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特許7428799固体推進剤を用いるコールドガススラスタ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-29
(45)【発行日】2024-02-06
(54)【発明の名称】固体推進剤を用いるコールドガススラスタ
(51)【国際特許分類】
   F03H 99/00 20090101AFI20240130BHJP
   B64G 1/40 20060101ALI20240130BHJP
【FI】
F03H99/00 A
B64G1/40 900
B64G1/40 300
B64G1/40 200
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2022532045
(86)(22)【出願日】2020-12-03
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-03
(86)【国際出願番号】 EP2020084479
(87)【国際公開番号】W WO2021110841
(87)【国際公開日】2021-06-10
【審査請求日】2022-08-16
(73)【特許権者】
【識別番号】522211656
【氏名又は名称】スラストミー
(74)【代理人】
【識別番号】100074734
【弁理士】
【氏名又は名称】中里 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100086265
【弁理士】
【氏名又は名称】川崎 仁
(74)【代理人】
【識別番号】100076451
【弁理士】
【氏名又は名称】三嶋 景治
(72)【発明者】
【氏名】ラファルスキー ドミトロ
(72)【発明者】
【氏名】マルティネス マルティネス ハビエル
(72)【発明者】
【氏名】ゾルゾリ ロッシ エレナ
【審査官】大宮 功次
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第03373563(US,A)
【文献】米国特許第10399708(US,B1)
【文献】特開昭52-079114(JP,A)
【文献】特開2009-214695(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107939549(CN,A)
【文献】スペイン国特許出願公開第2342520(ES,A1)
【文献】特開2019-132142(JP,A)
【文献】特開2009-222596(JP,A)
【文献】特開2019-178641(JP,A)
【文献】実開平01-176600(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F03H 99/00
B64G 1/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
- 固体推進剤を収容することに適したタンク(1)と、
- 前記固体推進剤を昇華させて気体推進剤を形成することに適したタンク加熱装置(4)と、
を含むコールドガススラスタであって、
前記タンク(1)は、前記気体推進剤を前記タンク(1)の外部へと移行させるための穴(7)を有し、また
コールドガススラスタは、前記推進剤タンク(1)内の推進剤残量を測定する測定手段を有し、
-前記測定手段は、少なくとも1つのタンク温度センサを含み、そしてこの測定手段は、前記タンクを温度T1からT2まで加熱するときのエンタルピ変化を計算し、得られたエンタルピを、事前に決定されたΔH対質量の表中のエンタルピ値と比較するのに適しており、または
前記測定手段は、衝撃を発生させる衝撃発生器と、前記タンクに接触した変位又は音響センサと、周波数フィルターを含み、前記変位又は音響センサにより周波数応答を測定するようになってる、コールドガススラスタ。
【請求項2】
前記固体推進剤は、ヨウ素(I)、ビスマス(Bi)、セシウム(Ce)、カドミウム(Cd)、錫(Sn)、インジウム(In)、ガリウム(Ga)、ゲルマニウム(Ge)、リチウム(Li)、水銀(Hg)、アダマンタン、フェロセン、ヒ素、ポリ塩化ビニル、ポリイミド、及びポリテトラフルオロエチレンからなる群より選択される、請求項1に記載のコールドガススラスタ。
【請求項3】
前記固体推進剤はヨウ素(I)である、請求項2に記載のコールドガススラスタ。
【請求項4】
前記タンク(1)は複数の分割部分(33、37)を含み、各分割部分(33、37)は前記固体推進剤の少なくとも一部を貯蔵することに適している、請求項1~3の何れか1項に記載のコールドガススラスタ。
【請求項5】
少なくとも1つの分割部分(33、37)には、推進剤の断片の分離及び/又は前記タンク(1)内でのそれらの自由運動を防止するバインダが少なくとも部分的に充填される、請求項4に記載のコールドガススラスタ。
【請求項6】
推進剤の断片の分離及び/又は前記タンク(1)内でのそれらの自由運動を防止する前記バインダは、化学的に不活性な繊維からなる、請求項5に記載のコールドガススラスタ。
【請求項7】
前記タンク(1)内に配置された多孔質材料(32)の少なくとも1つのインサートを含む、請求項4~6の何れか1項に記載のコールドガススラスタ。
【請求項8】
前記多孔質材料は、セラミック又は金属からなる、請求項7に記載のコールドガススラスタ。
【請求項9】
各分割部分(33)は前記タンク(1)の外壁(30)及び/又は内壁(31)により仕切られ、各分割部分(33)を画定する前記外壁(30)及び/又は内壁(31)の少なくとも1つは、少なくとも1つのタンク加熱装置(4)と直接又は間接的に熱接触する、請求項4~6の何れか1項に記載のコールドガススラスタ。
【請求項10】
各分割部分(33)は前記タンク(1)の前記外壁(30)及び/又は内壁(31)により仕切られ、前記タンクの前記外壁(30)及び内壁(31)の総表面積は、前記固体推進剤への熱伝達を、前記固体推進剤を昇華させるために必要な昇華パワーとマッチさせることによって計算される、請求項に記載のコールドガススラスタ。
【請求項11】
前記スラスタは貯蔵シーリングシステム(40)を含む、請求項1~10の何れか1項に記載のコールドガススラスタ。
【請求項12】
前記貯蔵シーリングシステム(40)は保護フィルム(17)及び赤外線エミッタ(16)を含み、前記保護フィルム(17)は、前記気体推進剤を前記タンク(1)の外部へと移行させるための前記穴(7)の正面に配置され、前記赤外線エミッタ(16)は前記保護フィルム(17)の少なくとも一部を昇華させることに適している、請求項11に記載のコールドガススラスタ。
【請求項13】
前記スラスタは、前記気体推進剤の前記スラスタの外への前記移行を制御するためのオン-オフ弁(10)を含む、請求項1~12の何れか1項に記載のコールドガススラスタ。
【請求項14】
前記スラスタは電子制御基板(12)をさらに含み、前記タンク(1)は前記電子制御基板(12)に直接固定される、請求項1~13の何れか1項に記載のコールドガススラスタ。
【請求項15】
請求項1~14の何れか1項に記載のコールドガススラスタの推進剤タンク(1)内の推進剤残量を測定するプロセスであって、
(a)前記タンク(1)を温度T1に予熱するステップであって、T1は宇宙船の環境の予想温度より大幅に高い、ステップと、
(b)前記タンク(1)を前記温度T1に、システムの熱慣性が補償されるのに十分な時間にわたり保持するステップと、
(c)前記タンクを温度T2に加熱するステップであって、T2>T1であるステップと、
(d)T1からT2までの前記加熱ステップ中にエンタルピ変化を計算するステップと、
(e)得られたエンタルピ値を、事前に決定されたΔH対質量の表中のエンタルピ値と比較するステップと、
(f)前記推進剤タンク(1)内の前記推進剤残量を特定するステップと、
を含む、プロセス。
【請求項16】
請求項1~15の何れか1項に記載のスラスタの前記推進剤タンク(1)内の推進剤残量を特定するプロセスであって、
(a’)衝撃発生器(19)と変位又は音響センサ(20)とを、前記タンク(1)と接触させて設置するステップと、
(b’)前記衝撃発生器(19)で衝撃を発生させるステップと、
(c’)前記変位又は音響センサ(20)で周波数応答を測定するステップと、
(d’)得られた前記周波数応答を事前に決定された質量対振動周波数応答の表中の周波数値と比較するステップと、
(e’)前記推進剤タンク(1)内の前記推進剤残量を特定するステップと、
を含む、プロセス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体推進剤と共に動作する宇宙用コールドガススラスタに関する。
【0002】
より正確には、本発明は、先行技術のコールドガススラスタの幾つかの問題を克服するコールドガス固体推進剤スラスタ、及び、固体推進剤コールドガススラスタの推進剤タンク内の推進剤残量を測定するプロセスに関する。
【0003】
より詳しくは、本発明は小型衛星に応用可能である。典型的に本発明は、重量を1kg~100kg、任意選択により最大500kgまでの範囲とすることのできる衛星に応用可能である。特に興味深い応用先は、その基本モジュール(U)の重量が最大1.3kgであり、寸法が10cm10cm10cmの「CubeSat」に関する。本発明によるコールドガススラスタは特に、1モジュール1U又はデミモジュール(1/2U)に組み込んで、2(2U)、3(3U)、6(6U)、12(12U)、又はそれ以上の複数のモジュールのスタックで使用できる。
【背景技術】
【0004】
宇宙船用のコールドガススラスタ又はコールドガス推進システムは、推進力を発生させるために加圧ガスの膨張を利用するロケットエンジンである。コールドガススラスタは単純なシステムであり、古典的に燃料タンク、調整弁、及び推進ノズルを含む。従来のスラスタと比較すると、これらは何れの燃焼も格納せず、したがって、その推進力及び効率はより低い。これらは例えば、軌道上保全、操縦、又は姿勢制御に使用できる。
【0005】
宇宙船用のコールドガス系推進システムでは、気体及び液体推進剤が古典的に使用されている。それにもかかわらず、液体推進剤又は特定の条件下で液体となり得る気体推進剤の使用は、様々な制約や課題の原因となる。中でも、例えば気体又は液体の形態での推進剤の貯蔵を挙げることができ、気相貯蔵のために高い圧力が必要であり、また、液体として貯蔵される推進剤の場合は、推進剤のスロッシング等の技術的な問題を生じさせる可能性がある。例えば、特許文献である米国特許第8,620,603号明細書及び米国特許出願公開第2019/277224号明細書は、推進システムのタンク内の燃料の残量を特定するための方法及びシステムを開示している。
【0006】
これらの貯蔵の問題の少なくとも一部を克服するために、推進剤の固体貯蔵を用いるコールドガススラスタが考案されてきた。例えば、Van der List M.C.A.M.,et al.“Applications for Solid Propellant Cool Gas Generator Technology”,Proc.of the 4th Space Propulsion Conference,Sardinia,Italy,2-9 June 2004及びRhee MS,Zakrzwski CM,Thomas MA,“Highlights of Nanosatellite Propulsion Development Program at NASA-Goddard Space Flight Center”,Proceedings of the AIAA/USU Conference on small satellites,Logan,UT,Aug 21-24,2000は、このようなコールドガススラスタを開示している。これらのスラスタにおいて、推進剤は固体の形態で貯蔵され、例えば固体推進剤ペレットの着火による化学反応によって気体に変換される。気体推進剤の高い圧力(数バール)はこの化学反応を通じて得られる。このようなシステムは全ての固体推進剤と適合するとはかぎらず、特にヨウ素推進剤の使用と両立しない。それに加えて、これらのスラスタは、気体推進剤の高い圧力(数バール)を保持することが可能であるべきであり、このことは製造及び設計に影響を与える。最後に、化学反応により得られる気体圧力は、精密に制御することができない。
【0007】
特許文献である米国特許第3373563号明細書、米国特許第10399708号明細書、及び欧州特許第3133283号明細書は、固体材料の加熱による昇華に基づくスラスタを開示している。
【0008】
液体及び気体推進剤コールドガススラスタの貯蔵の問題の少なくとも一部を克服する、高い圧力を必要とせず、気体圧力の微調整を可能にするような、宇宙用コールドガススラスタを提供することが有利であろう。
【0009】
これに関して、本発明の出願人は、前述の技術的問題を解決するコールドガス固体推進剤スラスタを開発した。出願人が知るかぎり、本発明は、ヨウ素等の固体推進剤の昇華によって動作するコールドガススラスタの初の開示である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第一の目的は、固体推進剤を収容することに適したタンクと、前記固体推進剤を昇華させて気体推進剤を生成することに適したタンク加熱装置と、を含む、コールドガススラスタであり、タンクは、前記気体推進剤を前記タンクの外部へと移行させるための穴、例えばノズルを有する。
【0011】
本発明の固体推進剤コールドガススラスタは、既存のシステムに対する様々な利点を提示する。第一に、固体の形態の推進剤によって何れの気体よりもはるかに高い貯蔵密度を実現でき、それゆえ、スラスタの製造にあたっての体積の制約が解消される。それに加えて、固体推進剤の昇華で生じる圧力は、例えば0.1バール未満の圧力等、比較的低いため、タンクの設計と要求事項はより単純であり、打ち上げのための適格性認定がより容易になる。最後に、タンクが高い圧力を維持する必要がないことで、タンクの価格は10分の1未満に削減できる。それに加えて、この解決策により、システムを、非常に制限されたミッション、例えば国際宇宙ステーション(ISS)から、又は二次ペイロードとして打ち上げられた小型衛星上で展開されるミッションにおいてそれを使用するために適格とすることができる。
【0012】
特定の態様によれば、コールドガススラスタは、タンク内の固体推進剤の残量を測定する手段を含み、前記手段は、
- 少なくとも1つのタンク温度センサ、或いはタンクと接触する衝撃発生器及び変位又は音響センサと、
- タンク加熱装置に提供される電力に依存するタンクのエンタルピ変化を測定するように、或いは変位又は音響センサで周波数応答を測定するようになされた電子制御基板と、
を含む。
【0013】
単独でも、技術的に可能なあらゆる組合せでも考え得る、本発明によるスラスタのその他の非限定的で有利な特徴は、以下の通りである:
- 固体推進剤は、ヨウ素(I)、ビスマス(Bi)、セシウム(Ce)、カドミウム(Cd)、錫(Sn)、インジウム(In)、ガリウム(Ga)、ゲルマニウム(Ge)、リチウム(Li)、水銀(Hg)、アダマンタン、フェロセン、ヒ素、ポリ塩化ビニル、ポリイミド、及びポリテトラフルオロエチレンからなる群より選択され、好ましくは、固体推進剤はヨウ素(I)である。ヨウ素(I)は、その昇華が中程度の加熱、例えば80℃~100℃の温度での加熱で起こるという点で特に有利である。それに加えて、Iは低圧の固体として貯蔵され、それゆえタンクは不規則的な形状で、利用可能な空間に適合し得る。最後に、Iは前述のものをはじめとする他の幾つかの推進剤より比較的低コストである。
- タンクは、1つ又は複数の分割部分、特に複数の分割部分を含み、各分割部分は、前記固体推進剤の少なくとも一部を貯蔵することに適している。タンクの分割部分によって、貯蔵される固体推進剤の跳ね返りの限定と推進剤への熱伝達の正確な制御を同時に実現できる。実際に、別々の分割部分は熱制御表面のために表面積対体積比を高めることができ、それによって、壁との接触がない場合があり得る推進剤ブロックに向かう熱の流れがより確実となる。実際、固体推進剤貯蔵の課題の1つは、時間と共に推進剤ブロックが破砕されるかもしれず、推進剤の様々な断片が、微小重量状態で、液体推進剤を使用した場合のスロッシング作用と同様にタンクの壁間で跳ね返る可能性がある。このプロセスは、特に高精度の測位が必要な場合、高度制御及び精密な測位のための宇宙船の能力に大きく影響を与える可能性がある。推進剤破砕の他の望ましくない影響は、推進剤とタンクの壁との間の熱接触の喪失であり、これが望ましくないのは、この固体推進剤コールドガススラスタにおいては推進剤が熱伝達によって昇華するからである。このような熱接触の喪失は、定常状態に到達するまでの時間が長くなる原因となりかねず、ある速度での昇華を確実にするのに十分な熱パワーを推進剤に伝達することが不可能とさえなり得る。この実施形態によるタンクの設計は、これらの問題を解決する。
- タンク分割部分の少なくとも1つには、推進剤の断片の分離及び/又はタンク内でのそれらの自由運動を防止する、化学的に不活性な繊維、好ましくはガラスウール繊維等のバインダが少なくとも部分的に充填される。
- 分割部分は、タンクの外壁及び/又は内壁により仕切られる。
- 各分割部分を画定する壁-タンクの外壁及び/又は内壁-の少なくとも1つは、少なくとも1つのタンク加熱装置と直接又は間接的に熱接触する。「直接的熱接触」は、少なくとも1つのタンク加熱装置が分割部分を画定する壁の少なくとも1つと接触する場合に得られる。「間接的熱接触」は、タンク加熱装置が分割部分を画定する壁と接触しないが、少なくとも1つのタンク加熱装置から分割部分を画定する少なくとも1つの壁へと輻射によって熱伝達が行われる場合に得られる。
-推進剤と接触する可能性のあるタンク内壁及び外壁の内側の総表面積は、推進剤への熱伝達を、固体推進剤を昇華させるのに必要な昇華パワーとマッチさせることによって計算される。タンク壁の表面積はそれゆえ、次式:
【数1】
により計算され得、式中、Aはタンク壁の表面積、flowは所望の推進剤の流量、Hsは固体推進剤の昇華熱、σはステファン-ボルツマン定数、εは放射率、Tはタンクの温度、及びTは推進剤の温度である。このような表面積のタンク壁では、推進剤への熱伝達を必要な昇華パワーとマッチさせることによって熱伝達を最適化できる。
- コールドガススラスタは、タンク内に配置された、分割部分を形成する多孔質材料の少なくとも1つのインサートを含む。
- 多孔質材料は、セラミック又は金属、好ましくはアルミナ又はタングステンからなる。
- コールドガススラスタは、貯蔵シーリングシステムをさらに含む。貯蔵シーリングシステムは、スラスタが宇宙で最初に使用される前に、排出ノズル又はその他の穴から推進剤の蒸気が漏出するのを限定又は回避するのに適した何れのシステムでもあり得る。好ましくは、貯蔵シーリングシステムは、保護フィルム及び赤外線エミッタを含む。保護フィルムは、気体推進剤をタンクの外部へと移行させるための穴の正面に位置付けられ、赤外線エミッタは保護フィルムの少なくとも一部を昇華させることに適している。実際、宇宙でそれが使用される前に、推進システムには古典的に、周囲圧力ケースを含む熱循環を用いた適格性認定準備、及び/又は各種環境中での予測不能な期間にわたる貯蔵等、様々な応力を受ける。これらのステップ中、固体推進剤の蒸気の排出穴、特に排出ノズルからの漏出が観察され得る。推進剤の漏出は、宇宙船、地上、及び射場設備を含む他のシステムのほか、推進剤が毒性及び/又は腐食性を有する場合には人員にも損害を与えることになり得る。本発明によるスラスタは、この問題を解決する。
- コールドガススラスタは、気体推進剤をスラスタの外部への移行を制御するためのオン-オフ弁を含む。
- スラスタは電子制御基板をさらに含み、タンクは前記電子制御基板に直接固定される。前記直接固定によって、昇華するヨウ素等の固体推進剤の使用による軽量化及び小型化の恩恵により、本発明のコールドガススラスタの大幅な小型化が可能となる。スラスタの小型化は、小型宇宙船でのそれらの使用にとって特に重要である。反対に、古典的なコールドガススラスタは、比較的大きい球又は同様の形状の高圧タンクに基づいており、それらを電子基板に直接固定することができない。重いタンクを基板に固定すると、振動及び/又は衝撃負荷中に基板がおそらく壊れるであろう。
- タンクは柱の形状を有し、タンクの排出穴のある面の面積は、タンクの直交する面の各々の面積より小さい。この特徴は、小型スラスタのコンパクト性を高めることに寄与する。
- タンクは、外側機械的フレームを含まない。この特徴もまた、小型スラスタのコンパクト性を高めることに寄与する。
- スラスタは少なくとも2つのタンクを含み、これらは好ましくは相互に独立して制御される。このことによって、コールドガススラスタの推進ユニットの制御の多様性が得られる。例えば、このようにして推進力ベクタリングを実装できる。
- コールドガススラスタは、機械的フレームへの断熱固定具等の、断熱手段を含む。
【0014】
本発明はまた、本発明によるコールドガススラスタの動作プロセスにも関し、これは、コールドガススラスタのタンク内にある固体推進剤を昇華させるステップを含む。本発明のコールドガススラスタについて上述した特徴の全てが、コールドガススラスタの動作プロセスにも当てはまる。
【0015】
本発明の第二の目的は、固体推進剤コールドガススラスタの推進剤タンク内の推進剤の残量の測定プロセスであり、これは、
(a)タンクを温度T1に予熱するステップであって、T1は宇宙船の環境の予想温度より大幅に高い、ステップと、
(b)タンクを温度T1に、システムの熱慣性が補償されるのに十分な時間にわたり保持するステップと、
(c)タンクを温度T2に加熱するステップであって、T2>T1であるステップと、
(d)T1からT2まで加熱する間にエンタルピ変化を計算するステップと、
(e)得られたエンタルピ値を、事前に決定されたΔH対質量の表中のエンタルピ値と比較するステップと、
(f)推進剤タンク内の推進剤残量を特定するステップと、
を含む。
【0016】
推進剤の残量の測定プロセスは、好ましくはステップ(a)の前に行われる、
(a1)推進剤の異なる質量に対するΔHの表を決定するステップ
からなるステップ(a1)をさらに含み得る。
【0017】
本発明の第三の目的は、固体推進剤コールドガススラスタの推進剤タンク内の推進剤残量の特定プロセスであり、これは、
(a’)衝撃発生器と変位又は音響センサとを、タンクと接触して設置するステップと、
(b’)衝撃発生器で衝撃を発生させるステップと、
(c’)変位又は音響センサで周波数応答を測定するステップと、
(d’)得られた周波数応答を事前に決定された質量対振動周波数応答の表中の周波数値と比較するステップと、
(e’)推進剤タンク内の推進剤残量を特定するステップと、
を含む。
【0018】
推進剤の残量の測定プロセスは、好ましくはステップ(a’)の前に行われる、
(a’1)質量対振動周波数応答の表を決定するステップ
からなるステップ(a’1)をさらに含み得る。
【0019】
特定の実施形態において、固体推進剤コールドガススラスタの推進剤タンク内の推進剤の残量の測定プロセスは、本発明による固体推進剤コールドガススラスタの推進剤タンク内の推進剤の残量を特定するためのものである。
【0020】
本発明による固体推進剤コールドガススラスタ内の、推進剤の残利用の測定プロセスは、スラスタが宇宙で使用される際のコールドガススラスタの推進剤タンク内の固体推進剤の残量を評価する上でのよく知られた問題に対する解決策である。
【0021】
好ましくは、推進剤タンク内部に残る固体推進剤の測定方法は、
- タンクの加熱中のエンタルピ変化を測定して計算し、エンタルピ変化を事前に決定されたエンタルピ変化対質量の表と比較すること、又は
- 変位又は音響センサを用いて衝撃に対するタンクの周波数応答を測定し、周波数応答を事前に決定された質量対振動周波数応答の表と比較すること
に基づく。
【0022】
添付の図面に関する以下の説明により、本発明が何であるか、及びどのようにそれを実現できるかが明確になるであろう。本発明は、図中に示されている実施形態に限定されない。したがって、特許請求項に記載されている特徴に続いて参照符号が付されている場合、かかる符号は特許請求項をより理解しやすくすることを唯一の目的として含められており、特許請求の範囲を如何様にも限定しないと理解すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明によるコールドガススラスタの断面略図である。
図2】推進剤タンク内部の分割部分を実装するための2種類の方法の概略図であって、図2の分割部分は直交して配置された薄い壁により仕切られる。
図3】推進剤タンク内部の分割部分を実装するための2種類の方法の概略図であって、図3の分割部分は多孔質挿入物を用いて形成される。
図4】貯蔵シーリングシステムを含む本発明によるコールドガススラスタの概略断面図である。
図5図6に示されるスラスタタンク列の断面図である。
図6】1つの制御プリント回路基板(PCB)上の本発明によるスラスタタンク列を含む機器の概略図である。
図7】本発明のコールドガススラスタを動作させることに適した動作アルゴリズムの概略的表現である。
図8】タンクの熱特性からのタンク内の推進剤残量測定の実装を説明するグラフである。
図9】タンク内の推進剤残量測定を可能にする衝撃発生源、変位又は音響センサ、及び周波数フィルタを含む本発明によるスラスタの概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
コールドガススラスタ
図1に示されるコールドガススラスタは、熱調整されたノズル7に接続され、断熱及び熱調整された推進剤タンク1を含む。タンクは、機械的フレーム3の内部に断熱固定具2を介して固定される。
【0025】
ノズル7は単一の穴として形成できるが、その外形は代替的に、例えば収束発散外形により最適化され得る。このような最適化により、単一の穴と比較して排出速度を5倍に高めることができる。
【0026】
ノズル7は、気体推進剤をタンクの外部へと移行させることに適した他の何れのタイプの穴でも代用し得て、排出穴7とも呼ばれる。
【0027】
幾つかの実施形態において、気体推進剤をタンク1の外部へと移行させることに適した穴7は熱調整されない。
【0028】
幾つかの実施形態において、機械的フレーム3は、特にスラスタの小型化が必要な場合、スラスタに含められない。
【0029】
タンク1の内面(タンク外壁の内側とも呼ばれる)の材料は、例えばヨウ素等の推進剤ガスによる腐食に対抗できる何れの材料とすることもできる。例えば、タンク1の内面は、例えば金、モリブデン、タングステン、又はプラチナ等の金属や、例えばポリテトラフルオロエチレン、エチレンテトラフルオロエチレン、パーフルオロアルコキシアルカン、又はフッ素化エチレンプロピレン等、ハロゲンに対する耐性を有するポリマでコーティングできる。
【0030】
同様に、ノズル7の内面の材料は、ヨウ素等の推進剤ガスによる腐食に抵抗できるあらゆる材料、例えばタンク1の内面に関して上で列挙した材料とすることができる。
【0031】
タンク1の外面の材料は、好ましくは、動作中のパワー損失を最小化するために、赤外線範囲において低い放射率、例えば赤外線範囲において0.2未満の放射率を有する材料とすることができる。
【0032】
幾つかの実施形態において、タンク1と機械的フレーム3との間のギャップには、多層断熱材料(MLI)等の断熱材料が少なくとも部分的に充填される。
【0033】
図1のコールドガススラスタは、少なくとも1つのタンクヒータ4及び少なくとも1つのタンク温度センサ11を含む。
【0034】
ノズル7はノズル支持部5に固定され、ノズル7は少なくとも1つのノズルヒータ6により加熱できる。ノズル7の温度は、少なくとも1つのノズル温度センサ8によりモニタされる。
【0035】
タンクヒータ4及び/又はノズルヒータ6は、それぞれタンク1及び/又はノズル7の内部の温度を所望の値又は範囲に上昇させることに適した何れの機器とすることもできる。典型的な種類のタンク及び/又はノズルヒータは電気ヒータ及び/又は電磁放射源、例えば赤外線エミッタ、LASER及び/又は誘導ヒータである。
【0036】
好ましくは、機器の中には燃料/酸化剤ペアがなく、それゆえ、タンク1内の推進剤はタンクヒータ4により提供される熱によって発火することはあり得ない。
【0037】
コールドガススラスタは、シーリング9と、例えば仏国特許出願第1901159号明細書に記載されているような、ノズル7内をガスが流れるように、又は流れないようにする任意選択によるオン/オフ弁10と、スラスタを制御する電子基板12と、をさらに含む。
【0038】
コールドガススラスタを制御する電子基板12は、例えばプリント回路基板(PCB)であり得る。
【0039】
コールドガススラスタの推進剤タンク1の内部は、少なくとも2つの分割部分33、37を含み、各々の分割部分は、固体推進剤の少なくとも一部を貯蔵することに適している。タンク分割部分33、37の仕切りは、貯蔵された固体推進剤の跳ね返りを制限する、及び/又は熱伝達の問題を限定することに適した、何れの材料、数、大きさ、相対位置、及び/又は形状でもあり得る。
【0040】
分割部分33、37の仕切りは、例えば壁、特に図2に示されるような外壁30及び少なくとも1つの内壁31、又は、図3に示されるように多孔質材料の少なくとも1つの挿入物32で製作され得る。図2及び図3は、タンク1の代替的な断面図を示す。図2及び図3に示されるタンク1の下壁は、図1に示されるタンク1の左壁に対応する。図2及び図3でタンク1の内部を示すように、図1に示されるような排出穴7を含むタンク1の右壁は、図2及び図3にはない。
【0041】
好ましくは、各分割部分33、37の仕切りは、少なくとも1つのタンクヒータ4と直接又は間接的に熱接触する。
【0042】
図2のスラスタタンク1の内部は、外壁30及び内壁31、好ましくは薄い壁により仕切られる複数の分割部分を含む。内壁31は、相互に関して、及び外壁30に関して直交に位置付けられている。代替的に、これらは分割部分33を固体推進剤の少なくとも一部で満たすことができ、貯蔵される固体推進剤の跳ね返りを制限し、及び/又は熱伝達の問題を限定することのできる何れの配置、例えばハニカム又は任意の配置であり得る。内壁31及び/又は外壁30、特に外壁30の、推進剤と接触する可能性のある内側は、独立して何れの適当な材料でも製作され得る。ある実施形態において、内壁31及び外壁30、好ましくは外壁30の内側は、同じ材料で製作される。好ましくは、これらは非多孔質材料で製作される。タンク1の内壁31の材料は、ヨウ素等の推進剤ガスによる腐食に抵抗できる何れの材料とすることもできる。例えば、タンクの内壁31は、例えば金、モリブデン、タングステン、若しくはプラチナ等の金属か、又は例えばポリテトラフルオロエチレン、エチレンテトラフルオロエチレン、パーフルオロアルコキシアルカン、若しくはフッ素化エチレンプロピレン等の、ハロゲンに対する耐性を有するポリマでコーティングできる。
【0043】
タンクの内壁31及び外壁30の内側の総表面積は、推進剤の熱伝達を必要な昇華パワーとマッチさせることによって計算され得る。有利な点として、タンクの内壁及び外壁30の内側の総表面積は、次式:
【数2】
により計算され、式中、Aはタンク壁の表面積、flowは所望の推進剤の流量、Hsは固体推進剤の昇華熱、σはステファン-ボルツマン定数、εは放射率、Tはタンクの温度、及びTは推進剤の温度である。このような表面積のタンク壁により、熱伝達を最適化できる。
【0044】
タンク1の各分割部分33、37は、特に分割部分33が壁30、31により仕切られる場合、個別に、好ましくはそれに溶融した推進剤を充填する前に、推進剤の断片の分離及び/又はタンク内でのそれらの自由運動を防止するバインダを少なくとも部分的に充填し得る。前記バインダは、化学的に不活性な繊維、例えばグラスウール繊維で製作できる。実施形態において、繊維は分割部分33の中で相互に絡み合わせられ、及び/又はねじられる。好ましくは、繊維の平均長さは10nmより長く、特に繊維の平均長さは20nmより長い。分割部分内のバインダ、好ましくは化学的に不活性な繊維の体積量は、推進剤の断片の分離及び/又はタンク内でのそれらの自由運動を防止するのに適した何れの量とすることもできる。実施形態において、分割部分内のバインダ、好ましくは化学的に不活性な繊維の体積量は、推進剤の体積の5%までの範囲である。
【0045】
タンク1の分割部分33、37とタンク1の、穴7を含む壁との間には、気体の推進剤が穴7に向かって流れることができるようにするためにギャップが存在する。前記ギャップには、分割部分33について詳しく上述したように、推進剤の断片の分離及び/又はタンク内でのそれらの自由運動を防止するバインダ、例えばグラスウール繊維等の化学的に不活性な繊維を少なくとも部分的に充填し得る。
【0046】
図3のスラスタタンク1の内部は、分割部分37を仕切る多孔質挿入物32を含む。多孔質の挿入物32は、連続細孔を含む金属又はセラミック等の多孔質材料で製作される。代替的に、スラスタタンク1の内部は1つ又は複数の多孔質挿入物32を含み得て、各々が個別に同様又は異なる多孔質材料で製作される。「多孔質材料」とは、少なくとも2つの連続細孔を含む材料を意味する。多孔質材料の空隙率は70%より高く、平均細孔径は0.01~5mmの範囲である。有利な点として、多孔質材料はヨウ素等の推進剤による腐食に対する高い耐性と高い熱伝導率の両方を示す。ある実施形態において、多孔質材料は、空隙率の高いAlセラミック及び多孔質タングステンからなる群より選択される。多孔質挿入物は、推進剤への均一な熱伝達を提供し、細孔径より大きい推進剤断片の自由運動を防止する。ある実施形態において、多孔質挿入物の縁辺の少なくとも一部は、例えば、化学的に不活性な繊維等の推進剤断片の分離及び/又はそれらの自由運動を防止するバインダを挿入物の中に配置することにより閉じられる。このように閉じることによって、推進剤のずっと小さい断片の穴7に向かう運動を完全に防止することになり、これは気体推進剤をタンク1の外部へと移行させるのに適している。
【0047】
タンク1の少なくとも1つの多孔質挿入物32とタンク1の、穴7を含む壁との間には、気体の推進剤が排出穴7に向かって流れることができるようにするために、ギャップが存在する。前記ギャップには、分割部分33について詳しく上述したように、推進剤の断片の分離及び/又はタンク内でのそれらの自由運動を防止するバインダ、例えばグラスウール繊維等の化学的に不活性な繊維を少なくとも部分的に充填し得る。前記ギャップに充填されるバインダはまた、推進剤の昇華後にタンク1内の少なくとも1つの多孔質挿入物32の運動も防止する。
【0048】
好ましくは、ギャップ34、35、36もまた、少なくとも1つの多孔質挿入物32の各面とタンク1のそれに対応する外壁30との間に独立して存在する。この構成により、制約が最小化され、排出穴7に向かって推進剤ガスが流れやすくなる。前述のように、前記ギャップの各々には、推進剤の断片の分離及び/又はタンク内でのそれらの自由運動を防止するバインダ、例えばグラスウール繊維等の化学的に不活性な繊維が少なくとも部分的に充填され得る。
【0049】
好ましくは、機器内で分割部分33、37及び/又はギャップに少なくとも部分的に充填するために使用されるバインダは全て同じバインダ、例えば、前述のようにグラスウール繊維等の化学的に不活性な繊維である。
【0050】
図4のスラスタは、図1のスラスタの要素に加えて、貯蔵シーリングシステム40を含む。貯蔵シーリングシステム40は、特にスラスタの宇宙での使用前の各種の応力及び貯蔵中の推進剤の漏出とそれにより引き起こされる宇宙船、地上、射場設備を含む他のシステムや人員への損害を最小化することを目的としている。貯蔵シーリングシステム40は、ノズル7に取り付けられ、保護フィルム17及び赤外線エミッタ16を含む。保護フィルム17は、ポリマフィルム、好ましくは耐食性ポリマフィルムとすることができる。保護フィルム17の材料は例えば、ポリプロピレン、ポリイミド、及びポリテトラフルオロエチレンからなる群より選択できる。保護フィルム17は、1つの層を含むが、代替的には、冗長性のために少なくとも2つの層、例えば2つ又は3つの層を含み得て、各々が同様又は異なる材料で製作される。保護フィルム17は、ノズル7の出口の正面に位置付けられ、ノズル7を通じた推進剤の漏出を密閉により防止する。図4の貯蔵シーリングシステム40の保護フィルム17は、ノズル7の周囲で、ノズル支持部5のフランジに対してシールされる。必要に応じて、スラスタは、システム固定具13のための少なくとも1つの延長部を含み得る。シーリング18は、ノズル支持部5又は延長部13に当接されるフィルムのために提供される。赤外線エミッタ16は、例えばモリブデン又はタングステン等の耐熱金属ワイヤのループにより形成される。赤外線エミッタ16は保護フィルム17の上に位置付けられ、耐熱金属ワイヤのループは保護フィルム17と実質的に平行である。例えば、赤外線エミッタ16は、0.15mm径のタングステンワイヤの直径1cmのループであり得る。赤外線エミッタ16と保護フィルム17との間のギャップは、1mm~5mmとすることができる。赤外線エミッタ16は、ホルダ15により保持できる。赤外線エミッタ16は、保護フィルム17の少なくとも一部、好ましくは保護フィルム17の全体を昇華させるのに適している。電力を耐熱金属16のループに供給するために電気接続14が提供される。動作は以下の通りであり得る:最初の点火要求で、十分なDC又はACパワーが耐熱金属16のループに供給され、ループを2000℃を超える温度まで熱し、局所的過熱により数秒で保護フィルム17を昇華させる。0.15mm径のタングステンワイヤの直径1cmのループで製作された赤外線エミッタ16の場合、3層保護ポリプロピレン膜の連続昇華は10WのDCパワーで実現され、それに対応するDC電流は約3.5Aである。保護フィルム17及び赤外線エミッタ16を含む貯蔵シーリングシステム40の代わりに、推進剤の漏出を防止できて、且つ貯蔵シーリングシステム40の少なくとも一部の昇華によるその破壊がDC又はAC電力及び/又は電流の供給等の刺激によりトリガされ得る、他の何れの貯蔵シーリングシステム40を使用してもよい。
【0051】
本発明のコールドガススラスタを含む推進システムは、大幅に小型化でき、超小型衛星での使用に適し、宇宙船の設計のフレキシビリティを広げる。タンク1は、例えば柱の形状を有することができ、及び/又は機械的外郭3を用いずに使用でき、及び/又はスラスタ12を制御する電子基板上に直接固定できる。小型のタンク1は、例えば宇宙船の体積の制約を考慮して、スラスタの体積の縮小に適した何れの形状も示し得る。
【0052】
本発明はまた、1つの制御基板12上に固定された、複数のタンク1、好ましくは小型タンク1を含む推進ユニットのクラスタにも関する。複数の小型タンク1は、支持フレーム60内に位置付けられ得る。図5及び6の推進ユニットのクラスタは、図1及び図4において説明したように、柱の形状の6つの小型タンク1を含み、1つの制御基板12上に固定され、支持フレーム60内に配置される。この実施形態において、基板12は、コンパクト性を高めるために機械的フレーム3の外に配置される。クラスタのそれぞれのユニットの別々の制御は、スラスタのベクタリングに利用できる。
【0053】
スラスタの動作
本発明によるコールドガススラスタは、図7に示されるようなアルゴリズムにより動作できる。アルゴリズムは、3つの異なるフェーズに分けることができる。第一の加熱フェーズでは、タンク1とノズル7の両方がプログラムされた動作温度に到達するまで加熱され、貯蔵シーリングシステム40は無傷のままである。フェーズ2は、貯蔵シーリングシステム40の昇華フェーズに対応するものであり、このフェーズ中、保護フィルム17を昇華させるためにパワーが赤外線エミッタ16に供給される。消費電力を節減するために、タンク及び/又はノズルヒータ4、6はこの第二のフェーズではオフに切り替えることができる。第三のフェーズは動作フェーズであり、その間に赤外線エミッタ16は作動せず、タンク及び/又はノズルヒータ4、6の少なくとも一部、好ましくはタンク及び/又はノズルヒータ4、6の全部が動作状態となる。フェーズ2が実行されようとする時(最初はスラスタの軌道運用中)、フェーズ2は必然的にフェーズ1の後に実行され、その前には実行されないため、タンク1に過度の陽圧が生じる。タンク1内の陽圧は、保護フィルム17の断片が残っていた場合、それをフェーズ2中に強制的にノズル7とは反対に移動させる。そうしなければ、ノズル7が保護フィルム17の前記残留する断片により詰まるリスクがある。
【0054】
タンク内の推進剤残量を測定するプロセス
本発明のスラスタによれば、スラスタの動作時にタンク1内の固体推進剤残量を測定するプロセスを実行できる。
【0055】
タンク1内の固体推進剤残量の測定は、タンク1の熱特性から実行できる。方法は、推進剤の質量に応じたシステムの熱容量の変化に基づく。T2>T1の場合に温度T1から温度T2に加熱している間のエンタルピの変化ΔHは、次式:
【数3】
により計算され得、式中、Pはタンクヒータ4に提供されるパワーの瞬間値、Δtは現在の時間間隔、Nは測定間隔の長さである。図8は、タンク1内の推進剤の残量の測定をタンク1の熱特性から実行することを説明するグラフである。まず、タンク1が温度T1に予熱され、システムの熱慣性を補償するために必要な比較的長時間にわたり、この温度に保持される。次に、タンク1は、一定又は可変パワーでT1より高い温度T2まで加熱され、T1からT2までの加熱中のエンタルピの変化ΔHは、次式:
【数4】
により計算され、式中、Pはタンクヒータ4に提供されるパワーの瞬間値、Δtは現在の時間間隔、Nは測定間隔の長さである。図8の測定間隔の長さtは測定総時間を表し、
【数5】
と等しい。
【0056】
ある実施形態において、タンク1内の推進剤残量を測定するプロセスは、タンクが温度T2まで加熱された後、タンク1の冷却曲線を測定し、機械的フレーム3及び/又は環境への熱伝達の変動を査定するステップを含む。査定された機械的フレーム3及び/又は環境への熱伝達の変動がエンタルピの変化に与える影響は、モデリングにより得ることができる。代替的に、前記影響は、熱伝達率ごとに得られる事前決定された較正表を参照することにより取得できる。
【0057】
タンク1内の固体推進剤残量の測定は代替的に、タンクの振動特性から実行され得る。図9のスラスタは、本発明によるタンク1内の推進剤量を測定するためのプロセスを実行するために、衝撃源又は発生器19と、変位又は音響センサ(周波数センサ)20と、周波数フィルタ21と、を含む。実際、ある質量、機械的特性、及び形状で、推進システム内部の推進剤タンク1は自然振動周波数を有し、これは固定具2上のタンク全体の振動に、また、縦方向及び横方向の音響波に対応し、これらはすべて、タンク1の質量及び充填媒質に依存する。振動周波数を測定するために、好ましくはタンク1の一方の端に配置された衝撃発生器19により衝撃が生成され、その後、好ましくはタンク1のもう一方の端に配置された周波数センサ20により周波数応答を測定する。測定される共振の種類は、衝撃発生器19の特性と、好ましくは周波数センサ20と直列に接続される周波数フィルタ21、好ましくは周波数バンドフィルタ21の周波数設定とにより決まる。
【0058】
本明細書の説明文において、別段の明示がないかぎり、数値範囲は包含的であると解釈されるものとし、これはその範囲の限度が前記範囲内に含まれることを意味する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9