(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-30
(45)【発行日】2024-02-07
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池用正極及びリチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/13 20100101AFI20240131BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20240131BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20240131BHJP
H01M 4/58 20100101ALI20240131BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20240131BHJP
H01M 4/131 20100101ALI20240131BHJP
H01M 10/0568 20100101ALI20240131BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20240131BHJP
【FI】
H01M4/13
H01M4/505
H01M4/525
H01M4/58
H01M4/36 E
H01M4/131
H01M10/0568
H01M10/052
(21)【出願番号】P 2019172687
(22)【出願日】2019-09-24
【審査請求日】2022-09-21
(73)【特許権者】
【識別番号】515090628
【氏名又は名称】株式会社スリーダムアライアンス
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【氏名又は名称】中西 基晴
(74)【代理人】
【識別番号】100141265
【氏名又は名称】小笠原 有紀
(72)【発明者】
【氏名】成岡 慶紀
(72)【発明者】
【氏名】柳澤 良太
(72)【発明者】
【氏名】金村 聖志
(72)【発明者】
【氏名】久保田 昌明
(72)【発明者】
【氏名】阿部 英俊
(72)【発明者】
【氏名】山下 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】大神 剛章
【審査官】結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-037380(JP,A)
【文献】国際公開第2016/139957(WO,A1)
【文献】特開2020-031028(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/13
H01M 4/505
H01M 4/525
H01M 4/58
H01M 4/36
H01M 4/131
H01M 10/0568
H01M 10/052
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)又は(II):
LiNi
aCo
bMn
cM
1
xO
2 ・・・(I)
(式(I)中、M
1は、Mg、Ti、Nb、Fe、Cr、Si、Al、Ga、V、Zn、
Cu、Sr、Mo、Zr、Sn、Ta、W、La、Ce、Pb、Bi、及びGeから選択される1種又は2種以上の元素であり、a、b、c、xは、0.3≦a<1、0<b≦0.7、0<c≦0.7、0≦x≦0.3、かつ3a+3b+3c+(M
1の価数)×x=3を満たす数である)
LiNi
dCo
eAl
fM
2
yO
2 ・・・(II)
(式(II)中、M
2は、Mg、Ti、Nb、Fe、Cr、Si、Ga、V、Zn、Cu、Sr、Mo、Zr、Sn、Ta、W、La、Ce、Pb、Bi、及びGeから選択される1種または2種以上の元素であり、d、e、f、yは、0.4≦d<1、0<e≦0.6、0<f≦0.3、0≦y≦0.3、かつ3d+3e+3f+(M
2の価数)×y=3を満たす数である)
で表されるリチウム複合酸化物粒子(A)と、
下記式(III):
LiFe
mMn
nM
3
oPO
4 ・・・(III)
(式(III)中、M
3は、Co、Ca、Sr、Y、Zr、Mo、Ba、Pb、Bi、La、Ce、Nd、又はGdであり、m、n、及びoは、0≦m≦1、0≦n≦1、0≦o≦0.3、及びm+n≠0を満たし、かつ2m+2n+(M
3の価数)×o=2を満たす数である)
で表されるリチウム系ポリアニオン粒子(B)とを含み、
前記粒子(A)の二次粒子のメディアン径が、前記粒子(B)の二次粒子のメディアン径よりも小さ
く
前記粒子(A)の粉体pHが、前記粒子(B)の粉体pHより大きい、リチウム二次電池用正極。
【請求項2】
前記粒子(A)の二次粒子のメディアン径が、前記粒子(B)の二次粒子のメディアン径の0.80倍未満である、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用正極。
【請求項3】
前記粒子(A)が、前記式(I)で表される化合物である、請求項1
または2に記載のリチウムイオン二次電池用正極。
【請求項4】
前記式(I)においてxが0である、請求項
3に記載のリチウムイオン二次電池用正極。
【請求項5】
前記粒子(B)が、前記式(III)において、0<m≦1、0<n≦1、及びo=0を満たす化合物である、請求項1~
4のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用正極。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用正極を有するリチウムイオン二次電池。
【請求項7】
電解質として、フッ素を含有するリチウム塩を有する、請求項
6に記載のリチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池用の正極及び該正極を有するリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池用の正極活物質として、熱的安定性に優れるポリアニオン系の化合物が注目を集めている。ポリアニオン系正極活物質として、オリビン構造を有するリン酸鉄リチウムや、リン酸鉄リチウムの鉄の一部またはすべてをマンガンで置換したリン酸マンガン鉄リチウムまたはリン酸マンガンリチウムが検討されている。
【0003】
しかしながら、ポリアニオン系正極活物質は、電気伝導性が十分ではないという課題がある。そこで、ポリアニオン系正極活物質に、リチウムと、ニッケル、コバルト、マンガンなどの遷移金属とを含む複合酸化物である正極活物質を混合して用いることが提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1には、ポリアニオン系正極活物質である「第一の電極活物質」の二次粒子の平均粒子径を、リチウムと他の遷移金属との複合酸化物である「第二の電極活物質」の二次粒子の平均粒子径の0.01~0.30倍とすることにより、第一の電極活物質の二次粒子が、第二の電極活物質の二次粒子によって形成される隙間に入り込むことによって、電極密度の向上を促すとともに、第二の電極活物質の二次粒子同士の隙間が、第一の電極活物質に埋められることによって、リチウムイオン二次電池用電極の熱伝導率が、第二の電極活物質単体の場合に比べて改善すると記載されている。
【0006】
しかしながら、ポリアニオン系の正極活物質を用いた正極を有するリチウムイオン二次電池が高温にさらされた場合、リン酸マンガン鉄リチウムなどのポリアニオン系正極活物質からマンガンや鉄などの金属元素が溶出し、電池の高温での安定性が損なわれることがある。
【0007】
本発明は、特に高温下での保存安定性が高いリチウムイオン二次電池用の正極を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的に対して鋭意検討を行った結果、本発明者らは、ポリアニオン系正極活物質とリチウム複合酸化物系正極活物質とを有するリチウムイオン二次電池用正極において、ポリアニオン系正極活物質の二次粒子のメディアン径を、リチウム複合酸化物系正極活物質の二次粒子のメディアン径よりも大きくした場合に、高温で保存した場合でも放電容量が低下しにくくなることを見出した。本発明は、これらに限定されないが、以下を含む。
[1]下記式(I)又は(II):
LiNiaCobMncM1
xO2 ・・・(I)
(式(I)中、M1は、Mg、Ti、Nb、Fe、Cr、Si、Al、Ga、V、Zn、Cu、Sr、Mo、Zr、Sn、Ta、W、La、Ce、Pb、Bi、及びGeから選択される1種又は2種以上の元素であり、a、b、c、xは、0.3≦a<1、0<b≦0.7、0<c≦0.7、0≦x≦0.3、かつ3a+3b+3c+(M1の価数)×x=3を満たす数である)
LiNidCoeAlfM2
yO2 ・・・(II)
(式(II)中、M2は、Mg、Ti、Nb、Fe、Cr、Si、Ga、V、Zn、Cu、Sr、Mo、Zr、Sn、Ta、W、La、Ce、Pb、Bi、及びGeから選択される1種または2種以上の元素であり、d、e、f、yは、0.4≦d<1、0<e≦0.6、0<f≦0.3、0≦y≦0.3、かつ3d+3e+3f+(M2の価数)×y=3を満たす数である)
で表されるリチウム複合酸化物粒子(A)と、
下記式(III):
LiFemMnnM3
oPO4 ・・・(III)
(式(III)中、M3は、Co、Ca、Sr、Y、Zr、Mo、Ba、Pb、Bi、La、Ce、Nd、又はGdであり、m、n、及びoは、0≦m≦1、0≦n≦1、0≦o≦0.3、及びm+n≠0を満たし、かつ2m+2n+(M3の価数)×o=2を満たす数である)
で表されるリチウム系ポリアニオン粒子(B)とを含み、
前記粒子(A)の二次粒子のメディアン径が、前記粒子(B)の二次粒子のメディアン径よりも小さい、リチウム二次電池用正極。
[2]前記粒子(A)の二次粒子のメディアン径が、前記粒子(B)の二次粒子のメディアン径の0.80倍未満である、[1]に記載のリチウムイオン二次電池用正極。
[3]前記粒子(A)の粉体pHが、前記粒子(B)の粉体pHより大きい、[1]または[2]に記載のリチウムイオン二次電池用正極。
[4]前記粒子(A)が、前記式(I)で表される化合物である、[1]~[3]のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用正極。
[5]前記式(I)においてxが0である、[4]に記載のリチウムイオン二次電池用正極。
[6]前記粒子(B)が、前記式(III)において、0<m≦1、0<n≦1、及びo=0を満たす化合物である、[1]~[5]のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用正極。
[7][1]~[6]のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用正極を有するリチウムイオン二次電池。
[8]電解質として、フッ素を含有するリチウム塩を有する、[7]に記載のリチウムイオン二次電池。
【発明の効果】
【0009】
本発明の正極を用いることにより、高温にさらされた際にも放電容量が低下しにくいリチウムイオン二次電池を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のリチウムイオン二次電池用の正極は、特定の式で表されるリチウムと他の遷移金属との複合酸化物である粒子(A)と、特定の式で表されるリチウムと他の遷移金属とリン酸とを有するポリアニオン粒子(B)とを用いて製造される。
【0011】
<粒子(A)>
本発明の正極に用いられる粒子(A)は、下記式(I)又は(II):
LiNiaCobMncM1
xO2 ・・・(I)
(式(I)中、M1は、Mg、Ti、Nb、Fe、Cr、Si、Al、Ga、V、Zn、Cu、Sr、Mo、Zr、Sn、Ta、W、La、Ce、Pb、Bi、及びGeから選択される1種又は2種以上の元素であり、a、b、c、xは、0.3≦a<1、0<b≦0.7、0<c≦0.7、0≦x≦0.3、かつ3a+3b+3c+(M1の価数)×x=3を満たす数である)
LiNidCoeAlfM2
yO2 ・・・(II)
(式(II)中、M2は、Mg、Ti、Nb、Fe、Cr、Si、Ga、V、Zn、Cu、Sr、Mo、Zr、Sn、Ta、W、La、Ce、Pb、Bi、及びGeから選択される1種または2種以上の元素であり、d、e、f、yは、0.4≦d<1、0<e≦0.6、0<f≦0.3、0≦y≦0.3、かつ3d+3e+3f+(M2の価数)×y=3を満たす数である)
で表される、層状型岩塩構造を有するリチウム複合酸化物粒子である。
【0012】
上記式(I)で表されるリチウム複合酸化物粒子(A)を得るには、リチウム化合物、ニッケル化合物、コバルト化合物、及びマンガン化合物を含有する混合粉体を焼成する。具体的には、まずニッケル化合物、コバルト化合物、及びマンガン化合物を、所望するリチウム複合酸化物の組成となるように水に溶解させて水溶液aを得る。このようなニッケル化合物、コバルト化合物、及びマンガン化合物としては、例えば、これら金属元素の硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩、酢酸塩、シュウ酸塩、酸化物、水酸化物、ハロゲン化物等が挙げられる。具体的には、硫酸ニッケル、硫酸コバルト、硫酸マンガン、酢酸ニッケル、酢酸コバルト、酢酸マンガン等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。必要に応じて、さらに所望するリチウム複合酸化物の組成になるようにリチウム複合酸化物の一部を置換する金属(M1)元素として、Mg、Ti、Nb、Fe、Cr、Si、Al、Ga、V、Zn、Cu、Sr、Mo、Zr、Sn、Ta、W、La、Ce、Pb、Bi、及びGeから選択される1種又は2種以上の元素を混入させてもよい。
【0013】
次に、上記水溶液aにアルカリ溶液を添加して水溶液bとし、撹拌しながら溶解している金属成分を中和反応によって共沈させ、金属複合水酸化物を生成させる。ここで用いるアルカリ溶液は、水溶液bがpH10~14を保持するのに十分な量で滴下するのが好ましい。このようなアルカリ溶液としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、アンモニア等の水溶液を用いることができ、なかでも水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム又はこれらの混合溶液を用いるのが好ましい。
【0014】
上記中和反応における水溶液bの温度は、30℃以上が好ましく、30~60℃が好ましい。また、水溶液bの撹拌時間は、30~120分が好ましく、30~60分がより好ましい。
【0015】
撹拌した後、水溶液bを濾過することによって、金属複合水酸化物を回収することができる。回収した金属複合水酸化物は、水で洗浄した後、乾燥するのが好ましい。
次いで、所望するリチウム複合酸化物の組成となるように、回収した金属複合水酸化物とリチウム化合物を乾式混合し、得られた混合粉体を酸素雰囲気下で焼成する。ここで用いるリチウム化合物としては、例えば、水酸化リチウム又はその水和物、過酸化リチウム、硝酸リチウム、炭酸リチウム等が挙げられる。後述する粒子(A)の粉体pHを高める観点からは、水酸化リチウムを多めに仕込むことが好ましい。金属複合水酸化物とリチウム化合物の乾式混合では、ボールミルやVブレンダー等の、通常の乾式混合機又は混合造粒装置等を用いることができ、自公転可能な遊星ボールミルを用いるのがより好ましい。
【0016】
上記混合粉体の焼成は、2段階(仮焼成及び本焼成)で行うことが好ましい。2段階の焼成とすることにより、仮焼成において混合粉体中の水酸化物や炭酸塩からの水分子や二酸化炭素等の加熱分解成分を除去した後、本焼成を行うこととなり、効率よくリチウム複合酸化物粒子(A)を得ることができる。仮焼成の条件としては、特に限定されないが、昇温温度は、室温から1~20℃/分であることが好ましい。また、焼成雰囲気は、大気雰囲気又は酸素雰囲気であることが好ましい。焼成温度は、700~1000℃であることが好ましく、650~750℃であることがさらに好ましい。さらに、焼成時間は、3~20時間であることが好ましく、4~6時間であることがさらに好ましい。
【0017】
得られた仮焼成物を乳鉢等で解砕した後、適量のバインダーを混合して造粒し、本焼成するのがよい。本焼成した後に得られた焼成物が、リチウム複合酸化物粒子(A)の二次粒子である。
【0018】
本焼成の条件としては、特に限定されないが、昇温温度は、再度室温から始めて、1~20℃/分とするのがよい。また、焼成雰囲気は、大気雰囲気又は酸素雰囲気であることが好ましい。焼成温度は、本焼成後に得られるリチウム複合酸化物粒子(A)の二次粒子を構成する一次粒子の平均粒子径を所望の値に制御する観点から、700~1200℃であることが好ましく、700~1000℃がより好ましく、750~900℃がさらに好ましい。焼成時間は、3~20時間が好ましく、8~10時間がさらに好ましい。
【0019】
このような2段階の焼成には、ガス雰囲気中の酸素濃度が20質量%以上に調整された電気炉、ロータリーキルン、管状炉、プッシャー炉等を用いることが好ましい。
上記式(II)で表されるリチウム複合酸化物粒子(A)を得るには、リチウム化合物、ニッケル化合物、コバルト化合物、及びアルミニウム化合物を含有する混合粉体を焼成する。具体的には、まずニッケル化合物、コバルト化合物、及びアルミニウム化合物を、所望するリチウム複合酸化物の組成となるように水に溶解させて水溶液a’を得る。このようなニッケル化合物、コバルト化合物、及びアルミニウム化合物としては、例えば、これら金属元素の硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩、酢酸塩、シュウ酸塩、酸化物、水酸化物、ハロゲン化物等が挙げられる。具体的には、硫酸ニッケル、硫酸コバルト、硫酸アルミニウム、酢酸ニッケル、酢酸コバルト、酢酸アルミニウム等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。必要に応じて、さらに所望するリチウム複合酸化物の組成になるようにリチウム複合酸化物の一部を置換する金属(M2)元素として、Mg、Ti、Nb、Fe、Cr、Si、Al、Ga、V、Zn、Cu、Sr、Mo、Zr、Sn、Ta、W、La、Ce、Pb、Bi、及びGeから選択される1種又は2種以上の元素を混入させてもよい。
【0020】
次に、上記水溶液a’にアルカリ溶液を添加して水溶液b’とし、撹拌しながら溶解している金属成分を中和反応によって共沈させ、金属複合水酸化物を生成させる。ここで用いるアルカリ溶液は、水溶液b’がpH10~14を保持するのに十分な量で滴下するのが好ましい。このようなアルカリ溶液としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、アンモニア等の水溶液を用いることができ、なかでも水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム又はこれらの混合溶液を用いるのが好ましい。
【0021】
上記中和反応における水溶液b’の温度は、40℃以上が好ましく、40~60℃が好ましい。また、水溶液b’の撹拌時間は、30~120分が好ましく、30~60分がより好ましい。有用な正極活物質を得るために嵩密度の高い金属複合水酸化物とする観点から、中和反応後の水溶液b’に、さらに次亜塩素酸ソーダや過酸化水素水等の酸化剤を添加してもよい。
【0022】
撹拌した後、水溶液b’を濾過することによって、金属複合水酸化物を回収することができる。回収した金属複合水酸化物は、得られるリチウム複合酸化物の品位を安定化させる観点及びリチウムと均一かつ十分に反応させる観点から、焼成して金属複合酸化物とするのが好ましい。
【0023】
金属複合水酸化物から金属複合酸化物を得るための焼成条件は、特に限定されず、例えば、大気雰囲気下で、好ましくは500~1100℃、より好ましくは60~900℃で焼成すればよい。
【0024】
次いで、所望するリチウム複合酸化物の組成となるように、上記焼成により得られた金属複合酸化物とリチウム化合物を乾式混合し、得られた混合粉体を酸素雰囲気下で焼成する。ここで用いるリチウム化合物としては、例えば、水酸化リチウム又はその水和物、過酸化リチウム、硝酸リチウム、炭酸リチウム等が挙げられる。後述する粒子(A)の粉体pHを高める観点からは、水酸化リチウムを多めに仕込むことが好ましい。金属複合酸化物とリチウム化合物の乾式混合では、ボールミルやVブレンダー等の、通常の乾式混合機又は混合造粒装置等を用いることができる。焼成には、ガス雰囲気中の酸素濃度が20質量%以上に調整された電気炉、ロータリーキルン、管状炉、プッシャー炉等を用いることができる。
【0025】
上記混合粉体の焼成条件は、得られるリチウム複合酸化物の結晶が未発達になり構造的に不安定になるのを回避する観点とリチウム複合酸化物の層状構造が崩壊してリチウムイオンの挿入・脱離が困難になるのを回避する観点から、焼成温度は650~850℃であることが好ましく、700~800℃であることがより好ましい。また、焼成時間は、5~20時間が好ましく、6~10時間がより好ましい。
【0026】
上記混合粉体の焼成は、2段階(仮焼成及び本焼成)で行うことが好ましい。2段階の焼成とすることにより、仮焼成において混合粉体中の水酸化物や炭酸塩からの水分子や二酸化炭素等の加熱分解成分を除去した後、本焼成を行うこととなり、効率よくリチウム複合酸化物粒子(A)を得ることができる。仮焼成の条件としては、焼成温度400~600℃で1時間以上焼成するのが好ましい。仮焼成で得られた焼成物を乳鉢等で解砕した後、適量のバインダーを混合して造粒し、本焼成に付す。本焼成の条件としては、焼成温度650~850℃で、5時間以上が好ましい。
【0027】
本焼成で得られた焼成物を水洗した後、濾過、乾燥して、リチウム複合酸化物粒子(A)の二次粒子を得る。本焼成で得られた焼成物を水洗する際のスラリー濃度は、得られるリチウム複合酸化物粒子(A)からリチウムの脱離が生じるのを抑止する観点から、200~4000g/Lが好ましく、500~2000g/Lがより好ましい。
【0028】
水洗する際に用いる水の電気伝導率は、水に炭酸ガスが多く含まれることによりリチウム複合酸化物粒子(A)に炭酸リチウムが析出するのを回避する観点から、10μS/cm未満であることが好ましく、1μS/cm以下がより好ましい。
【0029】
乾燥は、2段階で行うことが好ましい。1段階目の乾燥は、リチウム複合酸化物二次粒子中の水分(気化温度300℃で測定した水分率)が1質量%以下になるまで、90℃で行う。その後、2段階目の乾燥を120℃以上で行うことが好ましい。
【0030】
上記式(I)及び式(II)で表されるリチウム複合酸化物の一次粒子の平均粒子径は、500nm以下が好ましく、300nm以下がより好ましい。一次粒子の平均粒子径の下限値は特に限定されないが、ハンドリング性の観点から、50nm以上が好ましい。
【0031】
上記式(I)及び式(II)で表されるリチウム複合酸化物粒子(A)の二次粒子のメディアン径は、好ましくは25μm以下であり、より好ましくは20μm以下である。二次粒子のメディアン径の下限値は特に限定されないが、ハンドリング性の観点から1μm以上が好ましく、5μm以上がさらに好ましい。
【0032】
本発明の正極用の材料において、式(I)及び式(II)で表される粒子(A)の二次粒子のメディアン径は、後述する粒子(B)の二次粒子のメディアン径に比べて、小さい。好ましくは、粒子(A)の二次粒子のメディアン径は、粒子(B)の二次粒子のメディアン径の0.80倍未満である。粒子(A)の二次粒子のメディアン径が粒子(B)の二次粒子のメディアン径より小さいことにより、粒子(A)により粒子(B)の間隙を効率よく埋めるこができ、高温時の粒子(B)からのマンガンや鉄などの金属元素の溶出を効率的に防ぐことができ、電池の高温保存特性を向上させることができる。
【0033】
なお、本明細書において、一次粒子の平均粒子径は、SEM又はTEMの電子顕微鏡による観察において測定される数十個の粒子の粒径(長軸の長さ)の平均値を意味する。二次粒子のメディアン径は、レーザー回折粒度分布計を用いて測定される体積基準のメディアン径(D50)を意味し、以下の方法で測定することができる:
分散媒としてエタノールを用い、超音波を用いて粒子をエタノールに分散させて測定用試料とし、レーザ回折・散乱式粒度分布測定装置(MicrotracBEL株式会社製MT3300EXII)により粒度分布を測定し、体積基準のメディアン径(D50)を算出する。
【0034】
粒子(A)及び(B)の二次粒子のメディアン径は、正極内においてもほとんど同程度に維持される傾向があるので、正極内の粒子(A)及び(B)の二次粒子のメディアン径は、例えば、以下の方法で測定することもできる:
走査電子顕微鏡JCM-6000(JEOL日本電子株式会社製)、倍率×1000、3000を用いて正極を観察し、観察ソフト(JCM-6000)の[測長]機能にて計測する。正極粒子の判別は、付属のEDX装置による元素分析によって行うことができる。
【0035】
上記式(I)及び式(II)で表される粒子(A)の粉体pHは、好ましくは10~14の範囲であり、さらに好ましくは10~13である。粒子(A)の粉体pHは、後述する粒子(B)の粉体pHに比べて、高いことが好ましい。粒子(A)の粉体pHを高めることにより、高温時の粒子(B)からのマンガンや鉄などの金属元素の溶出を効率的に防ぐことができ、電池の高温保存特性をさらに向上させることができる。このメカニズムについては、明らかではないが、本発明者らは、次のように推測している:リチウムイオン二次電池が60℃以上の高温にさらされると、電池内に微量に混入した水分により、電解液中で一般的に使用されるLiPF6などの支持塩が加水分解して、遊離HFを生じることがある。遊離HFが粒子(B)にアタックすると、粒子(B)中のマンガンや鉄の溶出を招き、電池の高温保存特性が損なわれることがある。粒子(B)よりもメディアン径が小さく、粉体pHが高い粒子(A)を粒子(B)の間隙に存在させることにより、遊離HF(酸)のアタックを弱め、粒子(B)からの金属元素の溶出を防ぐことができると考えられる。
【0036】
粒子(A)の粉体pHは、粒子(A)の製造の際にアルカリ性の成分を多めに仕込むようにして粒子(A)にアルカリを残留させることにより、高めることができる。
なお、本明細書において、粉体pHは、以下の手順により測定する:
50mLの純水に、各粒子(粉体)1gを添加し、スターラーで室温下で5分間撹拌し、1分間静置した際の懸濁液のpHをpHメーターで測定する。
【0037】
<粒子(B)>
本発明の正極に用いられる粒子(B)は、下記式(III):
LiFemMnnM3
oPO4 ・・・(III)
(式(III)中、M3は、Co、Ca、Sr、Y、Zr、Mo、Ba、Pb、Bi、La、Ce、Nd、又はGdであり、m、n、及びoは、0≦m≦1、0≦n≦1、0≦o≦0.3、及びm+n≠0を満たし、かつ2m+2n+(M3の価数)×o=2を満たす数である)
で表される、リチウムと、鉄及びマンガンのうちの少なくとも1種と、リン酸とを含む、オリビン型構造を有するポリアニオン粒子である。粒子表面に炭素が担持されていてもよい。
【0038】
上記式(III)で表されるリチウム系ポリアニオン粒子(B)は、以下の手順で得ることができる:
(i)リチウム化合物とリン酸化合物を混合し、次いで、少なくとも鉄化合物及び/又はマンガン化合物を含む金属塩を混合して混合液Aを得る、
(ii)得られた混合液Aを水熱反応に付して複合体Bを得る。
【0039】
リチウム系ポリアニオン粒子(B)に炭素を担持させる場合、さらに次の工程を行うことができる:
(iii)得られた複合体B、炭素源、及び水を混合して混合液Cを得る、
(iv)得られた混合液Cを乾燥して造粒体Dを得る、
(v)得られた造粒体Dを還元雰囲気又は不活性雰囲気中で焼成する。
【0040】
工程(i)で用いることができるリチウム化合物としては、水酸化リチウム(例えばLiOH、LiOH・H2O)、炭酸リチウム、硫酸リチウム、酢酸リチウムを挙げることができ、なかでも水酸化リチウムが好ましい。リチウム化合物は、水100質量部に対し5~50質量部、より好ましくは7~45質量部の濃度の水溶液の形態であることが好ましい。リチウム化合物にリン酸化合物を混合する前に、リチウム化合物の水溶液を1~15分、より好ましくは3~10分撹拌することが好ましい。また、水溶液の温度は、20~90℃が好ましく、20~70℃がより好ましい。
【0041】
リチウム化合物に混合するリン酸化合物としては、オルトリン酸(H3PO4、リン酸)、メタリン酸、ピロリン酸、三リン酸、四リン酸、リン酸アンモニウム、リン酸水素アンモニウム等が挙げられる。なかでもリン酸を用いるのが好ましく、70~90質量%濃度の水溶液として用いるのが好ましい。リチウム化合物とリン酸化合物との混合物は、リン酸1モルに対しリチウムを2.7~3.3モル含むのが好ましく、2.8~3.1モル含むのがより好ましい。
【0042】
リン酸化合物を混合した後、窒素をパージすることにより、混合物中での反応を完了させてリチウム系ポリアニオン粒子の前駆体(リン酸三リチウム、Li3PO4)を生成させても良い。窒素をパージする際の圧力は、0.1~0.2MPaが好ましく、0.1~0.15MPaがより好ましい。また、リン酸化合物を混合した後の混合物の温度は、好ましくは20~80℃であり、より好ましくは20~60℃である。反応時間は、好ましくは5~60分であり、より好ましくは15~45分である。窒素をパージする際、反応を良好に進行させる観点から、撹拌速度200~700rpmで、より好ましくは250~600rpmで撹拌することが好ましい。
【0043】
リチウム化合物とリン酸化合物を混合した後に、少なくとも鉄化合物及び/又はマンガン化合物を含む金属塩を添加して混合液Aを得る。これら金属塩の合計添加量は、リン酸イオン1.000モルに対し、好ましくは0.990~1.010モルであり、より好ましくは0.995~1.005モルである。鉄化合物及びマンガン化合物以外の金属(M3)塩を添加する場合、鉄化合物、マンガン化合物、及び金属(M3)塩の合計添加量は、得られた混合液A中のリン酸1.000モルに対し、好ましくは0.990~1.010モルであり、より好ましくは0.995~1.005モルである。鉄化合物、マンガン化合物、及び金属(M3)塩の添加順序は特に制限されない。また、これらの金属塩を添加するとともに、必要に応じて酸化防止剤を添加してもよい。酸化防止剤としては、亜硫酸ナトリウム(Na2SO3)、ハイドロサルファイトナトリウム(Na2S2O4)、アンモニア水等を使用することができる。酸化防止剤の添加量は、過剰に添加すると活物質の生成が抑制されるので、金属塩の合計1.00モルに対し、好ましくは0.01~1.00モルであり、より好ましくは0.03~0.50モルである。
【0044】
用い得る鉄化合物としては、酢酸鉄、硝酸鉄、硫酸鉄等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なかでも、リチウム系ポリアニオン粒子(B)の電池特性を高める観点から、硫酸鉄が好ましい。
【0045】
用い得るマンガン化合物としては、酢酸マンガン、硝酸マンガン、硫酸マンガン等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なかでも、リチウム系ポリアニオン粒子(B)の電池特性を高める観点から、硫酸マンガンが好ましい。
【0046】
粒子(B)に、鉄とマンガンの双方が含まれることは好ましい。すなわち、上記式(iii)において、0<m≦1かつ0<n≦1であることは好ましい。鉄とマンガンの双方を含むリン酸マンガン鉄リチウム(LMFP)は、鉄を含みマンガンを含まないリン酸鉄リチウム(LFP)と同等の安全性を示しながら、LFPよりも0.4~0.5V作動電位が高いことから、電池の安全性向上及び高エネルギー密度化に寄与すると考えられる。したがって、粒子(B)の製造の際に、金属化合物として、鉄化合物とマンガン化合物の双方を用いることは好ましい。鉄化合物とマンガン化合物の双方を用いる場合、マンガン化合物及び鉄化合物の使用モル比(マンガン化合物:鉄化合物)は、好ましくは99:1~1:99であり、より好ましくは90:10~10:90である。
【0047】
金属(M3)塩としては、鉄及びマンガン以外の金属の硫酸塩、ハロゲン化合物、有機酸塩、及びこれらの水和物等を用いることができる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なかでも、電池特性を高める観点から、硫酸塩が好ましい。
【0048】
次いで、工程(i)で得られた混合液(A)を水熱反応に付して複合体Bを得る(工程(ii))。水熱反応に付する際に用いる水の使用量は、金属塩の溶解性、撹拌の容易性、及び合成の効率等の観点から、混合液A中に含有されるリン酸イオン1モルに対し、好ましくは10~50モルであり、さらに好ましくは10~45モルであり、さらに好ましくは10~30モルであり、さらに好ましくは12.5~25モルである。
【0049】
水熱反応の際の温度は、100℃以上であればよく、130~180℃が好ましい。水熱反応は耐圧容器中で行うことが好ましく、130~180℃で反応を行う場合、圧力は、0.3~0.9MPaが好ましく、140~160℃で反応を行う場合、圧力は、0.3~0.6MPaが好ましい。反応時間は、0.1~48時間が好ましく、0.2~24時間がさらに好ましい。
【0050】
得られた複合体Bは、式(III)で表されるリチウム系ポリアニオン粒子(B)である。複合体Bを、濾過し、水で洗浄し、乾燥することにより、ポリアニオン粒子(B)を単離することができる。乾燥手段としては、凍結乾燥、真空乾燥等を挙げることができる。
【0051】
リチウム系ポリアニオン粒子に炭素を担持させる場合、複合体Bと水を含む混合物に炭素源を混合して、混合液Cを作成する(工程(iii))。炭素源としては、セルロースナノファイバー又は水溶性炭素材料が挙げられる。セルロースナノファイバー(以下、「CNF」とも称する)は、植物繊維を繊維径が1~100nm程度のナノサイズまで解繊等することにより得ることができる微細セルロース繊維である。水溶性炭素材料とは、25℃の水100gに炭素原子換算量で0.4g以上、好ましくは1.0g以上溶解する炭素材料を意味する。水溶性炭素材料としては、例えば、糖類、ポリオール、ポリエーテル、及び有機酸から選ばれる1種又は2種以上が挙げられる。具体的には、例えば、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース等の単糖類;マルトース、スクロース、セロビオース等の二糖類;デンプン、デキストリン等の多糖類;エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ブタンジオール、プロパンジオール、ポリビニルアルコール、グリセリン等のポリオールやポリエーテル;クエン酸、酒石酸、アスコルビン酸等の有機酸が挙げられる。なかでも、溶媒への溶解性が高い点から、グルコース、フルクトース、スクロース、及びデキストリンが好ましく、グルコースがより好ましい。
【0052】
混合液Cにおける複合体Bの含有量は、水100質量部に対し、好ましくは10~400質量部であり、より好ましくは30~210質量部である。混合液Cにおける炭素源の含有量は、水100質量部に対し、好ましくは0.03~320質量部であり、より好ましくは0.2~140質量部であり、さらに好ましくは0.2~64質量部であり、さらに好ましくは0.2~28質量部である。
【0053】
混合液Cは、複合体Bと炭素源とを均一に分散させる観点から、分散機を用いた処理を行うことが好ましい。このような分散機としては、離解機、叩解機、低圧ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、グラインダー、カッターミル、ボールミル、ジェットミル、短軸押出機、2軸押出機、超音波撹拌機、家庭用ジューサーミキサー等が挙げられる。なかでも、分散効率の観点から、超音波撹拌機が好ましい。混合液Cの分散均一性の程度は、例えば、UV・可視光分光装置を用いた光線透過率や、粘度で定量的に評価することができ、また目視によって白濁度が均一であることを確認することによって簡易的に評価することもできる。分散機で処理する時間は、好ましくは0.5~6分であり、より好ましくは2~5分である。
【0054】
炭素源としてCNFを用いた場合、凝集状態にあるCNFを有効に取り除く観点から、混合液Cを湿式分級することが好ましい。湿式分級には、篩や市販の湿式分級機を用いることができる。篩の目開きは、用いるCNFの繊維長により変動しうるが、作業効率の観点から、140~160μmであることが好ましい。
【0055】
工程(iii)で得られた混合液Cを乾燥して造粒体Dを得る(工程(iv))。乾燥には、噴霧乾燥、媒体流動乾燥などの方法を用いることができる。乾燥時の条件を調整することにより、造粒体Dのメディアン径を調整することができる。
【0056】
次いで、工程(iv)で得られた造粒体Dを還元雰囲気又は不活性雰囲気中で焼成する(工程(v))。これにより、造粒体Dに存在する炭素源を炭化させ、表面に炭素を担持したリチウム系ポリアニオン粒子(B)を得ることができる。焼成条件は、還元雰囲気又は不活性雰囲気中で、好ましくは400℃以上、より好ましくは400~800℃で、好ましくは10分~3時間、より好ましくは0.5~1時間とするのがよい。
【0057】
粒子(B)の二次粒子のメディアン径は、粒子(A)の二次粒子のメディアン径より大きい。好ましくは、粒子(A)の二次粒子のメディアン径が、粒子(B)の二次粒子のメディアン径の0.80倍未満となるようにする。粒子(B)の二次粒子のメディアン径が粒子(A)の二次粒子のメディアン径より大きいことにより、粒子(B)の間隙を粒子(A)により効率よく埋めるこができ、高温時の粒子(B)からのマンガンや鉄などの金属元素の溶出を効率的に防ぐことができ、電池の高温保存特性を向上させることができる。
【0058】
なお、粒子(B)の二次粒子のメディアン径という場合には、炭素を担持していない場合には炭素を担持していない粒子(B)の二次粒子のメディアン径をいい、炭素を担持している場合には、担持した炭素を含めた粒子(B)の二次粒子のメディアン径をいう。
【0059】
粒子(B)の二次粒子のメディアン径は、これに限定されないが、例えば、造粒の際の噴霧乾燥などの乾燥時にノズルに送りこむ空気量を調整したり、また、温度を最適化するなどによって調整する(大きくする)ことができる。
【0060】
粒子(B)の粉体pHは、粒子(A)の粉体pHに比べて、低いことが好ましい。粒子(A)の粉体pHを高めることにより、高温時の粒子(B)からのマンガンや鉄などの金属元素の溶出を効率的に防ぐことができ、電池の高温保存特性をさらに向上させることができる。
【0061】
<正極材料>
得られた粒子(A)と粒子(B)とを所定の比率で混合して、リチウムイオン二次電池の正極用の材料を得る。混合方法は、特に限定されず、粒子(A)と粒子(B)とを均一に混合できる装置を用いればよい。例えば、ボールミル、サンドミル、遊星式ミキサー、高速剪断ミル、ブレード型混錬機、高速混合機等が挙げられる。粒子(A)と粒子(B)との混合比率(質量比)は、粒子(A):粒子(B)で好ましくは96:4~60:40であり、より好ましくは96:4~70:30であり、さらに好ましくは96:4~80:20である。
【0062】
<正極>
得られた正極材料を用いて、リチウムイオン二次電池用の正極を製造することができる。正極は、上述の正極材料、カーボンブラックやカーボンナノチューブ等の導電助剤、及びポリフッ化ビニリデン等の結着材(バインダー)に、N-メチル-2-ピロリドン等の溶媒を加え、十分に混錬して正極スラリーを得た後、アルミニウム箔等の集電体上に塗布し、ローラープレス等で圧縮し、乾燥することにより得ることができる。
【0063】
集電体を構成する材料は、特に限定されないが、金属が好ましく、例えば、アルミニウム、ニッケル、鉄、ステンレス、チタン、銅、その他合金等を挙げることができる。このほか、ニッケルとアルミニウムとのクラッド材、銅とアルミニウムとのクラッド材、またはこれらの金属の組み合わせのメッキ材などを好ましく用いることができる。また、金属表面にアルミニウムが被覆された箔であってもよい。導電性や作動電位の観点からは、アルミニウム、ステンレス、銅が好ましい。
【0064】
集電体の大きさは、特に限定されず、使用用途に応じて決めればよい。集電体の厚さも特に制限はない。通常は、1~100μm程度である。
【0065】
バインダーは特に限定されない。例えば、ポリフッ化ビニリデンの他、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルニトリル、ポリアクリロニトリル、ポリイミド、ポリアミド、セルロース、カルボキシメチルセルロース(CMC)およびその塩、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、エチレン・プロピレンゴム、エチレン・プロピレン・ジエン共重合体、スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体およびその水素添加物、スチレン・イソプレン・スチレンブロック共重合体およびその水素添加物などの熱可塑性高分子、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、エチレン・テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)等のフッ素樹脂、ビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン系フッ素ゴム(VDF-HFP系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン-テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF-HFP-TFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド-ペンタフルオロプロピレン系フッ素ゴム(VDF-PFP系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド-ペンタフルオロプロピレン-テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF-PFP-TFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド-パーフルオロメチルビニルエーテル-テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF-PFMVE-TFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド-クロロトリフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF-CTFE系フッ素ゴム)等のビニリデンフルオライド系フッ素ゴム、エポキシ樹脂等が挙げられる。これらの中ではポリフッ化ビニリデンが最も好ましい。これらのバインダーは、1種を用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0066】
正極スラリーの作成に用いる溶媒は、特に限定されないが、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルホルムアミド、シクロヘキサン、ヘキサンなどを挙げることができる。
【0067】
正極スラリーの組成は、特に限定されないが、例えば、スラリーの固形分(溶媒以外の成分)全量に対して、バインダーが0.1~15質量%、好ましくは1~10質量%、より好ましくは2~8質量%、特に好ましくは3~8質量%の範囲であり、正極材料は、充分な電池容量を得る点から考慮すると、70~99.5質量%、好ましくは75~99質量%、より好ましくは80~98質量%、特に好ましくは90~97.5質量%の範囲である。上記範囲内であれば、十分な結着強度を発現することができると考えられる。導電助剤の含有量は、好ましくは0~10質量%であり、より好ましくは3~7質量%の範囲である。
【0068】
<リチウムイオン二次電池>
本発明のリチウムイオン二次電池は、上述の正極と、負極と、電解液と、セパレータとを少なくとも含む。負極は、リチウムイオンを充電時には吸蔵し、放電時には放出するものであればよく、その材料構成は特に限定されない。例えば、リチウム金属、グラファイト又は非晶質炭素等の炭素材料等を挙げることができる。リチウムイオンを電気化学的に吸蔵・放出しうるインターカレート材料である炭素材料を用いることが好ましい。
【0069】
電解液は、有機溶媒に支持塩を溶解させたものである。有機溶媒は、通常リチウムイオン二次電池の電解液に用いられる有機溶媒であればよく、特に限定されない。例えば、カーボネート類、ハロゲン化炭化水素、エーテル類、ケトン類、ニトリル類、ラクトン類、オキソラン化合物等を用いることができる。
【0070】
支持塩の種類は、特に限定されないが、LiPF6、LiBF4、LiClO4、及びLiAsF6から選ばれる無機塩、該無機塩の誘導体、LiSO3CF3、LiC(SO3CF3)2及びLiN(SO3CF3)2、LiN(SO2C2F5)2及びLiN(SO2CF3)(SO2C4F9)から選ばれる有機塩、並びに該有機塩の少なくとも1種であることが好ましい。なかでも、本発明の正極による高温安定性の増強効果が顕著に表れることから、フッ素元素を含有する塩が好ましく、特にLiPF6が好ましい。
【0071】
セパレータは、正極及び負極を電気的に絶縁し、電解液を保持する役割を果たすものである。例えば、多孔性合成樹脂膜、特にポリオレフィン系高分子(ポリエチレン、ポリピロピロピレン)の多孔膜が挙げられる。
【0072】
上記の構成を有するリチウムイオン二次電池の形状としては、特に限定されず、コイン型、円筒型、角型等の種々の形状や、ラミネート外装体に封入した不定形状であってもよい。
【実施例】
【0073】
以下、本発明について、実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
<リチウム複合酸化物粒子(A)>
粒子(A)として、市販の粒子(LiNi0.5Mn0.3Co0.2O2、二次粒子のメディアン径(D50):10.5μm、粉体pH:pH10.9)を用いた。
【0074】
<リチウム系ポリアニオン粒子(B1)>
粒子(B1)として、市販の粒子(1.5質量%の炭素を含有するLiMn0.7Fe0.3PO4、二次粒子のメディアン径(D50):14.8μm、粉体pH:pH10.4)を用いた。
【0075】
<リチウム系ポリアニオン粒子(B2)>
粒子(B2)として、市販の粒子(1.5質量%の炭素を含有するLiMn0.7Fe0.3PO4、二次粒子のメディアン径(D50):8.0μm、粉体pH:pH10.4)を用いた。
【0076】
<実施例1>
上記粒子(A)と粒子(B1)とを、80:20の質量比で混合して、実施例1の正極材料とした。
【0077】
<比較例1>
上記粒子(A)と粒子(B2)とを、80:20の質量比で混合して、比較例1の正極材料とした。
【0078】
<比較例2>
上記粒子(B2)のみを用いて、比較例2の正極材料とした。
<リチウムイオン二次電池の製造>
16μm厚のアルミニウム箔に、実施例1と比較例1及び2の各正極材料97.5質量%、カーボンナノチューブ0.5質量%、及びポリフッ化ビニリデン2質量%を含む層を、実施例1及び比較例1は片面塗工量18mg/cm2で、比較例2は片面塗工量21mg/cm2で両面塗工し、プレスしてから真空乾燥し、30mm×40mmのサイズの両面塗工正極を各1枚ずつ得た。
【0079】
8μm厚の銅箔に、黒鉛95質量%、スチレンブタジエンゴム2.5質量%、及びカルボキシメチルセルロース2.5質量%を含む層を、片面塗工量9.8mg/cm2で両面塗工し、プレスしてから真空乾燥し、32mm×42mmのサイズの両面塗工負極2枚を得た。
【0080】
得られた各正極1枚と、負極2枚と、28μm厚の35mm×45mmのサイズのポリプロピレンセパレータ2枚とを、負極-セパレータ-正極-セパレータ-負極の順で積層し、アルミラミネート外装体に挿入し、1M LiPF6を含むエチレンカーボネート+ジエチルカーボネート溶液(3:7)の0.6mLを注液し、封止してリチウムイオン二次電池とした。
【0081】
<60℃保存試験>
(1)得られた各リチウムイオン二次電池の25℃、13mAにおける容量を以下の条件で確認した。このときの放電容量を(1)とする:
充電 13mA-4.2V/CCCV(6.5h)
充電休止 10分
放電 13mA-2.5V/CC
放電休止 10分
(2)次いで、60℃で7日間、SOC100%の状態で保存した。条件は以下の通りである:
25℃充電 13mA-4.2V/CCCV(6.5h)
25℃充電休止 10分
60℃、7日間保存
25℃放電 13mA-2.5V/CC
25℃放電休止 10分
(3)次いで、(1)と同様にして、25℃、13mAにおける容量を以下の条件で確認した。このときの放電容量を(3)とする:
充電 13mA-4.2V/CCCV(6.5h)
充電休止 10分
放電 13mA-2.5V/CC
放電休止 10分
(4)以下の式により、高温(60℃)保持後の放電容量維持率を算出した:
放電容量維持率(%)=((3)の放電容量/(1)の放電容量)×100。
【0082】
各リチウムイオン二次電池の放電容量維持率の結果は、以下の通りである:
実施例1の正極材料を用いた電池:95%
比較例1の正極材料を用いた電池:85%
比較例2の正極材料を用いた電池:80%
本発明の正極を用いたリチウムイオン二次電池は、比較例のものに比べて、高温で一定期間保持した後にも、放電容量が低下しにくいことがわかる。本発明の正極により、高温でより安定性の高いリチウムイオン二次電池を形成することができる。