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▶ 石福金属興業株式会社の特許一覧

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-30
(45)【発行日】2024-02-07
(54)【発明の名称】プローブピン用材料およびプローブピン
(51)【国際特許分類】
   G01R 1/067 20060101AFI20240131BHJP
   C22C 5/08 20060101ALI20240131BHJP
   C22C 30/02 20060101ALI20240131BHJP
   C22F 1/14 20060101ALI20240131BHJP
   C22C 5/06 20060101ALI20240131BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20240131BHJP
【FI】
G01R1/067 Z
G01R1/067
C22C5/08
C22C30/02
C22F1/14
C22C5/06 Z
C22F1/00 602
C22F1/00 623
C22F1/00 624
C22F1/00 625
C22F1/00 630C
C22F1/00 630K
C22F1/00 640B
C22F1/00 671
C22F1/00 682
C22F1/00 681
C22F1/00 683
C22F1/00 684C
C22F1/00 685Z
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 692A
C22F1/00 694A
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020211432
(22)【出願日】2020-12-21
(65)【公開番号】P2022098087
(43)【公開日】2022-07-01
【審査請求日】2023-02-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000198709
【氏名又は名称】石福金属興業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100166039
【弁理士】
【氏名又は名称】富田 款
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 浩一
【審査官】青木 洋平
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-056067(JP,A)
【文献】特開2011-122194(JP,A)
【文献】特表2019-508592(JP,A)
【文献】特開2016-074937(JP,A)
【文献】特開2014-242184(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0124637(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 1/06-1/073
C22C 5/08
C22C 30/02
C22F 1/14
C22C 5/06
C22F 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ag10~60mass%、Pd25~39mass%未満、Cu15~60mass%、In0.1~1.0mass%未満、Ga0.1~0.6mass%、B0.03~0.3mass%からなるプローブピン用材料。
【請求項2】
請求項1に記載のプローブピン用材料を用いて作製されたプローブピン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウェハ上の集積回路や液晶表示装置等の電気的特性を検査するためのプローブピン(以下、「プローブピン」と略称する)とその作製に用いるプローブピン用材料に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体ウェハ上に形成された集積回路や液晶表示装置等の電気的特性の検査には、プローブピンが用いられている。この検査は、ソケットやプローブカードに組み込まれたプローブピンを、集積回路や液晶表示装置等の電極や端子、導電部に接触させることにより行われている。
【0003】
このようなプローブピンは、検査対象物に繰り返し接触させるため、硬さが重要となる。硬さが重要なのは、何万回と検査体にプローブピンを接触することによる摩耗を低減させる必要があるためである。
【0004】
使用されるプローブピンの形状は様々あるため、圧延や伸線、曲げ加工、切削加工等が施される。そのため、プローブピンは、加工後に硬さがコントロールできる時効硬化能を有した材質が望まれている。
【0005】
ここで要求されている硬さは、プローブピンの摩耗を抑えるのに非常に有効なため、プローブピンは硬いほど望ましい。
【0006】
その中で、プローブピンの形態により、曲げや切削加工等の加工が施される場合がある。そのため、時効硬化能を持つ材質が要求される。
【0007】
またコンタクトプローブピンに使用される材質としてベリリウム銅合金やタングステン、タングステン合金があるが、酸化しやすく、酸化膜による導通不良や酸化膜が検査対象物に付着する場合がある。金メッキ等で酸化を防ぐ場合があるが、メッキの剥離等の問題がある。
【0008】
そのため、パラジウム等の貴金属を添加し、酸化を抑えるプローブピンが使用される場合がある。
【0009】
貴金属、特に白金族系は、他の元素と比較し、産出量が少ないため、時勢によってコストの変動が激しく、添加量は可能な限り減らしたい要求が高い。
【0010】
一方、必要な特性、特に耐酸化性、硬さといった特性を向上させるには一定量以上の貴金属を添加する必要がある。
【0011】
要求としては、大気中等の酸素含有雰囲気で、高温多湿環境下でも酸化しない。硬さは、可能な限り硬い、400HV以上の特性が欲しいが、貴金属の含有量は低減したい要求がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特許第6074244号
【0013】
このなかで特許文献1は、Pd量を8~35mass%と添加量を低減している。ただし、硬さを200~400HVに限定している。
Pd量を低減しつつ400HV以上の硬さに維持するまでには至っていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
時効硬化による硬さの向上が求められているが、硬さ向上を目的として添加元素を多量に加えると、硬さの向上と反比例して塑性加工性が低下してしまうこととなる。また、時効硬化後に曲げ等が加わる加工が加わる場合、加工性と時効時の硬さのバランスの向上が必要となる。
すなわち、すぐれた塑性加工性を有し、時効後の硬さの向上、および加工性と時効後の硬さのバランスが向上する技術が求められている。
【0015】
上述した従来技術の問題点に鑑み、本発明の目的は、すぐれた塑性加工性を有し、時効後の硬さの向上が図れ、さらに加工性と時効後の硬さのバランスが良好なプローブピン用材料を提供することにある。また、本発明の他の目的は、かかるプローブピン用材料を用いて作製されたプローブピンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
前述した目的は、Ag10~60mass%、Pd25~39mass%未満、Cu15~60mass%、In0.1~1.0mass%未満、Ga0.1~0.6mass%、B0.03~0.3mass%からなるプローブピン用材料によって達成される。
【0017】
また前述した目的は、上記プローブピン用材料を用いて作製されたプローブピン(すなわち上記プローブピン用材料からなるプローブピン)によって達成される。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、時効前の加工性が良好で、且つ時効後の硬さが400HV以上を維持しつつ、かつPd量の上限を39mass%未満まで低減させたプローブピン用材料およびプローブピンを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明のプローブピン用材料は、Agが10~60mass%、Pdが25~39mass%未満、Cuが15~60mass%、Inが0.1~1.0mass%未満、Ga0.1~0.6mass%、B0.03~0.3mass%であり、不可避不純物と合わせて合計で100mass%からなる合金からなるものである。
Agが20~59.5mass%、Pdが25~38mass%、Cuが15~50mass%、Inが0.2~0.9mass%、Gaが0.1~0.5mass%、Bが0.05~0.2mass%Bとすることが好ましい。
Pdは25~33mass%とすることがより好ましい。
【実施例
【0020】
本発明に従うプローブピンに使用する合金は、それ自体既知の方法に従い、例えばAgとPdとCuとInとGaとBを上記の量で調整し、それをガス炉、高周波溶解炉など適当な金属溶解炉で溶解することにより製造することができる。溶解時の炉雰囲気としては、通常大気が用いられるが、必要に応じて不活性ガスまたは真空を使用することができる。また溶融状態の上記の合金を適当な型に鋳造し、インゴットを作製する。必要に応じて、インゴットを鍛造やスェージング加工を施し、圧延による板加工や、溝ロールにより角形または多角形の棒材または線材に加工、さらにダイスを用い伸線加工することにより、プローブピン用材料を作製することができる。
【0021】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。
【0022】
Ag、Pd、Cu、In、Ga、Bが表1記載の組成で1試料につき合計30gになるよう配合し、アルゴン雰囲気中アーク溶解炉にて溶解、鋳造によりインゴットを作製した。表1に作製した組成を示す。
【0023】
【表1】
【0024】
作製した表1のサンプルの加工性を見極めるため、作製したインゴットは、800℃×60分の熱処理条件で熱処理後水冷し、圧延、熱処理と圧延を繰り返し、t2.5mmまで圧延後、再度800℃×60min熱処理し水冷、圧延率[=((圧延前の厚さ-圧延後の厚さ)/圧延前の厚さ)×100]が80%になるようt0.5mmまで圧延を行った。
【0025】
加工性評価は圧延状況で評価した。圧延ができたものを〇、t2.5mm迄圧延できずに割れたものを×とした。評価結果を表2に示す。
【0026】
【表2】
【0027】
表2の実施例は、特に問題なく圧延できた。比較例でBまたはGaまたはInを多く添加された比較11~13は、インゴット圧延時に割れたため×とした。×とした試料は、以後の調査を中止した。B,Ga,Inを多量に添加すると塑性加工が困難になることが分かる。
【0028】
・硬さ試験
表2の加工性評価結果から〇となったサンプルの圧延後の硬さを測定、その後300~400℃の範囲で1hr熱処理し、時効後の硬さを測定した。測定結果を表3に示す。表3の時効後の硬さは、300~400℃の温度範囲で時効を行った際、最も硬かった値である。
【0029】
【表3】
【0030】
圧延率が80%の場合、実施例は、時効後の硬さが全て400HV以上となった。比較例は、400HV未満となった。
【0031】
・恒温恒湿試験
酸化性を調べるため、恒温恒湿環境下での表面の変色の有無を調査した。
試験は、80℃,90%RH×168時間(1週間)保持し、表面状態の変色の有無を確認した。
その結果、実施例はすべて変色しなかった。