(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-30
(45)【発行日】2024-02-07
(54)【発明の名称】核酸の対象塩基配列中における変異を検出するための方法、核酸の増幅を選択的に阻害する方法、およびこれらを実施するためのキット
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/6858 20180101AFI20240131BHJP
C12Q 1/686 20180101ALI20240131BHJP
C12N 15/09 20060101ALI20240131BHJP
C08F 226/04 20060101ALN20240131BHJP
C08F 220/06 20060101ALN20240131BHJP
C08F 220/60 20060101ALN20240131BHJP
【FI】
C12Q1/6858 Z ZNA
C12Q1/686 Z
C12N15/09 Z
C08F226/04
C08F220/06
C08F220/60
(21)【出願番号】P 2023528075
(86)(22)【出願日】2022-12-01
(86)【国際出願番号】 JP2022044363
(87)【国際公開番号】W WO2023106200
(87)【国際公開日】2023-06-15
【審査請求日】2023-05-15
(31)【優先権主張番号】P 2021201177
(32)【優先日】2021-12-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003975
【氏名又は名称】日東紡績株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤村 尚宏
(72)【発明者】
【氏名】橘 亜美
(72)【発明者】
【氏名】内木 智朗
(72)【発明者】
【氏名】竹内 実
(72)【発明者】
【氏名】照内 洋子
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 晃司
【審査官】坂崎 恵美子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/167320(WO,A1)
【文献】国際公開第2003/018841(WO,A1)
【文献】特表2004-537263(JP,A)
【文献】特開2018-104850(JP,A)
【文献】高分子学会予稿集,2001年,Vol.50, No.5,p.992, II Pd170
【文献】Molecules,2019年,Vol.24, No.3,575
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/6858
C12Q 1/686
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中の核酸の対象塩基配列における標準塩基配列に対する変異を検出する方法であって、
前記標準塩基配列に相補的な塩基配列を含み、少なくとも1残基の非天然型ヌクレオチドを含む、クランプ核酸と、
構造中にアミノ基を含むカチオン性構成単位(1)と、アニオン性構成単位(2)とを有し、前記アニオン性構成単位(2)に対するカチオン性構成単位(1)のモル比(カチオン性構成単位(1)/アニオン性構成単位(2))が0.13~1.62の範囲にあり、前記カチオン性構成単位(1)の少なくとも一部は、下記一般式(I-a)、(I-b)
、(I-e)または(I-f)
【化1】
(式中、R
1は、水素原子、水酸基を有していてもよい炭素数1~10のアルキル基、炭素数5~10のシクロアルキル基、または炭素数7~10のアラルキル基を示す。)
、
【化2】
(式中、R
4及びR
5は、それぞれ独立に、水素原子、水酸基を有していてもよい炭素数1~12のアルキル基、炭素数7~12のアラルキル基、または炭素数5~6のシクロアルキル基を示す。)、または
【化3】
(式中、R
6は、水素原子またはメチル基を示し、R
7およびR
8は、それぞれ独立に、水素原子、または炭素数1~4のアルキル基を示し、nは、2~4の整数である。)
で表される構造、またはその酸付加塩である構造、を有する構成単位(1-1)
、(1-3)、または(1-4)であり、
前記アニオン性構成単位(2)の少なくとも一部は、下記一般式(II-a)、(II-b)
、または(II-d)
【化4】
(式中、R
9は、水素またはメチル基を示し、Yは、それぞれ独立に、水素、Na、K、NH
4、1/2Ca、1/2Mg、1/2Fe、1/3Al、または1/3Feを表す。)、
【化5】
(式中、Yは、それぞれ独立に、水素、Na、K、NH
4、1/2Ca、1/2Mg、1/2Fe、1/3Al、または1/3Feを表す。)
、
または
【化6】
(式中、R
10は、水素またはメチル基を示し、Yは、それぞれ独立に、水素、Na、K、NH
4、1/2Ca、1/2Mg、1/2Fe、1/3Al、または1/3Feである。)
で表される構造を有する構成単位(2-1)、(2-2)
、または(2-4)である、両性共重合体と
を用いて、前記試料中の核酸を鋳型とした核酸増幅反応を行い、
前記核酸増幅反応により得られた核酸増幅産物の総量、前記核酸増幅産物の総量が閾値に達するまでの前記核酸増幅反応の増幅サイクル数、前記核酸増幅産物中の前記変異を有する核酸の量、又は前記核酸増幅産物中の前記変異を有する核酸の量が閾値に達するまでの前記核酸増幅反応の増幅サイクル数に基づいて、前記変異の存在を判定する、方法。
【請求項2】
前記カチオン性構成単位(1)が、構成単位(1-1)及び構成単位(1-4)からなる群から選ばれる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記アニオン性構成単位(2)が、構成単位(2-1)及び構成単位(2-4)からなる群から選ばれる、請求項
1に記載の方法。
【請求項4】
前記両性共重合体が、さらにメタクリルアミド系単量体またはアクリルアミド系単量体から導かれるノニオン性構成単位(3)を含む、請求項
1に記載の方法。
【請求項5】
前記両性共重合体において、前記カチオン性構成単位(1)の少なくとも一部が、一般式(I-a)若しくは一般式(I-b)
【化7】
(式中、R
1は、水素原子、水酸基を有していてもよい炭素数1~10のアルキル基、炭素数5~10のシクロアルキル基、または炭素数7~10のアラルキル基を示す。)
で表される構造、又はその酸付加塩である構造、を有する構成単位(1-1)であり、
前記アニオン性構成単位(2)の少なくとも一部が、一般式(II-a)
【化8】
(式中R
9は、水素又はメチル基、Yは結合するカルボキシ基ごとにそれぞれ独立に水素、Na、K、NH
4、1/2Ca、1/2Mg、1/2Fe、1/3Al、又は1/3Feである。)で表される構成単位(2-1)である、請求項
1に記載の方法。
【請求項6】
前記非天然型ヌクレオチドが、BNAである、請求項
1に記載の方法。
【請求項7】
前記核酸増幅を、リアルタイムPCRで行う、請求項
1に記載の方法。
【請求項8】
前記核酸サンプルが、ゲノムDNAである、請求項
1に記載の方法。
【請求項9】
さらに、前記標準塩基配列を有する核酸を鋳型とした核酸増幅反応を行い、
前記試料中の核酸を鋳型に用いた場合の前記核酸増幅産物の総量が閾値に達するまでの前記核酸増幅反応の増幅サイクル数が、前記標準塩基配列を有する核酸を鋳型に用いた場合の前記核酸増幅産物の総量が閾値に達するまでの前記核酸増幅反応の増幅サイクル数と比較して少なかった場合に、前記試料中の核酸の対象塩基配列に前記変異が存在すると判定する、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
試料中の核酸の対象塩基配列における標準塩基配列に対する変異を検出するためのキットであって、
前記標準塩基配列に相補的な塩基配列を有し、少なくとも1残基の非天然型ヌクレオチドを含む、クランプ核酸と、
構造中にアミノ基を含むカチオン性構成単位(1)と、アニオン性構成単位(2)とを有し、前記アニオン性構成単位(2)に対するカチオン性構成単位(1)のモル比(カチオン性構成単位(1)/アニオン性構成単位(2))が0.13~1.62の範囲にあり、前記カチオン性構成単位(1)の少なくとも一部は、下記一般式(I-a)、(I-b)
、(I-e)または(I-f)
【化9】
(式中、R
1は水素原子、水酸基を有していてもよい炭素数1~10のアルキル基、炭素数5~10のシクロアルキル基、または炭素数7~10のアラルキル基を示す。)
、
【化10】
(式中、R
4及びR
5は、それぞれ独立に、水素原子、水酸基を有していてもよい炭素数1~12のアルキル基、炭素数7~12のアラルキル基、または炭素数5~6のシクロアルキル基を示す。)、または
【化11】
(式中、R
6は、水素原子またはメチル基を示し、R
7およびR
8は、それぞれ独立に、水素原子、または炭素数1~4のアルキル基を示し、nは、2~4の整数である。)
で表される構造、またはその酸付加塩である構造、を有する構成単位(1-1)
、(1-3)また
は(1-4)であり、
前記アニオン性構成単位(2)の少なくとも一部は、下記一般式(II-a)、(II-b)
、または(II-d)
【化12】
(式中、R
9は、水素またはメチル基を示し、Yは、それぞれ独立に、水素、Na、K、NH
4、1/2Ca、1/2Mg、1/2Fe、1/3Al、または1/3Feを表す。)、
【化13】
(式中、Yは、それぞれ独立に、水素、Na、K、NH
4、1/2Ca、1/2Mg、1/2Fe、1/3Al、または1/3Feを表す。)
、
または
【化14】
(式中、R
10は、水素またはメチル基を示し、Yは、それぞれ独立に、水素、Na、K、NH
4、1/2Ca、1/2Mg、1/2Fe、1/3Al、または1/3Feである。)
で表される構造を有する構成単位(2-1)、(2-2)
、または(2-4)である、両性共重合体と、を含むキット。
【請求項11】
前記カチオン性構成単位(1)が、構成単位(1-1)及び構成単位(1-4)からなる群から選ばれる、請求項10に記載のキット。
【請求項12】
前記アニオン性構成単位(2)が、構成単位(2-1)及び構成単位(2-4)からなる群から選ばれる、請求項
10に記載のキット。
【請求項13】
前記両性共重合体が、さらにメタクリルアミド系単量体またはアクリルアミド系単量体から導かれるノニオン性構成単位(3)を含む、請求項
10に記載のキット。
【請求項14】
前記両性共重合体において、前記カチオン性構成単位(1)の少なくとも一部が、一般式(I-a)若しくは一般式(I-b)
【化15】
(式中、R
1は、水素原子、水酸基を有していてもよい炭素数1~10のアルキル基、炭素数5~10のシクロアルキル基、または炭素数7~10のアラルキル基を示す。)
で表される構造、又はその酸付加塩である構造、を有する構成単位(1-1)であり、
前記アニオン性構成単位(2)の少なくとも一部が、一般式(II-a)
【化16】
(式中R
9は、水素又はメチル基、Yは結合するカルボキシ基ごとにそれぞれ独立に水素、Na、K、NH
4、1/2Ca、1/2Mg、1/2Fe、1/3Al、又は1/3Feである。)
で表される構成単位(2-1)である、請求項
10に記載のキット。
【請求項15】
前記非天然型ヌクレオチドが、BNAである、請求項10~14のいずれか1項に記載のキット。
【請求項16】
核酸増幅反応において、所定の対象塩基配列を有する試料中の核酸の増幅を抑制する方法であって、
前記対象塩基配列に相補的な塩基配列を有し、少なくとも1残基の
非天然型ヌクレオチドを含む、クランプ核酸と、
構造中にアミノ基を含むカチオン性構成単位(1)と、アニオン性構成単位(2)とを有し、前記アニオン性構成単位(2)に対するカチオン性構成単位(1)のモル比(カチオン性構成単位(1)/アニオン性構成単位(2))が0.13~1.62の範囲にあり、前記カチオン性構成単位(1)の少なくとも一部は、下記一般式(I-a)、(I-b)
、(I-e)または(I-f)
【化17】
(式中、R
1は水素原子、水酸基を有していてもよい炭素数1~10のアルキル基、炭素数5~10のシクロアルキル基、または炭素数7~10のアラルキル基を示す。)
、
【化18】
(式中、R
4及びR
5は、それぞれ独立に、水素原子、水酸基を有していてもよい炭素数1~12のアルキル基、炭素数7~12のアラルキル基、または炭素数5~6のシクロアルキル基を示す。)、または
【化19】
(式中、R
6は、水素原子またはメチル基を示し、R
7およびR
8は、それぞれ独立に、水素原子、又は炭素数1~4のアルキル基を示し、nは、2~4の整数である。)
で表される構造、またはその酸付加塩である構造、を有する構成単位(1-1)
、(1-3)、または(1-4)であり、
前記アニオン性構成単位(2)の少なくとも一部は、下記一般式(II-a)、(II-b)
、または(II-d)
【化20】
(式中、R
9は、水素またはメチル基を示し、Yは、それぞれ独立に、水素、Na、K、NH
4、1/2Ca、1/2Mg、1/2Fe、1/3Al、または1/3Feを表す。)、
【化21】
(式中、Yは、それぞれ独立に、水素、Na、K、NH
4、1/2Ca、1/2Mg、1/2Fe、1/3Al、または1/3Feを表す。)
、
または
【化22】
(式中、R
10は、水素またはメチル基を示し、Yは、それぞれ独立に、水素、Na、K、NH
4、1/2Ca、1/2Mg、1/2Fe、1/3Al、または1/3Feである。)
で表される構造を有する構成単位(2-1)、(2-2)
、または(2-4)である、両性共重合体と
を用いて、前記試料中の核酸を鋳型とした核酸増幅反応を実施する、方法。
【請求項17】
前記カチオン性構成単位(1)が、構成単位(1-1)及び構成単位(1-4)からなる群から選ばれる、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記アニオン性構成単位(2)が、構成単位(2-1)及び構成単位(2-4)からなる群から選ばれる、請求項
16に記載の方法。
【請求項19】
前記両性共重合体が、さらにメタクリルアミド系単量体またはアクリルアミド系単量体から導かれるノニオン性構成単位(3)を含む、請求項
16に記載の方法。
【請求項20】
前記両性共重合体において、前記カチオン性構成単位(1)の少なくとも一部が、一般式(I-a)若しくは一般式(I-b)
【化23】
(式中、R
1は、水素原子、水酸基を有していてもよい炭素数1~10のアルキル基、炭素数5~10のシクロアルキル基、または炭素数7~10のアラルキル基を示す。)
で表される構造、又はその酸付加塩である構造、を有する構成単位(1-1)であり、
前記アニオン性構成単位(2)の少なくとも一部が、一般式(II-a)
【化24】
(式中R
9は、水素又はメチル基、Yは結合するカルボキシ基ごとにそれぞれ独立に水素、Na、K、NH
4、1/2Ca、1/2Mg、1/2Fe、1/3Al、又は1/3Feである。)
で表される構成単位(2-1)である、請求項
16に記載の方法。
【請求項21】
前記非天然型ヌクレオチドが、BNAである、請求項16~20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
核酸増幅反応において、対象塩基配列を有する核酸の増幅を抑制するためのキットであって、
前記対象塩基配列に相補的な塩基配列を有し、少なくとも1残基の非天然型ヌクレオチドを含む、クランプ核酸と、
構造中にアミノ基を含むカチオン性構成単位(1)と、アニオン性構成単位(2)とを有し、前記アニオン性構成単位(2)に対するカチオン性構成単位(1)のモル比(カチオン性構成単位(1)/アニオン性構成単位(2))が0.13~1.62の範囲にあり、前記カチオン性構成単位(1)の少なくとも一部は、下記一般式(I-a)、(I-b)
、(I-e)または(I-f)
【化25】
(式中、R
1は、水素原子、水酸基を有していてもよい炭素数1~10のアルキル基、炭素数5~10のシクロアルキル基、または炭素数7~10のアラルキル基を示す。)
、
【化26】
(式中、R
4及びR
5は、それぞれ独立に、水素原子、水酸基を有していてもよい炭素数1~12のアルキル基、炭素数7~12のアラルキル基、または炭素数5~6のシクロアルキル基を示す。)、または
【化27】
(式中、R
6は、水素原子またはメチル基を示し、R
7およびR
8は、それぞれ独立に、水素原子、または炭素数1~4のアルキル基を示し、nは、2~4の整数である。)
で表される構造、またはその酸付加塩である構造、を有する構成単位(1-1)
、(1-3)、または(1-4)であり、
前記アニオン性構成単位(2)の少なくとも一部は、下記一般式(II-a)、(II-b)
、または(II-d)
【化28】
(式中、R
9は、水素またはメチル基を示し、Yは、それぞれ独立に、水素、Na、K、NH
4、1/2Ca、1/2Mg、1/2Fe、1/3Al、または1/3Feを表す。)、
【化29】
(式中、Yは、それぞれ独立に、水素、Na、K、NH
4、1/2Ca、1/2Mg、1/2Fe、1/3Al、または1/3Feを表す。)
、
または
【化30】
(式中、R
10は、水素またはメチル基を示し、Yは、それぞれ独立に、水素、Na、K、NH
4、1/2Ca、1/2Mg、1/2Fe、1/3Al、または1/3Feである。)
で表される構造を有する構成単位(2-1)、(2-2)
、または(2-4)である、両性共重合体と、を含む、キット。
【請求項23】
前記カチオン性構成単位(1)が、構成単位(1-1)及び構成単位(1-4)からなる群から選ばれる、請求項22に記載のキット。
【請求項24】
前記アニオン性構成単位(2)が、構成単位(2-1)及び構成単位(2-4)からなる群から選ばれる、請求項
22に記載のキット。
【請求項25】
前記両性共重合体が、さらにメタクリルアミド系単量体またはアクリルアミド系単量体から導かれるノニオン性構成単位(3)を含む、請求項
22に記載のキット。
【請求項26】
前記両性共重合体において、前記カチオン性構成単位(1)の少なくとも一部が、
一般式(I-a)若しくは一般式(I-b)
【化31】
(式中、R
1は、水素原子、水酸基を有していてもよい炭素数1~10のアルキル基、炭素数5~10のシクロアルキル基、または炭素数7~10のアラルキル基を示す。)
で表される構造、又はその酸付加塩である構造、を有する構成単位(1-1)であり、
前記アニオン性構成単位(2)の少なくとも一部が、一般式(II-a)
【化32】
(式中R
9は、水素又はメチル基、Yは結合するカルボキシ基ごとにそれぞれ独立に水素、Na、K、NH
4、1/2Ca、1/2Mg、1/2Fe、1/3Al、又は1/3Feである。)
で表される構成単位(2-1)である、請求項
22に記載のキット。
【請求項27】
前記非天然型ヌクレオチドが、BNAである、請求項22~26のいずれか1項に記載のキット。
【請求項28】
対象塩基配列を有する核酸の核酸増幅を、前記対象塩基配列に相補的な塩基配列を有し、少なくとも1残基の非天然型ヌクレオチドを含む、クランプ核酸により阻害する効果の増強剤であって、
構造中にアミノ基を含むカチオン性構成単位(1)と、アニオン性構成単位(2)とを有し、前記アニオン性構成単位(2)に対するカチオン性構成単位(1)のモル比(カチオン性構成単位(1)/アニオン性構成単位(2))が0.13~1.62の範囲にあり、前記カチオン性構成単位(1)の少なくとも一部は、下記一般式(I-a)、(I-b)
、(I-e)または(I-f)
【化33】
(式中、R
1は、水素原子、水酸基を有していてもよい炭素数1~10のアルキル基、炭素数5~10のシクロアルキル基、または炭素数7~10のアラルキル基を示す。)
、
【化34】
(式中、R
4及びR
5は、それぞれ独立に、水素原子、水酸基を有していてもよい炭素数1~12のアルキル基、炭素数7~12のアラルキル基、または炭素数5~6のシクロアルキル基を示す。)、または
【化35】
(式中、R
6は、水素原子またはメチル基を示し、R
7およびR
8は、それぞれ独立に、水素原子、または炭素数1~4のアルキル基を示し、nは、2~4の整数である。)
で表される構造、またはその酸付加塩である構造、を有する構成単位(1-1)
、(1-3)、または(1-4)であり、
前記アニオン性構成単位(2)の少なくとも一部は、下記一般式(II-a)、(II-b)、または(II-d)
【化36】
(式中、R
9は、水素またはメチル基を示し、Yは、それぞれ独立に、水素、Na、K、NH
4、1/2Ca、1/2Mg、1/2Fe、1/3Al、または1/3Feを表す。)、
【化37】
(式中、Yは、それぞれ独立に、水素、Na、K、NH
4、1/2Ca、1/2Mg、1/2Fe、1/3Al、または1/3Feを表す。)
、
または
【化38】
(式中、R
10は、水素またはメチル基を示し、Yは、それぞれ独立に、水素、Na、K、NH
4、1/2Ca、1/2Mg、1/2Fe、1/3Al、または1/3Feである。)
で表される構造を有する構成単位(2-1)、(2-2)
、または(2-4)である、両性共重合体を含む、増強剤。
【請求項29】
前記カチオン性構成単位(1)が、構成単位(1-1)及び構成単位(1-4)からなる群から選ばれる、請求項28に記載の増強剤。
【請求項30】
前記アニオン性構成単位(2)が、構成単位(2-1)及び構成単位(2-4)からなる群から選ばれる、請求項
28に記載の増強剤。
【請求項31】
前記両性共重合体が、さらにメタクリルアミド系単量体またはアクリルアミド系単量体から導かれるノニオン性構成単位(3)を含む、請求項28~30のいずれか1項に記載の増強剤。
【請求項32】
前記両性共重合体において、前記カチオン性構成単位(1)の少なくとも一部が、一般式(I-a)若しくは一般式(I-b)
【化39】
(式中、R
1は、水素原子、水酸基を有していてもよい炭素数1~10のアルキル基、炭素数5~10のシクロアルキル基、または炭素数7~10のアラルキル基を示す。)
で表される構造、又はその酸付加塩である構造、を有する構成単位(1-1)であり、
前記アニオン性構成単位(2)の少なくとも一部が、一般式(II-a)
【化40】
(式中R
9は、水素又はメチル基、Yは結合するカルボキシ基ごとにそれぞれ独立に水素、Na、K、NH
4、1/2Ca、1/2Mg、1/2Fe、1/3Al、又は1/3Feである。)
で表される構成単位(2-1)である、請求項
28に記載の増強剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料中の核酸の対象塩基配列中における標準塩基配列に対する変異を検出するための方法、核酸増幅反応において、対象塩基配列を有する核酸の増幅を選択的に阻害する方法、およびこれらを実施するためのキットに関する。より具体的には、クランプ核酸(ブロッカー核酸と称されることもある)を用いる核酸増幅反応において、特定の両性共重合体の存在下で核酸増幅を行うことより、対象塩基配列中における標準塩基配列に対する変異を検出する方法、および対象塩基配列を有する核酸の増幅を選択的に阻害する方法、ならびにこれらを実施するためのキットに関する。
【背景技術】
【0002】
遺伝子の突然変異が、がんの起因となる場合があり、そのような遺伝子の突然変異を早期に発見することで、がんの早期治療に繋がることが期待されている。また、ある特定の遺伝子の変異が、ある種の病気の罹りやすさ、薬の治療効果、副作用の強弱などに大きく関与することが分かってきている。例えば、上皮増殖因子受容体(EGFR)のチロシンキナーゼ阻害剤であるゲフィチニブ(商品名:イレッサ)は、特定の遺伝子変異を持つ一部の肺がん患者には大きな奏効性を示す一方、約0.5%程度の患者に重篤な間質性肺炎を引き起こすことが知られている(非特許文献1)。また、大腸癌においては、KRAS遺伝子に変異があると分子標的薬セツキシマブ(商品名:アービタックス)の奏効率は低く、変異がないと奏効率が高いことが知られている。このため、患者ごとに奏効性や副作用が予測できれば、奏効性を期待できない患者や重篤な副作用が予想される患者への投与を控えて、副作用の少ない効果的な治療を行うことが可能となる。
【0003】
このようなことから、遺伝子の変異を明らかにすることは、がんの早期発見、治療効率の向上などの面で重要であると認識され、このようなニーズに応えるべく、遺伝子の変異を検出する様々な技術開発がなされている。特に、PCR法のような遺伝子増幅技術、およびNGSなどの網羅的な遺伝子解析技術では、目覚ましい進展が見られる。
【0004】
もっとも、腫瘍検体から抽出した遺伝子では、大量の野生型遺伝子と微量の変異型遺伝子を含むが、従来の変異型遺伝子を検出する方法では、依然として、微量の変異型遺伝子を検出するには十分な感度を有しないことが多い。例えば、遺伝子の変異を検出する手法の一つとして、変異型遺伝子と野生型遺伝子を非選択的に増幅したのちに、電気泳動法またはハイブリダイゼーション法などで変異型遺伝子を野生型遺伝子と区別する方法があるが、この方法では、野生型遺伝子中に含まれるごく少量の変異型遺伝子を十分な感度および精度で検出することは困難である。
【0005】
これに対して、遺伝子増幅の段階において、野生型遺伝子の基準配列と相補的な塩基配列を有する人工的なオリゴヌクレオチドを用いて野生型遺伝子の増幅を阻害して変異型遺伝子を選択的に増幅する、いわゆる「クランプ法」が開発されている。この方法で用いられている人工核酸は、クランプ核酸と称され、核酸増幅過程で(i)野生型遺伝子と強くハイブリダイズするが、(ii)変異型遺伝子とは強くハイブリダイズせず、(iii)核酸増幅過程で分解されにくい、という特性を有し、これを利用してreal-time PCRを実施すると、変異型遺伝子の頻度が1%まで変異を検出でき、さらにreal-time PCRの増幅産物を鋳型にダイレクトシーケンス法を実施すると変異型遺伝子の頻度が0.1%まで変異を検出できるとされる(例えば、特許文献1、非特許文献2、非特許文献3)。クランプ核酸としては、peptide nucleic acid (PNA)、locked nucleic acid (LNA)および bridged nucleic acid (BNA)が開発され、PNA-LNA clamp PCR法、BNA clamp PCR法などの増幅法が開発されている(例えば、非特許文献2、3、6および特許文献1~9参照)。
【0006】
しかし、このクランプ法によっても、試料中の野生型遺伝子の比率に対して変異型遺伝子の比率が非常に低い場合には、real-time PCRを実施すると野生型遺伝子を増幅してしまい、野生型遺伝子と変異型遺伝子を区別できない場合がある。また、clamp PCRの増幅産物を鋳型にダイレクトシーケンス法を実施すると変異型遺伝子の検出感度を上げることはできるが、シーケンス決定は、膨大な検体を即座に処理することが求められる臨床の場には不向きである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第6242336号
【文献】特許第5813263号
【文献】特許第4731324号
【文献】特許第4383178号
【文献】特許第5030998号
【文献】特許第4151751号
【文献】特開第2001-89496号公報
【文献】国際公開第2003/068795号パンフレット
【文献】国際公開第2005/021570号パンフレット
【文献】特許第3756313号
【文献】国際公開第2016/167320号パンフレット
【非特許文献】
【0008】
【文献】Thomas J.,et.al.,2004,The NEW ENGLAND JURNAL of MEDICINE,350;21
【文献】Nagai K.,et.al.,2005,Cancer Research,65:7276-7282
【文献】Nishino K.et al.,2019,肺癌患者におけるEGFR遺伝子変異検査の手引き 第4.1版
【文献】Luming Z.et al.,2011 BioTechniques,50:311-318
【文献】Nagakubo Y.et al.,2019,BMC Medical Genomics,12:162
【文献】Murina F.F.et al., 2020, Molecules, 25(4):786
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このように、臨床や研究の現場において、試料中の野生型遺伝子の比率に対して変異型遺伝子の比率が非常に低い場合でも、変異型遺伝子を検出できる方法に対するニーズがあり、これに対応する手法の研究が進められている(特許文献2、非特許文献4、非特許文献5)。しかし、従来の方法は、変異型遺伝子を高感度に検出するために高額な機器や2段階以上の複雑な解析ステップを必要とし(非特許文献2)、臨床の現場や研究の場では簡易な方法で試料中の変異型遺伝子を高感度で検出可能な方法が求められている。
従って、本発明は、クランプ-PCR法による変異型遺伝子の検出限界より低い変異型遺伝子含有率で変異型遺伝子を検出できる簡便な方法およびそれを実施するキットを提供することを目的とする。
本発明はまた、核酸増幅反応において、対象とする塩基配列の増幅を選択的に阻害することができる簡便な方法およびそれを実施するためのキットを提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、クランプ法による変異型遺伝子の検出感度を上げる手法について検討を重ねる中で、クランプ核酸と特定の両性共重合体の存在下で核酸増幅反応を実施したところ、クランプ核酸による野生型遺伝子の増幅を選択的に阻害する効果が当該両性共重合体の存在により増強され、これにより変異型遺伝子の検出感度を高めることに成功し、本発明に至った。
すなわち、本発明は、以下の方法、キット、増強剤、および使用を提供する。
[1] 試料中の核酸の対象塩基配列における標準塩基配列に対する変異を検出する方法であって、
前記標準塩基配列に相補的な塩基配列を含み、少なくとも1残基の非天然型ヌクレオチドを含む、クランプ核酸と、
構造中にアミノ基を含むカチオン性構成単位(1)と、アニオン性構成単位(2)とを有し、前記アニオン性構成単位(2)に対するカチオン性構成単位(1)のモル比(カチオン性構成単位(1)/アニオン性構成単位(2))が0.13~1.62の範囲にある、両性共重合体と
を用いて、前記試料中の核酸を鋳型とした核酸増幅反応を行い、
前記核酸増幅反応により得られた核酸増幅産物の総量、前記核酸増幅産物の総量が閾値に達するまでの前記核酸増幅反応の増幅サイクル数、前記核酸増幅産物中の前記変異を有する核酸の量、又は前記核酸増幅産物中の前記変異を有する核酸の量が閾値に達するまでの前記核酸増幅反応の増幅サイクル数に基づいて、前記変異の存在を判定する、方法。
[2] 前記カチオン性構成単位(1)の少なくとも一部が、第2級アミノ基又は第3級アミノ基を有する、[1]に記載の検出方法。
[3] 前記両性共重合体が、さらにノニオン性構成単位(3)を含む、[1]又は[2]に記載の検出方法。
[4] 前記両性共重合体において、前記カチオン性構成単位(1)の少なくとも一部が、一般式(I-a)若しくは一般式(I-b)
【化1】
(式中、R
1は、水素原子、水酸基を有していてもよい炭素数1~10のアルキル基、炭素数5~10のシクロアルキル基、または炭素数7~10のアラルキル基を示す。)
で表される構造、又はその酸付加塩である構造、を有する構成単位(1-1)であり、
前記アニオン性構成単位(2)の少なくとも一部が、一般式(II-a)
【化2】
(式中R
9は、水素又はメチル基、Yは結合するカルボキシ基ごとにそれぞれ独立に水素、Na、K、NH
4、1/2Ca、1/2Mg、1/2Fe、1/3Al、又は1/3Feである。)で表される構成単位(2-1)である、[1]~[3]のいずれか一項に記載の検出方法。
[5] 前記非天然型ヌクレオチドが、BNAである、[1]~[4]のいずれか1項に記載の検出方法。
[6] 前記核酸増幅を、リアルタイムPCRで行う、[1]~[5]のいずれか1項に記載の検出方法。
[7] 前記核酸サンプルが、ゲノムDNAである、[1]~[6]のいずれか1項に記載の検出方法。
[8] さらに、前記標準塩基配列を有する核酸を鋳型とした核酸増幅反応を、例えば、前記核酸増幅反応を行う際に、行い、
前記試料中の核酸を鋳型に用いた場合の前記核酸増幅産物の総量が閾値に達するまでの前記核酸増幅反応の増幅サイクル数が、前記標準塩基配列を有する核酸を鋳型に用いた場合の前記核酸増幅産物の総量が閾値に達するまでの前記核酸増幅反応の増幅サイクル数と比較して少なかった場合に、前記試料中の核酸の対象塩基配列に前記変異が存在すると判定する、[1]~[7]のいずれか1項に記載の検出方法。
[9] 試料中の核酸の対象塩基配列における標準塩基配列に対する変異を検出するためのキットであって、
前記標準塩基配列に相補的な塩基配列を有し、少なくとも1残基の非天然型ヌクレオチドを含む、クランプ核酸と、
構造中にアミノ基を含むカチオン性構成単位(1)と、アニオン性構成単位(2)とを有し、前記アニオン性構成単位(2)に対するカチオン性構成単位(1)のモル比(カチオン性構成単位(1)/アニオン性構成単位(2))が0.13~1.62の範囲にある、両性共重合体と、を含むキット。
[10] 前記カチオン性構成単位(1)の少なくとも一部が、第2級アミノ基又は第3級アミノ基を有する、[9]に記載のキット。
[11] 前記両性共重合体が、さらにノニオン性構成単位(3)を含む、[9]又は[10]に記載のキット。
[12] 前記両性共重合体において、前記カチオン性構成単位(1)の少なくとも一部が、一般式(I-a)若しくは一般式(I-b)
【化3】
(式中、R
1は、水素原子、水酸基を有していてもよい炭素数1~10のアルキル基、炭素数5~10のシクロアルキル基、または炭素数7~10のアラルキル基を示す。)
で表される構造、又はその酸付加塩である構造、を有する構成単位(1-1)であり、
前記アニオン性構成単位(2)の少なくとも一部が、一般式(II-a)
【化4】
(式中R
9は、水素又はメチル基、Yは結合するカルボキシ基ごとにそれぞれ独立に水素、Na、K、NH
4、1/2Ca、1/2Mg、1/2Fe、1/3Al、又は1/3Feである。)
で表される構成単位(2-1)である、[9]~[11]のいずれか一項に記載のキット。
[13] 前記非天然型ヌクレオチドが、BNAである、[9]~[12]のいずれか1項に記載のキット。
[14] 核酸増幅反応において、所定の対象塩基配列を有する試料中の核酸の増幅を阻害する方法であって、
前記対象塩基配列に相補的な塩基配列を有し、少なくとも1残基の非天然型核酸を含む、クランプ核酸と、
構造中にアミノ基を含むカチオン性構成単位(1)と、アニオン性構成単位(2)とを有し、前記アニオン性構成単位(2)に対するカチオン性構成単位(1)のモル比(カチオン性構成単位(1)/アニオン性構成単位(2))が0.13~1.62の範囲にある、両性共重合体と
を用いて、前記試料中の核酸を鋳型とした核酸増幅反応を実施する、方法。
[15] 前記カチオン性構成単位(1)の少なくとも一部が、第2級アミノ基又は第3級アミノ基を有する、[14]に記載の方法。
[16] 前記両性共重合体が、さらにノニオン性構成単位(3)を含む、[14]又は[15]に記載の方法。
[17] 前記両性共重合体において、前記カチオン性構成単位(1)の少なくとも一部が、一般式(I-a)若しくは一般式(I-b)
【化5】
(式中、R
1は、水素原子、水酸基を有していてもよい炭素数1~10のアルキル基、炭素数5~10のシクロアルキル基、または炭素数7~10のアラルキル基を示す。)
で表される構造、又はその酸付加塩である構造、を有する構成単位(1-1)であり、
前記アニオン性構成単位(2)の少なくとも一部が、一般式(II-a)
【化6】
(式中R
9は、水素又はメチル基、Yは結合するカルボキシ基ごとにそれぞれ独立に水素、Na、K、NH
4、1/2Ca、1/2Mg、1/2Fe、1/3Al、又は1/3Feである。)
で表される構成単位(2-1)である、[14]~[16]のいずれか一項に記載の方法。
[18] 前記非天然型ヌクレオチドが、BNAである、[14]~[17]のいずれか1項に記載の方法。
[19] 核酸増幅反応において、対象塩基配列を有する核酸の増幅を阻害するためのキットであって、
前記対象塩基配列に相補的な塩基配列を有し、少なくとも1残基の非天然型ヌクレオチドを含む、クランプ核酸と、
構造中にアミノ基を含むカチオン性構成単位(1)と、アニオン性構成単位(2)とを有し、前記アニオン性構成単位(2)に対するカチオン性構成単位(1)のモル比(カチオン性構成単位(1)/アニオン性構成単位(2))が0.13~1.62の範囲にある、両性共重合体と、を含む、キット。
[20] 前記カチオン性構成単位(1)の少なくとも一部が、第2級アミノ基又は第3級アミノ基を有する、[19]に記載のキット。
[21] 前記両性共重合体が、さらにノニオン性構成単位(3)を含む、[19]又は[20]に記載のキット。
[22] 前記両性共重合体において、前記カチオン性構成単位(1)の少なくとも一部が、
一般式(I-a)若しくは一般式(I-b)
【化7】
(式中、R
1は、水素原子、水酸基を有していてもよい炭素数1~10のアルキル基、炭素数5~10のシクロアルキル基、または炭素数7~10のアラルキル基を示す。)
で表される構造、又はその酸付加塩である構造、を有する構成単位(1-1)であり、
前記アニオン性構成単位(2)の少なくとも一部が、一般式(II-a)
【化8】
(式中R
9は、水素又はメチル基、Yは結合するカルボキシ基ごとにそれぞれ独立に水素、Na、K、NH
4、1/2Ca、1/2Mg、1/2Fe、1/3Al、又は1/3Feである。)
で表される構成単位(2-1)である、[19]~[21]のいずれか一項に記載のキット。
[23] 前記非天然型ヌクレオチドが、BNAである、[19]~[22]のいずれか1項に記載のキット。
[24] 対象塩基配列を有する核酸の核酸増幅を、前記対象塩基配列に相補的な塩基配列を有し、少なくとも1残基の非天然型ヌクレオチドを含む、クランプ核酸により阻害する効果の増強剤であって、
構造中にアミノ基を含むカチオン性構成単位(1)と、アニオン性構成単位(2)とを有し、前記アニオン性構成単位(2)に対するカチオン性構成単位(1)のモル比(カチオン性構成単位(1)/アニオン性構成単位(2))が0.13~1.62の範囲にある、両性共重合体を含む、増強剤。
[25] 前記カチオン性構成単位(1)の少なくとも一部が、第2級アミノ基又は第3級アミノ基を有する、[24]に記載の増強剤。
[26] 前記両性共重合体が、さらにノニオン性構成単位(3)を含む、[24]又は[25]に記載の増強剤。
[27] 前記両性共重合体において、前記カチオン性構成単位(1)の少なくとも一部が、一般式(I-a)若しくは一般式(I-b)
【化9】
(式中、R
1は、水素原子、水酸基を有していてもよい炭素数1~10のアルキル基、炭素数5~10のシクロアルキル基、または炭素数7~10のアラルキル基を示す。)
で表される構造、又はその酸付加塩である構造、を有する構成単位(1-1)であり、
前記アニオン性構成単位(2)の少なくとも一部が、一般式(II-a)
【化10】
(式中R
9は、水素又はメチル基、Yは結合するカルボキシ基ごとにそれぞれ独立に水素、Na、K、NH
4、1/2Ca、1/2Mg、1/2Fe、1/3Al、又は1/3Feである。)
で表される構成単位(2-1)である、[24]~[26]のいずれか一項に記載の増強剤。
[28] クランプ核酸による核酸増幅阻害効果を増強する核酸増幅阻害増強剤を製造するための両性共重合体の使用であって、
前記両性共重合体は、構造中にアミノ基を含むカチオン性構成単位(1)と、アニオン性構成単位(2)とを有し、前記アニオン性構成単位(2)に対するカチオン性構成単位(1)のモル比(カチオン性構成単位(1)/アニオン性構成単位(2))が0.13~1.62の範囲にある、両性共重合体の使用。
[29] 前記カチオン性構成単位(1)の少なくとも一部が、第2級アミノ基又は第3級アミノ基を有する、[28]に記載の使用。
[30] 前記両性共重合体が、さらにノニオン性構成単位(3)を含む、[28]又は[29]に記載の使用。
[31] 前記両性共重合体において、前記カチオン性構成単位(1)の少なくとも一部が、一般式(I-a)若しくは一般式(I-b)
【化11】
(式中、R
1は、水素原子、水酸基を有していてもよい炭素数1~10のアルキル基、炭素数5~10のシクロアルキル基、または炭素数7~10のアラルキル基を示す。)
で表される構造、又はその酸付加塩である構造、を有する構成単位(1-1)であり、
前記アニオン性構成単位(2)の少なくとも一部が、一般式(II-a)
【化12】
(式中R
9は、水素又はメチル基、Yは結合するカルボキシ基ごとにそれぞれ独立に水素、Na、K、NH
4、1/2Ca、1/2Mg、1/2Fe、1/3Al、又は1/3Feである。)
で表される構成単位(2-1)である、[28]~[30]のいずれか一項に記載の使用。
[32] クランプ核酸による核酸増幅阻害効果を増強するための両性共重合体の使用であって、
前記両性共重合体は、構造中にアミノ基を含むカチオン性構成単位(1)と、アニオン性構成単位(2)とを有し、前記アニオン性構成単位(2)に対するカチオン性構成単位(1)のモル比(カチオン性構成単位(1)/アニオン性構成単位(2))が0.13~1.62の範囲にある、両性共重合体の使用。
[33] 前記カチオン性構成単位(1)の少なくとも一部が、第2級アミノ基又は第3級アミノ基を有する、[32]に記載の使用。
[34] 前記両性共重合体が、さらにノニオン性構成単位(3)を含む、[32]又は[33]に記載の使用。
[35] 前記両性共重合体において、前記カチオン性構成単位(1)の少なくとも一部が、一般式(I-a)若しくは一般式(I-b)
【化13】
(式中、R
1は、水素原子、水酸基を有していてもよい炭素数1~10のアルキル基、炭素数5~10のシクロアルキル基、または炭素数7~10のアラルキル基を示す。)
で表される構造、又はその酸付加塩である構造、を有する構成単位(1-1)であり、
前記アニオン性構成単位(2)の少なくとも一部が、一般式(II-a)
【化14】
(式中R
9は、水素又はメチル基、Yは結合するカルボキシ基ごとにそれぞれ独立に水素、Na、K、NH
4、1/2Ca、1/2Mg、1/2Fe、1/3Al、又は1/3Feである。)
で表される構成単位(2-1)である、[32]~[34]のいずれか一項に記載の使用。
【0011】
上記両性共重合体は、それ自体では核酸増幅反応を阻害しないが、クランプ核酸によるそれに相補的な配列を有する核酸の増幅を阻害する効果を選択的に増強することができる。これにより、本発明の一の実施形態によれば、試料中において、クランプ核酸に相補的な標準塩基配列を有する核酸の比率に対して、標準塩基配列に対する変異を有する核酸の比率が非常に低い場合でも(例えば、0.1%以下)、クランプ核酸により標準塩基配列を有する核酸の増幅が選択的に阻害される一方、標準塩基配列に対する変異を有する核酸が通常通り増幅され、変異を有する核酸の検出が非常に高感度で簡易な方法で可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】aは、試験1において、PCR反応を阻害しない場合の核酸増幅曲線の一例として、実施例2のポリマー(ジアリルメチルアミン・マレイン酸1:1の共重合体)を用いた場合の核酸増幅曲線を示す。bは、試験1において、PCR反応を阻害する場合の核酸増幅曲線の一例として、比較例7のポリマー(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド・アクリルアミド8:1の共重合体)を用いた場合の核酸増幅曲線を示す。
【
図2】変異型遺伝子の増幅は阻害せずに、BNAを含むクランプ核酸(BNA clamp)による野生型遺伝子の選択的増幅阻害効果を増強する場合の核酸増幅曲線の一例として、BNA clampの存在下または非存在下に、実施例4のポリマー(ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド塩酸塩・アクリルアミド・アクリル酸1:1:2の共重合体)を添加または添加せずに、野生型遺伝子または変異型遺伝子を鋳型としてリアルタイムPCR反応を実施した際の核酸増幅曲線を示す。
【
図3】BNA clampの存在下、ポリマーを添加せず、あるいは実施例1、2、4または6のポリマー(ジアリルアミン塩酸塩・マレイン酸1:1の共重合体、ジアリルメチルアミン・マレイン酸1:1の共重合体、ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド塩酸塩・アクリルアミド・アクリル酸1:1:2の共重合体またはジアリルアミン塩酸塩・アクリルアミド・アクリル酸1:1:2の共重合体)を添加して、変異型の含有率が10%、1%、0.10%、0.01%または0%(WT)のKRAS遺伝子を鋳型として、リアルタイムPCR反応を実施した際の核酸増幅曲線を示す。
【
図4】試験5で用いたKRAS WT/Mutant plasmid DNAの構造を示す。
【
図5】BNA clampの存在下、ポリマーを添加せず、あるいは実施例1、2、4または6のポリマー(ジアリルアミン塩酸塩・マレイン酸1:1の共重合体、ジアリルメチルアミン・マレイン酸1:1の共重合体、ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド塩酸塩・アクリルアミド・アクリル酸1:1:2の共重合体またはジアリルアミン塩酸塩・アクリルアミド・アクリル酸1:1:2の共重合体)を添加し、変異型の含有率0.01%でKRAS遺伝子を有する
図4のプラスミドDNAを鋳型として用いて、リアルタイムPCR反応を実施した際の核酸増幅曲線を示す。
【
図6】BNA clampの存在下、ポリマーを添加せず、あるいは実施例1、2、4または6のポリマー(アリルアミン塩酸塩・マレイン酸1:1の共重合体、ジアリルメチルアミン・マレイン酸1:1の共重合体、ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド塩酸塩・アクリルアミド・アクリル酸1:1:2の共重合体またはジアリルアミン塩酸塩・アクリルアミド・アクリル酸1:1:2の共重合体)を添加し、変異型の含有率が0.01%でKRAS遺伝子を有する
図4のプラスミドDNAを鋳型として用いて、リアルタイムPCR反応を実施して得られたPCR産物をシーケンス決定して得られた結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施の形態を詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施の形態に限定して理解されるべきものではない。
【0014】
本発明は、一の実施形態において、クランプ核酸を用いる核酸増幅法において、特定の両性共重合体の存在下で核酸増幅を行うことより、対象塩基配列中における標準塩基配列に対する変異を検出する方法に関する。本発明は、他の実施形態において、クランプ核酸および特定の両性共重合体の存在下で核酸増幅を行うことより、所定の対象塩基配列を有する核酸の増幅を阻害する方法に関する。本発明はまた、更に他の実施形態において、これらの方法を実施するためのキットに関する。本発明はまた、更に他の実施形態において、クランプ核酸による核酸増幅阻害効果の増強剤に関する。以下、各実施形態について詳細に説明する。
【0015】
1.対象塩基配列中における標準塩基配列に対する変異を検出する方法
本発明の一実施形態は、試料中の核酸の対象塩基配列における標準塩基配列に対する変異を検出する方法に関する。この方法は、標準塩基配列に相補的な塩基配列を有し、少なくとも1残基の非天然型ヌクレオチドを含む、クランプ核酸と、特定の両性共重合体とを準備し、これらを用いて、試料中の核酸を鋳型とした核酸増幅反応を行う。対象塩基配列が標準塩基配列に対して変異を有する場合には、対象塩基配列を含む領域が標準配列より優先的に核酸増幅され、これにより、変異の存在を検出する事が可能となる。
【0016】
試料
本発明の方法に供される試料は、実施形態に応じて、変異を有する核酸または増幅阻害対象の核酸を含み得ると想定される試料であり、本実施形態においては、変異の検出が所望される核酸を含むと想定される試料である。試料は、例えば、哺乳動物、典型的にはヒトから採取された検体から調製された試料である。例えば、血液、胸水、気管支洗浄液、骨髄液、リンパ液等の液体試料、またはリンパ節、血管、骨髄、脳、脾臓、皮膚等の固形試料から調製された試料が挙げられる。本発明の方法は非常に高い感度で核酸の変異を検出し得るため、例えば癌等の病変部位から採取された検体からの試料だけでなく、血液等の変異型遺伝子が微量しか含まれない検体からの試料を用いることができる。
【0017】
対象塩基配列
本願明細書において、「対象塩基配列」とは、本発明の実施形態による方法に応じて、変異検出または増幅阻害の対象となる塩基配列を意味する。また、「試料中の核酸」は、変異検出または増幅阻害の対象となる塩基配列を含み得る核酸である。但し、「対象塩基配列」は、実際に変異を有すること、または実際に増幅阻害される塩基配列を含むことまでは意味しないし、「試料中の核酸」は、実際に変異検出または増幅阻害の対象となる塩基配列を含むことまでは意味しない。
【0018】
本実施形態による方法においては、「対象塩基配列」は、変異の有無を検出する対象となる塩基配列であり、「試料中の核酸」は、変異の有無を検出する対象となる塩基配列を含む核酸である。また、「対象塩基配列を含む領域」は、本発明の方法によって、増幅対象となる領域である。
【0019】
試料中の核酸
核酸は、DNAであってもRNAであってもよく、ゲノムDNA、cDNA、プラスミドDNA、無細胞DNA、循環DNA、RNA、miRNA、mRNAなどの天然型もしくは非天然型のあらゆる核酸を含み得る。哺乳動物、典型的にはヒトから採取された検体からの試料を用いる場合には、変異検出の対象となる核酸は、多くの場合DNAであり、典型的には、臨床上の意義が大きなゲノムDNAである。また、クランプ核酸による核酸増幅の阻害効果の増強効果が大きくなるという観点からも、試料中の核酸はゲノムDNAであることが好ましい。
ゲノムDNAとしては、例えば、その変異(先天的又は後天的な変異)が、特定の疾患の発症および/または治療感受性に関連するゲノムDNAが挙げられる。このような疾患は、多数知られており、その代表例は各種癌である。また、その変異が癌の発症および/または治療感受性に関連することが知られている遺伝子としては、例えば、ABL/BCR融合遺伝子(慢性骨髄性白血病)、HER2遺伝子(乳癌)、EGFR遺伝子(非小細胞肺癌)、c-KIT遺伝子(消化管間質腫瘍)、KRAS遺伝子(大腸癌、膵癌)、BRAF遺伝子(メラノーマ、大腸癌)、PI3KCA遺伝子(肺癌、大腸癌)、FLT3遺伝子(急性骨髄性白血病)、MYC遺伝子(種々の癌)、MYCN遺伝子(神経芽細胞腫)、MET遺伝子(肺癌、胃癌、メラノーマ)、BCL2遺伝子(濾胞性Bリンパ腫)、およびEML4/ALK融合遺伝子(肺癌)が挙げられる。
【0020】
標準塩基配列および変異
本願明細書において、「標準塩基配列」とは、「対象塩基配列」の変異を検出する方法において、「対象塩基配列」が変異を有しているかを判断する際の基準となる塩基配列を意味し、「変異」は、「対象塩基配列」が「標準塩基配列」に対して置換、挿入、欠失、逆位、重複、転座またはこれら2つ以上の組み合わせによって何らかの塩基配列の相違を有している状態を意味する。本願明細書において、この様な「変異」は、20%以下の塩基配列の相違、10%以下の塩基配列の相違、5%以下の塩基配列の相違、又は、1%以下の塩基配列の相違であってよい。
「標準塩基配列」は、検査目的に応じて種々の塩基配列を選択できるが、典型的には、野生型の核酸に由来する塩基配列であり、好ましくは特定の疾患の発症および/または治療感受性に関連することが知られている野生型遺伝子に由来する塩基配列である。従って、「変異型核酸」は、典型的には、野生型の核酸に由来する塩基配列に対して置換、挿入、欠失、逆位、重複、転座またはこれら2つ以上の組み合わせによって何らかの塩基配列の相違がある核酸であり、好ましくは、特定の疾患の発症および/または治療感受性に関連することが知られている野生型遺伝子に対してこのような塩基配列の相違がある核酸である。例えば、KRAS遺伝子の第2エクソンの12番目のコドンまたは13番目のコドンの変異は、分子標的薬セツキシマブの奏効率と関連することが知られている。また、BRAF遺伝子では、第15エクソンの600番目のコドンの変異は、分子標的薬セツキシマブやパニツムマブの奏効率と関連することが知られている。
特定の両性共重合体が、クランプ核酸による核酸増幅の阻害効果を特に増大することから、前記試料中の核酸に含まれる、変異を含まない対象配列(標準塩基配列)と、前記変異が含まれる対象配列との合計に対し、前記変異が含まれる対象塩基配列の割合の期待値は、0.1%未満であってもよい。また、好ましい実施形態では、0.05%以下であってもよく、更に好ましい実施形態では、0.01%以下であってもよい。ここで、変異が含まれる対象塩基配列の割合の期待値は、各変異について臨床的に求められる。
【0021】
クランプ核酸
本願明細書において、「クランプ核酸」とは、核酸増幅を阻害する対象とした「塩基配列」(実施形態に応じて「標準塩基配列」であることも「対象塩基配列」であることも有り得る)と相補的な塩基配列を有し、少なくとも1残基の非天然型ヌクレオチドを含むオリゴヌクレオチドからなる人工的な核酸である。「クランプ核酸」は、核酸増幅を阻害する対象とした「塩基配列」とハイブリダイズして核酸増幅を阻害するが、その塩基配列と相補的でない塩基配列の核酸とは強くハイブリダイズせず核酸増幅を阻害しない。
【0022】
「対象塩基配列」の変異を検出する方法においては、「クランプ核酸」により核酸増幅を阻害する対象となる「塩基配列」は、「標準塩基配列」であり、「クランプ核酸」は、「標準塩基配列」にハイブリダイズしてその核酸増幅を阻害する。
非天然型ヌクレオチドとしては、例えば、Peptide Nucleic Acid(PNA)、Bridged nucleic acid (BNA)、ホスフェート基を有するペプチド核酸(PHONA)、モルホリノ核酸を挙げることができる。なお、第一世代のBNAは、Locked nucleic acid(LNA)とも称される(例えば、非特許文献2、3および特許文献1、2参照)。
【0023】
PNAを含むクランプ核酸(PNA clamp)は、核酸のリン酸結合に代えペプチド結合で骨格を形成している一以上のヌクレオチドを含むオリゴヌクレオチドからなる完全修飾型人工核酸である。修飾ヌクレオチドは、典型的には、ヌクレオチドの糖-リン酸骨格を、N-(2-アミノエチル)グリシンを単位とする骨格に置き換え、メチレンカルボニル結合で塩基を結合させた構造を有する。PNAについての詳細は、非特許文献6に記載する通りである。PNA clampは、相補構造のDNA鎖とのハイブリダイズ能が天然DNAよりも強く、核酸分解酵素による分解を受けないことからクランプ核酸として望ましい特性を有している。
【0024】
BNAを含むクランプ核酸(BNA clamp)は、リボースの2’位の酸素原子と4’位の炭素原子を架橋した構造を有する一以上の非天然ヌクレオチドを含むオリゴヌクレオチドからなる人工核酸であり、第一世代のBNAは、Locked nucleic acid(LNA)とも称される。BNA clampは、らせん構造が固定化され、相補鎖を有する核酸にハイブリダイズすると非常に安定な二本鎖を形成することができる。また、修飾されたヌクレオチドの数に比例して相補鎖を有する核酸に対する結合が強まるため、核酸の長さと修飾ヌクレオチドの数を調整することで適当なハイブリダイズ能を獲得することができ、比較的短いオリゴヌクレオチド鎖でクランプ効果を発揮させることが可能である。
【0025】
BNA clampの代表的な例は、以下の構造を有する修飾ヌクレオチドを含むオリゴヌクレオチドである。
【化15】
第1世代BNA:2’,4’-BNA(LNA)(例えば、特許文献10)
【化16】
【化17】
【化18】
(式中、
Baseは、ピリミジンもしくはプリン核酸塩基、または水酸基、核酸合成の保護基で保護された水酸基、炭素数1~5のアルコキシ基、メルカプト基、核酸合成の保護基で保護されたメルカプト基、炭素数1~5のアルキルチオ基、アミノ基、核酸合成の保護基で保護されたアミノ基、炭素数1~5のアルキル基で置換されたアミノ基、炭素数1~5のアルキル基およびハロゲン原子(例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子)からなる群から選択される置換基で置換されたピリミジンもしくはプリン核酸塩基を示し、
R
2は、水素原子、炭素数1~20の直鎖または分岐鎖状のアルキル基、炭素数2~20の直鎖または分岐鎖状のアルケニル基、炭素数3~10のシクロアルキル基、炭素数6~14のアリール基、炭素数1~6のアルキル基が炭素数6~14のアリール基で置換されているアラルキル基、アシル基、スルホニル基、またはシリル基、または標識分子を示し、
mは0~2の整数であり、
nは、1~3の整数である。)
【0026】
式(IV)の修飾ヌクレオチドは、好ましくは、Baseが、ベンゾイルアミノプリン-9-イル、アデニニル、2-イソブチリルアミノ-6-ヒドロキシプリン-9-イル、グアニニル、2-オキソ-4-ベンゾイルアミノ-1,2-ジヒドロピリミジン-1-イル、シトシニル、2-オキソ-5-メチル-4-ベンゾイルアミノ-1,2-ジヒドロピリミジン-1-イル、5-メチルシトシニル、ウラシニル、およびチミニル基からなる群から選択され、R1がメチル基であり、mが0であり、nが1である。
【0027】
ただし、本発明で用いられるBNAは、上記に限定されるものではなく、他のBNA(例えば、5’-amino-2’、4’-BNA、2’,4’-BNACOC、2’,4’-BNANCなど)も使用し得る。また、BNA clampでは、修飾ヌクレオチドとヌクレオチド間、または修飾ヌクレオチド間の結合は、通常、リン酸ジエステル結合であるが、ホスホロチオアート結合を含み得る。BNAの詳細については、特許文献1~10に記載されており、本発明の属する技術分野の当業者は、これらの文献等の公知の技術的事項から如何なる人工核酸がBNA clampに該当するかは容易に理解し得る。
【0028】
クランプ核酸としては、比較的少ないヌクレオチドで相補的な配列の核酸と安定した二本鎖を形成して、当該核酸の核酸増幅を選択的に阻害できる(後述する、インターカレーター法のような野生型遺伝子の増幅サイクル数を基準とした変異検出法を用いた場合において、ΔΔΔCt値が大きい)点で、BNA clampが好ましく、特に式(IV)の構造の修飾ヌクレオチドを含むBNA clampが好ましい。
【0029】
クランプ核酸の長さおよび非天然型ヌクレオチドの数は、核酸増幅を阻害する対象となる核酸に対する結合力を決定する因子である。従って、これらの因子は、核酸増幅を阻害する対象となる核酸(変異を検出する方法では、標準塩基配列を有する核酸である)に強力に結合し、当該核酸の増幅を選択的に阻害できるよう適切に設定することが好ましい。この点から、クランプ核酸の長さは、通常、5~50merであり、好ましくは、6~30merであり、より好ましくは、7~25merであり、さらに好ましくは、8~20merであり、特に好ましくは、9~15merである。
また、クランプ核酸における非天然型核酸の割合は、同様の点から、通常、10~100%であり、好ましくは、30~95%であり、より好ましくは、40~90%であり、さらに好ましくは、50~85%であり、特に好ましくは、60~80%である。
【0030】
クランプ核酸の合成は、特許文献7~10等の文献に基づいて行うことができる。また、クランプ核酸の合成を受託する業者に委託してもよい。
【0031】
両性共重合体
本発明の方法においては、上記プライマーセットを用いて、試料中の核酸を鋳型とした核酸増幅反応を行う際に、上記ブロッカー核酸と共に、特定の両性共重合体が存在する状態で核酸増幅反応を行う。本発明で使用される両性共重合体は、ブロッカー核酸による選択的核酸増幅阻害効果を増強するものであり、構造中にアミノ基を含むカチオン性構成単位(1)と、アニオン性構成単位(2)とを有し、前記アニオン性構成単位(2)に対するカチオン性構成単位(1)のモル比(カチオン性構成単位(1)/アニオン性構成単位(2))が0.13~1.62の範囲にある、両性共重合体である。
【0032】
カチオン性構成単位(1)
本発明において用いられる両性共重合体を構成するカチオン性構成単位(1)は、その構造中にアミノ基を含むカチオン性の構成単位である。
カチオン性構成単位(1)には、その構造中にカチオン性の官能基としてアミノ基を含む構成単位であること以外の制限は課されず、したがって構造中にアミノ基を含む構成単位であるとの条件を満たす限りにおいて、各種の構造の構成単位をカチオン性構成単位(1)として採用することができる。
カチオン性構成単位(1)中のアミノ基にも特に制限は無いが、クランプ核酸による核酸増幅の阻害効果の増強効果が大きいことから、第2級アミノ基又は第3級アミノ基であることが好ましく、第3級アミノ基であることが特に好ましい。
【0033】
カチオン性構成単位(1)として特に好ましい構成単位として、下記の構成単位(1-1)、構成単位(1-2)、構成単位(1-3)及び構成単位(1-4)を挙げることができる。中でも、構成単位(1-1)、構成単位(1-3)又は構成単位(1-4)が、カチオン構成単位(1)として好ましく、構成単位(1-1)が、カチオン性構成単位(1)として特に好ましい。
両性共重合体は、カチオン性構成単位(1)1種類のみを含んでいてもよく、2種類以上のカチオン性構成単位(1)を含んでいてもよい。2種類以上のカチオン性構成単位(1)を含む場合の当該2種類以上のカチオン性構成単位(1)は、ともに構成単位(1-1)に分類される構成単位の組み合わせ、ともに構成単位(1-2)に分類される構成単位の組み合わせ、ともに構成単位(1-3)に分類される構成単位の組み合わせ、又はともに構成単位(1-4)に分類される構成単位の組み合わせであってもよく、構成単位(1-1)から(1-4)のうち互いに異なるものに分類される構成単位同士の組み合わせであってもよい。構成単位(1-1)から(1-4)のいずれにも該当しないカチオン性構成単位を組み合わせて使用してもよい。
【0034】
構成単位(1-1)
構成単位(1-1)は、下記一般式(I-a)若しくは一般式(I-b)で表される構造、又はその酸付加塩である構造、を有する構成単位である。構成単位(1-1)は、クランプ核酸による核酸増幅の阻害効果の増強効果が大きいことから、カチオン性構成単位(1)として特に好ましい構成単位である。すなわち、カチオン性構成単位(1)の全部または一部として構成単位(1-1)を使用することで、クランプ核酸による核酸増幅の阻害効果をより増強することができる。
【化19】
式中、R
1は水素原子、水酸基を有していてもよい炭素数1~10のアルキル基、炭素数5~10のシクロアルキル基、または炭素数7~10のアラルキル基を示す。R
1は、水素原子、メチル基、エチル基、又はベンジル基であることが好ましく、水素原子、又はメチル基であることが特に好ましい。
【0035】
構成単位(1-1)は、上記の構造式(1-a)、又は(1-b)で示される構造の無機酸塩、若しくは有機酸塩等である構造、すなわち酸付加塩である構造を有していてもよい。
両性共重合体が構成単位(1-1)を有する場合、両性共重合体の製造にあたっては、製造コスト等の観点からは、付加塩を有するジアリルアミンモノマーを用いることが好ましい。重合体からHCl等の付加塩を除去するプロセスは煩雑であり、コスト増大の原因ともなることから、その様なプロセスを要さずして製造可能である、付加塩型の構成単位(1-1)を用いることは、コスト等の観点からも好ましい実施形態である。
入手の容易さや反応の制御性等の観点から、この実施形態の構成単位(1-1)における無機酸塩、又は有機酸塩は、塩酸塩、カルボン酸塩、スルホン酸塩、又はアルキルサルフェート塩であることが好ましく、塩酸塩であることが特に好ましい。
【0036】
構成単位(1-2)
構成単位(1-2)は、下記一般式(I-c)若しくは一般式(I-d)で表される構造を有する構成単位である。
【化20】
式中、R
2及びR
3はそれぞれ独立に水素原子、水酸基を有していてもよい炭素数1~10のアルキル基、炭素数5~10のシクロアルキル基、又は炭素数7~10のアラルキル基であり、X
a-はカウンターイオンを示し、aは該カウンターイオンの価数を示す。
R
2及びR
3はそれぞれ独立に水素原子、メチル基、エチル基、又はベンジル基であることが好ましく、水素原子、又はメチル基であることが特に好ましい。
【0037】
カウンターイオンXa-には特に限定はないが、入手の容易さや反応の制御性等の観点から、塩素イオン、カルボン酸イオン、スルホン酸イオン、又はアルキルサルフェートイオンであることが好ましく、塩素イオン、又はエチルサルフェートイオンであることが特に好ましい。
両性共重合体の製造にあたっては、製造コスト等の観点からは、カウンターイオンを有するジアリルアミンモノマーを用いることが好ましい。重合体からカウンターイオンを除去するプロセスは煩雑であり、コスト増大の原因ともなることから、その様なプロセスを要さずして製造可能である、カウンターイオン型の構成単位(1-2)を有する両性共重合体を使用することは、コスト等の観点からも好ましい実施形態である。
【0038】
構成単位(1-3)
構成単位(1-3)は、下記一般式(I-e)で表される構造、又はその酸付加塩である構造、を有する構成単位である。
【化21】
式中、R
4及びR
5はそれぞれ独立に水素原子、水酸基を有していてもよい炭素数1~12のアルキル基、炭素数7~12のアラルキル基、又は炭素数5~6のシクロアルキル基を示す。
R
4及びR
5として好ましい炭素数1~12のアルキル基又はアラルキル基は、直鎖状、枝分かれ状のいずれであってもよい。その例としてはメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基、ベンジル基などが挙げられる。また、R
4及びR
5として好ましい炭素数5~6のシクロアルキル基としては、シクロペンチル基およびシクロヘキシル基が挙げられるが、これらには限定されない。
R
4及びR
5はそれぞれ独立に水素原子、メチル基、エチル基、又はベンジル基であることが好ましく、水素原子、またはメチル基であることが特に好ましい。
【0039】
構成単位(1-3)が一般式(I-e)で表される構造の酸付加塩である場合の付加塩の種類には特に制限はないが、入手性や反応の制御の容易さ等の観点から、例えば塩酸塩、硫酸塩、リン酸塩、硝酸塩、亜硫酸塩、亜リン酸塩、亜硝酸塩、臭化水素酸塩、酢酸塩、アミド硫酸塩、メタンスルホン酸塩、トリフルオロ酢酸塩、p-トルエンスルホン酸塩等を使用することができる。
中でも、塩酸塩、硫酸塩、リン酸塩、及びアミド硫酸塩が好ましく、モノアリルアミンから導かれる構造の塩酸塩、硫酸塩、リン酸塩、及びアミド硫酸塩が特に好ましい。
【0040】
構成単位(1-4)
構成単位(1-4)は、下記一般式(I-f)で表される構造、又はその酸付加塩である構造、を有する構成単位である。
【化22】
式中R
6は水素原子又はメチル基、R
7およびR
8はそれぞれ独立に水素原子、又は炭素数1~4のアルキル基を示し、nは2~4の整数である。
R
6は、メチル基であることが好ましく、nは2~3であることが好ましく、R
7およびR
8は、それぞれ独立に水素原子またはメチル基あることが好ましい。
構成単位(1-4)が一般式(I-f)で表される構造の酸付加塩である場合の付加塩の種類には特に制限はないが、入手性や反応の制御の容易さ等の観点から、例えば塩酸塩、硫酸塩、リン酸塩、硝酸塩、亜硫酸塩、亜リン酸塩、亜硝酸塩、臭化水素酸塩、酢酸塩、アミド硫酸塩、メタンスルホン酸塩、トリフルオロ酢酸塩、p-トルエンスルホン酸塩等を使用することができる。
中でも、塩酸塩、硫酸塩、リン酸塩、及びアミド硫酸塩が好ましく、モノアリルアミンから導かれる構造の塩酸塩、硫酸塩、リン酸塩、及びアミド硫酸塩が特に好ましい。
【0041】
両性共重合体の全構成単位に占めるカチオン性構成単位(1)の割合は、通常10~70モル%であり、好ましくは15~60モル%であり、特に好ましくは20~55モル%である。2種類以上のカチオン性構成単位(1)を含む場合の上記割合は、当該2種類以上のカチオン性構成単位(1)の合計量に基づいて定義される。
【0042】
アニオン性構成単位(2)
本発明において用いられる両性共重合体を構成するアニオン性構成単位(2)は、その構造中にアニオン性の官能基を有する構成単位である。
アニオン性構成単位(2)には、その構造中にアニオン性の官能基を含む構成単位であること以外の制限は課されず、したがって構造中にアニオン性の官能基を含む構成単位であるとの条件を満たす限りにおいて、各種の構造の構成単位をアニオン性構成単位(2)として採用することができる。
アニオン性構成単位(2)として特に好ましい構成単位として、下記の構成単位(2-1)、構成単位(2-2)、構成単位(2-3)及び構成単位(2-4)を挙げることができる。中でも構成単位(2-1)が、アニオン性構成単位(2)として特に好ましい。
【0043】
特性両性共重合体は、アニオン性構成単位(2)1種類のみを含んでいてもよく、2種類以上のアニオン性構成単位(2)を含んでいてもよい。2種類以上のアニオン性構成単位(2)を含む場合の当該2種類以上のアニオン性構成単位(2)は、ともに構成単位(2-1)に分類される構成単位の組み合わせ、ともに構成単位(2-2)に分類される構成単位の組み合わせ、ともに構成単位(2-3)に分類される構成単位の組み合わせ、又はともに構成単位(2-4)に分類される構成単位の組み合わせであってもよく、構成単位(2-1)から(2-4)のうち互いに異なるものに分類される構成単位同士の組み合わせであってもよい。構成単位(2-1)から(2-4)のいずれにも該当しないアニオン性構成単位を組み合わせて使用してもよい。
【0044】
構成単位(2-1)
構成単位(2-1)は、下記一般式(II-a)で表される構造を有する構成単位である。
アニオン性構成単位(2)の全部または一部として構成単位(2-1)を使用することで、クランプ核酸による核酸増幅の阻害効果をより増強することができる。
【化23】
式中R
9は、水素又はメチル基、Yは結合するカルボキシ基ごとにそれぞれ独立に水素、Na、K、NH
4、1/2Ca、1/2Mg、1/2Fe、1/3Al、又は1/3Feを表す。
R
9は、水素であることが好ましく、Yは水素またはNaであることが好ましい。構成単位(2-1)は、マレイン酸から導かれるものであることが特に好ましい。
【0045】
構成単位(2-2)
構成単位(2-2)は、下記一般式(II-b)で表される構造を有する構成単位である。
【化24】
式中Yは結合するカルボキシ基ごとにそれぞれ独立に水素、Na、K、NH
4、1/2Ca、1/2Mg、1/2Fe、1/3Al、又は1/3Feを表す。
Yは水素またはNaであることが好ましい。
【0046】
構成単位(2-3)
構成単位(2-3)は、下記一般式(II-c)で表される構造を有する構成単位である。
【化25】
式中Yは結合するカルボキシ基ごとにそれぞれ独立に水素、Na、K、NH
4、1/2Ca、1/2Mg、1/2Fe、1/3Al、又は1/3Feである。
Yは水素またはNaであることが好ましい。
【0047】
構成単位(2-4)
構成単位(2-4)は、下記一般式(II-d)で表される構造を有する構成単位である。
【化26】
式中R
10は、水素又はメチル基、Yは結合するカルボキシ基ごとにそれぞれ独立に水素、Na、K、NH
4、1/2Ca、1/2Mg、1/2Fe、1/3Al、又は1/3Feである。R
10は、水素であることが好ましく、Yは水素またはNaであることが好ましい。
構成単位(2-4)は、(メタ)アクリル酸から導かれるものであることが好ましく、アクリル酸から導かれるものであることが特に好ましい。
【0048】
本発明において用いる両性共重合体は、上記カチオン性構成単位(1)及びアニオン性構成単位(2)を含むので、カチオン性及びアニオン性を有する両性共重合体となる。
上記特定の構造を有するカチオン性構成単位(1)、及びアニオン性構成単位(2)を含み、カチオン性構成単位(1)/アニオン性構成単位(2)のモル比が上記特定の範囲内にある両性共重合体を用いることで、クランプ核酸による核酸増幅の阻害効果を増強する等の本発明の顕著な効果が実現されるメカニズムは必ずしも明らかではないが、特定の構造を有するカチオン性構成単位(1)は、その強力なポジティブチャージによって、クランプ核酸とDNAとの結合を安定化させるが、その反面、強力すぎるポジティブチャージは、DNAの二本鎖形成や一本鎖への変性を阻害する場合がある。このような特定の構造を有するカチオン性構成単位(1)に対して、アニオンチャージを備える構成単位(2)が特定のモル比で存在することで、カチオン性構成単位(1)が備えるポジティブチャージを適度に調整し、DNAの二本鎖形成や一本鎖への変性を阻害することを抑制して、クランプ核酸とDNAとの結合を安定化させる機能を発現させるものと推定される。
【0049】
上述の様に、両性共重合体において、カチオン性構成単位(1)が構成単位(1-1)であることが好ましく、アニオン性構成単位(2)が構成単位(2-1)であることが好ましいので、カチオン性構成単位(1)として構成単位(1-1)を有し、アニオン性構成単位(2)として構成単位(2-1)を有する両性共重合体を、試料中における標準塩基配列に対する変異を備える対象塩基配列の含有率が低い場合であっても、クランプ核酸による核酸増幅の阻害効果を十分に増強可能であることから特に好ましく用いることができる。
【0050】
それ以外の構成単位(3)
両性共重合体は、上記カチオン性構成単位(1)及びアニオン性構成単位(2)に加えて、それ以外の構成単位を有していてもよい。
それ以外の構成単位としては、後述のノニオン性構成単位(3―1)や、カチオン性構成単位(1)には該当しない構造を有する、すなわちアミノ基を有しない、カチオン性の構成単位(3―2)を挙げることができる。
カチオン性構成単位(1)とアニオン性構成単位(2)との距離を調整するという観点から、両性共重合体はノニオン性構成単位(3-1)を更に含むことが好ましい。
【0051】
ノニオン性構成単位(3―1)
本実施形態におけるノニオン性構成単位(3―1)は、カチオン性構成単位(1)及びアニオン性構成単位(2)と共重合可能な非イオン性の単量体から導かれる構成単位であればよく、特にそれ以外の制限はないが、メタクリル酸エステル系単量体、アクリル酸エステル系単量体、メタクリルアミド系単量体、アクリルアミド系単量体、二酸化硫黄等から導かれる構成単位を、好ましく用いることができる。より具体的な例としては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリルアミド、N-メチルメタクリルアミド、ジメチルメタクリルアミド、N-(3-ジメチルアミノプロピル)メタクリルアミド、アクリルアミド、ジメチルアクリルアミド、ヒドロキシエチルアクリルアミド、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド塩化メチル4級塩、アクリロイルモルフォリン、イソプロピルアクリルアミド、4-t-ブチルシクロヘキシルアクリレート、又は二酸化硫黄から導かれる構成単位を挙げることができる。アクリルアミド又はメタクリルアミドから導かれる構成単位を使用することが特に好ましい。
ノニオン性構成単位(3―1)は、通常、単量体として非イオン性の単量体を用いることで、両性共重合体中に導入することができる。
【0052】
両性共重合体がノニオン性構成単位(3―1)を有する場合のノニオン性構成単位(3―1)の含有量には特に制限はなく、またノニオン性構成単位(3―1)の種類によってもその好適な量は異なるが、アニオン性構成単位(2)とのモル比が、ノニオン性構成単位(3―1)/アニオン性構成単位(2)=0.1/1~1/1であることが好ましく、0.2/1~0.8/1であることがより好ましく、0.3/1~0.7/1であることがさらに好ましく、0.4/1~0.6/1であることが特に好ましい。
ノニオン性構成単位(3―1)がメタクリル酸エステル系単量体、アクリル酸エステル系単量体、メタクリルアミド系単量体、又はアクリルアミド系単量体から導かれる場合には、上記比率は0.1/1~1/1であることが好ましく0.2/1~0.8/1であることがより好ましく、0.3/1~0.7/1であることがさらに好ましく、0.4/1~0.6/1であることが特に好ましい。
ノニオン性構成単位(3―1)が二酸化硫黄から導かれる場合には、上記比率は0.1/1~1/1であることが好ましく、0.2/1~1/1であることが特に好ましい。
【0053】
両性共重合体は、カチオン性構成単位(1)と、アニオン性構成単位(2)とを有するものであり、したがってカチオン性構成単位(1)及びアニオン性構成単位(2)のみで構成されていてもよく、カチオン性構成単位(1)及びアニオン性構成単位(2)に加えて、それ以外の構成単位を有していてもよい。それ以外の構成単位としては、後述のノニオン性構成単位(3―1)や、上述の様に特定の構造を有するカチオン性構成単位(1)には該当しない構造のカチオン性の構成単位(3―2)を挙げることができる。
カチオン性構成単位(1)とアニオン性構成単位(2)との合計が両性共重合体の全構成単位に占める割合には特に制限は無いが、通常67モル%以上であり、好ましくは75~100モル%であり、より好ましくは80~100モル%であり、特に好ましくは90~100モル%である。
【0054】
両性共重合体におけるアニオン性構成単位(2)に対するカチオン性構成単位(1)のモル比(カチオン性構成単位(1)/アニオン性構成単位(2))は、0.13~1.62の範囲にある。
両性共重合体におけるカチオン性構成単位(1)/アニオン性構成単位(2)のモル比が0.13以上であることにより、カチオン性構成単位(1)の備えるクランプ核酸とDNAとの結合を安定化させる機能が損なわれず、クランプ核酸による核酸増幅の阻害効果を増強することができる。
両性共重合体におけるカチオン性構成単位(1)/アニオン性構成単位(2)のモル比は、0.20以上であることが好ましく、0.25以上であることがより好ましく、0.37以上でることがさらに好ましく、0.45以上であることが特に好ましく、0.50以上であることが最も好ましい。
両性共重合体におけるカチオン性構成単位(1)/アニオン性構成単位(2)のモル比が1.62以下であることにより、カチオン性構成単位(1)によるDNAの二本鎖形成や一本鎖への変性阻害が抑制され、クランプ核酸とDNAとの結合を安定化させる機能を発現させることができる。
両性共重合体におけるカチオン性構成単位(1)/アニオン性構成単位(2)のモル比は、1.30以下であることが好ましく、1.25以下であることがより好ましく、1.13以下であることがさらに好ましく、1.05以下であることが特に好ましく、1.00以下があることが最も好ましい。
両性共重合体におけるカチオン性構成単位(1)/アニオン性構成単位(2)のモル比は、0.25~1.25の範囲にあることが好ましく、0.50~1.00の範囲にあることが特に好ましい。
【0055】
両性共重合体における、カチオン性構成単位(1)及びアニオン性構成単位(2)のモル比は、カチオン性構成単位(1)及びアニオン性構成単位(2)の構造が既知である場合、両性共重合体をイソプロピルアルコール又はアセトン等の有機溶媒で再沈し、再沈物について、Perkin Elmer 2400II CHNS/O全自動元素分析装置又は同等の性能の装置を用いて、前記構成単位の構造に応じた適宜のモードで分析することで特定することができる。なお、測定は、キャリアーガスとしてヘリウムガスを使用し、錫カプセルに固体試料を量りとり、燃焼管内に落下して純酸素ガス中で燃焼温度1800℃以上で試料を燃焼し、分離カラム及び熱伝導検出器によるフロンタルクロマトグラフィー方式で各測定成分を検出し、校正係数を用いて各元素の含有率を定量することで行うことができる。また、両性共重合体におけるカチオン性構成単位(1)及びアニオン性構成単位(2)の構造が未知である場合、上記元素分析装置による測定の前に、1H-NMR又は13C-NMRを用いた公知の方法により、それぞれの構成単位の構造を特定する。また、両性共重合体の製造(共重合)において供給した各単量体の量、及び両性共重合体に取り込まれずに残留した各単量体の量から計算することもできる。なお、両性共重合体における各単量体から導かれる構成単位の割合(モル比)は、各構成単位の仕込み組成(モル比)とほぼ一致するため、本明細書では便宜的にモノマーの配合比を構成単位の割合(モル比)として取り扱う事がある。
両性共重合体における、カチオン性構成単位(1)/アニオン性構成単位(2)のモル比は、両性共重合体の製造(共重合)において供給した各単量体、特にカチオン性構成単位(1)を導く単量体及びアニオン性構成単位(2)を導く単量体、の種類及び量、製造(共重合)の条件、例えば触媒の種類や量、共重合温度や時間等を選択、調整することで、適宜調整することができる。
【0056】
両性共重合体の製造方法
両性共重合体の製造方法には特に制限はなく、従来当該技術分野において公知の方法で製造することができるが、例えばカチオン性構成単位(1)に対応する構造のカチオン性単量体、及びアニオン性構成単位(2)に対応する構造のアニオン性単量体、並びに所望によりノニオン性構成単位(3)に対応する構造のノニオン性単量体等のそれ以外の単量体を共重合することにより製造することができる。
【0057】
カチオン性構成単位(1)に対応する構造のカチオン性単量体、アニオン性構成単位(2)に対応する構造のアニオン性単量体等を共重合する場合の溶媒は特に限定されず、水系の溶媒であっても、アルコール、エーテル、スルホキシド、アミド等の有機系の溶媒であってもよいが、水系の溶媒であることが好ましい。
カチオン性構成単位(1)に対応する構造のカチオン性単量体、アニオン性構成単位(2)に対応する構造のアニオン性単量体等を共重合する場合の単量体濃度は単量体の種類により、また共重合を行う溶媒の種類により、異なるが、水系の溶媒の場合通常10~75質量%である。この共重合反応は、通常、ラジカル重合反応であり、ラジカル重合触媒の存在下に行なわれる。ラジカル重合触媒の種類は特に限定されるものでなく、その好ましい例として、t-ブチルハイドロパーオキサイドなどの過酸化物、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウムなどの過硫酸塩、アゾビス系、ジアゾ系などの水溶性アゾ化合物が挙げられる。
【0058】
ラジカル重合触媒の添加量は、一般的には全単量体に対して0.1~20モル%、好ましくは1.0~10モル%である。重合温度は一般的には0~100℃、好ましくは5~80℃であり、重合時間は一般的には1~150時間、好ましくは5~100時間である。重合雰囲気は、大気中でも重合性に大きな問題を生じないが、窒素などの不活性ガスの雰囲気で行なうこともできる。
【0059】
核酸増幅反応
本実施形態による方法では、クランプ核酸と、両性共重合体とを用いて、試料中の核酸を鋳型とした核酸増幅反応を行う。
【0060】
核酸増幅法としては、特に制限はないが、例えば、リアルタイムPCR法、デジタルPCR法、トラディショナルなPCR法、RT-PCR法等のPCR法、LAMP法、ICAN法、NASBA法、LCR法、SDA法、TRC法、TMA法を挙げることができる。核酸増幅法は、手法の汎用性・簡便性の観点から、PCR法が好ましく、核酸増幅物の定量が容易なことから、リアルタイムPCR法がより好ましい。
【0061】
核酸増幅用反応液の組成は、使用する核酸増幅法によって多少異なるが、通常は、上述したクランプ核酸、および両性共重合体に加え、プライマーセットと、基質としてのデオキシヌクレオシド三リン酸(例えば、dATP、dTTP、dCTPおよびdGTP:以下まとめてdNTPと称する)と、核酸合成酵素(例えば、DNAポリメラーゼ)とをバッファー中に含み、場合によっては、核酸合成酵素の補因子として、マグネシウムイオン(例えば、反応液中1~6mMの濃度で含む)を含んでもよい。
また、リアルタイムPCR法等の核酸増幅と増幅された核酸の検出を同時に行う核酸増幅法を用いる場合は、インターカレーター、蛍光標識プローブ、サイクリングプローブ等の適当な検出用試薬も核酸増幅用反応液中に含む。
【0062】
プライマーセットは、対象塩基配列を含む領域を核酸増幅法によって増幅可能であればよく、通常、増幅対象とする領域に隣接する所定の領域にハイブリダイズするように設計されるが、プライマーの配列中に対象塩基配列の一部にハイブリダイズする配列を含んでいてもよい。
プライマーは、DNA、RNA等の核酸よって構成することができる。プライマーの濃度は、通常、反応液中20nM~2μMの範囲で適切な濃度を選択すればよい。プライマーの長さは、通常5~40merであり、好ましくは12~35merであり、より好ましくは14~30merであり、さらに好ましくは15~25merである。プライマー間の距離、即ち増幅対象とする領域は通常50~5000塩基であり、好ましくは100~2000塩基である。プライマーの設計は、マニュアルで行ってもよいし、適当なプライマーデザイン用のソフトウェアを用いてもよい。このようなソフトとしては、例えば、Primer3ソフトウェア(http://frodo.wi.mit.edu)等が挙げられる。
【0063】
dNTPの濃度は、通常dATP、dTTP、dCTPおよびdGTPの反応液中のそれぞれの濃度が100~400μMの範囲となる濃度から選択すればよい。核酸合成酵素としては、例えば、DNAポリメラーゼ、RNAポリメラーゼ、逆転写酵素等が挙げられ、用いる核酸増幅法に応じて、適する性質の酵素を使用すればよい。例えば、PCR法であれば、TaqDNAポリメラーゼ、PfuDNAポリメラーゼ、その他バイオサイエンス関連の各社により開発された各種耐熱性DNAポリメラーゼが好ましく使用される。
【0064】
バッファーは、使用するDNAポリメラーゼの至適pH、および至適塩濃度を有するものを選択することが好ましい。核酸増幅法によっては、更にリボヌクレアーゼH(RNaseH)や逆転写酵素(RT)等を含んでいてもよい。なお、各核酸増幅法について、様々なキットが市販されているので、核酸増幅用反応液は、そのような市販のキットに添付されたものを用いてもよい。
【0065】
核酸増幅反応の鋳型となる核酸、すなわち「試料中の核酸」の反応液中の濃度は、通常反応液100μlあたり0.3ng~3μgとすればよいが、鋳型となる核酸の量が多すぎると非特異的増幅の頻度が増すので、反応液100μlあたり0.5μg以下に抑えることが好ましい。
【0066】
反応液中のクランプ核酸の量としては、試料中の標準塩基配列を有する核酸(例えば、野生型核酸)の量に対する変異を有すると想定される対象塩基配列を有する核酸の量に応じて、対象塩基配列が変異を有する場合に、標準塩基配列を有する核酸の増幅が十分に阻害され、変異を有する対象塩基配列を含む核酸が優先的に増幅される量を選択することが好ましい。試料中では通常、変異型核酸に対して野生型核酸が大多数であるため、10nM~1μMとすることが好ましく、20nM~500nMがより好ましく、50nM~200nMが特に好ましい。
【0067】
反応液中の両性共重合体の濃度は、核酸増幅反応に悪影響を及ぼさずに、クランプ核酸による核酸増幅反応の選択的阻害効果を増強し得るよう適切な濃度を選択することが好ましい。反応液中の両性共重合体の濃度は、重合体の種類によっても異なるが、通常、0.001~0.500質量%とすればよく、好ましくは、0.010~0.300質量%であり、より好ましくは、0.020~0.150質量%であり、特に好ましくは、0.025~0.100質量%である。
【0068】
上述したクランプ核酸と、ジアリルアミン類・二酸化硫黄共重合体とを用いて、試料中の核酸を鋳型とした核酸増幅反応を行うと、クランプ核酸は標準塩基配列を有する核酸に強く結合し、増幅反応の間のプライマーのアニーリングおよび/またはプライマーの伸長を阻害し、共存する両性共重合体はこの阻害効果を増強する。一方、クランプ核酸の結合力は標準塩基配列に対して変異を有する塩基配列に対しては大幅に低下するため、アニーリングおよびプライマーの伸長はほとんど阻害されず通常の核酸増幅反応を生じる。また、両性共重合体は、それ自体では核酸増幅反応を阻害しない。この結果、本実施形態の方法によれば、試料中の核酸中、変異を有する核酸が微量(例えば、0.1%以下または0.05%以下、特に0.02%以下の場合)で、標準塩基配列を有する核酸が支配的な場合であっても、標準塩基配列を有する核酸の増幅が選択的に阻害されて、変異を有する核酸が優先的に増幅されるため、ごく微量に含まれる変異を有する核酸の検出が可能となる。
【0069】
本実施形態の方法においては、上述した核酸増幅反応の特性を利用して変異の存在を検出する。すなわち、標準塩基配列を有する核酸の増幅が選択的に阻害される一方、対象塩基配列が標準塩基配列に対して変異を有する場合には、対象塩基配列を含む領域が優先的に増幅され、その結果、変異の有無により、核酸増幅反応の進行速度、反応産物の量等に差異を生じるため、これらを変異の検出に利用する。
【0070】
本実施形態において、変異の検出は、増幅反応の最終産物に対して検出を行う方法と、増幅反応中に経時的に増幅を確認する方法があり、例えば、得られた核酸増幅産物の総量、前記核酸増幅産物の総量が閾値に達するまでの核酸増幅反応の増幅サイクル数、前記核酸増幅産物中の前記変異を有する核酸の量、又は前記核酸増幅産物中の前記変異を有する核酸量が閾値に達するまでの核酸増幅反応の増幅サイクル数に基づいて、変異を検出することができる。特に、実施の簡便さや適応範囲の広さの点で、核酸増幅産物の総量が閾値に達するまでの核酸増幅反応の増幅サイクル数に基づいて変異を検出する方法が好ましい。
また、ダイレクトシーケンス法等により増幅産物の塩基配列を確認することで、正確かつ高感度の検出ができる。ただし、後述する実施例で実証する通り、本発明の方法によれば、シーケンス決定に寄らずに、正確かつ高感度に変異の検出が可能である。
【0071】
核酸増幅産物の総量に基づいて変異を検出する方法としては、例えば、増幅反応後の溶液をフェノール・クロロホルム(1:1)溶液で除タンパク処理後、水層を直接、またはエタノール沈殿後に、適当な精製キットを用いて精製し、精製溶液の波長260nmの吸光度を、吸光光度計を用いて測定する方法;増幅産物を電気泳動によりアガロースゲル、またはポリアクリルアミドゲルで展開した後、適当なプローブを用いてサザンハイブリダイゼーション法によって検出する方法;金ナノ粒子を用いたクロマトハイブリダイゼーション法によって検出する方法;増幅した核酸による溶液の濁度を測定する方法;増幅プライマーの5’末端を予め蛍光標識しておき、増幅反応後にアガロースゲル、またはポリアクリルアミドゲルで電気泳動後、イメージングプレートに蛍光発光を取り込み、適当な検出装置を用いて検出する方法等が挙げられる。
【0072】
核酸増幅産物の総量が閾値に達するまでの核酸増幅反応の増幅サイクル数に基づいて変異を検出する方法としては、インターカレーター法、TaqManTMプローブ法、サイクリングプローブ法等のリアルタイムPCR法を挙げることができる。なお、前記閾値は、リアルタイムPCR装置(例えば、Step One Plus リアルタイムPCRシステム(Thermo Fisher Scientific社製))によって、自動検出することが可能である。
【0073】
インターカレーター法は、インターカレーター性蛍光色素(インターカレーターということもある)を用いる方法である。インターカレーターは、二本鎖核酸の塩基対間に特異的に結合して蛍光を発する試薬であり、励起光を照射すると蛍光を発する。インターカレーターに由来する蛍光強度の検出に基づいて、プライマー伸長産物の量を知ることができる。本実施形態においては、この蛍光強度をリアルタイムにモニタリングすることにより、核酸増幅産物の総量が閾値に達するまでの核酸増幅反応の増幅サイクル数を知ることができる。本実施形態においては、通常この分野で用いられる任意のインターカレーターを用いることができ、例えば、SYBRTM Green I(Molecular Probe社)、エチジウムブロマイド、フルオレン等が挙げられる。
【0074】
TaqManTMプローブ法は、一方の末端(通常、5’末端)を蛍光基(レポーター)で、他方の末端(通常、3’末端)を消光基で標識した、対象核酸の特定領域にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドプローブを用いたリアルタイムPCR法により、目的の微量な核酸を高感度かつ定量的に検出できる方法である。該プローブは、通常の状態では消光基によってレポーターの蛍光が阻害されている。この蛍光プローブを検出領域に完全にハイブリダイズさせた状態で、その外側からDNAポリメラーゼを用いてPCRを行う。DNAポリメラーゼによる伸長反応が進むと、そのエキソヌクレアーゼ活性により蛍光プローブが加水分解され、レポーター色素が遊離し、蛍光を発する。本実施形態においては、この蛍光強度をリアルタイムにモニタリングすることにより、核酸増幅産物の総量が閾値に達するまでの核酸増幅反応の増幅サイクル数を知ることができる。
【0075】
サイクリングプローブ法は、RNAとDNAからなるキメラプローブとRNase Hの組み合わせによる高感度な検出方法である。該プローブは、RNA部分を挟んで一方が蛍光物質(リポーター)で、もう一方が蛍光を消光する物質(クエンチャー)で標識されている。このプローブは、インタクトな状態ではクエンチングにより蛍光を発しないが、配列が相補的な増幅産物とハイブリッドを形成した後にRNase HによりRNA部分が切断されると、強い蛍光を発するようになる。本実施形態においては、この蛍光強度を測定することにより核酸増幅産物の総量を知ることができ、蛍光強度をリアルタイムにモニタリングすることにより、核酸増幅産物の総量が閾値に達するまでの核酸増幅反応の増幅サイクル数を知ることができる。
この方法は、サイクリングプローブのRNA付近にミスマッチが存在すると、RNase Hによる切断は起こらないため、一塩基の違いも認識できる非常に特異性の高い検出が可能である。サイクリングプローブについても、適当な業者に設計・合成を委託する等して取得することができる。
【0076】
核酸増幅産物中の塩基変異を有する核酸量に基づいて変異を検出する方法としては、サンガーシーケンシング法、融解曲線分析法等を挙げることができる。
【0077】
核酸増幅産物中の塩基変異を有する核酸量が閾値に達するまでの核酸増幅反応の増幅サイクル数に基づいて変異を検出する方法としては、塩基変異を有する核酸に特異的に結合するプローブを用いて、前記リアルタイムPCR法を適用することを挙げることができる。
【0078】
2.対象塩基配列中の変異を検出するためのキット
本発明は、他の実施形態において、上述した対象塩基配列中の変異を検出する方法を実施するためのキットを提供する。本実施形態によるキットは、
標準塩基配列に相補的な塩基配列を有し、少なくとも1残基の非天然型核酸を含む、クランプ核酸と、
構造中にアミノ基を含むカチオン性構成単位(1)と、アニオン性構成単位(2)とを有し、前記アニオン性構成単位(2)に対するカチオン性構成単位(1)のモル比(カチオン性構成単位(1)/アニオン性構成単位(2))が0.13~1.62の範囲にある、両性共重合体と、
場合によって、対象塩基配列を含む領域を核酸増幅法によって増幅可能なプライマーセットと、
場合によって、核酸増幅反応を実施するためのその他の試薬とを含む。
【0079】
クランプ核酸、両性共重合体、およびプライマーセットの詳細は、対象塩基配列中の変異を検出する方法で述べた通りであり、好ましい実施形態および具体例も当該方法と同様である。
【0080】
核酸増幅反応を実施するためのその他の試薬としては、ヌクレオシド三リン酸、核酸合成酵素、および増幅反応用緩衝液が挙げられる。ヌクレオシド三リン酸は、核酸合成酵素に応じた基質(dNTP、rNTP等)を含み得る。核酸合成酵素は、キットが対象とする核酸増幅法に応じた酵素であり、DNAポリメラーゼ、RNAポリメラーゼ、逆転写酵素等が挙げられる。増幅反応用の緩衝液としては、例えば、トリス緩衝液、リン酸緩衝液、ベロナール緩衝液、ホウ酸緩衝液、グッド緩衝液等、通常の核酸増幅反応やハイブリダイゼーション反応を実施する場合に用いられる緩衝液が挙げられ、そのpHも特に限定されないが、通常5~9の範囲が好ましい。
【0081】
本実施形態によるキットはまた、上述した核酸増幅反応産物を検出するための試薬を含み得る。例えば、リアルタイムPCRのために用いられる、インターカレーター、蛍光標識プローブ、サイクリングプローブ等が挙げられる。
また、安定化剤、防腐剤等の、核酸増幅反応試薬で一般的に用いられる他の成分も含み得る。
【0082】
なお、プライマーセットおよび核酸増幅反応を実施するためのその他の試薬は、核酸増幅反応を実施するために必要であるが、キット中に含まれない場合もある。また、核酸増幅反応産物を検出するための試薬や、安定化剤、防腐剤等の他の成分は核酸増幅反応において任意成分であり、キット中に含まれない場合もある。
【0083】
3.核酸増幅反応において、所定の対象塩基配列を有する核酸の増幅を阻害する方法
本発明は、更に他の実施形態において、所定の対象塩基配列を有する核酸の増幅を阻害する方法を提供する。この方法では、
対象塩基配列に相補的な塩基配列を有し、少なくとも1残基の非天然型核酸を含む、クランプ核酸と、
構造中にアミノ基を含むカチオン性構成単位(1)と、アニオン性構成単位(2)とを有し、前記アニオン性構成単位(2)に対するカチオン性構成単位(1)のモル比(カチオン性構成単位(1)/アニオン性構成単位(2))が0.13~1.62の範囲にある、両性共重合体と
を用いて前記核酸を鋳型とした核酸増幅反応を、を実施する。
【0084】
この実施形態における方法では、「試料」は、増幅阻害対象と成る核酸を含み得ると想定される試料であり、「対象塩基配列」は、増幅阻害の対象となる塩基配列であり、「試料中の核酸」は、増幅阻害の対象となる塩基配列を含み得る核酸である。但し、これらの用語は、「試料中の核酸」が、実際に増幅阻害の対象となる塩基配列を含むことまでは意味しない。
また、この実施形態における「クランプ核酸」は、「対象塩基配列」に相補的な塩基配列を有し、このような「クランプ核酸」の存在により、当該「対象塩基配列」を有する核酸の増幅が阻害される。
【0085】
本実施形態においては、核酸増幅反応において、上記特定の両性共重合体が、対象塩基配列に相補的な塩基配列を有するクランプ核酸と共存することにより、対象塩基配列を有する核酸の増幅を阻害するクランプ核酸による効果が増強され、試料中に当該対象塩基配列を有する核酸が大量に存在する場合でも当該核酸の増幅を選択的に阻害することができる。
【0086】
試料、および試料中の核酸のその他の点は、対象塩基配列中の変異を検出する方法で述べた通りであり、好ましい実施形態および具体例も当該方法と同様である。また、クランプ核酸、および両性共重合体の詳細も、対象塩基配列中の変異を検出する方法で述べた通りであり、好ましい実施形態および具体例も当該方法と同様である。また、核酸増幅反応の実施および核酸増幅反応を実施するための試薬の詳細も、対象塩基配列中の変異を検出する方法およびキットで述べた通りであり、好ましい実施形態および具体例も当該方法およびキットと同様である。もっとも、本実施形態の方法では、所定の対象塩基配列を有する核酸の増幅阻害を検出することは必須では無く、この様な検出のために必要な工程および試薬は、必要に応じて実施若しくは使用する。
【0087】
4.核酸増幅反応において、所定の対象塩基配列を有する核酸の増幅を阻害するためのキット
本発明は、更に他の実施形態において、上述した、核酸増幅反応において、対象塩基配列を有する核酸の増幅を阻害する方法を実施するためのキットを提供する。本実施形態によるキットは、
対象塩基配列に相補的な塩基配列を有し、少なくとも1残基の非天然型ヌクレオチドを含む、クランプ核酸と、
構造中にアミノ基を含むカチオン性構成単位(1)と、アニオン性構成単位(2)とを有し、前記アニオン性構成単位(2)に対するカチオン性構成単位(1)のモル比(カチオン性構成単位(1)/アニオン性構成単位(2))が0.13~1.62の範囲にある、両性共重合体と、
場合によって、対象塩基配列を含む領域を核酸増幅法によって増幅可能なプライマーセットと、
場合によって、核酸増幅反応を実施するためのその他の試薬とを含む。
【0088】
本実施形態における「試料」、「対象塩基配列」、「試料中の核酸」および「クランプ核酸」との用語の意義は、核酸増幅反応において対象塩基配列を有する核酸の増幅を阻害する方法で述べたものと同様である。
また、試料、および試料中の核酸のその他の点は、対象塩基配列中の変異を検出する方法で述べた通りであり、好ましい実施形態および具体例も当該方法と同様である。また、クランプ核酸、および両性共重合体の詳細も、対象塩基配列中の変異を検出する方法で述べた通りであり、好ましい実施形態および具体例も当該方法と同様である。また、核酸増幅反応の実施および核酸増幅反応を実施するための試薬の詳細も、対象塩基配列中の変異を検出する方法およびキットで述べた通りであり、好ましい実施形態および具体例も当該方法と同様である。
【0089】
5.クランプ核酸による核酸増幅阻害を増強する核酸増幅阻害増強剤
本発明は、更に他の実施形態において、核酸増幅反応において、クランプ核酸によるそれに相補的な塩基配列を有する核酸の増幅阻害効果を増強する核酸増幅阻害増強剤を提供する。
この増強剤は、構造中にアミノ基を含むカチオン性構成単位(1)と、アニオン性構成単位(2)とを有し、前記アニオン性構成単位(2)に対するカチオン性構成単位(1)のモル比(カチオン性構成単位(1)/アニオン性構成単位(2))が0.13~1.62の範囲にある、両性共重合体を含む。
この増強剤を用いて行う「核酸増幅」は、「前記対象塩基配列に相補的な塩基配列を有し、少なくとも1残基の非天然型ヌクレオチドを含む、クランプ核酸」を用いて行われるものであり、本実施形態における「試料」、「対象塩基配列」、「試料中の核酸」および「クランプ核酸」との用語の意義は、核酸増幅反応において、対象塩基配列を有する核酸の増幅を阻害する方法で述べたものと同様である。
また、本実施形態による「クランプ核酸により阻害する効果の増強剤」は、上記両性共重合体を含むが、これも対象塩基配列中の変異を検出する方法で述べた通りであり、好ましい実施形態および具体例も当該方法と同様である。
【実施例】
【0090】
以下、本発明を実施例によってさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0091】
1.ポリマー添加によるPCR反応への影響
本発明の方法に使用可能な特定の両性共重合体(実施品)又は比較品のポリマー若しくはモノマーをPCR反応液中に添加して、PCR反応への影響を確認した。
【0092】
1―1.使用したポリマー水溶液
以下の表に示されるポリマー又はモノマーを水に溶解し、pH7.0、10質量%の水溶液を調製した。なお、表中、製品名は全てニットーボーメディカル株式会社の製品名であり、重合体1~18の重合条件は以下の通りである。
重合体1:温度計、撹拌機、冷却管を備えた500mLの四つ口フラスコに66.78質量%ジアリルアミン塩酸塩160.07g(0.80モル)、無水マレイン酸78.45g(0.80モル)、蒸留水91.86gを仕込み、内温を50℃に昇温した。28.5質量%の過硫酸アンモニウム水溶液を、当該水溶液中の過硫酸アンモニウム量がモノマー全量に対して0.5質量%となる量だけ添加し重合を開始した。4時間後にモノマー全量に対して過硫酸アンモニウムが0.5質量%となる量、20、26時間後にモノマー全量に対して過硫酸アンモニウムが1.0質量%となる量、45、51時間後にモノマー全量に対して過硫酸アンモニウムが1.5質量%となる量の前記過硫酸アンモニウム水溶液を添加し、68時間反応させた。
重合体2:温度計、撹拌機、冷却管を備えた20Lの四つ口フラスコに無水マレイン酸1.86kg(19.0モル)と蒸留水0.34kgを仕込み、ジアリルメチルアミン2.11kg(19.0モル)を冷却下で滴下した。その後、内温を50℃に昇温した。28.5質量%の過硫酸アンモニウム水溶液をモノマー全量に対して過硫酸アンモニウムが0.5質量%となる量だけ添加し重合を開始させた。3、21、25時間後にモノマー全量に対して過硫酸アンモニウムが1.0質量%となる量の前記過硫酸アンモニウム水溶液を添加し、さらに一晩反応させた。
重合体3:温度計、撹拌機、冷却管を備えた3Lの四つ口フラスコに蒸留水842.93g、無水マレイン酸488.34g(4.98モル)を仕込んだ。その後、冷却しながらアリルアミン342.60g(6.00モル)を滴下し、65℃に昇温した。28.5質量%の過硫酸アンモニウム水溶液をモノマー全量に対して過硫酸アンモニウムが1モル%となる量だけ添加し重合を開始させた。3時間後にモノマー全量に対して過硫酸アンモニウムが1モル%、24、28時間後にモノマー全量に対して過硫酸アンモニウムが2モル%となる量の前記過硫酸アンモニウム水溶液を添加しさらに一晩反応させた。
重合体4:温度計、撹拌機、冷却管を備えた300mLの四つ口フラスコに、ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド塩酸塩(固形分濃度51.2質量%)を16.15(0.04モル相当)、アクリルアミド(固形分濃度97質量%)を2.93g (0.04モル相当)、アクリル酸(固形分濃度99%質量%)を5.82g(0.08モル相当)、蒸留水を143.86g仕込み、60℃に昇温した。2時間毎にモノマー全量に対して過硫酸アンモニウムがそれぞれ0.25、0.5、0.5、0.75モル%となる量の、28.5質量%の過硫酸アンモニウム水溶液を添加し、一晩反応を継続した。
重合体5:温度計、撹拌機、冷却管を備えた300mLの四つ口フラスコに、ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド塩酸塩(固形分濃度51.2質量%)を20.17g (0.05モル相当)、アクリルアミド(固形分濃度97質量%)を3.66g (0.05モル相当)、メタクリル酸(固形分濃度99質量%)を8.69g (0.10モル相当)、蒸留水を192.43g仕込み、60℃に昇温した。2時間毎にモノマー全量に対して過硫酸アンモニウムがそれぞれ0.25、0.5、0.5、0.75モル%となる量の、28.5質量%の過硫酸アンモニウム水溶液を添加し、一晩反応を継続した。
重合体6:温度計、撹拌機、冷却管を備えた300mLの四つ口フラスコに、ジアリルアミン塩酸塩 (固形分濃度65.40質量%)を20.43g(0.1モル相当)、蒸留水を110.9g仕込み、65℃に昇温した。モノマー全量に対して過硫酸アンモニウムが2.0モル%となる量の28.5質量%の過硫酸アンモニウムを添加後、30分経過してからアクリルアミド(固形分濃度97質量%)を7.11g (0.1モル相当)、アクリル酸(固形分濃度99質量%)を14.56g (0.2モル相当)、蒸留水を21.15g混合した溶液を3時間かけて滴下し、一晩反応を継続した。
重合体7:温度計、撹拌機、冷却管を備えた300mLの四つ口フラスコに、ジアリルアミン (濃度100質量%)を29.15g(0.30モル相当)、フマル酸(濃度100質量%)を27.86g(0.24モル相当)、蒸留水を227.45g仕込み、50℃に昇温した。次亜リン酸ナトリウム(濃度100質量%)を0.57g(0.0054モル相当)添加し、28.5質量%の過硫酸アンモニウム水溶液をモノマー全量に対して過硫酸アンモニウムが10質量%となる量だけ8分割して添加し、50℃で重合を行った。
重合体8:温度計、撹拌機、冷却管を備えた300mLの四つ口フラスコに51.2%N-ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド塩酸塩16.15g(0.04モル)、97.0%アクリルアミド5.86g(0.08モル)、99.0%アクリル酸5.82g(0.08モル)、蒸留水169.36gを仕込み、内温を60℃に昇温した。28.5質量%の過硫酸アンモニウム水溶液をモノマー全量に対して過硫酸アンモニウムが0.25モル%となる量を添加し重合を開始した。2、4時間後にモノマー全量に対して過硫酸アンモニウムが0.5モル%となる量、6時間後にモノマー全量に対して過硫酸アンモニウムが0.75モル%となる量の前記過硫酸アンモニウム水溶液を添加し24時間反応させた。
重合体9:温度計、撹拌機、冷却管を備えた300mLの四つ口フラスコに51.2%N-ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド塩酸塩14.13g(0.035モル)、97.0%アクリルアミド2.56g(0.035モル)、99.0%アクリル酸10.19g(0.140モル)、蒸留水171.23gを仕込み、内温を60℃に昇温した。28.5質量%過硫酸アンモニウム水溶液をモノマー全量に対して過硫酸アンモニウムが0.25モル%となる量だけ添加し重合を開始した。2、4時間後にモノマー全量に対して過硫酸アンモニウムが0.5モル%となる量、6時間後にモノマー全量に対して過硫酸アンモニウムが0.75モル%となる量の前記過硫酸アンモニウム水溶液を添加し24時間反応させた。
重合体10:温度計、撹拌機、冷却管を備えた300mLの四つ口フラスコに、ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド塩酸塩(固形分濃度51.2質量%)を18.17g (0.05モル相当)、蒸留水を74.86g仕込み、60℃に昇温した。1時間毎に28.5質量%の過硫酸アンモニウム水溶液をモノマー全量に対して過硫酸アンモニウムがそれぞれ0.25、0.5、0.5、0.75モル%となる量だけ添加し、60℃で一晩反応を継続した。
重合体11:温度計、撹拌機、冷却管を備えた300mLの四つ口フラスコに、蒸留水を189.16g(単量体濃度10質量%となる量)仕込み、60℃に昇温した。28.5質量%の過硫酸アンモニウム水溶液をモノマー全量に対して過硫酸アンモニウムが3.0質量%となる量だけ添加後、40質量%のアクリル酸水溶液63.06gを3時間かけて滴下し、60℃で一晩反応を継続した。
重合体12:温度計、撹拌機、冷却管を備えた1Lの四つ口フラスコに57.22質量%のアリルアミン塩酸塩10.63g(0.065モル)と65.22質量%のジアリルアミン塩酸塩253.02g(1.235モル)と蒸留水31.35gを仕込み、60℃に昇温した。28.5質量%の過硫酸アンモニウム水溶液をモノマー全量に対して過硫酸アンモニウムが0.25質量%となる量だけ添加し重合を開始させた。3、5、21時間後にモノマー全量に対して過硫酸アンモニウムが0.25質量%となる量、23、25、27、29時間後にモノマー全量に対して過硫酸アンモニウムが0.50質量%となる量の前記過硫酸アンモニウム水溶液を添加し、さらに一晩反応させた。
重合体13:温度計、撹拌機、冷却管を備えた300mLの四つ口フラスコに65.0%ジアリルジメチルアンモニウムクロリド124.37g(0.50モル)、アクリルアミド4.44g(0.06モル)、次亜リン酸ナトリウム0.85g、蒸留水84.39gを仕込み、内温を50℃に昇温した。28.5質量%過硫酸アンモニウム水溶液をモノマー全量に対して過硫酸アンモニウムが0.2質量%となる量だけ添加し重合を開始した。4時間後にモノマー全量に対して過硫酸アンモニウムが0.3質量%となる量、23時間後にモノマー全量に対して過硫酸アンモニウムが0.5質量%となる量、28時間後にモノマー全量に対して過硫酸アンモニウムが1.0質量%となる量の前記過硫酸アンモニウム水溶液を添加し48時間反応させた。
重合体14:温度計、撹拌機、冷却管を備えた1Lの四つ口フラスコに58.01質量%のアリルアミン塩酸塩209.67g(1.3モル)と63.61質量%のジメチルアリルアミン塩酸塩248.51g(1.3モル)を仕込み、60℃に昇温した。開始剤V-50(2,2′-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩)をモノマー全量に対してV-50が12モル%となる量だけ3分割して添加し、72時間重合を行った。その後、48時間60℃で加熱分解処理した。その後、30℃以下の冷却下で濃度25質量%の水酸化ナトリウムを449.28g(2.81モル)添加し、40℃で24時間反応させた。その後、エバポレーターによる脱モノマー(50℃、3時間)を行った。脱モノマー後、濃度15%に調整して電気透析による脱塩(約3時間、電導度が下がりきってから1時間後に終了)を行った。
重合体15:攪拌機、温度計、ガラス栓を備えた100mlの三口フラスコに蒸留水25.95gとジアリルメチルアミン塩酸塩水溶液0.088モルとアクリルアミドを0.011モル仕込み、55℃に昇温した。28.5質量%の過硫酸アンモニウム水溶液をモノマー全量に対して過硫酸アンモニウムが4.0モル%となる量だけ7分割して添加し、55℃で重合を行った。
重合体16:攪拌機、温度計、ガラス栓を備えた100mlの三口フラスコに蒸留水24.71gとジアリルメチルアミン塩酸塩水溶液0.06モルとN-イソプロピルアクリルアミドを0.06モル仕込み、55℃に昇温した。28.5質量%の過硫酸アンモニウム水溶液をモノマー全量に対して過硫酸アンモニウムが3.25モル%となる量だけ7分割して添加し、55℃で重合を行った。
重合体17:温度計、撹拌機、冷却管を備えた300mLの四つ口フラスコに、ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド塩酸塩(固形分濃度51.2質量%)を32.30g(0.08モル相当)、アクリルアミド(固形分濃度97質量%)を2.93g (0.04モル相当)、アクリル酸(固形分濃度99%質量%)を2.91g(0.04モル相当)、蒸留水を184.49g仕込み、60℃に昇温した。2時間毎にモノマー全量に対して過硫酸アンモニウムがそれぞれ0.25、0.5、0.5、0.75モル%となる量の、28.5質量%の過硫酸アンモニウム水溶液を添加し、一晩反応を継続した。
重合体18:温度計、撹拌機、冷却管を備えた300mLの四つ口フラスコに、ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド塩酸塩(固形分濃度51.2質量%)を32.30g(0.08モル相当)、アクリルアミド(固形分濃度97質量%)を2.93g (0.04モル相当)、メタクリル酸(固形分濃度99%質量%)を3.44g(0.04モル相当)、蒸留水を189.55g仕込み、60℃に昇温した。2時間毎にモノマー全量に対して過硫酸アンモニウムがそれぞれ0.25、0.5、0.5、0.75モル%となる量の、28.5質量%の過硫酸アンモニウム水溶液を添加し、一晩反応を継続した。
【表1-1】
【表1-2】
【0093】
1-2.PCR反応液
下記の表に示す組成のPCR反応液を調製した。
【表2】
【0094】
1-3.プライマーおよび鋳型DNA
PCR反応で使用したフォワードプライマーおよびリバースプライマーの配列は下記表に示す通りである。
【表3】
各プライマーはKRAS遺伝子(塩基配列は、例えば、NCBI(DB名)で確認できる)をターゲットとして、Primer3(http://frodo.wi.mit.eduから入手)を使用して設計した。
鋳型DNAとして、以下の塩基配列(増幅対象配列)を含む、HCC70細胞から抽出したゲノムを使用した。
【化27】
なお、HCC70細胞ゲノム中、上記塩基配列を含み、これに隣接する塩基配列は以下の通りである。
【化28】
【0095】
1-4.リアルタイムPCRシステム
Step One Plus リアルタイムPCRシステム(Thermo Fisher Scientific)を使用した。
【0096】
1-5.PCR反応
調製したPCR反応溶液20μLを、リアルタイムPCRシステムにセットし、下記表に記載のステップ(i)を行った後、ステップ(ii)~(iv)を40サイクル繰り返した。
【表4】
40サイクル終了後、ステップ(v)~(vii)を行い、反応を終了した。サイクル毎に反応液の蛍光強度を測定することで、DNA増幅量をモニターした。また、反応の終了後、蛍光強度がThreshold Lineに達しているか否かで、PCR反応の阻害の有無を判定した。Threshold Lineは、上記装置により自動算出した。一部、実験によりやむを得ず通常より低く設定されてしまう場合は、ほかの実験と同列に比較するため、手動にてΔRn値0.7~1.2の間に設定した。
【0097】
1-5.結果
PCR反応の成否を下記の表に示す。
【表5-1】
【表5-2】
また、PCR反応を阻害しない場合の核酸増幅曲線の例(実施例2のジアリルメチルアミン・マレイン酸1:1の共重合体)と阻害する場合の核酸増幅曲線の例(比較例7のジアリルジメチルアンモニウムクロリド・アクリルアミド8:1の共重合体)をそれぞれ
図1に示す。
【0098】
上記の通り、構造中にアミンを含むカチオン性構成単位と、アニオン性構成単位とを有し、カチオン性構成単位/アニオン性構成単位が0.25~1.25の範囲にある、両性共重合体である、実施例1~9のポリマーを添加した場合、又は、比較例13又は14のモノマーを添加した場合には、PCR反応を阻害しなかった。
【0099】
2.BNA clampによる野生型遺伝子の選択的増幅阻害効果のポリマーによる増強
試験1でPCR反応を阻害しないことを確認した実施例1~9のポリマー並びに比較例13及び14のモノマーを、BNA clamp PCRにおける野生型KRAS遺伝子の増幅阻害効果の増強について評価した。
【0100】
2-1.使用したポリマー又はモノマー
実施例1~9のポリマー並びに比較例13及び14のモノマーを使用した。各ポリマー又はモノマーをヌクレアーゼフリーの水に溶解し、pH7.0で、濃度が10%のポリマー又はモノマーの水溶液を調製して使用した。
得られた10%濃度のポリマー水溶液又はモノマー水溶液は、それぞれ、試験1の結果からPCR反応を阻害しない範囲の濃度に希釈した。下記表に本試験で使用した各ポリマー又はモノマーの水溶液の濃度および反応液中のポリマー又はモノマーの濃度を示す。
【表6】
【0101】
2-2.使用したキット
変異型KRAS遺伝子を検出するためのキットである、BNA Clamp KRAS Enrichment Kit(理研ジェネシス社)の付属物を使用した。詳細は、以下に記載するが、Primer set、及びBNA clampは、キット付属物を用いた。また、real-time PCRの反応条件はキットプロトコールに準拠した。
【0102】
2-3.プライマー、BNA clampおよび鋳型DNA
以下の表に示すフォワードプライマー、リバースプライマーおよびBNA clampを使用した。
【表7】
また、標準塩基配列を有する鋳型DNAとして、以下の塩基配列(増幅対象配列;後述する配列番号10の塩基配列と異なる塩基を下線太字で示した)を含む、野生型KRAS遺伝子を有するHCC70細胞のゲノムを使用した。
【化29】
なお、HCC70細胞ゲノム中、上記塩基配列とそれに隣接する塩基配列は以下の通りである(後述する配列番号11の塩基配列と異なる塩基を下線太字で示した)。
【化30】
他方、標準塩基配列に対する変異を有する鋳型DNAとして、以下の塩基配列(増幅対象配列;前述の配列番号8の塩基配列と異なる塩基を下線太字で示した)を含む、変異型KRAS遺伝子を有するMDA-MB-231細胞のゲノムを使用した。
【化31】
なお、MDA-MB-231細胞ゲノム中、上記塩基配列およびそれに隣接する塩基配列は以下の通りである(前述の配列番号9の塩基配列と異なる塩基を下線太字で示した)。
【化32】
【0103】
2-4.BNA clamp PCR反応液
下記の表に示す組成の反応液1~4を調製した。反応液1又は反応液2において、ポリマー又はモノマーの濃度は0.025質量%であった。反応液1又は反応液2において、ポリマー又はモノマーの濃度は、前記表6に示すとおりであった。
【表8】
【表9】
【表10】
【表11】
【0104】
2-5.リアルタイムPCRシステム
Step One Plus リアルタイムPCRシステム(Thermo Fisher Scientific)を使用した。
【0105】
2-6.PCR反応
調製した各反応溶液20μLを、PCR用チューブに秤取し、PCR用チューブをリアルタイムPCRシステムにセットし、下記表に記載のステップ(i)を行った後、ステップ(ii)~(iv)を50サイクル繰り返した。50サイクル終了後、ステップ(v)~(vii)を行い、反応を終了した。サイクル毎に反応液の蛍光強度を測定することで、DNA増幅量をモニターし、各反応液の増殖曲線を得た。
【表12】
【0106】
2-7.ポリマー添加または無添加の場合のΔCt(WT)およびΔCt(Mutant)の算出、ポリマー添加または無添加の場合のΔΔCtの算出、ならびにΔΔΔCtの算出
反応液1(ポリマー添加、BNA clamp添加)、反応液2(ポリマー添加、BNA clamp無添加)、反応液3(ポリマー無添加、BNA clamp添加)、および反応液4(ポリマー無添加、BNA clamp無添加)を、テンプレートDNAとして、野生型KRAS遺伝子又は変異型KRAS遺伝子を用いて、上記PCR反応を行って増幅曲線を得、各条件の増幅曲線から、設定したThreshold LineよりそれぞれのCt値を得た(ほとんどの実験区分において、Threshold Lineは、装置により自動算出した。一部、実験によりやむを得ず通常より低く設定されてしまう場合は、ほかの実験と同列に比較するため、手動にてΔRn値を0.7~1.2の間に設定した)。
【0107】
次いで、以下の式により、ポリマー無添加の場合のΔCt(WT)およびΔCt(Mutant)を算出した。
【数1】
【数2】
【0108】
更に、インターカレーター法における非特異的な増幅が無いことの確認のため、以下の式によりポリマー無添加の場合のΔΔCtを算出した。
【数3】
ポリマー無添加の場合のΔΔCt>0の場合、インターカレーター法における非特異的な増幅が無いことが理解される。
【0109】
次に、以下の式により、ポリマー添加の場合のΔCt(WT)およびΔCt(Mutant)を算出し、更に、インターカレーター法における非特異的な増幅が無いことの確認のため、ポリマー添加の場合のΔΔCtを算出した。
【数4】
【数5】
【数6】
ポリマー添加の場合のΔΔCt>0の場合、インターカレーター法における非特異的な増幅が無いことが理解される。
【0110】
最後に、BNA clampによる野生型遺伝子の選択的増幅阻害効果のポリマー添加による増強を評価するための指標として、下記式によりΔΔΔCtを算出した。
【数7】
試験上起こり得る結果の揺らぎを考慮しても、インターカレーター法のような野生型遺伝子の増幅サイクル数を基準とした変異検出法を用いた場合において、ΔΔΔCt≧1.00であれば、BNA clampによる野生型遺伝子の選択的増幅阻害効果を十分に増強したと評価できる。また、インターカレーター法のような野生型遺伝子の増幅サイクル数を基準とした変異検出法を用いた場合において、ΔΔΔCt≧3.20であれば、BNA clampによる野生型遺伝子の選択的増幅阻害効果を著しく増強したと評価できる。なお、ΔΔΔCt=3.20が、感度が約10倍向上する目安となる。
【0111】
2-8.結果
試験結果を以下に纏めて示す。
【表13】
【0112】
上記の試験結果から、実施例1~9のポリマーを添加すると、変異型遺伝子の増幅は阻害せずに、BNA clampによる野生型遺伝子の選択的増幅阻害効果を増強することが明らかとなった。また、実施例1、2、4~9のポリマー(カチオン性構成単位が第2級アミノ基又は第3級アミノ基を有する両性共重合体)は、実施例3のポリマー(カチオン性構成単位が第1級アミノ基を有する両性共重合体)よりも、クランプ核酸による核酸増幅の阻害効果の増強効果が大きいことが明らかとなった。このように野生型遺伝子の選択的増幅阻害効果を増強する一例のグラフを
図2に示す。
【0113】
3.ポリマー添加によるBNA clamp PCRの高感度化
上記試験でBNA clampによる野生型遺伝子の選択的増幅阻害効果を増強する効果が確認された実施例1、2、4および6のポリマーを用いて、BNA clamp PCRの高感度化を試みた。
【0114】
3-1.使用ポリマー
実施例1、2、4および6のポリマーを用いた。各ポリマー溶液の濃度及びPCR反応液中における最終濃度を以下の表に示す。
【表14】
【0115】
3-2.使用したキット
試験2と同じキットの付属物を使用した。
【0116】
3-3.鋳型DNA
標準塩基配列を有する鋳型DNAとして、配列番号8の塩基配列を含む、野生型KRAS遺伝子を有するHCC70細胞のゲノムを使用した。また、標準塩基配列に対する変異を有する鋳型DNAとして、配列番号10の塩基配列を含む、変異型KRAS遺伝子を有するMDA-MB-231細胞のゲノムを使用した。
本試験では、鋳型DNA全体の量が、2.0μL中に50ngとなるようにしながら、全鋳型DNA中の変異型遺伝子の鋳型DNAの質量%が、以下の表となるように、野生型遺伝子の鋳型DNAと変異型遺伝子の鋳型DNAを混合し、得られた各鋳型DNA混合物と、野生型遺伝子の鋳型DNAをPCR反応に使用した。
【表15】
【0117】
3-4.プライマー、およびBNA clamp
試験2と同じプライマー、およびBNA clampを使用した。
【0118】
3-5.BNA clamp PCR反応液
下記の表に示す組成の反応液1および2を調製した。なお、反応液1において、ポリマーの濃度は、前記表14に示すとおりであった。
【表16】
【表17】
【0119】
3-6.リアルタイムPCRシステムおよびPCR反応
試験2と同じリアルタイムPCRシステムを使用して、試験2と同じ条件でPCR反応を実施した。
【0120】
3-7.ポリマー添加または無添加の場合のδCt(Mutant10%~0.01%)の決定、ならびにポリマー添加または無添加の場合のδδCt(Mutant10%~0.01%)の算出
反応液1(ポリマー添加、BNA clamp添加)、および反応液2(ポリマー無添加、BNA clamp添加)を、鋳型DNAまたは各鋳型DNA混合物を用いて、上記PCR反応に供して増幅曲線を得、各条件の増幅曲線から、試験2と同様にして、Ct(Mutant10%~0%)を決定し、以下の表に示すように、Ct(Mutant0%、WT)から各変異型遺伝子テンプレート濃度のCt(Mutant10%~0.01%)を引いて、各ポリマー添加または無添加の場合のδCt(Mutant10%~0.01%)を算出した。
【表18】
【表19】
最後に、それぞれ、ポリマー添加の場合のδCt(Mutant10%~0.01%)からポリマー無添加の場合のδCt(Mutant10%~0.01%)を引いて、δδCt(Mutant10%~0.01%)を算出した。
インターカレーター法のような野生型遺伝子の増幅サイクル数を基準とした変異検出法を用いた場合において、δδCt>0の場合、ポリマーを添加することで、変異型遺伝子が特異的に検出され、変異型遺伝子の増幅曲線が野生型遺伝子の増幅曲線から区別されていることを意味する(参考文献:特許文献11)。
【0121】
3-8.結果
試験結果を以下の表および
図3に纏めて示す。なお、Mutant比率0.01%の場合のポリマー無添加時δCtは、-0.68であった。
【表20】
【0122】
本試験の結果、ポリマー無添加の場合では、Mutant比率が0.01質量%で、δCtが0未満となり、変異型遺伝子の増幅曲線を野生型遺伝子の増幅曲線から区別できないが、実施例1、2、4または6のポリマーを添加した場合では、0.01質量%のMutant比率でも変異型遺伝子の増幅曲線を野生型遺伝子の増幅曲線から区別できることが明らかとなった。また、特に実施例2のポリマー(カチオン性構成単位が前記一般式(I-a)若しくは一般式(I-b)で表される構造を有する構成単位であり、アニオン性構成単位が前記一般式(II-a)で表される構成単位である両性共重合体)を添加した場合では、Mutant比率が0.1%以下の条件において、クランプ核酸による核酸増幅の阻害効果の増強効果が特に大きくなることが明らかになった。なお、本実験においては、BNA clamp無添加反応液について試験していないものの、試験2の結果から、BNA clamp無添加反応液においてもポリマー添加の有無に関わらず、非特異的な増幅が無いことは明らかである。
【0123】
4.KRAS以外の変異型遺伝子への適応可能性1(BNA clampによる野生型遺伝子の選択的増幅阻害効果のポリマーによる増強)
4-1.使用したポリマー
試験2で用いたポリマーのうち、実施例1、2、4、6および7のポリマーを使用した。それぞれのポリマー溶液濃度及びPCR反応液中におけるポリマー濃度は、下記表の通りとした。
【表21】
【0124】
4-2.使用したキット
変異型BRAF遺伝子を検出するためのキットである、BNA Clamp BRAF Enrichment Kit(理研ジェネシス社)の付属物を使用した。詳細は、以下に記載するが、Primer set及び、BNA clampは、キット付属物を用いた。また、real-time PCRの反応条件はキットプロトコールに準拠した。
【0125】
4-3.鋳型DNA
標準塩基配列を有する鋳型DNAとして、以下の塩基配列(後述する配列番号13の塩基配列と異なる塩基を下線太字で示した)を含む、野生型BRAF遺伝子を有するHCC70細胞のゲノムを使用した。
【化33】
なお、上記配列は、増幅対象配列以外の塩基配列を含むと理解されることに留意すべきである。
他方、標準塩基配列に対する変異を有する鋳型DNAとして、以下の塩基配列(前述の配列番号12の塩基配列と異なる塩基を下線太字で示した)を含む、変異型BRAF遺伝子を有するDU4475細胞のゲノムを使用した。
【化34】
なお、上記配列は、増幅対象配列以外の塩基配列を含むと理解されることに留意すべきである。
【0126】
4-4.BNA clamp PCR反応液
下記の表に示す組成の反応液1~4を調製した。なお、反応液1又は反応液2において、ポリマーの濃度は、前記表21に示すとおりであった。
【表22】
【表23】
【表24】
【表25】
【0127】
4-5.リアルタイムPCRシステムおよびPCR反応
試験2と同じシステムを用い、試験2と同様にしてPCR反応を実施した。
4-6.ポリマー添加または無添加の場合のΔCt(WT)およびΔCt(Mutant)の算出、ポリマー添加または無添加の場合のΔΔCtの算出、ならびにΔΔΔCtの算出
試験2と同様に実施した。
【0128】
4-7.結果
試験結果を以下に纏めて示す。
【表26】
【0129】
上記の通り、いずれのポリマーもKRAS遺伝子と同様にBNA clampによる野生型遺伝子の選択的増幅阻害効果を増強した。増幅阻害効果は、いずれも10倍感度上昇の目安であるΔΔΔCt=3.2よりも大きいことが分かった。
【0130】
5.plasmid DNAを用いたBNA clamp PCRの高感度化確認とPCR産物のシーケンス解析
5-1.使用したポリマー
試験3と同じポリマー(実施例1、2、4および6のポリマー)を用いた。各ポリマー溶液の濃度及びPCR反応液中における濃度を以下の表に示す。
【表27】
【0131】
5-2.使用したキット
試験2と同じキットの付属物を使用した。
5-3.鋳型DNA
鋳型DNAは、
図4に示すKRAS WT/Mutant plasmid DNAを用いた。鋳型DNAにおけるMutant DNAの含有率(Mutant比率)は0.01%とした。なお、
図4中、KRAS WT plasmid DNAの場合、挿入配列は、以下の配列番号14に示す配列であり、KRAS Mutant plasmid DNAの場合、以下の配列番号15に示す配列であった。なお、いずれの配列においても、最後の6塩基(AAGCTT)が、Hind IIIの認識配列である。
【化35】
【化36】
【0132】
5-4.プライマー、およびBNA clamp
試験2と同じプライマー、およびBNA clampを使用した。
【0133】
5-5.BNA clamp PCR反応液
下記の表に示す組成の反応液1および2を調製した。
【表28】
【表29】
【0134】
5-6.リアルタイムPCRシステムおよびPCR反応
試験2と同じプリアルタイムPCRシステムを使用して、試験2と同じ条件でPCR反応を実施した。
5-7.ポリマー添加または無添加の場合のδCt(WT)およびδCt(Mutant)の決定、ならびにポリマー添加または無添加の場合のδδCtの算出
試験3と同様に実施した。
5-8.PCR産物のシーケンス解析
PCR反応で得られたPCR産物を、Fasmac社に委託して、ダイレクトシーケンス法にて配列解析を行った(
図6)。
【0135】
5-9.結果
5-9―1.BNA clamp PCRの高感度化検討
試験結果を以下の表及び
図5に示す。
【表30】
本試験の結果、ポリマー無添加の場合では、Mutant比率0.01%で、変異型遺伝子の検出は困難であるが、実施例1、2、4または6のポリマーを添加した場合では、Mutant比率0.01%でも変異型遺伝子を確実に検出できた。
【0136】
5-9―1.PCR産物のシーケンス解析
図6に示されるように、Mutant比率0.01%においては、ポリマーが無添加の場合でも変異は検出可能であるが、破線の枠で囲んだ塩基のピークから理解される通り、全体として、ポリマーを添加した際のPCR産物の方が、有意に変異含有量が多く見られ、ポリマー無添加よりも明らかに高感度化を達成していると理解される。
【配列表】