(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-30
(45)【発行日】2024-02-07
(54)【発明の名称】食品添加剤およびこれを用いる食品調理方法
(51)【国際特許分類】
A23B 4/027 20060101AFI20240131BHJP
A23B 4/20 20060101ALI20240131BHJP
【FI】
A23B4/027
A23B4/20 Z
(21)【出願番号】P 2020556194
(86)(22)【出願日】2019-11-15
(86)【国際出願番号】 JP2019044932
(87)【国際公開番号】W WO2020101024
(87)【国際公開日】2020-05-22
【審査請求日】2021-12-02
(31)【優先権主張番号】P 2018214400
(32)【優先日】2018-11-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】515155020
【氏名又は名称】渡邉 毅臣
(74)【代理人】
【識別番号】100091465
【氏名又は名称】石井 久夫
(73)【特許権者】
【識別番号】522132074
【氏名又は名称】株式会社ロノベジ
(73)【特許権者】
【識別番号】518135124
【氏名又は名称】株式会社SAMURAI TRADING
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 毅臣
【審査官】吉岡 沙織
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-067338(JP,A)
【文献】特開2007-312751(JP,A)
【文献】特開2006-067998(JP,A)
【文献】国際公開第2017/217520(WO,A2)
【文献】特開昭62-205766(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
A23B
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/FSTA/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも(1)有機酸、またはそのアルカリ
金属又はアルカリ土類金属
塩と、(2)酸成分と反応して炭酸ガスを発生するアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩と、(3)多糖類ゲル化成分としてpH7.0以上pH7.3以下でゲル
化するカードランとからなり、pH7.0以上pH7.3以下で炭酸ガスを発生させながら80℃以上の高温加熱調理でハイセットゲルを形成する組成としたことを
特徴とする亜硝酸代替用畜肉用
食品添加物。
【請求項2】
有機酸としてクエン酸10~25重量部、炭酸ガスを発生するアルカリ金属塩として重曹40~70重量部、多糖類ゲル化成分としてカードラン10~20重量部、その他の成分としてキサンタンガム1~5重量部、及び澱粉25~40重量部を含む請求項1記載の食品添加物。
【請求項3】
有機酸としてクエン酸10~15重量部、炭酸ガスを発生するアルカリ金属塩として重曹40~45重量部、多糖類ゲル化成分としてカードラン10~15重量部、その他の成分として澱粉25~30重量部、及びキサンタンガムを含む請求項1記載の食品添加物。
【請求項4】
pH7.0以上pH7.3以下で使用され、80℃以上の高温で加熱調理されるとり唐揚げ、焼き鳥及びとり肉ドラムに用いる請求項1から3のいずれかに記載の食品添加物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はミョウバンを用いないで食品の天然色素の変色を防止しつつ加熱調理による歩留まり減少を防止する食品添加剤及びそれを用いる食品調理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食品の天然色素の変色防止方法には多くの方法が提案されている。例えば、アボカドの果肉は、皮に近い表面側は濃い緑色、種に近い内側はクリーム乃至ベージュ色であり、この色味の美しさが、市場において重視されているが、皮を剥たり、果肉を切り分けると、果肉は短時間の中に褐変するため、様々な褐変を防ぐ方法が提案されている。家庭でもよく行なわれる方法としては、レモン汁をかけることや、ポリ塩化ビニリデン製フィルムを果肉に密着させて、果肉を包装すること等がある。しかしながら、それでは、防止効果に限界があるため、フルーツを含む食品の品質劣化を防止するために、従来は、低温殺菌、酸素を除去するための加熱前にフルーツ果肉にクエン酸やアスコルビン酸等の酸味料を添加し、フルーツ果肉を約30乃至90℃の温度に加熱して実質的に活性な酵素を失活させる方法が提案されている(特許文献1)。他方、高真空状態での処理後に容器内の圧力を上昇させる際に、窒素や二酸化炭素等の不活性ガスを導入し、アボカドが酸素に接触することを防ぐ方法も提案されている(特許文献2)。さらに、トレハロース等の糖類、アミノ酸酵素及びアミノエキスの中の少なくとも一つを適量含有する水溶液をアボカドに浸透させる工程、加熱工程、冷凍工程、及び二酸化炭素をアボカド片の表面に浸透させる工程等を含む方法が提案されている(特許文献3)。さらにまた、アボカド果肉の加工にあたり、酵素を失活されるだけでなく、アボカドの果肉を実質的に酸素を含有しない雰囲気下で炭酸ガス及び/又はアンモニアガスと接触させ、実質的に酸素の供給がない状態で保存する方法も提案されている(特許文献4)。
【0003】
他方、アボガド以外の変色防止法としては、有機酸の内、アスコルビン酸は野菜や果物の種類によっては変色、褐変等の品質劣化を進める場合があるとしてクエン酸ナトリウム、ミョウバン及びα―リボ酸の3成分を有効成分とし、それを含む水溶液に浸漬し、又は水溶液を噴霧する方法も提案されている(特許文献5)。また、畜肉、魚肉等の変色防止として亜硝酸塩の代わりにガス発生能を有する化合物及び金属イオン遊離能を有する化合物を天然多糖類の存在下に加熱処理する方法も提案されている(特許文献6)。
【0004】
しかしながら、変色、褐変防止の天然食品対象が変われば、その処方が変わるのが普通であり、しかもその効果は未だ不十分である。その原因は、天然食品の変色、褐変の原因が一様でなく、果物、野菜などはタンニンに代表されるポリフェノール等が原因であるとされるのに対し、畜肉や魚肉はミオグロンビンという色素タンパク質のオキシミオグロンビンからのメトミオグロンビン化によるものであるといわれているためである。そこで、本発明者はキレート剤であるミョウバンを用いて色素を捕捉し、これを炭酸ガスで還元しようとして変色防止剤を提供した(特許文献7)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2006-503566号0
【文献】米国特許第5,384,147号
【文献】特開2003-210103号
【文献】特開2009-77651号
【文献】WO2013-147227号
【文献】特開2012-217439号
【文献】特開2017-00040号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ミョウバンは、ナスの漬物や麺類、ホットケーキミックスなどに含まれているベーキングパウダーなど、私たちに身近な様々な食品に使用されているものの、近年、ミョウバンには成分中にアルミニウムが含まれているため、人体への影響を懸念する声が多く、特に、大人に比べて身体が未発達な子どもへの影響が心配されており、現に、厚労省はミョウバンが私たちの生殖系や神経発達に悪影響を与えるとして、平成25年には菓子業界にミョウバンの使用自粛要請を出した。そこで、ミョウバンを使用しない食品の色素変色防止方法を提供する要望がある。他方、天然食品においては加熱調理を施して食する場合が多く、加熱調理における歩留まりの減少が調理上必然とは言え、食品の価値を大きく減殺するので歩留まり減少の少ない調理方法が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、第1の課題である食品色素の変色防止を解決するために、ミョウバンを用いないで、食品中の色素の変色を防止する方法として、アルカリ性域でゲル化するグルコマンナンを使用して、水溶液を所定以上の粘度に粘性化してゲル化して弱アルカリ性域で発生する炭酸ガスを水溶液中に捕捉させ、還元状態を確保し、天然色素Hbの変色を防止することを提案した。このグルコマンナンによるゲル化は他のゲル化剤と異なり、その後の加熱調理時に凝固不可逆性を示し、加熱調理による歩留まり減少に大きく貢献していた。本発明者はかかる知見の下、鋭意研究の結果、多糖類ゲル化剤中のカードランにもグルコマンナンと同様にアルカリ域での凝固が可能であるとともに加熱調理に対し凝固不可逆性を示すため、変色防止効果とともに歩留まり維持に有効であることを見出した。特に、畜肉類加工食品においては変色防止だけでなく、加熱調理時の凝固不可逆性が食品の価値を著しく高めることを見出した。
【0008】
即ち、本発明は上記知見に基いてなされたもので、(1)有機酸、またはそのアルカリ金属又はアルカリ土類金属有機酸塩と、(2)アルカリ金属又はアルカリ土類炭酸塩とからなり、弱アルカリ性水溶液を形成し、炭酸ガスを形成する成分と、(3)弱アルカリ性水溶液中で水溶液をゲル化し、水溶液中に炭酸ガスを閉じ込め、しかも加熱に対し凝固不可逆性を示す多糖類ゲル化剤からなる、食品変色防止及び歩留まり維持を図る食品添加剤及びこれを用いる食品調理方法にある。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、アルカリ性水溶液中で炭酸ガスが発生する。例えば、
Na2CO3+NaCOOH+H2O→3Na++2OH-+2CO2の反応により弱アルカリ性域で炭酸ガスを発生させる。水溶液は凝固不可逆性ゲル化成分、例えば、グルコマンナン及び/又はカードラン成分により弱アルカリ域で粘性化してゲル化する。そのため、炭酸ガスは容易に水溶液から離脱せず、粘稠化した水溶液中に捕捉される。そのため、ミョウバンを使用せずとも色素を還元状態に保持することができる。
【0010】
したがって、本発明は、弱アルカリ溶液中で炭酸ガスを発生させるだけでなく、ミョウバンを用いず、アルカリ域での凝固可能成分、グルコマンナン又はカードランを含む食用ゲル化剤を添加することにより、水溶液中の炭酸ガスの対象食品への付着性を向上させ、酸化防止を向上させる。ゲル化成分としてはグルコマンナン、カードラン(β1.3-グルカン)が好ましい。なぜなら、かかるゲル化剤は凝固すると(カードランの場合は80℃以上で)凝固不可逆性を示し、加熱調理後の歩留まりを向上させる。また、冷凍保存される食品の保水性も維持させる効果も発揮する。なお、本発明のゲル化剤はその一部を寒天、カラギーナン、ペクチン、キサンタンガム、シクロデキストリン等のゲル化剤を併用して食品の組織特性を調整することができる。
【0011】
本発明によれば、ミョウバンを用いないが、食品中の色素ポリフェノールはゲル化した水溶液中の炭酸ガスにより捕捉され、アルカリ性域の炭酸ガスにより還元状態に置かれ、酸化が防止されるので、安全に変色、褐変がなく保存される。また、畜肉、魚肉の色素ミオグロビンもミョウバンを用いないでも、ゲル化した水溶液中の炭酸ガスにより捕捉されて、アルカリ性域の炭酸ガスにより還元状態に置かれ、酸化が防止されるので、褐変がない。さらに、褐変された畜肉、魚肉は一部がミトミオグロンビンとなり、暗褐色を呈していても本発明のゲル化した水溶液中の炭酸ガスによりアルカリ性の還元状態に置かれると還元され、ヘムの鉄イオンが三価から二価に還元されるので、鮮赤色に戻る。
【0012】
したがって、本発明によれば、食品の安全性を阻害しかねないミョウバンを用いることなく、アボカド果肉加工品、例えばパルプ、ピューレ、ペースト、スプレッド、ディップ、ジュース、ドレッシング、ケチャップ、ジャム等の食品の色素変色を防止できる。また、本発明によれば、魚肉、畜肉の変色を硝酸・亜硝酸系の発色剤を用いることなく、変色を防止することができる。しかも、本発明のゲル化剤は熱不可逆性又は凝固不可逆性を示し、加熱調理時の保形・保水性を維持できるので、長く商品価値を保持することができる。さらに、種々の皮むき及びカット野菜の、果物の冷蔵、常温保管時の変色、褐変を抑制し、かつ保形・保水性を維持するので、その色、みずみずしさを保持することができる。
【0013】
本発明の食品添加剤は水溶液として対象物に噴霧または浸漬の形態で使用できる。ゲル化剤によって、炭酸ガスを保持しつつ、保湿性を持たせるので効果的である。また、本発明の食品添加剤は各種調味液又は調味料に添加され、所定の作用効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1A】本発明開発品を用いた亜硝酸無添加フランクフルトの工程図及び原料肉配合並びに調味液配合表を示す。
【
図1B】コントロール品と本発明の開発品との比較写真を示す。
【
図2】本発明開発品を使用しないとり唐揚げ(コントロール)と開発品を用いたとり唐揚げの比較工程及び比較写真を示す。
【
図3】通常の焼き鳥(コントロール)と本発明の開発品を用いた焼き鳥の比較工程及び比較写真を示す。
【
図4A】本発明の開発品を用いた焼き肉の工程図及びハム用調味液の配合表を示す。
【
図4B】通常のハム(コントロール)と本発明のハム調味液を用いたハム(開発品)の比較写真を示す。
【
図5】通常の焼き肉ローストと本発明の開発品を用いた焼き肉ローストの比較工程及び調理前後の比較写真を示す。
【
図6】通常のとり肉ドラム(コントロール)と本発明の開発品を用いたとり肉ドラムの比較工程及び比較写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明を、その実施のための最良の形態に基づいて説明する。
本発明の水溶性組成物は第1の物性として、有機酸又はそのアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩有効成分として含む水溶液中にアルカリ金属またはアルカリ土類金属炭酸塩を添加し、弱アルカリ領域で炭酸ガスを生成させる。したがって、本発明組成物はそのまま又は希釈して、対象食品に混合してもよいが、添加通常、炭酸ガス発泡組成物を処理対象物重量の乾燥重量で0.5~3.0%を10倍から30倍の希釈水で水溶液にして用いる。対象食品の含水量を考慮して組成物の0.1~10%、好ましくは0.5~5%、より好ましくは0.75~3%(w/v)の水溶液となるように調製し、ゲル化剤の凝固物性に応じてpH7.0以上9.0の炭酸ガス発泡性アルカリ水溶液として使用するのがよい。即ち、カードランの場合はpH2.0から10.0の領域で凝固可能であるから、pH7.0以上、好ましくは7.2以上で使用することができる。中性に近い方がチキンの加熱処理、例えば、からあげ調理するときに内部に残留血色が残らないので好ましい。但し、カードランの凝固不可逆性は60℃以上、好ましくは80℃以上の加熱凝固を必要とする。他方、グルコマンナンを用いる時はpH7.5以上のアルカリ性域を形成するのが好ましい。ゲル化剤の所望する組織、テクスチャーは使用するゲル化剤の物性に支配される。したがって、アルカリ域でのゲル化可能性だけでなく、その他のゲル化剤との混合によって求める物性を調整することができる。その他のゲル化剤として寒天、ゼラチン、カラギーナン、ペクチン、ジェランガム、アルギン酸ナトリウム、キサンタンガム、ローカーストビーンガム、タマリンシードガムを挙げることができる。
【0016】
本発明で用いる有機酸としては、食品添加に用いられるフィチン酸、酢酸、アスコルビン酸、クエン酸、酒石酸等が挙げられ、そのまま使用してもよいが、アルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩として配合使用されてもよく、水溶液として調製される。
【0017】
有機酸と反応して炭酸ガスを発生する炭酸塩として、反応後の水溶液を弱アルカリ性とするアルカリ金属またはアルカリ土類との炭酸塩が好ましく、炭酸ナトリウム塩、炭酸水素ナトリウム塩、炭酸カリウム塩、炭酸水素カリウム塩、炭酸カルシウム塩、炭酸水素カルシウム塩が挙げられる。水に対する溶解度が大きいのが好ましい。炭酸ナトリウム(重曹)が好ましいが、酒石酸、クエン酸、リン酸カルシウムなどの助剤を加えて、少量の重曹で効率よく炭酸ガスが発生するように工夫するのがよい。その使用量は有機酸との接触による必要なガス発生量により決定される。
【0018】
有機酸、特に酢酸及び/又はクエン酸10~30重量部及び炭酸ソーダ50~70重量部の組成物に対し、グルコマンナン及び/又はカードラン5~30重量部を用いるのが適当である。これらの水溶性組成物を水に対し0.1~10%、好ましくは0.5~5%、より好ましくは0.75~3%(w/v)の濃度として用いるのが好ましい。または、酢酸ソーダ又はクエンに酸ソーダ30~70重量部及び重曹20~50重量部の組成物、さらにアスコルビン酸ナトリウム5~15重量部を含む組成物に対し、グルコマンナン及び/カードラン5~30重量部を用いるのが適当で、0.5~10重量%の水溶液で、pH7近傍から10.5、好ましくはpH7.3~9.0に調整して用いる。グルコマンナンではpH7.5以上であるのが好ましいが、カードランではpH7.0以上の中性域から使用することができるので、pH7.0近傍で使用して畜肉類、例えば、鳥のから揚げ時に内部に残留しやすい血色残留を避けることができる。よって、本発明の食品添加剤は大きく、グルコマンナンを使用するアルカリタイプと、カードランを使用する弱アルカリタイプに分けることができる。
【0019】
以下に、実施例により、本発明を具体的に説明する。
〔製造例〕
重曹-クエン酸ベースの炭酸ガス発泡アルカリ水溶液の調整
水1000mlに、クエン酸10~25重量部、重曹50~70重量部、アスコルビン酸ナトリウム2~5重量部、グルコマンナン15~20重量部の炭酸ガス発泡組成物を全体として1.0~1.5%(W/V)となるように添加し、pH7.5以上、9.0以下、特に8.0前後に調整してゲル化する。
【0020】
又は、重曹-クエン酸ソーダベースの炭酸ガス発泡水溶液の調整水1000mlに、クエン酸ソーダ30~70重量部、重曹20~50重量部、アスコルビン酸ナトリウム10~20重量部、グルコマンナン10~25重量部の炭酸ガス発泡組成物を全体として1.5%(W/V)となるように添加し、pH7.5以上、9.0以下、特に8.0前後に調整してゲル化する。
【0021】
(各種カット野菜・果物の品質確認試験I)
本発明の皮むきカットゴボウ、皮むきカット長芋、皮むきカットリンゴ、カットナス、皮むきカットバナナ及び皮むきカットジャガイモに対する品質保持効果を確認するため、以下の試験を実施した。
まず、各野菜又は果物を皮むき及び/又はカットし、必要に応じて殺菌、洗浄処理を行った後、これらを本発明の1%重曹ークエン酸ベースの処理液及び重曹-クエン酸ソーダベース処理液に10分間浸漬した。これらの浸漬後に水切りして20℃で最長5日間保管し、保管開始時(スタート)、1日後、3日後、5日後の各種野菜・果物の状態を確認し、評価した。ゴボウ、及びバナナでは、保管開始から1日後でも「本発明品」では褐変が認められない。ゴボウとバナナでは3日後でも褐変が認められ始めた。長芋では、保管開始から3日後に、リンゴでは、保管開始から5日後に褐変が認められ始めた。ジャガイモでは、保管開始から1日後には褐変は認められなかった。ナスでは、保管開始から3日後まで、5日後も褐変は認められず、同様であった。なお、保管温度を10℃として同様の試験を実施した場合では、褐変の進み方は20℃保管より緩やかではあったが、ほぼ同様の結果であった。
【0022】
(各種カット野菜・果物の品質確認試験II)
本発明の皮むきカットアボカド、皮むきカットナシ、皮むきカットリンゴ、皮むきカットバナナ、カットキャベツ、カットレタス、カット春菊、皮むきカット里芋、カットマッシュルーム、カットナス、皮むきカットごぼう、カット白菜、皮むきカット大根、皮むきカットジャガイモ、皮むきカット長芋及び皮むきカットレンコンに対する品質保持効果を確認するため、以下の試験を実施した。
まず、各野菜又は果物を皮むき及び/又はカットし、必要に応じて殺菌、洗浄処理を行った後、これらを本発明の処理液2に10分間浸漬した。処理液は、本発明の1%重曹-クエン酸及び重曹-クエン酸ソーダベースの炭酸ガス発泡処理液を使用した。これらの浸漬後に水切りして20℃で24~72時間保管し、各種野菜・果物の状態を確認、評価した。
いずれの野菜・果物においても、保管開始から24時間で「無処理」と「本発明処理」の品質の差が認められた。以上より、本発明に係る品質保持剤で処理することにより、上記の各種皮むき及び/又はカット野菜・果物について、極めて高い褐変抑制効果、品質保持効果が発揮され、20℃という温度帯でも充分な効果を発揮することが明らかとなった。
【0023】
(各種食肉加工原料の品質確認試験I)
本発明の方法によれば、硝酸・亜硝酸系発色剤を用いることなく、食肉加工原料の変色を防止することができる。よって、硝酸及び亜硝酸、並びにそれらの塩を含有せず、且つ、赤色の発色に優れた、商品価値の高い食肉加工食品を製造することが可能となる。
骨や毛等の不純物を除去した規格豚うで肉の赤味9.67kgを食肉加工原料として用いた。これを3mm目プレートのチョッパーに通してミンチ状とした後、別途用意した本発明の処理組成物(重曹-クエン酸および重曹ークエン酸ソーダベースの炭酸ガス発泡組成物)を混和した。得られた混合物を常温(20℃前後)で24時間保持し、乾塩法による漬け込みを行なった。漬け込み後、この混合物を5mm目プレートのチョッパーでチョッピングし、豚脂肪1.6kg、粉末卵白300g、香辛料30g、砂糖20g、粉末燻製剤10gを加え、真空ブレンダーを用い、カッターでカッティングして混和して均一な混合物とした。得られた混合物を、充填機を用いて羊腸ケーシング(ホットドッグ用、長さ15cm、径18~20mm)に詰め、200本の未加熱ウインナーソーセージを作製した。これらを70℃で30分間乾燥し、70℃で40分間スモークし、更に75℃で40分間加熱した。これらを各々真空パックし、85℃で1分間加熱殺菌した後、冷水シャワーで10分間冷却することにより、ウインナーソーセージを製造した。
【0024】
これに対し、豚赤身肉の乾塩法による漬け込み時に、本発明組成物を使用せず、食塩150gを使用した。また、乾塩法による漬け込み後、得られた処理物に対して、更に亜硝酸ナトリウム100gを加えた。その他は同様の操作を行なうことにより、ウインナーソーセージを製造した。
【0025】
〔評価1〕
本発明の組成物を使用した場合と食塩を使用した場合のウインナーソーセージを、8~10℃の冷蔵庫で30日間保存し、保存前後の色調の変化を目視で観察した。
保存前の観察によれば、何れのウインナーソーセージも、赤色系の色調を呈していた。一方、保存後の観察によれば、本発明の組成物を使用したウインナーソーセージは赤色系の色調を維持していたのに対し、食塩を使用した場合のウインナーソーセージは茶褐色系の色調へと変化していた。
【0026】
(各種食肉加工原料の品質確認試験I)
本発明の組成物を使用して塩漬調味液を調製した。本発明の組成物1%水溶液25kg、食塩150g、粉末卵白3.2kg、砂糖2.1kg、グルタミン酸ナトリウム900gを混和して調整した。食肉加工原料として豚もも肉96kg(40本)を用い、これらに前記の塩漬調味液をインジェクターを用いて注入した後、ロータリーマッサージ機を使用して6rpmで72時間回転させ、塩漬調味液を豚もも肉内に浸透させた。次に、これらの豚もも肉をケーシング内に整形充填し、75℃で30分間乾燥し、60℃で40分間スモークし、更に85℃で1分間加熱し、中心温度が68~70℃に達したことを確認した後、冷蔵庫内で一晩保管し、ボンレスハムを製造した。
【0027】
これに対し、本発明の塩漬調味液の組成を、水25kg、食塩150g、粉末卵白3.2kg、砂糖2.1kg、グルタミン酸ナトリウム900g、及び亜硝酸ナトリウム150gに変更した。その他は同様の操作を行なうことにより、ボンレスハムを製造した。
【0028】
[評価2]
本発明の組成物と通常の調味液を使用して調整したボンレスハムを、8~10℃の冷蔵庫で30日間保存し、保存前後の色調の変化を目視で観察した。
両者のボンレスハムの色を比較したところ、前者は薄いピンク色であり、後者はやや赤色に近いピンク色であったが、顕著な色調の違いは見られなかった。
以上の結果から、本発明の方法により製造されたウインナーソーセージ及びボンレスハムは、従来の硝酸・亜硝酸系発色剤を全く使用していないにも関わらず、これらの発色剤を使用したウインナーソーセージ及びボンレスハムとほぼ同様の色調を有することが明らかとなった。
【0029】
次に、本発明を魚肉について、適用した場合を以下の実施例により詳細に説明する。
【0030】
その他の実施例
超低温(-40℃)で凍結され、保存された本マグロフィーレ2kgを、-10乃至-15℃の冷凍庫に放置して通常の冷凍状態とした。通常の冷凍状態となった本マグロフィーレを、食塩濃度10質量%の食塩水に入れ、約5分間浸漬した。この浸漬の間、食塩水は撹拌され、且つ、約25℃となるように加温された。
【0031】
次に、本マグロフィーレを取り出し、水切り後、約2℃の冷蔵庫にて2時間、静置熟成させた。その後、この本マグロフィーレを柵状に切り、さらに、一片が10±2gとなるようにスライスした。
【0032】
常温の水道水1Lに、酢酸ソーダ50g、重曹(炭酸水素ナトリウム)30g、アスコルビン酸ナトリウム10g、ミョウバン10g、グルコマンナン2.0gを溶解、分散させ、希釈して均一な1%溶液とした。この溶液に、上記のスライスした本マグロフィーレを投入し、浸漬させた。この工程は、5乃至10℃にて行った。15分後、スライスした本マグロフィーレを引き上げ、液切りを行い、真空包装した。この真空包装品を、超低温(-40℃)の冷凍庫にて再凍結した。
【0033】
比較例
超低温(-40℃)で凍結され、保存された本マグロフィーレ2kgを、-10乃至-15℃の冷凍庫に放置して通常の冷凍状態とした。通常の冷凍状態となった本マグロフィーレを、柵状に切り、さらに、一片が10±2gとなるようにスライスした。
【0034】
常温の水道水3Lに食塩110gを溶解させ、均一な溶液とした。この食塩水に、上記のスライスした本マグロフィーレを投入し、浸漬させた。この工程は、5乃至10℃にて行った。15分後、スライスした本マグロフィーレを引き上げ、液切りを行い、真空包装した。この真空包装品を、超低温(-40℃)の冷凍庫にて再凍結した。
【0035】
〔評価1〕
実施例及び比較例の本マグロのスライス冷凍品の色調を目視で観察し、その後冷凍庫で3日間保存し、保存後の色調も目視で観察した。
【0036】
保存前の観察において、実施例のマグロは、赤色系の美しい色調を呈していた。比較例のマグロは、赤色にやや退色が見られた。これは、原料から冷凍品を製造するまでの時間経過において、比較例ではミオグロビンの酸化が生じたためと考えられる。一方、保存後の観察によれば、実施例は赤色系の美しい色調を維持していたが、比較例は茶褐色系であり、食材としての価値は大きく低下していた。
【0037】
以上述べたとおり、本発明の方法により製造された実施例のマグロ、同様に本発明方法により製造されたブリ、及びカツオは、いずれも、硝酸・亜硝酸系発色剤を使用していないにも係わらず、冷凍保存3日後においても美しい赤色系の色調を維持していた。
【0038】
上記実施例では熱不可逆性、すなわち凝固不可逆性を示す多糖類ゲル化剤としてグルコマンナンを使用した場合を示したが、以下の実施例では凝固不可逆性を示す多糖類ゲル化剤としてカードランとして使用した場合を示す。
カードランは微生物が賛成する多糖類で、グルコースがβ1,3結合によってつながった直鎖構造をとり、水に不溶性であるが水分散液を加熱処理することによりゲルを形成する。約55-65℃程度まで加熱後、常温に戻して得られるゲルはローセットゲルとよび、熱可逆性を示すが、80℃程度の高温に加熱し続けると熱不可逆性のハイセットゲルを形成する。このカードランは多糖類であるため、食品添加物として利用できる特性を有する。
【0039】
重曹-クエン酸ベースの炭酸ガス発泡弱アルカリ水溶液の調整
水1000mlに、クエン酸10~25重量部、重曹40~70重量部、カードラン10~20重量部、キサンタンガム1~5重量部、澱粉25~40重量部の炭酸ガス発泡組成物を全体として1.0~1.5%(W/V)となるように添加し、pH7以上に調整してゲル化させる。特に、重曹40~45重量%、澱粉25~30重量%、クエン酸10~15重量%、カードラン10~15重量%、キサンタンガム残部で調整したpH7.3前後の開発品を準備する。通常のコントロールとこの開発品を用いた亜硝酸無添加フランクフルトの工程図及び調理液の配合例を
図1Aに示し、コントロール品と本発明開発品の比較写真を
図1Bに示す。この
図1A及び
図1Bを見ると本発明品は変色はなく、歩留まりは89%とコントロールの78%を大きく上回った。次に、本発明開発品を使用しない無添加のコントロールと開発品を用いたとり唐揚げの比較工程及び写真(
図2)を見ると、コントロール品はやや桃色の血色残留が見られるのに対し本発明品は全く血色残留がなく、歩留まりは130%とコントロールの99%を大きく上回った。更に、通常の焼き鳥と本発明の開発品を用いた焼き鳥の比較工程及び写真(
図3)を見ると、コントロールは歩留まり70%であるのに対し本発明では歩留まりは84%と大きくなり、しかも本発明では焼き具合には生焼けのような様相はなくなった。また、
図4Aに示すハム用調味液を用い、亜硝酸無添加の工程図に従って作った本発明のハム(開発品)
図4Bに示すように、通常のロースハムと亜硝酸無添加の本発明のロースハムとを比べると、本発明の方が退色なく発色がよいのとともに、歩留まりも91gとコントロールの78gを大きく上回った。
図5では、原料肉200gを本発明開発品1%2gを40mlの水に溶解し、この液に60分間漬けると、248gに大きく増量され、鮮やかな発色を示した。これに対し、無処理の場合、やや退色傾向にある。これを3~4分通常の焼肉ローストに付すると、コントロールでは154gとなり、発明品では234gでおよそ4割の増量に成功した。最後に、
図6に示すように、とり肉ドラムの調理に関し、本発明の開発品を鳥肉ドラム205gの1%を20倍水に溶解し、これに60分浸漬すると、219gに増量し、ロースト後186gとなり歩留まりが90%となるのに対し、本発明品で浸漬処理しない場合はロースト後の歩留まりは84%になるだけでなく、鶏肉ドラムの内部の焼け具合がコントロールでは薄桃色の生焼け感覚が残るのに対し、本発明品で処理した鳥肉ドラムは完全にローストできており、生焼けの感じが全く見られなかった。
このように、その実物を写真で対比すると、本発明のゲル化剤としてカードランを使用する開発品の退色防止機能及び歩留まり機能は優れており、いずれの場合も変色は防止され、歩留まりが向上することが実証された。