(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-30
(45)【発行日】2024-02-07
(54)【発明の名称】巻線型チップコイル装置
(51)【国際特許分類】
H01F 27/00 20060101AFI20240131BHJP
H01F 17/04 20060101ALI20240131BHJP
H01F 27/28 20060101ALI20240131BHJP
H01F 41/04 20060101ALI20240131BHJP
H01F 27/29 20060101ALI20240131BHJP
【FI】
H01F27/00 160
H01F17/04 A
H01F27/28 K
H01F41/04 B
H01F27/29 G
(21)【出願番号】P 2020026927
(22)【出願日】2020-02-20
【審査請求日】2022-12-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】染谷 秀平
(72)【発明者】
【氏名】篠原 良栄
(72)【発明者】
【氏名】川崎 仁寛
(72)【発明者】
【氏名】土田 せつ
【審査官】後藤 嘉宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-060903(JP,A)
【文献】特開2016-111348(JP,A)
【文献】特開2003-124031(JP,A)
【文献】実開昭54-064915(JP,U)
【文献】特開2012-248610(JP,A)
【文献】特開2010-165953(JP,A)
【文献】特開2006-020421(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 27/00
H01F 17/04
H01F 27/28
H01F 41/04
H01F 27/29
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
巻芯部を有する磁性体と、
前記巻芯部に第1巻回方向に巻かれている第1巻線と、
前記巻芯部に前記第1巻回方向とは逆巻方向である第2巻回方向に巻かれている第2巻線と、を有
し、
前記第1巻線は、前記巻芯部に断続的又は連続的に接触しながら、前記巻芯部に前記巻かれている隣接する当該第1巻線と接触する所定のピッチで前記巻芯部に巻かれている第1接触部を有し、
前記第2巻線は、前記巻芯部に断続的又は連続的に接触しながら、前記巻芯部に前記巻かれている隣接する当該第2巻線と接触する所定のピッチで前記巻芯部に巻かれている第2接触部を有し、
前記第1接触部と前記第2接触部とは、前記巻芯部の所定の境界に対して一方側と他方側に分割して配置してある巻線型チップコイル装置。
【請求項2】
巻芯部を有する磁性体と、
前記巻芯部に第1巻回方向に巻かれている第1巻線と、
前記巻芯部に前記第1巻回方向とは逆巻方向である第2巻回方向に巻かれている第2巻線と、を有
し、
前記第1巻線は、前記巻芯部に断続的又は連続的に接触しながら所定のピッチで前記巻芯部に巻かれている第1接触部を有し、
前記第2巻線は、前記巻芯部に断続的又は連続的に接触しながら所定のピッチで前記巻芯部に巻かれている第2接触部を有し、
前記第2接触部の少なくとも一部は、前記第1接触部の一部と前記第1接触部の他の一部との間に配置してあり、
前記第2接触部の前記少なくとも一部と、前記第2接触部の前記少なくとも一部が間に配置された前記第1接触部の前記一部および前記第1接触部の前記他の一部とは、順次接触して前記巻芯部に前記巻かれている巻線型チップコイル装置。
【請求項3】
巻芯部を有する磁性体と、
前記巻芯部に第1巻回方向に巻かれている第1巻線と、
前記巻芯部に前記第1巻回方向とは逆巻方向である第2巻回方向に巻かれている第2巻線と、を有
し、
前記第1巻線は、前記巻芯部に断続的又は連続的に接触しながら、前記巻芯部に前記巻かれている隣接する当該第1巻線と接触する所定のピッチで前記巻芯部に巻かれている第1接触部を有し、
前記第2巻線は、前記巻芯部に前記巻かれている隣接する当該第2巻線と接触する所定のピッチで、前記第1接触部の上から重ねて前記巻芯部に巻かれている重複部を有する巻線型チップコイル装置。
【請求項4】
前記第1巻線の一方の端部と、前記第2巻線の一方の端部とは電気的に接続されており、
前記第1巻線の他方の端部と、前記第2巻線の他方の端部とは電気的に接続されている請求項1
から請求項3までのいずれかに記載の巻線型チップコイル装置。
【請求項5】
前記第1巻線の一方の端部と前記第2巻線の一方の端部とが固定され、前記第1巻線の一方の端部と前記第2巻線の一方の端部とを電気的に接続する第1電極部と、
前記第1巻線の他方の端部と前記第2巻線の他方の端部とが固定され、前記第1巻線の他方の端部と前記第2巻線の他方の端部とを電気的に接続する第2電極部と、を有する請求項1
から請求項4までのいずれかに記載の巻線型チップコイル装置。
【請求項6】
前記磁性体は、前記巻芯部の一方の端部に接続する第1鍔部と、前記巻芯部の他方の端部に接続する第2鍔部と、を有し、
前記第1電極部は、前記第1鍔部に設けられており、前記第2電極部は、前記第2鍔部に設けられている請求項
5に記載の巻線型チップコイル装置。
【請求項7】
前記第1巻線と前記第2巻線との長さが異なる請求項1から請求項
6までのいずれかに記載の巻線型チップコイル装置。
【請求項8】
前記第1巻線と前記第2巻線とは、前記巻芯部に対する巻回数が1ターン以上異なる請求項
7に記載の巻線型チップコイル装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性体の巻芯に巻かれる少なくとも2本の巻線を有する巻線型チップコイル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば高周波回路などに用いられる巻線型チップコイル装置としては、特許文献1に示すものが提案されている。このような巻線型チップコイル装置では、2本の巻線が同一の巻回方向に巻いてあることにより、インダクタンス値の調整が容易であって、直流抵抗を抑制し得る巻線型チップコイル装置を実現している。
【0003】
しかしながら、従来の巻線型チップコイル装置では、たとえ2本の巻線の巻回数を調整したとしても、磁気飽和などの影響により、高周波数帯で所望のインピーダンスを確保できないという課題が生じている。また、非磁性の巻芯を用いたコイル装置や、空芯コイルを採用したコイル装置では、磁気飽和を防止することは可能であるものの、低周波数でのインダクタンスが低すぎる課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、磁性体の巻芯を用いながらも磁気飽和を抑制し、高周波数帯において従来に比べて高いインピーダンスを確保し得る巻線型チップコイル装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明に係る巻線型チップコイル装置は、
巻芯部を有する磁性体と、
前記巻芯部に第1巻回方向に巻かれている第1巻線と、
前記巻芯部に前記第1巻回方向とは逆巻方向である第2巻回方向に巻かれている第2巻線と、を有する。
【0007】
本発明に係る巻線型チップコイル装置では、磁性体の巻芯部に互いに逆巻方向に巻かれている第1巻線と第2巻線を有するため、双方の巻線の磁束が打ち消し合うことにより、磁性材料の巻芯を用いながらも磁気飽和を抑制し、高周波数帯において従来に比べて高いインピーダンスを確保できる。また、本発明に係る巻線型チップコイル装置は、磁性体の巻芯部を用いる巻線型コイル装置としては、小さいインダクタンス値を実現できる。なお、本発明に係る巻線型チップコイル装置は、非磁性の巻芯を用いたコイル装置や、空芯コイルを採用したコイル装置に比べれば、低周波数でも十分に大きいインダクタンス値を実現することができる。また、本発明に係る巻線型チップコイル装置は、磁性体に巻かれた第1巻線および第2巻線を有するため、積層型のチップコイルに比べて、大電流に対応可能である。
【0008】
また、たとえば、前記第1巻線の一方の端部と、前記第2巻線の一方の端部とは電気的に接続されていてもよく、
前記第1巻線の他方の端部と、前記第2巻線の他方の端部とは電気的に接続されていてもよい。
【0009】
このような巻線型チップコイル装置は、第1巻線による磁束と第2巻線による磁束が打ち消し合う関係になるコイル装置を、好適に実現できる。なお、第1巻線と第2巻線とは、巻線型チップコイル装置が実装される回路を用いて、電気的に接続されてもよい。
【0010】
また、たとえば、本発明に係る巻線型チップコイル装置は、前記第1巻線の一方の端部と前記第2巻線の一方の端部とが固定され、前記第1巻線の一方の端部と前記第2巻線の一方の端部とを電気的に接続する第1電極部と、
前記第1巻線の他方の端部と前記第2巻線の他方の端部とが固定され、前記第1巻線の他方の端部と前記第2巻線の他方の端部とを電気的に接続する第2電極部と、を有してもよい。
【0011】
このような第1および第2電極部を有する巻線型チップコイル装置は、より単純な回路によって、第1巻線による磁束と第2巻線による磁束が打ち消し合う関係になるコイル装置の実装が可能となる。
【0012】
また、たとえば、本発明に係る巻線型チップコイル装置において、前記磁性体は、前記巻芯部の一方の端部に接続する第1鍔部と、前記巻芯部の他方の端部に接続する第2鍔部と、を有してもよく、
前記第1電極部は、前記第1鍔部に設けられており、前記第2電極部は、前記第2鍔部に設けられていてもよい。
【0013】
第1電極部と第2電極部が、それぞれ第1鍔部および第2鍔部に形成される巻線型チップコイル装置は、良好な生産性および実装性を奏する。
【0014】
また、たとえば、本発明に係る巻線型チップコイル装置において、前記第1巻線と前記第2巻線の長さが異なっていてもよい。
【0015】
このような巻線型チップコイル装置は、第1巻線による磁束と第2巻線の磁束の差分の磁束を利用したコイル装置を、好適に実現できる。また、第1巻線と第2巻線の長さを異ならせることによりインダクタンス値の調整が行えるため、このような巻線型チップコイル装置は、要求特性に応じたインダクタンス値の調整を容易に行うことができる。
【0016】
また、たとえば、本発明に係る巻線型チップコイル装置において、前記第1巻線と前記第2巻線とは、前記巻芯部に対する巻回数が1ターン以上異なっていてもよい。
【0017】
第1巻線の巻回数と第2巻線の巻回数との間に、1ターン以上の差をつけることにより、インダクタンス値を大きくすることができ、高周波数帯でのインピーダンス値の確保に寄与する。
【0018】
また、たとえば、前記第1巻線は、前記巻芯部に断続的又は連続的に接触しながら所定範囲のピッチで前記巻芯部に巻かれている第1接触部を有してもよく、
前記第2巻線は、前記巻芯部に断続的又は連続的に接触しながら所定範囲のピッチで前記巻芯部に巻かれている第2接触部を有してもよく、
前記第1接触部と前記第2接触部とは、前記巻芯部の所定の境界に対して一方側と他方側に分割して配置してあってもよい。
【0019】
第1接触部と第2接触部とを分割して配置することにより、第1巻線と第2巻線との結合を弱めることができる。
【0020】
また、たとえば、前記第1巻線は、前記巻芯部に断続的又は連続的に接触しながら所定範囲のピッチで前記巻芯部に巻かれている第1接触部を有してもよく、
前記第2巻線は、前記巻芯部に断続的又は連続的に接触しながら所定範囲のピッチで前記巻芯部に巻かれている第2接触部を有してもよく、
前記第2接触部の少なくとも一部は、前記第1接触部の一部と前記第1接触部の他の一部との間に配置してあってもよい。
【0021】
第2接触部の少なくとも一部を第1接触部の一部と他の一部との間に配置することにより、第1巻線と第2巻線との結合を強める方向に調整することができ、高周波数帯でのインピーダンスの立ち上がりを急峻にすることができる。
【0022】
また、たとえば、前記第1巻線は、前記巻芯部に断続的又は連続的に接触しながら所定範囲のピッチで前記巻芯部に巻かれている第1接触部を有してもよく、
前記第2巻線は、前記第1接触部の上から重ねて前記巻芯部に巻かれている重複部を有してもよい。
【0023】
このような巻線型チップコイル装置は、小型化の観点で有利であり、生産性も良好である。
【0024】
また、前記重複部の前記巻芯部に対する巻回数が0.75ターン以上であってもよい。
【0025】
重複部の巻回数を所定ターン以上とすることにより、第1巻線と第2巻線との結合を高める作用、および、省スペース化の効果を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】
図1は、本発明の第1実施形態に係る巻線型チップコイル装置の斜視図である。
【
図2】
図2は、
図1に示す巻線型チップコイル装置の底面図である。
【
図3】
図3は、
図2に示す巻線型チップコイル装置における第1巻線と第2巻線の巻回状態を説明した概念図である。
【
図4】
図4は、本発明の第2実施形態に係る巻線型チップコイル装置の底面図である。
【
図5】
図5は、本発明の第3実施形態に係る巻線型チップコイル装置の底面図である。
【
図6】
図6は、
図5に示す巻線型チップコイル装置における第1巻線と第2巻線の巻回状態を説明した概念図である。
【
図7】
図7は、本発明の第4実施形態に係る巻線型チップコイル装置における第1巻線と第2巻線の巻回状態を説明した概念図である。
【
図8】
図8は、第1および第2実施形態に係る巻線型チップコイル装置と従来の巻線型チップコイル装置とのインピーダンス-周波数特性を示すグラフである。
【
図9】
図9は、第1実施形態およびその変形例に係る巻線型チップコイル装置と従来の巻線型チップコイル装置とのインピーダンス-周波数特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明を、図面に示す実施形態に基づき説明する。
【0028】
第1実施形態
図1は、本発明の第1実施形態に係る巻線型チップコイル装置10(以下、単に「コイル装置10」という。)を示す概略斜視図である。コイル装置10は、磁性体としてのドラムコア20と、接続コア18と、第1巻線30と、第2巻線40とを有する。また、コイル装置10は、第1電極部50と第2電極部60とを有する。
【0029】
ドラムコア20は、巻芯部22と、第1鍔部24と、第2鍔部26とを有する。巻芯部22は、水平方向(X軸方向)に延びる略四角柱状の外形状を有する。巻芯部22には、第1巻線30および第2巻線40が巻かれている。なお、巻芯部22の形状は四角柱状に限定されず、円柱、楕円柱、六角柱など他の柱状形状であってもよい。
【0030】
第1鍔部24は、巻芯部22の一方の端部(X軸負方向側の端部)に接続しており、第2鍔部26は、巻芯部22の他方の端部(X軸正方向側の端部)に接続している。第1鍔部24および第2鍔部26は、巻芯部22が延びるX軸方向に直交するYZ平面方向に関して巻芯部22から突出しており、YZ断面に関してて巻芯部22より広い断面積を有している。
【0031】
本実施形態では、巻芯部22を有する磁性体は、第1鍔部24および第2鍔部26を有するドラムコア20であるが、コイル装置10の磁性体としては、
図1に示すドラムコア20のみには限定されず、巻線が巻かれた他の形状であってもよい。第1鍔部24および第2鍔部26は、巻芯部22と一体に接続しており、同様の磁性材料で構成される。なお、コイル装置10の説明では、巻芯部22が第1鍔部24と第2鍔部26とを接続する方向をX軸方向、X軸方向に垂直な方向であって、第1鍔部下面24aと第1鍔部上面24bとを接続する上下方向をZ軸方向、X軸方向およびZ軸方向に垂直な方向をY軸方向とする。
【0032】
コイル装置10は、ドラムコア20の第1鍔部24と第2鍔部26とを接続する接続コア18を有する。接続コア18は、略平板状の外形状を有しており、第1鍔部24におけるZ軸正方向側の面である第1鍔部上面24bと、第2鍔部26におけるZ軸正方向側の面である第2鍔部上面26bとに、接着剤などにより固定されている。接続コア18の材質は、巻芯部22と同様の磁性材料で構成されていてもよく、異なる磁性材料で構成されていてもよい。
【0033】
ドラムコア20および接続コア18の材質としては、例えばフェライトや金属磁性体などの軟磁性材料が挙げられるが、これら以外の磁性材料を用いてもよい。
【0034】
図1に示すように、第1電極部50と第2電極部60とは、コイル装置10のZ軸負方向側の面に備えられる。第1電極部50は、第1鍔部24に設けられており、特に、第1鍔部24におけるZ軸負方向側の面である第1鍔部下面24aに設けられている。第2電極部60は、第2鍔部26に設けられており、特に、第2鍔部26におけるZ軸負方向側の面である第2鍔部下面26aに設けられている。
【0035】
図2は、
図1に示すコイル装置10を下方からみた底面図である。第1電極部50には、第1巻線30の一方の端部である第1巻線第1端部32と、第2巻線40の一方の端部である第2巻線第1端部42とが固定されている。第1電極部50は、Ag、Sn、Cuなどの導電性材料を有し、第1巻線第1端部32と、第2巻線第1端部42とを電気的かつ物理的に接続する。第2電極部60も、第1電極部50と同様の導電材料を有し、第1巻線第2端部34と、第2巻線第2端部44とを電気的かつ物理的に接続する。
【0036】
図2に示すように、ドラムコア20の巻芯部22には、第1巻線30と、第2巻線40の2本の巻線が巻かれている。第1巻線30は、巻芯部22に対して、第2巻線40より内側(巻芯部22に近い側)に巻かれている。また、
図3に示すように、第1巻線30は、巻芯部22に第1巻回方向30aに巻かれているのに対して、第2巻線40は、巻芯部22に第1巻回方向30aとは逆巻方向である第2巻回方向に巻かれている。
【0037】
図3は、
図2に示すコイル装置10における第1巻線30と第2巻線40の巻回状態を説明した概念図である。
図3(a)は、第1巻線30のうち4ターン分の巻回状態と、第2巻線40のうち2ターン分の巻回状態とを、模式的に表している。
図3(a)からは、第1巻線30が、第2巻線40より内側(巻芯部22に近い側)に巻かれていることが理解できる。
【0038】
図3(b)は、
図3(a)に示す第1巻線30と第2巻線40のうち、第1巻線30のみを表示したものである。なお、
図3(a)および
図3(b)において、第1巻線30に付された数字は、第1巻線30における各部分が、何ターン目の部分であるかを示している。
図3(b)に示すように、第1巻線30は、巻芯部22に断続的又は連続的に接触しながら、X軸負方向側へ所定範囲のピッチP1で巻芯部22に巻かれている第1接触部36を有する。
【0039】
第1巻線30の巻回方向である第1巻回方向30aは、X軸負方向側へピッチP1が進むと考えた場合、X軸正方向側から見て、巻芯部22に対して時計周りに巻かれる方向である。
【0040】
図3(c)は、
図3(a)に示す第1巻線30と第2巻線40のうち、第2巻線40のみを表示したものである。なお、
図3(a)および
図3(c)において、第2巻線40に付された数字は、第2巻線40における各部分が、何ターン目の部分であるかを示している。
図3(a)~
図3(c)に示すように、第2巻線40は、第1巻線30の第1接触部36の上から重ねて巻芯部22に巻かれている重複部48を有する。したがって、重複部48は、巻芯部22には直接接触しない。
【0041】
図3(c)に示すように、第2巻線40の巻回方向である第2巻回方向40aは、第1巻線30と同様に、X軸負方向側へピッチP2が進むと考えた場合、X軸正方向側から見て、巻芯部22に対して反時計周りに巻かれる方向である。このように、第2巻線40の巻回方向である第2巻回方向40aは、第1巻線30の巻回方向である第1巻回方向30aとは逆方向になっている。
【0042】
図2に示すように、第1巻線第1端部32は、所定範囲のピッチで巻かれている第1接触部36から引き出されて、第1電極部50に固定されている。また、第2巻線第1端部42は、所定範囲のピッチで巻かれている重複部48から引き出されて、第1電極部50に固定されている。これにより、第1巻線30の一方の端部である第1巻線第1端部32と、第2巻線40の一方の端部である第2巻線第1端部42とは、第1電極部50により電気的に接続されている。
【0043】
これに対して、第1巻線第2端部34は、所定範囲のピッチで巻かれている第1接触部36から引き出されて、第2電極部60に固定されている。また、第2巻線第2端部44は、所定範囲のピッチで巻かれている重複部48から引き出されて、第2電極部60に固定されている。これにより、第1巻線30の他方の端部である第1巻線第2端部34と、第2巻線40の他方の端部である第2巻線第2端部44とは、第2電極部60により電気的に接続されている。
【0044】
図2に示すように、コイル装置10では、第1巻線30の巻芯部22に対する巻回数と、第2巻線40の巻芯部22に対する巻回数は同じである。ただし、第2実施形態に係るコイル装置110のように、第1巻線30の巻芯部22に対する巻回数と、第2巻線40の巻芯部22に対する巻回数は、異なっていてもよい。
【0045】
第1巻線30の上に重ねて巻かれる重複部48の巻回数は、特に限定されないが、たとえば0.75ターン以上とすることが好ましい。重複部48の巻回数を0.75ターン以上とすることにより、第1巻線30と第2巻線40の結合が強くなる。
【0046】
第1巻線30および第2巻線40は、被覆導線を巻芯部22に巻くなどの方法により作製される。第1巻線第1端部32、第1巻線第2端部34、第2巻線第1端部42および第2巻線第2端部44は、レーザー溶接などの溶接またははんだ付けなどのろう接などの方法により、第1電極部50および第2電極部60に固定される。第1電極部50および第2電極部60は、メッキや蒸着などによりドラムコア20に形成されていてもよく、金属片などをドラムコア20に接着することにより形成されていてもよい。
【0047】
コイル装置10では、
図3(a)~
図3(c)に示すように、磁性体の巻芯部22に互いに逆巻方向に巻かれている第1巻線30と第2巻線40を有するため、双方の巻線の磁束が打ち消し合うことにより、磁性体の巻芯部22を用いながらも磁気飽和を抑制し、高周波数帯において従来に比べて高いインピーダンスを確保できる。また、コイル装置10は、磁性体に巻かれた第1巻線30および第2巻線40を有するため、積層型のチップコイルに比べて、大電流に対応可能である。
【0048】
第2実施形態
図4は、本発明の第2実施形態に係るコイル装置110の底面図である。第2実施形態に係るコイル装置110は、第2巻線140の巻回数が、
図2に示す第2巻線40とは異なる点で、第1実施形態に係るコイル装置10とは異なるが、その他の点ではコイル装置10と同様である。第2実施形態に係るコイル装置110の説明では、第1実施形態に係るコイル装置10との相違点を中心に説明を行い、共通点については説明を省略する。
【0049】
図4に示すコイル装置110では、第2巻線140における重複部148の巻回数が、第1巻線30における第1接触部36の巻回数より少ない。
図2に示すコイル装置10では、重複部48の巻回数は、第1接触部36と同じ10ターンであるのに対して、第4に示す重複部148は、第1接触部36より少ない5ターンである。なお、第2巻線140の一方の端部である第2巻線第1端部142が第1電極部50に固定されており、第2巻線140の他方の端部である第2巻線第2端部144が第2電極部60に固定されている点は、第1実施形態と同様である。
【0050】
図4に示すコイル装置110において、第1巻線30と第2巻線140とは、巻芯部22に対する巻回数が1ターン以上異なる。これにより、コイル装置110は、第1巻線30と第2巻線40の巻回数が同じであるコイル装置10に比べて、インダクタンス値を大きくすることができる。また、コイル装置110のように、第1巻線30と第2巻線40の長さを異ならせることにより、コイル装置110のインダクタンス値の調整を容易に行うことができる。
【0051】
その他、第2実施形態に係るコイル装置110は、第1実施形態に係るコイル装置10と同様の効果を奏する。なお、
図2および
図4に示す第1巻線30および第2巻線40、140の巻回数は一例であり、コイル装置110の巻回数は、要求特性などに応じて、任意に変更可能である。
【0052】
第3実施形態
図5は、本発明の第3実施形態に係るコイル装置210の底面図である。第2実施形態に係るコイル装置210は、第2巻線240の巻芯部22への巻回形状が、
図4に示す第2巻線140とは異なる点で、第2実施形態に係るコイル装置40とは異なるが、その他の点ではコイル装置110と同様である。第3実施形態に係るコイル装置210の説明では、第2実施形態に係るコイル装置110との相違点を中心に説明を行い、共通点については説明を省略する。
【0053】
図5に示すように、コイル装置210の第2巻線240は、
図2に示すコイル装置110の第2巻線140とは異なり、第1巻線30の第1接触部36の上に所定のピッチで巻かれる重複部を有しない。
図5に示すコイル装置210は、巻芯部22が延びるX軸方向に関して、第1巻線30の第1接触部36に対して離れて配置される第2接触部246を有する。
【0054】
図6は、
図5に示すコイル装置210における第1巻線30と第2巻線240の巻回状態を示した概念図である。
図6には、第1巻線30のうち4ターン分の巻回状態と、第2巻線40のうち2ターン分の巻回状態とを、模式的に表している。
【0055】
図6に示すように、第2巻線240は、巻芯部22に断続的又は連続的に接触しながら所定範囲のピッチP2で巻芯部22に巻かれている第2接触部246を有する。
図5および
図6に示すように、第1接触部36と第2接触部246は、巻芯部22の所定の境界22aに対して一方側と他方側に分割して配置してある。すなわち、第1巻線30の第1接触部36は、所定の境界22aに対してX軸正方向側に配置してあり、第2巻線40の第2接触部246は、所定の境界22aに対してX軸負方向側に配置してある。
【0056】
図6に示すように、第2巻線40は、X軸負方向側へピッチP2が進むと考えた場合、X軸正方向側から見て、巻芯部22に対して反時計周りに巻かれている(第2巻回方向40a)。また、
図6に示す第1巻線30は、
図3(b)に示す第1巻線30と同様の巻線構造であり、X軸負方向側へピッチP1が進むと考えた場合、X軸正方向側から見て、巻芯部22に対して時計周りに巻かれている(第1巻回方向30a)。
【0057】
図5に示すように、第2巻線240の一方の端部である第2巻線第1端部242が第1電極部50に固定されており、第2巻線240の他方の端部である第2巻線第2端部244が第2電極部60に固定されている点は、第2実施形態と同様である。
【0058】
図5および
図6に示すコイル装置210は、第1接触部36と第2接触部246とを分割して配置することにより、
図4に示すように重複部148を有するコイル装置110に比べて、第1巻線30と第2巻線40との結合を弱めることができる。その他、第3実施形態に係るコイル装置210は、第2実施形態に係るコイル装置110との共通部分については、コイル装置110と同様の効果を奏する。
【0059】
第4実施形態
図7は、本発明の第4実施形態に係るコイル装置310における第1巻線30と第2巻線240の巻回状態を示した概念図である。第4実施形態に係るコイル装置310は、第1巻線330および第2巻線340の巻芯部22への巻回形状が、
図6に示す第1巻線30および第2巻線240とは異なる点で、第3実施形態に係るコイル装置210とは異なるが、その他の点ではコイル装置210と同様である。第4実施形態に係るコイル装置310の説明では、第3実施形態に係るコイル装置210との相違点を中心に説明を行い、共通点については説明を省略する。
【0060】
図7に示すように、コイル装置310では、第1巻線330が隣接する前後のターンの巻線に接触しない大きなピッチP3で巻芯部22に巻かれている。そして、第2巻線340の少なくとも一部が、第1巻線330の各ターンの間に形成されてスペースに入るように、巻芯部22に巻かれている。
【0061】
すなわち、第1巻線330は、巻芯部22に断続的又は連続的に接触しながら所定範囲のピッチP3で巻かれる第1接触部336を有する。第1接触部336は、第1接触部336の一部であって第1巻線330の第1ターン目の部分である第1接触部第1部分336aと、第1接触部336の他の一部であって第1巻線330の第2ターン目の部分である第1接触部第2部分336bとを有する。コイル装置310において、第1接触部336が巻芯部22に巻かれるピッチP3は、第1巻線330の線径(直径)と第2巻線340の線径(直径)の和より大きいことが好ましい。
【0062】
第2巻線340は、巻芯部22に断続的又は連続的に接触しながら所定範囲のピッチP4で巻芯部22に巻かれる第2接触部346を有する。
図7に示すように、第2接触部346には、第2接触部346の一部であって第2巻線340の第1ターン目の部分である第2接触部第1部分346aと、第2接触部346の他の一部であって第2巻線340の第2ターン目の部分である第2接触部第2部分346bとを有する。
【0063】
図7に示すように、第2接触部246の一部である第2接触部第1部分346aは、第1接触部336の一部である第1接触部第1部分336aと、第1接触部336の他の一部である第1接触部第2部分336bとの間に配置してある。このようなコイル装置310は、
図6に示すコイル装置210に比べて、第1巻線330と第2巻線340の結合を強めることができる。
【0064】
その他、第4実施形態に係るコイル装置310は、第3実施形態に係るコイル装置210との共通部分については、コイル装置210と同様の効果を奏する。
【0065】
実施例
以下、実施例を挙げて、発明をさらに詳細に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例のみには限定されない。
【0066】
図8は、4つの異なるコイル装置について、インピーダンスの周波数特性を計測した結果を示している。第8の縦軸はインピーダンスを、横軸は周波数を表している。一点鎖線で示される線81は、
図2に示す第1実施形態に係るコイル装置10の計測結果を表しており、2点鎖線で示される線82は、
図4に示す第2実施形態に係るコイル装置110の計測結果を表している。線81と線82とは、いずれも第1巻線30と第2巻線40、140とが、巻芯部22に対して互いに逆方向に巻かれているコイル装置10、110の結果を示している。
【0067】
これに対して、点線で示される線83は、第1巻線と第2巻線が、巻芯部22に対して同じ方向に巻かれていることを除き、コイル装置10と同様である第1および第2参考試料に係るコイル装置の計測結果を表している。また、実線で示される線84は、第1巻線と第2巻線が、巻芯部22に対して同じ巻回方向に巻かれていることを除き、コイル装置110と同様である第2参考資料に係るコイル装置の計測結果を表している。
【0068】
第1巻線と第2巻線が同じ巻回方向に巻かれている第1および第2コイル装置の計測結果である線83および線84では、インピーダンスのピークP3、P4が低い周波数領域(数百MHz)で出現し、2000MHz以上の高周波数領域ではインピーダンスが低下することが理解できる。このような、高周波数領域でのインピーダンスの低下は、2つの巻線の相互インダクタンスによる、SRFの低下に起因するものであると考えられる。
【0069】
また、線83(第1巻線:10ターン、第2巻線:10ターン)と、線84(第1巻線:10ターン、第2巻線:5ターン)との比較から理解できるように、第1巻線と第2巻線が同じ巻回方向に巻かれているコイル装置では、巻き数の増加に伴ってインピーダンスのピークP3の上昇がみられるものの、ピークP3が出現する周波数が、低周波数側に移動する。このような特性から、第1巻線と第2巻線が同じ巻回方向に巻かれているコイル装置では、たとえ巻き数を増減させたとしても、高周波数領域で高いインピーダンス値を実現することが困難であることが理解できる。
【0070】
これに対して、線81および線82で示されるコイル装置10、110は、高周波数領域(数千MHz)において、高いインピーダンス特性が得られることが理解できる。これは、コイル装置10、110では、第1巻線30と第2巻線40、140とが、巻芯部22に対して互いに逆方向に巻かれているため、第1巻線30で生じる磁束と、第2巻線40、140で生じる磁束とがぶつかりあい、高周波数領域まで相互インダクタンスが抑制されることに起因すると考えられる。
【0071】
なお、線81および線82で示されるコイル装置10、110は、漏れインダクタンスによる低L値のコイル装置になっていると考えられ、第1および第2参考試料に係るコイル装置に比べてインダクタンスが低いと考えられる。ただし、線81と線82の比較から理解できるように、インダクタンスの値は、第1巻線30と第2巻線40、140の巻回数および巻回数の差により、変更することができる。
【0072】
図9は、5つの異なるコイル装置について、インピーダンスの周波数特性を計測した結果を示している。二点鎖線で示される線81と、点線で示される線83と、実線で示される線84は、
図8と同様である。二点鎖線で示される線85と、太破線で示される線86とは、線81(一点鎖線)で表されるコイル装置10に対して、第1巻線30と第2巻線40の合計の巻回数を一定(20ターン)として、第1巻線30と第2巻線40の巻回数の比率を変えたコイル装置(第1変形例および第2変形例)の計測結果を表すものである。線85で示されるコイル装置は、第1巻線30の巻回数が12ターンで第2巻線40の巻回数が8ターンであるのに対して、線86で示されるコイル装置は、第1巻線30の巻回数が12ターンで第2巻線40の巻回数が8ターンである。
【0073】
図9における線81、線85および線86の比較から理解できるように、第1巻線30と第2巻線40の巻回数の差を大きくすることにより、高周波数領域で現れるインピーダンスのピークの値を、高めることができる。一方、第1巻線30と第2巻線40の巻回数の差を小さくすることにより、インピーダンスのピークの値が現れる周波数を、高周波数側に移動させることができる。
【0074】
以上、実施形態および実施例を挙げて本発明を説明したが、本発明はこれらの実施形態および実施例のみには限定されない。たとえば、上述した第1実施形態に係るコイル装置10では、第1巻線30および第2巻線40の各端部は、第1電極部50および第2電極部60により電気的に接続されているが、これとは異なり、第1巻線30および第2巻線40の各端部は、コイル装置10が実装される回路基板により、電気的に接続されてもよい。
【符号の説明】
【0075】
10…コイル装置(巻線型チップコイル装置)
10,110,210, 310…コイル装置
18…接続コア
20…ドラムコア
22…巻芯部
24…第1鍔部
24a…第1鍔部下面
24b…第1鍔部上面
26…第2鍔部
26a…第2鍔部下面
26b…第2鍔部上面
30,330…第1巻線
30a…第1巻回方向
32…第1巻線第1端部
34…第1巻線第2端部
36,336…第1接触部
40,140,240,340…第2巻線
40a…第2巻回方向
42,142,242…第2巻線第1端部
44,144,244…第2巻線第2端部
48,148…重複部
50…第1電極部
60…第2電極部
22a…所定の境界
246,346…第2接触部
336a…第1接触部第1部分
336b…第1接触部第2部分
346a…第2接触部第1部分
346b…第2接触部第2部分