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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-30
(45)【発行日】2024-02-07
(54)【発明の名称】細胞回収方法及び細胞培養装置
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/02 20060101AFI20240131BHJP
   C12N 5/00 20060101ALN20240131BHJP
【FI】
C12N1/02
C12N5/00
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2019114230
(22)【出願日】2019-06-20
(65)【公開番号】P2021000007
(43)【公開日】2021-01-07
【審査請求日】2022-04-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000002059
【氏名又は名称】シンフォニアテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】弁理士法人ATEN
(72)【発明者】
【氏名】堀井 大地
(72)【発明者】
【氏名】竹内 晴紀
(72)【発明者】
【氏名】須田 佳雅
(72)【発明者】
【氏名】占部 雄士
【審査官】林 康子
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-079554(JP,A)
【文献】特開2017-006058(JP,A)
【文献】特開2011-103832(JP,A)
【文献】特開2003-235541(JP,A)
【文献】特開2017-201946(JP,A)
【文献】国際公開第2012/002497(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00
C12M 3/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液状の培地が入れられた容器内で培養され、前記容器の内面に付着している細胞を回収する細胞回収方法であって、
前記容器から前記培地を排出する培地排出工程と、
前記培地の排出後に、前記細胞を前記容器の内面から剥離させるための剥離液を前記容器に供給する剥離液供給工程と、
前記剥離液を供給してから前記剥離液の作用によって前記細胞が前記容器の内面から完全に剥離する直前の状態となるまでの時間である第1所定時間だけ待機する第1待機工程と、
前記第1待機工程の後、前記剥離液を前記容器から排出する剥離液排出工程と、
前記剥離液を排出してから前記剥離液の残液の作用によって前記細胞が完全に剥離するまでの時間である第2所定時間だけ待機する第2待機工程と、
前記第2待機工程の終了後、前記細胞を前記容器から回収するための回収液を前記容器に供給する回収液供給工程と、
を実行することを特徴とする細胞回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液状の培地が入れられた容器内で培養され、当該容器の内面に付着している細胞を回収する細胞回収方法、及び、当該細胞回収方法を実行可能な細胞培養装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液状の培地が入れられた容器内で細胞を培養する場合、培養過程で細胞を他の容器に移し替える継代の際や、培養終了後に細胞を収穫する際には、容器内の細胞を回収する必要がある。このような細胞回収作業は、従来、次のように行われていた。すなわち、容器内の培地を排出してから剥離液を容器に供給し、剥離液の作用によって容器の内面に付着している細胞を剥離させる。次に、細胞を含む剥離液を遠沈管に移し替え、遠心分離機によって遠沈管内の細胞と剥離液とを分離することで細胞を回収していた。
【0003】
近年、iPS細胞やES細胞の培養を自動で行う細胞培養装置の開発が進められているが、遠心分離機をこのような細胞培養装置に導入すると、装置が大型になるとともにコストが増大するという問題があった。そこで、特許文献1に記載の細胞培養装置では、遠心分離機を必要としない細胞回収方法が採用されている。具体的には、剥離液の供給後、細胞の付着力が弱まった時点で剥離液を排出し、続けて容器内に培地を供給する。そして、このときの培地の流れる勢いによって、細胞を容器の内面から剥離している。こうすることで、細胞を剥離液から分離する必要がなくなるので、遠心分離機が不要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-6058号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の細胞回収方法では、付着力の弱まった細胞を培地の流れる勢いによって容器の内面から剥離させているため、細胞に無理な力がかかり、細胞にダメージを与えるおそれがあった。また、特許文献1では、剥離液の作用が十分に及ぶ前に細胞を剥離させているので、剥離された細胞は塊状となっている。このため、細胞回収後に細胞を含む培地(細胞懸濁液)をチューブポンプに通すことで細胞塊を崩壊させている。この工程でも、細胞がチューブポンプで扱かれることによって、細胞にダメージを与えるおそれがあった。
【0006】
本発明は、上述の課題を鑑みて、遠心分離機が不要な細胞回収方法において細胞へのダメージを抑えることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る細胞回収方法は、液状の培地が入れられた容器内で培養され、前記容器の内面に付着している細胞を回収する細胞回収方法であって、前記容器から前記培地を排出する培地排出工程と、前記培地の排出後に、前記細胞を前記容器の内面から剥離させるための剥離液を前記容器に供給する剥離液供給工程と、前記細胞が前記容器の内面から完全に剥離する前に、前記剥離液を前記容器から排出する剥離液排出工程と、前記剥離液の排出後に、前記剥離液の残液の作用によって前記細胞が剥離するまで待機する待機工程と、前記待機工程の終了後、前記細胞を回収するための回収液を前記容器に供給する回収液供給工程と、を実行することを特徴とする。
【0008】
本発明に係る細胞回収方法では、剥離液を排出した後、剥離液の残液の作用によって細胞が剥離するまで待機してから、回収液を供給するようにしている。このため、細胞を剥離液から分離する必要がなく、遠心分離機を不要とすることができる。また、剥離液の残液の作用で細胞が剥離するまで待機しているので、容器の内面に付着している細胞を、回収液の流れる勢いによって無理に剥離させる必要がない。さらに、剥離液の残液の作用で細胞が十分にばらけた状態となるので、細胞塊をチューブポンプなどで崩壊させる必要がない。したがって、本発明によれば、遠心分離機を不要としつつ、細胞へのダメージを抑えることができる。
【0009】
本発明に係る細胞培養装置は、上記細胞回収方法を実行可能な細胞培養装置であって、前記容器に前記培地を給排する培地給排装置と、前記容器に前記剥離液を給排する剥離液給排装置と、前記容器に前記回収液を給排する回収液給排装置と、制御部と、を備え、前記制御部が前記培地給排装置、前記剥離液給排装置及び前記回収液給排装置の動作を制御することによって、前記細胞回収方法が実行されることを特徴とする。
【0010】
本発明に係る細胞培養装置によれば、人手を介さずに自動で上記細胞回収方法を実行することができる。
【0011】
本発明に係る細胞培養装置において、少なくとも2つの前記容器が接続経路を介して接続されており、ある前記容器において前記細胞回収方法が実行された後、前記ある容器に気体を圧送することで、前記ある容器内の前記細胞を含む前記回収液が他の前記容器に移し替えられるとよい。
【0012】
このような構成によれば、細胞懸濁液(細胞を含む回収液)をある容器から他の容器に移し替える継代の際に、細胞懸濁液をチューブポンプなどを通過させずに移し替えることができる。したがって、細胞へのダメージを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施形態に係る細胞培養装置の構成を示した概略正面図である。
図2】培養部の構成を示す正面図である。
図3】細胞培養装置の内部に形成される培養回路を示した図である。
図4】継代の一連の流れを示すフローチャートである。
図5】細胞回収作業を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の好適な実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0015】
(細胞培養装置の構成)
本実施形態に係る細胞培養装置1は、図1に示すように、冷蔵保存部2と、加温部3と、培養部4と、制御部5とを含んでいる。細胞培養装置1は、制御部5に入力され保存されたデータに従い、細胞を培養する装置である。なお、以下の説明において、図1の紙面に垂直な方向に沿って前後方向が定義される。
【0016】
冷蔵保存部2及び加温部3は、内部に培地又は試薬が収容された容器を配置する棚が形成された筐体である。また、図示は省略するが、冷蔵保存部2及び加温部3の前面には、筐体の前面に設けられた開口を開閉可能な扉が設けられている。冷蔵保存部2は、冷却機構(不図示)を備え、内部の温度は常温より低い任意の温度に保たれている。加温部3は、培養部4の内部に配置され、加温部3の内部の温度は、培養部4の内部の温度とほぼ等しい。また、冷蔵保存部2の内部に配置された容器及び加温部3の内部に配置された容器は、内部の液体が流出可能となるようにチューブが接続されており、後述のポンプ102によって流出可能である。容器としては、ボトル、バッグなどが挙げられる。
【0017】
培養部4は、図1及び図2に示すように、前面に第1開閉部21を有する第1部屋11と、前面に第2開閉部22を有する第2部屋12と、環境調整部13と、を含む。第1部屋11及び第2部屋12の壁面、並びに、第1開閉部21及び第2開閉部22は、それぞれ断熱材からなる。これにより、第1部屋11及び第2部屋12の内部の温度は、第1開閉部21及び第2開閉部22が閉じられている状態において、一定に維持される。また、図2に示すように、第1部屋11の内部には密閉容器50が設置され、第2部屋12の内部には密閉容器60が設置されている。密閉容器50及び60は内部が無菌状態であり、容器としては、フラスコや多層式容器、バッグなどが挙げられる。また、本実施形態において、密閉容器50及び60は、CO2透過性を有する材質からなる。ただし、密閉容器50及び60を、CO2を透過しない材料で構成してもよい。また、密閉容器60の容積は、密閉容器50の容積よりも大きい。これは、密閉容器50で培養され濃度が高くなった細胞を、密閉容器60に移してさらに培養する場合、密閉容器60に収容される培地の量は、密閉容器50に収容される培地の量より多くする必要があるためである。ただし、密閉容器60の容積を密閉容器50の容積より大きくすることは必須ではなく、密閉容器60の容積が密閉容器50の容積より小さくても同じでもよい。なお、図2における点線部分は、第1部屋11及び第2部屋12の内部に配置されていることを意味する。
【0018】
環境調整部13は、加温装置及びCO2供給装置を内蔵しており、制御部5から送られた信号に従い、第1部屋11及び第2部屋12の内部の温度及びCO2濃度を調整可能である。また、第1部屋11及び第2部屋12の内部には、温度及びCO2濃度を検知するセンサ23が配置されている。センサ23が検知した情報は、制御部5へ出力される。なお、環境調整部13には、その他の内部環境を調整する装置が内蔵されていてもよい。この場合、センサ23は、その他の内部環境を併せて検知可能なセンサである。
【0019】
さらに、培養部4は、図2に示すように、密閉容器50と密閉容器60とを互いに接続する接続経路30と、接続経路30を介して密閉容器50と密閉容器60との間で細胞を移動させる駆動部40とを備えている。接続経路30は、ともに内部が無菌状態であるチューブ71及び攪拌部32からなる。攪拌部32は、チューブ71を介して密閉容器50及び60と接続されている。また、駆動部40は、ポンプ101と、ポンプ101に接続され、内部に気体が収容されたガスタンク33とからなる。ガスタンク33は、チューブ72を介して密閉容器50及び60と接続されている。なお、ガスタンク33の内部に収容された気体は、例えば、CO2が挙げられるが、その他の気体でもよく、複数種類の気体からなる混合気体でもよい。なお、図2では、一部のチューブ及びポンプの記載を省略している。
【0020】
(培養回路)
図3は、密閉容器50、60の内部の無菌状態を維持しながら、密閉容器50、60の内部での細胞の培養を可能とする閉鎖系の培養回路70を示す。培養回路70には、既に説明した密閉容器50、60、攪拌部32及びガスタンク33の他に、培地容器34、剥離液容器35及び廃液容器36などが設けられており、これら各部がチューブ71~74によって接続された構成となっている。以下、詳細に説明する。
【0021】
攪拌部32は、チューブ71を介して、密閉容器50、60と接続されている。チューブ71のうち、密閉容器50と攪拌部32との間にはバルブV1が配置され、密閉容器60と攪拌部32との間にはバルブV2が配置されている。また、ガスタンク33は、チューブ72を介して、密閉容器50、60と接続されている。チューブ72のうち、密閉容器50とガスタンク33との間にはバルブV3が配置され、密閉容器60とガスタンク33との間にはバルブV4が配置されている。
【0022】
培地容器34及び剥離液容器35は、加温部3の内部に配置されている。培地容器34には、細胞を培養するための液状の培地が収容されている。剥離液容器35には、密閉容器50、60の内面に付着している細胞を剥離させるための剥離液が収容されている。図示は省略するが、培地容器34は、チューブを介して冷蔵保存部2の内部に配置された培地タンクと接続されており、適宜、培地タンクから培地容器34に培地が供給される。同様に、剥離液容器35は、チューブを介して冷蔵保存部2の内部に配置された剥離液タンクと接続されており、適宜、剥離液タンクから剥離液容器35に培地が供給される。
【0023】
培地容器34及び剥離液容器35は、それぞれ、チューブ73を介して、密閉容器50、60及び攪拌部32と接続されている。チューブ73のうち、培地容器34及び剥離液容器35と、密閉容器50、60及び攪拌部32との間の部分には、ポンプ102が配置されている。チューブ73には、バルブV5~V9が配置されている。バルブV5は、培地容器34とポンプ102との間に配置されており、培地容器34からの培地の供給状態を切り換える。バルブV6は、剥離液容器35とポンプ102との間に配置されており、剥離液容器35からの剥離液の供給状態を切り換える。バルブV7は、密閉容器50とポンプ102との間に配置されており、密閉容器50への培地又は剥離液の供給状態を切り換える。バルブV8は、密閉容器60とポンプ102との間に配置されており、密閉容器60への培地又は剥離液の供給状態を切り換える。バルブV9は、攪拌部32とポンプ102との間に配置されており、攪拌部32への培地又は剥離液の供給状態を切り換える。
【0024】
廃液容器36は、密閉容器50、60及び攪拌部32からの廃液が排出される容器である。廃液容器36には、外気と連通するガス抜き部37が形成されており、廃液容器36の内部の気体は、ガス抜き部37を通って大気開放される。ガス抜き部37には、必要に応じて逆止弁やフィルターなどが取り付けられることもある。
【0025】
廃液容器36は、チューブ74を介して、密閉容器50、60及び攪拌部32と接続されている。チューブ74には、バルブV10~V12が配置されている。バルブV10は、密閉容器50とポンプ103との間に配置されており、密閉容器50からの廃液の排出状態を切り換える。バルブV11は、密閉容器60とポンプ103との間に配置されており、密閉容器60からの廃液の排出状態を切り換える。バルブV12は、攪拌部32とポンプ103との間に配置されており、攪拌部32からの廃液の排出状態を切り換える。なお、密閉容器50、60及び攪拌部32からの廃液が重力によって廃液容器36に至る構成となっている場合には、ポンプ103を省略することも可能である。
【0026】
(細胞回収作業)
本発明に係る細胞回収方法の一例として、密閉容器50で培養した細胞を密閉容器60へ移し替える継代時の作業について、図4及び図5を参照しつつ説明する。図4は、継代の一連の流れを示すフローチャートであり、図5は、細胞回収作業を示す模式図である。本実施形態では、制御部5がポンプ101~103の駆動及びバルブV1~V12の開閉を適宜制御することにより、自動で継代が行われる。なお、培養や継代に関する各種条件は、作業者によって予め制御部5に入力される。継代を始めるに当たって、全てのバルブV1~V12は閉状態とされており、培養回路70の内部は無菌状態に維持されているものとする。
【0027】
密閉容器50から密閉容器60への継代を行う際には、まず、図5のa図に示すように、密閉容器50から培地Mを排出する(ステップS11)。具体的には、制御部5は、バルブV10を開状態にし、ポンプ103を駆動させることで、密閉容器50内の培地Mをチューブ74を介して廃液容器36に排出する。このとき、細胞Cは密閉容器50の内面に付着しているため、培地Mと一緒には排出されない。密閉容器50内の培地Mが排出されたら、制御部5は、バルブV10を閉状態にし、ポンプ103を停止させる。
【0028】
次に、図5のb図に示すように、密閉容器50に剥離液Lを供給する(ステップS12)。具体的には、制御部5は、バルブV6、V7を開状態にし、ポンプ102を駆動させることで、剥離液容器35内の剥離液Lをチューブ73を介して密閉容器50に供給する。密閉容器50に剥離液Lが所定量供給されたら、制御部5は、バルブV6、V7を閉状態にし、ポンプ102を停止させる。
【0029】
密閉容器50への剥離液Lの供給が終わったら、その状態で、第1所定時間だけ待機する(ステップS13)。この第1所定時間は、密閉容器50の内面に付着している細胞Cが、剥離液Lの化学的作用によって完全に剥離する直前の状態となるまでの時間である。第1所定時間は、細胞Cの種類や剥離液Lの種類によって適宜決められるが、例えば2~3分程度である。
【0030】
第1所定時間が経過したら(ステップS13:YES)、図5のc図に示すように、密閉容器50から剥離液Lを排出する(ステップS14)。具体的には、制御部5は、バルブV10を開状態にし、ポンプ103を駆動させることで、密閉容器50内の剥離液Lをチューブ74を介して廃液容器36に排出する。このとき、細胞Cは密閉容器50の内面に付着しているため、剥離液Lと一緒には排出されない。仮に剥離液Lを排出するまでに一部の細胞Cが剥離していた場合には、その一部の細胞Cが剥離液Lと一緒に排出されることはあり得るが、そのような細胞Cはあったとしてもごくわずかである。密閉容器50内の剥離液Lが排出されたら、制御部5は、バルブV10を閉状態にし、ポンプ103を停止させる。
【0031】
密閉容器50から剥離液Lが排出されたら、その状態で、第2所定時間だけ待機する(ステップS15)。ステップS14において剥離液Lは基本的に全量が密閉容器50から排出されるが、実際には、図5のd図に示すように、剥離液Lの残液が表面張力によって密閉容器50の内面や細胞Cに付着している。第2所定時間は、ステップS13を経て完全に剥離する直前の状態となっている細胞Cが、剥離液Lの残液の化学的作用によって完全に剥離するまでの時間である。第2所定時間は、細胞Cの種類や剥離液Lの種類によって適宜決められるが、例えば2~3分程度である。
【0032】
第2所定時間が経過したら(ステップS15:YES)、図5のe図に示すように、密閉容器50に新鮮な培地Mを供給する(ステップS16)。具体的には、制御部5は、バルブV5、V7を開状態にし、ポンプ102を駆動させることで、培地容器34内の培地Mをチューブ73を介して密閉容器50に供給する。ステップS15によって密閉容器50の内面に付着していた細胞Cは完全に剥離し、細胞Cが塊状ではなくばらけた状態となっている。したがって、液状の培地Mを供給すると、密閉容器50内の細胞Cが培地Mに混ざり細胞懸濁液Sとなる。なお、剥離液Lの残液はわずかな量なので、培地Mを供給することによって十分に薄められ、後の工程で問題になることはない。密閉容器50に培地Mが所定量供給されたら、制御部5は、バルブV5、V7を閉状態とし、ポンプ102を停止させる。
【0033】
次に、密閉容器50内の細胞懸濁液Sを攪拌部32に移動させる(ステップS17)。具体的には、制御部5は、バルブV1、V3を開状態とし、ポンプ101を駆動させることで、ガスタンク33内のCO2をチューブ72を介して密閉容器50に圧送する。これによって、密閉容器50内の細胞懸濁液Sがチューブ71を通って攪拌部32へと移動する。細胞懸濁液Sが攪拌部32へ移動した後、制御部5は、バルブV1、V3を閉状態とし、ポンプ101を停止させる。
【0034】
続けて、攪拌部32内の細胞懸濁液Sの濃度調整を行う(ステップS18)。具体的には、攪拌部32で攪拌されることにより濃度が均一となった細胞懸濁液Sのうちの微量が不図示の細胞カウント部へと運ばれ、細胞懸濁液Sの濃度が測定される。制御部5は、この測定結果を受けて、細胞懸濁液Sを所定の濃度にするために必要な培地Mの追加量を計算する。それから、制御部5は、バルブV5、V9を開状態とし、ポンプ102を駆動することで、培地容器34から所定量の培地Mを攪拌部32へ供給する。これにより、攪拌部32の内部に収容されている細胞懸濁液Sの所定の濃度にすることができる。攪拌部32に培地Mが所定量供給されたら、制御部5は、バルブV5、V9を閉状態とし、ポンプ102を停止する。
【0035】
最後に、攪拌部32内の濃度調整された細胞懸濁液Sを新しい密閉容器60に移動させる(ステップS19)。具体的には、制御部5は、バルブV1~V3を開状態とし、ポンプ101を駆動させることで、ガスタンク33内のCO2を密閉容器50を経由させて攪拌部32に圧送する。これによって、攪拌部32内の細胞懸濁液Sがチューブ71を通って密閉容器60へと移動する。細胞懸濁液Sが密閉容器60へ移動した後、制御部5は、バルブV1~V3を閉状態とし、ポンプ101を停止させる。以上で継代が完了する。密閉容器50、60を新しい密閉容器に交換すれば、継代を繰り返し行うことも可能である。
【0036】
ここで、密閉容器50、60を新しい密閉容器に交換する際、密閉容器50、60につながるチューブ、攪拌部32などを新しいものに交換してもよいし、チューブ、攪拌部32などの内部を洗浄し、再利用してもよい。密閉容器50、60を交換する際には、培養回路70の内部の無菌状態を維持しながら、密閉容器50、60をチューブから取り外すとともに、別の新しい密閉容器を内部の無菌状態を維持しながら、チューブに接続する。その際には、例えば、BioWelder(ザルトリウス・ステディム・ジャパン社製)、OPTA無菌コネクタ―(ザルトリウス・ステディム・ジャパン社製)などの溶着機を用いるとよい。
【0037】
以上説明した継代の作業におけるステップS11~S16は、本発明に係る細胞回収方法に相当する。詳細には、ステップS11が本発明の培地排出工程に相当し、ステップS12が本発明の剥離液供給工程に相当し、ステップS14が本発明の剥離液排出工程に相当し、ステップS15が本発明の待機工程に相当し、ステップS16が本発明の回収液供給工程に相当する。また、本発明の回収液として、培地Mが使用されている。また、培地容器34、廃液容器36、チューブ73、74、ポンプ102、103、バルブV5、V7、V8、V10、V11によって、本発明の培地給排装置及び回収液給排装置が構成される。また、剥離液容器35、廃液容器36、チューブ73、74、ポンプ102、103、バルブV6、V7、V8、V10、V11によって、本発明の剥離液給排装置が構成される。
【0038】
(効果)
本実施形態では、剥離液Lを排出した後、剥離液Lの残液の作用によって細胞Cが剥離するまで待機してから、回収液としての培地Mを供給するようにしている。このため、細胞Cを剥離液Lから分離する必要がなく、遠心分離機を不要とすることができる。また、剥離液Lの残液の作用で細胞Cが剥離するまで待機しているので、密閉容器50の内面に付着している細胞Cを、培地Mの流れる勢いによって無理に剥離させる必要がない。さらに、剥離液Lの残液の作用で細胞Cが十分にばらけた状態となるので、細胞塊をチューブポンプなどで崩壊させる必要がない。したがって、本実施形態によれば、遠心分離機を不要としつつ、細胞Cへのダメージを抑えることができる。
【0039】
本実施形態では、制御部5がポンプ101~103の駆動及びバルブV1~V12の開閉を適宜制御することにより、本発明に係る細胞回収方法が実行される。したがって、人手を介さずに自動で本発明に係る細胞回収方法を実行することができる。
【0040】
本実施形態では、少なくとも2つの密閉容器50、60が接続経路30を介して接続されており、密閉容器50において本発明に係る細胞回収方法が実行された後、密閉容器50に気体(CO2)を圧送することで、密閉容器50内の細胞懸濁液Sが他の密閉容器60に移し替えられる。このような構成によれば、細胞懸濁液Sを密閉容器50から密閉容器60に移し替える継代の際に、細胞懸濁液Sをチューブポンプなどを通過させずに移し替えることができる。したがって、細胞Cへのダメージを抑えることができる。
【0041】
(他の実施形態)
上記実施形態に種々の変更を加えた変形例について説明する。
【0042】
上記実施形態では、本発明に係る細胞回収方法を継代時の作業に適用した例について説明したが、本発明に係る細胞回収方法を培養終了後に細胞を収穫する際に適用してもよい。
【0043】
上記実施形態では、本発明の回収液として、液状の培地を使用するものとしたが、回収液の種類はこれに限定されるものではない。例えば、細胞を収穫する際の細胞回収作業では、回収液として凍結液を使用すれば、細胞回収後に細胞を凍結保存することができる。
【0044】
上記実施形態では、本発明に係る細胞回収方法の各工程が制御部5によって自動で実行されるものとした。しかしながら、少なくとも一部の工程を作業者が行うようにしてもよい。
【符号の説明】
【0045】
1:細胞培養装置
5:制御部
30:接続経路
50、60:密閉容器(容器)
C:細胞
M:培地(回収液)
L:剥離液
S:細胞懸濁液
図1
図2
図3
図4
図5