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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-30
(45)【発行日】2024-02-07
(54)【発明の名称】ソーラーパネル検査方法および装置
(51)【国際特許分類】
   G06T 7/00 20170101AFI20240131BHJP
【FI】
G06T7/00 600
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2023197653
(22)【出願日】2023-11-21
【審査請求日】2023-11-24
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】513087677
【氏名又は名称】PCIソリューションズ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】523114143
【氏名又は名称】データステップス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】518209023
【氏名又は名称】日本グリーン電力開発株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】古賀 淳也
(72)【発明者】
【氏名】野口 雅之
(72)【発明者】
【氏名】君塚 健太
【審査官】片岡 利延
(56)【参考文献】
【文献】特開2023-72665(JP,A)
【文献】特開2023-65861(JP,A)
【文献】特開2022-84082(JP,A)
【文献】特開2022-51976(JP,A)
【文献】特開2019-22251(JP,A)
【文献】特許第6208843(JP,B1)
【文献】国際公開第2023/031843(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2022/0077820(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0311203(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2023ー0026890(KR,A)
【文献】韓国公開特許第10-2022ー0051055(KR,A)
【文献】韓国登録特許第10-2389315(KR,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06T 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ソーラーパネルが格子状に縦横に配列された複数のセルを備えており、各々が単一の正常なソーラーパネルのパネル可視光画像である複数の入力画像のみを訓練画像に用いかつ出力画像の正解値は前記入力画像とする教師なし機械学習によりパラメータを調整した機械学習モデルに、検査対象ソーラーパネルの入力画像を入力して、その出力画像を出力させ、両画像の差分画像に基づいて前記検査対象ソーラーパネルについての異常の有無を判定するソーラーパネル検査方法であって、
前記差分画像を元差分画像とし、該元差分画像に基づいて平行線除去フィルタを作成するフィルタ作成工程と、
前記平行線除去フィルタを用いて前記元差分画像から所定の閾値以上の頻度の等距離間隔で存在している平行線を除去した補正差分画像を生成する補正差分画像生成工程と、
前記補正差分画像に基づいて前記検査対象ソーラーパネルについての異常の有無を判定する判定工程と、
を備えているソーラーパネル検査方法。
【請求項2】
請求項1に記載のソーラーパネル検査方法において、
前記平行線除去フィルタは、前記フィルタ作成工程において、前記元差分画像(80)における縦線間および横線間の各距離の頻度を算出し、前記頻度が前記閾値以上である距離で前記元差分画像に存在している縦線同士および横線同士を除去するフィルタとして作成される、ソーラーパネル検査方法。
【請求項3】
請求項2に記載のソーラーパネル検査方法において、
前記フィルタ作成工程において、
前記補正差分画像は、前記元差分画像において第1線幅以下の縦線のみおよび第2線幅以下の横線のみをそれぞれ残存させた第1画像および第2画像に基づいて生成される、ソーラーパネル検査方法。
【請求項4】
請求項3に記載のソーラーパネル検査方法において、
前記補正差分画像は、第3画像に基づいて生成され、
前記第3画像の生成工程は、
前記第1画像の二値化画像に対するモルフォロジー変換により生成した縦線結合二値化画像の各画素列に対し、該画素列に含まれる1の個数に基づいて重みを決定する工程と、
前記縦線結合二値化画像において複数の縦線が、横方向に連続する複数の画素列に存在しているときは、各画素列の重みに基づいて前記複数の画素列の中から単一の統合画素列を決め、前記複数の画素列の前記複数の縦線を前記統合画素列に移行して前記統合画素列の縦線として統合した縦線統合画像としての第3画像を生成する工程と、
を含む、ソーラーパネル検査方法。
【請求項5】
請求項4に記載のソーラーパネル検査方法において、
前記第3画像の生成工程では、
横方向に連続する画素列に含まれる1の個数が等数であるときは、横方向一側の画素列の重みを他側の画素列の重みより大きく設定する、ソーラーパネル検査方法。
【請求項6】
請求項5に記載のソーラーパネル検査方法において、
前記フィルタ作成工程では、前記第3画像に基づいて検出した縦線間の横方向距離と各横方向距離の頻度とに基づいて縦平行線除去フィルタを作成し、
前記補正差分画像生成工程では、前記元差分画像に対して前記縦平行線除去フィルタを適用して生成した縦線除去画像に基づいて前記補正差分画像を生成する、ソーラーパネル検査方法。
【請求項7】
請求項6に記載のソーラーパネル検査方法において、
前記第3画像の各縦線を横方向に膨張処理することにより得られる縦線領域を含む縦線除去適用領域画像を生成し、前記元差分画像に対して前記縦線除去適用領域画像を、当該縦線領域に割り当てられた第1値および当該縦線領域以外の領域に割り当てられた第2値の二値からなる縦線マスクとして用い、前記元差分画像において前記縦線マスクの対応画素が前記第1値である画素のみを、前記縦線除去画像の値に置き換えることにより縦補正差分画像を生成し、前記補正差分画像を前記縦補正差分画像に基づいて生成する、ソーラーパネル検査方法。
【請求項8】
請求項3~7のいずれか1項に記載のソーラーパネル検査方法において、
前記補正差分画像は、第4画像に基づいて生成され、
前記第4画像の生成工程は、
前記第2画像の二値化画像に対するモルフォロジー変換により生成した横線結合二値化画像の各画素行に対し、該画素行に含まれる1の個数に基づいて重みを決定する工程と、
前記横線結合二値化画像において複数の横線が、縦方向に連続する複数の画素行に存在しているときは、各画素行の重みに基づいて前記複数の画素行の中から単一の統合画素行を決め、前記複数の画素行の前記複数の横線を前記統合画素行に移行して前記統合画素行の横線として統合した横線統合画像としての前記第4画像を生成する工程と、
を含む、ソーラーパネル検査方法。
【請求項9】
請求項8に記載のソーラーパネル検査方法において、
前記第4画像の生成工程では、
縦方向に連続する画素行に含まれる1の個数が等数であるときは、縦方向一側の画素行の重みを他側の画素行の重みより大きく設定する、ソーラーパネル検査方法。
【請求項10】
請求項9に記載のソーラーパネル検査方法において、
前記フィルタ作成工程では、前記第4画像に基づいて検出した横線間の縦方向距離と各縦方向距離の頻度とに基づいて横平行線除去フィルタを作成し、
前記補正差分画像生成工程では、前記元差分画像に対して前記横平行線除去フィルタを適用して生成した横線除去画像に基づいて前記補正差分画像を生成する、ソーラーパネル検査方法。
【請求項11】
請求項10に記載のソーラーパネル検査方法において、
前記第4画像の各横線を縦方向に膨張処理することにより得られる横線領域を含む横線除去適用領域画像を生成し、前記元差分画像に対して前記横線除去適用領域画像を、当該横線領域に割り当てられた第3値および当該横線領域以外の領域に割り当てられた第4値の二値からなる横線マスクとして用い、前記元差分画像において前記横線マスクの対応画素が前記第3値である画素のみを、前記横線除去画像の値に置き換えることにより横補正差分画像を生成し、前記補正差分画像を前記横補正差分画像に基づいて生成する、ソーラーパネル検査方法。
【請求項12】
請求項11に記載のソーラーパネル検査方法において、
前記補正差分画像の各画素の画素値は、該画素に対応する縦補正差分画像の画素の画素値と前記横補正差分画像の画素の画素値とが同一であるときはその同一の画素値となり、相違するときは両画素値のうち小さい方の画素値となるように、前記補正差分画像を生成する、ソーラーパネル検査方法。
【請求項13】
ソーラーパネルが格子状に縦横に配列された複数のセルを備えており、各々が単一の正常なソーラーパネルのパネル可視光画像である複数の入力画像のみを訓練画像に用いかつ出力画像の正解値は前記入力画像とする教師なし機械学習によりパラメータを調整した機械学習モデルに、検査対象ソーラーパネルの入力画像を入力して、その出力画像を出力させ、両画像の差分画像に基づいて前記検査対象ソーラーパネルについての異常の有無を判定するソーラーパネル検査装置であって、
前記差分画像を元差分画像とし、該元差分画像に基づいて平行線除去フィルタを作成するフィルタ作成部と、
前記平行線除去フィルタを用いて前記元差分画像から所定の閾値以上の頻度の等距離間隔で存在している平行線を除去した補正差分画像を生成する補正差分画像生成工程と、
前記補正差分画像に基づいて前記検査対象ソーラーパネルについての異常の有無を判定する判定部と、
を備えているソーラーパネル検査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、AI(Artificial Intelligence/人工知能)を用いたソーラーパネル検査方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化対策として太陽光発電が注目されている。太陽光発電のソーラーファームでは、複数のソーラーパネルを装備するソーラーアレイが多数、設置されている。ソーラーパネルは、設置後、種々の異常が発生する。このような異常には、例えば、傷、割れ、汚れ、亀裂、さらには電柱や雑草による影などがある。これらの異常は、放置すると、ソーラーパネルの発電力の低下だけでなく、損傷の増大に繋がることもあるので、異常を監視し、異常が発見されたときには、速やかに対処する必要がある。
【0003】
特許文献1は、赤外線カメラを搭載した飛行体(例:ラジコンヘリコプター)をソーラーパネルのソーラーファームの上空に飛ばして、赤外線カメラから地上のソーラーパネルを撮影し、その赤外線撮影画像に基づいてソーラーパネルのホットスポットの有無を調べるソーラーパネル故障診断システムを開示している。
【0004】
特許文献2は、照射部と受信部と演算部とを搭載した飛行体(例:ドローン)をソーラーファームの上空に飛ばして、照射部から地上のソーラーパネルに向けて検査光を出射するとともに、ソーラーパネルからの反射光を受信部で受信し、演算装置で照射光光軸と反射光光軸との差分に基づいてソーラーパネルの破損の有無を検査する検査装置を開示する。
【0005】
特許文献3は、ソーラーパネル外観監視装置を開示する。この装置では、地上に設置された監視カメラでソーラーパネルに異物(例:飛来物やつる草)が無い状態で一定期間撮影したソーラーパネル画像群と、異物を一定期間撮影した異物画像群とに基づいて識別器を構築し、監視時は、監視カメラの撮影画像を識別器により検査して、ソーラーパネルにおける異物の存否を判断する。識別器には、例えばRandom Forestsが選択される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2015-146371号公報
【文献】特開2019-100958号公報
【文献】特開2016-205910号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1のソーラーパネル故障診断システムは、赤外線画像からソーラーパネルのホットポイントの異常の有無は検査できるものの、物理的な損傷や草木の成長による影などは目視の検査が必要となる。
【0008】
特許文献2の検査装置は、ソーラーパネルについて物理的な損傷や草木の成長による影などを検査できたとしても、複数のソーラーパネルを1つずつ狙いを定めて順番に検査光を照射していく必要があり、手間がかかるとともに、作業時間が長くなる。
【0009】
特許文献3のソーラーパネル外観監視装置は、識別器の構築のために、ソーラーパネルと異物とのそれぞれについて一定期間撮影した画像が必要となる。また、異物の種類は多いので、異物の種類別の画像を収集するために、手間がかかるとともに、ソーラーパネル自体の割れ目や曇りなどの、異物以外による異常の検出は困難である。
【0010】
そこで、本発明者は、先の特願2023-066434において、正常なソーラーパネルのパネル可視光画像に係る入力画像のみを訓練画像に用いかつ出力画像の正解値は入力画像とする教師なし機械学習によりパラメータを調整した機械学習モデルに、検査対象ソーラーパネルの入力画像を入力して、その出力画像を出力させ、両画像の差分画像に基づいて検査対象ソーラーパネルについての異常の有無を判定するソーラーパネル検査方法を開示した。
【0011】
本発明者は、次の知見を見出した。第1に、異常の有無を判定する基礎となる差分画像には、縦線および横線が存在するが、それが異常の有無の際の誤判定につながっている。第2に、ソーラーパネルは、縦横に格子状に配列された複数のセルから構成されており、差分画像の縦線および横線は、例えばセルの縦および横の枠線に由来したものであり、差分画像では、縦方向および横方向に等間隔で出現する傾向がある。第3に、差分画像内に等間隔で出現する縦線および横線をノイズとして除去すれば、誤判定の防止または減少につながり、異常の判定精度を改善することができる。さらに、第4として、等間隔の縦線および横線を除去することで、機械学習モデルが生成する画像に対する線の位置の精度を下げられるため、必要な学習データ量を少なくすることが可能となり、データ収集や学習に係るコストを抑えられる。
【0012】
本発明の目的は、上記知見に基づき機械学習モデルの異常判定の精度を改善したソーラーパネル検査方法および装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明のソーラーパネル検査方法は、
ソーラーパネルが格子状に縦横に配列された複数のセルを備えており、各々が単一の正常なソーラーパネルのパネル可視光画像である複数の入力画像のみを訓練画像に用いかつ出力画像の正解値は前記入力画像とする教師なし機械学習によりパラメータを調整した機械学習モデルに、検査対象ソーラーパネルの入力画像を入力して、その出力画像を出力させ、両画像の差分画像に基づいて前記検査対象ソーラーパネルについての異常の有無を判定するソーラーパネル検査方法であって、
前記差分画像を元差分画像とし、該元差分画像に基づいて平行線除去フィルタを作成するフィルタ作成工程と、
前記平行線除去フィルタを用いて前記元差分画像から所定の閾値以上の頻度の等距離間隔で存在している平行線を除去した補正差分画像を生成する補正差分画像生成工程と、
前記補正差分画像に基づいて前記検査対象ソーラーパネルについての異常の有無を判定する判定工程と、
を備えている。
【0014】
本発明のソーラーパネル検査装置は、
ソーラーパネルが格子状に縦横に配列された複数のセルを備えており、各々が単一の正常なソーラーパネルのパネル可視光画像である複数の入力画像のみを訓練画像に用いかつ出力画像の正解値は前記入力画像とする教師なし機械学習によりパラメータを調整した機械学習モデルに、検査対象ソーラーパネルの入力画像を入力して、その出力画像を出力させ、両画像の差分画像に基づいて前記検査対象ソーラーパネルについての異常の有無を判定するソーラーパネル検査装置であって、
前記差分画像を元差分画像とし、該元差分画像に基づいて平行線除去フィルタを作成するフィルタ作成部と、
前記平行線除去フィルタを用いて前記元差分画像から所定の閾値以上の頻度の等距離間隔で存在している平行線を除去した補正差分画像を生成する補正差分画像生成工程と、
前記補正差分画像に基づいて前記検査対象ソーラーパネルについての異常の有無を判定する判定部と、
を備えている。
【発明の効果】
【0015】
本発明のソーラーパネル検査方法および装置によれば、差分画像に基づいて平行線除去フィルタを作成し、作成した平行線除去フィルタを用いて、差分画像から、所定の閾値以上の頻度の等距離間隔で存在している平行線を除去して補正差分画像を生成する。こうして、補正差分画像に基づいてソーラーパネルの異常判定を実施することにより判定精度を大幅に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】空撮によるソーラーパネルの撮影形態を示している図である。
図2】パネル検出ロジックで生成される二値画像の一例とその拡大図である。
図3】訓練中VAEモデルに対する教師なし学習の説明図である。
図4】ソーラーパネル検査装置の構成図である。
図5】異常検出部の誤判定についての説明図である。
図6】縦線および横線の幅処理についての説明図である。
図7】縦線および横線の長さ処理についての説明図である。
図8】縦線の隣接線統合処理の画像説明図である。
図9】横線の隣接線統合処理の画像説明図である。
図10】隣接線統合処理の具体的な手順を示している図である。
図11】重み付けの改良例についての説明図である。
図12】距離頻度に基づく縦平行線除去フィルタおよび横平行線除去フィルタの作成説明図である。
図13】元差分画像、縦線除去画像、横線除去画像、縦線除去適用領域画像および横線除去適用領域画像の対照図である。
図14】元差分画像と補正差分画像との対比図である。
図15】元差分画像が異常を含む場合の元差分画像と補正差分画像との対比例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について説明する。本発明は、実施形態に限定されないことは言うまでもない。全図を通して、同一または共通の要素は、同一の符号を用いる。
【0018】
最初に、図1図4を参照して、本発明の実施形態が適用されるソーラーパネル検査装置53(図4)について説明する。
【0019】
(撮影画像)
図1は、空撮によるソーラーパネル14の撮影形態を示している。ソーラーファーム10には、多数のソーラーアレイ12が設置されるとともに、作業員等が各ソーラーアレイ12を点検および保守する際に通行する通路11がソーラーアレイ12間に確保されている。ドローン24は、可視光カメラ26を搭載し、ソーラーファーム10の上空を飛び回って、上空からソーラーファーム10内のソーラーアレイ12を撮影する。
【0020】
各ソーラーアレイ12は、典型的には、表面側を水平面に対して所定の傾斜角度で南空に向けて、水平方向に延在して配置されている。各ソーラーアレイ12の表面には、多数のソーラーパネル14が格子状の配列パターンで取り付けられ、太陽光発電を行っている。典型的なソーラーパネル14の形状は、正方形または矩形である。ソーラーアレイ12において隣接するソーラーパネル14の間の間隙16は、ソーラーアレイ12のボードパネル基板が露出したものである。各ソーラーパネル14は、複数のセル18を縦横の格子配列で有している。なお、ソーラーアレイ12におけるボードパネル基板の露出部分は、ソーラーアレイ12の撮像画像からソーラーパネル14の画像部分を切り出しする際のソーラーパネル14の枠線として利用される。
【0021】
ドローン24の飛行中、可視光カメラ26により撮影されたソーラーアレイ12の撮像画像の撮影データは、オンラインで例えば地上の遠隔操縦者の遠隔操縦器に送信されてもよいし、ドローン24が着陸した後、可視光カメラ26のメモリから回収されてもよい。なお、ドローン24または可視光カメラ26には、GPSが搭載されており、撮像画像のメタ情報には、撮影日時の他に、GPSから取得した撮影位置の情報も含まれている。
【0022】
図2において、3つの図のうちの左端の図は、ドローン24がソーラーファーム10を上空から撮影した空撮画像31であり、複数のソーラーアレイが含まれている。中央の図は、可視光画像(カラー画像)の空撮画像31の二値化画像33である。右端の図は、二値化画像33の中の二値化画像35の拡大図である。二値化画像35は、単一のソーラーパネル14の画像となっており、セル18の枠線に相当する部分が白筋の縦線および横線として見えている。
【0023】
後述の訓練画像及び検査画像の各々は、単一のソーラーパネル14の可視光画像(カラー画像)となっている。このような単一のソーラーパネル14の可視光画像は、例えば、複数のソーラーパネル14が含まれている空撮画像31等の可視光画像から矩形のソーラーパネル14の4頂点に基づいて切り出して、作成される。4頂点の位置は、例えば、複数のソーラーパネル14が含まれている可視光画像を二値化した二値化画像から抽出される。
【0024】
(教師なし学習)
図3は、訓練中VAE(Variational Autoencoder/変分自己符号化器)モデル46に対する教師なし学習の説明図である。なお、図3の訓練中VAEモデル46と、後述の図4の学習済みVAEモデル56とは、同一の機械学習モデルを説明の便宜のために呼び名を変えただけである。訓練中VAEモデル46は、VAEから構成され、エンコーダ、Z空間(潜在パラメータ生成部)およびデコーダを備えている。なお、図3以降、実施形態について、説明の便宜のために画像を示しているが、演算装置による処理は、画像そのものではなく、画像に対応するデータに対して行われることは言うまでもない。画像は、ディスプレイやスキャナー等のインターフェースを介して入出力される。したがって、画像に対して実施している処理は、当該画像に対応するデータに対する処理を当然に包含した意味で使用している。
【0025】
正常パネル画像40aは、訓練中VAEモデル46に対する教師なし学習時では、正常パネル画像40aが1枚ずつ訓練データ52として入力されていく処理が十分な回数、実施される。正常パネル画像40a自体は、人が正常なソーラーパネル画像であることを目視で判断したものである。訓練中VAEモデル46が出力する生成画像54の正解値は、正常パネル画像40aとなる。
【0026】
損失演算部48は、正常パネル画像40aに対する生成画像54の差分量として所定の損失関数により算出される損失値(以降、単に「損失」として記載。例:最小二乗誤差)が減るように、訓練中VAEモデル46の各パラメータを勾配降下法によって調整していく。損失を減らすと言うことは、生成画像54が正解値としての正常パネル画像40aに近づくことを意味する。この結果、学習済みVAEモデル56では、検査対象の入力画像が与えられたならば、入力画像56iが異常を有していても、正常である状態の出力画像56oを出力することになる。
【0027】
なお、ソーラーパネル14は、メーカーや型番によってサイズやアスペクト比が異なっている。ソーラーアレイ12の撮像画像からソーラーパネル14の画像部分を切り出す検出ロジックでは全てのパネルを統一されたサイズへ正規化し、正規化した画像を訓練画像に用いることで、ソーラーパネルのサイズやアスペクト比の違いがモデルの学習に影響を与えることを解消している。正規化は、具体的には、例えばパネルの4頂点を固定サイズの正方形の4頂点へ対応するように射影変換することにより行われる。検査時(推論時)の入力画像56iも、学習時の正常パネル画像40aと同様の正規化が施される。
【0028】
(ソーラーパネル検査装置)
図4は、ソーラーパネル検査装置53の構成図である。ソーラーパネル検査装置53は、学習済みVAEモデル56および後処理部58を含む。学習済みVAEモデル56は、図3の訓練中VAEモデル46が訓練データ52により所定の訓練を積んで損失演算部48の演算結果の損失が所定の基準以下に達して所定の機械学習を修了したと判断された訓練中VAEモデル46から構成される。学習済みVAEモデル56は、入力画像56iの入力に対し出力画像56oを出力する。差分解析部60は、各画素の輝度(画素値)が入力画像56iと出力画像56oとの対応画素の輝度の差分となっている差分画像60dを出力する。異常検出部62は、差分画像60dに基づいて検査対象のソーラーパネル14の異常についての判定結果である判定画像62eを出力する。
【0029】
学習済みVAEモデル56は、入力画像56iに対し、その入力画像56iが正常なソーラーパネル14のものである場合の画像(正常画像)を推論する。したがって、学習済みVAEモデル56は、入力が正常画像である場合は入力画像56iに極めて近い出力画像56oを出力する一方、入力が異常画像である場合は、入力画像56iから異常箇所が除かれた画像に極めて近い出力画像56oを出力する。
【0030】
(異常の判定方法/基本例)
異常検出部62が異常単位区画39eに基づいて最終的にソーラーパネル14が異常であるか否かの判定方法の基本例は、次のとおりである。
【0031】
STEP1:異常検出部62は、差分画像60dを縦横共に等間隔の格子線で形状(例:正方形)および大きさ(サイズ)の等しい複数の単位区画(単位升目)に区画する。ここで、単位区画の総数はNaとする。
【0032】
STEP2:差分画像60dにおいて単位区画ごとに、差分輝度値(差分輝度)が第1閾値以上である画素の総数Maが第2閾値以上であるか否かを判定する。なお、差分画像60dにおける各画素の輝度は、入力画像56iと出力画像56oとにおける対応画素同士の輝度の差分の絶対値である。
【0033】
STEP3:STEP2の判定結果が肯定的であれば、当該単位区画は、異常区画と認定し、否定的であれば、正常区画と認定する。図4の判定画像62eにおいて、黒は正常単位区画であり、白は、異常単位区画39eである。
【0034】
STEP4:異常単位区画の個数Nbを計数する。
【0035】
STEP5:Nbが第3閾値以上であれば、検査対象のソーラーパネル14は異常であると判定する。Nbが第3閾値未満であれば、検査対象のソーラーパネル14は正常であると判定する。なお、Nbに代えて、Nb/Naを第3閾値と対比して、検査対象のソーラーパネル14の正常および異常を判定することもできる。
【0036】
差分画像60dで差分輝度値が第1閾値以上である画素の総数Maが第2閾値以上であるか否かで検査対象のソーラーパネル14が異常であるか否かを判定するのではなく、上記のように、STEP1-STEP5の手順を踏む意義は次のとおりである。
【0037】
(a)ソーラーパネル14の異常の程度を単位区画の数として計数できる。すなわち、多数のソーラーパネル14を含むソーラーアレイ12が映し出されているオルソ画像上で異常なソーラーパネル14の位置にピンを立てる際などに「異常単位区画数が:5以上のソーラーパネル14のみ表示」など異常の程度によって表示のフィルタリング(この場合、「5」は、第3閾値に相当し、第3閾値を適宜調整可能にしておく。)を行うことができる。
【0038】
(b)ソーラーパネル14の異常を抽象化することができる。すなわち、よりシンプルな方法で異常を表現しておくことで、別のパネル同士の異常形状類似度を推定することが容易になる。
【0039】
(誤判定)
図5は、異常検出部62の誤判定についての説明図である。図5において、オリジナル、VAE出力、差分および検出結果は、それぞれ入力画像56i、出力画像56o、差分画像60dおよび判定画像62eに対応している。図5の入力画像56iは、正常なソーラーパネル14の入力画像であり、図5の出力画像56oは、学習済みVAEモデル56が該正常な入力画像56iから生成して出力した画像を示している。しかしながら、差分解析部60が出力した図5の差分画像60dでは横線状の差分が画像全体に渡って生じており、その結果、異常検出部62が出力した判定画像62eには、異常単位区画29eが現れている。
【0040】
入力画像56iが、正常なソーラーパネル14の入力画像であるにもかかわらず、判定画像62eに異常単位区画39eが現れている原因について、発明者は次のように推定している。
(a)学習済みVAEモデル56は、入力画像56iに対応する正常パネル画像を生成できるようにはなったとしても、ソーラーパネル14内の格子配列のセル18の全ての格子線の位置や色の濃さまでも全くズレなく再現することは非常に困難である。
(b)一方、正常なパネルの性質を学習した学習済みVAEモデル56は、格子構造が規則的(等間隔)に配置されるパネル画像を生成することから、入力画像との線の位置ずれが生じる場合は対応する線同士が等間隔でずれるので、等間隔の線状の差分が生じることになる。
(c)また、格子線の色の濃さが入力画像と異なる場合も、格子線に沿った等間隔の線状の差分が生じることになる。
【0041】
(平行線除去フィルタの作成)
図6図14を参照して、差分画像60dから異常判定のノイズとなっている縦線および横線の平行線を除去する方法について説明する。なお、差分画像60dからの縦線の平行線除去と横線の平行線除去とは、別々に実施して、除去後に画像を統合して補正差分画像102(図14)を生成している。
【0042】
(幅処理)
図6は、縦線および横線の幅処理についての説明図である。元差分画像80から縦線幅処理画像84a(本発明の「第1画像」の一例」)および横線幅処理画像84b(本発明の「第2画像」の一例」)が生成される。なお、元差分画像80とは、差分解析部60が出力する画像であり、図5の差分画像60dは、元差分画像80である。差分画像60dの画素値は、出力画像56oの画素値(=輝度)(0~255)から入力画像56iの画素値(0~255)を引いた画素値の絶対値としているので、正である。
【0043】
排他的縦線フィルタ82aおよび排他的横線フィルタ82bのサイズは、縦横のマスの個数に換算して表すことにする。排他的縦線フィルタ82aおよび排他的横線フィルタ82bのサイズは、縦および横共に複数となっており、サイズの大きい方を長さ、小さい方を幅と呼ぶことにする。すなわち、排他的縦線フィルタ82aの幅は横であり、排他的横線フィルタ82bの幅は縦となる。マスについてフィルタ内の幅位置を指定してマスの値を説明したときは、該幅位置に属する長さ全体のマスについて適用されるものとする。
【0044】
なお、排他的縦線フィルタ82aは、この例では、横サイズが奇数で、中心の1マスが1、中心マスに対して左右のそれぞれ2マスが0、中心マスから左右3マス目以上のマスが-1とされている。
【0045】
値0が入るマス数によって「線として認識する許容幅」を決めることができる。中心の値1のマスによって物体が認識された際に値0の幅範囲内であれば、その物体が縦線幅処理画像84aにおいてマイナス値になることはない。一方、値0のマスを超えて値-1のマスまで到達するような物体は、値-1のマスを侵食した分だけ値がマイナスとなり、線としては認識されなくなる。
【0046】
実施例の排他的縦線フィルタ82aでは、値0のマスが値1の中央マスの両側に2マスずつなので、幅5ピクセルまでの物体を線として認識する。一方、物体の幅が6ピクセル以上になると、値0のマスの外側の値-1を踏むようになってしまうため、フィルタリング値としては小さくなり、線とは認識されなくなる。
【0047】
こうして、元差分画像80において、横幅が5ピクセル(本発明の「第1線幅」の一例)以下の縦線(物体の一例)は、縦線幅処理画像84aにおいて残存する。一方、横幅が6ピクセル以上の縦線(物体の一例)は、縦線幅処理画像84aから消失する。
【0048】
排他的縦線フィルタ82aでは、-1のマス数は、左右それぞれ3に設定されている。排他的縦線フィルタ82aでは、縦サイズは例えば横サイズと等数の11である。排他的縦線フィルタ82aを元差分画像80の左右両端範囲に適用する場合、排他的縦線フィルタ82aの中心マスに対して元差分画像80における左または右のマスが欠落しているので、欠落しているマスに対して周知のゼロ埋め(ゼロパディング)を実施する。
【0049】
排他的横線フィルタ82bは、排他的縦線フィルタ82aについての縦横を横縦に逆にしただけであるので、説明は割愛する。なお、排他的横線フィルタ82bを元差分画像80に適用したときには、縦幅が5ピクセル(本発明の「第2線幅」の一例)以下の横線(物体の一例)が、横線幅処理画像84bにおいて残存することになる。第2線幅は、前述の第1線幅と等しくなくてもよい。
【0050】
(長さ処理)
図7は、縦線および横線の長さ処理についての説明図である。縦線結合画像85aおよび横線結合画像85bは、図6の縦線幅処理画像84aおよび横線幅処理画像84bについて、値0を閾値として、閾値以上を値1、閾値未満を値0に置き換える二値化処理を施したものである。縦線結合画像85aおよび横線結合画像85bに対して、最初にオープニングを行ってから、次に、クロージングを行う。
【0051】
オープニングのフィルタのサイズは、幅1×長さ5である。これにより、長さ5以下の縦線および横線が、ノイズとして除去された縦線結合画像86aおよび横線結合画像86bが縦線結合画像85aおよび横線結合画像85b(共に二値化画像)から生成される。
【0052】
次のクロージングのフィルタのサイズは、幅1×長さ25である。これにより、同一画素列および同一行において25画素離れた縦線および横線が結合された縦線結合二値化画像88aおよび横線結合二値化画像88bが縦線結合画像86aおよび横線結合画像86bからそれぞれ生成される。なお、オープニング及びクロージングの処理は周知のモルフォロジー変換が利用される。
【0053】
(隣接線統合処理)
図8は、隣接する縦線を統合する画像説明図である。一部拡大画像89aは、縦線結合二値化画像88aの一部を拡大した画像である。長い縦線に隣接して短い縦線が存在している。長い縦線と短い縦線とは、横方向に隣接する画素列に存在している。
【0054】
隣接線統合処理では、縦線結合二値化画像88aから縦線統合画像90a(本発明の「第3画像」の一例)を生成する。一部拡大画像91aは、縦線統合画像90aの一部を拡大した画像である。一部拡大画像89aと一部拡大画像91aとは、同一範囲を示している。一部拡大画像89aでは、隣接列にそれぞれ長い縦線と短い縦線が存在していたが、一部拡大画像91aでは、短い方の縦線が消失し、長い方の縦線にまとめられて(統合されて)いる。
【0055】
図9は、横線の隣接線統合処理の画像説明図である。横線結合二値化画像88bが横線統合画像90b(本発明の「第4画像」の一例)に変換されている。横線結合二値化画像88bおよび横線統合画像90bは、それぞれ縦線結合二値化画像88aおよび縦線統合画像90aに対応している。横線結合二値化画像88bおよび横線統合画像90bでは、縦方向に隣接する横画素列において短い方の横線は、消失し、長い方の縦線にまとめられている。
【0056】
図10は、隣接線統合処理の具体的な手順を示している。図10における各表形式画像は、説明簡便化のために、対応画像の縦7×横4の画素範囲を抜き出して、各画素の画素値を数値で表示した仮想画像である。各表形式画像において、ブランクの画素は、その画素値が0であることを意味している。
【0057】
STEP102の表形式画像は、縦線結合二値化画像88aから抜き出している。STEP102では、STEP102の表形式画像の各画素に重み付けを行う。各画素列の画素に対する重みは、STEP102の表形式画像の各画素列における1の個数に決定する。すなわち、STEP102の表形式画像では、左の画素列から右の方へ順番に1の画素の個数が2,4,3,0となっている。したがって、STEP102の表形式画像の各画素に重みを付けると、STEP104の表形式画像が生成される。
【0058】
STEP106の表形式画像は、STEP104の表形式画像に対して横長フィルタで最大値フィルタリングを実施することにより生成される。すなわち、1×3の横長フィルタは、STEP104の表形式画像に適用されると、横長フィルタの中心マスの画素を中心に含む横連続3画素の最大値が各画素の画素値に変更される最大値フィルタリングの表形式画像が生成される。
【0059】
STEP108では、STEP106の表形式画像が二値化される。この二値化は、STEP106の表形式画像の各画素において画素値≠0であれば、1とし、画素値= 0であれば、0に維持するように、変換して、STEP108の表形式画像を生成する。
【0060】
STEP110では、STEP108の表形式画像に対して再度の重み付けを行う。重み付けの仕方は、STEP104のときとほぼ同じである。詳細には、STEP104の時点で各列に適用した重みを記録しておき、STEP110では、その記録しておいた重みを再使用する。ただし、記録無し(重み0)の列に対しては、便宜上1を割り当てている。
【0061】
STEP112の表形式画像は、STEP110の表形式画像に対して最大値フィルタリング(STEP106の1×3の横長フィルタと同一の横長フィルタ)を施して生成したものである。
【0062】
STEP114では、まず、STEP112の表形式画像とSTEP114の表形式画像とで各画素列における一致性をみる。STEP114の左の表示形式画像では、STEP110の表形式画像とSTEP112の表形式画像とで対応画素同士が一致するマスは、1、不一致のマスは0(ブランク)が入っている。
【0063】
この後、STEP114では、一致箇所の表形式画像と、STEP108の二値化表形式画像とが、対応画素同士の数値で掛け合わされる。その結果として、STEP116の表形式画像が生成される。STEP116の1の画素が縦線を構成する画素となる。すなわち、STEP102において、横方向に隣接する画素列間で長い線と短い線とが接触している場合は、長い方に統合される。また、横方向に隣接する画素列間で、縦方向には離れているものの、複数の縦線が存在しているときは、最初の重み付けで大きい重み付けを付与された縦線の画素列に、小さい重み付けを付与された方の縦線が移動する。
【0064】
図10のSTEP104の重み付けの仕方では、横方向に隣接する画素列間で、1の個数が同一である場合、重みは等しい値となる。例えばSTEP102の表形式画像において、左から3番目の画像列の1の個数が左から2番目の画素列の1の個数と同数の4である場合、左から2番目と3番目との画像列の重みは、共に4となる。これは、図12の縦線間の距離の決定に支障となる。
【0065】
図11は、重み付けの改良例である。図11の重み付けでは、各重みは、 そこで、図10の重み付けの仕方に対して、図11の重み付けの仕方では、各重みは、整数部と小数部とから構成される。整数部は、各画素列の1の個数に設定される。これに対し、小数部は、例えば、画素列の総数をUt、各画素列の番号をUnとしたとき、Un/Utとする。これにより、重みは、1の個数が同一である画素列が連続しても、右側の画素列の重みが左側の画素列の重みよりも大きい値となって、STEP114の一致画素列を一義に決め易くなる。
【0066】
隣接する横線の統合処理についての説明は省略するが、図10および図11の隣接する縦線の統合処理と同様である。隣接する横線の統合処理では、図10及び図11の各表形式画像の縦横が逆になるだけである。
【0067】
(距離頻度)
図12は、距離頻度に基づいて縦平行線除去フィルタ94aおよび横平行線除去フィルタ94bを完成させる説明図である。縦平行線除去フィルタ94aは、縦線統合画像90aに含まれる相互に平行な複数の縦線のうち一定の横方向距離で出現している縦平行線を差分画像60dから除去するものである。横平行線除去フィルタ94bは、横線統合画像90bに含まれる相互に平行な複数の横線のうち一定の縦方向距離で出現している横平行線を差分画像60dから除去するものである。
【0068】
最初に縦平行線除去フィルタ94aが除去する平行縦線の横方向距離の決め方について説明する。縦線統合画像90aにおいて、長さが縦線統合画像90aの縦サイズの1/10未満の短い縦線は、直線とみなさず、除外する。すなわち、縦線統合画像90aの縦サイズの1/10以上の長さの縦線のみを横方向距離の検出対象とする。また、横方向距離について、ソーラーパネル14およびセル18の横サイズに応じて上限を設定し、上限以上の横方向距離は、検出しないことにする。
【0069】
こうして、縦線統合画像90a内に存在する2つの対象縦線の全部の組み合わせについて、横方向の距離を検出していく。この組み合わせは、2つの対象縦線の横方向範囲が重なっているか重なっていないかに関係なく選択される。
【0070】
検出した横方向距離の距離リストの例が、図12の[25,50,25]として検出順に並べられている。このリスト例では、検出距離が3つ記載されている。これは、前述したように、あらかじめ、長さが縦線統合画像90aの縦サイズの1/10未満の短い縦線は、直線とみなさず、除外するので、除外されずに残った縦線の画素列は、3つしかなく、検出距離の組み合わせは3つしかないからである。
【0071】
次に、距離リストに基づいて距離の多い順(出現頻度の大きい順)に並べた距離候補リストと、頻度リストが作成される。この例では、距離候補リストは、[25,50]となり、頻度リストは[2,1]となる。すなわち、検出リストにおいて、25は、2つあって、頻度は2となる。50は、1つあって、頻度は1となる。なお、この1は、本発明の「所定の閾値以上の頻度の等距離間隔」における「所定の閾値」に相当する。
【0072】
次に、頻度順の1番の距離候補から採用距離を決めていく。最初は、採用距離リストは空である。各距離候補について採用距離リストにすでにその倍数または約数が存在するかをみる。頻度順の1番の距離候補25のときは、採用距離リストは空であるため、25は、そのまま採用距離リストに採用される。なお、各距離候補について採用距離リストにすでにその倍数または約数が存在するか否かを調べるとき、数値の完全一致する倍数および約数に限定せず、±1かある程度の差異は同一とみなすことができる。
【0073】
次に、頻度順の2番の距離候補の50については、その約数である25が採用距離リストに存在するので、採用距離リストへの採用が拒否される。こうして、距離候補の最後の距離まで、採用距離リストへの採用の可否が決められていく。
【0074】
縦平行線除去フィルタ94aは、中心マスが1、中心マスから左右にそれぞれ25、離れた列のマスが-0.1となっている。この25は、縦線に係る採用距離リストの採用距離に基づいて設定されている。また、「-0.1」の0.1は、除去強度パラメータの値として使用している。
【0075】
除去強度パラメータとは、縦線または横線をノイズとして除去するときの除去する強さに関するパラメータと定義する。除去強度パラメータの値が大きいほど、除去効果が大きくなるように設定される。値の決め方は、例えば、初期値を「-1 / (フィルタの幅 × 2)」に設定して様子を見る。ここで「フィルタの幅」は縦平行線除去フィルタ94aの場合は縦幅となり、横平行線除去フィルタ94bの場合は横幅となる。設定者は、除去効果が弱いと判断したとき値を減少し(値は負であるので、絶対値は増大する。)、除去効果が強過ぎると判断したときは、値を増大させる(但し、0より小さくなるよう(負の値)設定する。)。
【0076】
縦平行線除去フィルタ94aは、元差分画像80に対して適用される。縦平行線除去フィルタ94aの縦サイズが5以上とすると、中心マスが横方向に25マスごとに出現する縦線の位置にあると、該中心マスに重なる画素の画素値は、1-0.1×5×2となって、0になる。よって、図面の画像上では色が白から黒へ変化する。
【0077】
縦平行線除去フィルタ94aは、両端が-0.1の図示のものと、両端が-0.2の不図示のものとの2つが用意されている。そして、中心マスが差分画像60dの左右の端の列から1番から24番までの範囲にあるときに限り、両端が-0.2の縦平行線除去フィルタ94aの方が使用される。
【0078】
横平行線除去フィルタ94bが除去する平行横線の縦方向距離の決め方も、縦平行線除去フィルタ94aと同様に行う。横平行線除去フィルタ94bの場合は、検出距離リストは、[13,27,34,13,21,~]となる。距離候補リストは[13,21,27..~]であり、採用距離リストは[13,21]となる。27が採用距離リストに含まれなかったのは、採用距離リストへの27の可否を判定する時に、採用距離リストにはすでに13が採用されており、27は、13の倍数である26の±1の範囲内の数値であるからである。
【0079】
横平行線除去フィルタ94bでは、採用距離は、13と21との2つであるので、-0.1(縦平行線除去フィルタ94aのときと同様に、0.1は除去強度パラメータの値として使用)の行は横平行線除去フィルタ94bにおいて、値1の中心マスに対して上下に2つずつ設定されることになる。元差分画像80に対する横平行線除去フィルタ94bの適用も、元差分画像80に対して適用される。横線抽出画像に対する横平行線除去フィルタ94bの適用は、縦線抽出画像に対する縦平行線除去フィルタ94aの適用と同一である。
【0080】
(補正差分画像の生成)
図13は、元差分画像80、縦線除去画像100a、横線除去画像100b、縦線除去適用領域画像98aおよび横線除去適用領域画像98bの対照図である。 元差分画像80から補正差分画像102(図14)を生成する手順を順番に説明する。以下の説明では、縦補正差分画像の生成を横補正差分画像の生成の説明より先に説明しているが、生成の順番は逆であってもよい。
【0081】
先ず元差分画像80に対して縦平行線除去フィルタ94aで処理して縦線除去画像100aを作成する。こうして生成された縦線除去画像100aでは、縦線以外の領域も過剰に除去されている可能性がある点に注意されたい。後述の縦線除去適用領域画像98aを縦線マスクとして用いるマスク処理は、過剰除去された縦線を回復させるためのものである。
【0082】
なお、元差分画像80の各画素値は差分解析部60において、入力画像56iと出力画像56oとの対応画素の輝度を元に算出する。例えば(a)入力画像56iと出力画像56oとの対応画素の輝度差分の絶対値をとる、または(b)対応画素ごとに入力画像56iの輝度値から出力画像56oの輝度値を引く、または(c)対応画素ごとに出力画像56oの輝度値から入力画像56iの輝度値をひく、などの方法を選択できる。(b)は異常物の輝度が周囲よりも大きい状況において有効であり、(c)は逆に異常物の輝度が周囲よりも小さい状況で有効である。(b)と(c)は、各画素値の下限を0とするために負の値を0へ置き換える処理を追加しておくことで、異常物の特徴をより強調した元差分画像80を生成することができる。
【0083】
縦線除去適用領域画像98aとしての縦線マスクは、縦線統合画像90a(図8)に対し幅方向(縦線除去適用領域画像98aにおける幅方向は横方向である。)の膨張処理(Erosion/モルフォロジー変換)を施すことで作成する。膨張処理により縦線除去適用領域画像98aでは、縦線統合画像90aより線が太くなっていることに注意されたい。
【0084】
縦線マスクは二値画像(0または1)になっており、縦線マスクにおいて膨張処理で膨らんだ縦線である縦線領域には、画素値が二値の第1値としての「1」が割り当てられ、縦線領域以外の領域には画素値が二値の第2値としての「0」が割り当てられている。元差分画像80に縦線マスクを適用して、縦補正差分画像(不図示)が生成される。
【0085】
縦補正差分画像では、元差分画像80において縦線マスクの対応画素が第1値である画素は、縦線除去画像100aの画素値に置き換えられている。一方、元差分画像80において縦線マスクの対応画素が第2値である画素は、縦補正差分画像では、元差分画像80の画素値がそのまま維持されている。
【0086】
この実施形態では、縦線領域には、第1値としての「1」が割り当てられ、当該縦線領域以外の領域には、第2値としての「0」が割り当てられているが、第1値および第2値として具体的にどのような数値を設定するかは、設計者の任意である。例えば、第1値および第2値として、それぞれ1,0とする以外に、例えば255,0のように、相互に異なる数値が割り当てられてもよい。
【0087】
横補正差分画像(不図示)も、縦補正差分画像と同様の手順で生成する。具体的には、横線除去適用領域画像98bを、横線統合画像90b(図9)に対し幅方向(横線除去適用領域画像98bにおける幅方向は縦方向である。)の膨張処理を施すことにより作成する。次に、横線除去適用領域画像98bを横線マスクとして用いて、元差分画像80に適用して、横補正差分画像が生成される。
【0088】
横線マスクによる具体的なマスク処理では、横線マスクにおいて膨張処理で膨らんだ横線である横線領域には、第3値としての「1」が画素値として割り当てられ、横線領域以外の領域には、第4値としての「0」が画素値として割り当てられている。元差分画像80に横線マスクを適用して生成される横補正差分画像では、元差分画像80において横線マスクの対応画素が1である画素は、横線除去画像100bの画素値に置き換えられ、元差分画像80において横線マスクの対応画素が0である画素は、元差分画像80の画素値をそのまま維持される。
【0089】
しかしながら、横線マスクにおいても、縦線マスクのときと同様に、第3値および第4値として具体的にどのような数値を設定するかは、設計者の任意である。例えば、第3値および第4値として、それぞれ1,0とする以外に、例えば255,0のように、相互に異なる数値が割り当てられてもよい。
【0090】
図14は、元差分画像80と補正差分画像102とを対比して示す図である。元差分画像80は差分画像60dと同一である。補正差分画像102は、図13で説明した縦線補正差分画像と横線補正差分画像とを合成して生成される。この合成では、補正差分画像102の各画素について画素値が縦線補正差分画像と横線補正差分画像とで同一である場合は、その同一値を選択するが、相違する場合は、小さい方の画素値(除去効果の大きい方の画素値)を選択する 。
【0091】
図15は、元差分画像80が異常39dを含む場合の元差分画像80と補正差分画像102との対比図である。補正差分画像102では、元差分画像80の異常39dは、除去されずに残っていることが分かる。これにより、補正差分画像102を元差分画像80に代替させて、異常検出部62は、支障なく異常を判定することが理解できる。
【0092】
(ソーラーパネル検査装置)
ソーラーパネル検査装置53は、差分画像60dを元差分画像80とし、元差分画像80に基づいて平行線除去フィルタ(例:縦平行線除去フィルタ94a及び横平行線除去フィルタ94b)を作成するフィルタ作成部(例:図12の処理を実施する処理部)と、平行線除去フィルタを用いて元差分画像80からセル18の枠線に対応する平行線を除去した補正差分画像102を生成する補正差分画像生成部(例:図13および図14に対応する処理を実施する処理部)と、補正差分画像102に基づいて検査対象ソーラーパネルについての異常の有無を判定する判定部(例:異常検出部62)と、を備えている。
【符号の説明】
【0093】
14・・・ソーラーパネル、18・・・セル、29e・・・異常単位区画、39d・・・異常、40・・・正常パネル画像、46・・・未学習VAEモデル、48・・・損失演算部、52・・・訓練データ、53・・・ソーラーパネル検査装置、54・・・生成画像、56・・・学習済みVAEモデル、56i・・・入力画像、56o・・・出力画像、58・・・後処理部、60・・・差分解析部、60d・・・差分画像、62・・・異常検出部、62e・・・判定画像、80・・・元差分画像、82a・・・排他的縦線フィルタ、82b・・・排他的横線フィルタ、84a・・・縦線幅処理画像、84b・・・横線幅処理画像、86a・・・不要縦線除去画像、86b・・・不要横線除去画像、88a・・・縦線結合画像、88b・・・横線結合画像、90a・・・縦線統合画像、90b・・・横線統合画像、94a・・・縦平行線除去フィルタ、94b・・・横平行線除去フィルタ、100a・・・縦線除去画像、100b・・・横線除去画像、102・・・補正差分画像。
【要約】
【課題】正常なソーラーパネルのパネル可視光画像に係る入力画像のみを訓練画像に用いた教師なし機械学習により生成した機械学習モデルに、検査対象ソーラーパネルの入力画像を入力して、その出力画像を出力させ、両画像の差分画像に基づいて検査対象ソーラーパネルについての異常の有無を判定する時の異常判定の精度を改善する。
【解決手段】差分画像を元差分画像とし、該元差分画像に基づいて平行線除去フィルタを作成し、平行線除去フィルタを用いて元差分画像から平行線を除去した補正差分画像を生成し、補正差分画像に基づいて検査対象ソーラーパネルについての異常の有無を判定する。
【選択図】図12
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15