(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-30
(45)【発行日】2024-02-07
(54)【発明の名称】粗い内部構造を有する対象物の計測用音波送受波器
(51)【国際特許分類】
H04R 17/00 20060101AFI20240131BHJP
E02D 3/12 20060101ALI20240131BHJP
G01B 17/00 20060101ALI20240131BHJP
【FI】
H04R17/00
E02D3/12 102
G01B17/00 A
(21)【出願番号】P 2020118808
(22)【出願日】2020-07-09
【審査請求日】2022-10-13
(73)【特許権者】
【識別番号】591006298
【氏名又は名称】JFEテクノリサーチ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】500305508
【氏名又は名称】株式会社検査技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110002963
【氏名又は名称】弁理士法人MTS国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高田 一
(72)【発明者】
【氏名】林 栄男
【審査官】渡邊 正宏
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2018/0024265(US,A1)
【文献】特開2001-015822(JP,A)
【文献】特表2008-518721(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 3/12
G01B 17/00-17/08
G01S 1/72- 1/82
G01S 3/80- 3/86
G01S 5/18- 5/30
G01S 7/52- 7/64
G01S 15/00-15/96
H10N 30/00-39/00
H04R 1/00- 1/02
H04R 1/06
H04R 1/20- 1/34
H04R 1/40
H04R 1/44
H04R 3/00
H04R 9/00
H04R 13/00
H04R 15/00
H04R 17/00-17/02
H04R 17/10
H04R 19/00
H04R 23/00
H04R 29/00-31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粗い内部構造を有する対象物の計測に用いる音波送受波器であって
、
音波を励起し、また、音波を検出するための振動子として、複数の柱状圧電素子を並設してエポキシ樹脂によって固めた構造を有するコンポジット振動子を内蔵し
、
音波を送波及び/又は受波する振動面に対する柱状圧電素子面の面積率が60%以上80%以下であり、
音波を送波及び/又は受波する振動面の直径をD、音波の波長をλとしたとき、前記直径DがD≧29×λ/240を満足するようにして、周波数2kHz~10kHzの指向性を有する音波を送受波することを特徴とする音波送受波器。
【請求項2】
前記粗い内部構造を有する対象物は、地盤、土壌、地盤及び土壌と硬化剤の混合体である地盤改良体、骨材、鉄筋を含むコンクリート、レンガ、カーボン成形体又は岩石であることを特徴とする請求項1に記載の音波送受波器。
【請求項3】
前記音波送受波器が送波する音波は、2値符号列による位相変調波である擬似ランダム波であることを特徴とする請求項1
又は2に記載の音波送受波器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント系硬化剤の超高圧噴射によって地盤を切削し、円柱状の改良体を造成する地盤改良体のような粗い内部構造を有する対象物の計測用音波送受波器に関する。
【背景技術】
【0002】
人々の暮らしや社会の営みの基盤を確かなものにするために、いま強く求められている技術として、軟弱地盤等を高強度に改良するための地盤改良技術がある。地盤改良工法として、高圧噴射攪拌工法が実用化されている。高圧噴射攪拌工法は、地盤に挿入したロッドのノズルから、セメント系硬化剤の超高圧噴射によって地盤を切削し、円柱状の改良体を造成する工法である。
【0003】
高圧噴射攪拌工法では、地盤改良の対象となる土層のせん断強さや、標準貫入試験値であるN値等のいわゆる硬さが形成する改良体の径に影響する。このため、地盤改良工事を行う場合は、地盤改良の対象となる土壌の土質などを考慮してセメント系硬化剤の噴射圧力、噴射流量等を適切に設定することにより、地盤改良体に必要とされる径を確保する必要がある。
【0004】
また、高圧噴射攪拌工法によって造成される地盤改良体の径は種々の要因、例えば対象土のせん断強さや対象土層の不均一性によってばらつく。このため、地盤改良体の径を保証するには、実際に造成された地盤改良体の径を把握する必要がある。
【0005】
しかし、地盤改良体は地中に造成されるため、掘削によって改良体を露出させない限り、地盤改良体を目視で確認したり、地盤改良体の径を直接測定したりすることはできない。
【0006】
そこで、改良体の造成中に、改良体の径を把握する技術が提案されている。特許文献1には、地盤(原地盤ともいわれるが、本発明では区別を明確にするため、以下、土壌という)と地盤改良体との境界面における音波の反射を利用して地盤改良体の形状を測定する技術が記載されている。また、特許文献2には、そのような測定に利用可能な水中音波送受波器が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2012-172329号公報
【文献】特開2009-194889号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1に記載の技術では、音波発振機及び音波受信機について、造成中の地盤改良体へ音波を伝搬させ、受信するのに必要な要件は何ら開示されておらず、単なる思い付きというべきものであった。
【0009】
また、特許文献1に記載の技術と特許文献2に記載の技術とを組み合わせることにより、地盤改良体の形状を測定できる可能性があるが、本願発明者らの研究の結果、円筒形振動子を内蔵した送受波器を用いる場合には、以下の問題があることがわかってきた。
【0010】
(1)音波を360°の方位にわたり送受波するため、方位角度当たりの音波エネルギーが小さくなりやすい。特に地盤改良体内では音波の粘性減衰及び散乱減衰が大きいため、音波エネルギーが急激に減少して有意義な計測ができない。
【0011】
(2)音波を360°の方位にわたり送受波するため、様々な部位から反射波が発生し、雑エコーとなる。よって、S/Nが低下する、どのエコーが地盤改良体と土壌との境界からの反射波かわかりにくい。
【0012】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、その目的は、造成直後の地盤改良体のような、音波の散乱減衰及び粘性減衰が大きい粗い内部構造を有する対象物の計測に用いるのに好適な音波送受波器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、地盤改良体と土壌との境界を検出するには、指向性音波送受波器から境界へ向けて音波を送波し、境界からの反射波を受波することが有効であることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0014】
すなわち、本発明の要旨構成は次のとおりである。
【0015】
(1)粗い内部構造を有する対象物の計測に用いる音波送受波器であって、音波を励起し、また、音波を検出するための振動子として、複数の柱状圧電素子を並設してエポキシ樹脂によって固めた構造を有するコンポジット振動子を内蔵したことを特徴とする音波送受波器。
【0016】
(2)前記音波送受波器は、音波を送波及び/又は受波する振動面に対する柱状圧電素子面の面積率が60%以上80%以下であるのがよい。
【0017】
(3)前記音波送受波器は、音波を送波及び/又は受波する振動面の直径をD、音波の波長をλとしたとき、前記直径DがD≧29×λ/240を満足するようにして、周波数2kHz~10kHzの指向性を有する音波を送受波するのがよい。
【0018】
(4)前記粗い内部構造を有する対象物は、地盤、土壌、地盤及び土壌と硬化剤の混合体である地盤改良体、骨材、鉄筋を含むコンクリート、レンガ、カーボン成形体又は岩石とすることができる。
【0019】
(5)前記音波送受波器が送波する音波は、2値符号列による位相変調波である擬似ランダム波であるのがよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明は、セメント系硬化剤の超高圧噴射によって地盤を切削し、円柱状の改良体を造成する地盤改良体について、音波を送波し、地盤改良体と土壌との境界からの反射波を得て行う形状測定に用いる音波の送受波器を、複数の柱状圧電素子(例えばPZT柱、PZTはチタン酸ジルコン酸鉛の略称)を並設してエポキシ樹脂によって固めた構造を有するコンポジット振動子を用いて構成し、音波の送受波器に指向性を持たせたので、地盤改良体と土壌との境界からの反射波を良好に得ることができ、造成した地盤改良体の径や立体形状を造成直後に正確に把握することができる。
【0021】
また、本発明は造成直後の地盤改良体に限らず、地盤、土壌、コンクリート(骨材、鉄筋を含む)、レンガ、カーボン成形体、岩石などの前記粗い内部構造を有する対象物の音波を用いた計測において、良好な反射波を得るのに有効である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明に係る音波送受波器の実施形態の縦断面構造を示す説明図
【
図2】本発明に係る音波送受波器の振動面における柱状圧電素子(PZT柱)の配置を示す横断面図
【
図3】模擬試験体の側端部からのエコーを検出する実験の構成を示す説明図
【
図4】模擬試験体の側端部からのエコーの検出例を示す波形図
【
図5】本発明に係る音波送受波器に内蔵する柱状圧電素子(PZT柱)面の振動面の面積に対する比率(面積率)とエコーの振幅及びノイズレベルとの関係の例を示す図
【
図6】本発明に係る音波送受波器に内蔵する柱状圧電素子(PZT柱)面の振動面の面積に対する比率(面積率)とエコーのSN比との関係の例を示す図
【
図7】本発明に係る音波送受波器に内蔵するコンポジット振動子の振動面の直径DとエコーのSN比との関係の例を示す図
【
図8】本発明に係る音波送受波器から送波する擬似ランダム波の波形の例(一部)を示す波形図
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施形態及び実施例に記載した内容により限定されるものではない。又、以下に記載した実施形態及び実施例における構成要件には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。更に、以下に記載した実施形態及び実施例で開示した構成要素は適宜組み合わせてもよいし、適宜選択して用いてもよい。
【0024】
図1に、本発明に係る音波送受波器10の基本構成である縦断面構造を示す。音波の送波及び受波を行う振動子として、
図2に横断面を示す如く、複数の角柱状のPZT柱14を並設してエポキシ樹脂16で固めたコンポジット振動子12を内蔵する。柱状のPZT(14)の振動モードは、厚み振動ではなく縦振動であり、電気-機械結合係数を大きくすることができる。
【0025】
音波送受波器10の構造について説明すると、コンポジット振動子12の上下面にはそれぞれ電極18A及び電極18Bを接合しており、電線20A及び電線20Bを介して電気信号のコネクタ22に接続している。また、コンポジット振動子12はケース24に納め、振動子12の前面(音波を送受波する面)(図の下面)には前面板26を取り付け、振動子12を保護している。
【0026】
本発明に係る送受波器を用いる測定の対象物は粗い内部構造を有するため、音波の散乱減衰及び粘性減衰が大きい。よって、パルス圧縮等のSN比向上技術を用いることが有効である。かかるSN向上技術では、音波送信のために送受波器に印加する電気信号波形を忠実に音波信号波形に変換することが必要である。PZTは比較的機械的Q値が大きく、スパイク状のパルスで駆動してもパルス幅がやや長い音波を発生するが、その周囲を固めるエポキシ樹脂16の制動効果によって、パルス幅が短くなり、周波数帯域が広い特性を示すようになる。すると、入力する電気信号の波形と送波する音波の波形との類似性が高くなる。しかし、エポキシ樹脂16の量が多すぎると送波の音圧(パワー)が低下するので好ましくない。また、PZT柱面の面積率(コンポジット振動子12の振動面面積に対するPZT柱14面の合計面積の割合、ただし振動面に平行な断面では、PZT柱14の面積率はどこでも同じ)が大きくなりすぎると周波数帯域が狭くなるため、電気信号の波形と送波される音波の波形との類似性が低くなり、好ましくない。即ち、音波を送波及び/又は受波する面に対するPZT柱面の面積率が重要であり、本発明では研究の結果、面積率が60%以上80%以下であるのがよいと判明した。
【0027】
また、音波送受波器10が送波し受波する音波の指向性は、音波の波長λに比例し、振
動子12の振動面の直径D(
図1参照)に反比例する。振幅が大きいエコーを受波するには、送波する音波の指向性が高い(指向角が小さい)ことが求められる。本発明では研究の結果、振動面の直径DがD≧29×λ/240を満足すれば、例えば
周波数2kHz~10kHzの範囲で指向性が十分高く、振幅が大きいエコーを受波できることが判明した。
【0028】
本発明が想定している粗い内部構造を有する対象物は、地盤及び土壌と硬化剤の混合体(いわゆる地盤改良体)のほか、地盤、土壌、コンクリート(骨材、鉄筋を含む)、レンガ、カーボン成形体及び岩石である。
【0029】
本発明の音波送受波器10が送受波する音波は、パルス圧縮によるSN比向上のため、後出
図8に例示するような、擬似ランダム波(2値符号列による位相変調波)であるのがよい。
【実施例】
【0030】
図1に示した本発明に係る音波送受波器10の実施形態を用いて、地盤改良体と同地質の模擬試験体(設計直径5m)を試験対象として測定を行った事例を説明する。
【0031】
図2は振動面におけるPZT柱14の配置を示す横断面図であり、面積率が68.4%の場合である。斜線を施した部分がPZT柱14であり、網点を施した部分がエポキシ樹脂16である。紙面に垂直な方向へ音波の送受波を行う。
【0032】
図3に示すように、送受波器10を地盤改良体の模擬試験体50中央に設置した測定管52へ挿入し、模擬試験体50の側端部へ向けて音波30を送波した。このときに送受波器12から送波し、模擬試験体50の側端部へ達した音波30が反射されてエコー32として送受波器10へ戻って受波され、検出された信号を
図4に示す。良好なSN比のエコー信号を得ている。この場合の振動面の直径Dは100mm、PZT柱14面の面積率は61.6%であった。
【0033】
図5は、送受波器10に内蔵するPZT柱14面の振動面の面積に対する比率を変化させて(複数の異なる面積率の振動子を取り換えて内蔵して)、模擬試験体50側端部の同じ位置からのエコーの大きさ、ノイズレベルを測定した結果であり、
図6は
図5のデータを用いてエコーのSN比(図中ではS/N)を計算した結果である。面積率が60~80%であれば、エコー
のSN比はピーク(面積率68%)に対して3dB以内となって、実用に支障がないとわかる。
【0034】
図7は、PZT柱14面の面積率を約62%として、振動面の直径Dを複数変更して製作した振動子12を内蔵した送受波器10を用いて模擬試験体50側端部の同じ位置からのエコー32の大きさを測定した結果である。振動面の直径DがD≧29×λ/240を満足すれば、エコーの大きさがピークに対して3dB以内となって、実用上、問題がないことがわかる。実験時の音速は1500m/s、送受波器10から送波した音波の周波数λは周波数で2kHz相当であった。なお、振動子材質をPZTとし、柱の高さを135mmとしたときには、周波数2kHz~12kHzの音波を送波することができる。
【0035】
図8は、送受波器10から送波する音波(擬似ランダム波)の波形例である。
図8は擬似ランダム波の一部を示しており、実際には1000サイクル以上のパルス幅を有する信号である。
図8のような信号を高電圧に増幅し、指向性送受波器10に内蔵された音波の振動子12に印加して、同等の波形の音波を送波し、受波した信号をパルス圧縮の手法で信号処理し、エコー信号を得る。
図4~
図7の結果は、受波した信号をパルス圧縮の手法で信号処理した結果得られたものである。
【0036】
本発明はこのように構成したので、造成直後の地盤改良体に限らず、地盤、土壌、コンクリート(骨材、鉄筋を含む)、レンガ、カーボン成形体、岩石などの前記粗い内部構造を有する対象物の音波を用いた計測において、良好な反射波を得るのに有効である。
【0037】
なお、以上の説明では、送受波器10は音波を送波し、エコーを受波することに用いていたが、送受波器10を音波の送波のみに使用し、エコーの受波にはハイドロホン等の従来公知の受波手段を用いることが可能である。又、PZT柱14の断面形状は矩形に限定されず、他の形状とすることが可能である。圧電素子の種類もPZTに限定されず、チタン酸鉛、圧電単結晶PMN-PTなどであってもよい。
【符号の説明】
【0038】
10…音波送受波器
12…コンポジット振動子
14…PZT柱(柱状圧電素子)
16…エポキシ樹脂
18A、18B…電極
20A、20B…電線
22…コネクタ
24…ケース
26…前面板
30…音波
32…エコー
50…模擬試験体
52…測定管
D…振動面の直径