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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-30
(45)【発行日】2024-02-07
(54)【発明の名称】断熱材およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 38/00 20060101AFI20240131BHJP
   F16L 59/02 20060101ALI20240131BHJP
   D01F 9/08 20060101ALI20240131BHJP
【FI】
C04B38/00 303A
F16L59/02
D01F9/08 A
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019168149
(22)【出願日】2019-09-17
(65)【公開番号】P2021046328
(43)【公開日】2021-03-25
【審査請求日】2022-07-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000153591
【氏名又は名称】株式会社巴川コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100137589
【弁理士】
【氏名又は名称】右田 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100160864
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 政治
(72)【発明者】
【氏名】白鳥 仁朗
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 昴
【審査官】神▲崎▼ 賢一
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-273948(JP,A)
【文献】特開平04-219369(JP,A)
【文献】特開2018-158874(JP,A)
【文献】特開平09-316151(JP,A)
【文献】特開2019-002096(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 38/00
F16L 59/02
D01F 9/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックス繊維シートと、
前記セラミックス繊維シートを構成する繊維同士を結着する樹脂炭化物と、を有する断熱材であって、
前記樹脂炭化物の炭化度が0.70以上1.00未満であるために柔軟性を有することを特徴とする、断熱材。
【請求項2】
前記セラミックス繊維シートがアルミナシリカ繊維シートである、請求項1に記載の断熱材。
【請求項3】
セラミックス繊維シートに有機物含有溶液を含侵した後、乾燥することで前記有機物含有溶液中からこれに含まれる溶剤を除去し、その後、不活性ガス雰囲気内で150~950℃にて加熱することで、請求項1または2に記載の断熱材を得る、断熱材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は断熱材およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、いくつかの断熱材が提案されている。
例えば特許文献1には、短尺状の炭素繊維がセラミックスで連結された炭素繊維積層体を備えた炭素繊維断熱タイルであって、前記セラミックスは、無方向に配置された前記炭素繊維の表面に粒状に凝集し、かつ、複数箇所に分散して形成されていること、前記炭素繊維積層体の外周面には、耐熱コート層が被覆されていることを特徴とする炭素繊維断熱タイルが記載されている。そして、このような炭素繊維断熱タイルは、炭素繊維と空隙部とが均一に分散した状態で固定でき、軽量化と断熱性と耐燃性とを同時に高めたものであると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-114731号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載のような炭素繊維断熱タイルに含まれる炭素繊維積層体は柔軟性に乏しく、ハンドリング強度が不足している。
【0005】
本発明は上記のような課題を解決することを目的とする。すなわち、本発明は柔軟性に優れ、ハンドリング強度が高い断熱材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は上記課題を解決するため鋭意検討し、本発明を完成させた。
本発明は以下の(1)~(5)である。
(1)セラミックス繊維シートに有機物含有溶液を含侵した後、乾燥することで前記有機物含有溶液中からこれに含まれる溶剤を除去し、その後、不活性ガス雰囲気内で150~950℃にて加熱することで得られる、前記有機物含有溶液に含まれていた有機物の一部のみがカーボン化した樹脂炭化物が前記セラミックス繊維シートを構成する繊維同士を結着している、断熱材。
(2)前記有機物がフェノール樹脂である、上記(1)に記載の断熱材。
(3)セラミックス繊維シートと、
前記セラミックス繊維を構成する繊維同士を結着する樹脂炭化物と、を有する断熱材であって、
前記樹脂炭化物の炭化度が0.70以上1.00未満であるために柔軟性を有することを特徴とする、断熱材。
(4)前記セラミックス繊維シートがアルミナシリカ繊維シートである、上記(1)~(3)のいずれかに記載の断熱材。
(5)セラミックス繊維シートに有機物含有溶液を含侵した後、乾燥することで前記有機物含有溶液中からこれに含まれる溶剤を除去し、その後、不活性ガス雰囲気内で150~950℃にて加熱することで、上記(1)~(4)のいずれかに記載の断熱材を得る、断熱材の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、柔軟性に優れ、ハンドリング強度が高い断熱材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の断熱材の拡大写真である。
図2】本発明の断熱材の別の拡大写真である。
図3】TG-DTA試験結果を示すチャートである。
図4】200℃で加熱した場合のレーザーラマン分光測定の結果を示すチャートである。
図5】400℃で加熱した場合のレーザーラマン分光測定の結果を示すチャートである。
図6】600℃で加熱した場合のレーザーラマン分光測定の結果を示すチャートである。
図7】800℃で加熱した場合のレーザーラマン分光測定の結果を示すチャートである。
図8】1000℃で加熱した場合のレーザーラマン分光測定の結果を示すチャートである。
図9】加熱する前のカーボン繊維シートのレーザーラマン分光測定の結果を示すチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明について説明する。
本発明は、セラミックス繊維シートに有機物含有溶液を含侵した後、乾燥することで前記有機物含有溶液中からこれに含まれる溶剤を除去し、その後、不活性ガス雰囲気内で150~950℃にて加熱することで得られる、前記有機物含有溶液に含まれていた有機物の一部のみがカーボン化した樹脂炭化物が前記セラミックス繊維シートを構成する繊維同士を結着している、断熱材である。
このような断熱材を、以下では「本発明の第1の断熱材」ともいう。
【0010】
また、本発明は、セラミックス繊維シートと、前記セラミックス繊維を構成する繊維同士を結着する樹脂炭化物と、を有する断熱材であって、前記樹脂炭化物の炭化度が0.70以上1.00未満であるために柔軟性を有することを特徴とする、断熱材である。
このような断熱材を、以下では「本発明の第2の断熱材」ともいう。
【0011】
本発明の第1の断熱材は、本発明の第2の断熱材が有する特徴をも有することが好ましい。すなわち、本発明の第1の断熱材は、セラミックス繊維シートと、前記セラミックス繊維を構成する繊維同士を結着する樹脂炭化物と、を有する断熱材であって、前記樹脂炭化物の炭化度が0.70以上1.00未満であるために柔軟性を有することが好ましい。
【0012】
以下において「本発明の断熱材」と記した場合、本発明の第1の断熱材と本発明の第2の断熱材との両方を意味するものとする。
【0013】
本発明の断熱材は少なくとも一方の主面に耐熱被覆層を有することが好ましい。
耐熱被覆層の材質として、例えば強化炭素複合材(Reinforced Carbon Carbon:RCC)、再使用型高温用表面耐熱剤(High-temperature Reusable Surface Insulation:HRSI)、繊維質耐火性コンポジット耐熱剤(Fibrous Refractory Composite Insulation:FRCI)、再使用型低温表面耐熱剤(Low Temperature Reusable Surface Insulation: LRSI)、発展型再使用フレキシブル表面耐熱材(Advanced Flexible Reusable Surface Insulation: AFRSI)、再使用型フレキシブル表面耐熱材(Flexible Reusable Surface Insulation: FRSI)等が挙げられる。
また、耐熱被覆層はホウケイ酸ガラス、カーボン複合材からなってもよい。また、耐熱フィラーの封孔が施されていてもよい。
【0014】
本発明の断熱材について図を用いて説明する。
図1は、アルミナ繊維シートにフェノール樹脂を含侵し、乾燥した後、窒素雰囲気内で600℃で1h加熱して得られた本発明の断熱材の拡大写真であり、図1(a)が200倍、(b)が1000倍、(c)が5000倍に拡大した写真である。
また、図2は、カーボン繊維シートにフェノール樹脂を含侵し、乾燥した後、窒素雰囲気内で600℃で1h加熱して得られた本発明の断熱材の拡大写真であり、図2(a)が50倍、(b)が200倍、(c)が1000倍に拡大した写真である。
【0015】
図1図2から、本発明の断熱材においては、アルミナ繊維シートまたはカーボン繊維シートを構成するアルミナ繊維またはカーボン繊維同士を、樹脂炭化物が結着していることを確認できる。
また、その結着部分は繊維に滑らかに追従していたり、膜を形成していたりして、特徴的な態様となっていることを確認できる。このような態様となる理由は、主に本発明の断熱材の製造方法に起因していると考えられる。そこで、以下に本発明の製造方法について説明する。
【0016】
本発明の断熱材はセラミックス繊維シートに溶剤を含む有機物含有溶液を含侵した後、乾燥することで前記有機物含有溶液中からこれに含まれる溶剤を除去し、その後、不活性ガス雰囲気内で150~950℃にて加熱することで製造方法することができる。
このような製造方法を、以下では「本発明の製造方法」ともいう。
【0017】
本発明の製造方法では、初めにセラミックス繊維シートを用意する。
ここでセラミックス繊維シートは、セラミックス繊維からなるシート状のものであれば特に限定されない。
【0018】
セラミックス繊維の種類は特に限定されず、アルミナ繊維、アルミナ-シリカ繊維、カーボン繊維、炭化ケイ素シート、ロックウール繊維、ボロンシートであってよく、アルミナ-シリカ繊維またはカーボン繊維であることが好ましい。
ここでアルミナ―シリカ繊維はAl23とSiO2との質量比が60:40~98:2であることが好ましい。
【0019】
セラミックス繊維の長さは1~100mmであることが好ましく、3~10mmであることがより好ましい。
【0020】
セラミックス繊維の繊維径は1~20μmであることが好ましく、5~15μmであることがより好ましい。
【0021】
なお、セラミックス繊維の長さおよび繊維径は、セラミックス繊維シートの断面についての写真(走査型電子顕微鏡を用いて30倍で観察して得る写真)において、セラミックス繊維シートの観察視野における全ての繊維の長さおよび繊維径(繊維の長手方向に対して直角方向の長さ)を測定し、それらを単純平均して求めた値を意味するものとする。
【0022】
セラミックス繊維シートは、上記のようなセラミックス繊維を用いて抄造して得られたものであることが好ましい。
【0023】
セラミックス繊維シートにおける坪量は50~300g/m2であることが好ましく、100~200g/m2であることがより好ましい。
【0024】
セラミックス繊維シートの厚さは1~10mmであることが好ましく、2~8mmであることがより好ましい。
セラミックス繊維シートの厚さは、本発明の断熱材の主面に垂直な方向における断面の拡大写真(30倍)を得た後、その断面の拡大写真においてセラミックス繊維シートの厚さを無作為に選択した10か所にて測定し、それらの単純平均値を求め、得られた平均値をそのセラミックス繊維シートの厚さとする。
【0025】
本発明の製造方法では、次に、セラミックス繊維シートに有機物含有溶液を含侵する。
ここで有機物含有溶液は、溶媒を用いて有機物を溶解して得られるものである。
有機物としてはフェノール樹脂、エポキシ樹脂、フラン樹脂、メラミン樹脂などが挙げられる。
また、これらを溶解する溶媒としては、溶解する溶媒であれば特に限定されるものではない。
また、有機物含有溶液には架橋剤を加えることが好ましい。ここで架橋剤は有機物含有溶液に含まれる有機物を重合することができる架橋剤であれば特に限定されない。
【0026】
有機物含有溶液に含まれる有機物の濃度は1~100質量%であることが好ましく、5~20質量%であることがより好ましい。
このような有機物含有溶液をセラミックス繊維シートに含侵する。
【0027】
次に、有機物含有溶液を含侵したセラミックス繊維シートを乾燥させる。
乾燥させるための手段は特に限定されない。例えば50~120℃に調整された乾燥器内に0.5~2時間、保持することで、有機物含有溶液に含まれている溶媒を除去することができる。
【0028】
このようにして有機物含有溶液中から溶媒を除去すると、その過程において、表面張力や粘度上昇等の影響で、有機物含有溶液はセラミックス繊維同士が交差または集合している箇所へ移動する。そして、その箇所において溶媒が完全に除去される前に、有機物の重合が徐々に進行するので、ゆるやかに固化することになる。そのために、図1図2に示したように、本発明の断熱材におけるセラミック繊維同士の結着部分は繊維に滑らかに追従していたり、膜を形成していたりして、特徴的な態様となっていると考えられる。また、その結着部分は柔軟性に優れるため、結果として本発明の断熱材はハンドリング強度が高くなると考えられる。
【0029】
本発明の製造方法では、上記のように乾燥させた後、不活性ガス雰囲気内で150~950℃、好ましくは200~600℃で加熱する。
加熱させるための手段は特に限定されない。例えば150~950℃に調整され不活性ガスが満たされた加熱炉内に0.5~10時間、保持することで、有機物含有溶液に含まれていた有機物の一部のみをカーボン化する。
【0030】
不活性ガスは特に限定されず、窒素、アルゴン等が挙げられる。
【0031】
セラミックス繊維シートを構成する繊維同士を結着している、有機物の一部のみがカーボン化したものが、樹脂炭化物である。
【0032】
このようにして有機物の一部のみをカーボン化すると、カーボン化(炭化)による質量減少が小さいため、ひび割れ等が発生し難い。そのために、セラミックス繊維同士を結着している有機物は柔軟性を保つことができると考えられる。そのために、図1図2に示したように、本発明の断熱材におけるセラミック繊維同士の結着部分は滑らかで、特徴的な態様となっていると考えられる。
【0033】
また、その結着部分は柔軟性に優れるため、結果として本発明の断熱材はハンドリング強度が高くなると考えられる。
【0034】
このように樹脂炭化物は、有機物の一部のみがカーボン化したものであることが好ましいが、本願発明者は、有機物のどの程度の部分がカーボン化している場合が好ましいかについて検討した。
以下にその検討結果について説明する。
【0035】
本願発明者は、アルミナ繊維シートを5枚用意し、各々にフェノール樹脂を含侵し、乾燥した後、5枚の各々を、窒素雰囲気内で200℃、400℃、600℃、800℃、1000℃にて1h加熱した。
【0036】
そして、測定サンプルの各々について、TG-DTA試験を行った。得られたチャートを図3に示す。
なお、TG-DTA試験の試験条件は次の通りである。
・機器:STA7200RV、EMAステーション(HITACHI社製)
・温度範囲:30 → 1000℃
・雰囲気:窒素(300ml/min)
・昇温速度:10℃/min
・試料量:約10mg
・試料容器:Pt製オープン容器
【0037】
TG-DTA試験では、状態変化に伴う吸熱・発熱等がなければ、チャートにおいてベースラインから変化はなく、一方で状態変化に伴う吸熱等がある場合にはベースラインから下がる曲線を描くことになる。
図3から、800℃または1000℃で加熱した場合は、チャートにおいてベースラインから変化がなく、一方で、200℃、400℃、600℃で加熱した場合に、チャートにおいてベースラインから下がる曲線となっている。
【0038】
また、図3においてチャート(グラフ)内に示された右肩上がりの略直線は温度を表している。200℃、400℃、600℃、800℃、1000℃の各温度の場合を示すラインが下がり始めるときが、測定サンプルの状態変化(例えば、O、H等の減少)が始まるときと考えられるので、その部分から縦に真っすぐな線を引き、温度を示す直線と交わるところが、分解開始温度と推定される。
【0039】
これより、800℃または1000℃で加熱した場合は、状態変化に伴う吸熱・発熱等はなく、一方で、200℃、400℃、600℃で加熱した場合は状態変化に伴う吸熱等があることが確認できる。
すなわち、200℃、400℃、600℃で加熱した場合は、有機物の一部のみがカーボン化しており、一方で、800℃または1000℃で加熱した場合は、有機物の全てがカーボン化していると推定される。
【0040】
次に、本願発明者は、カーボン繊維シートを5枚用意し、各々にフェノール樹脂を含侵し、乾燥した後、5枚の各々を、窒素雰囲気内で200℃、400℃、600℃、800℃、1000℃にて1h加熱した。
【0041】
そして、測定サンプルの各々について、レーザーラマン分光測定を行った。得られたチャートを図4図8に示す。
図4が200℃で加熱した場合、図5が400℃で加熱した場合、図6が600℃で加熱した場合、図7が800℃で加熱した場合、図8が1000℃で加熱した場合であり、各図において上側がカーボン繊維に焦点を当てた結果、下段がフェノール樹脂含侵部に焦点を当てた結果を示している。
なお、図9は、フェノール樹脂を含侵させる前のカーボン繊維シートについて、同様のレーザーラマン分光測定を行った結果を示している。
【0042】
なお、レーザーラマン分光測定の測定条件は次の通りである。
・機器:顕微レーザーラマン分光装置 Nicolet Almega XR (サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製)
・レーサ゛ー波長:532nm
・レーサ゛ー出力:50%
・露光時間:0.50sec
・露光回数:15回
・分光器アハ゜ーチャ:25μmヒ゜ンホール
【0043】
図4図5に示される200℃、400℃で加熱した場合では、カーボンのピークは検出されていないが、図6に示される600℃で加熱した場合でカーボンのピークが出現し、図7図8に示される800℃、1000℃で加熱した場合では、図9に示されるカーボン繊維のピークとほぼ同じ形状の波形になっている。
【0044】
このような測定結果より、200℃、400℃、600℃で加熱した場合は、有機物の一部のみがカーボン化しており、一方で、800℃または1000℃で加熱した場合は、有機物の全てがカーボン化していると推定される。
【0045】
次に本願発明者は、上記のTG-DTA試験の場合と同様に、アルミナ繊維シートを5枚用意し、各々にフェノール樹脂を含侵し、乾燥した後、5枚の各々を、窒素雰囲気内で200℃、400℃、600℃、800℃、1000℃にて1h加熱した。
【0046】
そして、測定サンプルの各々について、XPS分析(X線光電子分光分析)に供した。
なお、測定条件は次の通りである。
・分析装置:Quantera SXM(アルバック・ファイ社製)
・X線源:単色化AlKα
・X線出力、X線照射径:25.0W、φ100μm
・測定領域:Point 100μm
・光電子取り込み角:45deg
・Wide Scan:280.0eV,1.000eV/Step
・Narrow Scan:69.0 eV;0.125eV/Step
【0047】
その結果、200℃にて加熱した測定サンプルの1s原子軌道のC(炭素)量が73.0atom%、O(酸素)量が19.8atom%、Al量が2.6atom%、Si量が1.1atom%と求められた。
また、400℃にて加熱した測定サンプルの1s原子軌道のC(炭素)量が78.7atom%、O(酸素)量が17.7atom%、Al量が2.5atom%、Si量が1.1atom%と求められた。
また、600℃にて加熱した測定サンプルの1s原子軌道のC(炭素)量が81.9atom%、O(酸素)量が14.1atom%、Al量が3.0atom%、Si量が1.0atom%と求められた。
また、800℃にて加熱した測定サンプルの1s原子軌道のC(炭素)量が81.5atom%、O(酸素)量が13.8atom%、Al量が3.5atom%、Si量が1.2atom%と求められた。
さらに、1000℃にて加熱した測定サンプルの1s原子軌道のC(炭素)量が81.1atom%、O(酸素)量が13.6atom%、Al量が3.9atom%、Si量が1.3atom%と求められた。
【0048】
ここで、各測定サンプルに含まれるO(酸素)は、Cと結合しているものと、AlまたはSiと結合しているものに概ね分かれると考えられる。そして、AlとOとが結合したものはAl23の態様で存在しており、SiとOとが結合したものはSiO2の態様で存在していると考えると、各測定サンプルにおいてCと結合しているO量を算出することができる。
このような考えに基づいて計算すると、200℃にて加熱した測定サンプルに含まれるCと結合しているO(酸素)量は13.7atom%と算出される。
また、400℃にて加熱した測定サンプルに含まれるCと結合しているO(酸素)量は11.8atom%と算出される。
また、600℃にて加熱した測定サンプルに含まれるCと結合しているO(酸素)量は7.6atom%と算出される。
また、800℃にて加熱した測定サンプルに含まれるCと結合しているO(酸素)量は6.4atom%と算出される。
さらに、1000℃にて加熱した測定サンプルに含まれるCと結合しているO(酸素)量は5.2atom%と算出される。
【0049】
本願発明者は、前述のようなTG-DTA試験、レーザーラマン分光測定の結果およびXPS分析の結果を考察した。
そして、800℃および1000℃で加熱した場合は完全に炭化している状態と考えられ、これに対して、200℃、400℃、600℃で加熱した場合は、炭化(カーボン化)の途中段階、すなわち、有機物の一部についてのみ炭化している状態と考えた。
また、その炭化の程度(炭化度)は、1000℃にて加熱した測定サンプルの1s原子軌道のC(炭素)量とCに結合しているO(酸素)量との合計を基準とし、この基準に対する比率として表すことができると考えた。つまり、1000℃にて加熱した測定サンプルのCatom%/(Catom%+Cと結合しているOatom%)を求め、この値に対する200℃、400℃、600℃、800℃にて加熱した測定サンプルのCatom%/(Catom%+Cと結合しているOatom%)の値を、各測定サンプルにおける炭化度とすることとした。
【0050】
そこで、各測定サンプルについて、Catom%/(Catom%+Cと結合しているOatom%)を算出した。
Catom%/(Catom%+Cと結合しているOatom%)の値は、200℃にて加熱した測定サンプルの場合が0.842、400℃にて加熱した測定サンプルの場合が0.870、600℃にて加熱した測定サンプルの場合が0.915、800℃にて加熱した測定サンプルの場合が0.928、1000℃にて加熱した測定サンプルの場合が0.940となった。
この考えに基づいて炭化度を計算すると、次のようになる。
【0051】
200℃で加熱した場合の炭化度:0.842÷0.940=0.896
400℃で加熱した場合の炭化度:0.870÷0.940=0.926
600℃で加熱した場合の炭化度:0.915÷0.940=0.973
800℃で加熱した場合の炭化度:0.928÷0.940=0.987
【0052】
これより、本発明における耐熱結着物は、有機物の一部のみがカーボン化した炭化度が0.70以上1.00未満である樹脂炭化物であることが好ましく、この炭化度は0.80~0.99であることがより好ましく、0.85~0.98であることがさらに好ましいと、本願発明者は考えるに至った。
【0053】
次に、本願発明者はハンドリング強度を測定する試験を行った。
本願発明者は、上記のTG-DTA試験の場合と同様に、アルミナ繊維シートを2枚用意し、各々にフェノール樹脂を含侵し、乾燥した後、2枚の各々を、窒素雰囲気内で200℃、1000℃にて1h加熱した。
そして、装置名:テンシロン万能試験機(エー・アンド・デイ社製)を用い、厚み0.3μmのシートより10×50mmに切り出したサンプルを、23℃/50%の環境下に24時間以上放置して、その23℃/50%の環境下でチャック間距離20mm、引張り速度20mm/minの条件で引張り、破断した時の強度を測定し、この操作を3回繰り返し、その3回の平均値を引張強度とした。
その結果、200℃で加熱したシートの引張強度は3.7775Nであったのに対し、1,000℃で加熱したシートの引張強度は0.7375Nであった。
この結果より、本発明の範囲内である前者の方が、ハンドリング強度が高いことが確認できた。
【0054】
前述のような本発明の製造方法によって、本発明の断熱材を製造することができる。
このような本発明の断熱材は柔軟性に優れ、ハンドリング強度が高い断熱材とすることができる。
【0055】
本発明の断熱材は例えば、宇宙・航空分野に要求されるような高耐熱外壁断熱用や、焼却炉等の断熱用途をはじめ、断熱の要求がある様々な製品に断熱材として用いることができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9