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  • 特許-間質性肺炎モデル非ヒト動物の作製方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-30
(45)【発行日】2024-02-07
(54)【発明の名称】間質性肺炎モデル非ヒト動物の作製方法
(51)【国際特許分類】
   A01K 67/027 20240101AFI20240131BHJP
   G01N 33/15 20060101ALI20240131BHJP
【FI】
A01K67/027
G01N33/15 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019232572
(22)【出願日】2019-12-24
(65)【公開番号】P2021100388
(43)【公開日】2021-07-08
【審査請求日】2022-11-28
(73)【特許権者】
【識別番号】502285457
【氏名又は名称】学校法人順天堂
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安倍 能之
(72)【発明者】
【氏名】田村 直人
【審査官】上條 のぶよ
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第01/080891(WO,A1)
【文献】国際公開第00/057913(WO,A1)
【文献】特開2012-125235(JP,A)
【文献】特表2009-527502(JP,A)
【文献】特表2019-520348(JP,A)
【文献】特表2014-527821(JP,A)
【文献】佐藤慎二,皮膚筋炎に伴う急速進行性間質性肺炎:MDA5,呼吸臨床,2017年,Vol. 1 No. 1,No. e00013
【文献】Yoshiyuki Abe et al.,Clinical characteristics and change in the antibody titres of patients with anti-MDA5 antibody-positive inflammatory myositis,RHEUMATOLOGY,2017年,Vol .56 Issue 9,1492-1497
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 67/027
G01N 33/15
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗ヒトMDA5抗体を非ヒト動物に静脈内投与し、ついでリポ多糖を腹腔内投与することを特徴とする間質性肺炎モデル非ヒト動物の作製方法。
【請求項2】
リポ多糖の腹腔内投与が、抗ヒトMDA5抗体の静脈内投与の3日後である請求項1記載の作製方法。
【請求項3】
非ヒト動物が、マウスである請求項1又は2記載の作製方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項記載の方法によって得られる間質性肺炎モデル非ヒト動物に被験物質を投与し、肺の間質性変化を観察することを特徴とする間質性肺炎治療薬のスクリーニング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、間質性肺炎モデル非ヒト動物の作製方法及び当該モデル非ヒト動物の利用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
間質性肺炎は、種々の原因から肺胞壁炎症や損傷が起こり、壁が厚く硬くなり(線維化)、ガス交換がうまくできなくなる病気である。間質性肺炎の原因には、関節リウマチや多発性皮膚筋炎などの膠原病(自己免疫疾患)、職業上や生活上での粉塵やカビ、ペットの毛、羽毛などの慢性的な吸入(じん肺や慢性過敏性肺炎)、病院で処方される薬剤、漢方薬、サプリメントなどの健康食品(薬剤性肺炎)、特殊な感染症など知られているが、原因不明の特発性間質性肺炎もある。
また、間質性肺炎では、肺胞壁が厚く硬くなる肺線維症を併発することが多い(非特許文献1)。
【0003】
また、多発性筋炎、皮膚筋炎は、筋肉の炎症により筋肉に力が入らなくなったり、疲れやすくなったり、痛んだりする病気であるが、膠原病に含まれる。この皮膚筋炎のうち、抗MDA5抗体陽性皮膚筋炎合併急速進行性間質性肺炎は、指定難病である皮膚筋炎の亜型の一つである。この疾患は、予後不良であり、以前は致死率が70%を超えていたが、多剤併用強力免疫抑制療法が開発され、6カ月生存率が28.6%から75%に改善されたが、依然6カ月で25%が死亡する疾患である。
【0004】
これらの間質性肺炎の治療には、通常ステロイド剤が用いられるが、抗線維化薬、免疫抑制剤、N-アセチルシステイン吸入なども用いられる。しかし、奏功しない症例が多く、新たな治療薬の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】難病情報センターのウェブサイト 特発性間質性肺炎(指定難病85)の欄
【文献】難病情報センターのウェブサイト 皮膚筋炎/多発性筋炎(指定難病50)の欄
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
間質性肺炎治療薬の開発には、間質性肺炎のモデル非ヒト動物が必要になるが、良好なモデルは知られていない。
従って、本発明の課題は、間質性肺炎のモデル非ヒト動物の作製法及びその利用方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで、本発明者は、皮膚筋炎患者が急性進行性間質性肺炎を併発すること、皮膚筋炎の自己抗体として知られている抗MDA5抗体に着目し、非ヒト動物に抗MDA5抗体を投与したが、間質性肺炎モデル非ヒト動物は得られなかった。更に検討を続け、抗ヒトMDA5抗体を非ヒト動物に静脈内投与し、ついでリポ多糖を腹腔内投与したところ、全く意外にも当該非ヒト動物の肺が一部線維化するとともに間質性変化を生じることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は以下の発明[1]~[5]を提供するものである。
[1]抗ヒトMDA5抗体を非ヒト動物に静脈内投与し、ついでリポ多糖を腹腔内投与することを特徴とする間質性肺炎モデル非ヒト動物の作製方法。
[2]リポ多糖の腹腔内投与が、抗ヒトMDA5抗体の静脈内投与の2~4日後である[1]記載の作製方法。
[3]非ヒト動物が、マウスである[1]又は[2]記載の作製方法。
[4][1]~[3]のいずれかに記載の方法によって得られる間質性肺炎モデル非ヒト動物。
[5][4]記載の間質性肺炎モデル非ヒト動物に被験物質を投与し、肺の間質性変化を観察することを特徴とする間質性肺炎治療薬のスクリーニング方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明方法によって得られる間質性肺炎モデル非ヒト動物は、リポ多糖投与7日~10日後ぐらいには肺内への高度な炎症細胞浸潤、高度炎症による肺胞出血、一部線維化像と間質性変化を生じ、間質性肺炎特有の症状を呈するため、間質性肺炎治療薬のスクリーニング及び間質性肺炎の研究材料として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】マウスに対する投与スケジュールを示す図である。
図2】肺内への高度な炎症細胞浸潤を示す図である。
図3】高度炎症による肺胞出血を示す図である。
図4】一部線維化と間質性変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の間質性肺炎モデル非ヒト動物の作製方法は、抗ヒトMDA5抗体を非ヒト動物に静脈内投与し、ついでリポ多糖を腹腔内投与することを特徴とする。
【0012】
用いられる非ヒト動物としては、ヒト以外の動物であればいずれでもよいが、非ヒト哺乳動物が好ましい。非ヒト哺乳動物としては、例えば、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウサギ、イヌ、ネコ、モルモット、ハムスター、マウス、ラットなどが挙げられるが、病態動物モデル系の作製の面から、個体発生及び生物サイクルが比較的短く、また、繁殖が容易な齧歯動物、とりわけマウスが好ましく、C57BL/6Jマウスがさらに好ましい。
【0013】
抗MDA5(melanoma differentiation-associated gene 5)抗体は、皮膚筋炎のうち急速進行性間質性肺炎を効率に併発し予後不良なサブセットの標識自己抗体として知られている。MDA5は細胞質に存在するRNAウイルスのレセプターであるため、抗MDA5抗体はHEp-2細胞を基質とした蛍光抗体間接法で細胞質型を示す。
【0014】
本発明においては、抗ヒトMDA5抗体が用いられる。抗ヒトMDA5抗体は、抗MDA5抗体陽性患者の血液より分離するのが、入手が容易である。血液から、抗ヒトMDA5抗体を抽出するには、プロテインGアッセイ法、例えばコスモバイオSpin column based Antibody Purification Kit (Protein G) CSR APK-10G 10 ASSAYを用いればよい。
また、抗ヒトMDA5抗体は、ヒトMDA5を動物に投与して得られる抗血清(ポリクローナル抗体)を用いてもよいし、常法に従って得られるモノクローナル抗体でもよい。
【0015】
抗ヒトMDA5抗体の非ヒト動物へ投与は、静脈内投与が好ましい。例えば、マウスの場合は、尾静脈に投与するのが好ましい。投与量は、抗ヒトMDA5抗体として、15~90mg/kgが好ましく、30~60mg/kgがさらに好ましい。
【0016】
抗ヒトMDA5抗体投与後、2~4日後、より好ましくは3日後にリポ多糖を腹腔内投与する。
リポ多糖は、グラム陰性菌細胞壁外膜の構成成分であり、脂質及び多糖から構成される物質であり、例えばコスモバイオ社から販売されている市販品を使用することができる。リポ多糖の投与により、抗ヒトMDA5抗体の免疫原性が増強されるものと考えられる。
リポ多糖の投与部位は、腹腔内である。リポ多糖の投与量は、0.5~3mg/kgが好ましく、1~2mg/kgがより好ましい。
【0017】
リポ多糖投与後、7日~10日には、この非ヒト動物は、間質性肺炎の症状を呈する。具体的には、肺内への高度な炎症細胞浸潤、高度炎症による肺胞出血、一部線維化像と間質性変化を生じる。従って、得られる非ヒト動物は、間質性肺炎モデル非ヒト動物として有用である。
この非ヒト動物は、間質性肺炎の研究材料として、また間質性肺炎治療薬のスクリーニング方法に利用可能である。
【0018】
すなわち、本発明の間質性肺炎モデル非ヒト動物に被験物質を投与し、肺の間質性変化を観察すれば、間質性肺炎治療薬をスクリーニングすることができる。測定項目としては、肺内への高度な炎症細胞浸潤、高度炎症による肺胞出血、及び一部線維化像と間質性変化から選ばれる一つ以上を観察すればよいが、それらのすべてを観察するのが好ましい。
本発明の間質性肺炎モデル非ヒト動物に被験物質を投与した場合に、被験物質を投与していない間質性肺炎モデル非ヒト動物の症状に比べて、前記の症状が改善されれば、その被験物質は間質性肺炎病治療薬である。
【0019】
本発明における被験物質は、間質性肺炎に対する治療効果を予測したい薬物であればよく、特に限定されない。被験物質の投与方法としては、特に制限はなく、投与される動物種や被験物質の特性に応じて適宜選択すればよい。例えば、経口投与、静脈内投与、筋肉内投与、皮内投与、皮下投与、腹腔内投与、直腸内投与等が挙げられる。被験物質の投与量も、投与される動物種や被験物質の特性に応じて適宜設定すればよい。
【実施例
【0020】
次に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【0021】
参考例
抗ヒトMDA5抗体は、抗MDA5抗体陽性患者の血液より分離した。血液から、抗ヒトMDA5抗体を抽出するには、プロテインGアッセイ法、例えばコスモバイオSpin column based Antibody Purification Kit (Protein G) CSR APK-10G 10 ASSAYを用い、添付文書通りに実施した。すなわち、(1)製品カラムを2mLチューブに装着する。(2)プレフィルドされているエタノールを6000回転30秒遠心し、フロースルーを破棄する。(3)Binding buffer 500μLでカラムを満たし、6000回転30秒遠心し、フロースルーを破棄する。(4)患者血漿サンプル 500μLでカラムを満たし、6000回転30秒遠心し、フロースルーを破棄する。(5)Wash buffer 500μLでカラムを満たし、6000回転30秒遠心し、フロースルーを破棄する。(6)2mL tubeを新しいtubeに変更し、Neutralization buffer 10μLを注入する。(7)Elution buffer 100μLでカラムを満たし6000回転30秒遠心し、フロースルー(精製抗体液)を回収する。この作業で1回につき約300μgの抗体を回収することが可能である。
【0022】
実施例1
図1記載の投与スケジュールに従って、C57BL/6Jマウス尾静脈内に、抗ヒトMDA5抗体600μg/200μLを投与した。その3日後に、リポ多糖50μg/100μL腹腔内投与した。更に11日後にマウスを解剖した。肺の両側下葉部位について、HE染色(ヘマトキシリン・エオジン染色)とMT染色(マッソン・トリクローム染色)を行った。
その結果を、図2図3及び図4に示す。図2より、肺内への高度な炎症細胞浸潤が認められた。図3より、高度炎症による肺胞出が認められた。図4より、一部線維化像と間質性変化を生じることが示された。
これらの結果より、本発明の非ヒト動物は、間質性肺炎の非ヒト動物モデルとして有用であることが判明した。
図1
図2
図3
図4