(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-29
(45)【発行日】2024-02-06
(54)【発明の名称】ガスセンサおよびガスセンサを備えたガス警報器
(51)【国際特許分類】
G01N 27/12 20060101AFI20240130BHJP
G01N 27/04 20060101ALI20240130BHJP
G08B 21/14 20060101ALI20240130BHJP
【FI】
G01N27/12 A
G01N27/04 E
G08B21/14
(21)【出願番号】P 2022164108
(22)【出願日】2022-10-12
【審査請求日】2023-08-16
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000190301
【氏名又は名称】新コスモス電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大石 達也
(72)【発明者】
【氏名】猿丸 英理
(72)【発明者】
【氏名】三橋 弘和
【審査官】小澤 理
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-160266(JP,A)
【文献】特開平10-123083(JP,A)
【文献】特開平08-320302(JP,A)
【文献】特開2009-210341(JP,A)
【文献】特開2015-094641(JP,A)
【文献】特開2002-333426(JP,A)
【文献】特開2015-184218(JP,A)
【文献】特開2015-034796(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/12
G01N 27/04
G08B 21/14
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Scopus
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化スズまたは酸化インジウムを主成分とする第1ガス感応部、前記第1ガス感応部を加熱するための第1加熱部、および前記第1ガス感応部の抵抗値変化を検知するための第1検知電極を備えた第1検知素子と、
酸化スズまたは酸化インジウムを主成分とする第2ガス感応部、前記第2ガス感応部を加熱するための第2加熱部、および前記第2ガス感応部の抵抗値変化を検知するための第2検知電極を備え、検知対象ガスに対する検知感度が前記第1検知素子とは異なる第2検知素子と、
を備えたガスセンサであって、
前記ガスセンサは、前記第1検知素子と前記第2検知素子との間の前記検知対象ガスに対する検知感度の差に基づいて、前記検知対象ガスを検知するように構成され
、
前記第1検知素子が、前記第1ガス感応部を覆う第1触媒層を備え、
前記第2検知素子が、前記第2ガス感応部を覆う、前記第1触媒層とは異なる第2触媒層を備え、
前記第1触媒層が、干渉ガスに対する前記第1検知素子の検知感度を低下させるように構成され、
前記第2触媒層が、前記検知対象ガスおよび前記干渉ガスに対する前記第2検知素子の検知感度を低下させるように構成される、
ガスセンサ。
【請求項2】
酸化スズまたは酸化インジウムを主成分とする第1ガス感応部、前記第1ガス感応部を加熱するための第1加熱部、および前記第1ガス感応部の抵抗値変化を検知するための第1検知電極を備えた第1検知素子と、
酸化スズまたは酸化インジウムを主成分とする第2ガス感応部、前記第2ガス感応部を加熱するための第2加熱部、および前記第2ガス感応部の抵抗値変化を検知するための第2検知電極を備え、検知対象ガスに対する検知感度が前記第1検知素子とは異なる第2検知素子と、
を備えたガスセンサであって、
前記ガスセンサは、前記第1検知素子と前記第2検知素子との間の前記検知対象ガスに対する検知感度の差に基づいて、前記検知対象ガスを検知するように構成され、
前記検知対象ガスに対する検知感度の差が、ケイ素-水素結合含有ガスに対する検知感度の差であり、
前記第1検知素子が、前記第1ガス感応部を覆う第1触媒層を備え、
前記第2検知素子が、前記第2ガス感応部を覆う第2触媒層を備え、
前記検知対象ガスに対する前記第1検知素子の検知感度が、前記検知対象ガスに対する前記第2検知素子の検知感度よりも高くなるように、前記第1触媒層が、シリカ、シリカアルミナおよびゼオライトのいずれかを含み、前記第2触媒層が、アルミナを含む、
ガスセンサ。
【請求項3】
前記第1検知素子と前記第2検知素子との間の前記検知対象ガスに対する検知感度の差が、前記第1検知素子と前記第2検知素子との間の干渉ガスに対する検知感度の差よりも大きい、
請求項1に記載のガスセンサ。
【請求項4】
前記検知対象ガスに対する検知感度の差が、ケイ素-水素結合含有ガスに対する検知感度の差である、
請求項
1に記載のガスセンサ。
【請求項5】
前記第2触媒層が、アルミナを含む、
請求項
1に記載のガスセンサ。
【請求項6】
前記第1触媒層が、シリカ、シリカアルミナおよびゼオライトのいずれかを含む、
請求項
1または5に記載のガスセンサ。
【請求項7】
前記第1検知素子および前記第2検知素子が組み込まれる前記ガスセンサが、単一のガスセンサとして構成される、
請求項1または2に記載のガスセンサ。
【請求項8】
請求項1または2に記載のガスセンサを備えたガス警報器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスセンサおよびガスセンサを備えたガス警報器に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば、半導体工場などにおいて、シランなどの水素化物ガスが用いられている。水素化物ガスは、毒性が高いために、高精度で検知することが求められる。従来、水素化物ガスの検知には、たとえば特許文献1に開示されるような電気化学式ガスセンサが用いられている。しかし、電気化学式ガスセンサは、使用する電解液が経時に伴って増減して感度が変動するために、長寿命化が困難であり、また、使用環境の湿度変動によっても電解液が増減し、感度が変動するという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-134248号公報
【文献】特開2014-202478号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方、電解液を使用しないガスセンサとして、たとえば特許文献2に開示されるような半導体式ガスセンサが用いられている。ところが、半導体式ガスセンサは、半導体工場などで使用されるアルコールなどの干渉ガスに対する検知感度が高い。したがって、半導体式ガスセンサは、測定環境下に水素化物ガスなどの検知対象ガスとアルコールなどの干渉ガスとが混在する場合に、干渉ガスの影響を受けるために、検知対象ガスを高精度で検知することが難しい。
【0005】
本発明は、上記問題に鑑みなされたもので、検知対象ガスを高精度で検知することができるガスセンサおよびガスセンサを備えたガス警報器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のガスセンサは、酸化スズまたは酸化インジウムを主成分とする第1ガス感応部、前記第1ガス感応部を加熱するための第1加熱部、および前記第1ガス感応部の抵抗値変化を検知するための第1検知電極を備えた第1検知素子と、酸化スズまたは酸化インジウムを主成分とする第2ガス感応部、前記第2ガス感応部を加熱するための第2加熱部、および前記第2ガス感応部の抵抗値変化を検知するための第2検知電極を備え、検知対象ガスに対する検知感度が前記第1検知素子とは異なる第2検知素子と、を備えたガスセンサであって、前記ガスセンサは、前記第1検知素子と前記第2検知素子との間の前記検知対象ガスに対する検知感度の差に基づいて、前記検知対象ガスを検知するように構成されることを特徴とする。
【0007】
また、前記第1検知素子と前記第2検知素子との間の前記検知対象ガスに対する検知感度の差が、前記第1検知素子と前記第2検知素子との間の干渉ガスに対する検知感度の差よりも大きいことが好ましい。
【0008】
また、前記第2検知素子が、前記第2ガス感応部を覆う第2触媒層を備え、前記第1検知素子が、前記第1ガス感応部を覆う触媒層を備えないか、または前記第1ガス感応部を覆う、前記第2触媒層とは異なる第1触媒層を備えることが好ましい。
【0009】
また、前記検知対象ガスに対する検知感度の差が、ケイ素-水素結合含有ガスに対する検知感度の差であることが好ましい。
【0010】
また、前記第2触媒層が、アルミナを含むことが好ましい。
【0011】
また、前記第1検知素子が、前記第1ガス感応部を覆う第1触媒層を備え、前記第1触媒層が、シリカ、シリカアルミナおよびゼオライトのいずれかを含むことが好ましい。
【0012】
また、前記第1検知素子および前記第2検知素子が組み込まれる前記ガスセンサが、単一のガスセンサとして構成されることが好ましい。
【0013】
本発明のガス警報器は、上記ガスセンサを備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、検知対象ガスを高精度で検知することができるガスセンサおよびガスセンサを備えたガス警報器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施形態に係るガスセンサを備えるガス警報器の構成を示す概略図である。
【
図2】
図1のガスセンサに含まれる第1検知素子および第2検知素子の概略図である。
【
図3】ガス濃度の変化に対する検知素子の素子出力の変化を示す図であり、(a)は、第1検知素子の素子出力の変化を示し、(b)は、第2検知素子の素子出力の変化を示す。
【
図4】ガス濃度の変化に対する、第1検知素子の素子出力と第2検知素子の素子出力との間の差分の変化を示す図である。
【
図5】モリブデン酸化物の添加量の変化に対する、シラン1ppmから得られた検知素子の素子出力の変化を示す図である。
【
図6】ランタン酸化物の添加量の変化に対する、シラン1ppmから得られた検知素子の素子出力の変化と、シラン1ppmから得られた第1検知素子の素子出力に対する水素100ppmから得られた第1検知素子の素子出力の比の変化とを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を参照して、本発明の一実施形態に係るガスセンサ2を説明する。特に、
図1に示されるように、ガスセンサ2がガス警報器1に組み込まれた例を挙げて、本実施形態のガスセンサ2を説明する。ただし、以下に示す実施形態は一例であり、本発明のガスセンサは、以下の例に限定されることはない。また、本発明のガスセンサは、以下で説明するガス警報器以外の公知のガス警報器やガス検知器に組み込まれて使用することもできる。
【0017】
ガス警報器1は、
図1に示されるように、検知対象ガスを検知するガスセンサ2を備えている。ガス警報器1は、ガスセンサ2により検知対象ガスが検知されたことをユーザに通知するように構成されている。ガス警報器1は、本実施形態では、ガスセンサ2に加えて、ガス警報器1の構成要素に電力を供給する電源6と、ユーザの入力を受け付けるボタンなどの入力部7と、ガスセンサ2に含まれる検知素子の感度特性(検量線)や検知対象ガスの検知結果などを記憶するメモリなどの記憶部8と、検知対象ガスの検知結果などを出力するディスプレイやスピーカなどの出力部9とをさらに備えている。ガス警報器1は、たとえば、ガスセンサ2により所定以上の濃度の検知対象ガスが検知されたときに、出力部9により警告表示や警告音などで警告をユーザに通知するように構成されている。なお、ガス警報器1は、少なくともガスセンサ2を備えていればよく、電源6、入力部7、記憶部8および出力部9は、ガス警報器1とは別に設けられ、ガス警報器1に接続されてもよい。
【0018】
ガスセンサ2は、たとえば大気ガスなど、環境雰囲気を構成する測定対象ガスに含まれる検知対象ガスを検知する。ガスセンサ2は、測定対象ガスにおける検知対象ガスの有無を判定し、および/または、測定対象ガスにおける検知対象ガスの濃度を判定する。ガスセンサ2が検知の対象とする検知対象ガスとしては、特に限定されることはないが、シラン、ジシラン、トリシラン、クロロシラン、ジクロロシラン、トリクロロシランなどのケイ素-水素結合含有ガスが例示される。ただし、ガスセンサ2は、ケイ素-水素結合含有ガス以外の他のガスを検知するように構成することもできる。
【0019】
ガスセンサ2は、
図1に示されるように、第1検知素子3と、検知対象ガスに対する検知感度が第1検知素子3とは異なる第2検知素子4とを備えている。ガスセンサ2はさらに、第1検知素子3および第2検知素子4により得られる検知信号を処理する制御部5を備えている。ガスセンサ2は、制御部5を用いて、第1検知素子3と第2検知素子4との間の検知対象ガスに対する検知感度の差に基づいて、検知対象ガスを検知するように構成されている。ここで、第1および第2検知素子3、4により得られる検知信号には、検知対象ガスの検知信号だけでなく、測定対象ガスに含まれる検知対象ガス以外の干渉ガス(エタノール、水素など)の検知信号も含まれる。干渉ガスは、ガスセンサ2の検知の対象ではないものの、第1および第2検知素子3、4によって不可避的に検知され得るガスである。ガスセンサ2では、第1および第2検知素子3、4を、検知対象ガスに対する検知感度が互いに異なるように構成しているので、たとえば第1および第2検知素子3、4により得られる検知信号の差分を求めることで、検知対象ガスの検知信号強度を残しながら、干渉ガスの検知信号強度を低下させることができる。これにより、ガスセンサ2は、検知対象ガスの検知信号に対する干渉ガスの検知信号の相対強度を低下させることができるので、干渉ガスによる影響を抑えて検知対象ガスを高精度で検知することができる。そのような観点から、第1検知素子3と第2検知素子4との間の検知対象ガスに対する検知感度の差が、第1検知素子3と第2検知素子4との間の干渉ガスに対する検知感度の差よりも大きいことが好ましい。ただし、少なくとも第1および第2検知素子3、4の検知対象ガスに対する検知感度が異なっていればよく、第1検知素子3と第2検知素子4との間の検知対象ガスに対する検知感度の差が、第1検知素子3と第2検知素子4との間の干渉ガスに対する検知感度の差と同じか、それよりも小さいとしても、干渉ガスの種類や濃度が既知であるか、検知対象ガスの濃度に対する干渉ガスの濃度の比率が既知であれば、検知対象ガスを高精度で検知することができる。なお、検知対象ガスに対する検知感度の差としては、たとえばケイ素-水素結合含有ガスに対する検知感度の差が例示されるが、他のガスに対する検知感度の差であってもよい。
【0020】
第1検知素子3は、第2検知素子4よりも高い、検知対象ガスに対する検知感度を有する半導体式ガス検知素子である。第1検知素子3は、検知対象ガスに対して、第2検知素子4よりも高い検知感度を有してればよく、その構造は特に限定されない。第1検知素子3は、本実施形態では、
図2に示されるように、第1ガス感応部31、第1ガス感応部31を加熱するための第1加熱部32、および第1ガス感応部31の抵抗値変化を検知するための第1検知電極33を備えている。第1検知素子3は、測定対象ガスに検知対象ガスおよび/または干渉ガスが含まれると第1ガス感応部31の抵抗値が変化する現象を利用して、その抵抗値の変化を第1検知電極33により検知することで、測定対象ガスに含まれる検知対象ガスおよび/または干渉ガスを検知する。
【0021】
第1検知素子3は、第1ガス感応部31の抵抗値の変化を検知するために、本実施形態では、
図1に示されるように、電源Eおよび固定抵抗R0、R1、R2とともに、第1検知電極33を介して第1ブリッジ回路BC1に組み込まれる。第1ブリッジ回路BC1は、第1検知素子3における第1ガス感応部31の抵抗値の変化によって生じる回路内の電位差の変化を電位差計Vによって測定して、その電位差の変化を検知対象ガスおよび/または干渉ガスの検知信号として出力する。出力される電位差の変化は、制御部5に送信される。ただし、第1検知素子3は、第1ガス感応部31の抵抗値の変化を検出することができれば、第1ブリッジ回路BC1に限定されることはなく、第1ブリッジ回路BC1とは異なる回路に組み込まれて使用されてもよい。
【0022】
第1ガス感応部31は、酸化スズまたは酸化インジウムの金属酸化物半導体を主成分とし、測定対象ガスに検知対象ガスおよび/または干渉ガスが含まれると抵抗値が変化する部位である。第1ガス感応部31の抵抗値の変化は、検知対象ガスおよび/または干渉ガスが、第1ガス感応部31の表面に吸着した酸素と反応することにより生じると考えられる。第1ガス感応部31は、電気抵抗を調整するために、金属酸化物を用いるなど、たとえばドナーとしてアンチモンやセリウムなどの金属元素が添加されていてもよい。第1ガス感応部31は、酸化スズまたは酸化インジウムを主成分として形成することができればよく、その形成方法は特に限定されない。第1ガス感応部31は、たとえば、酸化スズまたは酸化インジウムの微粉体をエチレングリコールなどの分散媒体に混ぜてペースト状にしたものを塗布対象(本実施形態では、第1加熱部32および第1検知電極33)に塗布して乾燥することにより形成することができる。なお、「主成分」とは、第1ガス感応部31を構成する成分のうち主な成分を意味し、たとえば、第1ガス感応部31の中で50モル%よりも多く含む成分のことを意味する。
【0023】
第1ガス感応部31は、主成分である酸化スズまたは酸化インジウムに加えて、モリブデン酸化物(MoO3など)および/またはランタノイド系酸化物(La2O3、Pr2O3、Nd2O3など)を含んでいてもよい。第1ガス感応部31は、モリブデン酸化物を含むことにより、検知対象ガス、特にケイ素-水素結合含有ガスに対する検知感度が向上する。また、第1ガス感応部31は、ランタノイド系酸化物を含むことにより、検知対象ガス、特にケイ素-水素結合含有ガスに対する検知感度が向上するとともに、水素などの干渉ガスに対する選択性が向上する。モリブデン酸化物の添加量は、特に限定されることはないが、主成分である酸化スズまたは酸化インジウムに対して、0.01~1モル%であることが好ましく、0.05~0.5モル%であることがさらに好ましく、0.1~0.3モル%であることがよりさらに好ましい。また、ランタノイド系酸化物の添加量は、特に限定されることはないが、主成分である酸化スズまたは酸化インジウムに対して、0.01~1モル%であることが好ましく、0.05~0.5モル%であることがさらに好ましく、0.1~0.3モル%であることがよりさらに好ましい。モリブデン酸化物およびランタノイド系酸化物は、特に限定されることはなく、それぞれ、モリブデン酸アンモニウム水溶液などのモリブデン系水溶液および硝酸ランタン水溶液などのランタノイド系水溶液を酸化スズまたは酸化インジウムに含浸させて加熱分解処理を行なうことにより、酸化スズまたは酸化インジウムに添加することができる。
【0024】
第1加熱部32は、第1ガス感応部31を加熱する部位である。第1ガス感応部31の加熱温度は、検知対象ガスの検知に適した温度であればよく、特に限定されることはないが、たとえば300~600℃、好ましくは350~550℃、さらに好ましくは400~500℃に設定することができる。第1加熱部32は、本実施形態では、
図2に示されるように、白金線などでコイル状に形成され、その外周を覆うように第1ガス感応部31が設けられる。これにより、第1検知素子3は、コイル型(または熱線型、2端子型)の半導体式ガス検知素子として形成される。そして、第1加熱部32は、第1ガス感応部31を加熱するとともに、第1ガス感応部31の抵抗値の変化を検知するための第1検知電極33としても機能する。第1加熱部32および第1検知電極33を構成するコイルは、コイル型の半導体式ガス検知素子において一般的に用いられる材質、線径、コイル径、コイル巻数のものが用いられる。なお、第1検知素子3は、コイル型に限定されることはなく、MEMS型または基板型であってもよく、また、加熱部と検知電極とが一体に設けられるものに限らず、加熱部と検知電極とが別々に設けられるなど他のタイプの半導体式ガス検知素子であってもよい。
【0025】
第1検知素子3は、
図2に示されるように、第1ガス感応部31を覆う第1触媒層34を備えていてもよい。第1触媒層34は、第1ガス感応部31を部分的または全体的に覆うことで、測定対象ガスに含まれる干渉ガスに対する第1検知素子3の検知感度を低下させる。これは、第1触媒層34の触媒作用によって干渉ガスが燃焼し、干渉ガスが第1触媒層34を越えて第1ガス感応部31の表面に到達するのが抑制されるからであると考えられる。第1触媒層34は、干渉ガスに対する第1検知素子3の検知感度を低下させることができればよく、特に限定されることはないが、シリカ、シリカアルミナおよびゼオライトのいずれかを含むことが好ましい。第1触媒層34は、シリカ、シリカアルミナおよびゼオライトのいずれかを含むことで、検知対象ガスに対する第1検知素子3の検知感度の低下を抑制しながら、干渉ガスに対する第1検知素子3の検知感度を低下させることができる。なお、第1触媒層34は、検知対象ガス、特にケイ素-水素結合含有ガスに対する第1検知素子3の検知感度の低下を抑制するという観点から、アルミナを含まないことが好ましい。
【0026】
第1触媒層34は、干渉ガスに対する第1検知素子3の検知感度をさらに低下させるという観点から、シリカ、シリカアルミナおよびゼオライトのいずれかを含む担体にタングステン酸化物および/またはモリブデン酸化物が担持されることによって形成されてもよい。第1検知素子3は、第1触媒層34にタングステン酸化物および/またはモリブデン酸化物が含まれることで、干渉ガスであるアルコールに対する検知感度が低下する。これは、タングステン酸化物および/またはモリブデン酸化物が、アルコールの脱水触媒としてアルコールの分解を促進するためだと考えられる。第1触媒層34におけるタングステン酸化物およびモリブデン酸化物の含有量は、特に限定されることはないが、それぞれ、シリカ、シリカアルミナおよびゼオライトのいずれかを含む担体に対して、0.5~5.0モル%であることが好ましく、1.0~4.0モル%であることがさらに好ましく、1.5~3.0モル%であることがよりさらに好ましい。
【0027】
第1触媒層34は、上述した機能を有するように形成することができればよく、その形成方法は特に限定されない。第1触媒層34は、たとえば、タングステン酸化物、モリブデン酸化物などが添加されたシリカ、シリカアルミナ、ゼオライトなどの微粉体を水などの分散媒体に混ぜてペースト状にしたものを、第1ガス感応部31の表面に塗布したあと、加熱により焼結させて形成することができる。
【0028】
第2検知素子4は、第1検知素子3よりも低い、検知対象ガスに対する検知感度を有する半導体式ガス検知素子である。第2検知素子4は、検知対象ガスに対して、第1検知素子3よりも低い検知感度を有していればよく、その構造は特に限定されない。第2検知素子4は、本実施形態では、
図2に示されるように、第2ガス感応部41、第2ガス感応部41を加熱するための第2加熱部42、および第2ガス感応部41の抵抗値変化を検知するための第2検知電極43を備えている。第2検知素子4は、測定対象ガスに検知対象ガスおよび/または干渉ガスが含まれると第2ガス感応部41の抵抗値が変化する現象を利用して、その抵抗値の変化を第2検知電極43により検知することで、検知対象ガスおよび/または干渉ガスを検知する。
【0029】
第2検知素子4は、第2ガス感応部41の抵抗値の変化を検知するために、本実施形態では、
図1に示されるように、電源Eおよび固定抵抗R0、R1、R2とともに、第2検知電極43を介して第2ブリッジ回路BC2に組み込まれる。第2ブリッジ回路BC2は、第2検知素子4における第2ガス感応部41の抵抗値の変化によって生じる回路内の電位差の変化を電位差計Vによって測定して、その電位差の変化を検知対象ガスおよび/または干渉ガスの検知信号として出力する。出力される電位差の変化は、制御部5に送信される。第2検知素子4は、本実施形態では第1検知素子3が組み込まれる第1ブリッジ回路BC1とは別の第2ブリッジ回路BC2に組み込まれるが、第1検知素子3が組み込まれるブリッジ回路に第1検知素子3とともに組み込まれてもよい。また、第1検知素子3が組み込まれる第1ブリッジ回路BC1と第2検知素子4が組み込まれる第2ブリッジ回路BC2とが差分回路に接続されることで、第1検知素子3および第2検知素子4が1つの回路内に組み込まれてもよい。このようにして、第1検知素子3および第2検知素子4が組み込まれるガスセンサ2を、単一のガスセンサとして構成することができる。ただし、第2検知素子4は、第2ガス感応部41の抵抗値の変化を検出することができれば、第2ブリッジ回路BC2に限定されることはなく、第2ブリッジ回路BC2とは異なる回路に組み込まれて使用されてもよい。
【0030】
第2ガス感応部41は、酸化スズまたは酸化インジウムの金属酸化物半導体を主成分とし、測定対象ガスに検知対象ガスおよび/または干渉ガスが含まれると抵抗値が変化する部位である。第2ガス感応部41の抵抗値の変化は、検知対象ガスおよび/または干渉ガスが、第2ガス感応部41の表面に吸着した酸素と反応することにより生じると考えられる。第2ガス感応部41は、電気抵抗を調整するために、ドナーとしてアンチモンやセリウムなどの金属元素が添加されていてもよい。第2ガス感応部41は、酸化スズまたは酸化インジウムを主成分として形成することができればよく、その形成方法は特に限定されない。第2ガス感応部41は、たとえば、酸化スズまたは酸化インジウムの微粉体をエチレングリコールなどの分散媒体に混ぜてペースト状にしたものを塗布対象(本実施形態では、第2加熱部42および第2検知電極43)に塗布して乾燥することにより形成することができる。なお、「主成分」とは、第2ガス感応部41を構成する成分のうち主な成分を意味し、たとえば、第2ガス感応部41の中で50モル%よりも多く含む成分のことを意味する。
【0031】
第2ガス感応部41は、主成分である酸化スズまたは酸化インジウムに加えて、モリブデン酸化物(MoO3など)および/またはランタノイド系酸化物(La2O3、Pr2O3、Nd2O3など)が添加されてもよい。第2ガス感応部41は、モリブデン酸化物を含むことにより、検知対象ガス、特にケイ素-水素結合含有ガスに対する検知感度が向上する。また、第2ガス感応部41は、ランタノイド系酸化物を含むことにより、検知対象ガス、特にケイ素-水素結合含有ガスに対する検知感度が向上するとともに、水素などの干渉ガスに対する選択性が向上する。モリブデン酸化物の添加量は、特に限定されることはないが、主成分である酸化スズまたは酸化インジウムに対して、0.01~1モル%であることが好ましく、0.05~0.5モル%であることがさらに好ましく、0.1~0.3モル%であることがよりさらに好ましい。また、ランタノイド系酸化物の添加量は、特に限定されることはないが、主成分である酸化スズまたは酸化インジウムに対して、0.01~1モル%であることが好ましく、0.05~0.5モル%であることがさらに好ましく、0.1~0.3モル%であることがよりさらに好ましい。モリブデン酸化物およびランタノイド系酸化物は、特に限定されることはなく、それぞれ、たとえばモリブデン酸アンモニウム水溶液などのモリブデン系水溶液および硝酸ランタン水溶液などのランタノイド系水溶液を酸化スズまたは酸化インジウムに含浸させて加熱分解処理を行なうことにより、酸化スズまたは酸化インジウムに添加することができる。
【0032】
第2加熱部42は、第2ガス感応部41を加熱する部位である。第2ガス感応部41の加熱温度は、検知対象ガスの検知に適した温度であればよく、特に限定されることはないが、たとえば300~600℃、好ましくは350~550℃、さらに好ましくは400~500℃に設定することができる。第2加熱部42は、本実施形態では、
図2に示されるように、白金線などでコイル状に形成され、その外周を覆うように第2ガス感応部41が設けられる。これにより、第2検知素子4は、コイル型(または熱線型、2端子型)の半導体式ガス検知素子として形成される。そして、第2加熱部42は、第2ガス感応部41を加熱するとともに、第2ガス感応部41の抵抗値の変化を検知するための第2検知電極43としても機能する。第2加熱部42および第2検知電極43を構成するコイルは、コイル型の半導体式ガス検知素子において一般的に用いられる材質、線径、コイル径、コイル巻数のものが用いられる。なお、第2検知素子4は、コイル型に限定されることはなく、MEMS型または基板型であってもよく、また、加熱部と検知電極とが一体に設けられるものに限らず、加熱部と検知電極とが別々に設けられるなど他のタイプの半導体式ガス検知素子であってもよい。
【0033】
第2検知素子4は、上述したように、第1検知素子3よりも検知対象ガスに対する検知感度が低くなるように形成される。その目的のために、本実施形態では、第2検知素子4は、第2ガス感応部41を覆う第2触媒層44を備えている。第2触媒層44は、第2ガス感応部41を部分的または全体的に覆うことで、検知対象ガスに対する第2検知素子4の検知感度を低下させる。第2検知素子4が第2触媒層44を備える場合、第1検知素子3は、第2検知素子4よりも高い、検知対象ガスに対する検知感度を実現するために、第1ガス感応部31を覆う触媒層を備えないか、または第1ガス感応部31を覆う、第2触媒層44とは異なる第1触媒層34を備える。第1触媒層34は、少なくとも、第2触媒層44よりも、第1検知素子3の検知対象ガスに対する検知感度の低下を抑制するように構成される。
【0034】
第2触媒層44は、第2検知素子4の検知対象ガスに対する検知感度を低下させることができればよく、特に限定されることはないが、アルミナを含むことが好ましい。第2触媒層44がアルミナを含むことにより、検知対象ガスに対する第2検知素子4の検知感度が低下する。これは、検知対象ガス、特にケイ素-水素結合含有ガスが、第2触媒層44のアルミナに吸着することで、第2触媒層44を越えて第2ガス感応部41の表面に到達するのが抑制されるからであると考えられる。アルミナは、第2触媒層44の少なくとも一部に設けられていれば、第2検知素子4の検知対象ガスに対する検知感度を低下させることができるが、検知対象ガスに対する検知感度をより低下させるという観点から、第2触媒層44の主成分(50モル%超過)として含むことが好ましい。なお、ここでいうアルミナには、シリカアルミナやゼオライトのようにシリコン酸化物が含まれるアルミ酸化物は含まれない。
【0035】
第2触媒層44は、干渉ガスに対する第2検知素子4の検知感度を低下させるという観点から、アルミナを含む担体にタングステン酸化物および/またはモリブデン酸化物が担持されることにより形成されてもよい。第2検知素子4は、第2触媒層44にタングステン酸化物および/またはモリブデン酸化物が含まれることで、干渉ガスであるアルコールに対する検知感度が低下する。これは、タングステン酸化物および/またはモリブデン酸化物が、アルコールの脱水触媒としてアルコールの分解を促進するためだと考えられる。第2触媒層44におけるタングステン酸化物およびモリブデン酸化物の含有量は、特に限定されることはないが、それぞれ、アルミナを含む担体に対して、0.5~5.0モル%であることが好ましく、1.0~4.0モル%であることがさらに好ましく、1.5~3.0モル%であることがよりさらに好ましい。
【0036】
第2触媒層44は、上述した機能を有するように形成することができればよく、その形成方法は特に限定されない。第2触媒層44は、たとえば、タングステン酸化物、モリブデン酸化物などが添加されたアルミナなどの微粉体を水などの分散媒体に混ぜてペースト状にしたものを、第2ガス感応部41の表面に塗布したあと、加熱により焼結させて形成することができる。
【0037】
なお、本実施形態では、上述したように、第1検知素子3の検知対象ガスに対する検知感度を第2検知素子4の検知対象ガスに対する検知感度よりも高くするという目的のために、第1検知素子3の第1ガス感応部31と第2検知素子4の第2ガス感応部41とを互いに同じ構成とし、それぞれの触媒層を異なる構成としている。しかし、同じ目的のために、たとえば、それぞれのガス感応部を互いに異なる構成とし、それぞれの触媒層を同じ構成としてもよいし、それぞれのガス感応部および触媒層を互いに同じ構成として、それぞれの測定時の素子温度を異なるものとしてもよい。また、それぞれのガス感応部および/または触媒層の組成を互いに同じとして、それぞれのガス感応部および/または触媒層の焼成温度を変えることで、第1検知素子3の検知対象ガスに対する検知感度を第2検知素子4の検知対象ガスに対する検知感度よりも高くすることもできる。
【0038】
制御部5は、第1検知素子3および第2検知素子4によって得られる検知信号を処理する。制御部5は、本実施形態では、
図1に示されるように、第1検知素子3が組み込まれる第1ブリッジ回路BC1、および第2検知素子4が組み込まれる第2ブリッジ回路BC2に通信可能に接続される。制御部5は、第1ブリッジ回路BC1から送信される第1検知素子3の検知信号と、第2ブリッジ回路BC2から送信される第2検知素子4の検知信号との間の差分を算出する。制御部5は、算出した差分に基づいて、検知対象ガスの有無を判定し、および/または、予め用意された検量線を用いて検知対象ガスの濃度を判定する。このように、ガスセンサ2は、単一の制御部5によって、2つの第1および第2検知素子3、4の検知信号を処理するように構成され、これにより単一のガスセンサを構成している。なお、制御部5は、第1および第2検知素子3、4が単一の回路内に配置されて、単一の回路で検知信号の差分が算出される場合には、検知信号の差分を算出する工程を実施する必要がない。制御部5は、特に限定されることはなく、公知のCPUにより形成される。なお、制御部5は、ガスセンサ2とは別に、ガス警報器1に設けられてもよい。
【0039】
以上において、本発明の一実施形態に係るガスセンサおよびガスセンサを備えたガス警報器を説明した。しかし、本発明のガスセンサおよびガス警報器は、上述した実施形態に限定されない。上述した実施形態は、主に、以下の構成を有する発明を説明するものである。
【0040】
(1)酸化スズまたは酸化インジウムを主成分とする第1ガス感応部、前記第1ガス感応部を加熱するための第1加熱部、および前記第1ガス感応部の抵抗値変化を検知するための第1検知電極を備えた第1検知素子と、
酸化スズまたは酸化インジウムを主成分とする第2ガス感応部、前記第2ガス感応部を加熱するための第2加熱部、および前記第2ガス感応部の抵抗値変化を検知するための第2検知電極を備え、検知対象ガスに対する検知感度が前記第1検知素子とは異なる第2検知素子と、
を備えたガスセンサであって、
前記ガスセンサは、前記第1検知素子と前記第2検知素子との間の前記検知対象ガスに対する検知感度の差に基づいて、前記検知対象ガスを検知するように構成される、
ガスセンサ。
【0041】
(2)前記第1検知素子と前記第2検知素子との間の前記検知対象ガスに対する検知感度の差が、前記第1検知素子と前記第2検知素子との間の干渉ガスに対する検知感度の差よりも大きい、
(1)に記載のガスセンサ。
【0042】
(3)前記第2検知素子が、前記第2ガス感応部を覆う第2触媒層を備え、
前記第1検知素子が、前記第1ガス感応部を覆う触媒層を備えないか、または前記第1ガス感応部を覆う、前記第2触媒層とは異なる第1触媒層を備える、
(1)または(2)に記載のガスセンサ。
【0043】
(4)前記検知対象ガスに対する検知感度の差が、ケイ素-水素結合含有ガスに対する検知感度の差である、
(1)~(3)のいずれか1つに記載のガスセンサ。
【0044】
(5)前記第2触媒層が、アルミナを含む、
(3)に記載のガスセンサ。
【0045】
(6)前記第1検知素子が、前記第1ガス感応部を覆う第1触媒層を備え、
前記第1触媒層が、シリカ、シリカアルミナおよびゼオライトのいずれかを含む、
(3)または(5)に記載のガスセンサ。
【0046】
(7)前記第1検知素子および前記第2検知素子が組み込まれる前記ガスセンサが、単一のガスセンサとして構成される、
(1)~(6)のいずれか1つに記載のガスセンサ。
【0047】
(8)(1)~(7)のいずれか1つに記載のガスセンサを備えたガス警報器。
【実施例】
【0048】
以下において、実施例をもとに本実施形態のガスセンサの優れた効果を説明する。ただし、本発明のガスセンサは、以下の実施例に限定されるものではない。
【0049】
(第1検知素子)
第1検知素子として、
図2に示される第1検知素子3を作製した。第1検知素子の各構成要素は、以下の要領で形成した。
【0050】
第1ガス感応部は、アンチモンをドープして所定の電導度を得た酸化スズ半導体の微粉体を分散媒体(エチレングリコール)に混ぜてペースト状にしたものを白金コイル(第1加熱部および第1検知電極)の周りに塗布して600℃で1時間加熱することで乾燥させることにより直径が約0.5mmの略球形状に形成した。さらに、略球形状に形成した酸化スズ半導体に、0.1mol/Lの硝酸ランタン水溶液の液滴を含浸させ、600℃で1時間、加熱分解処理を行い、さらに0.2mol/Lのモリブデン酸アンモニウム水溶液の液滴を含浸させ、600℃で1時間、加熱分解処理を行い、ランタン酸化物およびモリブデン酸化物を酸化スズ半導体に担持させた。ランタン酸化物およびモリブデン酸化物の添加量はそれぞれ、酸化スズ半導体に対して0.1モル%および0.2モル%であった。
【0051】
第1触媒層は、2モル%のタングステン酸化物を添加したシリカアルミナの微粉体を分散媒体(水)に混ぜてペースト状にしたものを第1ガス感応部の表面の全周に塗布し、600℃で1時間加熱し、焼結させ形成した。
【0052】
(第2検知素子)
第2検知素子として、
図2に示される第2検知素子4を作製した。第2検知素子の各構成要素は、以下の要領で形成した。
【0053】
第2ガス感応部は、第1検知素子の第1ガス感応部と同じように作製した。
【0054】
第2触媒層は、2モル%のタングステン酸化物を添加したアルミナの微粉体を分散媒体(水)に混ぜてペースト状にしたものを第2ガス感応部の表面の全周に塗布し、600℃で1時間加熱し、焼結させ形成した。
【0055】
(第1検知素子および第2検知素子の素子出力)
第1検知素子および第2検知素子を、
図1に示されるように、第1ブリッジ回路および第2ブリッジ回路にそれぞれ組み込んで、検知対象ガスであるシラン、ならびに干渉ガスであるエタノールおよび水素が大気中にそれぞれ含まれる環境において、第1検知素子および第2検知素子のそれぞれの素子出力(ブリッジ回路内の電位差の変化、上述した検知信号に対応)を測定した。第1検知素子の第1ガス感応部および第2検知素子の第2ガス感応部の測定時の温度は、第1加熱部および第2加熱部に所定量の電流を流すことにより、400℃とした。
図3(a)は、シラン、エタノール、水素のそれぞれの濃度に対する第1検知素子の素子出力の変化を示し、
図3(b)は、シラン、エタノール、水素のそれぞれの濃度に対する第2検知素子の素子出力の変化を示している。
図4は、
図3(a)の第1検知素子の素子出力から
図3(b)の第2検知素子の素子出力を差し引いた素子出力のガス濃度に対する変化を示している。
【0056】
図3(a)および
図3(b)において、第1検知素子および第2検知素子のいずれにおいても、シラン、エタノール、水素のそれぞれの濃度の増加にともなって、素子出力が増加している。また、シランに対する検知感度が相対的に高い第1検知素子におけるシランについての素子出力(
図3(a))が、シランに対する検知感度が相対的に低い第2検知素子におけるシランに対する素子出力(
図3(b))よりも非常に大きい。一方、第1検知素子におけるエタノールおよび水素についての素子出力(
図3(a))が、第2検知素子におけるエタノールおよび水素についての素子出力(
図3(b))よりもわずかだけ大きい。その結果、第1検知素子と第2検知素子との間で、検知対象ガスであるシランに対して得られる素子出力の差が、干渉ガスであるアルコールおよび水素に対して得られる素子出力の差よりも大きくなっている。第1検知素子の素子出力から第2検知素子の素子出力を差し引くと、
図4に示されるように、シラン、エタノール、水素のそれぞれの濃度の増加にともなって素子出力が増加するという傾向は維持されながらも、シランについての素子出力が、エタノールや水素についての素子出力に対して相対的に、大幅に大きくなっている。この結果から、検知対象ガスに対する検知感度が異なる第1および第2検知素子により得られる素子出力の差分を求めることで、素子出力への干渉ガスの影響を抑えることができ、それによって検知対象ガスを高精度で検知できることが分かる。
【0057】
(ガス感応部へのモリブデン酸化物の添加の影響)
上述した第1検知素子において、第1ガス感応部を形成する際のモリブデン酸アンモニウム水溶液の濃度を変更することにより、モリブデン酸化物の添加量の異なる第1ガス感応部を形成した。このとき、ランタン酸化物の添加量は、0.1モル%とした。作製した第1検知素子を、
図1に示されるように、第1ブリッジ回路に組み込んで、1ppmのシランが大気中に含まれる環境において、第1検知素子の素子出力を測定した。第1検知素子の第1ガス感応部の測定時の温度は、第1加熱部に所定量の電流を流すことにより、400℃とした。
図5は、添加したモリブデン酸化物の添加量に対する第1検知素子の素子出力の変化を示している。
【0058】
図5において、第1検知素子の素子出力が、モリブデン酸化物の添加量が0.05モル%から0.2モル%までは、添加量の増加にともなって増加し、モリブデン酸化物の添加量が0.2モル%から2モル%までは、添加量の増加にともなって低下している。素子出力が100mVを超えると、検知対象ガスであるシランを精度よく検知するために十分な感度ということができるが、その観点から、モリブデン酸化物の添加量は0.01~1モル%であることが好ましいことが分かる。その中でも、モリブデン酸化物の添加量は、0.05~0.5モル%であることがさらに好ましく、0.1~0.3モル%であることがよりさらに好ましいことが分かる。
【0059】
(ガス感応部へのランタン酸化物の添加の影響)
上述した第1検知素子において、第1ガス感応部を形成する際の硝酸ランタン水溶液の濃度を変更することにより、ランタン酸化物の添加量の異なる第1ガス感応部を形成した。このとき、モリブデン酸化物の添加量は、0.2モル%とした。作製した第1検知素子を、
図1に示されるように、第1ブリッジ回路に組み込んで、1ppmのシランが大気中に含まれる環境において、第1検知素子の素子出力を測定した。また、それとは別に、100ppmの水素が大気中に含まれる環境において、第1検知素子の素子出力を測定した。第1検知素子の第1ガス感応部の測定時の温度は、第1加熱部に所定量の電流を流すことにより、400℃とした。
図6は、添加したランタン酸化物の添加量に対する第1検知素子の素子出力(シラン1ppm)および素子出力比(水素100ppm/シラン1ppm)の変化を示している。
【0060】
図6において、ランタン酸化物の添加量の増加にともなって、シラン1ppmから得られた第1検知素子の素子出力が減少している。素子出力が100mVを超えると、検知対象ガスであるシランを精度よく検知するために十分な感度ということができるが、その観点から、ランタン酸化物の添加量は、1モル%以下であることが好ましいことが分かる。その中でも、ランタン酸化物の添加量は、0.5モル%以下であることがさらに好ましく、0.3モル%以下であることがよりさらに好ましいことが分かる。また、
図6において、ランタン酸化物の添加量の増加にともなって、シラン1ppmから得られた第1検知素子の素子出力に対する水素100ppmから得られた第1検知素子の素子出力の比が減少している。素子出力比(水素100ppm/シラン1ppm)が1よりも小さくなると、干渉ガスである水素の影響を抑えて、検知対象ガスであるシランを精度よく検知するために十分な選択性があるということができるが、その観点から、ランタン酸化物の添加量は、0.01モル%以上であることが好ましいことが分かる。その中でも、ランタン酸化物の添加量は、0.05モル%以上であることがさらに好ましく、0.1モル%以上であることがよりさらに好ましいことが分かる。
【符号の説明】
【0061】
1 ガス警報器
2 ガスセンサ
3 第1検知素子
31 第1ガス感応部
32 第1加熱部
33 第1検知電極
34 第1触媒層
4 第2検知素子
41 第2ガス感応部
42 第2加熱部
43 第2検知電極
44 第2触媒層
5 制御部
6 電源
7 入力部
8 記憶部
9 出力部
BC1 第1ブリッジ回路
BC2 第2ブリッジ回路
E 電源
R0、R1、R2 固定抵抗
V 電位差計
【要約】
【課題】検知対象ガスを高精度で検知することができるガスセンサを提供することを目的とする。
【解決手段】本発明のガスセンサ2は、第1ガス感応部、第1ガス感応部を加熱するための第1加熱部、および第1ガス感応部の抵抗値変化を検知するための第1検知電極を備えた第1検知素子3と、第2ガス感応部、第2ガス感応部を加熱するための第2加熱部、および第2ガス感応部の抵抗値変化を検知するための第2検知電極を備え、検知対象ガスに対する検知感度が第1検知素子3とは異なる第2検知素子4とを備え、ガスセンサ2は、第1検知素子3と第2検知素子4との間の検知対象ガスに対する検知感度の差に基づいて、検知対象ガスを検知するように構成されることを特徴とする。
【選択図】
図1