(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-30
(45)【発行日】2024-02-07
(54)【発明の名称】クリンチングスタッドの固定構造
(51)【国際特許分類】
F16B 35/04 20060101AFI20240131BHJP
F16B 35/00 20060101ALI20240131BHJP
【FI】
F16B35/04 S
F16B35/00 Q
(21)【出願番号】P 2019198871
(22)【出願日】2019-10-31
【審査請求日】2022-10-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000227467
【氏名又は名称】日東精工株式会社
(72)【発明者】
【氏名】鳥居 慎悟
(72)【発明者】
【氏名】宮田 啓一
【審査官】鵜飼 博人
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-513816(JP,A)
【文献】実開昭59-051208(JP,U)
【文献】実開昭59-034107(JP,U)
【文献】特開2018-105052(JP,A)
【文献】特開2011-241905(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16B 35/04
F16B 35/00
F16B 9/00- 11/00
F16B 5/00- 5/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
頭部と、ねじ軸部と、これらの間に位置する固着部とから成り、相手材に設けられた下穴に固着部を固定するように構成されたクリンチングスタッドにおいて、
相手材は、二枚のプレートを積層して構成され、これらプレートを貫くようにして下穴が設けられ、
固着部には、環状溝が設けられるとともに、この環状溝の両サイドには下穴径と同一またはこれよりも大径に設定された環状の案内部が設けられ、
これら案内部が、二枚の相手材各々に食い込むようにして相手材に固定されること、
を特徴とするクリンチングスタッド
の固定構造。
【請求項2】
案内部は、外周側が先鋭に成形されていることを特徴とする請求項1に記載のクリンチングスタッド
の固定構造。
【請求項3】
頭部の座面には、突起状の圧入係止部が設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載のクリンチングスタッド
の固定構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、部材に下穴を開け、プレスで圧入することで容易にねじ立てが可能なクリンチングスタッドに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、薄板状の相手材に植設され、ねじとして機能する部品として、クリンチングスタッドが知られている。その一例として、特許文献1に示すクリンチングスタッドは、頭部と、ねじ軸部と、これらの間に設けられ、相手材に予め穿設された下穴に固定される固着部とから成る。また、この固着部の外周面には環状溝が形成されるとともに、この環状溝に連接するようにしてねじ軸部側には環状の案内部が形成されている。さらに、頭部の座面には、非円形状の突起部が形成されている。このように構成されたクリンチングスタッドは、ねじ軸部を相手材の下穴に挿通する際に、案内部が相手材の下穴を拡径し、これにより塑性変形した相手材が環状溝へ流動する。最終的に案内部は相手材の下面に位置し抜け止めとして機能する。続いて、頭部座面の突起部が相手材を上面から押圧することにより、回り止めとして機能するとともに、塑性変形した相手材を環状溝へ流動する。このようにして、相手材の下穴に固着部を固定することにより、クリンチングスタットが植設される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記クリンチングスタッドは、案内部が一つしかないため、下穴に挿入する際に位置決め精度が悪く、クリンチングスタッドが傾斜した状態で植設される問題があった。また、環状溝の頭部側には案内部が設けられていないため、頭部座面の突起部によって押圧された相手材が直接的に環状溝へ流入する。このため、環状溝に充填される相手材が過剰になり過ぎるため、適切にクリンチングスタッドを植設することができない問題もあった。
【0005】
本発明は、上記欠点の除去を目的として発明されたもので、相手材に安定して植設可能なクリンチングスタットを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
頭部と、ねじ軸部と、これらの間に位置する固着部とから成り、相手材に設けられた下穴に固着部を固定するように構成されたクリンチングスタッドにおいて、相手材は、二枚のプレートを積層して構成され、これらプレートを貫くようにして下穴が設けられ、固着部には、環状溝が設けられるとともに、この環状溝の両サイドには下穴径と同一またはこれよりも大径に設定された環状の案内部が設けられ、これら案内部が、二枚の相手材各々に食い込むようにして相手材に固定されるクリンチングスタッドによる。
【0007】
なお、案内部は、外周側が先鋭に成形されていることが好ましい。
【0008】
なお、頭部の座面には、突起状の圧入係止部が設けられていることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、環状溝を挟んで両側に案内部が設けられているので、圧入に伴う塑性変形により環状溝に充填される相手材が両サイドから万遍なく流動するため、安定して相手材に植設することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明に係るクリンチングスタッドの正面図である。
【
図2】本発明に係るクリンチングスタッドの底面図である。
【
図3】本発明に係るクリンチングスタッドを取り付ける前の状態を示す図である。
【
図4】本発明に係るクリンチングスタッドを取り付けた後の状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明であるクリンチングスタッドの構成を図面に基づいて説明する。
図1において、1はクリンチングスタッドであり、所定の厚みを有する円形の頭部2と、この頭部に連接する固着部5と、この固着部5に連接するねじ軸部3と、頭部2の座面に成形される圧入係止部4とから構成される。これら頭部2 、軸部3、圧入係止部4および固着部5は、同軸線上に一体成形されており、ねじ軸部3の外周面にはナット等に成形されためねじと螺合可能なおねじ3aが一体成形されている。
【0012】
図2に示すように、前記圧入係止部4は、放射状に複数個配置された凸部4aと、これら凸部4aの間に配した凹部4bとを連設して構成されている。これら凸部4aと凹部4bがそれぞれ6個ずつ配置されることによって、圧入係止部4は星形を成している。
【0013】
前記圧入係止部4とねじ軸部3とを連設する固着部5には環状溝5aが形成されている。また、固着部5は、環状溝5aの両サイド(ねじ軸部側および頭部側)に形成された環状の案内部5b,5cを有している。これら案内部5b,5cは、クリンチングスタッド1が植設される相手材10の下穴10aの内径と同一または僅かに大径のサイズに設定されている。さらに、これら案内部5b,5cは、外周側に従って厚みが薄くなっており、つまり外周側が先鋭に形成されている。
【0014】
図3および
図4に示すように、クリンチングスタッド1が植設される相手材10は、鋼板、ステンレス板等の金属製の薄板である。また、この相手材10は、二枚のプレート11,12を上下に重ね合わせて構成されており、これらプレート11.12を貫くようにして下穴10aが穿設されている。
【0015】
以下、クリンチングスタッド1を相手材10に取り付ける方法を説明する。まず、相手材10は、受け型20によって支持されている。この受け型20は、相手材10の底面を支持する支持面21を備えており、この支持面21には突起部22が形成されている。この突起部22は、平面視において環状を成しており、その直径は、相手材10の下穴10aの内径よりも僅かに大径に設定されている。
【0016】
続いて、クリンチングスタッド1のねじ軸部3を相手材10の下穴10aに挿入し、この状態で、頭部2を例えば油圧プレス(図示せず)で軸方向に押圧する。このとき、案内部5b,5cは、その外径が下穴の内径と同一に設定されているため、二つの案内部5b,5cが下穴10aの内周面を摺動するようにして挿入されるので、クリンチングスタッド1は、中心に位置決めされた状態で真っ直ぐに挿入される。
【0017】
続いて、頭部2の座面に形成された圧入係止部4が相手材10の上面に着座し、油圧プレスによる圧入に伴って、圧入係止部4が上段の相手材11に埋入し、回り止めとして機能する。また、埋入に伴って塑性変形した上段の相手材11は、頭部側の案内部5cを乗り越えるようにして環状溝5aへ流動する。
【0018】
同時に、受け型20の突起部22が下段の相手材12を下方から押圧する。これにより、下段の相手材12は、下穴10aが縮径する方向に塑性変形し、環状溝5aへ流動する。このため、ねじ軸部側の案内部5bは抜け止めとして機能する。このとき、環状溝5aの幅と、下段の相手材12の厚みとは同じサイズに設定され、同一高さに位置する。
【0019】
本発明のクリンチングスタッド1によれば、上下に重ね合わされた二枚の相手材11,12にクリンチングスタッドを固定する際に、従来は、相手材11,12を予め接合してからクリンチングスタット1を固定していたが、上述した取り付け方法によれば、下段の相手材12を受け型でかしめることによって固着部5に相手材12を固定できるので、予め相手材同士を接合する必要がなくなる。また、環状溝5aを挟んで両側に案内部5b,5cが設けられているので、塑性変形により環状溝5aに充填される相手材11,12が両サイドから万遍なく流動するので、二枚の相手材11,12を安定して固着部5に固定することができる。さらに、案内部5b,5cの外周側が先鋭にすることで、環状溝5aへ相手材11,12を円滑に流動させることができる。
【0020】
なお、本発明の各部の具体的な構成は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【符号の説明】
【0021】
1 クリンチングスタッド
2 頭部
3 ねじ軸部
4 圧入係止部
5 固着部
5a 環状溝
5b、5c 案内部
10 相手材
10a 下穴