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特許7428979防曇剤組成物、該組成物から形成される防曇膜を有する防曇性物品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-30
(45)【発行日】2024-02-07
(54)【発明の名称】防曇剤組成物、該組成物から形成される防曇膜を有する防曇性物品
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/00 20060101AFI20240131BHJP
   C09D 133/24 20060101ALI20240131BHJP
   C09D 133/14 20060101ALI20240131BHJP
   C09D 133/06 20060101ALI20240131BHJP
   C09D 175/04 20060101ALI20240131BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20240131BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20240131BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20240131BHJP
【FI】
C09K3/00 R
C09D133/24
C09D133/14
C09D133/06
C09D175/04
C09D7/63
C09D7/61
B32B27/30 A
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021515961
(86)(22)【出願日】2020-04-07
(86)【国際出願番号】 JP2020015640
(87)【国際公開番号】W WO2020217969
(87)【国際公開日】2020-10-29
【審査請求日】2023-01-10
(31)【優先権主張番号】P 2019083635
(32)【優先日】2019-04-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】橋本 一輝
(72)【発明者】
【氏名】加納 崇光
【審査官】黒川 美陶
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-6881(JP,A)
【文献】国際公開第2016/047430(WO,A1)
【文献】特開2016-169287(JP,A)
【文献】特開2016-60878(JP,A)
【文献】特開2019-156969(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K3/00;C09K3/18;B32B27/18;B32B27/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
共重合体(A)と多官能ブロックイソシアネート化合物(B)と界面活性剤(C)を含む防曇剤組成物であって、
前記共重合体(A)は、下記一般式(1)で表される単量体、および下記一般式(2)で表される単量体からなる群より選ばれる1種以上の単量体(A-1)と、下記一般式(3)で表される単量体(A-2)と、下記一般式(4)で表される単量体、および下記一般式(5)で表される単量体からなる群より選ばれる1種以上の単量体(A-3)を含む単量単混合物から得られる(メタ)アクリレート共重合体であり、
【化1】
(一般式(1)中、Rは水素原子またはメチル基であり、Rは炭素数1~4の直鎖もしくは分岐のアルキル基、-C(CHCHCOCH、-CN(CH、または-CN(CHであり、Rは水素原子、または炭素数1~4の直鎖もしくは分岐のアルキル基である。)
【化2】
(一般式(2)中、Rは水素原子またはメチル基である。)
【化3】
(一般式(3)中、Rは水素原子またはメチル基であり、Rは炭素数1~16の直鎖、分岐、または環状の炭化水素基である。)
【化4】
(一般式(4)中、Rは水素原子またはメチル基であり、Rは炭素数2~4の直鎖もしくは分岐のアルキレン基、または-C(OCO(CH-であり、nは1~5である。)
【化5】
(一般式(5)中、Rは、水素原子またはメチル基であり、R10は、炭素数1~4の直鎖または分岐のアルキレン基である。)
前記界面活性剤(C)は、アニオン系界面活性剤(C-1)と4級アンモニウム塩構造を有する界面活性剤(C-2)とフッ素系ノニオン系界面活性剤(C-3)を含み、
前記共重合体(A)100質量部に対して、前記アニオン系界面活性剤(C-1)は1質量部以上10質量部以下であり、前記4級アンモニウム塩構造を有する界面活性剤(C-2)は0.01質量部以上3質量部以下であり、前記フッ素系ノニオン系界面活性剤(C-3)は0.05質量部以上5質量部以下であり、
前記アニオン系界面活性剤(C-1)および前記4級アンモニウム塩構造を有する界面活性剤(C-2)の合計量に対する前記フッ素系ノニオン系界面活性剤(C-3)の質量比{(C-3)/[(C-1)+(C-2)]}が、0.005以上2.5以下であることを特徴とする防曇剤組成物。
【請求項2】
前記アニオン系界面活性剤(C-1)に対する前記4級アンモニウム塩構造を有する界面活性剤(C-2)の質量比((C-2)/(C-1))が、0.01以上0.8以下であることを特徴とする請求項1記載の防曇剤組成物。
【請求項3】
前記アニオン系界面活性剤(C-1)が、フッ素系アニオン系界面活性剤であることを特徴とする請求項1または2記載の防曇剤組成物。
【請求項4】
前記単量体(A-1)、前記単量体(A-2)、および前記単量体(A-3)の合計100質量部において、前記単量体(A-1)が35質量部以上90質量部以下、前記単量体(A-2)が5質量部以上60質量部以下、前記単量体(A-3)が5質量部以上30質量部以下であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の防曇剤組成物。
【請求項5】
前記共重合体(A)と、前記多官能ブロックイソシアネート化合物(B)との使用割合は、前記多官能ブロックイソシアネート化合物(B)のイソシアネート基と、前記共重合体(A)の水酸基の当量比(NCO/OH)が、0.1以上1.5以下であることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の防曇剤組成物。
【請求項6】
コロイダルシリカ(D)を含有することを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の防曇剤組成物。
【請求項7】
前記コロイダルシリカ(D)は、前記共重合体(A)100質量部に対して、120質量部以下であることを特徴とする請求項6記載の防曇剤組成物。
【請求項8】
基材上に、請求項1~7のいずれかに記載の防曇剤組成物から形成される防曇膜を有することを特徴とする防曇性物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防曇剤組成物、該組成物から形成される防曇膜を有する防曇性物品に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のヘッドランプなどの車両灯具において、灯室内に高湿度の空気が入り込み、外気や降雨などによってレンズが冷やされ、内面に水分が結露することによって曇りが生じることがある。その結果、車両灯の輝度が低下し、またレンズ面の美観が損なわれることにより、ユーザーの不快感を引き起こすことが問題となっている。このようなレンズの曇りを防ぐために、曇りが発生する部位(レンズ内側)に防曇剤を塗布して、防曇膜(乾燥塗膜、あるいは硬化塗膜)を形成する方法が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1では、特定の共重合体、多官能ブロックイソシアネート化合物、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤を含有する防曇剤組成物が開示されている。また、特許文献2では、特定の共重合体、多官能ブロックイソシアネート化合物、アニオン系界面活性剤、ベタイン系界面活性剤を含有する防曇剤組成物が開示されている。さらに、特許文献3では、特定の共重合体、多官能ブロックイソシアネート化合物、フッ素系アニオン系界面活性剤、ベタイン系界面活性剤を含有する防曇剤組成物が開示されている。
【0004】
また、特許文献4では、フッ素系ベタイン系界面活性剤またはフッ素系アニオン系界面活性剤、およびフッ素系ノニオン系界面活性剤を含有する曇り止め剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2016/047430号
【文献】特開2016-169287号公報
【文献】特開2016-169288号公報
【文献】特開2016-60878号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一方、防曇膜に水分が接触して水膜形成により発生した水垂れが乾燥すると、水に溶解していた界面活性剤が析出して水垂れ跡となり、車両灯具の外観不良になることが知られている。上記の特許文献1~3に開示された防曇剤は、アニオン系界面活性剤とカチオン系界面活性剤を併用、あるいは、アニオン系界面活性剤とベタイン系界面活性剤を併用することで、異なる2種の界面活性剤がイオンペアを形成するため、水分による界面活性剤の流出を軽減でき、優れた防曇性能と上記の水垂れ跡の抑制効果を有する。
【0007】
しかし、上記の特許文献1~3で開示された防曇膜は、多量の結露などの特定条件下で発生してしまった濃い水垂れ跡が、高湿度環境下でも消失しにくくなる懸念があった。
【0008】
また、上記の特許文献4で開示された曇り止め剤は、界面活性剤を保持する樹脂成分がないため、一度水垂れが発生すると全ての界面活性剤が流出してしまい、防曇性が消失してしまうことが課題となっている。
【0009】
以上のような事情に鑑み、本発明は、防曇性能に優れ、水垂れ跡が発生し難く、かつ発生した水垂れ跡が高湿度環境下で経時的に薄くなる防曇剤組成物および該組成物から形成される防曇膜を有する防曇性物品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち、本発明は、共重合体(A)と多官能ブロックイソシアネート化合物(B)と界面活性剤(C)を含む防曇剤組成物であって、
前記共重合体(A)は、下記一般式(1)で表される単量体、および下記一般式(2)で表される単量体からなる群より選ばれる1種以上の単量体(A-1)と、下記一般式(3)で表される単量体(A-2)と、下記一般式(4)で表される単量体、および下記一般式(5)で表される単量体からなる群より選ばれる1種以上の単量体(A-3)を含む単量単混合物から得られる(メタ)アクリレート共重合体であり、
【化1】
(一般式(1)中、Rは水素原子またはメチル基であり、Rは炭素数1~4の直鎖もしくは分岐のアルキル基、-C(CHCHCOCH、-CN(CH、または-CN(CHであり、Rは水素原子、または炭素数1~4の直鎖もしくは分岐のアルキル基である。)
【化2】
(一般式(2)中、Rは水素原子またはメチル基である。)
【化3】
(一般式(3)中、Rは水素原子またはメチル基であり、Rは炭素数1~16の直鎖、分岐、または環状の炭化水素基である。)
【化4】
(一般式(4)中、Rは水素原子またはメチル基であり、Rは炭素数2~4の直鎖もしくは分岐のアルキレン基、または-C(OCO(CH-であり、nは1~5である。)
【化5】
(一般式(5)中、Rは、水素原子またはメチル基であり、R10は、炭素数1~4の直鎖または分岐のアルキレン基である。)
前記界面活性剤(C)は、アニオン系界面活性剤(C-1)と4級アンモニウム塩構造を有する界面活性剤(C-2)とフッ素系ノニオン系界面活性剤(C-3)を含み、
前記共重合体(A)100質量部に対して、前記アニオン系界面活性剤(C-1)は1質量部以上10質量部以下であり、前記4級アンモニウム塩構造を有する界面活性剤(C-2)は0.01質量部以上3質量部以下であり、前記フッ素系ノニオン系界面活性剤(C-3)は0.05質量部以上5質量部以下であり、
前記アニオン系界面活性剤(C-1)および前記4級アンモニウム塩構造を有する界面活性剤(C-2)の合計量に対する前記フッ素系ノニオン系界面活性剤(C-3)の質量比{(C-3)/[(C-1)+(C-2)]}が、0.005以上2.5以下である防曇剤組成物、に関する。
【0011】
また、本発明は、基材上に、前記防曇剤組成物から形成される防曇膜を有する防曇性物品、に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の防曇剤組成物、防曇膜および防曇性物品における効果の作用メカニズムの詳細は不明な部分があるが、以下のように推定される。ただし、本発明は、この作用メカニズムに限定して解釈されなくてもよい。
【0013】
本発明の防曇剤組成物は、特定の共重合体(A)と、多官能ブロックイソシアネート化合物(B)と、界面活性剤(C)として、前記アニオン系界面活性剤(C-1)、前記4級アンモニウム塩構造を有する界面活性剤(C-2)、前記フッ素系ノニオン系界面活性剤(C-3)を含有する。前記アニオン系界面活性剤(C-1)と前記4級アンモニウム塩構造を有する界面活性剤(C-2)の併用により形成されるイオンペアは、前記アニオン系界面活性剤(C-1)や前記4級アンモニウム塩構造を有する界面活性剤(C-2)よりも水溶性が低下する。そのため、前記アニオン系界面活性剤(C-1)と前記4級アンモニウム塩構造を有する界面活性剤(C-2)のみを界面活性剤とする防曇膜は、高湿度環境にさらしても吸湿せず、水垂れ跡が薄くなることはない。一方、これら界面活性剤に、前記フッ素系ノニオン系界面活性剤(C-3)を一定量配合することで、前記フッ素系ノニオン系界面活性剤(C-3)は上記のイオンペアの界面活性能を向上させ、水垂れ跡の吸湿性が向上する。これにより、高湿度環境下では、水垂れ跡が水分の影響を徐々に受けて、経時的に薄くなる。よって、本発明の防曇剤組成物から得られる防曇膜は、防曇性能に優れ、水垂れ跡が発生し難く、かつ発生した水垂れ跡が高湿度環境下で経時的に薄くなる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の防曇剤組成物は、共重合体(A)と多官能ブロックイソシアネート化合物(B)と界面活性剤(C)を含む。
【0015】
<共重合体(A)>
本発明の共重合体(A)は、以下の単量体(A-1)~(A-3)を、少なくとも含む単量単混合物から得られる(メタ)アクリレート共重合体である。
【0016】
<単量体(A-1)>
前記単量体(A-1)は、下記一般式(1)で表される単量体、および下記一般式(2)で表される単量体からなる群より選ばれる1種以上である。
【化6】
(一般式(1)中、Rは水素原子またはメチル基であり、Rは炭素数1~4の直鎖もしくは分岐のアルキル基、-C(CHCHCOCH、-CN(CH、または-CN(CHであり、Rは水素原子、または炭素数1~4の直鎖もしくは分岐のアルキル基である。)
【化7】
(一般式(2)中、Rは水素原子またはメチル基である。)
【0017】
前記一般式(1)中、前記炭素数1~4の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、t-ブチル基などが挙げられる。前記一般式(1)中、防曇膜の防曇性能および基材に対する密着性を向上させる観点から、Rは水素原子であることが好ましく、RおよびRは、独立して、直鎖もしくは分岐の炭素数1~4のアルキル基であることが好ましく、メチル基、エチル基であることよりが好ましく、メチル基であることがさらに好ましい。また、前記一般式(2)中、防曇膜の防曇性能を向上させる観点から、Rは水素原子であることが好ましい。前記単量体(A-1)は、少なくとも1種を用いればよく、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0018】
<単量体(A-2)>
前記単量体(A-2)は、下記一般式(3)で表される単量体である。
【化8】
(一般式(3)中、Rは水素原子またはメチル基であり、Rは炭素数1~16の直鎖、分岐、または環状の炭化水素基である。)
【0019】
前記一般式(3)中、前記炭素数1~16の直鎖、分岐鎖、または環状の炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、t-ブチル基、n-アミル基、i-アミル基、t-アミル基、n-ヘキシル基、シクロヘキシル基、n-オクチル基、2-エチルヘキシル基、n-ノニル基、イソボルニル基、ラウリル基、ミリスチル基、セチル基、ステアリル基、ベヘニル基などのアルキル基;オレイル基などのアルケニル基;フェニル基などのアリール基などが挙げられる。防曇膜と基材との密着性、耐水性を高めると共に、防曇膜の防曇性を高める観点から、前記炭素数は1から8であることが好ましい。前記単量体(A-2)は、少なくとも1種を用いればよく、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0020】
<単量体(A-3)>
前記単量体(A-3)は、下記一般式(4)で表される単量体、および下記一般式(5)で表される単量体からなる群より選ばれる1種以上である。
【化9】
(一般式(4)中、Rは水素原子またはメチル基であり、Rは炭素数2~4の直鎖もしくは分岐のアルキレン基、または-C(OCO(CH-であり、nは1~5である。)
【化10】
(一般式(5)中、Rは、水素原子またはメチル基であり、R10は、炭素数1~4の直鎖または分岐のアルキレン基である。)
【0021】
前記一般式(4)中、前記炭素数2~4の直鎖もしくは分岐鎖のアルキレン基としては、例えば、エチレン基、プロピレン基、2-メチルメチレン基、ブチレン基、2-メチルプロピレン基、3-メチルプロピレン基、2,2-ジメチルメチレン基、2-エチルメチレン基などが挙げられる。防曇膜の耐水性と防曇持続性を高める観点から、Rは炭素数2~4の直鎖のアルキレン基であることが好ましく、エチレン基、プロピレン基、2-メチルメチレン基であることがより好ましく、エチレン基、プロピレン基であることがさらに好ましい。
【0022】
前記一般式(5)中、前記炭素数1~4の直鎖もしくは分岐鎖のアルキレン基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、2-メチルメチレン基、ブチレン基、2-メチルプロピレン基、3-メチルプロピレン基、2,2-ジメチルメチレン基、2-エチルメチレン基などが挙げられる。防曇膜の耐水性と防曇持続性を高める観点から、R10は炭素数2~4の直鎖のアルキレン基であることが好ましく、メチレン基、エチレン基、プロピレン基であることがより好ましく、メチレン基、エチレン基であることがさらに好ましい。
【0023】
前記単量体(A-3)は、少なくとも1種を用いればよく、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0024】
以下に、本発明の共重合体(A)を形成する単量体混合物中の各単量体成分の割合について説明する。
【0025】
前記単量体(A-1)は、前記単量体(A-1)、前記単量体(A-2)、および前記単量体(A-3)の合計100質量部において、35質量部以上90質量部以下であることが好ましい。前記単量体(A-1)は、前記単量体(A-1)、前記単量体(A-2)、および前記単量体(A-3)の合計100質量部において、防曇性を向上させる観点から、40質量部以上であることが好ましく、45質量部以上であることがより好ましく、そして、耐水性および水垂れ跡を抑制させる観点から、80質量部以下であることが好ましく、70質量部以下であることがより好ましい。
【0026】
前記単量体(A-2)は、前記単量体(A-1)、前記単量体(A-2)、および前記単量体(A-3)の合計100質量部において、5質量部以上60質量部以下であることが好ましい。前記単量体(A-2)は、前記単量体(A-1)、前記単量体(A-2)、および前記単量体(A-3)の合計100質量部において、耐水性及び密着性を向上させる観点、及び水垂れ跡を抑制させる観点から、15質量部以上であることが好ましく、25質量部以上であることがより好ましく、そして、防曇性を持続させる観点から、50質量部以下であることが好ましく、40質量部以下であることがより好ましい。
【0027】
前記単量体(A-3)は、前記単量体(A-1)、前記単量体(A-2)、および前記単量体(A-3)の合計100質量部において、5質量部以上30質量部以下であることが好ましい。前記単量体(A-3)は、前記単量体(A-1)、前記単量体(A-2)、および前記単量体(A-3)の合計100質量部において、耐水性を向上させる観点、及び水垂れ跡を抑制させる観点から、8質量部以上であることが好ましく、10質量部以上であることがより好ましく、そして、密着性を向上させる観点から、25質量部以下であることが好ましく、20質量部以下であることがより好ましい。
【0028】
前記単量体混合物中、前記単量体(A-1)~(A-3)の合計の割合は、85質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、95質量%以上であることがさらに好ましい。
【0029】
なお、前記単量体混合物には、前記単量体(A-1)~(A-3)以外のその他の単量体として、例えば、スチレン、ビニルトルエン、α-メチルスチレンなどの芳香族ビニル系単量体;(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロリド、(メタ)アクリロイルアミノプロピルトリメチルアンモニウムクロリドなどの4級アンモニウム塩構造を含むビニル系単量体;フェノキシエチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレートなどの脂環アクリル系単量体;(メタ)アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、マレイン酸などのカルボキシ基含有単量体、及びこれらのアンモニウム塩、有機アミン塩、アルカリ金属塩;スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸、メタリルスルホン酸、2-(メタ)アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、3-スルホプロピル(メタ)アクリレートなどのスルホン酸基含有ビニル系単量体、及びこれらのアンモニウム塩、有機アミン塩、アルカリ金属塩;2-(メタ)アクリロイルオキシエチルアシッドホスフェートなどのリン酸基含有ビニル系単量体、及びこれらのアンモニウム塩、有機アミン塩、アルカリ金属塩;1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオール(メタ)アクリレート、1,10-デカンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、N,N’-メチレンビス〔(メタ)アクリルアミド〕などの2官能性(メタ)アクリレート;トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレートなどの多官能ビニル系単量体;γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシランなどのアルコキシシリル基を有するビニル系単量体;グリシジル(メタ)アクリレート、ビニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテルなどのエポキシ基を有するビニル系単量体などが使用できる。
【0030】
<共重合体(A)の製造方法>
本発明の共重合体(A)は、前記単量体混合物を共重合することにより得られる。共重合体の構造としては、ランダム共重合体、交互共重合体、ブロック共重合体およびグラフト共重合体のいずれの構造であってもよいが、防曇性をはじめとする防曇剤組成物の効果を向上させることができると共に、防曇剤組成物を容易に調製することができるという観点からランダム共重合体が好ましい。共重合体を得るための重合方法としては、ラジカル重合法、カチオン重合法、アニオンリビング重合法、カチオンリビング重合法などの公知の各種重合方法が採用されるが、特に工業的な生産性の容易さ、多義にわたる性能面より、ラジカル重合法が好ましい。ラジカル重合法としては、通常の塊状重合法、懸濁重合法、溶液重合法、乳化重合法などが採用されるが、重合後にそのまま防曇剤組成物として使用することができる点で溶液重合法が好ましい。
【0031】
前記溶液重合法に用いる重合溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール、s-ブタノール、t-ブタノール、ジアセトンアルコールなどのアルコール系溶剤;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、3-メトキシ-1-ブタノール、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノールなどのアルコールエーテル系溶剤;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン系溶剤;テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル系溶剤;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n-ブチル、酢酸イソブチル、酢酸t-ブチル、乳酸メチル、乳酸エチルなどのエステル系溶剤;ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族系溶剤、ホルムアミド、ジメチルホルムアミドなどのアミド系溶剤;水などが使用される。前記重合溶剤は、単独で用いてもよく2種類以上を併用してもよい。
【0032】
前記ラジカル重合開始剤は、一般的に使用される有機過酸化物、アゾ化合物などを使用することができる。前記有機過酸化物としては、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、3,5,5-トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシ-2-ヘキサノエートレート、t-ブチルパーオキシピバレート、t-ヘキシルパーオキシピバレートなどが挙げられる。前記アゾ化合物としては、例えば、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス-2-メチルブチロニトリルなどが挙げられる。前記ラジカル重合開始剤は、単独で用いてもよく2種類以上を併用してもよい。
【0033】
前記ラジカル重合開始剤の添加量は、前記単量体混合物100質量部に対して0.01~5質量部であることが好ましい。前記ラジカル重合開始剤は、反応容器中に滴下しながら重合を行うことが重合発熱を制御しやすくなる点で好ましい。重合反応を行う温度は、使用するラジカル重合開始剤の種類によって適宜変更されるが、工業的に製造を行う上で好ましくは30~150℃、より好ましくは40~100℃である。
【0034】
前記共重合体(A)の重量平均分子量(Mw)は、防曇膜に耐水性を付与する観点から、20,000以上が好ましく、30,000以上がより好ましい。共重合体(A)の重量平均分子量(Mw)は、防曇剤組成物の塗装性及びハンドリング性を高める観点から、120,000以下が好ましく、110,000以下がより好ましい。
【0035】
前記共重合体(A)の重量平均分子量(Mw)は、GPC法にて求めることができる。サンプルは、試料をジメチルホルムアミドに溶解して0.2質量%の溶液とし、0.5μmのメンブレンフィルターでろ過したものを用い、以下の条件にて測定することができる。
<重量平均分子量(Mw)の測定>
分析装置:HLC‐8320GPC(東ソー社製)
カラム:KD-802.5(昭和電工社製)、KD-803(昭和電工社製)、KD-80M(昭和電工社製)の直列接続
カラムサイズ:8.0×300mm
溶離液:ジメチルホルムアミド
流量:1.0mL/min
検出器:示差屈折計
カラム温度:40℃
標準試料:ポリスチレン
【0036】
<多官能ブロックイソシアネート化合物(B)>
本発明の多官能ブロックイソシアネート化合物(B)は、イソシアネート基を1分子中に2個以上有する化合物のイソシアネート基をブロック化剤でブロックしたものである。前記多官能ブロックイソシアネート化合物(B)は、少なくとも、前記共重合体(A)と架橋反応して硬化膜を形成するものであれば、特に限定されない。前記多官能ブロックイソシアネート化合物(B)は少なくとも1種を用いればよく、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0037】
前記多官能ブロックイソシアネート化合物(B)において、前記イソシアネート基を1分子中に2つ以上有する化合物としては、例えば、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、テトラメチルキシリデンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、トリメチルヘキサンジイソシアネート、4,4´-メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、1,3-(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、1,5-ナフタレンジイソシアネートなどのジイソシアネート基含有化合物;及びこれらジイソシアネート基含有化合物のビウレット体、イソシアヌレート体、アダクト体、アロファネート体などの誘導体などが挙げられる。これらの中でも、黄変を抑制する観点から、イソホロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサンジイソシアネート、4,4´-メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、1,3-(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、及びこれらの誘導体が好ましい。
【0038】
また、前記ブロック化剤としては、例えば、ジエチルマロネート、3,5-ジメチルピラゾール、ε-カプロラクタム、フェノール、メチルエチルケトオキシム、アルコールなどの化合物が挙げられる。これらの中でも、低温硬化性が良好である観点から、ジエチルマロネートが好ましい。
【0039】
前記多官能ブロックイソシアネート化合物(B)としては、低温硬化性と低黄変性の観点から、ジエチルマロネートでブロックされたヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート体またはビウレット体の使用が好ましい。
【0040】
前記共重合体(A)と、前記多官能ブロックイソシアネート化合物(B)との使用割合は、前記多官能ブロックイソシアネート化合物(B)のイソシアネート基と、前記共重合体(A)の水酸基の当量比(NCO/OH)が、0.1以上1.5以下であることが好ましく、防曇膜の耐水性を向上させ、耐水性や耐湿性を向上させる観点から、0.2以上であることが好ましく、0.3以上であることが好ましく、そして、防曇性や密着性を向上させる観点から、1.2以下であることが好ましい。
【0041】
また、上記の架橋反応を促進させる観点から、触媒を使用してもよい。前記触媒としては、例えば、オクチル酸錫、ジブチル錫ジ(2-エチルヘキサノエート)、ジオクチル錫ジ(2-エチルヘキサノエート)、ジオクチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫脂肪酸塩などの金属有機化合物;テトラメチルブタンジアミン、1,4-ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン、1,8-ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデセン-7、1,5-ジアザビシクロ[4,3,0]ノネン-5などの3級アミンなどが挙げられる。
【0042】
<界面活性剤(C)>
本発明の界面活性剤(C)は、アニオン系界面活性剤(C-1)と4級アンモニウム塩構造を有する界面活性剤(C-2)とフッ素系ノニオン系界面活性剤(C-3)を含む。
【0043】
前記アニオン系界面活性剤(C-1)としては、従来公知のものを全て使用することができるが、例えば、オレイン酸ナトリウム、オレイン酸カリウムなどの脂肪酸塩;ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸アンモニウムなどの高級アルコール硫酸エステル類;ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルナフタレンスルホン酸ナトリウムなどのアルキルベンゼンスルホン酸塩及びアルキルナフタレンスルホン酸塩;ナフタレンスルホン酸ジアルキルホスフェート塩、マリン縮合物、ジアルキルスルホコハク酸塩、ジアルキルホスフェート塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸ナトリウムなどのポリオキシエチレンサルフェート塩が挙げられる。また、前記アニオン系界面活性剤(C-1)としては、例えば、パーフルオロアルキルカルボン酸塩、パーフルオロアルケニルカルボン酸塩、パーフルオロアルキルスルホン酸塩、パーフルオロアルケニルスルホン酸塩、パーフルオロアルキルリン酸エステル、パーフルオロアルケニルリン酸エステルなどのフッ素系アニオン系界面活性剤などが挙げられる。前記アニオン系界面活性剤(C-1)は、防曇性能、防曇持続性に優れ、水垂れ跡を視認しにくくさせるという観点から、フッ素系アニオン系界面活性剤が好ましい。前記アニオン系界面活性剤(C-1)は、少なくとも1種を用いればよく、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0044】
前記4級アンモニウム塩構造を有する界面活性剤(C-2)としては、分子内に少なくとも1つ以上の4級アンモニウム基を有する化合物であって、たとえば、カチオン系界面活性剤やベタイン系界面活性剤が挙げられ、従来公知のものを全て使用することができる。前記4級アンモニウム塩構造を有する界面活性剤(C-2)は、少なくとも1種を用いればよく、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0045】
前記カチオン系界面活性剤としては、例えば、エタノールアミン類、ラウリルアミンアセテート、トリエタノールアミンモノ蟻酸塩、ステアラミドエチルジエチルアミン酢酸塩などのアミン塩;ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライドなどのアルキルトリメチルアンモニウム塩;ジラウリルジメチルアンモニウムクロライド、ジステアリルジメチルアンモニウムクロライド、ラウリルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、ステアリルジメチルベンジルアンモニウムクロライドなどのジアルキルジメチルアンモニウム塩;パーフルオロアルキルトリメチルアンモニウム塩、パーフルオロアルケニルトリメチルアンモニウム塩などのフッ素系カチオン系界面活性剤が挙げられる。
【0046】
前記ベタイン系界面活性剤としては、例えば、ジメチルアルキルラウリルベタイン、ジメチルアルキルステアリルベタインなどの脂肪酸型ベタイン系界面活性剤;ジメチルアルキルスルホベタインのようなスルホン酸型ベタイン系界面活性剤;アルキルグリシン;パーフルオロアルキルベタイン、パーフルオロアルケニルベタインなどのフッ素系ベタイン系界面活性剤などが挙げられる。
【0047】
前記フッ素系ノニオン系界面活性剤(C-3)としては、従来公知のものを全て使用することができるが、例えば、パーフルオロアルキルアミンオキサイド、パーフルオロアルケニルアミンオキサイド、パーフルオロアルキルエチレンオキシド付加物、パーフルオロアルケニルエチレンオキシド付加物、パーフルオロアルキル基及び親水性基を有するオリゴマー、パーフルオロアルケニル基及び親水性基を有するオリゴマー、パーフルオロアルキル基及び親油性基を有するオリゴマー、パーフルオロアルケニル基及び親油性基を有するオリゴマー、パーフルオロアルキル基と親水性基及び親油性基を有するオリゴマー、パーフルオロアルケニル基と親水性基及び親油性基を有するオリゴマーなどが挙げられる。前記フッ素系ノニオン系界面活性剤(C-3)は、防曇持続性を向上させる、及び、水垂れ跡を目立ちにくくさせる、そして、高湿度環境下で水垂れ跡を消失させる観点から、分子内にパーフルオロアルケニル基を2つ以上有するフッ素系ノニオン系界面活性剤が好ましい。前記フッ素系ノニオン系界面活性剤(C-3)は、少なくとも1種を用いればよく、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0048】
前記アニオン系界面活性剤(C-1)は、前記共重合体(A)100質量部に対して、1.0質量部以上10.0質量部以下である。前記アニオン系界面活性剤(C-1)は、防曇性及び耐熱性を向上させる観点から、前記共重合体(A)100質量部に対して、2.0質量部以上であることがより好ましく、2.5質量部以上であることがさらに好ましく、そして、水垂れ跡を抑制させる観点から、8.0質量部以下であることがより好ましく、7.0質量部以下であることがさらに好ましい。
【0049】
前記4級アンモニウム塩構造を有する界面活性剤(C-2)は、前記共重合体(A)100質量部に対して、0.01質量部以上3質量部以下である。前記4級アンモニウム塩構造を有する界面活性剤(C-2)は、防曇性を向上させる観点から、前記共重合体(A)100質量部に対して、0.02質量部以上であることがより好ましく、0.10質量部以上であることがさらに好ましく、そして、水垂れ跡を抑制させる観点から、2.5質量部以下であることがより好ましく、1.5質量部以下であることがさらに好ましい。
【0050】
前記フッ素系ノニオン系界面活性剤(C-3)は、前記共重合体(A)100質量部に対して、0.05質量部以上5質量部以下である。前記フッ素系ノニオン系界面活性剤(C-3)は、防曇持続性を向上させる、及び、水垂れ跡を目立ちにくくさせる、そして、高湿度環境下で水垂れ跡を消失させる観点から、前記共重合体(A)100質量部に対して、0.10質量部以上であることがより好ましく、そして、耐熱性や密着性、水垂れ跡の観点から、3質量部以下であることがより好ましく、1質量部以下であることがさらに好ましい。
【0051】
前記アニオン系界面活性剤(C-1)に対する前記4級アンモニウム塩構造を有する界面活性剤(C-2)の質量比((C-2)/(C-1))が、防曇持続性の観点から、0.01以上であることが好ましく、0.03以上であることがより好ましく、そして、高湿度環境下で水垂れ跡が経時的に消えやすくなる観点から、0.8以下であることが好ましく、0.3以下であることがより好ましい。
【0052】
前記アニオン系界面活性剤(C-1)および前記4級アンモニウム塩構造を有する界面活性剤(C-2)の合計量に対する前記フッ素系ノニオン系界面活性剤(C-3)の質量比{(C-3)/[(C-1)+(C-2)]}が、0.005以上2.5以下である。前記アニオン系界面活性剤(C-1)および前記4級アンモニウム塩構造を有する界面活性剤(C-2)の合計量に対する前記フッ素系ノニオン系界面活性剤(C-3)の質量比{(C-3)/[(C-1)+(C-2)]}は、高湿度環境下で水垂れ跡が経時的に消えやすくなる観点から、0.02以上であることが好ましい。
【0053】
前記フッ素系ノニオン系界面活性剤(C-3)に加えて、非フッ素系ノニオン系界面活性剤(C-3´)を併用すると、高湿度環境下で水垂れ跡を薄くする効果が向上する。前記非フッ素系ノニオン系界面活性剤(C-3´)は、従来公知のものを全て使用することができるが、例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテルなどのポリオキシエチレン高級アルコールエーテル類;ポリオキシエチレンオクチルフェノール、ポリオキシエチレンノニルフェノールなどのポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル類;ポリオキシエチレングリコールモノステアレートなどのポリオキシエチレンアシルエステル類;ポリプロピレングリコールエチレンオキサイド付加物、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレートなどのポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類;アルキルリン酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステルなどのリン酸エステル類;シュガーエステル類、セルロースエーテル類などが挙げられる。前記非フッ素系ノニオン系界面活性剤(C-3´)は、耐熱性や水垂れ跡の観点から、前記フッ素系ノニオン系界面活性剤(C-3)よりも少ない添加量であることが好ましく、例えば、前記共重合体(A)100質量部に対して、3.0質量部以下であることが好ましく、1.0質量部以下であることがより好ましく、0.5質量部以下であることがさらに好ましい。
【0054】
<コロイダルシリカ(D)>
本発明の防曇剤組成物は、高湿度環境下で水垂れ跡を薄くする効果をさらに向上させる観点から、コロイダルシリカ(D)を含むことができる。前記コロイダルシリカ(D)は、分散媒に分散したシリカの微粒子であり、公知のものを使用できる。前記コロイダルシリカ(D)は、硬化膜の透明性の観点から、その粒子径が、100nm以下であることが好ましく、50nm以下であることがより好ましく、30nm以下であることがさらに好ましく、そして、密着性の観点から、その粒子径が、10nm以上であることが好ましい。なお、前記粒子径は、動的光散乱法によって測定されるキュムラント平均粒子径で示される。前記コロイダルシリカ(D)は、単独で用いてもよく2種類以上を併用してもよい。
【0055】
前記分散媒としては、例えば、水;メタノール、エタノール、イソプロパノール、n-プロパノール、イソブタノール、n-ブタノールなどのアルコール系溶剤;エチレングリコールなどの多価アルコール系溶剤;エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテルなどの多価アルコール誘導体;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジアセトンアルコールなどのケトン系溶剤;ジメチルアセトアミドなどのアミド系溶剤;酢酸エチルなどのエステル系溶剤;トルエンなどの芳香族炭化水素系溶剤などが挙げられる。
【0056】
前記コロイダルシリカ(D)は、市販品として、例えば、水分散コロイダルシリカゾル(商品名:スノーテックス30、スノーテックスO、スノーテックスOS、スノーテックスC、スノーテックスN、など)、メタノール分散コロイダルシリカ(商品名:メタノールシリカゾル)、i-プロパノール分散コロイダルシリカ(商品名:IPA-ST)、エチレングリコール分散コロイダルシリカ(商品名:EG-ST)、エチレングリコールモノn-プロピルエーテル分散コロイダルシリカ(商品名:NPC-ST-30)、プロピレングリコールモノメチルエーテル分散コロイダルシリカ(商品名:PGM-ST)、ジメチルアセトアミド分散コロイダルシリカ(商品名:DMAC-ST)、メチルエチルケトン分散コロイダルシリカ(商品名:MEK-ST-40)、メチルイソブチルケトン分散コロイダルシリカ(商品名:MIBK-ST)、酢酸エチル分散コロイダルシリカ(商品名:EAC-ST)、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート分散コロイダルシリカ(商品名:PMA-ST)、トルエン分散コロイダルシリカ(商品名:TOL-ST)(以上、日産化学社製)などが挙げられる。前記コロイダルシリカ(D)は、防曇性を阻害しないよう、水又は親水性溶媒に分散されているものが好ましい。
【0057】
前記コロイダルシリカ(D)を使用する場合、前記コロイダルシリカ(D)は、前記共重合体(A)100質量部に対して、120質量部以下であることが好ましい。前記コロイダルシリカ(D)は、水垂れ跡を抑制する観点から、前記共重合体(A)100質量部に対して、5質量部以上であることがより好ましく、10質量部以上であることがさらに好ましく、そして、防曇性の観点から、100質量部以下であることが好ましく、50質量部以下であることがより好ましい。
【0058】
本発明の防曇剤組成物は、さらに、希釈溶剤を含むことができる。
【0059】
前記希釈溶剤は、防曇剤組成物の塗装に適した固形分および粘度調整を目的として使用する。希釈溶剤としては、前記共重合体(A)の重合溶剤を用いることが好ましい。塗装方法により、塗装に適した固形分および粘度は異なるが、スプレーコート法の場合、前記共重合体(A)が防曇剤組成物中に、3質量%以上30質量%以下が好ましく、5質量%以上20質量%以下がさらに好ましい。
【0060】
本発明の防曇剤組成物には、その他の成分として、必要に応じ、レベリング剤、硬化触媒、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤などの慣用の各種添加剤を配合することができる。前記その他の成分の添加量は、それぞれの添加剤につき慣用的な添加量で配合することができるが、通常、前記共重合体(A)100質量部に対して、10質量部以下である。
【0061】
<防曇性物品>
本発明の防曇性物品は、前記防曇剤組成物を、通常の塗料において行われる塗装方法により被塗装物に塗装し、加熱硬化することによって、被塗装物表面に防曇膜が形成されたものである。
【0062】
前記被塗装物としては、その種類は問わず、公知の樹脂基材が使用可能であるが、例えば、ポリメチルメタクリレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル・スチレン共重合樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、アセテート樹脂、ABS樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂などが挙げられる。
【0063】
前記被塗装物への塗装の際には、被塗装物に対する防曇剤組成物の濡れ性を高め、はじきを防止する目的で、塗装前における被塗装物表面の付着異物除去を行うことが好ましい。高圧エアやイオン化エアによる除塵、洗剤水溶液又はアルコール溶剤による超音波洗浄、アルコール溶剤などを使用したワイピング、紫外線とオゾンによる洗浄などが挙げられる。塗装方法としては、例えば、浸漬法、フローコート法、ロールコート法、バーコート法、スプレーコート法などが挙げられる。
【0064】
防曇膜の膜厚は、良好な防曇性と塗膜外観を得る観点から、0.5~10μm程度であることが好ましく、1~5μm程度であることがより好ましい。
【0065】
前記防曇性物品は、その用途は何ら限定されるものではないが、例えば、自動車の車両灯具に用いることができる。前記車両灯具としては、例えば、前照灯、補助前照灯、車幅灯、番号灯、尾灯、駐車灯、後退灯、方向指示灯、補助方向指示灯、非常点滅表示などが挙げられる。
【実施例
【0066】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0067】
<共重合体(A)の製造>
<共重合体(A-I)の製造>
温度計、攪拌装置、窒素導入管及び冷却管を備えた反応容器に、重合溶剤としてジアセトンアルコールを300質量部仕込み、窒素ガスを吹き込みながら80℃に加熱した。次いで、単量体(A-1)として、N,N-ジメチルアクリルアミドを45質量部、単量体(A-2)としてn-ブチルアクリレートを35質量部、単量体(A-3)として2-ヒドロキシエチルアクリルアミドを20質量部、ラジカル重合開始剤としてt-ヘキシルペルオキシピバレート(日油株式会社製、商品名「パーヘキシルPV」(有効成分70質量%))1.0質量部を混合した溶液を、2時間かけて反応容器に滴下した。滴下終了後、80℃を保持したまま更に1時間攪拌した後、冷却して共重合体(A-I)の溶液を製造した。ガスクロマトグラフィーにて共重合体(A-I)の仕込み単量体の重合転化率を測定したところ、100%であった。また、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにて共重合体(A-I)の重量平均分子量を測定したところ、91,000であった。この共重合体(A-I)の溶液の固形分は25.2質量%であった。なお、共重合体(A-I)の水酸基価(理論値)は、97.5mgKOH/gである。
【0068】
<共重合体(A-II)の製造>
温度計、攪拌装置、窒素導入管及び冷却管を備えた反応容器に、重合溶剤としてジアセトンアルコールを300質量部仕込み、窒素ガスを吹き込みながら80℃に加熱した。次いで、単量体(A-1)として、N,N-ジメチルアクリルアミドを50質量部、単量体(A-2)としてシクロヘキシルアクリレートを35質量部、単量体(A-3)として2-ヒドロキシエチルアクリレートを15質量部、ラジカル重合開始剤としてt-ヘキシルペルオキシピバレート(日油株式会社製、商品名「パーヘキシルPV」(有効成分70質量%))1.0質量部を混合した溶液を、2時間かけて反応容器に滴下した。滴下終了後、80℃を保持したまま更に1時間攪拌した後、冷却して共重合体(A)の溶液を製造した。ガスクロマトグラフィーにて共重合体(A-II)の仕込み単量体の重合転化率を測定したところ、100%であった。また、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにて共重合体(A-II)の重量平均分子量を測定したところ、80,000であった。この共重合体(A-II)の溶液の固形分は24.9質量%であった。なお、共重合体(A-II)の水酸基価(理論値)は、72.5mgKOH/gである。
【0069】
<実施例1>
<防曇剤組成物の製造>
上記で得られた共重合体(A)として共重合体(A-I)100質量部含む溶液400質量部に、プロピレングリコールモノメチルエーテル600質量部を加えて、共重合体(A-I)希釈溶液の濃度を10.0質量%に調整した。次に、多官能ブロックイソシアネート化合物(B)としてジエチルマロネートでブロックされたヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート体(旭化成社製、商品名「デュラネートMF-K60B」)を89.9質量部、アニオン系界面活性剤(C-1)としてジ(2-エチルヘキシル)スルホコハク酸ナトリウム(日油社製、商品名「ラピゾールA80」、有効成分80質量%)を5.0質量部相当、4級アンモニウム塩構造を有する界面活性剤(C-2)としてテトラn-ブチルアンモニウムブロミド(東京化成社製)を0.50質量部、フッ素系ノニオン系界面活性剤(C-3)としてパーフルオロアルケニルポリオキシエチレン(ネオス社製、商品名「フタージェント215M」)を0.40質量部、レベリング剤としてポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン(ビックケミー社製、商品名「BYK333」)を0.05質量部混合し、防曇剤組成物を製造した。
【0070】
<防曇性物品の作製>
25℃、30%RH雰囲気環境下で、上記で得られた防曇剤組成物をポリカーボネート(PC)板に、硬化後の塗膜の膜厚が2~4μm程度になるように、スプレー塗装法にて塗装を行い、120℃で30分間の加熱硬化を行い、防曇膜を有する防曇性物品(試験片)を作製した。
【0071】
上記で得られた試験片を用いて、下記の(1)~(6)の評価方法で得られた結果を表1に示す。
【0072】
<防曇性の評価>
<(1)スチーム試験>
80℃に保った温水浴の水面から2cmの高さの所に、試験片を塗膜面が下になるように設置し、温水浴からのスチームを塗膜に連続照射し、照射10秒間の曇りの有無を目視によって次の4段階で評価した。なお、評価がC以上であれば実用上問題ない。
A:曇りが認められない。
B:一瞬の曇りが認められるが、すぐに水膜が形成され曇らない。
C:明らかな曇りが認められるが、10秒後には水膜が形成され曇らない。
D:スチーム照射10秒後、一部又は全部に不均一な水膜が認められる。
【0073】
<(2)持続性試験>
80℃に保った温水浴の水面から2cmの高さの所に、試験片を塗膜面が下になるように設置し、温水浴からのスチームを塗膜に連続で10秒間照射した後、試験片を垂直に立てた状態で室温にて5~10分乾燥させた。これを30回繰り返した塗膜に対して、<(1)スチーム試験>と同様にして評価した。なお、評価がC以上であれば実用上問題ない。
【0074】
<(3)耐熱試験後スチーム試験>
試験片を120℃に設定した乾燥機に10日間静置した後、室温にて24時間静置した。その後、<(1)スチーム試験>と同様にして評価した。なお、評価がC以上であれば実用上問題ない。
【0075】
<(4)水垂れ跡>
80℃に保った温水浴の水面から2cmの高さの所に、試験片を塗膜面が下になるように設置し、温水浴からのスチームを塗膜に連続10秒間照射した後、試験片を垂直に立てて水垂れを発生させ、試験片を水平にして室温にて静置し、乾燥させた。乾燥後に水垂れ跡の有無を目視によって次の4段階で評価した。なお、評価がC以上であれば実用上問題ない。
A:水垂れ跡が目立たない。
B:水垂れ跡がほとんど目立たない。
C:水垂れ跡が少し目立つ。
D:水垂れ跡が濃い。
【0076】
<(5)水垂れ跡の高湿度環境下での経時変化>
<(4)水垂れ跡>と同様にして水垂れ跡を発生させ、20℃75%RH又は30℃75%RHに設定した恒温恒湿機に10日間静置した後の水垂れ跡を、目視によって次の4段階で評価した。なお、評価がC以上であれば実用上問題ない。
A:水垂れ跡が消失した。
B:水垂れ跡が試験前よりかなり薄い。
C:水垂れ跡が試験前より薄い。
D:水垂れ跡が試験前から変化なし。
【0077】
<(6)密着性>
JIS K 5400 8.5.1に準拠して塗膜の剥離の有無を目視によって次の3段階で評価した。なお、評価がB以上であれば実用上問題ない。
A:全く剥離が認められない。
B:一部に剥離が認められる。
C:全て剥離している。
【0078】
<実施例2~23、比較例1~7>
<防曇剤組成物の製造及び防曇性物品の作製>
各実施例および比較例において、実施例1の原料を、表1~3に記載の原料及びその割合に変更したこと以外は、実施例1と同様な操作にて、実施例2~23、および比較例1~7の防曇剤組成物を製造した。更に、実施例1と同様な操作にて、実施例2~23、および比較例1~7の防曇膜を有する防曇性物品(試験片)を作製した。
【0079】
上記で得られた試験片を用いて、上記の(1)~(6)の評価方法で得られた結果を表1~3に示す。
【0080】
【表1】
【0081】
【表2】
【0082】
【表3】
【0083】
表1~3中、多官能ブロックイソシアネート化合物(B)として、
デュラネートMF-K60Bは、マロン酸ジエステルでブロックされたヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート体(旭化成社製、有効成分60質量%、NCO量6.5質量%);
デュラネートWM44-L70Gは、マロン酸ジエステルでブロックされたヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート体(旭化成社製、有効成分70質量%、NCO量5.3質量%)を示す。
【0084】
表1~3中、界面活性剤(C)として、
ラピゾールA80は、ジ(2-エチルヘキシル)スルホコハク酸ナトリウム(日油社製、有効成分80質量%);
ペレックスTRは、ジトリデシルスルホコハク酸ナトリウム(花王社製、有効成分70質量%);
フタージェント100は、パーフルオロアルケニルスルホン酸塩(ネオス社製、有効成分100質量%);
PolyFox PF-156Aは、パーフルオロアルキルポリオキシエチレン二スルホン酸二アンモニウム(OMNOVA SOLUTIONS社製、有効成分30質量%);
TBABは、テトラn-ブチルアンモニウムブロミド(東京化成社製、有効成分100質量%);
DTABは、ドデシルトリメチルアンモニウムブロミド(東京化成社製、有効成分100質量%);
ニッサンアノンBL-SF:ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン(日油社製、有効成分33.5~37.5質量%);
ソフタゾリンLSB-R:ラウラミドプロピルヒドロキシスルタイン(川研ファインケミカル社製、有効成分29質量%);
フタージェント215Mは、パーフルオロアルケニルポリオキシエチレン(ネオス社製、有効成分100質量%、分子内にパーフルオロアルケニル基を1個含有);
フタージェント218GLは、パーフルオロアルケニルポリオキシエチレン(ネオス社製、有効成分100質量%、分子内にパーフルオロアルケニル基を3個含有);
フタージェント222Fは、パーフルオロアルケニルポリオキシエチレン(ネオス社製、有効成分100質量%、分子内にパーフルオロアルケニル基を2個含有);
ノニオンID209は、ポリオキシエチレンイソデシルエーテル(日油社製、有効成分100質量%);
BYK3560は、ポリエーテルマクロマー変性アクリレート(ビックケミー社製、有効成分100質量%)を示す。
【0085】
表1~3中、コロイダルシリカ(D)として、
スノーテックスOは、水分散コロイダルシリカゾル(日産化学社製、有効成分20質量%、粒径12nm)を示す。
【0086】
表1~3中、レベリング剤として、
BYK333は、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン(ビックケミー社製、有効成分100質量%)を示す。