が第2フランジ130に、たとえば溶接またはその他適宜の接合手段により固定されている。図示されるように、第2フランジ130側を向く第1フランジ128の表面には、複数のフランジ凹部174が周方向に等間隔に形成されている。
【0070】
図9は、他の実施の形態に係る防振構造116の積層防振体132を概略的に示す分解斜視図である。防振構造116には複数の積層防振体132が設けられ、そのため、積層防振体132の構成要素もそれぞれ複数の部品として用意される。積層防振体132を構成する支持部材と防振材料の相互の位置関係と固定の仕方は、前述の実施の形態と概ね同様である。
【0071】
図7から
図9を参照する。第1締結部材148は、第1フランジ128と第2支持部材144との間に第1防振材料138、第1支持部材140、中間防振材料142を挟み込んで保持するように第2支持部材144を第1フランジ128に固定する。第2締結部材150は、第2フランジ130と第1支持部材140との間に中間防振材料142、第2支持部材144、第2防振材料146を挟み込んで保持するように第1支持部材140を第2フランジ130に固定する。
【0072】
第1締結部材148および第1締結穴149は、周方向に等角度間隔に複数箇所(例えば4箇所)に設けられている。第1締結穴149は、第1フランジ128、第1防振材料138、第1支持部材140、および中間防振材料142を貫通して、第2支持部材144に達する。第1締結部材148が第1締結穴149に挿入され、第1締結部材148により第2支持部材144が第1フランジ128と締結される。第1締結穴149は、第2支持部材144でボルト穴となっている。第1フランジ128と第2支持部材144との間に挟み込まれた第1防振材料138、第1支持部材140、中間防振材料142には、第1締結部材148による締結力が働く。
【0073】
第1締結部材148は、第1支持部材140とは非接触に配置される。第1支持部材140は、第1締結部材148よりも大径の第1挿通孔152を有する。したがって、第1締結部材148と第1支持部材140の間に振動伝達経路が形成されない。また、第1締結部材148は、第2フランジ130とは非接触に配置される。第2フランジ130と第2支持部材144の間には第2防振材料146が挿入され、第1締結部材148の先端部は、第2フランジ30に達しない。
【0074】
第2締結部材150および第2締結穴151は、周方向に等角度間隔に複数箇所(例えば4箇所)に設けられている。第2締結穴151は、第1支持部材140、中間防振材料142、第2支持部材144、および第2防振材料146を貫通して、第2フランジ130に達する。第2締結部材150が第2締結穴151に挿入され、第2締結部材150により第2フランジ130が第1支持部材140と締結される。第2締結穴151は、第2フランジ130でボルト穴となっている。第2フランジ130と第1支持部材140との間に挟み込まれた中間防振材料142、第2支持部材144、第2防振材料146には、第2締結部材150による締結力が働く。
【0075】
第2締結部材150は、第2支持部材144とは非接触に配置される。第2支持部材144は、第2締結部材150よりも大径の第2挿通孔154を有する。したがって、第2締結部材150と第2支持部材144の間に振動伝達経路が形成されない。また、第2締結部材150は、第1フランジ128とは非接触に配置される。第2締結部材150の頭部は、第1フランジ128に形成されたフランジ凹部174に収められ、第2締結部材150は、第1フランジ128と接触しない。
【0076】
第1支持部材140は、半円の円弧状のプレートであり、金属材料またはその他の適する材料で形成されている。2つの第1支持部材140を並べることにより、ひとつの環状支持部材が形成されるものとみなされる。第2支持部材144も同様である。同様に、中間防振材料142は、半円の円弧状に成形されている。やはり、2つの中間防振材料142を並べることにより、ひとつの環状防振材料が形成されるものとみなされる。
【0077】
第1締結部材148と第2締結部材150の両方の締結力に対する強度を確保するために、中間防振材料142は、積層防振体132の中心軸方向において第1防振材料138に比べて厚くなっている。同様に、中間防振材料142は、積層防振体132の中心軸方向において第2防振材料146に比べて厚くなっている。
【0078】
また、4つの第1防振材料138と4つの第2防振材料146が設けられている。4つの第1防振材料138は、周方向に間隔をあけて並べることによって、第1支持部材140が形成するひとつの環状支持部材に沿って配置することができる。したがって、4つの第1防振材料138によって、ひとつの環状防振材料が形成されるものとみなされる。同様に、4つの第2防振材料146は、周方向に間隔をあけて並べることによって、第2支持部材144が形成するひとつの環状支持部材に沿って配置することができる。支持部材上での防振材料の位置決めを容易にするために、支持部材には防振材料のサイズに合わせて形成された凹部178が設けられてもよい。
【0079】
第1支持部材140、中間防振材料142、第2支持部材144をこの順に重ね合わせ、その片側に2つの第1防振材料138を置き、反対側に2つの第2防振材料146を置く。そうすると、半円の円弧状の積層防振体132が形成される。2つの積層防振体132を並べることによって、ひとつの環状積層防振体が形成されるものとみなされる。
【0080】
なお、積層防振体132の各構成要素の分割数は、上述の例には限られず、それより少数でもよいし、あるいはそれより多数であってもよい。
【0081】
図10(a)および
図10(b)は、防振構造116の組立手順の一例を説明するための図である。
図10(a)では、図を見やすくするために割愛しているが、あらかじめ第2フランジ130が冷凍機フランジ26にボルトで取り付けられていてもよい。
【0082】
図10(a)に示されるように、第1防振材料138、第1支持部材140、中間防振材料142、第2支持部材144、および第2防振材料146が各部材の貫通孔の位置を合わせるようにしてこの順番に重ね合わされて、積層防振体132が形成される。第2締結部材150が第2締結穴151に挿入される。積層防振体132は、第2締結穴151を第1フランジ128のフランジ凹部174に合わせるようにして、第1フランジ128と第2フランジ130の間に組み付けられる。第2締結部材150によって、第1支持部材140が第2フランジ130と締結される。
【0083】
積層防振体132は、真空シール部としてのベローズ172の径方向外側に配置される。積層防振体132は、フランジ体170を囲むようにして真空環境の外、すなわち周囲環境に配置される。
【0084】
次に、
図10(b)に示されるように、第1締結部材148によって、第2支持部材144が第1フランジ128と締結されることになる。このとき、第1締結部材148は、真空容器フランジ24と第1フランジ128を共締めしてもよい。そして、真空容器フランジ24と第1フランジ128は、追加のボルトでしっかりと固定される。こうして、
図7に示されるように、防振構造116は組み立てられる。
【0085】
このようにして、第1支持部材140は、第1防振材料138と中間防振材料142に挟持されるとともに、第1フランジ128、第2支持部材144、第1締結部材148とは非接触に配置される。第2支持部材144は、第2防振材料146と中間防振材料142に挟持されるとともに、第2フランジ130、第1支持部材140、第2締結部材150とは非接触に配置される。また、上述のように、第1フランジ128と第2フランジ130はベローズ172で接続されている。
【0086】
よって、防振構造116は、第1フランジ128と第2支持部材144と第1締結部材148を有する第1支持構造と、第2フランジ130と第1支持部材140と第2締結部材150を有する第2支持構造とを備える。第1支持構造は、第1防振材料138および中間防振材料142を支持し、第2支持構造は、中間防振材料142および第2防振材料146を支持する。第1支持構造と第2支持構造とは、第1防振材料138、中間防振材料142、および第2防振材料146によって互いに振動絶縁されている。第1支持構造はクライオポンプ真空容器12に固定され、第2支持構造は極低温冷凍機14に固定されている。したがって、クライオポンプ真空容器12は、極低温冷凍機14から振動絶縁され、極低温冷凍機14から真空プロセス装置など他の機器に伝わる振動を低減することができる。
【0087】
なお、クライオポンプ真空容器12や極低温冷凍機14の自重により、ベローズ172は、いくらか変形しうる。ベローズ172がわずかに撓むことによって第1フランジ128と第2フランジ130のうち一方が他方に対してわずかに傾き、その結果、少なくとも1つの第1挿通孔152で第1締結部材148が第1支持部材140と接触点をもつことがあるかもしれない。同様にして、少なくとも1つの第2挿通孔154で第2締結部材150が第2支持部材144と接触しうる。しかし、仮に、いずれかの締結部材が支持部材と点状に接触したとしても、それらは相互に堅く結合されている(たとえば締結されている)わけではなく、実質的な振動伝達経路を形成しない。したがって、防振構造116は、依然として所望の振動絶縁性能を提供することができる。
【0088】
図11は、更なる他の実施の形態に係る防振構造16を概略的に示す図である。防振構造16をクライオポンプ真空容器12と極低温冷凍機14の間に装着することに代えて、防振構造16は、吸気口フランジ22と真空チャンバ80との間に装着されてもよい。通例、クライオポンプ10と真空チャンバ80との間にはゲートバルブ82が取り付けられているので、防振構造16は、吸気口フランジ22とゲートバルブ82との間に装着されてもよい。例えば、防振構造16の第1フランジ28が吸気口フランジ22に取り付けられ、第2フランジ30がゲートバルブ82に取り付けられてもよい(逆でもよい)。あるいは、防振構造16は、ゲートバルブ82と真空チャンバ80との間に装着されてもよい。
【0089】
また、他の一例として、クライオポンプ真空容器12は、真空容器本体12aと冷凍機収容筒12bに分割されてもよく、防振構造16が、真空容器本体12aと冷凍機収容筒12bの間に装着されてもよい。
【0090】
図12は、更なる他の実施の形態に係る防振構造16を概略的に示す図である。防振構造16をクライオポンプ10に適用することに代えて、防振構造16は、極低温冷凍機14単体に適用されてもよい。よって、防振構造16は、極低温冷凍機14と真空チャンバ80との間に装着されてもよい。
【0091】
以上、本発明を実施例にもとづいて説明した。本発明は上記実施形態に限定されず、種々の設計変更が可能であり、様々な変形例が可能であること、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは、当業者に理解されるところである。ある実施の形態に関連して説明した種々の特徴は、他の実施の形態にも適用可能である。組合せによって生じる新たな実施の形態は、組み合わされる実施の形態それぞれの効果をあわせもつ。
【0092】
上述の実施の形態においては、個々の環状支持部材は、単一のリング状プレートとして用意されている。しかし、例えば大型のクライオポンプ10に適用するために防振構造16が大口径となる場合など、製造を容易にするため又はその他の理由により、ひとつの環状支持部材が、複数の部材に分割されていてもよい。例えば、複数の円弧状部材が準備され、これらが互いに円環状に結合され、または円環状に並べられて、ひとつの環状支持部材が形成されてもよい。同様に、ひとつの環状防振材料が、複数の部材に分割されてもよい。
【0093】
上述の実施の形態においては、締結部材がボルトである場合を例として説明したが、締結部材は、例えばリベットまたはその他の締結部材であってもよい。あるいは、環状支持部材とフランジの固定は、例えばクランプのように、部材を間に挟み込んで保持するように構成された何らかの接続部材を使用してなされてもよい。なお、締結部材(または接続部材)は、ボルトのように、取り外し可能であってもよい。防振構造の分解、防振材料の交換をする際に便利である。
【0094】
上述の実施の形態においては、第1フランジ28が真空容器フランジ24に装着されてクライオポンプ真空容器12に固定され、第2フランジ30が冷凍機フランジ26に装着され極低温冷凍機14に固定されているが、これは必須ではない。例えば、第1フランジ28は、クライオポンプ真空容器12に一体形成されていてもよい。第2フランジ30は、極低温冷凍機14の室温部14aに一体形成されていてもよい。
【0095】
上述の実施の形態においては、第1フランジ28と第2フランジ30との間に真空シール部56が形成され、第1フランジ28と第2フランジ30が気密に接続されている。これに代えて、第2フランジ30は、例えばベローズなど追加の部材を介して第1フランジ28と気密に接続されてもよい。
【0096】
必要とされる場合には、環状積層防振体32は、追加の構成要素(例えば、第3環状支持部材、第3環状防振材料)を備えてもよい。
【0097】
実施の形態にもとづき、具体的な語句を用いて本発明を説明したが、実施の形態は、本発明の原理、応用の一側面を示しているにすぎず、実施の形態には、請求の範囲に規定された本発明の思想を逸脱しない範囲において、多くの変形例や配置の変更が認められる。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明は、クライオポンプおよび極低温冷凍機防振構造分野における利用が可能である。
【符号の説明】
【0099】
10 クライオポンプ、 12 クライオポンプ真空容器、 14 極低温冷凍機、 16 防振構造、 28 第1フランジ、 30 第2フランジ、 32 環状積層防振体、 38 第1環状防振材料、 40 第1環状支持部材、 42 中間環状防振材料、 44 第2環状支持部材、 46 第2環状防振材料、 48 第1締結部材、 50 第2締結部材、 52 第1挿通孔、 54 第2挿通孔、 56 真空シール部。