(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-30
(45)【発行日】2024-02-07
(54)【発明の名称】波動歯車装置
(51)【国際特許分類】
F16H 1/32 20060101AFI20240131BHJP
【FI】
F16H1/32 B
(21)【出願番号】P 2019137164
(22)【出願日】2019-07-25
【審査請求日】2022-07-20
(73)【特許権者】
【識別番号】516272490
【氏名又は名称】SKG株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100175019
【氏名又は名称】白井 健朗
(74)【代理人】
【識別番号】100195648
【氏名又は名称】小林 悠太
(74)【代理人】
【識別番号】100104329
【氏名又は名称】原田 卓治
(74)【代理人】
【識別番号】100134599
【氏名又は名称】杉本 和之
(72)【発明者】
【氏名】今川 豊
【審査官】小川 克久
(56)【参考文献】
【文献】実開昭62-002857(JP,U)
【文献】特開2005-188740(JP,A)
【文献】特開2017-180799(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0333516(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 1/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面に沿って形成されたインナギアを有するインターナルギア部と、
回転入力に応じて軸線を中心として回転するカム部を有する波動発生部と、
前記インナギアよりも少ない歯数で外周面に沿って形成され、内周側が前記波動発生部に嵌め込まれたリング状のアウタギア、及び、前記軸線に沿う方向において前記アウタギア
に隣接する隣接部を有するフレックスギア部と、
前記隣接部と前記軸線を中心とした径方向において対向する対向部を有し、前記フレックスギア部と共に前記インターナルギア部に対して回転する出力軸部と、
前記隣接部を前記対向部に前記軸線を中心とした円周方向において部分的に固定することで、前記出力軸部に対して前記フレックスギア部を固定する固定部と、備え、
前記カム部は、前記円周方向において等間隔で位置するN(Nは、2以上の整数)個の極部を有し、前記アウタギアをN箇所で前記インナギアと噛み合わ
せ、
前記固定部は、複数あり、
前記円周方向において等間隔で配列された、N個の極対応固定部を含み、
前記円周方向において隣り合う前記極対応固定部の中間位置には設けられていない、
波動歯車装置。
【請求項2】
複数の前記固定部は、前記円周方向において前記極対応固定部と異なる位置に設けられ
、且つ、前記中間位置を避けた位置に設けられた補助固定部をさらに含む、
請求項
1に記載の波動歯車装置。
【請求項3】
前記補助固定部は、複数あり、前記円周方向において等間隔で配列されている、
請求項
2に記載の波動歯車装置。
【請求項4】
前記出力軸部を前記インターナルギア部に対して回転可能に支持する支持部をさらに備え、
前記隣接部及び前記対向部は、前記支持部と前記カム部との間に位置する、
請求項1乃至
3のいずれか1項に記載の波動歯車装置。
【請求項5】
1つの前記固定部は、前記隣接部を前記径方向で前記対向部に固定する1又は複数の固定ピンを含む、
請求項1乃至
4のいずれか1項に記載の波動歯車装置。
【請求項6】
前記アウタギアの歯数は、前記インナギアの歯数よりもN個少ない、
請求項1乃至
5のいずれか1項に記載の波動歯車装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、波動歯車装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、関節を介してアームが動作するロボットにおいては、任意のアームに内蔵されたモータの回転を減速機により減速し、減速した出力で当該アームと連結されたアームを回転駆動することが行われている。この種の減速機として、波動歯車装置を用いたものが知られている。
【0003】
特許文献1には、円環状のサーキュラスプライン(剛性内歯歯車)と、この内周側に位置する薄肉カップ状のフレクスプライン(可撓性外歯歯車)と、この内周側に嵌められた楕円形のカムを有するウェーブジェネレータ(波動発生器)と、を備えた波動歯車装置が開示されている。フレクスプラインは、ウェーブジェネレータのカムにより楕円形に撓められ、サーキュラスプラインと部分的に噛み合わされている。そして、モータ等の回転入力に応じてウェーブジェネレータのカムが回転すると、両歯車の噛み合い位置が円周方向に移動して、両歯車の歯数差に応じた相対回転運動が両歯車の間に発生する。特許文献1に係る波動歯車装置は、フレクスプラインから減速回転出力を得る構成となっており、具体的には、フレクスプラインの底を形成するダイヤフラムに出力軸が取り付けられる構造を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
まず、特許文献1に係る波動歯車装置は、その構造上、フレクスプラインが破損しやすいという問題がある。これは次の理由による。ここで、回転するフレクスプラインから出力軸への力の伝達点として、出力軸の回転軸線(以下、軸線と言う。)を中心とした円周方向に配列された複数の仮想点を考える。回転するフレクスプラインから各仮想点に加わる力のベクトルは、フレクスプラインが可撓性を有することや、カムが楕円状であること等により、均一に円周方向に向く訳ではなく、地点によって位相にずれが生じる。ここで、特許文献1に係るフレクスプラインは、円筒部分の一端を閉塞するダイヤフラムに出力軸が固定されているため、いわば円筒部分の全周で出力軸に回転力を伝達する構造になっており、上述のように位相ずれを起こした力のベクトルを多分に含んだ状態となる。そうすると、フレクスプラインの円筒部分に、回転軸線を中心として出力軸を回転させるためのトルクに寄与しない無用な応力が生じ、無用なねじれの力が加わる。このように無用なねじれの力が加わることに加えて、フレクスプラインは、その円筒部分が非常に薄肉(例えば、肉厚が0.1mm程度)で形成されているため、破損しやすいという問題がある。
【0006】
また、特許文献1に係るフレクスプラインは、円筒部分の一端を閉塞するダイヤフラムに出力軸を固定するという構造上、円筒部分の高さ(軸線に沿う長さ)分だけ、出力軸の位置が入力側の回転体(例えばウェーブジェネレータのカム)から遠ざかってしまう。このため、波動歯車装置が軸線に沿う方向に大きくなり易いという問題もある。
【0007】
本発明は、破損しにくく、装置の大型化を抑制することができる波動歯車装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明に係る波動歯車装置は、
内周面に沿って形成されたインナギアを有するインターナルギア部と、
回転入力に応じて軸線を中心として回転するカム部を有する波動発生部と、
前記インナギアよりも少ない歯数で外周面に沿って形成され、内周側が前記波動発生部に嵌め込まれたリング状のアウタギア、及び、前記軸線に沿う方向において前記アウタギアに隣接する隣接部を有するフレックスギア部と、
前記隣接部と前記軸線を中心とした径方向において対向する対向部を有し、前記フレックスギア部と共に前記インターナルギア部に対して回転する出力軸部と、
前記隣接部を前記対向部に前記軸線を中心とした円周方向において部分的に固定することで、前記出力軸部に対して前記フレックスギア部を固定する固定部と、備え、
前記カム部は、前記円周方向において等間隔で位置するN(Nは、2以上の整数)個の極部を有し、前記アウタギアをN箇所で前記インナギアと噛み合わせ、
前記固定部は、複数あり、
前記円周方向において等間隔で配列された、N個の極対応固定部を含み、
前記円周方向において隣り合う前記極対応固定部の中間位置には設けられていない。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、破損しにくく、装置の大型化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る波動歯車装置が組み込まれるロボットの外観図である。
【
図2】第1実施形態に係る波動歯車装置の主要構成の概略断面を含む構成図である。
【
図3】第1実施形態に係る波動歯車装置における主要構成を軸線方向から見た図である。
【
図4】(a)~(d)は、第1実施形態に係る波動歯車装置の動作を説明するための原理図である。
【
図5】(a)は、第1実施形態に係る波動歯車装置の主要構成の概略断面図であり、(b)は、従来例に係る波動歯車装置の主要構成の概略断面図である。
【
図6】第1実施形態の変形例を示す図であり、(a)は、カム部の極数が3である場合を示し、(b)は、カム部の極数が4である場合を示す図である。
【
図7】第1実施形態の変形例を示す図であり、(a)は、カム部の極数が5である場合を示し、(b)は、カム部の極数が6である場合を示す図である。
【
図8】第1実施形態の変形例を示す図であり、(a)は、カム部の極数が7である場合を示し、(b)は、カム部の極数が8である場合を示す図である。
【
図9】第2実施形態に係る波動歯車装置の主要構成を示す図であり、(a)は、カム部の極数が2である場合を示し、(b)は、カム部の極数が3である場合を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一実施形態について図面を参照して説明する。
【0012】
(第1実施形態)
本実施形態に係る波動歯車装置100は、
図1に示すように、産業用のロボット200に組み込まれる。ロボット200は、例えば垂直多関節ロボットからなり、基台201の上に設置されたロボット本体部210と、ロボット本体部210を駆動制御するコントローラ220と、を備える。ロボット本体部210は、第1アーム211と、第1アーム211と波動歯車装置100を介して連結された第2アーム212と、
図2に示すモータ213と、を備える。モータ213は、サーボモータ等からなり、コントローラ220の制御により動作する。コントローラ220は、第1アーム211に内蔵されたモータ213及び波動歯車装置100を介して第2アーム部212を回転駆動することで、第1アーム211に対する第2アーム部212の位置決め制御、角度制御及び回転速度制御を行う。
【0013】
波動歯車装置100は、
図2に示すように、波動発生部10と、フレックスギア部20と、インターナルギア部30と、出力軸部40と、支持部50と、固定部60と、を備える。
【0014】
なお、
図2では、見易さを考慮して一部構成の断面を示すハッチングを省略するとともに、第1アーム211及び第2アーム212を仮想線で示した。また、以下では、波動歯車装置100の構成を説明する際に、
図2における右側を入力側(図示Si)と呼び、左側を出力側(図示So)と呼ぶことがある。後述の
図5においても同様である。
【0015】
波動発生部10は、円筒軸部11と、円筒軸部11と一体に形成されたカム部12と、ウェーブベアリング13と、を備える。
【0016】
円筒軸部11は、入力側の端部がベアリングB1に回転可能に支持され、出力側の端部がベアリングB2に回転可能に支持されている。ベアリングB1は、第1アーム211に対して不動な不動部211aに設けられている。ベアリングB2は、出力軸部40の内周面に設けられている。ベアリングB1,B2は、例えばボールベアリングから構成されている。これにより、円筒軸部11は、第1アーム211に対して軸線AX周りに回転可能に支持されている。円筒軸部11には、モータ213の回転動力が公知の伝達機構を介して伝達される。この伝達機構は、ギア機構、タイミングベルトとプーリーを利用したベルト機構などであればよい。
【0017】
カム部12は、円筒軸部11の外周面から外径方向に突出して設けられている。カム部12は、軸線AXに沿う方向(以下、軸線方向と言う。)においてベアリングB1と隣り合う位置に設けられている。カム部12は、軸線AXを中心とした円周方向において等間隔で位置するN(Nは、2以上の整数)個の極部を有している。
【0018】
以下では、カム部12が有する極部の数を極数と呼び、本実施形態では、極数がN=2の場合について説明する。N=2の場合、カム部12は、
図3に示すように、軸線方向から見て楕円状をなす。
図2は、カム部12の極数がN=2の場合の概略断面を示す。
【0019】
ウェーブベアリング13は、カム部12の外周面に固定された内輪13iと、フレキシブルな外輪13oと、内輪13i及び外輪13oの間に転動可能な状態で挿入されている複数のボール13bと、を有する。なお、内輪13iは、カム部12の外周面を含む部分から構成されていてもよい。
【0020】
フレックスギア部20は、特殊鋼等の金属材によりフレキシブル性を有して形成され、アウタギア21と、アウタギア21と一体に形成された隣接部22と、を有する。
【0021】
アウタギア21は、外周面に沿って形成された所定の歯数tの歯21aを有してリング状に形成され、内周側が波動発生部10の外輪13oに嵌め込まれている。アウタギア21における複数の歯21aは、一定のピッチで円周方向に沿って配列されている。アウタギア21の歯数tは、後述のインナギア31の歯数Tよりも少ない歯数に設定されている。例えば、カム部12の極数がNの場合、歯数tと歯数Tの関係は、「T=t+N」が成り立つように設定される。したがって、N=2の場合には、「T=t+2」の関係が成り立つ。
【0022】
隣接部22は、アウタギア21と軸線方向において隣り合い、アウタギア21よりも出力側に迫り出す部分である。隣接部22には、軸線AXと概ね直交する方向(丁度直交する方向も含む。)に向かって貫通する貫通孔22aが形成されている。貫通孔22aには、固定部60を構成する後述の固定ピンFが挿入される。
【0023】
なお、図示しないが、フレックスギア部20の内周面における、アウタギア21に形成された複数の歯21aのうち隣り合うもの同士の間に対応する位置に、外周側に向かって凹む部分を設け、フレックスギア部20を良好に撓みやすくしてもよい。
【0024】
インターナルギア部30は、金属材により剛性を有して形成され、第1アーム211の内側に固定される部分であり、カム部12に撓められたフレックスギア部20のアウタギア21と部分的に噛み合うインナギア31を有する。
【0025】
インナギア31は、内周面に沿って形成された所定の歯数T(T>t)の歯31aを有してリング状に形成されている。インナギア31における複数の歯31aは、一定のピッチで円周方向に沿って配列されている。
【0026】
出力軸部40は、フレックスギア部20と共にインターナルギア部30に対して回転する。出力軸部40は、インターナルギア部30に対して軸線AX周りに回転可能に支持部50によって支持されている。出力軸部40は、例えば、金属材により剛性を有してリング状に形成されている。出力軸部40は、フレックスギア部20の隣接部22と軸線AXを中心とした径方向において対向する対向部41と、対向部41よりも出力側に位置し、支持部50に支持される部分である被支持部42と、を有する。
【0027】
支持部50は、例えばクロスローラーベアリングからなり、外輪51がインターナルギア部30に固定され、内輪52が出力軸部40の被支持部42に固定されている。これにより、支持部50は、出力軸部40を、インターナルギア部30に対して軸線AX周りに回転可能に支持する。
【0028】
この実施形態では、出力軸部40は、支持部50の内輪52を介して、波動歯車装置100の負荷である第2アーム212に接続される。これにより、出力軸部40の回転に伴って、第2アーム212は、軸線AX周りに回転する。なお、支持部50による出力軸部40の支持態様は任意であり、例えば、支持部50の内輪52の内周面が出力軸部40に固定される態様などであってもよい。また、出力軸部40と負荷(本例では、第2アーム212)の接続手法も任意であり、例えば、出力軸部40に固定された円盤状のプレート部に負荷を接続する態様などであってもよい。
【0029】
図2に示すように、軸線方向における支持部50とカム部12との間に、フレックスギア部20の隣接部22及び出力軸部40の対向部41が位置する。固定部60によって隣接部22が対向部41に固定されることにより、出力軸部40は、フレックスギア部20と共に回転する。
【0030】
固定部60は、例えば、出力軸部40の対向部41内に埋設されたガイドブッシュ41aに挿入される固定ピンFから構成されている。固定ピンFは、フレックスギア部20の隣接部22に設けられた貫通孔22aを介して、このガイドブッシュ41a内に、螺合、嵌合、固着、溶着等の固定手法で固定されている。固定ピンFは、フレックスギア部20の隣接部22を、外周側から内周側に向かって、出力部40の対向部41に対して固定する。固定ピンFは、軸線AXを中心とした径方向に沿っていることが好ましい。
【0031】
図3に示すように、カム部12の極数がN=2である本実施形態では、この極数に対応して固定部60は2つ設けられる。2つの固定部60は、軸線AXを中心とした回転角度において、互いに180°の間隔を空けて設けられている。つまり、2つの固定部60は、軸線AXを中心とした円周方向において等間隔で配列されている。この実施形態では、1つの固定部60が1つの固定ピンFから構成される。
【0032】
図3では、フレックスギア20の隣接部22を部分的に示した。なお、隣接部22のアウタギア21よりも出力側に迫り出した形状は任意であり、リング状に迫り出していてもよいし、固定部60に対応する部分だけがアウタギア21よりも出力側に迫り出していてもよい。
【0033】
(動作)
次に、以上の構成からなる波動歯車装置100の動作について、
図1~
図3を参照しつつ、主に
図4(a)~(d)に従って説明する。
【0034】
ロボット200のコントローラ220の制御によりモータ213が動作すると、モータ213の回転動力が図示しない伝達機構を介して波動発生部10のカム部12に伝達され、カム部12は、軸線AX周りに比較的高速で回転する。
【0035】
ここで、説明の理解を容易にするため、回転開始前のカム部12は、
図4(a)に示すように、その楕円形状の長軸が0°及び180°を通る軸に一致した初期位置Csにあるものとする。なお、図示の角度は、軸線AXを中心とした回転角度であり、12時の方向を0°として、時計方向に角度が増加するものとする。また、カム部12は、時計方向に回転するものとする。
【0036】
図4(a)に示すように、初期位置Csにあるカム部12は、2つの極部に対応した、0°及び180°の2箇所の噛合位置E,Eでフレックスギア部20(具体的には、
図4では符号を省略したアウタギア21)をインターナルギア部30(具体的には、
図4では符号を省略したインナギア31)に噛み合わせる。この状態において、インターナルギア部30の固定点Xoを0°の位置に設定し、フレックスギア部20における基準点Xfも0°の位置にあるものとする。
【0037】
図4(b)は、カム部12が初期位置Csから90°回転し、その長軸方向が90°及び270°を通る軸に一致する位置C1にある状態を示している。
カム部12が初期位置Csから位置C1に変位すると、フレックスギア部20及びインターナルギア部30の噛合位置E,Eが90°及び270°の位置に移動する。この際、アウタギア21の歯数はt、インナギア31の歯数はT=t+2であり、歯数の差は、T-t=2であるため、フレックスギア部20の基準点Xfは、固定点Xoに対して、歯数の差「2」の1/4(=90°/360°)である1/2歯分だけ反時計方向に回転する。この反時計方向の回転角度をθ1とすると、θ1={(360°/T)×2}/4で表される。
【0038】
図4(c)は、カム部12が初期位置Csから180°回転し、その長軸方向が180°及び0°を通る軸に一致する位置C2にある状態を示している。
カム部12が初期位置Csから位置C2に変位すると、フレックスギア部20及びインターナルギア部30の噛合位置E,Eが180°及び0°の位置に移動する。この際、フレックスギア部20の基準点Xfは、固定点Xoに対して、歯数の差「2」の1/2(=180°/360°)である1歯分だけ反時計方向に回転する。この反時計方向の回転角度をθ2とすると、θ2={(360°/T)×2}/2で表される。
【0039】
図4(d)は、カム部12が初期位置Csから360°回転し、その長軸方向が0°及び180°を通る軸に一致する位置C3にある状態を示している。
カム部12が初期位置Csから位置C3に変位すると(つまり、360°回転すると)、フレックスギア部20及びインターナルギア部30の噛合位置E,Eは、0°及び180°の位置に復帰する。この際、フレックスギア部20の基準点Xfは、固定点Xoに対して、歯数の差「2」の分だけ反時計方向に回転する。この反時計方向の回転角度をθ3とすると、θ3=(360°/T)×2で表される。
【0040】
以上のように、カム部12を回転させると、フレックスギア部20が弾性変形し、インターナルギア部30との噛合位置E,Eが順次移動していく。そして、カム部12が時計方向に1回転すると、フレックスギア部20は、歯数2(=T-t)だけ反時計方向に移動する。これにより、フレックスギア部20に固定部60で固定された出力軸部40は、カム部12の回転速度に対して、減速比i=(T-t)/tで減速される。つまり、波動歯車装置100によれば、出力軸部40に接続される負荷(本例では、第2アーム212)を、上記の減速比iで減速した出力で、高精度で回転制御することができる。なお、減速比iは任意であるが、例えば、1/30~1/320程度で設定されている。
【0041】
以上のように、モータ213からの回転入力に応じて波動発生部10のカム部12が回転すると、フレックスギア部20及びインターナルギア部30の両歯車の噛合位置E,Eが円周方向に移動していくとともに、両歯車の歯数差に応じて、フレックスギア部20がインターナルギア部30に対してカム部12とは逆方向に回転する。この際、フレックスギア部20から出力軸部40へは、極数の数(N=2)に対応した2つの固定部60により力が伝達される。
【0042】
ここで、説明の理解を容易にするため、まずは、
図3に示した固定部60が設けられる位置P,Pは、
図4(a)に示したフレックスギア部20の基準点Xfの位置と、この位置から180°移動した位置であるとする。そうすると、2つの位置P,Pの各々の地点においては、インターナルギア部30に対するフレックスギア部20の状態が同じであるため、回転するフレックスギア部20から固定部60を介して出力軸部40に伝達される力のベクトルにおいて、前述の課題で述べたような位相ずれは原理的に生じないことが分かる。
実際には、インターナルギア部30に対してフレックスギア部20は回転運動を行うため、固定部60が設けられる位置P,Pは、
図3に示す状態に留まらない。しかしながら、フレックスギア部20の回転位置がどのような位置であろうと、2つの位置P,Pの各々の地点においては、インターナルギア部30に対するフレックスギア部20の状態が同じであるため、回転するフレックスギア部20から固定部60を介して出力軸部40に伝達される力のベクトルにおいて、前述の課題で述べたような位相ずれは原理的に生じないことは同様である。
【0043】
つまり、この実施形態に係る位置P,Pに設けられた固定部60によれば、出力軸部40を軸線AX周りに回転させるためのトルクに寄与しない無用な応力がフレックスギア部20及び出力軸部40の各々に生じることが低減されるとともに、無用なねじれの力がフレックスギア部20に加わることが低減される。結果として、本実施形態の波動歯車装置100によれば、フレックスギア部20と出力軸部40の連結によるメカロスを大幅に低減することができ、良好な伝達効率を実現することができる。また、フレックスギア部20が破損することを抑制することができる。
【0044】
また、フレックスギア部20から出力軸部40へ力を伝達する出力点(つまり、位置P,P)を円周方向に均等分散できるため、フレックスギア部20とインターナルギア部30の噛合箇所E,Eの1箇所あたりの負荷が軽減され、結果として高トルクで出力軸部40を回転させることができる。
【0045】
さらに、本実施形態に係る波動歯車装置100による優位な点を、
図5(a)と
図5(b)を比較して説明する。
図5(a)は、
図2から本実施形態に係る波動歯車装置100を抜き出した図であり、
図5(b)は、前述の特許文献に開示されたような従来例に係る波動歯車装置100pを示す図である。
【0046】
従来例に係る波動歯車装置100pにおいては、本実施形態に係る波動歯車装置100の各構成に対応する構成について、符号末尾に「p」を付加して図示した。従来例と本実施形態の主な対応関係を説明すると、ウェーブジェネレータ10pは波動発生部10に対応し、フレクスプライン20pはフレックスギア部20に対応し、サーキュラスプライン30pはインターナルギア部30に対応する。
【0047】
図5(b)に示すように、従来例に係るフレクスプライン20pは、その円筒部分の出力側の端部を閉塞するダイヤフラムに出力軸40pが固定部材60pにより固定されているため、円筒部分の高さに応じた長さLpだけ、出力軸40pの位置が入力側の回転体(例えばウェーブジェネレータ10pのカム)から遠ざかってしまう。
【0048】
一方、
図5(a)に示すように、本実施形態に係る波動歯車装置100では、フレックスギア部20の隣接部22から固定部60を介して出力軸部40に力を伝達する構造となっているとともに、フレックスギア部20の隣接部22及び出力軸部40の対向部41は、支持部50とカム部12との間に位置する。これにより、カム部12からフレックスギア部20の出力点(つまり、フレックスギア部20から出力軸部40へ力を伝達する固定部60の位置)までを長さLとすることができ、結果的に、各構成を軸線方向にコンパクトにして、波動歯車装置100を小型に構成することができる。
【0049】
また、本実施形態に係る波動歯車装置100では、フレックスギア部20が無底筒状(軸線方向から見てリング状)であり、従来例に係るフレクスプライン20pのように出力側の端部がダイヤフラムで閉塞されていないため、フレックスギア部20の肉厚をある程度確保しつつも、フレックスギア部20の可撓性を保つことができる。したがって、フレックスギア部20の座屈に対する耐性を良好とすることができ、破損しにくい。なお、フレックスギア部20の肉厚は限定されるものではないが、例えば、0.5mm~1mm程度に設定することが可能である。また、フレックスギア部20は、無底筒状であり、従来例に係るフレクスプライン20pのように有底筒状のものと比べ、加工し易い。
【0050】
また、従来例においては、構造上、フレクスプライン20pの円筒部分が軸線方向にある程度の長さが必要であり、出力軸40pを支持する支持部50pがフレクスプライン20pとサーキュラスプライン30pの噛合位置から遠ざかる。このような従来例の構造では、フレクスプライン20pとサーキュラスプライン30pの両者に、軸線AXに対して斜めの方向の応力が加わり易く、互いの歯車が摩耗し易い。
一方、本実施形態に係る波動歯車装置100では、支持部50とカム部12との間に、フレックスギア部20の隣接部22及び出力軸部40の対向部41が位置しているため、互いに噛み合うフレックスギア部20及びインターナルギア部30に、軸線AXに対して斜めの方向の応力が加わりにくい。結果として、フレックスギア部20及びインターナルギア部30における一方の歯山と他方の歯底を軸線方向に沿って接触させることができ、互いの歯車の摩耗を抑制することができる。
【0051】
また、本実施形態に係る波動歯車装置100では、カム部12だけでなく、フレックスギア部20及び出力軸部40も、軸線方向から見てリング状をなす中空状であるため、配線等を通す空間を内部に確保することができる。なお、本実施形態に係る波動歯車装置100によれば、原理上バックラッシをなくすことができることや、ロストモーションを極小にできることは勿論である。
【0052】
(第1実施形態の変形例)
以上の説明では、カム部12が楕円状で極数がN=2の場合について説明したが、極数は、2以上の整数であれば任意である。ここからは、主に
図6~
図8を参照して、極数がN≧3の場合について説明する。
【0053】
極数がN≧3の場合、
図6~
図8に示すように、軸線方向から見たカム部12の形状は、正N角形状をなすとともに、例えば、各極部、及び、隣り合う極部の間が外周方向に緩やかに膨らむ曲面状を有する。
フレックスギア部20のアウタギア21は、N個の極部を有するカム部12にウェーブベアリング13を介して撓められ、N箇所でインターナルギア部30のインナギア31と噛み合う。カム部12の極数がNの場合、アウタギア21の歯数t(以下、フレックスギア部20の歯数tとも言う。)とインナギア31の歯数T(以下、インターナルギア30の歯数Tとも言う。)の関係は、「T=t+N」が成り立つように設定される。
そして、例えば、カム部12が時計方向に360°回転すると、フレックスギア部20がN歯分、反時計方向に移動する。つまり、カム部12の極数がNの場合、カム部12が(360°/N)の角度を回転すると、1歯分、インターナルギア部30に対してフレックスギア部20が移動する。カム部12の極数がNの場合、フレックスギア部20に固定された出力軸部40は、カム部12の回転速度に対して、減速比i=(T-t)/t=N/tで減速される。
【0054】
また、極数がN≧3の場合、固定ピンFからなる固定部60は、軸線AXを中心とした円周方向において等間隔で配列されたN個の位置Pに設けられる。なお、
図6~
図8では、図面の見やすさを考慮して固定部60を図示せずに、固定部60が設けられる位置Pを図示した。なお、以下の第1実施形態の変形例においても、1つの固定部60は1つの固定ピンFから構成されているものとする。また、
図6~
図8では、カム部12のN個の極部のうち、任意の極部が0°の位置にある状態を示している。これは、後述の第2実施形態で参照する
図9についても同様である。以下、極数がN≧3の場合について順に説明する。
【0055】
(N=3の場合)
図6(a)に示すように、カム部12の極数がN=3の場合、フレックスギア部20は、3個の極部を有するカム部12に撓められ、3箇所でインターナルギア部30と噛み合う。そして、フレックスギア部20の歯数tとインターナルギア30の歯数Tとの関係は、「T=t+3」となる。この場合、カム部12が時計方向に360°回転すると、フレックスギア部20が3つの歯分、反時計方向に移動する。つまり、カム部12が(360°/3)の角度を回転すると、1歯分、インターナルギア部30に対してフレックスギア部20が移動する。N=3の場合、フレックスギア部20に固定された出力軸部40は、カム部12の回転速度に対して、減速比i=(T-t)/t=3/tで減速される。
また、カム部12の極数がN=3の場合、フレックスギア部20を出力軸部40に固定する固定部40は、軸線AXを中心とした円周方向において等間隔で配列された3個の位置Pに設けられる。3個の位置Pのうち隣り合うもの同士の角度は、(360°/3)となる。
【0056】
(N=4の場合)
図6(b)に示すように、カム部12の極数がN=4の場合、フレックスギア部20は、4個の極部を有するカム部12に撓められ、4箇所でインターナルギア部30と噛み合う。そして、フレックスギア部20の歯数tとインターナルギア30の歯数Tとの関係は、「T=t+4」となる。この場合、カム部12が時計方向に360°回転すると、フレックスギア部20が4つの歯分、反時計方向に移動する。つまり、カム部12が(360°/4)の角度を回転すると、1歯分、インターナルギア部30に対してフレックスギア部20が移動する。N=4の場合、フレックスギア部20に固定された出力軸部40は、カム部12の回転速度に対して、減速比i=(T-t)/t=4/tで減速される。
また、カム部12の極数がN=4の場合、フレックスギア部20を出力軸部40に固定する固定部40は、軸線AXを中心とした円周方向において等間隔で配列された4個の位置Pに設けられる。4個の位置Pのうち隣り合うもの同士の角度は、(360°/4)となる。
【0057】
(N=5の場合)
図7(a)に示すように、カム部12の極数がN=5の場合、フレックスギア部20は、5個の極部を有するカム部12に撓められ、5箇所でインターナルギア部30と噛み合う。そして、フレックスギア部20の歯数tとインターナルギア30の歯数Tとの関係は、「T=t+5」となる。この場合、カム部12が時計方向に360°回転すると、フレックスギア部20が5つの歯分、反時計方向に移動する。つまり、カム部12が(360°/5)の角度を回転すると、1歯分、インターナルギア部30に対してフレックスギア部20が移動する。N=5の場合、フレックスギア部20に固定された出力軸部40は、カム部12の回転速度に対して、減速比i=(T-t)/t=5/tで減速される。
また、カム部12の極数がN=5の場合、フレックスギア部20を出力軸部40に固定する固定部40は、軸線AXを中心とした円周方向において等間隔で配列された5個の位置Pに設けられる。5個の位置Pのうち隣り合うもの同士の角度は、(360°/5)となる。
【0058】
(N=6の場合)
図7(b)に示すように、カム部12の極数がN=6の場合、フレックスギア部20は、6個の極部を有するカム部12に撓められ、6箇所でインターナルギア部30と噛み合う。そして、フレックスギア部20の歯数tとインターナルギア30の歯数Tとの関係は、「T=t+6」となる。この場合、カム部12が時計方向に360°回転すると、フレックスギア部20が6つの歯分、反時計方向に移動する。つまり、カム部12が(360°/6)の角度を回転すると、1歯分、インターナルギア部30に対してフレックスギア部20が移動する。N=6の場合、フレックスギア部20に固定された出力軸部40は、カム部12の回転速度に対して、減速比i=(T-t)/t=6/tで減速される。
また、カム部12の極数がN=6の場合、フレックスギア部20を出力軸部40に固定する固定部40は、軸線AXを中心とした円周方向において等間隔で配列された6個の位置Pに設けられる。6個の位置Pのうち隣り合うもの同士の角度は、(360°/6)となる。
【0059】
(N=7の場合)
図8(a)に示すように、カム部12の極数がN=7の場合、フレックスギア部20は、7個の極部を有するカム部12に撓められ、7箇所でインターナルギア部30と噛み合う。そして、フレックスギア部20の歯数tとインターナルギア30の歯数Tとの関係は、「T=t+7」となる。この場合、カム部12が時計方向に360°回転すると、フレックスギア部20が7つの歯分、反時計方向に移動する。つまり、カム部12が(360°/7)の角度を回転すると、1歯分、インターナルギア部30に対してフレックスギア部20が移動する。N=7の場合、フレックスギア部20に固定された出力軸部40は、カム部12の回転速度に対して、減速比i=(T-t)/t=7/tで減速される。
また、カム部12の極数がN=7の場合、フレックスギア部20を出力軸部40に固定する固定部40は、軸線AXを中心とした円周方向において等間隔で配列された7個の位置Pに設けられる。7個の位置Pのうち隣り合うもの同士の角度は、(360°/7)となる。
【0060】
(N=8の場合)
図8(b)に示すように、カム部12の極数がN=8の場合、フレックスギア部20は、8個の極部を有するカム部12に撓められ、8箇所でインターナルギア部30と噛み合う。そして、フレックスギア部20の歯数tとインターナルギア30の歯数Tとの関係は、「T=t+8」となる。この場合、カム部12が時計方向に360°回転すると、フレックスギア部20が8つの歯分、反時計方向に移動する。つまり、カム部12が(360°/8)の角度を回転すると、1歯分、インターナルギア部30に対してフレックスギア部20が移動する。N=8の場合、フレックスギア部20に固定された出力軸部40は、カム部12の回転速度に対して、減速比i=(T-t)/t=8/tで減速される。
また、カム部12の極数がN=8の場合、フレックスギア部20を出力軸部40に固定する固定部40は、軸線AXを中心とした円周方向において等間隔で配列された8個の位置Pに設けられる。7個の位置Pのうち隣り合うもの同士の角度は、(360°/8)となる。
【0061】
なお、図示しないが、N≧9の場合についても同様に実現することができる。また、Nがいずれの場合においても、上述のようにN個の位置P(N箇所の固定部60)の各々に対応して、フレックスギア部20の隣接部22、及び、出力軸部40の対向部41が設けられることは勿論である。
【0062】
以上の第1実施形態の種々の変形例(N≧3)に係る波動歯車装置100おいても、N=2の場合に述べたのと同様に様々な効果を得ることができる。円周方向に均等に配列したN個の位置Pの各位置でフレックスギア20を出力軸部40に対して固定部60で固定するため、前述と同様に、出力軸部40を軸線AX周りに回転させるためのトルクに寄与しない無用な応力がフレックスギア部20及び出力軸部40の各々に生じることが低減されるとともに、無用なねじれの力がフレックスギア部20に加わることが低減される。結果として、良好な伝達効率の実現、フレックスギア部20の破損抑制など種々な効果を得ることができる。
【0063】
ここで、従来例に係る波動歯車装置100pのように、ウェーブジェネレータ10pのカムが楕円状に設定されている場合を考える(従来例の符号は
図5(b)に準拠)。サーキュラスプライン30pの歯数をT、ピッチ円直径をDとし、フレクスプライン20pの歯数をt、ピッチ円直径をdとすれば、減速比iは、「i=(T-t)/t=2/t」あるいは、「i=(D-d)/d」と考えることができる。そうすると、減速比iの値を小さくする(より減速した回転出力を得る)には、歯数tを増やしたり、サーキュラスプライン30pの直径Dに対するフレクスプライン20pの直径dの割合を大きくする必要がある。一方、減速比iの値を大きくする(回転出力の減速度合いを抑える)には、歯数tを減らしたり、サーキュラスプライン30pの直径Dに対するフレクスプライン20pの直径dの割合を小さくする必要がある。このように、従来例のように楕円状のカムにだけ頼ると、装置の大きさや条件に様々な制約が生じ、あらゆる減速比の実現が困難である。
【0064】
一方で、第1実施形態の種々の変形例で説明した、カム部12の極数がN≧3のバリエーションによれば、仮に、インターナルギア部30の歯数Tとフレックスギア部20の歯数tとの少なくともいずれかを一定に保ったとしても、減速比i=N/tから分かるように、極数を増やすだけで減速比の値を大きくする(回転出力の減速度合いを抑える)ことができ、極数を減らすだけで減速比の値を小さくする(より減速した回転出力を得る)ことができる。極数のバリエーションに加えて、さらに、歯数Tや歯数tの設定や、フレックスギア部20やインターナルギア部30の口径を変更することで、ほぼ無数のバリエーションの減速比を実現することができる。
【0065】
なお、以上では、カム部12の極数と対応してN箇所の固定部60(極対応固定部の一例)を設けたが、固定部60の設置箇所は、N未満であってもよい。例えば、極数がNである場合、固定部60は、軸線AXを中心とした円周方向において等間隔で配列された、2以上でN以下の箇所に設けられてもよい。こうしても、前述したような無用な応力やねじれの力がフレックスギア部20や出力軸部40に加わることを抑制することができる。この場合において、特に極数が偶数である場合、極数の約数のうち、2以上の約数分だけ固定部60を設けることが好ましいと考えられる。例えば、
図7(b)に示すように、N=6の場合は、6の約数のうち、「2」か「3」、つまり、2箇所か3箇所の位置Pに固定部60を円周方向に均等配置すればよい。こうすれば、円周方向に均等配列された複数の位置Pのいずれかにカム部12の任意の極部が位置している際には、他の位置Pにもカム部12の極部が位置することになる。結果として、フレックスギア部20から出力軸部40へ力を伝達する出力点(位置P)を円周方向に均等分散できるため、高トルクで出力軸部40を回転させることができる。
【0066】
以上のように、極数がNのカム部12に対応して設けられる固定部60(極対応固定部の一例)は、2以上でN以下の個数あることが好ましい。しかしながら、フレックスギア部20の全周に渡ってではなく、円周方向において部分的に出力軸部40を固定することができれば良く、例えば、固定部60は、軸線AXを中心とした円周方向における任意の1箇所に設けられていてもよい。
【0067】
(第2実施形態)
ここからは、フレックスギア部20を出力軸部40に固定する固定部として、前述の極対応固定部としての固定部60に加え、補助固定部60aをさらに備える第2実施形態について、主に
図9(a)、(b)を参照して説明する。第2実施形態では、第1実施形態と異なる点を説明する。
【0068】
補助固定部60aも、前述の固定部60と同様に、フレックスギア部20の隣接部22を、外周側から内周側に向かって出力部40の対向部41に対して固定する固定ピンFから構成されている。補助固定部60aは、軸線AXを中心とした円周方向において固定部60の位置Pとは異なる位置Qに設けられている。補助固定部60aは、好ましくは複数あり、円周方向において等間隔で配列されている。
【0069】
補助固定部60aは、カム部12の極数が比較的少ない場合(Nが2や3の場合)に特に有用であり、軸線AXを中心として出力軸部40を回転させるためのトルクに寄与する力をフレックスギア部20から出力軸部40に伝達する箇所(出力点)を増加させ、当該トルクを稼ぐために設けられる。
【0070】
(N=2の場合)
図9(a)は、カム部12の極数がN=2の場合を示しており、固定部60(同図においては図示省略)の位置Pは、
図3と同様である。N=2の場合、第2実施形態では、2箇所の位置Pに設けられた固定部60に加えて、補助固定部60aが4箇所の位置Qの各々に設けられている。4個の位置Qのうち隣り合うもの同士の角度は、(360°/4)に設定されている。
【0071】
また、
図9(a)に示した状態では、2つの位置Pが0°、180°の箇所にあり、4つの位置Qが45°、135°、225°、315°の箇所にある。つまり、補助固定部60aは、円周方向において隣り合う固定部60の中間位置(90°、270°)を避けた位置に設けられている。これら中間位置(90°、270°)にフレックスギア部20から出力軸部40に伝達する出力点を設定しても、軸線AXを中心として出力軸部40を回転させるためのトルクにあまり寄与しないためである。
【0072】
(N=3の場合)
図9(b)は、カム部12の極数がN=3の場合を示しており、固定部60(同図においては図示省略)の位置Pは、
図6(a)と同様である。N=3の場合、第2実施形態では、3箇所の位置Pに設けられた固定部60に加えて、補助固定部60aが6箇所の位置Qの各々に設けられている。6個の位置Qのうち隣り合うもの同士の角度は、(360°/6)に設定されている。
【0073】
また、
図9(b)に示した状態では、3つの位置Pが0°、120°、240°の箇所にあり、6つの位置Qが30°、90°、150°、210°、270°、330°の箇所にある。つまり、補助固定部60aは、円周方向において隣り合う固定部60の中間位置(60°、180°、300°)を避けた位置に設けられている。これら中間位置(60°、180°、300°)にフレックスギア部20から出力軸部40に伝達する出力点を設定しても、軸線AXを中心として出力軸部40を回転させるためのトルクにあまり寄与しないためである。
【0074】
なお、図示しないが、N≧4の場合についても同様な考え方で補助固定部60aを設けてもよい。しかしながら、前述のように、補助固定部60aは、カム部12の極数が比較的少ない場合(Nが2や3の場合)に特に有用である。また、固定部60と同様に、複数の位置Q(複数の補助固定部60a)の各々に対応して、フレックスギア部20の隣接部22、及び、出力軸部40の対向部41が設けられることは勿論である。
【0075】
また、補助固定部60aの数や配置は、
図9(a)、(b)の例に限定されるものではなく任意である。ただし、フレックスギア部20から出力軸部40へ力を伝達する出力点(位置Q)を円周方向に均等分散し、高トルクで出力軸部40を回転させる観点から、複数の位置Qは、円周方向に均等に配列されていることが好ましい。同様の観点から、カム部12の極数がNである場合、位置Qは、Nの2倍など偶数倍の個数であることが好ましい。なお、補助固定部60aの好ましい配置は、前述の通りであるが、補助固定部60aは、前述の中間位置に設けられても構わないし、軸線AXを中心とした円周方向における任意の1箇所に設けられていてもよい。
【0076】
なお、本発明は以上の実施形態、変形例、及び図面によって限定されるものではない。本発明の要旨を変更しない範囲で、適宜、変更(構成要素の削除も含む)を加えることが可能である。
【0077】
以上では、波動歯車装置100が垂直多関節ロボットからなるロボット200に組み込まれる例を示したが、これに限られない。波動歯車装置100は、水平多関節ロボット、デルタ型ロボットなど種々のロボットに組み込むことが可能である。また、波動歯車装置100が組み込まれる装置はロボットに限定されず任意であり、回転入力に対して所望の減速比で減速した回転出力を得る目的で使用されるものであればよい。
【0078】
また、フレックスギア部20の歯数tと、インターナルギア部30の歯数Tは、T>tであれば任意である。ただし、カム部12の極数がNの場合、歯数tと歯数Tの関係を「T=t+N」と設定することが好ましい。
【0079】
以上では、1つの固定部60が1つの固定ピンFで構成される例を示したが、1つの固定部60が複数の固定ピンFで構成されてもよい。例えば、任意の位置Pにおいて、軸線方向に並ぶ複数(例えば2本)の固定ピンFから1つの固定部60を構成してもよい。また、任意の位置Pにおいて、軸線AXを中心とした円周方向に近接して並ぶ複数(例えば2本)の固定ピンFから1つの固定部60を構成してもよい。補助固定部60aについても同様であり、任意の位置Qにある1つの補助固定部60を複数の固定ピンFで構成してもよい。
【0080】
また、固定部60は、フレックスギア部20の隣接部22をインターナルギア部30の対向部41に軸線AXを中心とした円周方向において部分的に固定することができれば、固定ピンFで構成される態様に限られず任意である。例えば、固定部60は、隣接部22及び対向部41を互いに嵌合する部分や、隣接部22及び対向部41を溶着、固着、接着する部分などから構成されていてもよい。
【0081】
(1)以上に説明した波動歯車装置100は、フレックスギア部20におけるアウタギア21と隣り合う隣接部22を、出力軸部40の対向部41に、軸線AXを中心とした円周方向において部分的に固定する固定部(例えば、固定部60)を備える。また、カム部12は、円周方向において等間隔で位置するN(Nは、2以上の整数)個の極部を有し、アウタギア21をN箇所でインナギア31と噛み合わせる。
この構成によれば、前述の通り、主にフレックスギア部20に加わる無用な応力を抑制することができるため、波動歯車装置100が破損しにくい。また、フレックスギア部20における出力軸部40に固定される部分を、アウタギア21と隣り合う隣接部22としたため、主に軸線方向に波動歯車装置100が大型化することを抑制することができる。また、極数のNを任意に設定すれば、種々の減速比を簡易な構成で実現することができる。
【0082】
(2)また、固定部は、複数あってもよい。そして、複数の固定部は、円周方向において等間隔で配列された、2以上でN以下の個数ある極対応固定部(主に第1実施形態の固定部60に対応。)を含む。
この構成によれば、フレックスギア部20から出力軸部40へ力を伝達する出力点を円周方向に均等分散できるため、高トルクで出力軸部40を回転させることができる。
【0083】
(3)また、上記(2)に記載の複数の固定部は、円周方向において極対応固定部(固定部60)と異なる位置に設けられた補助固定部60aをさらに含む。
(4)そして、好ましくは、補助固定部60aは、複数あり、円周方向において等間隔で配列されている。
これらの構成によれば、軸線AXを中心として出力軸部40を回転させるためのトルクに寄与する力をフレックスギア部20から出力軸部40に伝達する箇所(出力点)を増加させることができ、当該トルクを稼ぐことができる。
【0084】
(5)また、
図9(a)、(b)に示すように、極対応固定部としての固定部60は、N個あり、補助固定部60aは、円周方向において隣り合う極対応固定部の中間位置を避けた位置に設けられていてもよい。
【0085】
(6)波動歯車装置100は、出力軸部40をインターナルギア部30に対して回転可能に支持する支持部50をさらに備え、隣接部22及び対向部41は、支持部50とカム部12との間に位置する。
この構成によれば、前述の通り、カム部12からフレックスギア部20の出力点(つまり、フレックスギア部20から出力軸部40へ力を伝達する固定部60の位置)までの軸線方向の長さを抑えることができ、各構成を軸線方向にコンパクトにして、波動歯車装置100を小型に構成することができる。このように出力点までの長さを抑えることができれば、フレックスギア部20及びインターナルギア部30における一方の歯山と他方の歯底を軸線方向に沿って接触させることができ、互いの歯車の摩耗を抑制することもできる。なお、支持部50は、クロスローラーベアリングに限られず、ボールベアリングや出力軸部40を摺動させて回転可能に支持する軸受などであってもよい。
【0086】
(7)1つの固定部(固定部60又は補助固定部60a)は、軸線AXを中心とした径方向で、隣接部22を対向部41に固定する1又は複数の固定ピンFを含む。
なお、以上の説明では、フレックスギア20の隣接部22を出力軸部40の対向部41に、外周側から内周側に向かって固定ピンFで固定する例を示したが、内周側から外周側に向かって固定ピンFで固定する態様を採用してもよい。ただし、隣接部22を対向部41に外周側から内周側に向かって固定ピンFで固定したほうが、軸線AXを中心とした径方向に装置が大型化することを抑制することができ、好適である。
【0087】
(8)また、アウタギア21の歯数tは、インナギア31の歯数TよりもN個少ない(t=T-N)ことが好ましい。
【0088】
以上の説明では、本発明の理解を容易にするために、公知の技術的事項の説明を適宜省略した。
【符号の説明】
【0089】
100…波動歯車装置
10…波動発生部
11…円筒軸部、12…カム部、13…ウェーブベアリング
20…フレックスギア部
21…アウタギア、22…隣接部
30…インターナルギア部
31…インナギア
40…出力軸部
41…対向部、42…被支持部
50…支持部
60…固定部、60a…補助固定部、F…固定ピン
200…ロボット、201…基台
210…ロボット本体部
211…第1アーム、212…第2アーム、213…モータ
220…コントローラ