(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-30
(45)【発行日】2024-02-07
(54)【発明の名称】水域構造物の補強構造および補強方法
(51)【国際特許分類】
E02B 3/06 20060101AFI20240131BHJP
【FI】
E02B3/06
(21)【出願番号】P 2019125953
(22)【出願日】2019-07-05
【審査請求日】2022-06-16
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】501204525
【氏名又は名称】国立研究開発法人 海上・港湾・航空技術研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】592000886
【氏名又は名称】八千代エンジニヤリング株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000172961
【氏名又は名称】あおみ建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104547
【氏名又は名称】栗林 三男
(74)【代理人】
【識別番号】100206612
【氏名又は名称】新田 修博
(74)【代理人】
【識別番号】100209749
【氏名又は名称】栗林 和輝
(74)【代理人】
【識別番号】100217755
【氏名又は名称】三浦 淳史
(72)【発明者】
【氏名】及川 森
(72)【発明者】
【氏名】原田 典佳
(72)【発明者】
【氏名】永尾 直也
(72)【発明者】
【氏名】武野 正和
(72)【発明者】
【氏名】小濱 英司
(72)【発明者】
【氏名】近藤 明彦
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 健二
(72)【発明者】
【氏名】国生 隼人
(72)【発明者】
【氏名】天野 俊
(72)【発明者】
【氏名】小山 萌弥
(72)【発明者】
【氏名】永瀬 翔平
(72)【発明者】
【氏名】岡島 伸行
(72)【発明者】
【氏名】井上 真志
(72)【発明者】
【氏名】吉原 到
【審査官】柿原 巧弥
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-296618(JP,A)
【文献】特開2011-226111(JP,A)
【文献】特開2008-223384(JP,A)
【文献】特開2010-150787(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02B 3/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部構造物と、当該上部構造物を支持する既設杭とを備えた水域構造物の補強構造であって、
前記既設杭と連結部材を介して連結されて前記既設杭を補強する1本または複数本の新設杭とを備え、
全ての前記新設杭は、前記上部構造物の近傍の水面
でかつ平面視において前記上部構造物の端縁より外側から、当該水面に対して傾斜した状態で前記上部構造物の下方の水底に当該水底より突出させて打設され、
全ての前記新設杭の上端部は平面視において前記上部構造物の端縁より内側に位置し
、全ての前記新設杭の前記水底への打設位置は、平面視において前記上部構造物の端縁より内側に位置していることを特徴とする水域構造物の補強構造。
【請求項2】
前記連結部材が棒状のストラット部材と、当該ストラット部材の両端部にそれぞれ設けられた結合部とを備え、
前記水域構造物の横断面視において、前記新設杭によって補強すべき前記既設杭と前記新設杭との交差部以外で、一方の前記結合部が前記新設杭に結合され、他方の前記結合部が前記既設杭に結合されていることを特徴とする請求項1に記載の水域構造物の補強構造。
【請求項3】
前記連結部材が棒状のストラット部材と、当該ストラット部材の両端部にそれぞれ設けられた結合部とを備え、
前記水域構造物の横断面視において、前記新設杭によって補強すべき前記既設杭と前記新設杭との交差部で、一方の前記結合部が前記新設杭に結合され、他方の前記結合部が前記既設杭に結合されていることを特徴とする請求項1に記載の水域構造物の補強構造。
【請求項4】
前記連結部材が互いに結合された2つの結合部を備え、
前記水域構造物の横断面視において、前記新設杭によって補強すべき前記既設杭と前記新設杭との交差部で、一方の前記結合部が前記新設杭に結合され、他方の前記結合部が前記既設杭に結合されていることを特徴とする請求項1に記載の水域構造物の補強構造。
【請求項5】
前記連結部材が棒状のストラット部材と、当該ストラット部材の両端部にそれぞれ設けられた結合部とを備え、
前記ストラット部材が長さ調整可能であることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の水域構造物の補強構造。
【請求項6】
上部構造物と、当該上部構造物を支持する既設杭を備えた水域構造物の補強方法であって、
新設杭を、前記上部構造物の近傍の水面から、当該水面に対して傾斜した状態で前記上部構造物の下方の水底に当該水底より突出させて打設し、
次に、前記新設杭を前記既設杭に連結部材を介して連結することを特徴とする水域構造物の補強方法。
【請求項7】
前記新設杭を設計長さより長く形成しておき、この長く形成された部分を補助部とし、
前記新設杭を、前記上部構造物の近傍の水面から、当該水面に対して傾斜した状態で前記上部構造物の下方の水底に当該水底より突出させて打設した後、前記補助部を切断して除去することによって、前記新設杭の上端部を平面視において上部構造物の端縁より内側に位置させることを特徴とする請求項6に記載の水域構造物の補強方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、老朽化した桟橋、ドルフィン、橋脚などの水域構造物を補強する水域構造物の補強構造に関する。
【背景技術】
【0002】
土木構造物として知られる桟橋、ドルフィン、橋脚などの水域構造物は、水底地盤に打ち込まれ水面より上に突出した複数の杭を脚柱とする下部構造物と、水面より上に敷設した床板等からなる上部構造物より構成される。 上記の下部構造物は一般に、海底あるいは湖底といった地盤に複数本の杭群を鉛直方向に打ち込んで構築される。また、上記の上部構造物は一般に、これら杭群の上端部に梁を複数本架設し、これら梁群の間に床板を張り渡して構築される。
【0003】
ところで、水域構造物の耐震性能を向上させたり、老朽化した水域構造物を補強したりすることを目的として従来より、特許文献1に記載の水域構造物の補強構造が知られている。 この水域構造物の補強構造は、上部構造物を支持する杭群をストラット部材で補強する水域構造物の補強構造であって、前記杭群は、前記上部構造物を支持する新設主杭と、該新設主杭と前記ストラット部材を介して連結されて前記新設主杭を補強する既設杭とからなり、前記ストラット部材は、所定の大きさの地震動を受けた際に降伏することを特徴としている。
【0004】
このような水域構造物の補強構造では、既設の水域構造物について、既設杭が支持する既設の上部構造物を撤去し、主杭を新設して、既設杭と新設主杭とをストラット部材で連結することにより、既設杭が新設主杭を補強することができる。すなわち、既設杭を活用することにより、増設する新設主杭の1本あたりの断面積を低減しつつ、新たに構築する上部構造物を支持する新設主杭を補強することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら上述した従来の水域構造物の補強構造では、既設杭が支持する既設の上部構造物を撤去したうえで、主杭を新設しなければならいため、上部構造物の撤去に非常に手間がかかるとともに、新たな上部構造物を新設の主杭によって支持するまでは、桟橋、ドルフィン、橋脚などの水域構造物の供用を停止する必要があった。
【0007】
本発明は前記事情に鑑みてなされたもので、上部構造物を撤去することなく、かつ水域構造物を供用を停止することなく、当該水域構造物を補強できる水域構造物の補強構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、本発明の水域構造物の補強構造は、上部構造物と、当該上部構造物を支持する杭群とを備えた水域構造物の補強構造であって、
前記杭群は、前記上部構造物を支持する既設杭と、当該既設杭と連結部材を介して連結されて前記既設杭を補強する新設杭とを備え、
前記新設杭は、前記上部構造物の近傍の水面から、当該水面に対して傾斜した状態で前記上部構造物の下方の水底に当該水底より突出させて打設されていることを特徴とする。
【0009】
本発明においては、新設杭は、上部構造物の近傍の水面から、当該水面に対して傾斜した状態で上部構造物の下方の水底に当該水底より突出させて打設され、この傾斜した新設杭は既設杭と連結部材を介して連結されて既設杭を補強するので、上部構造物を撤去することなく、かつ水域構造物を供用を停止することなく、当該水域構造物を補強できる。
【0010】
また、本発明の前記構成において、前記新設杭の上端部は平面視において前記上部構造物の端縁より内側に位置しているのが好ましい。
いてもよい。
【0011】
このような構成によれば、新設杭の上端部が平面視において前記上部構造物の端縁より内側に位置しているので、水面を移動して上部構造物に近づく船舶等の移動体が上部構造物に干渉することがない。
【0012】
また、本発明の前記構成において、前記連結部材が棒状のストラット部材と、当該ストラット部材の両端部にそれぞれ設けられた結合部とを備え、
前記水域構造物の横断面視において、前記新設杭によって補強すべき前記既設杭と前記新設杭との交差部以外で、一方の前記結合部が前記新設杭に結合され、他方の前記結合部が前記既設杭に結合されていてもよい。
【0013】
このような構成によれば、水域構造物の横断面視において、新設杭によって補強すべき既設杭と新設杭との交差部以外で、一方の結合部が新設杭に結合され、他方の結合部が既設杭に結合されているので、ストラット部材の長さを調整することによって、新設杭と既設杭とを所望の高さ位置で連結できる。
特に、ストラット部材が新設杭に対して垂直に配置されている場合、水域構造物に地震等によって外力が作用した場合に、当該外力の一部が既設杭から新設杭にストラット部材の軸力として伝達されるので、上部構造物を支持している既設杭を確実に補強できる。
【0014】
また、本発明の前記構成において、前記連結部材が棒状のストラット部材と、当該ストラット部材の両端部にそれぞれ設けられた結合部とを備え、
前記水域構造物の横断面視において、前記新設杭によって補強すべき前記既設杭と前記新設杭との交差部で、一方の前記結合部が前記新設杭に結合され、他方の前記結合部が前記既設杭に結合されていてもよい。
【0015】
このような構成によれば、水域構造物の横断面視において、新設杭によって補強すべき既設杭と新設杭との交差部で、一方の結合部が新設杭に結合され、他方の結合部が既設杭に結合されているので、ストラット部材の長さを短くできる。
特に、ストラット部材が既設杭および新設杭の双方に対して垂直に配置されている場合、水域構造物に地震等によって外力が作用した場合に、当該外力の一部が既設杭から新設杭にストラット部材のせん断力として伝達されるので、上部構造物を支持している既設杭を確実に補強できる。
【0016】
また、本発明の前記構成において、前記連結部材が互いに結合された2つの結合部を備え、
前記水域構造物の横断面視において、前記新設杭によって補強すべき前記既設杭と前記新設杭との交差部で、一方の前記結合部が前記新設杭に結合され、他方の前記結合部が前記既設杭に結合されていてもよい。
【0017】
このような構成によれば、水域構造物の横断面視において、新設杭によって補強すべき既設杭と新設杭との交差部で、一方の結合部が新設杭に結合され、他方の結合部が既設杭に結合されているので、新設杭によって補強すべき既設杭と新設杭との交差部において、これら既設杭と新設杭とが近接している場合に、これらを剛に連結することができる。
【0018】
また、本発明の前記構成において、前記連結部材が棒状のストラット部材と、当該ストラット部材の両端部にそれぞれ設けられた結合部とを備え、前記ストラット部材が長さ調整可能であってもよい。
【0019】
このような構成によれば、ストラット部材が長さ調整可能であるので、既設杭と新設杭との間の距離に合わせて、ストラット部材の長さを調整することによって、既設杭と新設杭とを連結部材によって確実に連結できる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、上部構造物を撤去することなく、かつ水域構造物を供用を停止することなく、当該水域構造物を補強できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1A】本発明の第1の実施の形態を示すもので、(a)は水域構造物の横断面図、(b)は(a)におけるA-A線断面図である。
【
図1B】同、補助部材付きの新設杭を備えた水域構造物の横断面図である。
【
図1C】同、ヤットコによって打設される新設杭を備えた水域構造物の横断面図である。
【
図1D】本発明の第1の実施の形態の第1変形例を示すもので、(a)は水域構造物の横断面図、(b)は(a)におけるA-A線断面図である。
【
図1E】本発明の第1の実施の形態の第2変形例を示すもので、(a)は水域構造物の横断面図、(b)は(a)におけるA-A線断面図である。
【
図2】本発明の第1の実施の形態を示すもので、連結部材を示す平面図である。
【
図4】本発明の第2の実施の形態を示すもので、(a)は水域構造物の横断面図、(b)は(a)におけるA-A線断面図である。
【
図5】本発明の第3の実施の形態を示すもので、(a)は水域構造物の横断面図、(b)は(a)におけるA-A線断面図である。
【
図6】本発明の第4の実施の形態を示すもので、(a)は水域構造物の横断面図、(b)は(a)におけるA-A線断面図である。
【
図7】本発明の第1実施例を示すもので、水域構造物を模式的に示す平面図である。
【
図8】本発明の第2実施例を示すもので、水域構造物を模式的に示す平面図である。
【
図9】本発明の第3実施例を示すもので、水域構造物を模式的に示す平面図である。
【
図10】本発明の第4実施例を示すもので、水域構造物を模式的に示す平面図である。
【
図11】本発明の第5実施例を示すもので、水域構造物を模式的に示す平面図である。
【
図12】本発明の第6実施例を示すもので、水域構造物を模式的に示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
(第1の実施の形態)
図1Aは第1の実施の形態に係る水域構造物10の補強構造を示すもので、(a)は横断面図、(b)は(a)におけるA-A線断面図である。なお、
図1A(b)では、上部構造物11は破線で示している。
【0023】
水域構造物10は、上部構造物11と、当該上部構造物11を支持する杭群(下部構造物)12とを備えている。
水域構造物10は、本実施の形態では、桟橋であるが、ドルフィン、橋脚などであってもよい。
上部構造物11は、桟橋の床版であり鉄筋コンクリートによって形成されている。上部構造物11は、
図1A(a)において、紙面と直交する方向に延在しており、当該方向に沿う辺が長辺、左右方向の辺が短辺となる長方形板状に形成されている。
また、
図1A(a)において、上部構造物11より右側が陸側、左側が海側となっており、陸側の水底はほぼ水平であり、海側の水平な水底より浅くなっている。また、海側の水底と陸側の水底とは傾斜した水底によって接続されている。
【0024】
杭群12は、上部構造物11を下方から支持する既設杭13と、当該既設杭13と連結部材15を介して連結されて既設杭13を補強する新設杭14とを備えている。
既設杭13は鋼管で形成された鋼管杭であり、当該既設杭13の上端部は海面(水面)から突出し、当該上端部が上部構造物11に結合され、これによって、上部構造物11が複数の既設杭13によって下方から支持されている。
また、既設杭13の上端部には、防食のための防護膜13aが形成されている。この防護膜は、既設杭13の上端部を、樹脂によって塗装することによって形成されたものである。塗装される樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂塗料、および美粧性を付与するために高耐候性塗料(ふっ素樹脂塗料、ポリウレタン樹脂塗料、シリコン樹脂塗料など)を組み合わせたものがある。
このような防護膜13aは、既設杭13の上端から水面下約1.0mの位置まで形成されている。また、既設杭13の防護膜13aより下方の部分は電気防食されている。
【0025】
また、本実施の形態では、既設杭13は、水平面内において、左右方向に4本、左右方向の直交する方向(
図1A(b)において上下方向)に3本、所定間隔で合計12本配置されているが、本数、配置形態はこれに限ることはなく、上部構造物11をバランスよく支持できるような本数、配置形態であればよい。
【0026】
新設杭14は、上部構造物11の近傍の海面(水面)から、当該海面に対して傾斜した状態で上部構造物11の下方の水底に当該水底から突出させて打設されている。新設杭14は、既設杭13と同様に鋼管で形成された鋼管杭である。また、新設杭14は電気防食されている。
ここで、
図1A(b)に示すように、左右方向を行方向、上下方向を列方向とすると、本実施の形態では、上から1行目に配置された4本の既設杭13と2行目に配置された4本の既設杭13との間に、平面視において新設杭14が行方向に平行に、かつ1行目に配置された4本の既設杭13側に寄せて配置されている。なお、新設杭14は、2行目に配置された4本の既設杭13と3行目に配置された4本の既設杭13との間に平面視において行方向と平行に配置してもよい。
また、新設杭14の上端部は平面視において上部構造物11の端縁11aより内側、つまり上部構造物11の端縁11aより当該上部構造物11の左右方向中央側に位置している。
【0027】
新設杭14を上部構造物11の近傍の海面(水面)から、当該海面に対して傾斜した状態で上部構造物11の下方の水底に当該水底から突出させて打設するには、まず、新設杭14を設計長さより所定の長さだけ長く形成しておき、この長く形成された部分を補助部14aとする。
そして、このような補助部14aを有する新設杭14を、上部構造物11の端縁11aより海側の海面から当該海面に対して傾斜し、かつ、当該端縁11aに干渉しないようにして、上部構造物11の下方の海底(水底)に打設する。この場合、補助部14aは海面より突出するだけの長さに設定しておき、この補助部14aを図示しないバイブロハンマ等の打設装置によって把持して新設杭14を海底に打設する。
その後、補助部14aを海中(水中)で切断して除去することによって、新設杭14の上端部は海面(水面)より下方で、かつ、平面視において上部構造物11の端縁11aより内側に位置することになる。また、新設杭14によって補強すべき既設杭13と新設杭14とは、
図1A(a)に示すように、横断面視において交差している。本実施の形態では、交差している交差部は海底より下側の地盤中であるが、海底より上部の海中であってもよい。
【0028】
また、前記新設杭14を打設する場合、以下のようにしてもよい。
すなわち、
図1Bに示すように、新設杭14の上端部に、当該新設杭14と同径(外径および内径の双方が同径)の鋼管で形成された補助部材14bを機械式継手によって着脱可能に接合する。例えば、新設杭14の上端部に第1凹凸形状部を周方向に沿って形成する一方で、補助部材14bの下端部に第2凹凸形状部を周方向に沿って形成しておき、第1凹凸形状部と第2の凹凸形状部とを嵌合させることによって、新設杭14の上端部に補助部材14bを着脱可能にかつ同軸に接合しておく。
そして、このような補助部材14bを有する新設杭14を、上部構造物11の端縁11aより海側の海面から当該海面に対して傾斜し、かつ、当該端縁11aに干渉しないようにして上部構造物11の下方の海底(水底)に打設する。この場合、補助部材14bは海面より突出するだけの長さに設定しておき、この補助部材14bを図示しないバイブロハンマ等の打設装置によって把持して新設杭14を海底に打設する。
その後、補助部材14bを海中(水中)で新設杭14の上端部から切り離すことによって、新設杭14の上端部は海面(水面)より下方で、かつ、平面視において上部構造物11の端縁11aより内側に位置することになる。
【0029】
また、
図1Cに示すように、新設杭14の上端部に、ヤットコ14cを取り付けておく。ヤットコとは、杭頭部を地中、あるいは水中に打ち込むために用いる鋼材(H形鋼、平鋼、鋼管等)で形成された仮杭のことを言う。
そして、このようなヤットコ14cが取り付けられた新設杭14を、上部構造物11の端縁11aより海側の海面から当該海面に対して傾斜し、かつ、当該端縁11aに干渉しないようにして上部構造物11の下方の海底(水底)に打設する。この場合、ヤットコ14cは海面より突出するだけの長さに設定しておき、このヤットコ14cを図示しないバイブロハンマ等の打設装置によって把持して新設杭14を海底に打設する。
その後、ヤットコ14cを海中(水中)で新設杭14の上端部から取り外すことによって、新設杭14の上端部は海面(水面)より下方で、かつ、平面視において上部構造物11の端縁11aより内側に位置することになる。
【0030】
図1Aに示すように、前記連結部材15は、棒状のストラット部材16と、当該ストラット部材16の両端部にそれぞれ設けられた結合部17とを備えている。結合部17,17はそれぞれ筒状に形成されており、新設杭14に結合される一方の結合部17の軸と、既設杭13に結合される他方の結合部17の軸とは水域構造部10の横断面視において平行でなく、所定の角度で交わるようになっている。したがって、他方の結合部17の軸を鉛直方向に向けた場合、一方の結合部17の軸は鉛直方向に対して所定の角度で傾斜することになり、この傾斜角度は新設杭14の鉛直方向(既設杭13の軸方向)に対する傾斜角度と一致する。
【0031】
ストラット部材16は、長さ調整可能となっている。すなわち、
図2に示すように、ストラット部材16は、入れ子状に構成されることによって伸縮可能となっている。ストラット部材16は、鋼管で形成された円筒状または角筒状の外管16aと、鋼管で形成された円筒状または角筒状の内管16bとを備えており、外管16aの内径は内管16bの外径より所定寸法だけ大きく設定されている。外管16aの内部に内管16bが軸方向に移動可能に挿通され、これによって外管16aと内管16bとは相対的に軸方向に移動可能となっている、つまりストラット部材16は軸方向に伸縮機能を有し、これによって、長さ調整可能となっている。また、外管16aと内管16bとは相対的に周方向に回転可能となっており、これによって、結合部17,17の向きを外管16aおよび内管16bの軸線回りに変更可能となっている。
【0032】
また、外管16aと内管16bとの間には所定の隙間が設けられており、この隙間には、当該隙間を一定に保持する図示しないスペーサが設けられている。
また、外管16aの一端部には、外管16aの全内周に亘って前記隙間をシールするためのシール部材16cが設けられ、内管16bの他端部には内管16bの全外周に亘って前記隙間をシールするシール部材16cが設けられている。
これらシール部材16cと外管16aと内管16bとによって前記隙間は密封され、当該隙間に膨張モルタル等の凝固材を注入する際に、当該凝固材の漏洩を防止して効率よく注入作業を行うことができる。
【0033】
また、ストラット部材16の降伏応力は、所定の大きさの地震動(例えばレベル2の地震動)が作用した際に降伏するように設定されている。後述する第1実施例、第3~第6実施例に示すように、既設杭13と新設杭14とを連結する連結部材15,15A,15B(
図4および
図5参照)のうちの一部のストラット部材16が降伏しても、他のストラット部材16を有する連結部材15,15A,15Bが既設杭13と新設杭14とを連結しているので、水域構造物10は地震動に対してねばり強くなり耐震性が向上する。
さらに、ストラット部材16は、塑性変形後に交換可能となっている。つまり、水域構造物10に地震動が作用してストラット部材16が塑性変形しても、当該ストラット部材16を有する連結部材15,15A,15Bを既設杭13および新設杭14から取り外し、新たなストラット部材16を有する連結部材15,15A,15Bに交換することによって、上部構造物11を供用させながら、地震前の耐震性能を早期に回復させることができる。
このようなストラット部材16の一方の端部に新設杭14に結合される一方の結合部17が設けられ、他方の端部に既設杭13に結合される他方の結合部17が設けられている。
【0034】
図3に示すように、結合部17は、既設杭13および新設杭14の周囲を包囲する半割形状の一対の半割鞘管部17a,17aを有しており、一方の半割鞘管部17aがストラット部材16の端部に取り付けられている。
また、半割鞘管部17aの一端部には、フランジ部17bが当該半割鞘管部17aの径方向外側に突出して設けられ、半割鞘管部17aの他端部には、フランジ部17cが当該半割鞘管部17aの径方向外側に突出して設けられている。一対の半割鞘管部17a,17aのフランジ部17b,17bおよびフランジ部17c,17cを互いに当接することで、一対の半割鞘幹部17a,17aは既設杭13および新設杭14の周囲を包囲する円筒状に形成される。
また、一対の半割鞘管部17a,17aのフランジ部17c,17cはヒンジ部18によって、当該ヒンジ部18を軸として正逆方向に回転可能となっており、これによって、一対の半割鞘管部17a,17aがヒンジ部18を軸として正逆方向に回転可能となるので、当該一対の半割鞘管部17a,17aを備えた結合部17は開閉可能となっている。
【0035】
また、結合部17のフランジ部17b,17bおよびフランジ部17c,17cにはそれぞれボルト挿通孔19が設けられている。なお、ボルト挿通孔19は半割鞘管部17aの軸方向に所定間隔で複数設けられている。
そして、ボルト挿通孔19にボルト20を挿通してナットで締め付けることによって、半割鞘管部17a,17aどうしが結合した状態で強固に固定される。これによって、半割鞘管部17a,17aは既設杭13および新設杭14の周囲を包囲するようにして、当該既設杭13および新設杭14に固定される。つまり既設杭13および新設杭14に結合部17が結合される。また、ボルト20を緩めてボルト挿通孔19から取り外すことによって、結合部17を既設杭13および新設杭14から取り外すことができる。
【0036】
なお、本実施の形態では、連結部材15において、ストラット部材16の両端部にそれぞれ設けられている結合部17を一対の半割鞘管部17a,17aによって構成したが、新設杭14に結合される結合部17を筒状に形成してもよい。この場合、結合部17を新設杭14に結合するには、新設杭14を打設した後、海中(水中)において、筒状の結合部17を新設杭14の上端から外挿することによって行う。
【0037】
そして、本実施の形態では、
図1A、
図1Bおよび
図1Cに示すように、水域構造物10の横断面視において、新設杭14によって補強すべき既設杭13と新設杭14との交差部以外で、具体的には当該交差部より上方位置で、連結部材15の一方の結合部17が新設杭14に結合され、他方の結合部17が既設杭13に、前記防護膜13aより下方位置において結合されている。このように他方の結合部17を既設杭13に防護膜13aより下方位置で結合することによって、防護膜13aの塗り直しや損傷を回避できる。
また、水域構造物10の横断面視において、連結部材15のストラット部材16は新設杭14に対して垂直に配置され、既設杭13に対して垂直以外の所定の角度に配置されている。さらに、連結部材15のストラット部材16は、
図1A(b)に示すように、平面視において、新設杭14に対して、陸側(
図1A(b)において右側)に向けて鋭角に傾斜し、当該ストラット部材16の先端部が、連結部材15より陸側に設けられている既設杭13に結合部17を介して結合されている。
【0038】
また、
図1Dに示す第1変形例のように、水域構造物10の横断面視において、連結部材15のストラット部材16は新設杭14に対して垂直以外の所定の角度に配置され、既設杭13に対して垂直以外の所定の角度に配置されていてもよいし、
図1Eに示す第2変形例のように、水域構造物10の横断面視において、連結部材15のストラット部材16は新設杭14に対して垂直以外の所定の角度に配置され、既設杭13に対して垂直に配置されていてもよい。
図1Dに示す補強構造では、連結部材15の既設杭13に結合される結合部17の位置が、
図1Aに示す補強構造に比して、低くなる。
また、
図1Eに示す補強構造では、連結部材15の既設杭13に結合される結合部17の位置が、
図1Aおよび
図1Dに示す補強構造に比して、低くなる。
また、連結部材15の新設杭14に結合される結合部17の位置は、
図1A、
図1Dおよび
図1Eにおいて等しくなる。
なお、
図1Dおよび
図1Eにおいて、
図1Aに示す構成と同一構成には同一符号を付して、その説明を省略する。
【0039】
次に、上述した水域構造物10の補強工法を説明する。
まず、上部構造物11の端縁11aの近傍の海面(水面)から、補助部14aを有する新設杭14を当該海面(水面)に対して傾斜した状態で上部構造物11の下方の水底に当該水底より突出させて打設する。この場合、新設杭14を、上部構造物11の端縁11aに干渉しないようにして海底(水底)に打設する。
次に、補助部14aを海中(水中)で切断して除去することによって、新設杭14の上端部を海面(水面)より下方で、かつ、平面視において上部構造物11の端縁11aより内側に位置させる。
【0040】
次に、水域構造物10から離れた位置で連結部材15を海面(水面)に浮かべる。連結部材15が水没しないよう浮力によって運搬を容易化するフロータを取り付けるか、連結部材15のストラット部材16の両端を水密に密封しておき、連結部材15自身にフロータの機能をもたせてもよい。あるいは、これらの組み合わせにより、連結部材15を海面(水面)に浮かべる。
【0041】
次に、連結部材15を水域構造物10まで曳航した後水没させ、連結部材15の一方の結合部17を新設杭14に結合するとともに、他方の結合部17を既設杭13に結合する。この場合、一方の結合部17の一対の半割鞘管部17a,17aを開いた状態としておき、その間に新設杭14を相対的に挿入したうえで、半割鞘管部17a,17aを閉じることによって、新設杭14に一方の結合部17を結合する。
次に、連結部材15を新設杭14の軸回りに回転させることで、他方の結合部17を既設杭13側に回転移動させるとともにストラット部材16の長さを調整し、当該結合部17の開いた状態の一対の半割鞘管部17a,17a間に既設杭13を相対的に挿入したうえで、半割鞘管部17a,17aを閉じることによって、既設杭13に他方の結合部17を結合する。なお、他方の結合部17を回転移動させる場合、一対の半割鞘管部17a,17aを開いた状態で回転移動させてもよいし、回転移動した後、一対の半割鞘管部17a,17aを開いた状態としてもよい。
【0042】
次に、結合部17,17と新設杭14および既設杭13との間の隙間に凝固材を注入する。この凝固材としては例えば膨張モルタルを使用し、新設杭14および既設杭13を円筒状に包囲する結合部17,17と新設杭14および既設杭13との間の隙間に、膨張モルタルを注入する。この場合、結合部17の下端において前記隙間を塞ぐ処置を施したうえで、結合部17の上端側から前記隙間に膨張モルタルを注入する。このようにして、結合部17,17を新設杭14および既設杭13に強固に結合する。
また、連結部材15のストラット部材16のシール部材16cと外管16aと内管16bとの間の隙間に膨張モルタル等の凝固材を注入するによって、ストラット部材16の外管16aと内管16bとの相対移動を拘束する。
このようにして、連結部材15によって新設杭14と既設杭13とを連結することによって、既設杭13を補強する。
【0043】
また、連結部材15の新設杭14に結合させる一方の結合部17が筒状に形成されている場合、補助部14aを海中(水中)で切断して除去する前に、当該一方の結合部17を新設杭14の補助部14aの上端から外挿して、新設杭14に沿って海中(水中)の所定の位置まで降下させたうえで、当該連結部材15を新設杭14の軸回りに回転させることで、他方の結合部17を既設杭13側に回転移動させるとともにストラット部材16の長さを調整し、当該結合部17の開いた状態の一対の半割鞘管部17a,17a間に既設杭13を相対的に挿入したうえで、半割鞘管部17a,17aを閉じることによって、既設杭13に他方の結合部17を結合する。なお、新設杭14の所定の位置には、図示しないブラケットが取り付けられており、このブラケットに結合部17が上方から当接することによって、結合部17の位置が決定される。
その後は上述した場合と同様にして、結合部17,17と新設杭14および既設杭13との間の隙間に凝固材を注入するとともに、ストラット部材16の外管16aと内管16bとの相対移動を拘束する。
【0044】
以上のように本実施の形態によれば、新設杭14は、上部構造物11の近傍の水面から、当該水面に対して傾斜した状態で上部構造物11の下方の水底に当該水底より突出させて打設され、この傾斜した新設杭14は既設杭13と連結部材15を介して連結されて当該既設杭13を補強するので、上部構造物11を撤去することなく、かつ水域構造物10を供用を停止することなく、当該水域構造物10を補強できる。
また、新設杭14の上端部は平面視において上部構造物11の端縁11aより内側に位置しているので、海面(水面)を移動して上部構造物11に近づく船舶等の移動体が上部構造物11に干渉することがない。
【0045】
また、連結部材15が棒状のストラット部材16と、当該ストラット部材16の両端部にそれぞれ設けられた結合部17とを備え、水域構造物10の横断面視において、新設杭14によって補強すべき既設杭13と新設杭14との交差部以外で、一方の結合部17が新設杭14に結合され、他方の結合部17が既設杭13に結合されているので、ストラット部材16の長さを調整することによって、新設杭14と既設杭13とを所望の高さ位置で連結できる。
特に、ストラット部材16が新設杭14に対して垂直に配置されている場合、水域構造物10に地震等によって外力が作用した場合に、当該外力の一部が既設杭13から新設杭14にストラット部材16の軸力として伝達されるので、上部構造物11を支持している既設杭13を確実に補強できる。
【0046】
(第2の実施の形態)
図4は第2の実施の形態に係る水域構造物10の補強構造を示すもので、(a)は横断面図、(b)は(a)におけるA-A線断面図である。なお、
図4(b)では、上部構造物11は破線で示している。
本実施の形態が第1の実施の形態と異なる点は、連結部材15Aの構成および新設杭14の配置形態であるので、以下ではこれらについて説明し、第1の実施の形態と同一構成には同一符号を付してその説明を省略することもある。
【0047】
本実施の形態では、連結部材15Aは、棒状の2本のストラット部材16,16と、当該ストラット部材16の両端部にそれぞれ設けられた結合部17とを備えている。また、新設杭14に結合される結合部17は2本のストラット部材16,16で共有されている。つまり、新設杭14に結合される結合部17に、2本のストラット部材16,16のそれぞれの一端部が設けられ、2本のストラット部材16,16のそれぞれの他端部に2本の既設杭13に結合される結合部17が設けられている。なお、結合部17自体の構成は、第1の実施の形態における連結部材15の結合部17と同一構成となっている。
【0048】
また、
図4(a)に示すように、水域構造物10の横断面視において、新設杭14によって補強すべき既設杭13と新設杭14との交差部以外で、具体的には当該交差部より上方位置で、連結部材15Aの一方の結合部17が新設杭14に結合され、他方の結合部17が既設杭13に、前記防護膜13aより下方位置において結合されている。また、水域構造物10の横断面視において、連結部材15Aのストラット部材16は新設杭14に対して垂直に配置され、既設杭13に対して垂直以外の所定の角度に配置されている。
また、
図4(b)に示すように、新設杭14は、上から1行目に配置された4本の既設杭13と2行目に配置された4本の既設杭13との間の中央部に、平面視において行方向に平行に配置されている。
【0049】
また、新設杭14に結合される一方の結合部17の軸と、既設杭13に結合される他方の結合部17の軸とは水域構造部10の横断面視において平行でなく、所定の角度で交わるようになっている。したがって、他方の結合部17の軸を鉛直方向に向けた場合、一方の結合部17の軸は鉛直方向に対して所定の角度で傾斜することになり、この傾斜角度は新設杭14の鉛直方向(既設杭13の軸方向)に対する傾斜角度と一致する。
また、連結部材15Aの2本のストラット部材16,16は、平面視において、新設杭14に対して、陸側(
図4(b)において右側)に向けて鋭角に傾斜している。一方のストラット部材16は、1行目の4本の既設杭13のうち、2列目の既設杭13つまり補強すべき既設杭13側に向けて延び、他方のストラット部材16は、2行目の4本の既設杭13のうち、2列目の既設杭13つまり補強すべき既設杭13側に向けて延びている。そして、これら2本のストラット部材16,16の先端部が、連結部材15より陸側に設けられている補強すべき既設杭13,13に結合部17,17を介して結合されている。
【0050】
本実施の形態によれば、第1の実施の形態と同様の効果を得ることができる他、1本の新設杭14によって2本の既設杭13,13を補強できるという利点がある。
【0051】
(第3の実施の形態)
図5は第3の実施の形態に係る水域構造物10の補強構造を示すもので、(a)は横断面図、(b)は(a)におけるA-A線断面図である。なお、
図4(b)では、上部構造物11は破線で示している。
本実施の形態が第1の実施の形態と異なる点は、連結部材15Bの構成および新設杭14の配置形態であるので、以下ではこれらについて説明し、第1の実施の形態と同一構成には同一符号を付してその説明を省略することもある。
【0052】
本実施の形態では、連結部材15Bは、棒状の2本のストラット部材16,16と、当該ストラット部材16の両端部にそれぞれ設けられた結合部17とを備えている。また、新設杭14に結合される結合部17は2本のストラット部材16,16で共有されている。つまり、新設杭14に結合される結合部17に、2本のストラット部材16,16のそれぞれの一端部が設けられ、2本のストラット部材16,16のそれぞれの他端部に2本の既設杭13に結合される結合部17が設けられている。なお、結合部17自体の構成は、第1の実施の形態における連結部材15の結合部17と同一構成となっている。
【0053】
連結部材15Bのストラット部材16は、
図5(a)に示すように、水域構造物10の横断面視において、紙面と直交する方向の延びており、その一方の端部に一方の結合部17が設けられ、他方の端部に他方の結合部17が設けられている。
また、新設杭14に結合される一方の結合部17の軸と、既設杭13に結合される他方の結合部17の軸とは水域構造部10の横断面視において平行でなく、所定の角度で交わるようになっている。したがって、他方の結合部17の軸を鉛直方向に向けた場合、一方の結合部17の軸は鉛直方向に対して所定の角度で傾斜することになり、この傾斜角度は新設杭14の鉛直方向(既設杭13の軸方向)に対する傾斜角度と一致する。
そして、新設杭14によって補強すべき既設杭13と新設杭14との交差部で、一方の結合部17が新設杭14に結合され、他方の結合部17が既設杭13に結合されている。
また、
図5(b)に示すように、新設杭14は、上から1行目に配置された4本の既設杭13と2行目に配置された4本の既設杭13との間の中央部に、平面視において行方向に平行に配置されている。
【0054】
また、連結部材15Bの2本のストラット部材16,16は、平面視において、新設杭14に対して、垂直に配置されている。一方のストラット部材16は、1行目の4本の既設杭13のうち、1列目の既設杭13つまり補強すべき既設杭13側に向けて延び、他方のストラット部材16は、2行目の4本の既設杭13のうち、1列目の既設杭13つまり補強すべき既設杭13側に向けて延びている。そして、これら2本のストラット部材16,16の先端部が補強すべき既設杭13,13に結合部17,17を介して結合されている。
【0055】
本実施の形態によれば、水域構造物10の横断面視において、新設杭14によって補強すべき既設杭13と新設杭14との交差部で、連結部材15の一方の結合部17が新設杭14に結合され、他方の結合部17が既設杭13に結合されているので、ストラット部材16の長さを短くできる。
特に、ストラット部材16が既設杭13および新設杭14の双方に対して垂直に配置されている場合、水域構造物10に地震等によって外力が作用した場合に、当該外力の一部が既設杭13から新設杭14にストラット部材16のせん断力として伝達されるので、上部構造物11を支持している既設杭13を確実に補強できる。
また、第1の実施の形態と同様に、新設杭14の上端部は平面視において上部構造物11の端縁11aより内側に位置しているので、海面(水面)を移動して上部構造物11に近づく船舶等の移動体が上部構造物11に干渉することがない。
さらに、1本の新設杭14によって2本の既設杭13,13を補強できるという利点がある。
【0056】
(第4の実施の形態)
図6は第4の実施の形態に係る水域構造物10の補強構造を示すもので、(a)は横断面図、(b)は(a)におけるA-A線断面図である。なお、
図5(b)では、上部構造物11は破線で示している。
本実施の形態が第1の実施の形態と異なる点は、連結部材15Cの構成および新設杭14の配置形態であるので、以下ではこれらについて説明し、第1の実施の形態と同一構成には同一符号を付してその説明を省略することもある。
【0057】
本実施の形態では、連結部材15Cは、互いに結合された2つの結合部17,17を備えているが、第1~第3の実施の形態と異なりストラット部材16は備えていない。
結合部17,17は直接結合されており、新設杭14に結合される一方の結合部17の軸と、既設杭13に結合される他方の結合部17の軸とは水域構造部10の横断面視において平行でなく、所定の角度で交わるようになっている。したがって、他方の結合部17の軸を鉛直方向に向けた場合、一方の結合部17の軸は鉛直方向に対して所定の角度で傾斜することになり、この傾斜角度は新設杭14の鉛直方向(既設杭13の軸方向)に対する傾斜角度と一致する。なお、結合部17自体の構成は第1の実施の形態における連結部材15の結合部17と同一構成となっている。
【0058】
また、
図6(a)に示すように、水域構造物10の横断面視において、新設杭14によって補強すべき既設杭13と新設杭14との交差部で、一方の結合部17が新設杭14に結合され、他方の結合部17が既設杭13に結合されている。
また、
図6(b)に示すように、新設杭14は、上から1行目に配置された4本の既設杭13と2行目に配置された4本の既設杭13との間において、平面視において行方向に平行に配置されるとともに、1行目に配置された4本の既設杭13に寄せて配置されている。また、新設杭14は補強すべき既設杭13との間に、筒状の結合部17の肉厚の分だけの隙間をもって配置されている。
【0059】
本実施の形態によれば、連結部材15Cは互いに結合された2つの結合部17,17を備えており、水域構造物10の横断面視において、新設杭14によって補強すべき既設杭13と新設杭14との交差部で、一方の結合部17が新設杭14に結合され、他方の結合部17が既設杭13に結合されているので、新設杭14によって補強すべき既設杭13と新設杭14との交差部において、これら既設杭13と新設杭14とが近接している場合に、これらを剛に連結することができる。
また、第1の実施の形態と同様に、新設杭14の上端部は平面視において上部構造物11の端縁11aより内側に位置しているので、海面(水面)を移動して上部構造物11に近づく船舶等の移動体が上部構造物11に干渉することがない。
【実施例1】
【0060】
次に、上述した新設杭14、連結部材15、15A、および15Cを用いた水域構造物の補強構造の実施例について説明する。
図7~
図12は第1~第6実施例を示すもので、水域構造物を模式的に示す平面図である。
図7~
図12において、左右方向を行方向、上下方向を列方向とする。
【0061】
(第1実施例)
第1実施例では、
図7に示すように、既設杭13が4行、4列に合計16本配置され、当該16本の既設杭13によって上部構造部11が下方から支持されている。
また、上から1行目に配置された4本の既設杭13と2行目に配置された4本の既設杭13との間、2行目に配置された4本の既設杭13と3行目に配置された4本の既設杭13との間、3行目に配置された4本の既設杭13と4行目に配置された4本の既設杭13との間に、それぞれ新設杭14が平面視において行方向に平行にされている。
なお、新設杭14は、上部構造物11の近傍の海面(水面)から、当該海面に対して傾斜した状態で水底に当該水底から突出させて打設されている。また、新設杭14の上端部は平面視において上部構造物11の端縁11aより内側、つまり上部構造物11の端縁11aより当該上部構造物11の左右方向中央側に位置している。
このような新設杭14の設置形態、つまり新設杭14が海面(水面)に対して傾斜するとともに、新設杭14の上端部が平面視において上部構造物11の端縁11aより内側に位置する設置形態は後述の第2~第6実施例においても同様である。
【0062】
また、1行目に配置された4本の既設杭13と2行目に配置された4本の既設杭13との間に配置された新設杭14および3行目に配置された4本の既設杭13と4行目に配置された4本の既設杭13との間に配置された新設杭14に、それぞれ連結部材15の一方の結合部17が結合され、新設杭14によって補強すべき既設杭13に他方の結合部17が結合されている。
また、2行目に配置された4本の既設杭13と3行目に配置された4本の既設杭13との間に配置された新設杭14には、連結部材15Aの共有の結合部17が結合され、2本のストラット部材16,16の他端部に設けられた結合部17,17が新設杭14によって補強すべき既設杭13,13に結合されている。
【0063】
このように第1実施例では、各行において1本の既設杭13を連結部材15,15Aによって新設杭14に連結しているので、既設杭13を効果的に補強できる。
【0064】
(第2実施例)
第2実施例では、
図8に示すように、既設杭13が3行、4列に合計12本配置され、当該12本の既設杭13によって上部構造部11が下方から支持されている。
また、新設杭14は、1行目に配置された4本の既設杭13と2行目に配置された4本の既設杭13との間、2行目に配置された4本の既設杭13と3行目に配置された4本の既設杭13との間および3行目に配置された4本の既設杭13の外側(
図8において下側)において、平面視において行方向に平行に配置されるとともに、各行に配置された4本の既設杭13に寄せて配置されている。また、新設杭14は補強すべき既設杭13との間に、筒状の結合部17の肉厚の分だけの隙間をもって配置されている。
また、各行において4本の既設杭13に寄せて配置されている新設杭14には、連結部材15Cの一方の結合部17が結合され、新設杭14によって補強すべき既設杭13に他方の結合部17が結合されている。
【0065】
このように第2実施例では、各行において1本の既設杭13を連結部材15Cによって新設杭14に連結しているので、既設杭13を効果的に補強できる。
【0066】
(第3実施例)
第3実施例では、
図9に示すように、既設杭13が4行、4列に合計16本配置され、当該16本の既設杭13によって上部構造部11が下方から支持されている。
また、新設杭14は、1行目に配置された4本の既設杭13と2行目に配置された4本の既設杭13との間および3行目に配置された4本の既設杭13と4行目に配置された4本の既設杭13との間において、平面視において行方向に平行に配置されるとともに、1行目および4行目に配置された4本の既設杭13に寄せて配置されている。また、新設杭14は補強すべき既設杭13との間に、筒状の結合部17の肉厚の分だけの隙間をもって配置されている。
さらに、新設杭14は2行目に配置された4本の既設杭13と3行目に配置された4本の既設杭13との間の中央部において、平面視において行方向に平行にされている。
【0067】
また、1行目および4行目において4本の既設杭13に寄せて配置されている新設杭14には、連結部材15Cの一方の結合部17が結合され、新設杭14によって補強すべき既設杭13に他方の結合部17が結合されている。
さらに、2行目に配置された4本の既設杭13と3行目に配置された4本の既設杭13との間に配置された新設杭14には、連結部材15Aの共有の結合部17が結合され、2本のストラット部材16,16の他端部に設けられた結合部17,17が新設杭14によって補強すべき既設杭13,13に結合されている。
【0068】
このように第3実施例では、1行目および4行目において1本の既設杭13を連結部材15Cによって新設杭14に連結し、2行目および3行目においてそれぞれ1本の既設杭13を連結部材15Aによって連結しているので、既設杭13を効果的に補強できる。
【0069】
(第4実施例)
第4実施例では、
図10に示すように、既設杭13が4行、5列に合計20本配置され、当該20本の既設杭13によって上部構造部11が下方から支持されている。
また、隣り合う行に配置された4本の既設杭13どうしの間には、新設杭14が平面視において行方向に平行に配置されている。
また、4本の新設杭14には、それぞれ連結部材15の一方の結合部17が結合され、新設杭14によって補強すべき既設杭13に他方の結合部17が結合されている。また、上から1本目の新設杭14に連結された連結部材15の他方の結合部17は1行目に配置された4本の既設杭13のうちの1本の既設杭13に連結されている。また2本目の新設杭14に連結された連結部材15の他方の結合部17は2行目に配置された4本の既設杭13のうちの1本の既設杭13に連結されている。また、3本目の新設杭14に連結された連結部材15の他方の結合部17は4行目に配置された4本の既設杭13のうちの1本の既設杭13に連結されている。また、4本目の新設杭14に連結された連結部材15の他方の結合部17は5行目に配置された4本の既設杭13のうちの1本の既設杭13に連結されている。なお、3行目に配置された4本の既設杭13は補強されていない。
【0070】
このように第4実施例では、1行目、2行目、4行目および5行目おいて1本の既設杭13を連結部材15によって新設杭14に連結しているので、既設杭13を効果的に補強できる。また、3行目に配置されている既設杭13は補強されていないので、その分補強作業が容易となるとともに、水域構造物10全体としては、バランスよく補強できる。
【0071】
(第5実施例)
第5実施例では、
図11に示すように、既設杭13が4行、5列に合計20本配置され、当該20本の既設杭13によって上部構造部11が下方から支持されている。
また、隣り合う行に配置された4本の既設杭13どうしの間には、新設杭14が平面視において行方向に平行に配置されている。
また、上から1本目の新設杭14と4本目の新設杭14とには、それぞれ連結部材15の一方の結合部17が結合され、新設杭14によって補強すべき既設杭13に他方の結合部17が結合されている。
また、上から2本目の新設杭14と3本目の新設杭14とには、それぞれ連結部材15Aの共有の結合部17が結合され、2本のストラット部材16,16の他端部に設けられた結合部17,17が新設杭14によって補強すべき既設杭13,13に結合されている。また、3行目に配置されている4本の既設杭13のうちの2列目の既設杭13に結合される結合部17は2つの連結部材15A,15Aにおいて共有となっている。
【0072】
このように第5実施例では、1行目、2行目、4行目および5行目おいて1本の既設杭13を連結部材15,15Aによって新設杭14に連結しているので、既設杭13を効果的に補強できる。また、3行目において1本の既設杭13を2本の新設杭14,14によって連結部材15A,15Aを介して補強できる。
【0073】
(第6実施例)
第6実施例では、
図12に示すように、既設杭13が4行、5列に合計20本配置され、当該20本の既設杭13によって上部構造部11が下方から支持されている。
また、隣り合う行に配置された4本の既設杭13どうしの間には、その中央部において新設杭14が平面視において行方向に平行に配置されている。
また、4本の新設杭14には、それぞれ連結部材15Aの共有の結合部17が結合され、2本のストラット部材16,16の他端部に設けられた結合部17,17が新設杭14によって補強すべき既設杭13,13に結合されている。2行目、3行目および4行目に配置されている4本の既設杭13のうちの2列目の既設杭13に結合される結合部17は2つの連結部材15A,15Aにおいて共有となっている。
【0074】
このように第6実施例では、1行目および5行目おいて1本の既設杭13を連結部材15Aによって新設杭14に連結し、3行目、4行目および5行目において1本の既設杭13を連結部材15Aによって2本の新設杭14,14に連結しているので、既設杭13を効果的に補強できる。
【符号の説明】
【0075】
10 水域構造物
11 上部構造物
11a 端縁
12 杭群
13 既設杭
14 新設杭
15,15A,15B,15C 連結部材
16 ストラット部材
17 結合部