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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-30
(45)【発行日】2024-02-07
(54)【発明の名称】湿式ビーズミル
(51)【国際特許分類】
   B02C 17/16 20060101AFI20240131BHJP
   B02C 17/18 20060101ALI20240131BHJP
   B01F 35/71 20220101ALI20240131BHJP
   B01F 35/75 20220101ALI20240131BHJP
   B01F 27/00 20220101ALI20240131BHJP
   B01F 27/2122 20220101ALI20240131BHJP
   B01F 27/90 20220101ALI20240131BHJP
【FI】
B02C17/16 B
B02C17/18 E
B02C17/18 Z
B01F35/71
B01F35/75
B01F27/00
B01F27/2122
B01F27/90
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020072348
(22)【出願日】2020-04-14
(65)【公開番号】P2020182934
(43)【公開日】2020-11-12
【審査請求日】2023-03-24
(31)【優先権主張番号】P 2019084833
(32)【優先日】2019-04-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】505279215
【氏名又は名称】株式会社広島メタル&マシナリー
(74)【代理人】
【識別番号】100153497
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 信男
(72)【発明者】
【氏名】茨城 哲治
(72)【発明者】
【氏名】山口 郁
(72)【発明者】
【氏名】棗田 和之
(72)【発明者】
【氏名】平田 大介
【審査官】小久保 勝伊
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-059723(JP,A)
【文献】米国特許第04834301(US,A)
【文献】特開2017-042685(JP,A)
【文献】特開2001-046899(JP,A)
【文献】特開2017-136586(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B02C 17/16
B02C 17/18
B01F 35/71
B01F 35/75
B01F 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スラリーとビーズの混合物を内部空間で攪拌する円筒容器と、前記円筒容器の上方に設置されるスラリー貯槽と、前記円筒容器と前記スラリー貯槽とを連結するスラリー流路とを有する湿式ビーズミルであって、
前記スラリー貯槽の上方に駆動装置を有し、前記駆動装置に連結した回転軸が、前記スラリー貯槽と前記スラリー流路を経由して前記円筒容器に伸びており、
前記回転軸は、前記スラリー流路内部のスラリーを下方に流す部材と、前記円筒容器の内部位置でスラリーとビーズの混合物を攪拌する攪拌子が連結され、
スラリー中のビーズを分離するビーズ分離装置を通過した後に、前記スラリー流路とは異なる開口部から、スラリーが前記円筒容器の外に排出される構造であることを特徴とする湿式ビーズミル。
【請求項2】
前記スラリー流路中の前記回転軸の回転とともにスラリーを下方に流す構造を有し、
前記円筒容器の下蓋にスラリー排出口が設置され、
前記ビーズ分離装置は、隙間にビーズを接触させることでビーズを分離するように構成された構造であり、
スラリーが前記スラリー貯槽から前記スラリー流路を経由して、前記円筒容器内を通り、前記ビーズ分離装置にてビーズを分離した後に、前記円筒容器から排出される構造であることを特徴とする請求項1に記載の湿式ビーズミル。
【請求項3】
前記ビーズ分離装置は、前記回転軸に固定される遠心ビーズ分離器からなり、
前記遠心ビーズ分離器は、前記円筒容器内においてスラリーが外周側から中心方向に流れる際に遠心力を用いてビーズを分離するように構成され、
かつ前記遠心ビーズ分離器の上面にスラリーに旋回を与えるプレート及び旋回プレートの少なくともいずれかが複数設置されており、
前記遠心ビーズ分離器の下方の位置において、前記回転軸に攪拌子が固定されており、
前記回転軸は、内部に前記遠心ビーズ分離器の中心部から前記スラリー貯槽内にスラリーが通過できる管状空間を有し、
前記円筒容器の下蓋には、スラリー供給口が設置されているともに、前記スラリー貯槽にスラリー排出口が設置され、
スラリーが前記スラリー供給口から前記円筒容器内を通り、前記遠心式ビーズ分離器の中心部から前記管状空間を経由して、前記スラリー貯槽に入った後に装置外に排出されるとともに、
前記スラリー貯槽内のスラリーの一部が、前記プレート及び旋回プレートの少なくともいずれかの回転により、前記スラリー流路を経由して前記円筒容器に強制的に送液される構造であることを特徴とする請求項1に記載の湿式ビーズミル。
【請求項4】
前記ビーズ分離装置は、前記回転軸に固定される攪拌ビーズ分離器からなり、
前記攪拌ビーズ分離器は、前記円筒容器内においてスラリーとビーズの混合物を攪拌するとともにスラリーが外周側から中心方向に流れる際に遠心力を利用してビーズを分離するように構成され、
かつ前記撹拌ビーズ分離器の上面にスラリーに旋回を与えるプレート及び旋回プレートの少なくともいずれかが複数設置されており、
前記回転軸は、内部に前記攪拌ビーズ分離器の中心部から前記スラリー貯槽内にスラリーが通過できる管状空間を有し、
前記円筒容器の下蓋には、スラリー供給口が設置されているともに、前記スラリー貯槽にスラリー排出口が設置され、
スラリーが前記スラリー供給口から前記円筒容器内を通り、前記攪拌ビーズ分離器の中心部から前記管状空間を経由して、前記スラリー貯槽に入った後に装置外に排出されるとともに、
前記スラリー貯槽内のスラリーの一部が、前記プレート及び旋回プレートの少なくともいずれかの回転により、前記スラリー流路を経由して前記円筒容器に強制的に送液する構造であることを特徴とする請求項1に記載の湿式ビーズミル。
【請求項5】
前記回転軸の前記スラリー流路中の位置に、旋回に伴い前記スラリー流路中のスラリーを下方に流す構造のポンピング部材を有することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の湿式ビーズミル。
【請求項6】
前記遠心分離装置が、上板、下板、及び複数の前記プレートを有し、
前記プレートが、前記上板と前記下板に接続するように設けられていることを特徴とする請求項3から5のいずれかに記載の湿式ビーズミル。
【請求項7】
前記プレートが、中心から外周部に向けて回転と逆方向に15~60度の後退角を有することを特徴とする請求項3から6に記載の湿式ビーズミル。
【請求項8】
前記プレートの外周部での設置間隔が、56mm以下であることを特徴とする請求項3から7のいずれかに記載の湿式ビーズミル。
【請求項9】
前記遠心分離装置の上板が、上方に旋回プレートを有し、
前記旋回プレートの内周部の直径と外周部の直径の差の外周径に対する比が、0.2以上であることを特徴とする請求項6から8のいずれかに記載の湿式ビーズミル。
【請求項10】
前記遠心分離装置の上板が、上方に旋回プレートを有し、
前記旋回プレートの外周部における間隔が、71mm以下であることを特徴とする請求項6から9のいずれかに記載の湿式ビーズミル。
【請求項11】
前記遠心分離装置の上板が、上方に旋回プレートを有し、
前記旋回プレートの外周径が、前記遠心分離装置のスラリーに旋回を与える部材の外周径の0.9~1.2倍であることを特徴とする請求項6から10のいずれかに記載の湿式ビーズミル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、容器内にて攪拌メディアである硬質粒子(以下、ビーズという)を攪拌することで、溶媒中に固体の微粒子を懸濁したもの(以下、スラリーという)中の微粒子を粉砕・分散処理をする湿式ビーズミルに関する。
【背景技術】
【0002】
スラリー中粒子の粉砕・分散装置としては各種のものがあるが、連続式としては、密閉の円筒型容器内にて回転部材(攪拌子)が高速回転することで、円筒型容器と攪拌子との間でせん断力を発生させ、スラリー中に懸濁している攪拌メディア(ビーズ)により、スラリー中粒子の粉砕・分散を行う装置(ビーズミル)がある。例えば、特許文献1の特許文献に開示されている発明の装置(ビーズミル1)では、円筒型容器の下部に攪拌子があり、これが回転することで、粒子の粉砕処理や一次粒子が凝集した二次粒子の分散処理を行う。粉砕・分散を効率的に実施する場合には、スラリー中に0.03~3mm程度の径のビーズを混入させて処理を行う。ビーズミル1では、上部のビーズ分離装置で、粉砕・分散処理が完了したスラリーからビーズを分離している。
【0003】
また、特許文献2に記載の湿式ビーズミル(ビーズミル2)は、遠心分離装置により、ビーズ分離とスラリーとビーズの混合物を攪拌の両方を実施する装置である。ビーズ分離能力を向上することで、低速回転でも運転可能とし、攪拌力を加減して、過剰粉砕力を低下させることで、分散処理時の粒子形状を良好にする機能がある。また、攪拌子はビーズミル1と同じであるが、スラリー出口にノズル状の可動式栓を設置して、出口と可動式栓にビーズの直径よりも狭い隙間を形成するものである。処理が終わったスラリーをこの隙間と通過させることにより、ビーズを分離するものである。同様の機能を持ったビーズミルとしては、ビーズ分離にスクリーンを用いるものがある。
【0004】
ビーズの出口にビーズ径よりも狭いスリットやスクリーンを有するビーズ分離機構のビーズミルでは、ビーズを分離する隙間の制約から0.3mmから数mmのビーズを使用して、スラリーを処理する。スラリーがこの隙間を通過する際に、大きな圧力損失があるため、この形式のビーズ分離装置を持ったビーズミルにスラリーを流すためには、0.1~0.4MPaの比較的高い圧力をかける。また、ビーズ分離に遠心力を利用する分離器を使用する場合においても、ミル内の圧力損出や回転に伴う遠心力に流れが打ち勝つための圧力などが必要であることから、やはり0.1~0.4MPaの比較的高い圧力をかける。
【0005】
このように、ビーズミルにはシール装置が不可欠であり、またシール装置の磨耗や付着物に伴う問題があり、これを解決する技術として、特許文献3に記載されるメカニカルシールなしの湿式ビーズミル(ビーズミル3)が開発されていた。ミル上部に穴を開けて、ビーズミルの攪拌子と遠心式ビーズ分離器を回転させる回転軸との間に隙間を作り、この隙間において、遠心式ビーズ分離器にてビーズを分離したスラリーを上昇させ、ミル外に排出させることで、メカニカルシールを使用しない技術であった。ただし、遠心ビーズ分離器とミル上部との間の上方空間では、ビーズ分離できないことから、上方空間から前記の隙間に、ビーズを含んだスラリーが流れ込む問題があるため、遠心式ビーズ分離器の上面に、中心から周辺へのスラリーの流れを作るインペラー部材を設置したものである。
【0006】
なお、ここで粉砕処理とは、単一粒子を複数の小粒子に分割することを言い、また、分散処理とは、二次粒子を分離して、一次粒子が単独で分散している状態にすることを言う。なお、一次粒子とは、物質の結晶又は非晶質の単独粒子を言い、また二次粒子とは、一般に数個から数千程度の一次粒子の表面が接触しあい擬似的な粒子を構成しているものを言う。粉砕処理・分散処理に用いられるビーズは、アルミナやジルコニアなどのセラミック製、ステンレススチール等の金属製、プラスチック製の粒子であり、一般に球形のものが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2002-143707号公報
【文献】特開2017-131807号公報
【文献】特開2017-043685号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
湿式ビーズミルは、連続処理が可能であり、マイクロメートルサイズからナノメートルサイズの粉砕・分散ができるなど、優秀な粉砕・分散機能を持っているが、以下のような課題があった。湿式ビーズミルは円筒型容器中にて、ビーズを攪拌してスラリー中の粒子を粉砕処理又は分散処理し、円筒型容器内でビーズ分離している。スリットやスクリーンのような狭い隙間にスラリーを通過させることでビーズを分離するビーズ分離機構を持つ湿式ビーズミルにおいては、スラリーを攪拌する際の流体抵抗と、前記の隙間を通過する際の流体抵抗があり、このためスラリーに圧力をかけて円筒型容器内に押し込むことが必要であった。円筒型容器内の攪拌子を回転するための回転軸は、回転摺動部がスラリーと接するため、この内部圧力に対抗するために、回転部のシーリング機構が必要であった。このような比較的高圧の部分の回転部シーリングのために、一般的にメカニカルシール装置やロータリージョイントなどによるシール構造が用いられていた。
【0009】
メカニカルシールなどのシール装置は、固定部品と回転部品の接触部があり、また容器内の高圧スラリーがシール部から外に漏れないように、シール液をシール装置の外側の圧力をかけて貯留する構造であった。このシール接触部部品は徐々に磨耗していくため、シール性能が経時的に低下する問題があった。この結果、シール液がスラリー内に漏れて、スラリーを汚染する問題があった。またシール接触部部品(金属やセラミックスなど)の磨耗粉がスラリー中に混入する問題があった。更に、シール装置の磨耗がひどくなった場合は、シール装置を交換する必要があり、このための費用がかかる問題があった。特にニッケルなどの金属粉を含むスラリーでのシール部磨耗は大きく、重大な問題があった。
【0010】
シール装置の更なる問題は、複数の複雑な形状の部品からなる装置であり、全体としても複雑な構造であり、継ぎ目や凹凸部が存在することがある。シール装置を有する湿式ビーズミルでは、この継ぎ目や凹凸部にスラリーが固着する問題があった。特に食品や医薬品の原料の処理では、固着物の腐敗により製品が商品にならないことや、洗浄しづらく、品種変えの後のスラリーへの汚染の問題があった。
【0011】
一方、メカニカルシール装置のない湿式ビーズミルとして、ビーズミル3があるが、この方式では、ミル下部のスラリー供給口から流入するスラリー圧力により、前記の隙間でスラリーを上昇させるとともに、遠心式ビーズ分離器の上板の部材(スラリー付勢手段)の効果により、遠心ビーズ分離器の上板と円筒容器の上面の間から、ミル側面近傍を経緯して、遠心ビーズ分離器の内部を循環する流れを作ることで、ビーズを含んだスラリーが前記の隙間に流れ込まない構造としていた。
【0012】
しかしながら、このような構造では、運転中の色々な条件変化に伴い、ミル内の圧力が上昇することがあり、この場合は、遠心ビーズ分離器の上側をビーズ含有スラリーが外側から内側に流れ、前記の隙間からミル外に排出される。この結果、ビーズが漏洩してしまう。これを防止するためには、遠心ビーズ分離器上面のインペラー部材の形状を改善することや数を増やすことなどで、循環スラリー流量を増加させる対応方法がある。しかし、循環スラリー流量が増えると、遠心ビーズ分離器を通過するスラリー流速が上がるため、ビーズが漏れやすくなる問題があった。
【0013】
また、この方式では、攪拌子と遠心ビーズ分離器の回転速度が上昇すると、循環スラリー流量が増える問題があった。つまり、攪拌力強化のために回転数を増加させると、循環スラリー流量が増え過ぎてしまい、遠心ビーズ分離器内でのスラリー流速が過大となり、ビーズ漏洩防止のための最適条件を逸脱することがあった。また一方、低速回転時は、循環流量が低下しすぎて、ミル内圧力変動による圧力上昇時に、外側への流れが小さくなりすぎて、円筒容器上面と遠心式ビーズ分離器の間で、条件によっては、外側から中心方向への流れが起きて、ビーズ漏洩が起きる問題があった。このように、ビーズミル3では、理想的な運転条件では、ビーズ漏洩が起きないが、湿式ビーズミルの運転条件(攪拌子の外周速や処理スラリー流量など)やスラリー粘度が変化すると、ビーズ漏洩が起きる問題があった。
【0014】
このように、従来技術による湿式ビーズミルでは、メカニカルシールに起因する問題がある装置か、これを解消する装置であっても、運転条件の変化がある場合に、臨機応変に対応できないものであった。したがって、これらの問題を解決する新しい技術が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0015】
(1)本発明の湿式ビーズミルは、スラリーとビーズの混合物を内部空間で攪拌する円筒容器と、前記円筒容器の上方に設置されるスラリー貯槽と、前記円筒容器と前記スラリー貯槽とを連結するスラリー流路とを有する湿式ビーズミルであり、前記スラリー貯槽の上方に駆動装置を有し、前記駆動装置に連結した回転軸が、前記スラリー貯槽と前記スラリー流路を経由して前記円筒容器に伸びており、前記スラリー流路内部のスラリーが下方に流れる構造の部材が設置されており、前記円筒容器の内部位置でスラリーとビーズの混合物を攪拌する攪拌子が連結され、スラリー中のビーズを分離するビーズ分離装置を通過し後に、前記スラリー流路とは異なる開口部から、スラリーが前記円筒容器の外に排出される構造であることを特徴とする湿式ビーズミルである。
【0016】
(2)また、前記スラリー流路中の前記回転軸の回転とともにスラリーが下方に流れる構造の部材が設置されており、前記円筒容器の下蓋にスラリー排出口が設置され、前記ビーズ分離装置は、前記スラリー排出口に設置されており、ビーズに接触させることでビーズを分離するように構成されており、スラリーが前記スラリー貯槽から前記スラリー流路を経由して、前記円筒容器内を通り、前記ビーズ分離装置にてビーズを分離した後に、前記円筒容器から排出される構造であることにより、前記課題を解決するものである。
【0017】
(3)また、前記ビーズ分離装置は、前記回転軸に固定される遠心ビーズ分離器からなり、前記遠心ビーズ分離器は、前記円筒容器内においてスラリーが外周側から中心方向に流れる際に遠心力を用いてビーズを分離するように構成され、かつ前記スラリーを下方に流す機構として、前記遠心ビーズ分離器の上面にスラリーに旋回を与えるプレート及び旋回プレートの少なくともいずれかが複数設置され、前記遠心ビーズ分離器の下方の位置において、前記回転軸に攪拌子が固定されており、前記回転軸は、内部に前記遠心ビーズ分離器の中心部から前記スラリー貯槽内にスラリーが通過できる管状空間を有する。前記円筒容器の下蓋には、スラリー供給口が設置されているとともに、前記スラリー貯槽にスラリー排出口が設置され、スラリーが前記スラリー供給口から前記円筒容器内を通り、前記遠心式ビーズ分離器の中心部から前記管状空間を経由して、前記スラリー貯槽に入った後に装置外に排出されるとともに、前記スラリー貯槽内のスラリーの一部が、前記旋回プレートの回転により、前記スラリー流路を経由して前記円筒容器に強制的に送液される構造であることにより、前記課題を解決するものである。
【0018】
(4)また、前記ビーズ分離装置は、前記回転軸に固定される攪拌ビーズ分離器からなり、前記攪拌ビーズ分離器は、前記円筒容器内においてスラリーとビーズの混合物を攪拌するとともにスラリーが外周側から中心方向に流れる際に遠心力を利用してビーズを分離するように構成され、かつ前記撹拌ビーズ分離器の上面にスラリーに旋回を与えるプレート及び旋回プレートの少なくともいずれかが複数設置され、前記回転軸は、内部に前記攪拌ビーズ分離器の中心部から前記スラリー貯槽内にスラリーが通過できる管状空間を有する。前記円筒容器の下蓋には、スラリー供給口が設置されているともに、前記スラリー貯槽にスラリー排出口が設置され、スラリーが前記スラリー供給口から前記円筒容器内を通り、前記攪拌ビーズ分離器の中心部から前記管状空間を経由して、前記スラリー貯槽に入った後に装置外に排出されるとともに、前記スラリー貯槽内のスラリーの一部が、前記旋回プレートの回転により、前記スラリー流路を経由して前記円筒容器に強制的に送液する構造であることにより、前記課題を解決するものである。
【0019】
(5)また、前記(1)から(4)のいずれかに記載の湿式ビーズミルであって、前記スラリー流路中の位置において前記回転軸に、前記スラリー流路中の旋回に伴いスラリーを下方に流す構造のポンピング部材を有すことにより、前記課題を解決するものである。
(6)また、前記(3)から(5)のいずれかに記載のビーズミルであって、前記遠心分離装置が上板、下板、及び複数の前記プレートを有し、前記プレートが、前記上板と前記下板に接続するように設けられていることにより、前記課題を解決するものである。
(7)また、前記(3)から(6)のいずれかに記載のビーズミルであって、前記プレートが、中心から外周部に向けて回転と逆方向に15~60度の後退角を有することにより、前記課題を解決するものである。
(8)前記(3)から(7)のいずれかに記載のビーズミルであって、前記プレートの外周部での設置間隔が56mm以下であることにより、前記課題を解決するものである。
(9)前記(6)から(8)のいずれかに記載のビーズミルであって、前記遠心分離装置の上板が、上方に前記旋回プレートを有し、前記旋回プレートの内周部の直径と外周部の直径の差の外周径に対する比が、0.2以上であることにより、前記課題を解決するものである。
(10)前記(6)から(9)のいずれかに記載のビーズミルであって、前記遠心分離装置の上板が、上方に前記旋回プレートを有し、前記旋回プレートの外周部における間隔が、71mm以下であることにより、前記課題を解決するものである。
(11)前記(6)から(10)のいずれかに記載のビーズミルであって、前記遠心分離装置の上板が、上方に前記旋回プレートを有し、前記旋回プレートの外周径が、前記遠心分離装置のスラリーに旋回を与える部材の外周径の0.9~1.2倍であることにより、前記課題を解決するものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明の湿式ビーズミルには、スラリーに接する回転部シール装置がないため、回転部のシール装置の接触部材の磨耗に伴う磨耗したシール部品の破片やシール液による製品スラリーの汚染等の問題が解決できる。また回転部シール装置へのスラリー中粒子が固着して部品洗浄がしづらい問題も解決できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明のビーズミルの上部の構造の第一の例を示した図である。
図2】本発明のビーズミルの上部の構造の第二の例を示した図である。
図3】本発明の第一形式のビーズミルであり、スラリー排出口に隙間を形成するプラグ型のビーズ分離装置を設置した例である。
図4】本発明の第二形式のビーズミルであり、遠心ビーズ分離器と攪拌子が回転軸に設置されている例である。
図5】本発明の第三形式のビーズミルであり、ビーズの遠心分離機能と攪拌機能を有する攪拌ビーズ分離器が回転軸に設置されている例である。
図6】本発明に用いる遠心ビーズ分離器の構造の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明者らは、従来の湿式ビーズミルが回転軸と固定部の間に装備しているメカニカルシールを省略するための機械構造を種々研究した。特許文献3の装置は、回転軸と円筒容器上蓋の開口部の間の隙間をスラリーが上昇する構造により、シール機構を省略するビーズミルであった。しかしながら、本発明者らは、種々の実験を行い、例え遠心ビーズ分離器の上面にスラリーを循環させる構造物を設置して、遠心ビーズ分離器の上面と円筒容器の上面の間に中心から周辺への流れを作っても、回転軸側面の隙間をスラリーが上昇する限りは、ビーズ漏洩が起きやすいことを解明した。
【0023】
そこで、図1又は2に示されるように、円筒容器の上方にスラリー貯槽8を設置して、回転軸9と前記円筒容器の上蓋2の上方に設置されているスラリー流路7の中に、スラリー貯槽8の中のスラリーを下降させる装置を付けた縦型の湿式ビーズミルを発明した。本発明は、大きく第一形態と第二形態とに分けられる。第一形態では、比較的大きなビーズを使用するビーズミルであり、接触式のビーズ分離装置を用いるものである。第二形態では、比較的小さなビーズを使用するビーズミルであり、遠心式のビーズ分離装置を用いるものである。
【0024】
本発明の湿式ビーズミルは、スラリーがスラリー貯槽8からスラリー流路7を経由して、円筒容器内に入ることで、回転軸9にメカニカルシールを設置せずとも、前記円筒容器内に圧力をかけた状態でスラリーを満たすことが可能となる。なお、前記円筒容器中スラリーは、前記円筒容器の内部に設置されたビーズ分離装置を経由して、スラリー流路7とは異なる位置に設けたスラリー排出口から排出される。
【0025】
図1に示されるように、スラリー貯槽8の上方に回転軸9の駆動装置である軸駆動プーリー11があり、軸駆動プーリー11に連結した回転軸9がスラリー貯槽8とスラリー流路7を経由して前記円筒容器内に伸びている。駆動装置は、必ずしもプーリーでなくともよく、ギア式やモーター直結式でもよい。スラリー流路7内部の位置で回転軸9にポンピング部材10が設置されており、ポンピング部材10の回転により、スラリー貯槽8内のスラリーを前記円筒容器に押し込む。図1には記載されていないが、前記円筒容器の内部位置で回転軸9に攪拌部材などが連結されており、前記円筒容器の内部で、スラリーとビーズの混合物を攪拌する。なお、図1では、簡略化のため、前記円筒容器の上部の構造のみを記載している。スラリーを下方に流す部品は、必ずしもポンピング部材10でなくともよく、またスラリー流路7の内部でなくともよい。例えば、ミル内の最上部位置で、回転軸に複数の攪拌棒(インペラー)や上面に攪拌用プレートを備えた回転盤などを設置して、これら部品の回転の伴う遠心力で、スラリー流路7の中のスラリーを下方に流すことでもよい。その構造例を図2に示す。この例では、ミル内に円盤28が設置されており、その上面に、遠心ポンプに類似した構造の複数の上部羽根29が設置されている、上部羽根29が作る遠心力で、スラリー流路7から前記円筒容器内に流すことができる。
【0026】
スラリーがスラリー貯槽8からスラリー流路7を経由して、前記円筒容器に供給されて、攪拌された後に、下蓋3に設置されたビーズ分離器5を経由して、外部に排出される形態(第一の形態)がある。(図3に記載)これは、主としてスラリー貯槽8、スラリー流路7、円筒容器を形成する円筒部1、上蓋2及び下蓋3、更に回転軸9、ポンピング部材10、攪拌子4、下蓋3に設置されるビーズ分離器5とスラリー排出口6から構成されるものである。この形式では、ビーズ分離装置として、必ずしも図3に示される構造のものだけではなく、接触式分離装置(スリット式、スクリーン式)を用いるものであれば良い。
【0027】
また、スラリーが円筒容器の下部から供給されて、前記円筒容器内で処理を施された後に、遠心式のビーズ分離装置を経由して、回転軸9に施されたスラリーを前記円筒容器からスラリー貯槽8に流すための管状空間を経由して、スラリー貯槽8に排出される形態(第二の形態)がある。(図4に記載)なお、後者の方式では、スラリー流路7内に設置されたポンピング部材10などより、スラリー貯槽8中のスラリーの一部をスラリー流路7経由で前記円筒容器中に強制的に流すことで、ビーズ漏洩を防止する。
【0028】
第一の形態(第一形式)では、スラリーは、まずスラリー貯槽8に供給される。回転軸9と上蓋2の間に形成されるスラリー流路7内に設置されているポンピング部材10により、スラリー貯槽8から前記円筒容器にスラリーを流す。ポンピング部材10により、スラリー流路7中のスラリーを強制的に下降させることで、ビーズ分離のための装置を経由していないビーズを含んだスラリーが前記円筒容器からスラリー貯槽8に逆流することを防止できる。
ただし、ミル内からスラリーを吸引するためのポンプが十分な吸引流量を確保でき、かつ負圧によるキャビテーションを生じない場合は、ポンピング部材10を省略できる場合がある。ポンピング部材10の送液能力により、処理に必要なスラリーをミル内に供給可能な場合もあるが、ポンピング部材10の送液能力以上にスラリーを流す際は、スラリー排出口6につながる配管18にポンプ17を設置して、前記円筒容器中のスラリーを吸引して、スラリー流量を増加させることもある。
【0029】
前記円筒容器に供給されたスラリーはビーズと混合物を形成する。この混合物を攪拌子4で攪拌することで、スラリー中粒子を破砕または分散する。その後、ビーズを分離するが、本発明の第一方式のビーズミルにおいては、狭い隙間にスラリーを通過させてビーズを分離する型式のビーズ分離装置を使用する。スラリー排出口6に下方に広がるテーパーを持つ栓の形状をした可動式セパレーター(ビーズ分離器5)を使用するものである。処理中は、ビーズ分離器5とスラリー排出口6の間隔をビーズが漏れない隙間間隔になるように開孔する。また、ビーズ分離器5は下方に狭まるテーパーを持つスリット式セパレーターやスクリーン式セパレーターであっても良い。ビーズ分離器5によりビーズを分離されたスラリーは、前記円筒容器の外に排出され、配管18を通って、スラリータンク15に送られる。
【0030】
ポンピング部材10は、回転によりスラリーに流れを与える構造であれば、どのようなものでも良く、スラリー流路7内に設置されたスクリュー式のもの(図1に記載)、円柱構造体にネジを切った構造のもの(図3図4に記載)や、前記円筒容器内に設置された軸流式や遠心式のもの(図2に記載)などが良い。ポンピング部材10などで単独でのスラリー流路7内のスラリーの下降流速が5mm/秒以上あるような構造であることが望ましい。これは、ミル内圧力変化によって、スラリー流路7中をスラリーが上方に逆流しないための条件である。また、最大値は処理に必要な設定流量で決まる。ポンピング部材10などが作るスラリー流量が処理に必要な設定流量よりも小さい場合は、スラリー排出口6とスラリータンク15を結ぶ配管18にポンプ17を設置して、前記円筒容器内のスラリーを吸引する。また、図2に記載の遠心式のポンピング装置では、上部羽根29の数は4~16枚程度で、外周部間隔は30~60mmが良い。
【0031】
攪拌子4はビーズとスラリーの混合物を効率的に行えるものであれば、どんな構造のものでも良く、棒状、円盤状、板状のものなどがあるが、図3には、ピンタイプの攪拌子4の例を示した。前記円筒容器は、部分的に設置される部材や凹みなどを除けば、内側面が中心軸を基準にほぼ回転対称のものであり、高さ方向には、直径が一定であっても変化していても良い。なお、前記円筒容器には、内部のスラリーを冷却するための水冷ジャケットが設置されていることもある。また、スラリー貯槽8はスラリーを保持でき、スラリーが流入する口または溝があれば、どのような形状、型式のものでも良い。
【0032】
第二の形態は、更に構造的に二つに区分(第二形式と第三形式)に分けられる。まず、第二形式のビーズミルは、図4に示すもので、主として、スラリー貯槽8、スラリー流路7、回転軸9、円筒容器を形成する円筒部1、上蓋2及び下蓋3、更に攪拌子4及び遠心ビーズ分離器20から構成されるビーズミルである。下蓋3に設置されたスラリー供給口22から、スラリーを供給する。スラリーは、前記円筒容器内を上昇しながら、回転軸9に設置されている攪拌子4の回転による攪拌で処理を施される。その後、スラリーは、前記円筒容器内の上部において、回転軸9に設置されている遠心ビーズ分離器20でスラリー中のビーズ分離された後、回転軸9中の管状空間21を通って、前記円筒容器の上方のスラリー貯槽8中に流入する。また、遠心ビーズ分離器20の上面の上側円形板24に設置された旋回プレート27の回転により、スラリー流路7中に強制的なスラリー下降流を作り、スラリー貯槽8中のスラリーの一部を前記円筒容器内に流す。この下降流により、スラリー流路7でのビーズを含むスラリーが上昇することを防止して、ビーズ漏洩を防止するとともに、前記円筒容器内に圧力を掛けることができる。スラリー流路7から前記円筒容器内に流れ込んだスラリーは遠心ビーズ分離器20を通り、管状空間21を経緯して、再度スラリー貯槽8に戻る。なお、機能が同じであれば、旋回プレート27は、上側円形板24に設置されておらず、ポンピング部材10の下部などの別の位置に設置されていることでも良い。
【0033】
旋回プレート27は、遠心ビーズ分離器20の上面の位置で、上蓋2と上側円形板24の間のスラリーを遠心力により内側から外側に流す機能がある。その効果により、スラリー流路7中にスラリーの下降流を形成する。旋回プレート27は外周側が回転方向に対して10~40度後退しているとさらに良い。また、旋回プレート27は直線状であっても、屈曲していても良い。旋回プレート27は、プレート26とほぼ同じ遠心力を発生させることが良い。本発明者らの実験では、旋回プレート27のプレート26に対する外周径比率は、0.9~1.2倍が良かった。0.9倍以下では、低回転数時に、スラリーが逆流する問題があり、また、1.2倍以上では、高速回転時に、循環スラリー量が増加し過ぎて、ビーズ分離部分での流速が上がってしまい、ビーズが漏れる問題があった。
【0034】
ビーズ漏洩をより効果的に防止するには、旋回プレート27の設置間隔も適正にすることが良い。望ましくは、旋回プレート27の外周部の間隔を71mm以下、更に望ましくは、51mm以下が良い。また、旋回プレート27の長さも重要な設計要素である。旋回プレート27は、必ずしも直線状であったり、直径方向に設置されているわけではないので、旋回プレート27の長さを旋回プレート27の外周径と内周径の差の1/2で定義することが良く、その長さは外周径の0.2倍以上が良い条件である。機械構造的には、0.4倍以上にすることは困難であることから、実際の設計条件としては、0.2~0.4倍の比率が良い。この構造では、ポンピング部材10は必ずしも必要でないが、スラリー流路7中にスラリーの下降流を形成するための圧力の不足や不安定性に対応するため、ポンピング部材10を設置する場合もある。
【0035】
遠心ビーズ分離器20は、その外周部のスラリーに旋回を与える構造の部材が設置されており、かつ前記部材にスラリーが通過できる隙間がある構造である。スラリーは、回転しながら中心方向に流れていく。この際に、遠心力により、比重の大きいビーズが外周方向の押し出されることで、ビーズが分離される。遠心ビーズ分離器20の形状は種々のものがあるが、その例としては、図6に示すような円板である上側円形板24と下側円形板25の間に複数のプレート26を設置するものがある。この構造の遠心ビーズ分離器20では、プレート26は、外側が回転方向に対して後退している条件で設置されていることが良い。設置されるプレート26の直径方向の長さLはプレート26の外周径の0.2倍以上がより良い。また、設置の後退角度は15~60度がより良い条件であり、またプレート26の設置ピッチは外周端基準で56mm以下がより良い条件であり、42mm以下であると更に良い。
【0036】
第三形式のビーズミルは、図5に示すもので、主として、スラリー貯槽8、回転軸9、ポンピング部材10、円筒容器及び攪拌ビーズ分離器23から構成されるビーズミルである。この形式は、遠心式のビーズ分離器に攪拌機能を持たせた装置であり、第二形式のビーズミルに対して、攪拌子4が省略されている型式のものである。回転軸9と攪拌ビーズ分離器24の構造は、第二形式のビーズミルの回転軸9と遠心ビーズ分離器20の組み合わせと類似であり、回転軸9には、攪拌ビーズ分離器23の中央部からスラリー貯槽8に抜ける管状空間21が設けられている。攪拌ビーズ分離器23は、ビーズとスラリーの混合物を攪拌する同時に、遠心力を用いてビーズ分離を行うものである。その形状の例としては、図6に示すように、上側円形板24と下側円形板25の間に複数のプレート26を設置するものがある。この構造の詳細は、第二形式のビーズミルの構造要件と同様であり、プレート26の構成も同等であるが、縦方向に長く作られることがある。また、第二形式のビーズミルと同様に、撹拌ビーズ分離器23の上面の上側円形板24に旋回プレート27が設置されている。旋回プレート27の回転により、内側から外側へのスラリー流れを形成して、その結果、スラリー流路7中に下降流を形成する。第二形式のビーズミルと同様に、回転軸9にポンピング部材10が設置されることもある。
【0037】
下蓋3に設置されたスラリー供給口22から、スラリーを供給する。スラリーは、攪拌ビーズ分離器23の回転により、ビーズとスラリーの混合物を攪拌することで処理が施される。その後、スラリーは、攪拌ビーズ分離器23のプレート26の間を通過する際に遠心力でビーズ分離された後、回転軸9中の管状空間21を通って、スラリー貯槽8に流入する。また、スラリー流路7中のスラリーの流れの状態については、第二形式のビーズミルと同等である。
【0038】
以上に説明した3形式の湿式ビーズミルの運用上の特徴は以下の通りである。第一形式の湿式ビーズミルは、使用できるビーズ径は0.2mm以上であり、その結果、比較的衝撃力の大きい処理を行うものである。製品粒子サイズがミクロン単位から150ナノメートル程度の条件の粉砕処理に多く使われる。第二形式の湿式ビーズミルは、使用できるビーズ径は50μm以上であり、比較的衝撃力の小さい処理を行うものである。製品粒子サイズがサブミクロンからナノメートル単位の分散条件の処理に多く使われる。第三形態の湿式ビーズミルは、使用できるビーズ径は、第二形態と同様に50μm以上であるが、更に衝撃力の小さい処理や大流量処理を行うことができる。製品粒子サイズがサブミクロンからナノメートル単位の分散条件で、粒子ダメージを嫌う処理に使われる。
【0039】
以上に説明した湿式ビーズミルを循環運転する場合は、第一形式から第三形式の湿式ビーズミルにタンクを併設するのが望ましい。特に、図3に示す第一形式のビーズミルでは、スラリー貯槽8の水位制御を簡単にするための工夫として、スラリータンク15の設置が有効である。図3では、スラリータンク15が設置されており、スラリー貯槽8とスラリータンク15を、圧力がかかっていない状態でスラリータンク15からスラリー貯槽8にスラリーが流れる構造の水路16で連結している。水路16は開放式の樋状のものであっても、パイプ状のものであっても良い。スラリータンク15の水位面とスラリー貯槽8の水位面を共通化すること、またはスラリータンク15の水位面をスラリー貯槽の水位面よりも上にして、スラリータンク15のスラリーをオーバーフローさせることが良い。この構造の場合は、処理中にスラリー量が変化しない条件では、スラリータンク15及びスラリー貯槽8の水位は変化しないため、液面制御が不要な利点がある。
【実施例
【0040】
第一形式の湿式ビーズミルの実施例として、図3に記載の本発明の湿式ビーズミルを用いて、分散処理実験を行った結果を示す。前記装置のサイズは、円筒容器の内径が120mm、又、内部高さが210mmであった。攪拌子4の回転直径が112mmであり、6本の攪拌子4が設置されていた。本装置の攪拌子4等の内部部品の容積を差し引いた実効容積は1.6リットルであった。0.5mm径のニッカトー製のジルコニア製ビーズを用いて、100リットル/時の流量で常温の水を供給して実験した。ポンピング部材10は、図3に記載の円筒に螺旋状の筋が入ったインペラーを用い、所定回転数(攪拌子4の外周速が10m/秒の場合)でのスラリー下降流速が15mm/秒であり、送液量が毎時24リットルの設計のものを設置した。ポンピング部材10のみでは、スラリー供給が不足するため、スラリー排出口6に接続する配管18にポンプ17を設置し、湿式ビーズミルからスラリーを吸引して、スラリータンク15に送液する装置構成とした。
【0041】
第二形式の湿式ビーズミルの実施例として、図4に記載の本発明の湿式ビーズミルを用いて、チタン酸バリウム粒子の分散処理を行った。ただし、このミルには、ポンピング部材10は設置されていなかった。前記装置のサイズは、円筒容器の内径が120mm、又、内部高さが210mmであった。攪拌子4の回転直径が112mmであり、一対のピンが設置されている部材を4段に固定されている攪拌子4が設置されていた。まず、以下の構成の遠心ビーズ分離器20を用いて実験した。遠心ビーズ分離器20は、図6に示す形式の上下の円板に12枚のプレート26を設置したもので、外周径110mmであり、プレート26の高さが35mmあった。プレートの設置角度は30度の後退角度であり、プレート26の長さが22mmであった。旋回プレート27は、外周径が115mm、長さが25mm、高さが12mmのもので、6枚設置されていた。上蓋2と旋回プレート27の間隔は4mmであった。ポンピング部材10の下端部の外周径は80mmであった。ポンピング部材10でのスラリー下降速度は、プレート26の外周速が6m/秒の時に5mm/秒、12m/秒の時に21mm/秒であった。本装置の攪拌子4等の内部部品の容積を差し引いた実効容積は1.55リットルであったニッカトー製の0.1mm径のジルコニア製ビーズを用いて、ミル内に常温の水を100l/時供給する条件で運転した。
【0042】
次に、上記の実験と同様に、同一の装置、また同一の運転条件で、図6に記載の形式の遠心ビーズ分離器の適正な構造の調査を行った。より安定したビーズ分離をするために重要な構造構成としては、プレート26の設置間隔と角度である。そこで、両者の適正な範囲を調査した。表1には、プレート26の回転方向に対する後退角の影響を示したものである。実験に用いたプレート26の枚数は8枚であった。(プレート間隔は42mm)後退角が0度の場合は、プレート26の外周速が6m/秒では、相当量のビーズ漏洩が確認され、7から8m/秒では、ごく微量のビーズ漏洩が認められた、10m/秒以上では、問題なくビーズ分離ができた。このように、10度以下の後退角では、ビーズ分離が可能であったが、低速回転時には、ビーズが漏れやすかった。一方、後退角が15から60度では、表1に示すとおり、極めて良好なビーズ分離ができた。
【表1】
【0043】
次に、プレート26の設置間隔のビーズ分離性能への影響を調査した。なお、プレート26以外の部品構成は前記段落0041、段落0042の実験と同じであった。後退角を30度としたプレート26を4枚から12枚設置した結果を表2に示す。4枚設置の場合は、プレート26の間隔が85mmであり、10m/秒の外周速度で微量のビーズが漏れ、8m/秒では、相当量のビーズが漏れた。6枚設置の場合は、プレート26の間隔が56mであり、8m/秒では、ビーズ漏れが認められなかったが、一般的な処理での最低速度である6m/秒の外周速度で微量ビーズ漏れが確認された。42mm以下の間隔の場合は、6m/秒でも、ビーズ漏れは確認できなかった。一般に、微量のビーズ漏れあれば、運転可能であることから、プレート26の間隔は、56mm以下が望ましく、42mm以下であれば、更に良い。以上の実験結果を踏まえて、以下の処理実験には、プレート26の枚数が8、長さLが36mmで、後退角度が30度の条件の遠心ビーズ分離器20を用いた。なお、ここで、微量漏洩時速度とは、10分間当たり0.2g以下のビーズが漏洩するプレート26の最小又は最大の外周速であり、漏洩時速度とは、10分間当たり1g以下のビーズが漏洩する最小又は最大の外周速である。また、表中のーは漏洩なしの意味である。
【表2】
【0044】
旋回プレート27の外周部の間隔のビーズ漏洩への影響を調査した結果を表3に示す。使用した装置の容器(円筒1、上蓋2、下蓋3から構成される)の寸法は、同様に内径120mm、高さ210mmであり、プレート26を8枚設置し、外周径は90mmであった。旋回プレート27の長さは35mmで、旋回プレート27の外径は98mmであった。0.1mm径のジルコニア製ビーズを用いて、ミル内に常温の水を100l/時供給する条件とした。プレート26の外周速を10m/秒として、旋回プレート27の数を4,6、8、12枚の条件で、実験したところ、4枚設置時には、少量のビーズ漏洩が認められたが、数時間であれば、運転を継続できるレベルであった。6枚設置時は、極微少量のビーズが漏洩したが、長時間の運転継続は可能であり、また、処理後のスラリー中の漏洩ビーズ量も少なかったため、工程外のろ過装置で容易に分離できた。8枚以上の運転では、ビーズ漏洩は認められなかった。したがって、旋回プレート27の設置間隔(外周部)は、71mmが良い条件であり、51mmが更に良い条件である。なお運転前に、ミル内に3.4kgのビーズが装入されていた。
【表3】
【0045】
旋回プレート27の長さ(外周径と内周径の差の1/2)についての実験結果を表4に示す。旋回プレート27の装置構成以外の装置条件と運転条件は前記段落0044の実験と同一であった。前記実験で良好であった旋回プレート27の設置数8枚として、長さを16~38mmの4条件で運転した。長さ16mmの場合に、少量のビーズ漏洩があったが、長さ20mm以上の条件では、ビーズ漏洩がなかった。つまり、旋回プレート27の長さと外周径の比は0.2以上が望ましいことが分かった。
【表4】
【0046】
次に、旋回プレート27の外周径とプレート26の外周径の比のビーズ漏洩に対する影響を調査した結果を表5に示す。使用した装置の容器の寸法は、同様に内径120mm、高さ210mmであり、プレート26を8枚設置し、外周径は90mmであった。旋回プレート27の設置数は8枚で、長さが27mmであった。0.1mm径のジルコニア製ビーズを用いて、ミル内に常温の水を100l/時供給する条件とした。旋回プレート外径/プレート外径の比が0.89~1.17の範囲では、プレート26の周速が5~12m/秒の範囲では、ビーズ漏洩が認められなかった。一方、上記の比率が0.78の場合は、低速側でビーズ漏洩が認められた。10m/秒以下のプレート26の外周速で、微少量のビーズ漏洩が認められ、また、6m/秒以下で、相当量のビーズ漏洩が認められた。一方、上記の比率が1.24の場合は、高速側でビーズ漏洩があった。9m/秒以上のプレート26の外周速で、微少量のビーズ漏洩が認められ、また、12m/秒では、相当量のビーズ漏洩が認められた。
【表5】
また、表2から5に記載の実験と同様の条件で0.3mm径のジルコニア製ビーズでの実験では、すべての条件でビーズ漏洩は認められなかった。
【0047】
第三形式の湿式ビーズミルの実施例として、図5に記載の本発明の湿式ビーズミルを用いて、チタン酸バリウム粒子の分散処理を行った。前記装置のサイズは、円筒容器の内径が120mm、又、内部高さが75mmであった。攪拌ビーズ分離器23の回転直径が105mmであり、本装置の攪拌子4等の内部部品の容積を差し引いた実効容積は0.6リットルであった。処理実験には、プレート26の枚数が12、長さLが40mm、外周径が100mmで、後退角度が15度の条件の攪拌ビーズ分離器24を用いた。旋回プレート27は、外周径が105mm、長さが28mm、高さが12mmのもので、8枚設置されていた。また、ポンピング部材10は、所定回転数(攪拌ビーズ分離器23の外周速が10m/秒の場合)での送液量が毎時12リットルで、下降流速が15mm/秒の設計のものを設置した。常温の水を用いて、0.2mm径のジルコニア製ビーズを用いて、ビーズ漏洩実験を行った結果、6~12m/秒のプレート26の外周速の範囲では、ビーズ漏洩が認められなかった。
【0048】
以下の実験では、実施例1は第一形態の装置、実施例2は第二形態の装置、実施例3は第三形態の装置で上記の寸法の装置構造のものを用いて実験した。また比較例1から3では、第一形式から第三形式の湿式ビーズミルと同じ構造で同じディメンジョンを持つが、メカニカルシールを持つビーズミルでも比較実験をした。実施例と比較例の処理では、原料、攪拌条件、スラリー流量などが同じ条件とした。実験結果を表6に示す。
【0049】
実験1(実施例1及び比較例1)では、第一形式の湿式ビーズミルを使用し、原料スラリーは一次粒子径0.53マイクロメートル、かつ二次粒子径4.7マイクロメートルの金属ニッケル粉を5質量%含むタピオノール溶液15リットルであった。実施例1及び比較例1では、0.3mm径のビーズを用いて、攪拌子4の外周速度を10m/秒として、毎時30リットルのスラリー流量で処理した。
【0050】
実施例1と比較例1では、各々4時間の分散処理を行い、スラリー中粒子の二次粒子径を測定した。いずれの処理でも、ビーズ漏洩は認められなかった。これらの処理では、処理後のニッケル二次粒子径は、実施例1では小粒径側から50%径(D50)で0.63マイクロメートル、小粒径側から90%径(D90)で1.10マイクロメートルであり、比較例1では、D50で0.62マイクロメートル、D90で1.21マイクロメートルであった。いずれも、処理目的を満足ができる粒子径となった。
【0051】
スラリー中の金属ニッケル粒子のビーズミル部品への影響については、比較例1では、メカニカルシールの磨耗が確認されて、また製品スラリー中にメカニカルシールの金属部品が粉化したものの汚染が認められた。一方、メカニカルシールの代替として、ポンピング部材10が設置されている実施例1では、ポンピング部材10及び他の部品の磨耗やスラリーへの異物混入は認められなかった。このように、本発明の湿式ビーズミルでは、金属粉などを含む磨耗性の高いスラリーを処理しても、部品の磨耗がない処理が可能で、長時間安定した処理ができ、また、メカニカルシールの磨耗部材によるスラリー汚染もなくなった。
【0052】
実験2(実施例2及び比較例2)では、第二形式の本発明の湿式ビーズミルを使用した。原料スラリーは、二次粒子径0.25マイクロメートル、一次径53ナノメートルの青色有機顔料粉を10質量%含むグリコール溶液15リットルであった。実施例2及び比較例2では、上記の装置を用いて、50μm径のビーズを用いて、攪拌子4の外周速度を10m/秒として、毎時30リットルのスラリー流量で4時間処理した。実施例2及び比較例2のいずれの処理でも、ビーズ漏洩は認められなかった。処理後粒子径は、実施例2でD50が72ナノメートルであり、比較例2でD50が74ナノメートルと、同等の結果であった。比較例2では、メカニカルシールに使われているシール液(シール部加圧用のアルコール)に、顔料が漏れ込んでしまい、シール液に着色が見られ、またメカニカルシールに固着物が認められた。長時間運転すると、固着物によりメカニカルシールが破損する問題が生じる現象である。一方、実施例2では、メカニカルシールがない湿式ビーズミルを使用したことから、このような問題を回避できた。
【0053】
実験3(実施例3及び比較例3)では、第三形式の湿式ビーズミルを使用し、原料スラリーは、二次粒子径101ナノメートル、一次径29ナノメートルの酸化チタン粉を12質量%含むシリコンオイル溶液15リットルであった。30μm径のビーズを用いて、攪拌ビーズ分離器24の外周速度を12m/秒として、毎時30リットルのスラリー流量で処理した。実施例3及び比較例3のいずれの処理でも、ビーズ漏洩は認められなかった。各々5時間の処理の後、粒子径は、実施例3でD50が34ナノメートルであり、比較例3でD50が36ナノメートルと同等の結果であった。比較例3では、スラリーを形成するシリコンオイル中に異質な液体が入ること防止するために、メカニカルシールのシール液をシリコンオイルにした。この結果、2時間の処理でも、メカニカルシールにシリコンオイルが脱水素した固体が固着していた。一方、実施例3では、メカニカルシールがない湿式ビーズミルを使用したことから、このような問題を回避できた。
【表6】
【0054】
以上に説明したように、本発明の湿式ビーズミルでは、シール機構がなくとも、ビーズ漏洩がなく、従来型の湿式ビーズミルと同等の粉砕処理・分散処理能力を持つことが分かった。また、回転部のシール構造がないため、シール機構の機械的要因に起因する問題である、シール部材の磨耗や損傷、及びシール液漏洩に関する問題点がなかった。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明に係る湿式ビーズミルは、セラミック、カーボンナノチューブ、セルロースナノファイバー、顔料、インキ、塗料、有機顔料、誘電体、磁性体、無機物、有機物、医薬品、食品、金属等の粉体を含むスラリーの粉砕処理及び分散処理に適している。
【符号の説明】
【0056】
1・・・円筒部
2・・・上蓋
3・・・下蓋
4・・・攪拌子
5・・・ビーズ分離器
6・・・スラリー排出口
7・・・スラリー流路
8・・・スラリー貯槽
9・・・回転軸
10・・・ポンピング部材
11・・・軸駆動プーリー
12・・・ベルト
13・・・モーター側プーリー
14・・・駆動モーター
15・・・スラリータンク
16・・・水路
17・・・ポンプ
18・・・配管
19・・・攪拌装置
20・・・遠心ビーズ分離器
21・・・管状空間
22・・・スラリー供給口
23・・・攪拌ビーズ分離器
24・・・上側円形板
25・・・下側円形板
26・・・プレート
27・・・旋回プレート
28・・・円盤
29・・・上部羽根

図1
図2
図3
図4
図5
図6