(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-29
(45)【発行日】2024-02-06
(54)【発明の名称】バルーンカテーテル用のバルーンおよびバルーンカテーテルの製造方法
(51)【国際特許分類】
A61M 25/10 20130101AFI20240130BHJP
【FI】
A61M25/10 510
A61M25/10 512
A61M25/10 550
A61M25/10 502
(21)【出願番号】P 2021525947
(86)(22)【出願日】2020-05-12
(86)【国際出願番号】 JP2020018980
(87)【国際公開番号】W WO2020250611
(87)【国際公開日】2020-12-17
【審査請求日】2023-04-06
(31)【優先権主張番号】P 2019108432
(32)【優先日】2019-06-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】弁理士法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小嶋 真弘
(72)【発明者】
【氏名】中野 良紀
(72)【発明者】
【氏名】古賀 陽二郎
(72)【発明者】
【氏名】杖田 昌人
(72)【発明者】
【氏名】大角 真太郎
【審査官】川島 徹
(56)【参考文献】
【文献】特表2005-502428(JP,A)
【文献】特表2005-511187(JP,A)
【文献】特開2014-64612(JP,A)
【文献】特開平7-289559(JP,A)
【文献】特開2015-213623(JP,A)
【文献】特表2008-529740(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0036314(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 25/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バルーン本体と、
該バルーン本体の外側面に形成されており、前記バルーン本体と同一材料から構成されている突出部と、を有し、
前記突出部は、前記突出部の径方向の外方端を含む先端領域と、該先端領域よりも径方向内方に位置し、前記先端領域よりも表面粗さが大きい基端領域と、を有していることを特徴とするバルーンカテーテル用のバルーン。
【請求項2】
前記先端領域の外側面の表面粗さは、前記バルーン本体の外側面の表面粗さよりも小さい請求項1に記載のバルーンカテーテル用のバルーン。
【請求項3】
バルーンカテーテルの製造方法であって、
樹脂から構成されている筒状のパリソンと、該パリソンが挿入される内腔を有する金型であって該内腔を形成する内壁面に第1溝が形成されている金型と、を準備する工程と、
前記パリソンを前記金型の前記内腔に挿入する工程と、
前記パリソンの内腔に流体を導入して前記パリソンを膨張させ、前記第1溝に前記樹脂を入り込ませる工程と、
前記樹脂が前記第1溝の底部に到達する前に、前記パリソンを前記金型から外す工程と、を有していることを特徴とする方法。
【請求項4】
前記第1溝に前記樹脂を入り込ませる工程の後に前記パリソンの外側面に形成されている突出部は、前記第1溝の内壁面と当接することで前記第1溝の入り口を塞いでいる基端領域と、該基端領域よりも径方向の外方に位置し前記第1溝の内壁面と離隔している先端領域と、を有している請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記突出部の前記先端領域の表面粗さは、前記第1溝に前記樹脂を入り込ませる工程の後に測定された前記パリソンの外側面の表面粗さよりも小さい請求項4に記載の方法。
【請求項6】
さらに、前記突出部の外側面を研磨する工程を有している請求項4または5に記載の方法。
【請求項7】
さらに、前記突出部を先鋭化する工程を有している請求項4~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
さらに、前記突出部の外側面を粗化する工程を有している請求項4または5に記載の方法。
【請求項9】
前記突出部が前記パリソンの長手方向に沿って延在しており、
さらに、前記パリソンの長手方向の位置によって前記突出部の高さを異ならせる工程を有している請求項4~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記突出部が前記パリソンの長手方向に沿って延在しており、
さらに、前記突出部の外側面に切り込みを入れる工程を有している請求項4~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記金型の第1溝は、前記パリソンの前記基端領域と当接している当接領域と、前記パリソンの前記先端領域と離隔している非当接領域とを有し、
前記当接領域は、前記金型の長手方向と垂直な断面において円弧状に形成されている円弧状部を備えている請求項4~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記金型は、その長手方向に延在し、バルーンの直管部を形成する第1区間を有しており、
前記第1区間に前記第1溝が形成されている請求項3~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記金型は、その長手方向において、前記第1区間の両側に存在し、バルーンのテーパー部を形成する第2区間と、該第2区間よりも前記金型の長手方向の端部側に存在し、バルーンのスリーブ部を形成する第3区間と、を有しており、
前記第2区間は、前記第1区間よりもバルーンの遠位側に対応する位置に存在する遠位側第2区間と、前記第1区間よりもバルーンの近位側に対応する位置に存在する近位側第2区間とからなり、
前記第3区間は、前記遠位側第2区間よりもバルーンの遠位側に対応する位置に存在しバルーンの遠位側スリーブ部を形成する遠位側第3区間と、前記近位側第2区間よりもバルーンの近位側に対応する位置に存在しバルーンの近位側スリーブ部を形成する近位側第3区間とからなり、
前記金型の前記遠位側第3区間と前記近位側第3区間の少なくとも一方の内壁面に、前記第1溝よりも浅い第3溝が形成されており、
前記第1溝に前記樹脂を入り込ませる工程において、前記樹脂が前記第3溝の底部まで到達している請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記パリソンを準備する工程において、外側面に径方向の外方に向かって突出しているガイド部が形成されているパリソンを準備し、
前記パリソンを前記金型の前記内腔に挿入する工程において、前記ガイド部を前記第3溝に配置する請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記金型は、その長手方向において、前記第1区間の両側に存在し、バルーンのテーパー部を形成する第2区間を有しており、
前記第2区間は、前記第1区間よりもバルーンの遠位側に対応する位置に存在する遠位側第2区間と、前記第1区間よりもバルーンの近位側に対応する位置に存在する近位側第2区間とからなり、
前記金型の前記遠位側第2区間と前記近位側第2区間の少なくとも一方の内壁面には、溝が形成されていない請求項12~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記第1溝は、径方向の外方に向かって幅が広くなっている部分を有している請求項3~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記第1溝は、径方向の外方に向かって幅が狭くなっている部分を有している請求項3~16のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バルーンカテーテル用のバルーンと、筒状の樹脂パリソンを用いたバルーンカテーテルの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
血管内に形成された狭窄部の拡張にはバルーンカテーテルが用いられ、バルーンの表面には狭窄部に食い込ませるための突出部やブレードが好ましく設けられる。例えば、特許文献1には、凸部を備えたバルーンと、バルーンの内表面同士を向かい合わせて配置した部分において、隣接する内表面の少なくとも一部を互いに溶着することにより、凸部を形成する工程を有するバルーンの製造方法が開示されている。特許文献2には、突出部であるひだが形成されているバルーンと、モールドを使用してバルーンにひだを形成することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-12678号公報
【文献】特表2005-511187号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記バルーンの突出部は狭窄部に当接はするものの、石灰化病変やプラークへの食い込みが不十分で亀裂を形成しにくいという点で改善の余地があった。そこで、本発明は狭窄部の石灰化病変やプラークに亀裂を入れやすいバルーンカテーテル用のバルーンとバルーンカテーテルの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決することができた本発明のバルーンカテーテル用のバルーンの一実施態様は、バルーン本体と、該バルーン本体の外側面に形成されており、バルーン本体と同一材料から構成されている突出部と、を有し、突出部の外側面の表面粗さは、バルーン本体の外側面の表面粗さよりも小さいところに特徴を有する。このように突出部とバルーン本体の外側面の表面粗さを設定することにより、狭窄部に形成された石灰化病変やプラークに対して突出部が食い込む際の抵抗摩擦力を低く抑えることができる。このため、狭窄部の石灰化病変やプラークに切り込みを入れやすくなり、亀裂を形成しやすくなるため、血管内膜の解離を防ぎながら狭窄部を拡張させることができる。また、通常、バルーンカテーテルは突出部をバルーン膜で覆うように折り畳まれたバルーンを保護管に収容した状態で狭窄部まで送達される。ところが、送達の際にバルーンの突出部がバルーン本体の外表面と当接あるいは擦れることで、バルーン本体の外表面に付されたコーティング層が剥がれるおそれがある。しかし、本発明のバルーンによれば、バルーン本体よりも突出部の表面粗さが小さいことにより、突出部がバルーン本体の外表面と当接してもコーティング層の剥がれを防ぐことができる。このため、バルーンを保護管の外に出してカテーテルを使用するときに体内での通過性が高い状態を維持することができる。
【0006】
上記バルーンカテーテル用のバルーンにおいて、突出部は、突出部の径方向の外方端を含む先端領域と、該先端領域よりも径方向内方に位置し、先端領域よりも表面粗さが大きい基端領域と、を有していることが好ましい。
【0007】
本発明は、バルーンカテーテルの製造方法も提供する。前記課題を解決することができた本発明のバルーンカテーテルの製造方法の一実施態様は、樹脂から構成されている筒状のパリソンと、該パリソンが挿入される内腔を有する金型であって該内腔を形成する内壁面に第1溝が形成されている金型と、を準備する工程と、パリソンを金型の内腔に挿入する工程と、パリソンの内腔に流体を導入してパリソンを膨張させ、第1溝に樹脂を入り込ませる工程と、樹脂が第1溝の底部に到達する前に、パリソンを金型から外す工程と、を有している点に特徴を有する。上記製造方法は、樹脂が第1溝の底部に到達する前に、パリソンを金型から外す工程を有しているため、突出部の先端側には第1溝の内壁面の凹凸形状が転写されない。このため、狭窄部に形成された石灰化病変やプラークに対して突出部が食い込む際の抵抗摩擦力を低く抑えることができる。その結果、狭窄部の石灰化病変やプラークに切り込みを入れやすくなり、亀裂を形成しやすくなる。したがって、血管内膜の解離を防ぎながら狭窄部を拡張させることができる。
【0008】
上記製造方法において、第1溝に樹脂を入り込ませる工程の後にパリソンの外側面に形成されている突出部は、第1溝の内壁面と当接することで第1溝の入り口を塞いでいる基端領域と、該基端領域よりも径方向の外方に位置し、第1溝の内壁面と離隔している先端領域と、を有していることが好ましい。
【0009】
上記製造方法において、突出部の先端領域の表面粗さは、第1溝に樹脂を入り込ませる工程の後に測定されたパリソンの外側面の表面粗さよりも小さいことが好ましい。
【0010】
上記製造方法は、さらに、突出部の外側面を研磨する工程を有していることが好ましい。上記製造方法は、さらに、突出部を先鋭化する工程を有していることが好ましい。上記製造方法は、さらに、突出部の外側面を粗化する工程を有していることが好ましい。
【0011】
上記製造方法において、突出部がパリソンの長手方向に沿って延在しており、該製造方法は、さらに、パリソンの長手方向の位置によって突出部の高さを異ならせる工程を有していることが好ましい。
【0012】
上記製造方法において、突出部がパリソンの長手方向に沿って延在しており、該製造方法は、さらに、突出部の外側面に切り込みを入れる工程を有していることが好ましい。
【0013】
上記製造方法において、金型の第1溝は、パリソンの基端領域と当接している当接領域と、パリソンの先端領域と離隔している非当接領域とを有し、当接領域は、金型の長手方向と垂直な断面において円弧状に形成されている円弧状部を備えていることが好ましい。
【0014】
上記製造方法において、金型は、その長手方向に延在し、バルーンの直管部を形成する第1区間を有しており、第1区間に第1溝が形成されていることが好ましい。
【0015】
上記製造方法において、金型は、その長手方向において第1区間の両側に存在し、バルーンのテーパー部を形成する第2区間と、該第2区間よりも前記金型の長手方向の端部側に存在し、バルーンのスリーブ部を形成する第3区間と、を有しており、第2区間は、第1区間よりもバルーンの遠位側に対応する位置に存在する遠位側第2区間と、第1区間よりもバルーンの近位側に対応する位置に存在する近位側第2区間とからなり、第3区間は、遠位側第2区間よりもバルーンの遠位側に対応する位置に存在しバルーンの遠位側スリーブ部を形成する遠位側第3区間と、近位側第2区間よりもバルーンの近位側に対応する位置に存在しバルーンの近位側スリーブ部を形成する近位側第3区間とからなり、金型の遠位側第3区間と近位側第3区間の少なくとも一方の内壁面に、第1溝よりも浅い第3溝が形成されており、第1溝に樹脂を入り込ませる工程において、樹脂が第3溝の底部まで到達していることが好ましい。
【0016】
上記製造方法は、パリソンを準備する工程において、外側面に径方向の外方に向かって突出しているガイド部が形成されているパリソンを準備し、パリソンを金型の内腔に挿入する工程において、ガイド部を第3溝に配置することが好ましい。
【0017】
上記製造方法において、金型は、その長手方向において、第1区間の両側に存在し、バルーンのテーパー部を形成する第2区間を有しており、第2区間は、第1区間よりもバルーンの遠位側に対応する位置に存在する遠位側第2区間と、第1区間よりもバルーンの近位側に対応する位置に存在する近位側第2区間とからなり、金型の遠位側第2区間と近位側第2区間の少なくとも一方の内壁面には、溝が形成されていないことが好ましい。
【0018】
上記製造方法において、第1溝は、径方向の外方に向かって幅が広くなっている部分を有していることが好ましい。
【0019】
上記製造方法において、第1溝は、径方向の外方に向かって幅が狭くなっている部分を有していることが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
上記バルーンカテーテル用のバルーンおよびバルーンカテーテルの製造方法によれば、狭窄部に形成された石灰化病変やプラークに対してバルーンの突出部が食い込む際の抵抗摩擦力を低く抑えることができる。このため、狭窄部の石灰化病変やプラークに切り込みを入れやすくなり、亀裂を形成しやすくなるため、血管内膜の解離を防ぎながら狭窄部を拡張させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の一実施形態に係るバルーンカテーテル用のバルーンの側面図を表す。
【
図5】本発明の一実施形態に係る膨張前のパリソンの斜視図を表す。
【
図6】本発明の一実施形態に係る金型に膨張前のパリソンを配置した状態を示す断面図(一部側面図)を表す。
【
図7】
図6のVII-VII断面図を表し、バルーンの直管部を形成する第1区間の断面を示している。
【
図8】
図7に示したパリソンを膨張させた状態の断面図を表す。
【
図12】
図6のXII-XII断面図を表し、バルーンの遠位側テーパー部を形成する遠位側第2区間の断面を示している。
【
図13】
図6のXIII-XIII断面図を表し、バルーンの近位側テーパー部を形成する近位側第2区間の断面を示している。
【
図14】
図6のXIV-XIV断面図を表し、バルーンの遠位側スリーブ部を形成する遠位側第3区間の断面を示している。
【
図15】
図6のXV-XV断面図を表し、バルーンの近位側スリーブ部を形成する近位側第3区間の断面を示している。
【
図16】
図6のXVI-XVI断面図を表し、バルーンの遠位側スリーブ外部を形成する遠位側第4区間の断面を示している。
【
図17】
図6のXVII-XVII断面図を表し、バルーンの近位側スリーブ外部を形成する近位側第4区間の断面を示している。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、下記実施の形態に基づき本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施の形態によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。なお、各図面において、便宜上、ハッチングや部材符号等を省略する場合もあるが、かかる場合、明細書や他の図面を参照するものとする。また、図面における種々部材の寸法は、本発明の特徴の理解に資することを優先しているため、実際の寸法とは異なる場合がある。
【0023】
1.バルーンカテーテル用のバルーン
本発明のバルーンカテーテル用のバルーンの一実施態様は、バルーン本体と、該バルーン本体の外側面に形成されており、バルーン本体と同一材料から構成されている突出部と、を有し、突出部の外側面の表面粗さは、バルーン本体の外側面の表面粗さよりも小さいところに特徴を有する。このように突出部とバルーン本体の外側面の表面粗さを設定することにより、狭窄部に形成された石灰化病変やプラークに対して突出部が食い込む際の抵抗摩擦力を低く抑えることができる。このため、狭窄部の石灰化病変やプラークに切り込みを入れやすくなり、亀裂を形成しやすくなるため、血管内膜の解離を防ぎながら狭窄部を拡張させることができる。また、通常、バルーンカテーテルは突出部をバルーン膜で覆うように折り畳まれたバルーンを保護管に収容した状態で狭窄部まで送達される。ところが、送達の際にバルーンの突出部がバルーン本体の外表面と当接あるいは擦れることで、バルーン本体の外表面に付されたコーティング層が剥がれるおそれがある。しかし、本発明のバルーンによれば、バルーン本体よりも突出部の表面粗さが小さいことにより、突出部がバルーン本体の外表面と当接してもコーティング層の剥がれを防ぐことができる。このため、バルーンを保護管の外に出してカテーテルを使用するときに体内での通過性が高い状態を維持することができる。以下では、バルーンカテーテル用のバルーンを単に「バルーン」と称することがある。
【0024】
図1~
図2を参照しながら、バルーンカテーテル用のバルーンについて説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係るバルーンカテーテル用のバルーンの側面図を表し、
図2は、
図1のII-II断面図を表す。
【0025】
バルーンカテーテルは、主に血管の狭窄部の治療において行われる狭窄部を拡張させる血管形成術(PTA、PTCA等)で用いられる医療器具である。体内で血液が循環するための流路である血管に狭窄が生じ、血液の循環が滞ることにより、様々な疾患が発生することが知られている。特に心臓に血液を供給する冠状動脈に狭窄が生じると、狭心症、心筋梗塞等の重篤な疾病をもたらすおそれがある。血管形成術は、バイパス手術のような開胸術を必要としない低侵襲療法であることから広く行われている。
【0026】
バルーンカテーテルは、シャフトと、シャフトの外側に設けられたバルーンとを有するものである。バルーンカテーテルは近位側と遠位側を有し、シャフトの遠位側にバルーンが設けられ、シャフトの近位側にはハブが設けられる。なお、バルーンの近位側とは、バルーンカテーテルの延在方向またはシャフトの長手軸方向に対して使用者または術者の手元側の方向を指し、遠位側とは近位側の反対方向、すなわち処置対象側の方向を指す。また、バルーンの近位側から遠位側への方向を遠近方向と称する。
【0027】
図1~
図2に示すように、バルーン1は、バルーン本体6と、バルーン本体6の外側面7に形成されており、バルーン本体6と同一材料から構成されている突出部10と、を有している。バルーン本体6は、バルーン1の基本形状を規定し、近位側と遠位側にそれぞれ開口を有する袋状に好ましく形成される。突出部10は、バルーン本体6の外側面7に点状、線状、または網状のパターンで好ましく設けられている。バルーン本体6の外側面7に突出部10を設けることにより、突出部10にスコアリング機能を付与して、血管形成術において石灰化した狭窄部に亀裂を入れて拡張することが可能となる。また、バルーン1の高強度化や加圧時の過拡張の抑制も可能となる。
【0028】
本発明においてバルーン1の突出部10とは、バルーン本体6の所定位置の膜厚よりも径方向に高く形成されている部分を指す。上記所定位置とは、バルーン本体6に対して突出部10が1つ設けられている場合には、
図2に示すようにバルーン1の周方向において突出部10の径方向の外方端11と対向する位置Aであり、バルーン本体6に対して突出部10が複数設けられている場合には、
図3に示すように周方向において隣り合う突出部10の外方端11のバルーン1の周方向における中点に対応する位置Bである。
【0029】
突出部10の径方向における最大高さは、バルーン本体6の上記所定位置の膜厚の1.2倍以上であることが好ましく、より好ましくは1.5倍以上、さらに好ましくは2倍以上であり、また100倍以下、50倍以下、30倍以下あるいは10倍以下であることも許容される。これにより、狭窄部の石灰化病変やプラークに適度な深さの切り込みを入れやすくなり、亀裂を形成しやすくなる。
【0030】
突出部10が点状または線状に形成されている場合、突出部10は、バルーン1の遠近方向に沿って延在するように配されていることが好ましい。また、突出部10は、バルーン1の長軸中心周りにらせん状に延在するように配されていてもよい。さらに、突出部10は、バルーン1の周方向に沿って延在するように配されていてもよい。これにより、突出部10と狭窄部の接触面積を調整することができるため、体腔内におけるカテーテルの通過性能と狭窄部に対するバルーン1のノンスリップ性能の両立が可能となる。
【0031】
図1に示すように、バルーン1は、直管部2と、直管部2の両側に位置し、遠近方向x1の端部側に向かって外径が小さくなっているテーパー部3と、テーパー部3よりも遠近方向x1の端部側に位置し、バルーンカテーテルのシャフトに接続されるスリーブ部4と、スリーブ部4よりも遠近方向x1の端部側に位置し、シャフトへのバルーン1の取り付け前に切断されるスリーブ外部5と、を有する。直管部2よりも遠位側に位置しているテーパー部3を遠位側テーパー部3D、直管部2よりも近位側に位置しているテーパー部3を近位側テーパー部3Pという。また、遠位側テーパー部3Dよりも遠位側に位置しているスリーブ部4を遠位側スリーブ部4D、近位側テーパー部3Pよりも近位側に位置しているスリーブ部4を近位側スリーブ部4Pという。さらに、遠位側スリーブ部4Dよりも遠位側に位置しているスリーブ外部5を遠位側スリーブ外部5D、近位側スリーブ部4Pよりも近位側に位置しているスリーブ外部5を近位側スリーブ外部5Pという。
【0032】
突出部10は、直管部2に配されていることが好ましい。これにより、バルーン1の拡張の際に、突出部10が狭窄部に食い込みやすくなる。狭窄部に亀裂が入りやすくなるように、突出部10は、直管部2とテーパー部3に配されていてもよい。
【0033】
図3は、
図2の変形例を示す断面図を表す。
図2に示すように、突出部10は1つのみ設けられていてもよい。また、
図3に示すように、突出部10は複数設けられていてもよい。その場合、突出部10は周方向に並んで複数設けられていることが好ましく、周方向に等間隔に配されていることがより好ましい。このように突出部10を複数設けることにより、狭窄部の複数の位置に亀裂を入れやすくなる。なお、複数の突出部10は、周方向に離隔して配されていることが好ましく、周方向において隣り合う突出部10の離隔距離は、突出部10の最大周長よりも長いことがより好ましい。
【0034】
バルーン本体6と突出部10が同一材料から構成されていることにより、バルーン1の柔軟性を維持しながら、突出部10がバルーン本体6の外側面7を傷付けることを防ぐことができる。バルーン本体6と突出部10は一体成形されていることが好ましい。これにより、バルーン本体6からの突出部10の脱落を防ぐことができる。このようなバルーン1は、例えば、押出成形によって押し出されたパリソンを、溝を有する金型に配置し、二軸延伸ブロー成形することにより製造することができる。好ましいバルーンの製造方法については「2.バルーンカテーテルの製造方法」の項で後述する。
【0035】
バルーン本体6および突出部10を構成する樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体等のポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリエステルエラストマー等のポリエステル系樹脂、ポリウレタン、ポリウレタンエラストマー等のポリウレタン系樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂、ポリアミド、ポリアミドエラストマー等のポリアミド系樹脂、フッ素系樹脂、シリコーン系樹脂、ラテックスゴム等の天然ゴム等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。中でも、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂が好適に用いられる。特に、バルーン1の薄膜化や柔軟性の点からエラストマー樹脂を用いることが好ましい。例えばポリアミド系樹脂の中でバルーン1に好適な材料として、ナイロン12、ナイロン11等が挙げられ、ブロー成形する際に比較的容易に成形可能である点から、ナイロン12が好適に用いられる。また、バルーン1の薄膜化や柔軟性の点から、ポリエーテルエステルアミドエラストマー、ポリアミドエーテルエラストマー等のポリアミドエラストマーが好ましく用いられる。中でも、降伏強度が高く、バルーン1の寸法安定性が良好な点から、ポリエーテルエステルアミドエラストマーが好ましく用いられる。
【0036】
突出部10の外側面12の表面粗さは、バルーン本体6の外側面7の表面粗さよりも小さくなっている。このように突出部10の表面粗さを小さくすることにより、狭窄部の石灰化病変やプラークに切り込みを入れやすくなり、亀裂を形成しやすくなるため、血管内膜の解離を防ぎながら狭窄部を拡張させることができる。突出部10の外側面12の表面粗さは、バルーン本体6の外側面7の表面粗さの0.01倍以上であることが好ましく、より好ましくは0.05倍以上、さらに好ましくは0.1倍以上であり、また、0.9倍以下、0.8倍以下、0.7倍以下であることも許容される。突出部10の外側面12の表面粗さを小さくする方法としては、突出部10を研磨機やヤスリを用いて研磨する方法が挙げられる。
【0037】
バルーン本体6に突出部10が1つのみ設けられている場合、バルーン本体6の外側面7の表面粗さは、
図2に示すようにバルーン本体6の外側面7であって上記位置Aを含む部分を計測することで得られる。バルーン本体6に突出部10が複数設けられている場合、バルーン本体6の外側面7の表面粗さは、
図3に示すようにバルーン本体6の外側面7であって上記位置Bを含む部分を計測することで得られる。また、突出部10の外側面12の表面粗さは、
図2~
図3に示すように突出部10の外側面12であって突出部10の径方向の外方端11(すなわち突出部10の先端)を含む部分を計測することで得られる。なお、突出部10が複数ある場合には、いずれか1つの突出部10について計測すればよい。
【0038】
表面粗さは、バルーン本体6または突出部10の外側面における粗さ曲線の基準長さ間での算術平均粗さRaであり、基準長さは0.1mmである。上記算術平均粗さRaは、JIS B 0601(2001)に規定される算術平均粗さRaに相当し、JIS B 0633(2001)に準じて測定される。測定には、JIS B 0651(2001)に規定される測定機(例えば、キーエンス社製レーザー顕微鏡 VK-9510)を用いる。
【0039】
突出部10の外側面12の全体(すなわち、突出部10の全外周面)の表面粗さが、バルーン本体6の外側面7の表面粗さよりも小さくなっていることが好ましい。これにより、狭窄部の石灰化病変やプラークに切り込みを入れやすくなり、亀裂の形成がより一層促進される。
【0040】
図3に示すように、バルーン本体6に突出部10が複数設けられている場合、全ての突出部10の外側面12の表面粗さが、バルーン本体6の外側面7の表面粗さよりも小さくなっていることが好ましい。これにより、狭窄部の石灰化病変やプラークに切り込みを入れやすくなり、亀裂の形成がより一層促進される。
【0041】
図4は、
図2のバルーン1のうち突出部10が設けられている部分Pを拡大した断面図を表す。
図4に示すように、突出部10は、突出部10の径方向の外方端11を含む先端領域13と、該先端領域13よりも径方向内方に位置し、先端領域13よりも表面粗さが大きい基端領域14を有していることが好ましい。これにより、先端領域13によって狭窄部の石灰化病変やプラークに切り込みを入れやすくなり、亀裂を形成しやすくなるため、血管内膜の解離を防ぎながら狭窄部を拡張させることができる。また、基端領域14では狭窄部との抵抗摩擦力を高めることができるため、狭窄部に対するバルーン1のノンスリップ性能を向上させることができる。
【0042】
基端領域14の表面粗さは、先端領域13の表面粗さの2倍以上であることが好ましく、より好ましくは3倍以上、さらに好ましくは5倍以上であり、また、20倍以下、18倍以下、15倍以下であることも許容される。
【0043】
基端領域14の表面粗さは、バルーン本体6の外側面7の表面粗さと同じであってもよく、あるいはバルーン本体6の外側面7の表面粗さの0.1倍以上であることが好ましく、より好ましくは0.2倍以上、さらに好ましくは0.3倍以上であり、また、0.9倍以下、0.8倍以下、0.7倍以下であることも許容される。
【0044】
分子の配向が先端領域13と基端領域14で異なっていてもよい。例えば、先端領域13では径方向の外方またはブロー成形時の樹脂の移動方向に対して平行に分子が配向しており、基端領域14は径方向の外方またはブロー成形時の樹脂の移動方向に対して垂直な方向に分子が配向していてもよい。分子の配向の計測には、例えば、X線回折法やラマン分光法を用いることができる。
【0045】
結晶化度が先端領域13と基端領域14で異なっていてもよい。先端領域13の結晶化度は、基端領域14の結晶化度よりも高いことが好ましい。これにより、突出部10の製造時に先端領域13では冷却ひずみが起こりにくくなるため、先端領域13の過度な変形を防ぐことができる。結晶化度は、例えば示差走査熱量測定で得られたDSC曲線から求めた熱量値から算出することができる。
【0046】
2.バルーンカテーテルの製造方法
本発明のバルーンカテーテルの製造方法の一実施態様は、樹脂から構成されている筒状のパリソンと、該パリソンが挿入される内腔を有する金型であって該内腔を形成する内壁面に第1溝が形成されている金型と、を準備する工程と、パリソンを金型の内腔に挿入する工程と、パリソンの内腔に流体を導入してパリソンを膨張させ、第1溝に樹脂を入り込ませる工程と、樹脂が第1溝の底部に到達する前に、パリソンを金型から外す工程と、を有している点に特徴を有する。上記製造方法は、樹脂が第1溝の底部に到達する前に、パリソンを金型から外す工程を有しているため、突出部の先端側には第1溝の内壁面の凹凸形状が転写されない。このため、狭窄部に形成された石灰化病変やプラークに対して突出部が食い込む際の抵抗摩擦力を低く抑えることができる。その結果、狭窄部の石灰化病変やプラークに切り込みを入れやすくなり、亀裂を形成しやすくなる。したがって、血管内膜の解離を防ぎながら狭窄部を拡張させることができる。さらに、上記製造方法により、「1.バルーンカテーテル用のバルーン」に記載のバルーンを製造することができる。
【0047】
図5~
図9を参照しながら、上記の製造方法について説明する。
図5は、本発明の一実施形態に係る膨張前のパリソンの斜視図を表し、
図6は、本発明の一実施形態に係る金型に膨張前のパリソンを配置した状態を示す断面図(一部側面図)を表している。また、
図7は、
図6のVII-VII断面図を表し、バルーンの直管部を形成する第1区間の断面を示している。
図8は、
図7に示したパリソンを膨張させた状態の断面図を表し、
図9は、
図8のQ部分を拡大した断面図を表す。
【0048】
まず、パリソン20と金型30を準備する。パリソン20は、樹脂から構成されている筒状の部材である。パリソン20は、例えば押出成形によって作製される。パリソン20は第1端21と第2端22を有しており、第1端21から第2端22に向かう長手方向x2に延在している。
【0049】
図5に示すように、パリソン20の長手方向x2と垂直な方向における断面形状は、長手方向x2において略均一であってもよい。これにより、パリソン20の生産性を高めることができる。また、パリソン20の長手方向x2と垂直な方向における断面形状は、長手方向x2の位置によって異なっていてもよい。パリソン20の長手方向x2の一部(例えば、バルーンの直管部およびテーパー部に対応する部分)の外径が、該一部以外の他部よりも大きくなっていてもよい。このようにパリソン20の断面形状を長手方向x2において異ならせるために、あらかじめ別の金型を用いてブロー成形してもよい。
【0050】
パリソン20を構成する材料としては、「1.バルーンカテーテル用のバルーン」において記載したバルーン本体6およびその突出部10を構成する樹脂の説明を参照することができる。
【0051】
金型30は、パリソン20が挿入される内腔35を有するものである。具体的には、金型30内にパリソン20の長手方向x2の一部が配置されることが好ましい。
図6に示すように、金型30はパリソン20の長手方向x2に対応する長手方向x3を有している。金型30内にパリソン20を配置しやすくするためには、金型30の長手方向x3は、パリソン20の長手方向x2と一致していることが好ましい。
【0052】
図6に示すように、金型30はその長手方向x3においてバルーンの直管部を形成する第1区間31と、第1区間31の両側に存在し、バルーンのテーパー部を形成する第2区間32を有していることが好ましい。また、金型30は、第2区間32よりも長手方向x3の端部側に存在し、バルーンのスリーブ部を形成する第3区間33と、第3区間33よりも長手方向x3の端部側に存在し、バルーンのスリーブ外部を形成する第4区間34とを有していてもよい。第2区間32は、第1区間31よりもバルーンの遠位側に対応する位置に存在する遠位側第2区間32Dと、第1区間31よりもバルーンの近位側に対応する位置に存在する近位側第2区間32Pとからなることが好ましい。第3区間33は、遠位側第2区間32Dよりもバルーンの遠位側に対応する位置に存在しバルーンの遠位側スリーブ部を形成する遠位側第3区間33Dと、近位側第2区間32Pよりもバルーンの近位側に対応する位置に存在しバルーンの近位側スリーブ部を形成する近位側第3区間33Pとからなることが好ましい。第4区間34は、遠位側第3区間33Dよりもバルーンの遠位側に対応する位置に存在し、バルーンの遠位側スリーブ外部を形成する遠位側第4区間34Dと、近位側第3区間33Pよりもバルーンの近位側に対応する位置に存在し、バルーンの近位側スリーブ外部を形成する近位側第4区間34Pとからなることが好ましい。
【0053】
金型30は、一つの部材から形成されていてもよく、複数の部材から形成されていてもよい。例えば、金型30は複数の半割体から形成されていてもよく、複数の金型部材が遠近方向において互いに接続されることによって形成されていてもよい。中でも、金型30は、段階的に内腔断面形状を変えた複数の金型部材から形成されていることが好ましい。
図6において金型30は、近位側から順に第1金型30A、第2金型30B、第3金型30C、第4金型30D、第5金型30Eおよび第6金型30Fを有している。
図6に示すように、隣り合う金型部材どうしを係合させることによって接続してもよい。図示していないが、隣り合う金型部材のそれぞれに磁石を取り付け、これらを互いに吸着させることによって接続してもよい。
【0054】
金型30の内腔断面形状は、円形状、長円形状、多角形状、またはこれらを組み合わせた形状にすることができる。なお、長円形状には、楕円形状、卵形状、角丸長方形状が含まれる。
【0055】
図7に示すように、金型30の内腔35を形成する内壁面36には第1溝41が形成されている。
図6~
図7に示すようにパリソン20を金型30の内腔35に挿入する。パリソン20の内腔23に流体を導入してパリソン20を膨張させ、
図8に示すように第1溝41に樹脂を入り込ませる。このように、パリソン20を膨張することでパリソン20を構成する樹脂が第1溝41に入り込み、パリソン20の外側面に突出部25を形成することができる。
【0056】
本発明においてパリソン20の突出部25とは、膨張後のパリソン20の所定位置の膜厚よりも径方向に高く形成されている部分を指す。上記所定位置は「1.バルーンカテーテル用のバルーン」で記載したバルーン本体6の所定位置の説明のうち「バルーン本体」を「パリソン」と読み替えて参照することができる。
【0057】
樹脂が第1溝41の底部41aに到達する前に、パリソン20を金型30から外す。これにより、突出部25の先端側には第1溝41の内壁面の凹凸形状が転写されないため、狭窄部に形成された石灰化病変やプラークに対して突出部25が食い込む際の抵抗摩擦力を低く抑えることができる。このため、狭窄部の石灰化病変やプラークに切り込みを入れやすくなり、亀裂を形成しやすくなる。その結果、血管内膜の解離を防ぎながら狭窄部を拡張させることができる。膨張後のパリソン20を、バルーンカテーテル用のバルーンとして使用することができる。膨張後のパリソン20をシャフトの遠位側に取り付けることによって、バルーンカテーテルを製造することができる。
【0058】
図7に示すように、第1溝41は、1または複数設けることができる。第1溝41は、周方向に並んで複数設けられていてもよい。その場合、第1溝41は周方向に等間隔に配されていることが好ましい。このように第1溝41を設けることにより、第1溝41に入り込む突出部も複数設けることができるため、狭窄部の複数の位置に亀裂を入れやすくなる。なお、第1溝41は、周方向に離隔して配されていることが好ましく、周方向において隣り合う第1溝41の離隔距離は、第1溝41の最大周長よりも長いことがより好ましい。
【0059】
第1溝41は、金型30の長手方向x3に延在していることが好ましい。これにより、突出部25を金型30の長手方向x3に延在させることができる。
【0060】
第1溝41の深さは、金型30の長手方向x3において同じであってもよく、長手方向x3の位置によって異なっていてもよい。
【0061】
図9に示すように、第1溝41に樹脂を入り込ませる工程の後にパリソン20の外側面に形成されている突出部25は、第1溝41の内壁面と当接することで第1溝41の入り口を塞いでいる基端領域29と、該基端領域29よりも径方向の外方に位置し、第1溝41の内壁面と離隔している先端領域28と、を有していることが好ましい。先端領域28は、突出部25の径方向の外方端26を含むことが好ましい。基端領域29は、第1溝41の内壁面と当接していた部分であることから、第1溝41の内壁面の凹凸形状が転写されている。これに対して、先端領域28は金型30の第1溝41の内壁面と離隔していた部分であることから第1溝41の内壁面の凹凸形状が転写されない。このように第1溝41に入り込む樹脂量を調整することで、突出部25の先端領域28と基端領域29の外表面の凹凸形状を異ならせることができる。なお、パリソン20を金型30から外した後は、マイクロスコープを用いてパリソン20の遠近方向に垂直な断面を観察することにより、突出部25の先端領域28と基端領域29の境界を確認することができる。
【0062】
図9に示すように、第1溝41は、径方向の外方に向かって幅が狭くなっている部分41bを有していることが好ましい。これにより、突出部25を先鋭化しやすくなり、突出部25によって狭窄部の石灰化病変やプラークに切り込みを入れやすくなるため亀裂を形成しやすくなる。なお、
図9に示すように、第1溝41の深さ全体にわたって、径方向の外方に向かって幅が狭くなっていてもよい。また、後述する
図10に示すように、径方向の外方に向かって幅が狭くなっている部分41bは、第1溝41の入り口側に配されていてもよい。
【0063】
図10は、
図9の変形例の断面図を表す。
図10に示すように、第1溝41は、径方向の外方に向かって幅が広くなっている部分41cを有していることが好ましい。その場合、径方向の外方に向かって幅が広くなっている部分41cは、第1溝41の底部41a側に配置されていることが好ましい。これにより、第1溝41の底部41aに樹脂が到達されにくくなり、また、突出部25の変形も防ぐことができる。
【0064】
図10に示すように、第1溝41は、径方向の外方に向かって幅が狭くなっている部分41bと、径方向の外方に向かって幅が広くなっている部分41cの両方を有していてもよい。その場合、径方向の外方に向かって幅が広くなっている部分41cが、径方向の外方に向かって幅が狭くなっている部分41bよりも径方向の外方(すなわち第1溝41の底部41a側)に位置していることが好ましい。これにより、第1溝41の底部41aに樹脂を到達しにくくしつつ、第1溝41の入り口側ではパリソン20に第1溝41の内壁面の凹凸形状を転写させることができる。このため、先端領域28と基端領域29を有するパリソン20を形成しやすくなる。
【0065】
突出部25の先端領域28の表面粗さは、第1溝41に樹脂を入り込ませる工程の後に測定されたパリソン20の外側面の表面粗さよりも小さいことが好ましい。このように突出部25の先端領域28の表面粗さを小さくすることにより、狭窄部の石灰化病変やプラークに切り込みを入れやすくなり、亀裂を形成しやすくなる。このため、血管内膜の解離を防ぎながら狭窄部を拡張させることができる。
【0066】
パリソン20の外側面の表面粗さの計測場所は、「1.バルーンカテーテル用のバルーン」で記載したバルーン本体6の外側面7の表面粗さの計測場所についての説明のうち「バルーン本体」を「パリソン」と読み替えて参照することができる。
【0067】
表面粗さは、金型30の内壁面またはパリソン20の外側面における粗さ曲線の基準長さ間での算術平均粗さRaであり、基準長さは0.1mmである。上記算術平均粗さRaは、JIS B 0601(2001)に規定される算術平均粗さRaに相当し、JIS B 0633(2001)に準じて測定される。測定には、JIS B 0651(2001)に規定される測定機(例えば、キーエンス社製レーザー顕微鏡 VK-9510)を用いる。
【0068】
金型30の内壁面やパリソン20の外側面の表面粗さを大きくする方法としては、機械的または化学的にこれらの表面を荒らす方法が挙げられ、例えば、エッチング加工、ブラスト加工、ワイヤブラシやサンドペーパーを用いる方法が挙げられる。
【0069】
基端領域29の表面粗さは、先端領域28の表面粗さの2倍以上であることが好ましく、より好ましくは3倍以上、さらに好ましくは5倍以上であり、また、20倍以下、18倍以下、15倍以下とすることも許容される。
【0070】
基端領域29の表面粗さは、第1溝41に樹脂を入り込ませる工程の後に測定されたパリソン20の外側面の表面粗さと同じであってもよく、あるいはパリソン20の外側面の表面粗さの0.1倍以上であることが好ましく、より好ましくは0.2倍以上、さらに好ましくは0.3倍以上であり、また、0.9倍以下、0.8倍以下、0.7倍以下であることも許容される。
【0071】
上記製造方法は、さらに、突出部25の外側面27を研磨する工程を有していることが好ましい。これにより、突出部25の外側面27の凹凸形状を変化させることができる。なお、突出部25の外側面27を研磨することによって、突出部25の先端が鋭利に形成されていてもよく、突出部25の先端領域28の表面粗さが第1溝41に樹脂を入り込ませる工程の後に測定されたパリソン20の外側面の表面粗さよりも小さくなるように形成されてもよい。研磨には研磨機またはヤスリを用いることができる。
【0072】
上記製造方法は、さらに、突出部25を先鋭化する工程を有していてもよい。その場合、突出部25の先端領域28を先鋭化することが好ましい。これにより、突出部25によって狭窄部の石灰化病変やプラークに切り込みを入れやすくなり、亀裂を形成しやすくなる。このため、血管内膜の解離を防ぎながら狭窄部を拡張させることができる。突出部25を先鋭化する方法としては、突出部25の外側面27を研磨する方法のほか、突出部25の外側面27をレーザー加工装置や刃物で削る方法が挙げられる。
【0073】
上記製造方法は、さらに、突出部25の外側面27を粗化する工程を有していてもよい。これにより、狭窄部と突出部25が接触したときの抵抗摩擦力を高めることができるため、バルーンのノンスリップ性能を向上させることができる。ノンスリップ性能の向上とバルーンの外表面に付されたコーティング層の剥がれ防止を両立するためには、パリソン20の突出部25の周方向の一部のみを粗化してもよい。
【0074】
上記製造方法において、突出部25がパリソン20の長手方向x2に沿って延在しており、さらに、パリソン20の長手方向x2の位置によって突出部25の高さを異ならせる工程を有していることが好ましい。なお、ここで、突出部25の高さは、バルーン本体の内表面からの径方向の高さを意味している。突出部25の高さを異ならせることにより、突出部25が狭窄部に食い込みやすくなり、バルーンのノンスリップ性能を向上させることができる。
【0075】
突出部25がパリソン20の長手方向x2に沿って延在しており、上記製造方法は、さらに、突出部25の外側面27に切り込みを入れる工程を有していることが好ましい。このように突出部25に切り込みを入れることにより、体腔内におけるカテーテルの通過性能を向上させることができる。切り込みの形成には、カッターやナイフ等の刃物を用いることができる。
【0076】
切り込みを入れることにより突出部25が複数に分割されてもよい。切り込みは、一つの突出部25に対して1または複数設けることができる。切り込みの深さは、突出部25の高さよりも浅ければよい。これにより、膨張後のパリソン20から形成したバルーンを体内に挿入したときに、切り込みが入れられた部分からバルーン内部に体液等が入り込むことを防ぐことができる。切り込みの幅は特に限定されないが、突出部25の幅よりも小さいことが好ましい。
【0077】
切り込みは、突出部25の延在方向に沿って形成されていてもよい。中でも、切り込みは、パリソン20の長手方向x2に沿って延在していることが好ましい。また、切り込みは、パリソン20の長軸中心周りにらせん状に延在していてもよい。このように切り込みを延在させることによって、体腔内においてカテーテルの通過性能を向上させることができる。
【0078】
切り込みは、パリソン20の周方向に沿って延在していてもよい。このように切り込みを延在させることによって、狭窄部に対するバルーンのノンスリップ性能を向上させることができる。
【0079】
図11は、
図9の他の変形例を示す断面図を表す。
図11に示すように、金型30の第1溝41は、パリソン20の基端領域29と当接している当接領域42と、パリソン20の先端領域28と離隔している非当接領域43とを有しており、当接領域42は、金型30の長手方向x3と垂直な断面において円弧状に形成されている円弧状部41dを備えていることが好ましい。これにより、パリソン20の外側面から突出部25の基端領域29にかけての急激な外形変化を緩和することができるため、外力による突出部25の破断を防ぐことができる。
【0080】
円弧状部41dは、当接領域42の径方向の内方端を含む部分に形成されていることが好ましい。これにより、パリソン20の外側面から突出部25にかけての外形変化の緩和効果を高めることができる。金型30の第1溝41において、円弧状部41dよりも径方向の外方側には直線状部が形成されていてもよい。
【0081】
図6~
図8に示すように、金型30は、長手方向x3に延在し、バルーンの直管部を形成する第1区間31を有しており、第1区間31に第1溝41が形成されていることが好ましい。これにより、バルーンの直管部に対応する位置にあるパリソン20に突出部25を形成することができる。
【0082】
金型30は、長手方向x3において、第1区間31の両側に存在し、バルーンのテーパー部を形成する第2区間32を有しており、第2区間32は、第1区間31よりもバルーンの遠位側に対応する位置に存在する遠位側第2区間32Dと、第1区間31よりもバルーンの近位側に対応する位置に存在する近位側第2区間32Pとからなり、金型30の遠位側第2区間32Dと近位側第2区間32Pの少なくとも一方に第2溝45が形成されていることが好ましい。これにより、バルーンのテーパー部に対応する位置に第2の突出部が形成されるため、狭窄部に対するバルーンのノンスリップ性能を向上させることができる。
【0083】
金型30は、長手方向x3において、第1区間31の両側に存在し、バルーンのテーパー部を形成する第2区間32を有しており、第2区間32は、第1区間31よりもバルーンの遠位側に対応する位置に存在する遠位側第2区間32Dと、第1区間31よりもバルーンの近位側に対応する位置に存在する近位側第2区間32Pとからなり、金型30の遠位側第2区間32Dと近位側第2区間32Pの少なくとも一方の内壁面には、溝が形成されていないことが好ましい。これにより、パリソン20のうちバルーンのテーパー部に対応する位置には突出部が形成されないため、バルーンのテーパー部の滑り性が適度に確保され、バルーンの通過性能をより一層高めることができる。
【0084】
金型30は、長手方向x3において、第1区間31の両側に存在し、バルーンのテーパー部を形成する第2区間32と、第2区間32よりも長手方向x3の端部側に存在し、バルーンのスリーブ部を形成する第3区間33と、を有しており、第2区間32は、第1区間31よりもバルーンの遠位側に対応する位置に存在する遠位側第2区間32Dと、第1区間31よりもバルーンの近位側に対応する位置に存在する近位側第2区間32Pとからなり、第3区間33は、遠位側第2区間32Dよりもバルーンの遠位側に対応する位置に存在しバルーンの遠位側スリーブ部を形成する遠位側第3区間33Dと、近位側第2区間32Pよりもバルーンの近位側に対応する位置に存在しバルーンの近位側スリーブ部を形成する近位側第3区間33Pとからなり、金型30の遠位側第3区間33Dと近位側第3区間33Pの少なくとも一方の内壁面に、第1溝41よりも浅い第3溝47が形成されており、第1溝41に樹脂を入り込ませる工程において、樹脂が第3溝47の底部まで到達していることが好ましい。これにより、パリソン20のうちバルーンのスリーブ部に対応する位置に突出部25(第1の突出部)よりも低い第3の突出部を形成することができ、バルーンのスリーブ部の体内での通過性能を高めることができる。
【0085】
パリソン20を準備する工程において、外側面に径方向の外方に向かって突出しているガイド部が形成されているパリソン20を準備し、パリソン20を金型30の内腔35に挿入する工程において、ガイド部を第3溝47に配置することが好ましい。これにより、パリソン20の内腔35に流体を導入してパリソン20を膨張させたときに、ガイド部が第3溝47に当接することにより、パリソンの回転を防止することができる。このため、バルーンやバルーン本体の外側面に形成される突出部を所望の形状に製造することができる。
【0086】
図12は、
図6のXII-XII断面図を表し、バルーンの遠位側テーパー部を形成する遠位側第2区間32Dの断面を示している。また、
図13は、
図6のXIII-XIII断面図を表し、バルーンの近位側テーパー部を形成する近位側第2区間32Pの断面を示している。なお、
図12以降の図面では、金型30内のパリソン20を省略して記載している。
図6、
図12~
図13に示すように、第2区間32は、遠位側第2区間32Dと近位側第2区間32Pとからなり、近位側第2区間32Pの内壁面36に第2溝45が形成されており、遠位側第2区間32Dの内壁面36には溝が形成されていないことが好ましい。これにより、バルーンの遠位側テーパー部の滑り性が適度に確保されるため、バルーンの通過性能を高めることができ、近位側テーパー部には第2の突出部が形成されるため、狭窄部に対するバルーンのノンスリップ性能を向上させることができる。
【0087】
図14は、
図6のXIV-XIV断面図を表し、バルーンの遠位側スリーブ部を形成する遠位側第3区間33Dの断面を示している。また、
図15は、
図6のXV-XV断面図を表し、バルーンの近位側スリーブ部を形成する近位側第3区間33Pの断面を示している。
図6、
図14~
図15に示すように、金型30の第3区間33は、遠位側第3区間33Dと近位側第3区間33Pとからなり、遠位側第3区間33Dと近位側第3区間33Pの少なくともいずれか一方の内壁面36に第3溝47が形成されていることが好ましい。その場合、第1溝41に樹脂を入り込ませる工程において、樹脂が第3溝47の底部まで到達していることが好ましい。これにより、パリソン20のうち、バルーンのスリーブ部に対応する位置にも突出部を設けることができる。
【0088】
図16は、
図6のXVI-XVI断面図を表し、バルーンの遠位側スリーブ外部を形成する遠位側第4区間34Dの断面を示している。また、
図17は、
図6のXVII-XVII断面図を表し、バルーンの近位側スリーブ外部を形成する近位側第4区間34Pの断面を示している。
図6、
図16~
図17に示すように、金型30は、遠位側第4区間34Dと近位側第4区間34Pを有しており、遠位側第4区間34Dと近位側第4区間34Pの少なくともいずれか一方の内壁面36に第4溝49が形成されていてもよい。その場合、第1溝41に樹脂を入り込ませる工程において、樹脂が第4溝49の底部まで到達していることが好ましい。これにより、パリソン20のうち、バルーンのスリーブ外部に対応する位置にも突出部を設けることができる。
【0089】
第3溝47および第4溝49の深さは、第1溝41よりも浅いことが好ましい。これにより、第1溝41に樹脂を入り込ませる工程において、樹脂が第1溝41に入りきるよりも早く第3溝47または第4溝49の底部に到達しやすくなるため、金型30によってパリソン20のうちバルーンのスリーブ部またはスリーブ外部に対応する位置を固定する効果を高めることができる。このため、パリソン20の内腔23に流体を導入してパリソン20を膨張させる際に、パリソン20の回転を防止することができ、突出部25の潰れ等を防ぐことができる。
【0090】
金型30の内腔断面において、第2溝45~第4溝49の形状は、同じであってもよく、互いに異なっていてもよい。その他、第2溝45~第4溝49の形状については、第1溝41の説明を参照することができる。
【0091】
本願は、2019年6月11日に出願された日本国特許出願第2019-108432号に基づく優先権の利益を主張するものである。2019年6月11日に出願された日本国特許出願第2019-108432号の明細書の全内容が、本願に参考のため援用される。
【符号の説明】
【0092】
1:バルーン
2:直管部
3:テーパー部
4:スリーブ部
5:スリーブ外部
6:バルーン本体
7:バルーン本体の外側面
10:突出部
11:外方端
12:突出部の外側面
13:先端領域
14:基端領域
A、B、C:位置
20:パリソン
21:第1端
22:第2端
23:内腔
25:突出部
26:外方端
27:突出部の外側面
28:先端領域
29:基端領域
30:金型
30A:第1金型
30B:第2金型
30C:第3金型
30D:第4金型
30E:第5金型
30F:第6金型
31:第1区間
32:第2区間
32D:遠位側第2区間
32P:近位側第2区間
33:第3区間
33D:遠位側第3区間
33P:近位側第3区間
34:第4区間
34D:遠位側第4区間
34P:近位側第4区間
35:内腔
36:内腔を形成する内壁面
41:第1溝
41a:底部
41b:径方向の外方に向かって幅が狭くなっている部分
41c:径方向の外方に向かって幅が広くなっている部分
41d:円弧状部
42:当接領域
43:非当接領域
45:第2溝
47:第3溝
49:第4溝
x1:遠近方向
x2:パリソンの長手方向
x3:金型の長手方向