(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-30
(45)【発行日】2024-02-07
(54)【発明の名称】離散信号処理装置、デジタル分光計及び離散信号処理方法
(51)【国際特許分類】
G06F 17/16 20060101AFI20240131BHJP
G06F 17/15 20060101ALI20240131BHJP
G06F 17/14 20060101ALI20240131BHJP
【FI】
G06F17/16 M
G06F17/15
G06F17/16 N
G06F17/14 510
(21)【出願番号】P 2019116905
(22)【出願日】2019-06-25
【審査請求日】2022-06-14
(73)【特許権者】
【識別番号】504258527
【氏名又は名称】国立大学法人 鹿児島大学
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100162259
【氏名又は名称】末富 孝典
(74)【代理人】
【識別番号】100168114
【氏名又は名称】山中 生太
(74)【代理人】
【識別番号】100146916
【氏名又は名称】廣石 雅紀
(72)【発明者】
【氏名】中西 裕之
(72)【発明者】
【氏名】中原 瑳衣子
【審査官】坂東 博司
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-035364(JP,A)
【文献】特開平09-026358(JP,A)
【文献】特開2011-133424(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 17/16
G06F 17/15
G06F 17/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一定期間
の時系列データが入力される度に、前
記時系列データ
の各時点のデータを、複素数データに変換して、前記複素数データを要素とする複素数ベクトルを生成する複素数変換部と、
前記複素数ベクトルが生成される度に、前記複素数ベクトルの各要素と、これまでに生成された前記複素数データ
のうちの1つの複素数データの複素共役との乗算結果を要素とするベクトルを、半自己相関関数ベクトルとして算出する半自己相関関数算出部と、
前記半自己相関関数ベクトルが算出される度に、積算数が所定数に達するまで、前記半自己相関関数ベクトルを積算する積算部と、
を備える離散信号処理装置。
【請求項2】
前記複素数データ
のうちの1つの複素数データの複素共役は、1つ前の前記一定期間における最後の前記複素数データの複素共役である、
請求項1に記載の離散信号処理装置。
【請求項3】
前記複素数データ
のうちの1つの複素数データの複素共役は、今回の一定期間における前記複素数データのいずれか1つの複素共役である、
請求項1に記載の離散信号処理装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の離散信号処理装置と、
一定のサンプリング間隔で時系列データを取得して、前記離散信号処理装置に入力する時系列データ取得部と、
前記離散信号処理装置で求められた積算された半自己相関関数ベクトルを用いて高速フーリエ変換を行うフーリエ変換部と、
を備えるデジタル分光計。
【請求項5】
一定期間
の時系列データが取得される度に、前
記時系列データ
の各時点のデータを、複素数データに変換して、前記複素数データを要素とする複素数ベクトルを生成する複素数変換ステップと、
前記複素数ベクトルが生成される度に、前記複素数ベクトルの各要素と、これまでに生成された前記複素数データ
のうちの1つの複素数データの複素共役との乗算結果を要素とするベクトルを、半自己相関関数ベクトルとして算出する半自己相関関数算出ステップと、
前記半自己相関関数ベクトルが算出される度に、積算数が所定数に達するまで、前記半自己相関関数ベクトルを積算する積算ステップと、
を含む離散信号処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、離散信号処理装置、デジタル分光計及び離散信号処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電波望遠鏡等では受信した電波(電磁波)を分光する分光計が必要である。このような分光計には、例えば、フィルターバンク型と、音響光学素子型と、デジタル型(デジタル分光計)などがある。
【0003】
デジタル分光計は、受信したアナログ信号をデジタル信号に変換し、時間領域から周波数領域に変換する。時間領域から周波数領域への信号変換は、FFT(高速フーリエ変換)により行われる。通常、デジタル分光計では、FFTにより得られた分光データに対して積算(時間積分)処理が行われ、雑音レベルを下げた分光データが出力される。このように、電波望遠鏡のデジタル分光計では、FFT、積算処理が順番に行われる。
【0004】
この他、フーリエ変換の線形性を考慮して、処理順序を積算処理とFFTとした分光計も提案されている(例えば、非特許文献1参照)。以下では、積算(時間積分)処理をFFTより後に行う分光計を、後積分型分光計と呼び、積算(時間積分)処理をFFTより先に行う分光計を、前積分型分光計と呼ぶ。後積分型分光計では、フーリエ変換の点数をN、M回の積算を行う場合、その演算数は総計MNlog2Nになる。先行研究で提案されている前積分型分光計では、その演算数をNlog2Nへ落とすことが示唆されているが、実装された報告はない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】中原 啓貴 , 中西 裕之 , 岩井 一正,"電波望遠鏡用AWF型デジタル分光計に関して"研究報告システムとLSIの設計技術(SLDM),2015-SLDM-169(13),1-6(2015-01-22),2188-8639
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、実際には、
図7に示す従来の後積分型分光計のパワースペクトル(積分回数1回、2回、4回、8回、16回)と、
図8に示す従来の前積分型分光計のパワースペクトル(積分回数1回、2回、4回、8回、16回)との間には、同じ信号を処理した場合でも、積算を重ねるごとにピークの大きさに違いが現れる。前積分型分光計では、積算後にパワースペクトルのピークのレベルが後積分型分光計に比べて極めて小さくなる。これにより、前積分型分光計では、得られるスペクトラムのS/N比(信号雑音比)の向上が実現しない。
【0007】
本発明は、上記実情の下になされたものであり、出力されるパワースペクトルの演算数を減らしつつ、S/N比を向上して、結果的に、パワースペクトルのピークレベルを大きくすることができる離散信号処理装置、デジタル分光計及び離散信号処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の第1の観点に係る離散信号処理装置は、
一定期間の時系列データが入力される度に、前記時系列データの各時点のデータを、複素数データに変換して、前記複素数データを要素とする複素数ベクトルを生成する複素数変換部と、
前記複素数ベクトルが生成される度に、前記複素数ベクトルの各要素と、これまでに生成された前記複素数データのうちの1つの複素数データの複素共役との乗算結果を要素とするベクトルを、半自己相関関数ベクトルとして算出する半自己相関関数算出部と、
前記半自己相関関数ベクトルが算出される度に、積算数が所定数に達するまで、前記半自己相関関数ベクトルを積算する積算部と、
を備える。
【0009】
この場合、前記複素数データのうちの1つの複素数データの複素共役は、1つ前の前記一定期間における最後の前記複素数データの複素共役である、
こととしてもよい。
【0010】
また、前記複素数データのうちの1つの複素数データの複素共役は、今回の一定期間における前記複素数データのいずれか1つの複素共役である、
こととしてもよい。
【0011】
本発明の第2の観点に係るデジタル分光計は、
本発明の第1の観点に係る離散信号処理装置と、
一定のサンプリング間隔で時系列データを取得して、前記離散信号処理装置に入力する時系列データ取得部と、
前記離散信号処理装置で求められた積算された半自己相関関数ベクトルを用いて高速フーリエ変換を行うフーリエ変換部と、
を備える。
【0012】
本発明の第3の観点に係る離散信号処理方法は、
一定期間の時系列データが取得される度に、前記時系列データの各時点のデータを、複素数データに変換して、前記複素数データを要素とする複素数ベクトルを生成する複素数変換ステップと、
前記複素数ベクトルが生成される度に、前記複素数ベクトルの各要素と、これまでに生成された前記複素数データのうちの1つの複素数データの複素共役との乗算結果を要素とするベクトルを、半自己相関関数ベクトルとして算出する半自己相関関数算出ステップと、
前記半自己相関関数ベクトルが算出される度に、積算数が所定数に達するまで、前記半自己相関関数ベクトルを積算する積算ステップと、
を含む。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、一定のサンプリング間隔で取得された時系列の複素数データと、その複素数データのうちの1つの複素数データの複素共役との乗算結果を求め、その乗算結果の積算値を高速フーリエ変換してパワースペクトルを求めることができる。このようにすれば、積算により乗算結果が互いに打ち消し合うのを防ぐことができる。これにより、演算数の少ない前積分型の装置として高速化することができ、出力データレートを抑えることができるうえ、パワースペクトルのS/N比を大きくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施の形態に係るデジタル分光計の構成を示すブロック図である。
【
図2】処理対象となるアナログ信号及びデジタル信号を示す模式図である。
【
図3】
図1のデジタル分光計の動作を示すフローチャートである。
【
図4】
図4(A)は、従来の前積分型分光計の雑音のふるまいの一例を示す図である。
図4(B)は、
図1のデジタル分光計(前積分型分光計)の雑音のふるまいの一例を示す図である。
【
図5】
図1のデジタル分光計で求められたパワースペクトルの一例を示す図である。
【
図6】
図1のデジタル分光計のハードウエア構成を示すブロック図である。
【
図7】従来の後積分型分光計で求められたパワースペクトルの一例を示す図である。
【
図8】従来の前積分型分光計で求められたパワースペクトルの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。各図面においては、同一又は同等の部分に同一の符号を付す。
【0016】
図1に示すように、デジタル分光計1は、前積分型の分光計である。デジタル分光計1は、アナログデジタル変換器(ADC)10と、複素数変換部20と、半自己相関関数算出部30と、積算部40と、窓関数係数記憶部50と、乗算部60と、高速フーリエ変換部(FFT)70と、を備える。複素数変換部20と、半自己相関関数算出部30と、積算部40とによって、離散信号処理装置2が構成される。
【0017】
アナログデジタル変換器10は、
図2に示すように、アナログ信号Sをデジタル信号である時系列データx
i(i=0,1,2,3,・・・)に変換する。時点t=0におけるアナログ信号Sの値をデジタル信号x
0とする。アナログデジタル変換器10は、一定のサンプリング間隔Δtで時系列データx
iを取得する。このように、本実施の形態では、アナログデジタル変換器10が、時系列データ取得部に対応する。
【0018】
複素数変換部20は、
図2に示すように、アナログデジタル変換器10で一定期間Tの時系列データx
iが取得される度に、一定期間Tの時系列データx
i各々を、複素数データz
iに変換して、複素数データz
iを要素とする複素数ベクトルC{z
k+1,z
k+2,・・・z
k+n}を生成する。例えば、
図2に示すように、アナログデジタル変換器10は、時点t
k+1から一定期間Tにおける複数の時系列データx
k+1,x
k+2,・・・x
k+nを取得する。複素数変換部20は、時系列データx
k+j(j=1,2,・・・,n)各々を、複素数データz
k+j(j=1,2,・・・,n)に変換して、複素数データz
k+j(j=1,2,・・・,n)を要素とする複素数ベクトルC{z
k+1,z
k+2,・・・z
k+n}を生成する。
【0019】
半自己相関関数算出部30は、複素数ベクトルC{z
k+1,z
k+2,・・・z
k+n}が生成される度に、複素数ベクトルC{z
k+1,z
k+2,・・・z
k+n}の各要素z
k+j(j=1,2,・・・,n)と、これまでに生成された複素数データz
i(i=0,1,2,・・・)に関連する1つの複素数データz
k(
図2参照)の複素共役z
*
kとの乗算結果を要素とするベクトルを、半自己相関関数ベクトルSV(z
k+1z
*
k,z
k+2z
*
k,・・・,z
k+nz
*
k)として算出する。
【0020】
このように、本実施の形態では、複素数データz
i(i=0,1,2,・・・)に関連する複素数データの複素共役として、1つ前の一定期間Tにおける最後の複素数データz
kの複素共役z
*
kを用いる。したがって、本実施の形態では、以下の式で示す半自己相関関数ベクトルSV(z
k+1z
*
k,z
k+2z
*
k,・・・,z
k+nz
*
k)が生成される。ここで、半自己相関関数ベクトルSVとは、一連の複数の複素数データz
i(i=0,1,2,・・・)それぞれに、1つの複素数データz
iの複素共役z
*
iを乗算することにより得られるベクトルである。
【数1】
【0021】
積算部40は、半自己相関関数ベクトルSV(zk+1z*
k,zk+2z*
k,・・・,zk+nz*
k)が算出される度に、積算数が所定数M(Mは自然数)に達するまで、半自己相関関数ベクトルSVを積算する。
【0022】
積算部40は、複数の積算器40aと、複数のメモリ40bと、セレクタ40cとを備える。複数の積算器40aは、半自己相関関数ベクトルSVの各要素ζk+jの積算を行う。メモリ40bは、半自己相関関数ベクトルSVの各要素ζk+jの積算値を記憶する。セレクタ40cは、半自己相関関数ベクトルSVの各要素ζk+jの積算値を、時系列順tk+1,tk+2,tk+3,・・・,tk+nに出力する。
【0023】
積算部40は、積算された半自己相関関数ベクトルSSVの各要素を、セレクタ40cで時系列順に出力する。ここで、積算された半自己相関関数ベクトルSSVは、次式で表される。
【数2】
【0024】
窓関数係数記憶部50は、高速フーリエ変換に用いられる窓関数係数を記憶する。窓関数係数に係るデータは、乗算部60へ出力される。乗算部60は、積算された半自己相関関数ベクトルSSVの各要素に、窓関数を乗算し、その乗算結果を、高速フーリエ変換部70に出力する。なお、積算された半自己相関関数ベクトルの各要素を適宜、Zjとする。
【0025】
高速フーリエ変換部70は、積算された半自己相関関数ベクトルSSVの各要素と、窓関数との乗算結果に対してFFTを行って、パワースペクトルデータ(P1,P2,・・・,PN)を得る。ここで、Nは、nと同じである。
【0026】
なお、本実施の形態に係るデジタル分光計1と先行研究により示された前積分型分光計との違いについてより詳細に説明する。
【0027】
まず、従来の前積分型分光計において、時系列の複素数ベクトルC(z
k+1,z
k+2,・・・,z
k+n)の積分に対して高速フーリエ変換を行った場合について考える。まず、時系列の複素数ベクトルC(z
k+1,z
k+2,・・・,z
k+n)の要素z
k+jは、以下の式で表される。
【数3】
【0028】
したがって、時系列ベクトルz
k+jの積分のj番目の成分Z
jは、以下のようになる。
【数4】
【0029】
また、時系列t
k+jについては、以下の関係が成立する。
【数5】
【0030】
したがって、時系列ベクトルz
k+jの積分のj番目の成分Z
jは次式のようになる。
【数6】
【0031】
ここで、
【数7】
は、等比数列の和と同様に考えられるので、Z
jは、以下のように変換される。
【数8】
【0032】
これは、
【数9】
であることを考えると、Z
jは、収束せず振動する。
【0033】
一方、本実施の形態に係るデジタル分光計1について、(ζ
k+1,ζ
k+1,・・・,ζ
k+n)=(z
k+1z
*
k,z
k+2z
*
k,・・・,z
k+nz
*
k)の積分に対して高速フーリエ変換を行う場合について考える。まず、z
*
kは、次式で表される。
【数10】
【0034】
したがって、ζ
k+jは、次式のようになる。
【数11】
【0035】
第j成分の積分、
【数12】
は、上記式(A)の括弧内の第2項は等比数列の和と同様に考えると、以下の式で示される振幅a’の振動項である。
【数13】
【0036】
また、式(A)の括弧内の第1項のN回積分の平均値はa2
m、式(A)の括弧内の第2項の平均値は(a’/N)となる。したがって、十分大きなNに対して、式(A)の括弧内の第2項は無視することができる。
【0037】
この結果、Z
jの時間平均は、次式のようになる。
【数14】
このように、半自己相関ベクトルSVの時間平均は自己相関関数に等しくなる。したがって、ウィーナー=ヒンチンの定理により、半自己相関ベクトルSVの積算値SSVの各要素をフーリエ変換することにより、パワースペクトルを得ることができる。
【0038】
次に、本実施の形態に係るデジタル分光計1の動作について説明する。
【0039】
図3に示すように、まず、アナログデジタル変換器10(端子)から、複数の時系列実データx
k+1,x
k+2,・・・x
k+nが取得される(ステップS1;時系列データ取得ステップ)。なお、このとき、すでにx
kも得られている。
【0040】
続いて、複素数変換部20は、例えばヒルベルト変換により、時系列実データ{xk+1,xk+2,・・・xk+n}を時系列の複素数ベクトルC{zk+1,zk+2,・・・zk+n}に複素数変換し(ステップS2)、時系列の複素数ベクトルC{zk+1,zk+2,・・・zk+n}を出力する(ステップS3)。なお、本実施の形態では、ステップS1,S2が複素数変換ステップに対応する。
【0041】
続いて、半自己相関関数算出部30は、時系列複素数データzkの複素共役z*
kを乗算する半自己相関処理を行う(ステップS4)。これにより、半自己相関関数ベクトル(zk+1z*
k,zk+2z*
k,・・・,zk+nz*
k)を出力する(ステップS5)。なお、本実施の形態では、ステップS4、S5が、半自己相関関数算出ステップに対応する。
【0042】
さらに、積算部40は、半自己相関関数ベクトルSV(zk+1z*
k,zk+2z*
k,・・・,zk+nz*
k)が算出される度に、新たに算出された半自己相関関数ベクトルSV(zk+1z*
k,zk+2z*
k,・・・,zk+nz*
k)をこれまでに算出された半自己相関関数ベクトルSVの積算値に積算し(ステップS6)、半自己相関関数ベクトルSV(zk+1z*
k,zk+2z*
k,・・・,zk+nz*
k)の積算値を更新する(ステップS7;積算ステップ)。積算回数が所定回数Mにならないうちは(ステップS8;No)、ステップS1~S8の処理が繰り返される。なお、本実施の形態では、ステップS6~S8が積算ステップに対応する。
【0043】
積算回数が所定回数Mに達すると(ステップS8;No)、時系列順にセレクタ40cから出力された半自己相関関数ベクトルSVの各要素ζk+jの積算値に対して、乗算部60において窓関数係数記憶部50の窓関数が乗算される(ステップS9)。さらに、高速フーリエ変換部70は、半自己相関関数ベクトルSVの最終的な積算値、すなわち積算された半自己相関関数ベクトルSSVを用いて高速フーリエ変換を行い(ステップS10)、パワースペクトルを得る(ステップS11)。
【0044】
図4(A)には、従来の前積分型分光計の雑音のふるまいの一例が示されている。また、
図4(B)には、本実施の形態に係るデジタル分光計1の雑音のふるまいの一例が示されている。
図4(A)及び
図4(B)を比較するとわかるように、どちらもノイズ振幅が積分回数の-0.5乗に比例して減少しており、デジタル分光計1は、従来型の前積分型分光計と同じように使用可能である。
【0045】
また、
図5には、本実施の形態に係るデジタル分光計1により算出されたパワースペクトルの一例(積分回数1回、4回、16回、64回、256回)が示されている。
図5と
図8とを比較するとわかるように、デジタル分光計1では、パワースペクトルのピークのレベルが大幅に向上しているのがわかる。これは、半自己相関関数ベクトルSVの各要素が互いに打ち消し合わないようになっているためである。
【0046】
なお、従来の後積分型分光計では、積算後のFFTによる演算数の合計が、M(Nlog2N)になるところ、本実施の形態に係るデジタル分光計1では、演算数がM×N+NLog2N=N(M+log2N)となる。MおよびNが2より大きい数である時、M(Nlog2N)>N(M+log2N)なのは明らかであり、デジタル分光計1は、従来よりも演算数を飛躍的に少なくすることができる。
【0047】
以上詳細に説明したように、本実施の形態によれば、一定のサンプリング間隔Δtで取得された時系列の複素数ベクトルC(zk+1,zk+2,・・・,zk+n)と、その複素数ベクトルC(zk+1,zk+2,・・・,zk+n)に関連する複素数データzkの複素共役z*
kとの乗算結果(半自己相関関数ベクトルSV)を求め、その乗算結果の積算値(積算された半自己相関関数ベクトルSSV)を高速フーリエ変換してパワースペクトル{P1,P2,,,PN}を求める。このようにすれば、積算により乗算結果が互いに打ち消し合うのを防ぐことができる。これにより、デジタル分光計1を、演算数の少ない前積分型として高速化することができ、出力データレートを抑えることができるうえ、パワースペクトルのピークレベルを大きくすることができる。この結果、パワースペクトルの周波数帯域を広げることができる。
【0048】
また、本実施の形態に係るデジタル分光計1によれば、半自己相関関数ベクトルSVの積算値を得るまでの離散信号処理と、高速フーリエ変換(FFT)の処理とを切り離して別々のハードウエアモジュールで実現することができる。例えば、
図6のハードウエア構成に示すように、離散信号処理装置2の部分を、FPGA(Field-programmable Gate A
rray)ボードであるデジタル信号処理モジュール4で実現し、アナログデジタル変換器10の部分をAD変換モジュール3で実現し、高速フーリエ変換に関する部分を、デジタル信号処理モジュール4とは別のFPGAボードまたはCPU(Central Processing Unit)等を用いたFFTモジュール5(
図1の窓関数係数記憶部50、乗算部60及び高速フーリエ変換部70を実現するハードウエア)に接続することができる。これにより、ハードウエアの回路構成を簡素化することができるうえ、処理のさらなる高速化を図ることができる。
【0049】
なお、半自己相関関数ベクトルSVを算出するための複素数データziの複素共役z*
iは、今回の一定期間Tにおける複素数データzk+1~zk+nのいずれか1つの複素共役(例えばz*
k+1)であることとしてもよい。また、一定期間Tにおける複素数データzk+1~zk+nのうちの複数個の平均の複素共役を半自己相関関数ベクトルSVの算出に用いるようにしてもよい。
【0050】
なお、本実施の形態では、離散信号処理装置を備えるデジタル分光計1について説明したが、本発明はこれには限られない。アナログ信号から変換されたデジタル信号を周波数変換する装置であれば、本発明を適用可能である。
【0051】
この発明は、この発明の広義の精神と範囲を逸脱することなく、様々な実施の形態及び変形が可能とされるものである。また、上述した実施の形態は、この発明を説明するためのものであり、この発明の範囲を限定するものではない。すなわち、この発明の範囲は、実施の形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。そして、特許請求の範囲内及びそれと同等の発明の意義の範囲内で施される様々な変形が、この発明の範囲内とみなされる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、離散信号を周波数変換する際の前処理を行う離散信号処理装置に適用することができる。
【符号の説明】
【0053】
1 デジタル分光計、2 離散信号処理装置、3 AD変換モジュール、4 デジタル信号処理モジュール、5 FFTモジュール、10 アナログデジタル変換器(ADC)、20 複素数変換部、30 半自己相関関数算出部、40 積算部、40a 積算器、40b メモリ、40c セレクタ、50 窓関数係数記憶部、60 乗算部、70 高速フーリエ変換部(FFT)