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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-30
(45)【発行日】2024-02-07
(54)【発明の名称】ゴムの流動特性推定方法および装置
(51)【国際特許分類】
   B29C 45/76 20060101AFI20240131BHJP
【FI】
B29C45/76
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020024238
(22)【出願日】2020-02-17
(65)【公開番号】P2021126868
(43)【公開日】2021-09-02
【審査請求日】2023-01-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】光真坊 誠
【審査官】田代 吉成
(56)【参考文献】
【文献】特開昭58-88637(JP,A)
【文献】特開平10-329510(JP,A)
【文献】特開2017-171797(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
未加硫ゴムに加硫剤が配合された対象ゴムの加硫中の粘度の基礎粘度要素と熱硬化要素とを推定するゴムの流動特性推定方法であって、
設定された規定温度で所定粘度の前記対象ゴムと、前記対象ゴムから前記加硫剤を排除した配合にして前記規定温度で前記所定粘度と同等粘度に調製した比較ゴムとを用意して、前記対象ゴムおよび前記比較ゴムをそれぞれ個別に、加熱された一定の断面形状の所定の流路に同じ条件で注入して充填させた状態で流動させて、それぞれの前記ゴムの前記流路における流量データおよび先端位置の経時変化データと、それぞれの前記ゴムの前記流路の長手方向に離間した2つの検知位置の間での圧力差データとを取得し、前記流量データおよび前記圧力差データを使用することで、前記対象ゴムの前記基礎粘度要素として前記粘度のせん断速度依存性を算出し、かつ、前記流量データ、前記経時変化データおよび前記圧力差データを使用することで、前記流路におけるそれぞれの前記ゴムの同じ先端位置での粘度を算出し、算出したそれぞれの前記粘度の比較に基づいて、前記対象ゴムの前記熱硬化要素として前記粘度の熱履歴依存性を算出することを特徴とするゴムの流動特性推定方法。
【請求項2】
それぞれの前記ゴムの前記圧力差データを、前記流路に配置されたそれぞれの前記ゴムが通過した1つの検知位置での圧力センサによる検知データと、この検知データ取得時のそれぞれの前記ゴムの前記流路における先端位置での圧力とを用いて取得する請求項1に記載のゴムの流動性推定方法。
【請求項3】
未加硫ゴムに加硫剤が配合された対象ゴムの加硫中の粘度の基礎粘度要素と熱硬化要素とを推定するゴムの流動特性推定装置であって、
一定の断面形状の所定の流路と、前記流路を所定温度に加熱する流路加熱手段と、設定された規定温度で所定粘度の前記対象ゴムおよび前記対象ゴムから前記加硫剤が排除された配合にして前記規定温度で前記所定粘度と同等粘度に調製された比較ゴムをそれぞれ個別に、前記流路に同じ条件で注入して前記流路に充填させた状態で流動させる注入手段と、それぞれの前記ゴムの前記流路における流量データを取得する流量検知部と、それぞれの前記ゴムの前記流路における先端位置の経時変化データを取得する先端位置検知部と、それぞれの前記ゴムの前記流路の長手方向に離間した2つの検知位置の間での圧力差データを取得する圧力差検知部と、前記流量データ、前記経時変化データおよび前記圧力差データが入力される演算部とを備えて、
前記流量データおよび前記圧力差データに基づいて、前記演算部により前記対象ゴムの前記基礎粘度要素として前記粘度のせん断速度依存性が算出され、かつ、前記流量データ、経時変化データおよび前記圧力差データに基づいて前記流路におけるそれぞれの前記ゴムの同じ先端位置での粘度が算出されて、算出されたそれぞれの前記粘度の比較に基づいて、前記対象ゴムの前記熱硬化要素として前記粘度の熱履歴依存性が算出される構成にしたことを特徴とするゴムの流動特性推定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴムの流動特性推定方法および装置に関し、さらに詳しくは、加硫中のゴムの流動特性をより高い精度で推定できる方法および装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
タイヤなどのゴム製品を製造する場合には、未加硫ゴムを用いて成形した成形体をモールドの中で加硫する。或いは、未加硫ゴムをモールドの中に射出してゴム製品を製造することもある。未加硫ゴムはモールドの中で流動して、モールドによって所定形状に型付けされる。未加硫ゴムが十分に流動しない場合は、所定形状に型付けできないことがあり、ゴム製品の品質に大きく影響する。この流動特性は加硫時間、即ち、ゴム製品の生産性にも影響する。
【0003】
そこで、加硫中の未加硫ゴムの挙動がシミュレーションされている。このシミュレーションの際には、ゴムの流動特性を示す指標データが必要であり、代表的な指標データとして粘度が用いられている。ゴムの粘度の要素は、せん断速度や温度の影響を受ける基礎粘度要素と、熱履歴(加硫温度や加硫時間)の影響を受ける熱硬化要素に大別できる。基礎粘度要素を把握する一般的な方法としては、細管式粘度計(キャピラリーレオメータ)が知られている。熱硬化要素を把握する一般的な方法しては、平板型回転粘度計(キュラストメータ)が知られている。
【0004】
上記のような方法で把握された基礎粘度要素と熱硬化要素とを併用し総合的な粘度を算出して、加硫ゴムの挙動シミュレーションに用いる場合、実際の未加硫ゴムの挙動とシミュレーション結果との整合性を十分に高くすることは難しい。何故ならば、基礎粘度要素と熱硬化要素とが別々の方法(異なる条件)で把握されていて、互いの方法の違いに起因するばらつき(不整合)が生じるためである。
【0005】
未加硫ゴムの粘度測定方法として、一定の断面形状の流路に未加硫ゴムを充填した状態で流動させて、流路における検知圧力と検知流量に基づいて、または、検知圧力と未加硫ゴムの先端位置および検知速度に基づいて、粘度を算出する方法が提案されている(特許文献1参照)。しかしながら、この方法では、未加硫ゴムの基礎粘度要素と熱硬化要素とを別々に把握していない。そのため、加硫中の未加硫ゴムの流動特性をより高い精度で推定するには改善の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2019-27959号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、加硫中のゴムの流動特性をより高い精度で推定できる方法および装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため本発明のゴムの流動特性推定方法は、未加硫ゴムに加硫剤が配合された対象ゴムの加硫中の粘度の基礎粘度要素と熱硬化要素とを推定するゴムの流動特性推定装置であって、一定の断面形状の所定の流路と、前記流路を所定温度に加熱する流路加熱手段と、設定された規定温度で所定粘度の前記対象ゴムおよび前記対象ゴムから前記加硫剤が排除された配合にして前記規定温度で前記所定粘度と同等粘度に調製された比較ゴムをそれぞれ個別に、前記流路に同じ条件で注入して前記流路に充填させた状態で流動させる注入手段と、それぞれの前記ゴムの前記流路における流量データを取得する流量検知部と、それぞれの前記ゴムの前記流路における先端位置の経時変化データを取得する先端位置検知部と、それぞれの前記ゴムの前記流路の長手方向に離間した2つの検知位置の間での圧力差データを取得する圧力差検知部と、前記流量データ、前記経時変化データおよび前記圧力差データが入力される演算部とを備えて、前記流量データおよび前記圧力差データに基づいて、前記演算部により前記対象ゴムの前記基礎粘度要素として前記粘度のせん断速度依存性が算出され、かつ、前記流量データ、経時変化データおよび前記圧力差データに基づいて前記流路におけるそれぞれの前記ゴムの同じ先端位置での粘度が算出されて、算出されたそれぞれの前記ゴムの前記同じ先端位置での前記粘度の比較に基づいて、前記対象ゴムの前記熱硬化要素として前記粘度の熱履歴依存性が算出される構成にしたことを特徴とする。
【0009】
本発明のゴムの流動特性推定装置は、未加硫ゴムに加硫剤が配合された対象ゴムの加硫中の粘度の基礎粘度要素と熱硬化要素とを推定するゴムの流動特性推定装置であって、一定の断面形状の所定の流路と、前記流路を所定温度に加熱する流路加熱手段と、設定された規定温度で所定粘度の前記対象ゴムおよび前記対象ゴムから前記加硫剤が排除された配合にして前記規定温度で前記所定粘度と同等粘度に調製された比較ゴムをそれぞれ個別に、前記流路に同じ条件で注入して前記流路に充填させた状態で流動させる注入手段と、それぞれの前記ゴムの前記流路における流量データを取得する流量検知部と、それぞれの前記ゴムの前記流路における先端位置の経時変化データを取得する先端位置検知部と、それぞれの前記ゴムの前記流路の長手方向に離間した2つの検知位置の間での圧力差データを取得する圧力差検知部と、前記流量データ、前記経時変化データおよび前記圧力差データが入力される演算部とを備えて、前記流量データおよび前記圧力差データに基づいて、前記演算部により前記対象ゴムの前記基礎粘度要素として前記粘度のせん断速度依存性が算出され、かつ、前記流量データ、経時変化データおよび前記圧力差データに基づいて前記流路におけるそれぞれの前記ゴムの同じ先端位置での粘度が算出されて、算出されたそれぞれの前記粘度の比較に基づいて、前記対象ゴムの前記熱硬化要素として前記粘度の熱履歴依存性が算出される構成にしたことを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、前記対象ゴムおよび前記比較ゴムをそれぞれ個別に、加熱した前記流路に同じ条件で注入して充填させた状態で流動させることで取得したそれぞれの前記ゴムの前記流路における流量データおよび先端位置の経時変化データと、それぞれの前記ゴムの前記流路の長手方向に離間した2つの検知位置の間での圧力差データとを使用する。この流量データと圧力差データを用いて、前記対象ゴムの基礎粘度要素として粘度のせん断速度依存性を算出できる。また、この流量データ、経時変化データおよび圧力差データを使用して算出した前記流路におけるそれぞれの前記ゴムの同じ先端位置での粘度の比較に基づいて、前記対象ゴムの熱硬化要素として前記対象ゴムの粘度の熱履歴依存性を算出できる。このように、対象ゴムの粘度の基礎粘度要素と熱硬化要素とを同じ条件下の1つの方法によって把握できる。したがって、基礎粘度要素と熱硬化要素とを別々の方法によって把握する場合のように、それぞれの要素を把握する方法の違いに起因して算出結果がばらつく(整合しなくなる)という不具合を防止するには有利になる。そのため、本発明によって基礎粘度要素と熱硬化要素とを把握することで、加硫中の対象ゴムの流動特性をより高い精度で推定することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明のゴムの流動特性推定装置を、シリンダおよび流路を断面にして例示する説明図である。
図2図1の流路にゴムを注入している状態を例示する説明図である。
図3】流路に注入したゴムの先端位置の経時変化を例示するグラフ図である。
図4】流路に注入したゴムのせん断速度と粘度との関係を例示するグラフ図である。
図5】流路に注入したゴムの先端位置での粘度の経時変化を例示するグラフ図である。
図6】流路に注入したゴムの先端位置と粘度との関係を例示するグラフ図である。
図7】流路に注入したゴムの先端位置と粘度上昇比率との関係を例示するグラフ図である。
図8】流路に注入したゴムの先端位置での粘度上昇比率の経時変化を例示するグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明のゴムの流動特性推定方法および装置を、図に示した実施形態に基づいて説明する。
【0013】
本発明は、未加硫ゴムに加硫剤が配合された対象ゴムR1の加硫される過程における流動特性を推定する。流動特性を示す指標となる対象ゴムR1の粘度をより高い精度で推定するために、この粘度を上記した基礎粘度要素MA(せん断速度依存性)と熱硬化要素MB(熱履歴依存性)とに区別して把握する。本発明は、対象ゴムR1と、対象ゴムR1から加硫剤を排除した配合の未加硫ゴムR2(以下、比較ゴムR2という)とを用いることが特徴の1つである。
【0014】
準備作業として、設定された規定温度において同じ所定粘度の対象ゴムR1と比較ゴムR2を用意する。この規定温度は、対象ゴムR1の架橋反応が促進されない温度であり、例えば10℃~50℃程度、或いは常温に設定すればよい。
【0015】
対象ゴムR1は、原料ゴムに加硫剤を含む各種配合剤を配合して混練りして製造し、所定粘度にする。比較ゴムR2は、対象ゴムR1の配合から加硫剤のみを除外した各種配合剤を配合して混練りして製造し、所定粘度にする。対象ゴムR1と比較ゴムR2とは厳密に一致した粘度にすることはできないため、同等粘度であればよい。同等粘度とは、比較ゴムR2の粘度(Pa・s)が対象ゴムR1の粘度(Pa・s)の±1%程度であることを意味する。この時の対象ゴムR1と比較ゴムR2の粘度の確認は、キャピラリーレオメータなどの一般的な粘度計を用いて行えばよい。
【0016】
対象ゴムR1における加硫剤の配合割合が小さくて、粘度に対する影響が無視できるならば、対象ゴムR1の配合から加硫剤のみを単純に除外した配合で比較ゴムR2を製造する。対象ゴムR1における加硫剤の配合割合が比較的大きくて、粘度に対する影響が無視できない場合は、対象ゴムR1の配合から加硫剤を除外したことによる粘度変化を補うために、例えば、加硫剤を除外した対象ゴムR1の残りの配合剤の配合量を調整する。これにより、対象ゴムR1と比較ゴムR2とを同等粘度にする。対象ゴムR1と比較ゴムR2との相違点は、実質的に加硫剤の有無のみである。
【0017】
塑性体である対象ゴムR1は加硫剤が配合されているので、加熱することで架橋反応が生じて弾性体に変質する。比較ゴムR2は、加硫剤が配合されていないので、加熱しても架橋反応が生じることがなく塑性体のままである。
【0018】
図1図2に例示する本発明の未加硫ゴムの流動特性推定装置1(以下、推定装置1という)は、一定の断面形状の所定の流路2と、流路加熱手段2aと、ゴムR(対象ゴムR1および比較ゴムR2)を流路2に注入させる注入手段3と、流路2におけるゴムの流量Qデータを取得する流量検知部9と、圧力センサ7と、演算部10とを備えている。この実施形態では推定装置1はさらに、2つの温度センサ8a、8bを有している。演算部10には、流量検知部9、圧力センサ7および温度センサ8a、8bによる検知データが入力される。
【0019】
流路2は管体でもモールドのような金属片に形成されたものでもよい。流路2の断面形状は円形、楕円形、三角、四角、五角形等の多角形でもよいが、実際の製造工程で一般に使用されている円形断面がよい。この流路2の断面積は全長に渡って実質的に不変で真っ直ぐに延在している。流路2は屈曲して延在していてもよいが直線状であることが好ましい。
【0020】
流路加熱手段2aは、流路2を所定温度に加熱する。例えば、流路2をカバーするヒータなどを流路加熱手段2aとして用いる。流路加熱手段2aによって流路2は、対象ゴムR1の架橋反応が促進される所定温度に加熱され、この所定温度は例えば100℃~250℃の任意の温度である。
【0021】
注入手段3は、流路2にゴムRを注入して充満させた状態で流動させる。注入手段3として、例えばゴム用の押出機や射出機を用いることができる。この実施形態では注入手段3として、ゴムRが収容される筒状のシリンダ4と、シリンダ4の内部に配置されるプランジャー5aと、プランジャー5aをゴムRの注入方向に移動させる駆動機構5cとを有する押出機が用いられている。シリンダ4の一定内径の円筒部の内周面と、プランジャー5aの一定外径の円筒部の外周面とは、ほとんど隙間なく対向している。注入手段3はさらに、ゴムRの温度を調整する温度調整部5bと、温度調整部5bおよび駆動機構5cの作動を制御する制御部6とを有している。流路加熱手段2aによる加熱具合も制御部6によって制御される。
【0022】
この実施形態では、プランジャー5aがゴムRの注入方向に移動してゴムRを流路2に注入させる注入移動部になっている。ゴムRの注入方向へのプランジャー5aの単位時間当たりの移動量が流量検知部9により検知されて、この検知データが演算部10に入力される。
【0023】
圧力センサ7は、流路2に配置された検知位置での圧力を検知する。圧力センサ7の検知位置は、ゴムRが安定して流れる位置にする。
【0024】
温度センサ8a、8bはそれぞれの検知位置でのゴムRの温度を検知する。この実施形態では、シリンダ4の内部のゴムRの温度を検知する温度センサ8aと、流路2の温度(流路2におけるゴムRの温度)を検知する温度センサ8bとを有している。
【0025】
演算部10としてはコンピュータ等を用いることができる。演算部10は、温度センサ8a、8bによる検知データ(検知温度)と予め設定されている目標温度とを比較してその比較結果を制御部6に伝達する。制御部6は、検知温度と目標温度との差がなくなるように温度調整部5b、流路加熱手段2aによる加熱具合を制御する。演算部10には、上述した種々のデータの他に、プランジャー5aの断面積(シリンダ4の内側断面積)、流路2の断面積、流路2の長さ、流路2における圧力センサ7および温度センサ8b、8cの検知位置などの既知データが入力されている。
【0026】
演算部10がゴムRの粘度μを算出する際には、下記(1)式が使用される。この(1)式は、円管流路でのニュートン流体の圧力損失の計算式である。
圧力損失△P=(8・μ・Q・L)/(πr4)・・・(1)
ここで、△Pは流路2の離間距離Lでの圧力差であり、Qは流路2でのゴムRの流量、rは流路2の半径である。流路2におけるゴムRの先端位置の圧力はゼロになるので圧力センサ7の検知位置とゴムRの先端位置との間の圧力差△Pは、圧力センサ7による検知データ(検知圧力)となり、ゴムRの先端位置と圧力センサ7の検知位置との離間距離をLとすることができる。
尚、(1)式は円管流路に適用される計算式であるが、流路2の断面形状が円形以外の場合は(1)式をアレンジして使用する。
【0027】
次に、対象ゴムR1の基礎粘度要素MA(粘度のせん断速度依存性)および熱硬化要MB(粘度の熱履歴依存性)を把握する手順を説明する。
【0028】
対象ゴムR1と比較ゴムR2のそれぞれに対して個別に以下の測定を同じ条件で行う。どちらのゴムR1、R2を先に測定してもよいので、この実施形態では、対象ゴムR1と比較ゴムR2をそれぞれゴムRとして説明する。
【0029】
図1に例示するように、注入手段3のシリンダ4にゴムRを収容しておく。この時、ゴムRを温度調節部5bにより加温する。流路2は流路加熱手段2aによって所定温度に加熱しておく。
【0030】
次いで、図2に例示するように、プランジャー5aを前方移動させてゴムRをシリンダ4から流路2に注入する。シリンダ4と流路2とは連続していて、ゴムRはシリンダ4および流路2で途切れることなく、流路2に充満された状態で流動する。即ち、ゴムR1、R2はそれぞれ同じ条件下で流路2に注入されて圧力センサ7の検知位置を通過する。流動するゴムRの検知位置での圧力が圧力センサ7より検知される。
【0031】
演算部10には、流量検知部9により検知されたプランジャー5aの単位時間当たりの移動量が入力される。また、圧力センサ7よる検知データが演算部10に入力される。演算部10は入力されたデータと、予め入力されている既知のデータを用いて演算処理を行う。
【0032】
対象ゴムR1の基礎粘度要素MA(粘度のせん断速度依存性)は、以下の演算によって算出される。
【0033】
ゴムRは非圧縮性流体と見なせるので、ゴムRの流量Qは、プランジャー5aがシリンダ4の内部で単位時間に移動した区間の体積になる。プランジャー5aの断面積は既知であるので、演算部10によって、プランジャー5aの単位時間当たりの移動量とプランジャー5aの断面積とに基づいて、流路2におけるゴムRの流量Qが算出される。即ち、流量検知部9によって流量Qデータが取得される。
【0034】
流路2におけるゴムRの先端位置は、流量Qに基づいて算出することができる。プランジャー5aがシリンダ4の内部で単位時間に移動した区間の体積(流量Q)と、ゴムRが流路2で単位時間に移動した体積は同じである。流路2の断面積は既知であるので、演算部10によって、流量Qと流路2の断面積に基づいて、流路2におけるゴムRの先端位置が算出される。
【0035】
その結果、図3に例示するそれぞれのゴムR1、R2の流路2における先端位置の経時変化データが取得される。実線は対象ゴムR1、破線は比較ゴムR2のデータを示している。それぞれのゴムR1、R2の先端位置は当初は同じであるが、対象ゴムR1は加硫されることで流動性が低下する。経過時間tの時点で対象ゴムR1の先端位置はX1でほぼ不変になり、比較ゴムの先端位置はX1よりも先に進んだX2になる。
【0036】
それぞれのゴムR1、R2の流路2における先端位置の経時変化データを取得するには、圧力センサ7および流量検知部9の検知データが使用されている。したがって、圧力センサ7および流量検知部9が、ゴムRの先端位置の経時変化データ取得する先端位置検知部として機能している。
【0037】
また、流路2を流動しているゴムRの先端位置が判明し、流路2における圧力センサ7の検知位置は既知なので、ゴムRの先端位置と圧力センサ7の検知位置との離間距離Lも判明する。ゴムRの先端位置の圧力はゼロなので、演算部10では、圧力センサ7の検知データ(検知圧力)がこの離間距離Lの間での圧力差データとして取得される。
【0038】
それぞれのゴムR1、R2の流路2の長手方向に離間した2つの検知位置の間での圧力差データを取得するには、圧力センサ7および流量検知部9の検知データが使用されている。したがって、圧力センサ7および流量検知部9が、ゴムRの圧力差データを取得する圧力差検知部としても機能している。
【0039】
この取得された圧力差データが(1)式の△Pとして代入され、算出された流量Q、離間距離L、流路2の半径rが(1)式に代入されることで、粘度μが算出される。この際に流路2に対するゴムRのせん断速度yはy=4Q/(πr3)になるので、図4に例示する粘度μとせん断速度yとの関係を把握することができる。
【0040】
粘度μのせん断速度y(せん断応力)に対する依存性は、同じ粘度であれば加硫の有無に拘わらず同じになるので、対象ゴムR1と比較ゴムR2とは同じ線分で表せる。即ち、比較ゴムR2を用いて測定したデータを対象ゴムR1のデータとして見なすことができる。このようにして対象ゴムR1の基礎粘度要素MAとして、粘度のせん断速度依存性を示す図4に記載された対象ゴムR1のせん断速度yに依存する粘度変化割合が算出される。図4に記載された関係は、温度によって変化するので、ゴムRの温度を複数に異ならせて取得するとよい。
【0041】
熱硬化要素MB(粘度の熱履歴依存性)は以下の演算によって算出される。
【0042】
図3に例示する先端位置の経時変化データと、上述のとおり算出された粘度μとを用いて、それぞれのゴムR1、R2の粘度μの経時変化データを算出すると図5に例示する結果になる。実線は対象ゴムR1、破線は比較ゴムR2のデータを示している。それぞれのゴムR1、R2の粘度μは当初は同じであるが、対象ゴムR1は加硫されることで経過時間のある時点で急激に上昇する。経過時間tの時点で対象ゴムR1の粘度はμ1、比較ゴムR2の粘度はμ1よりも低いμ2になる。
【0043】
図5のデータは同じ経過時間でのそれぞれのゴムR1、R2の粘度μの比較になっている。しかし、同じ経過時間では、それぞれのゴムR1、R2の先端位置は異なる。そこで、図3に例示する先端位置の経時変化データと、上述のとおり算出された粘度μとを用いて、それぞれのゴムR1、R2の先端位置での粘度μを算出すると図6の結果になる。実線は対象ゴムR1、破線は比較ゴムR2のデータを示している。それぞれのゴムR1、R2の先端位置の粘度μは当初は同じであるが、対象ゴムR1は加硫されることで先端位置がある位置に到達すると急激に上昇する。それぞれのゴムR1、R2が同じ先端位置Xでは対象ゴムR1の粘度はμ1、比較ゴムR2の粘度はμ1よりも低いμ2になる。
【0044】
ここで、比較ゴムR2は加硫の影響によって粘度μが経時変化することはない、即ち熱硬化しないので、図6の比較ゴムR2のデータを基準にして、図6のそれぞれのゴムR1、R2のデータを書き換えると図7に例示する結果になる。図7では、比較ゴムR2の粘度μのデータを基準の1として、縦軸を比較ゴムR1の粘度に対する粘度上昇比率にして記載されている。それぞれのゴムR1、R2が同じ先端位置Xでは対象ゴムR1の粘度上昇比率はμ1/μ2、比較ゴムR2の粘度上昇比率はμ2/μ2なので常に1になる。
【0045】
図7のデータを、横軸を経過時間として書き換えると図8に示すデータになる。図8では、対象ゴムR1の粘度上昇比率は経過時間のある時点で急激に上昇し、比較ゴムR2の粘度上昇比率は経時変化がなく1倍のままになる。このようにして対象ゴムR1の粘度μにおける熱硬化要素MBとして、粘度の熱履歴依存性を示す図8に記載された対象ゴムR1の熱履歴に依存する粘度変化割合が算出される。図8に記載された関係は、加硫温度によって変化するので、ゴムRの温度(流路2の温度)を複数に異ならせて取得するとよい。
【0046】
上述のとおり本発明では、対象ゴムR1の粘度の基礎粘度要素MAと熱硬化要素MBとを同じ条件下の1つの方法によって把握できる。基礎粘度要素MAと熱硬化要素MBとを別々の方法によって把握するのではないので、それぞれの要素MA、MBを把握する方法の違いに起因して算出結果がばらつく(整合しなくなる)という不具合が防止される。そのため、基礎粘度要素MAと熱硬化要素MBと把握することで、加硫中の対象ゴムR1の流動特性をより高い精度で推定することができる。
【0047】
対象ゴムR1の加硫過程での挙動シミュレーションをする際には、対象ゴムR1の流動特性を示す指標データ(粘度)として、上述の算出した基礎粘度要素MA、熱硬化要素MBを用いる。これら基礎粘度要素MA、熱硬化要素MBをシミュレーションモデルに適用し、コンピュータによってシミュレーションモデルをモールド内で流動させてその挙動を確認する。基礎粘度要素MA、熱硬化要素MBは、例えばタイヤ、ホース、防舷材、コンベヤベルト等の様々なゴム製品、これらゴム製品を構成するゴム部材、ブラダ等のゴム製の製造設備部材などを製造する際の未加硫ゴムの挙動シミュレーションに利用することができる。
【符号の説明】
【0048】
1 流動特性推定装置
2 流路
2a 流路加熱手段
3 注入手段
4 シリンダ
5a プランジャー
5b 温度調節部
5c 駆動機構
6 制御部
7 圧力センサ
8a、8b 温度センサ
9 流量検知部
10 演算部
R1 対象ゴム
R2 比較ゴム
図1
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図8