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特許7428823ヒト月経血から子宮内膜間葉系幹細胞を取得する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-29
(45)【発行日】2024-02-06
(54)【発明の名称】ヒト月経血から子宮内膜間葉系幹細胞を取得する方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/0775 20100101AFI20240130BHJP
【FI】
C12N5/0775
【請求項の数】 22
(21)【出願番号】P 2022558395
(86)(22)【出願日】2021-04-02
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-10
(86)【国際出願番号】 CN2021085202
(87)【国際公開番号】W WO2021197459
(87)【国際公開日】2021-10-07
【審査請求日】2022-09-27
(31)【優先権主張番号】202010259045.6
(32)【優先日】2020-04-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】522342064
【氏名又は名称】上海我武幹細胞科技有限公司
【氏名又は名称原語表記】SHANGHAI WOLWO STEM CELL TECHNOLOGY CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】Room 401, 4th Floor, Building 51, No.1089 North Qinzhou Road, Xuhui District Shanghai 200233 CHINA
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】金 槿
【審査官】鳥居 敬司
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-246476(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103966162(CN,A)
【文献】特表2019-512265(JP,A)
【文献】国際公開第2020/054755(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/00-5/28
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1)月経血試料を分級して細胞ストレーナーを通過させることで、組織破片を分離し、前記細胞ストレーナーは段階的に小さくなる孔径を有し、濾過物を収集するための濾過細胞ストレーナーと保持物を収集するための保持細胞ストレーナーを含み、保持細胞ストレーナーは濾過細胞ストレーナーよりも小さい孔径を有することと;
2)保持細胞ストレーナーから保持物を組織破片として収集することと;
3)間葉系幹細胞培地で組織破片を培養することと;
4)付着細胞を子宮内膜間葉系幹細胞として収集することと;
を含む、ヒト月経血から子宮内膜間葉系幹細胞を取得する方法であり、
前記保持細胞ストレーナーの孔径のサイズは、70メッシュ~160メッシュであり;
前記濾過細胞ストレーナーの孔径のサイズは、18メッシュ~60メッシュであることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記保持細胞ストレーナーの孔径のサイズは、80メッシュ~160メッシュであることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記濾過細胞ストレーナーの孔径は、30メッシュ未満の組織破片を収集するように設置することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記濾過細胞ストレーナーの孔径は、35メッシュ未満の組織破片を収集するように設置することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記濾過細胞ストレーナーの孔径は、40メッシュ未満の組織破片を収集するように設置することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記濾過細胞ストレーナーの孔径のサイズは、36メッシュ~60メッシュであることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記濾過細胞ストレーナーの孔径のサイズは、36メッシュ~50メッシュであることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記濾過細胞ストレーナーの孔径のサイズは、36メッシュ~40メッシュであることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記工程1)において、前記の分級して細胞ストレーナーを通過させることは、少なくとも3段の細胞ストレーナーを通過させることを含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記工程1)において、前記の分級して細胞ストレーナーを通過させることは、少なくとも4段の細胞ストレーナーを通過させることを含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記の分級して細胞ストレーナーを通過させることは、1段又は2段又はそれ以上の濾過細胞ストレーナーを通過させることを含み、及び/又は1段又は2段又はそれ以上の保持細胞ストレーナーを通過させることを含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記の分級して細胞ストレーナーを通過させることは、2段又はそれ以上の保持細胞ストレーナーを含み、且つ前記工程2)細胞ストレーナーから保持された組織破片を収集することは、複数段の保持細胞ストレーナーからの組織破片を併せることを含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記工程2)細胞ストレーナーから保持された組織破片を収集することは、保持細胞ストレーナーに保持された組織破片を洗浄液で逆洗し落とすことを含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記工程2)細胞ストレーナーから保持された組織破片を収集することは、組織破片を洗浄液で洗浄することをさらに含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記洗浄液はリン酸塩緩衝液であることを特徴とする、請求項13又は14に記載の方法。
【請求項16】
前記洗浄液は抗生物質を含有するリン酸塩緩衝液であることを特徴とする、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記抗生物質は、ゲンタマイシン、ペニシリン、ストレプトマイシン、アンフォテリシンB又はそれらの組み合わせから選ばれることを特徴とする、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記ゲンタマイシンの濃度は50~100U/mLであり、前記ペニシリンの濃度は180~200U/mLであり、前記ストレプトマイシンの濃度は0.15~0.2mg/mLであり、及び/又は前記アンフォテリシンBの濃度は4~5μg/mLであることを特徴とする、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記ゲンタマイシンの濃度は100U/mLであり、前記ペニシリンの濃度は200U/mLであり、前記ストレプトマイシンの濃度は0.2mg/mLであり、及び/又は前記アンフォテリシンBの濃度は5μg/mLであることを特徴とする、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記間葉系幹細胞培地は、間葉系幹細胞初代細胞無血清培地及び羊水細胞培地から選ばれることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
工程3)において、間葉系幹細胞培地で組織破片を培養する時間は4~6日間であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項22】
工程3)において、間葉系幹細胞培地で組織破片を培養する時間は、5日間であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、間葉系幹細胞の調製方法の分野に関し、具体的には、ヒト月経血から子宮内膜間葉系幹細胞を取得する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、間葉系幹細胞(Mesenchymal stem cells、MSC)は、高い増殖能、低い免疫原性、多方向の分化能、組織損傷部位への指向性移動性などの優位性で、研究者に広く注目されている。骨髄由来間葉系幹細胞(bone marrow-derived stem cells、BMSC)は、最初に発見された間葉系幹細胞であり、現在でも臨床研究において最もよく使用されている幹細胞であるが、骨髄は麻酔下での穿刺により採取される必要があること、及び自己の骨髄幹細胞の数は加齢と共に著しく減少することで、BMSCの臨床的応用価値は制限されている。ヒトの子宮内膜は、非常に動的な組織であり、増殖期、分泌期、月経期を周期的に経て、月経後初期の0.5~1mmから5~7mmまで成長する顕著な再生能を有する。女性の子宮内膜は、一生に自己再生、増殖、分化、脱落を400回以上も繰り返し、高い再生能を有する;子宮内膜組織由来間葉系幹細胞は、基底層にだけでなく、月経血中にも存在し、容易に取得できるため、ヒト子宮内膜間葉系幹細胞(human endometrial mesenchymal stem cell、hEMSC)はますます注目を集めてきて、細胞治療、組織工学や再生医療などに用いられる種細胞として、その応用が期待されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
現在、間葉系幹細胞の分離に用いられる方法は主に、組織消化法と勾配密度遠心分離法を含む。組織消化法は、短時間で生体から大量の生細胞を得ることができ、且つ細胞の特性も生体内に近く、増殖特性を反映できるため、薬物検査や細胞分化などの実験研究に適する。しかし、消化法の欠点も明らかであり、工程が煩雑で汚染されやすいだけでなく、作業者が消化時間を適切に把握できなければ、初代で得られた間葉系幹細胞の純度及びその生物学的特性に直接影響を与え、且つ細胞構造を破壊し、細胞の増殖や分化を妨げ、ひいては異種の細胞集団が得られてしまう。また、一部の消化酵素は高価なものであり、不可避的に実験コストが高騰してしまう。勾配密度遠心分離法(単核法)は、異なる粒子の間の密度や直径の相違により、溶液中の沈降速度も異なり、所定の遠心力の作用下で、粒子はそれぞれに所定の速度で沈降し、重力と遠心力を利用して細胞をソーティングする方法であり、単一の有核細胞の精製に適するが、組織からの細胞の分離・精製に適しない。従って、ヒト月経血から子宮内膜間葉系幹細胞を分離・精製するのに適した代案を見つけ出すことは、現在の子宮内膜間葉系幹細胞薬物の開発において解決しなければならない問題である。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、
1)月経血試料を分級して細胞ストレーナーを通過させることで、組織破片を分離し、前記細胞ストレーナーは段階的に小さくなる孔径を有し、濾過物を収集するための濾過細胞ストレーナーと保持物を収集するための保持細胞ストレーナーを含み、保持細胞ストレーナーは濾過細胞ストレーナーよりも小さい孔径を有することと;
2)保持細胞ストレーナーから保持物を組織破片として収集することと;
3)間葉系幹細胞培地で組織破片を培養することと;
4)付着細胞を子宮内膜間葉系幹細胞として収集することと;
を含む、ヒト月経血から子宮内膜間葉系幹細胞を取得する方法を提供する。
【0005】
ある実施形態において、前記の分級して細胞ストレーナーを通過させることは、少なくとも3段の細胞ストレーナーを通過させることを含み、好ましくは、少なくとも4段の細胞ストレーナーを通過させることを含む。
【0006】
ある実施形態において、前記の分級して細胞ストレーナーを通過させることは、1段又は2段又はそれ以上の濾過細胞ストレーナーを通過させることを含み、及び/又は1段又は2段又はそれ以上の保持細胞ストレーナーを通過させることを含む。好ましくは、前記の分級して細胞ストレーナーを通過させることは、2段又はそれ以上の保持細胞ストレーナーを含み、且つ前記工程2)細胞ストレーナーから保持された組織破片を収集することは、複数段の保持細胞ストレーナーからの組織破片を併せることを含む。
【0007】
ある実施形態において、前記工程2)細胞ストレーナーから保持された組織破片を収集することは、保持細胞ストレーナーに保持された組織破片を洗浄液で逆洗し落とすことを含む。
【0008】
ある実施形態において、前記工程2)細胞ストレーナーから保持された組織破片を収集することは、組織破片を洗浄液で洗浄することをさらに含む。
【0009】
一方、本発明は、本発明にかかる方法によって得られる子宮内膜間葉系幹細胞を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、単核法と本発明にかかる方法によって調製された子宮内膜間葉系幹細胞の増幅倍数の対比を示す。
図2図2は、単核法と本発明にかかる方法によって調製された子宮内膜間葉系幹細胞の倍加時間の対比を示す。
図3図3Aは、本発明にかかる方法によって調製された子宮内膜間葉系幹細胞の骨形成分化能染色マップを示す;図3Bは、本発明にかかる方法によって調製された子宮内膜間葉系幹細胞の軟骨形成分化能染色マップを示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書において、特に断らない限り、関わる各成分またはそれらの好ましい成分は、互いに組み合わせて新たな技術方案を形成することができる。
【0012】
本明細書において、特に断らない限り、本文に記載の全ての実施形態および好ましい実施形態は、互いに組み合わせて新たな技術方案を形成することができる。
【0013】
本明細書において、特に断らない限り、本文に記載の全ての技術特徴および好ましい技術特徴は、互いに組み合わせて新たな技術方案を形成することができる。
【0014】
特に断らない限り、本明細書に用いられる用語の「1種」とは、「少なくとも1種」を意味する。
【0015】
本文において、「範囲」は下限と上限の形式で開示される。下限と上限はそれぞれ、一つまたは複数であってもよい。所定範囲は一つの下限と一つの上限を決定することによって限定される。決定された下限と上限によっては、特定の範囲の境界が限定される。この方式によって限定できる範囲は全て、含むことも、組み合わせることもでき、即ち、いずれかの下限はいずれかの上限と組み合わせて一つの範囲を形成することができる。
【0016】
具体的には、本発明はまず、
1)月経血試料を分級して細胞ストレーナーを通過させることで、組織破片を分離し、前記細胞ストレーナーは段階的に小さくなる孔径を有し、濾過物を収集するための濾過細胞ストレーナーと保持物を収集するための保持細胞ストレーナーを含み、保持細胞ストレーナーは濾過細胞ストレーナーよりも小さい孔径を有することと;
2)保持細胞ストレーナーから保持物、即ち組織破片を収集することと;
3)間葉系幹細胞培地で組織破片を培養することと;
4)付着細胞を子宮内膜間葉系幹細胞として収集することと;
を含む、ヒト月経血から子宮内膜間葉系幹細胞を取得する方法を提供する。
【0017】
一つの実施形態において、前記方法は、
1)組織分離:月経血試料を分級して細胞ストレーナーを通過させることで分離し、前記細胞ストレーナーは段階的に小さくなる孔径を有することと;
2)組織逆洗:細胞ストレーナーに保持された組織破片を洗浄液で逆洗し落とすことと;
3)組織洗浄:組織破片を洗浄液で再懸濁して洗浄し、遠心し、組織破片の沈殿を得ることと;
4)組織培養:組織破片の沈殿を培地で再懸濁し、培養用フラスコに接種し、培地を加え、インキュベーターにおいて培養することと;
5)成長した付着細胞を子宮内膜間葉系幹細胞として収集することと;
を含む。
【0018】
ある実施形態において、収集した子宮内膜間葉系幹細胞を増幅培養することをさらに含む。
【0019】
ただし、細胞ストレーナーは、組織や細胞などを汚染することなく、粒子の大きさに応じて物質を分離できる任意な多孔質構造であってもよい。分級して細胞ストレーナーを通過させることとは、異なる孔径を有する細胞ストレーナーを採用し、孔径の大きいから小さいまでの順で細胞ストレーナーを通過させることにより、サイズ分布の異なる多段保持物、又はサイズ分布の異なる成分を含有する多段濾過物が得られることを意味する。
【0020】
本発明のある実施形態において、まずは孔径の大きい濾過モレキュラーシーブで大き過ぎる組織破片を保持して除去し、次に孔径の小さい保持モレキュラーシーブで培養用の組織破片を保持して収集する。本発明において、「組織破片」とは、破片状の組織を指すが、特に破砕操作によって得られた生成物を指すものではない。
【0021】
ある実施形態において、保持細胞ストレーナーの孔径のサイズは、70メッシュ~160メッシュ、好ましくは80メッシュ~160メッシュであってもよい。本発明は、少なくとも1段の保持細胞ストレーナーを含むが、段階的に小さくなる孔径を有する2段又はそれ以上の保持細胞ストレーナーを好ましく含んでもよい。複数段の保持細胞ストレーナーを含む場合、異なる段の細胞ストレーナーに保持された組織破片を併せて後段の工程に利用することができ、例えば、洗浄液で逆洗し落として併せて利用したり、掻き取ってから併せて再懸濁、洗浄などの処理をしたりすることができる。
【0022】
本発明において、濾過細胞ストレーナーで大き過ぎる組織破片を除去し、濾過物を収集する。好ましくは、30メッシュ未満、35メッシュ未満、40メッシュ未満又はより小さい孔径を有する組織破片を収集するように、濾過細胞ストレーナーは、30メッシュ以下、35メッシュ以下、40メッシュ以下又はより小さい孔径を有する細胞ストレーナーを含む。例えば、36メッシュ未満の孔径を有する組織破片を収集するように、濾過細胞ストレーナーは、少なくとも1段の36メッシュの細胞ストレーナーを含む。大き過ぎる組織破片の除去は、1段又は複数段のストレーナーを通過させることで実現できる。従って、本発明は、少なくとも1段の濾過細胞ストレーナーを含むが、段階的に小さくなる孔径を有する2段又はそれ以上の濾過細胞ストレーナーを好ましく含んでもよく、濾過細胞ストレーナーの孔径のサイズは、18メッシュ~60メッシュ、好ましくは36メッシュ~60メッシュ、より好ましくは36メッシュ~50メッシュ、さらに好ましくは36メッシュ~40メッシュであってもよい。
【0023】
ある実施形態において、本発明における分級して細胞ストレーナーを通過させる工程は、少なくとも3段の細胞ストレーナーを通過させることを含み、好ましくは、少なくとも4段の細胞ストレーナーを通過させることを含む。例えば、分級して細胞ストレーナーを通過させる工程は、少なくとも2段の濾過細胞ストレーナーと少なくとも1段の保持細胞ストレーナーを通過させることを含み、或いは、少なくとも1段の濾過細胞ストレーナーと少なくとも2段の保持細胞ストレーナーを通過させることを含み、或いは、少なくとも2段の濾過細胞ストレーナーと少なくとも2段の保持細胞ストレーナーを通過させることを含む。
【0024】
例えば掻き取り、摘み取り、逆洗などの任意の適切な方法によって、保持細胞ストレーナーから組織破片を収穫することができ、当業者ならば場合によって判断できる。ある実施形態において、本発明は、逆洗の方法によって、細胞ストレーナーに保持された組織破片を洗浄液で洗い落とす。本文において、「組織逆洗」も「逆洗」も、モレキュラーシーブ通過時と逆向きの洗浄液で保持物を洗い落とす過程を意味する。できるだけ多くの保持物を回収するために、細胞ストレーナーに肉眼で見える組織がなくなった時点で洗浄を停止してもよい。
【0025】
一例を挙げると、逆洗の具体的な手順としては、組織破片が保持された細胞ストレーナーを収集すること;組織破片が保持された細胞ストレーナーを培養ディッシュに一定数放置し、前記放置の数は培養ディッシュのサイズに依存し、例えば10cmの培養ディッシュに放置されると、細胞ストレーナーは5個を超えないこと;組織破片が保持された細胞ストレーナーが放置された培養ディッシュに、ちょうど培養ディッシュ内のストレーナーを沈める量の洗浄液を加えること;培養ディッシュから洗浄液をパスツールピペットで吸い上げることで、細胞ストレーナーに保持された組織破片を逆洗し落とすこと;細胞ストレーナーに肉眼で見える組織がなくなった時点で洗浄を停止すること;を含んでもよい。
【0026】
ある実施形態において、本発明にかかる方法は、保持細胞ストレーナーから収穫された組織破片を洗浄する組織洗浄工程をさらに含む。例えば、洗浄液で再懸濁させることで組織破片を洗浄する。それから、固液分離(例えば濾過や遠心)によって、洗浄された組織破片の沈殿を得ることができる。例えば、逆洗で保持された組織破片を収集する場合、組織洗浄工程は、すすぎ液を収集し、固液分離によって(例えば、濾過や遠心して上澄みを捨てることで)組織破片の沈殿を収集し、洗浄液を加えること;こうして組織破片の洗浄を数回繰り返し、洗浄された組織破片の沈殿を得ること;を含んでもよい。遠心で行う場合、遠心操作の条件は、遠心力400g、温度20~22℃、好ましくは20℃、遠心時間10分間とすることができる。
【0027】
本発明において、「洗浄液」とは、細胞操作に一般的に用いられる緩衝液、例えばリン酸塩緩衝液などの一般的な緩衝液をベースとした洗浄液であってよいが、これに必要に応じて他の成分を添加してもよく、例えば本発明においては、抗生物質を添加してもよい。ある実施形態において、洗浄液はリン酸塩緩衝液であり、ある好ましい実施形態において、洗浄液は抗生物質を含有するリン酸塩緩衝液である。好ましくは、抗生物質は、ゲンタマイシン、ペニシリン、ストレプトマイシン、アンフォテリシンB又はそれらの組み合わせから選ばれる。好ましくは、洗浄液がゲンタマイシンを含有する場合、その濃度は50~100U/mL、好ましくは100U/mLであってもよい;洗浄液がペニシリンを含有する場合、その濃度は180~200U/mL、好ましくは200U/mLであってもよい;洗浄液がストレプトマイシンを含有する場合、その濃度は0.15~0.2mg/mL、好ましくは0.2mg/mLであってもよい;洗浄液がアムホテリシンBを含有する場合、その濃度は4~5μg/mL、好ましくは5μg/mLであってもよい。
【0028】
本発明における工程3)間葉系幹細胞培地で組織破片を培養することは、「組織培養」とも呼ばれ、組織破片を間葉系幹細胞培地に接種し、間葉系幹細胞培養条件下で培養することにより、前記組織破片から付着性を有する間葉系幹細胞を増殖させることを含む。ある実施形態において、前記接種は、組織破片の沈殿を間葉系幹細胞培地で再懸濁させて接種に用いることを含み、培養は培養用フラスコ中で行ってもよい。任意に、子宮内膜間葉系幹細胞が壁にしっかりと付着していることを確認した後(例えば組織培養の48時間後)、付着していない混雑細胞(例えば赤血球)を除去して混雑細胞による子宮内膜間葉系幹細胞培養物の汚染を防止し、その後に90%~100%程度のコンフルエンシーに達するまで培養を継続し、それから継代してもよい。
【0029】
本発明で使用する間葉系幹細胞培地は、間葉系幹細胞培養のために用いられる当業者によく知られる任意の培地であってもよく、自ら調製したものであっても、市販のものであってもよい。前記間葉系幹細胞培地は、間葉系幹細胞初代細胞無血清培地(北京友康科技有限会社から購入可能)及び羊水細胞培地(広州白雲山拜迪生物医薬有限会社から購入可能)から選ばれる。
【0030】
ある実施形態において、組織培養条件は一般的な間葉系幹細胞培養条件であり、例えば5%CO、37℃である。培養時間は4~6日間で、好ましくは5日間である。
【0031】
ある実施形態において、組織培養した後、付着した子宮内膜間葉系幹細胞を分離して増幅培養することをさらに含む。
【0032】
ある実施形態において、前記工程1)に先立って、収集した月経血試料の汚染状況を調査するための工程を加えることもでき、当該工程は、収集した月経血試料を洗浄液(好ましくは抗生物質含有リン酸塩緩衝液、例えばゲンタマイシン及びアンフォテリシンBを含有するリン酸塩緩衝液)と混合し、混合した液を取って培地に加え、インキュベーターで培養し、その汚染状況を観察することを含む。ただし、月経血試料と洗浄液の混合比率は1:1とする。
【0033】
本発明はさらに、本発明にかかる方法によって得られる子宮内膜間葉系幹細胞を提供する。本発明で得られる子宮内膜間葉系幹細胞は、単核法などの従来技術で調製された子宮内膜間葉系幹細胞よりも、増殖速度及び継代増殖倍数が高く、且つ良好な分化能を有する。
【実施例
【0034】
以下、実施例を参照して、本発明をさらに詳しく説明する。しかし、これらの実施例は、単に説明するためのものだけであり、本発明の範囲を限定するためのものではないことが理解されるべきである。
【0035】
実施例1:子宮内膜間葉系幹細胞の調製
本発明の方法に従って子宮内膜間葉系幹細胞を調製し、具体的な実験方法は下記の通りであった:
【0036】
(一)組織分離:
50mL遠心管に入れた月経血試料を、18メッシュステンレス細胞ストレーナー、36メッシュステンレス細胞ストレーナー、80メッシュステンレス細胞ストレーナー、160メッシュステンレス細胞ストレーナーを順次に通過させた。
【0037】
(二)組織逆洗:
1)工程(一)で月経血試料を濾過した80メッシュ及び160メッシュのステンレス細胞ストレーナーを10cmの培養ディッシュに放置し、各培養ディッシュに放置された細胞ストレーナーを5個以下とし、各10cmの培養ディッシュに40mLの洗浄液を、洗浄液がちょうど組織破片が保持されたストレーナーを沈めるように添加された;ただし、ここで使用する洗浄液は、濃度100U/mLのゲンタマイシン及び濃度5μg/mLのアンホテリシンBを含有するリン酸塩緩衝液であった;
2)培養ディッシュから洗浄液を3mLパスツールピペットで吸い上げることで、80メッシュ及び160メッシュの細胞ストレーナーに保持された組織破片を逆洗し落とした。
【0038】
(三)組織洗浄:
1)洗浄完了後、上記工程で生じた組織破片を含むすすぎ液を、チューブごとに40mLで50mL遠心チューブに収集し、20℃、遠心力400gの条件下で10分間遠心し、上澄みを捨てた;
2)洗浄液をピペットで吸い取って遠心チューブに入れ、各チューブに洗浄液を10mL加え、沈殿を再懸濁して一つの50mL遠心チューブに併せ、20℃、遠心力400gの条件下で10分間遠心し、上澄みを捨てた;
3)30mLの洗浄液をピペットで吸い取って遠心チューブに入れ、再度に沈殿を再懸濁してから、20℃、遠心力400gの条件下で10分間遠心し、上澄みを捨てた。
【0039】
(四)組織培養:
1)1mLの培地(羊水細胞培地、略称YS、広州白雲山拜迪生物医薬有限会社から購入)をピペットで吸い取って沈殿を再懸濁し、500μL再懸濁液ごとに1つのT25培養フラスコに接種し、10mLの培地を加えて再懸濁した;
2)「十」文字又は「8」文字で細胞を均一に混合し、37℃、5%COインキュベーターで培養した;
3)細胞培養の48時間後、液を交換することで付着していない混雑細胞(例えば赤血球)を除去し、培養を継続した。90%程度のコンフルエンシーに達したら、継代培養できる。
【0040】
実施例2:異なる調製方法で得られた子宮内膜間葉系幹細胞の増殖状況の検出
周雲帆、楊波、胡祥らの「月経血由来の子宮内膜間葉系幹細胞の単離、培養及び同定」(中国組織工学研究,2010,14(32):5952-5956)に記載の単核法に従って、子宮内膜間葉系幹細胞を調製した。
【0041】
実施例1で調製された子宮内膜間葉系幹細胞と上記の単核法で調製された子宮内膜間葉系幹細胞を別々に継代培養し、各世代を5.0×10細胞/cmの密度でT75培養フラスコに接種し、培地を羊水細胞培地(YS、広州白雲山拜迪生物医薬有限会社から購入)とした。細胞が90%程度のコンフルエンシーに達したら、培地を捨ててから、リン酸塩緩衝液(PBS)で穏やかに細胞を洗浄し、洗浄液を捨て、0.25%のトリプシンを3ml加えて細胞を4分間消化した。5%ウシ胎児血清を含有するPBS混合液を6ml加えて細胞消化を終了させた。細胞懸濁液をそれぞれに2本の遠心チューブに収集し、1500r/minで5分間遠心した。上澄みを捨て、それぞれに羊水細胞培地(略称YS、広州白雲山拜迪生物医薬有限会社から購入)を1mL加え、細胞を再懸濁した。AO/PI(AO(Acridine Orange)アクリジンオレンジ、PI(Propidium Iodide)ヨウ化プロピジウム)二重染色細胞アポトーシスアッセイキット(DNAプローブ二重染色細胞核法、上海叡▲ごく▼生物科技有限会社から購入)を用いて、各世代で収穫した細胞数を検出し、各世代での増幅倍数と倍加時間を算出し、実験結果を表1、図面1~2に示す。
【0042】
【表1】
【0043】
実験結論:本発明にかかる調製方法で調製された間葉系幹細胞は、単核法で調製された子宮内膜間葉系幹細胞よりも、異なる世代の細胞が殆ど、培地中での増殖倍数が高かった;得られた細胞の倍加時間も単核法よりも短かった;しかも、単核法で調製された間葉系幹細胞の倍加時間は世代の影響を受けて、より変動しやすかったが、本発明にかかる調製方法で調製された間葉系幹細胞の継代に要する倍加時間はより変動しにくかった。従って、本発明にかかる調製方法は、単核法に比べて、得られる子宮内膜間葉系幹細胞の倍加時間と増殖倍数の両方において優位性を有する。
【0044】
実施例3:本発明にかかる調製方法で調製された子宮内膜間葉系幹細胞の分化能の検定
【0045】
実験方法:実施例1の調製方法で調製された子宮内膜間葉系幹細胞0031を取り、細胞濃度が1.0×10個/ウェルになるように、羊水細胞培地(略称YS、広州白雲山拜迪生物医薬有限会社から購入)を含む12ウェルプレートに均一にプレーティングした。細胞が90%~100%程度のコンフルエンシーに達するまで、5%CO、37℃のインキュベーターで3~4日間インキュベートした。クリーンベンチでウェルから培地を吸い上げて捨て、ウェルごとに骨形成分化誘導完全培地(賽業生物科技有限会社から購入)を1mL加えた。3日おきに培地を交換し、骨形成分化誘導の21日目にアリザリンレッドSで骨形成分化細胞を染色した。結果は図面3Aに示す。
【0046】
実施例1の調製方法で調製された子宮内膜間葉系幹細胞0031を取り、細胞濃度が1.0×10/mlになるように、羊水細胞培地で再懸濁し、懸濁液を10cmの培養ディッシュの蓋に均一に滴下した。5%CO、37℃のインキュベーターで24時間培養し、クリーンベンチで玉滴を吸い上げて6ウェルプレートに滴下し、ウェルごとに軟骨形成分化誘導培地(STEMCELLから購入)を2mL加えた。3日おきに培地を交換し、軟骨形成分化誘導の28日目にアルシアンブルーで軟骨形成分化スライス細胞を染色した。結果は図面3Bに示す。
【0047】
図3Aから分かるように、実施例1に記載の方法で調製された子宮内膜間葉系幹細胞は、アリザリンレッドSで染色した後、はっきりとした橙赤色を示し、それが骨形成分化能に優れたことを示す;図3Bから分かるように、実施例1に記載の方法で調製された子宮内膜間葉系幹細胞は、アルシアンブルーで染色した後、組織間に青色が見られ、それが軟骨形成能に優れたことを示す。以上のように、本発明に記載の方法で調製された子宮内膜間葉系幹細胞は、優れた分化能を有する。
【0048】
本発明では具体的な例を説明したが、本発明の精神および範囲を逸脱しない限り、本発明に対する各種の変更や修正が可能である点は、当業者にとって明らかである。よって、添付される請求の範囲には、本発明の範囲内に入るそれらの変更が全て含まれる。
図1
図2
図3