(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-30
(45)【発行日】2024-02-07
(54)【発明の名称】炭素材料を含有する積層体と複合体
(51)【国際特許分類】
C09J 201/02 20060101AFI20240131BHJP
C09J 11/04 20060101ALI20240131BHJP
B32B 7/12 20060101ALI20240131BHJP
B32B 18/00 20060101ALI20240131BHJP
【FI】
C09J201/02
C09J11/04
B32B7/12
B32B18/00 B
B32B18/00 C
(21)【出願番号】P 2019235321
(22)【出願日】2019-12-25
【審査請求日】2022-12-06
(31)【優先権主張番号】P 2018243661
(32)【優先日】2018-12-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314001841
【氏名又は名称】KJケミカルズ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】304036754
【氏名又は名称】国立大学法人山形大学
(72)【発明者】
【氏名】後藤 晃哉
(72)【発明者】
【氏名】高橋 辰宏
(72)【発明者】
【氏名】平田 明理
(72)【発明者】
【氏名】丸山 学士
【審査官】橋本 栄和
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-006770(JP,A)
【文献】特開2018-024788(JP,A)
【文献】国際公開第2018/168867(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/066805(WO,A1)
【文献】特開2001-156485(JP,A)
【文献】特開2009-262443(JP,A)
【文献】特開2006-294525(JP,A)
【文献】特開2009-238996(JP,A)
【文献】特開平06-032844(JP,A)
【文献】特開2002-036091(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 201/02
C09J 11/04
B32B 7/12
B32B 18/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性水素と反応する官能基を有するビニルモノマー(A)を構成単位として含む重合体(B)を含有する接着剤(D)を介し、炭素材料(C)
と、ダイヤモンド、ダイヤモンドライクカーボン、セラミックス、活物質からなる群より選択される1種以上の材料が積層されてなる積層体
であって、
炭素材料(C)は、カーボンナノチューブ、単層カーボンナノチューブ、二層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ、カップ積層型カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、グラフェン、フラーレン、ナノダイヤモンド、ナノダイヤモンドライクカーボンからなる群より選択される少なくとも1種のナノサイズ炭素材料である積層体。
【請求項2】
炭素材料(C)は、カーボンナノファイバー(CNF)及び/又はカーボンナノチューブ(CNT)
であって、かつ、
ダイヤモンド、ダイヤモンドライクカーボン、セラミックス、活物質からなる群より選択される1種以上の材料の表面に接着されるCNF及び/又はCNTの被覆率は10%以上であ
る請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
請求項
2に記載の積層体はカーボンナノファイバー(CNF)及び/又はカーボンナノチューブ(CNT)とダイヤモンドの積層体であって、該積層体を含有することを特徴とするレジンボンド砥石。
【請求項4】
請求項
2に記載の積層体はカーボンナノファイバー(CNF)及び/又はカーボンナノチューブ(CNT)とダイヤモンドの積層体であって、該積層体を含有することを特徴とするソーワイヤー。
【請求項5】
ダイヤモンド、ダイヤモンドライクカーボン、セラミックス、活物質からなる群より選択される1種以上の材料の表面に
活性水素と反応する官能基を有するビニルモノマー(A)を構成単位として含む重合体(B)を含有する接着剤(D)を接触させ、
前記材料と接着剤の間に化学結合により接着層を形成してから、炭素材料(C)を接着層に接触させ、化学結合により接着させることを特徴とする
積層体の製造方法であって、
炭素材料(C)は、カーボンナノチューブ、単層カーボンナノチューブ、二層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ、カップ積層型カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、グラフェン、フラーレン、ナノダイヤモンド、ナノダイヤモンドライクカーボンからなる群より選択される少なくとも1種のナノサイズ炭素材料である積層
体の製造方法。
【請求項6】
活性水素と反応する官能基は、オキサゾリン基、グリシジル基、イソシアネート基、カルボジイミド基から選択される1種以上の官能基である請求項1に記載の積層体。
【請求項7】
重合体(B)を構成するビニルモノマー(A)由来の構成単位は10mol%以上である請求項1に記載の積層体。
【請求項8】
重合体(B)のガラス転移温度(Tg)は80℃以上である請求項1に記載の積層体。
【請求項9】
重合体(B)を構成するオキサゾリン基を有するビニルモノマー(A)由来の構成単位は90mol%を超える請求項1に記載の積層体。
【請求項10】
活性水素と反応する官能基は、オキサゾリン基、グリシジル基、イソシアネート基、カルボジイミド基から選択される1種以上の官能基である請求項5に記載の積層体の製造方法。
【請求項11】
重合体(B)を構成するビニルモノマー(A)由来の構成単位は10mol%以上である請求項5に記載の積層体の製造方法。
【請求項12】
重合体(B)のガラス転移温度(Tg)は80℃以上である請求項5に記載の積層体の製造方法。
【請求項13】
重合体(B)を構成するオキサゾリン基を有するビニルモノマー(A)由来の構成単位は90mol%を超える請求項5に記載の積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素材料用の接着剤、該接着剤を介して積層されてなる炭素材料積層体、炭素材料とセラミックスの積層体、炭素材料と金属の積層体、炭層材料と樹脂の複合体、及びこれらの積層体、複合体を含有するレジンボンド、ソーワイヤーなどの成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素材料は一般に炭素原子から構成される材料をいい、炭素原子の結合様式および集合様式により様々な形態や機能を示し、中でも、黒鉛、フラーレン、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、カーボンナノブラシ、グラフェン、炭素繊維(カーボンファイバー)、活性炭、ダイヤモンドライクカーボン、カーボンブラックなどが古くから注目され、補強材料(航空機、自動車、スポーツ用品、タイヤ)、触媒担体、電極材(乾電池、燃料電池)、分子篩膜、浄水用吸着材、消臭材、化粧品、シャンプー、フェイスマスク、表面コート、電磁波遮蔽材料、放熱材料、医薬品(吸着剤)として幅広く応用されている。
【0003】
炭素材料は炭素原子の6員環構造からなり、極性を持たないため、汎用材料に対する濡れ性や分散性が悪く、マトリックス樹脂との接着性が不十分のため、従来から様々な物理的、化学的方法により表面親水化処理などを行ってきた。例えば、炭素繊維において、表面にサイジング剤としてエポキシ樹脂と1,3-フェニレンビス-2-オキサゾリンを付着させることにより毛羽立ちを防止できたことが報告され(特許文献1)、また、ポリオキシアルキレン基とアミド基或いはシアノ基からならアクリル樹脂及び水性媒体を含有する繊維集束剤が報告された(特許文献2)。ダイヤモンドの粉末、微細粒子において、高温における強酸処理や過酸化水素存在下の紫外線照射などにより、表面に水酸基などの含酸素官能基を導入し、水、アルコールなどの汎用溶媒中に安定に分散できるダイヤモンドの製造方法が開示された(特許文献3、4)。
【0004】
一方、カーボンナノチューブ(CNT)は代表的なナノサイズ炭素材料として電気的、熱的、機械的特性に優れるが、直径数~数十nm、長さ数~数百μmの繊維状構造を有するため、アスペクトが非常に大きく、非常に絡まりやすい欠点があった。また、汎用樹脂系や金属系、無機系に対しては勿論のこと、同類の炭素系マトリックスに対しても、濡れ性、密着性や接着性などが悪く、CNTの特性を活かした高性能な複合材料の開発に当たって、CNT表面の物理的、化学的処理や、分散剤による分散液調整などの研究が盛んに行われている。
【0005】
特許文献5は、リチウムイオン二次電池の電極に用いられる金属製の集電基板に対する密着性を持たせるため、側鎖にオキサゾリン基を有するポリマーからなるCNTの分散剤、該分散剤、CNTと溶媒から調製されたCNTの分散液などを報告した。特許文献6は、オキサゾリン系モノマーと含窒素複素環系モノマーの重合体からなるCNTの分散促進剤と接着性向上剤、該分散促進剤とCNT及び水やアルコールなどの分散剤から調製されたCNTの分散液などを報告した。また、特許文献7は、オキサゾリン系モノマーと70℃以下のガラス転移温度を有するビニル系モノマーの重合体からなるCNTの分散促進剤と接着性向上剤、繊維状炭素材料用集束剤、及び該分散促進剤とCNT及び水や有機溶剤などの分散剤から調製されたCNTの分散液などを報告した。これらの先行技術のいずれにおいても、オキサゾリン系ポリマーを用いたCNTの分散液を調製することをスタートとし、その後、特許文献5では、得られたCNTの分散液を集電基板上に塗布、加熱乾燥させ、集電基板と活物質層の間に介在する導電性結着層を形成させた。特許文献6と7では、得られたCNTの分散液を加熱、分散剤を除去し、オキサゾリン系ポリマーで表面修飾されたCNTを製造した。
【0006】
しかし、これらの従来技術では、CNTとその表面に修飾されたポリマーが一体となっているため、一体として各分野に用いられなければならない。勿論のことであるが、修飾されたポリマーの量と均一さはCNT表面のカルボキシル基やフェノール基の数、密度及び修飾用ポリマーの分子量、官能基の当量など多数の因子に左右され、CNTの分散ができたとしても、CNTの表面状態が均一になり難い欠点があった。特に、ポリマーに有する官能基の反応性が高いほど、ポリマーの分子量が高いほど、CNT表面の修飾膜が厚くなりやすく、CNT本来の電気伝導性、熱伝導性などの特性が発揮できなくなる問題があった。
【0007】
このような観点から、CNTなどの炭素材料を特に表面処理も表面修飾もせず、容易に金属材料、炭素材料、樹脂材料など様々な有機系、無機系材料と接着できる、炭素材料用接着剤の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平5-132874号公報
【文献】特開2014-152428号公報
【文献】特開平9-025110号公報
【文献】特開2012-046378号公報
【文献】WO2015/029949号公報
【文献】特開2018-24788号公報
【文献】WO2018/168867号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、特殊な表面処理を要さず、炭素材料本来の特性を損なうことがなく、接着剤を用いることだけでCNTなどの炭素材料を容易に各種有機材料、無機系材料と接着できる、炭素材料用接着剤を提供し、また当該接着剤を介して接着して得られる炭素材料を有する積層体、複合体を提供することを課題とする。さらに、当該接着剤を用いて、炭素材料を有する積層体、複合体の工業的製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、これらの課題を解決するために鋭意検討を行った結果、活性水素と反応する官能基を有するビニルモノマーから重合してなる重合体が炭素材料及び各種有機材料、無機材料に対して優れる密着性と強力な接着性を有することを見出した。また、該接着剤を用いて炭素材料と各種有機、無機材料を接着させることにより、炭素材料を有する積層体と複合体を取得することができた。さらに、該接着剤を介した炭素材料の積層体、複合体を容易に製造する方法を見出すことができ、上記課題を解決し、本発明に至った。
【0011】
すなわち、本発明は、
(1)活性水素と反応する官能基を有するビニルモノマー(A)を重合してなる重合体(B)を含有する、炭素材料(C)の接着に用いられる反応性接着剤(D)、
(2)ビニルモノマー(A)の官能基は、オキサゾリン基、グリシジル基、イソシアネート基、カルボジイミド基から選択される1種以上の官能基であることを特徴とする前記(1)に記載の接着剤(D)、
(3)重合体(B)を構成するビニルモノマー(A)由来の構成単位は10mol%以上であることを特徴とする前記(1)又は(2)に記載の接着剤(D)、
(4)重合体(B)のガラス転移温度は80℃以上であることを特徴とする前記(1)~(3)のいずれか一項に記載の接着材(D)、
(5)重合体(B)を構成するオキサゾリン基を有するビニルモノマー(A)由来の構成単位は90mol%を超えることを特徴とする前記(1)~(4)のいずれか一項に記載の接着剤(D)、
(6)炭素材料(C)は炭素繊維(CF)、グラファイト、ダイヤモンド(DM)、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)、カーボンブラック(CB)、ナノカーボンファイバー(CNF)、カーボンナノチューブ(CNT)、グラフェン、フラーレンから選択される1種以上の材料であることを特徴とする前記(1)~(5)のいずれか一項に記載の接着剤(D)、
(7)前記(1)~(6)のいずれか一項に記載の接着剤(D)を介し、炭素材料(C)が積層されてなる炭素材料積層体(E)、
(8)前記(1)~(6)のいずれか一項に記載の接着剤(D)を介し、炭素材料(C)とセラミックスが積層されてなる炭素/セラミックス積層体(F)、
(9)前記(1)~(6)のいずれか一項に記載の接着剤(D)を介し、炭素材料(C)と金属が積層されてなる炭素/金属積層体(G)、
(10)前記(1)~(6)のいずれか一項に記載の接着剤(D)を介し、炭素材料(C)と樹脂材料を複合してなる炭素/樹脂複合体(H)、
(11)前記(7)に記載の炭素材料積層体(E)は、炭素繊維(CF)と、カーボンナノファイバー(CNF)及び/又はカーボンナノチューブ(CNT)とが、接着剤(D)を介して積層して得られる炭素材料積層体であって、かつ、CF表面のCNF及び/又はCNTの被覆率は10%以上であることを特徴とする(CNF,CNT)/CFの炭素材料積層体(E1)、
(12)前記(7)に記載の炭素材料積層体(E)は、ダイヤモンド粒子と、カーボンナノファイバー(CNF)及び/又はカーボンナノチューブ(CNT)とが、接着剤(D)を介して積層して得られる炭素材料積層体であって、かつ、ダイヤモンド粒子表面のCNT被覆率は10%以上であることを特徴とする(CNF,CNT)/ダイヤモンドの炭素材料積層体(E2)、
(13)前記(8)に記載の炭素/セラミックス積層体(F)は、セラミックスと、カーボンナノファイバー(CNF)及び/又はカーボンナノチューブ(CNT)とが、接着剤(D)を介して積層して得られる炭素/セラミックス積層体であって、かつ、セラミックス表面のCNT被覆率は10%以上であることを特徴とする炭素/セラミックス積層体、
(14)前記(9)に記載の炭素/金属積層体(G)は、金属と、カーボンナノファイバー(CNF)及び/又はカーボンナノチューブ(CNT)とが、接着剤(D)を介して積層して得られる炭素/金属積層体であって、かつ、金属表面のCNT被覆率は10%以上であることを特徴とする炭素/金属積層体、
(15)前記(12)に記載の(CNF,CNT)/ダイヤモンドの積層体(E2)を含有することを特徴とするレジンボンド砥石、
(16)前記(12)に記載の(CNF,CNT)/ダイヤモンドの積層体(E2)を含有することを特徴とするソーワイヤー、
(17)基材である炭素材料(C)の表面に前記(1)~(5)のいずれか一項に記載の接着剤(D)を接触させ、基材と接着剤の間に化学結合により接着層を形成してから、同一又は異なる炭素材料を接着層に接触させ、化学結合により接着させることを特徴とする炭素材料積層体(E)の製造方法、
(18)基材は炭素繊維(CF)、ダイヤモンド(DM)、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)、カーボンナノファイバー(CNF)から選択される1種以上の材料であって、接着させる炭素材料はカーボンナノチューブ(CNT)、カーボンナノファイバー(CNF)であることを特徴である前記(17)に記載の炭素材料積層体(E)の製造方法、
(19)基材であるセラミックスの表面に前記(1)~(5)のいずれか一項に記載の接着剤(D)を接触させ、基材と接着剤の間に化学結合により接着層を形成してから、炭素材料(C)を接着層に接触させ、化学結合により接着させることを特徴とする炭素/セラミックス積層体(F)の製造方法、
(20)基材はセラミックスであって、接着させる炭素材料はカーボンナノファイバー(CNF)及び/又はカーボンナノチューブ(CNT)であることを特徴である前記(19)に記載の炭素/セラミックス積層体(F)の製造方法、
(21)樹脂材料に前記(1)~(5)のいずれか一項に記載の接着剤(D)を混ぜ込んでから、炭素材料(C)と複合させることを特徴とする炭素/樹脂複合体(H)の製造方法、
(22)炭素材料が炭素繊維(CF)、カーボンナノファイバー(CNF)、カーボンナノチューブ(CNT)から選択される1種以上の材料であることを特徴とする前記(21)に記載の炭素/樹脂複合体(H)の製造方法
を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の接着剤(D)は、活性水素と反応する官能基を有するビニルモノマー(A)を重合してなる重合体(B)を含有する、炭素材料(C)の接着に用いられる反応性接着剤であって、該接着剤を介して炭素材料同士や炭素材料と樹脂などの有機材料、セラミックス、金属などの無機材料とを接着することによって複合体、積層体などの成形品を取得することができる。また、薄い接着層を形成することが可能であるため、炭素材料本来の機械的に強度、熱伝導性や電気伝導性などの特性を損なうことがなく、高性能の積層体、複合体を容易に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に用いられるビニルモノマー(A)は活性水素と反応する官能基を有するビニルモノマーである。本発明でいう活性水素とは、炭素材料の表面に有するカルボキシル基やフェノール性水酸基の活性水素のことである。また、ビニルモノマー(A)が有する官能基は、通常の温度、圧力、触媒存在下などの反応条件において、これらの活性水素と反応できる官能基であれば、特に限定することはない。例えば、アミン基、アルコール基、酸無水物、グリシジル基、イソシアネート基、オキソゾリン基、カルボジイミド基などが挙げられる。このうち、グリシジル基、イソシアネート基、カルボジイミド基とオキソゾリン基が活性水素との反応性が高く、好ましい。なかでも、オキサゾリン基が最も高い反応性を有し、且つ、活性水素との付加反応は副生成物を発生しないため、特に好ましい。
【0014】
グリシジル基を有するビニルモノマー(A1)としては、グリシジル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートグリシジルエーテルなどのグリシジル基を有する(メタ)アクリレート系モノマー、N-グリシジル(メタ)アクリルアミド、N−メチル−N−グリシジル(メタ)アクリルアミド、N−エチル−N−(メタ)グリシジルアクリルアミドなどのグリシジル基を有する(メタ)アクリルアミド系モノマー、アリルグリシジルエーテル、トリアルコキシシリルモノグリシジルエーテル、トリシクロデカンジメタノールモノアリルエーテルモノグリシジルエーテル、トリシクロデカンジメタノールのトリアルコキシシリルモノグリシジルエーテルなどのグリシジル基とアリル基を有するモノマーなど等が挙げられる。このうち、工業品を入手しやすく、共重合性がよい観点から、グリシジルメタクリレートとグリシジルアクリレートが好ましい。これらグリシジル基を有するビニルモノマーは、1種類に限らず、複数の種類を組み合わせて使用してもよい。
【0015】
イソシアネート基を有するビニルモノマー(A2)としては、2-イソシアネートエチル(メタ)アクリレート、3-イソシアネートプロピル(メタ)アクリレート、2-イソシアネート1-メチルエチル(メタ)アクリレート、3-(メタ)アクリロイルオキシフェニルイソシアネート、3-イソシアネート2-メチルブチル(メタ)アクリレート、4-(メタ)アクリロイルオキシフェニルイソシアネート、3-(メタ)アクリロイルオキシフェニルイソシアネート、2-(メタ)アクリロイルオキシフェニルイソシアネート、3,5-ビス(メタ)アクリロイルオキシエチル)フェニルイソシアネート、2,4-ビス((メタ)アクリロイルオキシ)フェニルイソシアネート、1,1-ビス((メタ)アクリロイルオキシメチル)エチルイソシアネート、1,1-ビス((メタ)アクリロイルオキシメチル)エチルイソシアネート、(メタ)アクリロイルイソシアネート等が挙げられる。このうち、工業品を入手しやすく、共重合性がよい観点から、2-イソシアネートエチルアクリレートと2-イソシアネートエチルメタクリレートが好ましい。これらイソシアネート基を有するビニルモノマーは、1種類に限らず、複数の種類を組み合わせて使用してもよい。
【0016】
オキサゾリン基を有するビニルモノマー(A3)としては、2-ビニル-2-オキサゾリン、4-メチル-2-ビニル-2-オキサゾリン、5-メチル-2-ビニル-2-オキサゾリン、4-エチル-2-ビニル-2-オキサゾリン、5-エチル-2-ビニル-2-オキサゾリン、4,4-ジメチル-2-ビニル-2-オキサゾリン、4,4-ジエチル-2-ビニル-2-オキサゾリン、4,5-ジメチル-2-ビニル-2-オキサゾリン、4,5-ジエチル-2-ビニル-2-オキサゾリン、2-イソプロペニル-2-オキサゾリン、4-メチル-2-イソプロペニル-2-オキサゾリン、5-メチル-2-イソプロペニル-2-オキサゾリン、4-エチル-2-イソプロペニル-2-オキサゾリン、5-エチル-2-イソプロペニル-2-オキサゾリン、4,4-ジメチル-2-イソプロペニル-2-オキサゾリン、4,4-ジエチル-2-イソプロペニル-2-オキサゾリン、4,5-ジメチル-2-イソプロペニル-2-オキサゾリン、4,5-ジエチル-2-イソプロペニル-2-オキサゾリン等が挙げられる。この内、カルボキシル基、フェノール性水酸基と高い反応性を有する観点から、2-ビニル-2-オキサゾリン、2-イソプロペニル-2-オキサゾリン、5-メチル-2-ビニル-2-オキサゾリン、4,4-ジメチル-2-ビニル-2-オキサゾリンが好ましく、なかでも、2-ビニル-2-オキサゾリンと2-イソプロペニル-2-オキサゾリンが特に好ましい。これらオキサゾリン基を有するビニルモノマーは、1種類に限らず、複数の種類を組み合わせて使用してもよい。
【0017】
これらのビニルモノマー(A)は1種単独でもよく、異なる官能基のもの2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0018】
本発明に用いられる重合体(B)は、ビニルモノマー(A)由来の構成単位を10mol%以上含有することが好ましい。(A)の含有量が10mol%以上であれば、得られた重合体(B)には、炭素材料及びそれ以外の有機材料、無機材料と反応できる官能基を十分に有し、重合体(B)を含有する本発明の接着剤(D)がこれらの材料を強力に接着することができるため、好ましい。
【0019】
本発明に用いられる重合体(B)は、オキサゾリン基を有するビニルモノマー(A3)由来の構成単位を90mol%超えて含有することが好ましい。A3が90mol%を超えて含有されていれば、重合体(B)に含まれるオキサゾリン基の密度が高く、Bが低分子量化することが可能となり、それによって本発明の接着剤(D)から薄くて強力な接着層を形成することができる。また、同様な観点から、A3の含有量は95mol%以上であることがより好ましく、A3の含有量は100mol%(ホモポリマー)であることが特に好ましい。
【0020】
本発明に用いられる重合体(B)は、ガラス転移温度(Tg)が80℃以上であることが好ましい。Tgが80℃以上を有する場合、重合体(B)を含有する本発明の接着剤(D)が炭素材料及びそれ以外の有機材料、無機材料の表面に薄く、均一な接着層を形成できるという特異的な効果が確認された。重合体(B)のTgは、当該特異効果との因果関係について、明確ではないが、本発明の重合体(B)は、炭素材料、有機材料或いは無機材料の表面のカルボキシル基やフェノール基と反応する際、80℃以上の温度であると反応が速く進行することが確認されており、重合体(B)のTgが80℃以上であると、反応時適度な柔軟性が有するため、基材の表面に均一に分散され、反応終了後、基材が冷却されると同時に接着層が基材の表面に均一に分散された状態で固定され、薄くて、均一な接着層を取得することができるためと発明者らは推測している。一方、Tgが80℃未満の重合体では、反応終了後、基材が冷却される際に接着層が官能基の数により団子状や塊状態に凝集する可能性がある。
【0021】
本発明に用いられる重合体(B)の重合方法は、特に限定されるものではなく、公知のラジカル重合法により合成可能である。例えば、アルコール、酢酸エチルなどの有機溶媒中や水中の溶液重合、懸濁重合、乳化重合、塊状重合法などが挙げられる。有機溶媒中の溶液重合法を採用する場合、重合溶媒としては、トルエン、キシレン、酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルエチルケトン、メチルアルコール、エチルアルコールなどの単独もしくは混合の溶媒を用いることができる。
【0022】
重合体(B)の重合に用いる重合開始剤としては、アゾ系、有機過酸化物系、無機過酸化物系、レドックス系など一般的に知られている重合開始剤が挙げられる。重合開始剤の使用量としては、通常、重合性単量体成分総量に対して0.001~10mol%程度である。また、連鎖移動剤による分子量の調整など通常のラジカル重合技術が適用される。
【0023】
重合体(B)を構成するモノマーとしてビニルモノマー(A)のみでもよいが、他の共重合可能なビニル系単量体を用いることができる。他の共重合可能なビニル系単量体としては、炭素鎖1~12のアルキル基を有する(メタ)アクリレート、炭素鎖1~12のアルキル基を有するN-アルキル(メタ)アクリルアミド、同じ又は異なる二つの炭素鎖1~12のアルキル基を有するN,N-ジアルキル(メタ)アクリルアミド、芳香族置換基を有する(メタ)アクリレート又は(メタ)アクリルアミド、ヒドロキシアルキル(C1~12)(メタ)アクリレート又は(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリル酸等が挙げられる。これらの共重合可能なビニル系単量体は単独でもよく、2種以上を混合使用しても良い。
【0024】
本発明に用いられる重合体(B)の重量平均分子量は500~200,000である。また、好ましくは1,000~100,000、さらに好ましくは2,000~60,000である。重量平均分子量が500未満であると、重合されてないモノマーが多く存在し(残存モノマー)、接着剤(D)に配合した際に、十分な接着力が得られない可能性があり、好ましくない。一方、重量平均分子量が200,000を越えると、重合体(B)の接着剤(D)の中の配合量にもよるが、炭素材料、有機材料、無機材料の表面に形成される接着層が厚くなったり、不均一になったりすることがあり、好ましくない。
【0025】
本発明の接着剤(D)は、必須な構成成分として重合体(B)を10質量%以上配合することが好ましい。重合体(B)が10質量%未満の場合、Bに有する官能基の量と品種によって、得られる接着剤(E)の接着力が不十分となる恐れがあり、好ましくない。
【0026】
本発明に用いられる炭素材料(C)は、主に炭素だけから構成されている材料(カーボン材料)であり、具体的には炭素繊維(CF)、グラファイト、ダイヤモンド(DM)、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)、カーボンブラック(CB)、ナノカーボンファイバー(CNF)、カーボンナノチューブ(CNT)、グラフェン、フラーレンから選択される1種以上の材料である。また、炭素繊維(CF)としては、ポリアクリロニトリル(PAN)系、ピッチ系、レーヨン系と植物由来原料系のものが挙げられ、カーボンナノチューブ(CNT)としては、単層カーボンナノチューブ(SWCNT)、二層カーボンナノチューブ(DWCNT)、多層カーボンナノチューブ(MWCNT)、カップ積層型カーボンナノチューブ(CSCNTs)が挙げられる。なかでも、PAN系炭素繊維が単位重量当たりの強度、弾性率に優れ、製造量が多いので、繊維系炭素材料としてより好ましく、CNTがナノメートルレベルで構造を制御でき、新規機能材料として安価に工業的なレベルで製造できるようになったため、ナノ系炭素材料として好ましい。また、これらの炭素材料は市販品のままで使用しても、酸化等の処理方法で表面に多くのカルボキシル基やフェノール性水酸基を配置させるための処理を行ってから使用してもよい。
【0027】
本発明に用いられる炭素材料(C)はそれぞれの目的に応じて単独で使用してもよいし、2種類以上を併用してもよい。また、これらの炭素材料は通常の市販品のままでも使用可能であるが、水や溶媒による洗浄、CNT同士の絡まり合いを解くためのビーズミル分散処理や超音波分散処理などの物理的な分散処理を実施してからの使用がより好ましい。
【0028】
本発明の炭素材料を用いた各種積層体(E,F,G,)は、同一の炭素材料又は異なる炭素材料により形成される炭素材料積層体(E)、炭素材料とセラミックスにより形成される炭素/セラミックス積層体(F)、炭素材料と金属など無機材料による形成される炭素/金属積層体(G)などの炭素/無機材料積層体、炭素材料と炭素材料以外の有機材料による形成される炭素/有機材料積層体などが挙げられる。また、炭素材料積層体(E)は、炭素繊維(CF)、グラファイト、ダイヤモンド(DM)、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)、カーボンブラック(CB)、ナノカーボンファイバー(CNF)、カーボンナノチューブ(CNT)、グラフェン、フラーレンから任意に選択される2種以上の材料を積層して形成することができる。このうち、特に炭素繊維とカーボンナノファイバー、炭素繊維とナノダイヤモンド粒子、炭素繊維とカーボンナノチューブ、カーボンナノファイバーとカーボンナノチューブ、ダイヤモンド粒子とカーボンナノチューブなどから形成される炭素材料積層体は、異なる大きさの炭素材料の組み合わせにより、お互いに物性上の欠点が補修され、特徴が維持またはさらに伸ばされ、異種炭素材料の相互作用により従来にない特異な効果が期待できるため、より好ましい。
【0029】
本発明の炭素材料を用いた各種積層体は、接着剤(D)を介して形成されるものである。積層方法は、特に限定されるものではなく、一般的に積層材料両方或いは片方の表面に接着剤を塗布して接着させる方法により実施可能であるが、本発明は基材(被接着体)と積層材(接着体)の形状が異なったり、表面面積が大きく違ったりする場合があるため、基材の表面に接着剤を接触させ、基材と接着剤の間に化学結合により接着層を形成してから、積層材とさらに接触させ、積層材と接着層に有する接着剤の間に化学結合により接着させるという製造方法が好ましい。
【0030】
本発明に用いられる基材は炭素材料、無機材料、金属材料などの材料である。また、基材の表面に活性水素を有することが好ましく、その活性水素はカルボキシル基、フェノール性水酸基であることが特に好ましい。基材表面に有する官能基の量は、基材の材質、表面の形状などによって、必要最低量は変わってくるが、カルボキシル基とフェノール性水酸基の合計で0.1μmol/g以上であることが好ましい。また、0.5μmol/g以上であることがより好ましく、1.0μmol/g以上であることが最も好ましい。本発明に用いられる基材は、1種に限らず、複数の種類を組み合わせて使用することができる。また、市販品のままで使用しても、酸化等の処理方法で表面に多くのカルボキシル基やフェノール性水酸基を配置させるための処理を行ってから使用してもよい。
【0031】
本発明に用いられる積層材は炭素材料であり、また、ナノサイズ炭素材料の優れた電気伝導性、熱伝導性と機械的強度などの特性を積層体に導入するため、積層材は、ナノサイズの炭素材料であることが好ましい。具体的にはナノサイズのダイヤモンドとダイヤモンドライクカーボン、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ、グラフェン、フラーレンなどが挙げられる。中でも、アスペクト比の大きなカーボンナノファイバーとカーボンナノチューブが、柔らかく強靭な機械的性質を有するため、特に好ましい。積層材の表面にも活性水素を有することが好ましく、その活性水素はカルボキシル基、フェノール性水酸基であることが特に好ましい。積層材表面に有する官能基の量は、積層材の材質、表面の形状などによって、必要最低量が変わってくるが、カルボキシル基とフェノール性水酸基の合計で0.1μmol/g以上であることが好ましい。また、0.5μmol/g以上であることがより好ましく、1.0μmol/g以上であることが最も好ましい。本発明に用いられる積層材は、1種に限らず、複数の種類を組み合わせて使用することができる。また、市販品のままで使用しても、酸化等の処理方法で表面に多くのカルボキシル基やフェノール性水酸基を配置させるための処理を行ってから使用してもよい。
【0032】
積層材はアスペクト比が非常に大きいカーボンナノチューブなどである場合、非常に絡まりやすいため、水や有機溶媒中で分散させてから使用することが好ましい。カーボンナノチューブなどの炭素材料の分散剤としては、室温(25℃)において液体である有機溶媒類と水が好ましい。溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール(IPA)、ブタノール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等のエステル類、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノーn-ブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル等のエーテル類、テトラヒドロフラン(THF)、トルエン、キシレン、クロロホルム、N-メチルピロリドン(NMP)、N-メチルホルムアミド(NMF)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N-メチルアセトアミド、ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、シクロヘキサン、アルコキシ-N,N-ジアルキルプロパンアミド、多価アルコール、シリコーンオイル、陽イオン性、陰イオン性、両イオン性又は非イオン性の界面活性剤類など、幅広く用いることができる。また、これらはいずれか1種を単独で使用してもよいし、複数の溶媒を組み合わせてもよく、水溶性の有機溶媒と水からなる任意配合比の混合物として用いてもよい。
【0033】
上記溶媒類の分散剤において、特にNMP、NMF、DMF、DMSO、「KJCMPA」(3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、「KJCMPA」はKJケミカルズ株式会社の登録商標である。)などの分子中に窒素原子又は硫黄原子を有する親水性溶媒が、炭素材料の表面に有する官能基との相互作用が強く、それによりCNTなどの炭素材料の再凝集を防止する効果を有し、安定的な分散液を形成されやすいので、好ましい。さらに、水を分散剤として用いる場合は、廃棄する有機溶剤を有しないため、環境に優しいメリットがある。
【0034】
本発明の炭層材料を含有する積層体の製造方法は、基材の表面に接着剤を接触させ、基材と接着剤の間に化学結合により接着層を形成してから、積層材をさらに接触させ、積層材と接着層に有する接着剤の間の化学結合により接着させる方法である。基材の表面と接着剤とを接触させる方法は、接着剤の分子量、状態によって異なる。接着剤は作業温度において液体である場合、接着剤を基材の表面に薄く塗布する方法、液状又はワックス状の接着剤中に繊維状の炭素材料を通させる方法、粒子状の炭素材料を浸漬させる方法が挙げられる。また、接着剤が固体である場合は勿論、液体である場合も、接着剤の溶液を調製して用いることが好ましい。溶液状態の接着剤が、極めて薄い濃度で基材の表面に接触することにより、薄い接着剤層を形成することが可能であるため、好ましい。
【0035】
基材と接着剤との反応は、基材の材質によって大きく変わることがないが、基材の形状、サイズにより適宜、適切な反応方式を選択することができる。反応方式は大きく二つに分けることができ、一つは、接着剤を液体媒体中で基材の表面に接触させながら加熱する方法であり、もう一つは接着剤を液体媒体中で基材の表面に接触させた後加熱する方法である。具体的には、
(1)接着剤を水や有機溶媒中に溶解させ、接着剤溶液を調製する。得られた溶液を所定の温度に加熱し、繊維状の基材を所定の速度で接着剤溶液に通過させ、基材表面のカルボキシル基などの官能基に有する活性水素と接着剤のオキサゾリンなどの官能基を反応させ、基材の表面に薄く且つ均一な接着層を形成させる。また、粒子状の基材を所定温度に加熱した接着剤溶液中に加えるか、粒子状の基材に加熱された接着剤溶液を掛け流すかにより基材表面のカルボキシル基などの官能基に有する活性水素と接着剤のオキサゾリンなどの官能基を反応させ、基材の表面に薄く且つ均一な接着層を形成させる。
(2)室温又は低温で上記(1)の作業を行い、基材の表面に接着剤を接触させる。その後、所定温度に加熱し、溶媒を除去させながら、基材表面のカルボキシル基などの官能基に有する活性水素と接着剤のオキサゾリンなどの官能基を反応させ、基材の表面に薄く且つ均一な接着層を形成させる。
【0036】
上記(1)の製造方法において、溶媒としては、高沸点かつ熱的安定性が高く、接着剤を溶解可能で且つ接着剤と反応性を有しない溶媒を用いることができる。反応温度は、基材の種類、接着剤の組成、構造によって変動するが、40~200℃であることが好ましく、60~180℃であることがより好ましい。温度が40℃より低い場合、反応の所要時間が長くなるか反応が十分に進行できない可能性があり、一方、温度が200℃より高い場合、かなり高沸点の溶媒を用いる必要があり、反応後の溶媒を容易に除去できない問題がある。
【0037】
上記(2)の製造方法において、溶媒としては、水や低沸点溶媒、熱的不安定溶媒、また接着剤と反応する溶媒が適用される。接触処理の温度は-20~40℃であることが好ましく、その後の反応温度は40~240℃であり、60~220℃が好ましく、80~200℃がより好ましい。反応温度が40℃未満であれば、接着剤の構造によって反応性の低いものが十分に反応できない可能性があり、また、反応温度が240℃を超えると、接着剤の熱分解や酸化などが起こりやすい問題があり、好ましくない。
【0038】
本発明の積層材と、基材表面に接着された接着層との反応は、積層材の表面と接着層とを接触させ、積層材と接着層に有する接着剤との間に化学結合により接着させる方法である。積層材の表面と接着層を接触させる方法は、積層材の表面に接着層を有する基材の品種、形状、サイズ、及び積層材の品種、形状、サイズ、さらに接着剤の分子量、官能基数などによって適宜に調整することができるが、積層体が分散液ワックスな状態に調製してから基材上の接着層と接触させることが均一な積層体を取得できる観点から、好ましい。
【0039】
本発明に用いられる積層材は、水や有機溶媒中に分散された分散液の状態であることがより好ましい。分散液を調製することができれば、その分散方法や分散に用いる装置及び分散温度、分散時間などの処理条件について、特に制限することがない。特に、ナノサイズの積層材において、分散処理中の切断防止の観点から、装置として攪拌装置、超音波洗浄機、ビーズミル分散機などを用いることが好ましい。
【0040】
積層材と接着剤との反応は、積層材と基材の形状、サイズにより適宜、適切な反応方式を選択することができる。反応方式は大きく二つに分けることができ、一つは、積層体を分散液又はワックス状に調製し、基材表面の接着層と接触させながら加熱する方法であり、もう一つは積層体を分散液又はワックス状に調製し、基材表面の接着層と接触させた後、加熱する方法である。具体的には、
(1)積層材を水や有機溶媒中に分散させ、積層材の分散液又はワックスを調製する。また、均一な積層体を得るため、濃度の低い積層材分散液が好ましい。得られた積層材分散液を所定の温度に加熱し、表面に接着層を有する繊維状基材を所定の速度で積層材分散液に通過させ、積層材の表面にカルボキシル基などの官能基と接着剤のオキサゾリンなどの官能基とを反応させ、基材の表面に接着層を介して積層材を接着させ、基材/接着層/積層材からなる積層体が形成される。また、表面に接着層を有する粒子状の基材を所定温度に加熱された積層材の分散液中に加えるか、表面に接着層を有する粒子状の基材に加熱された積層材分散液を掛け流すかにより積層材表面のカルボキシル基などの官能基と接着剤のオキサゾリンなどの官能基を反応させ、基材の表面に接着層を介して積層材を接着させ、基材/接着層/積層材からなる積層体が形成される。
(2)室温又は低温で上記(1)の作業を行い、積層材の表面に接着剤を接触させた後、所定温度に加熱し、水や溶媒を除去させながら、積層材表面のカルボキシル基などの官能基と接着剤のオキサゾリンなどの官能基とを反応させ、基材の表面に接着層を介して積層材を接着させ、基材/接着層/積層材からなる積層体が形成される。
【0041】
上記(1)の製造方法において、溶媒としては、積層材に対する分散性が良く、高沸点で熱的安定性が高く、且つ積層材、基材及び接着剤とを反応しない溶媒を用いることができる。反応温度は、基材、積層材の種類、接着剤の組成、構造によって変動するが、40~200℃であることが好ましく、60~180℃であることがより好ましい。温度が40℃より低い場合、反応の所要時間が長くなるか反応が十分に進行できない可能性があり、一方、温度が200℃より高い場合、かなり高沸点の溶媒を用いる必要があり、反応後の溶媒を容易に除去できない問題がある。
【0042】
上記(2)の製造方法において、溶媒としては、水や低沸点溶媒、熱的不安定溶媒、また積層材、基材及び接着剤と反応する溶媒が適用される。接触処理の温度は-20~40℃であることが好ましく、その後の反応温度は40~240℃であり、60~220℃が好ましく、80~200℃がより好ましい。反応温度が40℃未満であれば、接着剤の構造によって反応性の低いものが十分に反応できない可能性があり、また、反応温度が240℃を超えると、接着剤の熱分解や酸化などが起こりやすい問題があり、好ましくない。
【0043】
本発明に用いられる基材用と積層材用の分散剤としては、室温(25℃)において液体である有機溶媒類と水が好ましい。溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール(IPA)、ブタノール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等のエステル類、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノーn-ブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル等のエーテル類、テトラヒドロフラン(THF)、トルエン、キシレン、クロロホルム、N-メチルピロリドン(NMP)、N-メチルホルムアミド(NMF)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N-メチルアセトアミド、ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、シクロヘキサン、アルコキシ-N,N-ジアルキルプロパンアミド、多価アルコール、シリコーンオイル、陽イオン性、陰イオン性、両イオン性又は非イオン性の界面活性剤類など幅広く用いることができる。また、これらはいずれか1種を単独で使用してもよいし、複数の溶媒を組み合わせてもよく、水溶性の有機溶媒と水からなる任意配合比の混合物として用いてもよい。
【0044】
上記溶媒類の分散剤において、特にNMP、NMF、DMF、DMSO、「KJCMPA」(3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、「KJCMPA」はKJケミカルズ株式会社の登録商標である)などの分子中に窒素原子又は硫黄原子を有する親水性溶媒が、本発明に用いられる基材と積層材との相互作用が強く、それによりCNT等のナノサイズの積層材の再凝集を防止する効果を有し、安定的な分散液を形成されやすいので、好ましい。さらに、水を分散剤として用いる場合は、廃棄する有機溶剤を有しないため、環境に優しいメリットがある。その際に、公知の分散促進剤やN-ビニルピロリドンのポリマーなどを添加することもできる。
【0045】
積層材分散液の濃度は、積層材の形状、サイズ、前処理の有無と処理方法、及び分散液の品種、分散促進剤の有無とそれらの配合量などによって大きく変動するが、積層材が分散剤に対して0.01~20質量%であることが好ましく、また、難分散で大きいアスペクトを有するCNT等の積層材においては、分散剤に対して0.01~10質量%であることがより好ましく、均一で薄く、且つ高被覆率の積層体を形成できる観点から、0.05~5質量%であることが特に好ましい。
【0046】
本発明の積層体は、接着剤を介して基材上に積層材を積層させて製造されるものであって、積層の回数は特に限定することはないが、基材表面上に接着される積層材の量を示す被覆率が、一回の積層過程において10%以上であることが好ましく、20%以上であることがより好ましい。また、積層作業の回数を増やしていくことにより、被覆率100%の積層体を容易に取得することができる。さらに、被覆率100%の積層体において、積層材表面のカルボキシル基などの官能基と接着剤のオキサゾリンなどの官能基を反応させることによって、継続的に積層していくことができ、積層材の厚みを好適に調整できる炭素材料の積層材を容易に製造することができ、各種用途、分野に好適に用いることができる。
【0047】
本発明の複合体は、炭素材料と樹脂材料が接着剤を介して複合させてなるものである。複合材に用いられる樹脂材料は熱可塑性樹脂、成形可能な低分子量熱硬化性樹脂などが挙げられる。これらの樹脂材料は単独で使用しても混合して使用してもよい。樹脂材料の種類、構造、物性と用途によって、複合する炭素材料との配合比が変動するが、例えば熱可塑性樹脂や低分子量の熱硬化性樹脂の補強、帯電防止性付与、耐熱性向上などの用途であれば、熱可塑性樹脂に対して0.01%~20質量%、好ましく0.05%~10質量%の炭素材料を配合することができる。また、炭素材料の高濃度品をマスターバッチとして薄めて使用することにより均一な炭素/樹脂複合材料を得やすいため、好ましい。一方、樹脂材料の表面コーティング、表面改質、表面修飾などの用途であれば、炭素材料が樹脂材料の表面層に対して0.001%~10質量%、好ましく0.005%~5質量%を配合するのが好ましく、樹脂材料の表面に炭素材料の分散液を塗布するなどの成形方法を用いることができる。
【0048】
熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン類、ナイロン6(PA6、ナイロン66(PA66)等のポリアミド類、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等のポリエステル類、ポリウレタン類、アクリル樹脂類、ABS(アクリロニトリルブタジエンスチレン)樹脂類、ポリスチレン(PS)、ポリカーボネート類及びこれら汎用樹脂のカルボン酸や無水マレイン酸変性樹脂等の熱可塑性樹脂が挙げられる。また、低分子量の熱硬化性樹脂としてはフェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコン樹脂が挙げられる。これらの樹脂は1種に限らず、複数の種類を組み合わせて使用することができる。
【0049】
炭素/樹脂複合体(H)に用いられる炭素材料は、原則として前記の各種炭素材料が含まれる。このうち、炭素繊維(CF)、カーボンナノチューブ(CNT)、カーボンナノファイバー(CNF)、天然又は合成ダイヤモンドなどが安価の市販品を入手しやすいため、好ましい。これらの炭素材料は1種に限らず、複数の種類を組み合わせて使用することができる。さらに、これらの炭素材料を市販品のままで使用しても、酸化等の処理方法で表面に多くのカルボキシル基やフェノール性水酸基を配置させるための処理を行ってから使用してもよい。
【0050】
得られる炭素/樹脂複合体は、熱可塑性樹脂を主成分とする熱可塑性樹脂系炭素/樹脂複合体と、熱硬化性樹脂を主成分とする熱硬化性樹脂系炭素/樹脂複合体と、炭素材料を主成分とする炭素系炭素/樹脂複合体とに分類することができ、これらの炭素/樹脂複合体をさらに複合反応させることにより、強度、伸度、靭性など様々な要求物性に対応できる新型の炭素/樹脂複合体を製造することができる。新型炭素/樹脂複合材料の加工性、成形性を十分に確保する観点から、熱可塑性樹脂系炭素/樹脂複合材料料は熱硬化性樹脂系炭素/樹脂複合体中の炭素材料の配合比は1質量%を超えることが好ましく、10質量%を超えることがより好ましい。
【0051】
炭素/樹脂複合体(H)の製造方法は、主成分の構造、得られる複合体の用途によって大きく溶液浸漬法、溶融混練法と溶液反応法に分けられる。浸漬法においては、前記の積層材の分散液と同様に炭素材料(C)の分散液を調製した後、本発明の接着剤(D)により修飾された樹脂材料を当該分散液中に一定の滞留時間で浸漬させ、樹脂材料の表面に有する接着剤と炭素材料の表面とを接触させ、接触と同時に又は接触後に加熱することにより、樹脂材料と炭素材料が接着剤を介して複合体を形成される。また、本発明の接着剤(D)による樹脂材料の修飾加工は、接着剤と樹脂材料を共に溶媒に溶かして溶液中で反応させる方法や接着剤と樹脂材料を押出機による溶融混錬、押出等の公知の方法で実施することができる。取得する炭素/樹脂複合体は、主に熱硬化性樹脂の補強、帯電防止性付与、耐熱性向上などの表面改質に好適に用いられる。また、炭素材料と樹脂材料表面の接着剤との反応は前記同様な条件(反応温度、反応時間など)で反応を行うことができる。
【0052】
溶融混練により炭素/樹脂複合体(H)を製造する方法においては、熱可塑性樹脂、低分子量熱硬化性樹脂、接着剤及びその他の添加材と共に、室温で固体である場合、所定配合比でドライブレンドした後、溶融押出機などを用い、加熱しながら溶融混練により反応を行うことができる。また、室温で液体の材料を有する場合、混練押出機の液体注入口により加圧しながら定量に添加し、同様に溶融混練により反応を行うことができる。溶融混練の温度は樹脂の種類によって大きく変わるが、80~240℃の範囲内であれば、樹脂材料の末端或いは側鎖に有するカルボキシル基などの官能基と接着剤に有するオキサゾリン基などの官能基との反応が0.1~30分の混練工程で十分に反応を完結することができ、且つ、接着剤も樹脂材料も熱分解せず、目的に応じて様々な組成比で接着剤に改質された樹脂材料を好適に調製することができる。得られた改質された樹脂材料は、さらに炭素材料と所定配合比でドライブレンドした後、溶融押出機などを用い、加熱しながら溶融混練により反応を行うことができる。溶融混練の温度は100~280℃の範囲内であれば、改質された樹脂の融解、炭素材料との反応が共に十分に進行し、かつ、製造された炭素/樹脂複合体の成形材料の熱分解を防止することができるので、好ましい。押出機中の滞留時間は、同様に反応性及び分解抑制のバランス取りの観点から、0.1~30分であることが好ましい。さらに、溶融混練による炭素/樹脂複合体(H)の製造においては、成形品の用途、要求物性などにもよるが、熱可塑性樹脂や低分子量熱硬化性樹脂などの樹脂材料と接着剤、炭素材料を所定配合比でブレンドし、所定温度にて押出機により溶融混練を行うことができる。その場合の混練温度は、樹脂材料、接着剤と炭素材料の反応速度と分散効果総合的に考慮し、100~240℃の範囲内であることが好ましい。
【0053】
溶融混練等の熱的処理、加工に用いられる熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン類、ナイロン6(PA6、ナイロン66(PA66)等のポリアミド類、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等のポリエステル類、ポリウレタン類、アクリル樹脂類、ABS(アクリロニトリルブタジエンスチレン)樹脂類、ポリスチレン(PS)、ポリカーボネート類及びこれら汎用樹脂のカルボン酸や無水マレイン酸変性樹脂等の熱可塑性樹脂が挙げられる。炭素材料の高強度、高柔軟性、耐熱性、導電性等の特性を十分に活用できる観点から、PP、変性PP、ポリアミド、ポリエステル、ポリカーボンネートなどがより好ましい。これらの樹脂は1種に限らず、複数の種類を組み合わせて使用することができる。
【0054】
さらに、作業上便益性の観点から、高濃度のマスターバッチを使用することが好ましい。この場合、接着剤と樹脂材料のマスターバッチ及び/又は炭素材料と樹脂材料のマスターバッチを先に調製、ペレット化成形してから、各種樹脂材料、炭素材料をさらに混練してもよい。
【0055】
溶融混練工程で用いられる溶融混練機としては、公知の溶融混練機が例示され、バンバリーミキサー、プラストミル、ブラベンダープラストグラフ、一軸押出機、二軸押出機等が挙げられる。フィラーを良好に分散させ、熱可塑性樹脂組成物の耐熱性や剛性を向上させるという観点から、一軸押出機又は二軸押出機により溶融混練することが好ましく、特に二軸押出機が好ましい。
【0056】
溶液反応法より炭素/樹脂複合体(H)を製造する方法は、熱可塑性樹脂、低分子量熱硬化性樹脂、接着剤とその他の添加材とを、所定の割合で溶媒に溶解又は分散させ、得られる混合溶液又は分散液を所定の温度に加熱させながら反応させる方法である。反応温度と反応時間は主に樹脂材料の構造、溶媒に対する溶解性などに左右されるため、十分に反応できれば、特に限定することがない。
【0057】
炭素/樹脂複合体(H)の製造において、必要に応じて、一般に熱可塑性樹脂に添加される公知の添加剤、例えば、酸化防止剤、耐熱安定剤、紫外線吸収剤、滑剤、顔料、帯電防止剤、難燃剤、中和剤、発泡剤、可塑剤、気泡防止剤等を適宜添加することができる。
【0058】
本発明の炭素材料積層体(E)、炭素/セラミックス積層体(F)、炭素/金属積層体(G)、炭素/樹脂複合体(H)の用途としては、熱伝導性付与、電気伝導性付与、機械的強度改善、耐熱性、導電性、二次電池用電極、帯電防止性、耐久性向上などの様々な分野に好適に用いることができる。炭素材料としては、天然又は合成ダイヤモンド粒子及び/又はCNT、樹脂材料としてポリフェノールを用いた場合は、高性能のレジンボンド砥石とソーワイヤーを容易に製造することができる。また、溶融押出法で製造された炭素/樹脂複合体においては、射出成形用材料、押出成形用材料、プレス成形用材料、ブロー成形用材料、フィルム成形用材料等として用いられ、特に、剛性や耐衝撃性が必要とされる自動車用材料や家電用材料として好適に用いることができる。
【実施例】
【0059】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。以下において、部及び%はそれぞれ質量部及び質量%を示す。
【0060】
実施例及び比較例に用いた材料は以下の通りである。また、製造元、精製方法などを特に記載していないものは市販品である。
(1)グリシジル基を有するビニルモノマー(A1)
GMA:グリシジルメタクリレート
MGAM:N−メチル−N−グリシジルアクリルアミド(KJケミカルズ株式会社により製造され、登録商標は「Kohshylmer」である。)
(2)イソシアネート基を有するビニルモノマー(A2)
MOI:2-イソシアネートエチルメタクリレート
(3)オキサゾリン基を有するビニルモノマー(A3)
VOZO:2-ビニル-2-オキサゾリン
IPOZO:2-イソプロペニル-2-オキサゾリン
(これらのモノマーは、KJケミカルズ株式会社により製造され、登録商標は「Kohshylmer」である。)
(4)共重合に用いられるビニル系モノマー
「ACMO」:アクリロイルモルフォリン(KJケミカルズ株式会社の製品である。登録商標は「ACMO」と「Kohshylmer」である。)
AM-90G:メトキシポリエチレングリコール400アクリレート(EO 9mol)(新中村化学製)
NVP:N-ビニルピロリドン
SA:ステアリルアクリレート
(5)炭素材料
CF:炭素繊維(東レ株式会社製、PAN系CF、商品名「トレカ糸T700 12K」、直径7μm)アセトンで洗浄して、乾燥させた。表面に有する官能基の量=4×10-6(mol/m2)
CNT:カーボンナノチューブ(Nanocyl社製、NC7000、直径11nm、クロロホルムで洗浄して、乾燥させた。表面に有する官能基の量=7×10-6(mol/m2)
BCNT:ビーズミル処理CNT(ビーズミル処理:N-メチルピロリドン 39.8g、CNT 0.8gとビーズ(ジルコニア製Φ0.5mm)160gを湿式ビーズミル装置(アイメックス社製RMB-08)のベッセル内に加え、1000rpmで1.5時間攪拌することによってビーズミル処理を行った。その後、溶液を1Lのビーカーにビーズごと全て入れ、イオン交換水を加えて軽く振り、上澄みを取り出していくことで上澄み中に浮遊するカーボンナノチューブと底に沈降するジルコニアビーズを分けた。この操作を何度も繰り返し、カーボンナノチューブとジルコニアビーズを完全に分けた後、上澄みをろ過し、80℃で4h真空乾燥させ、黒色粉末としてビーズミル処理カーボンナノチューブ(BCNT)を得た。)
CSCNT:カップスタックカーボンナノチューブ(株式会社GSIクレオス社製、クロロホルムで洗浄して、乾燥させた。表面に有する官能基の量=1×10-5(mol/m2))
DM75:ダイヤモンド、平均直径75μm(トラストウエル社製のTMD、未処理)
DM50:ダイヤモンド、平均直径50μm(トーメイダイヤ社製のIRV-3、未処理、表面に有する官能基の量=9×10-6(mol/m2))。
DM10:ダイヤモンド、平均直径10μm(トーメイダイヤ社製のIRM-16、未処理)
BN:セラミックス(板状窒化ホウ素、未処理)
SCBN:セラミックス(トラストウエル社製の立方晶窒化ホウ素、未処理)
NMC:活物質(三元系の正極活物Li(NiMnCo)O2)
LCO:活物質(層状構造の二酸化コバルトリチウム)
Al板:アルミ箔(厚み20μm)
(6)汎用樹脂
PP:ポリプロピレン樹脂(日本ポリプロ株式会社製、MA3)
PMP:無水マレイン酸変性ポリプロピレン(三洋化成工業株式会社製、ユーメックス1010)
PA:ポリメチルペンテン樹脂(三井化学株式会社製、TPX MX002)
PMA:酸変性ポリメチルペンテン樹脂(三井化学株式会社製、TPX MM-101B)
PF:ポリフェノール樹脂(粉末)
(7)その他
AIBN:アゾビスブチロニトリル(和光純薬、試薬)
NMP:N-メチルピロリドン
EtOH:エチルアルコール
DMF:N,N-ジメチルホルムアミド
「KJCMPA」:3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド(KJケミカルズ社製、登録商標「KJCMPA」)
【0061】
実施例及び比較例における各種物性の測定方法と評価方法は以下の通りである。
(1)SEM測定:
各種基材の表面、積層体の表面をSEM装置(JEOL)により観察を行った。観察条件:印加電圧10kV、エミッション電流10μA、白金蒸着後のSEM観察。
(2)被覆率の算出方法
SEM画像を白黒2色化にし、炭素材料の被覆している箇所が白色、被覆していない箇所を黒色で表示し、被覆率(%)=(白色のピクセル数)/(測定領域全体のピクセル数)と算出した。
【0062】
重合体(B)の合成
合成実施例1(重合体(B1)の合成)
撹拌装置、温度計、冷却器及び乾燥窒素導入管を備えた容量500mLの反応容器にVOZO9.7g(100mmol)、「ACMO」 113.0g(850mmol)、AM-90G 22.7g(50mmol)、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)1.6g(10mmol)、酢酸エチル220mLを仕込んで、乾燥窒素気流下、反応液を30℃で60分攪拌した後、70℃で12時間重合反応を行った。反応終了後、室温に戻し、粘性のある反応液をヘキサン(約1L)に注ぎ、白色沈殿物を得た。その後、上澄みを廃棄し、ヘキサンで2回沈殿物を洗浄した後、40℃で3時間真空乾燥を行い、白色粉末状の生成物 132.5gを得た(収率=91.1%)。
該生成物は、赤外線吸収スペクトル(IR)により、VOZO由来のオキサゾリン基に特有な吸収(1660cm-1)、「ACMO」由来のアミド基に特有な吸収(1640cm-1)とAM-90G由来のエステル基に特有な吸収(1730cm-1)が検出され、また、これらのモノマー由来のビニル基の吸収(1620cm-1)は検出されず、重合体(B1)の生成を確認した。重合体(B1)のTgはDSC(島津製作所社製DSC-60Plus、昇温速度10℃/min)により測定し、83℃であった。重合体の重量平均分子量(Mw)はGPC法(島津製作所社製Prominence-I LC-2030C、標準ポリスチレン)により分析し、18,000であることを確認した。
【0063】
合成実施例2~6(重合体B2~B6)と合成比較例1-2(重合体P1~P2)
合成実施例1と同様に、グリシジル基を有するビニルモノマー(A1)、イソシアネート基を有するビニルモノマー(A2)、オキサゾリン基を有するビニルモノマー(A3)、その他の共重合可能なビニル系単量体、及びAIBNを表1に示す所定の量を用い、合成実施例2~6と合成比較例1~2の重合を行い、得られた重合物を合成実施例1と同様に精製し、それぞれの重合体(B2~B6とP1~P2)を白色又は淡黄色粉末状の生成物として取得した。次いで、合成実施例1と同様に、重合体B2~B6とP1~P2の同定(IR)、Tg測定、分子量測定(GPC)を行い、収率と共に表1に示した。
【0064】
【0065】
炭素材料(C)分散液の調製
炭素材料と分散剤を表2に示す割合で混合し、バス型超音波装置(ELMA社製、S30)を用いて、30℃で30分間処理し、分散液1~11を得た。
【0066】
【0067】
炭素材料積層体(E)の製造
実施例1
本発明の重合体(B2)を100%含有する接着剤(D1)を用いて、10%のエタノール溶液を調製し、60℃を保つように加熱しながら、基材である長さ3mの炭素繊維(C1)を1mm/秒の速度で接着剤(D1)溶液槽に通過させた。その後、同様の速度でエタノールの槽に通過させ(洗浄)、80℃の熱風で3分間乾燥させ、表面に接着層を有する炭素繊維を得た。その後、得られた接着層を有する炭素繊維を前記と同様の速度で100℃に加熱した分散液1(BCNTのKJCMPA分散液)の槽を通過させた。その後、同様にエタノールにより洗浄を行い、160℃の熱風で3分間乾燥させ、CFとCNTの積層体(E1)を得た。BCNT/CF積層体のSEM写真を
図1に示す。積層体E1の被覆率は24.8%であった。
【0068】
炭素材料積層体(G)の製造
実施例2と比較例2
本発明の重合体(B3)を100%含有する接着剤(D2)を用いて、10%のエタノール溶液を調製した。Al板に25μLを滴下し、回転数1500rpm、4分間スピンコートした後、ホットプレートで120℃、10分間加熱した。接着剤にコーティングされたAl板をエタノール入りのビーカーに入れてラボシェーカーで200rpm、10分間攪拌により洗浄を行い、更にホットプレートで80℃、10分間加熱してエタノールを除去した(乾燥)。当該乾燥後Al板に分散液2(CNTの水分散液)を25μL滴下し、同様にスピンコートしホットプレートで120℃、10分間加熱した。その後、同様にエタノールで洗浄とホットプレートで乾燥を行い、CNTと金属の積層体(G1)を得た。また、最後のエタノール洗浄前後の積層体G1において、CNT被覆率を測定した(表3)。
【0069】
実施例2の接着剤(D2)の代わりに合成比較例1で得られた重合体(P1)(100%)を用いて、実施例2と同様にCNTと金属の積層体を作製した。但し、重合体(P1)にコーティングされたAl板をエタノールによる洗浄を行わなかった。最後のエタノール洗浄前後の積層体において、CNT被覆率を測定した(表3)。
【0070】
実施例3~12と比較例3~4
基材として炭素繊維、ダイヤモンド、セラミックス、金属など、接着剤、積層材としてカーボンナノチューブ、ダイヤモンドなどを用いて、前記の同時加熱方法又は後加熱方法により炭素材料積層体(E)、炭素/セラミックス積層体(F)、炭素/金属積層体(G)、炭素/樹脂複合体(H)を製造した。原料、製造条件、製品の構成、被覆率などを表3に纏めて示す。また、基材及び積層体のSEM写真を
図2~10に示す。
【0071】
【0072】
図1~10の結果から、本発明の重合体(B)を含有する接着剤(D)を介して形成された炭素積層体、(E)、炭素/セラミックス積層体(F)、炭素/金属積層体(G)、炭素/樹脂複合体(H)が、CF、DM、BN、SCBN、NMC、LCOとAlの表面にCNTやCSSNTがしっかり被覆していることが明らかである。本発明の各種炭素積層体、炭素/樹脂複合体は同時加熱や後加熱など多種多様な方法で製造することが可能である。また、重合体(B)に有するオキサゾリン基は反応性が高く、形成された化学結合が強く、CNTやCFなど炭素材料と室温で接触するだけでも十分に付着し、さらに加熱により強い化学結合を形成され、洗浄しても表面に付着された分のみ除去され、化学結合によりCFの表面にCNTを均一に固着されたことを確認できた。また、ガラス転移温度80℃以上を有するポリマーを含有する接着剤のほうが、薄く且つ均一な接着層が形成でき、さらに均一且つ高被覆率の積層体を取得することができる。一方、オキサゾリン基など官能基を有しないポリマーでは、炭素材料の表面に接着することができず、積層体が得られなかった。官能基の含有量が10%未満の場合、十分に満足できる接着剤及び積層体を取得することができなかった。また、これらの高機能の積層体や複合体が、本発明の製法方法でのみ得られることが確認された。特に官能基が高含有量なポリマー、オキサゾリン基を有するビニルモノマーのホモポリマーなどを用いた場合、薄く、均一、且つ強力な接着層が形成されるため、CNT等炭素材料の特有機能を最大限に発揮することができ、得られた各種積層体、複合体が様々の分野に好適に用いることができる。
【0073】
実施例13と比較例5~6
(1)CNT被覆ダイヤモンドの作製
ダイヤモンド粒子DM10と分散剤NMPから調製された分散液9 95質量部と、重合体(B2)を100%含有する接着剤(D1)5重量部とを反応容器に仕込んで、100℃で3時間撹拌を行い、その後重合体に被覆されたダイヤモンド粒子をろ過で取り出し、エタノールを1Lのゆっくりかけ流しにより洗浄を行った。洗浄後被覆ダイヤモンド粒子と分散液11 95質量部とを反応容器に仕込んで、100℃で3時間撹拌を行い、その後BCNTに被覆されたダイヤモンド粒子をろ過で取り出し、エタノールを1Lのゆっくりかけ流しにより洗浄を行った。BCNTによる被覆作業が5回行い、最後のエタノール洗浄後、80℃で1h加熱により乾燥を実施し、CNT被覆ダイヤモンドを得た。なお、CNT被覆率は41.0%であった。
【0074】
(2)ワイヤーソーの作製
直径0.1mm、長さ50cmのピアノ線(ジャパンファインスチール)を用い、酸性溶液中に50℃3分間浸してエッチング処理を行った。処理後のピアノ線をダイヤモンド粒子とフェノール樹脂からなるスラリーにディップさせ、直径0.15mmの孔を通して引き上げることによりピアノ線にダイヤモンド粒子とフェノール樹脂のスラリーを塗布した。当該塗布後ピアノ線にヒートガンを用いて温風を2分間当てた後、オーブンで200℃、8時間加熱することによりダイヤモンドレジンボンドワイヤーソーを作製した。ダイヤモンド粒子としては、実施例13はCNT被覆ダイヤモンドを用い、比較例5と6は未処理ダイヤモンドDM10、Ni被覆ダイヤモンドをそれぞれ用いた。これらのダイヤモンドの表面状態は
図11~13に示す。
【0075】
(3)シリコンインゴットの切削試験
幅30cmの台座にワイヤーソーを張り、張力10Nになるように両端を固定し、シリコンインゴットまたはシリコンウエハーをワイヤーソーの中央部分にくるように固定した。台座をストローク幅150mm、速さ200mm/秒で往復させ、シリコンインゴットを15μm/秒の速さでワイヤーソーに押し込むことで15分間の切削を行った。切削後、シリコンインゴットの切り込み深さとシリコンウエハーの切削面の表面粗さを下記方法で評価し、結果を表4に示す。
【0076】
切り込み深さ
切削試験後、シリコンインゴットにできた切り込みを光学顕微鏡で撮影し、画像解析により切り込み深さ(mm)を測定した。なお、切り込み深さの値は、3回試験の平均値である。
【0077】
表面粗さ(Ra)
切削試験後、シリコンウエハーの切削面を白色干渉計で撮影し、画像解析することで表面粗さ(Ra)(μm)を測定した。なお、表面粗さ(Ra)の値は、3回試験の平均値である。
【0078】
【0079】
表4の結果から明らかのように、CNT被覆ダイヤモンドレジンボンドワイヤーソーを用いる場合、シリコンインゴットの切り込みが深く、シリコンウエハーの表面粗さが低かった。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【
図2】CNT/DM75積層体の表面写真(実施例3)
【
図3】CNT/DM50積層体の表面写真(実施例5)
【
図4】CNT/DM10積層体の表面写真(実施例6)
【
図6】CSCNT/DM50積層体の表面写真(実施例8)
【
図7】CNT/SCBN積層体の表面写真(実施例9)
【
図8】CNT/NMC積層体の表面写真(実施例10)
【
図9】CNT/LCO積層体の表面写真(実施例11)
【
図11】CNT被覆ダイヤモンドの表面状態(実施例13)
【
図12】未処理ダイヤモンドの表面状態(実施例13)
【
図13】Ni被覆ダイヤモンドの表面状態(実施例13)
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明の炭素材料用接着剤、該接着剤を介して得られる炭素積層体、炭素/セラミックス積層体、炭素/金属積層体、炭素/樹脂複合体は、特殊な分散や表面処理の技術、設備を要さず、炭素材料本来の特性を損なうことがなく、本発明の製造方法により簡便に製造することができる。本発明で得られた各種炭素積層体、炭素/樹脂複合体は、汎用樹脂などに対して電気伝導性、熱伝導性、機械的特性を付与でき、耐熱性、耐衝撃性、導電性などの特性を有する材料として、各産業分野において好適に用いることができる。さらに、各種エンジニアリングプラスチックとして、特にバンパー、インパネ、コンソールボックス、ルーフシート、パネル表装材、電装部品などの自動車・輸送機器関連内外装部品、家電、家具、雑貨などの日用品関連製品、医療材料の成型品、食品容器、食品包装、一般包装などの包装材料、電線やケーブルなどの被覆用材料、建築・土木、文具・事務用品などの産業資材、各種ポリマーアロイの相溶化剤あるいは接着剤用として好適である。