(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-30
(45)【発行日】2024-02-07
(54)【発明の名称】ダンパーディスク組立体
(51)【国際特許分類】
B60K 5/12 20060101AFI20240131BHJP
B60K 1/00 20060101ALI20240131BHJP
F16D 13/64 20060101ALI20240131BHJP
F16F 15/134 20060101ALI20240131BHJP
F16F 15/139 20060101ALI20240131BHJP
【FI】
B60K5/12 H
B60K1/00
F16D13/64 A
F16F15/134 A
F16F15/134 D
F16F15/139 B
(21)【出願番号】P 2019004871
(22)【出願日】2019-01-16
【審査請求日】2021-11-19
【審判番号】
【審判請求日】2023-03-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000149033
【氏名又は名称】株式会社エクセディ
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】弁理士法人新樹グローバル・アイピー
(72)【発明者】
【氏名】河原 裕樹
【合議体】
【審判長】小川 恭司
【審判官】内田 博之
【審判官】尾崎 和寛
(56)【参考文献】
【文献】実公昭48-15723(JP,Y1)
【文献】特開2004-353707(JP,A)
【文献】特開2012-167738(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 13/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源からのトルクが入力される入力側プレートと、
前記入力側プレートに相対回転自在に設けられた出力側プレートと、
前記入力側プレートと前記出力側プレートとを回転方向に弾性的に連結する複数の弾性部材を有するダンパー機構と、
を備え、
前記ダンパー機構は、前記入力側プレートに対する前記出力側プレートの中立時からの第1回転方向への回転を禁止し、前記入力側プレートに対する前記出力側プレートの前記中立時からの第2回転方向への回転を許容するストッパ機構を有し、
前記ダンパー機構は、前記入力側プレートから前記出力側プレートへのトルク伝達時には前記両プレート間の捩れを禁止し、前記出力側プレートから前記入力側プレートへのトルク伝達時には前記複数の弾性部材が圧縮されることにより得られる所定の捩り特性で前記両プレート間の捩れを許容する、
ダンパーディスク組立体。
【請求項2】
前記複数の弾性部材は、予め弾性変形された状態で装着されて予荷重が与えられている、請求項1に記載のダンパーディスク組立体。
【請求項3】
前記ダンパー機構は、前記入力側プレートと前記出力側プレートとの相対回転時に回転方向の摩擦力を発生するヒステリシストルク発生機構を有する、請求項
1又は2に記載のダンパーディスク組立体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダンパーディスク組立体に関する。
【背景技術】
【0002】
ダンパーディスク組立体は、自動車等の車両において、エンジンや電動機を含む駆動源と車輪との間の動力伝達経路に設けられている。ダンパーディスク組立体は、一般に、トルクが入力されるクラッチプレート及びリティニングプレートを有する入力側プレートと、トランスミッションの入力軸に結合されるスプラインハブと、を有している。入力側プレートとスプラインハブとは、複数のトーションスプリングによって回転方向に弾性的に連結されている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電気自動車やハイブリッド車両では、駆動源として電動機が用いられる。電動機は慣性量が大きいために、例えば出力軸から車体や路面を加振源とした振動が入力されると、電動機の慣性を主慣性とする共振が発生する場合がある。
【0005】
前記のような共振を抑えるためには、動力伝達経路中にダンパー機構を設けることが有効である。しかし、ダンパー機構を設けると、駆動源からの駆動力は、複数のスプリングを含むダンパー機構を介して車輪に伝達されるので、ドライバビリティを損なうことになる。したがって、ドライバビリティを良好に維持するためには動力伝達系の剛性は高い方が望ましい。
【0006】
以上のように、共振による過大トルクを抑えるためには適度な剛性を有するダンパー機構を設けることが好ましいが、ドライバビリティを良好に維持するためには動力伝達系は極力高い剛性にする方が好ましい、という背反する要求がある。
【0007】
本発明の課題は、被駆動側からの振動に起因する過大トルクを低減し、しかも良好なドライバビリティを確保することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明に係るダンパーディスク組立体は、駆動源からのトルクが入力される入力側プレートと、入力側プレートに相対回転自在に設けられた出力側プレートと、入力側プレートと出力側プレートとを回転方向に弾性的に連結する複数の弾性部材を有するダンパー機構と、を備えている。ダンパー機構は、入力側プレートから出力側プレートへのトルク伝達時には両プレート間の捩れを禁止し、出力側プレートから入力側プレートへのトルク伝達時には所定の捩り特性で両プレート間の捩れを許容する。
【0009】
ここでは、ダンパー機構において、駆動側の捩り特性(入力側から出力側にトルクが伝達される際の捩り特性)は、リジッドである。すなわち、入力側プレートにトルクが入力された場合、入力側プレートと出力側プレートとの間において捩れ(相対回転)なしに、トルクはダイレクトに出力側プレートに伝達される。したがって、良好なドライバビリティが確保される。
【0010】
一方、被駆動側の捩り特性(出力側から入力側にトルクが伝達される際の捩り特性)は、所定の捩り特性で伝達される。このため、ダンパー機構の本来の機能が作用する。したがって、ダンパー機構の剛性、すなわち捩り特性を適切に調整することによって、被駆動側の加振源からの振動に起因する共振を、常用の回転数領域外に設定することができる。このため、常用する運転状況において過大なトルクが入力側に伝達されるのを抑えることができる。したがって、駆動系全体を保護でき、また部品の小型化が可能になる。
【0011】
(2)好ましくは、複数の弾性部材は、予め弾性変形された状態で装着されて予荷重が与えられている。
【0012】
例えば、車両が下り坂を下るとき(すなわち、被駆動側から駆動側への逆トルク伝達時の初期)においては、弾性部材が弾性変形してダンパー機構が作動すると、歯打ち音が発生する場合がある。そこで、複数の弾性部材に予荷重を与えておくことによって、過大なトルクが作用したときのみにダンパー機構を作動させることができる。このため、歯打ち音等の異音を抑えることができる。
【0013】
(3)好ましくは、ダンパー機構は、入力側プレートに対する出力側プレートの中立時からの第1回転方向への回転を禁止し、入力側プレートに対する出力側プレートの中立時からの第2回転方向への回転を許容するストッパ機構を有する。
【0014】
ここでは、ストッパ機構によって、駆動側の捩り特性をリジッドに設定し、また被駆動側の捩り特性を適切な捩り特性に設定することができる。
【0015】
(4)好ましくは、ダンパー機構は、入力側プレートと出力側プレートとの相対回転時に回転方向の摩擦力を発生するヒステリシストルク発生機構を有する。
【0016】
ここでは、被駆動側の捩り特性はヒステリシストルクを有しているので、トルク変動を効果的に抑えることができる。
【0017】
(5)好ましくは、駆動源は少なくとも電動機を含む。
【発明の効果】
【0018】
以上のような本発明では、被駆動側からの振動に起因する過大トルクを低減できるので、駆動系全体の保護、及び部品の小型化が可能になる。また、本発明では、良好なドライバビリティを確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の一実施形態によるダンパーディスク組立体が搭載された車両のブロック図。
【
図2】本発明の一実施形態によるダンパーディスク組立体の断面構成図。
【
図6】第2スペーサ及びフリクションワッシャの断面部分図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[全体構成]
図1は、本発明の一実施形態によるダンパーディスク組立体が搭載された車両のブロック図である。ここでは、駆動源としての電動機1からのトルクは、ダンパーディスク組立体2を通して変速機3に伝達され、その後車輪4に伝達される。
【0021】
[ダンパーディスク組立体2]
図2及び
図3は、本発明の一実施形態によるダンパーディスク組立体2を示している。
図2は断面構成図であり、
図3は正面図である。
図2において、O-O線が回転中心線である。
【0022】
[全体構成]
図において、ダンパーディスク組立体2は、クラッチプレート11及びリティニングプレート12(入力側プレートの一例)と、スプラインハブ13(出力側プレートの一例)と、ダンパー機構14と、を備えている。
【0023】
[クラッチプレート11及びリティニングプレート12]
クラッチプレート11及びリティニングプレート12は、ともに円板状に形成されており、軸方向に所定の隙間を介して対向して配置されている。クラッチプレート11及びリティニングプレート12は、外周部がストップピン16により、また内周部がスタッドピン17により固定されている。このため、クラッチプレート11とリティニングプレート12とは、相対回転不能であり、かつ互いに軸方向に移動不能である。また、クラッチプレート11の外周部は、電動機側の部材18にリベット19によって連結可能である。したがって、電動機側の部材18から、クラッチプレート11及びリティニングプレート12にトルクが入力される。
【0024】
クラッチプレート11及びリティニングプレート12には、それぞれ6つのスプリング支持部11a,12aが形成されている。このスプリング支持部11a,12aは互いに離れるように(軸方向外側に)膨らむように形成されている。
【0025】
[スプラインハブ13]
スプラインハブ13は、ハブ20と、フランジ21と、を有している。スプラインハブ13は、クラッチプレート11及びリティニングプレート12に対して、基本的には相対回転自在である(詳細は後述する)。ハブ20は、その中心部にスプライン孔20aを有している。このスプライン孔20aが、図示しない変速機3の入力軸に形成されたスプライン軸に噛み合い可能である。フランジ21は、ハブ20のほぼ軸方向の中央部から径方向外方に延びて形成されている。フランジ21は円板状であり、フランジ21の外周には、円周方向に延びる6つの窓孔21aが等間隔に形成されている。窓孔21aは、クラッチプレート11及びリティニングプレート12のスプリング支持部11a,12aに対応する位置に形成されている。なお、フランジ21には、スタッドピン17が貫通し、かつ所定の角度範囲で回転し得るように、円周方向に長い長孔21bが形成されている。
【0026】
[ダンパー機構14]
ダンパー機構14は、複数のトーションスプリング24と、ストッパ機構25と、ヒステリシストルク発生機構26と、を有している。
【0027】
複数のトーションスプリング24は、6ヵ所の窓孔21a及びスプリング支持部11a,12aに収容されている。それぞれのトーションスプリング24は、予め圧縮された状態で収容されている。すなわち、各トーションスプリング24には予荷重が与えられている。
【0028】
ストッパ機構25は、ストッパ用切欠28と、前述のストップピン16と、によって構成されている。ストッパ用切欠28は、フランジ21の外周部において、隣接する窓孔21aの間の外周部に形成されている。ストッパ用切欠28は径方向外方に開いている。そして、ストップピン16はストッパ用切欠28を通過している。ここで、トルクが伝達されていない中立時においては、ストップピン16はストッパ用切欠28の一方の端面28aに当接している。
【0029】
このような構成のダンパー機構14では、クラッチプレート11及びリティニングプレート12からスプラインハブ13へのトルク伝達時(すなわち、駆動トルク伝達時)には、クラッチプレート11及びリティニングプレート12とスプラインハブ13との捩れ(相対回転)が、ストッパ機構25によって禁止される。また、スプラインハブ13からクラッチプレート11及びリティニングプレート12へのトルク伝達時(すなわち、被駆動トルク伝達時)には、所定の捩り特性で、クラッチプレート11及びリティニングプレート12とスプラインハブ13との間の捩れ(相対回転)が許容される。
【0030】
ヒステリシストルク発生機構26は、スプラインハブ13のフランジ21と、クラッチプレート11及びリティニングプレート12と、の軸方向間の内周部に配置されている。より詳細には、前述のように、クラッチプレート11とリティニングプレート12とは、複数のスタッドピン17によって連結されている。これらのスタッドピン17によって、クラッチプレート11とリティニングプレート12との軸方向の間隔が所定の寸法に規制されており、この軸方向スペースにヒステリシストルク発生機構26が設けられている。
【0031】
ヒステリシストルク発生機構26は、第1スペーサ31、第2スペーサ32、フリクションワッシャ34及び第3スペーサ33を有している。すなわち、リティニングプレート12の内周部とフランジ21の内周部との間に、リティニングプレート12側から順に、環状の第1スペーサ31、第2スペーサ32、及びフリクションワッシャ34が配置されている。また、クラッチプレート11の内周部とフランジ21の内周部との間に第3スペーサ33が配置されている。なお、これらの各部材31,32,33,34には、それぞれスタッドピン17が貫通する孔(
図5参照)が形成されており、これにより、各部材は自由に回転することが禁止されている。
【0032】
第1スペーサ31は、環状に形成されたプレート部材であり、外周部がリティニングプレート12によって支持されている。そして、この第1スペーサ31には、
図4及び
図5に示すように、内周部において軸方向の一方側に突出する複数のリブ31aが所定の間隔で形成されている。この複数のリブ31aは、スタッドピン17が貫通する複数の孔31bの形成された角度位置とずれた角度位置に、すなわち隣接する孔31bの間に位置するように形成されている。
【0033】
第2スペーサ32は、第1スペーサ31と同様に、環状に形成されたプレート部材である。また、この第2スペーサ32においても、
図6に示すように、内周部において軸方向の一方側に突出する複数のリブ32aが所定の間隔で形成されており、第1スペーサ31と同様に、隣接するスタッドピン貫通孔(図示せず)の間に位置している。そして、この第2スペーサ32とフリクションワッシャ34とは、
図6に示すように、互いに接着されている。なお、フリクションワッシャ34は環状の樹脂成型品である。
【0034】
図2から明らかなように、第1スペーサ31及び第2スペーサ32は、互いのリブ31a,32aが当接するように、すなわち第1スペーサ31はリブ31aが第2スペーサ32側に向くように、かつ第2スペーサ32はリブ32aが第1スペーサ31側に向くように配置されている。
【0035】
また、第3スペーサ33は、リブ高さのみが第1スペーサ31と異なり、他の構造は第1スペーサ31と全く同様である。
【0036】
このような構造において、スタッドピン17によって設定される軸方向スペースSと、ヒステリシストルク発生機構26を構成する各部材31~34、フランジ21及び入力側の両プレート11,12の自由状態におけるトータルでの軸方向厚みTとは、T>Sとなるように設定されている。したがって、ヒステリシストルク発生機構26を構成する各部材は、組み付けられた状態では、各スペーサ31~33のリブの弾性変形等により、互いに圧接されている。
【0037】
[動作]
<電動機1側からのトルク伝達時>
電動機1側からのトルクがクラッチプレート11に入力されると、このトルクは、ストッパ機構25を介してスプラインハブ13に直接入力される。すなわち、トルクは複数のトーションスプリング24を介さずに伝達されるので、捩り特性としては、
図7の特性C1に示すようなリジッドな捩り特性となる。
【0038】
より詳細には、中立時、すなわちトルクが入力されていない状態(中立時)では、ストップピン16はストッパ用切欠28の端面28aに当接している。したがって、この中立時において、クラッチプレート11及びリティニングプレート12に電動機1側から正側トルク(すなわち、車両における前進駆動のためのトルク)が入力されると、入力されたトルクは、クラッチプレート11及びリティニングプレート12→ストップピン16→ストッパ用切欠28(その端面28a)→スプラインハブ13の経路で、トーションスプリング24を介さずにスプラインハブ13に伝達される。
【0039】
ここでは、駆動側からのトルクは、リジッドな捩り特性を有するダンパーディスク組立体2を介して出力側に伝達される。このため、ドライバビリティが良好になる。したがって、例えば、アクセルの駆動力要求に対して遅れのない素早い対応が可能になる。
【0040】
<車輪4側からのトルク伝達時>
車輪等の被駆動側からトルクが入力された場合は、このトルクはダンパー機構14を介して入力側に伝達される。この場合は、捩り特性としては、
図7の特性C2に示すような捩り特性となる。
【0041】
より詳細には、中立時において、スプラインハブ13側から逆トルクが入力されると、入力されたトルクは、スプラインハブ13からトーションスプリング24を介してクラッチプレート11及びリティニングプレート12に伝達される。すなわち、スプラインハブ13とクラッチプレート11及びリティニングプレート12との間では、トーションスプリング24が作動することによって捩れ(相対回転)が発生する。そして、この捩れによって、ヒステリシストルクが発生する。
【0042】
以上のように、被駆動側から逆トルクが入力された場合は捩り特性C2でダンパー機構14が作動する。したがって、トルク変動が大きくトルクが正負を跨ぐ場合、被駆動側からの駆動システムは、
図7の破線C3で示す等価剛性から計算される固有振動数を持つことになる。このため、この等価剛性を適切に調整し、設定することによって、被駆動側の加振源からの共振点を所望の領域(常用回転数域外)に設定することができる。したがって、共振による過大トルクを抑えることができ、駆動系全体の保護を図ること、及び部品の小型化が可能になる。
【0043】
[他の実施形態]
本発明は以上のような実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱することなく種々の変形又は修正が可能である。
【0044】
(a)前記実施形態では、ダンパーディスク組立体を駆動源と変速機との間に配置したが、変速機内や、変速機と車輪との間に設けてもよい。また、システムとして、変速機を用いずに減速機を有する場合にも、本発明を同様に適用することができる。
【0045】
(b)ダンパー機構に含まれるヒステリシストルク発生機構は、前記実施形態に限定されるものではなく、種々の構成を採用可能である。
【0046】
(c)前記実施形態では、駆動源として電動機を例にとって説明したが、エンジン及び電動機を併用したハイブリッド車両にも本発明と同様に適用することができる。
【符号の説明】
【0047】
1 電動機(駆動源)
2 ダンパーディスク組立体
11 クラッチプレート(入力側プレート)
12 リティニングプレート(入力側プレート)
13 スプラインハブ(出力側プレート)
14 ダンパー機構
24 トーションスプリング
25 ストッパ機構
26 ヒステリシストルク発生機構