(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-30
(45)【発行日】2024-02-07
(54)【発明の名称】発泡性インキを備えた電子レンジ加熱用包装体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B65D 81/34 20060101AFI20240131BHJP
【FI】
B65D81/34 U
(21)【出願番号】P 2021021954
(22)【出願日】2021-02-15
【審査請求日】2023-06-22
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】592141891
【氏名又は名称】株式会社熊谷
(73)【特許権者】
【識別番号】000219912
【氏名又は名称】東京インキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100140394
【氏名又は名称】松浦 康次
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 正巳
(72)【発明者】
【氏名】内藤 新吾
(72)【発明者】
【氏名】荒木 雅也
(72)【発明者】
【氏名】川邉 和也
(72)【発明者】
【氏名】中舘 郁也
(72)【発明者】
【氏名】後藤 光宏
【審査官】米村 耕一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2008/057768(WO,A2)
【文献】特開2020-011766(JP,A)
【文献】特開2007-284103(JP,A)
【文献】特開2020-011764(JP,A)
【文献】特開2020-011765(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D 81/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1シート部材を備えた電子レンジ加熱用包装体であって、
第1シート部材には、基材層と、シーラント層と、前記基材層と前記シーラント層との間に発泡性インキが塗布された弱接着層と、が形成され、
前記発泡性インキは熱膨張性マイクロカプセルを含み、
前記弱接着層の表面は
熱溶着により前記熱膨張性マイクロカプセルが発泡した凹凸面を形成し、
前記弱接着層は、前記包装体が加熱された際に、
前記凹凸面を基点に、前記弱接着層の前記表面に隣接した前記基材層又は前記シーラント層の一方の層を、部分的に他方の層から剥離させて蒸気抜け口を形成する、
ことを特徴とする電子レンジ加熱用包装体。
【請求項2】
電子レンジ加熱用包装体は、第2シート部材又はトレー容器をさらに備え、
第1シート部材の前記シーラント層は、第2シート部材の周縁部又は前記トレー容器の周縁部に熱溶着し、
前記弱接着層は、熱溶着された前記シーラント層の一部を蒸気抜け口予定部とするべく、前記一部に積層して設けられる、
ことを特徴とする請求項1に記載の電子レンジ加熱用包装体。
【請求項3】
前記弱接着層内には前記発泡性インキが塗布されていないインキ未印刷部が形成され、
前記インキ未印刷部は、前記弱接着層の平面積を分割するように該弱接着層の内側縁から外側縁に向かって延びている、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の電子レンジ加熱用包装体。
【請求項4】
第1シート部材を用意する第1工程と、
第2シート部材又はトレー容器を用意する第2工程と、
第1シート部材と、第2シート部材又は前記トレー容器と、を熱溶着する第3工程と、
を含んだ電子レンジ加熱用包装体の製造方法であって、
第1工程は、
基材層となるフィルムを用意する工程と、
前記基材層の内面側に、熱膨張性マイクロカプセルを含んだ発泡性インキを塗布して弱接着層を部分的に形成する工程と、
シーラント層となるフィルムを用意して、前記基材層の前記内面側に更に接着して積層する工程と、
を含み、
第3工程は、
第1シート部材の前記シーラント層を、第2シート部材の周縁部又は前記トレー容器の周縁部に熱溶着する工程と、
前記熱溶着の際に、前記熱膨張性マイクロカプセルを発泡させて前記弱接着層の表面を凹凸面に形成して前記弱接着層付近のシール強度を弱化させる工程と、
を含み、かつ、
前記弱接着層は、熱溶着された前記シーラント層の一部を蒸気抜け口予定部とするべく、前記一部に積層して設けられる、
ことを特徴とする電子レンジ加熱用包装体の製造方法。
【請求項5】
前記発泡性インキを塗布する工程では、前記熱膨張性マイクロカプセルを1~50質量%と、熱可塑性樹脂を1~25質量%と、溶剤を45~95質量%と、を含んだ液体を前記発泡性インキとして使用する、
ことを特徴とする請求項4に記載の電子レンジ加熱用包装体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子レンジ加熱用包装体に関し、より具体的には、発泡性インキを備えた電子レンジ加熱用包装体及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
(電子レンジ加熱用包装体の課題)
プラスチック製の包装体で密封された食材を、電子レンジや蒸し器などで調理した際には、包装体内部の食材が温まって発生した水蒸気の膨張によって包装体の内圧が上昇する。これにより、包装体が変形してしまったり、破裂してしまったりする不具合が生じてしまう。こうした不具合を防止するため、包装体内部の圧力が上昇した際に、密封箇所の一部を破壊して包装体の内部と外部とを連通し、内圧上昇の原因となる水蒸気を自動的に排出する内圧調整機能を持った包装体が必要となる。
【0003】
このような内圧調整機能を持つ包装体を製造するための従来技術として、例えば、特許文献1~3に示すように、内圧が加わる箇所の熱シール強度を部分的に低下させておくことが知られている。
【0004】
特許文献1に開示の包装体では、表裏いずれかのシーラント層に接着性を阻害する物質を塗布して互いに熱溶着することで、表と裏のシーラント層間(つまり、表裏の積層フィルムが向かい合って熱溶着する界面)の一部に弱接着層が形成されている。なお、接着性を阻害する物質としてシリコン系離型剤などのシリコンや無機物などが例示されている。
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示の従来技術では、表裏の積層フィルムが対向する界面に塗布された接着性を阻害する物質が、包装体内部に直接接触・露出・混入する可能性があるため、とりわけ、内容物(密封された食材)が液体の場合には使用できない。
【0006】
また、特許文献2に開示の包装体では、弱接着層を得るために特別な物質を使用せずに、密封箇所の一部分のみを他の部分よりも温度を低くして熱溶着することで、該一部分の接着強度を下げている。
【0007】
しかしながら、特許文献2に開示の従来技術では、包装体の製造時の熱溶着温度を厳密に管理する必要があり、包装体の生産速度(フィルム送り速度)や生産設備の環境温度に変化が生じた場合には弱接着箇所へ付与すべき熱溶着温度ひいてはシール強度を所望の値に保てなくなる危険がある。
【0008】
一方、特許文献3に開示の包装体では、一方の側の積層フィルムの外層(基材層)と内層(シーラント層)との間に、60~90℃の融点を有する樹脂からなるラミネート強度調整層を形成している。つまり、この包装体は、電子レンジによる加熱でラミネート強度調整層に凝集剥離を発生させることで接着強度を低下させ、内部に発生した水蒸気を抜くものである。なお、60~90℃の融点を有する樹脂の実施例として、ポリアミド-硝化綿系樹脂などが挙げられている。
【0009】
しかしながら、特許文献3に開示の従来技術では、ラミネート強度調整層を構成する樹脂の融点を超える温度下では(例えば、ボイル殺菌や湯煎調理などの用途には)使用できないといった不都合が生じてしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2007-284103号公報
【文献】特開平09-142541号公報
【文献】特開2007-217050号公報
【文献】特開2020-082586号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
このように、液体状でも固体状の内容物のどちらにでも対応可能であり、シール強度が包装体の製造時の環境温度や生産速度の変化の影響を受けにくく、更には、ボイル殺菌や湯煎調理などの様々な用途にも使用可能な電子レンジ加熱用包装体が求められていることに本発明者らは気付いたのである。
【0012】
つまり、本発明の目的は、内圧上昇時に水蒸気を自動的に排出する内圧調整機能を持ち、かつ、ボイル殺菌や湯煎調理などの様々な用途に使用可能な電子レンジ加熱用包装体を提供することである。
【0013】
また、本発明の別の目的は、固体状、液体状を問わずに内容物を包装でき、かつ、製造時の環境温度や生産速度の変化の影響を受けずに所望のシール強度を付与可能な電子レンジ加熱用包装体を提供することである。
【0014】
ところで、本願出願人の一方は、熱膨張性マイクロカプセルを含んだ発泡性インキを、積層フィルム(具体的には外層(基材層))の最も外側の表面に塗布した滑り止め包装体を既に提案している(特許文献4を参照)。この特許文献4の包装体では、包装体の製造時に発泡性インキが塗布された滑り止め層を熱処理(熱溶着)することで、滑り止め層内の熱膨張性マイクロカプセルが発泡する。この結果、最外表面の一部分である滑り止め層には凹凸状の表面が形成される。
【0015】
この特許文献4に開示の滑り止め包装体は、包装体の一部(例えば、抽出口や開封口)の掴み易さが要求される製品(例えば、洗剤詰め替え用パウチなどの用途)に向けて創作されたものである。つまり、この包装体には、掴みしろとなるべき箇所の表面部に対して、滑り止め層(つまり、凹凸状発泡体)が形成されているため、濡れた手で当該掴みしろに触れても(アプローチしても)、滑ることなく確実に当該部分を把持或いは開封することができるものである。
【0016】
本発明者らは、詰め替え用パウチ表面の滑り止め技術に使用されている発泡性インキを、包装体の内部構造部材として配置転換すれば、電子レンジ加熱用包装体に要求される内圧自動調整技術(蒸気抜き技術)としても、これを使用できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0017】
すなわち、本発明は、例えば、次の構成・特徴を採用するものである。
(態様1)
第1シート部材を備えた電子レンジ加熱用包装体であって、
第1シート部材には、基材層と、シーラント層と、前記基材層と前記シーラント層との間に発泡性インキが塗布された弱接着層と、が形成され、
前記発泡性インキは熱膨張性マイクロカプセルを含み、
前記弱接着層の表面は熱溶着により前記熱膨張性マイクロカプセルが発泡した凹凸面を形成し、
前記弱接着層は、前記包装体が加熱された際に、前記凹凸面を基点に、前記弱接着層の前記表面に隣接した前記基材層又は前記シーラント層の一方の層を、部分的に他方の層から剥離させて蒸気抜け口を形成する、
ことを特徴とする電子レンジ加熱用包装体。
(態様2)
電子レンジ加熱用包装体は、第2シート部材又はトレー容器をさらに備え、
第1シート部材の前記シーラント層は、第2シート部材の周縁部又は前記トレー容器の周縁部に熱溶着し、
前記弱接着層は、熱溶着された前記シーラント層の一部を蒸気抜け口予定部とするべく、前記一部に積層して設けられる、
ことを特徴とする態様1に記載の電子レンジ加熱用包装体。
(態様3)
前記弱接着層内には前記発泡性インキが塗布されていないインキ未印刷部が形成され、
前記インキ未印刷部は、前記弱接着層の平面積を分割するように該弱接着層の内側縁から外側縁に向かって延びている、
ことを特徴とする態様1又は2に記載の電子レンジ加熱用包装体。
(態様4)
第1シート部材を用意する第1工程と、
第2シート部材又はトレー容器を用意する第2工程と、
第1シート部材と、第2シート部材又は前記トレー容器と、を熱溶着する第3工程と、
を含んだ電子レンジ加熱用包装体の製造方法であって、
第1工程は、
基材層となるフィルムを用意する工程と、
前記基材層の内面側に、熱膨張性マイクロカプセルを含んだ発泡性インキを塗布して弱接着層を部分的に形成する工程と、
シーラント層となるフィルムを用意して、前記基材層の前記内面側に更に接着して積層する工程と、
を含み、
第3工程は、
第1シート部材の前記シーラント層を、第2シート部材の周縁部又は前記トレー容器の周縁部に熱溶着する工程と、
前記熱溶着の際に、前記熱膨張性マイクロカプセルを発泡させて前記弱接着層の表面を凹凸面に形成して前記弱接着層付近のシール強度を弱化させる工程と、
を含み、かつ、
前記弱接着層は、熱溶着された前記シーラント層の一部を蒸気抜け口予定部とするべく、前記一部に積層して設けられる、
ことを特徴とする電子レンジ加熱用包装体の製造方法。
(態様5)
前記発泡性インキを塗布する工程では、前記熱膨張性マイクロカプセルを1~50質量%と、熱可塑性樹脂を1~25質量%と、溶剤を45~95質量%と、を含んだ液体を前記発泡性インキとして使用する、
ことを特徴とする態様4に記載の電子レンジ加熱用包装体の製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明の電子レンジ加熱用包装体では、発泡性インキをラミネート層の内面に塗布して熱溶着により該発泡性インキ内の熱膨張性マイクロカプセルを発泡させることで、凹凸形状の表面を有した弱接着層がラミネート層内(基材層とシーラント層との間)に形成される。これにより、本包装体内の内容物が加熱され、水蒸気が発生して収容空間の内圧が所定圧まで上昇すると、凹凸面(つまり、低シール強度)を有した弱接着層とこの隣接箇所との境界には剪断力の応力差が顕著になる。そうすると、この境界部分を基点に、弱接着層が上下のラミネート層から剥離し始めるとともに、ラミネート層も破断又は剥離して、収容空間-シーラント層-弱接着層-基材層-外部空間を連通する蒸気抜け口(連通経路)を自動的に形成し、水蒸気を包装体外へ逃がすことが可能となる。
【0019】
本発明の電子レンジ加熱用包装体は、弱接着層が内容物に直接触れることのない内側層(つまり、基材層とシーラント層との間)に印刷されているため、シーラント層より更に内側に収容される内容物(例えば、食材)は、この弱接着層に通常、触れることは無い。従って、本発明の包装体は、液体状でも固体状の内容物のどちらにでも対応可能である。
【0020】
さらに、本発明の製造方法によれば、通常の製造環境(熱溶着工程及び熱溶着温度)の下で、発泡性インキを含んだ弱接着層も形成できるため、シール強度が製造時の環境温度や包装体生産速度の変化の影響を受けにくくいといった恩恵を享受できる。
【0021】
加えて、弱接着層の融点は、少なくとも通常の熱溶着温度(110~160℃)よりも高いため、ボイル殺菌や湯煎調理などの様々な用途に本発明の包装体を使用可能であるといった利点も享受できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明(実施例1)の包装体全体の構造を示した断面図及び平面図、並びにその一部(周縁部)の構造を示した拡大断面図である。
【
図2】本発明(実施例1の変形例)の包装体の平面図、及び、弱接着層内のインキ印刷部の配置を説明した図である。
【
図3】本発明の包装体の製造方法を構成する各工程を示したフローチャートである。
【
図4】包装体内の水蒸気が発生して外部へ抜け出るまでの剥離のメカニズムを説明した図である。
【
図5】(a)及び(b)は発泡前及び後の発泡性インキの状態を示す画像であり、(c)は、
図5(b)の一部(マイクロカプセル)を拡大した画像である。
【
図6】熱溶着温度と剥離強度との関係を示したグラフである(実施例及び比較例)。
【
図7】本発明(実施例2)の包装体全体の構造を示した断面図及び平面図、並びにその一部(周縁部)の構造を示した拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を図面に示す実施の形態に基づき説明するが、本発明は、下記の具体的な実施態様に何等限定されるものではない。なお、各図において同一又は対応する部材には同一符号を用いる。
【実施例1】
【0024】
(参照する各図面の詳細説明)
図1(a)は、実施例1に係る電子レンジ加熱用包装体100(100A)(以下、単に「包装体」とも呼ぶ。)を示した概略断面図である。
図1(b)は、包装体100Aの概略平面図を示した図である。
図1(c)は、
図1(a)中の円C(破線)で囲んだ部分を示す部分拡大図である。
図2(a)は、実施例1の変形例に係る包装体100Bの概略平面図であり、
図2(b)~(f)は、後述する弱接着層14内のインキ印刷部15Aの配置を説明した図である。
図3は、本発明の包装体100Aの製造方法を構成する各工程を示したフローチャートである。
図4(a)~(e)は、包装体100A内の水蒸気STが発生して外部へ抜け出るまでの剥離のメカニズムを説明した図である。
図5(a)及び(b)は発泡前及び後の発泡性インキ15の状態を示す画像であり、
図5(c)は、
図5(b)の一部(マイクロカプセル16)を拡大して示した画像である。
図6は、熱溶着温度TSと剥離強度PSとの関係を示したグラフである。
【0025】
(実施例1に係る包装体(平袋)の概略)
実施例1に示す包装体100Aは、第1シート部材1と、第2シート部材2とを備えた平袋の形態である。第1・第2シート部材1,2は、互いの周縁部11,21にて熱溶着(ヒートシール)され、食材3等が封入された内部空間4を形成する。なお、包装体100Aに食材3を確実に封入するためには、最初、互いの周縁部11,21のうちの三辺11b~11dが熱溶着された三方シール袋を成す包装体100Aを使用し、熱溶着されていない一辺(例えば、後述の上辺11a)から食材3を内部空間4に詰め込んだ後で、この一辺11aを熱溶着(封緘)することが好ましい(
図1(c)中の熱溶着面HSを参照)。
【0026】
(蒸気抜け口予定部の形成)
第1シート部材1の周縁部11は、四辺(すなわち、上辺11a、底辺11b、及び、左右の側辺11c,11d)からなる。このうち、上辺11aの一部(図示では中央部)には、電子レンジ調理時に包装体100A内の水蒸気STを外部へ逃がす抜け口となる、蒸気抜け口予定部5が形成されている(
図1(b)参照)。
【0027】
(第1シート部材の断面構造)
図1(c)は、この蒸気抜け口予定部5を有する部分の断面構造を拡大して示す。第1シート部材1は、耐熱性を有した基材層12と、シーラント層13と、この基材層12とシーラント層13とを接続する図示しない接着層と、を備える。このように、互いに異なる材料からなるフィルムが積層されたものを複層ラミネートフィルム或いはラミネート層12,13とも呼ぶ。なお、商品販売上の観点から、基材層12は複数の層(図示しない第1・第2基材層)で形成されていてもよく、第1・第2基材層の間に、図示しない接着層や印刷層をさらに設けるようにしてもよい。
【0028】
(第2シート部材の断面構造)
第2シート部材2も、第1シート部材1と同様の構成であり、耐熱性を有した基材層22と、シーラント層23と、この基材層22とシーラント層23とを接続する図示しない接着層と、を備える。なお、商品販売上の観点から、基材層22は複数の層(図示しない第1・第2基材層)で形成されていてもよく、第1・第2基材層の間に、図示しない接着層や印刷層をさらに設けるようにしてもよい。
【0029】
(第1シート部材に設置された弱接着層)
なお、本実施例では第1シート部材1にのみ、延伸フィルムから構成された基材層12と、無延伸フィルムで構成されたシーラント層13との間に、図示しない接着層の他に、後述する弱接着層14がさらに形成されていることに留意されたい。このような異種材料からなる複層ラミネートフィルム12,13が伸ばされた際に、伸びにくい延伸フィルムである基材層12と、伸びやすい無延伸フィルムであるシーラント層13と、の間(具体的には、境界線BL(
図1(c)を参照))に伸びの差による剪断応力が発生する。本発明のように、この応力差が生じる境界線BLの一部に弱接着層14を塗布しておくことで、弱接着層14が塗布されていない部分と塗布されていない部分との境界Bで強い応力差が発生し、この境界B付近を基点に上下のラミネート層12,13の破壊(剥離)が発生し易くなるのである。
【0030】
弱接着層14は、熱溶着される周縁部11の少なくとも一部に設けられる。特に、電子レンジ加熱時に水蒸気で包装体100Aが膨張した際に、引張応力が強く掛る箇所(例えば、三方シール袋の場合は周縁部11のいずれかの辺11a~11dの中央)に弱接着層14を配置することが好ましい。なお、
図1(b)の包装体100Aでは、周縁部11の一辺11aにのみ弱接着層14を配置した例を示すが、
図2(a)の包装体100Bでは、周縁部11の全ての辺11a~11dに弱接着層14を夫々配置した変形例を示す。
【0031】
図2(b)~(f)は、弱接着層14の構成要素である発泡性インキ15の印刷領域15A(以下、「インキ印刷部」又は単に「印刷部」とも呼ぶ)を示した図である。
図2(b)では、弱接着層14の平面積全てに発泡性インキ15をベタ塗りした場合を示す。この例に限らず、弱接着層14を平面視で観察した場合に、弱接着層14の平面積を分割するように発泡性インキ15を塗布しない領域(以下、「インキ未印刷部」又は単に「未印刷部」とも呼ぶ)NPを配置することが好ましい(
図2(c)参照)。これにより、
図2(b)に示した発泡性インキ15をベタ塗りした場合(弱接着層14の全表面へのインキ塗布割合が100%の場合)に比べると、発泡性インキ15の有る部分15Aと無い部分NPとの境界Bの長さを倍増させることができ、後述するように内圧上昇時の剥離(内部空間4と外部空間との連通)が発生しやすい箇所(剥離発生促進箇所)を増やすことができる。
【0032】
具体的には、
図2(c)に示すように、インキ印刷部15Aの左右方向中央に、1~2mmの横幅Wを有したインキ未印刷部NPを形成することが好ましい。この例では、印刷部15Aも未印刷部NPも熱溶着部(周縁部11)の全幅Wsに亘って(内側縁から外側縁まで)延びている。これにより、剥離発生促進箇所の長さは2倍に増長している。
【0033】
しかしながら、この例に限定されず、例えば、
図2(d)に示すように、未印刷部NPの延伸が内側縁から外側縁へ向かう途中で終わる形態であってもよい。この未印刷部NPと印刷部15Aとの境界Bである剥離発生促進箇所の長さは、約1~2倍(
図2(d)の場合は、約1.5倍強)に増長する。なお、この未印刷部NPの延伸長さは、熱溶着部(周縁部11)の全幅Wsに対して、1~100%の範囲内に設定すればよい。また、未印刷部NPは、印刷部15Aを左右方向に分割できれば、一箇所に限らず複数箇所配置してもよい(
図2(e)及び(f)も参照)。これにより、剥離発生促進箇所をさらに倍増させることができる。
【0034】
以上の様々な実施態様を有した弱接着層14が、第1シート部材1に配置されることを示したが、上述の態様の構成に限らない。例えば、弱接着層14を第2シート部材2の側にも(つまり、表裏の両側に)形成してもよい。
【0035】
この弱接着層14は、上述のとおり、熱溶着される周縁部11の一部に、発泡性インキ15を塗布することで形成することができる。弱接着層14は、好ましくは、包装体100内の食材3が温められ、発生した水蒸気STの圧力で包装体100が膨張した際に、引張応力が強く掛かる箇所に配置する(
図2(a)も参照)。
【0036】
(基材層の材料)
なお、基材層12,22の素材として、ナイロン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等の延伸フィルム材料を用いることが望ましいが、これらに限定されない。
【0037】
(シーラント層の材料)
また、シーラント層13,23の素材として、例えば、無延伸ポリプロピレン等の無延伸フィルム材料を用いることが望ましいが、必ずしもこれに限定されない。本発明においては、ラミネート層を構成する基材層12,22とシーラント層13,23とが、夫々、異なる弾性係数(ヤング率)を有し、この弾性係数の違いにより、内圧上昇時にその境界線BLにおいて剪断応力が生じることである。
【0038】
(弱接着層の材料)
また、弱接着層14は、発泡性インキ15が塗布(印刷)された層である。この発泡性インキ15には、熱膨張性マイクロカプセル16(以下、単に「マイクロカプセル」とも呼ぶ)が含まれていることを特徴とする。発泡性インキ15として、具体的には、熱膨張性マイクロカプセル16を1~50質量%と、熱可塑性樹脂を1~25質量%と、溶剤を45~95質量%と、を含んだ液体を使用することが好ましい。
【0039】
(熱膨張性マイクロカプセルの配分割合)
熱膨張性マイクロカプセル16は、1~50質量%含むことが好ましく、3~40質量%含むことが更に好ましい。下限の1質量%より少ないと熱溶着時の発泡性(凹凸成形性)が低下する一方、上限の50質量%を超えると基材密着性が劣るようになるからである。
【0040】
(熱膨張性マイクロカプセルの組成)
熱膨張性マイクロカプセル16は、塩化ビニル系樹脂、エチレン酢酸ビニル系樹脂、アクリル系樹脂などの熱可塑性樹脂を基材としたマイクロカプセルに、イソブタン、ブタン、イソペンタン、n-ペンタンなどの脂肪族炭化水素を内包したものであり、加熱により内包した脂肪族炭化水素が気化してマイクロカプセル16を膨張するものである。マイクロカプセル16の粒径は3~20μmであり、発泡倍率は4~10倍であることが好ましい。
【0041】
(熱溶着後のマイクロカプセルの形状変化)
具体的には、マイクロカプセル16は、後述する包装体100の製造方法の熱溶着の際に加熱されて膨張し、該マイクロカプセル16を含む弱接着層14の表面14s(隣接するラミネート層12,13との界面)が凹凸状に形成される。
【0042】
(熱可塑性樹脂の配分割合)
熱可塑性樹脂は、1~25質量%含むことが好ましく、5~20質量%含むことが更に好ましい。下限の1質量%より少ないと基材密着性が劣りようになる一方、上限の25質量%を超えるとインキの流動性が悪くなり、インキ製造適性が劣るようになるからである。
【0043】
(熱可塑性樹脂の組成)
熱可塑性樹脂は、例えば、硝化綿、セルロースアセチルプロピオネート、ポリアミド樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、ポリエステル樹脂、塩素化ポリプロピレン樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ウレタン樹脂、アクリル系エマルジョン、ウレタン系エマルジョンなどが好ましいが、必ずしもこれらに限定されず、これらの樹脂は、単独または2種類以上であってもよい。
【0044】
(溶剤の配分割合)
溶剤は、45~95質量%含むことが好ましく、50~90質量%含むことがより好ましい。下限の45質量%より少ないとインキの流動性が悪くなってインキ製造適性が劣るようになる一方、上限の95質量%を超えるとインキ膜厚が局部的に不均一になり、印刷面上に不定形の濃淡(泳ぎ現象)が生じるおそれがある。
【0045】
(溶剤の組成)
溶剤は、上述のマイクロカプセル16と熱可塑性樹脂とを該溶剤中に分散させるものである。この溶剤は公知の有機溶剤型の溶剤を用いることができるが、印刷適性や汎用性の観点から、例えば、トルエン、酢酸エチル、酢酸n-プロピル、イソプロピルアルコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、メチルエチルケトンなどがより好ましい。これらは、単独または2種類以上混合して用いることができる。
【0046】
(包装体の製造方法)
図3は、本発明の包装体100A(100B)の製造方法を構成する各工程を示したフローチャートである。先ず、包装体100Aの一方の面(例えば、表面)を構成することになる第1シート部材1を用意する(第1工程S1)。また、包装体100Aの他方の面(例えば、裏面)を構成することになる第2シート部材2を用意する(第2工程S2)。そして各部材1,2の用意が整ったら、第1シート部材1と第2シート部材2とを積層(熱溶着)するのである(第3工程S3)。なお、別の変形例(
図7を参照)では、第2シート部材2をトレー容器6にしてもよい。
【0047】
(第1工程の詳説)
ここで、第1工程S1では、前述の基材層12となる延伸フィルムを用意する(工程S11)。なお、基材層12は、単一フィルムからなる単層だけでなく、複数のフィルムを積層させた多層(例えば二層)で構成されていてもよく、互いの層の間に接着剤からなる接着層やパッケージ表面となる印刷層が内層(積層)されていてもよい。
【0048】
そして、この基材層12の内面側(つまり、第1・第2シート部材1,2が熱溶着された際に食材3を含んだ内部空間4に近接する側)に、マイクロカプセル16を含んだ発泡性インキ15を塗布して弱接着層14を部分的に形成する(工程S12)。さらに、シーラント層13となる無延伸フィルムを用意して、基材層12の前記内面側に接着して積層する(工程S13)。
【0049】
この発泡性インキ15を塗布する工程S12では、マイクロカプセル16を1~50質量%と、熱可塑性樹脂を1~25質量%と、溶剤を45~95質量%と、を含んだ液体を発泡性インキ15として使用することが好ましい。
【0050】
(第2工程の説明)
なお、第2シート部材2も、第1シート部材1の製造のための上述の工程S11~S13と同様の工程S21~S23で製造することができるため、詳細な説明を省略する。ここで、第2シート部材2の側に弱接着層14を設ける必要が無い場合には、上記工程S12に対応する工程S22を実行しなくてもよい。
【0051】
(第3工程の詳説)
ここで、第3工程S3では、第1シート部材1のシーラント層13の周縁部11を、第2シート部材2のシーラント層23の周縁部21に熱溶着する(工程S31)。そして、熱溶着工程S31の際に、マイクロカプセル16を発泡させて弱接着層14の表面14sを凹凸面に形成して、この弱接着層14付近のシール強度を弱化(低下)させることができる(工程S32)。この際に、弱接着層14は、上下に熱溶着されたラミネート層12,13の一部を蒸気抜け口予定部5とするべく、該一部に積層して設けられている。
【0052】
この第3工程S3が終了すれば、三方面の辺11b~11dが熱溶着された包装体100Aが製造される。この後、開口した残り一方面の辺11aから、該包装体100Aの内部空間4内に所望の食材3を詰め込む(工程S4)。食材3の詰込みが完了した後、残りの辺11aにも熱溶着を行い、包装体100Aの内部空間4(内の食材3)を完全に密封する(工程S5)。
【0053】
(剥離のメカニズム)
次に、電子レンジで包装体100Aの加熱を開始し、包装体100A内の水蒸気STが生じて、これが抜け出るまでの剥離のメカニズムについて
図4を参照しながら解説する。
【0054】
先ず、電子レンジを用いて
図4(a)に示す包装体100Aを加熱し始めると、包装体100Aの内部空間4内の食材3が温まり、
図4(b)に示すように水蒸気STが発生し、内部空間4の内圧が上昇する。この内圧は、当然に、
図4(b)の矢印で示すように、表裏の第1・第2シート部材1,2が接続された熱溶着部分にも加わる。基材層12とシーラント層13とは互いに異なる材料で作られているため、引張時の弾性係数(ヤング率)も異なる。従って、内圧が高くなり各層12,13に引張応力が掛かると、ラミネート層12,13間(境界線BL)には引張応力差に基づく剪断応力が生じることになる。
【0055】
基材層12とシーラント層13との層間(境界線BL)に着目すると、これらの熱溶着部分の一部には発泡性インキ15を含んだ弱接着層14が追加的に塗布(印刷)されているため、同じ層間BLでも弱接着層14の有る箇所(インキ印刷部15A)は、これが無い箇所(インキ未印刷部NP)に比べて上下の基材層12又はシーラント層13との接着強度が低いため、弱接着層14は、上述の剪断力を受けると、その境界Bを基点として、ラミネート層12,13の少なくとも一方から剥離し始める。つまり、内部空間4の内圧が上昇すると、弱接着層14付近にある基材層12とシーラント層13との間に間隙G(剥離)が生じることになる(
図4(c)を参照)。
【0056】
一方、熱溶着部分でも、弱接着層14が無いインキ未印刷部NPではシール強度が比較的高いため、上下にある基材層12とシーラント層13との剥離が生じにくい。従って、インキ印刷部15Aとインキ未印刷部NPの境界Bにて大きな応力変化が生じ、通常は、比較的に伸びやすいシーラント層13が先ず切断され、弱接着層14付近に生まれた間隙Gに入り込む。ここで、
図4(d)中の符号C
1はシーラント層13の切断部を示す。
【0057】
そして、間隙Gの直ぐ隣にある基材層12も、自身の引張強度だけでは、次第に持ちこたえることができなくなって切断或いは剥離する。
図4(e)中の符号C
2は基材層12の切断部(剥離部)を示す。このため、最終的には、各層12,13に形成された切断部C
1,C
2と間隙Gとから構成された経路CPが、内部空間4と外部とを連通する。この連通経路CPを通って、内部空間4の水蒸気STが外部へ抜け出ることになる。
【0058】
(弱接着層の試作及び発泡前後のマイクロカプセルの観察)
上述の製造方法を実行することにより、本発明の包装体100Aを作製した。
図5(a)及び(b)は、熱溶着工程S31(発泡)前及び後の発泡性インキ15の状態を示す画像であり、
図5(c)は、
図5(b)の一部を拡大した画像である。
図5(c)に示すように、上述の熱溶着により、マイクロカプセル16の一つ一つが一面(弱接着層14の表面14s)に亘って発泡していることが観察される。これにより弱接着層14の表面14sは、多数の球体がランダムに並んだ凹凸面を形成するため、該弱接着層14の部分に積層された基材層12及びシーラント層13との接着強度(「シール強度」とも呼ぶ)を、弱接着層14が塗布されていない部分(インキ未印刷部NP)のシール強度に比して、弱化させることができる。
【0059】
(従来の包装体と本発明の包装体)
次に、本発明の包装体100A(実施例)と従来の包装体(比較例)との両方を作製した。この際に、熱溶着工程S31時に設定する熱溶着温度TS(「シール温度」とも呼ぶ)を変えて(110~160℃の範囲の中で5℃おきに)、それぞれの包装体のサンプルを作製してみた。実施例及び比較例の場合でも、各温度TS条件では、少なくとも3袋を供試サンプルとして作製した。なお、比較例の包装体は、ラミネート層12,13間に弱接着層14を設けていない点だけが実施例の包装体100Aと異なり、それ以外の構成(袋形状・寸法・材質など)は実施例と同様である。
【0060】
その後、各シール温度TS下で熱溶着された実施例及び比較例の包装体の剥離強度PSを測定した。具体的には、第1・第2シート部材1,2の熱溶着面HSを互いに引き離すように引張力を与え、剥離に至った引張強度を剥離強度PSとして記録した。以下の表1及び
図6にその結果を示す。なお、表1中に示した各値は、同一温度TS条件下の複数のサンプルから取得した測定値の平均値である。
【0061】
【0062】
これらの剥離強度PSを観察すると、従来の包装体(比較例)では、110℃の熱溶着温度TSで作られたサンプルでは、剥離強度PSは1.43kgf/15mmと低いが、温度TSをさらに高く設定して作製されたサンプルでは、設定温度を高くする毎に、その剥離強度PSは急激に上昇し、130℃以上の温度TS下で作製されたサンプルでは約7kgf/15mmに落ち着く。
【0063】
一方で、実施例の包装体100A(弱接着層14)では、110℃の熱溶着温度TSで作られたサンプルでは、その剥離強度PSは1.34kgf/15mmとやや低いものの、115℃以上の熱溶着温度TS下で作製されたサンプル100Aでは約2kgf/15mmであり、広い温度範囲に亘って、剥離強度PSはほぼ変化なく一定に推移していることが判る。
【0064】
これらの測定結果より、(1)本発明の包装体100Aでは、熱溶着温度TS条件を50℃近く大きく変化させて作製しても、その剥離強度PSは殆ど変化が無く一定に保つことが判った。これにより、包装体製造現場にて、環境温度及び熱溶着温度並びにフィルム送り速度が厳しく管理できていなかった場合でも、製造される本発明の包装体100A(弱接着層14)は、これらのファクターの影響を受けずに常に所望の剥離強度(内圧の自動調整機能)を提供(発揮)するといえる。
【0065】
また、これらの測定結果を定量的に観察すると、(2)熱溶着温度TSを115℃以上に設定して作製された本発明の弱接着層14では、従来製品(通常のラミネート層の接着)に比べて、その剥離強度PSを3割未満にまで低く抑制できることが明らかになった。なお、剥離強度PSは低ければ低い方が良いかと思われるが、余りに低すぎると(例えば、実施例のPS値が比較例のPS値の1割未満であると)、電子レンジ加熱の際に内部空間4内に発生した水蒸気による食材3の蒸らしが不充分になる懸念があるため、実験結果が示した剥離強度PSは、食材3の蒸らしの観点からも望ましい(丁度良い)と考えられる。
【0066】
さらに、(3)本発明の弱接着層14は、熱溶着温度TSが160℃下であっても融けることも無く、ラミネート層12,13内に安定的に形成されていることが判った。つまり、弱接着層14の融点は、少なくとも通常の熱溶着温度TSよりも高いことが判った。このことから、本発明の包装体100Aは、ボイル殺菌や湯煎調理など高温環境下に置かれる用途にも問題無く使用することができる。
【0067】
このように、本発明の包装体100Aにおいては、弱接着層14付近の箇所では低い剥離強度PSが常に発揮され、この箇所以外の熱溶着部分の接着強度は従来製品と何ら変わらずに高いままとなることから、電子レンジ加熱による内圧上昇時には、常に弱接着層14付近の箇所から蒸気抜けを実現することができるといえよう。従って、弱接着層14の塗布を選択するだけで、蒸気抜け口を所望の位置に配置することができる。
【実施例2】
【0068】
図7(a)は、実施例2に係る電子レンジ加熱用包装体100(100C)を示した概略断面図である。
図7(b)は、包装体100Cの概略平面図を示した図である。
図7(c)は、
図7(a)中の円C(破線)で囲んだ部分を示す部分拡大図である。
【0069】
(実施例2に係る包装体(トレーパック)の概略)
実施例2に示す包装体100Cは、実施例1に示すような第1シート部材1と、トレー容器6とを備えたトレーパックの形態である。実施例2の形態は、実施例1の第2シート部材2に代えて、トレー容器6を使用した点が異なるだけで、その他の構成は実施例1の形態を実質的に異ならないため、共通部分の説明は省略する。
【0070】
この実施例2では、第1シート部材1とトレー容器6とは、互いの周縁部11,61にて熱溶着(ヒートシール)され、食材3等が封入された内部空間4を形成する。この第1シート部材1の周縁部11も、実施例1と同様に、四辺(すなわち、上辺11a、底辺11b、及び、左右の側辺11c,11d)からなる。このうち、上辺11aの一部(図示では中央部)には、電子レンジ調理時に蒸気抜け口が生じることになる蒸気抜け口予定部5が形成されている。つまり、第1シール部材1の周縁部11のシーラント層13がトレー容器6の周縁部61の上面(
図7(c)中の熱溶着面HSを参照)と熱溶着されるが、弱接着層14近くのラミネート層12,13の領域が蒸気抜け口予定部5となり、電子レンジ加熱の際に、剥離強度の比較的低い弱接着層14付近(具体的には、境界B)を基点に、該領域5が剥離して蒸気抜け口(連通経路)が形成されるのである。
【0071】
(包装体のシール形態のその他の変形例)
以上、本発明の包装体100を図面に示す実施例1,2に基づき説明したが、本発明の趣旨を逸脱しなければ、必ずしもこれらの例に限定されるものでは無い。実施例1,2では、平袋やトレーパックの包装体100A,100B,100Cを使用したが、例えば、深絞り包装、ピロー包装、スタンディングパウチ、封筒貼りなど様々な形態の包装体に本発明の弱接着層14(発泡性インキ15)を形成することができる。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明の電子レンジ加熱用包装体では、発泡性インキをラミネート層の内面に塗布して熱溶着により該発泡性インキ内の熱膨張性マイクロカプセルを発泡させることで、凹凸形状の表面を有した弱接着層がラミネート層内(基材層とシーラント層との間)に形成される。これにより、本包装体内の内容物が加熱され、水蒸気が発生して収容空間の内圧が所定圧まで上昇すると、凹凸面(つまり、低シール強度)を有した弱接着層とこの隣接箇所との境界には剪断力の応力差が顕著になる。そうすると、この境界部分を基点に、弱接着層が上下のラミネート層から剥離し始めるとともに、ラミネート層も破断又は剥離して、収容空間-シーラント層-弱接着層-基材層-外部空間を連通する蒸気抜け口(連通経路)を自動的に形成し、水蒸気を包装体外へ逃がすことが可能となる。
【0073】
本発明の電子レンジ加熱用包装体は、弱接着層が内容物に直接触れることのない内側層(つまり、基材層とシーラント層との間)に印刷されているため、シーラント層より更に内側に収容される内容物(例えば、食材)は、この弱接着層に通常、触れることは無い。従って、本発明の包装体は、液体状でも固体状の内容物のどちらにでも対応可能である。
【0074】
さらに、本発明の製造方法によれば、通常の製造環境(熱溶着工程及び熱溶着温度)の下で、発泡性インキを含んだ弱接着層も形成できるため、シール強度が製造時の環境温度や包装体生産速度の変化の影響を受けにくくいといった恩恵を享受できる。
【0075】
加えて、弱接着層の融点は、少なくとも通常の熱溶着温度(110~160℃)よりも高いため、ボイル殺菌や湯煎調理などの様々な用途に本発明の包装体を使用可能であるといった利点も享受できる。
【0076】
このような顕著な作用効果を発揮する本発明の包装体及びその製造方法は、包装体業界や市場には見当たらず、産業上の利用価値及び産業上の利用可能性が非常に高い。
【符号の説明】
【0077】
1 第1シート部材
2 第2シート部材
3 食材
4 内部空間
5 蒸気抜け口予定部
6 トレー容器
11,11a,11b,11c,11d, 第1シート部材の周縁部
12 第1シート部材の基材層(ラミネート層の一つ)
13 第1シート部材のシーラント層(ラミネート層の一つ)
14,14s 弱接着層,弱接着層の表面
15,15A 発泡性インキ,インキ印刷部
16 熱膨張性マイクロカプセル
21 第2シート部材の周縁部
22 第2シート部材の基材層(ラミネート層の一つ)
23 第2シート部材のシーラント層(ラミネート層の一つ)
61 トレー容器の周縁部
100,100A,100B,100C 本発明(実施例)の包装体
HS 熱溶着面
B 熱溶着部内の弱接着層とそれ以外のインキ未印刷部との境界
BL ラミネート層(基材層とシーラント層)間の境界線
C1,C2 シーラント層の切断部,基材層の切断部(剥離部)
CP 包装体の内部空間と外部とを連通する経路
G 剥離時にラミネート層間に生じる間隙
HS 熱溶着面
NP インキ未印刷部
PS 剥離強度(シール強度)
ST 水蒸気
TS 熱溶着温度(シール温度)
W インキ未印刷部の横幅
Ws 熱溶着部(周縁部)の全幅