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特許7429020光触媒を用いて有機物を分解する方法およびそのために用いる組成物
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  • 特許-光触媒を用いて有機物を分解する方法およびそのために用いる組成物 図1A
  • 特許-光触媒を用いて有機物を分解する方法およびそのために用いる組成物 図1B
  • 特許-光触媒を用いて有機物を分解する方法およびそのために用いる組成物 図2A
  • 特許-光触媒を用いて有機物を分解する方法およびそのために用いる組成物 図2B
  • 特許-光触媒を用いて有機物を分解する方法およびそのために用いる組成物 図3
  • 特許-光触媒を用いて有機物を分解する方法およびそのために用いる組成物 図4
  • 特許-光触媒を用いて有機物を分解する方法およびそのために用いる組成物 図5
  • 特許-光触媒を用いて有機物を分解する方法およびそのために用いる組成物 図6
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-30
(45)【発行日】2024-02-07
(54)【発明の名称】光触媒を用いて有機物を分解する方法およびそのために用いる組成物
(51)【国際特許分類】
   A61L 9/20 20060101AFI20240131BHJP
   A61K 33/24 20190101ALI20240131BHJP
   A61P 37/08 20060101ALI20240131BHJP
   B01J 35/39 20240101ALI20240131BHJP
【FI】
A61L9/20
A61K33/24
A61P37/08
B01J35/02 J
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019096647
(22)【出願日】2019-05-23
(65)【公開番号】P2020189278
(43)【公開日】2020-11-26
【審査請求日】2022-05-23
(73)【特許権者】
【識別番号】507161983
【氏名又は名称】ITEA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149076
【弁理士】
【氏名又は名称】梅田 慎介
(74)【代理人】
【識別番号】100173185
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 裕
(72)【発明者】
【氏名】蔵田 圭吾
【審査官】磯部 香
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-257104(JP,A)
【文献】特開2017-048088(JP,A)
【文献】特開平08-131834(JP,A)
【文献】特開2010-234312(JP,A)
【文献】特開2013-166122(JP,A)
【文献】特開2008-073957(JP,A)
【文献】特開2014-033776(JP,A)
【文献】特開2006-265498(JP,A)
【文献】特開2012-144635(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 9/20
A61K 33/24
A61P 37/08
B01J 35/02
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酢酸以外の有機物を分解する方法であって、
酢酸存在下かつ光照射条件下で、光触媒と酢酸以外の有機物を接触させて前記有機物を分解することと{但し、光触媒は、表面に親水性カチオンポリマー修飾を有するものではない。}
分解中または分解後に前記有機物を検出することと、
を含む、方法。
【請求項2】
前記有機物が、アレルゲン、ほこり、チリ、ウイルス、微生物、または病原体である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
光触媒の光触媒活性の評価方法であって、
酢酸存在下かつ光照射条件下で、光触媒と酢酸以外の有機物を接触させて前記有機物を分解することと、
分解中または分解後に前記有機物を検出することと、
検出された前記有機物の量に基づいて光触媒の光触媒活性を評価することと{但し、光触媒は、表面に親水性カチオンポリマー修飾を有するものではない。}
を含む、方法。
【請求項4】
前記有機物が、アレルゲン、ほこり、チリ、ウイルス、微生物、または病原体である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記有機物が、アレルゲン、ほこり、チリ、またはウイルスである、請求項1または2に記載の方法
【請求項6】
前記有機物が、アレルゲン、ほこり、チリ、またはウイルスである、請求項3または4に記載の方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酢酸と光触媒とを接触させる方法、光触媒を用いて有機物を分解する方法、およびそのために用いる組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
光触媒は光を当てることによって有機物(例えば、有害物質の分解や殺菌)および水の加水分解による水素製造などに利用できることからその実用化のための開発が活発に進められている(特許文献1)。光触媒の触媒活性を向上させることによって、光触媒の利用や、光触媒の改良を効率的に進めることができると期待される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】US10226543B
【発明の概要】
【0004】
本発明は、酢酸と光触媒とを接触させる方法、光触媒を用いて有機物を分解する方法、およびそのために用いる組成物を提供する。
【0005】
本発明者は、酢酸存在下では、光触媒の触媒活性が向上すること、および有機物(例えば、病原体やアレルゲン)の光触媒による分解が促進されることを見出した。本発明はこれらの知見に基づくものである。
【0006】
本発明によれば、例えば、以下の産業上利用可能な発明が提供される。
(1)酢酸と光触媒の組合せ。
(2)有機物を更に含む、上記(1)に記載の組合せ。
(3)光触媒によって有機物を分解することに用いるための、上記(1)または(2)に記載の組合せ。
(4)酢酸存在下で、有機物を分解することに用いるための、光触媒を含む組成物。
(5)有機物を分解する方法であって、
酢酸存在下で、光触媒を用いて有機物を分解することを含む、方法。
(6)上記(5)に記載の方法であって、分解中または分解後に有機物を検出することをさらに含む、方法。
(7)光触媒の光触媒活性を増加させる方法であって、
酢酸と光触媒とを接触させることを含む、方法。
(8)光触媒の光触媒活性の評価方法であって、
酢酸存在下で、光触媒の光触媒活性を評価することを含む、方法。
(9)光触媒によるアレルゲンの低減方法であって、
酢酸存在下で、アレルゲンと接触した光触媒の光触媒活性を光照射によって活性化することを含む、方法。
(10)酢酸と光触媒とを接触させることを含む、方法。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1A図1Aは、有機物としてスギ花粉アレルゲン(Cry j 1)を酢酸緩衝液中で光触媒で分解したときの溶液中のアレルゲン残存率の推移を示す。
図1B図1Bは、有機物としてスギ花粉アレルゲン(Cry j 1)をリン酸緩衝食塩水中で光触媒で分解したときの溶液中のアレルゲン残存率の推移を示す。
図2A図2Aは、有機物としてダニアレルゲン(Der f 1)を酢酸緩衝液中で光触媒で分解したときの溶液中のアレルゲン残存率の推移を示す。
図2B図2Bは、有機物としてダニアレルゲン(Der f 1)をリン酸緩衝食塩水中で光触媒で分解したときの溶液中のアレルゲン残存率の推移を示す。
図3図3は、図1Aおよび図1Bの結果から作成したアレルゲン低減率を示すグラフである。
図4図4は、図2Aおよび図2Bの結果から作成したアレルゲン低減率を示すグラフである。
図5図5は、有機物としてスギ花粉アレルゲン(Cry j 1)を酢酸存在下またはリン酸緩衝食塩水中で光触媒を含有するフィルターで分解したときの溶液中のアレルゲン残存率を示す。
図6図6は、有機物としてダニアレルゲン(Der f 1)を酢酸存在下またはリン酸緩衝食塩水中で光触媒を含有するフィルターで分解したときの溶液中のアレルゲン残存率を示す。
【発明の具体的な説明】
【0008】
本明細書では、光触媒は、特定の光(例えば、紫外線、可視光および赤外線など)を照射すると活性化する性質(このような性質を光触媒活性という)を有する。光触媒としては、酸化チタン、タングステン、インジウム、銀、モリブデン、亜鉛、ガリウムリン、ガリウム、およびヒ素などの金属化合物が挙げられる。酸化チタンは、光照射により活性酸素を発生させる。この活性酸素は、有機物(微生物含む)の分解に有用である。
【0009】
本明細書では、可視光は、人間の目で視認可能な波長を有する光である。可視光の下限波長は、360nm~400nmであり、上限波長は、760~830nmである。紫外線は、下限より短い波長を有し、赤外線は上限よりも長い波長を有する。420nm~700nmの可視光は視認性が高い可視光である。可視光は、太陽光;LEDライト、蛍光灯、および白熱灯などの照明により発される光;キセノンランプ、ハロゲンランプ、およびナトリウムランプなどの光源により発される光などが挙げられる。
【0010】
本明細書では、有機物は、有機物質を意味する。有機物は炭素を主な成分として含有し、有機物には、有機体(例えば、生物)を構成する物質、揮発性有機化合物、不揮発性有機化合物、生体分子、アレルゲン、有機汚染物質、薬物、汚物、ほこり、チリ、ウイルス、細菌などの微生物、病原体、および臭い成分が挙げられる。
【0011】
本明細書では、アレルゲンは、免疫系を有する動物にアレルギーを引き起こす物質をいう。アレルゲンには、I型アレルギー反応の原因となる、ハウスダスト、ダニ、花粉、真菌、トルエンジシソシアネート(TDI)、トリメリティックアンヒドリド(TMA)、薬剤;II型アレルギー反応の原因となる、ペニシリンなどの薬剤、および細胞膜や基底膜抗原などの自己抗原;III型アレルギー反応の原因となる、細菌、薬剤、異種タンパク質、および変性IgGやDNAなどの自己抗原;IV型アレルギー反応の原因となる、細菌および真菌が挙げられる。アレルゲンとしては、気管支喘息の原因となる真菌、スギ花粉などの花粉、およびダニなどの室内塵(ハウスダスト)が代表例である。
【0012】
本発明者は、有機酸(特に、酢酸)が光触媒の触媒活性を向上させることを見出した。したがって、本発明によれば、光触媒の触媒活性を向上させる方法であって、酢酸と光触媒とを提供すること、および、酢酸と光触媒とを接触させることのいずれかまたは両方を含む方法が提供される。酢酸と光触媒は、水溶液中で接触させることができる。例えば、酢酸と光触媒は、酢酸を含む水溶液に光触媒を添加することによって接触させることができる。酢酸を含む溶液は、緩衝液であり得る。例えば、酢酸と、酢酸ナトリウムまたは酢酸カリウムなどの酢酸のアルカリ金属塩とを含む溶液は、pHの緩衝作用を発揮し、酢酸緩衝液とよばれる。
【0013】
本発明によれば、酢酸と光触媒との組合せが提供される。組合せにおいては、酢酸と光触媒とは、別々に含まれていても、混合された混合物(組成物)の形態で含まれていてもよい。当該組合せが、酢酸と光触媒が混合物の形態で含む場合には、酢酸と光触媒との組合せは、混合して組成物とすることができる。
【0014】
本発明によればまた、酢酸と光触媒を含む組成物が提供される。本発明の組成物は、水溶液であり得る。本発明の組成物は緩衝液であってもよい。緩衝液である場合には、pHは、4~7であってよく、5~6であってよい。本発明の組成物は、界面活性剤(例えば、非イオン性界面活性剤)をさらに含んでいてもよい。光触媒としては、特に限定されないが例えば、酸化チタンを用いることができる。
【0015】
ある態様では、本発明の組合せにおいて光触媒は、当該組成物を含むフィルター(例えば、エアフィルター、および濾過フィルターなど)などの光触媒担持フィルターの形態;当該組成物を含む繊維、布、および衣類の形態;並びに、当該組成物を含む、塗料またはコーティング剤の形態で提供され得る。
ある態様では、本発明の酢酸と光触媒を含む組成物は、当該組成物を含むフィルター(例えば、エアフィルター、および濾過フィルターなど)などの光触媒担持フィルターの形態;当該組成物を含む繊維、布、および衣類の形態;並びに、当該組成物を含む、塗料またはコーティング剤の形態で提供され得る。
【0016】
本発明によれば、酢酸と光触媒との組合せ、および酢酸と光触媒を含む組成物は、有機物を分解すること、特に微生物やアレルゲンを分解することに用いることができる。本発明によればまた、酢酸と光触媒との組合せ、および酢酸と光触媒を含む組成物は、光触媒の活性(光触媒活性)を評価することに用いることができる。本発明によればまた、酢酸と光触媒との組合せ、および酢酸と光触媒を含む組成物は、光触媒活性を増加させることに用いることができる。本発明によれば、酢酸と光触媒との組合せは、酢酸と光触媒とを接触させることに用いることができる。
【0017】
例えば、酢酸と光触媒は、酢酸を含む水溶液に光触媒を添加することによって接触させることができる。酢酸を含む溶液は、緩衝液であり得る。例えば、酢酸と、酢酸ナトリウムまたは酢酸カリウムなどの酢酸のアルカリ金属塩とを含む溶液は、pHの緩衝作用を発揮し、このような溶液は酢酸緩衝液とよばれる。したがって、酢酸は、酢酸を含む溶液(例えば、酢酸緩衝液)の形態で、本発明の組合せおよび組成物に含まれていてもよい。酢酸と光触媒を含む組成物に対して特定の光(例えば、紫外線、可視光および赤外線など)を照射すると光触媒の光触媒活性が観察されることとなる。したがって、酢酸と光触媒との組合せ(および酢酸と光触媒を含む組成物)は、光触媒活性の活性化のために用いることができ、光触媒の光触媒活性の評価に用いることができ、有機物(例えば、病原体やアレルゲン)の分解に用いることができる。
本発明のある態様では、光触媒は、酸化チタンであり得る。この態様においては、特定の光は、紫外線であり得る。
【0018】
本発明によればまた、光触媒の光触媒活性の評価方法であって、酢酸を含む溶液中で、光触媒の光触媒活性を評価することを含む、方法が提供される。本発明のこの態様では、酢酸と光触媒は、水溶液中で接触させることができる。例えば、酢酸と光触媒は、酢酸を含む水溶液に光触媒を添加することによって接触させることができる。酢酸を含む溶液は、緩衝液であり得る。例えば、酢酸と、酢酸ナトリウムまたは酢酸カリウムなどの酢酸のアルカリ金属塩とを含む溶液は、pHの緩衝作用を発揮し、酢酸緩衝液とよばれる。したがって、酢酸は、酢酸を含む溶液(例えば、酢酸緩衝液)であってもよい。光触媒の光触媒活性の評価は、例えば、光触媒に対して、活性化に適した波長の光を照射して行うことができる。光触媒の光触媒活性の評価はまた、光触媒により引き起こされる触媒反応を検証することにより行うことができる。触媒反応としては、水の加水分解や標準物質(例えば、アレルゲン、例えば、スギ花粉アレルゲンやダニアレルゲン)の分解が挙げられ、光触媒活性の評価に用いることができる。
したがって、本発明によれば、光触媒の光触媒活性の評価方法であって、酢酸を含む溶液中で、光触媒の光触媒活性を評価することを含む、方法は、以下(i)~(iii)のいずれか1以上またはすべてをさらに含んでいてもよい:
(i) 酢酸と光触媒は、酢酸を含む水溶液に光触媒を添加することによって接触させること;
(ii) 光触媒に対して、活性化に適した波長の光を照射して行うこと;
(iii) 標準的な光触媒(例えば、改良前の光触媒)と改良した光触媒の光触媒活性を検出し、標準的な光触媒(例えば、改良前の光触媒)と改良した光触媒の光触媒活性を比較すること。
【0019】
本発明によれば、有機物を分解する方法であって、酢酸存在下で光触媒を用いて有機物を分解することを含む、方法が提供される。この態様は、有機物と酢酸の存在下で、上記のように光触媒の光触媒活性を活性化させることによって、有機物の分解を誘発することができる。この態様では、本発明の方法は、有機物の分解中または分解後(分解処理中または分解処理後)に有機物を検出することをさらに含んでいてもよい。この態様においては、酢酸は、酢酸を含む溶液の形態で存在していてもよいし、酢酸緩衝液の形態で存在していてもよい。
【0020】
本発明によれば、光触媒の光触媒活性を増加させる方法であって、酢酸を含む溶液と光触媒とを接触させることを含む、方法が提供される。この態様において、上記のように光触媒の光触媒活性を活性化することができる。光触媒活性は、有機物の分解および水の電気分解を含む様々な応用に用いることができる。
【0021】
本発明によれば、酢酸と光触媒とを接触させることを含む方法が提供される。光触媒は、例えば、溶媒中で酢酸と接触させることができる。本発明の方法は、光触媒を光照射により活性化することをさら含んでいてもよい。本発明の方法はまた、光照射により活性化した光触媒により有機物を分解することをさらに含んでいてもよい。
【0022】
本発明のすべての態様において、光触媒としては、例えば、酸化チタンが好ましく用いられ得る。本発明のすべての態様において、有機物としては、病原体およびアレルゲンが好ましく用いられ得、例えば、スギ花粉およびダニ、特にスギ花粉アレルゲンおよびダニアレルゲンが好ましく用いられ得る。本発明のすべての態様において、酢酸は、酢酸を含む溶液として、または酢酸緩衝液として提供され得る(すなわち、本明細書において、ある態様では「酢酸存在下」は、「酢酸を含む溶液中で」、または「酢酸緩衝液中で」と読み替えてもよい)。
本発明のすべての態様において、触媒は酸化チタンであり得、有機物は、病原体およびアレルゲン(特にスギ花粉およびダニ、特にスギ花粉アレルゲンおよびニアレルゲン)であり得、酢酸は、酢酸を含む溶液(特に、酢酸緩衝液)であり得る。
【実施例
【0023】
実施例1:有機物の分解試験
【0024】
[材料]
有機物としては、スギ花粉アレルゲン抽出物(ITEA社、#10103)、ダニアレルゲン抽出物(ITEA社、#10102)を用いた。アレルゲンの分解試験溶液中の各アレルゲンの最終濃度はそれぞれ1 μg/mlであった。
光触媒としては、白色粉末状の酸化チタン(TiO2)(富士フィルム和光純薬、205-01715)を用いた。アレルゲンの分解試験溶液中の光触媒の最終濃度:0.005%(w/v)
有機物の分解試験溶液は、以下の溶媒中で行った。
酢酸溶媒(酢酸T)としては、50mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.0)+0.05%Tween 20(界面活性剤)+0.05% proclin950(防腐剤)を用いた。
リン酸緩衝生理食塩水(PBST)としては、PBS(pH7.4)+ 0.05%Tween 20 (界面活性剤) +0.05% proclin950(防腐剤)を用いた。
有機物の分解は、それぞれの有機物用のELASA測定キットを用いて検出した。具体的には、スギ花粉アレルゲンはCry j 1 ELISAキット(ITEA社、#10204)を用いて検出し、ダニアレルゲンはDer f 1 ELISAキット(ITEA社、#10205)を用いて検出した。
【0025】
[方法の概要]
有機物と光触媒溶液の混合液を蛍光灯照射下および遮光下で3時間、24時間、または48時間反応させた。反応後、遠心分離により回収した上清中のアレルゲン濃度をELISAによって測定した。対照として、光触媒未添加(他の操作は同様)をおいた。反応前アレルゲン溶液のアレルゲン量を100%として、照射および遮光条件下で反応させた後のそれぞれのアレルゲン量から残存率を算出した。また、各反応時間毎の遮光条件下のアレルゲン量を100%として、照射条件下のアレルゲン量の比率、すなわちアレルゲン低減率を算出した。なお、各条件はn=1で実施した。
【0026】
酢酸緩衝液中におけるスギ花粉アレルゲン(Cry j 1)の分解試験の結果は、図1Aに示される通りである。図1Aに示されるように、スギ花粉アレルゲンは、光触媒を光照射によって活性化することによって、光照射依存的に光触媒によって分解を受けた。これに対して、リン酸緩衝食塩水中では、図1Bに示されるように、光照射によるスギ花粉アレルゲンの分解が確認された。図3には、遮光条件下でのCry j 1濃度を100%としたときの照射条件でのCry j 1の比率(低減率)を示している。スギ花粉アレルゲン(Cry j 1)は照射条件下で時間依存的に低減していることが示されており、酢酸緩衝液において顕著に効果的に低減されていることが明らかとなった。酢酸緩衝液においては24時間で顕著に低減(93%)を認めたが、PBSにおいては低減率は6%と低い。
【0027】
次に、ダニアレルゲンについても同様に分析した。結果は図2Aおよび2Bに示されるように図2Aに示されるように、酢酸緩衝液中においては、ダニアレルゲン(Der f 1)は、光触媒により光照射依存的に分解を受けた。これに対して、ダニアレルゲン(Der f 1)は、リン酸緩衝食塩水中では、ほとんど分解を生じなかった。図4には、遮光条件下でのDer f 1量を100%としたときの照射条件でのDer f 1量の比率(低減率)を示している。ダニアレルゲンにおいても照射条件下で時間依存的に低減していることが示されており、酢酸緩衝液において24時間で50%、48時間で76%と効果的に低減されていることが明らかとなった。一方、PBSにおいてはほとんど低減(1~2%)が認められない。
【0028】
光触媒は光の照射によって有機物の分解を可能とするが、上記の結果により、光触媒による有機物の分解は、酢酸存在下において顕著に増大されることが明らかとなり、その分解の増大の効果は有機物の種類によらないことが明らかとなった。このことから、光触媒活性は、酢酸存在下で増強されることが示唆された。
【0029】
実施例2:光触媒含有フィルターを用いた有機物の分解
本実施例では、表面に光触媒を含有するエアフィルターを用いて有機物の分解試験を行った。
【0030】
本実施例では、光触媒として酸化チタン加工フィルター(1cm×1cm)を用いた以外は、実施例1と同様に有機物の分解試験を行った。酸化チタン加工フィルターは、信州セラミックス製アースプラスマスクの光触媒加工不織布層を1cm×1cmサイズに切断して得た。
【0031】
有機物と光触媒溶液の混合液を蛍光灯照射下および遮光下で24時間反応させた。反応後、遠心分離により回収した上清中のアレルゲン濃度をELISAによって測定した。対照として、光触媒未添加(他の操作は同様)をおいた。反応前アレルゲン溶液のアレルゲン量を100%として、照射および遮光条件下で反応させた後のそれぞれのアレルゲン量から残存率を算出した。なお、各条件はn=1で実施した。
【0032】
結果は、図5(Cry j 1の結果)および図6(Der f 1の結果)に示される通りであった。図5および6に示されるように、リン酸緩衝食塩水中では、いずれのアレルゲンも光依存的な低減作用は弱かったが、これに対して、酢酸緩衝液中では、光依存的なアレルゲンの低減作用は顕著に高かった。酢酸緩衝液中ではまた、アレルゲンのフィルターへの吸着も促進されていることが明らかとなった。
以上のことから、酢酸緩衝液中では、光触媒によるアレルゲンの低減作用が増強されることが明らかとなった。また、光触媒による上記アレルゲンの低減作用の増強は、アレルゲンの光触媒への吸着の増加により部分的に説明され得る。
図1A
図1B
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6