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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-30
(45)【発行日】2024-02-07
(54)【発明の名称】シート加熱成形装置の制御方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 51/46 20060101AFI20240131BHJP
【FI】
B29C51/46
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020095419
(22)【出願日】2020-06-01
(65)【公開番号】P2021187078
(43)【公開日】2021-12-13
【審査請求日】2023-03-31
(73)【特許権者】
【識別番号】304050369
【氏名又は名称】株式会社浅野研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】弁理士法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】横井 広良
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 利征
【審査官】関口 貴夫
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-196623(JP,A)
【文献】特開2016-087977(JP,A)
【文献】特開2001-150535(JP,A)
【文献】特開2007-230010(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 51/00-51/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート捲回ロールから供給されるシートを加熱し、金型により、該シートが成形されたシート成形品を、その加熱成形工程を繰り返すことで、次々と連続的に製造するシート加熱成形装置の制御方法において、
制御部を備え、
定常な運転状態の下で、前記シート成形品を製造する前記加熱成形工程1回あたりの時間を、第1タクトタイムT1(0<T1)とし、前記第1タクトタイムT1より調整時間ΔT(0<ΔT)分長くした時間を、第2タクトタイムT2(T1<T2)とすると、
前記第1タクトタイムT1で前記シート成形品を製造中、前記シート捲回ロールの交換作業に伴い、前記制御部は、前記第1タクトタイムT1に代えて、前記第2タクトタイムT2に変更して、前記加熱成形工程を継続すること、
を特徴とするシート加熱成形装置の制御方法。
【請求項2】
請求項1に記載するシート加熱成形装置の制御方法において、
前記シートを加熱するヒータを備え、
前記制御部は、前記第1タクトタイムT1から前記第2タクトタイムT2への変更に追従して、前記ヒータの温度を制御すること、
を特徴とするシート加熱成形装置の制御方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載するシート加熱成形装置の制御方法において、
前記シートを加熱するヒータを備え、
予め取付けられている前記シート捲回ロールを用いて、前記シート成形品を製造し始める状況下では、前記加熱成形工程1回の実施にあたり、
前記制御部は、前記第1タクトタイムT1より長い第3タクトタイムT3(T1<T3)で、運転を開始して以降、前記第1タクトタイムT1になるまで、前記加熱成形工程1回の時間を変更すると共に、前記第3タクトタイムT3から前記第1タクトタイムT1への変更に追従して、前記ヒータの温度を制御すること、
を特徴とするシート加熱成形装置の制御方法。
【請求項4】
請求項2または請求項3に記載するシート加熱成形装置の制御方法において、
前記シートの加熱温度を測定する温度計測手段を備え、
前記制御部は、前記ヒータで加熱した前記シートの加熱温度を、設定した許容範囲内の温度に調整できるよう、前記温度計測手段による前記シートの実測温度に基づいて、前記ヒータの温度を制御すること、
を特徴とするシート加熱成形装置の制御方法。
【請求項5】
請求項4に記載するシート加熱成形装置の制御方法において、
前記制御部は、前記第1タクトタイムT1から前記第2タクトタイムT2に変更する間、あるいは、予め取付けられている前記シート捲回ロールを用いて、前記シート成形品を製造し始める状況下では、前記加熱成形工程1回の実施にあたり、前記第1タクトタイムT1より長い第3タクトタイムT3(T1<T3)から前記第1タクトタイムT1に変更する間、前記ヒータの温度を段階的に調整しながら、更新された前記ヒータの温度に基づいて、前記シートの加熱温度を調整すること、
を特徴とするシート加熱成形装置の制御方法。
【請求項6】
請求項4または請求項5に記載するシート加熱成形装置の制御方法において、
前記制御部は、前記ヒータの温度を、前記シートの前記実測温度に基づくフィードバック制御で調整すること、
を特徴とするシート加熱成形装置の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シート成形品の製造にあたり、シートを加熱して成形するシート加熱成形装置の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂製品の中には、シート成形製品がある。シート成形製品は、シート加熱成形装置とシートトリミング装置を用いて製造される。加熱成形工程では、シート加熱成形装置は、自動運転下で、シート捲回ロールより断続的に供給される長尺状のシートに対し、加熱を行い、金型により、シート面内の一部を成形した状態にある半成形品を、次々と連続的に製造する。トリミング工程は、加熱成形工程の次工程にあり、シートトリミング装置は、シート加熱成形装置とインライン上に設備されている。シートトリミング装置は、シート加熱成形装置から送出される半成形品から、後に製品となる成形品要部を取り出すのにあたり、半成形品のうち、成形品要部の周囲にある成形品不要部のトリミングを行う。
【0003】
このようなシート成形製品を量産する製造ラインでは、先に使用してきた交換前のシート捲回ロールに対し、巻かれていたシートを使い終える前に、伸長したそのシートの終端部が、次に使用する交換後のシート捲回ロールに巻かれているシートの始端部に繋がれ、シートは、途切れることなく、シート捲回ロールから供給される。特に、量産体制下でシート成形製品を製造する場合、定常生産モード時の加熱成形工程のタクトタイムは、僅か数秒程であるため、運転中に、シート捲回ロールの交換前後でシート同士を繋ぎ合わせる作業を行う場合、作業者にとって、時間的な余裕はほとんどない。そのため、特許文献1のように、シート捲回ロールの交換作業を行う間、一時的に加熱成形工程の実施を停止せざるを得ない場合も生じる。
【0004】
特許文献1は、樹脂シートの交換時に、新たに供給される樹脂シートを、搬送装置により、成形装置のセット位置に正確に送り込む、印刷模様を付した樹脂シートの送り制御方法である。特許文献1の技術では、成形装置で成形する樹脂シートが、交換前のシート捲回ロールの終端部から、交換後のシート捲回ロールの始端部に替わるまでに、搬送装置による樹脂シートの送出が停止される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許平11-228002号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、定常生産モードのタクトタイムで加熱成形工程を継続したまま、シート捲回ロールの交換作業を行うと、十分な時間を確保できない事由に起因して、作業者の負担は大きくなっている。加えて、交換作業の時間が十分でないと、何らかの理由により、交換前のシート捲回ロールのシート終端部と、交換後のシート捲回ロールのシート始端部とが、適切な状態で接続できていない虞もある。シート同士の接続が不適切であると、一例として、不良品の発生のほか、交換後のシート捲回ロールのシートが、シート加熱成形装置内の搬送部にきちんとセットできなくなってしまうことや、接続されたシート同士が、搬送部の送出動作に伴って、引き離されてしまうこと等、シート成形製品の製造に悪影響を及ぼしてしまう。
【0007】
他方、特許文献1のように、シート捲回ロールの交換作業を行う間、一時的に加熱成形工程の実施を停めてしまうと、製造ラインの工程能力が低下すると共に、シート成形製品の生産性低下により、シート成形製品を効率良く製造することができなくなる。
【0008】
また、交換前のシート捲回ロールのシートを使い終えて、加熱成形工程の実施を停止させた後、次に使用する交換後のシート捲回ロールのシートを、シート加熱成形装置にセットして、シート加熱成形装置の運転が再開される。このとき、運転開始直後しばらくの間、シートの加熱温度や、加熱後にシート面内の一部を成形した半成形品は、品質管理上、安定した状態にならない。そのため、シートの加熱温度や、半成形品の状態の安定化を図る上で、シート加熱成形装置では、シート成形品の製造開始当初の状態に近い初期生産モードとして、大掛かりな加熱成形制御を行いながら、ロール交換後の新しいシートを、加熱し成形する必要がある。その結果、加熱成形工程で、このような初期生産モードが繰り返し行われると、シート成形品の生産性は、ますます低下してしまう。
【0009】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであり、シート成形品を製造している最中、シート捲回ロールの交換を必要とする場合でも、シート成形品の製造に支障を来すことなく、シート成形品を、効率良く製造することができるシート加熱成形装置の制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明に係るシート加熱成形装置の制御方法は、以下の構成を有する。
(1)シート捲回ロールから供給されるシートを加熱し、金型により、該シートが成形されたシート成形品を、その加熱成形工程を繰り返すことで、次々と連続的に製造するシート加熱成形装置の制御方法において、制御部を備え、定常な運転状態の下で、前記シート成形品を製造する前記加熱成形工程1回あたりの時間を、第1タクトタイムT1(0<T1)とし、前記第1タクトタイムT1より調整時間ΔT(0<ΔT)分長くした時間を、第2タクトタイムT2(T1<T2)とすると、前記第1タクトタイムT1で前記シート成形品を製造中、前記シート捲回ロールの交換作業に伴い、前記制御部は、前記第1タクトタイムT1に代えて、前記第2タクトタイムT2に変更して、前記加熱成形工程を継続すること、を特徴とする。
(2)(1)に記載するシート加熱成形装置の制御方法において、前記シートを加熱するヒータを備え、前記制御部は、前記第1タクトタイムT1から前記第2タクトタイムT2への変更に追従して、前記ヒータの温度を制御すること、を特徴とする。
(3)(1)または(2)に記載するシート加熱成形装置の制御方法において、前記シートを加熱するヒータを備え、予め取付けられている前記シート捲回ロールを用いて、前記シート成形品を製造し始める状況下では、前記加熱成形工程1回の実施にあたり、前記制御部は、前記第1タクトタイムT1より長い第3タクトタイムT3(T1<T3)で、運転を開始して以降、前記第1タクトタイムT1になるまで、前記加熱成形工程1回の時間を変更すると共に、前記第3タクトタイムT3から前記第1タクトタイムT1への変更に追従して、前記ヒータの温度を制御すること、を特徴とする。
(4)(2)または(3)に記載するシート加熱成形装置の制御方法において、前記シートの加熱温度を測定する温度計測手段を備え、前記制御部は、前記ヒータで加熱した前記シートの加熱温度を、設定した許容範囲内の温度に調整できるよう、前記温度計測手段による前記シートの実測温度に基づいて、前記ヒータの温度を制御すること、を特徴とする。
(5)(4)に記載するシート加熱成形装置の制御方法において、前記制御部は、前記第1タクトタイムT1から前記第2タクトタイムT2に変更する間、あるいは、前記第3タクトタイムT3から前記第1タクトタイムT1に変更する間、前記ヒータの温度を段階的に調整しながら、更新された前記ヒータの温度に基づいて、前記シートの加熱温度を調整すること、を特徴とする。
(6)(4)または(5)に記載するシート加熱成形装置の制御方法において、前記制御部は、前記ヒータの温度を、前記シートの前記実測温度に基づくフィードバック制御で調整すること、を特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
上記構成を有する本発明に係るシート加熱成形装置の制御方法の作用・効果について説明する。
(1)シート捲回ロールから供給されるシートを加熱し、金型により、該シートが成形されたシート成形品を、その加熱成形工程を繰り返すことで、次々と連続的に製造するシート加熱成形装置の制御方法において、制御部を備え、定常な運転状態の下で、シート成形品を製造する加熱成形工程1回あたりの時間を、第1タクトタイムT1(0<T1)とし、第1タクトタイムT1より調整時間ΔT(0<ΔT)分長くした時間を、第2タクトタイムT2(T1<T2)とすると、第1タクトタイムT1でシート成形品を製造中、シート捲回ロールの交換作業に伴い、制御部は、第1タクトタイムT1に代えて、第2タクトタイムT2に変更して、加熱成形工程を継続すること、を特徴とする。
【0012】
この特徴により、作業者は、本発明に係るシート加熱成形装置の運転中、シート捲回ロールの交換にあたり、その運転を停止することなく、必要となる作業時間を十分に確保して、シート捲回ロールを交換することができる。そのため、シート捲回ロールを交換作業に起因したシート成形品の生産性低下が抑えられ、本発明に係るシート加熱成形装置の工程能力がより高く維持できているため、シート成形品を、効率良く製造することができる。
【0013】
従って、本発明に係るシート加熱成形装置の制御方法によれば、シート成形品を製造している最中、シート捲回ロールの交換を必要とする場合でも、シート成形品の製造に支障を来すことなく、シート成形品を、効率良く製造することができる、という優れた効果を奏する。
【0014】
(2)に記載するシート加熱成形装置の制御方法において、シートを加熱するヒータを備え、制御部は、第1タクトタイムT1から第2タクトタイムT2への変更に追従して、ヒータの温度を制御すること、を特徴とする。
【0015】
この特徴により、定常な生産モードの第1タクトタイムT1から第2タクトタイムT2に生産モードを変化させて、シート成形品を製造する上で、シートの加熱不良の発生を抑制することができる。そのため、歩留まりをより大きくして、シート成形品を製造することが可能になる。
【0016】
(3)に記載するシート加熱成形装置の制御方法において、シートを加熱するヒータを備え、予め取付けられているシート捲回ロールを用いて、シート成形品を製造し始める状況下では、加熱成形工程1回の実施にあたり、制御部は、第1タクトタイムT1より長い第3タクトタイムT3(T1<T3)で、運転を開始して以降、第1タクトタイムT1になるまで、加熱成形工程1回の時間を変更すると共に、第3タクトタイムT3から第1タクトタイムT1への変更に追従して、ヒータの温度を制御すること、を特徴とする。
【0017】
この特徴により、運転の開始以降、定常な生産モードに到達するまでの間、シート成形品を製造するにあたり、シートに対し、ヒータによる加熱不良の発生を抑制することができる。そのため、加熱された状態のシートが金型で成形されても、品質管理上、安定した状態のシート成形品が得られ、ひいては、歩留まりをより大きくして、シート成形品を製造することが可能になる。
【0018】
(4)に記載するシート加熱成形装置の制御方法において、シートの加熱温度を測定する温度計測手段を備え、制御部は、ヒータで加熱したシートの加熱温度を、設定した許容範囲内の温度に調整できるよう、温度計測手段によるシートの実測温度に基づいて、ヒータの温度を制御すること、を特徴とする。
【0019】
この特徴により、ヒータによるシートの加熱状態が、シートの材質・性状等の特性によって異なる場合でも、加熱成形工程を行うシートの特性に拘わらず、加熱したいシートの加熱温度に、ヒータの温度を容易に調整することができる。
【0020】
(5)に記載するシート加熱成形装置の制御方法において、制御部は、第1タクトタイムT1から第2タクトタイムT2に変更する間、あるいは、第3タクトタイムT3から第1タクトタイムT1に変更する間、ヒータの温度を段階的に調整しながら、更新されたヒータの温度に基づいて、シートの加熱温度を調整すること、を特徴とする。
【0021】
この特徴により、第1タクトタイムT1から第2タクトタイムT2に変更する間や、第3タクトタイムT3から第1タクトタイムT1に変更する間でも、シート成形品を製造する上で、不良品の発生を抑えて、ヒータによるシートの加熱温度や加熱時間、加熱後のシートに成形を行う加熱成間隔の時間等、より最適な加熱成形条件の下で、シート成形品を、品質管理上、良好な成形精度で製造することができる。
【0022】
(6)に記載するシート加熱成形装置の制御方法において、制御部は、ヒータの温度を、シートの実測温度に基づくフィードバック制御で調整すること、を特徴とする。
【0023】
この特徴により、シートが、設定された所望の温度に調整された温度で、加熱し易くなる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】実施形態に係るシート成形システムの構成を模式的に示す概略図である。
図2】実施形態に係る加熱成形装置の制御部で、ヒータ群の温度を調整するフィードバック制御の構成を示すブロック図である。
図3】実施形態に係る加熱成形装置のシートロール載置部で、先に使用している交換前のシート捲回ロールから供給されるシートを用いて、加熱成形工程を実施している様子を示す図である。
図4図3に続き、交換前のシート捲回ロールに対し、シート終端部が近づいた状態を示す図である。
図5図4に続き、交換前のシート捲回ロールの芯部から完全に離れたシート残部全てを、ストックゾーンに貯めた状態を示す図である。
図6図5に続き、シートロール載置部上に待機していた交換後のシート捲回ロールのシート始端部を、交換前のシート捲回ロールのシート終端部に、テープで繋ぐ状態を示す図である。
図7】実施形態に係る加熱成形装置において、加熱成形工程1サイクル当たりのタイムチャートを示す図である。
図8】実施形態に係る加熱成形装置による加熱成形工程で、タクトタイムと生産モードとの関係を示すチャートであり、加速生産モードに、半成形品の製造開始を含む場合のタイムチャート図である。
図9】実施形態に係る加熱成形装置による加熱成形工程で、タクトタイムと生産モードとの関係を示すチャートであり、タクトタイムの異なる2種の定常生産モードを含む場合のタイムチャート図である。
図10】半成形品の送出に伴う制御の流れを示すフローチャート図である。
図11】実施形態に係る加熱成形装置による加熱成形工程で、加熱に伴う制御の流れを示すフローチャート図である。
図12】実施形態に係る加熱成形装置に関し、加熱されたシートの実測温度と、制御するヒータ群の温度との関係を示すグラフであり、加熱されたシートの実測温度に基づき、ヒータ群の温度をフィードバック制御する様子を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明に係るシート加熱成形装置の制御方法を具体化した実施形態について、図面に基づいて詳細に説明する。本発明に係るシート加熱成形装置は、加熱成形工程を繰り返すことにより、シート成形品を、次々と連続的にシート成形品を製造する装置である。加熱成形工程は、シート捲回ロールから供給されるシートを加熱した後、このシートを金型で成形して、シート成形品を得る。本実施形態では、シート加熱成形装置が、シートトリミング装置と共に、シート成形システムをなして設備される場合を挙げて、説明する。
【0026】
はじめに、シート成形システムの概要について、図1を用いて説明する。図1は、実施形態に係るシート成形システムの構成を模式的に示す概略図である。なお、図1中、左右方向左側を、送出方向HZ上流側とし、右側を、送出方向HZ下流側とし、上下方向を、上下方向VTとする。また、図1の紙面と垂直な方向を、幅方向WDとして、各方向を定義する。図3以降の各図の方向についても、この定義に準ずる。
【0027】
図1に示すように、シート成形システム1は、シート成形製品の製造を行うための生産設備であり、加熱成形工程を担う加熱成形装置10(シート加熱成形装置)を、トリミング装置20とインライン上に配設してなる。加熱成形装置10は、制御部2を備え、制御部2により、自動運転で稼働可能となっているほか、本実施形態では、制御部2は、トリミング装置20等を含むシート成形システム1全体の電気的な制御を担う。
【0028】
加熱成形装置10は、シート捲回ロール91より断続的に供給される長尺状のシート92を加熱して、金型により、シート92面内の一部を成形した状態にある半成形品93(本発明のシート成形品に対応)を製造する。その次工程であるトリミング工程で、トリミング装置20は、この半成形品93のうち、成形品要部の周囲にあるシート不要部94のトリミングを行い、成形品要部である製品90を得る。製品90は、一例として、食品向け容器等の容器類や、家電製品の内箱等のケース類、操作パネル等、日常生活品類に挙げられるシート成形製品である。
【0029】
加熱成形工程で行うシート92の成形方法は、例えば、真空成形法のほか、圧空成形法または圧空真空成形法等の差圧成形法、プレス成形法等である。シート92は、例えば、ポリエチレン(PE:polyethylene)、ポリプロピレン(PP:polypropylene)等の一般的な熱可塑性の樹脂製シートであり、単層構造のほか、他のシート材をラミネートした積層構造等、種々の層構造からなるシートである。また、シート92の厚みは、本実施形態では、主として、200~1000μm程度を対象としているが、シート厚は、厚さ200~1000μmの範囲外であっても良い。
【0030】
なお、JIS(日本工業規格)の包装用語による規格は、厚さ250μm以上の薄板状のプラスチック材をシートとし、厚さ250μm未満の膜状のプラスチック材をフィルムとして、規定している。しかしながら、本実施形態では、シート成形システム1で熱成形するプラスチック材をその厚みで区別せず、フィルムの範疇にある厚さのプラスチック材であっても、シートと総称している。
【0031】
加熱成形装置10は、シート供給部10Aと、加熱成形部10Bを有している。シート供給部10Aでは、長尺状のシート92が、搬送部11により、シート捲回ロール91から水平に引き延ばされた姿勢で、加熱成形部10Bに断続的に供給される。図1に示すように、加熱成形部10Bの加熱側10Baでは、上下方向VTに対向して配置されたヒータ群13(ヒータ)により、このシート92の両面側が加熱される。加熱されたシート92の温度は、ヒータ群13近傍に設けた放射温度計15(温度計測手段)により、測定される。制御部2は、後述するように、シート92の実測温度に基づくフィードバック制御によって、ヒータ群13の温度を調整する。
【0032】
図2は、実施形態に係る加熱成形装置の制御部で、ヒータ群の温度を調整するフィードバック制御の構成を示すブロック図である。制御部2は、加熱成形装置10の搬送部11、成形金型、トリミング装置20の搬送部21等の動作を制御する駆動制御部のほか、シート成形システム1全体の動作を制御する中央制御回路、及び接続するセンサの入力I/O等を有する。中央制御回路は、内部のバスに、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、タイマ回路、及び不揮発性メモリ等を電気的に接続し配線された回路である。CPUは、ROMや不揮発性メモリに記録された制御プログラムに基づいて。RAMをワークエリアとして利用しながら、加熱成形装置10の加熱成形部10Bや、トリミング装置20のトリミング部20A等の各部を、電気的に制御する。また、制御部2は、図2に示すように、PLC(programmable logic controller)3、ソリッドステート・リレー(SSR:Solid State Relay)4、操作部5、外付け記憶部6、情報出力部7等を有している。
【0033】
搬送部11は、制御部2により、ヒータ群13によるシート92の加熱処理制御と連動した下で、加熱処理前のシート92を、1処理毎に間欠動作で送出方向HZ下流側に送出すると同時に、金型によるシート92の成形処理制御と連動した下で、成形処理後の半成形品93を、1処理毎に間欠動作で送出方向HZ下流側に送出する。加熱側10Baに続く成形側10Bbでは、加熱状態のシート92に対し、面内の一部が、金型(図示省略)により、半成形品93として成形される。半成形品93は、次々と連続的に製造される。
【0034】
半成形品93は、加熱成形装置10から排出された後、加熱成形装置10とトリミング装置20との間に設けた緩衝ゾーンSPを経て、トリミング装置20内の搬送部21により、トリミング部20Aに搬入される。トリミング部20Aは、供給される半成形品93に対し、後に製品90となる成形品要部を、周期的な運動に基づく切断動作により、不要な部分(シート不要部94)と分離させる。シート不要部94を、送出方向HZ下流側のスクラップ回収部20Bに送出しながら、スクラップ回収部20Bで巻き取られる。また、このシート不要部94の送出と同時に、半成形品93から取り除かれた個々の製品90は、搬送部21によって製品載置部20Cに運び出され、製品載置部20Cでは、断続的に載置される。
【0035】
なお、本実施形態に係るシート成形システム1では、トリミング装置20は、既設または新設に関わらず、加熱成形装置10と共に協働できる仕様で構成されていれば、特に限定されるものではない。また、加熱成形装置10は、トリミング装置とインラインで設備される以外にも、トリミング装置と別々に分けて配設されていても良い。また、製品90等の成形対象品が、加熱成形工程だけでトリミング工程を要しないシート成形製品を製造する場合でも、本発明に係るシート加熱成形装置による加熱成形工程は、後述するように、実施形態に係る加熱成形装置10の制御方法を適用することができる。
【0036】
次に、シート成形システム1の運転中、シート捲回ロール91を交換する要領について、図3図6を用いて説明する。図3は、実施形態に係る加熱成形装置のシートロール載置部で、先に使用している交換前のシート捲回ロールから供給されるシートを用いて、加熱成形工程を実施している様子を示す図である。図4は、図3に続き、交換前のシート捲回ロールに対し、シート終端部が近づいた状態を示す図である。図5は、図4に続き、交換前のシート捲回ロールの芯部から完全に離れたシート残部全てを、ストックゾーンに貯めた状態を示す図である。図6は、図5に続き、シートロール載置部上に待機していた交換後のシート捲回ロールのシート始端部を、交換前のシート捲回ロールのシート終端部に、テープで繋ぐ状態を示す図である。
【0037】
加熱成形装置10のシート供給部10Aでは、図3に示すように、複数(例示した図3等では、2つ)のシート捲回ロール91が、その芯部をシートロール架台12上に係留して載置されている。半成形品93を製造中、シート供給部10Aに供給するシート92は、先のシート捲回ロール91a(91)より送出され続け、次のシート捲回ロール91b(91)は、先のシート捲回ロール91aの後で待機している。図4に示すように、先のシート捲回ロール91aで巻かれているシート92の残りが少なくなると、作業者は、シート捲回ロール91の交換作業を行う。
【0038】
シート捲回ロール91の交換作業ではまず、図5に示すように、先のシート捲回ロール91aの芯部からシート92の残りを解放する。次に、作業者は、シート92の終端部92Eを、シートロール架台12側に残したまま、シート92の残りの大半であるシート残部92Rを、加熱成形装置10の加熱成形部10Bとの間にあるストックゾーンSZに溜めておく。次に、作業者は、図6に示すように、待機していたシート捲回ロール91bを、シートロール架台12上で移動させ、このシート捲回ロール91bに巻かれているシート92の始端部92Sと、シート捲回ロール91aのシート92の終端部92Eとを突き合わせ、双方のシート92同士をテープ等で連結させる。かくして、交換前後のシート捲回ロール91(91a、91b)のシート92,92同士が繋がれて、半成形品93の製造が継続される。
【0039】
次に、加熱成形工程にあたり、加熱成形装置10で行う制御について、説明する。加熱成形工程では、長尺状のシート92が、シート供給部10Aでシートロール架台12にセットしたシート捲回ロール91から、搬送部11によって送出され、加熱成形部10Bの加熱側10Baに、1処理単位で断続的に供給される。これにより、加熱側10Baでは、長尺状のシート92が、ヒータ群13によって加熱される。
【0040】
具体的に説明する。図7は、実施形態に係る加熱成形装置において、加熱成形工程1サイクル当たりのタイムチャートを示す図である。加熱成形工程は、その一処理分として、長尺状のシート92のうちの一部で、成形品要部(後に複数の製品90となる部分)とその周囲に形成される不要部(後にシート不要部94となる部分)とを含んだ1処理単位による生産体制で、シート92の加熱を行う。図7に示すように、加熱成形工程では、その1サイクル分としての処理数z=n(0<n)が、予め制御部2に設定されている。
【0041】
1処理当たりのシート92の加熱時間は、th(sec)である。また、搬送部11により、シート92で加熱処理をした部分が成形側10Bbに送出して成形されると同時に、シート92で加熱処理を待つ部分が加熱側10Baに送出する時間として、加熱成形間隔の実測時間WTm(sec)が、必要となっている。すなわち、1処理当たりのタクトタイムTtは、(th+WTm)の和に対応した時間であり、加熱成形工程1サイクル当たりのサイクルタイムCTは、n×(th+WTm)の積に対応した時間である。
【0042】
シート92が、加熱側10Baで加熱された後、成形側10Bbでは、加熱後のシート92が、金型形状に倣う所望の形状に成形された長尺状の半成形品93に、次々と連続的に加工される。長尺状の半成形品93は、加熱成形装置10とトリミング装置20の間にある緩衝ゾーンSPで、ある程度たるませた状態で、引き続きトリミング工程を行うトリミング装置20に供給される。
【0043】
次に、製造する製品90の量産体制について、説明する。図8は、実施形態に係る加熱成形装置による加熱成形工程で、タクトタイムと生産モードとの関係を示すチャートであり、加速生産モードに、半成形品の製造開始を含む場合のタイムチャート図である。図9は、実施形態に係る加熱成形装置による加熱成形工程で、タクトタイムと生産モードとの関係を示すチャートであり、タクトタイムの異なる2種の定常生産モードを含む場合のタイムチャート図である。
【0044】
自動運転の下で、シート成形システム1を稼働し、製品90を連続的に製造する量産体制では、シート成形システム1の稼働状況は、第1の場合として、図8に示すように、加速生産モードIと、減速生産モードIIと、スロー生産モードIIIと、第1定常生産モードIVで、4つの生産モードに大別される。また、第2の場合として、図9に示すように、加速生産モードIと、減速生産モードIIと、スロー生産モードIIIと、第2定常生産モードVで、4つの生産モードに大別されることもある。
【0045】
加速生産モードIでは、製品90の製造を開始した以降、半成形品93の品質状態が安定するまでの間、加熱成形工程1サイクル内でのタクトタイムTtは、半成形品93を定常な状態で加工可能なファースト生産体制時での時間t1(0<t1)よりも遅くなっている。特に、製品90の製造開始直後には、図7に示すように、シート92の加熱時間thや加熱成形間隔の実測時間WTmが、ファースト生産体制時に比して速いと、加熱された状態のシート92が金型で成形されても、品質管理上、安定した状態の半成形品93が得られない。
【0046】
そのため、製品90の製造開始直後の加工では、まず運転開始時のタクトタイムTt(本発明の第3タクトタイムT3(T1<T3)に対応)を、時間t4(0<t<t4)でスロースタートし、半成形品93の品質を確認しながら、段階的にタクトタイムTtを、時間t4より少し早い時間t3(t1<t3<t4)に一旦変更する。この後、さらに時間t3より少し早い時間t2(t1<t2<t3)に変更して半成形品93の品質を確認し、ファースト生産体制時のタクトタイムTt(本発明の第1タクトタイムT1(0<T1)に対応)を、時間t1に変更する。第1定常生産モードIVでは、シート捲回ロール91からのシート92の供給ができなくなり、次のシート捲回ロール91への交換が必要となるまで、定常な運転状態下として、タクトタイムTtを時間t1としたまま、シート成形システム1は、稼働し続ける。
【0047】
すなわち、予め取付けられているシート捲回ロール91(先のシート捲回ロール91a)を用いて、半成形品93を製造し始める状況下(加速生産モードI)では、加熱成形工程1回の実施にあたり、制御部2は、第1タクトタイムT1より長い第3タクトタイムT3で、運転を開始して以降、第1タクトタイムT1になるまで、加熱成形工程1回の時間を変更する。第1タクトタイムT1は、定常な運転状態の下で、半成形品93を製造する加熱成形工程1回あたりの時間である。このとき、制御部2は、後述するように、第3タクトタイムT3から第1タクトタイムT1への変更に追従して、ヒータ群13の温度を制御する。
【0048】
シート成形システム1の稼働中、次のシート捲回ロール91に交換する必要がある場合に、制御部2は、実施形態に係る加熱成形装置10の制御方法により、加熱成形工程1サイクル内でのタクトタイムTtを制御する。この加熱成形装置10の制御方法では、定常な運転状態下の第1タクトタイムT1より調整時間ΔT(0<ΔT)分長くした時間を、第2タクトタイムT2(T1<T2)とすると、第1タクトタイムT1で半成形品93を製造中、シート捲回ロール91の交換作業に伴い、制御部2は、第1タクトタイムT1に代えて、第2タクトタイムT2に変更して、加熱成形工程を継続する。
【0049】
すなわち、減速生産モードIIでは、ファースト生産体制下のタクトタイムTtであった第1タクトタイムT1(時間t1)を、時間t1より少し遅い時間t2に一旦変更する。この後、使用している先のシート捲回ロール91から送出できるシート92の残量と、シート捲回ロール91の交換作業に要する時間等を勘案しながら、必要に応じてさらに、時間t2より少し遅い時間t3に一旦変更する。そして、時間t3から時間t4(第2タクトタイムT2)に変更し、シート捲回ロール91の交換を行うときのモードであるスロー生産モードIIIにする。
【0050】
スロー生産モードIIIでは、作業者は、シート成形システム1を停止させず、加熱成形装置10で加熱成形工程を継続したまま、前述した要領で、先のシート捲回ロール91に巻かれていたシート92の終端部92Eと、新たにセットした次のシート捲回ロール91bに巻かれているシート92の始端部92Sを、テープ等で繋ぎ合わせる。これにより、加熱成形装置10は、スロー生産モードIIIで運転しながら、半成形品93の加工を続け、加速生産モードIを経て、第1定常生産モードIVに入って半成形品93を製造する。
【0051】
また、シート成形システム1の稼働中、例えば、日勤時の生産体制と夜勤時の生産体制や、繁忙期の生産体制と閑散期の生産体制等のように、製品90を生産する時間帯や時期によって、ファースト生産体制時のタクトタイムTtを変更することがある。例えば、図9に示すように、タクトタイムTtを時間t1(第1タクトタイムT1)とした第1定常生産モードIVを経て、タクトタイムTtを時間t2(第1タクトタイムT1)とした第2定常生産モードVで、半成形品93を加工しているときに、第2の場合として、シート捲回ロール91の交換を要する場合がある。この場合は、例えば、第2タクトタイムT2に変更がなければ、第1タクトタイムT1に変更を伴うため、調整時間ΔTは、第1定常生産モードIVのタクトタイムTtと、第2定常生産モードVのタクトタイムTtを考慮して調整される。
【0052】
次に、加熱成形装置10で行う半成形品93の送出制御について、図10を用いて説明する。図10は、半成形品の送出に伴う制御の流れを示すフローチャート図である。
【0053】
制御部2は、図10に示すように、加熱成形工程1サイクル当たりに対し、搬送部11により、送出方向HZ下流側に半成形品93の送出で、予め設定された回数である送出設定回数Wkを読み込む(S1)。次に、制御部2は、シート成形システム1の稼働中、加熱成形工程1サイクル当たりに対し、搬送部11により半成形品93の送出を実際に行った回数である送出実施回数Wmを読み込む(S2)。
【0054】
次に、制御部2は、半成形品93の送出設定回数Wkと、半成形品93の送出実施回数Wmを対比し、送出設定回数Wkが送出実施回数Wmより大きいか否かを判断する(S3)。「NO」の場合には、終了に進み、送出設定回数Wkに基づいた半成形品93の送出を、そのまま継続して行う。「YES」の場合には、S4に進む。制御部2は、図7に示すように、ヒータ群13によりシート92の加熱を行う加熱時間thと、搬送部11で送出した加熱後のシート92に、金型による成形を行う加熱成間隔の実測時間WTmとの和(th+WTm)である加熱成形時間(タクトタイムTt)に対し、予め設定された目標値FTkを読み込む(S4)。
【0055】
次に、制御部2は、シート成形システム1の稼働中、実際に要したS4の加熱成形時間の実施値FTmを読み込む(S5)。次に、制御部2は、加熱成形時間の目標値FTkと、加熱成形時間の実施値FTmを対比し、目標値FTkが実施値FTmより大きいか否かを判断する(S6)。「NO」の場合には、S8に進み、「YES」の場合には、S7に進む。
【0056】
次に、S7では、加熱成形時間の実施値FTmに対し、調整時間ΔTの加算または減算を行う。すなわち、製品90の製造にあたり、シート成形システム1の稼働状況が、減速生産モードIIにある場合に、制御部2は、加熱成形装置10で、加熱成形時間の実施値FTmに調整時間ΔT分を加算して、加熱成形工程の第1タクトタイムT1を長くする調整を行う。他方、シート成形システム1の稼働状況が、加速生産モードIにある場合には、制御部2は、加熱成形装置10で、加熱成形時間の実施値FTmに調整時間ΔTを減算して、加熱成形工程の第1タクトタイムT1を短くする調整を行う。
【0057】
次に、S8では、制御部2は、加熱成形時間の新たな目標時間として、目標値FTkに代えて、S7で第1タクトタイムT1の設定時間を調整した調整後設定時間FTpに変更し、この調整後設定時間FTpを設定登録する(S9)。かくして、制御部2は、搬送部11に対し、半成形品93を送出するための制御を行う。
【0058】
このように、半成形品93の送出制御が、加熱成形装置10で行われると同時に、実施形態に係る加熱成形装置10の制御方法では、減速生産モードIIにおいて、制御部2は、第1タクトタイムT1から第2タクトタイムT2への変更に追従して、ヒータ群13の温度を制御する。すなわち、制御部2は、加熱成形工程の1処理当たりのタクトタイムTtを、第1タクトタイムT1から第2タクトタイムT2に変更する間、ヒータ群13で加熱したシート92の加熱温度を、設定した許容範囲内の温度に調整できるよう、放射温度計15によるシートの実測温度に基づいて、ヒータ群13の温度を制御する。
【0059】
また、半成形品93の送出制御が、加熱成形装置10で行われると同時に、実施形態に係る加熱成形装置10の制御方法では、加速生産モードIにおいて、制御部2は、第3タクトタイムT3から第1タクトタイムT1への変更に追従して、ヒータ群13の温度を制御する。すなわち、制御部2は、加熱成形工程の1処理当たりのタクトタイムTtを、第3タクトタイムT3から第1タクトタイムT1に変更する間、ヒータ群13で加熱したシート92の加熱温度を、設定した許容範囲内の温度に調整できるよう、放射温度計15によるシートの実測温度に基づいて、ヒータ群13の温度を制御する。
【0060】
図8図9、及び図11を用いて、説明する。図11は、実施形態に係る加熱成形装置による加熱成形工程で、加熱に伴う制御の流れを示すフローチャート図である。
【0061】
シート成形システム1では、新しいシート捲回ロール91に交換する作業に伴い、図8及び図9に示すように、加熱成形装置10は、減速生産モードIIにある状況、または減速生産モードIIにまさに差し掛かろうとする状況である。また、半成形品93の製造を始めるにあたり、加熱成形装置10の運転開始に伴い、図8に示すように、加熱成形装置10は、加速生産モードIにある状況である。
【0062】
このような状況の下、図11に示すように、制御部2は、予め設定されている加熱成形時間の目標値FTkを読み込む(S21)。次に、加熱成形部10Bの加熱側10Baに設置された放射温度計15により、上下のヒータ群13の間に配されたシート92の加熱温度を測定し、制御部2は、このシート92の加熱温度の実測値Smを読み込む(S22)。次に、制御部2は、予め設定されているシート温度の設定値Skを読み込む(S23)。
【0063】
次に、制御部2は、加熱成形部10Bの加熱側10Baにおいて、調整された設定値Hknによるヒータ温度で、シート92を加熱する(S24)。そして、ヒータ群13による加熱時間が満了する時点で、シート92の加熱温度の実測値Smと、シート温度の設定値Skとの差を算出して、その温度差の絶対値|加熱温度の実測値Sm-シート温度の設定値Sk|が、所望の温度差の範囲内にあるか否かを判断する(S25)。
【0064】
「YES」の場合には、S27に進み、「NO」の場合には、S26に進む。S26では、温度差の絶対値|加熱温度の実測値Sm-シート温度の設定値Sk|が、所望の温度差の範囲内にない場合、制御部2は、次回に行うシート92の加熱に備え、ヒータ群13のヒータ温度を、設定値Hkから、調整後設定値Hknに変更しておく。次に、S24で加熱したシート92を、搬送部11により、加熱成形部10Bの成形側10Bbに送出する(S27)。かくして、シート92への加熱制御が行われる。
【0065】
加熱するシート92の加熱温度に対応したヒータ群13の温度補正制御について、さらに図12を用いて詳細に説明する。図12は、実施形態に係る加熱成形装置に関し、加熱されたシートの実測温度と、制御するヒータ群の温度との関係を示すグラフであり、加熱されたシートの実測温度に基づき、ヒータ群の温度をフィードバック制御する様子を示す説明図である。
【0066】
図2に示すように、制御部2は、PLC3と、半導体スイッチング素子により、高速高頻度動作を可能とした無接点リレーであるSSR4と、ヒータ群13と、放射温度計15に対し、電気的に接続され、フィードバック制御を可能に構成されている。制御部2は、放射温度計15によるシート92の実測温度に基づくフィードバック制御を行い、ヒータ群13の温度を段階的に調整しながら、更新されたヒータ群13の温度に基づいて、シート92の加熱温度を調整する。
【0067】
具体的に説明する。加熱成形工程では、図7に示すように、1処理当たりのタクトタイムは、1処理当たりのシート92の加熱時間thと、1処理当たりの加熱成形間隔の実測時間WTmとの和(th+WTm)である。また、加熱成形工程1サイクル分としての処理数z=n(0<n)が、予め制御部2に設定されており、例示した図12の場合、加熱成形工程1サイクル分の処理数は、n=6である。他方、図12に示すように、ヒータ群13の加熱により、1処理毎に求められるシート92の加熱温度は、設定された基準温度を含む許容範囲内にある温度(以下、図12内の表記を含め、「シート設定温度」と称する。)を満たさなければならない。
【0068】
加熱成形工程1処理では、図1に示すように、シート92が、シート供給部10Aから加熱成形部10Bの加熱側10Baに送出され、加熱時間thの間、ヒータ群13で加熱される。これにより、図12に示すように、シート92の加熱温度(図12では、「シート加熱温度」と表記)は、時間共に、それまでの常温状態から加熱時間thのタイムアップまで上昇する。このとき、加熱時間thのタイムアップ時に、シート92の加熱温度が、シート設定温度を満たしていないと、加熱するヒータ群13の設定温度(図12では、「ヒータ設定温度」と表記)は不適切である。そのため、放射温度計15により、加熱時間thのタイムアップ時に測定したシート92の加熱温度に基づいて、ヒータ群13の温度を段階的に調節する必要がある。
【0069】
例えば、先の処理による加熱時間thのタイムアップ時に、シート92の加熱温度が、シート設定温度より低くなっていた場合、次の処理では、これまでの設定温度よりも、少し高く設定したヒータ群13の温度で、シート92が加熱される。その反対に、先の処理による加熱時間thのタイムアップ時に、シート92の加熱温度が、シート設定温度より高くなってしまった場合、次の処理では、これまでの設定温度よりも、少し低く設定したヒータ群13の温度で、シート92が加熱される。
【0070】
このように、ヒータ群13の温度調節を、温度の変動幅を一気に大きくせず徐々に、段階的に繰り返すことで、シート92が、シート設定温度を満たすシート加熱温度に、品質管理上、安定した状態で加熱できるようになり、半成形品93が、良好な成形精度で製造され易くなる。また、繰り返される加熱成形工程が、早期に安定化することから、第1定常生産モードIV(または第2定常生産モードV)への移行が、結果的にスムーズになる。
【0071】
ところで、製品90を製造する上で、例えば、図8及び図9に示す減速生産モードIIで、タクトタイムTtを、t1からt4に変更する場合や、図9に示す減速生産モードIIで、タクトタイムTtを、t2からt4に変更する場合、図8に示す加速生産モードIで、タクトタイムTtを、t4からt1に変更する場合等、1処理当たりのタクトタイム(Tt=th+WTm)を変更することがある。
【0072】
このような場合、1処理当たりのシート92の加熱時間thにも変化が伴う。このように、加熱成形工程を行うタクトタイムTtの変更が生じると、加熱時間thも変化してしまうため、シート92が、ヒータ群13で加熱されても、シート設定温度を満たす加熱温度にならないこともある。従って、製品90を量産体制で製造中、タクトタイムTtが、一時的に段階的に変更される場合でも、図12に示すように、ヒータ群13の温度制御が、タクトタイムTt毎に、稼働している加熱成形工程のタクトタイムTtに対応して繰り返される。
【0073】
次に、本実施形態に係る加熱成形装置10の制御方法の作用・効果について説明する。本実施形態に係る加熱成形装置10の制御方法では、シート捲回ロール91から供給されるシート92を加熱し、金型により、該シート92が成形された半成形品93を、その加熱成形工程を繰り返すことで、次々と連続的に製造するシート加熱成形装置の制御方法において、制御部2を備え、定常な運転状態の下で、半成形品93を製造する加熱成形工程1回あたりの時間を、第1タクトタイムT1(0<T1)とし、第1タクトタイムT1より調整時間ΔT(0<ΔT)分長くした時間を、第2タクトタイムT2(T1<T2)とすると、第1タクトタイムT1で半成形品93を製造中、シート捲回ロール91の交換作業に伴い、制御部2は、第1タクトタイムT1に代えて、第2タクトタイムT2に変更して、加熱成形工程を継続すること、を特徴とする。
【0074】
この特徴により、作業者は、加熱成形装置10の運転中、シート捲回ロール91の交換にあたり、加熱成形装置10の運転を停止することなく、必要となる作業時間を十分に確保して、シート捲回ロール91を交換することができる。そのため、シート捲回ロール91を交換作業に起因した半成形品93の生産性低下が抑えられ、加熱成形装置10の工程能力がより高く維持できているため、半成形品93を、効率良く製造することができる。
【0075】
特に従来、シート捲回ロールの交換にあたり、特許文献1のように、シート加熱成形装置の運転を一時停止する場合、交換前のシート捲回ロールのシートを使い終えて、加熱成形工程の実施を停止させた後、次に使用する交換後のシート捲回ロールのシートを、シート加熱成形装置にセットして、シート加熱成形装置の運転が再開される。このとき、運転開始直後しばらくの間、シートの加熱温度や、加熱後にシート面内の一部を成形した半成形品は、品質管理上、安定した状態にならない。そのため、シートの加熱温度や、半成形品の状態の安定化を図る上で、シート加熱成形装置では、シート成形品の製造開始当初の状態に近い初期生産モードとして、大掛かりな加熱成形制御を行いながら、ロール交換後の新しいシートを、加熱し成形する必要がある。その結果、加熱成形工程で、このような初期生産モードが繰り返し行われると、シート成形品の生産性は、ますます低下していた。
【0076】
これに対し、本実施形態に係る加熱成形装置10の制御方法では、加熱成形装置10の運転を継続したまま、シート捲回ロール91の交換作業を行うため、半成形品93の製造開始当初の状態に近い初期生産モード(図8に示す加速生産モードI)として、大掛かりなシート92の加熱成形制御を行う必要がない。そのため、加熱成形装置10の運転中、シート捲回ロール91の交換が行われても、半成形品93の生産性低下は、抑えられる。
【0077】
また、作業者は、シート捲回ロール91の交換作業を、時間的に余裕を持って行うことができるため、先のシート捲回ロール91aと次のシート捲回ロール91bとの間で、シート92の終端部92Eとシート92の始端部92Sとを連結するにあたり、その接続ミスを抑えた作業の下で、シート92,92同士を適切に接続することができるようになる。ひいては、不適切なシート92,92同士の接続に起因して、例えば、不良品の発生のほか、交換した次のシート捲回ロール91bのシート92が、加熱成形装置10内の搬送部11等にきちんとセットできなくなってしまうことや、接続されたシート92,92同士が、搬送部11の送出動作に伴って引き離されてしまうこと等、半成形品93の製造に悪影響を及ぼす蓋然性は低下する。
【0078】
従って、本実施形態の加熱成形装置10の制御方法によれば、半成形品93を製造している最中、シート捲回ロール91の交換を必要とする場合でも、半成形品93の製造に支障を来すことなく、半成形品93を、効率良く製造することができる、という優れた効果を奏する。
【0079】
また、本実施形態の加熱成形装置10の制御方法では、シート92を加熱するヒータ群13を備え、制御部2は、第1タクトタイムT1から第2タクトタイムT2への変更に追従して、ヒータ群13の温度を制御すること、を特徴とする。
【0080】
この特徴により、第1定常生産モードIV、第2定常生産モードVから減速生産モードIIに生産モードを変化させて、半成形品93を製造する上で、シート92に対し、ヒータ群13による加熱不良の発生を抑制することができる。そのため、歩留まりをより大きくして、半成形品93を製造することが可能になる。
【0081】
また、本実施形態の加熱成形装置10の制御方法では、シート92を加熱するヒータ群13を備え、予めシートロール架台12に取付けられているシート捲回ロール91を用いて、半成形品93を製造し始める状況下では、加熱成形工程1回の実施にあたり、制御部2は、第1タクトタイムT1より長い第3タクトタイムT3(T1<T3)で、運転を開始して以降、第1タクトタイムT1になるまで、加熱成形工程1回の時間を変更すると共に、第3タクトタイムT3から第1タクトタイムT1への変更に追従して、ヒータ群13の温度を制御すること、を特徴とする。
【0082】
この特徴により、運転の開始により、加速生産モードIの下で、半成形品93を製造するにあたり、シート92に対し、ヒータ群13による加熱不良の発生を抑制することができる。そのため、加熱された状態のシート92が金型で成形されても、品質管理上、安定した状態の半成形品93が得られ、ひいては、歩留まりをより大きくして、半成形品93を製造することが可能になる。
【0083】
また、本実施形態の加熱成形装置10の制御方法では、シート92の加熱温度を測定する放射温度計15を備え、制御部2は、ヒータ群13で加熱したシート92の加熱温度を、設定した許容範囲内の温度に調整できるよう、放射温度計15によるシートの実測温度に基づいて、ヒータ群13の温度を制御すること、を特徴とする。
【0084】
この特徴により、ヒータ群13によるシート92の加熱状態が、シート92の材質・性状等の特性によって異なる場合でも、加熱成形工程を行うシート92の特性に拘わらず、加熱したいシート92の加熱温度に、ヒータ群13の温度を容易に調整することができる。
【0085】
また、本実施形態の加熱成形装置10の制御方法では、制御部2は、第1タクトタイムT1から第2タクトタイムT2に変更する間、第3タクトタイムT3から第1タクトタイムT1に変更する間、ヒータ群13の温度を段階的に調整しながら、更新されたヒータ群13の温度に基づいて、シート92の加熱温度を調整すること、を特徴とする。
【0086】
この特徴により、第1タクトタイムT1から第2タクトタイムT2に変更する間や、第3タクトタイムT3から第1タクトタイムT1に変更する間でも、半成形品93を製造する上で、不良品の発生を抑えて、ヒータ群13によるシート92の加熱温度、ヒータ群13によるシート92の加熱時間th、搬送部11で送出した加熱後のシート92に、金型による成形を行う加熱成間隔の実測時間WTm等、より最適な加熱成形条件の下で、半成形品93を、品質管理上、良好な成形精度で製造することができる。
【0087】
また、本実施形態の加熱成形装置10の制御方法では、制御部2は、ヒータ群13の温度を、シート92の実測温度に基づくフィードバック制御で調整すること、を特徴とする。
【0088】
この特徴により、シート92が、図12に示すように、設定された所望の温度に調整された温度で、加熱し易くなる。
【0089】
以上において、本発明を実施形態に即して説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で、適宜変更して適用できる。
【0090】
(1)例えば、実施形態では、シート成形システムによる量産体制の下、加熱成形装置10で、次々と連続的に半成形品93を、シート成形品として製造した後、トリミング装置20により、この半成形品93のうちのシート不要部94をトリミングして、製品90を得た。しかしながら、シート加熱成形装置は、実施形態のトリミング装置20のようなシートトリミング装置を要せず、シート成形品として、製品であるシート成形製品を製造する装置であっても良い。
【0091】
(2)また、実施形態では、図8及び図9に例示した加速生産モードIと、減速生産モードIIにおいて、タクトタイムTtを、時間t1と時間t4との間を3段階に、時間t2と時間t4との間を2段階に、それぞれ分けて調整した。しかしながら、タクトタイムTtの調整回数は、実施形態に限定されるものではなく、タクトタイムTtは、段階的に調整されていれば良い。
【符号の説明】
【0092】
2 制御部
10 加熱成形装置(シート加熱成形装置)
12 ヒータ群(ヒータ)
15 放射温度計(温度計測手段)
91 シート捲回ロール
92 シート
93 半成形品(シート成形品)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12