(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-30
(45)【発行日】2024-02-07
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 11/12 20060101AFI20240131BHJP
B60C 11/03 20060101ALI20240131BHJP
【FI】
B60C11/12 A
B60C11/12 B
B60C11/03 100A
(21)【出願番号】P 2020558309
(86)(22)【出願日】2019-11-12
(86)【国際出願番号】 JP2019044404
(87)【国際公開番号】W WO2020105513
(87)【国際公開日】2020-05-28
【審査請求日】2022-10-07
(31)【優先権主張番号】P 2018218167
(32)【優先日】2018-11-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】植村 卓範
【審査官】市村 脩平
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/141912(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/141913(WO,A1)
【文献】特開2016-074391(JP,A)
【文献】国際公開第2014/129647(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C1/00-19/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッド部に、タイヤ周方向に延びる複数本の主溝と、これら主溝により区画される複数列のリブと、タイヤ幅方向に延びるサイプとを有する空気入りタイヤにおいて、
前記サイプは、少なくとも一方の端部が前記主溝に連通すると共に、互いに対面する踏み込み側のエッジと蹴り出し側のエッジを有し、これら踏み込み側のエッジと蹴り出し側のエッジのそれぞれに前記サイプのサイプ長さよりも短い面取り部が形成されており、前記サイプにおける各面取り部に対向する部位には他の面取り部が存在しない非面取り領域があり、
子午線断面において、前記サイプを有するリブの踏面を規定するプロファイルラインが基準トレッドプロファイルラインよりもタイヤ径方向外側に突出し、該基準トレッドプロファイルラインを成す円弧の曲率半径TR[mm]と前記リブのプロファイルラインを成す円弧の曲率半径RR[mm]とがTR>RRの関係を満たし、前記サイプにおける踏み込み側と蹴り出し側の一方の面取り部のみが前記リブのプロファイルラインの最大突出位置を跨ぐように配置され、前記基準トレッドプロファイルラインに対する前記リブの最大突出量D[mm]と、前記最大突出位置を跨ぐように配置された面取り部の最大幅W[mm]とが
0.10mm
2<W×D<
1.00mm
2の関係を満たすことを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記サイプの一方の端部のみが前記リブ内で終端していることを特徴とする請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記サイプがタイヤ周方向に対して傾斜していることを特徴とする請求項1又は2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記サイプのタイヤ周方向に対する鋭角側の傾斜角度が40°~80°であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記サイプが複数列の前記リブに配置されていることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
前記サイプの少なくとも一部が平面視において湾曲或いは屈曲していることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤに関し、更に詳しくは、サイプの面取り形状を工夫することにより、ドライ路面での操縦安定性能の向上とウエット路面での操縦安定性能の向上の両立を可能にした空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、空気入りタイヤのトレッドパターンにおいて、複数の主溝により区画されるリブには複数本のサイプが形成されている。このようなサイプを設けることにより排水性を確保し、ウエット路面での操縦安定性能を発揮するようにしている。しかしながら、ウエット路面での操縦安定性能の改善のためトレッド部に多数のサイプを配置した場合、リブの剛性が低下するため、ドライ路面での操縦安定性能が低下するという欠点がある。
【0003】
また、空気入りタイヤにおいて、トレッドパターンにサイプを形成しかつその面取りを施したものが種々提案されている(例えば、特許文献1参照)。サイプを形成しかつその面取りを施した場合、面取りの形状によってはエッジ効果を喪失することがあり、また、面取りの寸法によってはドライ路面での操縦安定性能或いはウエット路面での操縦安定性能の向上が不十分となることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、サイプの面取り形状を工夫することにより、ドライ路面での操縦安定性能の向上とウエット路面での操縦安定性能の向上の両立を可能にした空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための本発明の空気入りタイヤは、トレッド部に、タイヤ周方向に延びる複数本の主溝と、これら主溝により区画される複数列のリブと、タイヤ幅方向に延びるサイプとを有する空気入りタイヤにおいて、前記サイプは、少なくとも一方の端部が前記主溝に連通すると共に、互いに対面する踏み込み側のエッジと蹴り出し側のエッジを有し、これら踏み込み側のエッジと蹴り出し側のエッジのそれぞれに前記サイプのサイプ長さよりも短い面取り部が形成されており、前記サイプにおける各面取り部に対向する部位には他の面取り部が存在しない非面取り領域があり、子午線断面において、前記サイプを有するリブの踏面を規定するプロファイルラインが基準トレッドプロファイルラインよりもタイヤ径方向外側に突出し、該基準トレッドプロファイルラインを成す円弧の曲率半径TR[mm]と前記リブのプロファイルラインを成す円弧の曲率半径RR[mm]とがTR>RRの関係を満たし、前記サイプにおける踏み込み側と蹴り出し側の一方の面取り部のみが前記リブのプロファイルラインの最大突出位置を跨ぐように配置され、前記基準トレッドプロファイルラインに対する前記リブの最大突出量D[mm]と、前記最大突出位置を跨ぐように配置された面取り部の最大幅W[mm]とが0.10mm2<W×D<1.00mm2の関係を満たすことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明では、主溝により区画されたリブにタイヤ幅方向に延びるサイプを備える空気入りタイヤにおいて、サイプの踏み込み側のエッジと蹴り出し側のエッジのそれぞれにサイプのサイプ長さよりも短い面取り部を設ける一方で、該サイプにおける各面取り部に対向する部位には他の面取り部が存在しない非面取り領域があることで、面取り部に基づいて排水効果を改善すると同時に、非面取り領域ではエッジ効果により水膜を効果的に除去することができる。そのため、ウエット路面での操縦安定性能を大幅に向上させることが可能となる。しかも、踏み込み側のエッジと蹴り出し側のエッジのそれぞれに面取り部と非面取り領域が混在しているため、上述のようなウエット性能の改善効果を制動時及び駆動時において最大限に享受することができる。
【0008】
更には、サイプは少なくとも一方の端部が主溝に連通し、子午線断面において、サイプを有するリブの踏面を規定するプロファイルラインは基準トレッドプロファイルラインよりもタイヤ径方向外側に突出し、基準トレッドプロファイルラインを成す円弧の曲率半径TRとリブのプロファイルラインを成す円弧の曲率半径RRとはTR>RRの関係を満たし、サイプにおける踏み込み側と蹴り出し側の一方の面取り部のみがリブのプロファイルラインの最大突出位置を跨ぐように配置されているので、サイプを有するリブではタイヤ径方向外側に突出した形状によりリブ内での排水が促進されて、ウエット路面での操縦安定性能の更なる向上に繋がる。更に、基準トレッドプロファイルラインに対するリブの最大突出量Dと、最大突出位置を跨ぐように配置された面取り部の最大幅Wとが0.10mm2<W×D<1.00mm2の関係を満たすことで、ドライ路面での操縦安定性能とウエット路面での操縦安定性能とをバランス良く改善することが可能である。
【0009】
上述したリブの形状により当該リブ内での排水が促進されてウエット路面での操縦安定性能の向上に繋がるが、特に、踏み込み側と蹴り出し側の面取り部の一方のみがリブの最大突出位置を跨ぐように配置されることで、面取り部の両方がリブの最大突出位置を跨ぐように配置された場合に比べて、リブの剛性を確保することができる。これにより、本発明に係る空気入りタイヤは、ドライ路面での操縦安定性能の向上とウエット路面での操縦安定性能の向上とを両立することに優れている。
【0010】
本発明では、サイプの一方の端部のみがリブ内で終端していることが好ましい。これにより、リブの剛性を向上させることができ、ドライ路面での操縦安定性能を効果的に改善することができる。
【0011】
本発明では、サイプはタイヤ周方向に対して傾斜していることが好ましい。これにより、エッジ効果を向上させることができ、ウエット路面での操縦安定性能を効果的に改善することができる。
【0012】
本発明では、サイプのタイヤ周方向に対する鋭角側の傾斜角度は40°~80°であることが好ましい。これにより、ドライ路面での操縦安定性能とウエット路面での操縦安定性能の改善を両立させることができる。
【0013】
本発明では、サイプは複数列のリブに配置されていることが好ましい。これにより、ドライ路面での操縦安定性能とウエット路面での操縦安定性能の改善を両立させることができる。
【0014】
本発明では、サイプの少なくとも一部は平面視において湾曲或いは屈曲していることが好ましい。これにより、各サイプにおけるエッジの総量が増大し、ウエット路面での操縦安定性能を効果的に改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は本発明の実施形態からなる空気入りタイヤを示す子午線断面図である。
【
図2】
図2は本発明の実施形態からなる空気入りタイヤのトレッド部の一部を示す平面図である。
【
図3】
図3は
図2のリブに形成されたサイプ及びその面取り部を示す平面図である。
【
図4】
図4は本発明の実施形態からなる空気入りタイヤのトレッド部の輪郭形状を示す子午線断面図である。
【
図6】
図6(a),(b)は本発明に係る空気入りタイヤのサイプ及びその面取り部の変形例を示し、
図6(a),(b)は各変形例の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の構成について添付の図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は本発明の実施形態からなる空気入りタイヤを示すものである。
図1において、CLはタイヤ中心線である。
【0017】
図1に示すように、本発明の実施形態からなる空気入りタイヤは、タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部1と、該トレッド部1の両側に配置された一対のサイドウォール部2,2と、これらサイドウォール部2のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部3,3とを備えている。
【0018】
一対のビード部3,3間にはカーカス層4が装架されている。このカーカス層4は、タイヤ径方向に延びる複数本の補強コードを含み、各ビード部3に配置されたビードコア5の廻りにタイヤ内側から外側へ折り返されている。ビードコア5の外周上には断面三角形状のゴム組成物からなるビードフィラー6が配置されている。
【0019】
一方、トレッド部1におけるカーカス層4の外周側には複数層のベルト層7が埋設されている。これらベルト層7はタイヤ周方向に対して傾斜する複数本の補強コードを含み、かつ層間で補強コードが互いに交差するように配置されている。ベルト層7において、補強コードのタイヤ周方向に対する傾斜角度は例えば10°~40°の範囲に設定されている。ベルト層7の補強コードとしては、スチールコードが好ましく使用される。ベルト層7の外周側には、高速耐久性の向上を目的として、補強コードをタイヤ周方向に対して例えば5°以下の角度で配列してなる少なくとも1層のベルトカバー層8が配置されている。ベルトカバー層8の補強コードとしては、ナイロンやアラミド等の有機繊維コードが好ましく使用される。
【0020】
また、トレッド部1には、タイヤ周方向に延びる複数本の主溝9が形成されている。これら主溝9により、トレッド部1には複数列のリブ10が区画されている。なお、本発明において主溝9はウェアインジケータを有する溝をいう。
【0021】
なお、上述したタイヤ内部構造は空気入りタイヤにおける代表的な例を示すものであるが、これに限定されるものではない。
【0022】
図2は本発明の実施形態からなる空気入りタイヤのトレッド部の一部を示すものである。
図2において、Tcはタイヤ周方向、Twはタイヤ幅方向を示しており、Pは後述する基準トレッドプロファイルラインPL0に対するリブ10の最大突出位置である。
【0023】
図2に示すように、リブ10には、タイヤ幅方向に延びる複数本のサイプ11が形成されている。サイプ11は、全体の形状が湾曲状を有し、リブ10内においてタイヤ周方向に間隔をおいて配置されている。各サイプ11は、回転方向Rに対して踏み込み側となるエッジ11Aと、回転方向Rに対して蹴り出し側となるエッジ11Bとを有している。互いに対面する踏み込み側のエッジ11Aと蹴り出し側のエッジ11Bには面取り部12が形成されている。また、サイプ11は、タイヤ幅方向の一方の端部11Cがリブ10の片側に位置する主溝9に連通し、タイヤ幅方向の他方の端部11Dがリブ10内で終端している。即ち、サイプ11は、一方の端部11Cのみが主溝9に連通するセミクローズドサイプである。なお、本発明においてサイプ11は溝幅tが1.5mm以下の細溝である。
【0024】
面取り部12は、回転方向Rに対して踏み込み側となる面取り部12Aと、回転方向Rに対して蹴り出し側となる面取り部12Bとを有している。これら面取り部12に対向する部位には他の面取り部が存在しない非面取り領域13が存在している。より具体的に、面取り部12Aに対向する部位には、回転方向Rに対して蹴り出し側となる非面取り領域13Bがあり、面取り部12Bに対向する部位には、回転方向Rに対して踏み込み側となる非面取り領域13Aがある。このようにサイプ11における踏み込み側のエッジ11Aと蹴り出し側のエッジ11Bの各々には、面取り部12と非面取り領域13とが隣接して形成されている。
【0025】
図3に示すように、サイプ11及び面取り部12A,12Bにおいて、各々のタイヤ幅方向の長さをサイプ長さL、面取り長さL
A,L
Bとする。これらサイプ長さL、面取り長さL
A,L
Bは、サイプ11又は面取り部12A,12Bのそれぞれの一方の端部から他方の端部までのタイヤ幅方向の長さである。面取り部12A,12Bの面取り長さL
A,L
Bは、いずれもサイプ11のサイプ長さLよりも短く形成されている。
【0026】
図4は本発明の実施形態からなる空気入りタイヤにおけるトレッド部1の輪郭形状を示すものである。
図4において、タイヤ子午断面視で、サイプ11を有するリブ10のタイヤ幅方向の両端点E1,E2と、そのリブ10に隣接する主溝9のうちタイヤ中心線CL側に位置する主溝9におけるタイヤ幅方向の端点E3の3点(端点E1~E3)を通る円弧(曲率半径:TR)からなる基準トレッドプロファイルラインPL0を想定したとき、リブ10の踏面を規定する円弧(曲率半径:RR)からなるプロファイルラインPL1が基準トレッドプロファイルラインPL0よりもタイヤ径方向外側に突出している。基準トレッドプロファイルラインPL0を成す円弧及びプロファイルラインPL1を成す円弧は、いずれもタイヤ径方向内側に中心を持つ円弧である。このようなトレッド部1の基準トレッドプロファイルラインPL0を成す円弧の曲率半径TRと、リブ10のプロファイルラインPL1を成す円弧の曲率半径RRとはTR>RRの関係を満たしている。
【0027】
なお、
図4はトレッド部1の特徴を理解し易くするために、その輪郭形状を誇張して描写したものであって、実際の輪郭形状とは必ずしも一致するものではない。また、トレッド部1のリブ10のエッジに面取りが施されている場合、リブ10の端点E1,E2はタイヤ子午線断面における主溝9の溝壁面の延長線とリブ10の踏面の延長線との交点により特定される。タイヤ中心線CL上に位置するリブ10において基準トレッドプロファイルラインPL0を想定するときは、当該リブ10のタイヤ幅方向の両端点と、当該リブ10の両側に位置する主溝9のうち一方のリブ10のタイヤ幅方向内側の端点の3点を基準とし、タイヤ幅方向最外側(ショルダー部)に位置するリブ10において基準トレッドプロファイルラインPL0を想定するときは、当該リブ10のタイヤ幅方向内側の端点と、当該リブ10のタイヤ幅方向内側に位置するリブ10のタイヤ幅方向の両端点の3点を基準とする。
【0028】
上記空気入りタイヤにおいて、基準トレッドプロファイルラインPL0に対してリブ10のプロファイルラインPL1における突出量が最大となるタイヤ幅方向の位置が最大突出位置Pである。サイプ11における踏み込み側の面取り部12Aと蹴り出し側の面取り部12Bのいずれか一方が、リブ10のプロファイルラインPL1の最大突出位置Pを跨ぐように配置されている。即ち、面取り部12A,12Bの一方のみが最大突出位置Pを基準としてタイヤ幅方向両側に存在している。
図2及び
図3の実施形態では、面取り部12Aが最大突出位置Pを跨ぐように配置されており、面取り部12Bが最大突出位置Pからタイヤ幅方向に離間して配置されている。
【0029】
基準トレッドプロファイルラインPL0に対するプロファイルラインPL1の突出量の最大値を最大突出量D[mm]とし、サイプ11に直交する方向に沿って測定される面取り部12の幅の最大値を最大幅W[mm]とする。このとき、基準トレッドプロファイルラインPL0に対するリブ10の最大突出量Dと、最大突出位置Pを跨ぐように配置された面取り部12(
図2では面取り部12A)の最大幅Wとが0.05mm
2<W×D<1.50mm
2の関係を満たす。特に、0.10mm
2<W×D<1.00mm
2の関係を満たすことが好ましい。また、基準トレッドプロファイルラインPL0に対するリブ10の最大突出量Dは0.1mm~0.8mmの範囲であることが好ましく、最大突出位置Pを跨ぐように配置された面取り部12の最大幅Wは0.5mm~4.0mmの範囲であることが好ましい。
【0030】
上述した空気入りタイヤでは、サイプ11の踏み込み側のエッジ11Aと蹴り出し側のエッジ11Bのそれぞれにサイプ11のサイプ長さLよりも短い面取り部12を設け、サイプ11における各面取り部12に対向する部位には他の面取り部が存在しない非面取り領域13があることで、面取り部12に基づいて排水効果を改善すると同時に、面取り部12を設けていない非面取り領域13ではエッジ効果により水膜を効果的に除去することができる。そのため、ウエット路面での操縦安定性能を大幅に向上させることが可能となる。しかも、踏み込み側のエッジ11Aと蹴り出し側のエッジ11Bのそれぞれに面取り部12と面取り部が存在しない非面取り領域13が混在しているため、上述のようなウエット性能の改善効果を制動時及び駆動時において最大限に享受することができる。
【0031】
更に、サイプ11は少なくとも一方の端部11C,11Dが主溝9に連通し、子午線断面において、サイプ11を有するリブ10の踏面を規定するプロファイルラインPL1は基準トレッドプロファイルラインPL0よりもタイヤ径方向外側に突出し、基準トレッドプロファイルラインPL0を成す円弧の曲率半径TRとリブ10のプロファイルラインPL1を成す円弧の曲率半径RRとはTR>RRの関係を満たし、サイプ11における踏み込み側と蹴り出し側の一方の面取り部12A,12Bのみがリブ10のプロファイルラインPL1の最大突出位置Pを跨ぐように配置されているので、サイプ11を有するリブ10ではタイヤ径方向外側に突出した形状によりリブ10内での排水が促進されて、ウエット路面での操縦安定性能の更なる向上に繋がる。更に、基準トレッドプロファイルラインPL0に対するリブ10の最大突出量Dと、最大突出位置Pを跨ぐように配置された面取り部12A,12Bの最大幅Wとが0.05mm2<W×D<1.50mm2の関係を満たすことで、ドライ路面での操縦安定性能とウエット路面での操縦安定性能とをバランス良く改善することが可能である。ここで、最大突出量Dと最大幅Wの積が0.05mm2以下であるとウエット路面での操縦安定性能が悪化する傾向があり、最大突出量Dと最大幅Wの積が1.50mm2以上であるとドライ路面での操縦安定性能が悪化する傾向がある。
【0032】
これに対して、面取り部12A,12Bの両方がリブ10の最大突出位置Pを跨ぐように配置された場合であっても、リブ10のタイヤ径方向外側に突出した形状によりリブ10内での排水が促進され、ウエット路面での操縦安定性能を改善することができるが、その場合にはリブ10の最大突出位置Pにおいてリブ10の剛性が低くなる。本発明では、面取り部12A,12Bの一方のみがリブ10の最大突出位置Pを跨ぐように配置されているので、上述した場合に比べてリブ10の剛性を確保することができ、ドライ路面での操縦安定性能の向上とウエット路面での操縦安定性能の向上を両立することが可能である。
【0033】
図2において、サイプ11は一方の端部11Cのみが主溝9に連通しているが、特に限定されるものではなく、サイプ11の両端部11C,11Dを主溝9に連通させることもできる。サイプ11の端部11C,11Dの一方のみがリブ10内で終端している場合、サイプ11の両端部11C,11Dが主溝9に連通している場合と比べて、リブ10の剛性を向上させることができ、ドライ路面での操縦安定性能を効果的に改善することができる。
【0034】
また、サイプ11はタイヤ周方向に対して傾斜している。サイプ11をタイヤ周方向に対して傾斜させることで、エッジ効果を向上させることができ、ウエット路面での操縦安定性能を効果的に改善することができる。サイプ11のタイヤ周方向に対する鋭角側の傾斜角度を傾斜角度θ(
図3参照)とする。この傾斜角度θは、サイプ11の少なくとも一部が平面視において湾曲又は屈曲している場合、サイプ11の両端部11C,11Dを結ぶ仮想線(
図3で示す点線)のタイヤ周方向に対する角度である。このとき、サイプ11の傾斜角度θは、40°~80°であることが好ましく、50°~70°であることがより好ましい。このようにサイプ11の傾斜角度θを適度に設定することで、ドライ路面での操縦安定性能をより効果的に改善することができる。ここで、傾斜角度θが40°より小さいと耐偏摩耗性能が悪化し、80°を超えるとウエット路面での操縦安定性能の改善効果を十分に得られない。なお、トレッド部1の溝パターンに所謂ピッチバリエーションを採用し、複数本のサイプ11がタイヤ周方向に不等間隔で設けられ、それぞれの形状及び寸法が異なる場合、サイプ11の傾斜角度θはリブ10内の中間ピッチ(例えば、3種類のピッチバリエーションの場合は最大ピッチ及び最小ピッチを除くピッチ)におけるサイプ11の傾斜角度を対象とする。
【0035】
更に、面取り部12Bのタイヤ幅方向の両端部12Ba,12Bbのうち、サイプ11の端部11Cに近い端部12Baは、リブ10に隣接する主溝9に連通している。このように面取り部12の一方の端部12Baを主溝9に連通させることで、ウエット路面での操縦安定性能を効果的に改善することができる。また、面取り部12Aはタイヤ幅方向の両端部12Aa,12Abがリブ10内で終端しているが、特に限定されるものではなく、サイプ11の端部11Dに近い端部12Aaを面取り部12Aの延在方向に沿って延長して主溝9に連通させることもできる。この場合、面取り部12A,12Bの各々がリブ10の両側に位置する主溝9に連通することになるので、ウエット路面での操縦安定性能を大幅に改善することができる。その一方で、面取り部12A,12Bの各々をリブ10内で終端させることもできる。この場合、リブ10の剛性を向上させることができるので、ドライ路面での操縦安定性能を効果的に改善することができる。
【0036】
上記空気入りタイヤにおいて、サイプ11は、トレッド部1に形成されたリブ10のうち複数列のリブ10に配置されていることが好ましい。このようにサイプ11を複数列のリブ10に配置することで、ドライ路面での操縦安定性能とウエット路面での操縦安定性能の改善を両立させることができる。特に、サイプ11は、トレッド部1においてタイヤ中心線CL上に位置するリブ10、及び/又は、そのリブ10の両側に位置するリブ10に配置されているとよい。タイヤ幅方向最外側(ショルダー部)に位置するリブ10よりもタイヤ幅方向中央部に位置するリブ10にサイプ11を配置することで、面取り部12を有するサイプ11により得られる効果が顕著である。
【0037】
また、サイプ11の少なくとも一部は平面視において湾曲或いは屈曲していることが好ましい。サイプ11の全体の形状が弧状であってもよい。このようにサイプ11が平面視において直線でなく湾曲又は屈曲した形状を有することで、サイプ11における踏み込み側のエッジ11Aと蹴り出し側のエッジ11Bの総量が増大し、ウエット路面での操縦安定性能を効果的に改善することができる。
【0038】
更に、面取り部12の最大幅Wは、サイプ11の溝幅tの0.8~5.0倍とすることが好ましく、1.2倍~3.0倍であることがより好ましい。このように面取り部12の最大幅Wをサイプ11の溝幅tに対して適度に設定することで、ドライ路面での操縦安定性能の向上とウエット路面での操縦安定性能の向上を両立させることが可能となる。ここで、面取り部12の最大幅Wが、サイプ11の溝幅tの0.8倍より小さいとウエット路面での操縦安定性能の向上が不十分となり、5.0倍より大きいとドライ路面での操縦安定性能の向上が不十分となる。
【0039】
図5は、サイプ11に対して直交しかつトレッド部1を鉛直方向に切り欠いた断面図である。
図5に示すように、サイプ11の最大深さをx(mm)、面取り部12の最大深さをy(mm)とするとき、最大深さx(mm)より最大深さy(mm)が浅くなるようにサイプ11と面取り部12は形成されている。サイプ11の最大深さxは3mm~8mmの範囲であるとよい。面取り部12のタイヤ径方向内側に位置する端部121からサイプ11の溝底までの範囲においてサイプ11の溝幅tが実質的に一定である。このサイプ11の溝幅tは、例えば、サイプ11の溝壁に突条が存在する場合にはその突条の高さを溝幅に含めないものとし、或いはサイプ11の溝幅が溝底に向かうにしたがって徐々に狭くなっている場合には狭くなっている部分は溝幅に含めないものとして、実質的に測定されるサイプ11の溝幅とする。
【0040】
上記空気入りタイヤにおいて、最大深さx(mm)と最大深さy(mm)が下記式(1)の関係を満たすこと好ましく、更に、y≦x×0.3+0.5の関係を満たすことがより好ましい。上記の関係を満たすようにサイプ11と面取り部12を設けることで、従来の面取りを施したサイプと比較して、面取りを施す面積を最小限とすることができるため、ドライ路面での操縦安定性能を向上させることが可能となる。その結果、ドライ路面での操縦安定性能の向上とウエット路面での操縦安定性能の向上を両立させることが可能となる。ここで、y<x×0.1であると面取り部12に基づく排水効果が不十分になり、逆にy>x×0.3+1.0であるとリブ10の剛性低下によりドライ路面での操縦安定性能が低下することになる。
x×0.1≦y≦x×0.3+1.0 (1)
【0041】
図6(a),(b)は本発明に係る空気入りタイヤのサイプ及びその面取り部の変形例を示すものである。
図6(a)に示すように、サイプ11のタイヤ幅方向中央部において、面取り部12A,12Bの双方の一部が重なり合うように形成されている。ここで、面取り部12Aと面取り部12Bが重なり合った部分であるオーバーラップ部のタイヤ幅方向の長さをオーバーラップ長さTとする。一方、
図6(b)に示すように、面取り部12Aと面取り部12Bの双方の一部が重ならず、一定の間隔をあけて離間している場合、オーバーラップ長さTのサイプ長さLに対する割合はマイナス値で表す。オーバーラップ部のオーバーラップ長さTは、サイプ長さLの-30%~30%であることが好ましく、より好ましくは-15%~15%であると良い。このように面取り部12A,12Bにおけるオーバーラップ長さTをサイプ長さLに対して適度に設定することで、ドライ路面での操縦安定性能の向上とウエット路面での操縦安定性能の向上を両立させることが可能となる。ここで、オーバーラップ長さTが30%より大きいとドライ路面での操縦安定性能の向上が不十分となり、-30%より小さいとウエット路面での操縦安定性能の向上が不十分となる。
【実施例】
【0042】
タイヤサイズ245/40R19で、トレッド部に、タイヤ周方向に延びる複数本の主溝と、これら主溝により区画される複数列のリブと、タイヤ幅方向に延びるサイプとを有する空気入りタイヤにおいて、サイプは、少なくとも一方の端部が主溝に連通すると共に、少なくとも一方のエッジに面取り部を有し、面取り部の位置、面取り部の配置箇所(両側又は片側)、サイプ長さLと面取り長さLA,LBの長短、面取り部に対向する部位の面取りの有無、曲率半径TRと曲率半径RRとの大小関係、最大突出量Dと最大幅Wの積、サイプの一端部のリブ内での終端の有無、サイプのタイヤ周方向に対する傾斜角度θ、サイプを有するリブの列数、サイプ全体の形状(直線又は湾曲)を表1のように設定した従来例1,2、比較例1,2及び実施例1~6のタイヤを製作した。
【0043】
なお、表1において、面取り部の位置が「跨がない」である場合、面取り部がリブのプロファイルラインの最大突出位置からタイヤ幅方向に離間して配置されているのに対して、面取り部の位置が「跨ぐ」である場合、踏み込み側と蹴り出し側の一方の面取り部のみがリブのプロファイルラインの最大突出位置を基準としてタイヤ幅方向両側に存在していることを意味する。従来例1,2、比較例1,2及び実施例1~6のタイヤでは、サイプを有するリブの踏面を規定するプロファイルラインが基準トレッドプロファイルラインよりもタイヤ径方向外側に突出し、該リブのプロファイルラインの最大突出位置が該リブのタイヤ幅方向中央部に位置している。
【0044】
これら試験タイヤについて、テストドライバーによるドライ路面での操縦安定性能及びウエット路面での操縦安定性能に関する官能評価を実施し、その結果を表1に併せて示した。
【0045】
ドライ路面での操縦安定性能及びウエット路面での操縦安定性能に関する官能評価は、各試験タイヤをリムサイズ19×8.5Jホイールに組み付けて車両に装着し、空気圧260kPaの条件にて行った。評価結果は、従来例1を100とする指数にて示した。この指数値が大きいほど、ドライ路面での操縦安定性能又はウエット路面での操縦安定性能が優れていることを意味する。
【0046】
【0047】
表1から判るように、サイプに形成された面取り部の形状を工夫することで、実施例1~6のタイヤは、ドライ路面での操縦安定性能とウエット路面での操縦安定性能とが同時に改善されていた。
【0048】
一方、比較例1のタイヤは、最大突出量Dと最大幅Wの積が本発明で規定する範囲より低く設定したので、ウエット路面での操縦安定性能の改善効果を十分に得ることができず、比較例2のタイヤは、最大突出量Dと最大幅Wの積が本発明で規定する範囲より高く設定したので、ドライ路面での操縦安定性能の改善効果を十分に得ることができなかった。
【符号の説明】
【0049】
1 トレッド部
2 サイドウォール部
3 ビード部
9 主溝
10 リブ
11 サイプ
11A 踏み込み側のエッジ
11B 蹴り出し側のエッジ
11C,11D 端部
12 面取り部
12A 踏み込み側の面取り部
12B 蹴り出し側の面取り部
13 非面取り領域
13A 踏み込み側の非面取り領域
13B 蹴り出し側の非面取り領域
PL0 基準トレッドプロファイルライン
PL1 プロファイルライン
P 最大突出位置
CL タイヤ中心線